(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023183161
(43)【公開日】2023-12-27
(54)【発明の名称】電磁波シールド
(51)【国際特許分類】
H05K 9/00 20060101AFI20231220BHJP
H01Q 17/00 20060101ALI20231220BHJP
【FI】
H05K9/00 F
H01Q17/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022096640
(22)【出願日】2022-06-15
(71)【出願人】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100163463
【弁理士】
【氏名又は名称】西尾 光彦
(72)【発明者】
【氏名】松▲崎▼ 悠也
【テーマコード(参考)】
5E321
5J020
【Fターム(参考)】
5E321AA05
5E321BB01
5E321GG05
5J020EA04
5J020EA08
(57)【要約】
【課題】簡素な構成で斜めに入射する電磁波の遮蔽を実現する観点から有利な電磁波シールドを提供する。
【解決手段】電磁波シールド1aは、第一面11と、第二面12とを有する。電磁波シールド1aは、誘電体を含んでいる。第一面11は、電磁波を入射させるための面である。第二面12は、第一面11に向かって入射した電磁波の少なくとも一部を出射させるための面である。電磁波シールド1aは、電磁波W
EMが45°、60°、及び75°の入射角度θで第一面11に向かって入射するように送信されるときに、下記(I-1)、(I-2)、及び(I-3)からなる群より選ばれる少なくとも1つの条件を満たす。
10Log|P
R45/P
T45|≧5.0[dB] (I-1)
10Log|P
R60/P
T60|≧5.0[dB] (I-2)
10Log|P
R75/P
T75|≧5.0[dB] (I-3)
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁波シールドであって、
誘電体を含み、
電磁波を入射させるための第一面と、
前記第一面に向かって入射した前記電磁波の少なくとも一部を出射させるための第二面と、を有し、
10GHz~300GHzの範囲に含まれる少なくとも1つの周波数を有する電磁波が45°、60°、及び75°の入射角度で前記第一面に向かって入射するように送信されるときに、下記(I-1)、(I-2)、及び(I-3)からなる群より選ばれる少なくとも1つの第一条件を満たし、
前記第一条件において、
PT45は、前記入射角度が45°であるように送信される前記電磁波の電力[W]であり、
PR45は、前記入射角度が45°であるように前記電磁波が送信されるときに、前記電磁波の前記電磁波シールドにおける入射点から前記電磁波の入射方向と平行な方向に前記第二面と交差して前記電磁波シールドの外部に延びる第一線分の前記外部における端点を含む受信面で受信される電磁波の電力[W]であり、
PT60は、前記入射角度が60°であるように送信される前記電磁波の電力[W]であり、
PR60は、前記入射角度が60°であるように前記電磁波が送信されるときに、前記電磁波の前記電磁波シールドにおける入射点から前記電磁波の入射方向と平行な方向に前記第二面と交差して前記電磁波シールドの外部に延びる第二線分の前記外部における端点を含む受信面で受信される電磁波の電力[W]であり、
PT75は、前記入射角度が75°であるように送信される前記電磁波の電力[W]であり、
PR75は、前記入射角度が75°であるように前記電磁波が送信されるときに、前記電磁波の前記電磁波シールドにおける入射点から前記電磁波の入射方向と平行な方向に前記第二面と交差して前記電磁波シールドの外部に延びる第三線分の前記外部における端点を含む受信面で受信される電磁波の電力[W]である、
電磁波シールド。
|10Log(PR45/PT45)|≧5.0[dB] (I-1)
|10Log(PR60/PT60)|≧5.0[dB] (I-2)
|10Log(PR75/PT75)|≧5.0[dB] (I-3)
【請求項2】
前記電磁波シールドは、導電性を有する部位を有しない、請求項1に記載の電磁波シールド。
【請求項3】
10GHz~300GHzの範囲に含まれる少なくとも1つの周波数における前記誘電体の比誘電率の虚部ε”は、0.1以下である、請求項1に記載の電磁波シールド。
【請求項4】
10GHz~300GHzの範囲に含まれる少なくとも1つの周波数における前記誘電体の比誘電率の実部ε’は、2.0~4.0である、請求項1に記載の電磁波シールド。
【請求項5】
前記電磁波シールドは、前記(I-1)の条件及び前記(I-2)の条件の両方を満たす、請求項1に記載の電磁波シールド。
【請求項6】
前記第二面とは反対方向に前記第一面から突出している、又は、前記第一面とは反対方向に前記第二面から突出している、複数の突出部を有する、請求項1に記載の電磁波シールド。
【請求項7】
前記電磁波シールドは、波長λの電磁波を遮蔽対象とし、
前記複数の突出部の少なくとも1つの突出長さpiは、0.25λ≦pi≦1.3λの条件を満たす、
請求項6に記載の電磁波シールド。
【請求項8】
前記電磁波シールドは、波長λの電磁波を遮蔽対象とし、
前記複数の突出部の少なくとも1つの幅wiは、0.51λ≦wi≦1.6λの条件を満たす、
請求項6に記載の電磁波シールド。
【請求項9】
前記電磁波シールドは、波長λの電磁波を遮蔽対象とし、
前記突出部同士の間隔iiは、0.51λ≦ii≦1.6λの条件を満たす、
請求項6に記載の電磁波シールド。
【請求項10】
前記突出部は、前記第一面又は前記第二面の平面視において、円形、三角形、四角形、及び5つ以上の角を有する多角形からなる群より選択される少なくとも1つを有する、請求項6に記載の電磁波シールド。
【請求項11】
前記複数の突出部は、前記第一面又は前記第二面の平面視において、格子点上の配置、平行線上の配置、及びランダムな配置からなる群より選択される少なくとも1つの配置をとる、請求項10に記載の電磁波シールド。
【請求項12】
前記電磁波シールドは、下記(II-1)の条件及び(II-2)の条件からなる群より少なくとも1つの第二条件を満たし、
前記第二条件において、
Spは、前記第一面又は前記第二面の平面視したときの前記複数の突出部の面積であり、
Seは、前記第一面の平面視における前記電磁波シールドの全体の面積であり、
Soは、前記第二面の平面視における前記電磁波シールドの全体の面積である、
請求項6に記載の電磁波シールド。
0.2≦Sp/Se≦0.8 (II-1)
0.2≦Sp/So≦0.8 (II-2)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁波シールドに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電磁波の遮蔽のために電波吸収体を用いることが知られている。
【0003】
例えば、特許文献1及び2には、支持体、抵抗膜、誘電体層、及び反射層を有する電波吸収体が記載されている。これらの電波吸収体は、45°入射のTM偏波、TE偏波、又は円偏波に対して所定の吸収性能を発揮する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6901629号公報
【特許文献2】特許第6901630号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1及び2に記載の電波吸収体は、支持体、抵抗膜、誘電体層、及び反射層を有している。例えば、抵抗膜は所定の抵抗値を有する必要があり、反射層としては金属膜等の電波を反射可能な部材を用いる必要があると理解される。このため、特許文献1及び2に記載の電波吸収体は、より簡素な構成で斜めに入射する電磁波の遮蔽を実現する観点から再検討の余地を有する。
【0006】
そこで、本発明は、簡素な構成で斜めに入射する電磁波の遮蔽を実現する観点から有利な電磁波シールドを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、
電磁波シールドであって、
誘電体を含み、
電磁波を入射させるための第一面と、
前記第一面に向かって入射した前記電磁波の少なくとも一部を出射させるための第二面と、を有し、
10GHz~300GHzの範囲に含まれる少なくとも1つの周波数を有する電磁波が45°、60°、及び75°の入射角度で前記第一面に向かって入射するように送信されるときに、下記(I-1)、(I-2)、及び(I-3)からなる群より選ばれる少なくとも1つの第一条件を満たし、
前記第一条件において、
PT45は、前記入射角度が45°であるように送信される前記電磁波の電力[W]であり、
PR45は、前記入射角度が45°であるように前記電磁波が送信されるときに、前記電磁波の前記電磁波シールドにおける入射点から前記電磁波の入射方向と平行な方向に前記第二面と交差して前記電磁波シールドの外部に延びる第一線分の前記外部における端点を含む受信面で受信される電磁波の電力[W]であり、
PT60は、前記入射角度が60°であるように送信される前記電磁波の電力[W]であり、
PR60は、前記入射角度が60°であるように前記電磁波が送信されるときに、前記電磁波の前記電磁波シールドにおける入射点から前記電磁波の入射方向と平行な方向に前記第二面と交差して前記電磁波シールドの外部に延びる第二線分の前記外部における端点を含む受信面で受信される電磁波の電力[W]であり、
PT75は、前記入射角度が75°であるように送信される前記電磁波の電力[W]であり、
PR75は、前記入射角度が75°であるように前記電磁波が送信されるときに、前記電磁波の前記電磁波シールドにおける入射点から前記電磁波の入射方向と平行な方向に前記第二面と交差して前記電磁波シールドの外部に延びる第三線分の前記外部における端点を含む受信面で受信される電磁波の電力[W]である、
電磁波シールドを提供する。
|10Log(PR45/PT45)|≧5.0[dB] (I-1)
|10Log(PR60/PT60)|≧5.0[dB] (I-2)
|10Log(PR75/PT75)|≧5.0[dB] (I-3)
【発明の効果】
【0008】
上記の電磁波シールドは、簡素な構成で斜めに入射する電磁波の遮蔽を実現する観点から有利である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1A】
図1Aは、本発明に係る電磁波シールドの一例を示す斜視図である。
【
図2】
図2は、
図1Aに示す電磁波シールドが満たす条件を説明するための図である。
【
図3】
図3は、本発明に係る電磁波シールドの別の一例を示す平面図である。
【
図4】
図4は、本発明に係る電磁波シールドのさらに別一例を示す側面図である。
【
図6】
図6は、解析モデルを模式的に示す斜視図である。
【
図7】
図7は、比較例に係る電磁波シールドの解析モデルを示す斜視図である。
【
図8A】
図8Aは、透過減衰量Tと比S
p/S
eとの関係を示すグラフである。
【
図8B】
図8Bは、透過減衰量Tと比S
p/S
eとの関係を示すグラフである。
【
図8C】
図8Cは、透過減衰量Tと比S
p/S
eとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、本発明は、以下の実施形態には限定されない。なお、添付の図面において、x軸、y軸、及びz軸は互いに直交している。
【0011】
図1A、
図1B、及び
図1Cに示す通り、電磁波シールド1aは、第一面11と、第二面12とを有する。電磁波シールド1aは、誘電体を含んでいる。第一面11は、電磁波を入射させるための面である。第一面11は、例えば、平坦面である。第二面12は、第一面11に向かって入射した電磁波の少なくとも一部を出射させるための面である。第二面12は、例えば平坦面である。
【0012】
図2は、電磁波シールド1aが満たす条件を説明するための図である。電磁波シールド1aは、電磁波W
EMが45°、60°、及び75°の入射角度θで第一面11に向かって入射するように送信されるときに、下記(I-1)、(I-2)、及び(I-3)からなる群より選ばれる少なくとも1つの条件を満たす。電磁波W
EMは、10GHz~300GHzの範囲に含まれる少なくとも1つの周波数を有する。下記の条件において、P
T45は、入射角度θが45°であるように送信される電磁波W
EMの電力[W]である。P
R45は、入射角度θが45°であるように電磁波W
EMが送信されるときに、受信面RPで受信される電磁波の電力[W]である。P
T60は、入射角度θが60°であるように送信される電磁波W
EMの電力[W]である。P
R60は、入射角度θが60°であるように電磁波W
EMが送信されるときに、受信面RPで受信される電磁波の電力[W]である。P
T75は、入射角度θが75°であるように送信される電磁波W
EMの電力[W]である。P
R75は、入射角度θが75°であるように電磁波W
EMが送信されるときに、受信面RPで受信される電磁波の電力[W]である。電磁波W
EMの入射角度θが45°、60°、及び75°であるそれぞれの場合において、受信面RPは、電磁波シールド1aの外部に存在する線分LSの端点EPを含んでいる。線分LSは、電磁波シールド1aにおける電磁波W
EMの入射点IPから電磁波W
EMの入射方向と平行な方向に第二面12と交差して端点EPまで延びている。下記(I-1)、(I-2)、及び(I-3)において「Log」は常用対数を示す。入射点IPは、例えば、電磁波W
EMのビームの中心に対応する入射点である。電磁波W
EMは、例えば、30mmのビーム径を有する。受信面RPは、端点EPを中心とする線分LSに垂直な直径30mmの円である。端点EPと電磁波シールド1aとの距離は、例えば、100mm以上である。
|10Log(P
R45/P
T45)|≧5.0[dB] (I-1)
|10Log(P
R60/P
T60)|≧5.0[dB] (I-2)
|10Log(P
R75/P
T75)|≧5.0[dB] (I-3)
【0013】
電力PT45、PT60、及びPT75のそれぞれは、上記の通り、送信される電磁波WEMの電力を表す。電力PT45、PT60、及びPT75は、例えば、電磁波シールド1aが設置されていない状態で、電磁波WEMを送信し、受信面RPでその電磁波WEMを受信して測定することも可能である。このため、電力PT45、PT60、及びPT75のそれぞれは、送信される電磁波WEMを直接的に測定した電力でなくてもよい。
【0014】
上記の(I-1)、(I-2)、及び(I-3)からなる群より選ばれる少なくとも1つの条件を電磁波シールド1aが満たすときに、電磁波シールド1aに入射するように送信される電磁波WEMは、特定の種類の電磁波に限定されない。電磁波WEMは、Transverse Magnetic Wave(TM波)であってもよいし、Transverse Electric Wave(TE波)であってもよいし、円偏波であってもよいし、その他の種類の電波であってもよい。例えば、TM波、TE波、及び円偏波からなる群より選択される少なくとも1つの種類の電磁波を電磁波シールド1aに入射させたときに、上記の(I-1)、(I-2)、及び(I-3)からなる群より選ばれる少なくとも1つの条件が満たされうる。
【0015】
上記の通り、電磁波シールド1aの第二面12は、第一面11に向かって入射した電磁波の少なくとも一部を出射させる。しかし、電磁波シールド1aは、上記の(I-1)、(I-2)、及び(I-3)からなる群より選ばれる少なくとも1つの条件を満たすので、斜めに入射する電磁波の遮蔽を実現する観点から有利である。加えて、電磁波シールド1aは、誘電体を含んでいればよく、誘電体以外の材料を含んでいなくても、上記の条件を満たしうる。このため、電磁波シールド1aは、簡素な構成で斜めに入射する電磁波の遮蔽を実現する観点から有利である。本明細書において、電磁波シールドは、電磁波のエネルギーを減衰させる機能を発揮しうる物品である。電磁波シールドが電磁波のエネルギーを減衰させる原理は、特定の原理に限定されない。その原理は、例えば、電磁波と電磁波シールドとの相互作用に伴う反射、透過、吸収、回折、及び干渉等の現象、並びに、これらの現象に起因して生じる電磁波の散乱及び拡散等の現象を利用したものでありうる。
【0016】
電磁波シールド1aは、望ましくは、(I-1)の条件及び(I-2)の条件の両方を満たす。この場合、電磁波シールド1aは、様々な入射角度で斜めに入射する電磁波を遮蔽して、その電磁波の影響が特定領域に及ぶことを防止しやすい。
【0017】
電磁波シールド1aは、例えば、導電性を有する部位を有しない。電磁波の遮蔽のために、例えば、金属膜等の導電性を有する部位によって電磁波を反射させることが考えられる。一方、電磁波シールド1aによれば、導電性を有する部位を有していなくても、上記の(I-1)、(I-2)、及び(I-3)からなる群より選ばれる少なくとも1つの条件を満たされうる。このため、簡素な構成で斜めに入射する電磁波の遮蔽を実現しやすい。電磁波シールド1aは、誘電体のみによって構成されていてもよいし、導電性を有する部位を含んでいてもよい。
【0018】
電磁波シールド1aに含まれる誘電体の比誘電率の虚部ε”は、特定の値に限定されない。例えば、10GHz~300GHzの範囲に含まれる少なくとも1つの周波数fgにおける誘電体の比誘電率の虚部ε”は、0.1以下である。誘電損失を利用して電磁波を減衰させる場合、誘電体の虚部ε”の値が大きいことが望ましいように思われる。一方、電磁波シールド1aによれば、誘電体の比誘電率の虚部ε”が0.1以下と小さくても、電磁波シールド1aにおいて、電磁波シールド1aと電磁波との相互作用に伴い生じる現象を調節することにより、上記の(I-1)、(I-2)、及び(I-3)からなる群より選ばれる少なくとも1つの条件が満たされうる。虚部ε”は、0.05以下であってもよいし、0.01以下であってもよい。
【0019】
電磁波シールド1aに含まれる誘電体の比誘電率の実部ε’は、特定の値に限定されない。例えば、周波数fgにおける誘電体の比誘電率の実部ε’は、2.0~4.0である。このような場合でも、電磁波シールド1aにおいて、電磁波シールド1aと電磁波との相互作用に伴い生じる現象を調整することにより、上記の(I-1)、(I-2)、及び(I-3)からなる群より選ばれる少なくとも1つの条件が満たされうる。実部ε’は、3.8以下であってもよいし、3.6以下であってもよいし、3.4以下であってもよいし、3.2以下であってもよいし、3.0以下であってもよいし、2.8以下であってもよいし、2.6以下であってもよいし、2.4以下であってもよい。
【0020】
電磁波シールド1aに含まれる誘電体は、特定の材料に限定されない。誘電体は、例えば樹脂である。樹脂は、例えば、熱可塑性樹脂である。樹脂は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルアルコール、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、エチレン・酢酸ビニル共重合体、ポリスチレン、アクリロニトリルスチレン、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体、ASA樹脂、AES樹脂、PMMA等のアクリル樹脂、MS樹脂、MBS樹脂、シクロオレフィン樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、液晶ポリマー、EPDM、PPS、PEEK、PPE、ポリサルフォン系樹脂、ポリイミド系樹脂、フッ素系樹脂、オレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)等の熱可塑性エラストマー、又はアクリルエラストマーである。樹脂は、熱硬化性樹脂であってもよい。熱硬化性樹脂は、例えば、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、又はシリコーン樹脂である。誘電体は、単一種類の樹脂のみを含んでいてもよいし、複数種類の樹脂を含んでいてもよい。
【0021】
電磁波シールド1aは、例えば、フィラーを含んでいてもよい。フィラーは、カーボンブラック等の着色材であってもよく、タルク、グラスファイバー、及び鉱物等の無機補強材であってもよく、軟化剤であってもよい。電磁波シールド1aは、難燃剤及び可塑剤等の添加剤を含んでいてもよい。電磁波シールド1aは、フィラーを含んでいなくてもよい。この場合、電磁波シールド1aの製造コストが低くなりやすい。
【0022】
図1A、
図1B、及び
図1Cに示す通り、電磁波シールド1aは、例えば、複数の突出部15を有する。複数の突出部15は、例えば、第二面12とは反対方向に第一面11から突出している。複数の突出部15は、第一面11とは反対方向に第二面12から突出していてもよい。このような構成によれば、電磁波シールド1aが簡素な構成であっても、上記の(I-1)、(I-2)、及び(I-3)からなる群より選ばれる少なくとも1つの条件が満たされやすい。
【0023】
電磁波シールド1aは、例えば、ミリ波レーダ、ミリ波無線通信、及びミリ波センシング等の用途のための電磁波シールドとして使用することができる。電磁波シールド1aが適用された機器は、例えば、自動車及び無線基地局等に使用できる。電磁波シールド1aがミリ波レーダ用である場合、24GHz帯、60GHz帯、76GHz帯、及び79GHz帯からなる群より選ばれる1つの周波数帯のミリ波レーダに電磁波シールド1aを使用できる。なお、電磁波シールド1aは、特定波長の電磁波のみを遮蔽するものではなく、広い波長領域の電磁波を遮蔽してもよいが、特定の波長λの電磁波を「遮蔽対象」として定めて考えることができる。例えば、実質的に照射される電磁波の周波数が76~77GHzである、即ち実質的な照射波長が3.89~3.94mmである車載用ミリ波レーダとともに設置されている電磁波シールドの場合には、中心周波数76.5GHzの波長である3.92mmを、この電磁波シールドの遮蔽対象である波長λとして判断することができる。使用される電磁波の周波数が77~81GHzである、即ち使用電磁波の波長が3.70~3.89mmである車載用ミリ波レーダのための電磁波シールドであると表記されている場合には、中心周波数79GHzの波長である3.79mmを、この電磁波シールドの遮蔽対象である波長λとして判断することができる。使用される電磁波の周波数が24.05~24.25GHzである、即ち使用電磁波の波長が12.36~12.47mmである車載用ミリ波レーダのための電磁波シールドであると表記されている場合には、中心周波数24.15GHzの波長である12.41mmを、この電磁波シールドの遮蔽対象である波長λとして判断することができる。使用される電磁波の周波数が60.0~60.1GHzである、即ち使用電磁波の波長が4.99~5.00mmであるミリ波レーダのための電磁波シールドであると表記されている場合には、中心周波数60.05GHzの波長である4.99mmを、この電磁波シールドの遮蔽対象である波長λとして判断することができる。使用される電磁波の周波数が27~29.5GHzである、即ち使用電磁波の波長が10.16~11.10mmであるミリ波無線のための電磁波シールドであると表記されている場合には、中心周波数28.25GHzの波長である10.61mmを、この電磁波シールドの遮蔽対象である波長λとして判断することができる。電磁波シールドが対応周波数70~90GHz、即ち対応波長が3.33~4.28mmであると表記されて販売等されている場合には、中心周波数80GHzの波長である3.75mmを、この電磁波シールドの遮蔽対象である波長λとして判断することができる。
【0024】
突出部15の突出長さp
iは特定の値に限定されない。突出長さp
iは、突出部15の突出方向における突出部15の寸法である。突出長さp
iを前述の電磁波シールドの遮蔽対象となる特定波長λと対比した場合、複数の突出部15の少なくとも1つの突出長さp
iは、例えば、0.25λ≦p
i≦1.3λの条件を満たす。これにより、電磁波シールド1aに波長λの電磁波が斜めに入射するときに電磁波シールド1aが所望の遮蔽性能を発揮しやすい。
図1Bに示す通り、電磁波シールド1aにおいて、突出部15は第一平面11に垂直な方向に突出している。
【0025】
突出長さpiは、0.30λ以上であってもよいし、0.35λ以上であってもよいし、0.40λ以上であってもよいし、0.45λ以上であってもよいし、0.50λ以上であってもよい。突出長さpiは、1.2λ以下であってもよいし、1.1λ以下であってもよいし、1.0λ以下であってもよいし、0.9λ以下であってもよい。
【0026】
複数の突出部15において、例えば、個数基準で50%以上の突出部15が0.25λ≦pi≦1.3λの条件を満たす。個数基準で60%以上の突出部15が0.25λ≦pi≦1.3λの条件を満たしていてもよい。個数基準で70%以上の突出部15が0.25λ≦pi≦1.3λの条件を満たしていてもよい。個数基準で80%以上の突出部15が0.25λ≦pi≦1.3λの条件を満たしていてもよい。個数基準で90%以上の突出部15が0.25λ≦pi≦1.3λの条件を満たしていてもよい。複数の突出部15の全てが0.25λ≦pi≦1.3λの条件を満たしていてもよい。
【0027】
突出部15の幅wiは特定の値に限定されない。幅wiは、突出部15をその突出方向と反対方向から見たときの突出部15の輪郭をその輪郭に接するように一対の平行な直線で挟んだときにその直線同士の距離が最小になる方向におけるその輪郭の寸法である。幅wiを前述の電磁波シールドの遮蔽対象となる特定波長λと対比した場合、複数の突出部15の少なくとも1つの幅wiは、例えば、0.51λ≦wi≦1.6λの条件を満たす。これにより、電磁波シールド1aに波長λの電磁波が斜めに入射するときに電磁波シールド1aが所望の遮蔽性能を発揮しやすい。
【0028】
幅wiは、0.55λ以上であってもよいし、0.60λ以上であってもよいし、0.65λ以上であってもよいし、0.70λ以上であってもよいし、0.75λ以上であってもよい。幅wiは、1.5λ以下であってもよいし、1.4λ以下であってもよいし、1.3λ以下であってもよいし、1.2λ以下であってもよいし、1.1λ以下であってもよいし、1.0λ以下であってもよい。
【0029】
複数の突出部15において、例えば、個数基準で50%以上の突出部15が0.51λ≦wi≦1.6λの条件を満たす。個数基準で60%以上の突出部15が0.51λ≦wi≦1.6λの条件を満たしていてもよい。個数基準で70%以上の突出部15が0.51λ≦wi≦1.6λの条件を満たしていてもよい。個数基準で80%以上の突出部15が0.51λ≦wi≦1.6λの条件を満たしていてもよい。個数基準で90%以上の突出部15が0.51λ≦wi≦1.6λの条件を満たしていてもよい。複数の突出部15の全てが0.51λ≦wi≦1.6λの条件を満たしていてもよい。
【0030】
突出部15同士の間隔iiは特定の値に限定されない。間隔iiは、第一面11又は第二面12に平行な方向における突出部15同士の最短距離である。間隔iiを前述の電磁波シールドの遮蔽対象となる特定波長λと対比した場合、間隔iiは、例えば、0.51λ≦wi≦1.6λの条件を満たす。これにより、電磁波シールド1aに波長λの電磁波が斜めに入射するときに電磁波シールド1aが所望の遮蔽性能を発揮しやすい。
【0031】
間隔iiは、0.55λ以上であってもよいし、0.60λ以上であってもよいし、0.65λ以上であってもよいし、0.70λ以上であってもよいし、0.75λ以上であってもよい。間隔iiは、1.5λ以下であってもよいし、1.4λ以下であってもよいし、1.3λ以下であってもよい。
【0032】
突出部15の形状は特定の形状に限定されない。突出部15は、例えば、第一面11又は第二面12の平面視において、円形、三角形、四角形、及び5つ以上の角を有する多角形からなる群より選択される少なくとも1つの形状を有する。
図1Cに示す通り、電磁波シールド1aにおいて、突出部15は、例えば、第一面11の平面視において、長方形状である。
【0033】
突出部15は、例えば、円柱、角柱、円錐、角錐、円錐台、及び角錐台からなる群より選ばれる少なくとも1つをなすように形成されている。突出部15は、条をなすように形成されていてもよい。
【0034】
複数の突出部15の配置は特定の配置に限定されない。複数の突出部15は、例えば、第一面11又は第二面12の平面視において、格子点上の配置、平行線上の配置、及びランダムな配置からなる群より選択される少なくとも1つの配置をとる。これにより、電磁波シールド1aに波長λの電磁波が斜めに入射するときに電磁波シールド1aが広い範囲で所望の遮蔽性能を発揮しやすい。格子点とは、平面格子をなす点である。平面格子とは、平面上の点の配列であって、2つの独立な方向へのそれぞれ一定距離の平行移動で不変な配列である。格子点上の配置によれば、複数の突出部15の対応する特定位置が平面格子をなすように複数の突出部15が配置されている。平行線上の配置によれば、複数の突出部15の対応する特定の線状の部位が平行線をなすように複数の突出部15が配置されている。ランダムな配置によれば、複数の突出部15の対応する特定位置又は線状の部位がランダムに配置されている。
図1Cに示す通り、電磁波シールド1aにおいて、突出部15は、第一面11の平面視において、例えば、等間隔で配置された平行線上の配置をとっている。
【0035】
電磁波シールド1aは、例えば、下記(II-1)の条件及び(II-2)の条件からなる群より少なくとも1つの条件を満たす。このような構成によれば、電磁波シールド1aに波長λの電磁波が斜めに入射するときに電磁波シールド1aが広い範囲で所望の遮蔽性能を発揮しやすい。下記条件において、Spは、第一面11又は第二面12を平面視したときの複数の突出部15の面積である。Seは、第一面11の平面視における電磁波シールド1aの全体の面積である。Soは、第二面12の平面視における電磁波シールド1aの全体の面積である。
0.2≦Sp/Se≦0.8 (II-1)
0.2≦Sp/So≦0.8 (II-2)
【0036】
電磁波シールド1aが(II-1)の条件を満たす場合、Sp/Seは、0.25以上であってもよいし、0.30以上であってもよいし、0.35以上であってもよい。加えて、Sp/Seは、0.75以下であってもよいし、0.70以下であってもよいし、0.65以下であってもよいし、0.60以下であってもよい。
【0037】
図1A、
図1B、及び
図1Cに示す通り、電磁波シールド1aにおいて、第一面11及び第二面12は互いに平行である。この場合、第一面11と第二面12との距離d
iは特定の値に限定されない。距離d
iは、例えば、1mm以上3mm以下である。この場合、電磁波シールド1aの成形がしやすい。
【0038】
電磁波シールド1aは、例えば、樹脂成型品である。この場合、電磁波シールド1aの製造コストが低減されやすい。
【0039】
電磁波シールド1aは、様々な観点から変更可能である。電磁波シールド1aは、
図3に示す電磁波シールド1b又は
図4に示す電磁波シールド1cのように変更されてもよい。電磁波シールド1b及び電磁波シールド1cのそれぞれは、特に説明する部分を除き、電磁波シールド1aと同様に構成されている。電磁波シールド1aの構成要素に対応する、電磁波シールド1b及び電磁波シールド1cの構成要素には同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。電磁波シールド1aに関する説明は技術的に矛盾しない限り、電磁波シールド1b及び1cにも当てはまる。
【0040】
図3に示す通り、電磁波シールド1bにおいて、複数の突出部15は、第一面11の平面視において正方形状でありうる。加えて、複数の突出部15は、平行四辺形格子の格子点上の配置をとっている。このような構成によれば、電磁波シールド1bに電磁波が様々な方向から斜めに入射するときに電磁波シールド1bが所望の遮蔽性能を発揮しやすい。
【0041】
図4に示す通り、電磁波シールド1cにおいて、複数の突出部15は、第一面11に平行な方向及び第一面11に垂直な方向から傾斜した方向に沿って突出していてもよい。このような構成によれば、第一面11が斜面をなすように電磁波シールド1cを成形する必要がある場合でも、斜めに入射する電磁波に対して電磁波シールド1cが所望の遮蔽性能を発揮しやすい。
【0042】
電磁波シールド1a、1b、及び1cにおいて、電磁波の遮蔽のために生じる電磁波シールドと電磁波との相互作用は、特定の相互作用に限定されない。電磁波シールド1a、1b、及び1cのそれぞれは、例えば、第一面11に向かって入射された電波の少なくとも一部を透過させ、第二面12から散乱状態の電波を出射させる。換言すると、電磁波シールド1a、1b、及び1cのそれぞれは、電波透過散乱体として機能しうる。これにより、簡素な構成で斜めに入射する電磁波の遮蔽をより実現しやすい。
【0043】
電磁波シールド1a、1b、及び1cのそれぞれは、例えば、0.1%以上の散乱率を有する。散乱率とは、第一面11に向かって電磁波を所定の入射角で入射させたときに出第二面12から出射される直進透過波の強度に対する特定の透過散乱波の強度の比であり、例えば、以下の式(1)に従って決定される。式(1)における透過散乱波の強度は、例えば、(15×k)°の散乱角を有する透過散乱波の強度の和である。散乱角は、直進透過波の出射方向と透過散乱波の出射方向とのなす角である。kは、1からnまでの整数である。例えば、入射角が45°である場合、n=8であり、入射角が60°である場合、n=7であり、入射角が75°である場合、n=6である。
散乱率=透過散乱波の強度/直進透過波の強度 式(1)
【0044】
透過散乱波の強度及び直進透過波の強度は、例えば、第一面11に向かって電磁波を所定の入射角で入射させたときの直進方向における透過減衰量及び所定の散乱角における透過減衰量を、日本産業規格JIS R 1679:2007を参照して測定することによって決定できる。透過減衰量は、以下の式(2)で表される。式(2)において、Piは受信電力であり、P0は送信電力である。|Pi/P0|が透過波の強度に相当する。
透過減衰量=|10Log(Pi/P0)| 式(2)
【0045】
電磁波シールド1a、1b、及び1cのそれぞれの散乱率は、1%以上であってもよく、5%以上であってもよく、10%以上であってもよく、20%以上であってもよく、50%以上であってもよく、100%以上であってもよく、150%以上であってもよく、200%以上であってもよい。
【実施例0046】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明する。ただし、本発明は、以下の実施例に限定されない。
【0047】
[比誘電率]
キーコム社製の電波送受信機EAS02を用いて、2.0mmの厚みのポリプロピレン(PP)製の平板の70~90GHzにおける反射減衰量を、日本産業規格JIS R 1679:2007を参照して、下記に示す手順に従って測定した。
図5Aに示す通り、サンプルホルダSHと、ミリ波レンズLと、送受信機TRとを配置し、サンプルホルダSHにステンレス製の金属板を配置した状態で電波の送受信を行った。金属板は、150mmの直径及び2mmの厚みを有していた。金属板によって電波が全量反射する、反射減衰量が0dBである状態を水準とし、PP樹脂の平板に垂直に電波を入射させたときの反射減衰量の測定の基準とした。金属板の代わりにサンプルホルダSHにPP樹脂の平板を配置して電波の送受信を行い、反射減衰量を測定した。
【0048】
次に、上記のPP樹脂の平板の70~90GHzにおける透過減衰量をJIS R 1679:2007を参照して測定した。この測定において、
図5Bに示す測定系を用いた。
図5Bに示す通り、この測定系において、サンプルホルダSH、ミリ波レンズL、送信器T、及び受信器Rを配置した。送信器Tから送信され、かつ、ミリ波レンズLによって30mmの直径(ビーム径)に調整された電波EがサンプルホルダSHに照射される。サンプルホルダSHには何もセットしない状態で電波Eの送受信を行い、透過減衰量が0dB(電波が全量透過)の状態を各サンプルの面方向に対する垂直入射の透過減衰量測定の基準とした。次に、サンプルホルダSHにPP樹脂の平板をセットした後、この平板に垂直な方向に送信器T及び受信器Rが同一直線上に位置するように、受信器Rを配置した。この状態で、波長λを有する電波Eの送受信を行い、透過減衰量を測定した。透過減衰量は、以下の式(3)で算出される値の絶対値で示される。式(3)において、P
iは受信電力であり、P
0は送信電力である。
|10Log(P
i/P
0)| 式(3)
【0049】
材料のインピーダンスZ、伝播定数γは以下の式(4)及び(5)で表される。式(4)及び(5)において、Z0は、空気のインピーダンスである。μrは材料の比透磁率であり、μr=μr'-jμr'の関係がある。εrは材料の比誘電率であり、εr=εr'-jεr''の関係がある。λは電波の波長である。jは、虚数単位である。
Z=Z0(μr/εr)0.5 式(4)
γ=(j2π/λ)εr
0.5μr
0.5 式(5)
【0050】
対象の厚みをtとしたとき、上記のインピーダンスZ及び伝播定数γから、伝送線路理論により、反射減衰量及び透過減衰量は、以下の式(6)及び(7)で表される。式(6)及び(7)において、A=cosh(γt),B=Zsinh(γt),C=(1/Z)sinh(γt),D=cosh(γt)の関係がある。
透過減衰量(dB)=20Log{2/(A+B/Z0+CZ0+D)} 式(6)
反射減衰量(dB)=20Log{(A+B/Z0-CZ0-D)/(A+B/Z0+CZ0+D) 式(7)
【0051】
比透磁率μr及び比誘電率εrの予想値を式(6)及び(7)へ代入し、得られたZ、γ、及びPP樹脂の平板の厚み2.0mmに基づいて、70~90GHzにおける反射減衰量及び透過減衰量を式(6)及び(7)から算出した。
【0052】
実測値から算出された反射減衰量の曲線と上記の式(4)、(5)、及び(7)から算出された反射減衰量の曲線とに対し、最小二乗法によるカーブフィッティングを行った。加えて、実測値から算出された透過減衰量の曲線と上記の式(4)、(5)、及び(6)から算出された透過減衰量の曲線とに対し、最小二乗法によるカーブフィッティングを行った。このようにして、PPの尤もらしい比誘電率εrを決定した。その結果、PPの比誘電率の実部ε’及び虚部ε”は、それぞれ、2.30及び0.00であった。
【0053】
[電磁界解析]
Ansys社製の電磁界解析ソフトウェアHFSS“Version. 2021R1”を用いて、
図6に示す解析モデルM1の電磁界解析を行った。解析モデルM1において、計算対象空間V1及び計算対象空間V2が定義されている。解析モデルM1において、計算対象空間V1及び計算対象空間V2における電界の強度がマクスウェル方程式を数値的に解くことによって求められた。これらの計算対象空間の内部では有限要素法が適用され、これらの計算対象空間の境界ではモーメント法が適用された。
【0054】
計算対象空間V1には、評価対象S1が存在していた。上記のPPの比誘電率の測定結果に基づいて、評価対象S1の一部の比誘電率の実部ε’及び虚部ε”を、それぞれ、2.30及び0.00に設定した。また、表1~表3に示す通り、比較のために、評価対象S1の別の一部の実部ε’を1.50~1.90に設定した。評価対象S1は、複数の突出部を有する板状であった。評価対象S1は、平面視で1辺の長さが70mmの正方形状であり、かつ、2.5mmの厚みを有する平板の一方の主面から、平面視で平行な直線上に等間隔で配置された突条をなす複数の突出部が形成されていた。各突出部の側面は、平板の一方の主面に垂直であり、上記の平行な直線に平行な平面に対して3°の角度で傾斜しており、突出部の突出方向において窄んでいた。突出部の先端部のコーナーは0.5mmの曲率半径を有するように形成されていた。評価対象S1における突出部の突出長さpi、平板の一方の主面に平行な方向における突出部同士の間隔ii、及び平板の一方の主面と突出部との境界における突出部の幅wiをそれぞれ表1に示すように調整して複数の評価対象S1を作製した。加えて、評価対象S1の一方の主面を平面視した場合にその主面において複数の突出部が存在する領域の全体の面積Seに対する複数の突出部が占める面積Spの比Sp/Seは表1~3に示す通りであった。評価対象S1の他方の主面は平坦であった。
【0055】
評価対象S1に30mmの直径(ビーム径)を有する76.5GHzの周波数(波長λ:約3.919mm)のTM波を評価対象S1の複数の突出部を有する一方の主面又は評価対象S1の平坦な他方の主面に対して45°、60°、及び75°の入射角度で入射させたときの計算対象空間V1及び計算対象空間V2における電界強度を計算した。TM波の電界の振幅方向は、突出部がなす突条の長手方向と平行な成分を有していた。一方、TM波の電界の振幅方向の平板の一方の主面に平行かつ突出部がなす突条の長手方向に垂直な成分はゼロであった。
【0056】
計算対象空間V2は、評価対象S1から離れており、受信面Fが存在していた。受信面Fは、直径30mmの円であり、その円の中心には、評価対象S1におけるTM波の入射点から、他方の主面又は一方の主面と交差しており、かつ、TM波の入射方向に平行に延びている線分の端点が存在していた。受信面Fの中心と評価対象S1との距離は120mmに設定した。上記の線分の評価対象S1の他方の主面との交点を原点と定めた。入射点は、受信面Fの中心及び原点と同一直線上に位置していた。
【0057】
各入射角度θで評価対象S1に入射させたときのTM波の送信電力PTθ[W]及び受信面Fにおける電磁波の受信電力PRθ[W]の計算値に基づいて、下記式(8)から透過減衰量T[dB]を求めた。解析モデルにおいて評価対象が配置されていない状態でTM波が送信されたときに受信面Fで受信される電磁波の電力を送信電力PTθ[W]とみなした。結果を表1~4に示す。表1~3の解析No.2~29、31~58、及び60~81において、評価対象S1の複数の突出部を有する一方の主面にTM波が入射されたときの電界強度が計算された。表4の解析No.82~84において、評価対象S1の平坦な他方の主面にTM波が入射されたときの電界強度が計算された。解析No.82、No.83、及びNo.84の計算対象空間V1における評価対象S1の配置は、それぞれ、解析No.28、No.57、及びNo.81の計算対象空間V1における評価対象S1の配置を180°反転させたものである。
T=|10Log(PRθ/PTθ)| 式(8)
【0058】
評価対象S1の代わりに、
図7に示す評価対象S2を用いた以外は解析モデルM1と同様にして解析モデルM2を作成した。評価対象S2は、平面視で1辺の長さが70mmの正方形状であり、かつ、2.5mmの厚みを有する平板である。評価対象S2の両主面には突出部は存在せず、両主面は平坦である。評価対象S2の比誘電率の実部及び虚部は、それぞれ、2.30及び0.00に設定した。
【0059】
評価対象S1に30mmの直径(ビーム径)を有する76.5GHzの周波数(波長λ:約3.919mm)のTM波を評価対象S2の複数の一方の主面に対して45°、60°、及び75°の入射角度で入射させたときの計算対象空間V1及び計算対象空間V2における電界強度を計算した。各入射角度θで評価対象S2に入射させたときのTM波の送信電力PTθ[W]及び受信面Fにおける電磁波の受信電力PRθ[W]の計算値に基づいて、上記式(8)から透過減衰量T[dB]を求めた。結果を表1~3に示す。表1~3における解析No.1、30、及び59が評価対象S2を含む解析モデルM2の解析条件及び解析結果を示す。
【0060】
表1~3に示す通り、評価対象S2を含む解析モデルM2に関する、解析No.1、30、及び59において、透過減衰量Tは5dB未満であった。加えて、評価対象S1の比誘電率の実部が2.0未満である、解析No.2、10、32、36、38~40において、透過減衰量Tは5dB未満であった。評価対象S1が複数の突出部を有する解析モデルM1において、比誘電率及び突出部の寸法を調整することによって、透過減衰量Tを5dB以上にできることが示唆された。
【0061】
図8Aは、解析No.2~28における透過減衰量Tと比S
p/S
eとの関係を示すグラフである。
図8Bは、解析No.29及び31~57における透過減衰量Tと比S
p/S
eとの関係を示すグラフである。
図8Cは、解析No.58及び60~81における透過減衰量Tと比S
p/S
eとの関係を示すグラフである。
図8A~
図8Cに示す通り、比S
p/S
eが小さいと、透過減衰量Tが大きくなりやすいことが示唆された。
【0062】
本発明の第1側面は、
電磁波シールドであって、
誘電体を含み、
電磁波を入射させるための第一面と、
前記第一面に向かって入射した前記電磁波の少なくとも一部を出射させるための第二面と、を有し、
10GHz~300GHzの範囲に含まれる少なくとも1つの周波数を有する電磁波が45°、60°、及び75°の入射角度で前記第一面に向かって入射するように送信されるときに、下記(I-1)、(I-2)、及び(I-3)からなる群より選ばれる少なくとも1つの第一条件を満たし、
前記第一条件において、
PT45は、前記入射角度が45°であるように送信される前記電磁波の電力[W]であり、
PR45は、前記入射角度が45°であるように前記電磁波が送信されるときに、前記電磁波の前記電磁波シールドにおける入射点から前記電磁波の入射方向と平行な方向に前記第二面と交差して前記電磁波シールドの外部に延びる第一線分の前記外部における端点を含む受信面で受信される電磁波の電力[W]であり、
PT60は、前記入射角度が60°であるように送信される前記電磁波の電力[W]であり、
PR60は、前記入射角度が60°であるように前記電磁波が送信されるときに、前記電磁波の前記電磁波シールドにおける入射点から前記電磁波の入射方向と平行な方向に前記第二面と交差して前記電磁波シールドの外部に延びる第二線分の前記外部における端点を含む受信面で受信される電磁波の電力[W]であり、
PT75は、前記入射角度が75°であるように送信される前記電磁波の電力[W]であり、
PR75は、前記入射角度が75°であるように前記電磁波が送信されるときに、前記電磁波の前記電磁波シールドにおける入射点から前記電磁波の入射方向と平行な方向に前記第二面と交差して前記電磁波シールドの外部に延びる第三線分の前記外部における端点を含む受信面で受信される電磁波の電力[W]である、
電磁波シールドを提供する。
|10Log(PR45/PT45)|≧5.0[dB] (I-1)
|10Log(PR60/PT60)|≧5.0[dB] (I-2)
|10Log(PR75/PT75)|≧5.0[dB] (I-3)
【0063】
本発明の第2側面は、第1側面において、
前記電磁波シールドは、導電性を有する部位を有しない、電磁波シールドを提供する。
【0064】
本発明の第3側面は、第1側面又は第2側面において、
10GHz~300GHzの範囲に含まれる少なくとも1つの周波数における前記誘電体の比誘電率の虚部ε”は、0.1以下である、電磁波シールドを提供する。
【0065】
本発明の第4側面は、第1側面から第3側面のいずれか1つの側面において、
10GHz~300GHzの範囲に含まれる少なくとも1つの周波数における前記誘電体の比誘電率の実部ε’は、2.0~4.0である、電磁波シールドを提供する。
【0066】
本発明の第5側面は、第1側面から第4側面のいずれか1つの側面において、
前記電磁波シールドは、前記(I-1)の条件及び前記(I-2)の条件の両方を満たす、電磁波シールドを提供する。
【0067】
本発明の第6側面は、第1側面から第5側面のいずれか1つの側面において、
前記第二面とは反対方向に前記第一面から突出している、又は、前記第一面とは反対方向に前記第二面から突出している、複数の突出部を有する、電磁波シールドを提供する。
【0068】
本発明の第7側面は、第6側面において、
前記電磁波シールドは、波長λの電磁波を遮蔽対象とし、
前記複数の突出部の少なくとも1つの突出長さpiは、0.25λ≦pi≦1.3λの条件を満たす、
電磁波シールドを提供する。
【0069】
本発明の第8側面は、第6側面又は第7側面において、
前記電磁波シールドは、波長λの電磁波を遮蔽対象とし、
前記複数の突出部の少なくとも1つの幅wiは、0.51λ≦wi≦1.6λの条件を満たす、
電磁波シールドを提供する。
【0070】
本発明の第9側面は、第6側面から第8側面のいずれか1つの側面において、
前記電磁波シールドは、波長λの電磁波を遮蔽対象とし、
前記突出部同士の間隔iiは、0.51λ≦ii≦1.6λの条件を満たす、
電磁波シールドを提供する。
【0071】
本発明の第10側面は、第6側面から第9側面のいずれか1つの側面において、
前記突出部は、前記第一面又は前記第二面の平面視において、円形、三角形、四角形、及び5つ以上の角を有する多角形からなる群より選択される少なくとも1つを有する、
電磁波シールドを提供する。
【0072】
本発明の第11側面は、第10側面において、
前記複数の突出部は、前記第一面又は前記第二面の平面視において、格子点上の配置、平行線上の配置、及びランダムな配置からなる群より選択される少なくとも1つの配置をとる、電磁波シールドを提供する。
【0073】
本発明の第12側面は、第6側面から第11側面のいずれか1つの側面において、
前記電磁波シールドは、下記(II-1)の条件及び(II-2)の条件からなる群より少なくとも1つの第二条件を満たし、
前記第二条件において、
Spは、前記第一面又は前記第二面の平面視したときの前記複数の突出部の面積であり、
Seは、前記第一面の平面視における前記電磁波シールドの全体の面積であり、
Soは、前記第二面の平面視における前記電磁波シールドの全体の面積である、
電磁波シールドを提供する。。
0.2≦Sp/Se≦0.8 (II-1)
0.2≦Sp/So≦0.8 (II-2)
【0074】
【0075】
【0076】
【0077】