(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023183148
(43)【公開日】2023-12-27
(54)【発明の名称】アシル化修飾ミクロフィブリル化植物繊維のポリオレフィン樹脂用分散剤
(51)【国際特許分類】
C08L 23/00 20060101AFI20231220BHJP
C08L 23/26 20060101ALI20231220BHJP
C08L 77/00 20060101ALI20231220BHJP
C08L 1/02 20060101ALI20231220BHJP
C09K 23/52 20220101ALI20231220BHJP
【FI】
C08L23/00
C08L23/26
C08L77/00
C08L1/02
C09K23/52
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022096623
(22)【出願日】2022-06-15
(71)【出願人】
【識別番号】000002288
【氏名又は名称】三洋化成工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】樋口 晋太郎
(72)【発明者】
【氏名】田中 友平
(72)【発明者】
【氏名】山本 伸彦
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AB012
4J002BB031
4J002BB073
4J002BB083
4J002BB093
4J002BB121
4J002BB143
4J002BB151
4J002BB153
4J002BB213
4J002CL014
4J002CL034
4J002FA042
4J002FB232
4J002FD012
4J002FD203
4J002FD204
4J002GC00
4J002GN00
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】 本発明の目的は、ポリオレフィン樹脂に優れた樹脂物性を与えるアシル化修飾ミクロフィブリル化植物繊維のポリオレフィン樹脂用分散剤を提供することにある。
【解決手段】 下記酸変性ポリオレフィン(V)とポリアミド(W)との混合物である、アシル化修飾ミクロフィブリル化植物繊維(N)のポリオレフィン樹脂(Y)用分散剤(α)。
酸変性ポリオレフィン(V):酸価(単位mgKOH/g)5~50であり、数平均分子量が1,000~20,000;
ポリアミド(W):数平均分子量が500~5,000
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記酸変性ポリオレフィン(V)とポリアミド(W)との混合物である、アシル化修飾ミクロフィブリル化植物繊維(N)のポリオレフィン樹脂(Y)用分散剤(α)。
酸変性ポリオレフィン(V):酸価(単位mgKOH/g)5~50であり、数平均分子量が1,000~20,000;
ポリアミド(W):数平均分子量が500~5,000
【請求項2】
前記酸変性ポリオレフィン(V)とポリアミド(W)との重量比[(V)/(W)]が、20/80~99/1である請求項1記載の分散剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アシル化修飾ミクロフィブリル化植物繊維のポリオレフィン樹脂用分散剤に関する。
【背景技術】
【0002】
植物繊維を分散した樹脂組成物は、樹脂物性を向上する目的で開発されている。例えば、セルロースナノファイバーと硬化前熱硬化性樹脂とアルキルイミダゾリン系分散剤とを含有する樹脂組成物が提案されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記アルキルイミダゾリン系分散剤は、熱可塑性樹脂の1種であるポリオレフィン樹脂に適用するには、樹脂物性について十分満足できるものとは言えなかった。
【0005】
本発明の目的は、ポリオレフィン樹脂に優れた樹脂物性を与えるアシル化修飾ミクロフィブリル化植物繊維のポリオレフィン樹脂用分散剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果本発明に到達した。即ち、本発明は、下記酸変性ポリオレフィン(V)とポリアミド(W)との混合物である、アシル化修飾ミクロフィブリル化植物繊維(N)のポリオレフィン樹脂(Y)用分散剤(α)である。
酸変性ポリオレフィン(V):酸価(単位mgKOH/g)5~50であり、数平均分子量が1,000~20,000;
ポリアミド(W):数平均分子量が500~5,000
【発明の効果】
【0007】
本発明のアシル化修飾ミクロフィブリル化植物繊維(N)のポリオレフィン樹脂(Y)用分散剤(α)は、下記の効果を奏する。
(1)熱可塑性樹脂組成物(Z)の成形品に優れた樹脂物性(曲げ強度、曲げ弾性率)を与える。
【発明を実施するための形態】
【0008】
<アシル化修飾ミクロフィブリル化植物繊維(N)のポリオレフィン樹脂(Y)用分散剤(α)>
本発明のアシル化修飾ミクロフィブリル化植物繊維(N)のポリオレフィン樹脂(Y)用分散剤(α)[以下、単に分散剤(α)とも記載する。]は、酸変性ポリオレフィン(V)とポリアミド(W)との混合物である。
本発明の分散剤(α)は、アシル化修飾ミクロフィブリル化植物繊維(N)をポリオレフィン樹脂(Y)に分散させるのに特に好適である。
【0009】
<酸変性ポリオレフィン(V)>
酸変性ポリオレフィン(V)の酸価(単位:mgKOH/g)は、5~50であり、好ましくは10~40、さらに好ましくは10~35であり、最も好ましくは10~26である。
上記酸価が、5未満では後述の成形品の物性が劣る傾向があり、50を超えると成形性が劣る傾向がある。
酸変性ポリオレフィン(V)の酸価は、低分子量ポリオレフィン(A)の種類、不飽和(ポリ)カルボン酸(無水物)(B)の種類、その重量比[(A)/(B)]、反応条件により、適宜調整できる。
【0010】
酸変性ポリオレフィン(V)の酸価は、JIS K0070に準じて以下の(i)~(iv)の手順で測定して得られる値である。
(i)減圧乾燥器を使用し、温度200℃、圧力10mmHgで、2時間、測定対象物である酸変性ポリオレフィン(V)を減圧乾燥する。
(ii)100℃に温度調整したキシレン100gに酸変性ポリオレフィン(V)1gを溶解させる。
(iii)同温度でフェノールフタレインを指示薬として、0.1mol/L水酸化カリウムエタノール溶液[商品名「0.1mol/Lエタノール性水酸化カリウム溶液」、富士フイルム和光純薬(株)製]で滴定を行う。
(iv)滴定に要した水酸化カリウム量をmgに換算して酸価(単位:mgKOH/g)を算出する。
【0011】
酸変性ポリオレフィン(V)の数平均分子量(Mn)は1,000~20,000であり、好ましくは2,000~18,000であり、さらに好ましくは3,000~16,000であり、最も好ましくは5,000~16,000である。
【0012】
酸変性ポリオレフィン(V)の数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて以下の条件で測定することができる。なお、後述する低分子量ポリオレフィン(A)、高分子量ポリオレフィン(A0)、ポリアミド(W)、及びポリオレフィン樹脂(Y)のMnも同様の条件で測定することができる。
装置(一例) :「HLC-8120」[東ソー(株)製]
カラム(一例):「TSKgelGMHXL」[東ソー(株)製](2本)
「TSKgelMultiporeHXL-M」[東ソー(株)製](1本)
試料溶液 :0.3重量%のオルトジクロロベンゼン溶液
溶液注入量 :100μl
流量 :1ml/分
測定温度 :135℃
検出装置 :屈折率検出器
基準物質 :標準ポリスチレン(TSKstandardPOLYSTYRENE)12点(分子量:500、1,050、2,800、5,970、9,100、18,100、37,900、96,400、190,000、355,000、1,090,000、2,890,000)[東ソー(株)製]
【0013】
酸変性ポリオレフィン(V)としては、後述の低分子量ポリオレフィン(A)と不飽和(ポリ)カルボン酸(無水物)(B)とを構成原料とするものが挙げられる。
【0014】
<低分子量ポリオレフィン(A)>
低分子量ポリオレフィン(A)は、分子末端及び/又は分子鎖中に二重結合を有するポリオレフィンである。
低分子量ポリオレフィン(A)は、好ましくは、後述の高分子量ポリオレフィン(A0)を熱的減成法(以下において熱減成法ということがあり、例えば特公昭43-9368号公報、特公昭44-29742号公報に記載の製造方法)により熱減成して得られる。
【0015】
低分子量ポリオレフィン(A)のMnは、好ましくは900~19,800、さらに好ましくは1,900~17,800、とくに好ましくは2,900~15,000であり、最も好ましくは5,000~15,000である。
【0016】
また、低分子量ポリオレフィン(A)は、不飽和(ポリ)カルボン酸(無水物)(B)との共重合性の観点から分子末端及び/又は分子鎖中に二重結合を有する。
低分子量ポリオレフィン(A)の炭素1,000個(炭素数1,000個ともいう)当たりの該分子末端及び/又は分子鎖中の二重結合数は、好ましくは0.1~20個、さらに好ましくは0.3~18個、とくに好ましくは0.5~15個、最も好ましくは0.5~5個である。
【0017】
低分子量ポリオレフィン(A)の上記二重結合数は、低分子量ポリオレフィン(A)の1H-NMR(核磁気共鳴)分光法のスペクトルから求めることができる。すなわち、該スペクトル中のピークを帰属し、低分子量ポリオレフィン(A)の4.5~6ppmにおける二重結合由来のピーク積分値及び低分子量ポリオレフィン(A)由来のピーク積分値から、低分子量ポリオレフィン(A)の二重結合数と低分子量ポリオレフィン(A)の炭素数の相対値を求め、低分子量ポリオレフィン(A)の炭素1,000個当たりの該分子末端及び/又は分子鎖中の二重結合数を算出する。なお、後述の実施例における二重結合数は、当該方法に従って算出した。
【0018】
熱減成法には、高分子量ポリオレフィン(A0)を、(1)有機過酸化物の不存在下で、例えば300~450℃で0.5~10時間、熱減成する方法、及び(2)有機過酸化物[例えば2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン]の存在下で、例えば180~300℃で0.5~10時間、熱減成する方法等が含まれる。
これらのうち得られる低分子量ポリオレフィン(A)と不飽和(ポリ)カルボン酸(無水物)(B)との共重合性の観点から好ましいのは、分子末端及び/又は分子鎖中の二重結合数のより多いものが得やすい(1)の方法である。
【0019】
高分子量ポリオレフィン(A0)には、オレフィンの1種又は2種以上の(共)重合体、並びにオレフィンの1種又は2種以上と他の単量体の1種又は2種以上との共重合体が含まれる。
高分子量ポリオレフィン(A0)には、炭素数[本明細書において、Cと略記することがある]2~30のアルケン、例えばエチレン、プロピレン、1-ブテン、2-ブテン及びイソブテン、並びにC5~30のα-オレフィン(1-ヘキセン、1-デセン、1-ドデセン等);他の単量体には、オレフィンとの共重合性を有するC4~30の不飽和単量体、例えば、酢酸ビニルが含まれる。
【0020】
高分子量ポリオレフィン(A0)の具体例には、エチレン単位含有(プロピレン単位非含有)(共)重合体、例えば高、中及び低密度ポリエチレン、並びにエチレンとC4~30の不飽和単量体[例えば、ブテン(1-ブテン等)、C4~30のα-オレフィン(1-ヘキセン、1-ドデセン等)、酢酸ビニル等]との共重合体(重量比は、好ましくは30/70~99/1、さらに好ましくは50/50~95/5)等;プロピレン単位含有(エチレン単位非含有)(共)重合体、例えばポリプロピレン、プロピレンとC4~30の不飽和単量体[例えば、ブテン(1-ブテン等)、C4~30のα-オレフィン(1-ヘキセン、1-ドデセン等)、酢酸ビニル等]との共重合体(重量比は、好ましくは30/70~99/1、さらに好ましくは50/50~95/5);エチレン/プロピレン共重合体(重量比は、好ましくは0.5/99.5~30/70、さらに好ましくは2/98~20/80);C4以上のオレフィンの(共)重合体、例えばポリブテンが含まれる。
これらのうち、不飽和(ポリ)カルボン酸(無水物)(B)に対する低分子量ポリオレフィン(A)の重合性の観点から好ましいのはポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン/プロピレン共重合体、プロピレン/C4~30の不飽和単量体共重合体、さらに好ましいのはエチレン/プロピレン共重合体、プロピレン/C4~30の不飽和単量体共重合体である。
【0021】
高分子量ポリオレフィン(A0)のMnは、好ましくは30,000~400,000、さらに好ましくは50,000~200,000である。
【0022】
<不飽和(ポリ)カルボン酸(無水物)(B)>
不飽和(ポリ)カルボン酸(無水物)(B)は、重合性不飽和基を1個有するC3~30の(ポリ)カルボン酸(無水物)である。なお、本明細書において不飽和(ポリ)カルボン酸(無水物)は、不飽和モノカルボン酸、不飽和ポリカルボン酸及び/又は不飽和ポリカルボン酸無水物を意味する。
【0023】
不飽和(ポリ)カルボン酸(無水物)(B)のうち、不飽和モノカルボン酸としては、脂肪族(C3~24、例えばアクリル酸、メタクリル酸、α-エチルアクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸)、脂環含有(C6~24、例えばシクロヘキセンカルボン酸);不飽和ポリ(2~3又はそれ以上)カルボン酸(無水物)としては、不飽和ジカルボン酸(無水物)[脂肪族ジカルボン酸(無水物)(C4~24、例えばマレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸、及びこれらの無水物)、脂環含有ジカルボン酸(無水物)(C8~24、例えばシクロへキセンジカルボン酸、シクロヘプテンジカルボン酸、ビシクロヘプテンジカルボン酸、メチルテトラヒドロフタル酸、及びこれらの無水物)等]等が挙げられる。不飽和(ポリ)カルボン酸(無水物)(B)は1種単独でも、2種併用してもいずれでもよい。
これらのうち、低分子量ポリオレフィン(A)との重合性の観点から好ましいのは不飽和ジカルボン酸無水物、さらに好ましいのは無水マレイン酸である。
【0024】
また、酸変性ポリオレフィン(V)の形態には次のものが含まれる。
[1]低分子量ポリオレフィン(A)を幹とし、不飽和(ポリ)カルボン酸(無水物)(B)を枝とするグラフト共重合体。
[2]低分子量ポリオレフィン(A)及び不飽和(ポリ)カルボン酸(無水物)(B)のランダム共重合体。
上記[1]の形態は、ラジカル重合開始剤(d)、好ましくは過酸化物の存在下、低分子量ポリオレフィン(A)及び不飽和(ポリ)カルボン酸(無水物)(B)を加熱溶融、もしくは適当な有機溶媒に懸濁もしくは溶解させ、さらに必要により前記の連鎖移動剤(t)、重合禁止剤(f)を加えて加熱撹拌することにより形成させることができる。
上記[2]の形態は、ラジカル重合開始剤(d)、好ましくはアゾ化合物存在下、低分子量ポリオレフィン(A)及び不飽和(ポリ)カルボン酸(無水物)(B)を加熱溶融、もしくは適当な有機溶媒に懸濁もしくは溶解させ、さらに必要により後述の連鎖移動剤(t)、重合禁止剤(f)を加えて加熱撹拌することにより形成させることができる。
【0025】
[3]低分子量ポリオレフィン(A)の分子末端(好ましくは両末端)に不飽和(ポリ)カルボン酸(無水物)(B)が付加反応した付加物。
上記[3]の形態は、好ましくはラジカル重合開始剤(d)の非存在下で、低分子量ポリオレフィン(A)及び不飽和(ポリ)カルボン酸(無水物)(B)を加熱溶融、もしくは適当な溶媒に懸濁もしくは溶解させて、エン反応することにより形成される。
上記[1]~[3]のうち、成形品の樹脂物性の観点から、好ましいのは[1]である。
【0026】
<ポリアミド(W)>
ポリアミド(W)としては、Mnが500~5,000であり、好ましくは1,200~4,000であり、さらに好ましくは1,500~3,000である。Mnが500未満では成形品の曲げ強度に劣る傾向があり、5,000を超えると成形品の曲げ弾性に劣る傾向がある。
【0027】
ポリアミド(W)の有するアミン価(mgKOH/g、好ましくは1級アミノ基由来のアミン価)は、樹脂物性の観点から、好ましくは20~120、さらに好ましくは30~100、とくに好ましくは40~90である。アミン価は、JIS K7237に準じて測定できる。
ポリアミド(W)は、好ましくは少なくとも片末端が1級アミノ基であり、さらに好ましくは両末端の90%以上が1級アミノ基である。
【0028】
ポリアミド(W)のMn、アミン価は、後述のアミド形成性モノマーの種類、重量、反応条件により、適宜調整できる。
【0029】
ポリアミド(W)としては、アミド形成性モノマーを開環重合又は重縮合したものが挙げられる。
アミド形成性モノマーとしては、ラクタム(E)、アミノカルボン酸(F)、ジアミン(G)、及びジカルボン酸(H)が挙げられる。
ラクタム(E)としては、C4~20のラクタム(カプロラクタム、エナントラクタム、ラウロラクタム及びウンデカノラクタム等)等が挙げられる。
ラクタム(E)の開環重合体としては、例えばナイロン4、ナイロン5、ナイロン6、ナイロン8及びナイロン12が挙げられる。
【0030】
アミノカルボン酸(F)としては、C6~12、例えばω-アミノカプロン酸、ω-アミノエナント酸、ω-アミノカプリル酸、ω-アミノペラルゴン酸、ω-アミノカプリン酸、11-アミノウンデカン酸、12-アミノドデカン酸及びこれらの混合物が挙げられる。
【0031】
ジアミン(G)としては、C2~40、例えば脂肪族、脂環式、芳香脂肪族、及び芳香族ジアミン、並びにこれらの混合物が挙げられる。
脂肪族ジアミンとしてはC2~40、例えばエチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、1,12-ドデカンジアミン、1,18-オクタデカンジアミン及び1,20-エイコサンジアミンが挙げられる。
脂環式ジアミンとしては、C5~40、例えば1,3-及び1,4-シクロヘキサンジアミン、イソホロンジアミン4,4’-ジアミノシクロヘキシルメタン及び2,2-ビス(4-アミノシクロヘキシル)プロパンが挙げられる。
芳香脂肪族ジアミンとしては、C7~20、例えばキシリレンジアミン、ビス(アミノエチル)ベンゼン、ビス(アミノプロピル)ベンゼン及びビス(アミノブチル)ベンゼンが挙げられる。
芳香族ジアミンとしては、C6~40、例えばp-フェニレンジアミン2,4-及び2,6-トルイレンジアミン及び2,2-ビス(4,4‘-ジアミノフェニル)プロパンが挙げられる。
【0032】
ジカルボン酸(H)としては、C2~40のジカルボン酸、例えば脂肪族ジカルボン酸、芳香環含有ジカルボン酸、脂環式ジカルボン酸、これらのジカルボン酸の誘導体〔例えば酸無水物、低級(C1~4)アルキルエステル及びジカルボン酸塩[アルカリ金属(例えばリチウム、ナトリウム及びカリウム)]〕及びこれらの2種以上の混合物が挙げられる。
【0033】
脂肪族ジカルボン酸としては、C2~40(好ましくはC4~20、さらに好ましくはC6~12)の脂肪族ジカルボン酸、例えばコハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、マレイン酸、フマル酸及びイタコン酸が挙げられる。
芳香環含有ジカルボン酸としてはC8~40(好ましくはC8~16、さらに好ましくはC8~14)、例えばオルト-、イソ-及びテレフタル酸、2,6-及び2,7-ナフタレンジカルボン酸、ジフェニル-4,4‘-ジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、トリレンジカルボン酸、キシリレンジカルボン酸、並びに5-スルホイソフタル酸のアルカリ金属(例えばリチウム、ナトリウム及びカリウム)塩が挙げられる。
脂環式ジカルボン酸としては、C5~40(好ましくはC6~18、さらに好ましくはC8~14)、例えばシクロプロパンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、シクロヘキセンジカルボン酸、ジシクロヘキシル-4,4‘-ジカルボン酸及びショウノウ酸が挙げられる。
【0034】
上記アミド形成性モノマーのうち、好ましいのはカプロラクタム、12-アミノドデカン酸及びアジピン酸/ヘキサメチレンジアミン、さらに好ましいのはカプロラクタムである。
【0035】
ポリアミド(W)の製造法としては、ジカルボン酸(G)(C2~40、好ましくはC4~20)、ジアミン(H)(C2~40、好ましくはC4~20)、及び水からなる群から選択される少なくとも1種を分子量調整剤として使用し、その存在下で上記アミド形成性モノマーを開環重合あるいは重縮合させる方法が挙げられる。
【0036】
分散剤(α)を構成する酸変性ポリオレフィン(V)とポリアミド(W)との重量比[(V)/(W)]は、成形品の樹脂物性のバランスの観点から、好ましくは20/80~99/1、さらに好ましくは30/70~99/1、とくに好ましくは50/50~95/5であり、最も好ましくは80/20~95/5である。
【0037】
分散剤(α)は、例えば次の方法で作成できる。
(1)ペレット又は粉体状の酸変性ポリオレフィン(V)と、ペレット又は粉体状のポリアミド(W)とを混合する。
(2)酸変性ポリオレフィン(V)と、ポリアミド(W)とを溶融混合する。
上記のうち、成形品の樹脂物性の観点から、好ましいのは(1)である。
【0038】
<熱可塑性樹脂組成物(Z)>
本発明の熱可塑性樹脂組成物(Z)は、分散剤(α)と、ポリオレフィン樹脂(Y)とアシル化修飾ミクロフィブリル化植物繊維(N)とを含有してなる。
【0039】
アシル化修飾ミクロフィブリル化植物繊維(N)は、セルロース原料等の植物繊維をアシル化及びミクロフィブリル化したものである。
セルロース原料に対するアシル化及びミクロフィブリル化の順序は特に限定されない。
セルロース原料をアシル化したものをアシル化セルロース繊維(アシル化修飾セルロース繊維)ともいう。
アシル化セルロース繊維は、例えば以下の手順でセルロース原料から得られる。
【0040】
(セルロース原料)
本明細書において、セルロース原料とは、セルロースを主体とした様々な形態の材料をいい、リグノセルロース(NUKP)を含むものであり、パルプ(晒又は未晒木材パルプ、晒又は未晒非木材パルプ、精製リンター、ジュート、マニラ麻、ケナフ等の草本由来のパルプなど)、酢酸菌等の微生物によって生産されるセルロース等の天然セルロース、セルロースを銅アンモニア溶液、モルホリン誘導体等の何らかの溶媒に溶解した後に再沈殿された再生セルロース、古紙パルプや使用済繊維等から取り出した再生繊維、及び上記セルロース原料に加水分解、アルカリ加水分解、酵素分解、爆砕処理、振動ボールミル等の機械的処理等をすることによってセルロースを解重合した微細セルロース、アシル化変性に影響を及ぼさない程度の各種公知セルロース誘導体などが例示される。
【0041】
なお、リグノセルロースは、植物の細胞壁を構成する、複合炭水化物ポリマーであり、主に多糖類のセルロース、ヘミセルロースと、芳香族高分子であるリグニンから構成されている。リグニンの含有量は、原材料となるパルプ等に対して、脱リグニン、又は漂白を行うことにより、調整することができる。
【0042】
セルロース原料としてはパルプを用いることが好ましく、パルプに対して事前に機械的処理を行ってもよい。本明細書において機械的処理とは、一般には水に代表される分散媒中の繊維を混合しさらに微細化又はフィブリル化することをいい、叩解、解繊、分散等を含む。微細化は繊維長、繊維径等が小さくなることいい、フィブリル化は繊維の毛羽立ちが多くなることをいう。機械的処理に用いる装置は限定されないが、例えば、高速回転式、コロイドミル式、高圧式、ロールミル式、超音波式などのタイプの装置が挙げられ、高圧又は超高圧ホモジナイザー、リファイナー、シングルディスクリファイナーやダブルディスクリファイナー等のディスクリファイナー、コニカルリファイナー、ビーター、PFIミル、ボールミル、石臼型ミル、サンドグラインダーミル、インパクトミル、ダイノーミル、超音波ミル、カンダグラインダ、アトライタ、振動ミル、カッターミル、ジェットミル、ヘンシェルミキサー、家庭用ジューサーミキサー、乳鉢、ニーダー、ディスパーザー、高速離解機、トップファイナーなど回転軸を中心として、金属又は刃物とパルプ繊維を作用させるもの、あるいはパルプ繊維同士の摩擦を生じさせるものを使用することができる。
【0043】
(アシル化)
アシル化セルロース繊維としては、セルロース表面に存在する水酸基が低級アシル基で置換されていることが好ましい。なお、上記「低級」は「炭素数が1~5である」ことを示す。アシル基(R-CO-)で、「低級アシル基」と言う場合、そのRは炭素数が1~5のアルキル基であり、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基(ピバル基)、ペンチル基等の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基である。
【0044】
アシル化セルロース繊維は、セルロース及びヘミセルロースの少なくとも一種(リグノセルロースが含まれる)中に存在する水酸基(即ち、糖鎖の水酸基)が、飽和脂肪酸、不飽和カルボン酸、モノ不飽和脂肪酸、ジ不飽和脂肪酸、トリ不飽和脂肪酸、テトラ不飽和脂肪酸、ペンタ不飽和脂肪酸、ヘキサ不飽和脂肪酸、芳香族カルボン酸、ジカルボン酸、アミノ酸、下記一般式(1)に示すマレイミド化合物、及び下記一般式(2)に示すフタルイミド化合物からなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物のカルボキシ基から水素原子を除去した残基によって置換されていることが好ましい。
糖鎖の水酸基をアシル化することのできる上記化合物を、アシル化剤ともいう。
【0045】
【0046】
【0047】
上記一般式(1)及び(2)において、nは1~6の整数である。
【0048】
アシル化セルロース繊維のアシル基は、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、ピバル酸、ヘキサン酸(カプロン酸)、ヘプタン酸(エナント酸)、オクタン酸(カプリル酸)、ペラルゴン酸、デカン酸(カプリン酸)、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、ノナデシル酸及びアラキジン酸から選ばれる飽和脂肪酸からなる群から選ばれる少なくとも一種の飽和脂肪酸のカルボキシル基から水素原子を除去した残基であることが好ましい。また、アシル化セルロース繊維のアシル基は、フェノキシ酢酸、3-フェノキシプロピオン酸、4-フェノキシ酪酸及び5-フェノキシ吉草酸からなる群から選ばれる少なくとも一種の芳香族置換飽和脂肪酸のカルボキシル基から水素原子を除去した残基であることが好ましい。
【0049】
アシル化セルロース繊維のアシル基は、アクリル酸及びメタクリル酸からなる群から選ばれる少なくとも一種の不飽和カルボン酸のカルボキシル基から水素原子を除去した残基であることが好ましい。
【0050】
アシル化セルロース繊維のアシル基は、クロトン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸及びリシノール酸からなる群から選ばれる少なくとも一種のモノ不飽和脂肪酸のカルボキシル基から水素原子を除去した残基であることが好ましい。
【0051】
アシル化セルロース繊維のアシル基は、ソルビン酸、リノール酸及びエイコサジエン酸からなる群から選ばれる少なくとも一種のジ不飽和脂肪酸のカルボキシル基から水素原子を除去した残基であることが好ましい。
【0052】
アシル化セルロース繊維のアシル基は、リノレン酸、ピノレン酸及びエレオステアリン酸からなる群から選ばれる少なくとも一種のトリ不飽和脂肪酸のカルボキシル基から水素原子を除去した残基であることが好ましい。
【0053】
アシル化セルロース繊維のアシル基は、ステアリドン酸及びアラキドン酸からなる群から選ばれる少なくとも一種のテトラ不飽和脂肪酸のカルボキシル基から水素原子を除去した残基であることが好ましい。
【0054】
アシル化セルロース繊維のアシル基は、ボセオペンタエン酸及びエイコサペンタエン酸からなる群から選ばれる少なくとも一種のペンタ不飽和脂肪酸のカルボキシル基から水素原子を除去した残基であることが好ましい。
【0055】
アシル化セルロース繊維のアシル基は、ドコサヘキサエン酸及びニシン酸からなる群から選ばれる少なくとも一種のヘキサ不飽和脂肪酸のカルボキシル基から水素原子を除去した残基であることが好ましい。
【0056】
アシル化セルロース繊維のアシル基は、安息香酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、サリチル酸、没食子酸(3,4,5-トリヒドロキシベンゼンカルボン酸)及びケイ皮酸(3-フェニルプロパ-2-エン酸)からなる群から選ばれる少なくとも一種の芳香族カルボン酸のカルボキシル基から水素原子を除去した残基であることが好ましい。
【0057】
アシル化セルロース繊維のアシル基は、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、フマル酸及びマレイン酸からなる群から選ばれる少なくとも一種のジカルボン酸のカルボキシル基から水素原子を除去した残基であることが好ましい。
【0058】
アシル化セルロース繊維のアシル基は、グリシン、β-アラニン及びε-アミノカプロン酸(6-アミノヘキサン酸)からなる群から選ばれる少なくとも一種のアミノ酸のカルボキシル基から水素原子を除去した残基であることが好ましい。
【0059】
上記の中でも、アシル化セルロース繊維としては、製造の容易さ、製造コストの観点から、アシル基がアセチル基(CH3-CO-)であるアセチル化セルロース繊維が好ましい。また、アセチル化セルロース繊維のアセチル基置換度(DS)が、樹脂複合体となったときの強度発現の観点から、好ましくは0.4~1.3、より好ましくは0.5~1.1となるように調整する。
【0060】
アシル化反応は、セルロース原料を膨潤させることのできる無水非プロトン性極性溶媒、例えばN-メチルピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)中に原料を懸濁し、上記アシル化剤と反応させることで進行する。この反応を、塩基の存在下で行うと短時間で反応を進行させることが可能となるが、撹拌しながら反応を行うことなどにより塩基無しの条件、さらには無水非プロトン性極性溶媒無しの条件で反応を進行させることも可能である。このアシル化反応で用いる塩基としては、ピリジン、N,N-ジメチルアニリン、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム等が好ましく、炭酸カリウムがより好ましい。
【0061】
アシル化反応は、例えば、室温~100℃で撹拌しながら行うことが好ましい。
【0062】
アシル化修飾ミクロフィブリル化植物繊維(N)は、例えば、アシル化セルロース繊維と樹脂とを混練機内で溶融混練しつつ、アシル化セルロース繊維を解繊することで、製造することができる。
【0063】
また、アシル化セルロース繊維は機械的処理によって、樹脂と混練することなくミクロフィブリル化することもできる。
機械的処理に用いる装置としては、例えば、高速回転式、コロイドミル式、高圧式、ロールミル式、超音波式などのタイプの装置が挙げられ、高圧または超高圧ホモジナイザー、リファイナー、ビーター、PFIミル、ニーダー、ディスパーザー、高速離解機、トップファイナーなど、回転軸を中心として、金属または刃物とアシル化セルロース繊維を作用させるもの、あるいはアシル化セルロース繊維同士の摩擦を生じさせるものを使用することができる。
【0064】
ポリオレフィン樹脂(Y)としてはポリプロピレン、プロピレン/エチレン共重合体、ポリエチレンが挙げられる。
上記ポリオレフィン樹脂(Y)のうち、好ましいのはポリプロピレンである。
【0065】
ポリオレフィン樹脂(Y)のMnは、成形品の樹脂物性の観点から好ましくは10,000~500,000、さらに好ましくは20,000~400,000、とくに好ましくは80,000~300,000である。
【0066】
熱可塑性樹脂組成物(Z)における分散剤(α)、ポリオレフィン樹脂(Y)、及びアシル化修飾ミクロフィブリル化植物繊維(N)の重量割合は、分散剤(α)とポリオレフィン樹脂(Y)とアシル化修飾ミクロフィブリル化植物繊維(N)との合計重量に基づいて、好ましくは分散剤(α)が1~15重量%、ポリオレフィン樹脂(Y)が70~90重量%、アシル化修飾ミクロフィブリル化植物繊維(N)が3~20重量%、さらに好ましくは分散剤(α)が4~12重量%、ポリオレフィン樹脂(Y)が70~85重量%、アシル化修飾ミクロフィブリル化植物繊維(N)が6~15重量%である。
【0067】
熱可塑性樹脂組成物(Z)には、必要により本発明の効果を阻害しない範囲でさらに、着色剤(g1)、艶消剤(g2)、帯電防止剤(g3)、分散剤(α)以外の分散剤(g4)、難燃剤(g5)、発泡剤(g6)、酸化防止剤(g7)、紫外線吸収剤(g8)、及び可塑剤(g9)からなる群から選ばれる1種又は2種以上の添加剤(g)を含有させることができる。
【0068】
熱可塑性樹脂組成物(Z)中の添加剤(g1)~(g9)の合計使用量は、熱可塑性樹脂組成物(Z)全重量に基づいて、例えば30重量%以下、添加剤(g)の機能発現及び工業上の観点から好ましくは1~20重量%である。
【0069】
熱可塑性樹脂組成物(Z)の全重量に基づく、以外の各添加剤(g)の使用量は、着色剤(g1)は、例えば10重量%以下、好ましくは1~5重量%;艶消剤(g2)は、例えば20重量%以下、好ましくは1~10重量%;帯電防止剤(g3)は、例えば10重量%以下、好ましくは1~5重量%;分散剤(α)以外の分散剤(g4)は、例えば20%重量以下、好ましくは0~15重量%、さらに好ましくは0~10重量%;難燃剤(g5)は、例えば15重量%以下、好ましくは3~10重量%;発泡剤(g6)は、例えば1~20%重量以下、好ましくは5~15重量%;酸化防止剤(g7)は、例えば3重量%以下、好ましくは0.01~1重量%;紫外線吸収剤(g8)は、例えば3重量%以下、好ましくは0.01~1重量%;可塑剤(g9)は、例えば20重量%以下、好ましくは5~15重量%である。
【0070】
なお、添加剤(g1)~(g9)の間で添加剤が同一で重複する場合は、それぞれの添加剤が該当する添加効果を奏する量を他の添加剤としての効果に関わりなく使用するのではなく、他の添加剤としての効果も同時に得られることをも考慮し、使用目的に応じて使用量を調整するものとする。
【0071】
本発明の熱可塑性樹脂組成物(Z)の製造方法としては、例えば
(1)分散剤(α)[酸変性ポリオレフィン(V)及びポリアミド(W)]の全量、ポリオレフィン樹脂(Y)の全量、及びアシル化修飾ミクロフィブリル化植物繊維(N)の全量、並びに必要により添加剤(g)を一括混合して樹脂組成物とする方法(一括法);
(2)ポリオレフィン樹脂(Y)の一部、分散剤(α)[酸変性ポリオレフィン(V)及びポリアミド(W)]の全量、及びアシル化修飾ミクロフィブリル化植物繊維(N)の全量、並びに必要により添加剤(g)の一部もしくは全量を混合してマスターバッチ樹脂組成物を一旦作成し、その後残りのポリオレフィン樹脂(Y)及び必要により添加剤(g)の残りを加えて混合して樹脂組成物とする方法(マスターバッチ法)が挙げられる。
上記の混合で用いる混練機としては、熱によりポリオレフィン樹脂(Y)が溶融した状態でセルロース繊維のミクロフィブリル化を促す混練力の強い装置が好ましく、例えば二軸混練機、四軸混練機等の多軸混練機、プラストミル、ベンチロール、バンバリーミキサー、ニーダー、プラネタリーミキサー、等が挙げられる。
【0072】
上述したように、ポリオレフィン樹脂(Y)を溶融した状態でアシル化セルロース繊維と混練することによりアシル化セルロース繊維のミクロフィブリル化が進行するため、本発明の熱可塑性樹脂組成物(Z)を製造する方法として、アシル化修飾ミクロフィブリル化植物繊維(N)に代わってミクロフィブリル化されていないアシル化修飾植物繊維(N0)を用いてもよい。
ミクロフィブリル化されていないアシル化修飾植物繊維(N0)は、例えばセルロース繊維を含むセルロース原料をアシル化させることで得ることができる。
分散剤(α)と、ポリオレフィン樹脂(Y)と、ミクロフィブリル化されていないアシル化修飾植物繊維(N0)を混合し、ポリオレフィン樹脂(Y)を溶融させながら混練することにより、アシル化修飾植物繊維(N0)のミクロフィブリル化が進行して、分散剤(α)と、ポリオレフィン樹脂(Y)と、アシル化修飾ミクロフィブリル化植物繊維(N)とを含んだ本発明の熱可塑性樹脂組成物(Z)が得られる。
【0073】
<成形品>
本発明の成形品は、上記熱可塑性樹脂組成物(Z)の成形物である。すなわち本発明の成形品は、上記熱可塑性樹脂組成物(Z)を成形したものである。
成形方法としては、射出成形、圧縮成形、カレンダ成形、スラッシュ成形、回転成形、押出成形、ブロー成形、フィルム成形(キャスト法、テンター法、インフレーション法等)等が挙げられ、目的に応じて単層成形、多層成形あるいは発泡成形等の手段も取り入れた任意の方法で成形できる。成形品の形態としては、板状、シート状、フィルム、繊維(不織布等も含む)等が挙げられる。
【0074】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下において部は重量部を示す。
【実施例0075】
(アシル化修飾ミクロフィブリル化植物繊維(N-1)の調製)
50%含水の針葉樹未漂白クラフトパルプ(NUKP:リグニン含量8質量%)8.0kg(固形分4.0kg)を、ヘンシェルミキサー(日本コークス工業(株)製「FM150L」)に投入した後、撹拌を開始し、50℃で減圧脱水した。次いで、無水酢酸4.0kgを加え、80℃で2時間反応させた。反応後、パルプを充分に水洗・脱水・減圧乾燥してパルプ固形分濃度が98質量%のアセチル化パルプ、すなわちアシル化修飾ミクロフィブリル化植物繊維(N-1)を得た。アシル基(アセチル基)の置換度(DS)は0.5であった。
【0076】
<製造例1>
反応容器に、高分子量ポリオレフィン(A0-1)[商品名「サンアロマーPZA20A」、サンアロマー製、以下同じ。]100部を仕込み、液相に窒素通気しながら、マントルヒーターにて加熱溶融し、撹拌しながら350℃で5分間の条件で、熱減成を行い、低分子量ポリオレフィン(A-1)を得た。
なお、低分子量ポリオレフィン(A-1)のMnは15,000、炭素1,000個当たりの分子末端及び/又は分子鎖中の二重結合数は0.5個であった。
【0077】
<製造例2~4>
表1に従って高分子量ポリオレフィン(A0)の種類、並びに熱減成の温度及び時間を変更した以外は、製造例1と同様に熱減成を行い、各低分子量ポリオレフィン(A-2)~(A-4)を得た。結果を表1に示す。
【0078】
【0079】
<製造例5>
反応容器に、低分子量ポリオレフィン(A-1)100部、無水マレイン酸(B-1)6部、ジクミルパーオキシド(d-1)1部を仕込み、窒素通気下、200℃まで加熱昇温して10時間撹拌を続けた。その後、減圧下(1.5kPa、以下同じ。)で未反応の無水マレイン酸を留去して、内容物を取り出し、ペレット化して、酸変性ポリオレフィン(V-1)を得た。
なお、酸変性ポリオレフィン(V-1)は、酸価は26.0、Mnは16,000であった。
【0080】
<製造例6~8>
表2に従って、低分子量ポリオレフィン(A)、不飽和(ポリ)カルボン酸(無水物)(B)、及びラジカル開始剤(d)の種類、並びに添加量を変更した以外は、製造例5と同様に反応を行い、内容物を取り出し、ペレット化して、各酸変性ポリオレフィン(V-2)~(V-4)を得た。結果を表2に示す。
【0081】
【0082】
<製造例9>
撹拌機、温度計、加熱冷却装置、窒素導入管及び減圧装置を備えたステンレス製耐圧反応容器に、ヘキサメチレンジアミン(G-1)10部、ε-カプロラクタム100部、酸化防止剤[「イルガノックス1010」、チバスペシャリティーケミカルズ(株)製]0.3部及び水6部を投入し、窒素置換後、密閉下、撹拌しながら220℃まで昇温し、同温度(圧力:0.2~0.3MPa)で4時間撹拌後、同温度(圧力:-0.1MPa)で2時間減圧脱水し、内容物を取り出し、ペレット化して、ポリアミド(W-1)を得た。
なお、ポリアミド(W-1)のアミン価は88、Mnは1,300であった。
【0083】
<製造例10~12>
表3に従って、ラクタム(E)、アミノカルボン酸(F)、及びジアミン(G)の種類、及び添加量、並びに水の添加量を変更した以外は、製造例9同様に反応を行い、内容物を取り出し、ペレット化して、各ポリアミド(W-2)~(W-4)を得た。結果を表3に示す。
【0084】
【0085】
<実施例1~10、比較例1>
表4に示す使用原料(部)にしたがって、酸変性ポリオレフィン(V)及びポリアミド(W)を、ヘンシェルミキサーで混合して、各アシル化修飾ミクロフィブリル化植物繊維(N)のポリオレフィン樹脂(Y)用分散剤(α-1)~(α-10)を得た。
なお、比較用の分散剤(比α-1)として、アルキルイミダゾリン分散剤[ホモゲノールL-95、花王(株)製]を使用した。
結果を表4に示す。
【0086】
【0087】
<実施例11~22、比較例2>
表5に示す使用原料(部)にしたがって、分散剤(α)、ポリオレフィン樹脂(Y)、各アシル化修飾ミクロフィブリル化植物繊維(N)を加えてヘンシェルミキサーで3分間ブレンドした後、200℃まで加熱昇温したプラストミルで50回転/分の条件で、5分間混ぜ合わせ、各熱可塑性樹脂組成物(Z-1)~(Z-12)、(比Z-1)を得た。
各熱可塑性樹脂組成物(Z)について射出成形機[商品名「PS40E5ASE」、日精樹脂工業(株)]を用い、シリンダー温度200℃、金型温度80℃で成形し、所定の試験片を作成後、後述の評価方法に従って評価した。結果を表5に示す。
【0088】
(1)曲げ強度(単位:MPa)
ASTM D790に準拠して測定した。
【0089】
(2)曲げ弾性率(単位:GPa)
ASTM D790に準拠して測定した。
【0090】
【0091】
表1~5の結果から、本発明の熱可塑性樹脂組成物(Z)の成形品は、優れた樹脂物性(曲げ強度、曲げ弾性率)を備えていることがわかる。このことから、本発明のアシル化修飾ミクロフィブリル化植物繊維(N)のポリオレフィン樹脂(Y)用分散剤(α)は、比較の分散剤(アルキルイミダゾリン系分散剤)と比べて、ポリオレフィン樹脂に優れた樹脂物性(曲げ強度、曲げ弾性率)を与えることが分かる。
本発明のアシル化修飾ミクロフィブリル化植物繊維(N)のポリオレフィン樹脂(Y)用分散剤(α)、それを用いた熱可塑性樹脂組成物(Z)、その成形品は、比較的軽量なポリオレフィン樹脂がベースであり高強度であることから、例えば、自動車、電化製品、及びスポーツ用品等の分野で軽量かつ高強度が求められる部材として有用である。