(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023183143
(43)【公開日】2023-12-27
(54)【発明の名称】乗員保護装置
(51)【国際特許分類】
B60N 2/42 20060101AFI20231220BHJP
B60R 21/18 20060101ALI20231220BHJP
B60N 2/02 20060101ALI20231220BHJP
【FI】
B60N2/42
B60R21/18
B60N2/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022096613
(22)【出願日】2022-06-15
(71)【出願人】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076473
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 昭夫
(72)【発明者】
【氏名】柿本 憲志
(72)【発明者】
【氏名】飯田 崇
(72)【発明者】
【氏名】山田 真史
(72)【発明者】
【氏名】酒井 崇
【テーマコード(参考)】
3B087
3D054
【Fターム(参考)】
3B087BD16
3B087CD05
3D054AA02
3D054AA03
3D054AA07
3D054AA25
(57)【要約】
【課題】乗員が左右方向の一方側に片寄って着座していても、膨張するエアバッグにより、的確に、乗員を保護可能な乗員保護装置を提供すること。
【解決手段】座部6と背もたれ部2とを有したシート1に着座した乗員MPに対して装着するシートベルト15、を有したシートベルト装置11と、乗員に装着したシートベルトのラップベルト部17に折り畳まれて収納され、作動時、前方移動する乗員を受止可能に膨張するエアバッグ38、を有したエアバッグ装置30と、持ち上げ装置60と、を備えて構成される乗員保護装置MS。持ち上げ装置は、座部内の左右両縁8a,9a側に配置される持ち上げ部材70(L,R)と、持ち上げ部材を保持し、エアバッグ装置の作動前に作動されて、持ち上げ部材を上昇させる駆動機構61(L,R)と、を有している。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
座部と背もたれ部とを有したシートに着座した乗員に対して装着するシートベルト、を有したシートベルト装置と、
乗員に装着した前記シートベルトのラップベルト部に折り畳まれて収納され、作動時、前方移動する乗員を受止可能に膨張するエアバッグ、を有したエアバッグ装置と、
を備えて構成される乗員保護装置であって、
前記座部内の左右両縁側に配置される持ち上げ部材と、
該持ち上げ部材を保持し、前記エアバッグ装置の作動前に作動されて、前記持ち上げ部材を上昇させる駆動機構と、
を有した持ち上げ装置、を備えて構成されていることを特徴とする乗員保護装置。
【請求項2】
前記駆動機構が、作動前の初期位置に復帰可能に、前記持ち上げ部材を保持していることを特徴とする請求項1に記載の乗員保護装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シートに着座した乗員を保護するための乗員保護装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、乗員保護装置としては、シートベルト装置におけるシートベルトのラップベルト部に、膨張用ガスを流入させて膨張するエアバッグを組み付けて、シートに着座した乗員を保護するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。シートは、座部と背もたれ部とを有して、背もたれ部の左右方向の一方の上端側に、巻き取り装置(リトラクタ)から延びるシートベルトを前方側に繰出可能に繰出口が、配設されている。そして、シートベルトは、繰出口から繰り出されたシートベルトのタングを、座部における繰出口と反対側の左右方向の他方側に配設されたバックルに締結させて、繰出口からバックルまでの部位を、乗員の上半身の前面側を拘束可能なシートベルトのショルダーベルト部として、バックルから、座部における繰出口側の左右方向の一方側に設けられた固定端側までの部位を、乗員の腰部の前面側を拘束可能なシートベルトのラップベルト部として、シートに着座した乗員に対して装着される構成としていた。エアバッグ装置のエアバッグは、既述したように、ラップベルト部の部位に、作動時に膨張用ガスを流入させて乗員の上半身を拘束可能に膨張するように、折り畳まれて組み付けられていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の乗員保護装置では、シートベルトを装着された乗員が、座部の左右の一方側に片寄って着座していれば、作動時、ラップベルト部に収納されたエアバッグが膨張しても、適切に、膨張したエアバッグが乗員を受け止められない虞れが生ずる。
【0005】
本発明は、上述の課題を解決するものであり、乗員が左右方向の一方側に片寄って着座していても、膨張するエアバッグにより、的確に、乗員を保護可能な乗員保護装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る乗員保護装置では、座部と背もたれ部とを有したシートに着座した乗員に対して装着するシートベルト、を有したシートベルト装置と、
乗員に装着した前記シートベルトのラップベルト部に折り畳まれて収納され、作動時、前方移動する乗員を受止可能に膨張するエアバッグ、を有したエアバッグ装置と、
を備えて構成される乗員保護装置であって、
前記座部内の左右両縁側に配置される持ち上げ部材と、
該持ち上げ部材を保持し、前記エアバッグ装置の作動前に作動されて、前記持ち上げ部材を上昇させる駆動機構と、
を有した持ち上げ装置、を備えて構成されていることを特徴とする。
【0007】
本発明に係る乗員保護装置では、エアバッグ装置のエアバッグが収納されたシートベルトのラップベルト部から膨張する前に、持ち上げ装置の駆動機構が作動され、乗員の着座した座部の左右両縁側に内蔵された持ち上げ部材が上昇することから、着座した乗員が、左右方向の一方側に片寄って着座していても、座部の左右両縁側が持ち上がって、左右の持ち上げ部材の間に、すなわち、座部の左右方向の中央側にずれ移動される。そのため、その後に膨張するエアバッグは、座部の左右方向の中央付近から前方移動する乗員を、正対した状態で、的確に、受け止めて保護することができる。
【0008】
したがって、本発明に係る乗員保護装置では、乗員が左右方向の一方側に片寄って着座していても、着座した乗員を座部の左右方向の中央側に配置させて、膨張するエアバッグにより、的確に、乗員を受け止めて保護することができる。
【0009】
そして、本発明に係る乗員保護装置では、前記駆動機構が、作動前の初期位置に復帰可能に、前記持ち上げ部材を保持していることが望ましい。
【0010】
このような構成では、エアバッグ装置の作動前に、持ち上げ装置の駆動機構が持ち上げ部材を上昇させても、その後、エアバッグ装置が作動されなければ、持ち上げ装置が駆動機構を作動させて、持ち上げ部材を初期位置に復帰させることができる。そのため、このような構成の持ち上げ装置では、種々の部品を交換すること無く、つぎの作動に備えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態である乗員保護装置の概略斜視図である。
【
図2】実施形態の乗員保護装置の概略正面図である。
【
図3】実施形態の乗員保護装置の概略左側面図である。
【
図4】実施形態の乗員保護装置における持ち上げ装置の作動を示す概略部分断面正面図である。
【
図5】実施形態の乗員保護装置における持ち上げ装置の作動を説明する概略正面図である。
【
図6】実施形態の乗員保護装置におけるシートベルト装置の作動を説明する概略側面図である。
【
図7】実施形態の乗員保護装置におけるエアバッグ装置の作動を説明する概略側面図である。
【
図8】実施形態の乗員保護装置におけるエアバッグが膨張した状態を示す概略斜視図である。
【
図9】実施形態の乗員保護装置における持ち上げ装置の変形例を説明する概略正面図である。
【
図10】
図9に示す乗員保護装置の概略側面図である。
【
図11】
図9に示す乗員保護装置における持ち上げ装置の作動を示す概略部分断面正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明すると、実施形態の乗員保護装置MSは、
図1~3に示すように、車両の乗員MPが着座する座部6と背もたれ部2とを具備したシート1、シートベルト装置11、エアバッグ装置30、及び、持ち上げ装置60、を備えて構成されている。
【0013】
エアバッグ装置30は、
図1,3,6~8に示すように、シートベルト装置11のシートベルト15におけるラップベルト部17の組付部位22に組み付けられるバッグ組付体36と、バッグ組付体36のエアバッグ38に膨張用ガスを供給するインフレーター32と、を備えて構成されている。
【0014】
インフレーター32は、膨張用ガスを吐出する略円柱状のインフレーター本体33と、インフレーター本体33から突出して略L字状に屈曲するパイプ部34と、を備えて、シート1の座部6の後面側に取付固定されている(
図1,7参照)。パイプ部34には、エアバッグ38の後述するガス供給路部48の先端50aが、外装され、さらに、クランプ35で締め付けられて、連結されている。
【0015】
バッグ組付体36は、エアバッグ38と、バッグ連結部52と、バッグカバー54と、を備え、さらに、実施形態の場合、エアバッグ38とインフレーター32とを連結してインフレーター32からの膨張用ガスをエアバッグ38に供給するガス供給路部48、を備えて構成されている(
図8参照)。
【0016】
エアバッグ38は、
図7,8に示すように、膨張完了時に、周壁39が、側方から見て略三角柱状に膨張する構成として、底面側の底壁部40、後面側の後壁部41、前面側の前壁部42、及び、左右の側壁部43(L,R)、を備えて構成されている。そして、膨張完了時のエアバッグ38は、底壁部40の下面40a側を、乗員MPの大腿部MFに支持させる支持面44とし、後壁部41の後面41a側を、前方移動する乗員MPの上半身MUを受け止める乗員拘束面45としている。
【0017】
底壁部40の後縁40b付近には、ガス供給路部48からの膨張用ガスを流入させる複数の流入口46aを開口させた流入口部46が配設されている。また、左右の側壁部43L,43Rの前部側には、エアバッグ38内に流入する膨張用ガスの余剰分を排気するベントホール47が開口されている。
【0018】
なお、エアバッグ38は、ガス供給路部48やバッグ連結部52とともに、ポリエステル等の織布から形成されている。
【0019】
ガス供給路部48は、エアバッグ38に連結されるバッグ側部49と、バッグ側部49からインフレーター32側に延びる筒状のガス流路部50と、を備えて構成されている(
図8参照)。ガス流路部50は、既述したように、先端50aを、インフレーター32のパイプ部34に、連結させている。バッグ側部49には、エアバッグ38の流入口部46の流入口46aと連通する連通口49aが、配設され、連通口49aの周縁が、流入口46aの周縁に縫合されて、バッグ側部49が、エアバッグ38の下端50aとなる底壁部40の後縁40b側に連結されている。
【0020】
バッグ連結部52は、折り畳まれたエアバッグ38を、ラップベルト部17に対し、ラップベルト部17に沿って、摺動可能に連結させるものであり、筒形状として、実施形態の場合、ガス供給路部48のバッグ側部49を介在させて、エアバッグ38の下面40a側に連結されている。
【0021】
バッグカバー54は、折り畳まれたエアバッグ38とラップベルト部17におけるエアバッグ38の組付部位22とを、膨張時のエアバッグ38を突出可能に覆うように、筒形状として、配設される(
図6,8参照)。実施形態の場合、バッグカバー54は、さらに、エアバッグ38に連結されるガス供給路部48のバッグ側部49、及び、バッグ連結部52も、覆っている。このバッグカバー54は、エアバッグ38等の素材と異なり、意匠性を低下させないように、シート1のシート素材に使用されるようなファブリックから形成されている。
【0022】
なお、バッグ組付体36をラップベルト部17に組み付ける際には、まず、筒状にする前のバッグ連結部52を連結させたガス供給路部48を、エアバッグ38に連結して、エアバッグ38を折り畳む。ついで、筒状にする前のバッグ連結部52により、ラップベルト部17の組付部位22を包んで、バッグ連結部52を筒状に形成する。そして、折り畳んだエアバッグ38等を、組付部位22のラップベルト部17とともに、包んで、バッグカバー54を筒状に形成すれば、バッグ組付体36を、ラップベルト部17の組付部位22に、組み付けて、バッグカバー54で覆うことができる。
【0023】
また、バッグ組付体36をラップベルト部17に組み付けた際には、シートベルト15を乗員MPに装着した状態では、ラップベルト部17の乗員側面17a側が、バッグ連結部52とバッグカバー54とを介在させて、乗員MPの腹部MB側に配置され、ラップベルト部17の反乗員側面17b側は、バッグカバー54に覆われたガス供給路部48のバッグ側部49とエアバッグ38とのバッグ組付体36における組付本体36a側が、配設されることとなる。そして、シートベルト15の非装着状態として後述する巻き取り装置12で巻き取られた状態では、ラップベルト部17の反乗員側面17b側が、背もたれ部2の前面2a側と対向して、バッグ組付体36の組付本体36a側を前面2a側に接触させる状態となる(
図1参照)。
【0024】
シートベルト装置11は、滑り性能の良好なポリエステル繊維等を編んだ帯状のシートベルト15と、シートベルト15を巻き取る巻き取り装置(リトラクタ)12と、シートベルト15に取り付けられるタング20を締結するバックル19と、を備えて構成されている(
図1~3,6参照)。
【0025】
巻き取り装置12は、ベルト15の急激な引き出しがあれば、引き出しを停止させるように構成され、さらに、車両の衝突等があれば、引き出したベルト15を巻き取り可能なプリテンショナー機構13を配設させて構成されており、実施形態の場合、シート1の背もたれ部2の本体部3内における上端部3aの左縁3b側に、図示しないシートバックフレームに保持されて、配設されている。
【0026】
シートベルト15は、巻き取り装置12側となる部位を上端15a側として、背もたれ部2の上端部3aの左縁3b側に配置された繰出口5から突出させている。そして、シートベルト15は、下端15b側を、シート1の座部6における左側部8の側面8bに配設されたアンカ部材18に固定される固定端として、配設されている。
【0027】
また、シートベルト15には、タング20が配設され、タング20は、シート1の座部6における右側部9の側面9b側に配設されたバックル19に、締結されることとなる。そして、タング20をバックル19に締結させた状態のシートベルト15は、タング20から繰出口5側に延びる部位を、乗員MPの上半身MUの前面側に配置されるショルダーベルト部16とし、タング20から固定端15b側に延びる部位を、乗員MPの腰部MWの前面側に配置されるラップベルト部17としている。なお、バックル19には、図示しないリリースボタンが配設されており、締結したタング20を締結解除する際、リリースボタンを押圧操作すれば、タング20をバックル19から取り外すことができる。
【0028】
そして、シート1は、既述したように、背もたれ部2と座部6とを備えて構成されている。背もたれ部2は、乗員MPの上半身MUを受け止める略長方形板状の本体部3と、本体部3の上端部3aの左右方向の中央から上方へ延びるヘッドレスト部4と、を備えて構成されている。背もたれ部2は、本体部3内に配設される逆U字形状の金属製の図示しないシートバックフレームと、シートバックフレームの内側を覆うように配設される図示しないシートバックスプリングと、を備えるとともに、これらのフレームやスプリングとの周囲を覆うように、発泡ポリウレタン等からなる図示しないクッション層と、クッション層の表面側を覆う図示しないファブリック等からなる表皮材と、が配設されて構成されている。
【0029】
座部6は、略長方形状の板状として、左右方向の中央の中央部7と、中央部7の左右の左側部8及び右側部9と、を備えて構成されている。また、この座部6も、内部にシートフレーム6aを配設されるとともに、図示しないシートスプリングを配設させて、これらのフレーム6a等を覆うように、発泡ポリウレタン等からなるクッション層6bと、クッション層6bの表面側を覆うファブリック等からなる表皮材6cと、を配設させて構成されている。
【0030】
さらに、座部6の内部には、座部6の左右の縁部8a,9a側を持ち上げる持ち上げ装置60が配設されている。持ち上げ装置60は、前後方向に沿って延びる略円柱状の持ち上げ部材70(L,R)と、持ち上げ部材70(L,R)を初期位置P1から上昇させた上昇位置P2まで持ち上げる駆動機構61(L,R)と、を備えて構成されている。
【0031】
左右の持ち上げ部材70L,70Rと駆動機構61L,61Rとは、相互に、左右対称形としており、略円柱状の持ち上げ部材70(L,R)は、座部6内の左側部8と右側部9との縁部8a,9a側に、前後方向に沿って配設されている。各持ち上げ部材70の前後両端付近には、中央部7側の斜め下方に延びる保持杆65が、連結されている。
【0032】
左右の駆動機構61(L,R)は、前後方向に沿って並設される保持杆65と、各保持杆65の下端をそれぞれ連結させて前後方向に沿って配置される左右の回動軸63(L,R)と、シートフレーム6aに固着されて、回動軸63(L,R)の前後両端を支持する軸受64と、左右の回動軸63(L,R)を、所定角度回転駆動させる電動モータ等からなる可逆回転可能なアクチュエータ62(L,R)と、から構成されている。左右の持ち上げ部材70L,70Rに対応する各回動軸63L,63Rは、持ち上げ部材70L,70Rより、それぞれ、座部6の左右方向の中央側に配置されている。
【0033】
そして、左右の駆動機構61(L,R)のアクチュエータ62(L,R)が作動され、例えば、
図2や
図4に示すように、前方から見て、回動軸63Lが左回転し、回動軸63Rが右回転すれば、各回動軸63の回転に伴ない、保持杆65が回動し、保持杆65に支持された持ち上げ部材70Lが、前方から見て、回動軸63Lを中心として、反時計回り方向に回転し、持ち上げ部材70Rが、前方から見て、回動軸63Rを中心として、時計回り方向に回転し、持ち上げ部材70L,70Rを配設させていた座部6の左側部8と右側部9との左右方向の各縁部8a,9a側が、持ち上げられることとなる。そしてこの時、座部6の上面6dは、
図5のA,Bに示すように、作動前では略水平としていた状態から、作動後には、座部6の中央部7の部位を水平に沿わせた底面6ecとし、かつ、左側部8と右側部9との上面側を、底面6ecから外方に向かって上昇させた傾斜面6ed,6eeとするような凹面6e、となる。
【0034】
実施形態の場合、持ち上げ部材70L,70Rは、作動時、上昇前の初期位置P1から上昇位置P2までの高さ寸法Hを、約50mmとして、上昇される。
【0035】
なお、アクチュエータ62(L,R)は、車両の衝突を予知したミリ波レーダ等のプリクラッシュセンサからの信号を入力した制御装置72により、作動される。この制御装置72は、車両の前席前方の所定部位に搭載されている。そして、制御装置72は、実際の車両の衝突を検知するGセンサ等の衝突検知センサからの信号を入力して、エアバッグ装置30とプリテンショナー機構13も作動させる。さらに詳しくは、エアバッグ装置30は、プリテンショナー機構13を作動させた後、若干遅れて(約5ms後)、作動される。
【0036】
また、持ち上げ装置60は、作動後、実際の車両の衝突が検知されなければ、上昇位置P2から初期位置P1へ復帰させるように、制御装置72に制御されて、アクチュエータ62(L,R)が作動される。
【0037】
実施形態の乗員保護装置MSでは、乗員MPがシート1に着座してシートベルト15を装着する際、シートベルト15を繰出口5から引き出しつつ、タング20をバックル19に締結する。その際、乗員MPが、例えば、
図5のAに示すように、座部6の中央部7から右側部9側に片寄って着座している状態としており、その後、車両の衝突が予知されると、制御装置72により、エアバッグ装置30のエアバッグ38が収納されたシートベルト15のラップベルト部17から膨張する前に(エアバッグ装置30の作動前に)、持ち上げ装置60の駆動機構61L,61Rが作動される。その際、アクチュエータ62(L,R)が作動されて、回動軸63(L,R)が回動され、回動軸63から延びる保持杆65に支持された持ち上げ部材70L、70Rが、初期位置P1から上昇位置P2まで、上昇することから、座部6の右側部9の右縁部9aが、左側部8の左縁部8aとともに、持ち上げられ、座部6の上面6dを凹面6eとして、左右に、中央の底面6ec側にかけて下向きに傾斜する傾斜面6ed,6eeを形成する。そのため、着座した乗員MPが、左右方向の一方側(右方側)に片寄って着座していても、座部6の左右両縁部8b,9b側が持ち上がって、右側部9の傾斜面6eeを滑って、左右の持ち上げ部材70L,70Rの間に、すなわち、座部6の左右方向の中央部7側にずれ移動される。そしてその後に、実際の衝突があれば、制御装置72の制御により、プリテンショナー機構13が作動され(
図7の二点鎖線から実線参照)、ついで、エアバッグ装置30のインフレーター32が作動されて、エアバッグ38が膨張し、膨張したエアバッグ38が、座部6の左右方向の中央部7付近から前方移動する乗員MPの上半身MUを、正対させた乗員拘束面45により、的確に、受け止めて保護することができる。
【0038】
勿論、乗員MPが、上記と相違して、座部6の中央部7から左側部8側に片寄って着座していても、持ち上げ装置60が作動すれば、座部6の左右両縁部8b,9b側が持ち上がって、左側部8の傾斜面6edを滑って、左右の持ち上げ部材70L,70Rの間に、すなわち、座部6の左右方向の中央部7側にずれ移動されて、その後に膨張するエアバッグ38が、座部6の左右方向の中央部7付近から前方移動する乗員MPを、正対した状態で、的確に、受け止めて保護することができる。
【0039】
したがって、実施形態の乗員保護装置MSでは、乗員MPが左右方向の一方側に片寄って着座していても、着座した乗員MPを座部6の左右方向の中央部7側に配置させて、膨張するエアバッグ38により、的確に、乗員MPを受け止めて保護することができる。
【0040】
そして、実施形態の乗員保護装置でMSでは、持ち上げ装置60の駆動機構61(L,R)が、可逆回転可能なアクチュエータ62(L,R)を使用していることから、持ち上げ部材70(L,R)を上昇位置P2へ持ち上げた後、作動前の初期位置P1に復帰可能に、持ち上げ部材70(L,R)を保持している。
【0041】
そのため、実施形態では、エアバッグ装置30の作動前に、持ち上げ装置60の駆動機構61(L,R)が持ち上げ部材70(L,R)を上昇位置P2に上昇させても、実際の車両の衝突が回避されて、エアバッグ装置30が作動されなければ、制御装置72に制御されて、持ち上げ装置60が駆動機構61(L,R)を作動させて、持ち上げ部材70(L,R)を初期位置P1に復帰させることができることから、持ち上げ装置60は、種々の部品を交換すること無く、つぎの作動に備えることができる。
【0042】
なお、実施形態では、左右の持ち上げ部材70(L,R)を、対応するアクチュエータ62(L,R)により、それぞれ、持ち上げる構成としているが、1つの駆動源となるアクチュエータを利用し、その1つのアクチュエータに、歯車機構やリンク機構等を連結させて、左右の持ち上げ部材70(L,R)を同時に上下動させるように構成してもよい。
【0043】
また、実施形態の持ち上げ装置60では、座部6の左右の縁部8a,9a側を上昇させる持ち上げ部材70(L,R)として、左右の縁部8a,9a側で前後方向に沿った棒状として、左右の持ち上げ部材70(L,R)の間を、中央部7側の上面6d側に配置させないように、構成されている。そのため、左右の持ち上げ部材70(L,R)の間を、広くクッション層6bを配設させた部位とすることができて、着座時の乗員MPの座り心地を良好にすることができる。
【0044】
さらに、実施形態では、持ち上げ装置60の駆動源として、回動軸63(L,R)を回動させるアクチュエータ62(L,R)を使用した場合を示したが、
図8~11に示す持ち上げ装置60Aのように、ピストンロッドタイプのアクチュエータ66(L,R)を使用してもよい。このアクチュエータ66(L,R)は、油圧等の流体を利用したものであり、シートフレーム6aにシリンダ66aを固着させており、作動時、シリンダ66a内のピストンロッド66bと一体的な繰出杆67を上昇させて、繰出杆67が保持する持ち上げ部材70(L,R)を初期位置P1から上昇位置P2まで、持ち上げるように作動される。この持ち上げ装置60Aでは、持ち上げ部材70(L,R)の前後両端付近に、下方に延びるガイドロッド68が結合され、ガイドロッド68は、シートフレーム6aに固着された筒状のスリーブ69内を摺動可能として、繰出杆67に保持された持ち上げ部材70(L,R)の上下動をガイドするように構成されている。
【0045】
この持ち上げ装置60Aも、実施形態の持ち上げ装置60と同様な作用・効果を得ることができる。
【0046】
なお、この持ち上げ装置60Aを使用する乗員保護装置MSAは、持ち上げ装置60A以外のシートベルト装置11、エアバッグ装置30、制御装置72等は、実施形態と同じものが使用されている。
【0047】
また、実施形態の持ち上げ装置60や変形例の持ち上げ装置60Aは、持ち上げ部材70(L,R)を初期位置P1から上昇位置P2に上昇させた後、初期位置P1に復帰可能なアクチュエータ62,66(L,R)を使用しているが、初期位置P1に復帰させることができないマイクロガスジェネレータ等の火薬を使用するアクチュエータを使用してもよい。このようなアクチュエータを使用する場合には、作動時、瞬時に、持ち上げ部材70(L,R)を上昇させることができる。
【符号の説明】
【0048】
1…シート、2…背もたれ部、6…座部、11…シートベルト装置、15…シートベルト、17…ラップベルト部、30…エアバッグ装置、38…エアバッグ、60,60A…持ち上げ装置、61,61A(L,R)…駆動機構、70(L,R)…持ち上げ部材、
P1…初期位置、P2…上昇位置、MS,MSA…乗員保護装置、MP…乗員。