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特開2023-183055免疫グロブリンA(IgA)の可変領域のアミノ酸配列の多様化を促進するための剤、腸管免疫増強剤、粘膜免疫増強剤及び免疫制御剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023183055
(43)【公開日】2023-12-27
(54)【発明の名称】免疫グロブリンA(IgA)の可変領域のアミノ酸配列の多様化を促進するための剤、腸管免疫増強剤、粘膜免疫増強剤及び免疫制御剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/702 20060101AFI20231220BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20231220BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20231220BHJP
【FI】
A61K31/702 ZNA
A61P37/02
A61P37/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022096449
(22)【出願日】2022-06-15
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】505089614
【氏名又は名称】国立大学法人福島大学
(74)【代理人】
【識別番号】100110766
【弁理士】
【氏名又は名称】佐川 慎悟
(74)【代理人】
【識別番号】100165515
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 清子
(74)【代理人】
【識別番号】100169340
【弁理士】
【氏名又は名称】川野 陽輔
(74)【代理人】
【識別番号】100195682
【弁理士】
【氏名又は名称】江部 陽子
(74)【代理人】
【識別番号】100206623
【弁理士】
【氏名又は名称】大窪 智行
(72)【発明者】
【氏名】松田 幹
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA01
4C086NA14
4C086ZB07
4C086ZB09
(57)【要約】
【課題】免疫グロブリンA(IgA)の可変領域のアミノ酸配列の多様化を促進するための剤、体内に侵入する多様な物質に対して結合・排出が可能であり、幅広い抗原や病原体による疾患、症状等を予防又は治療することのできる腸管免疫増強剤及び粘膜免疫増強剤、並びに免疫制御剤を提供する。
【解決手段】分泌型免疫グロブリンA(sIgA)の可変領域のアミノ酸配列の多様化を促進するための剤は、ラフィノースを有効成分とする。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラフィノースを有効成分とする、免疫グロブリンA(IgA)の可変領域のアミノ酸配列の多様化を促進するための剤。
【請求項2】
前記可変領域は、重鎖可変領域である、
ことを特徴とする請求項1に記載の剤。
【請求項3】
前記IgAは、腸管分泌型IgA又は粘膜分泌型IgAである、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の剤。
【請求項4】
ラフィノースを有効成分とする、腸管免疫増強剤。
【請求項5】
ラフィノースを有効成分とする、粘膜免疫増強剤。
【請求項6】
ラフィノースを有効成分とする、免疫制御剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免疫グロブリンA(IgA)の可変領域のアミノ酸配列の多様化を促進するための剤、腸管免疫増強剤、粘膜免疫増強剤及び免疫制御剤に関する。
【背景技術】
【0002】
免疫グロブリンA(Immunoglobulin A:IgA)は、抗体の一種で、ヒトの体内ではIgGに次いで2番目に多い抗体である。特に、眼、鼻、喉、消化管などの外界と接する粘膜組織において、粘膜表面に分泌されるIgAは、分泌型IgA(sIgA)と呼ばれる。
【0003】
ラフィノースは、ビフィズス菌・乳酸桿菌に資化される三糖のオリゴ糖であり、大豆やビートをはじめ植物界に広く分布している。
【0004】
ラフィノースの、アレルギーやアトピー性皮膚炎を改善する効果について、以下のとおり報告がなされてきた。
【0005】
特許文献1には、ラフィノースを有効成分とするIgE抗体産生低減剤及びアレルギー体質改善剤が開示されている。また、特許文献2には、ラフィノースを有効成分とする抗アトピー性皮膚炎組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001-288093号公報
【特許文献2】特開平11-255656号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の剤は、IgE抗体産生を低減することで抗アレルギー作用を有するものの、IgAに対する効果は不明であった。また、特許文献2の組成物は、アトピー性皮膚炎に効果を奏するものの、多種多様な抗原によるアレルギーに対して一律に効果を有するものではない点で課題を残していた。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、免疫グロブリンA(IgA)の可変領域のアミノ酸配列の多様化を促進するための剤、体内に侵入する多様な物質に対して結合・排出が可能であり、幅広い抗原や病原体による疾患、症状等を予防又は治療することのできる腸管免疫増強剤及び粘膜免疫増強剤、並びに免疫制御剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の第1の観点に係る免疫グロブリンA(IgA)の可変領域のアミノ酸配列の多様化を促進するための剤は、
ラフィノースを有効成分とする。
【0010】
例えば、前記可変領域は、重鎖可変領域である。
【0011】
例えば、前記IgAは、腸管分泌型IgA又は粘膜分泌型IgAである。
【0012】
本発明の第2の観点に係る腸管免疫増強剤は、
ラフィノースを有効成分とする。
【0013】
本発明の第3の観点に係る粘膜免疫増強剤は、
ラフィノースを有効成分とする。
【0014】
本発明の第4の観点に係る免疫制御剤は、
ラフィノースを有効成分とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、免疫グロブリンA(IgA)の可変領域のアミノ酸配列の多様化を促進するための剤、体内に侵入する多様な物質に対して結合・排出が可能であり、幅広い抗原や病原体による疾患、症状等を予防又は治療することのできる腸管免疫増強剤及び粘膜免疫増強剤、並びに免疫制御剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】ラフィノース摂取によってマウスの組織におけるIgAのCDR3の多様化が促進されたことを表すグラフ図であり、(a)は対照群、(b)はラフィノース群のグラフ図である。
図2】ラフィノース摂取によってマウスの組織におけるIgAのCDR3配列の多様化が促進されたことを表すグラフ図である。
図3】ラフィノース摂取によってマウスの組織におけるIgAのVDJ領域の多様化が促進されたことを表すグラフ図である。
図4】ラフィノース摂取によってマウスの腸管に分泌されたIgA抗体の抗原結合の多様化が促進されたことを表すグラフ図であり、(a)は対照群、(b)はラフィノース群のグラフ図である。
図5】ラフィノース摂取によってマウスの組織において免疫制御に関わる遺伝子の発現が促進されたことを表すグラフ図であり、(a)はTgfb1、(b)はFoxp3のグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(1.免疫グロブリンA(IgA)の可変領域のアミノ酸配列の多様化を促進するための剤)
本発明のIgAの可変領域のアミノ酸配列の多様化を促進するための剤は、ラフィノースを有効成分として含有する。IgAは、未消化のタンパク質、病原菌、毒素等と結合し、それらの吸収を抑制する作用を有する。したがって、本発明による剤は、IgAの可変領域のアミノ酸配列の多様化を促進することで、後述するように幅広い抗原や病原体による疾患、症状等を予防又は治療することができる。
【0018】
免疫グロブリンA(Immunoglobulin A:IgA)は、抗体の一種で、ヒトの抗体の中では量的に最も優勢な抗体で、その多くは腸管や気道など体外に分泌される。IgAは、体内でもIgGに次いで2番目に多い抗体である。IgAは、同じ構造をした2本の重鎖(H鎖)と2本の軽鎖(L鎖)とによって形成されている。H鎖及びL鎖のN末端側に存在する、VH及びVL領域は、IgAの「可変領域」と呼ばれており、構成するアミノ酸の種類、配列ともに多様性が見られる。H鎖の可変領域においては、超可変領域(相補性決定領域:complementarity determining region(CDR))と呼ばれる3つの小さな領域が存在している。CDRは5~10個のアミノ酸によって構成される短い配列であり、特にアミノ酸配列の多様性に富むことが知られている。CDRを構成するアミノ酸の種類及び配列の違いによって、認識する抗原が変化することから、CDRは抗体の抗原認識特異性を決定づけているといえる。
【0019】
本発明による剤は、IgAの可変領域のアミノ酸配列の多様化を促進する。本明細書において「IgAの可変領域のアミノ酸配列の多様化を促進する」とは、ラフィノースを摂取した個体由来のIgAの可変領域のアミノ酸配列と、ラフィノース非摂取又は摂取前の個体由来のIgAの可変領域のアミノ酸配列と、を比較した場合、後者より前者のほうで同一の配列の割合が減少し、異なる配列(特に、互いに類似度の低い配列)の割合が増大することを意味する。異なる配列の割合の増大の程度は、例えば、可変領域のアミノ酸配列の種類の数、可変領域のアミノ酸配列の同一性又は相同性、IgAの抗原特異性、抗原結合性の変化等を指標とすることができる。
【0020】
「IgAの可変領域のアミノ酸配列の多様化を促進する」ことの確認方法は、例えば、後述の実施例に記載される方法が挙げられる。具体的には、ラフィノースを摂取した個体の組織からtotal RNAを抽出し、cDNAを調製する。調製したcDNAを鋳型として、IgA重鎖可変領域に特異的なプライマーを用いたPCRにより、IgAの可変領域であるVDJ遺伝子領域を網羅的に増幅し、次世代シーケンサー(NGS:Next Generation Sequencer)を用いて、その塩基配列を決定する。続いて、免疫グロブリン配列解析パイプラインを用いて得られた塩基配列データを解析し、アミノ酸配列及び各配列のリードカウントを計算し、種数を測定する。ラフィノース非摂取又は摂取前の個体由来の当該種数と比較し、ラフィノースを摂取した個体由来の当該種数が多い場合(diversity)に、またリードカウントが特定の配列に偏っていない場合(evenness)に、IgAの可変領域のアミノ酸配列の多様化が促進されたことを確認することができる。
【0021】
本発明において、「IgAの可変領域」は、重鎖(H鎖)可変領域又は軽鎖(L鎖)可変領域のいずれであってもよいが、好ましくは重鎖(H鎖)可変領域である。また、「IgAの可変領域」は、重鎖(H鎖)相補性決定領域(CDR)1~3又は軽鎖(L鎖)相補性決定領域(CDR)1~3のいずれであってもよいが、好ましくは、抗原結合に最も寄与する重鎖(H鎖)相補性決定領域(CDR)3又はVDJ領域である。CDR3は、V遺伝子、Dセグメント及びJ遺伝子の3つが連結した領域であり、VDJ領域は、抗体V遺伝子、Dセグメント及びJ遺伝子にコードされる領域である。なお、本発明による剤は、CDR3配列の多様性を促進するとともに、VDJ領域の配列の多様性を促進してもよい。
【0022】
本発明において、免疫グロブリンA(IgA)は、眼、鼻、喉、消化管等の外界と接する粘膜組織、脾臓などいずれの組織由来のIgAであってもよいが、好ましくは腸管分泌型IgA又は粘膜分泌型IgAである。腸管を含む消化管等の外界と接する粘膜組織において、粘膜表面に分泌されるIgAは、分泌型IgA(sIgA)と呼ばれ、sIgAは、未消化のタンパク質、病原菌、毒素などと結合し、それらの吸収を抑制することが報告されている。
【0023】
本発明のIgAの可変領域のアミノ酸配列の多様化を促進するための剤は、ラフィノースを有効成分として含有する。ラフィノース(Galactose α(1→6)Gulcose α(1→2)β Fructose)は、ビフィズス菌・乳酸桿菌に資化される三糖(Gal-Glc-Fru)であり、大豆やビートをはじめ植物界に広く分布している。
【0024】
本発明の剤の投与剤型は任意であり、例えば、錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤等の経口用固形製剤(サプリメントを含む)、内服液剤、シロップ剤等の経口用液体製剤、注射剤などの非経口用液体製剤等に適宜調製することができる。また、適切なドラッグデリバリーシステム(DDS)を用いてもよい。また、医薬品又はサプリメント中に通常用いられる賦形剤、結合剤、滑沢剤、着色剤、崩壊剤、増粘剤、保存剤、安定化剤、pH調整剤等を添加することができる。また、本剤の投与方法についても任意であり、ヒト又は非ヒト哺乳動物に対し、経口投与、静脈内投与、腹腔内投与、皮内投与、舌下投与、局所投与等、適宜選択され得る。なお、上記については、後述の腸管免疫増強剤、粘膜免疫増強剤及び免疫制御剤においても同様である。
【0025】
本発明の剤の投与量及び投与間隔は、投与対象の年齢、体重、適応症状等によって適宜設定することができ、例えば、1日に1~3回投与であってもよいが、これに制限されるものではなく、また、食事中投与、食後投与、食前投与、食間投与、就寝前投与等のいずれも可能である。なお、上記については、後述の腸管免疫増強剤、粘膜免疫増強剤及び免疫制御剤においても同様である。
【0026】
本発明の剤を飲食品又は飼料に用いてもよい。この場合、顆粒状、粒状、ペースト状、ゲル状、固形状、液体状等の状態で用いることができる。また、飲食品中又は飼料中に含有させることが認められている賦形剤、結合剤、崩壊剤、増粘剤、分散剤、再吸収促進剤、矯味剤、緩衝剤、界面活性剤、溶解補助剤、保存剤、乳化剤、等張化剤、安定化剤、pH調製剤等を適宜含有させることができる。なお、上記については、後述の腸管免疫増強剤、粘膜免疫増強剤及び免疫制御剤においても同様である。
【0027】
本発明の剤を飲食品に用いる場合、摂取量及び摂取間隔は、摂取対象の年齢、体重、適応症状等によって適宜設定することができ、例えば、1日に1~3回摂取であってもよいが、これに制限されるものではない。また、例えば、腸管免疫増強、粘膜免疫増強等をコンセプトとし、必要に応じてその旨を表示した飲食品、機能性食品、病者用食品、特定保健用食品等に応用することができる。なお、上記については、後述の腸管免疫増強剤、粘膜免疫増強剤及び免疫制御剤においても同様である。
【0028】
本発明の剤を飼料に用いる場合、例えば、哺乳類、鳥類、魚類等の産業動物及び伴侶動物に対する飼料・餌料、ペットフード、ペット用サプリメント等に使用することができる。なお、上記については、後述の腸管免疫増強剤、粘膜免疫増強剤及び免疫制御剤においても同様である。
【0029】
本発明による剤は、IgAの可変領域のアミノ酸配列の多様化を促進するため、結合できる未消化のタンパク質、病原菌、毒素などの種類を増やし、それに伴い、予防又は改善できる疾患(例えば、免疫機能の低下に起因して起こる感染症、アレルギー性疾患、炎症性疾患等)の種類を増やすことができ、様々な疾患の予防又は治療効果を得ることができる。本発明による剤は、IgAの可変領域のアミノ酸配列の多様化を促進することに意義を有する、すべての用途に用いることができる。
【0030】
なお、本明細書において、疾患の「予防」には、該疾患の発症を抑制する又は遅延させ、またその再発を抑制することが含まれ、疾患の「治療」には、該疾患を完全に治療することの他、症状を緩和し、またその進行を抑制することも含まれる。
【0031】
なお、本発明には、ラフィノースを有効成分とする、IgA抗体の抗原結合の多様性を促進するための剤も包含される。ラフィノースによって、IgAの可変領域のアミノ酸配列の多様性が促進されることで、細菌・ウイルス抗原、自己抗原、食物抗原など多様な抗原に対するIgA抗体の結合が促進される。ラフィノースによってIgA抗体の抗原結合の多様性が促進されることで、体内に侵入してきた多様な物質に対して結合・排出が可能となることから、本発明の剤によって幅広い抗原や病原体による疾患、症状等を予防又は治療することができる。
【0032】
(2.腸管免疫増強剤)
本発明の腸管免疫増強剤は、ラフィノースを有効成分とする。
【0033】
本発明の腸管免疫増強剤は、ラフィノースを有効成分として含有することで、腸管分泌型IgAの可変領域のアミノ酸配列の多様化を促進する。このため、腸管分泌型IgAが幅広い種類の未消化のタンパク質、病原菌、毒素などと結合できるようになり、それらの吸収を抑制することで、腸管免疫を増強させることができる。その結果、腸管免疫機能の低下に起因して起こる感染症、アレルギー性疾患、炎症性疾患等、様々な疾患、症状等への予防又は治療効果を得ることができる。また、これら以外にも、腸管分泌型IgAの可変領域のアミノ酸配列の多様化を促進することに意義を有する、すべての用途に用いることができる。
【0034】
(3.粘膜免疫増強剤)
本発明の粘膜免疫増強剤は、ラフィノースを有効成分とする。
【0035】
本発明の粘膜免疫増強剤は、ラフィノースを有効成分として含有することで、眼、鼻、喉、消化管等の外界と接する粘膜組織に分泌される分泌型IgA(sIgA)の可変領域のアミノ酸配列の多様化を促進する。このため、sIgAが幅広い種類の未消化のタンパク質、病原菌、毒素などと結合できるようになり、それらの吸収を抑制することで、粘膜免疫を増強させることができる。その結果、免疫機能の低下に起因して起こる感染症、アレルギー性疾患、炎症性疾患等、様々な疾患、症状等への予防又は治療効果を得ることができる。また、これら以外にも、sIgAの可変領域のアミノ酸配列の多様化を促進することに意義を有する、すべての用途に用いることができる。
【0036】
(4.免疫制御剤)
本発明の免疫制御剤は、ラフィノースを有効成分とする。
【0037】
本発明の免疫制御剤は、ラフィノースを有効成分として含有することで、免疫制御に関わる因子(例えば、TGF-β1(Transforming Growth Factor-β:免疫抑制性又は抗炎症性サイトカイン)、Foxp3(forkhead box P3:制御性T細胞(Treg)のマスター転写因子)等)の発現を増強し、例えば、自己免疫疾患(ベーチェット病、全身性エリテマトーデス、多発性硬化症、潰瘍性大腸炎、クローン病、強皮症、多発性筋炎、皮膚筋炎、結節性動脈周囲炎、大動脈炎症候群、悪性関節リウマチ、関節リウマチ、若年性特発性関節炎、ウェゲナー肉芽腫症、混合性結合組織病、シェーグレン症候群、成人スティル病、アレルギー性肉芽腫性血管炎、過敏性血管炎、コーガン症候群、RS3PE、側頭動脈炎、リウマチ性多発筋痛症、線維筋痛症、抗リン脂質抗体症候群、好酸球性筋膜炎、IgG4関連疾患、ギラン・バレー症候群、重症筋無力症、慢性萎縮性胃炎、自己免疫性肝炎、原発性胆汁性肝硬変、大動脈炎症候群、グッドパスチャー症候群、急速進行性糸球体腎炎、巨赤芽球性貧血、自己免疫性溶血性貧血、自己免疫性好中球減少症、特発性血小板減少性紫斑病、バセドウ病、橋本病、自己免疫性副腎機能不全、原発性甲状腺機能低下症、特発性アジソン病、I型糖尿病、緩徐進行性I型糖尿病、慢性円板状エリテマトーデス、限局性強皮症、乾癬、乾癬性関節炎、天疱瘡、類天疱瘡、妊娠性疱疹、線状IgA水疱性皮膚症、後天性表皮水疱症、円形脱毛症、白斑、尋常性白斑、アトピー性皮膚炎、視神経脊髄炎、慢性炎症性脱髄性多発神経炎、サルコイドーシス、水疱性類天疱瘡、巨細胞性動脈炎、筋委縮性側索硬化症、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症、原田病、自己免疫性視神経症、特発性無精子症、習慣性流産、炎症性腸疾患、セリアック病等)、移植片対宿主病、重症薬疹等、様々な免疫系疾患に対して予防又は治療効果を得ることができる。
【実施例0038】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0039】
以下の実施例では、特段の記載のない限り、百分率(%)は質量%を示す。また、固形分濃度は、試料に含まれる可溶性固形分の含有量を表す。
【0040】
(実施例1)
(試験方法)
抗カゼイン高応答系統の4週齢のDBA/2雌性マウス(日本SLC)を対照群(n=8)及びラフィノース群(n=8)の2群に分け、対照群には、一般的な精製飼料であるAIN-93Gを基本として精製した飼料(コントロール飼料)を与えた。一方で、ラフィノース群には、コントロール飼料中のコーンスターチを、ラフィノース含量が5%(w/w)となるようにラフィノース(Galactose α(1→6)Gulcose α(1→2)β Fructose:日本甜菜製糖株式会社)へ置き換えた飼料を与えた。飼育開始から10週間後に解剖を実施し、小腸(回腸部分)、小腸(パイエル板を含む)、盲腸及び脾臓を採取した。
【0041】
(採取した組織からのtotal RNA抽出)
対照群及びラフィノース群から各々摘出した組織(小腸、脾臓、パイエル板及び盲腸)からのRNA抽出を行った。採取した組織を1.5mLチューブに移し、TRIzolを1mL添加した後、バイオマッシャーを用いて組織を破砕した。その破砕液400μLを新しい1.5mLチューブに移し、ここにクロロホルムを80μL添加した後、vortexで10秒間攪拌することで溶液をホモジナイズした。室温で5分間静置した後、遠心分離(12,000rpm、15分間、4℃)を行った。中間層のタンパク質及び下層を混入させないように、上層160μLを採取し、新しい1.5mLチューブに移した。ここにイソプロパノールを200μL加え、vortexで5秒間攪拌し、室温で10分間静置した後、遠心分離(12,000rpm、10分間、4℃)を行った。上清をデカンテーションにより除去した後、75%エタノールを400μL添加し、3~4回転倒混和した。遠心分離(12,000rpm、10分間、4℃)し、上清を除去した後、室温で数分間風乾した。DEPC処理水を16μL添加し、沈殿を溶解して得られた溶液をtotal RNA溶液とした。その後、NANO DROP 2000 Spectrophotometer(Thermo)を用いて、total RNA溶液中のRNA濃度及び純度(A260/A280)を測定した。このtotal RNA溶液1μLを用いて1%アガロースゲル電気泳動を行い、18S及び28S rRNAの存在を確認した(図示せず)。
【0042】
(DNase処理によるゲノムDNAの除去)
Total RNA 1~4μgに、10×DNaseI Reaction Buffer(Invitrogen)1.75μL、Recombinant DNaseI(amplification grade、1U/μL、Invitrogen)1.75μL及びDEPC処理水を添加した。DEPC処理水を、溶液の液量が17.5μLになるように加えた。この溶液を室温で15分間静置した後、25mM EDTAを1.75μL添加し、65℃で10分間加温した。
【0043】
(逆転写反応:RT)
RT(+)、RT(-)ともに、DNase処理済みTotal RNA 11μL(RNA量が全個体で等しくなるようにDEPC処理水で希釈)にOligo(dT)12-18 Primer(0.5μg/μL、Invitrogen)を1μL添加し、70℃で10分間静置した後、氷上で3分間静置した。5×First Strand Buffer(Invitrogen)を4μL、0.1M DTTを2μL、10mM dNTPs Mix(TaKaRa)を1μL加え混合し、RT(+)には Super ScriptII(Invitrogen)を1μL、RT(-)にはDEPC処理水を1μL添加した後、42℃で50分間静置した。その後、70℃で15分間静置し、得られた溶液をcDNAプールとした。
【0044】
(IgA可変領域cDNAのPCR増幅及びNGS解析)
(プライマーの設計)
上記で得られた各cDNAプールを用いて、IgA可変領域(VH領域からCα領域)をPCRにより増幅及びアガロースゲル電気泳動によって確認するため、以下に示したプライマーを作成した。IgAのH鎖の定常領域(Cα)とV遺伝子領域(VH)とに相補的なプライマーを用いた(Lindner et al.,2012)。なお、両プライマーともに、次世代シーケンサーを用いた解析を行うために、プライマーの5’末端側に 次世代シークエンサーIllumina MiSeq用のオーバーハング配列を付加した。
・Forward(定常領域(Cα))
5’-TCGTCGGCAGCGTCAGATGTGTATAAGAGACAGGAGCTCGTGGGAGTGTCAGTG-3’(配列番号1)
(Forwardオーバーハング配列:(5’側から)「TCGTCGGCAGCGTCAGATGTGTATAAGAGACAG」)
・Reverse(マウスに固有のすべてのVH遺伝子、VH遺伝子の5’保存領域)
5’-GTCTCGTGGGCTCGGAGATGTGTATAAGAGACAGGAGGTGCAGCTGCAGGAGTCTGG-3’(配列番号2)
(Reverseオーバーハング配列:(5’側から)「GTCTCGTGGGCTCGGAGATGTGTATAAGAGACAG」)
【0045】
上記で得られた各cDNAプールを鋳型として、上記のプライマーを用いてPCRを行った。反応条件は以下のとおりである。
cDNA template 5μL
10×Ex Taq buffer 5μL
2.5mM dNTP Mixture 4μL
TaKaRa Ex Taq 0.25μL
10μM Forward primer 3μL
10μM Reverse primer 3μL
SQ 29.75μL
Total 50μL
96℃、2分→(95℃、10秒→58℃、30秒→72℃、1分)×35サイクル→4℃、時間無制限(∞)
【0046】
(アンプリコンPCR:IgA可変領域のcDNAの増幅(アンプリコンの調製))
前述で得られた各組織由来のcDNAプール及び次世代シークエンサーIllumina MiSeq用のオーバーハング配列を付加したプライマーを用いて、IgA可変領域(VH領域から定常領域(Cα)領域)をPCRにより増幅した。
【0047】
各組織由来のcDNAの一定量(3μL)を鋳型に、DNAポリメラーゼであるPrimeSTAR HS DNA Polymerase(TaKaRa)を用いてマウスIgA重鎖の可変領域のcDNAを増幅した。
【0048】
(アガロースゲル電気泳動によるPCR増幅産物の確認及びDNA量の推定)
電気泳動後の各サンプルのバンド強度をImage Jにより定量し、100 bp DNA Lagger(BioLabs)中の500bpのバンドとバンド強度比較を行い、各サンプル1μL中のDNA量を概算した。この数値を用いて、後述する測定サンプルの混合を行った。
【0049】
(PCR産物の精製(PCR Clean-UP 1))
前述のとおり増幅した各組織由来のcDNAについて、磁気ビーズAMPure XP beads(BECKMAN COULTER)を用いてプライマー及び塩類を除去し、PCRで得られた増幅DNA(アンプリコン)の精製を行った。精製したDNA溶液を次のインデックスPCRの鋳型として用いた。
【0050】
Amplicon PCR産物25μLが入った96穴PCRプレートの各ウェルに、30分室温に戻した磁気ビーズAMPure XP beadsを25μLずつ添加し、ピペッティングにより穏やかに懸濁した。室温で5分間静置した後、96穴PCRプレートをマグネティックスタンド(96S Super Magnet Plate、ALPAQUA)にセットし、上清が透明になるまで静置した。上清を除去した後の各ウェルに80%エタノールを200μL加え、マグネティックスタンド上で30秒間静置し、上清を除去した。再度80%エタノールを200μL加え、マグネティックスタンド上で30秒間静置し、上清を除去した。P20マイクロピペットで残存しているエタノールを完全に除去し、マグネティックスタンド上で、10分間風乾した。96穴PCRプレートをマグネティックスタンドから外し、各ウェルにTris緩衝液EDTA(TE)を52.5μL加えた後、穏やかにピペッティングし、磁気ビーズを完全に再懸濁させた。室温で2分間静置した後、96穴PCRプレートをマグネティックスタンドにセットし、上清が透明になるまで静置した。上清を50μL回収し、このDNA溶液をIndex PCRの鋳型として用いた。
【0051】
(インデックスPCRプライマー)
上記オーバーハング配列の5’側に個体・組織識別用のインデックス配列を付加したインデックスPCRプライマーを合成した。
・インデックスPCRプライマー(Index 1)
5’-CAAGCAGAAGACGGCATACGAGAT(配列番号3)-Index1-Reverseオーバーハング配列-3’
・インデックスPCRプライマー(Index 2)
5’-AATGATACGGCGACCACCGAGATCTACAC(配列番号4)-Index2-Forwardオーバーハング配列-3’
【0052】
(インデックスPCR:インデックスタグを付加したアンプリコンの調製)
前述のとおり精製したアンプリコンPCR産物を鋳型に、DNAポリメラーゼであるPrimeSTAR HS DNA Polymerase(TaKaRa)を用いて、以下の反応液組成及び反応条件でインデックスPCRを行った。
【0053】
(PCR産物の精製(PCR Clean-UP 2))
前述のPCR Clean-UP 1と同様、AMPure XP beadsを用いて、インデックスPCRで得られたPCR産物の精製を行った。
【0054】
精製操作は、PCR Clean-UP 1と同様に行ったが、PCR Clean-UP 2では、インデックスPCR産物50μLに対し、AMPure XP beadsを56μL加えた。また、ビーズからのDNA溶出の際には、TEを27.5μL加え、25μLのDNA溶液を回収した。
【0055】
(次世代シーケンサー(NGS)解析用サンプルの調製)
マウス各個体(2群、n=8/群)の小腸組織由来及び盲腸組織由来のcDNAから調製したインデックスタグ付きアンプリコンDNAサンプルを1つのチューブに、脾臓組織由来及びパイエル板由来のcDNAから調製したインデックスタグ付きアンプリコンDNAサンプルを別の1つのチューブに混合し、2サンプルとした。1サンプル(1チューブ)に含まれるDNAは、2群×8個体×4組織=64アンプリコンとなる。ここに、別の研究での32アンプリコンを相乗りさせて、合わせて96アンプリコンとして2サンプル(10万リードペア/サンプル)とした。なお、アンプリコンPCR後にバンド強度から概算した各サンプル1μL中のDNA量をもとに、各サンプル中DNA量が10ngとなるように混合した。
【0056】
(次世代シークエンサー(NGS)による塩基配列解析)
次世代シークエンサー(Illumina MiSeq 300PE)による塩基配列解析は、外部委託(北海道システム・サイエンス株式会社)により行った。Agilent 2200 TapeStation Systemによってアンプリコンの濃度測定・品質の確認を行った後、次世代シーケンサー(Illumina MiSeq 300PE)を使用して、以下の条件でシークエンス解析を行った。
解析方法:Paired end
読み取り塩基長:300塩基/リード
取得リード数:20万リードペア/2サンプル
平均取得リード数:10万リードペア(20万リード)
【0057】
1サンプル(チューブ)には、インデックスタグを付した、48検体由来のアンプリコンが含まれており、平均取得リード数を10万リードペアとすると、1検体あたり約2000リードペア程度の塩基配列が得られることが想定された。
【0058】
(IgA重鎖可変領域(VDJ領域)塩基配列のレパートリー解析)
次世代シーケンサー(Illumina MiSeq 300PE)によるPaired-endシーケンシングで得られた個体・組織ごとのIgA重鎖可変領域の塩基配列データ(FASTq file)をウェブサーバー上で公開されている免疫グロブリン配列解析パイプラインASAP(Front Immunol.2018 Jul 30;9:1686.doi:10.3389/fimmu.2018.01686.eCollection 2018.)を用いて以下の項目のデータを得た。
(1)マウス個体ごとのVDJ領域の塩基配列とリード数(総リード数)
(2)CDR3 sequence read counts:VDJの各遺伝子断片の連結部近傍で超可変領域の一つで、抗原結合における相補性を決定する領域3(相補性決定部位3:CDR3)について、この領域の塩基配列から翻訳したアミノ酸配列とそれぞれのリードカウント
(3)IGH somatic hyper mutations:VDJ領域に見られる体細胞変異(生殖細胞系列との塩基配列の違い)のリードごとの数(変異塩基の総数を総リード数で除した値)
(4)IGH V-J usage:可変領域に動員されているVDJ遺伝子断片の種類(属するファミリーの種類)
【0059】
前述のとおり次世代シーケンサーにより得られたデータを評価及び描出した。対照群とラフィノース群の2群間の統計的有意性を、マンホイットニーU検定(ウィルコクソン符号順位検定)及びT検定を使用して評価した。ボックスウィスカープロットでは、ボックスは25パーセンタイルから75パーセンタイルまで伸び、50パーセンタイルが内部に描画された。
【0060】
(結果)
結果を図1図3に示す。図1において、縦軸はリードカウント(同じCDR3を持つreadの数)、横軸はIgA重鎖のVDJ遺伝子の連結部であるCDR3配列の数(種類)を表す。また、図2において、縦軸は、重鎖のCDR3の種数を総リード数で除した値を表す。さらに、図3において、縦軸はVDJ領域の変異塩基数(単位リード当たりの平均値)を表す。図1は、マウスの小腸(回腸部分)におけるリードカウント及びCDR3配列の数を示す。ラフィノース群(図1(b))では、リード数が少ない配列が多く存在しており、対照群(図1(a))に比して配列の種類の数が顕著に多く(8個体中6個体で200種類以上)、CDR3の配列の多様化が促進されたことが示された。図2は、組織間で統計的に比較解析するために、上記の小腸(回腸部分)に加え、小腸(パイエル板を含む部分)、盲腸及び脾臓におけるCDR3の種数を総リード数で除した値として示す。その値は、小腸(回腸部)及び小腸(パイエル板を含む部位)のいずれにおいても危険率0.01以下で、さらに脾臓においても危険率0.05以下で、ラフィノース群が対照群に比べて有意に高かった。一方、盲腸においては、T検定では危険率0.05以下で有意に高いが、Wilcoxon順位和検定では有意差はなかった。以上の結果から、ラフィノース群においてCDR3の配列の多様化が促進されたことが示された。図3は、上記の4つの組織についてVDJ領域の変異塩基数(単位リード当たりの平均値)を2群間で比較した結果を示す。T検定では、盲腸以外の3つの組織において危険率0.05あるいは0.01以下で、ラフィノース群で有意に高いことが示された。一方、Wilcoxon順位和検定では、小腸(回腸)において危険率0.01以下で、ラフィノース群で有意に高いことが示された。以上の結果から、小腸及び脾臓では、ラフィノース群においてVDJ領域での体細胞突然変異(SHM)の頻度が有意に高く、CDR3配列での多様性に加えて、VDJ領域での配列の多様化も促進されたことが示された。これらの2つの異なる領域での多様性の増加は、その組合せの数を考慮すると相乗的な増加効果を示すものと考えられる。
【0061】
以上より、ラフィノースを摂取することで、各組織(特に腸管)におけるIgAの可変領域のアミノ酸配列の多様性が促進されることが示された。IgAの可変領域のアミノ酸配列の多様性が促進されることで、体内に侵入してきた多様な物質に対して結合・排出が可能となることから、幅広い抗原や病原体による疾患、症状等を予防又は治療することができる。
【0062】
(実施例2)
ラフィノースを摂取したマウスにおいて、腸管に分泌されたIgA抗体の抗原結合の多様性が促進されるかについて、ELISAにより検証した。
【0063】
実施例1の対照群及びラフィノース群において、飼育開始から10週間後のマウス糞便を採取し、以下の試験に用いた。
【0064】
(マウス糞便からの水溶性タンパク質画分(IgAを含む)の抽出)
マウスの新鮮糞便又は凍結保存したマウス糞便0.01g程度を秤量した後、1.5mLマイクロチューブ(Bio Masher(登録商標)II)に移し、そこに抽出buffer(組成については後述)を、糞便0.01g/抽出buffer 100μLとなるように添加した。ペッスル(Bio Masher(登録商標)II)を用いて糞便を分散させ懸濁させたた後、TAITEC ROTATORを用いて、4℃で一晩回転混和した。遠心分離(20,000×g,10min,4℃)した後、上清を新しい1.5mLマイクロチューブに移し、DISMIC CELLULOSE ACETATE(PORE SIZE 0.45μm,ADVANTEC(登録商標))を用いてフィルター濾過を行った。その後、フィルターを200μL 1×phosphate-buffered saline(PBS)で洗浄する操作を2回行い、得られた溶液を水溶性画分抽出溶液とした。
※抽出bufferの組成(各プロテアーゼ阻害剤を1×PBSに溶解)
プロテアーゼ阻害剤 終濃度
バシトラシン 50μg/mL
ベンズアミジン 300μg/mL
ロイペプチン 80μg/mL
キモスタチン 20μg/mL
ペプスタチン 25μg/mL
【0065】
(ELISA)
後述する自己抗原、細菌・ウイルス抗原、食物抗原など多様な抗原を用いて、それらに結合するIgA抗体を固相酵素免疫測定法(ELISA)により相対定量した。
【0066】
一次抗体については、上記の方法で抽出した溶液をIgA含有溶液として用いた(PBST(PBS,0.05% Tween20)で5倍希釈)(糞便単位重量当たりのIgA量に相当)。また、二次抗体として、1% BSA/PBS-Tweenで10000倍に希釈したPOD-抗マウスIgA(Nordic)を用いた。なお、POD基質(発色)液は、o-フェニレンジアミンをsubstrate buffer(0.05 M citrate,0.1M NaHPO,pH5.0)に2mg/5mLの割合で溶解させた溶液に、終濃度0.003%となるようHを加えたものである。
【0067】
反応はすべて100μLの系で行った。抗原溶液(組成については後述)を96穴プレート(NUNC)に加えた後、アルミホイルでプレートを覆い、4℃、一晩インキュベートした。抗原溶液を捨て、PBS-Tween(0.05% Tween20を含むPBS)で3回洗浄した。続いて1% BSA/PBS-Tweenを加え、37℃で60分間インキュベートしてブロッキングを行った。PBS-Tweenで洗浄後、一次抗体を加え、37℃、90分間インキュベートした。同様に3回洗浄後、二次抗体を加え、37℃で60分間インキュベートした。PBS-Tweenで3回洗浄後、100μLの発色液を加え、室温で90分間インキュベートした後、2.5M HSO 25μLを加え、発色反応を停止させて、492nmの吸光度を測定し、ELISA valueとした。
※抗原溶液の組成
・自己抗原
マウス血清アルブミン(MSA)、二本鎖DNA(DNA)
・細菌・ウイルス抗原
リポ多糖(LPS)、鞭毛抗原(Flagellin、図4ではFLAG)、乳酸菌菌体抗原(LB)、ノロウイルス粒子外殻抗原(NoVLP、図4ではVLP)
・食餌抗原
牛乳カゼイン(CN)、ウシ血清アルブミン(BSA)、大豆トリプシンインヒビター(SBTI)
・暴露経験のない抗原:貝のヘモシアニン(KLH)
【0068】
(結果)
結果を図4に示す。図4において、抗原として、MSA:マウス血清アルブミン、CN:牛乳カゼイン、SBTI:大豆トリプシンインヒビター、LPS:リポポリサッカライド、DNA:二本鎖デオキシリボ核酸、KLH:カラス貝ヘモシアニン、VLP:ノロウイルス外殻タンパク質粒子、FLAG:細菌鞭毛タンパク質、LB:乳酸菌菌体、BSA:ウシ血清アルブミンを表す。いずれの抗原においても、対照群(図4(a))に比してラフィノース群(図4(b))では、マウスの腸管に分泌されたIgA抗体の抗原結合が促進されていることが示された。したがって、ラフィノースを摂取することで、IgAの可変領域のアミノ酸配列の多様性が促進された結果、自己抗原、細菌・ウイルス抗原、食物抗原など多様な抗原に対するIgA抗体の結合が促進されることが証明された。ラフィノースによってIgA抗体の抗原結合の多様性が促進されることで、体内に侵入してきた多様な物質に対して結合・排出が可能となることから、幅広い抗原や病原体による疾患、症状等を予防又は治療することができる。
【0069】
(実施例3)
Real-time PCR法によって、免疫制御に関連する遺伝子であるTGF-β1及びFoxp3の発現解析を行った。TGF-β1(Transforming Growth Factor-β)は免疫抑制性又は抗炎症性サイトカインであり、Foxp3(forkhead box P3)は制御性T細胞(Treg)のマスター転写因子である。
【0070】
前述の実施例1で得られた各組織由来のcDNAプールにおけるTGF-β1(Tgfb1)及びFoxp3(Foxp3)の発現をRT-PCR及びアガロースゲル電気泳動によって確認するため、以下に示すプライマーを作成した。
<Tgfb1>
Forward:5’-AGCGGACTACTATGCTAAAG-3’(配列番号5)
Reverse:5’-TAATCTCTGCAAGCGCAG-3’(配列番号6)
<Foxp3>
Forward:5’-CTTTCACCTATGCCACCCTTATC-3’(配列番号7)
Reverse:5’-ATCTACGGTCCACACTCCTC-3’(配列番号8)
【0071】
(RT-PCR)
調製したcDNAプールを鋳型として、TGF-β1及びFoxp3のRT-PCRを行った。PCR産物5μLを用いて1%アガロースゲル電気泳動を行い、ゲノムDNAの混入が無いこと、また正常に逆転写が行われたことを確認した(図示せず)。
【0072】
(アガロースゲル電気泳動によるPCR増幅産物の確認)
RT-PCR産物5μLと6×dye 1μLを混合し、この混合液5μLを2%アガロースゲル(2%アガロース、エチジウムブロマイド含有Tris-borate buffer EDTA(TBE))に添加した後、電気泳動を行った。泳動終了後、UVを照射してRT-PCR産物を検出し、目的遺伝子の増幅を確認した(図示せず)。
【0073】
(絶対定量に用いる検量線用のcDNA断片の調製及び濃度/コピー数の算出)
(RT-PCR)
調製したcDNAプールを鋳型として、上記の反応条件でRT-PCRを行い、Tgfb1及びFoxp3の遺伝子断片を増幅した。PCR産物5μLを2%アガロースゲルを用いて電気泳動し、目的とするバンドを確認した。
<Tgfb1>
全長:2191bp、ORF:868..2040bp
増幅領域:1167..1347bp、cDNA断片の長さ:181bp
<Foxp3>
全長:3832bp、ORF:343..1632bp、
増幅領域:1358..1569bp、cDNA断片の長さ:212bp
【0074】
(TAクローニング)
下記の混合液を16℃で30分間静置することによりpANT Vector にTAクローニングを行った。
pANT Vector 0.9μL
精製後PCR産物 25ng
5×Ligation Mix 2μL
10× Enhancer Solution 1μL
超純水により合計で10μLにする
【0075】
(精製プラスミドDNAコピー数の算出)
以下に示す式より、精製プラスミドDNAコピー数を算出した。なお、挿入したcDNA断片の分子量はOligo Calculatorを用いて算出した。
コピー数(コピー/μL)=A/B ×6.022×1014
※A=A260より算出されたプラスミドDNA濃度(ng/μL)
※B=目的の遺伝子断片が挿入されたプラスミドDNAの分子量
【0076】
(Real-time PCRによる発現量解析)
cDNAプール溶液(RT(+)のみ)を鋳型に、SsoAdvanced(登録商標)Universal SYBR Green Supermix(Bio-Rad)を用いて、StepOne Real Time PCR System(applied bioscience systems)によるReal-time PCRを行った。なお、プライマーとしてRT-PCRで用いたプライマーと同様のものを使用した。
【0077】
(結果)
結果を図5に示す。マウスの小腸(回腸)、脾臓、盲腸及び小腸(パイエル板を含む)のいずれにおいても、対照群と比較してラフィノース群でTGF-β1及びFoxp3の発現が増強された。特に、全身性の免疫細胞群が集積する場所であり、生体における全身免疫系の応答に中心的な役割を持つ脾臓において、対照群に比してラフィノース群ではTGF-β1及びFoxp3の有意な発現増強が示された。TGF-β1は免疫抑制性又は抗炎症性サイトカインであり、Foxp3は制御性T細胞(Treg)のマスター転写因子であるため、これらの因子の発現を増強させることで、免疫制御の効果が期待される。
【0078】
以上より、ラフィノースを摂取することで、免疫制御に関わる因子の発現が増強されることが示された。したがって、ラフィノースは、免疫制御剤として使用でき、自己免疫疾患、移植片対宿主病、重症薬疹等、様々な免疫系疾患に対する予防又は治療効果が得られることが示唆された。
図1
図2
図3
図4
図5
【配列表】
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