(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023183008
(43)【公開日】2023-12-27
(54)【発明の名称】健全性評価システム、及び健全性評価方法
(51)【国際特許分類】
G01M 7/02 20060101AFI20231220BHJP
G01M 99/00 20110101ALI20231220BHJP
【FI】
G01M7/02 H
G01M99/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022096358
(22)【出願日】2022-06-15
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】森井 雄史
【テーマコード(参考)】
2G024
【Fターム(参考)】
2G024AD34
2G024BA12
2G024BA15
2G024CA13
2G024DA12
2G024FA06
(57)【要約】
【課題】装置構成を簡略化しつつ、応答値に対する閾値を必要とせずに計算処理を省略する。
【解決手段】建物の第1位置に設けられ第1検出値を出力する第1センサと、前記建物の第2位置に設けられ第2検出値を出力する第2センサと、を有する検出部と、前記建物の損傷度合いを推定する演算部と、を備え、前記演算部は、前記第1検出値及び前記第2検出値に基づいて第1手法を用いて前記第1入力点及び第2入力点の位置以外に存在する所定数の質点の応答を補完して建物全層の応答を示す第1算出値を算出し、前記第1検出値及び前記第2検出値に基づいて前記第1手法と異なる第2手法を用いて前記第1入力点及び第2入力点の位置以外に存在する所定数の質点の応答を補完して建物全層の応答を示す第2算出値を算出し、第1算出値と第2算出値との間の誤差の大きさに基づいて前記建物の損傷度合いを推定することを特徴とする、健全性評価システムである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多層構造の建物を複数の質点と前記複数の質点を連結する複数のバネにより示される建物モデルを用いて前記建物の健全性を評価するための健全性評価システムであって、
前記複数の質点から選択された第1入力点に対応する前記建物の第1位置に設けられ第1検出値を出力する第1センサと、前記第1入力点と異なる位置の第2入力点に対応する前記建物の第2位置に設けられ第2検出値を出力する第2センサと、を有する検出部と、
前記第1検出値及び前記第2検出値に基づいて前記建物の損傷度合いを推定する演算部と、を備え、
前記演算部は、
前記第1検出値及び前記第2検出値に基づいて第1手法を用いて前記第1入力点及び第2入力点の位置以外に存在する所定数の質点の応答を補完して建物全層の応答を示す第1算出値を算出し、
前記第1検出値及び前記第2検出値に基づいて前記第1手法と異なる第2手法を用いて前記第1入力点及び第2入力点の位置以外に存在する所定数の質点の応答を補完して建物全層の応答を示す第2算出値を算出し、
第1算出値と第2算出値との間の誤差の大きさに基づいて前記建物の損傷度合いを推定することを特徴とする、
健全性評価システム。
【請求項2】
前記第1手法は、前記第1検出値及び前記第2検出値に基づいて、前記建物の質量分布と剛性分布に基づく刺激関数を用いて前記第1位置及び第2位置以外の位置に存在する他の質点の応答を示す前記第1算出値を算出するものであり、
前記第2手法は、前記第1検出値及び前記第2検出値に基づいて、前記第1位置及び第2位置以外の位置に存在する他の質点の応答を線形補完して前記第2算出値を算出するものであり、
前記演算部は、前記第1算出値及び前記第2算出値の時刻歴における最大値の差分に基づいて前記誤差を算出し、前記建物の損傷度合いを推定する、
請求項1に記載の健全性評価システム。
【請求項3】
多層構造の建物を複数の質点と前記複数の質点を連結する複数のバネにより示される建物モデルを用いて前記建物の健全性を評価するための健全性評価システムを用いた健全性評価方法であって、前記健全性評価システムに適用されたコンピュータが、
前記複数の質点から選択された第1入力点に対応する前記建物の第1位置に設けられた第1センサの第1検出値を検出し、
前記第1入力点と異なる位置の第2入力点に対応する前記建物の第2位置に設けられた第2センサの第2検出値を検出し、
前記第1検出値及び前記第2検出値に基づいて第1手法を用いて前記第1入力点及び第2入力点の位置以外に存在する所定数の質点の応答を補完して建物全層の応答を示す第1算出値を算出し、
前記第1検出値及び前記第2検出値に基づいて前記第1手法と異なる第2手法を用いて前記第1入力点及び第2入力点の位置以外に存在する所定数の質点の応答を補完して建物全層の応答を示す第2算出値を算出し、
第1算出値と第2算出値との間の誤差の大きさに基づいて前記建物の損傷度合いを推定する、
健全性評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、健全性評価システム、及び健全性評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多層構造の建物にセンサを設置し、このセンサから取得した情報に基づいて建物の損傷、劣化の度合い、建物の損傷検知等を行う健全性評価方法が研究されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載された手法は、任意に設定した建物の観測層にセンサを設置し、地震時にセンサで取得した観測層の応答情報に基づき、建物の設計モデルの情報を学習的に更新し、後に発生した地震時に取得した観測層の応答情報と、学習的に更新した建物の設計モデルの情報に基づいて、建物の各層の応答を推定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された手法に基づいて建物の損傷度合いを推定する場合、地震時における建物全層の応答値を算出し、予め設定している閾値と比較する。特許文献1に記載された手法によれば、予め閾値を算出する必要がある。また、特許文献1に記載された手法は、建物に複数のセンサを設置する必要があり、装置構成が複雑化する。
【0005】
本発明は、建物の健全性評価において装置構成を簡略化しつつ、応答値に対する閾値を必要とせずに計算処理を省略することができる健全性評価システム、及び健全性評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達するために、本発明の一態様は、多層構造の建物を複数の質点と前記複数の質点を連結する複数のバネにより示される建物モデルを用いて前記建物の健全性を評価するための健全性評価システムであって、前記複数の質点から選択された第1入力点に対応する前記建物の第1位置に設けられた第1センサと、前記第1入力点点と異なる位置の第2入力点に対応する前記建物の第2位置に設けられた第2センサと、を有する検出部と、前記第1検出値及び第2検出値に基づいて前記建物の損傷度合いを推定する演算部と、を備え、前記演算部は、前記第1検出値及び前記第2検出値に基づいて第1手法を用いて前記第1入力点及び第2入力点の位置以外に存在する所定数の質点の応答を補完して建物全層の応答を示す第1算出値を算出し、前記第1検出値及び前記第2検出値に基づいて前記第1手法と異なる第2手法を用いて前記第1入力点及び第2入力点の位置以外に存在する所定数の質点の応答を補完して建物全層の応答を示す第2算出値を算出し、第1算出値と第2算出値との間の誤差の大きさに基づいて前記建物の損傷度合いを推定することを特徴とする、健全性評価システムである。
【0007】
本発明によれば、建物の健全性評価において装置構成を簡略化しつつ、応答値に対する閾値を必要とせずに計算処理を省略することができる。
【0008】
また、本発明の前記第1手法は、前記第1検出値及び前記第2検出値に基づいて、前記建物の質量分布と剛性分布に基づく刺激関数を用いて前記第1位置及び第2位置以外の位置に存在する他の質点の応答を示す前記第1算出値を算出するものであり、前記第2手法は、前記第1検出値及び前記第2検出値に基づいて、前記第1位置及び第2位置以外の位置に存在する他の質点の応答を線形補完して前記第2算出値を算出するものであり、前記演算部は、前記第1算出値及び前記第2算出値の時刻歴における最大値の差分に基づいて前記誤差を算出し、前記建物の損傷度合いを推定してもよい。
【0009】
本発明によれば、建物の応答を第1手法と第2手法とにより算出し、第1手法の第1算出値と第2手法の第2算出値との誤差の大きさに基づいて建物の損傷度合いを評価することができる。
【0010】
本発明の一態様は、多層構造の建物を複数の質点と前記複数の質点を連結する複数のバネにより示される建物モデルを用いて前記建物の健全性を評価するための健全性評価システムに適用されたコンピュータが、前記複数の質点から選択された入力点に対応する前記建物の第1位置に設けられ第1検出値を出力する第1センサと、前記入力点と異なる位置の第2入力点に対応する前記建物の第2位置に設けられ第2検出値を出力する第2センサと、を有する検出部と、前記第1検出値及び前記第2検出値に基づいて前記建物の損傷度合いを推定する演算部と、を備え、前記演算部は、前記第1検出値及び前記第2検出値に基づいて第1手法を用いて前記入力点及び第2入力点の位置以外に存在する所定数の質点の応答を補完して建物全層の応答を示す第1算出値を算出し、前記第1検出値及び前記第2検出値に基づいて前記第1手法と異なる第2手法を用いて前記入力点及び第2入力点の位置以外に存在する所定数の質点の応答を補完して建物全層の応答を示す第2算出値を算出し、第1算出値と第2算出値との間の誤差の大きさに基づいて前記建物の損傷度合いを推定することを特徴とする、健全性評価システムである。
【0011】
本発明によれば、応答値に対する閾値を必要とせずに計算処理を省略することができる健全性評価方法を提供することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、建物の健全性評価において装置構成を簡略化しつつ、応答値に対する閾値を必要とせずに計算処理を省略することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施形態に係る健全性評価システムの構成を示すブロック図である。
【
図2】評価装置の演算に用いられる第1手法を概念的に示す図である。
【
図4】評価装置の演算に用いられる第2手法を概念的に示す図である。
【
図6】第1手法の第1算出結果と第2手法の第2算出結果との誤差を示す図である。
【
図7】無損傷状態における誤差の算出結果を示す図である。
【
図8】損傷状態における誤差の算出結果を示す図である。
【
図9】健全性評価方法の処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しつつ、本発明に係る健全性評価システム、及び健全性評価方法の実施形態について説明する。健全性評価システムは、多層構造の建物を複数の質点と複数の質点を連結する複数のバネにより示される後述の建物モデルを用いて、建物の健全性を評価するものである。
【0015】
図1に示されるように、健全性評価システム1は、建物Bに設けられた検出部2と、検出部2により検出された検出値に基づいて、建物Bの健全性を評価する評価装置10と、を備える。建物Bは、例えば、複数の階を有する中低層建築物である。また、建物Bは、実際の建物であってもよいし、実験用模型であってもよい。検出部2は、例えば、2個の第1センサS1と第2センサS2とを備える。
【0016】
第1センサS1及び第2センサS2は、例えば、加速度センサである。第1センサS1及び第2センサS2は、建物Bの加速度を検出する。第1センサS1は、後述の建物モデルの複数の質点から選択された第1入力点に対応する建物Bの第1位置に設けられている。第2センサS2は、第1入力点と異なる位置(階又は層)の第2入力点に対応する建物Bの第2位置(階又は層)に設けられている。第1センサS1は、第1位置における加速度の第1出力値を出力する。第2センサS2は、第2位置における加速度の第2出力値を出力する。第1センサS1及び第2センサS2の出力値は、評価装置10に出力される。
【0017】
評価装置10は、建物Bの応答推定を行うための建物モデルに基づいて建物Bの健全性を評価する情報処理端末装置である。評価装置10は、例えば、パーソナルコンピュータ、タブレット型端末、スマートフォン等により実現される。評価装置10は、検出部2と無線による通信および電気的に接続されている。評価装置10は、ネットワーク(不図示)を通じて検出部2と接続されていてもよい。評価装置10は、例えば、検出部2から検出値のデータを取得する取得部12と、検出値に基づいて建物の健全性に関する演算を行う演算部14と、演算に関するデータを記憶する記憶部16とを備える。
【0018】
取得部12は、ローカルネットワーク又は公衆ネットワークに接続された通信インタフェースである。記憶部16は、ハードディスクドライブ(HDD)、フラッシュメモリ等の記憶媒体を有する。記憶部16は、評価装置10に必ずしも内蔵され、又は外部接続されているわけではなく、ネットワークを通じてデータを提供するサーバ(不図示)に設けられていてもよい。
【0019】
演算部14は、例えば、建物Bの動的な応答を示す建物モデル(応答推定モデル)に基づいて、建物Bの健全性の評価に関する演算を行う。演算部14は、建物モデルに第1センサS1の第1検出値及び第2センサS2の第2検出値を適用し、建物Bの損傷度合いを推定する。
【0020】
演算部14は、第1検出値及び第2検出値に基づいて後述の第1手法を用いて第1入力点と第2入力点の位置以外に存在する所定数の質点の応答を補完して建物全層の応答を示す第1算出値を算出する。演算部14は、第1検出値及び第2検出値に基づいて第1手法と異なる後述の第2手法を用いて第1入力点と第2入力点の位置以外に存在する所定数の質点の応答を補完して建物全層の応答を示す第2算出値を算出する。演算部14は、第1算出値と第2算出値との間の誤差の大きさに基づいて建物Bの損傷度合いを推定する。
【0021】
図2には、建物モデルCを用いる第1手法が概略的に示されている。建物モデルCは、多層構造の建物Bを複数の質点と複数の質点を連結する複数のバネにより示される。但し、複数の質点の質量は、m
i(i:自然数)である。複数のバネの剛性は、k
i(i:自然数)である。建物モデルCにおいて、質点は、建物Bの各階又は、複数の階を1つの単位としてまとめた各層を示している。
【0022】
建物モデルCにおいて、複数の質点の中から第1入力点の他、任意の1つの第2入力点質点が選択される。第1入力点は、建物Bの第1位置に配置されている。第1位置は、例えば、建物Bの1階である。第2入力点は、建物Bの第1入力点と異なる位置の第2位置に配置されている。第1入力点に対応する建物Bの第1位置には、第1センサS1が設けられている。第1センサS1は、建物Bの1階の天井に設置される。第2入力点に対応する建物Bの第2位置には、第2センサS2が設けられている。
図2の例では、第1センサS1は、建物Bの1階に設置され、第2センサS2は、建物Bの5階に設置されている。図示するように、第1センサS1により検出された第1検出値R1と、第2センサS2により検出された第2検出値R2が示されている。
【0023】
第1手法は、例えば、モード合成法である。モード合成法は、振動する現象を解析するために用いられる。モード合成法により、初期情報として得られる第1検出値R1、第2検出値R2、建物Bの質量m、建物Bの剛性kに基づいて、建物Bの質量分布と剛性分布に基づく刺激関数を用いて第1位置及び第2位置以外の位置に存在する他の質点の応答を示す第1算出値T1が算出される。
【0024】
モード合成法において、建物モデルCにおける複数の質点の変位はそれぞれの固有モードの1次結合として扱われる。この1次結合式に基づいて、複数の質点ごとに座標変換を行なうことにより、建物Bの全層の運動方程式が作成される。建物Bの全層の加速度波形は、モード合成法に基づいて第1検出値R1及び第2検出値R2を基に推定される。
【0025】
演算部14は、建物モデルCと第1検出値R1及び第2検出値R2を用いて建物モデルCの固有モード(刺激関数)と検出値から建物Bの全層の応答時刻歴の波形を推定する(特許文献1参照)。演算部14は、応答推定で求めた建物モデルCの全層の加速度波形を数値積分し、建物モデルCの速度波形、変位波形を求める。
【0026】
図3に示されるように、演算部14は、第1算出値T1に基づいて隣接する質点における変位波形の差分を算出し、建物Bにおける層間変形を算出すると共に、層間変形を階高で除し、建物Bにおける層間変形角を算出する。
【0027】
図4には、第2手法が概略的に示されている。第2手法において、第1入力点は、建物Bの第1位置に配置されている。第2入力点は、建物Bの入力点と異なる位置の第2位置に配置されている。第1入力点に対応する建物Bの第1位置には、第1センサS1が設けられている。第2入力点に対応する建物Bの第2位置には、第2センサS2が設けられている。
図4の例では、第1センサS1は、建物Bの1階に設置され、第2センサS2は、建物Bの5階に設置されている。図示するように、第1センサS1により検出された第1検出値R1と、第2センサS2により検出された第2検出値R2が示されている。
【0028】
第2手法は、例えば、線形補完法である。第2手法は、第1検出値R1及び第2検出値R2に基づいて、第1位置及び第2位置以外の位置に存在する他の質点の応答を線形補完するものである。演算部14は、第1検出値R1及び第2検出値R2に基づいて、第1位置及び第2位置以外の位置に存在する他の質点の位置における応答を線形補完して第2算出値T2を算出する。
【0029】
図5に示されるように、演算部14は、第2算出値T2に基づいて隣接する質点における変位波形の差分を算出し、建物Bにおける層間変形を算出すると共に、層間変形を階高で除し、建物Bにおける層間変形角を算出する。
【0030】
次に、演算部14は、第1算出値T1及び第2算出値T2の時刻歴における振幅の最大値の差分に基づいて誤差を算出する。誤差Erriは、以下の式(1)により示される。
【0031】
【数1】
但し、P
ri:第1算出値T1、O
ri:第2算出値T2である。
【0032】
図6には、誤差Err
iの算出結果が示されている。誤差Err
iは、例えば、2秒毎に算出される。第1算出値T1と第2算出値T2との誤差を時刻歴で比較することで建物Bの損傷を推定する。第2手法の線形補間では、建物Bの全層における最大層間変形角は同値である。これに比して第1手法のモード合成法では設計モデルに依存するために建物Bの全層における最大層間変形角は異なった値となる。建物Bの損傷が無い無損傷状態では、建物Bは、弾性範囲において弾性変形する弾性体とみなすことができ、第1算出値T1と第2算出値T2との関係は殆ど変化しない。これに比して、建物Bに大きな損傷が生じた後の損傷状態では、建物Bは、弾性変形せずに非線形化した状態となり、第1算出値T1と第2算出値T2との関係は変化する。この特性を利用すると、建物Bが損傷したか否かを推定することができる。
【0033】
図7には、建物Bが無損傷状態における各層の第1算出値T1と第2算出値T2との時刻歴の誤差の実験データが示されている。
図8には、建物Bが大きな損傷状態における各層の第1算出値T1と第2算出値T2との時刻歴の誤差の実験データが示されている。実験において建物Bは、3層RC造試験体であり、試験体を振動台上において加振して検出された第1検出値と第2検出値に基づいて第1算出値T1と第2算出値T2との誤差が算出された。
図7及び
図8に示されるように、建物Bの無損傷状態における誤差Err
iの算出値と大きな損傷状態における誤差Err
iの算出値とを比較すると損傷時には誤差が増大している事がわかる。上述した特性に基づいて演算部14は、第1算出値T1と第2算出値T2との間の誤差の大きさに基づいて建物の損傷度合いを推定することができる。
【0034】
図9には、健全性評価システム1を用いた健全性評価方法の処理が示されている。健全性評価方法は、健全性評価システム1に適用された評価装置10(コンピュータ)において実行される処理である。評価装置10は、多層構造の建物Bを複数の質点と、複数の質点を連結する複数のバネにより示される建物モデルCを用いて建物Bの健全性を以下の各工程に基づいて評価する。
【0035】
評価装置10は、複数の質点から選択された第1入力点に対応する建物Bの第1位置に設けられた第1センサS1の第1検出値を検出する(ステップS100)。評価装置10は、第1入力点と異なる位置の第2入力点に対応する建物Bの第2位置に設けられた第2センサS2の第2検出値を検出する(ステップS102)。評価装置10は、第1検出値及び前記第2検出値に基づいて第1手法を用いて第1入力点と第2入力点の位置以外に存在する所定数の質点の応答を補完して建物Bの全層の応答を示す第1算出値T1を算出する(ステップS104)。
【0036】
評価装置10は、第1検出値及び第2検出値に基づいて第1手法と異なる第2手法を用いて第1入力点と第2入力点の位置以外に存在する所定数の質点の応答を補完して建物Bの全層の応答を示す第2算出値T2を算出する(ステップS106)。評価装置10は、第1算出値T1と第2算出値T2との間の誤差の大きさに基づいて建物Bの損傷度合いを推定する(ステップS108)。
【0037】
上述したように、健全性評価システム1によれば、2つのセンサを用いて建物の振動を検出するため、装置構成を簡略化しつつ建物の健全性を評価することができる。健全性評価システム1によれば、従来の構造ヘルスモニタリングの損傷推定手法のように建物全層の応答値を求めて、予め設定している閾値と比較して建物の健全性を評価しているのに比して閾値を算出する必要がなく、計算処理を簡略化することができる。健全性評価システム1によれば、第1手法の第1算出値と第2手法の第2算出値との間の誤差の大きさに基づいて建物の損傷度合いを評価するため計算処理を省略することができる。
【0038】
上述した演算部14は、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)等のプロセッサがプログラム(ソフトウェア)を実行することで実現される。これらの各機能部のうち一部または全部は、LSI(Large Scale Integration)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)等のハードウェアによって実現されてもよいし、ソフトウェアとハードウェアの協働によって実現されてもよい。プログラムは、予めHDD(Hard Disk Drive)やフラッシュメモリなどの記憶装置に格納されていてもよいし、DVDやCD-ROMなどの着脱可能な記憶媒体に格納されており、記憶媒体がドライブ装置に装着されることで記憶装置にインストールされてもよい。
【0039】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記の一実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。健全性評価システムは、建物だけでなく、他の多層構造物の応答推定に適用してもよい。健全性評価システムにおいて、第1手法及び第2手法は、2つのセンサの検出値に基づいて建物Bの応答を補完して推定可能であれば適宜他の手法に置き換えられてもよい。
【符号の説明】
【0040】
1 健全性評価システム
2 検出部
14 演算部
B 建物
C 建物モデル
S1 第1センサ
S2 第2センサ
T1 第1算出値
T2 第2算出値