(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023183009
(43)【公開日】2023-12-27
(54)【発明の名称】農業用水位センサ
(51)【国際特許分類】
G01F 23/263 20220101AFI20231220BHJP
【FI】
G01F23/263
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022096361
(22)【出願日】2022-06-15
(71)【出願人】
【識別番号】000110778
【氏名又は名称】ニシム電子工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304036754
【氏名又は名称】国立大学法人山形大学
(74)【代理人】
【識別番号】100099634
【弁理士】
【氏名又は名称】平井 安雄
(72)【発明者】
【氏名】中村 浩幸
(72)【発明者】
【氏名】多田 宜泰
(72)【発明者】
【氏名】柳田 朋香
(72)【発明者】
【氏名】古川 忠宏
(72)【発明者】
【氏名】安部 雅則
(72)【発明者】
【氏名】河村 祐輝
(72)【発明者】
【氏名】高橋 辰宏
【テーマコード(参考)】
2F014
【Fターム(参考)】
2F014AB02
2F014AB03
2F014EA00
(57)【要約】
【課題】支柱の側面形状に沿ってシート状の電極を貼付することで、支柱内の洗浄等のメンテナンス性を向上すると共に、非接触での圃場の水位測定を可能とする農業用水位センサを提供することを目的とする。
【解決手段】測定対象となる圃場Dに立設される支柱2と、導電性パターンからなる複数の電極3が形成されたシート状のセンサ部4と、電極3間の静電容量の変化に基づいて圃場Dの水位を算出する演算部5とを備え、周方向に湾曲する湾曲面を有する中空の長尺物である支柱2の当該湾曲面に沿ってセンサ部4が貼着される。また、必要に応じて電極3の表面側、又は電極3との間にプラスチックシート6を挟んだ裏面側に熱を反射する反射パターン10が形成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象となる圃場に立設される支柱と、
導電性パターンからなる複数の電極が形成されたシート状のセンサ部と、
前記電極間の静電容量の変化に基づいて前記圃場の水位を算出する制御部とを備え、
前記支柱の側面形状に沿って前記センサ部が貼着されることを特徴とする農業用水位センサ。
【請求項2】
請求項1に記載の農業用水位センサにおいて、
前記支柱が周方向に湾曲する湾曲面を有する中空の長尺物であり、前記湾曲面に前記センサ部が貼着されることを特徴とする農業用水位センサ。
【請求項3】
請求項2に記載の農業用水位センサにおいて、
前記電極が前記支柱の周方向に対して平行ではないスリットを有することを特徴とする農業用水位センサ。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載の農業用水位センサにおいて、
前記電極の表面側、又は前記電極との間にシート体を挟んだ裏面側に熱を反射する反射パターンが形成されていることを特徴とする農業用水位センサ。
【請求項5】
請求項4に記載の農業用水位センサにおいて、
前記導電性パターンが銀ペーストを印刷して形成されることを特徴とする農業用水位センサ。
【請求項6】
請求項4に記載の農業用水位センサにおいて、
前記反射パターンが、前記支柱の周方向に対して所定の長さ以上のサイズを有する電極に対して形成されることを特徴とする農業用水位センサ。
【請求項7】
請求項4に記載の農業用水位センサにおいて、
前記反射パターンの範囲が少なくとも前記電極の範囲の全てを含むことを特徴とする農業用水位センサ。
【請求項8】
請求項1に記載の農業用水位センサにおいて、
前記センサ部はシート体の表面に電極が形成されており、
少なくとも前記支柱の内壁面と前記シート体との間に前記電極が防水されて配置される農業用水位センサ。
【請求項9】
請求項2に記載の農業用水位センサにおいて、
前記電極が前記支柱の内壁面に貼着されており、
前記支柱は前記圃場に立設している状態で中空が維持され、前記支柱の外側領域における水位が測定されることを特徴とする農業用水位センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圃場の水位を測定する農業用水位センサに関する。
【背景技術】
【0002】
圃場などの水位を測定することが可能な技術として、例えば特許文献1、2に示す技術が開示されている。特許文献1に示す技術は、暫定水位計測部は、電極の重複する計測範囲に水位があるときに、電極ごとに計測された電荷量に基づいて暫定水位を計測し、重み決定部は、暫定水位と各電極との相対的な位置関係に基づいて各計測値に対する重み付けを決定し、重み付き平均値計算部は、電極ごとに得られる計測結果に前記重み値に基づく重み付き平均値を計算して総合水位とするものである。
【0003】
また、特許文献2に示す技術は、電極選択部は、電極下端部に対応する水位の計測値が未登録の電極を選択し、ゲイン切換部は増幅器のゲインを調整し、下端部検知部は、水位が電極の下端部にあるか否かを最大ゲインで検知し、下端部電圧登録部は、水位が電極の下端部にあるときの電極の電荷量を通常ゲインで計測し、下端部水位代表値として登録し、隣接水位代表値登録部は、水位が電極の下端部にあるときの隣接電極の電荷量を通常ゲインで計測し、隣接水位代表値として登録し、補正係数等決定部は、隣接電極の各代表値に基づいて、隣接電極の計測値を較正するための補正係数や関数を求めるものである。
【0004】
これ以外にも水位センサに関する技術として、例えば特許文献3に示す技術が開示されている。特許文献3には、水と非接触の状態で静電容量を計測し、水位を測定することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-215160号公報
【特許文献2】特開2017-215159号公報
【特許文献3】特開2017-181086号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1、2に示す技術は、複数の電極が平板状の基板に形成されており、当該基板を円筒状の支柱内に固定して水位を測定する構造となっている。しかしながら、このような構造の場合、基板が水に浸漬されることで当該基板が水を吸湿してしまい、状況に応じて計測精度が低下してしまう場合がある。また、半年程度の長期間に亘り圃場に設置する場合は、圃場内の様々な成分により汚れが付着してしまうという問題がある。そのためシーズンオフの期間で支柱内を洗浄する必要があるが、支柱内に基板が固定されているため分解することが困難であり、またスポンジがブラシを通す空間もないことから、洗浄等のメンテナンス性が悪いという課題を有する。
【0007】
また、特許文献3に示す技術は、水に非接触の状態で水位を測定することが可能であるが、圃場のような場所の水位を測定することはできないという課題を有する。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、支柱の側面形状に沿ってシート状の電極を貼付することで、支柱内の洗浄等のメンテナンス性を向上すると共に、振動などの衝撃に対する耐性に良好で、非接触での圃場の水位測定を可能とする農業用水位センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る農業用水位センサは、測定対象となる圃場に立設される支柱と、導電性パターンからなる複数の電極が形成されたシート状のセンサ部と、前記電極間の静電容量の変化に基づいて前記圃場の水位を算出する制御部とを備え、前記支柱の側面形状に沿って前記センサ部が貼着されるものである。
【0010】
このように、本発明に係る農業用水位センサにおいては、測定対象となる圃場に立設される支柱の側面形状に沿って、導電性パターンからなる複数の電極が形成されたシート状のセンサ部が貼着されるため、支柱内部を中空にすることで構造を簡素化できると共に、洗浄等のメンテナンス性を格段に向上させることができるという効果を奏する。
【0011】
また、支柱とセンサ部とが一体であるので、圃場に運ぶ際の振動や落下などの衝撃に対して非常に耐性が向上するという効果を奏する。さらに、センサ部と測定対象の水との間には厚みをもったシート又は支柱を介在させることで水によるセンサ部の劣化を防止することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】第1の実施形態に係る農業用水位センサの電極部分の内部構造を示す図である。
【
図2】第1の実施形態に係る農業用水位センサの断面を示す図である。
【
図3】第1の実施形態に係る農業用水位センサの断面を示す第2の図である。
【
図4】第1の実施形態に係る農業用水位センサの電極パターンの一例を示す図である。
【
図5】第2の実施形態に係る農業用水位センサの製造方法の一例を示すフローチャートである。
【
図6】第2の実施形態に係る農業用水位センサにおいて反射パターンが印刷された状態の電極を示す図である。
【
図7】第2の実施形態に係る農業用水位センサの三次元成形工程の一例を示す図である。
【
図8】第2の実施形態に係る農業用水位センサの三次元成形工程において真空成形機による真空成形の各工程の一例を示す模式図である。
【
図9】従来手法によりシートに電極を印刷して伸びに対する抵抗値の変化を調べた結果を示す図である。
【
図10】反射パターンを用いて三次元成形した場合の電極の状態を示す図である。
【
図11】水田において長期間使用した前後における水位に対する水位誤差の結果を示す図である。
【
図12】本発明に係る農業用水位センサの試作品の一部の画像である。
【
図13】本発明に係る農業用水位センサの試作品で実際に水位をセンシングした結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を説明する。また、本実施形態の全体を通して同じ要素には同じ符号を付けている。
【0014】
(本発明の第1の実施形態)
本実施形態に係る農業用水位センサについて、
図1ないし
図4を用いて説明する。本実施形態に係る農業用水位センサは、水と空気との誘電率の差を利用して電極間の静電容量の変化に基づいて圃場の水位を測定する農業用水位センサであり、静電容量を形成するベタ電極が圃場に立設される支柱の側壁面に貼着されて形成されるものである。
【0015】
図1は、本実施形態に係る農業用水位センサの電極部分の内部構造を示す図、
図2は、本実施形態に係る農業用水位センサの断面を示す図である。
図2(A)は農業用水位センサの内部の上面図、
図2(B)は
図2(A)における破線の断面図である。農業用水位センサ1は、測定対象となる圃場Dに立設される支柱2と、支柱2の側壁面(
図1においては支柱2の内壁面)に配設される複数の電極3を有するセンサ部4と、センサ部4の電極3で形成される静電容量に基づいて圃場の水位を演算する演算部5とを備える。
【0016】
支柱2は、中身が中空の円筒状に形成されており、その内側側壁面に後述するセンサ部4が貼着される。支柱2は、長手方向が水位方向Lとなるように圃場D内に立設され、圃場Dの水位と同水位の水が支柱2内に流入する。すなわち、圃場Dの水位に応じてセンサ部4の電極3間の誘電率(例えば、水の誘電率/空気の誘電率)に差が生じ、その差に応じて圃場Dの水位が計測される。
【0017】
センサ部4は、熱可塑性のプラスチックシート6に導電性ペーストを印刷して形成される複数の電極3を有しており、この電極3は、それぞれの電極間で静電容量を形成するために面積が広いベタ電極となっている。また、センサ部4は、水位方向Lに対して所定の間隔で離間して配設される第1電極部3aと、当該第1電極部3aに並列して配設され、第1電極部3aの電極3の間隙が計測範囲となるように、水位方向Lに対して所定の間隔(第1電極部3aにおける電極3が配設される間隔と同じ間隔)で離間して配設される第2電極部3bと、各電極3と演算部5とを電気的に接続するための配線パターン7とを有する構造となっている。このセンサ部4は、接着層8を介して支柱2の内側側壁面に貼着される。支柱2の側壁は周方向に湾曲しており、センサ部4もこの湾曲に沿った形状で貼着される。
【0018】
なお、電極3は支柱2に貼着された状態において、支柱2の長さ方向に対して周方向(湾曲している方向)に幅が狭くなっていることが望ましい。すなわち、電極3は支柱2の湾曲に沿って形成されるため、それに応じて伸びの応力が生じる。この応力が所定値よりも大きくなると電極3が亀裂、破断、断線、さらには剥がれ等の不具合を起こしてしまう場合もある。これは、湾曲する方向の電極3の幅が広いほど生じやすくなるため、湾曲方向には幅を狭く、湾曲しない支柱2の長手方向には幅を広くすることが望ましい。
【0019】
また、
図1において第1電極部3aの最下部に配設される電極3cはグランド電極である。すなわち、静電容量の測定は、電極3cを除く下方の電極3から第2電極部3bの最上部の電極3の間の水位に応じて行われる。
【0020】
演算部5は、センサ部4で検出された静電容量を電流量からパルスに変換し、このパルスカウント値に基づいて水位を演算する。なお、演算部5において、センサ部4で検出された静電容量から水位を演算する手法については、適宜公知の技術を用いることが可能であるため詳細な説明は省略するが、例えば特開2017-215160号公報や特開2017-215159号公報に示す手法を用いることが可能である。
【0021】
このように、本実施形態に係る農業用水位センサにおいては、導電性パターンからなる複数の電極3が形成された熱可塑性のシート状のセンサ部4が、支柱2の内側側壁面に沿って貼着されるため、支柱2の内部を中空にすることで構造を簡素化できると共に、洗浄等のメンテナンス性を格段に向上させることができる。また、支柱2とセンサ部4とが一体な構造となるため、圃場Dに運ぶ際の振動や落下などの衝撃に対して耐性を向上させることができる。さらに、センサ部4と水の間には厚みをもったシートが介在するため水によるセンサの劣化を防止することができる。
【0022】
また、電極3を形成する際に導電性ペースト(例えば、銀ペースト)を印刷することで、銅箔のような金属薄膜を用いた場合に比べて熱変形に柔軟に対応することが可能となり、3次元形状に成形された場合であっても電極3の亀裂等の発生を防止することができる。
【0023】
なお、上記説明においては支柱2の内部を圃場Dの水位と同水位にして計測するものとしたが、
図3に示すように、支柱2の内部に水が流入しない構造とし、支柱2の側壁を隔てた外側の水位(=圃場Dの水位)を計測するようにしてもよい。こうすることで、センサ部4の劣化をさらに低減し長寿命化することができる。
【0024】
また、本実施形態に係る農業用水位センサは、湾曲による電極3の亀裂等を防止するために、電極3が湾曲する方向とは異なる方向(例えば湾曲する方向に垂直な方向)に1つ又は複数のスリット9を有するようにしてもよい。センサ部4における電極3の領域は、当該電極3のパターンが熱変形による伸びに対する抵抗成分として働くため伸びが小さくなる。一方、電極3以外のパターンがない領域は熱変形による伸びが大きくなる。つまり、連続する電極3の間にパターンがないスリット9を形成することで、電極3の領域への熱変形による応力が緩和され、電極3の亀裂等を防止することが可能となる。
【0025】
図4は、電極3がスリット9を有する場合の形状の一例を示す図であり、
図4(A)は1つのスリット9を有する場合、
図4(B)はスリット9が連続しておらず、スリット9の途中に接続部分を有する場合、
図4(C)は複数のスリット9を有する場合、
図4(D)は複数のスリット9が櫛歯状に形成される場合、
図4(E)はスリット9の幅と当該スリット9で分割された電極の幅を同程度とした場合、
図4(F)は
図4(E)のスリット9の途中に接続部分を設けた場合の図である。いずれにおいても、スリット9が電極3が湾曲する方向と垂直な方向、すなわち支柱2の長手方向に沿って形成されている。スリット9の幅は支柱2が湾曲する方向に対して、1mm以下であることが望ましい。また、
図4(E)、(F)に示すように、スリット9の幅とスリット9により分割された電極3の幅とが同程度であってもよい。なお、スリット9の方向は、必ずしも湾曲する方向に垂直な方向である必要はなく、湾曲する方向とは異なる方向であればよい。電極にこのようなスリット9が形成されることで、電極3の伸びの応力をプラスチックシート6で吸収することができ、電極3の亀裂等を防止することができる。
【0026】
さらに、上記説明においてはセンサ部4を支柱2の内側側壁面に沿って貼着する構成としたが、支柱2の外側側壁面に沿って貼着するようにしてもよい。
【0027】
さらにまた、支柱2は円筒状に限定されるものではなく、内部が中空の柱状であれば形状は問わない。すなわち、必ずしも湾曲部分を有する必要はない。
【0028】
(本発明の第2の実施形態)
本実施形態に係る農業用水位センサについて、
図5ないし
図8を用いて説明する。本実施形態に係る農業用水位センサは、3次元加工時に生じる電極3の熱変形を抑制するために、電極3の領域に反射パターンを形成したものである。なお、本実施形態において前記第1の実施形態と重複する説明は省略する。
【0029】
円筒状の支柱2にセンサ部4を貼着する場合、一般的には真空成形や真空圧空成形で三次元加工する。具体的には、熱により軟化したプラスチックシート6を、支柱2の側壁形状に応じて変形しながら所望の形状に成形する。このとき、熱変形するプラスチックシート6において、プラスチックシート6のみの部分と電極3が印刷された部分とでは、三次元加工時の伸びやすさに違いがある。すなわち、プラスチックシート6のみの部分よりも電極3が印刷された部分の方が、導電性ペーストの成分や厚みの影響により変形しづらい傾向がみられる。
【0030】
しかしながら、プラスチックシート6の熱変形に伴って電極3が印刷された部分も同様に変形した場合は、前記第1の実施形態において説明したように、プラスチックシート6に印刷された電極3、特に、ベタ電極のように面積の大きい電極3は、変形率(変形の大きさ)によっては亀裂、破断、断線、さらには剥がれ等の不具合が発生する。電極3の変形率ΔL(%)の大きさは、以下のように求めることができる。
【0031】
【0032】
Liは熱変形前の電極3の寸法(mm)、Ljは熱変形後電極3の寸法(mm)を示す。電極3においては、変形率が50%を超えると上記亀裂等の不具合が発生する可能性が高いことが発明者らの実験で明らかとなっている。そのため、本実施形態においては、熱変形の抑制を行いたい電極3の範囲に対して熱を反射するための反射パターンを形成することで、電極3の熱変形を抑制し、上記亀裂等の不具合を防止しつつ、支柱2の側壁面に沿ってセンサ部4を貼着することを可能とする。
【0033】
図5は、本実施形態に係る農業用水位センサの製造方法の一例を示すフローチャートである。
図5において、農業用水位センサ1の製造方法は、熱可塑性を有するプラスチックシート6に電極3や配線パターン7(いずれも導電性ペースト)を印刷する電極印刷工程(ステップS1)と、三次元成形時の熱変形を抑制する範囲として規定したプラスチックシート6上の所定位置に反射パターン(反射ペースト)を印刷する反射パターン印刷工程(ステップS2)と、真空圧空成形機を使用してセンサ部4を三次元形状に成形することにより三次元成形物を得る三次元成形工程(ステップS3)とを含む。
【0034】
ステップS1の電極印刷工程では、プラスチックシート6に対して導電性ペーストを使用して電極3及び配線パターン7を印刷する。なお、本実施形態においては、導電性ペーストとして銀ペーストを用いるが、これに限るものではなく、他の導電性ペーストとして、例えば銅ペースト、カーボンペースト、導電性のその他のペースト(インキ)も使用可能である。このようなペーストやインキは、印刷方式及びプラスチックシート6の材料に応じて適宜選択可能とする。また、電極3は、静電容量を形成しやすくするために、配線パターン7より面積が大きくなっており、グランド用、センサ用等の電極として形成されるものである。
【0035】
プラスチックシート6は、三次元成形を可能とする熱可塑性のポリ塩化ビニル(PVC)、ポリカーボネート(PC)、アクリル-スチレンブタジエン共重合樹脂(ABS)、薄グラス、ポリエンチレンテレフタレート(PET)等を材料とする平面シートである。このプラスチックシート6には、水位センサとしての仕様及び製造条件等に応じて適切な他の材料(例えば他のプラスチック、シリコーン、ゴム等)を含ませることが可能である。極力支柱2と同材質が好ましい。プラスチックシート6の厚みは0.2mmから1mmであり、好ましくは0.3mmから0.6mmである。プラスチックシート6の厚みが薄いと3次元成型時に変形によりシート自体が切れてしまう。また、厚いと成形しにくくなるだけでなく、水位の検出感度が低下する。感度は低下しても水検出は可能であるが、よりノイズを拾いやすくなる。また、支柱2は耐環境性、加工しやすさの面からPVCを用いるのが好ましい。厚さは4mmから8mmが好ましく、プラスチックシート6の厚さの10倍以上とすることで支柱2の内側と外側の水位の切り分けを行うことが可能となる。
【0036】
次にステップS2の反射パターン印刷工程では、S1で印刷された電極3の印刷範囲を覆うように、プラスチックシート6の電極印刷面又はその裏面に対し、反射ペーストを使用して反射パターン10を印刷する。具体的には、ステップS3の三次元形成工程においてIRヒーターで加熱する面、すなわち電極印刷面を加熱する場合は電極印刷面に、電極印刷面の裏面側を加熱する場合は電極印刷面の裏面に、電極3の印刷範囲を覆うように反射パターンを印刷する。
【0037】
図6は、反射パターン10が印刷された状態の電極3を示す図であり、
図6(A)が電極3の印刷範囲と反射パターンの印刷範囲が略同一である場合、
図6(B)が電極3の印刷範囲よりも若干大きい範囲で反射パターンを印刷した場合を示している。いずれの場合においても、反射パターン10の印刷範囲は、電極3の印刷範囲全体が覆われ、且つ反射パターン10を印刷していない部分のプラスチックシート6の熱変形により3次元成形により生じる応力が吸収できる範囲である。
図6(A)に示すように、反射パターン10を電極3の形状に略一致する範囲とする場合は、IRヒーターからの熱が反射パターン10の外側から電極3の周縁部分にも多少なりとも伝わり、電極3部分の変形を抑制しつつ適度に変形させることができる。
図6(B)に示すように、反射パターン10を電極3全体を覆いつつ、当該電極3の形状よりも若干大きい範囲とする場合は、電極3の熱変形を最小限に抑えて電極3の亀裂等を確実に防止することができる。
【0038】
なお、反射パターン10の印刷範囲が電極3の印刷範囲よりも小さい場合は、電極3の変形が大きくなってしまうため亀裂等が発生しやすくなり好ましくない。また、反射パターン10の印刷範囲が電極3の印刷範囲よりも大き過ぎる場合は、この部分の熱変形(熱による軟化)が不十分になり三次元形状に追従できず、亀裂等が発生する原因となるため好ましくない。
【0039】
さらに、プラスチックシート6に印刷した配線パターン7は、電極3に比べて面積が小さく、且つ支柱2の周方向における長さが短いことから熱変形による影響を受けにくいため、反射パターン10の印刷は必須ではない。すなわち、反射パターン10を印刷する対象範囲を、支柱2の周方向に対して所定の長さ以上のサイズを有する電極3の範囲とすることで、特に亀裂等が発生しやすい箇所の熱変形を最小限に抑えることができる。
【0040】
さらにまた、ステップS2の反射パターン印刷工程において使用する反射ペースト10(インキ)は、IRヒーターの赤外線を反射できるものであれば市販の一般的なものでよく、一例として、「十条ケミカル製 鏡面インキ:FUNCOATメタミラー」、「セイコーアドバンス製 真空成形用インキ(TSN(遅乾)series、2500series)」、「セイコーアドバンス製 鏡面インキ(各種series)」、「大日精化工業製 高輝度UVメタリックインキ輝シリーズ」、「帝国インキ製 鏡面インキ(MIR41000ミラーシルバー、MIR41000ミラーシルバー、MIR41000ミラーシルバー)」等が使用可能である。また、反射ペースト10は、絶縁性のものであることが望ましいが、必ずしも絶縁性である必要はない。
【0041】
さらにまた、電極3、配線パターン7及び反射パターン10の印刷は、スクリーン印刷が好ましいが、例えばインクジェット印刷、グラビア印刷、フレキソ印刷、オフセット印刷等、電極を印刷可能であればどのような印刷方式であってもよい。また、反射パターン10は、印刷以外の手段として、例えばエッチングや薄膜蒸着等の手法により形成されてもよい。
【0042】
さらにまた、
図5のフローチャートにおいては、ステップS1で電極3を印刷した後に、ステップS2で反射パターン10の印刷を行うようにしたが、反射パターン10を電極印刷面の裏面側に形成する場合は、反射パターン10を印刷してから電極3を印刷するようにしてもよい。
【0043】
次にステップS3の三次元成形工程では、真空圧空成形機を使用してセンサ部4を三次元形状に成形することで三次元成形物を得る。
図7は、三次元成形工程の一例を示す図であり、例えば真空圧空成形機による真空圧空成形の各工程を示している。
図7において、真空圧空成形機20は、上下に駆動し互いに対面する開口を有する上ボックス21および下ボックス22と、プラスチックシート6に電極3及び配線パターン7が印刷されたセンサ部4を加熱するためのIRヒーター23と、上下に駆動するテーブル24と、上ボックス21に接続され上ボックス21内を減圧するための上通気口25と、下ボックス22に接続され下ボックス22を減圧するための下通気口26と、上ボックス21に接続され上ボックス21内を加圧するための加圧用通気口27とを備える。
【0044】
また、テーブル24には、支柱2を長さ方向に切断した半円筒形支柱11がはめ込み治具12に載置された状態で固定されている。なお、
図7における半円筒形支柱11の載置状態は、支柱2の内側側壁面にセンサ部4が貼着されるように、支柱2の切断面が上になるように載置されている。
【0045】
さらに、真空圧空成形機20は、上ボックス21と下ボックス22とを閉じた状態でセンサ部4を境界として形成される上空間28および下空間29を有する。この上空間28および下空間29は、上ボックス21と下ボックス22が閉じた状態において気密性が確保されている。
【0046】
以下、本実施形態においては、一例として、反射ペースト10を電極印刷面の裏面側に印刷し、センサ部4の電極印刷面の裏面側をIRヒーターで加熱する場合について説明する。
【0047】
真空圧空成形においては、まず、成形前の準備作業として、上ボックス21と下ボックス22とを開いた状態でテーブル24上のはめ込み治具12に半円筒形支柱11を固定し、さらに、センサ部4の電極印刷面に接着層8(
図7には図示しない)を塗布した状態で、下に向けて下ボックス22の開口部に固定する。この接着層8は接着フィルムを使用してもよい。そして、この状態で上ボックス21と下ボックス22とを閉じることにより、センサ部4を境界として気密性を有する上空間28および下空間29を形成する(
図7(A)を参照)。
【0048】
なお、接着層8は、アクリル、エポキシ、シリコーン等を用いることができ、圃場Dの水位を検出する水位センサとしては、防水及び耐久性の観点からシリコーンを用いるのが好ましい。
【0049】
次に、上ボックス21内のIRヒーター23により上からセンサ部4を加熱し、プラスチックシート6を軟化させる。このとき、プラスチックシート6を介して電極3の裏面側の領域には反射ペースト10が印刷されているため、電極3の部分への加熱を抑えることができる。また、上通気口25から上空間28を減圧し、下通気口26から下空間29を減圧することにより、上空間28および下空間29を真空状態にする(
図7(B)を参照)。
【0050】
この状態でテーブル24を上昇させ、軟化されたセンサ部4に接着層8を介して半円筒形支柱11を押し込むことにより、センサ部4は三次元形状である半円筒形支柱11の形状に変形し、支柱2の内側側壁面に貼着されていく(
図7(C)を参照)。そして、加圧通気口27から上空間28に空気を導入して加圧することにより、軟化されたセンサ部4を半円筒形支柱11にさらに密着させる(
図7(D)を参照)。これにより、センサ部4は、半円筒形支柱11の形状を正確に再現した形状、すなわち支柱2の内側側壁面に沿って貼着された三次元成形物となる。なお、前記第1の実施形態において説明したように、電極3にスリット9が形成されてもよい。
【0051】
また、本実施形態においては、一例として、真空圧空成形機による真空圧空成形により三次元成形物を得ることとしたが、これに限るものではなく、真空成形機による真空成形により三次元成形物を得ることとしてもよい。
【0052】
図8は、真空成形機による真空成形の各工程の一例を示す模式図である。真空成形機30による真空成形においては、ボックス31上部の開口部にセットされたセンサ部4(電極印刷面に接着層8(
図8には図示しない)を塗布(又は接着フィルムを貼付)した状態で当該電極印刷面を下に向けて固定)をIRヒーター32で上から加熱してプラスチックシート6を軟化させる(
図8(A)を参照)。このとき、プラスチックシート6を介して電極3の裏面側には反射ペースト10が印刷されているため、電極3の部分への加熱を抑えることができる。そして、通気口33から空間34を減圧することにより空間34を真空状態にするとともに、テーブル35を上昇させ、軟化されたセンサ部4に、はめ込み治具12に載置された半円筒形支柱11を押し込むことにより、センサ部4は、三次元形状である半円筒形支柱11の形状に変形する(
図8(B)を参照)。これにより、センサ部4は、半円筒形支柱11の形状を再現した形状、すなわち、所望の三次元成形物となる。このとき、半円筒形支柱11のセンサ部4と重ならない部分に真空穴をあけておくことで、センサ部4をより良く変形及び貼着することが可能となる。
【0053】
このように、本実施形態に係る農業用水位センサにおいては、電極3の表面側、又は電極3との間にプラスチックシート6を挟んだ裏面側に熱を反射する反射ペースト10が形成されているため、電極3の熱変形を最小限に抑えて亀裂等の発生を防止しつつ、所望の3次元形状に成形することができる。
【実施例0054】
本発明に係る農業用水位センサについて、以下の実験を行った。
【0055】
(1)電極の伸びと抵抗値の変化
従来手法によりシートに電極を印刷して伸びに対する抵抗値の変化を調べた。その結果を
図9に示す。
図9において、シートの伸びに伴い電極の抵抗値が上昇していくが、50~60%あたりから抵抗値が急激に上昇している。配線を詳細に観察すると元々配線にある凹み部分が急激な抵抗値上昇領域からピンホールになり、これが拡大して断線に至ることがわかった。元々の凹み部分は印刷時の泡によるものと考えられるため、スクリーン版、ペースト粘度を調整することで断線状況が改善された。しかしながら、急激な抵抗値の上昇は50~60%から始まっており、三次元加工時にはこれ以下の伸びに抑えるのが賢明であることが明確となった。
【0056】
上記の実験から、電極の伸びを30%程度に止めるために、第2の実施形態で説明した手法により実際に三次元加工を行った。その結果を
図10に示す。
図10(A)が反射ペーストを用いずに三次元加工した場合の結果であり、
図10(B)が反射ペーストを用いて三次元加工した場合の結果である。
図10(A)では電極が60%程度伸びて明らかに断線が確認され、
図10(B)では30%程度の伸びに抑えることができ断線を防止することができた。
【0057】
(2)プラスチックシートと接着層の組み合わせ
プラスチックシートと接着層との組み合わせについて、長期間(実際には1シーズン)水田に浸漬した場合のセンサの誤差を確認する実験を行った。実際の水位は100mm程度であったため、センサの0~100mmの領域が1シーズン水に浸漬された領域となる。
図11は、水田に浸漬する試験前の状態と試験後の状態における水位に対する水位誤差の結果を示す図である。
図11(A)はエポキシガラス基板の水位センサをPVC(0.2mm)-アクリル系(50μm)で挟み込んだ場合、
図11(B)はエポキシガラス基板の水位センサをPVC(0.2mm)-シリコーン系(125μm)で挟み込んだ場合、
図11(C)はエポキシガラス基板の水位センサを薄膜ガラス(100μm)-OLED用(25μm)で挟み込んだ場合、
図11(D)は樹脂シートで挟み込みなどを行わずエポキシガラス基板そのままの場合の水位に対する水位誤差を示すグラフである。
【0058】
図11(A)、(C)、(D)においては、水田で水に浸かっていた領域での誤差が大きく出ている。また、
図11(A)、(C)、(D)は、センサが水に浸かっていた0~100mmにおける水位誤差と100mm以上における水位誤差との差が大きくなっている。すなわち、1シーズン水に浸かったことで0~100mmの領域におけるセンサ部分が劣化したと判断することができる。これに対して、
図11(B)においては、水に浸かっていた領域の誤差が最も小さく、また0~100mmにおける水位誤差と100mm以上における水位誤差との差があまりない。すなわち、1シーズン水に浸かったことが原因でセンサの劣化が起こりにくいことが明らかとなった。以上の結果から、プラスチックシートとしてPVCを使用し、接着層としてシリコーンを使用するのが望ましいことが明確となった。
【0059】
(3)試作品によるセンシング結果
PVCの筒(円筒状の支柱を長手方向に半分に切断したもの)に印刷電極を形成したPVCをTOM成型機で3D加工しながら円筒状に貼り合わせた支柱が、水位検出が可能かどうか確認した。使用した配線パターンは
図1に示すものを用いた。ここでは
図3に示したような支柱の外側のみでの水位検出を試みた。そのため支柱内部に水が入らないよう支柱の底面はビニルシートを貼ることで内部を中空の状態に維持して水がセンサに一切接触しないように防水した。上部には静電容量値を取得、換算するためのCPU基板を接続した。
図12に試作した農業用水位センサの一部の画像を示す。
図12(A)が試作品の側面画像、
図12(B)が試作品の底面画像、
図12(C)が演算部との接続部の画像である。
【0060】
上記試作品を用いて2mm間隔で水位を変化させたときの、水位対静電容量値(静電容量を電流量からパルスに変換したパルスカウンタ値)のグラフを
図13に示す。各グラフは、それぞれの水位の位置に設置された電極ごとの測定結果を示している。この結果から、静電容量から計算されたカウント値を水位レベルに落とし込めば水位検出が可能であることが確認された。
【0061】
以上の実験結果から、本発明に係る農業用水位センサが長期間に亘って高精度なセンシングを行うことが可能であり、且つ中空の円筒状の支柱を用いることでメンテナンス性を向上させ、内部に水が浸水しない状態でも正確なセンシングが可能であることが明確となった。