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特開2023-183039変圧器の診断装置および変圧器の診断方法
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  • 特開-変圧器の診断装置および変圧器の診断方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023183039
(43)【公開日】2023-12-27
(54)【発明の名称】変圧器の診断装置および変圧器の診断方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 27/00 20060101AFI20231220BHJP
【FI】
H01F27/00 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022096409
(22)【出願日】2022-06-15
(71)【出願人】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】北山 匡史
【テーマコード(参考)】
5E059
【Fターム(参考)】
5E059BB15
(57)【要約】
【課題】変圧器の異常を高精度で推定することができる変圧器の診断装置および変圧器の診断方法を提供する。
【解決手段】変圧器の診断装置1は、変圧器2内の絶縁油に溶解する特定成分の溶解ガス量から、変圧器2内の絶縁紙の平均重合度を計測する油中ガス分析装置8と、変圧器2の寿命損失に基づく変圧器2の残存寿命である状態変数の時間変化の関係を表わす状態方程式と、平均重合度である観測変数と状態変数との関係を表す観測方程式と、油中ガス分析装置8によって計測された平均重合度の測定値とに基づいて、変圧器2の異常を判定する異常判定装置3とを備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
変圧器内の絶縁油に溶解する特定成分の溶解ガス量から、前記変圧器内の絶縁紙の平均重合度を計測する分析装置と、
前記変圧器の寿命損失に基づく前記変圧器の残存寿命である状態変数の時間変化の関係を表わす状態方程式と、前記平均重合度である観測変数と前記状態変数との関係を表す観測方程式と、前記分析装置によって計測された平均重合度の測定値とに基づいて、前記変圧器の異常を判定する異常判定装置と、を備えた変圧器の診断装置。
【請求項2】
前記異常判定装置は、前記状態方程式として式(A1)を用い、前記観測方程式として式(A2)を用い、
【数1】

ただし、Rtは、時刻tの残存寿命、Dtは、時刻tの平均重合度、Vtは、時刻tの寿命損失、utは、時刻tのシステムノイズ、vtは、時刻tの観測ノイズである、請求項1記載の変圧器の診断装置。
【請求項3】
前記異常判定装置は、前記変圧器のホットスポット温度に基づいて、前記変圧器の寿命損失を算出する、請求項2記載の変圧器の診断装置。
【請求項4】
前記異常判定装置は、粒子フィルタリングを用いて、前記状態変数を推定する、請求項3に記載の変圧器の診断装置。
【請求項5】
変圧器内の絶縁油に溶解する特定成分の溶解ガス量から、前記変圧器内の絶縁紙の平均重合度を計測するステップと、
前記変圧器の寿命損失に基づく前記変圧器の残存寿命である状態変数の時間変化の関係を表わす状態方程式と、前記平均重合度である観測変数と前記状態変数との関係を表す観測方程式と、計測された平均重合度の測定値とに基づいて、前記変圧器の異常を判定するステップとを含む、変圧器の診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、変圧器の診断装置および変圧器の診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電力会社の変電所に設置している変圧器は電力供給に重要な機器であり、診断の高度化が求められている。油入変圧器の寿命は、コイル絶縁紙の劣化に大きく依存する。長時間高温で運転するとコイル絶縁紙は熱劣化し、寿命に大きく影響することとなる。コイル絶縁紙の劣化は、絶縁油中の特定成分を計測する方法が一般的に採用されている。この特定成分を計測する方法の例としては、フルフラール法またはCO+CO2法などがある。一方、絶縁紙の劣化度合いは絶縁紙の平均重合度(Degree of polymerization)で判定することもできる。しかし、平均重合度は直接計測できないため、変圧器内部の絶縁油を採取し、この絶縁油中の特定成分を計測し、この特定成分の量と平均重合度との相関関係に基づいて重合度を推定する方法が採用されてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006-250872号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、この相関関係は時間には依存しない静的な関係であり、時系列での状態変化が考慮されていないという問題点がある。
【0005】
一方、油入変圧器の過負荷による温度上昇とそれによる寿命低減については、IEC 60076-7やIEEE C57.91に記載されている。これらの規格では、油入変圧器のコイルの最も温度の高いホットスポット部分の温度による寿命損失(Loss of life)を規定している。
【0006】
上記の相関関係は特定成分量と平均重合度の2者の関係であり、その他の計測量を用いても、温度を含めた3者の相関関係を示すことは難しいという問題点がある。それに加えて、上記で指摘した時系列での状態変化を算定することは難しく、時系列での寿命損失の変化とこの寿命損失による変圧器の異常を推定することはできないという問題点がある。
【0007】
それゆえに、本開示の目的は、変圧器の異常を高精度で推定することができる変圧器の診断装置および変圧器の診断方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の変圧器の診断装置は、変圧器内の絶縁油に溶解する特定成分の溶解ガス量から、変圧器内の絶縁紙の平均重合度を計測する分析装置と、変圧器の寿命損失に基づく変圧器の残存寿命である状態変数の時間変化の関係を表わす状態方程式と、平均重合度である観測変数と状態変数との関係を表す観測方程式と、分析装置によって計測された平均重合度の測定値とに基づいて、変圧器の異常を判定する異常判定装置とを備える。
【0009】
本開示の変圧器の診断方法は、変圧器内の絶縁油に溶解する特定成分の溶解ガス量から、変圧器内の絶縁紙の平均重合度を計測するステップと、変圧器の寿命損失に基づく変圧器の残存寿命である状態変数の時間変化の関係を表わす状態方程式と、平均重合度である観測変数と状態変数との関係を表す観測方程式と、計測された平均重合度の測定値とに基づいて、変圧器の異常を判定するステップとを含む。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、変圧器の異常を高精度で推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施の形態1の変圧器の診断装置1の構成を表わす図である。
図2】実施の形態1の変圧器2の診断方法の手順を表わすフローチャートである。
図3】表示装置4の表示例を表わす図である。
図4】平均重合度の確率分布、および異常しきい値分布の例を表わす図である。
図5】異常判定装置3の機能をソフトウェアを用いて実現する場合の異常判定装置3の構成を表わす図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0013】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1の変圧器の診断装置1の構成を表わす図である。
【0014】
変圧器の診断装置1は、油中ガス分析装置5と、温度センサ6と、伝送装置8と、計測データベース7と、異常判定装置3と、表示装置4とを備える。
【0015】
温度センサ6は、変圧器2の巻線に近い部分に設置される。温度センサ6は、30分~1時間の頻度で変圧器2のホットスポット温度を計測する。ホットスポット温度の代わりに、計測しやすい油温を計測して、油温とホットスポット温度との差を推定してホットスポット温度が推定されるものとしてもよい。ホットスポット温度の推定方法は、たとえば、IEC 60076-7に記載されたように、過渡現象を考慮した過渡特性付き熱的等価モデルによって表される微分方程式によって得る方法を用いることができる。
【0016】
油中ガス分析装置5は、変圧器2の近傍に設置される。油中ガス分析装置5は、1年に一度などの頻度で採油された絶縁油に溶解する特定成分の溶解ガス量を得る。油中ガス分析装置5は、溶解ガス量に基づいて絶縁紙の平均重合度を計算する。
【0017】
計測データベース7は、得られた計測値を蓄積する。
【0018】
伝送装置8は、計測結果を伝送する。
【0019】
異常判定装置3は、変圧器2の異常を判定する。
【0020】
異常判定装置3は、変圧器2が稼働開始した初期寿命から寿命損失を減算することにより、直接的に観測できない残存寿命を推定する。残存寿命を状態方程式で表し、半直接的に観測できる平均重合度を残存寿命の関数として観測方程式で表す状態空間モデルとして表現する。
【0021】
すなわち、異常判定装置3は、変圧器2の寿命損失に基づく変圧器2の残存寿命である状態変数の時間変化の関係を表わす状態方程式と、平均重合度である観測変数と状態変数との関係を表す観測方程式と、油中ガス分析装置5によって計測された平均重合度の測定値とに基づいて、状態変数を推定し、状態変数の推定値に基づいて、変圧器2の異常を判定する。
【0022】
表示装置4は、異常判定結果などを表示する。
【0023】
異常判定装置3は、予測部31と、尤度推定部32と、劣化判定部33とを備える。
【0024】
予測部31は、n回目に計測したホットスポット温度θに対する寿命損失Vnを式(1)によって算出する。θ=110℃のときにVn=1、θが110℃より大きいときにVn>1、すなわち劣化が加速され、θが110℃より小さいときにVn<1、すなわち劣化が減速されることとなる。
【0025】
【数1】
【0026】
予測部31は、1年間に計測時間間隔Δtで、M回温度計測したとき、1年間の寿命損失Vを式(2)によって算出する。Vnが1より大きいとVは実時間より長くなり、1より小さいとVは実時間より短くなる。
【0027】
【数2】
【0028】
予測部31は、変圧器2の平均重合度の計測値およびホットスポット温度の離散時間t=0、1、2、・・・、Nを用いて、残存寿命(Residual Life)Rの時刻t-1とtとの関係を示す式(3)の状態方程式を用いて、時刻tの残存寿命の確率分布を計算する。予測部31は、時刻tの残存寿命Rと平均重合度Dの関係を示す式(4)の観測方程式を用いて時刻tの平均重合度Dの確率分布を計算する。
【0029】
【数3】
【0030】
ただし、Rtは、時刻tの残存寿命、Dtは、時刻tの平均重合度、Vtは、時刻tの寿命損失、utは、時刻tのシステムノイズ、vtは、時刻tの観測ノイズである。
【0031】
予測部31は、L回の乱数によりシステムノイズを発生させ、時刻tの寿命損失をホットスポット温度の計測値を用いて式(2)で計算し、時刻t-1の残存寿命から乱数で発生したシステムノイズを用いて時刻tの寿命損失を式(3)で計算する。残存寿命はL個得られることになる。これを残存寿命Rtの確率分布と呼ぶ。
【0032】
尤度推定部32は、それぞれの寿命損失について、観測ノイズの確率分布と時刻tでの残存寿命Rtを用いて、式(4)の観測方程式で、時刻tの平均重合度の確率分布が得られる。平均重合度の計測値を式(4)に代入すると、平均重合度が計測される確率が得られる。時刻tの残存寿命はL個あるため、それぞれの残存寿命について平均重合度の計測値が得られる確率もL個得られる。時刻tでの平均重合度の計測値を用いて状態方程式で計算した平均重合度の確率分布に対してベイズ推定によって平均重合度の尤度を計算する。
【0033】
すなわち、尤度推定部32は、計測データに基づいて変圧器2の残存寿命Rtの確率分布を推定する。ベイズ推定では、Xを確率密度関数Pにおける確率変数とみなす。P(X)は確率変数Xの事前確率密度分布、P(X|Y)は計測値Yが得られたときの確率変数Xの事後確率密度分布、P(Y|X)は確率変数Xについて計測値Yが得られる事後確率密度分布であり、尤度と呼ばれる。
【0034】
本実施の形態では、尤度推定処理で事後確率密度分布を推定する方法として粒子フィルタを用いる。粒子フィルタでは、確率変数Xの事後確率密度分布P(X|Y)を、多数の粒子を有する粒子群の分布で近似する手法であり、予測処理と尤度推定を繰り返すことによって確率変数Xの事後確率密度分布を時系列で更新していく。粒子Xtの数をL個とすると、Xt={Xt(1)、Xt(2)、・・、Xt(L)}で表される。残存寿命Rtが粒子に相当し、それぞれの粒子がL個を生成されることになる。
【0035】
観測方程式を用いて粒子に対して、観測ノイズの確率分布を考慮して時刻tにおける平均重合度Dtの予測値の確率分布が生成される。この予測値の確率分布と平均重合度の計測値YDtを用いて、i番目の粒子に対してこの計測値の得られる確率として重みw(i)が計算される。各粒子Xtの重みw(i)の総和に対する割合として重みに応じたリサンプリングが行われる。リサンプリングでは、重み値に基づき、各粒子を再生成し、重みに従った新たな粒子群が生成される。すなわち、粒子Xtの重みw(i)を、全ての粒子の重みの総和で除算した値の確率に基づいて各粒子が生成されて、新しい粒子群となる。
【0036】
劣化判定部33は、推定された残存寿命に基づいて、変圧器2の異常を判定する。
【0037】
図2は、実施の形態1の変圧器2の診断方法の手順を表わすフローチャートである。
【0038】
ステップS101において、予測部31は、次のように初期化処理が実行する。
【0039】
D0=1100、R0=18000とする。
【0040】
ステップS102において、予測部31は、予測処理を実行する。
【0041】
具体的には、予測部31は、式(1)、(2)に基づいて、1年間の寿命損失Vを計算して、それをVtとする。
【0042】
予測部31は、式(5)~(8)に基づいて、粒子の数Lだけ、時刻tの残存寿命Rt(i)、および平均重合度Dt(i)を算出する。ut(i)は、時刻tのシステムノイズ、vt(i)は、時刻tの観測ノイズであり、randは一様乱数である。
【0043】
【数4】
【0044】
ステップS103において、尤度推定部32は、尤度推定処理を実行する。具体的には、尤度推定部32は、時刻tの平均重合度の観測値YDtを取得する。尤度推定部32は、式(9)に基づいて、各粒子の平均重合度の尤度(重み)wt(i)を計算する。
【0045】
【数5】
【0046】
次に、劣化判定部33は、式(10)に従って、重みwt(i)から正規化した重みnwt(i)を算出する。
【0047】
【数6】
【0048】
ステップS104において、劣化判定部33は、劣化判定処理を実行する。劣化判定部33は、式(11)に従って、粒子iの時刻tの残存寿命Rt(i)を加重平均して、残存寿命MRtを得る。
【0049】
【数7】
【0050】
劣化判定部33は、式(12)に従って、平均重合度MDtを得る。
【0051】
【数8】
【0052】
劣化判定部33は、平均重合度MDtが閾値MD以上の場合に、変圧器2が正常であると判定し、平均重合度MDtが閾値MD未満の場合に、変圧器2が異常であると判定する。
【0053】
変圧器2が異常であると判定された場合には、処理がステップS105に進む。変圧器2が正常であると判定された場合には、処理がステップS106に進む。
【0054】
ステップS105において、劣化判定部33は、異常判定結果、残存寿命MRt、および平均重合度MDtを表示装置4に表示する。
【0055】
ステップS106において、tが終了時刻の場合に、処理がステップS107に進む。tが終了時刻でない場合に、処理がステップS108に進む。
【0056】
ステップS107において、劣化判定部33は、残存寿命MRt、および平均重合度MDtを表示装置4に表示する。
【0057】
ステップS108において、予測部31は、正規化した重みnwt(i)に応じた確率で粒子Rtを再度L回サンプリングする。すなわち、予測部31は、均等な1/Lの確率でなくnwt(i)の確率で粒子Rt={Rt(1)、Rt(2)、・・、Rt(L)}を選ぶ。この得られたL個の粒子が時刻tの確率分布となる。nwt(i)が均等に1/LだとRt(i)はそれぞれ1つずつ得られる。nwt(i)が大きいと、Rt(i)は2つ以上得られ、nwt(i)が小さいとRt(i)は0個になる。
【0058】
予測部31は、同様に、正規化した重みnwt(i)に応じた確率で粒子Dtを再度L回サンプリングする。
【0059】
ステップS109において、予測部31は、tをインクリメントする。
【0060】
図3は、表示装置4の表示例を表わす図である。
【0061】
変圧器の設置場所、設置位置、メーカ、容量などの属性とともに、平均重合度の計測値、デジタルツインシミュレーションの結果である残存寿命として、平均重合度の確率分布における平均値と95%、99%信頼度区間が示される、判定結果が異常の場合には、異常であること表示される。平均重合度の確率分布における平均値は、MDtである。
【0062】
実施の形態2.
図4は、平均重合度の確率分布、および異常しきい値分布の例を表わす図である。
【0063】
劣化判定部33は、得られた平均重合度の確率分布と、平均重合度の異常判定を行う異常しきい値分布を用いて、平均重合度が正常である確率P0(x)と異常である確率P1(x)の比の対数で示される対数尤度比LRを算出する。平均重合度の確率分布は、Dt(1)~Dt(L)から得られる。
【0064】
【数9】
【0065】
劣化判定部33は、対数尤度比LRが閾値を超える場合に、変圧器2が異常と判定することができる。
【0066】
変形例.
本開示は、上記の実施形態に限定されるものではない。たとえば、以下のような変形例も想定される。
【0067】
(1)カルマンフィルタ
上記の実施形態では、尤度推定処理で事後確率密度分布を推定する方法として粒子フィルタを用いたが、これに限定されるものではない。たとえば、カルマンフィルタが用いられるものとしてもよい。
【0068】
(2)初期値の学習
図2のフローチャートの処理によって推定された残存寿命と、実際の変圧器の寿命とに基づいて、図2のフローチャートのステップS101のD0とR0の初期化される値を変更するものとしてもよい。
【0069】
たとえば、D0=1100、R0=18000に設定したときに、時刻t=3において、ステップS104がYESと判断された場合に、実際に変圧器2が寿命に達していなかった場合には、異常判定装置は、D0の値を1100よりも小さな値に設定し、R0の値を18000よりも小さな値に設定するものとしてもよい。
【0070】
(3)深層学習
異常判定装置は、平均重合度の時系列変化を学習などによって学習し、将来の平均重合度を予測するものとしてもよい。そして、異常判定装置は、予測された将来の平均重合度を測定値の代わりに用いて、将来の残存寿命を推定するものとしてもよい。
【0071】
学習アルゴリズムとしては、特徴量そのものの抽出を学習する、深層学習(Deep Learning)を用いることもでき、他の公知の方法、例えば遺伝的プログラミング、機能論理プログラミング、サポートベクターマシンなどに従って機械学習を実行してもよい。
【0072】
(4)実施の形態で説明した異常判定装置3は、相当する動作をデジタル回路のハードウェアまたはソフトウェアで構成することができる。異常判定装置3の機能をソフトウェアを用いて実現する場合には、異常判定装置3は、例えば、図5に示すように、バス1001で接続されたプロセッサ1003とメモリ1002とを備え、メモリ1002に記憶されたプログラムをプロセッサ1003が実行するようにすることができる。
【0073】
(5)付記
(付記1)
変圧器内の絶縁油に溶解する特定成分の溶解ガス量から、前記変圧器内の絶縁紙の平均重合度を計測する分析装置と、
前記変圧器の寿命損失に基づく前記変圧器の残存寿命である状態変数の時間変化の関係を表わす状態方程式と、前記平均重合度である観測変数と前記状態変数との関係を表す観測方程式と、前記分析装置によって計測された平均重合度の測定値とに基づいて、前記変圧器の異常を判定する異常判定装置と、を備えた変圧器の診断装置。
【0074】
(付記2)
前記異常判定装置は、前記状態方程式として式(A1)を用い、前記観測方程式として式(A2)を用い、
【0075】
【数10】
【0076】
ただし、Rtは、時刻tの残存寿命、Dtは、時刻tの平均重合度、Vtは、時刻tの寿命損失、utは、時刻tのシステムノイズ、vtは、時刻tの観測ノイズである、付記1記載の変圧器の診断装置。
【0077】
(付記3)
前記異常判定装置は、前記変圧器のホットスポット温度に基づいて、前記変圧器の寿命損失を算出する、付記1または2記載の変圧器の診断装置。
【0078】
(付記4)
前記異常判定装置は、粒子フィルタリングを用いて、前記状態変数を推定する、付記1~3のいずれか1項に記載の変圧器の診断装置。
【0079】
(付記5)
変圧器内の絶縁油に溶解する特定成分の溶解ガス量から、前記変圧器内の絶縁紙の平均重合度を計測するステップと、
前記変圧器の寿命損失に基づく前記変圧器の残存寿命である状態変数の時間変化の関係を表わす状態方程式と、前記平均重合度である観測変数と前記状態変数との関係を表す観測方程式と、計測された平均重合度の測定値とに基づいて、前記変圧器の異常を判定するステップとを含む、変圧器の診断方法。
【0080】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0081】
1 変圧器の診断装置、2 変圧器、3 異常判定装置、4 表示装置、5 油中ガス分析装置、6 温度センサ、7 計測データベース、8 伝送装置、31 予測部、32 尤度推定部、33 劣化判定部、1001 バス、1002 メモリ、1003 プロセッサ。
図1
図2
図3
図4
図5