(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023018309
(43)【公開日】2023-02-08
(54)【発明の名称】杭造成装置
(51)【国際特許分類】
E02D 3/12 20060101AFI20230201BHJP
【FI】
E02D3/12 102
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021122339
(22)【出願日】2021-07-27
(71)【出願人】
【識別番号】000222668
【氏名又は名称】東洋建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】弁理士法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】和田 眞郷
(72)【発明者】
【氏名】竹内 克昌
(72)【発明者】
【氏名】山崎 智弘
(72)【発明者】
【氏名】湯地 輝
【テーマコード(参考)】
2D040
【Fターム(参考)】
2D040AA01
2D040AB03
2D040BA03
(57)【要約】
【課題】セメントミルクを用いた地盤改良の際、地球温暖化に起因する二酸化炭素を地盤中に固定できる杭造成装置を提供する。
【解決手段】杭造成装置1は、内部にセメント及び水が流入されて、これらセメント及び水が攪拌されてセメントミルクを製造する、気密処理されたミキサー10のミキサー容器23と、該ミキサー容器23内に二酸化炭素を供給する二酸化炭素供給手段11と、ミキサー容器23内の二酸化炭素を含むセメントミルクを地盤中に圧送する圧送管32と、を備えている。そして、地球温暖化に起因する二酸化炭素はセメントミルクと反応して、炭酸カルシウムを含む改良杭として地盤中に固定化される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントミルクを地盤中に圧送、攪拌してセメント改良杭を造成する杭造成装置であって、
内部にセメント及び水が流入されて、これらセメント及び水が攪拌されてセメントミルクを製造する、気密処理された密閉容器と、
該密閉容器内に二酸化炭素を供給する二酸化炭素供給手段と、
前記密閉容器内の二酸化炭素を含むセメントミルクを地盤中に圧送する圧送管と、
を備えていることを特徴とする杭造成装置。
【請求項2】
前記密閉容器内の気中部の圧力を大気圧より大きくすることを特徴とする請求項1に記載の杭造成装置。
【請求項3】
前記二酸化炭素供給手段からの二酸化炭素は、前記密閉容器内のセメントミルク中に供給されることを特徴とする請求項1または2に記載の杭造成装置。
【請求項4】
セメントミルクを地盤中に圧送、攪拌してセメント改良杭を造成する杭造成装置であって、
内部にセメント及び水が流入されて、これらセメント及び水を攪拌してセメントミルクを製造する攪拌容器と、
該攪拌容器内のセメントミルクを地盤中に圧送する圧送管と、
該圧送管内に二酸化炭素を供給する二酸化炭素供給手段と、
を備えていることを特徴とする杭造成装置。
【請求項5】
前記二酸化炭素供給手段では、大気中の濃度よりも高濃度な二酸化炭素を供給することを特徴とする請求項1~4いずれかに記載の杭造成装置。
【請求項6】
前記二酸化炭素供給手段の下流側に配置され、該二酸化炭素供給手段からの二酸化炭素を気泡化するバブル生成手段を備えることを特徴とする請求項1~5いずれかに記載の杭造成装置。
【請求項7】
前記二酸化炭素供給手段では、海上施工の際に用いる作業船舶を含む工事設備からの排気ガスをそのまま、または作業船舶を含む工事設備からの排気ガス中の二酸化炭素を分離回収して供給することを特徴とする請求項1~6いずれかに記載の杭造成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメントミルクを地盤中に圧送、攪拌してセメント改良杭を造成する杭造成装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
セメント改良杭を造成する工法のひとつとして深層混合処理工法(CDM工法)がある。一般に、深層混合処理工法は、専用の作業船舶(CDM船舶)、または陸上設備によりセメント、水及び混和剤を混合したセメントミルクを軟弱地盤中に圧送して、機械的に周辺地盤と撹拌することで軟弱地盤の土砂と混合する工法であり、この工法により、軟弱地盤中にセメント改良杭を造成して当該軟弱地盤を改良している。なお、作業船舶は海上でセメント、海水及び混和剤を混合することが可能な船舶であり、一定の頻度で材料を補給する。一般に地盤中の土砂1m3あたりのセメント添加量はC=50~200kg/m3であり、水(W)とセメント(C)との比率(W/C=0.6程度)にてセメントミルクが製造される。このセメントミルクが地盤中へ圧送ポンプにより圧送される。なお、海上施工では、水面から50m以上の深さまでの改良杭を造成することもある。
【0003】
海上施工専用にて使用される作業船舶は、その稼働に伴い二酸化炭素(CO2)排出する。エンジンは軽油やA重油を燃料としている場合が多く、作業時間のみならず、夜間の停泊時の維持動力としてエンジンが稼働している。近年の環境問題の意識改革から、一部の動力に電気を用いてハイブリッド化する検討が行われ実績を得ている。しかしながら、カーボンニュートラルに向けての二酸化炭素の排出量の削減は、いまだ十分ではない。
【0004】
また、セメントには多くの酸化カルシウム(CaO)が含まれており、水を加えたセメントミルクには、セメントと水との反応により、カルシウムイオン(Ca2+)と水酸化イオン(OH-)が生じる。そのために、セメントミルクはアルカリ性を呈し、多くのカルシウムイオン(Ca2+)を含有している。このセメントミルクに、二酸化炭素(CO2)を溶解すると、二酸化炭素は、水と反応して炭酸(H2CO3)となり、水素イオン(H+)をひとつずつ解離して、水酸化イオン(OH-)と反応することでアルカリ性が中性化する。これとともに炭酸イオン(CO3
2-)は、カルシウムイオン(Ca2+)と結合して炭酸カルシウム(CaCO3)となりセメント構造体中に固定化される。すなわち、二酸化炭素が炭酸カルシウムとなりセメント構造体中に固定化される。
【0005】
このメカニズムを用いた二酸化炭素固定化については、セメント会社や建設会社にて検討及び実施運用が開始されている。これらでは、生コンクリートの製造過程で二酸化炭素を注入することで、結晶化された炭酸カルシウムの生成による強度増加を期待し、必要となるセメント量を削減することに成功している。これは二酸化炭素を排出するセメント自体の製造量の削減にもつながっている。
【0006】
そこで、地盤改良に際して二酸化炭素を固定化する技術として、特許文献1には、二酸化炭素と反応し固化する二酸化炭素吸収剤もしくは二酸化炭素吸収剤を含む水溶液を、改良対象の地盤表面に散布する又は地盤内部に混入する散布混入工程と、前記二酸化炭素吸収剤を前記地盤内の間隙に浸透させる浸透工程と、前記二酸化炭素吸収剤と二酸化炭素又は二酸化炭素を含む気体と反応させ、前記二酸化炭素吸収剤を固化させ前記間隙に結合剤として残留させる反応固化工程と、を備えた、二酸化炭素を利用した地盤改良方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そして、特許文献1に記載の地盤改良方法では、大気をそのまま斜面などの地盤の地中に取り込み、その中に含まれる二酸化炭素と二酸化炭素吸収剤との炭酸化反応によって、地中に炭酸塩を生成し、その生成物によって土粒子間の動きを抑制し、結果的に斜面の強度を向上させて、豪雨時の土砂災害に対する安全率を向上させることができる、とされている。しかしながら、特許文献1に記載の地盤改良方法だけでは、二酸化炭素を固定化できる量が少なく、すなわち、地球温暖化を抑制すべく二酸化炭素量の減少には至らず、そのために、その他、多方面の分野にて、コストをかけずに二酸化炭素を固定化する方法を模索する必要がある。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたもので、セメントミルクを用いた地盤改良の際、地球温暖化に起因する二酸化炭素を地盤中に固定できる杭造成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための手段として、請求項1の杭造成装置に係る発明は、セメントミルクを地盤中に圧送、攪拌してセメント改良杭を造成する杭造成装置であって、内部にセメント及び水が流入されて、これらセメント及び水が攪拌されてセメントミルクを製造する、気密処理された密閉容器と、該密閉容器内に二酸化炭素を供給する二酸化炭素供給手段と、前記密閉容器内の二酸化炭素を含むセメントミルクを地盤中に圧送する圧送管と、を備えていることを特徴とするものである。
請求項1の発明では、気密処理された密閉空間内にセメント及び水が流入されると共に、二酸化炭素が二酸化炭素供給手段から密閉空間内に供給される。そして、二酸化炭素が密閉容器内に供給されることで、二酸化炭素を容易にセメントミルク中に溶解させることができる。その結果、セメントミルクと二酸化炭素との反応により、炭酸カルシウム(炭酸塩)を含有するセメントミルクが製造される。その後、密閉容器内のセメントミルクは、圧送ポンプにより圧送管を通じて地盤内に圧送される。そして、地球温暖化に起因する二酸化炭素は、地盤中に造成される改良杭中に固定化され、すなわち、二酸化炭素は、炭酸カルシウムとなり地盤中の改良杭中に固定化される。しかも、炭酸カルシウムの生成によって、改良杭の強度を増加させることができるので、この炭酸カルシウムの生成による強度の増加に伴って、セメントの添加量を低減することができる。
【0011】
なお、上述したように、セメントと水(または海水)の混合により、セメントミルクは、水酸化イオン(OH-)が多く存在する状態となり、高アルカリ性(pH11以上)となる。高アルカリ性の液状のセメントミルクには、これに接する気体から二酸化炭素が多く溶解する。すなわち液状のセメントミルク中の二酸化炭素は上記の反応により消費され、セメントミルク中の二酸化炭素が少なくなると、セメントミルクに接する気体中の二酸化炭素がその分圧によりさらにセメントミルク中に溶解する。この時、セメントミルクを十分に撹拌した状態であれば、二酸化炭素の消費速度及び溶解速度は促進される。
【0012】
また、セメントミルクの配合(W/C=0.6,C=100kg/m3)においては、密閉容器内で、セメントミルクを撹拌した際、セメントミルクに接する密閉容器内の気体中の二酸炭素濃度は、400~500ppmから0ppmにまで低下することが実験で確認されている。当該実験例として、770mLのセメントミルクに対して、90分の撹拌時間にて、30Lの密閉容器内の大気中の二酸化炭素濃度が0ppmとなった。この場合の気液比は40:1であった。要するに、セメントミルクに接する気中部の二酸化炭素をセメントミルク内に取り込み固定化することが可能である。
【0013】
請求項2の杭造成装置に係る発明は、請求項1に記載の発明において、前記密閉容器内の気中部の圧力を大気圧より大きくすることを特徴とするものである。
請求項2の発明では、密閉容器内の気中部の圧力を大気圧より大きくすることで、二酸化炭素がセメントミルク中に溶解する速度を速くすることができる。その結果、二酸化炭素とセメントミルクとの反応が促進される。またこれにより一定量の二酸化炭素を固定するための撹拌時間を短くすることが可能となる。なお、一度溶解した二酸化炭素は炭素カルシウムとなって結晶化するために、再び気中部に戻ることなく、二酸化炭素は、セメントミルク中、またはセメントミルクを用いた改良杭中に固定される。
【0014】
請求項3の杭造成装置に係る発明は、請求項1または2に記載の発明において、前記二酸化炭素供給手段からの二酸化炭素は、前記密閉容器内のセメントミルク中に供給されることを特徴とするものである。
請求項3の発明では、セメントミルク中にて二酸化炭素が曝気されると、セメントミルクが攪拌されていることから、二酸化炭素を含む気泡が浮上している途中に容易に破裂するので、二酸化炭素の溶解面がセメントミルク表面のみならず、セメントミルク内からの溶解可能となるため、セメントミルク中に溶解する速度がさらに速くなる。その結果、二酸化炭素とセメントミルクとの反応がさらに促進される。
【0015】
請求項4の杭造成装置に係る発明は、セメントミルクを地盤中に圧送、攪拌してセメント改良杭を造成する杭造成装置であって、内部にセメント及び水が流入されて、これらセメント及び水を攪拌してセメントミルクを製造する攪拌容器と、該攪拌容器内のセメントミルクを地盤中に圧送する圧送管と、該圧送管内に二酸化炭素を供給する二酸化炭素供給手段と、を備えていることを特徴とするものである。
請求項4の発明では、例えば、深層混合処理工法における海上施工において、水深10mの施工位置に深度30mのセメント改良杭を造成する場合、セメント改良杭の下端には大気圧に加え、水深40m相当分の水圧と、30m相当分の土圧とが作用している。セメント改良杭の上端においても、水深10m分の水圧が作用している。すなわち、セメントミルクは、これらの圧力より大きな圧力により圧送管内を圧送されている。この大気圧より大きな圧力で圧送管内を圧送されるセメントミルク内に、その圧送圧と同程度で二酸化炭素が圧送されることで、二酸化炭素が浮上することなく、容易にセメントミルク中に混気され、溶解されて炭素カルシウムを含むセメントミルクが製造される。その結果、従来工法である、攪拌容器内において大気圧にて二酸化炭素が混合される場合と比較して、二酸化炭素を圧送管内に圧送して供給することで、より多くの二酸化炭素を固定化することができる。
【0016】
請求項5の杭造成装置に係る発明は、請求項1~4いずれかに記載の発明において、前記二酸化炭素供給手段では、大気中の濃度よりも高濃度な二酸化炭素を供給することを特徴とするものである。
請求項5の発明では、二酸化炭素の濃度が一般的な大気中の濃度400~500ppmより高濃度な排ガス、あるいは排ガスから分離回収された高濃度の二酸化炭素を供給されるので、密閉容器内に供給された二酸化炭素がセメントミルクと反応する反応効率を促進させることが可能になるために、密閉容器内での攪拌時間を短縮することができる。その結果、セメントミルクの製造時間を必要以上に長く設定する必要がなく、適切な施工歩掛を維持することが可能になる。
【0017】
請求項6の杭造成装置に係る発明は、請求項1~5いずれかに記載の発明において、前記二酸化炭素供給手段の下流側に配置され、該二酸化炭素供給手段からの二酸化炭素を気泡化するバブル生成手段を備えることを特徴とするものである。
請求項6の発明では、二酸化炭素をバブル生成手段により細かに気泡化することで一定体積の気泡の総表面積が大きくなり、セメントミルクの粘性によりセメントミルク内での二酸化炭素の滞留時間を長くすることができる。これにより、密閉容器内での攪拌時、また圧送管による圧送時、さらに地盤中の周辺土砂との攪拌時、さらにまた改良地盤の硬化時において、気泡化された二酸化炭素が大気中に逸散することなく、効率的にセメントミルクとが反応してなる炭素カルシウムを生成することが可能になる。なお、二酸化炭素を含む気泡は、その直径によりセメントミルク中に滞留する時間が相違されるが、直径が数ミリとなる気泡を用いても良い。さらに例えばナノバブル、直径がナノメートルオーダーの気泡や、マイクロバブル、直径がマイクロメートルオーダの気泡を採用しても良い。
【0018】
請求項7の杭造成装置に係る発明は、請求項1~6いずれかに記載の発明において、前記二酸化炭素供給手段では、海上施工の際に用いる作業船舶を含む工事設備からの排気ガスをそのまま、または作業船舶を含む工事設備からの排気ガス中の二酸化炭素を分離回収して供給することを特徴とするものである。
請求項7の発明では、例えば、深層混合処理工法を用いて海上施工する際、当該施工における二酸化炭素の放出量を最大限抑制することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る杭造成装置は、セメントミルクを用いた、例えば、深層混合処理工法(CDM工法)による地盤改良の際に、地球温暖化に起因する二酸化炭素を地盤中に固定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、本実施形態に係る杭造成装置の概略模式図である。
【
図2】
図2は、本実施形態に係る杭造成装置の概略模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための形態を
図1及び
図2に基づいて詳細に説明する。
本発明の実施形態に係る杭造成装置1は、セメントサイロ4からのセメント、海水用水槽5から海水及び混和剤貯溜槽6からの混和剤(例えばAE減水剤)がミキサー容器23内に供給されて、これらが攪拌装置24により攪拌されてセメントミルクを製造するミキサー10と、ミキサー容器23内に二酸化炭素を供給する二酸化炭素供給手段11と、二酸化炭素供給手段11とミキサー容器23との間に配置され、二酸化炭素供給手段11からの二酸化炭素を気泡化するバブル生成手段12と、該バブル生成手段12から延び、その先端がミキサー容器23内のセメントミルク中に配置される二酸化炭素供給管13と、ミキサー容器23内の二酸化炭素を含むセメントミルクが供給されて、攪拌装置28によりアジテータ容器27内の二酸化炭素を含むセメントミルクが攪拌されるアジテータ14と、アジテータ容器24内の二酸化炭素を含むセメントミルクを、地盤改良機34に圧送する圧送ポンプ15と、を備えている。
【0022】
本実施形態に係る杭造成装置1は、深層混合処理工法(海上施工)を採用して海底の軟弱地盤を改良する際に適用される。そのために、本実施形態に係る杭造成装置1は作業船舶20上に配置される。ミキサー10は、高い気密性を備えたミキサー容器23と、該ミキサー容器23内の、セメント、海水及び混和剤を攪拌するための攪拌装置24と、を備えている。なお、ミキサー容器23内の気中部に、気体、好ましくは二酸化炭素を圧送することで、ミキサー容器23内の気中部の圧力を大気圧よりも大きくなる状態にしておく。
【0023】
二酸化炭素供給手段11は、後述するバブル生成手段12及び二酸化炭素供給管13を介して、ミキサー容器23内のセメントミルク中に二酸化炭素を供給するものである。二酸化炭素供給手段11は、二酸化炭素を含む気体を圧縮して供給するコンプレッサ等が採用される。二酸化炭素を含む気体としては、二酸化炭素を含む大気を使用してもよく、作業船舶20から排出される二酸化炭素を含む排ガスを直接使用してもよい。また、二酸化炭素供給手段11として、深層混合処理工法を採用して海底の軟弱地盤を改良する際の作業船舶20を含む工事設備からの排ガスや、この排ガスを含む他施設等からの排ガス中の二酸化炭素を分離回収して濃縮して貯蔵されたボンベやタンクを採用してもよい。さらに、二酸化炭素供給手段11として、工場等で圧縮された液化二酸化炭素が貯蔵されるボンベやタンク等を採用してもよい。なお、二酸化炭素供給手段11から供給される二酸化炭素の濃度は、一般的な大気中の濃度400~500ppmよりも高濃度にしたほうがよい。
【0024】
バブル生成手段12は、二酸化炭素供給手段11の下流側であって、二酸化炭素供給手段11とミキサー容器23との間に配置される。バブル生成手段12は、二酸化炭素供給手段11からの二酸化炭素を気泡化するものである。バブル生成手段12は、二酸化炭素供給手段11及び二酸化炭素供給管13に連通している。バブル生成手段12により生成される、二酸化炭素を含む気泡の直径は適宜設定される。すなわち、気泡の特性として、その直径が大きくなるにしたがって水中で破裂しやすくなる一方、水面までの浮上速度が速くなり、その直径が小さくなるにしたがって、水中で気泡が破裂するまでの滞留時間を長くすることができる。
【0025】
そして、本実施形態に係る杭造成装置1では、セメントミルク中での二酸化炭素を含む気泡の滞留時間を長くするために、当該気泡の直径を比較的小さく設定するようにしている。本実施形態では、バブル生成手段12により生成される、二酸化炭素を含む気泡は、例えばマイクロバブル、直径がマイクロメートルオーダの気泡や、ナノバブル、直径がナノメートルオーダーの気泡が採用される。
【0026】
二酸化炭素供給管13はバブル生成手段12から延び、ミキサー容器23内に気密的に挿入されて、その先端がセメントミルク中に配置される。二酸化炭素供給管13の先端を、ミキサー容器23の底面に限りなく近接させたほうがよい。その結果、バブル生成手段12からの二酸化炭素を含む気泡が、二酸化炭素供給管13を通じて、ミキサー容器23内のセメントミルク中に曝気される。また、ミキサー容器23内の二酸化炭素を含むセメントミルクは、アジテータ14のアジテータ容器27内に供給される。
【0027】
アジテータ14は、高い気密性を備えたアジテータ容器27と、該アジテータ容器27内の二酸化炭素を含むセメントミルクを攪拌する攪拌装置28と、を備えている。アジテータ容器27は、開閉可能なバルブ(図示略)を介してミキサー容器23に連通している。アジテータ容器27には、開閉可能なバルブ(図示略)を介して圧送管32が連通される。圧送管32には圧送ポンプ15が連通される。圧送管32は、フレキシブルホース33に連通される。圧送管32に連通するフレキシブルホース33の先端(下端)は、地盤改良機34の構成である海底の地盤内を攪拌しながら貫入される攪拌軸35の攪拌翼35Aの上部に近接して配置される。なお、本実施形態に係る杭造成装置1では、二酸化炭素供給管13がミキサー容器23内に気密的に挿入されて、その先端がミキサー容器23内のセメントミルク中に配置されているが、二酸化炭素供給管13をアジテータ容器27内に気密的に挿入して、その先端をアジテータ容器27内のセメントミルク中に配置してもよい。また、二酸化炭素供給管13を2本に分岐させ、一方の二酸化炭素供給管13の先端を、ミキサー容器23内のセメントミルク中に配置して、他方の二酸化炭素供給管13の先端を、アジテータ容器27内のセメントミルク中に配置する構成としてもよい。
【0028】
次に、本実施形態に係る杭造成装置1の作用を説明する。
まず、ミキサー10のミキサー容器23内には、セメントサイロ4からセメントが投入され、また、海水用水槽5から海水が流入され、さらに混和剤貯留槽6から混和剤が流入される。これらセメント、海水及び混和剤は、各計量器(図示略)を用いて所定の混合比にてミキサー容器23内に供給される。その後、ミキサー容器23内の、セメント、海水及び混和剤は、攪拌装置24により攪拌、混合され、セメントミルクが製造される。これと同時に、二酸化炭素供給手段11から二酸化炭素がバブル生成手段12に供給される。そして、当該バブル生成手段12にて、二酸化炭素を含むナノバブルまたはマイクロバブルが生成される。バブル生成手段12からの二酸化炭素を含むナノバブルまたはマイクロバブルが、二酸化炭素供給管13を介してミキサー容器23内のセメントミルク中に曝気される。
【0029】
そして、ミキサー容器23内で攪拌装置24によりセメントミルクを攪拌する際に、二酸化炭素を含むナノバブルまたはマイクロバブルがセメントミルク中で破裂することで、二酸化炭素がセメントミルク中に溶解される。その結果、セメントミルクと二酸化炭素とが反応することで炭素カルシウム(炭素塩)が生成されて、炭素カルシウム、ひいては二酸化炭素がセメントミルク中に固定化される。そこで、二酸化炭素供給手段11からバブル生成手段12を介して供給されるナノバブル化またはマイクロバブル化された二酸化炭素の濃度は、大気中の濃度400~500ppmよりも高濃度であるので、反応効率を促進させることができ、ミキサー10の攪拌装置24による攪拌時間を短くすることができる。
【0030】
そこで、ミキサー容器23内のセメントミルク中に曝気されたナノまたはマイクロバブル化された二酸化炭素がセメントミルク中にて破裂せず浮上して、セメントミルクから気中部に放散されても、密閉されたミキサー容器23内の圧力(気中部)が大気圧より大きくなっているので、ミキサー容器23内の気中部に放散された二酸化炭素がセメントミルク中に溶解し易くなる。続いて、二酸化炭素及び炭酸カルシウムを含むセメントミルクは、アジテータ14のアジテータ容器27内に供給されて、再び攪拌装置28により攪拌される。
【0031】
続いて、アジテータ容器27内の二酸化炭素および炭酸カルシウムを含むセメントミルクは、圧送ポンプ15により圧送管32及びフレキシブルホース33を経由して、地盤内の攪拌軸35の攪拌翼35Aの上部に近接する位置まで圧送される。そして、攪拌軸35が回転すると共に地盤内から引き抜かれる際に、フレキシブルホース33の先端から吐出される、二酸化炭素及び炭酸カルシウムを含むセメントミルクと、地盤中の周辺土砂とが攪拌翼35Aにより攪拌されてセメント改良杭(図示略)が造成される。
【0032】
なお、バブル生成手段12により、二酸化炭素がナノまたはマイクロバブルとして気泡化されてセメントミルク中に曝気されるので、セメントミルク中における二酸化炭素の滞留時間を長くすることができる。その結果、ミキサー容器23内及びアジテータ容器27内での攪拌段階から、圧送管32による圧送段階、地盤中の周辺土砂との攪拌段階、改良地盤の硬化段階までの一連のセメント改良杭造成の全工程において、気泡化された二酸化炭素がセメントミルク中に溶解できる態様を維持でき、その全工程のいずれかの段階で、二酸化炭素がセメントミルクと反応して、確実に炭素カルシウムを生成することが可能になる。
【0033】
以上説明したように、本実施形態に係る杭造成装置1によれば、少なくとも、内部にセメント及び水が流入されて、これらセメント及び水が攪拌されてセメントミルクを製造する、気密処理されたミキサー10のミキサー容器23(密閉容器)と、該ミキサー容器23内に二酸化炭素を供給する二酸化炭素供給手段11と、ミキサー容器23内の二酸化炭素を含むセメントミルクを地盤中に圧送する圧送管32と、を備えている。これにより、二酸化炭素が、気密処理された、ミキサー10のミキサー容器23内に供給されることで、二酸化炭素を容易にセメントミルク中に溶解させることができる。要するに、気密処理されたミキサー容器23を使用することで、ミキサー容器23内に供給された二酸化炭素がその外部に流出できないことから、二酸化炭素のセメントミルク中への溶解効率を向上させることができる。
【0034】
そして、地球温暖化に起因する二酸化炭素は、セメントミルクと反応して炭酸カルシウムを含む改良杭として地盤中に固定化される。要するに、二酸化炭素がセメントミルクと反応して炭酸カルシウムを含む改良杭として地盤中に化学的に固定化される。しかも、炭酸カルシウムの生成によって、改良杭の強度を増加させることができるので、この炭酸カルシウムの生成による強度の増加に伴って、セメントの添加量を低減することができる。
【0035】
なお、本実施形態に係る杭造成装置1では、ミキサー10のミキサー容器23内に混和剤として、例えばAE混和剤を混合させている。このAE混和剤としては遅延型を用いる場合が多い。AE混和剤の効果としては、配合する水量を減らすことで地盤中へのセメントミルク全体の供給量を減らすことができ、地盤が緩くなることを防ぐとともに強度品質を確保することができる。またセメントミルクの圧送量の低減は施工効率を向上させることにも繋がる。さらに遅延型を用いることで、練り混ぜ時から圧送までの時間の間に硬化し難くし、地盤改良機34における攪拌軸35の所定深度までの掘削時間中に自硬することを防ぐことができる。
【0036】
一方で、AE混和剤を加えることで、一定量の空気がセメントミルク内に含有することとなる。そのため、この含有空気量に含まれる二酸化炭素は、上述したようにセメントミルクとの反応により炭酸カルシウムとして地盤中に化学的に固定されるのとは別に、地盤中に物理的に固定されることとなる。そこで、例えば、AE混和剤の添加量を、セメントの添加量に対して2.5~4.0倍とする。これにより、セメントミルク内の含有気体量を増加させ、その増加した気体中に二酸化炭素をより多く含有させて、物理的に固定することが可能になる。
【0037】
また、本実施形態に係る杭造成装置1によれば、ミキサー容器23内の気中部の圧力を大気圧より大きくしている。その結果、二酸化炭素がセメントミルク中に溶解する速度を速くすることができる。これにより、二酸化炭素とセメントミルクとの反応を促進することができる。
【0038】
さらに、本実施形態に係る杭造成装置1によれば、二酸化炭素供給手段11では、大気中の濃度よりも高濃度の二酸化炭素を供給する。その結果、ミキサー容器23内に供給された二酸化炭素がセメントミルクと反応する反応効率を促進させることが可能になるために、ミキサー10のミキサー容器23内での攪拌時間を短縮することができる。その結果、セメントミルクの製造時間を必要以上に長く設定する必要がなく、適切な施工歩掛を維持することが可能になる。
【0039】
さらにまた、本実施形態に係る杭造成装置1によれば、二酸化炭素供給手段11の下流側に、すなわち、二酸化炭素供給手段11とミキサー容器23との間に配置され、二酸化炭素供給手段11からの二酸化炭素を気泡化するバブル生成手段12を備えている。そして、二酸化炭素をバブル生成手段12により気泡化することで、セメントミルク内での二酸化炭素の滞留時間を長くすることができる。これにより、ミキサー容器23内及びアジテータ容器27内での攪拌段階から、改良地盤の硬化段階までのセメント改良杭造成に係る全工程において、気泡化された二酸化炭素がセメントミルク中に溶解できる態様を維持でき、その全工程のいずれかの段階で確実に炭素カルシウムを生成することが可能になる。
【0040】
さらにまた、本実施形態に係る杭造成装置1の二酸化炭素供給手段11において、深層混合処理工法に用いて海上施工する際の作業船舶20を含む工事設備からの排気ガスをそのまま、または作業船舶20を含む工事設備からの排気ガス中の二酸化炭素を分離回収して供給する実施形態を採用した場合には、特に、深層混合処理工法を用いて海上施工する際、当該施工における二酸化炭素の放出量を最大限抑制することができる。
【0041】
なお、上述した本実施形態に係る杭造成装置1では、バブル生成手段12を備え、二酸化炭素供給管13はミキサー容器23内に気密的に挿入されて、その先端がセメントミルク中に配置されているが、バブル生成手段12を備えず、二酸化炭素供給管13を二酸化炭素供給手段11に直接接続して、当該二酸化炭素供給管13を気密的にミキサー容器23内に挿入して、その先端をミキサー容器23内の気中部に配置してもよいし、セメントミルク中に配置してもよい。
【0042】
そこで、二酸化炭素供給管13の先端を、ミキサー容器23内のセメントミルク中に配置した実施形態では、二酸化炭素供給手段11からの二酸化炭素を直接セメントミルク中に供給することができる。そして、二酸化炭素をセメントミルク中に曝気させ、二酸化炭素を含む気泡が浮上している途中に容易に破裂するので、二酸化炭素がセメントミルク中に溶解する速度を速くすることができる。その結果、二酸化炭素とセメントミルクとの反応がさらに促進される。
【0043】
また、本実施形態に係る杭造成装置1では、バブル生成手段12から延びる二酸化炭素供給管13がミキサー容器23内に気密的に挿入されて、その先端がセメントミルク中に配置されているが、他の実施形態に係る杭造成装置1として、バブル生成手段12から延びる二酸化炭素供給管13の先端を圧送管32に接続して、二酸化炭素供給管13と圧送管32とを連通させてもよい。
【0044】
当該他の実施形態に係る杭造成装置1では、ミキサー容器23及びアジテータ容器27は、高い密閉性を備えた密閉容器とする必要はなく、単に、セメント、水及び混和剤を攪拌するための攪拌容器を備えればよい。当該実施形態に係る杭造成装置1では、セメントミルクは、圧送管32内を大気圧よりも相当大きな圧力で圧送されており、二酸化炭素が圧送管32内の該セメントミルク中に、その圧送圧と同程度で圧送されることで、二酸化炭素が浮上することなく、容易にセメントミルク中に溶解されて炭素カルシウムを含む改良杭を造成することができる。
【0045】
なお、
図1に示した実施形態に係る杭造成装置1において、二酸化炭素供給管13を2本に分岐させて、一方の二酸化炭素供給管13の先端をミキサー容器23内のセメントミルク中に配置して、他方の二酸化炭素供給管13の先端を圧送管32に接続するように構成してもよい。また、
図1に示した実施形態に係る杭造成装置1において、二酸化炭素供給管13を3本に分岐させて、2本の二酸化炭素供給管13の先端をミキサー容器23内及びアジテータ容器27内のセメントミルク中にそれぞれ配置して、残り1本の二酸化炭素供給管13の先端を圧送管32に接続するように構成してもよい。
【0046】
以上説明した、本実施形態に係る杭造成装置1は、深層混合処理工法を採用して海底の軟弱地盤を改良する際に用いられているが、陸上の軟弱地盤を改良する際に採用しても良い。また、本実施形態に係る杭造成装置1は、深層混合処理工法に用いられているが、セメントミルクを用いて地盤改良する他の工法にも用いることができる。
【符号の説明】
【0047】
1 杭造成装置,10 ミキサー(密閉容器),11 二酸化炭素供給手段,12 バブル生成手段,13 二酸化炭素供給管,14 アジテータ,15 圧送ポンプ,20 作業船舶,23 ミキサー容器,27 アジテータ容器,32 圧送管,34 地盤改良機