(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023183131
(43)【公開日】2023-12-27
(54)【発明の名称】タービン部品の変形を制御する方法
(51)【国際特許分類】
F02C 7/00 20060101AFI20231220BHJP
F02C 7/24 20060101ALI20231220BHJP
F01D 5/18 20060101ALI20231220BHJP
F01D 9/02 20060101ALI20231220BHJP
【FI】
F02C7/00 D
F02C7/24 A
F01D5/18
F01D9/02 102
【審査請求】有
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022096590
(22)【出願日】2022-06-15
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-02-02
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】井上 義之
(72)【発明者】
【氏名】吉田 大助
(72)【発明者】
【氏名】羽田野 浩平
(72)【発明者】
【氏名】永井 友人
(72)【発明者】
【氏名】堀江 茂斉
【テーマコード(参考)】
3G202
【Fターム(参考)】
3G202CA02
3G202CB07
3G202GA07
3G202GB03
(57)【要約】
【課題】タービン部品の製造時又は補修時においてタービン部品の変形を制御する。
【解決手段】本開示の少なくとも一実施形態に係るタービン部品の変形を制御する方法は、薄肉部と厚肉部とを有するタービン部品の製造時又は補修時において変形を制御する方法であって、タービン部品を所定温度以上まで加熱する前に、薄肉部の少なくとも一部に対して保温部材を配置する工程と、所定温度以上まで加熱したタービン部品を冷却した後で、タービン部品から保温部材を取り除く工程と、を有する。
【選択図】
図4A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄肉部と厚肉部とを有するタービン部品の製造時又は補修時において変形を制御する方法であって、
前記タービン部品を所定温度以上まで加熱する前に、前記薄肉部の少なくとも一部に対して保温部材を配置する工程と、
前記所定温度以上まで加熱した前記タービン部品を冷却した後で、前記タービン部品から前記保温部材を取り除く工程と、
を備える、
タービン部品の変形を制御する方法。
【請求項2】
前記タービン部品は、タービン翼であり、
前記保温部材を配置する工程では、前記タービン翼の翼本体の前縁部、又は、後縁部の少なくとも何れか一方における少なくとも一部に対して前記保温部材を配置する、
請求項1に記載のタービン部品の変形を制御する方法。
【請求項3】
前記保温部材を配置する工程では、前記前縁部、又は、前記後縁部の少なくともいずれか一方において、前記翼本体のハブ端からチップ端までの間の一部の領域と、前記ハブ端から前記チップ端までの間の領域であって前記一部の領域とは異なる他の領域とで、前記保温部材による保温力が異なるように前記保温部材を配置する、
請求項2に記載のタービン部品の変形を制御する方法。
【請求項4】
前記保温部材を配置する工程では、前記前縁部、又は、前記後縁部の少なくともいずれか一方において、ハブ側の第1領域における前記保温力が前記第1領域よりもチップ側の第2領域における前記保温力よりも高くなるように前記保温部材を配置する、
請求項3に記載のタービン部品の変形を制御する方法。
【請求項5】
前記保温部材を配置する工程では、前記前縁部、又は、前記後縁部の少なくともいずれか一方において、前記翼本体の翼高さ方向から見たときに、前記第1領域において前記保温部材で覆われる距離が前記第2領域において前記保温部材で覆われる距離よりも大きくなるように前記保温部材を配置する、
請求項4に記載のタービン部品の変形を制御する方法。
【請求項6】
前記保温部材を配置する工程では、前記前縁部、又は、前記後縁部の少なくともいずれか一方において、前記第1領域に配置される前記保温部材の厚さが前記第2領域に配置される前記保温部材の厚さよりも厚くなるように前記保温部材を配置する、
請求項4又は5に記載のタービン部品の変形を制御する方法。
【請求項7】
前記保温部材を配置する工程では、前記後縁部における前記保温力が前記前縁部における前記保温力よりも高くなるように前記保温部材を配置する、
請求項2乃至5の何れか一項に記載のタービン部品の変形を制御する方法。
【請求項8】
前記保温部材を配置する工程では、前記翼本体の翼高さ方向から見たときに、前記後縁部において前記保温部材で覆われる距離が前記前縁部において前記保温部材で覆われる距離よりも大きくなるように前記保温部材を配置する、
請求項7に記載のタービン部品の変形を制御する方法。
【請求項9】
前記保温部材を配置する工程では、前記後縁部に配置される前記保温部材の厚さが前記前縁部に配置される前記保温部材の厚さよりも厚くなるように前記保温部材を配置する、
請求項7に記載のタービン部品の変形を制御する方法。
【請求項10】
前記タービン翼は、前記翼本体と、前記翼本体のハブ側に形成されたプラットフォーム部と、前記プラットフォーム部を挟んで前記翼本体と反対側に形成されたシャンク部と、を有し、
前記保温部材を配置する工程では、前記シャンク部の前縁側側面、又は、後縁側側面の少なくとも何れか一方に前記保温部材を配置する、
請求項2乃至5の何れか一項に記載のタービン部品の変形を制御する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、タービン部品の変形を制御する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タービン部品の製造過程では、所望される特性をタービン部品が獲得するように種々の熱処理が実施されるが、その際、比較的速い冷却速度でタービン部品が冷却される場合がある(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、比較的高い温度から比較的速い冷却速度でタービン部品を冷却すると、冷却過程でタービン部品が不所望に変形してしまうおそれがある。
【0005】
本開示の少なくとも一実施形態は、上述の事情に鑑みて、タービン部品の製造時又は補修時においてタービン部品の変形を制御することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本開示の少なくとも一実施形態に係るタービン部品の変形を制御する方法は、
薄肉部と厚肉部とを有するタービン部品の製造時又は補修時において変形を制御する方法であって、
前記タービン部品を所定温度以上まで加熱する前に、前記薄肉部の少なくとも一部に対して保温部材を配置する工程と、
前記所定温度以上まで加熱した前記タービン部品を冷却した後で、前記タービン部品から前記保温部材を取り除く工程と、
を有する。
【発明の効果】
【0007】
本開示の少なくとも一実施形態によれば、タービン部品の製造時又は補修時においてタービン部品の変形を制御できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図2】幾つかの実施形態に係るタービン翼を背側から見た図である。
【
図3A】
図2に示したタービン翼の翼本体の形状を示す図である。
【
図3B】タービン翼の翼本体の変形による移動量について説明するための図である。
【
図3C】タービン翼の翼本体の変形による移動量について説明するための図である。
【
図3D】タービン翼の翼本体の変形による移動量について説明するための図である。
【
図4B】
図4Aにおける保温部材の配置状態を翼高さ方向から見たときの図である。
【
図5A】熱処理を行った後の翼本体の形状を熱処理を行う前と比較した結果を示す図である。
【
図5B】熱処理を行った後の翼本体の形状を熱処理を行う前と比較した結果を示す図である。
【
図5C】熱処理を行った後の翼本体の形状を熱処理を行う前と比較した結果を示す図である。
【
図6B】
図6Aにおける保温部材の配置状態を翼高さ方向から見たときの図である。
【
図6C】
図6Aにおける保温部材の配置状態を翼高さ方向から見たときの図である。
【
図7A】熱処理を行った後の翼本体の形状を熱処理を行う前と比較した結果を示す図である。
【
図7B】熱処理を行った後の翼本体の形状を熱処理を行う前と比較した結果を示す図である。
【
図7C】熱処理を行った後の翼本体の形状を熱処理を行う前と比較した結果を示す図である。
【
図8B】
図8Aにおける保温部材の配置状態を翼高さ方向から見たときの図である。
【
図9B】
図9Aにおける保温部材の配置状態を翼高さ方向から見たときの図である。
【
図10A】熱処理を行った後の翼本体の形状を熱処理を行う前と比較した結果を示す図である。
【
図10B】熱処理を行った後の翼本体の形状を熱処理を行う前と比較した結果を示す図である。
【
図10C】熱処理を行った後の翼本体の形状を熱処理を行う前と比較した結果を示す図である。
【
図11】熱処理を行った後の翼本体の形状を熱処理を行う前と比較した結果を示す図である。
【
図12】幾つかの実施形態に係るタービン部品の変形を制御する方法によってタービン部品の変形を制御しながら熱処理を行う手順を示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照して本開示の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本開示の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
例えば、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
例えば、「同一」、「等しい」及び「均質」等の物事が等しい状態であることを表す表現は、厳密に等しい状態を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の差が存在している状態も表すものとする。
例えば、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
一方、一の構成要素を「備える」、「具える」、「具備する」、「含む」、又は、「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
【0010】
図1は、幾つかの実施形態に係るタービン部品の変形を制御する方法によって変形が制御されたタービン翼が適用されるガスタービンの概略構成図である。
図1に示すように、ガスタービン1は、圧縮空気を生成するための圧縮機2と、圧縮空気及び燃料を用いて燃焼ガスを発生させるための燃焼器4と、燃焼ガスによって回転駆動されるように構成されたタービン6と、を備える。発電用のガスタービン1の場合、タービン6には不図示の発電機が連結される。
【0011】
圧縮機2は、圧縮機車室10側に固定された複数の静翼16と、静翼16に対して交互に配列されるようにロータ8に植設された複数の動翼18と、を含む。
圧縮機2には、空気取入口12から取り込まれた空気が送られるようになっており、この空気は、複数の静翼16及び複数の動翼18を通過して圧縮されることで高温高圧の圧縮空気となる。
【0012】
燃焼器4には、燃料と、圧縮機2で生成された圧縮空気とが供給されるようになっており、該燃焼器4において燃料が燃焼され、タービン6の作動流体である燃焼ガスが生成される。燃焼器4は、
図1に示すように、ケーシング20内にロータ8を中心として周方向に沿って複数配置されていてもよい。
【0013】
タービン6は、タービン車室22内に形成される燃焼ガス流路28を有し、該燃焼ガス流路28に設けられる複数の静翼24及び動翼26を含む。
静翼24はタービン車室22側に固定されており、ロータ8の周方向に沿って配列される複数の静翼24が静翼列を構成している。また、動翼26はロータ8に植設されており、ロータ8の周方向に沿って配列される複数の動翼26が動翼列を構成している。静翼列と動翼列とは、ロータ8の軸方向において交互に配列されている。
タービン6では、燃焼ガス流路28に流れ込んだ燃焼器4からの燃焼ガスが複数の静翼24及び複数の動翼26を通過することでロータ8が回転駆動され、これにより、ロータ8に連結された発電機が駆動されて電力が生成されるようになっている。タービン6を駆動した後の燃焼ガスは、排気室30を介して外部へ排出される。
【0014】
以下の説明では、幾つかの実施形態に係るタービン部品の変形を制御する方法によって変形が制御されたタービン翼40は、上述したタービン6の動翼26であるものとして説明する。
【0015】
(タービン翼40)
図2は、幾つかの実施形態に係るタービン翼40(動翼26)を背側から見た図である。
図3Aは、
図2に示したタービン翼40の翼本体の形状を示す図であり、翼高さ方向から見たタービン翼40の断面図に相当する。
幾つかの実施形態に係るタービン翼40は、翼本体(翼型部)42と、プラットフォーム部44と、シャンク部46と、を備えている。シャンク部46は、翼根部47を含んでいる。翼根部47は、ロータ8(
図1参照)に埋設され、タービン翼40は、ロータ8と共に回転する。翼本体42と、プラットフォーム部44と、シャンク部46とは、一体的に形成されている。
【0016】
翼本体42は、ロータ8の径方向(以下、単に「径方向」又は「翼高さ方向」とも称する。)に沿って延在するように設けられており、プラットフォーム部44に固定されるハブ側の基端50と、翼高さ方向(ロータ8の径方向)において基端50とは反対側に位置するチップ側の先端48と、を有する。
また、タービン翼40の翼本体42は、基端50から先端48にかけて前縁52及び後縁54を有し、該翼本体42の翼面は、基端50と先端48との間において翼高さ方向(径方向)に沿って延在する圧力面(腹面)56と負圧面(背面)58とを含む。
【0017】
例えば上述したタービン翼40のようなタービン部品の製造過程では、所望される特性をタービン部品が獲得するように種々の熱処理が実施されるが、その際、比較的速い冷却速度でタービン部品が冷却される場合がある。
しかし、比較的高い温度から比較的速い冷却速度でタービン部品を冷却すると、冷却過程でタービン部品が不所望に変形してしまうおそれがある。このような不所望の変形は、冷却時において薄肉部と厚肉部とでの冷却速度に差が生じるために、薄肉部と厚肉部とで温度差が生じることによるものである。そのため、冷却時における薄肉部と厚肉部とでの冷却速度の差を抑制する、又は、冷却速度の差を意図的に生じさせることで、不所望な変形を抑制する、又は、意図的に変形させる等、変形を制御することができる。
【0018】
そこで、幾つかの実施形態に係るタービン部品の変形を制御する方法では、薄肉部と厚肉部とを有するタービン部品の製造時又は補修時において変形を制御する方法として、タービン部品を所定温度以上まで加熱する前に、薄肉部の少なくとも一部に対して保温部材を配置するようにした。そして、所定温度以上まで加熱したタービン部品を冷却した後で、タービン部品から保温部材を取り除くようにした。
これにより、薄肉部からの放熱を保温部材で抑制できるので、厚肉部に対して速くなりがちな薄肉部の冷却速度を抑制できる。よって、不所望な変形を抑制する等、タービン部品の変形を制御することができる。
【0019】
なお、上記保温部材は、タービン部品の表面と雰囲気との間に介在してタービン部品と雰囲気との間の熱伝達を抑制する部材、すなわち断熱部材であり、例えば、アルミナ(Al2O3)やシリカ(SiO2)を基本組成とする無機質の耐火性繊維からなるブランケット状や布状の形態の部材である。
【0020】
以下、幾つかの実施形態に係るタービン部品の変形を制御する方法を上述したタービン翼40の変形を制御する場合に適用した例について説明する。
図3Bは、タービン翼40の翼本体42の変形によるY軸方向への移動量(変形量)であるBowについて説明するための図である。なお、Y軸の延在方向は、ロータ8の周方向である。
図3Cは、タービン翼40の翼本体42の変形によるX軸方向への移動量であるDisplacementについて説明するための図である。なお、X軸の延在方向は、ロータ8の軸方向である。
図3Cは、タービン翼40の翼本体42の変形によるZ軸を回転軸とする回転方向への移動量であるTwistについて説明するための図である。なお、Z軸の延在方向は、X軸及びY軸に垂直な方向、すなわちロータ8の径方向である。
図4Aは、タービン翼40の翼本体42における薄肉部71である前縁部62及び後縁部64に対し、前縁部62及び後縁部64の基端50から先端48まで保温部材80を配置した例を示す図であり、タービン翼40を背側から見た図である。
図4Bは、
図4Aにおける保温部材80の配置状態を翼高さ方向から見たときの図である。
なお、翼本体42における薄肉部71以外の領域を厚肉部73とも称する。
【0021】
図4A及び
図4Bに示す例では、前縁部62及び後縁部64に配置される保温部材80の厚さtはt1である。前縁部62に配置される保温部材80が前縁52から後縁54に向かって腹面56を覆う距離La、及び背面58を覆う距離Lb、後縁部64に配置される保温部材80が後縁54から前縁52に向かって腹面56を覆う距離Lc、及び背面58を覆う距離Ldは、いずれもL1である。
【0022】
図5A、
図5B、及び
図5Cは、
図4A及び
図4Bに示すように保温部材80を配置したタービン翼40に対し、熱処理を行った後の翼本体42の形状を熱処理を行う前と比較した結果を示す図である。
図5Aでは、翼高さ方向に垂直な断面における上述したY軸方向の移動量(Bow)を横軸にとり、翼本体42における翼高さ方向の位置を縦軸にとっている。
図5Bでは、翼高さ方向に垂直な断面における上述したX軸方向の移動量(Displacement)を横軸にとり、翼本体42における翼高さ方向の位置を縦軸にとっている。
図5Cでは、翼高さ方向に垂直な断面における上述したZ軸回りの回転方向(ねじれ)の移動量(Twist)を横軸にとり、翼本体42における翼高さ方向の位置を縦軸にとっている。
【0023】
ここで、
図5A、
図5B、
図5C、及び後述する移動量に関するグラフのいずれにおいても、移動量は、基準となる断面(熱処理の前の断面)と比較したときの座標移動量である。
タービン翼40は翼根部47がロータ8に埋設されて使用されるため、翼本体42の形状の測定は、翼根部47を基準として行われる。
翼高さ方向に垂直な断面についての熱処理の前の断面形状のデータと熱処理の後の断面形状のデータの偏差量の二乗和が最小になるようにデータの重ね合わせを行い、熱処理前から熱処理後に対してどれくらい平行移動・回転移動したかを取得することで上記移動量を算出する。
【0024】
図5Aにおける破線のグラフ線101、
図5Bにおける破線のグラフ線102、及び
図5Cにおける破線のグラフ線103は、保温部材80を配置せずに熱処理を行った場合の移動量を示すグラフ線である。
図5Aにおける実線のグラフ線201、
図5Bにおける実線のグラフ線202、及び
図5Cにおける実線のグラフ線203は、保温部材80を配置した場合の移動量を示すグラフ線である。
また、上述した熱処理は、例えば溶体化熱処理であり、後述する熱処理についても同様である。
【0025】
図4A及び
図4Bに示すように保温部材80を配置した場合、
図5Aに示すように、保温部材80を配置しなかった場合に腹側へ比較的大きく倒れていた翼本体42の倒れがほとんどなくなるか、背側へ倒れるようになった。
図4A及び
図4Bに示すように保温部材80を配置した場合、
図5Bに示すように、保温部材80を配置しなかった場合にy軸方向マイナス側へ変形していた翼本体42がプラス側へ変形するようになったが、チップ側の移動量の絶対値は、保温部材80を配置しなかった場合と比べて小さくなっている。
図4A及び
図4Bに示すように保温部材80を配置した場合、
図5Cに示すように、保温部材80を配置しなかった場合と比べてねじれ量が減少している。
【0026】
図6Aは、上述した
図4A及び
図4Bに示す場合と同様に、前縁部62及び後縁部64に対し、前縁部62及び後縁部64の基端50から先端48まで保温部材80を配置した例を示す図であり、例えばタービン翼40を背側から見た図である。なお、
図6Aに示す例では、保温部材80は、ハブ側の第1領域91において、翼高さ方向から見たときに保温部材80が翼面(腹面56及び背面58)を覆う距離Lが第1領域よりもチップ側の第2領域92において保温部材80が翼面を覆う距離Lよりも大きくなるように配置されている。
図6Bは、
図6Aにおける保温部材80の配置状態を翼高さ方向から見たときの図であり、第2領域92における保温部材80の配置状態を示している。
図6Cは、
図6Aにおける保温部材80の配置状態を翼高さ方向から見たときの図であり、第1領域91における保温部材80の配置状態を示している。
【0027】
図6A、
図6B及び
図6Cに示す例では、前縁部62及び後縁部64に配置される保温部材80の厚さtは、
図4A及び
図4Bに示す場合と同様にt1である。
上述した距離La、距離Lb、距離Lc、及び距離Ldは、第2領域92ではいずれもL1である。
上述した距離La及び距離Lbは、第1領域91ではいずれもL1よりも大きいL2である。
上述した距離Lc及び距離Ldは、第1領域91ではいずれもL2と同等、又はL2よりも大きいL3である。
【0028】
図6A、
図6B及び
図6Cに示す例では、さらに、シャンク部46の前縁側側面46L、及び、後縁側側面46Tも保温部材80で覆われている。
シャンク部46の前縁側側面46L、及び、後縁側側面46Tを覆う保温部材80の厚さtは、前縁部62及び後縁部64に配置される保温部材80と同様にt1である。
なお、前縁側側面46Lを覆う保温部材80は、前縁側側面46Lからシャンク部46の側面46Sにかけて覆っており、前縁側側面46Lから後縁側側面46Tに向かって覆う距離Sは、S4である。
同様に、後縁側側面46Tを覆う保温部材80は、後縁側側面46Tからシャンク部46の側面にかけて覆っており、後縁側側面46Tから前縁側側面46Lに向かって覆う距離Sは、S4である。
【0029】
図7A、
図7B、及び
図7Cは、
図6A、
図6B及び
図6Cに示すように保温部材80を配置したタービン翼40に対し、熱処理を行った後の翼本体42の形状を熱処理を行う前と比較した結果を示す図である。
図7Aでは、翼高さ方向に垂直な断面における上述したY軸方向の移動量(Bow)を横軸にとり、翼本体42における翼高さ方向の位置を縦軸にとっている。
図7Bでは、翼高さ方向に垂直な断面における上述したX軸方向の移動量(Displacement)を横軸にとり、翼本体42における翼高さ方向の位置を縦軸にとっている。
図7Cでは、翼高さ方向に垂直な断面における上述したZ軸回りの回転方向(ねじれ)の移動量(Twist)を横軸にとり、翼本体42における翼高さ方向の位置を縦軸にとっている。
図7Aにおける破線のグラフ線104、
図7Bにおける破線のグラフ線105、及び
図7Cにおける破線のグラフ線106は、保温部材80を配置せずに熱処理を行った場合の移動量を示すグラフ線である。
図7Aにおける実線のグラフ線204、
図7Bにおける実線のグラフ線205、及び
図7Cにおける実線のグラフ線206は、保温部材80を配置した場合の移動量を示すグラフ線である。
【0030】
図7Aに示すように、
図6A、
図6B及び
図6Cのように保温部材80を配置した場合は、腹側への翼本体42の倒れがほとんどなくなるか、背側へ倒れるようになったが、
図4A及び
図4Bのように保温部材80を配置した場合よりもさらに翼本体42の倒れを抑制できる。
【0031】
図8Aは、前縁部62及び後縁部64に対し、前縁部62及び後縁部64の基端50から先端48までの間の一部の領域に保温部材80を配置した例を示す図であり、タービン翼40を背側から見た図である。
図8Bは、
図8Aにおける保温部材80の配置状態を翼高さ方向から見たときの図である。
【0032】
図9Aは、前縁部62及び後縁部64に対し、前縁部62及び後縁部64の基端50から先端48までの間の一部の領域に保温部材80を配置した他の例を示す図であり、タービン翼40を背側から見た図である。
図9Bは、
図9Aにおける保温部材80の配置状態を翼高さ方向から見たときの図である。
なお、
図8A及び
図8Bに示す例、並びに
図9A及び
図9Bに示す例は、翼本体42の状態に応じて意図的に翼本体42を腹側に倒すように保温部材80を配置した例である。
【0033】
図8A及び
図8Bは、上述した第2領域92に保温部材80を配置し、上述した第1領域91に保温部材80を配置しない場合に相当する例を示す図である。
図8A及び
図8Bに示す例では、前縁部62及び後縁部64に配置される保温部材80の厚さtは、
図4A及び
図4Bに示す場合と同様にt1である。上述した距離La、距離Lb、距離Lc、及び距離Ldは、いずれもL1である。
【0034】
図9A及び
図9Bは、上述した第1領域91と、上述した第2領域92の内、チップ側の第3領域93に保温部材80を配置し、上述した第2領域92の内の第3領域93以外の領域に保温部材80を配置しない場合に相当する例を示す図である。
図9A及び
図9Bに示す例では、前縁部62及び後縁部64に配置される保温部材80の厚さtは、
図4A及び
図4Bに示す場合と同様にt1である。上述した距離La、距離Lb、距離Lc、及び距離Ldは、いずれもL1である。
【0035】
図10A、
図10B、及び
図10Cは、
図8A及び
図8B、並びに
図9A及び
図9Bに示すように保温部材80を配置したタービン翼40に対し、熱処理を行った後の翼本体42の形状を熱処理を行う前と比較した結果を示す図である。
図10Aでは、翼高さ方向に垂直な断面における上述したY軸方向の移動量(Bow)を横軸にとり、翼本体42における翼高さ方向の位置を縦軸にとっている。
図10Bでは、翼高さ方向に垂直な断面における上述したX軸方向の移動量(Displacement)を横軸にとり、翼本体42における翼高さ方向の位置を縦軸にとっている。
図10Cでは、翼高さ方向に垂直な断面における上述したZ軸回りの回転方向(ねじれ)の移動量(Twist)を横軸にとり、翼本体42における翼高さ方向の位置を縦軸にとっている。
図10Aにおける破線のグラフ線107、
図10Bにおける破線のグラフ線108、及び
図10Cにおける破線のグラフ線109は、保温部材80を配置せずに熱処理を行った場合の移動量を示すグラフ線である。
図10Aにおける実線のグラフ線207、208、
図10Bにおける実線のグラフ線209、210、及び
図10Cにおける実線のグラフ線211、212は、保温部材80を配置した場合の移動量を示すグラフ線である。
なお、
図10Aにおける実線のグラフ線207、
図10Bにおける実線のグラフ線209、及び
図10Cにおける実線のグラフ線211は、
図8A及び
図8Bに示す例において保温部材80を配置した場合の移動量を示すグラフ線である。
図10Aにおける実線のグラフ線208、
図10Bにおける実線のグラフ線210、及び
図10Cにおける実線のグラフ線212は、
図9A及び
図9Bに示す例において保温部材80を配置した場合の移動量を示すグラフ線である。
【0036】
図8A及び
図8Bに示す例では、
図10Aに示すように、保温部材80が配置されていなかった第1領域91に相当する領域では、保温部材80が全く配置されていない場合と同様に翼本体42は腹側に倒れる。しかし、保温部材80が配置されていた第2領域92に相当する領域では、翼本体42は変形が抑制されて比較的まっすぐな形状を保っている。
【0037】
図9A及び
図9Bに示す例では、
図10Aに示すように、保温部材80が配置されていた第1領域91では、翼本体42は背側に倒れる。第1領域91と第3領域93との間の領域に相当する領域では、保温部材80が配置されていなかったため、翼本体42は腹側に倒れる。保温部材80が配置されていた第3領域93に相当する領域では、翼本体42は変形が抑制されて比較的まっすぐな形状を保っている。
【0038】
以上の結果を踏まえると、翼本体42の状態に応じて意図的に翼本体42を変形させるように保温部材80を配置することができる。
図11は、翼高さ方向に垂直な断面における上述したY軸方向の移動量(Bow)を横軸にとり、翼本体42における翼高さ方向の位置を縦軸にとったグラフであり、上述した幾つかの実施形態におけるグラフ線を掲載している。
例えば、
図11のグラフ線221は、
図8A及び
図8Bに示す例におけるグラフ線207の一つであるが、熱処理前に翼本体42の主にチップ側の領域が背側に倒れている場合には、
図8A及び
図8Bに示す例のように保温部材80を配置することで、翼本体42の主にチップ側の領域を腹側に向かって起こすことができる。
【0039】
例えば、
図11のグラフ線222は、
図6A及び
図6Bに示す例におけるグラフ線204の一つであるが、熱処理前の翼本体42の移動量が寸法公差内である場合には、
図6A及び
図6Bに示す例のように保温部材80を配置することで、熱処理による移動量をできるだけ少なくすることができる。
【0040】
例えば、
図11のグラフ線223は、
図9A及び
図9Bに示す例におけるグラフ線208の一つであるが、熱処理前に翼本体42の主にチップ側の領域が腹側に倒れている場合には、
図9A及び
図9Bに示す例のように保温部材80を配置することで、翼本体42の主にチップ側の領域を背側に向かって起こすことができる。
【0041】
例えば、
図11のグラフ線224は、
図4A及び
図4Bに示す例におけるグラフ線201の一つであるが、熱処理前に翼本体42の主にチップ側の領域が比較的大きく腹側に倒れている場合には、
図4A及び
図4Bに示す例のように保温部材80を配置することで、翼本体42の主にチップ側の領域を背側に向かって起こすことができる。
【0042】
なお、保温部材80は、翼本体42の状態に応じて前縁部62、又は、後縁部64の何れか一方における少なくとも一部に対して配置してもよい。
【0043】
図12は、幾つかの実施形態に係るタービン部品の変形を制御する方法によってタービン部品の変形を制御しながら熱処理を行う手順を示したフローチャートである。
いくつかの実施形態に係る熱処理方法は、保温部材80を配置する工程S10と、熱処理工程S20と、保温部材80を取り除く工程S30とを備えている。
保温部材を配置する工程S10は、タービン部品を所定温度以上まで加熱する前、すなわち以下の熱処理工程S20の実施の前に、上述したように薄肉部71の少なくとも一部に対して保温部材80を配置する工程である。
なお、保温部材を配置する工程S10では、保温部材80をタービン部品に配置する際、保温部材80がタービン部品からの脱落や位置ずれ等を起こさないように、金属製の網を保温部材80の上から被せる等、必要な措置を講じるとよい。
【0044】
熱処理工程S20は、保温部材を配置する工程S10で保温部材80を配置した後のタービン部品を加熱して冷却する工程である。熱処理工程S20は、上述したように、例えば溶体化熱処理を行う工程である。なお、熱処理工程S20は、加熱及びその後の冷却の過程でタービン部品の変形が生じるような熱履歴を与えるものであれば、溶体化熱処理以外であってもよい。また、上述した所定温度とは、加熱及びその後の冷却の過程でタービン部品の変形が生じるような加熱温度のことである。
【0045】
保温部材80を取り除く工程S30は、所定温度以上まで加熱したタービン部品を冷却した後で、すなわち熱処理工程S20の後で、タービン部品から保温部材80を取り除く工程である。
保温部材80を取り除く工程S30では、例えば保温部材を配置する工程S10において金属製の網を保温部材80の上から被せる等の措置を講じていれば、その措置を解除するとともに保温部材80をタービン部品から取り除けばよい。
【0046】
このように、幾つかの実施形態に係るタービン部品の変形を制御する方法は、タービン部品を所定温度以上まで加熱する前に、薄肉部71の少なくとも一部に対して保温部材80を配置する工程S10と、所定温度以上まで加熱したタービン部品を冷却した後で、タービン部品から保温部材80を取り除く工程S30と、を備える。
これにより、薄肉部71からの放熱を保温部材80で抑制できるので、厚肉部73に対して速くなりがちな薄肉部71の冷却速度を抑制できる。よって、不所望な変形を抑制する等、タービン部品の変形を制御することができる。
【0047】
幾つかの実施形態に係るタービン部品の変形を制御する方法では、該方法が適用されるタービン部品は、タービン翼40であってもよい。
図4A、
図4B、
図6A、
図6B、
図6C、
図8A、
図8B、
図9A、及び
図9Bに示すように、保温部材80を配置する工程S10では、タービン翼40の翼本体42の前縁部62、又は、後縁部64の少なくとも何れか一方における少なくとも一部に対して保温部材80を配置するとよい。
【0048】
タービン部品のうち、タービン翼40では、翼本体42自体の厚さがシャンク部46等と比べて薄いことに加えて、前縁部62及び後縁部64の厚さが翼本体42の他の部位と比べてさらに薄い。そのため、加熱後の冷却過程で、前縁部62や後縁部64と翼本体42の他の部位とで温度差が生じると、翼本体42が不所望に変形し易い。
幾つかの実施形態に係るタービン部品の変形を制御する方法によれば、加熱後の冷却過程で、前縁部62や後縁部64と翼本体42の他の部位との温度差を抑制できるので、翼本体42の不所望な変形を抑制する等、タービン翼40の変形を制御することができる。
【0049】
幾つかの実施形態に係るタービン部品の変形を制御する方法において、
図6A、
図6B、
図6C、
図8A、
図8B、
図9A、及び
図9Bに示すように、保温部材80を配置する工程S10では、前縁部62、又は、後縁部64の少なくともいずれか一方において、翼本体42の基端50から先端48までの間の一部の領域と、基端50から先端48までの間の領域であって上記一部の領域とは異なる他の領域とで、保温部材80による保温力が異なるように保温部材80を配置するとよい。
これにより、加熱後の冷却過程で、翼本体42の変形を翼高さ方向の異なる領域毎に制御できる。
【0050】
なお、保温部材80による保温力を異ならせる方法には、以下のいくつかの方法が考えられる。
(a)
図6A、
図6B、及び
図6Cに示すように、翼高さ方向から見たときに保温部材80が覆う距離La~Ldを変更することで保温力を変更する方法
(b)
図8A、
図8B、
図9A、及び
図9Bに示すように保温部材80を配置するか否かによって保温力を変更する方法
(c)保温部材80の厚さtを変更することで保温力を変更する方法
(d)ブランケット状や布状といった保温部材80の種類を変更することで保温力を変更する方法
(e)保温部材80の素材の材質を変更することで保温力を変更する方法
【0051】
幾つかの実施形態に係るタービン部品の変形を制御する方法において、例えば
図6A、
図6B、及び
図6Cに示すように、保温部材80を配置する工程S10では、前縁部62、又は、後縁部64の少なくともいずれか一方において、ハブ側の第1領域91における保温力が第1領域91よりもチップ側の第2領域92における保温力よりも高くなるように保温部材80を配置してもよい。
これにより、翼本体42の変形に影響を与えるハブ側の第1領域91での変形をより積極的に制御できる。
【0052】
幾つかの実施形態に係るタービン部品の変形を制御する方法において、
図6A、
図6B、及び
図6Cに示すように、保温部材80を配置する工程S10では、前縁部62、又は、後縁部64の少なくともいずれか一方において、翼本体の翼高さ方向から見たときに、第1領域91において保温部材80で覆われる距離La~Ldが第2領域92において保温部材80で覆われる距離La~Ldよりも大きくなるように保温部材80を配置してもよい。
これにより、比較的簡単に第1領域91と第2領域92との保温力に差を持たせることができる。
【0053】
幾つかの実施形態に係るタービン部品の変形を制御する方法において、保温部材80を配置する工程S10では、前縁部62、又は、後縁部64の少なくともいずれか一方において、第1領域91に配置される保温部材80の厚さtが第2領域92に配置される保温部材80の厚さtよりも厚くなるように保温部材80を配置してもよい。
これにより、比較的簡単に第1領域と第2領域との保温力に差を持たせることができる。
【0054】
幾つかの実施形態に係るタービン部品の変形を制御する方法において、保温部材80を配置する工程S10では、後縁部64における保温力が前縁部62における保温力よりも高くなるように保温部材80を配置してもよい。
これにより、前縁52側の領域よりも薄く意図しない形状に変形し易い後縁54側の領域の変形をより積極的に制御できる。
【0055】
幾つかの実施形態に係るタービン部品の変形を制御する方法において、保温部材80を配置する工程S10では、翼本体42の翼高さ方向から見たときに、後縁部64において保温部材80で覆われる距離Lc、Ldが前縁部62において保温部材80で覆われる距離La、Lbよりも大きくなるように保温部材80を配置してもよい。
これにより、比較的簡単に前縁部と後縁部との保温力に差を持たせることができる。
【0056】
幾つかの実施形態に係るタービン部品の変形を制御する方法において、保温部材80を配置する工程S10では、後縁部64に配置される保温部材80の厚さtが前縁部62に配置される保温部材80の厚さtよりも厚くなるように保温部材80を配置してもよい。
これにより、比較的簡単に前縁部62と後縁部64との保温力に差を持たせることができる。
【0057】
幾つかの実施形態に係るタービン部品の変形を制御する方法では、タービン翼40は、翼本体42と、翼本体42のハブ側に形成されたプラットフォーム部44と、プラットフォーム部44を挟んで翼本体42と反対側に形成されたシャンク部46と、を有していてもよい。
図6A、
図6B及び
図6Cに示すように、保温部材80を配置する工程S10では、シャンク部46の前縁側側面46L、又は、後縁側側面46Tの少なくとも何れか一方に保温部材を配置してもよい。
【0058】
シャンク部46の前縁側側面46Lに近い領域、及び、後縁側側面46Tの近い領域では、加熱後の冷却過程でシャンク部46の側面46Sだけでなく前縁側側面46Lや後縁側側面46Tからも放熱する。そのため、シャンク部46の前縁側側面46Lに近い領域、及び、後縁側側面46Tの近い領域と、これら2つの領域の間の領域とで、加熱後の冷却過程で温度差が生じ、シャンク部46の前縁側側面46Lに近い領域や後縁側側面46Tの近い領域において変形して、タービン翼40全体に変形が生じ易い。
幾つかの実施形態に係るタービン部品の変形を制御する方法によれば、シャンク部46の前縁側側面46L、後縁側側面46Tの変形を制御することで、タービン翼40全体の変形を効果的に制御できる。
【0059】
幾つかの実施形態に係るタービン部品の変形を制御する方法は、タービン翼40の製造時の熱処理において適用できるとともに、タービン翼40の補修時にも適用できる。
なお、幾つかの実施形態に係るタービン部品の変形を制御する方法をタービン翼40の補修時にも適用する場合、補修対象のタービン翼40の熱処理前にタービン翼40の形状を計測し、保温部材80を配置する工程において、狙いの形状近づくように意図的に翼本体42が変形するように保温部材を配置すればよい。
【0060】
本開示は上述した実施形態に限定されることはなく、上述した実施形態に変形を加えた形態や、これらの形態を適宜組み合わせた形態も含む。
例えば、上述した幾つかの実施形態に係るタービン部品の変形を制御する方法の適用対象としてタービン翼40を例に挙げたが、該方法の適用対象は、タービン6の静翼24や、タービン6の不図示の分割環、遮熱環、翼環等であってもよい。
【0061】
上記各実施形態に記載の内容は、例えば以下のように把握される。
(1)本開示の少なくとも一実施形態に係るタービン部品の変形を制御する方法は、薄肉部71と厚肉部73とを有するタービン部品(タービン翼40)の製造時又は補修時において変形を制御する方法である。本開示の少なくとも一実施形態に係るタービン部品の変形を制御する方法は、タービン部品(タービン翼40)を所定温度以上まで加熱する前に、薄肉部71の少なくとも一部に対して保温部材80を配置する工程S10と、所定温度以上まで加熱したタービン部品(タービン翼40)を冷却した後で、タービン部品(タービン翼40)から保温部材80を取り除く工程S30と、を備える。
【0062】
上記(1)の方法よれば、薄肉部71からの放熱を保温部材80で抑制できるので、厚肉部73に対して速くなりがちな薄肉部71の冷却速度を抑制できる。これにより、不所望な変形を抑制する等、タービン部品の変形を制御することができる。
【0063】
(2)幾つかの実施形態では、上記(1)の方法において、タービン部品は、タービン翼40である。保温部材80を配置する工程S10では、タービン翼40の翼本体42の前縁部62、又は、後縁部64の少なくとも何れか一方における少なくとも一部に対して保温部材80を配置するとよい。
【0064】
上記(2)の方法によれば、加熱後の冷却過程で、前縁部62や後縁部64と翼本体42の他の部位との温度差を抑制できるので、翼本体42の不所望な変形を抑制する等、タービン翼40の変形を制御することができる。
【0065】
(3)幾つかの実施形態では、上記(2)の方法において、保温部材80を配置する工程S10では、前縁部62、又は、後縁部64の少なくともいずれか一方において、翼本体42のハブ端(基端50)からチップ端(先端48)までの間の一部の領域と、ハブ端(基端50)からチップ端(先端48)までの間の領域であって上記一部の領域とは異なる他の領域とで、保温部材80による保温力が異なるように保温部材を配置するとよい。
【0066】
上記(3)の方法によれば、加熱後の冷却過程で、翼本体42の変形を翼高さ方向の異なる領域毎に制御できる。
【0067】
(4)幾つかの実施形態では、上記(3)の方法において、保温部材80を配置する工程S10では、前縁部62、又は、後縁部64の少なくともいずれか一方において、ハブ側の第1領域91における保温力が第1領域91よりもチップ側の第2領域92における保温力よりも高くなるように保温部材80を配置してもよい。
【0068】
上記(4)の方法によれば、翼本体42の変形に影響を与えるハブ側の第1領域91での変形をより積極的に制御できる。
【0069】
(5)幾つかの実施形態では、上記(4)の方法において、保温部材80を配置する工程S10では、前縁部62、又は、後縁部64の少なくともいずれか一方において、翼本体42の翼高さ方向から見たときに、第1領域91において保温部材80で覆われる距離La~Ldが第2領域92において保温部材80で覆われる距離La~Ldよりも大きくなるように保温部材80を配置してもよい。
【0070】
上記(5)の方法によれば、比較的簡単に第1領域91と第2領域92との保温力に差を持たせることができる。
【0071】
(6)幾つかの実施形態では、上記(4)又は(5)の方法において、保温部材80を配置する工程S10では、前縁部62、又は、後縁部64の少なくともいずれか一方において、第1領域91に配置される保温部材80の厚さtが第2領域92に配置される保温部材80の厚さtよりも厚くなるように保温部材80を配置してもよい。
【0072】
上記(6)の方法によれば、比較的簡単に第1領域91と第2領域92との保温力に差を持たせることができる。
【0073】
(7)幾つかの実施形態では、上記(2)乃至(6)の何れかの方法において、保温部材80を配置する工程S10では、後縁部64における保温力が前縁部62における保温力よりも高くなるように保温部材80を配置してもよい。
【0074】
上記(7)の方法によれば、前縁52側の領域よりも薄く意図しない形状に変形し易い後縁54側の領域の変形をより積極的に制御できる。
【0075】
(8)幾つかの実施形態では、上記(7)の方法において、保温部材80を配置する工程S10では、翼本体42の翼高さ方向から見たときに、後縁部64において保温部材80で覆われる距離Lc、Ldが前縁部62において保温部材80で覆われる距離La、Lbよりも大きくなるように保温部材80を配置してもよい。
【0076】
上記(8)の方法によれば、比較的簡単に前縁部62と後縁部64との保温力に差を持たせることができる。
【0077】
(9)幾つかの実施形態では、上記(7)又は(8)の方法において、保温部材80を配置する工程S10では、後縁部64に配置される保温部材80の厚さtが前縁部62に配置される保温部材80の厚さtよりも厚くなるように保温部材80を配置してもよい。
【0078】
上記(9)の方法によれば、比較的簡単に前縁部62と後縁部64との保温力に差を持たせることができる。
【0079】
(10)幾つかの実施形態では、上記(2)乃至(9)の何れかの方法において、タービン翼40は、翼本体42と、翼本体42のハブ側(基端50側)に形成されたプラットフォーム部44と、プラットフォーム部44を挟んで翼本体42と反対側に形成されたシャンク部46と、を有していてもよい。保温部材80を配置する工程S10では、シャンク部46の前縁側側面46L、又は、後縁側側面46Tの少なくとも何れか一方に保温部材80を配置してもよい。
【0080】
上記(10)の方法によれば、シャンク部46の前縁側側面46L、後縁側側面46Tの変形を制御することで、タービン翼40全体の変形を効果的に制御できる。
【符号の説明】
【0081】
1 ガスタービン
6 タービン
26 動翼
40 タービン翼
42 翼本体(翼型部)
44 プラットフォーム部
46 シャンク部
71 薄肉部
73 厚肉部
62 前縁部
64 後縁部
80 保温部材
91 第1領域
92 第2領域
【手続補正書】
【提出日】2022-11-14
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄肉部と厚肉部とを有するタービン部品の製造時又は補修時において変形を制御する方法であって、
前記タービン部品を所定温度以上まで加熱する前に、前記薄肉部の少なくとも一部に対して保温部材を配置する工程と、
前記所定温度以上まで加熱した前記タービン部品を冷却した後で、前記タービン部品から前記保温部材を取り除く工程と、
を備え、
前記タービン部品は、タービン翼であり、
前記保温部材を配置する工程では、前記タービン翼の翼本体の前縁部、又は、後縁部の少なくとも何れか一方において前記翼本体のハブ端から前記保温部材を配置し、且つ、ハブ側の第1領域における前記保温部材による保温力が前記第1領域よりもチップ側の第2領域における前記保温力よりも高くなるように前記保温部材を配置する、
タービン部品の変形を制御する方法。
【請求項2】
前記保温部材を配置する工程では、前記前縁部、又は、前記後縁部の少なくともいずれか一方において、前記翼本体の翼高さ方向から見たときに、前記第1領域において前記保温部材で覆われる距離が前記第2領域において前記保温部材で覆われる距離よりも大きくなるように前記保温部材を配置する、
請求項1に記載のタービン部品の変形を制御する方法。
【請求項3】
前記保温部材を配置する工程では、前記前縁部、又は、前記後縁部の少なくともいずれか一方において、前記第1領域に配置される前記保温部材の厚さが前記第2領域に配置される前記保温部材の厚さよりも厚くなるように前記保温部材を配置する、
請求項1又は2に記載のタービン部品の変形を制御する方法。
【請求項4】
前記タービン翼は、前記翼本体と、前記翼本体のハブ側に形成されたプラットフォーム部と、前記プラットフォーム部を挟んで前記翼本体と反対側に形成されたシャンク部と、を有し、
前記保温部材を配置する工程では、前記シャンク部の前縁側側面、又は、後縁側側面の少なくとも何れか一方に前記保温部材を配置する、
請求項1又は2に記載のタービン部品の変形を制御する方法。
【請求項5】
薄肉部と厚肉部とを有するタービン部品の製造時又は補修時において変形を制御する方法であって、
前記タービン部品を所定温度以上まで加熱する前に、前記薄肉部の少なくとも一部に対して保温部材を配置する工程と、
前記所定温度以上まで加熱した前記タービン部品を冷却した後で、前記タービン部品から前記保温部材を取り除く工程と、
を備え、
前記タービン部品は、タービン翼であり、
前記保温部材を配置する工程では、前記前縁部、又は、前記後縁部の少なくともいずれか一方において、前記翼本体のハブ端からチップ端までの間の一部の領域と、前記ハブ端から前記チップ端までの間の領域であって前記一部の領域とは異なる他の領域とで、前記保温部材による保温力が異なるように前記保温部材を配置し、
前記冷却の過程において前記一部の領域が腹側に倒れることを抑制し、前記他の領域が腹側に倒れるように変形させる場合は前記一部の領域に保温部材を配置して前記他の領域には保存部材を配置しない、
タービン部品の変形を制御する方法。
【請求項6】
薄肉部と厚肉部とを有するタービン部品の製造時又は補修時において変形を制御する方法であって、
前記タービン部品を所定温度以上まで加熱する前に、前記薄肉部の少なくとも一部に対して保温部材を配置する工程と、
前記所定温度以上まで加熱した前記タービン部品を冷却した後で、前記タービン部品から前記保温部材を取り除く工程と、
を備え、
前記タービン部品は、タービン翼であり、前記翼本体と、前記翼本体のハブ側に形成されたプラットフォーム部と、前記プラットフォーム部を挟んで前記翼本体と反対側に形成されたシャンク部と、を有し、
前記保温部材を配置する工程では、前記タービン翼の翼本体の前縁部、又は、後縁部の少なくとも何れか一方における少なくとも一部に対して前記保温部材を配置するとともに、前記シャンク部の前縁側側面、又は、後縁側側面の少なくとも何れか一方に前記保温部材を配置する、
タービン部品の変形を制御する方法。
【請求項7】
前記保温部材を配置する工程では、前記前縁部、又は、前記後縁部の少なくともいずれか一方において、前記翼本体のハブ端からチップ端までの間の一部の領域と、前記ハブ端から前記チップ端までの間の領域であって前記一部の領域とは異なる他の領域とで、前記保温部材による保温力が異なるように前記保温部材を配置する、
請求項6に記載のタービン部品の変形を制御する方法。
【請求項8】
前記保温部材を配置する工程では、前記前縁部、又は、前記後縁部の少なくともいずれか一方において、ハブ側の第1領域における前記保温力が前記第1領域よりもチップ側の第2領域における前記保温力よりも高くなるように前記保温部材を配置する、
請求項7に記載のタービン部品の変形を制御する方法。
【請求項9】
前記保温部材を配置する工程では、前記前縁部、又は、前記後縁部の少なくともいずれか一方において、前記翼本体の翼高さ方向から見たときに、前記第1領域において前記保温部材で覆われる距離が前記第2領域において前記保温部材で覆われる距離よりも大きくなるように前記保温部材を配置する、
請求項8に記載のタービン部品の変形を制御する方法。
【請求項10】
前記保温部材を配置する工程では、前記前縁部、又は、前記後縁部の少なくともいずれか一方において、前記第1領域に配置される前記保温部材の厚さが前記第2領域に配置される前記保温部材の厚さよりも厚くなるように前記保温部材を配置する、
請求項8又は9に記載のタービン部品の変形を制御する方法。
【請求項11】
前記保温部材を配置する工程では、前記後縁部における前記保温部材による保温力が前記前縁部における前記保温力よりも高くなるように前記保温部材を配置する、
請求項1、2、4、6乃至10の何れか一項に記載のタービン部品の変形を制御する方法。
【請求項12】
前記保温部材を配置する工程では、前記翼本体の翼高さ方向から見たときに、前記後縁部において前記保温部材で覆われる距離が前記前縁部において前記保温部材で覆われる距離よりも大きくなるように前記保温部材を配置する、
請求項11に記載のタービン部品の変形を制御する方法。
【請求項13】
前記保温部材を配置する工程では、前記後縁部に配置される前記保温部材の厚さが前記前縁部に配置される前記保温部材の厚さよりも厚くなるように前記保温部材を配置する、
請求項11に記載のタービン部品の変形を制御する方法。