(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023183133
(43)【公開日】2023-12-27
(54)【発明の名称】アンテナ装置、給電装置、及び給電方法
(51)【国際特許分類】
H01Q 3/30 20060101AFI20231220BHJP
H02J 50/40 20160101ALI20231220BHJP
H02J 50/90 20160101ALI20231220BHJP
H02J 50/23 20160101ALI20231220BHJP
【FI】
H01Q3/30
H02J50/40
H02J50/90
H02J50/23
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022096594
(22)【出願日】2022-06-15
(71)【出願人】
【識別番号】000114215
【氏名又は名称】ミネベアミツミ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】藤井 正明
【テーマコード(参考)】
5J021
【Fターム(参考)】
5J021AA05
5J021AA11
5J021AB06
5J021DB03
5J021EA03
5J021FA06
5J021FA13
5J021FA24
5J021GA02
5J021HA00
(57)【要約】
【課題】簡単な計算でビームの方向を制御できるアンテナ装置を提供する。
【解決手段】アンテナ装置は、複数のアンテナ素子に供給される送電信号の位相を第1軸方向及び第2軸方向で調節する位相調節部と、魚眼レンズを通じて画像を取得する画像取得部と、画像に含まれるマーカの画像取得部に対する第1位置を第1軸及び第2軸を含む第1平面上の極座標での第2位置に変換する位置導出部と、第2位置に基づいて第1位置を第1軸と第3軸とを含む第2平面に投影した投影位置の第2平面内での第3軸に対する第1角度を求める第1角度取得部と、第2位置と第1角度とに基づいて画像取得部の基準位置と投影位置とを結ぶ第1直線に対する、基準位置と第1位置とを結ぶ第2直線がなす第2角度を求める第2角度取得部と、ビームの方向が画像取得部の基準位置に対して第1角度及び第2角度の方向になるように位相調節部を制御する制御部とを含む。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1軸及び第2軸に沿って二次元的に配置される複数のアンテナ素子を有するアレイアンテナと、
前記複数のアンテナ素子に供給される送電信号の位相を前記第1軸方向及び前記第2軸方向において調節する位相調節部と、
魚眼レンズを通じて画像を取得する画像取得部と、
前記画像取得部によって取得される画像に含まれるマーカの前記画像取得部に対する第1位置を、第1軸及び第2軸を含む第1平面上の極座標における第2位置に変換する位置導出部と、
前記第2位置に基づいて、前記第1位置を前記第1軸と第3軸とを含む第2平面に投影した投影位置の前記第2平面内での前記第3軸に対する第1角度を求める第1角度取得部と、
前記第2位置と、前記第1角度とに基づいて、前記画像取得部の基準位置と前記投影位置とを結ぶ第1直線に対する、前記画像取得部の基準位置と前記第1位置とを結ぶ第2直線がなす第2角度を求める第2角度取得部と、
前記アレイアンテナが放射するビームの方向が、前記画像取得部の基準位置に対して前記第1角度及び前記第2角度で特定される方向になるように前記位相調節部を制御する制御部と
を含む、アンテナ装置。
【請求項2】
前記第2角度取得部は、前記第2位置の前記第2軸の座標を前記魚眼レンズの焦点距離で除算して得る商に、前記第1角度を所定係数で除算して得る角度の余弦を乗じた値を、前記第2角度として求める、請求項1記載のアンテナ装置。
【請求項3】
前記所定係数は、1.5~2である、請求項2に記載のアンテナ装置。
【請求項4】
前記第1角度取得部は、前記第2位置を前記第1軸に写像した写像位置の座標を前記魚眼レンズの焦点距離で除算した値を、前記第1角度として求める、請求項1記載のアンテナ装置。
【請求項5】
前記写像位置の座標は、前記極座標における動径に偏角の余弦を乗算した値で表される、請求項4記載のアンテナ装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記アレイアンテナの基準位置から前記第1軸方向にn(nは2以上の整数)番目で、前記アレイアンテナの基準位置から前記第2軸方向にm(mは2以上の整数)番目のアンテナ素子に供給される送電信号の位相を、前記第1軸方向において次式(1)で表されるΨnに調整し、前記第2軸方向において次式(2)で表されるΨmに調整する、請求項1乃至5のいずれか1項に記載のアンテナ装置。
【数1】
ただし、dxは前記複数のアンテナ素子の前記第1軸方向におけるピッチ、dyは前記複数のアンテナ素子の前記第2軸方向におけるピッチ、θ
Hは前記第1角度、θ
Vは前記第2角度、λは前記送電信号の自由空間における波長である。
【請求項7】
第1軸及び第2軸に沿って二次元的に配置される複数のアンテナ素子を有するアレイアンテナと、
電波発生源と、
前記アレイアンテナと前記電波発生源との間に設けられ、前記電波発生源から前記複数のアンテナ素子に供給される送電信号の位相を前記第1軸方向及び前記第2軸方向において調節する位相調節部と、
魚眼レンズを通じて画像を取得する画像取得部と、
前記画像取得部によって取得される画像に含まれるマーカの前記画像取得部に対する第1位置を、第1軸及び第2軸を含む第1平面上の極座標における第2位置に変換する位置導出部と、
前記第2位置に基づいて、前記第1位置を前記第1軸と第3軸とを含む第2平面に投影した投影位置の前記第2平面内での前記第3軸に対する第1角度を求める第1角度取得部と、
前記第2位置と、前記第1角度とに基づいて、前記画像取得部の基準位置と前記投影位置とを結ぶ第1直線に対する、前記画像取得部の基準位置と前記第1位置とを結ぶ第2直線がなす第2角度を求める第2角度取得部と、
前記アレイアンテナが放射するビームの方向が、前記画像取得部の基準位置に対して前記第1角度及び前記第2角度で特定される方向になるように前記位相調節部を制御する制御部と
を含む、給電装置。
【請求項8】
第1軸及び第2軸に沿って二次元的に配置される複数のアンテナ素子を有するアレイアンテナと、
電波発生源と、
前記アレイアンテナと前記電波発生源との間に設けられ、前記電波発生源から前記複数のアンテナ素子に供給される送電信号の位相を前記第1軸方向及び前記第2軸方向において調節する位相調節部と、
魚眼レンズを通じて画像を取得する画像取得部と、
前記画像取得部によって取得される画像に含まれるマーカの前記画像取得部に対する第1位置を、第1軸及び第2軸を含む第1平面上の極座標における第2位置に変換する位置導出部と、
前記第2位置に基づいて、前記第1位置を前記第1軸と第3軸とを含む第2平面に投影した投影位置の前記第2平面内での前記第3軸に対する第1角度を求める第1角度取得部と、
前記第2位置と、前記第1角度とに基づいて、前記画像取得部の基準位置と前記投影位置とを結ぶ第1直線に対する、前記画像取得部の基準位置と前記第1位置とを結ぶ第2直線がなす第2角度を求める第2角度取得部と
を含む、給電装置において、
前記アレイアンテナが放射するビームの方向が、前記画像取得部の基準位置に対して前記第1角度及び前記第2角度で特定される方向になるように前記位相調節部を制御する、給電方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンテナ装置、給電装置、及び給電方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、アレイ状又はサブアレイ状に配列した多くのアンテナ素子を備えるアンテナセクションを含むアンテナ装置がある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、複数のアンテナ素子から放射される電波によって形成されるビームの方向を制御する際に、ビームの方向を仰角と方位角とで制御すると計算が複雑になる。
【0005】
そこで、簡単な計算でビームの方向を制御できるアンテナ装置、給電装置、及び給電方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の実施形態のアンテナ装置は、第1軸及び第2軸に沿って二次元的に配置される複数のアンテナ素子を有するアレイアンテナと、前記複数のアンテナ素子に供給される送電信号の位相を前記第1軸方向及び前記第2軸方向において調節する位相調節部と、魚眼レンズを通じて画像を取得する画像取得部と、前記画像取得部によって取得される画像に含まれるマーカの前記画像取得部に対する第1位置を、第1軸及び第2軸を含む第1平面上の極座標における第2位置に変換する位置導出部と、前記第2位置に基づいて、前記第1位置を前記第1軸と第3軸とを含む第2平面に投影した投影位置の前記第2平面内での前記第3軸に対する第1角度を求める第1角度取得部と、前記第2位置と、前記第1角度とに基づいて、前記画像取得部の基準位置と前記投影位置とを結ぶ第1直線に対する、前記画像取得部の基準位置と前記第1位置とを結ぶ第2直線がなす第2角度を求める第2角度取得部と、前記アレイアンテナが放射するビームの方向が、前記画像取得部の基準位置に対して前記第1角度及び前記第2角度で特定される方向になるように前記位相調節部を制御する制御部とを含む。
【発明の効果】
【0007】
簡単な計算でビームの方向を制御できるアンテナ装置、給電装置、及び給電方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図3】アレイアンテナ110の極座標系を示す図である。
【
図4】準ミリ波帯のビームの水平方向及び垂直方向におけるアンテナゲインの分布の一例を示す図である。
【
図5】給電装置100で受電アンテナ50Bに給電する状態を示す図である。
【
図6】比較用の給電方法と実施形態の給電方法の比較結果を示す図である。
【
図7】比較用の給電方法と実施形態の給電方法とにおけるパラメータの値の時間変化を表す図である。
【
図8】比較用の給電方法と実施形態の給電方法とにおけるパラメータの値の時間変化を表す図である。
【
図9】実施形態の給電方法における受電アンテナ50Bの受電電力量の時間変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明のアンテナ装置、給電装置、及び給電方法を適用した実施形態について説明する。
【0010】
<実施形態>
図1は、実施形態の給電装置100を示す図である。給電装置100は、アレイアンテナ110、フェーズシフタ120、マイクロ波発生源130、カメラ140、及び制御装置150を含む。実施形態のアンテナ装置100Aは、給電装置100からマイクロ波発生源130を除いたものである。
【0011】
以下では、XYZ座標系を用いて説明する。平面視とはXY平面視のことである。また、X軸は第1軸の一例であり、Y軸は第2軸の一例であり、Z軸は第3軸の一例である。また、XY平面は第1平面の一例であり、XZ平面は第2平面の一例である。
【0012】
アレイアンテナ110は、一例としてN×N個のアンテナ素子111を含む。Nは2以上の整数である。N×N個のアンテナ素子111は、X方向(第1軸方向)にN個配列され、Y方向(第2軸方向)にN個配列される。すなわち、N×N個のアンテナ素子111は、N行×N列で配列されている。X方向の1番目(#1)からN番目(#N)を示す。アンテナ素子111は、平面視で矩形状のパッチアンテナである。アレイアンテナ110は、アンテナ素子111の-Z方向側にグランド電位に保持されるグランド板を有していてもよい。なお、一例として、N×N個のアンテナ素子111の位置の中心は、XYZ座標系の原点と一致している。N×N個のアンテナ素子111の位置の中心は、アレイアンテナの基準位置の一例である。
【0013】
以下では、
図1に加えて
図2を用いて説明する。
図2は、実施形態の給電装置100を示す図である。
図2では、
図1と同様にフェーズシフタ120の周辺の構成を簡略化して示す。
図2では、図面を見やすくするためにXYZ座標系の原点をずらして示すが、以下では
図1に示すようにXYZ座標系の原点がN×N個のアンテナ素子111の位置の中心と一致しているものとして説明する。また、
図2には、N列の各々について4行のうちの1つのアンテナ素子111を示す。また、
図2には、制御装置150に含まれる構成要素と、受電装置50を示す。受電装置50は、マーカ50A及び受電アンテナ50Bを有し、一例としてトンネルの内壁51に固定されている。トンネルの内壁51は壁部の一例であり、トンネルの内部は内壁51に沿って配置されるマーカ50Aが存在する空間の一例である。アンテナ装置100A及び給電装置100は、一例として、作業車両に搭載してトンネル内を走行しながら、トンネルの内壁51に取り付けられたマーカ50Aを検出して、受電アンテナ50Bに向けて送電を行う。アンテナ装置100A及び給電装置100を作業車両に搭載した状態では、XZ平面が水平面であり、Y方向は鉛直方向であり、+Y方向は鉛直上向きである。また、給電装置100が受電装置50に給電するために実行する方法は、実施形態の給電方法である。
【0014】
また、
図2では、マーカ50Aは、XZ平面視においてZ軸から角度θbの方向に存在する。
図2では説明の便宜上、XYZ座標系をずらして示すが、XYZ座標系の原点がN×N個のアンテナ素子111の位置の中心と一致しているため、角度θbは、XZ平面内でXYZ座標系の原点とマーカ50Aとを結ぶ直線がZ軸となす角度である。角度θbは、XZ平面を+Y方向側から見て、+X方向側に振れているときを正の値で示し、-X方向側に振れているときの値を負の値で示す。
【0015】
フェーズシフタ120は、N×N個のアンテナ素子111の各々に対して1個ずつ接続されている。フェーズシフタ120は、位相を調節する位相調節部の一例であり、位相シフタの一例である。各フェーズシフタ120には、同一位相の送電信号が供給される。また、N×N個のフェーズシフタ120がN×N個のアンテナ素子111にそれぞれ出力する送電信号の位相は互いに異なる。このため、N×N個のアンテナ素子111から放射される電波が形成するビームの角度を水平方向及び垂直方向に制御することができる。
【0016】
N×N個のアンテナ素子111から放射される電波が形成するビームは、アレイアンテナ110が出力するビームと同義である。また、アレイアンテナ110が出力するビームは、アンテナ装置100A及び給電装置100が出力するビームと同義である。
【0017】
マイクロ波発生源130は、N×N個のフェーズシフタ120に接続されており、所定の電力のマイクロ波を供給する。マイクロ波発生源130は、電波発生源の一例である。マイクロ波の周波数は、一例として920MHz帯の周波数である。なお、ここでは給電装置100がマイクロ波発生源130を含む形態について説明するが、マイクロ波に限られるものではなく、所定の周波数の電波であればよい。
【0018】
カメラ140は、X方向においてはN/2番目のアンテナ素子111と、N/2+1番目のアンテナ素子111との間に配置され、Y方向においては、+Y方向側から2番目のアンテナ素子111と3番目のアンテナ素子111との間に配置される。カメラ140は、魚眼レンズ141及びカメラ本体142を有する。カメラ140は、画像取得部の一例である。
図2では、カメラ本体142を撮像部142Aと画像処理部142Bとに分けて示す。
【0019】
魚眼レンズ141は、等距離射影方式を採用したレンズである。魚眼レンズ141の中心の位置は、一例として、N×N個のアンテナ素子111の中心及びXYZ座標系の原点と一致している。魚眼レンズ141の中心の位置は、画像取得部の基準位置の一例である。カメラ本体142は、カメラ140のうち魚眼レンズ141以外の部分であり、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)イメージセンサを含むカメラ、又は、赤外線カメラであってもよい。
【0020】
カメラ140は、魚眼レンズ141を通じてマーカ50Aを含む画像を取得し、画像データを制御装置150に出力する。マーカ50Aは、アンテナ装置100A及び給電装置100が出力するビームを照射したいターゲットである受電アンテナ50Bを有する受電装置50に取り付けられている。アンテナ装置100A及び給電装置100は、カメラ140で取得した画像に含まれるマーカ50Aの位置を求め、受電アンテナ50Bに向けてビームを照射する。
【0021】
カメラ本体142は、撮像部142Aと画像処理部142Bを有する。撮像部142Aは、撮像素子を含み、魚眼レンズ141を通じて撮像を行うことによって、画像データを取得する部分である。画像処理部142Bは、撮像部142Aによって取得された画像データに対して2値化処理等の画像処理を行い、ピクセルインデックスを制御装置150に出力する。ピクセルインデックスは、マーカ50Aの撮像画面上の位置を示すXY座標値(アドレス)である。
【0022】
また、画像処理部142Bは、マーカ50Aの輪郭を求める処理、最大輪郭を求める処理を行い、マーカ50Aの座標を表すデータを制御装置150に出力する。
【0023】
マーカ50Aの輪郭を求める処理は、撮像部142Aによって取得された画像データに対して2値化を行って得るピクセルインデックスの分布に基づいて1又は複数の輪郭を抽出する処理である。
【0024】
最大輪郭を求める処理は、ピクセルインデックスの分布に基づいて抽出された1又は複数の輪郭の中から、一番大きい輪郭を求める処理(輪郭内ピクセル数カウントによる最大輪郭抽出処理)である。一番大きい輪郭を求めることにより、ノイズ等の影響を排除することができる。
【0025】
マーカ50Aの座標を読み出す処理は、最大輪郭を求める処理によって求められた一番大きい輪郭から、マーカ50Aの座標を読み出す処理である。画像処理部142Bは、読み出したマーカ50Aの座標を制御装置150に出力する。
【0026】
制御装置150は、位置導出部151、角度取得部152、角度取得部153、制御部154、及びメモリ155を有する。角度取得部152は、第1角度取得部の一例であり、角度取得部153は、第2角度取得部の一例である。制御装置150は、CPU(Central Processing Unit)及びメモリを含むコンピュータによって実現される。位置導出部151、角度取得部152、角度取得部153、制御部154は、制御装置150が実行するプログラムの機能(ファンクション)を機能ブロックとして示したものである。また、メモリ155は、制御装置150のメモリを機能的に表したものである。
【0027】
ここで、位置導出部151、角度取得部152、角度取得部153、制御部154、メモリ155について説明する前に、
図3を用いてアレイアンテナ110の極座標系について説明する。
図3は、アレイアンテナ110の極座標系を示す図である。
図3には、給電装置100のうちのアレイアンテナ110のアンテナ素子111と、アレイアンテナ110から出力されるビーム115とを示し、これら以外の構成要素を省略する。また、
図3には、XY平面に平行な平面1上における極座標系を示す。平面1は、撮像部142Aによって取得された画像データのxy平面であり、画像処理部142Bから出力されるピクセルインデックスについて用いられるxy平面と等しい。x軸、y軸は、それぞれ、XYZ座標のX軸、Y軸に平行であり、向きも等しい。
【0028】
また、XYZ座標系におけるマーカ50Aの位置をP1とし、原点Oと位置P1を結ぶ線分の仰角をθT、方位角(偏角)をφとする。仰角は+Z方向に対する角度であり、方位角は+X方向に対する角度であり、+Z方向側から見た平面視で時計回りを正の値とする。また、位置P1をXZ平面に投影した位置P1aと原点Oとを結ぶ線分の+Z方向に対する角度をθHとする。角度θHは、第1角度の一例である。角度θHは、マーカ50Aの位置がXZ平面に近い場合に仰角θTをXZ平面に投影して近似的に得られる角度である。角度θHは、角度θbと同様に、XZ平面を+Y方向側から見て、+X方向側に振れているときを正の値で示し、-X方向側に振れているときの値を負の値で示す。
【0029】
位置P1は、第1位置の一例であり、位置P1aは、投影位置の一例である。また、原点OはXYZ座標系の基準点の一例である。
【0030】
また、位置P1aと原点Oとを結ぶ線分と、位置P1と原点Oとを結ぶ線分とがなす角度をθVとする。角度θVは、第2角度の一例である。位置P1aと原点Oとを結ぶ線分は、第1直線の一例である。位置P1と原点Oとを結ぶ線分は、第2直線の一例である。角度θVは、位置P1aと原点Oとを結ぶ線分に対して、位置P1と原点Oとを結ぶ線分の方に振れる角度を正の値で示す。
【0031】
また、ここで、位置導出部151、角度取得部152、角度取得部153、制御部154、メモリ155について説明する前に、
図4及び
図5を用いて、Y方向(鉛直方向)へのビーム115の走査の必要性について説明する。
【0032】
図4は、準ミリ波帯のビームの水平方向及び垂直方向におけるアンテナゲインの分布の一例を示す図である。
図4(A)に水平方向におけるアンテナゲインの分布を示し、
図4(B)には垂直方向におけるアンテナゲインの分布を示す。例えば、送電信号として24GHzの準ミリ波帯の電波を用いてビーム115を形成する場合には、
図4(A)及び
図4(B)に示すように、ビーム115が細くなる。一例として、半値角は3度である。このように細いビーム115を利用する場合には、受電アンテナ50Bとアレイアンテナ110との高さが異なると、XZ平面での角度θ
Hのみの走査では、ビーム115が受電アンテナ50Bに到達しなくなる場合がある。なお、ここでは準ミリ波帯の24GHzの電波を用いる形態について説明するが、約20GHz~約30GHzの電波を利用する場合にも同様である。
【0033】
図5は、給電装置100で受電アンテナ50Bに給電する状態を示す図である。
図5(A)~
図5(C)には、一例として、マーカ50Aと受電アンテナ50Bとが上下方向に分離されるとともに、アレイアンテナ110とカメラ140及び制御装置150とが上下方向に分離されている構成を示す。
図5(A)~
図5(C)では、魚眼レンズ141の中心の位置は、N×N個のアンテナ素子111の中心及びXYZ座標系の原点とは一致していない。このような場合には、カメラ140でマーカ50Aの位置を検出し、マーカ50A及び受電アンテナ50Bの位置ずれと、アレイアンテナ110及びカメラ140の位置ずれとを考慮した位置に、アレイアンテナ110からビーム115を放射すればよい。
【0034】
図5(A)では、カメラ140の正面のマーカ50Aの画像を取得し、アレイアンテナ110の正面の受電アンテナ50Bにビーム115を放射している。アレイアンテナ110とカメラ140及び制御装置150とが上下方向に分離されているが、受電アンテナ50Bとアレイアンテナ110との高さが揃っているため、作業車両が+X方向に走行する場合に、角度θ
Hを推定してXZ平面内でビーム115を走査すれば、ビーム115は受電アンテナ50Bに到達し、受電アンテナ50Bに給電することができる。
【0035】
図5(B)では、受電アンテナ50Bとアレイアンテナ110との高さが揃っていないため、作業車両が+X方向に走行する場合に、カメラ140の正面のマーカ50Aの画像を取得し、角度θ
Hのみを推定してXZ平面内でビーム115を走査してアレイアンテナ110の正面にビーム115を放射しても、ビーム115は受電アンテナ50Bに到達せず、受電アンテナ50Bに給電することができない。特に、ビーム115がミリ波帯である場合には、ビーム幅が狭いため、受電アンテナ50Bとアレイアンテナ110との高さが揃っていないと、角度θ
Hのみを推定してXZ平面内でビーム115を走査しても、ビーム115は受電アンテナ50Bに到達しない。
【0036】
このように受電アンテナ50Bとアレイアンテナ110との高さが揃っていない場合には、
図5(C)に示すように、作業車両が+X方向に走行する場合に、カメラ140の正面のマーカ50Aの画像を取得し、角度θ
Hを推定してXZ平面内でビーム115を走査するとともに、角度θ
Vを推定してビーム115をY方向に走査すれば、アレイアンテナ110から放射したビーム115は受電アンテナ50Bに到達し、受電アンテナ50Bに給電することができる。
【0037】
なお、
図5(A)~
図5(C)では、マーカ50Aと受電アンテナ50Bとが上下方向に分離されるとともに、アレイアンテナ110とカメラ140及び制御装置150とが上下方向に分離されている場合に生じる問題について説明した。しかしながら、マーカ50Aと受電アンテナ50Bとが略同じ高さにあるとともに、アレイアンテナ110とカメラ140とが略同じ高さにある場合においても、受電アンテナ50Bとアレイアンテナ110との高さが異なる場合には、同様の問題が生じる。
【0038】
以上のような理由から、アンテナ装置100A及び給電装置100は、角度θHを推定してXZ平面内でビーム115を走査するとともに、角度θVを推定してビーム115をY方向に走査する。次に、このような制御を実現する制御装置150の各部について説明する。
【0039】
<位置導出部151>
位置導出部151は、画像処理部142Bから出力されるピクセルインデックスに基づいてマーカ50Aの画像の重心を計算する。画像処理部142Bから出力されるピクセルインデックスは、魚眼レンズ141を通じて得た等距離射影の画像を表す。この画像処理により、カメラ140によって取得される画像に含まれるマーカ50Aのアレイアンテナ110に対する位置P1は、平面1上の極座標における位置P2に変換される。このようにして位置導出部151は、位置P2を導出する。位置P2は、位置導出部151によって計算される重心の位置である。位置P2は、第2位置の一例である。
【0040】
位置P2は、原点Oからの動径rと偏角φcによって表される。動径rは、魚眼レンズ141の焦点距離をfLとすると、r=fLθcで表される。θcは仰角θTと同一である。偏角φcは方位角φTと同一である。位置導出部151は、上述の画像処理によって、動径rをX軸に写像したr・cosφcを求める。位置導出部151は、位置P2を表すデータを角度取得部152に出力する。
【0041】
<角度取得部152>
角度取得部152は、位置P2をX軸に写像した写像位置P2aのX座標(r・cosφc)を魚眼レンズ141の焦点距離fLで除算した値(r・cosφc/fL)を、角度θHとして取得(計算)する。このようにして角度θHを取得できる理由については後述する。角度取得部152は、角度θHを制御部154に出力する。
【0042】
<角度取得部153>
角度取得部153は、位置P2と、角度θHとに基づいて、原点Oと位置P1aとを結ぶ直線に対する、原点Oと位置P1とを結ぶ直線がなす角度θVを求める。角度取得部153は、位置P2のy軸の座標ycを魚眼レンズ141の焦点距離fLで除算して得る商(yc/fL)に、角度θHを所定係数ηで除算して得る角度(θH/η)の余弦(cos(θH/η))を乗じた値を、角度θVとして求める。所定係数ηは、1.5~2であり、より好ましくは、η=1.75である。ηが1.75であることは、例えば、ηが小数点第2位を四捨五入して1.75になる数値範囲内の値であることである。なお、角度取得部153がこのようにして角度θVを取得できる理由については後述する。角度取得部153は、角度θVを制御部154に出力する。
【0043】
<制御部154>
制御部154は、アレイアンテナ110が放射するビーム115の方向がXZ平面内で角度θHになるとともに、位置P1aと原点Oとを結ぶ線分と、位置P1と原点Oとを結ぶ線分とがなす角度がθVになるように、各アンテナ素子111に接続されるフェーズシフタ120における位相のシフト量(調節量)を制御する。角度θHは、角度取得部152によって取得される。角度θVは、角度取得部153によって取得される。また、制御部154は、マイクロ波発生源130の出力制御、及び、カメラ140の撮影制御等を行う。
【0044】
<メモリ155>
メモリ155は、格納部の一例であり、位置導出部151、角度取得部152、角度取得部153、制御部154が処理を行う際に実行するプログラム、プログラムの実行に伴い利用するデータ、プログラムの実行によって生じるデータ、及び、カメラ140が取得する画像データ等を格納する。
【0045】
次に、制御部154がビーム115の方向がXZ平面内で角度θHになるとともに、位置P1aと原点Oとを結ぶ線分と、位置P1と原点Oとを結ぶ線分とがなす角度がθVになるように各アンテナ素子111に接続されるフェーズシフタ120における位相のシフト量(調節量)を制御する方法を説明する前に、比較用の給電方法について説明する。
【0046】
<比較用の給電方法>
アレイアンテナ110の中心から見た任意の仰角と方位角をそれぞれθ
Tとφ
Tとする(
図3参照)。
【0047】
アレイアンテナ110の中心(XYZ座標の原点O)からX方向にn番目、Y方向にm番目の素子の複素励振係数をAnm、X方向のアンテナ素子111のピッチをdx、y軸方向のアンテナ素子111のピッチをdyとすると、アレイアンテナ110の指向性を表すアレーファクタは次式(1)で表される。X方向のアンテナ素子111のピッチとは、X方向において隣り合うアンテナ素子111同士の中心同士の間隔であり、Y方向においても同様である。
【0048】
【0049】
また、式(1)において、u、vは、それぞれ、アンテナ素子111のピッチdx、dyに対する移相量であり、次式(2)、(3)で表される。
【0050】
【0051】
【0052】
X方向にn番目、Y方向にm番目のアンテナ素子111のX方向及びY方向における複素励振係数がAn、Amであり、Anm=An×Amと表されるならば、式(1)は次式(4)のように変形できる。
【0053】
【0054】
式(4)は、リニアアレイアンテナの指向性の積として、アレイアンテナ110のような4角配列平面アレイアンテナの指向性が表されることを示している。ターゲット(マーカ50A)の仰角θT、方位角φTへ最大利得を向けるには、励振位相をX方向でn番目、Y方向でm番目のアンテナ素子111では、送電信号の位相を次式(5)、(6)で表されるΨn、Ψmに設定することになる。
【0055】
【0056】
【0057】
式(5)、(6)で表されるΨn、Ψmを求めるためには、仰角θT、方位角φTの推定が必要になる。ここで、マーカ50Aの座標を(X,Y,Z)とする。ここで、Xは、給電装置100の移動方向(X方向)の路面距離、Yはマーカ50Aと魚眼レンズ141の中心とのY方向の高さずれ、Zは、マーカ50Aと魚眼レンズ141の中心とのZ方向の対向距離である。マーカ50Aの重心座標(X,Y,Z)を仰角θTと方位角φTに変換すると、次式(7)のようになる。
【0058】
【0059】
撮像部142Aによって取得された画像データのxy平面に投影すると、マーカ50Aの重心座標は、焦点距離fLの等距離射影により、次式(8)で与えられる座標(xc、yc)に変換される。仰角θcと偏角φcは、投影した座標におけるマーカ50Aの重心座標の仰角及び偏角である。
【0060】
【0061】
動径rはxcとycの二乗和の平方根で表されるため、マーカ50Aの重心座標の仰角θcと偏角φcは次式(9)、(10)のように推定される。
【0062】
【0063】
【0064】
比較用の給電方法で、アレイアンテナ110から放射するビーム115を受電アンテナ50Bに放射するには、式(9)、(10)で推定される仰角θc、偏角φcを算出して、仰角θcを仰角θTとして用いるとともに、偏角φcを方位角φTとして用いて、式(5)、(6)に代入することによって、各アンテナ素子111が放射する送信信号の位相を制御することになる。
【0065】
ところで、比較用の給電方法では、式(9)、(10)に示されるように、仰角θcの推定に2つ変数xc、ycの二乗和の平方根の計算が必要であり、偏角φcの推定には、変数xc、ycの除算とアークタンジェントの計算が必要である。また、これに加えて、式(5)で位相Ψnを求めるには、仰角θTの正弦と方位角φTの余弦を計算し、さらに、仰角θTの正弦と方位角φTの余弦を乗算する必要がある。また、式(6)で位相Ψmを求めるには、仰角θTの正弦と方位角φTの正弦を計算し、さらに、仰角θTの正弦と方位角φTの正弦を乗算する必要がある。このように、比較用の給電方法では、演算量が多く、高速演算処理が必要とされるユースケースにおいては不向きという問題が生じる。また、給電装置の移動に伴う仰角θcと偏角φcの変化に追従して演算する必要が生じるが、演算量が多いため、変位が大きい偏角φcの計算において追従誤差が大きくなるという問題も発生しやすくなる。実施形態の給電方法は、このような問題を解決する。
【0066】
<実施形態の給電方法>
アレイアンテナ110の中心の高さと、受電アンテナ50Bの高さが略同じとなるように調整されている前提の下で、X方向の座標が等しくY方向に配列される複数のアンテナ素子111を同相給電とし水平方向(X方向)にビームステアリングを行う。この場合に、アレイアンテナ110の中心から受電アンテナ50Bへのベクトルをアレイアンテナ110の中心の高さにおける水平面(XZ平面)に射影した方向へビーム115を向ける。このときの制御角度は、角度θ
H(
図3参照)であり、位置P1と位置P1aの幾何学的関係から次式(11)で求めることができる。
【0067】
【0068】
式(11)を展開すると、式(12)が得られる。
【0069】
【0070】
ここで、仰角θHが十分に小さい場合にはtanθH≒θHであり、偏角φcが十分に小さい場合にはcosφ≒1であり、偏角φcが90度に近い場合にはcosφ≒0であるので、式(12)は次式(13)に変形できる。
【0071】
【0072】
すなわち、ターゲットの位置がXZ平面からあまりずれていない場合には、仰角θHは式(13)のように近似することができる。式(13)を用いれば、水平方向の制御角θHは、推定された重心点のx軸座標点xcを定数倍するだけであるので高速演算処理が可能となる。
【0073】
次に、角度θHを用いた水平方向指向性制御に加えて、角度θVを用いた垂直方向の指向性制御を高速に行うため、リアルタイムに垂直方向制御角度(角度θV)を推定することを考える。マーカ50Aの重心座標を同様に(X,Y,Z)とする。魚眼レンズ141の中心からマーカ50Aまでの水平面上の距離をdRとすると、推定すべき垂直方向指向性制御角度である角度θVは、次式(14)で表される。
【0074】
【0075】
マーカ50Aの座標から仰角、方位角に変換する式(7)を用いると、方位角φTは偏角φcに等しいことから、マーカ50AのY座標は、次式(15)で表すことができる。
【0076】
【0077】
また、魚眼レンズ141の中心からマーカ50Aまでの水平面上の距離をdRは、次式(16)で表すことができる。
【0078】
【0079】
式(15)、(16)を式(14)に代入すると、次式(17)が得られる。
【0080】
【0081】
また、式(12)から次式(18)が得られる。
【0082】
【0083】
この式(18)を式(17)に代入すると、次式(19)が得られる。
【0084】
【0085】
式(19)で表される垂直方向指向性制御推定角である角度θVを次式(20)のように近似する。式(19)の両辺のアークタンジェントを取って近似すると式(20)が得られる。
【0086】
【0087】
ここで、ηはフィッティングパラメータであり、所定係数の一例である。所定係数ηは、計算機シミュレーションによりη=1.75と最適化される。η=1.75であることは、例えば、所定係数ηが小数点第2位を四捨五入して1.75になる数値範囲内の値であることである。ただし、所定係数ηは、1.75に限られず、1.5~2の範囲内の値であってよい。所定係数ηは、より好ましくは、η=1.75である。
【0088】
また、実施形態のアンテナ装置100A及び給電装置100の制御方法では、X方向でn番目、Y方向でm番目のアンテナ素子111に接続されたフェーズシフタ120において調整する送電信号の水平方向の位相Ψnと垂直方向の位相Ψmは、次式(21)、(22)で表すことができる。
【0089】
【0090】
【0091】
ここで、角度θHと角度θVは、式(13)、(20)を利用すれば、魚眼レンズ141を通じて得られた画像データのxy平面に投影された座標(xc、yc)を用いて容易に算出でき、演算量が少ないため、水平方向及び垂直方向における指向性制御の高速化を図ることができる。
【0092】
<比較用の給電方法と実施形態の給電方法の比較>
図6は、比較用の給電方法と実施形態の給電方法の比較結果を示す図である。比較用の給電方法、及び、実施形態の給電方法は、アレイアンテナ110から受電アンテナ50Bに給電するために、アレイアンテナ110の指向性を制御する指向性制御方法である。
【0093】
図6に示すように、比較用の給電方法では、パラメータとして仰角θ
Tと方位角φ
Tを推定することになる。そして、パラメータとして仰角θ
Tと方位角φ
Tを推定するためには、式(9)、(10)で、仰角θcの推定に2つ変数xc、ycの二乗和の平方根の計算と、変数xc、ycの除算とアークタンジェントの計算が必要である。また、これに加えて、位相調整に必要な演算としては、位相Ψnを求めるに仰角θ
Tの正弦と方位角φ
Tの余弦を計算し、さらに仰角θ
Tの正弦と方位角φ
Tの余弦を乗算する必要がある。また、位相Ψmを求めるには、仰角θ
Tの正弦と方位角φ
Tの正弦を計算し、さらに、仰角θ
Tの正弦と方位角φ
Tの正弦を乗算する必要がある。このように、比較用の給電方法では、演算量が多く、高速演算処理が必要とされるユースケースにおいては不向きであり、変位が大きい偏角φcの計算において追従誤差が大きくなる。
【0094】
これに対して、実施形態の給電方法では、パラメータとして水平方向の角度θHと、垂直方向の角度θVを推定することになる。パラメータとして水平方向の角度θHと、垂直方向の角度θVとを推定するためには、式(13)、(20)に基づいて、魚眼レンズ141を通じて得られた画像データのxy平面に投影された座標(xc、yc)を用いて容易に算出できる。このため、実施形態の給電方法は、比較用の給電方法に比べて、大幅に演算量が少なく、水平方向及び垂直方向における指向性制御の高速化を図ることができる。
【0095】
図7は、比較用の給電方法と実施形態の給電方法とにおけるパラメータの値の時間変化を表す図である。
図7には、アレイアンテナ110と受電アンテナ50BのZ方向の対向距離FDが4.0mで、アレイアンテナ110と受電アンテナ50BのY方向の垂直方向の位置ずれが0.5mの場合におけるパラメータの値の時間変化を示す。実施形態の給電方法のパラメータは、sinθ
Hとsinθ
Vであり、実線で示す。比較用の給電方法のパラメータは、sinθc・cosφcとsinθc・sinφcであり、破線で示す。比較用の給電方法のパラメータは、演算量が多いが精度が高いパラメータである。
【0096】
また、時間軸の-48msは、角度θHの+15度に相当する位置を給電装置100がX方向に通過する時間であり、時間軸の0msは、角度θHの0度に相当する位置を給電装置100がX方向に通過する時間であり、時間軸の48msは、角度θHの-15度に相当する位置を給電装置100がX方向に通過する時間である。角度θHの0度に相当する位置は、給電装置100の+Z方向の正面に受電アンテナ50Bが存在する位置である。これらは、比較用の給電方法の給電装置についても同様である。
【0097】
図7に示すように、実施形態の給電方法のsinθ
Hは、比較用の給電方法のsinθc・cosφcと略一致しており、実施形態の給電方法のsinθ
Vは、比較用の給電方法のsinθc・sinφcと略一致することを確認できた。これより、実施形態の給電方法のパラメータであるsinθ
Hとsinθ
Vは、非常に高精度に近似計算されていることを確認できた。
【0098】
図8は、比較用の給電方法と実施形態の給電方法とにおけるパラメータの値の時間変化を表す図である。
図8には、アレイアンテナ110と受電アンテナ50BのZ方向の対向距離FDが4.0mで、アレイアンテナ110と受電アンテナ50BのY方向の垂直方向の位置ずれが1.0mの場合におけるパラメータの値の時間変化を示す。実施形態の給電方法のパラメータは、sinθ
Hとsinθ
Vであり、実線で示す。比較用の給電方法のパラメータは、sinθc・cosφcとsinθc・sinφcであり、破線で示す。その他は、
図7と同様である。
【0099】
図8に示すように、実施形態の給電方法のsinθ
Hは、比較用の給電方法のsinθc・cosφcと略一致しており、実施形態の給電方法のsinθ
Vは、比較用の給電方法のsinθc・sinφcと略一致することを確認できた。これより、実施形態の給電方法のパラメータであるsinθ
Hとsinθ
Vは、非常に高精度に近似計算されていることを確認できた。
【0100】
図9は、実施形態の給電方法における受電アンテナ50Bの受電電力量の時間変化を示す図である。
図9には、アレイアンテナ110と受電アンテナ50BのZ方向の対向距離FDが4.0mであって、アレイアンテナ110と受電アンテナ50Bの垂直方向(Y方向)の位置ずれが、0.0m(実線)、0.5m(破線)、1.0m(一点鎖線)の場合に、水平方向の角度θ
Hと垂直方向の角度θ
Vを調整することによって受電アンテナ50Bが得る受電電力量(積算値)を示す。また、
図9には、比較用に、アレイアンテナ110と受電アンテナ50BのZ方向の対向距離FDが4.0mであって、アレイアンテナ110と受電アンテナ50BのY方向の位置ずれが1.0mの場合に、水平方向の角度θ
Hのみを調整し、垂直方向の角度θ
Vを調整しない場合の受電電力量(積算値)を二点鎖線で示す。
【0101】
図9に示すように、水平方向の角度θ
Hと垂直方向の角度θ
Vを調整した場合には、アレイアンテナ110と受電アンテナ50BのY方向の垂直方向の位置ずれが、0.0m(実線)から0.5m(破線)、1.0m(一点鎖線)と大きくなっても、受電電力の減少量は小さく、位置ずれが0.5m又は1.0mであっても、受電アンテナ50Bに対して十分に給電を行えることが分かった。また、垂直方向の位置ずれが1.0mで、水平方向の角度θ
Hのみを調整し、垂直方向の角度θ
Vを調整しない場合には、受電電力量は略ゼロであり、準ミリ波のビーム115では、対向距離FDが4.0mで、垂直方向の位置ずれが1.0mあると、給電を行えないことが分かった。換言すれば、対向距離FDが4.0mで垂直方向の位置ずれが1.0mの場合に、水平方向の角度θ
Hに加えて垂直方向の角度θ
Vを調整することで、十分な給電を行えることを確認できた。
【0102】
<効果>
アンテナ装置100Aは、X軸及びY軸に沿って二次元的に配置される複数のアンテナ素子111を有するアレイアンテナ110と、複数のアンテナ素子111に供給される送電信号の位相をX軸方向及びY軸方向において調節するフェーズシフタ120と、魚眼レンズ141を通じて画像を取得するカメラ140と、カメラ140によって取得される画像に含まれるマーカ50Aのカメラ140に対する位置P1を、X軸及びY軸を含むXY平面上の極座標における位置P2に変換する位置導出部151と、位置P2に基づいて、位置P1をX軸とZ軸とを含むXZ平面に投影した位置P1aのXZ平面内でのZ軸に対する角度θHを求める角度取得部152と、位置P2と、角度θHとに基づいて、カメラ140の基準位置と位置P1aとを結ぶ第1直線に対する、カメラ140の基準位置と位置P1とを結ぶ第2直線がなす角度θVを求める角度取得部153と、アレイアンテナ110が放射するビーム115の方向が、カメラ140の基準位置に対して角度θH及び角度θVで特定される方向になるようにフェーズシフタ120を制御する制御部154とを含む。このため、マーカ50Aとカメラ140の位置関係に応じて、水平方向の角度θHと垂直方向の角度θVとを演算量の少ない簡単な計算で求めることができ、簡単に求められる角度θH及び角度θVに基づいて、ビーム115を水平方向及び垂直方向に走査できる。
【0103】
したがって、簡単な計算でビーム115の方向を制御できるアンテナ装置100Aを提供することができる。また、演算量が少ないので、高速演算処理が必要とされるユースケースに向いているアンテナ装置100Aを提供することができる。また、ミリ波のビーム115のようにビーム幅が狭い場合でも、受電アンテナ50Bとアレイアンテナ110との水平方向及び垂直方向の位置ずれに応じて、ビーム115を水平方向及び垂直方向に走査することで、確実に給電を行うことができる。
【0104】
また、角度取得部153は、位置P2のY軸の座標ycを魚眼レンズ141の焦点距離fLで除算して得る商に、角度θHを所定係数ηで除算して得る角度の余弦を乗じた値を、角度θVとして求めるので、位置P2のY軸の座標ycと、角度θHとに基づいて、角度θVを演算量の少ない簡単な計算で求めることができる。したがって、位置P2のY軸の座標ycと、角度θHとに基づいて計算可能な角度θVを用いて、ビーム115の方向を制御できるアンテナ装置100Aを提供することができる。
【0105】
所定係数ηは、1.5~2であるので、角度θVを表す近似式(20)を適切な値のフィッティングパラメータである所定係数ηを用いて求めることができ、仰角θTと方位角φTに基づく比較用の給電方法と同等の精度でマーカ50A及び受電アンテナ50Bの位置を計算可能である。
【0106】
また、角度取得部152は、位置P2をX軸に写像した写像位置P2aの座標xcを魚眼レンズ141の焦点距離fLで除算した値を、角度θHとして求めるので、簡単な計算で角度θHを求めることができる。
【0107】
また、写像位置P2aの座標xcは、極座標における動径rに偏角φcの余弦を乗算した値で表されるので、簡単な計算で角度θHを求めることができる。
【0108】
また、制御部154は、アレイアンテナ110の基準位置からX軸方向にn(nは2以上の整数)番目で、アレイアンテナ110の基準位置からY軸方向にm(mは2以上の整数)番目のアンテナ素子111に供給される送電信号の位相を、X軸方向において次式(23)で表されるΨnに調整し、Y軸方向において次式(24)で表されるΨmに調整する。
【0109】
【0110】
【数24】
ただし、dxは複数のアンテナ素子111のX軸方向におけるピッチ、dyは複数のアンテナ素子111のY軸方向におけるピッチ、θ
Hは角度θ
H、θ
Vは角度θ
V、λは送電信号の自由空間における波長である。
【0111】
このため、角度θHと角度θVを用いて、各アンテナ素子111に供給される送電信号の位相を簡単に調整することができる。式(23)、(24)は、三角関数を1つずつ含むだけで演算量が少ないので、高速演算処理が必要とされるユースケースに向いているアンテナ装置100Aを提供することができる。式(23)、(24)で各アンテナ素子111に供給される送電信号の位相を簡単に調整できるので、簡単な計算で受電アンテナ50Bとアレイアンテナ110との水平方向及び垂直方向の位置ずれに応じて、ビーム115を水平方向及び垂直方向に走査することで、確実に給電を行うことができる。
【0112】
また、給電装置100は、X軸及びY軸に沿って二次元的に配置される複数のアンテナ素子111を有するアレイアンテナ110と、マイクロ波発生源130と、アレイアンテナ110とマイクロ波発生源130との間に設けられ、マイクロ波発生源130から複数のアンテナ素子111に供給される送電信号の位相をX軸方向及びY軸方向において調節するフェーズシフタ120と、魚眼レンズ141を通じて画像を取得するカメラ140と、カメラ140によって取得される画像に含まれるマーカ50Aのカメラ140に対する位置P1を、X軸及びY軸を含むXY平面上の極座標における位置P2に変換する位置導出部151と、位置P2に基づいて、位置P1をX軸とZ軸とを含むXZ平面に投影した位置P1aのXZ平面内でのZ軸に対する角度θHを求める角度取得部152と、位置P2と、角度θHとに基づいて、カメラ140の基準位置と位置P1aとを結ぶ第1直線に対する、カメラ140の基準位置と位置P1とを結ぶ第2直線がなす角度θVを求める角度取得部153と、アレイアンテナ110が放射するビーム115の方向が、カメラ140の基準位置に対して角度θH及び角度θVで特定される方向になるようにフェーズシフタ120を制御する制御部154とを含む。このため、マーカ50Aとカメラ140の位置関係に応じて、水平方向の角度θHと垂直方向の角度θVとを演算量の少ない簡単な計算で求めることができ、簡単に求められる角度θH及び角度θVに基づいて、ビーム115を水平方向及び垂直方向に走査できる。
【0113】
したがって、簡単な計算でビーム115の方向を制御できる給電装置100を提供することができる。また、演算量が少ないので、高速演算処理が必要とされるユースケースに向いている給電装置100を提供することができる。また、ミリ波のビーム115のようにビーム幅が狭い場合でも、受電アンテナ50Bとアレイアンテナ110との水平方向及び垂直方向の位置ずれに応じて、ビーム115を水平方向及び垂直方向に走査することで、確実に給電を行うことができる。
【0114】
また、給電方法は、X軸及びY軸に沿って二次元的に配置される複数のアンテナ素子111を有するアレイアンテナ110と、マイクロ波発生源130と、アレイアンテナ110とマイクロ波発生源130との間に設けられ、マイクロ波発生源130から複数のアンテナ素子111に供給される送電信号の位相をX軸方向及びY軸方向において調節するフェーズシフタ120と、魚眼レンズ141を通じて画像を取得するカメラ140と、カメラ140によって取得される画像に含まれるマーカ50Aのカメラ140に対する位置P1を、X軸及びY軸を含むXY平面上の極座標における位置P2に変換する位置導出部151と、位置P2に基づいて、位置P1をX軸とZ軸とを含むXZ平面に投影した位置P1aのXZ平面内でのZ軸に対する角度θHを求める角度取得部152と、位置P2と、角度θHとに基づいて、カメラ140の基準位置と位置P1aとを結ぶ第1直線に対する、カメラ140の基準位置と位置P1とを結ぶ第2直線がなす角度θVを求める角度取得部153とを含む、給電装置100において、アレイアンテナ110が放射するビーム115の方向が、カメラ140の基準位置に対して角度θH及び角度θVで特定される方向になるようにフェーズシフタ120を制御する。このため、マーカ50Aとカメラ140の位置関係に応じて、水平方向の角度θHと垂直方向の角度θVとを演算量の少ない簡単な計算で求めることができ、簡単に求められる角度θH及び角度θVに基づいて、ビーム115を水平方向及び垂直方向に走査できる。
【0115】
したがって、簡単な計算でビーム115の方向を制御できる給電方法を提供することができる。また、演算量が少ないので、高速演算処理が必要とされるユースケースに向いている給電方法を提供することができる。また、ミリ波のビーム115のようにビーム幅が狭い場合でも、受電アンテナ50Bとアレイアンテナ110との水平方向及び垂直方向の位置ずれに応じて、ビーム115を水平方向及び垂直方向に走査することで、確実に給電を行うことができる。
【0116】
<給電装置100の適用例>
図10は、給電装置100の適用例を示す図である。給電装置100は、一例として車両60に搭載されており、トンネルの内壁51にはターゲットとしての受電装置50が設けられている。受電装置50は、マーカ50Aと受電アンテナ50Bとを有する。
【0117】
例えば、トンネルの内壁51に取り付けてあるジェットファンや標識等のインフラ構造物を内壁51に固定する固定部に、受電アンテナ50Bと、固定部のボルト等の緩みを監視するセンサと、レクテナと、無線通信モジュールとを設けておき、車両60で走行しながら給電装置100から受電アンテナ50Bにビームを放射すると、受電アンテナ50Bに接続されたレクテナが電力を発生して無線通信モジュールを起動し、無線通信モジュールがセンサの出力を表す信号を放射し、車両60側で受信することにより、走行しながらインフラ構造物の固定状態を検査することができる。この場合に、アレイアンテナ110で無線通信モジュールがセンサの出力を表す信号を受信してもよい。
【0118】
また、給電装置100は、マーカ50Aとカメラ140の位置関係に応じて求まる水平方向の角度θHと垂直方向の角度θVを用いて、アレイアンテナ110の各アンテナ素子111に供給される送電信号の位相Ψn、Ψmを調整するので、受電アンテナ50Bとアレイアンテナ110のY方向の位置がずれている場合でも、位置ずれに応じてビーム115の向きを垂直方向において調整できるので、ミリ波帯のビーム115で効率的に給電することができる。
【0119】
また、ここでは
図10を用いて給電装置100(アンテナ装置100A)がトンネルの内壁51に設けられた無線通信モジュールと通信する形態について説明したが、無線通信モジュールはトンネルの内壁51に設けられているものに限らず、様々な場所等に設置されていてよい。このようにすれば、給電装置100(アンテナ装置100A)を通信装置として利用することができる。
【0120】
以上、本発明の例示的な実施形態のアンテナ装置、給電装置、及び給電方法について説明したが、本発明は、具体的に開示された実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲から逸脱することなく、種々の変形や変更が可能である。
【符号の説明】
【0121】
50 受電装置
50A マーカ
50B 受電アンテナ
100 給電装置
100A アンテナ装置
100B 距離推定装置
110 アレイアンテナ
111 アンテナ素子
120 フェーズシフタ
130 マイクロ波発生源
140 カメラ
141 魚眼レンズ
150 制御装置
151 位置導出部
152、153 角度取得部
154 制御部
155 メモリ