IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ キヤノン株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-定着装置 図1
  • 特開-定着装置 図2
  • 特開-定着装置 図3
  • 特開-定着装置 図4
  • 特開-定着装置 図5
  • 特開-定着装置 図6
  • 特開-定着装置 図7
  • 特開-定着装置 図8
  • 特開-定着装置 図9
  • 特開-定着装置 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023182999
(43)【公開日】2023-12-27
(54)【発明の名称】定着装置
(51)【国際特許分類】
   G03G 15/20 20060101AFI20231220BHJP
【FI】
G03G15/20 515
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022096338
(22)【出願日】2022-06-15
(71)【出願人】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126240
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 琢磨
(74)【代理人】
【識別番号】100223941
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 佳子
(74)【代理人】
【識別番号】100159695
【弁理士】
【氏名又は名称】中辻 七朗
(74)【代理人】
【識別番号】100172476
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 一史
(74)【代理人】
【識別番号】100126974
【弁理士】
【氏名又は名称】大朋 靖尚
(72)【発明者】
【氏名】千代田 保▲晴▼
(72)【発明者】
【氏名】玉木 政行
(72)【発明者】
【氏名】八代 亮
(72)【発明者】
【氏名】高橋 伸輔
(72)【発明者】
【氏名】金井 大
【テーマコード(参考)】
2H033
【Fターム(参考)】
2H033AA15
2H033BA25
2H033BB03
2H033BB05
2H033BB06
2H033BB13
2H033BB14
2H033BB15
2H033BB18
2H033BB29
2H033BB30
2H033BB33
2H033BB34
2H033BB39
2H033BE03
(57)【要約】
【課題】 本発明の目的は、記録材に発生するしわを抑制することである。
【解決手段】 定着ベルトと、定着ベルトを懸架する懸架部材と、定着ベルトを介して懸架部材を加圧することでニップ部を形成する加圧回転体と、定着ベルトと加圧回転体とは、ニップ部において、トナー像を担持した記録材を挟持して搬送し、記録材に熱と圧力を与えることでトナー像を記録材に定着し、定着ベルトの回転方向において、ニップ部の上流に、定着ベルトを懸架する懸架ローラを有し、懸架ローラは、懸架部材と隣り合い、懸架ローラの幅方向において、記録材の通紙領域の中央を中央部とし、通紙領域の両端を両端部とし、懸架ローラの外径は、中央部に比べて大きい、ことを特徴とする定着装置。
【選択図】 図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転可能であって、記録材に熱を与える定着ベルトと、
前記定着ベルトの内周面に当接し、前記定着ベルトを懸架する懸架部材と、
前記定着ベルトを介して前記懸架部材を加圧することでニップ部を形成する加圧回転体と、
前記定着ベルトと前記加圧回転体とは、前記ニップ部において、トナー像を担持した記録材を挟持して搬送し、記録材に熱と圧力を与えることでトナー像を記録材に定着し、
前記定着ベルトの回転方向において、前記ニップ部の上流に、前記定着ベルトを懸架する懸架ローラを有し、
前記懸架ローラは、前記定着ベルトを懸架する複数の部材のうち、前記懸架部材と隣り合い、
前記懸架ローラの幅方向において、記録材の通紙領域の中央を中央部とし、前記通紙領域の両端を両端部とし、
前記懸架ローラの外径は、前記中央部に比べて、前記両端部が50μm以上300μm以下の範囲で大きい、ことを特徴とする定着装置。
【請求項2】
前記ニップ部と前記懸架ローラとの距離は25mm以上、110mm以下であることを特徴とする請求項1に記載の定着装置。
【請求項3】
前記懸架ローラが前記定着ベルトを、前記定着ベルトの内側から外側に向けて押す力は50N以上、100N以下であることを特徴とする請求項1に記載の定着装置。
【請求項4】
前記懸架ローラは前記定着ベルトの回転に対して従動して回転することを特徴とする請求項1に記載の定着装置。
【請求項5】
前記通紙領域において、前記中央部の外径は、最も小さいことを特徴とする請求項1に記載の定着装置。
【請求項6】
前記中央部から前記両端部にかけて、前記幅方向に沿って、前記外径は大きくなる、ことを特徴とする請求項5に記載の定着装置。
【請求項7】
前記回転方向において、前記ニップ部の下流に、熱源を有する回転可能な加熱ローラを有することを特徴とする請求項1に記載の定着装置。
【請求項8】
前記幅方向において、前記加熱ローラの外径は、前記通紙領域の中央に比べて、前記通紙領域の両端のほうが小さい、ことを特徴とする請求項7に記載の定着装置。
【請求項9】
前記懸架部材は回転可能な定着ローラであって、前記定着ローラは弾性層を有することを特徴とする請求項1に記載の定着装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トナー像を記録材に定着する定着装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
画像形成装置は、トナー像を記録材に定着させるための定着装置を有している。定着装置は、トナー像の定着に必要な熱を記録材に与えるための加熱回転体と、記録材に圧力を与えるための加圧回転体とを有している。これまでに、加熱回転体として、定着ベルトを用いた定着装置が提案されている。具体的に、定着ベルトは回転可能な無端状のものである。定着ベルトの内周面には、熱源を有する加熱ローラが当接し、定着ベルトを加熱する。加圧回転体は定着ベルトとともに定着ニップ部を形成する。この定着ニップ部にトナー像を担持した記録材が搬送されると、熱と圧力とが記録材に与えられ、トナー像が記録材に定着される。定着ベルトを用いた定着装置は、熱源から記録材と接触する定着ベルトの表面までの熱伝導性が高い。そのため単位時間あたりにおける印刷枚数(生産性)を大きくする点で有利である。
【0003】
定着ベルトを用いた定着装置において、定着ベルトを懸架した際の張力が十分でないと、定着ベルトがたるむ虞がある。この課題に対して、特許文献1の特開2017-83712号公報では、定着ベルトの回転方向において、定着ニップ部の上流に定着ベルトを懸架する懸架ローラを配置することで、定着ベルトに張力を与えている。これによって定着ベルトのたるみを抑制し、記録材にしわが発生することを抑えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-83712号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
定着ベルトと、懸架ローラとを用いた定着装置において、定着ニップ部で搬送される記録材の搬送速度が、定着ベルトの幅方向で、異なってしまう虞がある。具体的に、幅方向において、記録材の中央部のほうが端部に比べて速くなることがある。この幅方向における記録材の搬送速度の差により、記録材にしわが発生してしまう虞がある。
【0006】
そこで本発明の目的は、記録材に発生するしわを抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を鑑みて、本発明に係る定着装置は、回転可能であって、記録材に熱を与える定着ベルトと、前記定着ベルトの内周面に当接し、前記定着ベルトを懸架する懸架部材と、前記定着ベルトを介して前記懸架部材を加圧することでニップ部を形成する加圧回転体と、前記定着ベルトと前記加圧回転体とは、前記ニップ部において、トナー像を担持した記録材を挟持して搬送し、記録材に熱と圧力を与えることでトナー像を記録材に定着し、前記定着ベルトの回転方向において、前記ニップ部の上流に、前記定着ベルトを懸架する懸架ローラを有し、前記懸架ローラは、前記定着ベルトを懸架する複数の部材のうち、前記懸架部材と隣り合い、前記懸架ローラの幅方向において、記録材の通紙領域の中央を中央部とし、前記通紙領域の両端を両端部とし、前記懸架ローラの外径は、前記中央部に比べて、前記両端部が50μm以上300μm以下の範囲で大きい、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明に依れば、記録材に発生するしわを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】画像形成装置の概略図
図2】本実施例1における定着装置の横断面模式図
図3】本実施例2における定着装置の横断面模式図
図4】本実施例における懸架ローラの外径説明図
図5】本実施例における紙しわ発生メカニズム説明図
図6】本実施例における紙しわ発生部の説明図
図7】本実施例におけるしわ防止効果の模式図
図8】本実施例における効果の比較表
図9】本実施例における懸架ローラ凹形状による、位置とテンションの関係図
図10】本実施例における従来例と実施例の条件での、定着ニップ前後での用紙形状シュミュレーションの比較画像
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本実施形態に係る画像形成装置の実施の形態について図面に基づいて説明をする。なお、以下では、本実施形態を複数の感光ドラムを有する電子写真方式のフルカラーの画像形成装置に適用する例を説明するが、本実施形態は、これに限らず、各種方式の画像形成装置、単色の画像形成装置などにも適用できる。
【0011】
<実施例1>
<画像形成装置>
本実施形態の画像形成装置の概略構成について、図1を用いて説明する。
【0012】
図1は本実施形態に係るフルカラーの画像形成装置を示す図である。画像形成装置1は、画像読取部2と画像形成装置本体3とを備える。画像読取部2は、原稿台ガラス21上に置かれた原稿を読み取るもので、光源22から照射された光が原稿で反射し、レンズなどの光学系部材23を介してCCDセンサ24に結像される。このような光学系ユニットは矢印の方向に走査することにより、原稿をライン毎の電気信号データ列に変換する。CCDセンサ24により得られた画像信号は、画像形成装置本体3に送られ、制御部30で後述する各画像形成部に合わせた画像処理がなされる。また、制御部30は画像信号としてプリントサーバ等外部ホスト装置からの外部入力も受ける。
【0013】
画像形成装置本体3は、複数の画像形成部Pa、Pb、Pc、Pdを備え、各画像形成部では、上述の画像信号に基づいて画像形成が行われる。即ち、画像信号は制御部30によりPWM(パルス幅変調制御)されたレーザービームに変換される。図1において、31は露光装置としてのポリゴンスキャナで、画像信号に応じたレーザービームを走査する。そして、各画像形成部Pa~Pdの像担持体としての感光ドラム200a~200dにレーザービームが照射される。なお、Paはイエロー色(Y)画像形成部、Pbはマゼンタ色(M)画像形成部、Pcはシアン色(C)画像形成部、Pdはブラック色(Bk)画像形成部で、それぞれ対応する色の画像を形成する。画像形成部Pa~Pdは略同一なので、以下にイエロー色画像形成部Paの詳細を説明して、他の画像形成部の説明は省略する。Y画像形成部Paにおいて、200aは感光ドラムで、次述するように、画像信号に基づいて表面にトナー画像が形成される。
【0014】
201aは1次帯電器で、感光ドラム200aの表面を所定の電位に帯電させる。露光部31からのレーザービームによって、所定の電位に帯電された感光ドラム200aの表面に静電潜像が形成される。202aは現像器で、感光ドラム200a上の静電潜像を現像してトナー画像を形成する。203aは転写ローラで、中間転写ベルト204の背面から放電を行いトナーと逆極性の一次転写バイアスを中間転写ベルト204に印加する。すると、感光ドラム200a上のトナー画像は、中間転写ベルト204上に転写される。転写後の感光ドラム200aは、クリーナー207aでその表面を清掃される。
【0015】
また、中間転写ベルト204上のトナー画像は次の画像形成部に搬送され、Y、M、C、Bkの順に、順次それぞれの画像形成部にて形成された各色のトナー像が転写され、4色の画像がその表面に形成される。Bk画像形成部を通過したトナー画像は、2次転写ローラ対205、206で構成される2次転写部において、中間転写ベルト204上のトナー画像と逆極性の2次転写電界が印加されることにより、用紙Pに2次転写される。給紙カセット8もしくは9から給紙された用紙はレジ部208で待機した後、中間転写ベルト204上のトナー画像と、用紙の位置とが合うように、レジ部8,9から用紙が搬送される。その後、用紙上のトナー画像は、像加熱装置としての定着装置Fで、用紙に定着される。定着装置を通過後、機外に排紙される。両面JOBの場合は、画像形成第一面(1面目)のトナーの転写および定着が終了すると、用紙は定着後の画像形成装置内部に設けられた反転部を経て用紙の表裏が逆転される。その後、画像形成第二面(2面目)のトナーの転写および定着、機外へ排出され排紙トレイ7上に積載される。
【0016】
<定着装置>
次に、図2を用いて本実施の形態のおける、定着装置Fの構成について説明する。
【0017】
本実施形態に係るベルト加熱方式の定着装置Fの全体構成の概略図を図2に示す。図中のX方向は記録材P(図中不図示)の搬送方向、Y方向は紙幅方向、Z方向は加圧方向を示す。点線部はニップ部Nを拡大した断面を表す。
【0018】
定着装置Fは、無端状で回転可能な加熱回転体としての定着ベルト(以下、ベルト)301を有する。さらに定着装置Fは、定着ベルトを内側から支えるための定着ローラ300、加熱ローラ307、懸架ローラ308、定着ローラにベルトを介して対向、加圧し、ベルトと共にニップ部Nを形成する加圧回転体としての加圧ローラ305を有する。
【0019】
ベルト301は熱伝導性と耐熱性等を有しており、薄肉の円筒形状である。本実施形態においては、基層と、基層の外周に弾性層と、その外周に離型性層と、を形成した3層構造である。基層は厚さ80μmで材質はポリイミド樹脂(PI)を、弾性層は厚さ300μmでシリコーンゴムを、離型性層は厚さ30μmでフッ素樹脂としてのPFA(四フッ化エチレン・パーフルオロアルコキシエチレン共重合樹脂)を用いている。ベルト301は、定着ローラ(懸架部材)300と、加熱ローラ307と、懸架ローラ308と、によって張架される。ベルト301の外径は150mmである
定着ローラ300は、ベルト301を挟んで、加圧ローラ305に押圧されている。定着ローラ300には、例えば、SUS、銅、アルミニウム等の金属から形成された芯金を用いる。本実施例では中空のアルミニウムを利用した。表層部の弾性層として厚さ20[mm]の耐熱性のシリコンゴム(硬度JIS-A10[°])で被覆し、更に、厚さ20[μm]のPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)をコーティングしている。このときの定着ローラ300のローラ硬度は、ASKER-C硬度で30~35[°]である。定着ローラ300の外径寸法は、例えば70[mm]である。以上の組成は一例であり、表層に耐摩耗性があり、ニップNの幅を十分に確保できる硬度で、耐熱性があれば、他の構成でも良い。
【0020】
加熱ローラ307は厚み1mmのSUS製パイプで、その内部に熱源としてのハロゲンヒータ306が配設されており、所定の温度まで発熱可能である。ベルト301は、加熱ローラ307によって加熱される。
【0021】
加熱ローラ307は、片端ないし中央近傍に回動中心を持ち、ベルト301に対して回動することで前後にテンション差を発生させ、ベルト310の主走査方向の位置をコントロールする。また、この加熱ローラ307は不図示の加熱ユニットフレームによって支持されたばねによって付勢されており、ベルト301に所定の張力を与えるテンションローラでもある。
【0022】
加圧ローラ305は、芯金層305c、軸の外周に弾性層、その外周に離型性層を形成したローラである。軸に直径72mmのSUS部材を、弾性層は厚さ8mmの導電シリコーンゴムを、離型性層は厚さ100μmでフッ素樹脂としてのPFA(四フッ化エチレン・パーフルオロアルコキシエチレン共重合樹脂)を用いている。加圧ローラ305は、定着装置Fの定着フレーム(不図示)によって軸支持されており、片端部にはギアが固定され、ギアを介して駆動源(不図示)に接続されて回転駆動される。
【0023】
ベルト301と加圧ローラ305との間に形成されるニップ部Nにおいて、トナー画像を担持した記録材Pを挟持し、搬送しながらトナー画像を加熱する。このように、定着装置Fは、記録材Pを挟持搬送しながら、記録材Pにトナー画像を定着させる。不図示の駆動源により、加圧ローラ305がベルト301を介して定着ローラ300に対して加圧される。トナー画像を記録材に定着する際のニップNにおける加圧力(NF)は1600Nであり、ニップNのX方向(搬送方向)幅は20mm、Y方向(紙幅方向)幅は336mmとなるよう設定した。
【0024】
懸架ローラ308には、定着ベルト301の長さを十分にとれるようにする目的がある。また、定着ベルト301に張力を持たせる目的がある。これによって、記録材にしわが発生することを抑制している。懸架ローラ308は厚み1mmのSUS製の中空パイプであり、ベルトに対して従動回転を行う。
【0025】
懸架ローラ308は、定着ベルト301の回転方向において、ニップ部の上流に配置され、定着ベルト301の内周面に当接し、定着ベルトを内側から外側に向かって加圧する。定着ベルト301は懸架部材である定着ローラ300を含む複数の部材によって懸架されている。懸架ローラ308は定着ローラ301に対して隣り合って配置される。ここでいう隣り合うとは、定着ローラ300と懸架ローラ308との間に、定着ベルト301を懸架する部材がないことを意味する。
【0026】
表面粗さは、算術平均粗さRa=0.05[μm]で比較的平滑な状態を用いたが、ベルトの駆動トルクや内面の削れが問題にならなければ、懸架ローラの表面粗さが大きくても問題なく、例えばゴム部材で表面を形成してもよい。
【0027】
<紙シワが発生するメカニズム>
ここで、図6のような紙シワが発生するメカニズムを説明する。
【0028】
図5は、紙シワが発生するメカニズムの説明図である。
【0029】
画像形成装置の電源を入れてからの立ち上げ時において、加圧ローラ305は、ローラの幅方向(記録材の搬送方向と直交する方向)における端部が中央部よりも放熱しやすい。その為、中央の温度が端部に比べて高くなり、中央部の外径が端部の外径よりも大きなクラウン形状になる事がある。
【0030】
そして、このように加圧ローラ305がクラウン形状に変形した状態で、記録材を搬送すると、端部の送り速度Veに対して中央部の送り速度Vcが速くなる。送り速度を表す矢印の長さは該送り速度の速さを表し、中央部が速く、端部が遅い。この送り速度の差により、記録材の後半部分の中央側に歪(端部が内側に寄っていくような歪)が発生する。その結果として、図6のような紙シワ602が発生しやすくなる。
【0031】
そこで本実施形態における定着装置は、定着ニップ部内において、幅方向の記録材の搬送速度の差を抑制することによって、記録材に発生するしわを抑制する。以下に発明の詳細を記載する。
【0032】
<懸架ローラの形状>
本実施形態では、定着ベルト301を懸架する懸架ローラ308を逆クラウン形状にする。つまりは、幅方向において、記録材の通紙領域における懸架ローラ308の中央部の外径を両端部に比べて小さくする。これによって、懸架ローラ308を通過した定着ベルト301は、幅方向において、両端部は中央部に比べて高い応力が発生する。すると定着ベルト301の両端部のほうが中央部より、搬送速が速くなる。これによって、従来では、定着ニップ部内で記録材の中央部のほうが両端部より速くなってしまったことで発生していた紙しわを、抑制することができる。以下に、懸架ローラ308の形状や、定着ベルト301の詳細を記載する。
【0033】
検証で使用した懸架ローラの内訳を下表に示す。
【0034】
【表1】
【0035】
検証に使用した懸架ローラ308のサンプルは複数ある。従来例は、直径20.0mmのストレート形状(中央部と端部の外径が同一)のものである。本実施形態の効果を検証するために、実施例1として中央部が直径19.8mm、両端部が直径20.0mm(片側凹100μm)を用いた。また、比較例1及び3として、それぞれ片側凹50μm、凹300μmのものを使用した。さらに、比較例2として、懸架ローラを固定化し、回転せずにベルト面と摺擦する構成にして検証を行った。
【0036】
また、部材の中央と端部の間の形状は、中央部を最小として連続的な単調増加、減少の関係であればよく、角になる部分がなければ直線で繋いでもよい。ベルト走行の安定化を考慮すると、図4に示したローラ部材の外径形状のように、円弧形状で滑らかに繋ぐことが理想である。中央部とは、記録材の通紙領域において、幅方向の中央を指す。また、端部とは、記録材の通紙領域において、幅方向の端部を指す。よって記録材の通紙領域外の形状は問わない。
【0037】
図7に示した懸架ローラ308の中央部を凹形状にすることにより、定着ニップ部Nに導入された後に定着ベルト301はニップ内で外側に伸びる方向に引っ張られながら搬送されるようになる。記録材は定着ベルトに倣って搬送されることで、記録材は、図7の矢印線のように、外側に引っ張られるように搬送され、紙しわの発生を防止することができる。
【0038】
<検討実験1>
実施例1における定着器構成において、本実施形態の効果を検証した。
【0039】
初めに実通紙での検証を説明する。
【0040】
王子製紙 OKトップコート+ 79.1g 幅330mm×長さ483mm T目に、ブラック単色画像100%を全面(320mm幅)に形成する設定で両面の連続通紙を行った。出力された画像を確認し、光沢むらや紙しわの発生有無を記録した(図8 表)。
【0041】
本実施例では、懸架ローラの凹量を複数水準準備し、比較例として、実施例1との効果の差を確認した。結果は図8の表に示すようになり、本実施例では従来例で発生していた紙しわが解消できたことが確認できた。また、懸架ローラの凹量を大きくしすぎると、搬送速度の差が過度に逆転し、用紙端部の搬送不良による光沢むらが発生することがあった。
【0042】
さらに、懸架ローラは固定部材であっても中央の凹形状が形成されていれば、紙しわの対策効果が得られることが確認できた。固定部材であるとベルトとの接触面が摺動する構成の為、耐久寿命は不利だが、構成によっては有用である。
【0043】
効果の検証としては、中央部の用紙搬送速度と、端部側の用紙搬送速度を計測する手段が考えられる。幅方向に複数の切り込みを入れた短冊状の用紙を用意し、用紙表層に位置マーキングを付けておく。ニップに侵入するポイントとニップから排出されるポイントで同じ短冊位置の時間を計測し、ニップを通過する用紙の速度を長手方向でプロットすることで、中央部と端部の搬送速度の絶対値と差分が実測可能である。この搬送速度の差が、用紙の剛度で許容できない値に広がるとシワや光沢むらが発生するので、
中央搬送速度×n < 端部搬送速度 ≦ 中央搬送速度(nは1未満の係数で、用紙のCD方向の剛度によって可変。ガーレ式剛度0.30[mN]のとき、n≒0.99とする。)
これらの関係を満たすように、用紙の搬送速度を適正化する。
【0044】
次にシュミュレーションでの検証を説明する。
【0045】
従来例での構成と実施例1の構成での用紙の挙動のシュミュレーションの計算を実施した。図9は懸架ローラ308が定着ベルト301を押す力であるテンション(定着ベルト301に発生する中央から外側に向かう力)の大きさを見積ったグラフである。本実施例では、この距離は約50mmの条件で実施しているため、懸架ローラの凹量は100μmの部分で効果があることがわかる。テンションが弱すぎると、中央部の搬送御速度が遅いままになってしまい、紙の変形による紙しわが発生しやすい状態となる。テンションが強すぎると、中央部の搬送速度が、端部の搬送速度に比べて大きく遅れてしまい、端部側のストレスによる微小スリップにより、光沢むらが発生する。このように紙しわとしては、凹形状にすることで解消するが、適切な範囲で懸架ローラの凹形状を設定することで、用紙の搬送速度をさらに安定させて、光沢むらも防止することができる。
【0046】
図9に示すように、懸架ローラ308のテンションに応じて、搬送良好領域が決定される。具体的にテンションは50N以上100N以下の範囲である。テンションが50Nより小さいと幅方向における記録材の中央速度が端部よりも大きくなり、しわが発生してしまう虞がある。これは、定着ベルト301にかかるテンションが小さく、十分に幅方向における記録材の端部の速度を中央部に比べて速くできないことによる。一方で、テンションが100Nよりも大きい場合、幅方向における記録材の端部の速度が速くなりすぎてしまうことで、しわが発生してしまう。この本実施形態において、テンションは50Nから100Nの範囲が適している。よって、外径を中央部に比べて、両端部を50μm以上300μm以下の範囲で大きくした懸架ローラ308を用いることによって、所定のテンションの範囲に収めることで、記録材のしわを抑制することができる。
【0047】
また、本実施形態では、実施例1、比較例1、比較例3の懸架ローラ308を用いて検証を行い、図9に示すように、クラウン量に応じて定着ニップ部Nと懸架ローラ308との距離と、テンションの関係は変化する。具体的に、定着ニップ部Nと懸架ローラ308との距離は、定着ベルト301の回転方向において、懸架ローラ308と定着ベルト301との接触領域の下流端から、定着ニップ部Nの上流端までの距離である。定着ニップ部Nと懸架ローラ308との距離が同じ場合、クラウン量が多いほうが、テンションは大きくなる。してみると本実施形態において、クラウン量にもよるが、定着ニップ部Nと懸架ローラ308との距離が25mm以上110mm以下の範囲に収まっている場合、テンションは50Nから100Nに収まる。
【0048】
この際のシュミュレーションでのニップN前後の用紙形状プロファイルを図10に示した。従来例では前後で大きく用紙がストレスで変形する波うちが発生していたものが、本実施例では安定して搬送されていることが可視化できる。
【0049】
本実施例の条件に限らず、ニップ上流に位置する直近の部材が凹形状であればシワを防止する効果がある。望ましくは懸架ローラとニップN間距離が短い方、ベルトのヤング率が大きいほど効果があらわれやすい。
【0050】
懸架ローラ308のクラウン形状は、ニップ幅N、およびベルトの剛性(基層のヤング率)により変わってくる。ニップ幅Nが小さいと、記録材が外側に引っ張られる距離が小さくなるので、紙しわが補正される量が減少し、紙しわが発生する可能性がある。そのため、ニップ幅が小さいと、懸架ローラのクラウン量を大きくする必要がある。一方ニップ幅が大きいとその逆である。ベルト301の剛性(硬さ)が大きいと、ベルトがパッド形状に追従しにくくなるので、ベルトが外側に伸びる量が小さくなる。そのため、記録材が外側に引っ張られにくくなり、紙しわが発生してしまう。そのため、ベルトの剛性が大きいと、懸架ローラのクラウン量を大きくする必要がある。ベルトの剛性が小さいと、その逆である。
【0051】
上記説明したように、懸架ローラ308のクラウン量D[mm]の最適値は、ニップ幅N[mm]とベルト301の基材の剛性(ヤング率[GPa])に依存し、以下表2となる。
【0052】
【表2】
【0053】
表1のパッドのクラウン量の最適値は、構造計算有限要素法解析ソフトであるABAQUSを使って算出した数値を簡略化したものを使用した。
【0054】
シミュレーション条件は、以下である。
定着ベルト 外径φ150mm、弾性層厚み300μm、弾性層ヤング率0.4Mpa、基材厚み80μm、基材ヤング率5Gpa
加圧ローラ 外径φ80mm、弾性層厚み8mm、弾性層ヤング率0.6Mpa、
総荷重 80~160kgf、回転速度450mm/s
この条件下で回帰分析を用いると、ニップ幅[mm]とヤング率[GPa]の関係を1次式で比較的簡潔に表すことができ、
懸架ローラの凹量:D[μm]
定着ニップ幅:N[mm]
ベルトヤング率:E[GPa]
の間の関係式を以下で表すことができた。
D = -10×N -9.5×E +440
これは、本実施例での構成の組み合わせでの関係式であり、複数の周辺パラメータによって数値が変動することはあるが、値の大小関係とおおよその値は正しい。
【0055】
最適値に対し、しわの解消可能な懸架ローラ凹量の範囲を考慮すると、シュミュレーションでのしわ解消効果にクラウン量で±100[μm]の許容範囲があるので、
-10×N -9.5×E+340 < D
D < -10×N -9.5×E +540
これらの関係の中で凹量D[μm]を決定すると、本実施形態の効果が得られる。
【0056】
尚、本実施の形態では懸架ローラ308の形状を幅方向において、中央部に比べて両端部を大きくした。これによって、定着ベルト301の両端部の搬送速度を中央部よりも速くできる。しかしながら継続して定着ベルト301を回転させた場合、定着ベルト301の両端部の搬送速度が中央部よりも速くなりすぎてしまうことで、定着ベルト301が波打ってしまうなどの虞がある。そのため、幅方向において、中央部の外径を、端部より大きくした加熱ローラ307を用いても良いものとする。定着ローラ300の外径を工夫しても良い。しかし、ニップ部Nを形成する部材である定着ローラ300の外径を変更した場合、ニップ部N内の圧力分布が変わる虞があるため好ましくない。よって、定着ベルト301の幅方向における搬送速度を安定化させる目的であれば、加熱ローラ307と、懸架ローラ308との外径を工夫する方法が好ましい。
【0057】
<実施例2>
次に、図3を用いて本実施例2の形態のおける定着装置Fの構成について説明する。
【0058】
本実施形態に係るベルト加熱方式の定着装置Fの全体構成の概略図を図2に示す。図中のX方向は記録材P(図中不図示)の搬送方向、Y方向は紙幅方向、Z方向は加圧方向を示す。点線部はニップ部Nを拡大した断面を表す。
【0059】
定着装置Fは、無端状で回転可能な加熱回転体としての定着ベルト(以下、ベルト)301を有する。更に定着装置Fは、定着ベルトを支えるための加圧パッド(以下、パッド)303、パッド303を支えるためのステイ302、加圧パッド303を覆うように配置された摺動部材304を有する。そして、定着ベルト301は、加熱ローラ307と、懸架ローラ308と、によって懸架され、定着ベルト301と共にニップ部Nを形成する加圧回転体としての加圧ローラ305を有する。
【0060】
ベルト301は熱伝導性と耐熱性等を有しており、薄肉の円筒形状である。本実施形態においては、基層301a、基層301aの外周に弾性層301b、その外周に離型性層301cを形成した3層構造である。基層は厚さ80μmで材質はポリイミド樹脂(PI)を、弾性層は厚さ300μmでシリコーンゴムを、離型性層は厚さ30μmでフッ素樹脂としてのPFA(四フッ化エチレン・パーフルオロアルコキシエチレン共重合樹脂)を用いている。ベルト301は、パッド303、加熱ローラ307、懸架ローラ308よって張架される。ベルト301の外径は150mmである。
【0061】
ベルト301を挟んで、パッド303は加圧ローラ305に押圧されている。パッド303の材質はLCP(液晶ポリマー)樹脂を用いている。パッド303とベルト301の間には、摺動部材304を介在させている。摺動部材304の表層には、エンボス部が形成されていて、低摩擦を実現するために厚み20μmのPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)をコーティングした。ベルト301の内面には潤滑剤をさらに塗布することで、ベルト301は摺動部材304に対して滑らかに摺動する構成になっている。上記の潤滑材としてはシリコーンオイルを用いた。パッド303の強度を補うために、ステイ302を使用した。
【0062】
本実施例の摺動部材304は、ニップ部Nの内外に問わずパッド303を覆うように構成した。以降ここでは図示しないが、ニップNの一部が摺動部材304で覆われていれば構わない。すなわち、ニップ部Nにのみ摺動部材304が配置された構成でも構わない。
【0063】
加熱ローラ307は厚み1mmのステンレス製パイプで、その内部に熱源としてのハロゲンヒータ306が配設されており、所定の温度まで発熱可能である。ベルト301は、加熱ローラ307によって加熱される。
【0064】
懸架ローラ308は、片端ないし中央近傍に回動中心を持ち、ベルト301に対して回動することで前後にテンション差を発生させ、ベルト301の主走査方向の位置をコントロールする。また、この懸架ローラ308は懸架ローラ308を固定する不図示の寄り制御フレームによって支持されたばねによって付勢されており、ベルト301に所定の張力を与えるテンションローラでもある。
【0065】
加圧ローラ305は、芯金層305c、軸の外周に弾性層、その外周に離型性層を形成したローラである。軸に直径72mmのSUS部材を、弾性層は厚さ8mmの導電シリコーンゴムを、離型性層は厚さ100μmでフッ素樹脂としてのPFA(四フッ化エチレン・パーフルオロアルコキシエチレン共重合樹脂)を用いている。加圧ローラ305は、定着装置Fの定着フレーム(不図示)によって軸支持されており、片端部にはギアが固定され、ギアを介して駆動源(不図示)に接続されて回転駆動される。
【0066】
ベルト301と加圧ローラ305との間に形成されるニップ部Nにおいて、トナー画像を担持した記録材Pを挟持し、搬送しながらトナー画像を加熱する。このように、定着装置Fは、記録材Pを挟持搬送しながら、記録材Pにトナー画像を定着させる。よって、熱や圧力を加える機能と、記録材Pを搬送する機能の両立が必要である。不図示の駆動源により、加圧ローラ305がベルト301を介してパッド303に対して加圧される。プリント時のニップNにおける加圧力(NF)は1600Nであり、ニップNのX方向(搬送方向)幅は24.5mm、Y方向(紙幅方向)幅は336mmとなるよう設定した。
【0067】
<検討実験2>
実施例2における定着器構成において、本実施形態の効果を検証したが、結果はほぼ実施例1と同様となり、図8に示す関係となったため、説明は省略する。
【0068】
対応するシュミュレーションでのパラメータ数値も同等であるので、上流側の部材が変わっても、凹形状の関係が同じであれば、ベルトを規制する効果は同等であり、紙しわ防止の効果が発揮できる。
【符号の説明】
【0069】
F 定着装置
N ニップ部
300 定着ローラ(懸架部材)
301 定着ベルト
302 ステイ
303 加圧パッド(パッド)
304 摺動部材
305 加圧ローラ
306 ハロゲンヒータ
307 加熱ローラ
308 懸架ローラ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10