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特開2023-183003柔軟6軸力覚センサ、およびその演算方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023183003
(43)【公開日】2023-12-27
(54)【発明の名称】柔軟6軸力覚センサ、およびその演算方法
(51)【国際特許分類】
   G01L 5/16 20200101AFI20231220BHJP
【FI】
G01L5/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022096347
(22)【出願日】2022-06-15
(71)【出願人】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】望山 洋
(72)【発明者】
【氏名】水川 友志
【テーマコード(参考)】
2F051
【Fターム(参考)】
2F051AA10
2F051DA03
2F051DB03
(57)【要約】
【課題】検出対象物の外形形状に合わせて検出部分の変形させることで、検出対象物を破損させることなく、検出部分に加わる三次元方向に沿った力と、この三次元方向の軸心周りのトルクとを検出することが可能な柔軟6軸力覚センサ、およびその演算方法を提供する。
【解決手段】三次元方向にそれぞれ加わる力およびトルクを検出する第1の6軸力覚センサおよび第2の6軸力覚センサと、一端が前記第1の6軸力覚センサに、他端が前記第2の6軸力覚センサにそれぞれ固定され、帯状または線状に延びる湾曲した可撓性弾性体と、前記第1の6軸力覚センサ、および前記第2の6軸力覚センサからそれぞれ出力される前記力の情報および前記トルクの情報に基づいて、外部から前記可撓性弾性体に力およびトルクが加わった際に、該力およびトルクが加わった作用点の座標、および前記作用点における力およびトルクの大きさを算出する演算部と、を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
三次元方向にそれぞれ加わる力およびトルクを検出する第1の6軸力覚センサおよび第2の6軸力覚センサと、
一端が前記第1の6軸力覚センサに、他端が前記第2の6軸力覚センサにそれぞれ固定され、帯状または線状に延びる湾曲した可撓性弾性体と、
前記第1の6軸力覚センサ、および前記第2の6軸力覚センサからそれぞれ出力される前記力の情報および前記トルクの情報に基づいて、外部から前記可撓性弾性体に力およびトルクが加わった際に、該力およびトルクが加わった作用点の座標、および前記作用点における力およびトルクの大きさを算出する演算部と、を有することを特徴とする柔軟6軸力覚センサ。
【請求項2】
前記可撓性弾性体は、長手方向の全長に渡って既知の断面形状を成し、全長に渡って既知の弾性係数を有する帯状体、または線状体であることを特徴とする請求項1に記載の柔軟6軸力覚センサ。
【請求項3】
前記可撓性弾性体は、長手方向の中央を頂点として、180°屈曲されてなることを特徴とする請求項1または2に記載の柔軟6軸力覚センサ。
【請求項4】
請求項1または2に記載の柔軟6軸力覚センサを用いた柔軟6軸力覚センサの演算方法であって、
前記演算部は、前記第1の6軸力覚センサから出力された信号から得られる、前記可撓性弾性体の一端側から他端側に向けて数値計算した第1変形情報と、前記第2の6軸力覚センサから出力された信号から得られる、前記可撓性弾性体の他端側から一端側に向けて数値計算した第2変形情報とを比較して、互いに近似した座標値や姿勢値を有する箇所を作用点と判断し、該作用点の座標値、および加えられた力値を出力し、前記可撓性弾性体の全体の変形形状を表示することを特徴とする柔軟6軸力覚センサの演算方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既存の6軸力覚センサを用いた柔軟6軸力覚センサ、およびその演算方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高度なロボット技術の発展には、可動体の姿勢や力を検出するための、センサ技術の進化が不可欠である。こうしたロボットなどに用いられるセンサとして、6軸力覚センサが知られている。
【0003】
6軸力覚センサは、三次元方向、即ちX,Y,Zの3方向に沿って加わる力と、これらX,Y,Zの3方向の軸周りのトルクと、をそれぞれ検出することができる。これにより、例えば、ロボットアームに加わる三次元方向に沿った力と、この三次元方向の軸心周りのトルクとを検出することで、任意の物体を把持して移動させるといった動作を行うことができる(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-100702号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の6軸力覚センサは、検出部分が変形しない硬質な材料から構成されているため、例えば、低い力が加わっただけで破損しやすい低強度の物体を検出する場合、検出対象の物体を破損させてしまう懸念があった。また、環境との接触によって生ずる撃力により、6軸力覚センサ自体が破損してしまうという懸念もあった。
【0006】
この発明は上記課題に鑑みて提案されたものであり、検出対象物の外形形状に合わせて検出部分の変形を許容することで、検出対象物を破損させることなく、また、装置自体を破損することなく、検出部分に加わる三次元方向に沿った力と、この三次元方向の軸心周りのトルク、さらにその接触位置を検出することが可能な柔軟6軸力覚センサ、およびその演算方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の一実施形態の柔軟6軸力覚センサは、以下の手段を提案している。
(1)本発明の態様1は、三次元方向にそれぞれ加わる力およびトルクを検出する第1の6軸力覚センサおよび第2の6軸力覚センサと、一端が前記第1の6軸力覚センサに、他端が前記第2の6軸力覚センサにそれぞれ固定され、帯状または線状に延びる湾曲した可撓性弾性体と、前記第1の6軸力覚センサ、および前記第2の6軸力覚センサからそれぞれ出力される前記力の情報および前記トルクの情報に基づいて、外部から前記可撓性弾性体に力およびトルクが加わった際に、該力およびトルクが加わった作用点の座標、および前記作用点における力およびトルクの大きさを算出する演算部と、を有することを特徴とする。
【0008】
(2)本発明の態様2は、態様1の柔軟6軸力覚センサにおいて、前記可撓性弾性体は、長手方向の全長に渡って既知の断面形状を成し、全長に渡って既知の弾性係数を有する帯状体、または線状体であることを特徴とする。なお、前記可撓性弾性体は、外部からの力およびトルクを受けて大きく変形することを許容する。
【0009】
(3)本発明の態様3は、態様1または2の柔軟6軸力覚センサにおいて、前記可撓性弾性体は、長手方向の中央を頂点として、180°屈曲されてなることを特徴とする。
【0010】
(4)本発明の態様4は、態様1から3のいずれか1つの柔軟6軸力覚センサを用いた柔軟6軸力覚センサの演算方法であって、前記演算部は、前記第1の6軸力覚センサから出力された信号から得られる、前記可撓性弾性体の一端側から他端側に向けて数値計算した第1変形情報と、前記第2の6軸力覚センサから出力された信号から得られる、前記可撓性弾性体の他端側から一端側に向けて数値計算した第2変形情報とを比較して、互いに近似した座標値や姿勢値を有する箇所を作用点と判断し、該作用点の座標値、および加えられた力値を出力し、前記可撓性弾性体の全体の変形形状を表示することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、検出対象物の外形形状に合わせて検出部分の変形を許容することで、検出対象物を破損させることなく、検出部分に加わる三次元方向に沿った力と、この三次元方向の軸心周りのトルクとを検出することが可能な柔軟6軸力覚センサ、およびその演算方法を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本実施形態の柔軟6軸力覚センサを示す外観模式図である。
図2】柔軟6軸力覚センサの各部に加わる力、トルクを示す説明図である。
図3】柔軟6軸力覚センサの演算方法を示す説明図である。
図4】柔軟6軸力覚センサの演算方法を示す説明図である。
図5】柔軟6軸力覚センサの演算方法を示す説明図である。
図6】柔軟6軸力覚センサの演算方法を示す説明図である。
図7】柔軟6軸力覚センサの演算方法を示す説明図である。
図8】本実施形態の柔軟6軸力覚センサを用いた測定結果を示す説明図である。
図9】本実施形態の柔軟6軸力覚センサを用いた測定結果を示す説明図である。
図10】本実施形態の柔軟6軸力覚センサを用いた測定結果を示す説明図である。
図11】本実施形態の柔軟6軸力覚センサを用いた測定結果を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態の柔軟6軸力覚センサ、およびその演算方法について説明する。なお、以下に示す実施形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。また、以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために、便宜上、要部となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0014】
(柔軟6軸力覚センサ)
本発明の一実施形態の柔軟6軸力覚センサについて説明する。
図1は、本実施形態の柔軟6軸力覚センサを示す模式図である。
本実施形態の柔軟6軸力覚センサ10は、第1の6軸力覚センサ(以下、単に第1センサと称することがある)11と、第2の6軸力覚センサ(以下、単に第2センサと称することがある)12と、可撓性弾性体13と、演算部14と、を少なくとも備えている。
【0015】
第1センサ11および第2センサ12は、三次元方向(互いに直角なX軸,Y軸,Z軸)に沿った力、およびX軸,Y軸,Z軸周りのトルク(回転力)をそれぞれ検出し、演算部14に出力する。こうした第1センサ11および第2センサ12は、公知の6軸力覚センサを用いることができる。
本実施形態では、第1センサ11と第2センサ12とは、同一面上に、互いに一定の間隔を開けて形成されている。
【0016】
可撓性弾性体13は、帯状や線状に加工された可撓性を有する弾性体から構成されている。可撓性弾性体13の構成材料は、可撓性を有する弾性体であれば特に限定はされないが、ポリエチレンテレフタレート(PET樹脂)やポリイミド樹脂等の合成樹脂、鋼板等の金属などが挙げられる。本実施形態では、可撓性弾性体13として、長手方向の全長に渡って均一な断面形状を成し、全長に渡って均一な弾性係数を有する焼入れリボン鋼を用いている。
【0017】
可撓性弾性体13は、一端13a側が第1センサ11に、他端13b側が第2センサ12にそれぞれ固定され、拘束部分を構成している。
本実施形態の可撓性弾性体13は、未接触状態では、所定の間隔を開けて配された第1センサ11および第2センサ12の間で、長手方向の中央を頂点として、弾性力に抗して180°屈曲されるように設けられている。
【0018】
演算部14は、A/D変換器(コンバータ)21と、パソコンよりなる情報処理装置22とを備えている。
A/D変換器21は、第1センサ11および第2センサ12からそれぞれ出力されるアナログ信号をデジタル信号に変換して、情報処理装置22に入力する。A/D変換器21は、特に限定されるものではなく、情報処理装置22が具備するPCIバスに装着される形態や、USB、LANケーブル等、種々のインターフェースを用いることができる。
【0019】
情報処理装置22は、一般的なパソコンを用いることができ、例えば、CPU23、ROM24、RAM25、表示部(ディスプレイ)26、操作部(キーボード、マウス)27、不揮発性ストレージ(ハードディスク装置)28等を備えている。
【0020】
情報処理装置22は、予め入力された種々の設定値と、第1センサ11および第2センサ12の出力信号に基づいて演算処理を行い、第1センサ11および第2センサ12の間に設けられた可撓性弾性体13に対する被検出物の接触位置(座標)、被検出物から受ける力、トルクの静力学的特性、および可撓性弾性体13の変形理論を根拠に演算処理を行い、可撓性弾性体13の変形形状、力が加わった作用点の座標、およびこの作用点における力とトルクの大きさを算出する。そして、こうした演算結果を表示部106に表示する。このような演算処理(演算部の演算方法)の具体例は後述する。
【0021】
以上のような構成の柔軟6軸力覚センサ10によれば、2つの6軸力覚センサである第1センサ11および第2センサ12の間に、湾曲させた可撓性弾性体13を設けることによって、例えば、被検出物が強度の低い物品であっても、被検出物を変形、破損させることなく、被検出物の可撓性弾性体13に対する接触位置の座標、および被検出物の可撓性弾性体13に対する接触力を検出することができる。
【0022】
一例として、こうした柔軟6軸力覚センサ10を、ロボットアームの力覚センサに用いれば、柔らかい食品や、液体を収容した紙コップなどを検出して、適切な把持力で把持するためのセンサとして用いることができる。
【0023】
なお、本実施形態では、可撓性弾性体13は、被検出物の未接触状態では、第1センサ11および第2センサ12の間で、長手方向の中央を頂点として180°屈曲されるように設けられているが、可撓性弾性体13の屈曲度合いは180°に限定されるものではない。可撓性弾性体13の屈曲角度は、0°(平面状態)以外であれば、どのような角度であってもよく、例えば、45°や60°に屈曲させて用いることもできる。
【0024】
(柔軟6軸力覚センサの演算方法)
次に、上述した柔軟6軸力覚センサ10の演算方法について説明する。
まず最初に、柔軟6軸力覚センサ10の動作原理を説明する。
図2は、柔軟6軸力覚センサ10の各部に加わる力、トルクを示す説明図である。
なお、図2における符号は以下の通りである。
t:可撓性弾性体13に加わる作用点
m:作用点における負荷トルク
f:外力
O:第1センサ11の焦点であり原点
:第1センサ11に対する作用点の位置ベクトル
:第1センサ11に対する第2センサ12の焦点の位置ベクトル
S1:第1センサ11で測定された力
S2:第2センサ12で測定された力
S1:第1センサ11で測定されたトルク
S2:第2センサ12で測定されたトルク
b1:第1センサ11が設置面から受ける反力
b2:第2センサ12が設置面から受ける反力
b1:第1センサ11が設置面から受けるトルク
b2:第2センサ12が設置面から受けるトルク
【0025】
柔軟6軸力覚センサ10を可撓性弾性体13の部分と、これを支持する第1センサ11および第2センサ12の部分に分けて説明する。
まず、第1センサ11におけるセンサと可撓性弾性体13との作用、反作用の関係は、次の式(1)、式(2)の通りである。
S1+fb1=0・・・(1)
S1+mb1=0・・・(2)
【0026】
また、第2センサ12におけるセンサと可撓性弾性体13との作用、反作用の関係は、次の式(3)、式(4)の通りである。
S2+fb2=0・・・(3)
S2+mb2=0・・・(4)
また、可撓性弾性体13の準静的な力の釣り合いは式(5)の通りである。
f+fb1+fb2=0・・・(5)
また、可撓性弾性体13の原点O周りのモーメントの釣り合いは式(6)の通りである。
b1+mb2+m+(p×f)+(p×fb2)=0・・・(6)
これら式(1)~式(6)を整理、集約すると、式(7)、式(8)の通りである。
f=fS1+fS2・・・(7)
×(fS1+fS2)=ms1+ms1+p×fs2-m・・・(8)
式(7)から外力fはセンサの値から直ちに求まることが分かる。一方、式(8)はpとmの関係を表しているが、これだけでは解は求められないため、可撓性弾性体13の形状を調べることによりpを求め,その結果からmを得る。
【0027】
可撓性弾性体13の形状を調べるには、本発明者らが見出した特許第6558727号に記載された方法を用い、図3に示すように、ptで可撓性弾性体13を2分断した仮想断面をモデルにする。分割した可撓性弾性体13のうち、第1センサ11側をロッド1、第2センサ12側をロッド2とする。
【0028】
そして、ロッド1の仮想断面端に作用する内力をft1、内力ベクトルをmt1とし、ロッド2の仮想断面端に作用する内力をft2、内力ベクトルをmt2とする。なお、図3は、可撓性弾性体13を2分断した仮想断面を考えているだけであり、内部状態に本質的な変化はないため、ロッド1の第1センサ11側の端部(一端側)、ロッド2の第2センサ12側の端部(他端側)に作用する内力や内力ベクトルも図2と同じである。
【0029】
ここで、まずロッド1の形状を考える。図4はロッド1の状態を示す模式図である。治具に固定されたロッド1の端点を基準として、たわみ曲線に沿ったロッド1の長さ(弧長)をsとする。またロッド1の全長を未知変数lとする。ロッド1上ではs∈[0,l]である.次にsでパラメータ化された、たわみ曲線上の位置ベクトルp(s)とフレネ標構F(s)=[t(s)n(s)b(s)]を考える。
【0030】
ここでt(s),n(s),b(s)は、弧長sでパラメータ化されたたわみ曲線の単位接線ベクトル、単位主法線ベクトル、単位従法線ベクトルをそれぞれ示している。また、同様に弧長パラメータ化された曲げモーメントをm(s)とする。但し、センサ側である固定端側(この場合s=0)から見て、フレネ標構の各軸まわりに正の回転を与えるような曲げを行う向きを曲げモーメントの正の向きとする。
【0031】
そして、任意弧長地点s∈[0,l]での仮想断面を想定する。このとき、可撓性弾性体13の仮想断面端にはたらくモーメントは、図3に示したようにm(s)と-m(s)に一致する。m(s)が働いている側のロッドについて、仮想断面端周りのモーメントの釣り合いは、式(9)で示される。
m(s)+mb1+(-p(s))×fb1=0・・・(9)
式(1)、式(2)を利用して式(9)を整理すると、任意のs∈[0,l]に対して式(10)となる。
m(s)=ms1-p(s)×fs1・・・(10)
【0032】
ここで任意のs∈[0,l]地点にある微小線要素dに着目して変形の力学を考える。Kirchhoff弾性ロッドモデルは、釣り合い状態にある長さが断面積に対して十分大きい梁についての変形を記述する。これはある弧長sの地点において、単位長さ当たりのフレネ標構の回転を表す回転軸ベクトルω(s)が近似的に曲げモーメントベクトルに比例し、せん断力の影響をほとんど受けないとしており、式(11)で表現できる。
F(s)K・ω(s)=m(s)・・・(11)
【0033】
但し、式(11)中のKはF(s)系における可撓性弾性体13の剛性行列であり、可撓性弾性体13全体に渡って定数である。また、式(11)中の左辺のF(s)が、力モーメントを外力トルクと同じ系に座標変換している。F(s)が直交行列であることを踏まえて式(11)を変形すると、式(12)が得られる。
ω(s)=K-1(s)m(s)・・・(12)
但し、F(s)はF(s)の転置行列である。
【0034】
次に回転軸ω(s)と、姿勢を表すフレネ標構F(s)との関係を考える。そのために単位ベクトルn=[nを軸として、角度θだけの回転を表す回転の表現行列 Rn(θ)について考える。但し、上付き文字Tは転置を表す。これはロドリゲスの回転公式から式(13)で表される。
(θ)=eθS(n)=I+sinθ・S(n)+(1-cosθ)・S(n)・・・(13)
但し、Iは3次の単位行列、S(n)はクロス積の表現行列である、式(14)に示す歪対称行列である。
【0035】
【数1】
【0036】
ここで微小区間端点のフレネ標構F(s)からF(s+ds)までの一様な回転の回転角を大きさに持つ回転軸ベクトルは、ds・ω(s)であるため、式(13)を用いてこれを表し、dsが微小であること、また歪対称行列の性質を考慮した上で整理すると、式(15)が得られる。
【0037】
【数2】
【0038】
但し、式(15)中のθはω(s)の大きさであり、nはω(s)向きの単位ベクトルとして、ω(s)=θ・nである。以上によって、このように弧長s地点の変形を表す単位長さ当たりの回転軸ベクトルω(s)と姿勢を表すフレネ標構F(s) との関係が明らかになる。また、可撓性弾性体13のたわみ曲線上の位置ベクトルp(s)は弧長パラメータ化されており、dp/dsは大きさ1の単位接線ベクトルになるため式(16)が得られる。
dp/ds=t(s)・・・(16)
【0039】
上述した式(10)、式(12)、式(15)、式(16)に基づいて、数値積分によってp(s)とF(s)の値を求める。これには、これら方程式を離散化し、漸化式によって次々に値を求めていけば良い。p(0)とF(0)の値が、可撓性弾性体13の固定端(センサ側固定部)の位置と姿勢であり既知であるため、これらを初期値として用いる。例えば4段4次のルンゲクッタ法などを用いることができる。
【0040】
ここで数値積分の漸化式の終了地点であるs=lの値が未知であることが問題となる。前述した数値積分の結果はs∈[0,l]の範囲のみに対する近似解である。l<sの範囲においても問題なく数値積分の値を得ることはできるが、その結果はもはや可撓性弾性体13の形状に近似しない。しかし、ひとまず可撓性弾性体13の全長をlとして、この全範囲の相当するs∈[0,l]の範囲について数値積分を行い、得られたp(s)とF(s)の値をすべて保存しておく。ロッド1の数値積分の結果のイメージを図5に示す。
【0041】
次に図3のロッド2についても同様に考えて、次の式(17)~(20)が得られる。
σ(σ)=ms2-(pσ(σ)-p)×fs2・・・(17)
ωσ(σ)=K-1σ (σ)mσ(σ)・・・(18)
(d/dσ)×pσ(σ)=Fσ(σ)S(ω)・・・(19)
(d/dσ)×pσ(σ)=tσ(σ) ・・・(20)
【0042】
但し、σは第2センサ12側の可撓性弾性体13(ロッド2)の端点を基準とした弧長パラメータであり、σ∈[0,l-l]で上記の式(17)~(20)は成り立つ。また下付き文字のσは、弧長σによりパラメータ化された関数であることを示しており、下付き文字のない弧長sでパラメータ化された関数と異なることを示している。ここで σに関してpσ(0)とFσ(0)を初期値にして数値積分を行う。ただしロッド1の時と同様l-l<σの範囲においても数値積分解は求まるが、これは可撓性弾性体13の形状をもはや近似しない。しかし、ひとまず可撓性弾性体13の全範囲に相当するσ∈[0,l]の範囲で数値積分を実行し、pσ(σ)とFσ(σ))の結果をすべて保存しておく。ロッド2の数値積分の結果のイメージを図6に示す。
【0043】
図5図6とを対比しても分かるように、作用点pではどちらの数値積分結果も正しく、理論上、位置および姿勢が一致する。可撓性弾性体13の正しいたわみ曲線上ではσ=l-sであり、かつ、dσ=-dsと向きが逆であるため、式(21)、式(22)となる。
σ(l-l)=p(l)・・・(21)
σ(l-l)=-F(l)・・・(22)
【0044】
数値積分のステップ幅が十分に小さければ、保存しておいたロッド1とロッド2の数値積分の結果のうち、式(21)と式(22)とを満たすs=l-σがs=lを与える。
実際の計算にあたっては、数値計算の誤差や可撓性弾性体13のモデル化誤差、第1センサ11、第2センサ12のノイズ、有限な数値積分のステップ幅が存在する。この結果、保存された数値積分結果に式(21)と式(22)とを満たす結果は一般的に存在しないと考えられる。そこで、これら誤差が最も小さいsの値を選択してlとする。こうした誤差関数の一例として、式(23)が挙げられる。
【0045】
【数3】
【0046】
但し、式(23)中のtrは行列のトレース、cは位置の誤差の重み付けの値、cは姿勢の誤差の重み付けの値である。式(23)の右辺第2項は、ロドリゲスの回転公式 の逆から姿勢行列の誤差の大きさを回転軸周りの回転角で表現するものである。
【0047】
以上の手順でlが求められ、p=p(l)=pσ(l-l)が得られる。この結果を式(8)に代入することでmが求められる。以上の手順で、第1センサ11、第2センサ12の値fS1,fS2,mS1,mS2から、外部から加わった力とトルクによって変形した 可撓性弾性体13の形状と、作用点の位置ベクトルp、外力f、作用点における負荷トルクmの値を推定することができる。
【0048】
以上のような原理に基づいて、実際に柔軟6軸力覚センサ10の演算部14で行う演算方法について説明する。但し、pの向きにx軸を、鉛直上向きにz軸をとり、x軸、y軸、z軸が右手系になるようにy軸をとる。
上述した原理の説明では、可撓性弾性体13上に負荷トルクが加わっていたが、このためには可撓性弾性体13上に固定されたレバーに対して力を加えたり、可撓性弾性体13をつまんだりする必要がある。このような入力が考えられないときは負荷トルクについてm=0とを仮定できる。 また、可撓性弾性体13が幅方向に殆ど変形しないことから、p=[p0pと仮定する。このとき力もx-z平面内で働くことが仮定できる。同様の理由から第1センサ11が検出する力をfs1=[fx10fx1、第2センサ12が検出する力をfs2=[fx20fx2とする。また第1センサ11および第2センサ12が検出するモーメントについてもy軸周りにしか生じないと考えられるから、ms1+ms1=[0m0]と仮定する。p=[p00]とすると、上述した式(8)は、次の式(24)に簡単化できる。
【0049】
【数4】
また力は主にz軸方向に働きやすいと考えられるため、fz1+fz2≠0であれば、次の式(25)となる。
【0050】
【数5】
【0051】
式(25)より、力の作用点を通る直線が求められ、可撓性弾性体13の形状曲線は力の作用点でこの直線と交差する。よって、この直線を判別式として直線と交差するまでロッド積分を行うと1サンプルのセンサ情報に対して1回のロッド積分で力の大きさと作用点が求められる。
【0052】
上述した原理に基づいて、柔軟6軸力覚センサ10の演算部14で行う。
(ステップ0)
まず、可撓性弾性体13に全く負荷が加わっていない状態で、ユーザがゼロ点補正の要求を操作部27を介して行う。
【0053】
(ステップ1)
ゼロ点補正の要求を受けて、演算部14の動作プログラムは、可撓性弾性体13に力・モーメントが加えられていない状態で、第1センサ11と第2センサ12が検出する力とトルクを推定する。
まず,図7に示すように、使用している可撓性弾性体13の片端側のみをセンサに固定した状態のモデルを用いる。このとき、可撓性弾性体13は固定端から鉛直上向きに直立した姿勢で釣り合い状態となる。ここで6軸力覚センサに固定しなかった側の可撓性弾性体13の端点に鉛直下向きに力を加え、図7中のAのように平衡状態に達した時その端部が水平方向を向いている状態に着目する。可撓性弾性体13の寸法と弾性係数が既知なため、この時の可撓性弾性体13の形状および外力の大きさは解析的に既知であり、楕円関数を用いて求められる。
【0054】
任意のロッドの形状を初期値として、そこから指定された先端位置・姿勢をとるロッド両端の拘束力・トルク情報を収束計算で求める手法は、例えば、本発明者らが見出した特許第6558727号において提案されている。これを用いて、図7中のAのような既知の形状を初期形状として、図7中のBのような形状をとるために必要なロッド両端の拘束力・トルク情報を求めることができる。作用・反作用の関係から、この拘束力・トルク情報を用いて第1センサ11と第2センサ12が検出する力とトルクの情報も明らかになる。このようにして求められた2台の6軸力トルクの値をRAM25に記憶しておく。便宜上ここではSigAという変数に格納したものとする。
【0055】
(ステップ2)
次に、演算部14のプログラムは、実際に可撓性弾性体13に力・モーメントが加えられていない状態で、第1センサ11と第2センサ12が検出する力とトルクを取得し、RAM25に記憶する。便宜上ここではSigBという変数に格納したものとする。理想的にSigBはSigAに一致するが、実際は第1センサ11および第2センサ12の測定原理により一致せず、なんらかのオフセット信号Offsetに対して次の式(26)で示される。
SigB=SigA+Offset・・・(26)
以上で準備は完了する。
【0056】
(ステップ3)
プログラムは無限ループに入り、第1センサ11と第2センサ12の信号を読み取る。読み取った信号をSigCとする。SigCにもSigBと同じオフセット信号Offsetが加わっているため、実際にロッドの根本にかかっている力・トルク信号Sigは次の式(27)で示される。
Sig = SigC + Offset・・・(27)
そこで、実際にSigを得るには、式(26)、式(27)を根拠に式(28)の演算を行う。但し、演算は要素ごとに行う。
Sig=SigC-SigB+SigA・・・(28)
SigA、SigBはRAM25から呼び出して演算行い、得られたSigをRAM25上に記憶する。
【0057】
(ステップ4)
Sigの値と式(25)を用いて判別式のサブルーチンを構成する。この判別式に可撓性弾性体13の位置ベクトルを代入すると、その点が可撓性弾性体13上で作用点よりも第1センサ11側にあるのか、あるいは第2センサ12側にあるのかを判別できる。
【0058】
(ステップ5)
Sigの信号を用いて、まず第1センサ11側を初期値として数値積分を行う。本実施形態では数値積分に4段4次のルンゲクッタ法を用いている。 数値積分を1ステップ行うと一定の長さだけ先の可撓性弾性体13の位置・姿勢を得ることができる。可撓性弾性体13の長さは決まっており、1ステップで前進する長さも決まっているため、ロッド積分の回数は有限回である。この回数をNとする。iステップ目の位置・姿勢情報を長さNの配列Zのi番目の要素に格納する。位置ベクトルをステップ4で作成した判別サブルーチンに代入する。その結果が作用点よりも「第2センサ12側」であればステップ5に進み、そうでなければ数値積分ステップを続行する。但し、ステップiがNを超えてしまう場合はロッド積分を終了し、ステップ7へ進む。
【0059】
(ステップ6)
ステップ5で行った数値積分のステップ数をIとしておく。今度は第2センサ12 側を初期値として数値積分を行い、可撓性弾性体13の位置・姿勢を求める。このロッド積分のjステップ目の結果を、配列ZのN-j番目の要素に格納する。N-I回ロッド積分を行うと、ちょうど配列Zの全要素に値が格納される。
【0060】
(ステップ7)
配列ZのI番目の要素が作用点の情報を示す。作用点に関する出力をここで行う。またその作用点情報とSigの情報、式(25)より力・トルクの情報も求めて出力する。
【0061】
(ステップ8)
さらに必要に応じて、配列Zに基づいて、表示部(ディスプレイ)26に、変形後の可撓性弾性体13の形状を表示する。連続して計測を行う場合、ステップ3に戻り演算を続行する。
【0062】
以上の様な演算部14による演算によって、本実施形態の柔軟6軸力覚センサ10の演算を行うことができる。
【0063】
以上、本発明の実施形態を説明したが、こうした実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。こうした実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【実施例0064】
本発明の効果を検証した。
検証にあたっては、図1に示すような柔軟6軸力覚センサを用意した。
(可撓性弾性体)
サイズ:長さ(有効長)260mm×幅20mm×厚み0.2mm
材質:焼入れリボン鋼(SK85:日本磨帯株式会社製):ヤング率206GPa、ポアソン比0.3で計算
(柔軟6軸力覚センサ(第1センサ、第2センサ共通))
型番FFS080F500M5R0A6(レプトリノ株式会社製):定格50N/5Nm、分解能±1/4000、サンプリングレート1.2kHz、焦点までの深さ8mm(柔軟6軸力覚センサのモーメント測定の基準は、パッケージ表面よりも少し深い位置にある)
第1センサと第2センサとの距離(焦点間)150mm
(土台(センサ設置面))
アクリル板(厚さ5mm)
(治具(可撓性弾性体の支持部材))
PLA樹脂(ポリ乳酸)製、3Dプリンタによって作成
治具高さ:22mm(可撓性弾性体の根本がセンサ焦点からの距離が30mmの位置になるように設計した)
【0065】
以上のような構成の柔軟6軸力覚センサを用いて、実際に可撓性弾性体の任意の作用点に荷重を印加して、作用点の座標、作用点に加わる力の大きさ、作用点に加わる力の向き(トルク)、および変形形状を出力した。測定例1~4のそれぞれの設定値、および得られた測定値を図8~11にそれぞれ纏めて示す。
【0066】
図8~11に示す測定例によれば、本実施形態の柔軟6軸力覚センサを用いて、可撓性弾性体の任意の位置(作用点)に荷重を加えると、設定値と近似した測定値(座標、力の大きさ、力の向き(トルク))が得られた。また、実際の変形形状に近似した可撓性弾性体の形状を表示することができた。よって、本実施形態の柔軟6軸力覚センサの効果を確認することができた。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の柔軟6軸力覚センサ、およびその演算方法によれば、例えば、ロボットハンドなどに用いられるセンサとして、柔軟な被検出物であっても、破損や変形をさせることなく、被検出物を認識することができる。従って、産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0068】
10…柔軟6軸力覚センサ
11…第1の6軸力覚センサ(第1センサ)
12…第2の6軸力覚センサ(第2センサ)
13…可撓性弾性体
14…演算部
図1
図2
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