(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023183160
(43)【公開日】2023-12-27
(54)【発明の名称】半導体装置およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/52 20060101AFI20231220BHJP
【FI】
H01L21/52 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022096639
(22)【出願日】2022-06-15
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100106149
【弁理士】
【氏名又は名称】矢作 和行
(74)【代理人】
【識別番号】100121991
【弁理士】
【氏名又は名称】野々部 泰平
(74)【代理人】
【識別番号】100145595
【弁理士】
【氏名又は名称】久保 貴則
(72)【発明者】
【氏名】平野 敬洋
【テーマコード(参考)】
5F047
【Fターム(参考)】
5F047AA03
5F047AB03
5F047BA01
(57)【要約】
【課題】ワイヤ片を用いなくてもはんだ厚を確保できる半導体装置およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】半導体装置は、エミッタ電極42およびコレクタ電極43を有する半導体素子40、コレクタ電極に電気的に接続された配線部材60、配線部材の対向面とコレクタ電極との間に介在するはんだ93を備える。半導体素子は、コレクタ電極側に凸の反りを有する。配線部材の対向面は、底壁部61と、底壁部の外周端からZ方向の上方に延び、底壁部とともに領域63を規定する環状の側壁部62を有する。環状の側壁部は、Z方向の平面視において領域が半導体素子を内包するように設けられる。はんだは領域内に配置されて側壁部との間にフィレットを形成し、はんだの表面が底壁部側に凸の形状をなしている。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面電極(42)と、前記表面電極の形成面とは板厚方向において反対の面に形成された裏面電極(43)と、を有する半導体素子(40)と、
前記裏面電極に対向する対向面(60a)を有し、前記裏面電極に電気的に接続された配線部材(60)と、
前記配線部材の前記対向面と前記裏面電極との間に介在し、前記配線部材と前記裏面電極とを接合するはんだ(93)と、
を備え、
前記半導体素子は、前記裏面電極側に凸の反りを有し、
前記配線部材の前記対向面は、底壁部(61)と、前記底壁部の外周端から前記板厚方向の上方に延び、前記底壁部とともに領域(63)を規定する環状の側壁部(62)と、を有し、
環状の前記側壁部は、前記板厚方向の平面視において前記領域が前記半導体素子を内包するように設けられ、
前記はんだは、前記領域内に配置されて前記側壁部との間にフィレットを形成し、
前記はんだの表面が、前記底壁部側に凸の形状をなしている、半導体装置。
【請求項2】
前記底壁部および前記側壁部は、前記対向面において周囲部分に対して凹んだ凹部(64)の壁面である、請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記側壁部は、前記対向面において周囲部分から突出する環状の突出部(65)の内周面である、請求項1に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記側壁部は、前記板厚方向の平面視において矩形状である、請求項1に記載の半導体装置。
【請求項5】
前記はんだの表面のうち、前記側壁部との接合位置は、前記裏面電極の全域よりも前記底壁部を基準として上方に位置する、請求項1~4いずれか1項に記載の半導体装置。
【請求項6】
表面電極(42)と、前記表面電極の形成面とは板厚方向において反対の面に形成された裏面電極(43)と、を備え、前記裏面電極側に凸の反りを有する半導体素子(40)、および、配線部材(60)を準備すること、
前記配線部材の対向面(60a)上に溶融はんだ(93S)を塗布すること、
前記裏面電極が前記溶融はんだに接触するように前記半導体素子を前記溶融はんだ上に配置し、前記裏面電極と前記配線部材とを接合すること、
を備え、
底壁部(61)と、前記底壁部の外周端から前記板厚方向の上方に延びて前記底壁部とともに領域(63)を規定し、前記板厚方向の平面視において前記領域が前記半導体素子を内包するように設けられた環状の側壁部(62)と、を前記対向面に有する前記配線部材を準備し、
前記溶融はんだを、前記領域内に塗布し、
塗布した前記溶融はんだが、前記側壁部を上方に濡れ上がって前記側壁部との間にフィレットを形成し、前記溶融はんだの表面が前記底壁部側に凸の形状を形成し、
前記底壁部側に凸の形状を有する前記溶融はんだの表面上に前記半導体素子を配置して接合する、半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この明細書における開示は、半導体装置およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、表面電極および裏面電極を有する半導体素子と、接合部材を介して裏面電極に接続された配線部材を備える半導体装置を開示している。先行技術文献の記載内容は、この明細書における技術的要素の説明として、参照により援用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、溶融はんだを塗布するソルダダイボンド法を用いて半導体装置を形成する。反りを有する半導体素子と配線部材との間に介在するはんだについて所望の厚みを確保するために、配線部材の表面にワイヤ片を配置している。上述の観点において、または言及されていない他の観点において、半導体装置およびその製造方法にはさらなる改良が求められている。
【0005】
本開示はこのような課題に鑑みてなされたものであり、ワイヤ片を用いなくてもはんだ厚を確保できる半導体装置およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
ここに開示された半導体装置は、
表面電極(42)と、表面電極の形成面とは板厚方向において反対の面に形成された裏面電極(43)と、を有する半導体素子(40)と、
裏面電極に対向する対向面(60a)を有し、裏面電極に電気的に接続された配線部材(60)と、
配線部材の対向面と裏面電極との間に介在し、配線部材と裏面電極とを接合するはんだ(93)と、
を備え、
半導体素子は、裏面電極側に凸の反りを有し、
配線部材の対向面は、底壁部(61)と、底壁部の外周端から板厚方向の上方に延び、底壁部とともに領域(63)を規定する環状の側壁部(62)と、を有し、
環状の側壁部は、板厚方向の平面視において領域が半導体素子を内包するように設けられ、
はんだは、領域内に配置されて側壁部との間にフィレットを形成し、
はんだの表面が、底壁部側に凸の形状をなしている。
【0007】
開示の半導体装置によれば、配線部材の対向面に、領域を規定する底壁部および環状の側壁部を設けることで、はんだの表面が底壁部側に凸の形状となる。半導体素子の反りの凸方向と、はんだ表面の凸方向が一致する。これにより、接合時に半導体素子の傾きが生じるのを抑制し、ワイヤ片を用いなくても所望のはんだ厚を確保することができる。
【0008】
ここに開示された半導体装置の製造方法は、
表面電極(42)と、表面電極の形成面とは板厚方向において反対の面に形成された裏面電極(43)と、を備え、裏面電極側に凸の反りを有する半導体素子(40)、および、配線部材(60)を準備すること、
配線部材の対向面(60a)上に溶融はんだ(93S)を塗布すること、
裏面電極が溶融はんだに接触するように半導体素子を溶融はんだ上に配置し、裏面電極と配線部材とを接合すること、
を備え、
底壁部(61)と、底壁部の外周端から板厚方向の上方に延びて底壁部とともに領域(63)を規定し、板厚方向の平面視において領域が半導体素子を内包するように設けられた環状の側壁部(62)と、を対向面に有する配線部材を準備し、
溶融はんだを、領域内に塗布し、
塗布した溶融はんだが、側壁部を上方に濡れ上がって側壁部との間にフィレットを形成し、溶融はんだの表面が底壁部側に凸の形状を形成し、
底壁部側に凸の形状を有する溶融はんだの表面上に半導体素子を配置して接合する。
【0009】
開示の半導体装置の製造方法によれば、配線部材の対向面に、領域を規定する底壁部および環状の側壁部を設け、領域内に溶融はんだを塗布する。溶融はんだは、側壁部を濡れ上がり、表面が底壁部側に凸の形状をなす。そして、底壁部側に凸の形状をなす溶融はんだの表面上に、裏面電極側に凸の反りをなす半導体素子を配置して接合する。半導体素子の反りの凸方向と、溶融はんだ表面の凸方向が一致するため、安定して接合できる。これにより、接合時に半導体素子の傾きが生じるのを抑制し、ワイヤ片を用いなくても所望のはんだ厚を確保することができる。
【0010】
この明細書における開示された複数の態様は、それぞれの目的を達成するために、互いに異なる技術的手段を採用する。請求の範囲およびこの項に記載した括弧内の符号は、後述する実施形態の部分との対応関係を例示的に示すものであって、技術的範囲を限定することを意図するものではない。この明細書に開示される目的、特徴、および効果は、後続の詳細な説明、および添付の図面を参照することによってより明確になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】第1実施形態に係る半導体装置が適用される車両の駆動システムの概略構成を示す図である。
【
図2】第1実施形態に係る半導体装置を示す平面図である。
【
図3】
図2のIII-III線に沿う断面図である。
【
図6】コレクタ電極側の配線部材を示す平面図である。
【
図8】配線部材と半導体素子の接続構造を示す断面図である。
【
図11】第2実施形態に係る半導体装置において、コレクタ電極側の配線部材を示す平面図である。
【
図13】配線部材と半導体素子の接続構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面に基づいて複数の実施形態を説明する。なお、各実施形態において対応する構成要素には同一の符号を付すことにより、重複する説明を省略する場合がある。各実施形態において構成の一部分のみを説明している場合、当該構成の他の部分については、先行して説明した他の実施形態の構成を適用することができる。また、各実施形態の説明において明示している構成の組み合わせばかりではなく、特に組み合わせに支障が生じなければ、明示していなくても複数の実施形態の構成同士を部分的に組み合せることができる。
【0013】
本実施形態の半導体装置は、たとえば、回転電機を駆動源とする移動体の電力変換装置に適用される。移動体は、たとえば、電気自動車(BEV)、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)などの電動車両、電動垂直離着陸機やドローンなどの飛行体、船舶、建設機械、農業機械である。以下では、車両に適用される例について説明する。
【0014】
(第1実施形態)
先ず、
図1に基づき、車両の駆動システムの概略構成について説明する。
【0015】
<車両の駆動システム>
図1に示すように、車両の駆動システム1は、直流電源2と、モータジェネレータ3と、電力変換装置4を備えている。
【0016】
直流電源2は、充放電可能な二次電池で構成された直流電圧源である。二次電池は、たとえばリチウムイオン電池、ニッケル水素電池である。モータジェネレータ3は、三相交流方式の回転電機である。モータジェネレータ3は、車両の走行駆動源、すなわち電動機として機能する。モータジェネレータ3は、回生時に発電機として機能する。電力変換装置4は、直流電源2とモータジェネレータ3との間で電力変換を行う。
【0017】
<電力変換装置>
次に、
図1に基づき、電力変換装置4の回路構成について説明する。電力変換装置4は、電力変換回路を備えている。
図1に示すように電力変換装置4は、平滑コンデンサ5と、電力変換回路であるインバータ6を備えている。
【0018】
平滑コンデンサ5は、主として、直流電源2から供給される直流電圧を平滑化する。平滑コンデンサ5は、高電位側の電力ラインであるPライン7と低電位側の電力ラインであるNライン8とに接続されている。Pライン7は直流電源2の正極に接続され、Nライン8は直流電源2の負極に接続されている。平滑コンデンサ5の正極は、直流電源2とインバータ6との間において、Pライン7に接続されている。同じく負極は、直流電源2とインバータ6との間において、Nライン8に接続されている。平滑コンデンサ5は、直流電源2に並列に接続されている。
【0019】
インバータ6は、DC-AC変換回路である。インバータ6は、図示しない制御回路によるスイッチング制御にしたがって、直流電圧を三相交流電圧に変換し、モータジェネレータ3へ出力する。これにより、モータジェネレータ3は、所定のトルクを発生するように駆動する。インバータ6は、車両の回生制動時、車輪からの回転力を受けてモータジェネレータ3が発電した三相交流電圧を、制御回路によるスイッチング制御にしたがって直流電圧に変換し、Pライン7へ出力する。このように、インバータ6は、直流電源2とモータジェネレータ3との間で双方向の電力変換を行う。
【0020】
インバータ6は、三相分の上下アーム回路9を備えて構成されている。上下アーム回路9は、レグと称されることがある。上下アーム回路9は、上アーム9Hと、下アーム9Lをそれぞれ有している。上アーム9Hと下アーム9Lは、上アーム9HをPライン7側として、Pライン7とNライン8との間で直列接続されている。上アーム9Hと下アーム9Lとの接続点は、出力ライン10を介して、モータジェネレータ3における対応する相の巻線3aに接続されている。インバータ6は、6つのアームを有している。Pライン7、Nライン8、および出力ライン10それぞれの少なくとも一部は、たとえばバスバーなどの導電部材により構成されている。
【0021】
各アームを構成する素子は、スイッチング素子である絶縁ゲートバイポーラトランジスタ11(以下、IGBT11と示す)と、還流用のダイオード12を備えている。本実施形態では、nチャネル型のIGBT11を採用している。ダイオード12は、対応するIGBT11に対して逆並列に接続されている。上アーム9Hにおいて、IGBT11のコレクタが、Pライン7に接続されている。下アーム9Lにおいて、IGBT11のエミッタが、Nライン8に接続されている。そして、上アーム9HにおけるIGBT11のエミッタと、下アーム9LにおけるIGBT11のコレクタが相互に接続されている。ダイオード12のアノードは対応するIGBT11のエミッタに接続され、カソードはコレクタに接続されている。
【0022】
電力変換装置4は、電力変換回路として、コンバータをさらに備えてもよい。コンバータは、直流電圧を異なる値の直流電圧に変換するDC-DC変換回路である。コンバータは、直流電源2と平滑コンデンサ5との間に設けられる。コンバータは、たとえばリアクトルと、上記した上下アーム回路9を備えて構成される。この構成によれば、昇降圧が可能である。電力変換装置4は、直流電源2からの電源ノイズを除去するフィルタコンデンサを備えてもよい。フィルタコンデンサは、直流電源2とコンバータとの間に設けられる。
【0023】
電力変換装置4は、インバータ6などを構成するスイッチング素子の駆動回路を備えてもよい。駆動回路は、制御回路の駆動指令に基づいて、対応するアームのIGBT11のゲートに駆動電圧を供給する。駆動回路は、駆動電圧の印加により、対応するIGBT11を駆動、すなわちオン駆動、オフ駆動させる。駆動回路は、ドライバと称されることがある。
【0024】
電力変換装置4は、スイッチング素子の制御回路を備えてもよい。制御回路は、IGBT11を動作させるための駆動指令を生成し、駆動回路に出力する。制御回路は、図示しない上位ECUから入力されるトルク要求、各種センサにて検出された信号に基づいて、駆動指令を生成する。各種センサとして、たとえば電流センサ、回転角センサ、電圧センサがある。電流センサは、各相の巻線3aに流れる相電流を検出する。回転角センサは、モータジェネレータ3の回転子の回転角を検出する。電圧センサは、平滑コンデンサ5の両端電圧を検出する。制御回路は、駆動指令として、たとえばPWM信号を出力する。制御回路は、たとえばプロセッサとメモリを備えて構成されている。ECUは、Electronic Control Unitの略称である。PWMは、Pulse Width Modulationの略称である。
【0025】
<半導体装置>
次に、
図2~
図5に基づき、半導体装置の概略構成について説明する。
図2は、本実施形態に係る半導体装置を示す平面図である。
図2は、半導体装置の上面視平面図である。
図3は、
図2のIII-III線に沿う断面図である。
図4は、
図2のIV-IV線に沿う断面図である。
図5は、半導体素子を示す平面図である。
【0026】
以下において、半導体素子(半導体基板)の板厚方向をZ方向とする。Z方向に直交する一方向をX方向とする。Z方向およびX方向の両方向に直交する方向をY方向とする。特に断わりのない限り、Z方向から平面視した形状、換言すればX方向およびY方向により規定されるXY面に沿う形状を平面形状とする。また、Z方向からの平面視を、単に平面視と示すことがある。
【0027】
図2~
図4に示すように、半導体装置20は、封止体30と、半導体素子40と、配線部材50、60と、導電スペーサ70と、外部接続端子80を備えている。半導体装置20は、さらにボンディングワイヤ90と、はんだ91~93を備えている。半導体装置20は、上記したアームのひとつを構成する。すなわち、2つの半導体装置20により、一相分の上下アーム回路9が構成される。
【0028】
封止体30は、半導体装置20を構成する他の要素の一部を封止している。他の要素の残りの部分は、封止体30の外に露出している。封止体30は、たとえば樹脂を材料とする。樹脂の一例は、エポキシ系樹脂である。封止体30は、樹脂を材料として、たとえばトランスファモールド法により成形されている。このような封止体30は、封止樹脂体、モールド樹脂、樹脂成形体などと称されることがある。封止体30は、たとえばゲルを用いて形成されてもよい。ゲルは、たとえば一対の配線部材50、60の対向領域に充填(配置)される。
【0029】
図2~
図4に示すように、封止体30は平面略矩形状をなしている。封止体30は、外郭をなす表面として、一面30aと、Z方向において一面30aとは反対の面である裏面30bを有している。一面30aおよび裏面30bは、たとえば略平坦な面である。また、一面30aおよび裏面30bに連なる側面30c、30d、30e、30fを有している。側面30cは、外部接続端子80のうち、主端子81、82が突出する面である。側面30dは、Y方向において側面30cとは反対の面である。側面30dは、信号端子83が突出する面である。側面30e、30fは、外部接続端子80が突出していない面である。側面30eは、X方向において側面30fとは反対の面である。
【0030】
半導体素子40は、半導体基板41と、エミッタ電極42と、コレクタ電極43と、パッド44を備えている。半導体素子40は、半導体チップと称されることがある。半導体基板41は、シリコン(Si)、シリコンよりもバンドギャップが広いワイドバンドギャップ半導体などを材料とし、縦型素子が形成されてなる。ワイドバンドギャップ半導体としては、たとえばシリコンカーバイド(SiC)、窒化ガリウム(GaN)、酸化ガリウム(Ga2O3)、ダイヤモンドがある。
【0031】
縦型素子は、半導体基板41(半導体素子40)の板厚方向、すなわちZ方向に主電流を流すように構成されている。本実施形態の縦型素子は、ひとつのアームを構成するIGBT11およびダイオード12である。縦型素子は、ダイオード12が逆並列に接続されたIGBT、つまりRC(Reverse Conducting)-IGBTである。縦型素子は、通電により発熱する発熱素子である。半導体基板41には、図示しないゲート電極が形成されている。ゲート電極は、たとえばトレンチ構造をなしている。
【0032】
半導体基板41は、主電極が設けられる板面として、表面41aおよび裏面41bを有している。表面41aは、半導体基板41において封止体30の一面30a側の面である。裏面41bは、表面41aとは板厚方向において反対の面である。主電極のひとつであるエミッタ電極42は、半導体基板41の表面41a上に配置されている。主電極の他のひとつであるコレクタ電極43は、半導体基板41の裏面41b上に配置されている。エミッタ電極42が表面電極に相当し、コレクタ電極43が裏面電極に相当する。
【0033】
IGBT11がオンすることで、主電極間、つまりエミッタ電極42とコレクタ電極43との間に、電流(主電流)が流れる。エミッタ電極42は、ダイオード12のアノード電極を兼ねている。コレクタ電極43は、ダイオード12のカソード電極を兼ねている。コレクタ電極43は、半導体基板41の裏面41bのほぼ全体に形成されている。エミッタ電極42は、半導体基板41の表面41aの一部分に形成されている。
【0034】
パッド44は、信号用の電極である。パッド44は、半導体基板41の表面41aにおいて、エミッタ電極42の形成領域とは異なる領域に形成されている。パッド44は、Y方向において、エミッタ電極42の形成領域とは反対側の端部に形成されている。パッド44は、Y方向においてエミッタ電極42と並んで設けられている。パッド44の個数は特に限定されない。パッド44は、ゲート電極用のパッドを少なくとも含む。一例として
図5に示すように、半導体素子40は5つのパッド44を有している。具体的には、ゲート電極用、エミッタ電位の検出用、半導体素子40が備える図示しない感温ダイオードのカソード電位検出用、同じくアノード電位検出用、電流センス用を有している。5つのパッド44は、X方向に沿って並んでいる。
【0035】
配線部材50は、エミッタ電極42に電気的に接続され、配線機能を提供する。同様に、配線部材60は、コレクタ電極43に電気的に接続され、配線機能を提供する。配線部材50、60は、Z方向において、半導体素子40を挟むように配置されている。配線部材50、60は、Z方向において互いに少なくとも一部が対向するように配置されている。配線部材50、60は、平面視において半導体素子40を内包している。
【0036】
配線部材50、60は、半導体素子40の生じた熱を放熱する放熱機能を提供する。配線部材50、60は、放熱板、ヒートシンクなどと称されることがある。本実施形態の配線部材50、60は、Cu、Cu合金などの導電性が良好な金属を材料とする金属板である。金属板は、たとえばリードフレームの一部として提供される。金属板に代えて、絶縁基材の両面に金属体が配置された基板を採用してもよい。配線部材50、60は、表面に、NiやAuなどのめっき膜を備えてもよい。
【0037】
配線部材50は、半導体素子40側の面である対向面50aと、対向面50aとは反対の面である裏面50bを有している。同様に、配線部材60も、対向面60aと裏面60bを有している。配線部材50、60は、たとえば平面略矩形状をなしている。配線部材50、60それぞれの裏面50b、60bは、封止体30から露出している。裏面50b、60bは、放熱面、露出面などと称されることがある。配線部材50の裏面50bは、封止体30の一面30aと略面一である。配線部材60の裏面60bは、封止体30の裏面30bと略面一である。配線部材60の構造詳細については後述する。
【0038】
導電スペーサ70は、半導体素子40と配線部材50の間に介在している。導電スペーサ70は、半導体素子40と配線部材50との間に所定の間隔を確保するスペーサ機能を提供する。たとえば導電スペーサ70は、半導体素子40のパッド44に、対応する信号端子83を電気的に接続するための高さを確保する。導電スペーサ70は、半導体素子40のエミッタ電極42と配線部材50との電気伝導、熱伝導経路の途中に位置し、配線機能および放熱機能を提供する。
【0039】
導電スペーサ70は、Cuなどの導電性、熱伝導性が良好な金属材料を含んでいる。導電スペーサ70は、表面にめっき膜を備えてもよい。導電スペーサ70は、ターミナル、ターミナルブロック、金属ブロック体などと称されることがある。本実施形態の導電スペーサ70は、平面略矩形状をなす柱状体である。導電スペーサ70は、Z方向の両端に、エミッタ電極42に対向する対向面70aと、配線部材50に対向する対向面70bを有している。
【0040】
外部接続端子80は、半導体装置20を外部機器と電気的に接続するための端子である。外部接続端子80は、銅などの導電性が良好な金属材料を用いて形成されている。外部接続端子80は、たとえば板材である。外部接続端子80は、リードと称されることがある。外部接続端子80は、主端子81、82と、信号端子83を備えている。主端子81、82は、半導体素子40の主電極に電気的に接続された外部接続端子80である。
【0041】
主端子81は、エミッタ電極42に電気的に接続されている。主端子81は、エミッタ端子と称されることがある。主端子81は、配線部材50を介して、エミッタ電極42に接続されている。主端子81は、配線部材50におけるY方向の一端に連なっている。主端子81の厚みは、配線部材50よりも薄い。主端子81は、たとえば対向面50aと略面一となるように、配線部材50に連なっている。主端子81は、配線部材50に対して連続して一体的に設けられることで連なってもよいし、別部材として設けられ、接合により連なってもよい。
【0042】
本実施形態の主端子81は、リードフレームの一部として、配線部材50と一体的に設けられている。主端子81は、配線部材50からY方向に延び、封止体30の側面30cから外部に突出している。主端子81は、封止体30により覆われる部分の途中に屈曲部を有し、側面30cにおいてZ方向の中央付近から突出している。
【0043】
主端子82は、コレクタ電極43に電気的に接続されている。主端子82は、コレクタ端子と称されることがある。主端子82は、配線部材60を介して、コレクタ電極43に接続されている。主端子82は、配線部材60におけるY方向の一端に連なっている。主端子82の厚みは、配線部材60よりも薄い。主端子82は、たとえば、対向面60aと略面一となるように配線部材60に連なっている。主端子82は、配線部材60に対して連続して一体的に設けられることで連なってもよいし、別部材として設けられ、接合により連なってもよい。
【0044】
本実施形態の主端子82は、主端子81とは別のリードフレームの一部として、配線部材60と一体的に設けられている。主端子82は、配線部材60からY方向に延び、主端子81と同じ側面30cから外部に突出している。主端子82も、封止体30により覆われる部分の途中に屈曲部を有し、側面30cにおいてZ方向の中央付近から突出している。2本の主端子81、82は、側面同士が対向するようにX方向に並んで配置されている。
【0045】
信号端子83は、半導体素子40の対応するパッド44に電気的に接続されている。信号端子83は、ボンディングワイヤ90を介してパッド44に電気的に接続されている。信号端子83は、Y方向に延び、封止体30の側面30dから外部に突出している。本実施形態の半導体装置20は、パッド44に対応して5本の信号端子83を備えている。5本の信号端子83は、X方向に並んで配置されている。信号端子83は、たとえば配線部材60および主端子82と共通のリードフレームに構成されている。複数の信号端子83は、図示しないタイバーをカットすることで、互いに電気的に分離されている。
【0046】
はんだ91は、半導体素子40のエミッタ電極42と導電スペーサ70との間に介在し、エミッタ電極42と導電スペーサ70とを接合している。はんだ91は、素子上はんだと称されることがある。はんだ92は、導電スペーサ70と配線部材50との間に介在し、導電スペーサ70と配線部材50とを接合している。はんだ92は、スペーサ上はんだと称されることがある。はんだ93は、半導体素子40のコレクタ電極43と配線部材60との間に介在し、コレクタ電極43と配線部材60とを接合している。はんだ93は、素子下はんだと称されることがある。はんだ91~93は、互いに共通の材料を用いてもよいし、互いに異なる材料を用いてもよい。はんだ91~93は、たとえばSnの他にSbやBiなどを含む多元系の鉛フリーはんだである。
【0047】
上記したように、半導体装置20では、封止体30によってひとつのアームを構成する半導体素子40が封止されている。封止体30は、半導体素子40、配線部材50の一部、配線部材60の一部、導電スペーサ70、および外部接続端子80それぞれの一部を、一体的に封止している。
【0048】
半導体素子40は、Z方向において配線部材50、60の間に配置されている。半導体素子40は、対向配置された配線部材50、60によって挟まれている。これにより、半導体素子40の熱を、Z方向において両側に放熱することができる。半導体装置20は、両面放熱構造をなしている。配線部材50の裏面50bは、封止体30の一面30aと略面一となっている。配線部材60の裏面60bは、封止体30の裏面30bと略面一となっている。裏面50b、60bが露出面であるため、放熱性を高めることができる。
【0049】
<半導体素子の反り>
次に、
図3および
図4に基づき、半導体素子40の反りについて説明する。
【0050】
上記したように、表面電極であるエミッタ電極42は、半導体基板41の表面41aの一部に形成されている。裏面電極であるコレクタ電極43は、半導体基板41の裏面41bのほぼ全域に形成されている。コレクタ電極43は、エミッタ電極42よりも面積が大きい。
【0051】
エミッタ電極42は、AlSiなどのAl系材料を用いて半導体基板の表面上に形成された下地電極部と、下地電極部上に形成された接続電極部を有している。下地電極部は、たとえばスパッタ法により形成されている。接続電極部は、めっき法により形成されている。接続電極部は、たとえば下地電極部上に形成されたNi層と、Ni層上に形成されたAu層を含んでいる。コレクタ電極43は、スパッタ法により形成されている。コレクタ電極43は、AlSiなどのAl系材料を用いて半導体基板の裏面上に形成されたAl層と、Al層上に形成されたNi層を含んでいる。めっき法を用いるエミッタ電極42のほうが、コレクタ電極43よりも厚い。
【0052】
上記した電極構成により、半導体素子40には反りが生じる。半導体装置20において、半導体素子40はコレクタ電極43側に凸の反りを有している。半導体素子40は、配線部材60(リードフレーム)に実装する段階で反りを有している。なお、上記構成は、反りが生じる構成の一例である。半導体素子40の構成は、コレクタ電極43側に凸の反りを有するものであればよい。
【0053】
<配線部材の構造および接続構造>
図3、
図4、
図6~
図8に基づき、コレクタ電極43側の配線部材60について説明する。
図6は、配線部材60の平面図である。
図6では、半導体素子40と後述する凹部64との位置関係を示すために、半導体素子40についても破線で図示している。
図7は、配線部材60の断面図である。
図7は、
図4に対応している。
図8は、半導体装置20のうち、半導体素子40と配線部材60との接続構造を示す断面図である。
図8は、
図7に対応している。
【0054】
図3、
図4、
図6~
図8に示すように、配線部材60は、対向面60aに、底壁部61と環状の側壁部62を有している。底壁部61および側壁部62は、対向面60aの一部分である。底壁部61および側壁部62は、はんだ93が配置される領域63を規定している。
【0055】
環状の側壁部62は、底壁部61の外周端に全周で連なっている。側壁部62は、底壁部61の外周端からZ方向の上方に延びている。環状の側壁部62は、平面視において領域63が半導体素子40を内包するように設けられている。つまり平面視において、環状の側壁部62の内側に半導体素子40の全域が配置されるように設けられている。平面視において、領域63の外形輪郭は半導体素子40の外形輪郭と略一致してもよいし、半導体素子40の外形輪郭よりも全周で大きくてもよい。領域63の深さ、つまり底壁部61を基準とする側壁部62の上端までの高さは、底壁部61と半導体素子40との間に所望のはんだ厚を確保できるように設定されている。
【0056】
はんだ93は、底壁部61および側壁部62により規定される領域63内に配置され、側壁部62との間にフィレットを形成している。後述するように、はんだ93は溶融状態で領域63内に塗布される。溶融状態のはんだ93は、底壁部61および側壁部62を濡れ拡がる。はんだ93は、側壁部62を上方に濡れ上がり、フィレットを形成する。はんだ93の表面は、底壁部61側に凸の形状をなしている。はんだ93の表面は、周囲部分よりも中央部分が凹んだ曲面形状をなしている。以下において、底壁部61側に凸を、下に凸と示すことがある。
【0057】
側壁部62の表面は、はんだ93がフィレットを形成し易いように、つまりはんだ93の濡れ性を高めるために、加工されてもよい。たとえば側壁部62に、めっき膜を有してもよい。側壁部62に、Z方向に沿って延びる複数の縦溝(縦筋)を有してもよい。毛細管現象によって縦溝をはんだ93が濡れ上がる。縦溝の一例は、後述する凹部64を形成する際の加工痕である。
【0058】
半導体素子40は、はんだ93上に配置されている。半導体素子40は、上記したようにコレクタ電極43側に凸の反りを有している。半導体素子40の凸の方向と、はんだ93の表面の凸の方向が一致している。コレクタ電極43は、はんだ93を介して配線部材60に接合されている。コレクタ電極43は、その全域がはんだ93に接触している。はんだ93の表面のうち、側壁部62との接合位置はコレクタ電極43の全域よりも上方に位置している。一例として、はんだ表面における側壁部62との接合位置は、側壁部62の上端である。
【0059】
本実施形態の配線部材60は、対向面60aに凹部64を有している。凹部64は、対向面60aの一部分が凹んでなる。凹部64は、対向面60aにおける凹部64の周囲部分に対して凹んでいる。凹部64は、段差部と称されることがある。凹部64の底面が底壁部61をなし、側面が側壁部62をなしている。凹部64の提供する凹空間が、領域63である。
【0060】
凹部64は、平面略矩形状をなしている。凹部64の平面形状は、たとえば半導体素子40の平面形状に相似である。底壁部61は、平面略矩形状をなしている。底壁部61は、XY平面に略平行な平坦面である。側壁部62は、平面略矩形の環状なしている。側壁部62は、底壁部61とのなす角度が略90度である。平面視において、凹部64は半導体素子40を内包している。凹部64は、半導体素子40よりも大きい。Z方向において、半導体素子40の一部は凹部64内、つまり領域63内に配置されている。一例としてコレクタ電極43の全域が、凹部64内に配置されている。
【0061】
<半導体装置の製造方法>
次に、半導体装置20の製造方法について説明する。
【0062】
先ず、半導体装置20を構成する各要素を準備する。具体的には、半導体素子40、配線部材50、60、導電スペーサ70、および外部接続端子80を準備する。このとき、上記した凹部64を有する配線部材60を準備する。配線部材60については、たとえば主端子82および信号端子83を含むリードフレームとして準備する。
【0063】
次いで、溶融はんだを塗布して接続体を形成する。配線部材60と半導体素子40のコレクタ電極43との間に溶融はんだ(はんだ93)を配置し、エミッタ電極42と導電スペーサ70の対向面70aとの間に溶融はんだ(はんだ91)を配置する。さらに、導電スペーサ70の対向面70b上に溶融はんだ(はんだ92)を配置する。溶融はんだが固化(凝固)することで、半導体素子40、配線部材60、および導電スペーサ70が積層され、一体的に接続された接続体が得られる。このように、ソルダダイボンド法を用いる。
【0064】
なお、両面放熱構造の半導体装置20は、たとえば図示しない冷却器によってZ方向の両面側から挟まれる。よって、Z方向において表面の高い平行度と表面間の高い寸法精度が求められる。このため、はんだ92については、半導体装置20の高さばらつきを吸収可能な量を配置する。すなわち、はんだ91、93よりも多めのはんだ92を配置する。
【0065】
次いで、ボンディングワイヤ90により、半導体素子40のパッド44と信号端子83とを接続する。
【0066】
次いで、リフローにより、配線部材50と導電スペーサ70とを接続する。たとえば対向面50aが上になるように、配線部材50を図示しない台座上に配置する。また、はんだ92が配線部材50の対向面50aと対向するように、上記した接続体を配線部材50上に積層配置する。そして、この積層状態でリフローを実施する。
【0067】
リフローでは、配線部材60側からZ方向に荷重を加えることで、半導体装置20の高さが所定高さとなるようにする。詳しくは、荷重を加えることで、図示しない所定長さのスペーサを、配線部材60の対向面60aと台座の載置面との両方に接触させる。このようにして、半導体装置20の高さが所定高さとなるようにする。
【0068】
はんだのリフローに用いる熱源の位置は特に限定されるものではない。図示しない熱源は、たとえば台座における載置面とは反対の面側に配置される。この配置において、熱源の熱は、台座、配線部材50を介してはんだ92に伝わる。熱源からの熱によりはんだ92が溶融し、配線部材50と導電スペーサ70が接続(接合)される。すなわち、エミッタ電極42と配線部材50とが電気的に接続される。
【0069】
次いで、封止体30を形成する。図示を省略するが、本実施形態では、トランスファモールド法により封止体30を成形する。配線部材50、60が完全に被覆されるように封止体30を成形し、成形後に切削を行う。封止体30を配線部材50、60の一部ごと切削する。これにより、裏面50b、60bを露出させる。裏面50bは一面30aと略面一となり、裏面60bは裏面30bと略面一となる。
【0070】
なお、裏面50b、60bを成形金型のキャビティ壁面に押し当て、密着させた状態で、封止体30を成形してもよい。この場合、封止体30を成形した時点で、裏面50b、60bが封止体30から露出する。このため、成形後の切削が不要となる。
【0071】
次いで、タイバーや外周フレームなどリードフレームの不要部分を除去することで、半導体装置20を得ることができる。
【0072】
図9は、上記した製造工程のうち、配線部材60への溶融はんだの塗布から半導体素子40の実装までを示している。
図9に示す符号93Sは、溶融はんだ、つまり溶融状態のはんだ93を示している。
【0073】
図9(a)に示すように、配線部材60の対向面60a、具体的には底壁部61および側壁部62により規定される領域63内に、溶融はんだ93Sを塗布する。溶融はんだ93Sは、たとえば転写法を用いて塗布することができる。塗布した溶融はんだ93Sは、対向面60a、具体的には底壁部61および側壁部62上を濡れ拡がる。溶融はんだ93Sは、側壁部62を上方に濡れ上がって側壁部62との間にフィレットを形成する。一例として、溶融はんだ93Sは、側壁部62の上端まで濡れ上がる。フィレットの形成により、溶融はんだ93Sの表面93aは、下に凸の形状をなす。表面93aは、周囲部分よりも中央部分が凹んだ曲面形状をなす。
【0074】
溶融はんだ93Sの塗布後、半導体素子40を配置する。
図9(b)に示すように、コレクタ電極43が溶融はんだ93Sに接触するように、コレクタ電極43を下にして半導体素子40を溶融はんだ93S上に配置する。上記したように、半導体素子40は、下に凸の反りを有している。半導体素子40の凸の方向と、溶融はんだ93Sの表面93aの凸の方向が一致するため、溶融はんだ93Sに対するコレクタ電極43の接地面積が大きくなる。これにより、半導体素子40の配置が安定化する。
【0075】
溶融はんだ93Sは、コレクタ電極43の表面上を濡れ拡がる。
図9(c)に示すように、溶融はんだ93Sは、コレクタ電極43の全域に濡れ拡がる。凸の方向が一致するため、溶融はんだ93Sの表面93aの形状が大きく変化することはない。よって、半導体素子40もほとんど変位しない。溶融はんだ93Sは形状を維持した状態で固化(凝固)し、はんだ93が半導体素子40のコレクタ電極43と配線部材60とを接合する。半導体素子40は、はんだ93の表面形状にしたがって固定される。
【0076】
この接合状態ではんだ93は、半導体素子40の中央部分の直下、具体的には反りの頂点付近の直下において最小厚みTminとなる。最小厚みTminを確保できるように、溶融はんだ93Sの塗布量が設定される。はんだ93の厚みは、半導体素子40の中央部分において想定的に薄く、中央部分を取り囲む周囲部分において相対的に厚くなる。
【0077】
<第1実施形態のまとめ>
図10は、製造方法の参考例を示す断面図である。参考例では、各要素の符号を、半導体装置20の関連する要素の符号の末尾にrを付加したものとしている。
図10は、
図9同様、配線部材60rへの溶融はんだ93Srの塗布から半導体素子40rの実装までを示している。
【0078】
図10(a)に示すように、参考例では、配線部材60rの対向面60arが平坦面である。たとえば転写法により、平坦な対向面60arに溶融はんだ93Srを塗布する。溶融はんだ93Sの表面93arは、中央部分において周囲部分よりも膨らんだ、上に凸の曲面形状をなす。
【0079】
溶融はんだ93Srの塗布後、
図10(b)に示すように半導体素子40rを配置する。半導体素子40rは、下に凸の反りを有している。半導体素子40rの凸の方向は、溶融はんだ93Srの表面93arの凸の方向とは逆である。このため、溶融はんだ93Srに対するコレクタ電極43rの接地面積が小さくなり、半導体素子40rの配置が不安定となる。
【0080】
上記したように配置が不安定なため、接合までの過程で、
図10(c)に示すように、半導体素子40rが対向面60arに対して傾き得る。半導体素子40rが傾くと、たとえば
図10(c)に示すように、外周端付近においてはんだ93rが最小厚みとなる。はんだ93rの外周端には、応力、たとえば熱応力が集中する。傾きが生じると、外周端において所望のはんだ厚を確保できず、外周端にクラックが生じる虞がある。また、半導体素子40rの中央部分の直下においてはんだ93rが厚くなる。つまり、半導体素子40rの中央部分の直下において熱抵抗が大きくなり、放熱性が低下する。また、半導体素子40rの傾きの度合いや向きは常に一定とは限らない。
【0081】
特許文献1に記載の技術のように、配線部材の表面に複数のワイヤ片を配置することで、半導体素子の傾きを抑制し、所望のはんだ厚を確保することが可能である。しかしながら、ワイヤ片を配置する必要がある。
【0082】
本実施形態では、配線部材60の対向面60aに、領域63を規定する底壁部61および環状の側壁部62を設け、領域63内に溶融はんだ93Sを塗布する。溶融はんだ93Sは、側壁部62を濡れ上がり、表面93aが底壁部61側に凸の形状をなす。そして、底壁部61側に凸の形状をなす溶融はんだ93Sの表面93a上に、コレクタ電極43側に凸の反りをなす半導体素子40を配置して接合する。半導体素子40の反りの凸方向と溶融はんだ93Sの表面93aの凸方向が一致するため、安定して接合できる。これにより、接合時に半導体素子40の傾きが生じるのを抑制し、ワイヤ片を用いなくても所望のはんだ厚を確保することができる。
【0083】
また、半導体素子40の中央部分の直下、理想的には反りの頂点の直下において最小厚みTminとなる。これにより、熱抵抗を小さくし、放熱性を確保することができる。はんだ93の厚みは、周囲部分において中央部分よりも厚くなる。よって、応力集中により外周端にクラックが生じるのを抑制することができる。上記したようにはんだ厚を制御できるため、はんだ厚設計を簡素化することができる。
【0084】
また、セルフアライメント効果により、配線部材60に対する半導体素子40の実装位置の精度を高めることができる。
【0085】
対向面60aに設けられる底壁部61および側壁部62は、特に限定されない。一例として本実施形態では、対向面60aに設けた凹部64が、底壁部61および側壁部62を提供する。凹部64は、プレス加工などにより形成が可能である。よって、上記した効果を安価な構成で実現できる。
【0086】
側壁部62の平面形状は、特に限定されない。側壁部62は、環状の内側に半導体素子40を内包できる大きさを有していればよい。たとえば側壁部62の平面形状を円形としてもよい。一例として本実施形態では、側壁部62の平面形状を矩形状としている。これにより、溶融はんだ93Sに配置された半導体素子40の回転ずれを抑制することができる。回転ずれとは、半導体素子40がZ方向に略平行な軸周りに回転することで生じる位置ずれである。
【0087】
(第2実施形態)
この実施形態は、先行する実施形態を基礎的形態とする変形例であり、先行実施形態の記載を援用できる。先行実施形態では、底壁部61および側壁部62を提供するために、対向面60aに凹部64を設けた。これに代えて、対向面60aに環状の突出部を設けてもよい。
【0088】
図11は、本実施形態に係る半導体装置20において、配線部材60を示す平面図である。
図11は、
図6に対応している。
図11では、半導体素子40と後述する突出部65との位置関係を示すために、半導体素子40についても破線で図示している。
図12は、配線部材60の断面図である。
図12は、
図7に対応している。
図13は、半導体装置20のうち、半導体素子40と配線部材60との接続構造を示す断面図である。
図13は、
図8に対応している。
【0089】
本実施形態の配線部材60は、対向面60aに環状の突出部65を有している。突出部65は、凸部と称されることがある。突出部65は、対向面60aの一部分が上方に突出してなる。突出部65は、対向面60aにおける突出部65の周囲部分に対して突出している。環状の突出部65の内周面が側壁部62をなしている。また、突出部65の内側に位置する対向面60aの部分が底壁部61をなしている。底壁部61および側壁部62は、領域63を規定している。
【0090】
突出部65は、平面略矩形の環状をなしている。突出部65の内周面、つまり側壁部62の平面形状は、たとえば半導体素子40の平面形状に相似である。底壁部61は、平面略矩形状をなしている。底壁部61は、XY平面に略平行な平坦面である。側壁部62は、底壁部61とのなす角度が略90度である。平面視において、領域63は半導体素子40を内包している。突出部65は、環状の内側に半導体素子40を内包している。Z方向において、半導体素子40の一部は領域63内に配置されている。一例としてコレクタ電極43の全域が、領域63内に配置されている。
【0091】
はんだ93は、底壁部61および側壁部62により規定される領域63内に配置され、側壁部62との間にフィレットを形成している。はんだ93の表面は、底壁部61側に凸の形状をなしている。半導体素子40は、はんだ93上に配置されている。半導体素子40は、上記したようにコレクタ電極43側に凸の反りを有している。半導体素子40の凸の方向と、はんだ93の表面の凸の方向が一致している。コレクタ電極43は、はんだ93を介して配線部材60に接合されている。コレクタ電極43は、その全域がはんだ93に接触している。はんだ93の表面のうち、側壁部62との接合位置はコレクタ電極43の全域よりも上方に位置している。一例として、はんだ表面における側壁部62との接合位置は、側壁部62の上端である。
【0092】
その他の構成については、先行実施形態に記載の構成と同様である。
【0093】
<第2実施形態のまとめ>
本実施形態によっても、先行実施形態に示した構成と同等の効果を奏することができる。本実施形態では、配線部材60の対向面60aに環状の突出部65を設けることで、領域63を規定している。領域63内に溶融はんだ93Sを塗布すると、溶融はんだ93Sは側壁部62を濡れ上がり、表面93aが底壁部61側に凸の形状をなす。半導体素子40の反りの凸方向と溶融はんだ93Sの表面93aの凸方向が一致するため、安定して接合できる。これにより、接合時に半導体素子40の傾きが生じるのを抑制し、ワイヤ片を用いなくても所望のはんだ厚を確保することができる。
【0094】
(他の実施形態)
この明細書および図面等における開示は、例示された実施形態に制限されない。開示は、例示された実施形態と、それらに基づく当業者による変形態様を包含する。たとえば、開示は、実施形態において示された部品および/または要素の組み合わせに限定されない。開示は、多様な組み合わせによって実施可能である。開示は、実施形態に追加可能な追加的な部分をもつことができる。開示は、実施形態の部品および/または要素が省略されたものを包含する。開示は、ひとつの実施形態と他の実施形態との間における部品および/または要素の置き換え、または組み合わせを包含する。開示される技術的範囲は、実施形態の記載に限定されない。開示されるいくつかの技術的範囲は、請求の範囲の記載によって示され、さらに請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むものと解されるべきである。
【0095】
明細書および図面等における開示は、請求の範囲の記載によって限定されない。明細書および図面等における開示は、請求の範囲に記載された技術的思想を包含し、さらに請求の範囲に記載された技術的思想より多様で広範な技術的思想に及んでいる。よって、請求の範囲の記載に拘束されることなく、明細書および図面等の開示から、多様な技術的思想を抽出することができる。
【0096】
ある要素または層が「上にある」、「連結されている」、「接続されている」または「結合されている」と言及されている場合、それは、他の要素、または他の層に対して、直接的に上に、連結され、接続され、または結合されていることがあり、さらに、介在要素または介在層が存在していることがある。対照的に、ある要素が別の要素または層に「直接的に上に」、「直接的に連結されている」、「直接的に接続されている」または「直接的に結合されている」と言及されている場合、介在要素または介在層は存在しない。要素間の関係を説明するために使用される他の言葉は、同様のやり方で(例えば、「間に」対「直接的に間に」、「隣接する」対「直接的に隣接する」など)解釈されるべきである。この明細書で使用される場合、用語「および/または」は、関連する列挙されたひとつまたは複数の項目に関する任意の組み合わせ、およびすべての組み合わせを含む。
【0097】
空間的に相対的な用語「内」、「外」、「裏」、「下」、「低」、「上」、「高」などは、図示されているような、ひとつの要素または特徴の他の要素または特徴に対する関係を説明する記載を容易にするためにここでは利用されている。空間的に相対的な用語は、図面に描かれている向きに加えて、使用または操作中の装置の異なる向きを包含することを意図することができる。例えば、図中の装置をひっくり返すと、他の要素または特徴の「下」または「真下」として説明されている要素は、他の要素または特徴の「上」に向けられる。したがって、用語「下」は、上と下の両方の向きを包含することができる。この装置は、他の方向に向いていてもよく(90度または他の向きに回転されてもよい)、この明細書で使用される空間的に相対的な記述子はそれに応じて解釈される。
【0098】
車両の駆動システム1は、上記した構成に限定されない。たとえば、モータジェネレータ3をひとつ備える例を示したが、これに限定されない。複数のモータジェネレータを備えてもよい。電力変換装置4が、電力変換部としてインバータ6を備える例を示したが、これに限定されない。たとえば、複数のインバータを備える構成としてもよい。少なくともひとつのインバータと、コンバータを備える構成としてもよい。コンバータのみを備えてもよい。
【0099】
スイッチング素子は、IGBT11に限定されない。たとえばMOSFETを採用してもよい。MOSFETは、Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistorの略称である。nチャネル型のMOSFETの場合、ソース電極が表面電極に相当し、ドレイン電極が裏面電極に相当する。MOSFETの場合、還流用のダイオードとして寄生ダイオード(ボディダイオード)を用いてもよいし、外付けのダイオードを用いてもよい。
【0100】
配線部材50、60の裏面50b、60bが、封止体30から露出する例を示したが、これに限定されない。裏面50b、60bの少なくとも一方が、封止体30によって覆われた構成としてもよい。裏面50b、60bの少なくとも一方が、封止体30とは別の図示しない絶縁部材によって覆われた構成としてもよい。半導体装置20が封止体30を備える例を示したが、これに限定されない。封止体30を備えない構成としてもよい。
【0101】
半導体装置20が、ひとつのアームを構成する半導体素子40をひとつのみ備える例を示したが、これに限定されない。半導体装置20が、ひとつのアームを構成する複数の半導体素子40を備えてもよい。つまり、複数の半導体素子40が互いに並列接続されてひとつのアームを構成してもよい。この場合、導電スペーサ70は、半導体素子40に対して個別に設けられる。また、半導体装置20が、一相分の上下アーム回路9を構成する複数の半導体素子40を備えてもよい。複数相の上下アーム回路9を構成する複数の半導体素子40を備えてもよい。
【0102】
導電スペーサ70に代えて、配線部材50に凸部を設けてもよい。
【0103】
半導体装置20として、両面放熱構造の例を示したが、これに限定されない。片面放熱構造にも適用することができる。たとえばコレクタ電極43はヒートシンクまたは基板の金属体に接続され、エミッタ電極42はリードに接続される。
【0104】
底壁部61は、平坦面に限定されない。たとえば、凹凸を有する面でもよい。側壁部62のなす角度は90度に限定されない。側壁部62は、上端に近づくほど環状の開口面積が大きくなる傾斜面でもよい。
【符号の説明】
【0105】
1…駆動システム、2…直流電源、3…モータジェネレータ、4…電力変換装置、5…平滑コンデンサ、6…インバータ、7…Pライン、8…Nライン、9…上下アーム回路、9H…上アーム、9L…下アーム、10…出力ライン、11…IGBT、12…ダイオード、20…半導体装置、30…封止樹脂体、30a…一面、30b…裏面、30c、30d、30e、30f…側面、40…半導体素子、41…半導体基板、41a…表面、41b…裏面、42…エミッタ電極、43…コレクタ電極、44…パッド、50…配線部材、50a…対向面、50b…裏面、60…配線部材、60a…対向面、60b…裏面、61…底壁部、62…側壁部、63…領域、64…凹部、65…突出部、70…導電スペーサ、70a、70b…対向面、80…外部接続端子、81、82…主端子、83…信号端子、90…ボンディングワイヤ、91、92、93…はんだ、93a…表面、93S…溶融はんだ