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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023183014
(43)【公開日】2023-12-27
(54)【発明の名称】圃場作業車両
(51)【国際特許分類】
   A01B 69/00 20060101AFI20231220BHJP
【FI】
A01B69/00 303G
A01B69/00 303A
A01B69/00 303M
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022096366
(22)【出願日】2022-06-15
(71)【出願人】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】反甫 透
(72)【発明者】
【氏名】久保田 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】武岡 達
(72)【発明者】
【氏名】川西 大輔
(72)【発明者】
【氏名】辻 俊弥
【テーマコード(参考)】
2B043
【Fターム(参考)】
2B043AA04
2B043AB11
2B043BA02
2B043BA09
2B043DC03
2B043EA08
2B043EA12
2B043EA33
2B043EB05
2B043EB14
2B043EC03
2B043EC13
2B043EC16
2B043ED02
2B043ED03
2B043ED12
2B043ED15
(57)【要約】
【課題】操舵制御部の自動制御状態を保持したまま、更なる制御を実行可能な圃場作業車両を提供すること。
【解決手段】操舵輪5Aと、操舵輪5Aを操舵可能な操舵機構3と、操舵機構3を操作する駆動を可能な操舵駆動装置31と、を有する走行機体と、目標経路GLを設定する経路設定部13と、目標経路GLに沿って走行するように操舵駆動装置31の駆動を制御する自動制御状態と、操舵駆動装置31の駆動を制御しない非制御状態と、に状態変更可能な第一操舵制御部11と、第一操舵制御部11が自動制御状態のときに、自動制御状態を保持したまま、第一操舵制御部11とは別に操舵駆動装置31の駆動を制御可能な第二操舵制御部12と、が備えられている圃場作業車両。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
操舵輪と、前記操舵輪を操舵可能な操舵機構と、前記操舵機構を操作する駆動を可能な操舵駆動装置と、を有する走行機体と、
目標経路を設定する経路設定部と、
前記目標経路に沿って走行するように前記操舵駆動装置の駆動を制御する自動制御状態と、前記操舵駆動装置の駆動を制御しない非制御状態と、に状態変更可能な第一操舵制御部と、
前記第一操舵制御部が前記自動制御状態のときに、前記自動制御状態を保持したまま、前記第一操舵制御部とは別に前記操舵駆動装置の駆動を制御可能な第二操舵制御部と、が備えられている圃場作業車両。
【請求項2】
前記第一操舵制御部は、前記自動制御状態のときに、前記目標経路に沿って走行するように算出された第一目標指令値を前記操舵駆動装置へ出力するように構成され、
前記第二操舵制御部は、前記第一目標指令値に対して予め設定された指令値を加算または減算した第二目標指令値を前記操舵駆動装置へ出力するように構成されている請求項1に記載の圃場作業車両。
【請求項3】
前記操舵駆動装置は電動モータであって、
前記第一目標指令値と前記第二目標指令値との夫々は、電流値である請求項2に記載の圃場作業車両。
【請求項4】
前記第二操舵制御部は、作業装置が前記走行機体に装着されている場合に前記操舵駆動装置の駆動を制御可能に構成され、前記作業装置が前記走行機体に装着されていない場合に前記操舵駆動装置の駆動を制御不能に構成されている請求項1に記載の圃場作業車両。
【請求項5】
前記作業装置が前記走行機体に装着されているか否かを判定する判定部が備えられ、
前記判定部は、前記作業装置を自動的に検出可能に構成されている請求項4に記載の圃場作業車両。
【請求項6】
人為操作を受け付ける入力部と、
前記作業装置が前記走行機体に装着されているか否かを判定する判定部と、が備えられ、
前記判定部は、前記人為操作によって前記入力部に入力された情報に基づいて前記作業装置を検出するように構成されている請求項4に記載の圃場作業車両。
【請求項7】
前記作業装置は、プラウである請求項4から6の何れか一項に記載の圃場作業車両。
【請求項8】
人為操作を受け付ける操作具が備えられ、
前記第一操舵制御部が前記自動制御状態のときに前記操作具が操作される場合、前記第二操舵制御部は前記第一操舵制御部に優先して前記操舵駆動装置の駆動を制御するように構成されている請求項1に記載の圃場作業車両。
【請求項9】
前記第一操舵制御部が前記自動制御状態のときに前記操作具が操作されない場合、前記第二操舵制御部は前記操舵駆動装置の駆動を制御せず、かつ、前記第一操舵制御部は前記操舵駆動装置の駆動を制御するように構成されている請求項8に記載の圃場作業車両。
【請求項10】
前記第二操舵制御部は、前記操作具が予め設定された第一設定時間以上に長く操作されると、前記第一操舵制御部に優先して前記操舵駆動装置の駆動を制御するように構成されている請求項8に記載の圃場作業車両。
【請求項11】
前記操作具が前記第一設定時間よりも長い時間に設定された第二設定時間以上に長く操作されると、前記第二操舵制御部は前記操舵駆動装置の駆動を制御せず、かつ、前記第一操舵制御部は前記操舵駆動装置の駆動を制御するように構成されている請求項10に記載の圃場作業車両。
【請求項12】
前記操作具が前記第一設定時間以下に短く操作されると、前記第二操舵制御部は前記操舵駆動装置の駆動を制御せず、かつ、前記経路設定部は前記目標経路の延び方向を変更することなく前記目標経路を左右一方に変位させるように構成されている請求項10または11に記載の圃場作業車両。
【請求項13】
前記操作具は、第一操作部及び第二操作部を有し、
前記第二操舵制御部は、前記第一操作部が操作されると前記第一操舵制御部の制御に基づく操舵方向に対して前記操舵輪が左右一方に向くように前記操舵駆動装置の駆動を制御し、前記第二操作部が操作されると前記第一操舵制御部の制御に基づく操舵方向に対して前記操舵輪が左右他方に向くように前記操舵駆動装置の駆動を制御する請求項8から11の何れか一項に記載の圃場作業車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圃場作業車両に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1に開示されている圃場作業車両(文献では「作業車」)においては、目標経路(文献では「目標移動経路」)に沿って走行可能な操舵制御部(文献では「操舵制御部」)が備えられている。操舵制御部は、自動制御状態(文献では「自動入りモード」)のときに、目標経路に沿って走行するように操舵駆動装置(文献では「操舵モータ」)の駆動を制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-123804号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に開示された圃場作業車両においては、操舵制御部は、目標経路に沿って走行するように操舵駆動装置の駆動を制御しているが、操舵制御部の制御だけでは目標経路に沿う走行が適切に行われない場合も考えられる。このような場合には、操舵制御部の制御以外にも操舵駆動装置の駆動を制御する手段が必要と考えられるが、特許文献1に開示された圃場作業車両であると、操舵制御部を一旦非制御状態(文献では「自動切りモード」)に状態変更して操舵駆動装置の駆動を手動で制御する必要がある。このため、操舵制御部を自動制御状態に復帰させるために、オペレータは煩わしい作業を強いられる。
【0005】
本発明は、操舵制御部の自動制御状態を保持したまま、更なる制御を実行可能な圃場作業車両を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明による圃場作業車両は、操舵輪と、前記操舵輪を操舵可能な操舵機構と、前記操舵機構を操作する駆動を可能な操舵駆動装置と、を有する走行機体と、目標経路を設定する経路設定部と、前記目標経路に沿って走行するように前記操舵駆動装置の駆動を制御する自動制御状態と、前記操舵駆動装置の駆動を制御しない非制御状態と、に状態変更可能な第一操舵制御部と、前記第一操舵制御部が前記自動制御状態のときに、前記自動制御状態を保持したまま、前記第一操舵制御部とは別に前記操舵駆動装置の駆動を制御可能な第二操舵制御部と、が備えられていることを特徴とする。
【0007】
本発明によると、目標経路に沿って走行するように操舵駆動装置の駆動を制御可能な第一操舵制御部に加えて、第二操舵制御部が備えられている。第二操舵制御部は、第一操舵制御部の自動制御状態を保持したまま、第一操舵制御部とは別に操舵駆動装置の駆動を制御可能なように構成されている。このため、第一操舵制御部の制御だけでは目標経路に沿う走行が適切に行われない場合であっても、第二操舵制御部は、必要に応じて別途操舵駆動装置の駆動を制御できる。このとき、第一操舵制御部の自動制御状態が保持されているため、第二操舵制御部の制御に基づいて圃場作業車両が適切に目標経路に沿って走行する状態に戻ったら、そのまま自動制御状態に基づく第一操舵制御部の制御を続行できる。このように、本発明であれば、操舵制御部の自動制御状態を保持したまま、更なる制御を実行可能な圃場作業車両が実現される。
【0008】
本発明において、前記第一操舵制御部は、前記自動制御状態のときに、前記目標経路に沿って走行するように算出された第一目標指令値を前記操舵駆動装置へ出力するように構成され、前記第二操舵制御部は、前記第一目標指令値に対して予め設定された指令値を加算または減算した第二目標指令値を前記操舵駆動装置へ出力するように構成されていると好適である。
【0009】
本構成によると、第一操舵制御部が操舵駆動装置に対して目標指令値を出力する構成である。このため、第二操舵制御部は、第一操舵制御部が出力した目標指令値を基準に加算または減算した目標指令値を算出するだけで、必要に応じて操舵駆動装置を制御できる。
【0010】
本発明において、前記操舵駆動装置は電動モータであって、前記第一目標指令値と前記第二目標指令値との夫々は、電流値であると好適である。
【0011】
本構成であれば、操舵駆動装置が電動モータであって、第一操舵制御部が電動モータに対して目標指令値として電流値を出力する構成である。このため、第二操舵制御部は、第一操舵制御部が出力した電流値を基準に加算または減算した電流値を算出するだけで、必要に応じて電動モータを制御できる。
【0012】
本発明において、前記第二操舵制御部は、作業装置が前記走行機体に装着されている場合に前記操舵駆動装置の駆動を制御可能に構成され、前記作業装置が前記走行機体に装着されていない場合に前記操舵駆動装置の駆動を制御不能に構成されていると好適である。
【0013】
作業装置の作業に起因して、第一操舵制御部の制御だけでは目標経路に沿う走行が適切に行われないことが考えられる。本構成であれば、第二操舵制御部による制御が、作業装置の装着時のみに可能な構成となる。これにより、第二操舵制御部による制御を必要な場面に限定することが可能となる。また、不必要な場面で不意に第二操舵制御部による制御が行われることによって、操舵制御が不安定になる虞が回避される。
【0014】
本発明において、前記作業装置が前記走行機体に装着されているか否かを判定する判定部が備えられ、前記判定部は、前記作業装置を自動的に検出可能に構成されていると好適である。
【0015】
本構成によって、作業装置が走行機体に装着されている場合に第二操舵制御部の制御を可能とし、作業装置が走行機体に装着されていない場合に第二操舵制御部の制御を不能とする構成が、作業装置の自動検出によって容易に実現される。
【0016】
本発明において、人為操作を受け付ける入力部と、前記作業装置が前記走行機体に装着されているか否かを判定する判定部と、が備えられ、前記判定部は、前記人為操作によって前記入力部に入力された情報に基づいて前記作業装置を検出するように構成されていると好適である。
【0017】
本構成によって、作業装置が走行機体に装着されている場合に第二操舵制御部の制御を可能とし、作業装置が走行機体に装着されていない場合に第二操舵制御部の制御を不能とする構成が、入力部に対する人為操作だけで容易に実現される。
【0018】
本発明において、前記作業装置は、プラウであると好適である。
【0019】
作業装置がプラウである場合、プラウが圃場面を耕起する際に、プラウが圃場作業車両の進行方向に対して左右一方向への反力を圃場面から受ける。このため、圃場作業車両は左右方向にスリップしがちである。本構成であれば、第一操舵制御部の制御だけでは目標経路に沿う走行が適切に行われない場合であっても、第二操舵制御部は、例えば当該スリップに対応した制御を必要に応じて行える。
【0020】
本発明において、人為操作を受け付ける操作具が備えられ、前記第一操舵制御部が前記自動制御状態のときに前記操作具が操作される場合、前記第二操舵制御部は前記第一操舵制御部に優先して前記操舵駆動装置の駆動を制御するように構成されていると好適である。
【0021】
本構成であれば、オペレータが第二操舵制御部による制御が必要と判断したときに、操作具を操作するだけで、第二操舵制御部による制御が実現される。これにより、オペレータは、第一操舵制御部の自動制御状態を保持したまま、別途必要な制御を手軽に行える。
【0022】
本発明において、前記第一操舵制御部が前記自動制御状態のときに前記操作具が操作されない場合、前記第二操舵制御部は前記操舵駆動装置の駆動を制御せず、かつ、前記第一操舵制御部は前記操舵駆動装置の駆動を制御するように構成されていると好適である。
【0023】
本構成であれば、オペレータが第二操舵制御部による制御が必要ないと判断したときに、操作具を操作しなければ、そのまま第一操舵制御部による制御が行われる。これにより、不必要な場面で不意に第二操舵制御部による制御が行われることによって、操舵制御が不安定になる虞が回避される。
【0024】
本発明において、前記第二操舵制御部は、前記操作具が予め設定された第一設定時間以上に長く操作されると、前記第一操舵制御部に優先して前記操舵駆動装置の駆動を制御するように構成されていると好適である。
【0025】
本構成であれば、オペレータが第一設定時間以上に操作具を長押しすると、第二操舵制御部による制御が行われる。このため、第二操舵制御部による制御を行うか否かに関して、オペレータによる操作具の長押しという意思確認が可能となる。
【0026】
本発明において、前記操作具が前記第一設定時間よりも長い時間に設定された第二設定時間以上に長く操作されると、前記第二操舵制御部は前記操舵駆動装置の駆動を制御せず、かつ、前記第一操舵制御部は前記操舵駆動装置の駆動を制御するように構成されていると好適である。
【0027】
操作具が長く押されて第二操舵制御部による制御が長く行われると、圃場作業車両が過度に旋回し、操舵制御が不安定になる虞が考えられる。本構成であれば、操作具が第二設定時間以上に長く操作されると、第二操舵制御部の制御が終了する。これにより、操舵制御が不安定になる虞が軽減される。
【0028】
本発明において、前記操作具が前記第一設定時間以下に短く操作されると、前記第二操舵制御部は前記操舵駆動装置の駆動を制御せず、かつ、前記経路設定部は前記目標経路の延び方向を変更することなく前記目標経路を左右一方に変位させるように構成されていると好適である。
【0029】
本構成によって、操作具が、目標経路の変位と、第二操舵制御部による制御と、に対する夫々の操作具として兼用される。
【0030】
本発明において、前記操作具は、第一操作部及び第二操作部を有し、前記第二操舵制御部は、前記第一操作部が操作されると前記第一操舵制御部の制御に基づく操舵方向に対して前記操舵輪が左右一方に向くように前記操舵駆動装置の駆動を制御し、前記第二操作部が操作されると前記第一操舵制御部の制御に基づく操舵方向に対して前記操舵輪が左右他方に向くように前記操舵駆動装置の駆動を制御すると好適である。
【0031】
本構成であれば、オペレータが操舵方向を左右何れかに調整したい場合に、オペレータが第一操作部と第二操作部との何れかを操作することによって、圃場作業車両の進行方向を素早く調整できる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】操舵制御装置を示すブロック図である。
図2】左操作ボタンが操作されたときの処理を示すフローチャート図である。
図3】第二操舵制御部による左旋回用の電流値加算処理を説明する図である。
図4】右操作ボタンが操作されたときの処理を示すフローチャート図である。
図5】第二操舵制御部による右旋回用の電流値加算処理を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
〔操舵制御装置の基本構成〕
図1に基づいて、圃場作業車両に搭載される操舵制御装置1に関して説明する。操舵制御装置1は、マイクロコンピュータ等の物理的な装置であっても良いし、装置とソフトウェアとの組み合わせであっても良い。図示はしないが、操舵制御装置1は記憶装置を備える。この記憶装置は、例えば、不揮発性のメモリ(例えばフラッシュメモリ)やEEPROM等のROMである。当該記憶装置は、操舵制御装置1における各機能部が生成するデータを一次的または恒常的に記憶する。
【0034】
操舵制御装置1に、第一操舵制御部11と、第二操舵制御部12と、経路設定部13と、判定部14と、が備えられている。経路設定部13は、圃場における作業走行の目標となる目標経路GLを設定する。作業走行とは、走行しながら、走行機体に装着された作業装置で圃場に対する作業を行うことを意味する。本実施形態において、目標経路GLは、図3及び図5に示すような直線状の経路である。なお、目標経路GLは、カーブを含む経路であっても良い。
【0035】
第一操舵制御部11に、電流センサ32からの検出値と、操舵角算出部34からの算出値と、航法測位装置35からの測位信号と、慣性計測装置36からの検出値と、が入力される。また、第一操舵制御部11から電動モータ31へ目標電流値(目標指令値)が出力される。電動モータ31は、操舵用のアクチュエータの一例であって、本発明の『操舵駆動装置』に相当する。第一操舵制御部11から電動モータ31へ出力される目標電流値を、本実施形態では『第一目標電流値』と称する。第一目標電流値は、本発明の『第一目標指令値』の一例である。第二操舵制御部12に関しては後述する。
【0036】
電動モータ31は操舵機構3と連動連結され、電動モータ31が駆動すると、操舵機構3が駆動される。また、操舵機構3にステアリングホイール3Aが備えられ、ステアリングホイール3Aはオペレータの操舵操作を受け付ける。
【0037】
電流センサ32は、電動モータ31における実際の電流値を検出する。モータエンコーダ33は、電動モータ31の回転角度を検出する。モータエンコーダ33は、例えば電動モータ31の回転角度を-10800度~+10800度の範囲で検出可能に構成されている。モータエンコーダ33は、例えばレゾルバ式エンコーダであっても良いし、光学式エンコーダであっても良い。
【0038】
操舵角算出部34は、モータエンコーダ33の検出値に基づいて、圃場作業車両における操舵輪5A(車輪、クローラ等)の操舵角速度を算出するように構成されている。加えて、操舵角算出部34は、モータエンコーダ33の検出値の単位時間当たりの変化量に基づいて、圃場作業車両における操舵輪5Aの操舵角速度を算出するように構成されている。操舵輪5Aの操舵角速度とは、操舵輪5Aの向き(操舵輪5Aの切れ角)が変化する速さを意味する。操舵角速度が大きくなるほど、操舵輪5Aの切れ角は急峻に変化する。
【0039】
航法測位装置35は、GNSS(グローバル・サテライト・ナビゲーション・システム、例えばGPS、GLONASS、Galileo、QZSS、BeiDou、等)で用いられる人工衛星(不図示)からの測位信号を受信する。本実施形態では、航法測位装置35は、DGPS(Differential GPS:相対測位方式)を利用したものであるが、RTK-GPS(Real Time Kinematic GPS:干渉測位方式)を用いることも可能である。
【0040】
慣性計測装置36は、例えばジャイロ加速度センサや磁気方位センサであって、圃場作業車両のヨー角度の角速度、及び、互いに直交する3軸方向の加速度を経時的に検知する。慣性計測装置36は、角速度を積分することによって圃場作業車両の方位変化角を算出できる。このことから、慣性計測装置36によって計測される計測データに、圃場作業車両の方位(向き)を示すデータが含まれている。詳述はしないが、慣性計測装置36は、圃場作業車両の旋回角度の角速度の他、圃場作業車両の左右傾斜角度、及び、圃場作業車両の前後傾斜角度の角速度等も計測可能である。このように、慣性計測装置36は、圃場作業車の車体の向きを検出する。
【0041】
第一操舵制御部11は、航法測位装置35によって出力された測位データに基づいて、圃場作業車両の位置座標を経時的に算出する。これにより、第一操舵制御部11は、圃場作業車両の位置座標を取得する。更に第一操舵制御部11は、圃場作業車両の位置座標と、慣性計測装置36による検出値と、に基づいて圃場作業車両の姿勢方位を算出する。なお、圃場作業車両の姿勢方位とは、圃場作業車両が直進しながら前進または後退する方位である。
【0042】
図3に基づいて説明すると、まず、圃場作業車両の一例であるトラクタ5の走行中に、現在のトラクタ5の位置座標、及び、直前に走行していた地点におけるトラクタ5の位置座標に基づいて、第一操舵制御部11は、初期姿勢方位を算出する。次に、初期姿勢方位が算出されてからトラクタ5が一定時間走行すると、第一操舵制御部11は、その一定時間の走行の間に慣性計測装置36によって検知された角速度を積分処理することによって、方位の変化量を算出する。
【0043】
そして、このように算出された方位の変化量を初期姿勢方位に足し合わせることによって、第一操舵制御部11は、方位の算出結果を更新する。その後、一定時間毎に、姿勢方位の変化量が同様に算出されるとともに、順次、姿勢方位の算出結果が更新されていく。以上の構成によって、第一操舵制御部11は、トラクタ5の方位を算出する。
【0044】
図1に示す操舵機構3は、図3に示す形態においては、トラクタ5の操舵輪5Aを操舵するための機構である。第一操舵制御部11は、操舵機構3を制御して、トラクタ5を、目標経路GLに沿って自動的に走行させる自動操舵を実行可能なように構成されている。第一操舵制御部11の操舵機構3に対する制御手法として、例えば公知のPID制御が用いられる。
【0045】
第一操舵制御部11は、操舵機構3を制御するための複数の制御モードを有する。この制御モードは、自動操舵が実行されないモードである手動操舵モードと、自動操舵を実行可能なモードである自動操舵モードと、を含む複数のモードの間で切り替え可能である。この制御モードは、手動操作(人為操作)によって切り替え可能に構成されても良いし、自動的に切り替え可能に構成されても良い。なお、第一操舵制御部11の制御モードが自動操舵モードのときに、オペレータがステアリングホイール3Aを操作すると、第一操舵制御部11の制御モードは手動操舵モードへ切り替わる。
【0046】
第一操舵制御部11の制御モードが手動操舵モードであるとき、第一操舵制御部11は電動モータ31へ第一目標電流値を出力しない。このとき、圃場作業車両の車輪やクローラは、操舵機構3におけるステアリングホイール3Aの手動操作に応じて操舵される。このため、第一操舵制御部11の制御モードが手動操舵モードであるとき、第一操舵制御部11の状態は、自動操舵を行わない非制御状態である。
【0047】
第一操舵制御部11の制御モードが自動操舵モードであるとき、第一操舵制御部11は、航法測位装置35によって出力された測位データと、慣性計測装置36による検出値と、に基づいて、圃場作業車両が目標経路GLに沿って自動操舵走行を行うように、圃場作業車両を操舵制御可能に構成されている。
【0048】
第一操舵制御部11の制御モードが自動操舵モードであるとき、第一操舵制御部11の状態は、自動操舵を行う自動制御状態である。このため、第一操舵制御部11は、自動制御状態のときに、圃場作業車両が目標経路GLに沿って走行するための第一目標電流値を電動モータ31へ出力する。
【0049】
このように、操舵制御装置1は、自動操舵を行わない非制御状態と自動操舵を行う自動制御状態とに状態変更可能に構成されている。
【0050】
〔第二操舵制御部の制御について〕
上述したように、第一操舵制御部11は、自動制御状態のときに、圃場作業車両が目標経路GLに沿って走行するための第一目標電流値を電動モータ31へ出力する。しかし、トラクタ5の操舵輪5A等がスリップすると、トラクタ5の進行方向が意に反して大きく変化する虞が考えられる。特に、作業装置がプラウ6(図3及び図5参照)である場合、プラウ6が圃場面を耕起する際に、プラウ6がトラクタ5の進行方向に対して左右一方向への反力を圃場面から受ける。このため、トラクタ5は左右方向にスリップしがちである。また、第一操舵制御部11が第一目標電流値を電動モータ31へ出力する際に、トラクタ5の急旋回を防止するために、第一操舵制御部11の制御ゲインは緩やかに設定されがちである。この状態で、例えばトラクタ5の操舵輪5A等が既耕土A1(図3及び図5参照)の溝に嵌ると、第一操舵制御部11の自動操舵だけでは復帰に手間取る虞がある。
【0051】
このような不都合を回避するため、操舵輪5A等が既耕土A1の溝に嵌る前に、オペレータがステアリングホイール3Aを操作してトラクタ5を目標経路GL上に復帰させることが考えられる。しかし、上述したように、第一操舵制御部11が自動制御状態のときにオペレータがステアリングホイール3Aを操作すると、第一操舵制御部11が自動制御状態から非制御状態へ状態変更する。こうなると、オペレータは、第一操舵制御部11の状態を自動制御状態へ復帰させるために、面倒な作業を強いられる。
【0052】
このような問題を解決するため、本実施形態では、第二操舵制御部12は、第一操舵制御部11が自動制御状態のときに、第一操舵制御部11の自動制御状態を保持したまま、第一操舵制御部11とは別に電動モータ31の駆動を制御可能に構成されている。
【0053】
第二操舵制御部12は、第一操舵制御部11から出力される第一目標電流値に対して予め設定された電流値の加算または減算を可能に構成されている。第一操舵制御部11から出力される第一目標電流値に対して加算または減算した目標電流値を、本実施形態では『第二目標電流値』と称する。第二目標電流値は、本発明の『第二目標指令値』の一例である。第二操舵制御部12に、判定部14の判定結果と、操作具38からの信号と、が入力される。
【0054】
判定部14に、入力部37からの入力信号が入力される。トラクタ5の走行機体の後部に、三点リンク機構(不図示)が備えられている。入力部37は、三点リンク機構に装着される作業装置に関する情報の入力を受け付け可能に構成されている。判定部14は、入力部37に入力された情報に基づいて、作業装置がトラクタ5の走行機体に装着されているか否かを判定するように構成されている。
【0055】
入力部37は、例えばISOBUS規格(国際標準規格ISO11783)に基づく通信ポートであっても良い。この場合、判定部14は、作業装置を自動的に検出可能に構成される。
【0056】
また、入力部37は、例えばトラクタ5に装着されたタッチパネル式の操作画面表示装置であって、オペレータが当該操作画面表示装置を操作して作業装置の種類を入力する構成であっても良い。この場合、判定部14は、人為操作によって入力部37に入力された情報に基づいて作業装置を検出するように構成される。
【0057】
操作具38に左操作ボタン38Lと右操作ボタン38Rとが備えられている。左操作ボタン38Lと右操作ボタン38Rとの夫々は、例えば、中立位置に付勢されたシーソー式の押しボタンスイッチである。第二操舵制御部12が第二目標電流値を出力するための条件に、左操作ボタン38Lまたは右操作ボタン38Rが操作されることが含まれる。即ち、第一操舵制御部11が自動制御状態のときに左操作ボタン38Lと右操作ボタン38Rとの少なくとも一方が操作される場合、第二操舵制御部12は第一操舵制御部11に優先して電動モータ31の駆動を制御するように構成されている。換言すると、第一操舵制御部11が自動制御状態のときに左操作ボタン38Lと右操作ボタン38Rとの何れも操作されない場合、第二操舵制御部12は電動モータ31の駆動を制御せず、かつ、第一操舵制御部11は電動モータ31の駆動を制御するように構成されている。左操作ボタン38Lは、本発明の『第一操作部』の一例である。右操作ボタン38Rは、本発明の『第二操作部』の一例である。
【0058】
第二操舵制御部12は、図2及び図4に示すフローチャートの処理に基づいて、第二目標電流値を電動モータ31へ出力する。図2は、左操作ボタン38Lが操作された際のフローチャートを示す。図4は、右操作ボタン38Rが操作された際のフローチャートを示す。
【0059】
図2のフローチャートに基づいて説明する。オペレータが左操作ボタン38Lを押すと、まず、操舵制御装置1は、第一操舵制御部11が自動制御状態であるか否かを判定する(ステップ#01)。第一操舵制御部11が非制御状態(手動操舵モード)であれば(ステップ#01:No)、図2のフローチャートに基づく処理は、そのまま終了する。そして、第一操舵制御部11は、継続して第一目標電流値を電動モータ31へ出力する。
【0060】
第一操舵制御部11が自動制御状態(自動操舵モード)であれば(ステップ#01:Yes)、操舵制御装置1は、左操作ボタン38Lが0.5秒以上連続で押されているか否かを判定する(ステップ#02)。左操作ボタン38Lが0.5秒以上連続で押されていなければ(ステップ#02:No)、操舵制御装置1は、左操作ボタン38Lが押されなくなったか否かを判定する(ステップ#03)。0.5秒は、本発明の『第一設定時間』の一例である。
【0061】
左操作ボタン38Lが0.5秒未満の時間内に押されなくなると(ステップ#03:Yes)、経路設定部13は、目標経路GLの延び方向を変更することなく、目標経路GLを、例えば5~10センチメートルだけ左方に変位させる(ステップ#04)。航法測位装置35が上述のDGPSを利用するものである場合、測位誤差が時間の経過とともに大きくなり、目標経路GLが測位誤差の分だけ右方にずれることが考えられる。ステップ#04において経路設定部13が目標経路GLを左方にずらすことによって、目標経路GLの左右方向における位置ズレが解消される。このように、左操作ボタン38Lが0.5秒未満に短く操作されると、第二操舵制御部12は電動モータ31の駆動を制御せず、かつ、経路設定部13は目標経路GLの延び方向を変更することなく目標経路GLを左方に変位させるように構成されている。そして、図2のフローチャートに基づく処理は、そのまま終了し、第一操舵制御部11は、継続して第一目標電流値を電動モータ31へ出力する。
【0062】
左操作ボタン38Lが0.5秒以上連続で押されていない状態で(ステップ#02:No)、左操作ボタン38Lが押され続けていれば(ステップ#03:No)、ステップ#02とステップ#03との処理が繰り返される。
【0063】
左操作ボタン38Lが0.5秒以上連続で押され続けていると(ステップ#02:Yes)、操舵制御装置1は、判定部14の判定結果に基づいて、トラクタ5の走行機体にプラウ6が装着されているか否かを判定する(ステップ#05)。トラクタ5の走行機体にプラウ6が装着されていなければ(ステップ#05:No)、図2のフローチャートに基づく処理は、そのまま終了する。そして、第一操舵制御部11は、継続して第一目標電流値を電動モータ31へ出力する。即ち、第二操舵制御部12は、プラウ6がトラクタ5の走行機体に装着されている場合に電動モータ31の駆動を制御可能に構成され、プラウ6がトラクタ5の走行機体に装着されていない場合に電動モータ31の駆動を制御不能に構成されている。
【0064】
トラクタ5の走行機体にプラウ6が装着されていれば(ステップ#05:Yes)、操舵制御装置1は、左操作ボタン38Lが3秒以上連続で押され続けているか否かを判定する(ステップ#06)。左操作ボタン38Lが3秒以上連続で押され続けていなければ(ステップ#06:No)、第二操舵制御部12は、左旋回用の電流値加算処理を実行する(ステップ#07)。ステップ#07において第二操舵制御部12は、第一操舵制御部11に優先して第二目標電流値を電動モータ31へ出力する。このとき、第一操舵制御部11は第一目標電流値を電動モータ31へ出力せず、第二目標電流値のみが電動モータ31へ出力される。即ち、第二操舵制御部12は、左操作ボタン38Lが0.5秒以上に長く操作されると、第一操舵制御部11に優先して電動モータ31の駆動を制御するように構成されている。このとき、第二操舵制御部12は、第一操舵制御部11の制御に基づく操舵方向に対して操舵輪5Aが左方に向くように電動モータ31の駆動を制御する。なお、『左旋回用の電流値加算処理』に関しては、右旋回側を加算と定義し、左旋回側を減算と定義した場合には、『電流値加算処理』を『電流値減算処理』と言い換えても良い。
【0065】
図3に、トラクタ5が前進しながらプラウ6が圃場面を耕起する様子を示している。図3に示す例では、プラウ6が耕起した後の圃場面を既耕土A1として示し、プラウ6が耕起する前の圃場面を未耕土A2として示している。第一操舵制御部11は、トラクタ5が目標経路GLに沿って走行するように、第一目標電流値を電動モータ31へ出力している。しかし、上述したように、プラウ6は左右一方向への反力を圃場面から受けるため、図3に示す例では、走行軌跡FPで示すように、トラクタ5が右方向(既耕土A1の位置する側)にスリップしている。そして、オペレータが地点P1において左操作ボタン38Lを操作し、第二操舵制御部12が左旋回用の電流値加算処理を実行する。これにより、トラクタ5の操舵輪5Aが更に左方へ操舵され、第一操舵制御部11の制御ゲインが緩やかに設定されている場合であっても、目標経路GLに沿う方向に素早く復帰可能となる。
【0066】
左操作ボタン38Lが押されなくなると(ステップ#08:Yes)、図2のフローチャートに基づく処理は、そのまま終了する。そして、再度、第一操舵制御部11が第一目標電流値を電動モータ31へ出力する。左操作ボタン38Lが押されてから3秒経過していない状態で、左操作ボタン38Lが押され続けると(ステップ#08:No)、ステップ#06とステップ#07とステップ#08とが繰り返される。
【0067】
左操作ボタン38Lが3秒以上連続で押され続けていると(ステップ#06:Yes)、トラクタ5が過度に旋回する虞がある。この場合にも、図2のフローチャートに基づく処理は、そのまま終了する。そして、再度、第一操舵制御部11が第一目標電流値を電動モータ31へ出力する。即ち、左操作ボタン38Lが3秒以上に長く操作されると、第二操舵制御部12は電動モータ31の駆動を制御せず、かつ、第一操舵制御部11は電動モータ31の駆動を制御するように構成されている。3秒は、本発明の『第二設定時間』の一例である。
【0068】
図4のフローチャートは、オペレータが右操作ボタン38Rを操作した場合のフローチャートである。このため、左操作ボタン38Lであるか右操作ボタン38Rであるかの違い、及び、左か右かの違いを除いて、図4のフローチャートに示す各ステップの処理は、図2に示す各ステップの処理と同じである。
【0069】
図4のフローチャートについて補足をすると、ステップ#14において経路設定部13が目標経路GLを、例えば5~10センチメートルだけ右方に変位させる。これにより、例えば目標経路GLが航法測位装置35の測位誤差の分だけ左方にずれる場合に、目標経路GLの左右方向における位置ズレが解消される。このように、右操作ボタン38Rが0.5秒未満に短く操作されると、第二操舵制御部12は電動モータ31の駆動を制御せず、かつ、経路設定部13は目標経路GLの延び方向を変更することなく目標経路GLを右方に変位させるように構成されている。
【0070】
図4のフローチャートについて補足をすると、ステップ#17において第二操舵制御部12は、右旋回用の電流値加算処理を実行する。ステップ#17において第二操舵制御部12は、第一操舵制御部11に優先して第二目標電流値を電動モータ31へ出力する。即ち、第二操舵制御部12は、右操作ボタン38Rが0.5秒以上に長く操作されると、第一操舵制御部11に優先して電動モータ31の駆動を制御するように構成されている。このとき、第二操舵制御部12は、第一操舵制御部11の制御に基づく操舵方向に対して操舵輪5Aが右方に向くように電動モータ31の駆動を制御する。加えて、ステップ#17において、第一操舵制御部11は第一目標電流値を電動モータ31へ出力せず、第二目標電流値のみが電動モータ31へ出力される。また、ステップ#16に示すように、右操作ボタン38Rが3秒以上に長く操作されると、第二操舵制御部12は電動モータ31の駆動を制御せず、かつ、第一操舵制御部11は電動モータ31の駆動を制御するように構成されている。なお、『右旋回用の電流値加算処理』に関しては、左旋回側を加算と定義し、右旋回側を減算と定義した場合には、『電流値加算処理』を『電流値減算処理』と言い換えても良い。
【0071】
図5に、トラクタ5が前進しながらプラウ6が圃場面を耕起する様子を示している。図5に示す例では、プラウ6が耕起した後の圃場面を既耕土A1として示し、プラウ6が耕起する前の圃場面を未耕土A2として示している。図5に示す例では、トラクタ5が目標経路GLに沿って走行するように、第一操舵制御部11が第一目標電流値を電動モータ31へ出力しているが、走行軌跡FPで示すように、トラクタ5は左方向(既耕土A1の位置する側)にスリップしている。このとき、オペレータが地点P1において右操作ボタン38Rを操作し、第二操舵制御部12が右旋回用の電流値加算処理を実行する。これにより、トラクタ5の操舵輪5Aが更に右方へ操舵され、第一操舵制御部11の制御ゲインが緩やかに設定されている場合であっても、目標経路GLに沿う方向に素早く復帰可能となる。
【0072】
このように、例えばトラクタ5がスリップして既耕土A1側の溝に嵌りそうになると、オペレータは、左操作ボタン38Lまたは右操作ボタン38Rを操作することによって、操舵輪5Aを未耕土A2側に操舵する。このことから、例えばトラクタ5がスリップによって目標経路GLから大きく外れそうになる場合であっても、オペレータは、左操作ボタン38Lまたは右操作ボタン38Rを操作することによって、トラクタ5を目標経路GL上に素早く復帰させられる。
【0073】
また、上述したように、第一操舵制御部11が自動制御状態のときにオペレータがステアリングホイール3Aを操作すると、第一操舵制御部11が自動制御状態から非制御状態へ状態変更する。本実施形態であれば、オペレータが、ステアリングホイール3Aを操作せずに、左操作ボタン38Lまたは右操作ボタン38Rを操作するだけで、トラクタ5を目標経路GL上に素早く復帰させられる。そして、第一操舵制御部11の自動制御状態がそのまま継続し、トラクタ5が目標経路GLに沿って走行する。
【0074】
更に、図2及び図4に示すように、本実施形態では、操作具38が、目標経路GLの変位と、第二操舵制御部12による制御と、の夫々に兼用される。
【0075】
〔別実施形態〕
本発明は、上述の実施形態に例示された構成に限定されるものではなく、以下、本発明の代表的な別実施形態を例示する。
【0076】
(1)本発明の『操舵駆動装置』として、電動モータ31が示されている。操舵駆動装置は、電動モータ31に例示される電動アクチュエータに限定されず、例えば油圧モータや油圧シリンダ等の油圧アクチュエータであっても良いし、ハイブリッドアクチュエータであっても良い。ハイブリッドアクチュエータは、例えば電動サーボモータで油圧ポンプを駆動する油圧アクチュエータ等である。操舵駆動装置が油圧モータや油圧シリンダ等である場合、本発明の目標指令値(第一目標指令値及び第二目標指令値)に、例えば油圧モータや油圧シリンダ等に対する油圧バルブの開度が含まれても良い。この場合、第一目標指令値及び第二目標指令値は、油圧バルブの開度に関する指令値である。つまり、第一操舵制御部11は、自動制御状態のときに、目標経路GLに沿って走行するように算出された第一目標指令値を操舵駆動装置へ出力するように構成され、第二操舵制御部12は、第一目標指令値に対して予め設定された指令値を加算または減算した第二目標指令値を操舵駆動装置へ出力するように構成されて良い。
【0077】
(2)上述の実施形態において、第一設定時間が0.5秒に設定され、第二設定時間が3秒に設定されている。この実施形態に限定されず、第一設定時間及び第二設定時間は適宜設定変更可能である。
【0078】
(3)左操作ボタン38Lと右操作ボタン38Rとの夫々は、例えばレバーであっても良いし、タッチパネル式の操作画面表示装置に表示されたソフトボタンであっても良い。また、右操作ボタン38Rが第一操作部であっても良く、左操作ボタン38Lが第二操作部であっても良い。要するに、第二操舵制御部12は、第一操作部が操作されると第一操舵制御部11の制御に基づく操舵方向に対して操舵輪5Aが左右一方に向くように電動モータ31(操舵駆動装置)の駆動を制御し、第二操作部が操作されると第一操舵制御部11の制御に基づく操舵方向に対して操舵輪5Aが左右他方に向くように電動モータ31(操舵駆動装置)の駆動を制御する構成であって良い。
【0079】
(4)上述の実施形態においては、操作具38が、目標経路GLの変位と、第二操舵制御部12による制御と、の夫々に兼用される。この実施形態に限定されず、例えば、目標経路GLの変位は、別の操作ボタンの操作によって可能な構成であっても良い。この場合、操作具38が操作されると、第二操舵制御部12は、0.5秒(第一設定時間)の長押しを待たず、直ちに電動モータ31(操舵駆動装置)に第二目標電流値(第二目標指令値)を出力する構成であっても良い。あるいは、操作具38が操作されると、第二操舵制御部12は、オペレータが操作具38を長押しするか否かに関係なく、オペレータが操作具38を押し始めたタイミングから予め設定された一定時間だけ電動モータ31(操舵駆動装置)に第二目標電流値(第二目標指令値)を出力する構成であっても良い。
【0080】
(5)図2及び図4に示した電流値加算処理(ステップ#07,ステップ#17)において。第二操舵制御部12は、第一操舵制御部11に優先して第二目標電流値(第二目標指令値)を電動モータ31(操舵駆動装置)へ出力する。この実施形態に限定されず、第二操舵制御部12は、第一操舵制御部11と並列に電流値を電動モータ31(操舵駆動装置)へ出力する構成であっても良い。この場合、第二目標電流値(第二目標指令値)は、予め設定された加算値または減算値であって良い。そして、第一操舵制御部11によって算出された第一目標電流値(第一目標指令値)と、加算値または減算値である第二目標電流値(第二目標指令値)と、の合計値が電動モータ31(操舵駆動装置)へ出力される構成であっても良い。
【0081】
(6)第一操舵制御部11は、電動モータ31(操舵駆動装置)の駆動を制御する。これに限定されず、例えば、第一操舵制御部11は、トラクタ5の車速も制御する構成であっても良い。圃場作業車両は、自動操舵のみならず、車速の自動制御(作業装置に対する制御と連動した車速制御を含む)、作業装置の自動制御、車両の自動旋回制御、車両の自動停止制御、等が可能な構成であっても良い。作業装置の自動制御に、例えば、作業装置の自動昇降制御、作業装置の角度(ロール角)の自動制御、作業幅の自動制御、作業深さの自動制御、散布量の自動制御、播種量の自動制御、施肥量の自動制御、等が含まれる。
【0082】
(7)上述の実施形態においては、作業装置としてプラウ6を例示した。この実施形態に限定されず、作業装置は、例えば、草刈装置(ブームモア、チョッパー等)、マルチャー、ストーンピッカー、播種装置、レーキ、テッダー、牽引式の収穫選別装置、摘芯装置、中耕管理装置、等であっても良い。
【0083】
(8)上述の実施形態においては、圃場作業車両としてトラクタ5を例示したが、圃場作業車両は、田植機、収穫機、散布機、草刈機、中耕管理機等であっても良い。
【0084】
なお、上述の実施形態(別実施形態を含む、以下同じ)で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することが可能である。また、本明細書において開示された実施形態は例示であって、本発明の実施形態はこれに限定されず、本発明の目的を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明は、圃場作業車両に適用可能である。
【符号の説明】
【0086】
3 :操舵機構
5A :操舵輪
6 :プラウ(作業装置)
11 :第一操舵制御部
12 :第二操舵制御部
13 :経路設定部
14 :判定部
31 :電動モータ(操舵駆動装置)
37 :入力部
38 :操作具
38L :左操作ボタン(第一操作部)
38R :右操作ボタン(第二操作部)
GL :目標経路
図1
図2
図3
図4
図5