(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023183034
(43)【公開日】2023-12-27
(54)【発明の名称】制御回路及び電力変換装置
(51)【国際特許分類】
H02M 3/28 20060101AFI20231220BHJP
【FI】
H02M3/28 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022096401
(22)【出願日】2022-06-15
(71)【出願人】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099933
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 敏
(74)【代理人】
【識別番号】100124028
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 公雄
(74)【代理人】
【識別番号】100078813
【弁理士】
【氏名又は名称】上代 哲司
(74)【代理人】
【識別番号】100094477
【弁理士】
【氏名又は名称】神野 直美
(72)【発明者】
【氏名】加悦 裕幸
(72)【発明者】
【氏名】鵜殿 直嗣
(72)【発明者】
【氏名】梅原 猛
(72)【発明者】
【氏名】初川 聡
【テーマコード(参考)】
5H730
【Fターム(参考)】
5H730AA14
5H730BB27
5H730BB57
5H730DD04
5H730EE04
5H730EE07
5H730EE58
5H730FD01
5H730FD11
5H730FD41
5H730FD51
5H730FG05
(57)【要約】
【課題】実用的な演算負荷で3レベルの電圧制御によるソフトスイッチングが可能な制御回路及び電力変換装置を提供する。
【解決手段】制御回路は、トランス、1次側3レベルブリッジ回路、及び2次側ブリッジ回路を含む電力変換装置を制御するための制御回路であって、与えられる電流指令値と、トランスの状態値とに基づいて、位相差φをフィードバック制御するフィードバック回路と、電流指令値に対し、それぞれの関係式に従って、1次側3レベルブリッジ回路の各スイッチング素子のスイッチングタイミングを定める2つの位相α及びβ、ただし0<α<β<π、を算出するタイミング算出回路と、位相差φと位相α及びβとを用いて1次側3レベルブリッジ回路及び2次側ブリッジ回路のスイッチング素子を制御するPWM信号を生成するPWM信号生成回路とを含む。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トランス、前記トランスの1次側に接続された1次側3レベルブリッジ回路、及び前記トランスの2次側に接続された2次側ブリッジ回路を含み、前記1次側3レベルブリッジ回路が前記トランスに印加する電圧波形の位相と前記2次側ブリッジ回路が前記トランスに印加する波形の電圧波形との位相差φを変化させることにより電力変換を行う電力変換装置を制御するための制御回路であって、
与えられる電流指令値と、前記トランスの状態値とに基づいて、前記位相差φをフィードバック制御するフィードバック回路と、
前記電流指令値に対し、それぞれの関係式に従って、前記1次側3レベルブリッジ回路の各スイッチング素子のスイッチングタイミングを定める2つの位相α及びβ、ただし0<α<β<π、を算出するタイミング算出回路と、
前記位相差φと前記位相α及びβとを用いて前記1次側3レベルブリッジ回路及び前記2次側ブリッジ回路のスイッチング素子を制御するPWM信号を生成するPWM信号生成回路とを含む、制御回路。
【請求項2】
前記タイミング算出回路による前記2つの位相α及びβの算出周期は、前記フィードバック回路によるフィードバックの周期よりも長い、請求項1に記載の制御回路。
【請求項3】
前記関係式は、前記位相α及び前記電流指令値に関する第1の関係式と、前記位相β及び前記電流指令値に関する第2の関係式とを含む、請求項1又は請求項2に記載の制御回路。
【請求項4】
前記第1の関係式は、一定範囲の前記電流指令値に対して前記位相αを一意に定める、前記電流指令値の関数である、請求項3に記載の制御回路。
【請求項5】
前記第1の関係式は、前記位相αを定める、前記一定範囲において前記電流指令値の強い意味での単調減少関数である、請求項4に記載の制御回路。
【請求項6】
前記第2の関係式は、前記一定範囲の前記電流指令値に対して前記位相βを一意に定める、前記電流指令値の関数である、請求項3に記載の制御回路。
【請求項7】
前記第2の関係式は、前記位相βを定める、前記一定範囲において前記電流指令値の強い意味での単調減少関数である、請求項6に記載の制御回路。
【請求項8】
前記1次側3レベルブリッジ回路の各スイッチング素子は第1端子、第2端子及び前記第1端子及び前記第2端子の間の導通を制御する制御端子を持ち、
前記関係式は、前記各スイッチング素子によるスイッチングがソフトスイッチとなるように選ばれている、請求項1又は請求項2に記載の制御回路。
【請求項9】
前記関係式は、前記各スイッチング素子が導通していない状態において前記各スイッチング素子のボディダイオードに流れる電流の向きが、前記第1端子及び前記第2端子にかかる電圧と逆方向となっている間に、前記スイッチング素子が導通するように前記位相α及び前記位相βを定めるように選ばれている、請求項8に記載の制御回路。
【請求項10】
前記1次側3レベルブリッジ回路は、前記トランスへの1次側に、0、±V1/2、及び±V1を印加するように機能し、
前記位相αは、前記トランスの1次側に印加される電圧を、0から前記±V1/2に変化させるタイミングを定め、
位相πから前記位相αを減じた位相は、前記トランスの1次側に印加される電圧を、前記±V1/2から0に変化させるタイミングを定める、請求項1又は請求項2に記載の制御回路。
【請求項11】
前記位相βは、前記トランスの1次側に印加される電圧を、前記±V1/2からそれぞれ±V1に変化させるタイミングを定め、
位相πから前記位相βを減じた位相は、前記トランスの1次側に印加される電圧を前記±V1から前記±V1/2に変化させるタイミングを定める、請求項10に記載の制御回路。
【請求項12】
前記関係式は、前記電流指令値の多項式である、請求項1又は請求項2に記載の制御回路。
【請求項13】
前記関係式は、前記電流指令値の3次以下の多項式である、請求項12に記載の制御回路。
【請求項14】
さらに、電圧指令値と前記トランスの1次側に印加される電圧とに基づいて、前記電流指令値をフィードバックにより生成する電流指令値生成回路を含む、請求項1又は請求項2に記載の制御回路。
【請求項15】
前記2次側ブリッジ回路は、2次側3レベルブリッジ回路を含み、
前記制御回路は、さらに、
前記電流指令値に対し、それぞれの関係式に従って、前記2次側3レベルブリッジ回路の各スイッチング素子のスイッチングタイミングを定める2つの位相γ及びδ、ただし0<γ<δ<π、を算出する2次側タイミング算出回路をさらに含み、
前記PWM信号生成回路は、
前記位相差φと前記位相α及びβとを用いて前記1次側3レベルブリッジ回路のスイッチング素子を制御し、前記位相差φと前記位相γ及びδとを用いて前記2次側3レベルブリッジ回路のスイッチング素子を制御する3レベル-3レベル用PWM信号生成回路とを含む、請求項1又は請求項2に記載の制御回路。
【請求項16】
請求項1又は請求項2に記載の制御回路と、
前記トランスと、
前記制御回路によりスイッチングが制御される半導体スイッチング素子を含む、前記トランスの1次側に接続された前記1次側3レベルブリッジ回路と、
前記トランスの2次側に接続された2次側回路とを含む、電力変換装置。
【請求項17】
請求項15に記載の制御回路と、
前記トランスと、
前記制御回路の前記1次側PWM信号生成回路によりスイッチングが制御される半導体スイッチング素子を含む、前記トランスの1次側に接続された前記1次側3レベルブリッジ回路と、
前記制御回路の前記2次側PWM信号生成回路によりスイッチングが制御される半導体スイッチング素子を含む、前記トランスの2次側に接続された前記2次側3レベルブリッジ回路とを含む、電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この開示は、制御回路及び電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電力変換装置として、トランスの一次側にフルブリッジ回路を使用したDAB(Dual Active Bridge)方式の絶縁コンバータが知られている。こうしたコンバータにおいては、昇圧比を大きい場合、又は伝達電力が小さい場合には、スイッチングがいわゆるハードスイッチングとなり、損失が大きくなることが知られている。
【0003】
こうした問題を解決するための一つの提案が後掲の非特許文献1に開示されている。非特許文献1に開示されている技術は、トランスに印加する電圧を、2レベルではなく3レベルとしたDAB方式のコンバータに関する。非特許文献1によれば、電圧を3レベルとし、パラメータを適切に定めることにより、ハードスイッチングを回避しソフトスイッチングを実現できるとされている。なお以下の説明においては、コンバータの構成を説明する際に、記載を簡潔にすることを目的として、「3レベル」を「3L」と表示し、「2レベル」を「2L」と表示することがある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】A. Filba-Martinez, S. Busquets-Monge, J. Nicolas-Apruzzese and J. Bordonau, "Operating Principle and Performance Optimization of a Three-Level NPC Dual-Active-Bridge DC-DC Converter," in IEEE Transactions on Industrial Electronics, vol. 63, no. 2, pp. 678-690, Feb. 2016.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記非特許文献1に開示された技術は、トランスに印加する3レベルの電圧を生成する。そのために、制御対象となる1次側回路の半導体スイッチング素子の数が増加し、それらを制御するためのパラメータ数も増加する。非特許文献1に開示の技術は、これらのパラメータをフィードバック制御することを提案している。その提案は様々な条件を課した上でフィードバック制御を行っているが、制御対象のパラメータ数が多いことも原因となり、演算負荷が高いという問題がある。その結果、通常の電力変換装置に使用されているマイクロプロセッサの処理能力及び演算速度によっては要求される機能を実現できず実用的でない。
【0006】
この開示は、実用的な演算負荷により3レベルの電圧制御によるソフトスイッチングが可能な制御回路及び電力変換装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この開示の第1の局面に係る制御回路は、トランス、トランスの1次側に接続された1次側3レベルブリッジ回路、及びトランスの2次側に接続された2次側ブリッジ回路を含み、1次側3レベルブリッジ回路がトランスに印加する電圧波形の位相と2次側ブリッジ回路がトランスに印加する波形の電圧波形との位相差φを変化させることにより電力変換を行う電力変換装置を制御するための制御回路であって、与えられる電流指令値と、トランスの状態値とに基づいて、位相差φをフィードバック制御するフィードバック回路と、電流指令値に対し、それぞれの関係式に従って、1次側3レベルブリッジ回路の各スイッチング素子のスイッチングタイミングを定める2つの位相α及びβ、ただし0<α<β<π、を算出するタイミング算出回路と、位相差φと位相α及びβとを用いて1次側3レベルブリッジ回路及び2次側ブリッジ回路のスイッチング素子を制御するPWM(Pulse Width Modulation)信号を生成するPWM信号生成回路とを含む。
【0008】
この開示の第2の局面に係る電力変換装置は、上記制御回路と、トランスと、制御回路によりスイッチングが制御される半導体スイッチング素子を含む、トランスの1次側に接続された1次側3レベルブリッジ回路と、トランスの次側に接続された2次側回路とを含む。
【0009】
この開示の第3の局面に係る電力変換装置は、上記制御回路と、トランスと、制御回路の1次側PWM信号生成回路によりスイッチングが制御される半導体スイッチング素子を含む、トランスの1次側に接続された1次側3レベルブリッジ回路と、制御回路の2次側PWM信号生成回路によりスイッチングが制御される半導体スイッチング素子を含む、トランスの2次側に接続された2次側3レベルブリッジ回路とを含む。
【発明の効果】
【0010】
以上のようにこの開示によると、実用的な演算負荷により3レベルの電圧制御によるソフトスイッチングが可能な制御回路及び電力変換装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、ハードスイッチングによる損失を説明するための図である。
【
図2】
図2は、この開示の第1実施形態に係るDAB方式のコンバータの回路ブロック図である。
【
図3】
図3は、第1実施形態における3レベル制御に関連するパラメータを説明するためのグラフである。
【
図4】
図4は、第1実施形態におけるトランスの1次側電圧、2次側電圧及びトランス電流の変化を示すグラフである。
【
図5】
図5は、第1実施形態における制御回路の構成を示すブロック図である。
【
図6】
図6は、ソフトスイッチングを実現可能な位相差φと変圧比mとの組み合わせ範囲を種々の位相βに対して示したグラフである。
【
図7】
図7は、
図6に示す関係に基づき、位相差φと位相βの組み合わせに対してソフトスイッチングが実現可能な変圧比をプロットした図である。
【
図8】
図8は、位相差φと位相βの組み合わせに対してソフトスイッチングが可能な最大電流値をプロットした図である。
【
図9】
図9は、
図7において所望の変圧比でソフトスイッチングが実現できる領域と、
図8のグラフとを合成した図において、変圧比2.5で所望の範囲の電流を流すことができる位相差φと位相βの組み合わせを示すラインを引いた状態を示す図である。
【
図10】
図10は、
図9に示すラインを電流指令値Iと位相βとの関係としてグラフ化し、さらにそのグラフを3次曲線で近似したグラフを示す図である。
【
図11】
図11は、第2実施形態に係る制御回路の構成を示すブロック図である。
【
図12】
図12は、
図10に示すグラフに基づいて、変圧比を変化させたときの位相βの決定方法を示す図である。
【
図13】
図13は、第3実施形態に係る制御回路の構成を示すブロック図である。
【
図14】
図14は、定電圧制御による制御回路の構成を示すブロック図である。
【
図15】
図15は、本開示による3L-2Lコンバータによりソフトスイッチングを実現できる範囲を従来の2L-2Lコンバータと比較したシミュレーション結果を示す図である。
【
図16】
図16は、2L-2Lコンバータに関するシミュレーションにおけるトランス電圧波形及びトランス電流波形を示す図である。
【
図17】
図17は、2L-2Lコンバータに関するシミュレーションにおけるスイッチング素子のゲート-ソース電圧波形及び電流波形を示す図である。
【
図18】
図18は、この開示に係る3L-2Lコンバータに関するシミュレーションにおけるトランス電圧波形及びトランス電流波形を示す図である。
【
図19】
図19は、この開示に係る3L-2Lコンバータに関するシミュレーションにおけるスイッチング素子のゲート-ソース電圧波形及び電流波形を示す図である。
【
図20】
図20は、この開示の変形例に係る3L-3Lコンバータの回路ブロック図である。
【
図22】
図22は、この開示の他の変形例に係る3L-2Lコンバータの回路ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[本開示の実施形態の説明]
以下の説明及び図面においては、同一の部品には同一の参照番号を付してある。したがって、それらについての詳細な説明は繰返さない。なお、以下の1又は複数の実施形態の任意の特徴を組み合わせてもよい。
【0013】
(1)この開示の第1の局面に係る制御回路は、トランス、トランスの1次側に接続された1次側3レベルブリッジ回路、及びトランスの2次側に接続された2次側ブリッジ回路を含み、1次側3レベルブリッジ回路がトランスに印加する電圧波形の位相と2次側ブリッジ回路がトランスに印加する波形の電圧波形との位相差φを変化させることにより電力変換を行う電力変換装置を制御するための制御回路であって、与えられる電流指令値と、トランスの状態値とに基づいて、位相差φをフィードバック制御するフィードバック回路と、電流指令値に対し、それぞれの関係式に従って、1次側3レベルブリッジ回路の各スイッチング素子のスイッチングタイミングを定める2つの位相α及びβ、ただし0<α<β<π、を算出するタイミング算出回路と、位相差φと位相α及びβとを用いて1次側3レベルブリッジ回路及び2次側ブリッジ回路のスイッチング素子を制御するPWM信号を生成するPWM信号生成回路とを含む。
【0014】
位相α及びβが電流指令値との関係式により算出されるので、制御のための負荷が小さくなる。その結果、実用的な演算負荷により3レベルの電圧制御によるソフトスイッチングが可能な制御回路を提供できる。
【0015】
(2)上記(1)において、タイミング算出回路による2つの位相α及びβの算出周期は、フィードバック回路によるフィードバックの周期よりも長い。
【0016】
位相α及びβの算出周期を長くできるので、さらに制御のための負荷が小さくなる。
【0017】
(3)上記(1)又は(2)において、関係式は、位相α及び電流指令値に関する第1の関係式と、位相β及び電流指令値に関する第2の関係式とを含んでもよい。
【0018】
位相αと位相βとを電流指令値に関する別々の関係式により算出する。その結果、これら位相を簡単に、かつ互いに独立に算出でき、制御の負荷がより小さくなる。
【0019】
(4)上記(3)において、第1の関係式は、一定範囲の電流指令値に対して位相αを一意に定める、電流指令値の関数であってもよい。
【0020】
位相αが一意に定められるので、制御が簡単になる。
【0021】
(5)上記(4)において、第1の関係式は、位相αを定める、一定範囲において電流指令値の強い意味での単調減少関数であってもよい。
【0022】
強い意味での単調減少関数により位相αと電流指令値との関係が1対1に定められる。その結果、位相αが簡単な計算により一意に求められ、制御が簡単になるという効果がある。
【0023】
(6)上記(3)から(5)のいずれか1つにおいて、第2の関係式は、一定範囲の電流指令値に対して位相βを一意に定める、電流指令値の関数であってもよい。
【0024】
位相βが一意に定められるので、制御が簡単になる。
【0025】
(7)上記(6)において、第2の関係式は、位相βを定める、一定範囲において電流指令値の強い意味での単調減少関数であってもよい。
【0026】
こうすることにより、電流指令値と位相βとの関係が1対1対応に定められる。その結果、位相βが簡単な計算により一意に求められ、制御が簡単になるという効果がある。
【0027】
(8)上記(1)から(7)のいずれか1つにおいて、1次側3レベルブリッジ回路の各スイッチング素子は第1端子、第2端子及び第1端子及び第2端子の間の導通を制御する制御端子を持ち、関係式は、各スイッチング素子によるスイッチングがソフトスイッチとなるように選ばれていてもよい。
【0028】
スイッチング素子によるスイッチングがソフトスイッチングとなることにより、スイッチング素子による電力損失の発生が防止できる。
【0029】
(9)上記(8)において、関係式は、各スイッチング素子が導通していない状態において各スイッチング素子のボディダイオードに流れる電流の向きが、第1端子及び第2端子にかかる電圧と逆方向となっている間に、スイッチング素子が導通するように位相α及び位相βを定めるように選ばれていてもよい。
【0030】
スイッチング素子がオンされるときに、スイッチング素子のボディダイオードに流れる電流の向きが電圧と逆方向となる。そのため、スイッチング素子がオンしたときには電力損失が発生せず、電力変換回路の効率を高めることができる。
【0031】
(10)上記(1)から(9)のいずれか1つにおいて、1次側3レベルブリッジ回路は、トランスへの1次側に、0、±V1/2、及び±V1を印加するように機能してもよく、位相αは、トランスの1次側に印加される電圧を、0から±V1/2に変化させるタイミングを定めてもよく、位相πから位相αを減じた位相は、トランスの1次側に印加される電圧を、±V1/2から0に変化させるタイミングを定めてもよい。
【0032】
位相αをこのように定めることにより、トランスの1次側に印加される電圧が3レベルの間で切り替えられる。スイッチング素子のスイッチングによる電圧変化が小さくなる。そのため、スイッチング素子としてより小さなものが採用できる。その結果、広い範囲の変圧比に対して、コストを抑えながらスイッチング素子によるスイッチングをソフトスイッチングとすることができる。その結果、コストを低く抑えながら電力変換装置における損失を低く抑えることができる。
【0033】
(11)上記(10)において、位相βは、トランスの1次側に印加される電圧を、±V1/2からそれぞれ±V1に変化させるタイミングを定めてもよく、位相πから位相βを減じた位相は、トランスの1次側に印加される電圧を±V1から±V1/2に変化させるタイミングを定めてもよい。
【0034】
位相βをこのように定めることにより、トランスの1次側に印加される電圧が3レベルの間で切り替えられる。さらに、各スイッチング素子のスイッチングによる電圧変化が小さくなる。そのため、スイッチング素子としてより小さなものが採用できる。その結果、広い範囲の変圧比に対して、コストを抑えながらスイッチング素子によるスイッチングをソフトスイッチングとすることができる。その結果、コストを低く抑えながら電力変換装置における損失を低く抑えることができる。
【0035】
(12)上記(1)から(11)のいずれか1つにおいて、関係式は、電流指令値の多項式であってもよい。
【0036】
関係式として電流指令値の多項式を採用することにより、低い演算量により位相α及び位相βを算出できる。その結果、実用的な演算負荷により3レベルの電圧制御によるソフトスイッチングが可能となる。
【0037】
(13)上記(12)において、関係式は、電流指令値の3次以下の多項式であってもよい。
【0038】
関係式として電流指令値の3次以下の多項式を採用することにより、非常に低い演算量により位相α及び位相βを算出できる。その結果、実用的な演算負荷により3レベルの電圧制御によるソフトスイッチングが可能となる。
【0039】
(14)上記(1)から(13)のいずれか1つにおいて、制御回路は、さらに、電圧指令値とトランスの1次側に印加される電圧とに基づいて、電流指令値をフィードバックにより生成する電流指令値生成回路を含んでもよい。
【0040】
この構成により、定電圧制御のもとにおいても、定電流制御の構成を利用することにより、実用的な演算負荷によって3レベルの電圧制御によるソフトスイッチングが可能となる。
【0041】
(15)上記(1)から(14)のいずれか1つにおいて、2次側ブリッジ回路は、2次側3レベルブリッジ回路を含んでもよく、制御回路は、さらに、電流指令値に対し、それぞれの関係式に従って、2次側3レベルブリッジ回路の各スイッチング素子のスイッチングタイミングを定める2つの位相γ及びδ、ただし0<γ<δ<π、を算出する2次側タイミング算出回路をさらに含んでもよく、PWM信号生成回路は、位相差φと位相α及びβとを用いて1次側3レベルブリッジ回路のスイッチング素子を制御し、位相差φと位相γ及びδとを用いて2次側3レベルブリッジ回路のスイッチング素子を制御する3レベル-3レベル用PWM信号生成回路とを含んでもよい。
【0042】
1次側だけでなく、2次側にも3レベルブリッジ回路を採用し、かつその制御に必要な位相γ及びδを電流指令値との関係式から求めることにより、変圧比の広い範囲にわたり、電圧の変動が高くても安定してソフトスイッチングが実現可能な、実用的な演算負荷により動作可能な制御回路が提供できる。
【0043】
(16)この開示の第2の局面に係る電力変換装置は、上記(1)から(15)のいずれか1つの制御回路と、トランスと、制御回路によりスイッチングが制御される半導体スイッチング素子を含む、トランスの1次側に接続された1次側3レベルブリッジ回路と、トランスの2次側に接続された2次側回路とを含む。
【0044】
位相α及びβが電流指令値との関係式により算出されるので、制御のための負荷が小さくなる。その結果、実用的な演算負荷により3レベルの電圧制御によるソフトスイッチングが可能であり、かつ損失が低減された電力変換装置を提供できる。
【0045】
(17)この開示の第3の局面に係る電力変換装置は、上記(15)の制御回路と、トランスと、制御回路の1次側PWM信号生成回路によりスイッチングが制御される半導体スイッチング素子を含む、トランスの1次側に接続された1次側3レベルブリッジ回路と、制御回路の2次側PWM信号生成回路によりスイッチングが制御される半導体スイッチング素子を含む、トランスの2次側に接続された2次側3レベルブリッジ回路とを含む。
【0046】
位相α、β、γ及びδが電流指令値との関係式により算出される。そのため、制御のための負荷が小さくなる。その結果、実用的な演算負荷により3レベルの電圧制御によるソフトスイッチングが可能であり、かつ損失が低減された電力変換装置を提供できる。
【0047】
[本開示の実施形態の詳細]
本開示の実施形態に係るコンバータの具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本開示はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内におけるすべての変更が含まれることが意図される。
【0048】
1.第1実施形態
1A.背景
図1を参照して、ハードスイッチングによる損失の発生について説明する。
図1の電圧波形50に示すように、半導体スイッチに電流が流れていない状態において半導体スイッチの前後に電圧差がある状態を想定する。この状態において半導体スイッチをオンすると、半導体スイッチの容量成分のため、半導体の前後の電圧差が無くなる前に電流波形52により示すように半導体スイッチに電流が流れ始める。その結果、電流と電圧との双方が零でない領域54において電力損失58が発生する。これは半導体スイッチがオフするときも同様であり、電流と電圧の双方が零でない領域56において電力損失60が発生する。
【0049】
この実施形態は、このような電力損失が発生しないようにするためのものであり、そのために以下に述べるように、1次側に3Lフルブリッジ回路を採用し、かつ半導体スイッチのスイッチングのタイミングを簡単な構成により制御することにより、広い変圧比の範囲内でかつ広い電流値にわたり電力損失の発生を防ぐ。
【0050】
1B.構成
図2に、この実施形態に係る3L-2Lコンバータ100の概略構成を示す。
図2を参照して、3L-2Lコンバータ100は、漏れインダクタンス116を持つトランス114と、蓄電池102とトランス114の1次側端子との間に接続された1次側3Lフルブリッジ回路110とを含む。3L-2Lコンバータ100はさらに、トランス114の2次側端子と直流バス104とに接続された2次側フルブリッジ回路112を含む。
【0051】
1次側3Lフルブリッジ回路110は、いずれもMOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field Effect Transistor )からなるスイッチング素子S1、S2、S3、S4、S5、S6、S7及びS8を含む。これらのうち、スイッチング素子S1及びS4、S5及びS8がフルブリッジ回路を形成する。スイッチング素子S2、S3、S6、及びS7が3レベル制御に必要なスイッチング素子群124を形成する。スイッチング素子S1及び4を接続するノード128はトランス114の1次側の第1端子に接続される。スイッチング素子S5及び8を接続するノード130はトランス114の1次側の第2端子に接続される。
【0052】
1次側3Lフルブリッジ回路110の蓄電池102側に接続される2端子の間にはコンデンサ120及び122がノード126を介して直列に接続される。ノード126はノード128及び130に別々の接続線を介して接続される。ノード126とノード128との間にはスイッチング素子S2及び3がこの順に接続される。ノード126とノード130との間にはスイッチング素子S6及び7がこの順に接続される。
【0053】
2次側フルブリッジ回路112は、スイッチング素子S9、S10、S11及びS12を含む。スイッチング素子S9及びS10はノード142を介して接続されている。スイッチング素子S11及びS12はノード144を介して接続されている。ノード142はトランス114の2次側の第1端子に接続される。ノード144はトランス114の2次側の第2端子に接続される。
【0054】
2次側フルブリッジ回路112はさらに、2本の直流バス104の間に接続されたコンデンサ140を含む。
【0055】
3L-2Lコンバータ100はさらに、トランス114の電流ILとトランス114の1次側及び2次側に印加される電圧に基づいて、1次側3Lフルブリッジ回路110及び2次側フルブリッジ回路112に含まれる各スイッチング素子の制御信号を生成し、1次側3Lフルブリッジ回路110及び2次側フルブリッジ回路112に出力するための制御回路250を含む。制御回路250の構成については
図5を参照して後述する。
【0056】
図3を参照して、1次側3Lフルブリッジ回路110を制御するためのパラメータについて説明する。
図3の上段には1次側3Lフルブリッジ回路110がトランス114に印加する電圧波形170が示されている。
図3の下段には2次側フルブリッジ回路112がトランス114の2次側に印加する電圧波形172が示されている。
【0057】
図3の下段に示すように、この実施形態において、電圧波形172は通常の方形波であり、一定周期をもって±V2の電圧を交互にとる。以下の説明においては、この1周期を2πで示す。一方、
図3の上段に示すように、1次側3Lフルブリッジ回路110による電圧波形170は±V1及び1/2、及び0の電圧をとる。
【0058】
1周期の先頭の位相を0とすると、位相0から位相α(ただし0<α<π/2)までの間、電圧波形170は零である。位相αにおいて電圧波形170はV1/2となる。に位相β(ただしα<β<π/2)において電圧波形170はV1となる。位相βから位相π-βまで電圧波形170はV1を維持し、位相π-βにおいてV1/2となる。さらに位相π-αにおいて電圧波形170は0に変化する。
【0059】
位相πから後の半周期は、電圧波形170は上記した位相0からπまでの半周期における極性を逆転させた波形をとる。以後は、電圧波形170は以上に説明した波形を繰り返す。
【0060】
ここで、電圧波形172は位相差φだけ電圧波形170より遅れている。この遅れの間の1次側及び2次側の電圧差により発生するエネルギをトランス114の漏れインダクタンス116に蓄積した後に放出することにより、3L-2Lコンバータ100は昇降圧コンバータの役割も果たす。
【0061】
図4に、
図3に示す形により3L-2Lコンバータ100を動作させたときの1次側電圧200、2次側電圧202及びトランス114の電流波形204の例を示す。この例において、1次側電圧V1は200V、2次側電圧は350Vである。
【0062】
図5に、制御回路250の構成を示す。
図5を参照して、制御回路250は、3L-2Lコンバータ100に対する定電流制御を行うためのものである。制御回路250は、電流指令値I
*とトランス114の電流Iとを受けて、位相差φをフィードバック制御するための減算器260、PI制御部262、及びPI制御部262の位相差φへの変換部264と、電流指令値I
*を受け、それぞれ電流指令値I
*の所定の関係式によって位相α及びβに変換する関係式変換部268とを含む。制御回路250はさらに、変換部264からの位相差φ、並びに関係式変換部268からの位相α及びβを受けて、スイッチング素子S1からS12を制御するPWM信号を出力するためのPWM信号生成部266を含む。
【0063】
なお、位相差φをフィードバックにより生成する点は従来の2L-2Lコンバータにより行われているものと同じである。また位相差φ、位相α及びβに基づいてスイッチング素子SからS12を制御するPWM信号を生成する機構は公知の技術であり、前述した非特許文献1の記載からも明らかなのでここではその詳細は繰り返さない。
【0064】
1C.関係式の決定方法
以下、関係式変換部268において使用される、電流指令値I*を位相α、βに変換するための関係式の定め方について説明する。位相α及びβの双方について、基本的にこの関係式を定める方法は共通し、また考え方は1次側3Lフルブリッジ回路110のいずれのスイッチング素子にも共通する。したがって、ここではスイッチング素子S1の制御における位相βについてのみ説明する。以下に説明する関係式は、電流指令値I*から位相βの値を一意に決定するためのものである。
【0065】
図2に示す3L-2Lコンバータ100における電力伝達式は、位相差φ、位相α及びβをパラメータとして以下の式となる。
【0066】
【数1】
図2に示すスイッチング素子S1がソフトスイッチングとなる条件は、スイッチング素子S1がオンとなるタイミングにおいて、矢印144により示すようにスイッチング素子S1にマイナス方向(電圧と逆方向)の電流が流れていることであると考えられる。この条件を
図2において考えると、トランス114に流れるトランス電流i
Lの値が
図2の矢印146により示す方向のときに正だとして、「i
L≦0」が条件となる。
【0067】
この式をさらに詳細に詰めると以下の式となる。
【0068】
【数2】
この式を変形すると以下の不等式が得られる。
【0069】
【数3】
ただし最後の式のmは変圧比であり、m=(V2/nV1)である。
【0070】
この式をφと変圧比mとの関係式と見て、βの様々な値についてグラフ化したものが
図6である。
図6は少し見づらいが、例えば曲線308と直線318との間の領域がβ=80度のときに上記式が成立する範囲を示す。同様に曲線306と直線316、曲線304と直線314、曲線302と直線312、曲線300と直線310の間の範囲がそれぞれβ=60度、40度、20度及び0度のときに上記式が成立する範囲を示す。なお
図6に示すグラフのうち曲線300、302、304、306及び308は、それぞれ直線310、312、314、316及び318を漸近線として無限大まで続いている。そのため、変圧比=2.4以下の範囲のみグラフを示している。
【0071】
図6に示す関係を、位相差φと位相βとの組み合わせに対する変圧比の値を示すようにプロットしたものを
図7に示す。
図7においては単なる濃淡だが、設計時にはこの画面は変圧比の値により異なる色により描画している。色付きで描画された部分が上記関係式を満たす領域である。したがって、領域が色付きで描画されている部分はソフトスイッチングが可能なことが分かる。またある点の描画色を見れば、その点に対応する位相差φと位相βとの組み合わせに対して可能な変圧比がどの程度かも分かる。
【0072】
一方、
図8には横軸に位相差φ、縦軸に位相βをとり、その組み合わせにおいて3L-2Lコンバータ100において可能な最大のトランス電流Iの値をプロットした図を示す。
図8において凡例により示す電流値の単位はアンペアである。なお、最大電流Iの値は、上記した電力伝達式においてα=0と仮定して計算する。
【0073】
この2つの図から以下のようにしてトランス電流に対する位相βの関係式を特定する。
図7において、所定の変圧比、例えば変圧比m=2.5が実現できる領域を指定する。この指定は、上記したように領域の描画色を見ることにより判定できる。次に
図8において、
図7に示す図において指定した領域に対応する領域を切り取って新たな画面に表示する。この領域を
図9に領域350として示す。
図7と
図8とにおいて、横軸と縦軸とは一致しているのでこうした操作が簡単に行える。
図9においても横軸は位相差φを、縦軸は位相βを、それぞれ表す。
【0074】
図9を参照して、この図には、ソフトスイッチングが可能な位相差φと位相βとの組み合わせであって、所望の変圧比を実現できる領域350が、その領域において可能な最大電流の値の分布とともに示されていることになる。
【0075】
そこで、この領域350の内部に、
図9に示す線352を描画する。すると線352は変圧比2.5でかつ所定の範囲(例えば0アンペアから40アンペア)の電流を流せる位相差φと位相βとの組み合わせ(関係)を与えることになる。
【0076】
そこで、
図9に描画された線352を、
図10に示すように横軸に電流を、縦軸に位相βをとったグラフにプロットし直すことができる。そうして得られたものが曲線380である。この曲線380は、上記したように所定の変圧比において所定の範囲の電流を流せる位相差φと位相βとの組み合わせを、位相差φに対する位相βの関数の形により表したものと考えることができる。このグラフを所定の関数、例えば多項式により近似する。
図10に示す曲線382が曲線380をφの3次多項式により表したものである。この3次多項式により、電流指令値Iに対する位相βを特定できる。この関数は単純な多項式であり、電流指令値Iが与えられれば簡単に位相ベータを計算できる。また例えばこの位相βの計算は、位相αの計算とは独立に行える。したがって、非特許文献1に記載された技術と異なり、非力なマイクロプロセッサでも十分に処理できる。
【0077】
ただし、制御の性質上、位相βは電流指令値Iのある値に対して一意に定まる必要がある。したがって、
図10に示す曲線380は強い意味での単調関数(
図10の場合は単調減少関数)となる必要がある。さもないと位相βを定めることができないためである。3L-2Lコンバータ100の設計段階においては、
図9に示す線352を描画した後に
図10に描画された曲線が単調関数でないときには、線352を新たに描画し直す必要がある。
【0078】
なお、多項式により曲線を近似するときに、その次数に特に制限はない。しかし、計算量を低く抑える必要があることから、ある程度の次数、例えば3次程度が望ましい。
図10に示す例の場合には、曲線380の変曲点らしいものが存在するため、3次式により近似しているが、誤差範囲を大きくとれるなら2次式、又は1次式により近似することも不可能ではない。もちろん、逆に4次式以上により曲線を近似してもよい。
【0079】
この実施形態においては、電流指令値Iの変動は小さい。そのため、位相α及びβの制御周期は位相差φの制御周期より長くできる。その結果、制御を行うマイクロプロセッサにかかる負荷が小さくなり、簡単な構成によりフルブリッジ回路の3レベル制御が実現できる。
【0080】
なお、マイクロプロセッサの記憶容量に余裕があるようなら、曲線380を近似した式を用いるのではなく、曲線380を構成する電流指令値Iと位相βの組み合わせをテーブル形式により準備することもできる。この場合、電流指令値Iが与えられれば、対応する位相βをテーブルルックアップにより特定できる。指定された電流指令値Iがテーブルに存在しない場合には、テーブル内の近隣のデータを用いて位相βを内挿すればよい。
【0081】
さらに上記実施形態においては、
図7及び
図8から
図9を作成し、
図9のマップ上において線352を描画した上で線352を
図10のマップに変換している。しかしこの開示はそのような実施形態には限定されない。逆に、
図10のマップ上において電流指令値Iと位相βとの関係を示す所望の曲線(強い意味での単調減少関数)を描き、それを
図9にマップしてもよい。この場合、マップにより得られる線(
図9の線352に相当する線)が領域350内に収まっていれば、最初に描いた曲線を電流指令値Iと位相βとの関係を示すものとして採用できる。以下は上記実施形態と同様、近似式を用いてもよいしテーブルルックアップを用いてもよい。マップにより得られる線が領域350内に収まっていなければ、再度
図10に戻り曲線を引き直すようにすればよい。
【0082】
さらに上記実施形態、例えば
図7においては、変圧比mの値をマップ上の描画色により表している。しかしこの開示はそのような実施形態には限定されない。変圧比は位相差φと位相βとの関数なので、x軸を位相差φ、y軸を位相β、z軸を変圧比とする3次元グラフにより表すことができる。3次元グラフにより変圧比を表せば、所望の変圧比の範囲を示す、Z軸に垂直な2つの平面によりこの3次元グラフを切ったときに、3次元グラフにおいて切断線に囲まれた領域をxy平面に投影することによって
図9の領域350に相当する図形が得られる。
【0083】
2.第2実施形態
上記第1実施形態においては、変圧比mをある領域に限定した上で、電流指令値Iが与えられたときに、位相α及び位相βをそれぞれ電流指令値Iの関数として算出している。しかしこの開示はそのような実施形態に限定されるわけではない。この第2実施形態においては、
図9の領域350の各点が、
図7により示す変圧比と、
図8に示す電流値とを示すと考える。すると、そうして得られた図をx軸に電流指令値、y軸に変圧比m、z軸に位相βをとって領域350の各点をプロットした3次元グラフ(3次元曲面)に変換できる。この3次元グラフは
図10の曲線380と同じ意味を持つ。したがってその曲面を電流指令値It変圧比mとの2つの変数を持つ関数により近似するか、又は2次元テーブルとして持つことにより、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0084】
図11に、この第2実施形態に係る制御回路400のうち、位相α及びβを算出する変換部410を示す。
図11を参照して、この変換部410は、電流指令値と、トランス114の1次側電圧及び2次側電圧を入力として受け、内部において位相α及びβをそれぞれ算出する関数に電流指令値と変圧比(=2次側電圧/(n*1次側電圧))を入力することにより位相α及びβを算出しPWM信号生成部412に与える。
図11に示す変換部410において
図5の関係式変換部268を置換することにより、第1実施形態と同様、簡単な構成をもって3L-2Lコンバータ100のスイッチング素子を制御できる。電流指令値、1次側電圧及び2次側電圧の時間的変動は小さい。したがってこの実施形態においても、位相α及びβの算出は、位相差φのフィードバック制御よりも長い間隔で行える。その結果、制御のためのマイクロプロセッサにかかる負荷を小さくでき、実用的な形により3レベル制御が行える。
【0085】
3.第3実施形態
第1実施形態においては、例として変圧比m=2.5の場合について説明した。変圧比が異なる場合には、その変圧比に基づいて第1実施形態において説明した手続きにより電流指令値と位相α及びβをそれぞれ求めるための関係式を求めている。しかし、所定の変圧比に対して位相α及びβを求める関係式が求められているなら、この第3実施形態に従うことにより、第1の実施形態による制御をわずかに変更することにより、任意の変圧比に対し位相α及びβの値を求めることができる。
【0086】
再び
図3を参照して、1次側が3レベルフルブリッジ回路の場合、位相α及びβにより示される部分だけ、伝達電力が落ちる。一方、例えば変圧比が1に近づくと、位相α及びβのいずれも大きくとる必要はなくなる。したがって位相α及びβを小さくすることにより、伝達電力を大きくできる。すなわち、変圧比が2.5から1に近づく場合には、位相α及びβの双方を小さくできる。
【0087】
この様子を
図12に示す。
図12に示す曲線380は、第1実施形態において求めた、変圧比が2.5の場合の電流指令値と位相βとの関係である。曲線382は曲線380を3次多項式により近似したものである。上記したように変圧比が1に近づいた場合には、位相βを小さくできる。例えば
図12に示すように電流指令値Iが12.5アンペア程度の場合、曲線382から求められる位相βは0.31程度である。しかし変圧比が1に近づけば(変圧比が小さくなれば)、位相βは小さくできる。こうした結果を利用するためには、に曲線382の全体を縦軸上に沿って下方向に縮小した位置の点450に対応する位相βを使用すればよい。例えば、以下の式により定まる係数kを曲線382に乗じればよい。ただし以下の式においてmは変圧比である。
【0088】
【数4】
図13に、この第3実施形態に係る3L-2Lコンバータの1次側の制御回路460の構成を示す。
図13を参照して、この第3実施形態に係る制御回路460が
図5に示す制御回路250と異なるのは、関係式変換部268が出力する位相α及びβに上記係数kを乗算するための乗算回路470をさらに含む点である。それ以外の点においては、制御回路460は制御回路250と同じである。
【0089】
この第3実施形態によれば、特定の変圧比のときの、電流指令値Iと位相α、βとの関係式が得られた場合には、その変圧比と異なる変圧比についても、その関係式を使用して簡単な制御により位相α及びβが算出できる。その結果、異なる変圧比の値に対しても、簡単な構成の制御回路により3レベルフルブリッジ回路の制御が行えるという効果がある。また制御回路そのものも、特定の変圧比のときのものをわずかに変化させるだけでよく、簡単に制御回路を設計できるという効果もある。
【0090】
4.第4実施形態
上記第1実施形態、第2実施形態及び第3実施形態は、いずれも3L-2Lコンバータの1次側3Lフルブリッジ回路110を定電流制御する制御回路に関するものである。しかしこの回路はそのような実施形態には限定されない。1次側3Lフルブリッジ回路を定電圧制御する場合もこの開示を適用できる。
【0091】
図14に、第4実施形態に係る、1次側3Lフルブリッジ回路110を定電圧制御するための制御回路500の構成をブロック図により示す。
図14を参照して、制御回路500は、マイナーループとして
図5に示す制御回路250と同様の制御回路514と、制御回路514の前段に配置された、電圧指令値V
*からトランス114の1次側電圧Vを減算する減算回路510、及び減算回路510と制御回路514との間に設けられ、減算回路510の出力から電流指令値I
*を生成して減算器260のプラス端子に入力するPI制御部512とを含む。
【0092】
マイナーループとしての制御回路514は
図5に示す制御回路250と同様の構成である。したがって、関係式変換部268により第1実施形態と同様にして、PWM信号生成部266が1次側3Lフルブリッジ回路110の制御をするスイッチング信号を生成するために必要な位相α及びβを算出できる。
【0093】
この第4実施形態においても、位相α及びβを簡単な関係式により算出できる。そのために必要な演算量も少ない。また位相α及びβを算出する周期は位相差φのための制御周期より長くできる。その結果、1次側3Lフルブリッジ回路110の制御を簡単な回路により、少ない演算量で実用的に行えるという効果がある。
【0094】
5.シミュレーション結果
従来の2L-2Lコンバータと、実施形態1に係る3L-2Lコンバータ100とについて、ソフトスイッチングが実現できる電圧/電流範囲をシミュレーションにより調べた。結果を
図15に示す。
図15に示す2つの表のうち、上段は2L-2Lコンバータに対する結果を示す。下段は3L-2Lコンバータ100による結果を示す。
図15に示す2つの表において、最も左側に示すのは、1次側電圧の値である。このシミュレーションにおいて、2次側電圧は350Vに固定した。
図15において「OK」はソフトスイッチングが実現できたことを示し、「NG」はソフトスイッチングが実現できなかったことを示す。
【0095】
図15により分かるように、従来の2L-2Lコンバータにおいては、電流の絶対値が小さくなるとソフトスイッチングが実現できなくなることが分かる。また、変圧比が大きくなると同様にソフトスイッチングが実現できなくなることも分かる。
【0096】
それに対して第1実施形態に係る3L-2Lコンバータ100の場合には、そのような結果は生じない。電流の絶対値が小さくなっても、変圧比が大きくなってもソフトスイッチングが実現できることが分かる。
【0097】
図16には、シミュレーションにおける従来の2L-2Lコンバータにおけるトランスの1次側の電圧波形550と電流波形552とを示す。
図17には、
図2に示すスイッチング素子S1の電圧波形560及び電流波形562を示す。なお、このときの位相差φは24.6度であった。
【0098】
特に
図17から、時刻500マイクロ秒において、スイッチング素子S1がオンする時点においては電流がほぼ0であり、スイッチング素子S1の電圧が上昇するとほぼ同時に電流が増加を始めていることが分かる。そのため、実際の装置においてはこの部分において損失が生じることになる。
【0099】
図18には、第1実施形態における3L-2Lコンバータ100について同様の条件によりシミュレーションしたときの1次側のトランス電圧波形570と、電流波形572とを示す。
図19には、スイッチング素子S1のオフからオンへのスイッチング前後のスイッチング素子S1のゲート-ソース電圧波形590と、電流波形592とを示す。このときの位相差φは31.4度、位相α=16.1度、位相β=32.2度であった。
【0100】
図18から、1次側のトランス電圧が3レベルに制御されていることが分かる。また
図19からは、スイッチング素子S1のオフからオンへのスイッチングの時点においては、スイッチング素子S1を流れる電流が負であることが分かる。すなわち、スイッチング素子S1のスイッチングはソフトスイッチングであって損失は生じていない。
【0101】
以上のようにシミュレーションからも、上記制御回路が有効なものであることが分かる。
【0102】
6.変形例
上記実施形態は、いずれも1次側に3レベルのフルブリッジ回路を使用し、2次側には2レベルのフルブリッジ回路を採用している。しかしこの開示はそのような実施形態には限定されない。1次側だけではなく、2次側に3レベルのフルブリッジ回路を採用してもよい。
図20にそうした3L-3Lコンバータの構成例を示す。
【0103】
図20を参照して、この3L-3Lコンバータ600は、蓄電池102とトランス114との間に接続された、第1実施形態のものと同じ1次側3Lフルブリッジ回路110と、2次側3Lフルブリッジ回路610と直流バス104に接続された2次側3Lフルブリッジ回路610と、1次側3Lフルブリッジ回路110及び2次側3Lフルブリッジ回路610を制御するための制御回路620とを含む。1次側3Lフルブリッジ回路110、トランス114及び2次側3Lフルブリッジ回路610の組み合わせは公知であり、それらを3レベルにより駆動する方法も例えば非特許文献1の記載から公知といえる。しかし、制御回路620は、従来技術とは異なりこの開示において提案する、電流指令値との関係式により上記各実施形態において説明した1次側3Lフルブリッジ回路110を制御するための位相α及びβを決定することに加え、2次側3Lフルブリッジ回路610を3レベルにより駆動するための位相γ及びデルタについても電流指令値との関係式により決定する。位相γは1次側3Lフルブリッジ回路110における位相αに対応する。位相デルタは1次側3Lフルブリッジ回路110における位相βに対応する。
【0104】
図21を参照して、制御回路620は、
図5に示す制御回路250と同様の構成である。ただし制御回路620は、
図5に示す関係式変換部268に代えて、電流指令値I
*の値をそれぞれに対応する関数に代入することにより、位相α、β、γ及びδを算出し出力するための関係式変換部630を含む点において制御回路250と異なる。制御回路620はさらに、
図5に示すPWM信号生成部266に代えて、変換部264の出力する位相差φ、並びに制御回路620の出力する位相α、β、γ及びδを受けて、1次側3Lフルブリッジ回路110の各スイッチング素子、及び2次側3Lフルブリッジ回路610の各スイッチング素子を制御するPWM信号を出力するための3L-3L用PWM信号生成部632を含む点においても制御回路250と異なる。
【0105】
電流指令値の関数として位相γ及びδを算出するための関係式の決定方法は、第1実施形態において説明した、位相βを算出するための関係式の決定方法と同様である。
【0106】
制御回路620の基本的動作も、基本的には第1実施形態の制御回路250と同様である。ただし制御回路620においては、第1実施形態と異なり、関係式変換部630が位相α及びβだけではなく、位相γ及びδも電流指令値の関数としてその値を算出する点、及び3L-3L用PWM信号生成部632が、2次側3Lフルブリッジ回路610の各スイッチング素子を制御するために出力するPWM信号の数が第1実施形態のPWM信号生成部266よりも多くなっている点において、制御回路620の動作は制御回路250と異なる。
【0107】
このような変形例によっても、上記実施形態と同様、簡単な構成により、かつ少ない演算量により3L-3Lコンバータ600を制御できるという効果が得られる。
【0108】
上記実施形態は、いずれも
図2に示すようにNPC型のDAB方式の絶縁コンバータに関するものである。しかしこの開示はそのような実施形態には限定されない。例えば
図2に示すNPC型の1次側3Lフルブリッジ回路110に代えて、ダイオードクランプ型の1次側3Lフルブリッジ回路660を採用してもよい。
図22に、そのような変形例に係る3L-2Lコンバータ650の回路ブロック図を示す。
【0109】
図22を参照して、3L-2Lコンバータ650は、
図2に示す1次側3Lフルブリッジ回路110において、1次側3Lフルブリッジ回路110をダイオードクランプ型の1次側3Lフルブリッジ回路660を用いて置換したものである。これ以外の点では3L-2Lコンバータ650の各部は1次側3Lフルブリッジ回路110と同様である。制御回路250の回路構成も第1実施形態のものと同様である。制御回路250において位相α及びβを電流指令値から算出するための関係式(関数)の決定方法も第1実施形態における方法と同様である。
【0110】
この3L-2Lコンバータ650によっても、上記各実施形態と同様、簡単な構成により、かつ少ない演算量により3L-2Lコンバータ650を実用的に制御できるという効果が得られる。
【0111】
今回開示された実施の形態は全ての点において例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は、開示の詳細な説明の記載により示されるわけではなく、特許請求の範囲の各請求項によって示され、特許請求の範囲の文言と均等の意味及び範囲内における全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0112】
S1、S2、S3、S4、S5、S6、S7、S8、S9、S10、S11、S12 スイッチング素子
50、170、172、550、560 電圧波形
52、204、552、562、572、592 電流波形
54、56、350 領域
58、60 電力損失
100、650 3L-2Lコンバータ
102 蓄電池
104 直流バス
110、660 1次側3Lフルブリッジ回路
112 2次側フルブリッジ回路
114 トランス
116 漏れインダクタンス
120、122、140 コンデンサ
124 スイッチング素子群
126、128、130、142、144 ノード
200 1次側電圧
202 2次側電圧
250、400、460、500、514、620 制御回路
260 減算器
262、512 PI制御部
264、410 変換部
266、412 PWM信号生成部
268、630 関係式変換部
300、302、304、306、308、380、382 曲線
310、312、314、316、318 直線
352 線
470 乗算回路
510 減算回路
570 トランス電圧波形
590 ゲート-ソース電圧波形
600 3L-3Lコンバータ
610 2次側3Lフルブリッジ回路
632 3L-3L用PWM信号生成部