(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023183162
(43)【公開日】2023-12-27
(54)【発明の名称】電子写真感光体、プロセスカートリッジ及び電子写真装置
(51)【国際特許分類】
G03G 5/147 20060101AFI20231220BHJP
【FI】
G03G5/147 504
G03G5/147 502
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022096641
(22)【出願日】2022-06-15
(71)【出願人】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100101498
【弁理士】
【氏名又は名称】越智 隆夫
(74)【代理人】
【識別番号】100106183
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 弘司
(74)【代理人】
【識別番号】100136799
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 亜希
(72)【発明者】
【氏名】関谷 道代
(72)【発明者】
【氏名】丸山 晃洋
(72)【発明者】
【氏名】西 将史
(72)【発明者】
【氏名】中川 七海
【テーマコード(参考)】
2H068
【Fターム(参考)】
2H068AA43
2H068AA44
2H068BA16
2H068BA64
2H068BB07
2H068BB29
2H068BB57
2H068EA12
(57)【要約】
【課題】パターンメモリーが抑制された電子写真感光体を提供すること。
【解決手段】支持体、該支持体上に形成された下引き層、及び該下引き層上に形成された感光層を有する電子写真感光体において、該下引き層が、式(1)で示される電子輸送物質と、架橋剤とを含む組成物の重合物を含有し、該架橋剤が、該電子輸送物質が有する重合性官能基の少なくとも1つと結合しうる官能基を有する、電子写真感光体を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体、該支持体上に形成された下引き層、及び該下引き層上に形成された感光層を有する電子写真感光体において、
該下引き層が下記式(1)で示される電子輸送物質と、架橋剤とを含む組成物の重合物を含有し、
該架橋剤が、該電子輸送物質が有する重合性官能基の少なくとも1つと結合しうる官能基を有する、
電子写真感光体。
【化1】
(式(1)中、R
1~R
8はそれぞれ独立に、水素原子、シアノ基、ニトロ基、ハロゲン原子、アルコキシカルボニル基、置換若しくは無置換のアルキル基、又は置換若しくは無置換のアリール基を示す。ただし、少なくともR
2、R
3、R
6、及びR
7のうち少なくとも1つは、シアノ基、ニトロ基、ハロゲン原子、アルコキシカルボニル基、置換若しくは無置換のアルキル基、又は置換若しくは無置換のアリール基を示す。
R
9~R
12はそれぞれ独立に、重合性官能基、無置換のアルキル基、重合性官能基で置換されたアルキル基、重合性官能基以外の基で置換されたアルキル基、重合性官能基及び重合性官能基以外の基で置換されたアルキル基、無置換のアリール基、重合性官能基で置換されたアリール基、重合性官能基以外の基で置換されたアリール基、又は重合性官能基及び重合性官能基以外の基で置換されたアリール基、を示す。
ただしR
9~R
12のうち少なくとも1つは、重合性官能基、重合性官能基で置換されたアルキル基、重合性官能基及び重合性官能基以外の基で置換されたアルキル基、重合性官能基で置換されたアリール基、又は重合性官能基及び重合性官能基以外の基で置換されたアリール基、を示す。)
【請求項2】
前記式(1)中、R2、R3、R6、及びR7のうち少なくとも1つが、ハロゲン原子、炭素数が12以下の置換、又は無置換のアルキル基を示す、請求項1に記載の電子写真感光体。
【請求項3】
前記式(1)中、R2とR7が同一である、請求項2に記載の電子写真感光体。
【請求項4】
前記式(1)中、-CHR9R10で示される基が、-CHR11R12で示される基と同一ではない、請求項1に記載の電子写真感光体。
【請求項5】
前記式(1)中、R9が、重合性官能基を有する炭素数が2以下のアルキル基を示す、請求項1に記載の電子写真感光体。
【請求項6】
前記式(1)中の重合性官能基の少なくとも一つがヒドロキシ基を示す、請求項1に記載の電子写真感光体。
【請求項7】
前記架橋剤が、イソシアネート基若しくはブロックイソシアネート基を有するイソシアネート化合物、又はN-メチロール基若しくはアルキルエーテル化されたN-メチロール基を有するアミン化合物である、請求項1に記載の電子写真感光体。
【請求項8】
前記組成物の前記重合性官能基を有する電子輸送物質(1)の含有量が、42質量%以上70質量%以下である、請求項1に記載の電子写真感光体。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の電子写真感光体を製造する電子写真感光体の製造方法であって、
該製造方法が、
前記式(1)で示される電子輸送物質、及び架橋剤を含有する下引き層用塗布液の塗膜を形成する工程、及び
該塗膜を重合させることによって前記下引き層を形成する工程
を有する、
ことを特徴とする電子写真感光体の製造方法。
【請求項10】
請求項1~8のいずれか1項に記載の電子写真感光体と、帯電手段、現像手段、及びクリーニング手段からなる群より選択される少なくとも1つの手段とを一体に支持し、電子写真装置に着脱自在であるプロセスカートリッジ。
【請求項11】
請求項1~8のいずれか1項に記載の電子写真感光体、帯電手段、露光手段、現像手段、及び転写手段を有する電子写真装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電子写真感光体、該電子写真感光体を有するプロセスカートリッジ及び電子写真装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真プロセスに用いる電子写真感光体において、支持体側から感光層側への電荷注入を抑制し、黒ポチなどの画像欠陥の発生を抑えることを目的として、支持体と感光層との間に電子輸送物質を含有する下引き層を設ける技術が知られている。
特許文献1及び2には、重合性官能基を有する電子輸送物質、架橋剤及び樹脂を含む組成物の硬化物を含有する電子輸送層が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015-092227号公報
【特許文献2】特開2020-020919号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、電子写真プロセスにおいて大量印刷・高速印刷が求められており、電子写真感光体には高い感度、耐久性が求められている。したがって、電荷発生物質は、より高い感度を有するものが用いられている。しかしながら、電荷発生物質が高感度化し、電荷の発生量が多くなることにより、同一の画像を短時間に大量に出力する場合に、露光された部分の電荷が感光層中に滞留しやすいという課題が生じている。
【0005】
本発明者らの検討によると、特許文献1、2に記載の電子写真感光体では、高速での長期間の使用においては、電子搬送能力が足りずパターンメモリーと呼ばれる画像欠陥が発生する場合があることがわかった。パターンメモリーとは、
図1の縦線306が含まれる画像301を大量に連続出力した後、ベタ黒画像302を出力すると、出力したベタ黒画像が、
図1の画像301の縦線306の繰り返し履歴に起因して縦線307が入った画像304となる現象である。
図1の画像301を大量に連続出力した後、ハーフトーン画像303を出力する場合は、ベタ黒画像の場合と同様に、
図1の画像301の縦線306の繰り返し履歴に起因して縦線308が入った画像305となる。
【0006】
したがって、本発明の目的はパターンメモリーが抑制された電子写真感光体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的は以下の本発明によって達成される。即ち、本発明は、支持体、該支持体上に形成された下引き層、及び該下引き層上に形成された感光層を有する電子写真感光体において、該下引き層が、下記式(1)で示される電子輸送物質と、架橋剤とを含む組成物の重合物を含有し、該架橋剤が、該電子輸送物質が有する重合性官能基の少なくとも1つと結合しうる官能基を有する、
電子写真感光体を提供する。
【化1】
(式(1)中、R
1~R
8はそれぞれ独立に、水素原子、シアノ基、ニトロ基、ハロゲン原子、アルコキシカルボニル基、置換若しくは無置換のアルキル基、又は置換若しくは無置換のアリール基を示す。ただし、少なくともR
2、R
3、R
6、及びR
7のうち少なくとも1つは、シアノ基、ニトロ基、ハロゲン原子、アルコキシカルボニル基、置換若しくは無置換のアルキル基、又は置換若しくは無置換のアリール基を示す。
R
9~R
12はそれぞれ独立に、重合性官能基、無置換のアルキル基、重合性官能基で置換されたアルキル基、重合性官能基以外の基で置換されたアルキル基、重合性官能基及び重合性官能基以外の基で置換されたアルキル基、無置換のアリール基、重合性官能基で置換されたアリール基、重合性官能基以外の基で置換されたアリール基、又は重合性官能基及び重合性官能基以外の基で置換されたアリール基、を示す。
ただしR
9~R
12のうち少なくとも1つは、重合性官能基、重合性官能基で置換されたアルキル基、重合性官能基及び重合性官能基以外の基で置換されたアルキル基、重合性官能基で置換されたアリール基、又は重合性官能基及び重合性官能基以外の基で置換されたアリール基、を示す。)
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、高速高耐久においてもパターンメモリーが抑制された電子写真感光体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】電子写真感光体の、高速での長期間の使用における、画像欠陥を説明する図である。
【
図2】電子輸送物質A1-1の1H-NMRスペクトルを示す図である。
【
図3】電子写真感光体を備えたプロセスカートリッジを有する電子写真装置の一例 における概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、好適な実施の形態を挙げて、本発明を詳細に説明する。
本発明者らは、パターンメモリーの更なる改善にむけ、電子輸送材料の移動度をあげることを目的に、π共役性の高いペリレンイミドを高濃度で含有させることを考えた。しかし、高濃度のペリレンイミドで膜形成をさせても十分にその移動度があがらない場合があった。
【0011】
元来ペリレンイミドは剛直な平面構造をとるため、スタックしやすい。このため感光層において、電子輸送材料の比率が高い場合には、ペリレンの平面構造によるスタックが形成されやすい。このため、高濃度のペリレンイミドで膜形成した場合、不均一な膜となり、膜全体として電子輸送材料の移動度の向上を阻害する要因になったと推測した。
【0012】
そこで、一般的に知られているようにベイ位置に置換基を有するペリレンを用いることでスタックしにくくなることを狙った。式(2)にベイ位置に置換基を有するペリレンの構造の例を示す。式(2)中、R
102~R
108R
201、R
202は置換基を示す。ベイ位置とは、式(2)における、R
102、R
103,R
106,R
107の位置を示す。ベイ位置に置換基を有するペリレンを用いたところ式(2)におけるR
201及びR
202の構造によっては必ずしもスタックを抑制する効果が得られないことがわかった。
【化2】
【0013】
更に検討を進めていくと、R201及びR202が分岐構造をとらない場合にベイ位置の置換基のスタックを抑制する効果がなくなることがわかった。これは、ペリレンは、ベイ位置の置換基により平面構造がねじれるが、R201及びR202が分岐構造をとらないとペリレンの平面構造のねじれが低く、スタックが発生したと考えた。
【0014】
そこでベイ位置に置換基を有するペリレンを用いた場合にはR201及びR202を分岐構造にすると、平面構造のねじれを維持でき、高濃度でもスタックされずに適度な距離をとることが可能となった。その結果、均一な膜が形成され、高濃度化の効果を十分に発揮される電子輸送材料の移動度が達成できた。
【0015】
本発明者らは、以上のメカニズムに基づき、鋭意研究の結果、パターンメモリーの抑制を達成するに至った。
即ち、本発明者らは、下記式(1)で示される電子輸送物質、架橋剤とを含む組成物の重合物を含有することを特徴とする下引き層を見出したのである。
【0016】
[電子写真感光体]
本発明の電子写真感光体は、支持体と、下引き層と、感光層とを有する。
本発明の電子写真感光体を製造する方法としては、後述する各層の塗布液を調製し、所望の順番に各層の塗布液を塗布して、乾燥させる方法が挙げられる。このとき、塗布液の塗布方法としては、浸漬塗布、スプレー塗布、インクジェット塗布、ロール塗布、ダイ塗布、ブレード塗布、カーテン塗布、ワイヤーバー塗布、リング塗布などが挙げられる。これらの中でも、効率性及び生産性の観点から、浸漬塗布が好ましい。
以下、各層について説明する。
【0017】
<支持体>
本発明において、電子写真感光体は、支持体を有する。本発明において、支持体は導電性を有する導電性支持体であることが好ましい。また、支持体の形状としては、円筒状、ベルト状、シート状などが挙げられる。中でも、円筒状支持体であることが好ましい。また、支持体の表面に、陽極酸化などの電気化学的な処理や、ブラスト処理、切削処理などを施してもよい。
支持体の材質としては、金属、樹脂、ガラスなどが好ましい。
金属としては、アルミニウム、鉄、ニッケル、銅、金、ステンレスや、これらの合金などが挙げられる。中でも、アルミニウムが好ましく、支持体はアルミニウム製支持体が好ましい。
また、樹脂やガラスには、導電性材料を混合又は被覆するなどの処理によって、導電性を付与してもよい。
【0018】
<導電層>
本発明において、支持体の上に、導電層を設けてもよい。導電層を設けることで、支持体表面の傷や凹凸を隠蔽することや、支持体表面における光の反射を制御することができる。
導電層は、導電性粒子と、樹脂と、を含有することが好ましい。
【0019】
導電性粒子の材質としては、金属酸化物、金属、カーボンブラックなどが挙げられる。
金属酸化物としては、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化インジウム、酸化ケイ素、酸化ジルコニウム、酸化スズ、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化アンチモン、酸化ビスマスなどが挙げられる。金属としては、アルミニウム、ニッケル、鉄、ニクロム、銅、亜鉛、銀などが挙げられる。
これらの中でも、導電性粒子として、金属酸化物を用いることが好ましく、特に、酸化チタン、酸化スズ、酸化亜鉛を用いることがより好ましい。
導電性粒子として金属酸化物を用いる場合、金属酸化物の表面をシランカップリング剤などで処理したり、金属酸化物にリンやアルミニウムなど元素やその酸化物をドーピングしたりしてもよい。
また、導電性粒子は、芯材粒子と、その粒子を被覆する被覆層とを有する積層構成としてもよい。芯材粒子としては、酸化チタン、硫酸バリウム、酸化亜鉛などが挙げられる。被覆層としては、酸化スズなどの金属酸化物が挙げられる。
また、導電性粒子として金属酸化物を用いる場合、その体積平均粒子径が、1nm以上500nm以下であることが好ましく、3nm以上400nm以下であることがより好ましい。
【0020】
樹脂としては、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ポリウレタン樹脂、フェノール樹脂、アルキッド樹脂などが挙げられる。
また、導電層は、シリコーンオイル、樹脂粒子、酸化チタンなどの隠蔽剤などを更に含有してもよい。
【0021】
導電層の平均膜厚は、1μm以上50μm以下であることが好ましく、3μm以上40μm以下であることが特に好ましい。
【0022】
導電層は、上述の各材料及び溶剤を含有する導電層用塗布液を調製し、この塗膜を形成し、乾燥させることで形成することができる。塗布液に用いる溶剤としては、アルコール系溶剤、スルホキシド系溶剤、ケトン系溶剤、エーテル系溶剤、エステル系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤などが挙げられる。導電層用塗布液中で導電性粒子を分散させるための分散方法としては、ペイントシェーカー、サンドミル、ボールミル、液衝突型高速分散機を用いた方法が挙げられる。
【0023】
<下引き層>
本発明において、支持体又は導電層の上に、下引き層を設ける。
本発明において、下引き層は、下記式(1)で示される電子輸送物質、架橋剤を含有する下引き層用塗布液の塗膜を形成し、この塗膜を加熱乾燥させることで、重合させて得られる。加熱乾燥時の温度は、100~200℃の温度であることが好ましい。
以下、電子輸送物質と架橋剤についてそれぞれ説明する。
【0024】
(1)電子輸送物質
本発明に用いられる電子輸送物質は下記式(1)で示される。
【化3】
式(1)中、R
1~R
8はそれぞれ独立に、水素原子、シアノ基、ニトロ基、ハロゲン原子、アルコキシカルボニル基、置換若しくは無置換のアルキル基、置換若しくは無置換のアリール基を示す。ただし、少なくともR
2、R
3、R
6、R
7のうち少なくとも1つは、シアノ基、ニトロ基、ハロゲン原子、アルコキシカルボニル基、置換若しくは無置換のアルキル基、置換若しくは無置換のアリール基を示す。
【0025】
アルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert-ペンチル基、シクロペンチル基、n-ヘキシル基、1-メチルペンチル基、4-メチル-2-ペンチル基、3,3-ジメチルブチル基、2-エチルブチル基、シクロヘキシル基が挙げられる。
アリール基としては、フェニル基、ビフェニリル基、フルオレニル基が挙げられる。
【0026】
置換のアルキル基の置換基は、アリール基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、ヒドロキシ基、スルファニル基、アミノ基、アルコキシカルボニル基、アルコキシ基、カルボキシ基が挙げられる。
【0027】
置換のアリール基の置換基は、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、ヒドロキシ基、スルファニル基、アミノ基、アルキル基、ハロゲン置換アルキル基、アルコキシ基、カルボキシ基が挙げられる。
【0028】
ペリレンイミドの平面構造由来のスタックのしにくさと、均一な膜状態の形成における移動度への影響の理由から、ハロゲン原子、炭素数が12以下の置換若しくは無置換のアルキル基が好ましい。
また、同様の理由から、R2、R7が同一の構造が好ましい。
【0029】
式(1)中、R9~R12はそれぞれ独立に、重合性官能基、無置換のアルキル基、重合性官能基で置換されたアルキル基、重合性官能基以外の基で置換されたアルキル基、重合性官能基及び重合性官能基以外の基で置換されたアルキル基、無置換のアリール基、重合性官能基で置換されたアリール基、重合性官能基以外の基で置換されたアリール基、重合性官能基及び重合性官能基以外の基で置換されたアリール基を示す。
【0030】
均一な膜状態の形成時における移動度への影響の理由から、式(1)中、-CHR9R10が、-CHR11R12と異なる構造であることが好ましい。
【0031】
式(1)中、R9~R12のうち少なくとも1つは、重合性官能基、重合性官能基で置換されたアルキル基、重合性官能基及び重合性官能基以外の基で置換されたアルキル基、重合性官能基で置換されたアリール基、重合性官能基及び重合性官能基以外の基で置換されたアリール基である。
【0032】
均一な膜を形成し電子輸送材料の移動度を十分高くするため、R9が重合性官能基を有するアルキル基であって、重合性官能基を有するアルキル基が炭素数が2以下である構造が好ましい。炭素数が3より大きいと移動度が十分に得られない場合があった。
【0033】
該重合性官能基は、ヒドロキシ基、チオール基、アミノ基、又はカルボキシ基である。均一な膜を形成し電子輸送材料の移動度を十分高くするため、ヒドロキシ基が好ましい。
【0034】
尚、これらの化合物は、主に特開2014-29479号公報に記載されている方法で合成することが可能である。
以下、一般式(1)で示される化合物の具体例を表1、表2に示す。
【0035】
【0036】
【0037】
(2)架橋剤
本発明において、架橋剤は、式(1)で示される電子輸送物質が有する重合性官能基の少なくとも1つと結合しうる官能基を有する。この範囲において、架橋剤として公知の材料をいずれも用いることができる。具体的には、山下晋三,金子東助編「架橋剤ハンドブック」大成社刊(1981年)に記載されている化合物などが挙げられる。
【0038】
架橋剤はイソシアネート基若しくはブロックイソシアネート基を有するイソシアネート化合物、又はN-メチロール基若しくはアルキルエーテル化されたN-メチロール基を有するアミン化合物であることが好ましい。イソシアネート基又はブロックイソシアネート基を2~6個有しているイソシアネート化合物が好ましい。
【0039】
イソシアネート化合物は、例えば、以下に示すイソシアネート化合物が挙げられるが、本発明はこれらに限定されるわけではない。また、イソシアネート化合物は複数組み合わせて使用してもよい。 例えば、トリイソシアネートベンゼン、トリイソシアネートメチルベンゼン、トリフェニルメタントリイソシアネート、リジントリイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネートジフェニルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、メチル-2,6-ジイソシアネートヘキサノエート、ノルボルナンジイソシアネートなどのジイソシアネートのイソシアヌレート変性体、ビウレット変性体、アロファネート変性体、トリメチロールプロパンやペンタエリスリトールとのアダクト変性体が挙げられる。ブロックイソシアネート基は、-NHCOX1(X1は保護基)という構造を有する基である。X1は、イソシアネート基に導入可能な保護基であればいずれでも良い。
【0040】
購入可能なイソシアネート化合物として、例えば、旭化成社製デュラネートMFK-60B、SBA-70B、17B-60P、SBN-70D、SBB-70P、住化バイエルウレタン社製デスモジュールBL3175、BL3475、といったイソシアネート系架橋剤が挙げられる。
【0041】
アミン化合物は、N-メチロール基又はアルキルエーテル化されたN-メチロール基を有することが好ましい。また、N-メチロール基又はアルキルエーテル化されたN-メチロール基を複数個(2個以上)有しているアミン化合物がより好ましい。例えば、メチロール化されたメラミン、メチロール化されたグアナミン、メチロール化された尿素誘導体、メチロール化されたエチレン尿素誘導体、メチロール化されたグリコールウリル及び、メチロール部位がアルキルエーテル化された化合物、及びこれらの誘導体が挙げられる。
【0042】
購入可能なアミン化合物としては、例えば、スーパーメラミNo.90(日油(旧:日本油脂)社製)、スーパーベッカミン(商標)TD-139-60、L-105-60、L127-60、L110-60、J-820-60、G-821-60(DIC社製)、ユーバン2020(三井化学)、スミテックスレジンM-3(住友化学(旧:住友化学工業)社製)、ニカラックMW-30、MW-390、MX-750LM(三和ケミカル社製)、スーパーベッカミン(商標)L-148-55、13-535、L-145-60、TD-126(DIC社製)、ニカラックBL-60、BX-4000(三和ケミカル社製)、ニカラックMX-280、ニカラックMX-270、ニカラックMX-290(三和ケミカル社製)、が挙げられる。
【0043】
本発明の下引き層用の塗布液には電子輸送物質、架橋剤のほかに重合性官能基を有する熱可塑性樹脂を含んでいてもよい。熱可塑性樹脂としては、ポリアセタール樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリアミド樹脂などが挙げられる。重合性官能基としては、ヒドロキシ基、チオール基、アミノ基、カルボキシ基、メトキシ基が挙げられる。
【0044】
更に、-(CH2-CH2-O)n-(nは2以上200以下の整数)又は、-(CH2-(CH3)CH-O)n-(nは2以上200以下の整数)又は、-(CH2-CH2-O-CH2-CH2-S-S)n-(nは2以上50以下の整数)から成る繰り返し単位を有する熱可塑性樹脂が好ましい。
【0045】
重合性官能基を有する熱可塑性樹脂として市販されているものは、例えば、
AQD-457、AQD-473(以上、日本ポリウレタン工業製)、GP-400、GP-700(以上、三洋化成工業製サンニックス製)などのポリエーテルポリオール系樹脂;
フタルキッドW2343(日立化成工業製)、ウォーターゾールS-118、CD-520、ベッコライトM-6402-50、M-6201-40IM(以上、DIC製)、ハリディップWH-1188(ハリマ化成製)、ES3604、ES6538(以上、日本ユピカ製)などのポリエステルポリオール系樹脂;
バーノックWE-300、WE-304(以上、DIC製)などのポリアクリルポリオール系樹脂;
クラレポバールPVA-203(クラレ製)などのポリビニルアルコール系樹脂;
BX-1、BM-1、KS-5(以上、積水化学工業製)などのポリビニルアセタール系樹脂;
トレジンFS-350(ナガセケムテックス製)などのポリアミド系樹脂;
アクアリック(日本触媒製)、ファインレックスSG2000(鉛市製)などのカルボキシ基含有樹脂;
ラッカマイド(DIC製)などのポリアミン樹脂;
QE-340M(東レ製)などのポリチオール樹脂などが挙げられる。これらの中でも重合性官能基を有するポリビニルアセタール系樹脂、重合性官能基を有するポリエステルポリオール系樹脂などが重合性の観点から好ましい。
【0046】
下引き層の膜厚は、0.1μm以上10μm以下が好ましく、0.5μm以上5μm以下がより好ましい。
【0047】
本発明において、下引き層における、電子輸送物質の含有量は、組成物の全質量に対して42質量%以上70質量%以下が好ましい。42質量%以上70質量%以下であると、移動度が速く、パターンメモリーの抑制が高まる。42質量%より少ないと、本発明の効果が十分に得られない場合があり、70質量%より多いと、溶出の発生が生じる場合があり、電子写真特性が十分に得られない場合がある。
【0048】
<感光層>
電子写真感光体の感光層は、主に、(1)積層型感光層と、(2)単層型感光層とに分類される。(1)積層型感光層は、電荷発生物質を含有する電荷発生層と、電荷輸送物質を含有する電荷輸送層と、を有する。(2)単層型感光層は、電荷発生物質と電荷輸送物質を共に含有する感光層を有する。
【0049】
(1)積層型感光層
積層型感光層は、電荷発生層と、電荷輸送層と、を有する。
【0050】
(1-1)電荷発生層
電荷発生層は、電荷発生物質と、樹脂と、を含有することが好ましい。
【0051】
電荷発生物質としては、アゾ顔料、ペリレン顔料、多環キノン顔料、インジゴ顔料、フタロシアニン顔料などが挙げられる。これらの中でも、アゾ顔料、フタロシアニン顔料が好ましい。フタロシアニン顔料の中でも、オキシチタニウムフタロシアニン顔料、クロロガリウムフタロシアニン顔料、ヒドロキシガリウムフタロシアニン顔料が好ましい。
電荷発生層中の電荷発生物質の含有量は、電荷発生層の全質量に対して、40質量%以上85質量%以下であることが好ましく、60質量%以上80質量%以下であることがより好ましい。
【0052】
樹脂としては、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ポリウレタン樹脂、フェノール樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、セルロース樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂などが挙げられる。これらの中でも、ポリビニルブチラール樹脂がより好ましい。
【0053】
また、電荷発生層は、酸化防止剤、紫外線吸収剤などの添加剤を更に含有してもよい。具体的には、ヒンダードフェノール化合物、ヒンダードアミン化合物、硫黄化合物、リン化合物、ベンゾフェノン化合物、などが挙げられる。
【0054】
電荷発生層の平均膜厚は、0.1μm以上1μm以下であることが好ましく、0.15μm以上0.4μm以下であることがより好ましい。
【0055】
電荷発生層は、上述の各材料及び溶剤を含有する電荷発生層用塗布液を調製し、この塗膜を形成し、乾燥させることで形成することができる。塗布液に用いる溶剤としては、アルコール系溶剤、スルホキシド系溶剤、ケトン系溶剤、エーテル系溶剤、エステル系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤などが挙げられる。
【0056】
(1-2)電荷輸送層
電荷輸送層は、電荷輸送物質と、樹脂と、を含有することが好ましい。
【0057】
電荷輸送物質としては、例えば、多環芳香族化合物、複素環化合物、ヒドラゾン化合物、スチリル化合物、エナミン化合物、ベンジジン化合物、トリアリールアミン化合物や、これらの物質から誘導される基を有する樹脂などが挙げられる。これらの中でも、トリアリールアミン化合物、ベンジジン化合物が好ましい。
電荷輸送層中の電荷輸送物質の含有量は、電荷輸送層の全質量に対して、25質量%以上70質量%以下であることが好ましく、30質量%以上55質量%以下であることがより好ましい。
【0058】
樹脂としては、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂などが挙げられる。これらの中でも、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂が好ましい。ポリエステル樹脂としては、特にポリアリレート樹脂が好ましい。
電荷輸送物質と樹脂との含有量比(質量比)は、4:10~20:10が好ましく、5:10~12:10がより好ましい。
【0059】
また、電荷輸送層は、酸化防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤、レベリング剤、滑り性付与剤、耐摩耗性向上剤などの添加剤を含有してもよい。具体的には、ヒンダードフェノール化合物、ヒンダードアミン化合物、硫黄化合物、リン化合物、ベンゾフェノン化合物、シロキサン変性樹脂、シリコーンオイル、フッ素樹脂粒子、ポリスチレン樹脂粒子、ポリエチレン樹脂粒子、シリカ粒子、アルミナ粒子、窒化ホウ素粒子などが挙げられる。
【0060】
電荷輸送層の平均膜厚は、5μm以上50μm以下であることが好ましく、8μm以上40μm以下であることがより好ましく、10μm以上30μm以下であることが特に好ましい。
【0061】
電荷輸送層は、上述の各材料及び溶剤を含有する電荷輸送層用塗布液を調製し、この塗膜を形成し、乾燥させることで形成することができる。塗布液に用いる溶剤としては、アルコール系溶剤、ケトン系溶剤、エーテル系溶剤、エステル系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤が挙げられる。これらの溶剤の中でも、エーテル系溶剤又は芳香族炭化水素系溶剤が好ましい。
【0062】
(2)単層型感光層
単層型感光層は、電荷発生物質、電荷輸送物質、樹脂及び溶剤を含有する感光層用塗布液を調製し、この塗膜を形成し、乾燥させることで形成することができる。電荷発生物質、電荷輸送物質、樹脂としては、上記「(1)積層型感光層」における材料の例示と同様である。
【0063】
<保護層>
本発明において、感光層の上に、保護層を設けてもよい。保護層を設けることで、耐久性を向上することができる。
保護層は、導電性粒子及び/又は電荷輸送物質と、樹脂とを含有することが好ましい。
【0064】
導電性粒子としては、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化インジウムなどの金属酸化物の粒子が挙げられる。
電荷輸送物質としては、多環芳香族化合物、複素環化合物、ヒドラゾン化合物、スチリル化合物、エナミン化合物、ベンジジン化合物、トリアリールアミン化合物や、これらの物質から誘導される基を有する樹脂などが挙げられる。これらの中でも、トリアリールアミン化合物、ベンジジン化合物が好ましい。
【0065】
樹脂としては、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、フェノキシ樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂などが挙げられる。中でも、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂が好ましい。
【0066】
また、保護層は、重合性官能基を有するモノマーを含有する組成物を重合することで硬化膜として形成してもよい。その際の反応としては、熱重合反応、光重合反応、放射線重合反応などが挙げられる。重合性官能基を有するモノマーが有する重合性官能基としては、アクリロイル基、メタクリロイル基などが挙げられる。重合性官能基を有するモノマーとして、電荷輸送能を有する材料を用いてもよい。
【0067】
保護層は、酸化防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤、レベリング剤、滑り性付与剤、耐摩耗性向上剤、などの添加剤を含有してもよい。具体的には、ヒンダードフェノール化合物、ヒンダードアミン化合物、硫黄化合物、リン化合物、ベンゾフェノン化合物、シロキサン変性樹脂、シリコーンオイル、フッ素樹脂粒子、ポリスチレン樹脂粒子、ポリエチレン樹脂粒子、シリカ粒子、アルミナ粒子、窒化ホウ素粒子などが挙げられる。
【0068】
保護層の平均膜厚は、0.5μm以上10μm以下であることが好ましく、1μm以上7μm以下であることが好ましい。
【0069】
保護層は、上述の各材料及び溶剤を含有する保護層用塗布液を調製し、この塗膜を形成し、乾燥及び/又は硬化させることで形成することができる。塗布液に用いる溶剤としては、アルコール系溶剤、ケトン系溶剤、エーテル系溶剤、スルホキシド系溶剤、エステル系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤が挙げられる。
【0070】
[プロセスカートリッジ、電子写真装置]
本発明のプロセスカートリッジは、これまで述べてきた電子写真感光体と、帯電手段、現像手段、転写手段及びクリーニング手段からなる群より選択される少なくとも1つの手段とを一体に支持し、電子写真装置本体に着脱自在であることを特徴とする。
【0071】
また、本発明の電子写真装置は、これまで述べてきた電子写真感光体、帯電手段、露光手段、現像手段及び転写手段を有することを特徴とする。
【0072】
図3に、電子写真感光体を備えたプロセスカートリッジを有する電子写真装置の概略構成の一例を示す。
1は円筒状の電子写真感光体であり、軸2を中心に矢印方向に所定の周速度で回転駆動される。電子写真感光体1の表面は、帯電手段3により、正又は負の所定電位に帯電される。尚、図においては、ローラ型帯電部材によるローラ帯電方式を示しているが、コロナ帯電方式、近接帯電方式、注入帯電方式などの帯電方式を採用してもよい。帯電された電子写真感光体1の表面には、露光手段(不図示)から露光光4が照射され、目的の画像情報に対応した静電潜像が形成される。電子写真感光体1の表面に形成された静電潜像は、現像手段5内に収容されたトナーで現像され、電子写真感光体1の表面にはトナー像が形成される。電子写真感光体1の表面に形成されたトナー像は、転写手段6により、転写材7に転写される。トナー像が転写された転写材7は、定着手段8へ搬送され、トナー像の定着処理を受け、電子写真装置の外へプリントアウトされる。電子写真装置は、転写後の電子写真感光体1の表面に残ったトナーなどの付着物を除去するための、クリーニング手段9を有していてもよい。また、クリーニング手段を別途設けず、上記付着物を現像手段などで除去する、所謂、クリーナーレスシステムを用いてもよい。電子写真装置は、電子写真感光体1の表面を、前露光手段(不図示)からの前露光光10により除電処理する除電機構を有していてもよい。また、本発明のプロセスカートリッジ11を電子写真装置本体に着脱するために、レールなどの案内手段12を設けてもよい。
【0073】
本発明の電子写真感光体は、レーザービームプリンター、LEDプリンター、複写機、ファクシミリ、及びこれらの複合機などに用いることができる。
【0074】
[製造方法]
本発明における電子写真感光体の製造方法は、式(1)で示される電子輸送物質、及び架橋剤を含有する下引き層用塗布液の塗膜を形成する工程、及び該塗膜を重合させることによって前記下引き層を形成する工程を有する。塗布液に用いる溶剤としては、アルコール系溶剤、ケトン系溶剤、エーテル系溶剤、エステル系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤が挙げられる。下引き層を形成する工程においては、塗膜を加熱乾燥させることで、重合させて下引き層を形成する。加熱乾燥時の温度は、100~200℃の温度であることが好ましい。
【実施例0075】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明を更に詳細に説明する。本発明は、その要旨を超えない限り、下記の実施例によって何ら限定されるものではない。尚、以下の実施例の記載において、「部」とあるのは特に断りのない限り質量基準である。
まず、上記式(1)で示されるペリレンイミド化合物(電子輸送物質)の合成例を示す。
【0076】
[電子輸送物質(A01)の合成例]
ジメチルアセトアミド200部に、窒素雰囲気下で、1,7-ジブロモ-3,4,9,10-ペリレンテトラカルボン酸二無水物(東京化成工業(株)製)7.4部、及びL-(+)-ロイシノール(東京化成工業(株)製)5.0部を加え、室温で1時間撹拌し、溶液を調製した。溶液を調製後、8時間還流を行い、析出物を濾別し、酢酸エチルで再結晶を行い、電子輸送物質(A01)を10.0部得た。
この化合物の同定はNMRによって行い、目的物を確認した(
図2)。
NMRスペクトルの測定は、次の条件でおこなった。
使用測定器:JMN-EX400 (JEOL社製)
溶媒:重クロロホルム(CDCl3)
【0077】
[実施例1]
[電子写真感光体の製造]
【0078】
<支持体>
長さ260.5mm、直径30mmのアルミニウムシリンダーを用意した。このアルミニウムシリンダーに対して切削加工(JIS B 0601:2014、十点平均粗さRzjis:0.8μm)を行い、加工後のアルミニウムシリンダーを支持体(導電性支持体)として用いた。
【0079】
<下引き層>
次に電子輸送物質として例示化合物(A01)を3部、イソシアネート化合物としてブロックされたイソシアネート化合物(商品名:SBB-70P、固形分70%、イソシアネート:ブロック基=6.7:3.3(質量比)、旭化成製)6.49部、樹脂としてスチレン-アクリル樹脂(商品名:UC-3920、東亞合成製)0.40部を、1-ブタノール48部とアセトン24部の混合溶媒に溶解した。得られた下引き層用塗布液を支持体上に浸漬塗布し、得られた塗膜を170℃40分間加熱し、硬化(重合)させることによって、膜厚1.5μmの下引き層を形成した。
【0080】
<電荷発生層>
次に、CuKα特性X線回折におけるブラッグ角(2θ±0.2°)の7.5°、9.9°、12.5°、16.3°、18.6°、25.1°及び28.3°にピークを有する結晶形のヒドロキシガリウムフタロシアニン結晶(電荷発生物質)を用意した。このヒドロキシガリウムフタロシアニン結晶10部、ポリビニルブチラール樹脂(商品名:エスレックBX-1、積水化学工業(株)製)5部及びシクロヘキサノン250部を、直径1mmのガラスビーズを用いたサンドミルに入れ、2時間分散処理した。次に、これに酢酸エチル250部を加えることによって、電荷発生層用塗布液を調製した。この電荷発生層用塗布液を、下引き層上に浸漬塗布して塗膜を形成し、得られた塗膜を10分間温度95℃で乾燥することによって、膜厚が0.15μmの電荷発生層を形成した。
【0081】
<電荷輸送層>
電荷輸送物質として、下記式(B-1)で示される電荷輸送物質5部、
【化4】
下記式(B-2)で示される電荷輸送物質化合物5部、
【化5】
ポリカーボネート(商品名:ユーピロンZ-400、三菱エンジニアリングプラスチックス製)10部をオルトキシレン25部/安息香酸メチル25部/ジメトキシメタン25部の混合溶剤に溶解させることによって、電荷輸送層用塗布液を調製した。
このようにして調製した電荷輸送層用塗布液を上述の電荷発生層上に浸漬塗布して塗膜を形成し、塗膜を温度120℃で30分間加熱乾燥することにより、膜厚が25μmの電荷輸送層を形成した。
【0082】
[評価]
パターンメモリーの評価は、ヒューレットパッカード製のレーザービームプリンター(商品名:Laser Jet Enterprise M609dn)を用意し、前露光をなくし、プロセススピード200mm/sに変更をした。
【0083】
パターンメモリーの評価は以下のように行った。製造した電子写真感光体を、上記ヒューレットパッカード社製のレーザービームプリンターに装着した。これを低温低湿(15℃/10%RH)環境下に設置し、3ドット100スペースの縦線パターンの画像を20枚繰り返し連続出力し、ベタ黒の画像及びハーフトーン画像上を出力した。その後印字率3%の画像を200000枚繰り返し連続出力し、初期と同様に、3ドット100スペースの縦線パターンの画像を20枚繰り返し連続出力し、ベタ黒の画像及びハーフトーン画像を出力した。これらの出力画像上の上記縦線の履歴を起因とする縦スジの見え方により、パターンメモリーの発生の度合いを、5つにランク分けし表3に示した。パターンメモリーが良好なものほど、ランクの数字が大きい。尚、ハーフトーン画像とは、1ドット桂馬パターンのハーフトーンである。本発明においては、3~5ランクのものを本発明の効果が得られたものとする。
【表3】
結果を表4に示す。
【0084】
[実施例2~27]
実施例1の電子輸送物質を表4に示す電子輸送物質に変更した以外は実施例1と同様にして電子写真感光体を製造し、同様に評価した。結果を表4に示す。
【0085】
[実施例28~32]
実施例1の電子輸送物質量、架橋剤量、樹脂量を表4に示すように変更した以外は実施例1と同様にして電子写真感光体を製造し、同様に評価した。結果を表4に示す。
【0086】
[実施例33]
実施例1の電子輸送物質を表4に示す電子輸送物質に変更し、架橋剤量、樹脂量を表4に示すように変更した以外は実施例1と同様にして電子写真感光体を製造し、同様に評価した。結果を表4に示す。
【0087】
[実施例34]
実施例1の下引き層用塗布液を以下のように調製した以外は実施例1と同様にして電子写真感光体を作製し評価した。結果を表4に示す。
【0088】
下引き層用塗布液
電子輸送物質(A01) 6.8部、
アミノ化合物として下記化合物(C-1)1.4部、
【化6】
樹脂としてスチレン-アクリル樹脂(商品名:UC-3920、東亞合成製)1.8部、
触媒としてのドデシルベンゼンスルホン酸0.1部
を、ジメチルアセトアミド100部とメチルエチルケトン100部の混合溶媒に溶解し、下引き層用塗布液を調製した。この下引き層用塗布液を支持体上に浸漬塗布し、得られた塗膜を40分間160℃で加熱し、乾燥することによって、膜厚が1.50μmの下引き層を形成した。
電子輸送物質、架橋剤及び樹脂を含む組成物の全質量に対する電子輸送物質の含有量は68質量%であった。
【0089】
[実施例35、36]
実施例34の電子輸送物質(A01)を、電子輸送物質(A05)、(A21)に変更した以外は実施例34と同様にして電子写真感光体を作製し評価した。結果を、表4に示す。
【0090】
[実施例37]
支持体及び導電層を以下のように作製し、導電層上に実施例1と同様な下引き層、電荷発生層、電荷輸送層を作製し評価した。結果を、表4に示す。
【0091】
<支持体>
直径30mm、長さ260.5mmのアルミニウムシリンダーを支持体(円筒状支持体)とした。
【0092】
<導電層>
基体として、一次粒径の平均が200nmのアナターゼ型酸化チタンを使用し、チタンをTiO2換算で33.7部、ニオブをNb2O5換算で2.9部含有するチタンニオブ硫酸溶液を調製した。基体100部を純水に分散して1000部の懸濁液とし、60℃に加温した。チタンニオブ硫酸溶液と10mol/L水酸化ナトリウムとを懸濁液のpHが2~3になるよう3時間かけて滴下した。全量滴下後、pHを中性付近に調整し、ポリアクリルアミド系凝集剤を添加して固形分を沈降させた。上澄みを除去し、ろ過及び洗浄し、110℃で乾燥し、凝集剤由来の有機物をC換算で0.1wt%含有する中間体を得た。この中間体を窒素中750℃で1時間焼成を行った後、空気中450℃で焼成して、酸化チタン粒子を作製した。得られた粒子は前述の走査電子顕微鏡を用いた粒径測定方法において、平均粒径(平均一次粒径)220nmであった。
続いて、結着材料としてのフェノール樹脂(フェノール樹脂のモノマー/オリゴマー)(商品名:プライオーフェンJ-325、DIC製、樹脂固形分:60%、硬化後の密度:1.3g/cm2)50部を、溶剤としての1-メトキシ-2-プロパノール35部に溶解させて溶液を得た。
この溶液に酸化チタン粒子1を60部加え、これを分散媒体として平均粒径1.0mmのガラスビーズ120部を用いた縦型サンドミルに入れ、分散液温度23±3℃、回転数1500rpm(周速5.5m/s)の条件で4時間分散処理を行い、分散液を得た。この分散液からメッシュでガラスビーズを取り除いた。ガラスビーズを取り除いた後の分散液に、レベリング剤としてシリコーンオイル(商品名:SH28 PAINT ADDITIVE、東レ・ダウコーニング製)0.01部、及び表面粗さ付与材としてシリコーン樹脂粒子(商品名:KMP-590、信越化学工業製、平均粒径:2μm、密度:1.3g/cm3)8部を添加して攪拌し、PTFE濾紙(商品名:PF060、アドバンテック東洋製)を用いて加圧ろ過することによって、導電層用塗布液を調製した。
このようにして調整した導電層用塗布液を上述の支持体上に浸漬塗布して塗膜を形成し、塗膜を150℃で20分間加熱し硬化させることにより、膜厚が25μmの導電層を形成した。
【0093】
[比較例1]
実施例30の電子輸送物質(A01)を、電子輸送物質(D01)に変更した以外は実施例30と同様にして電子写真感光体を作製し評価した。結果を、表4に示す。
【化7】
【0094】
[比較例2]
実施例30の電子輸送物質(A01)を、電子輸送物質(D02)に変更した以外は実施例30と同様にして電子写真感光体を作製し評価した。結果を、表4に示す。
【化8】
【0095】
[比較例3]
実施例30の電子輸送物質(A01)を、電子輸送物質(D03)に変更した以外は実施例30と同様にして電子写真感光体を作製し評価した。結果を、表4に示す。
【化9】
【0096】
【0097】
本発明は以下の構成及び方法を含む。
(構成1)
支持体、該支持体上に形成された下引き層、及び該下引き層上に形成された感光層を有する電子写真感光体において、
該下引き層が下記式(1)で示される電子輸送物質と、架橋剤とを含む組成物の重合物を含有し、
該架橋剤が、該電子輸送物質が有する重合性官能基の少なくとも1つと結合しうる官能基を有する、
電子写真感光体。
【化10】
(式(1)中、R
1~R
8はそれぞれ独立に、水素原子、シアノ基、ニトロ基、ハロゲン原子、アルコキシカルボニル基、置換若しくは無置換のアルキル基、又は置換若しくは無置換のアリール基を示す。ただし、少なくともR
2、R
3、R
6、及びR
7のうち少なくとも1つは、シアノ基、ニトロ基、ハロゲン原子、アルコキシカルボニル基、置換若しくは無置換のアルキル基、又は置換若しくは無置換のアリール基を示す。
R
9~R
12はそれぞれ独立に、重合性官能基、無置換のアルキル基、重合性官能基で置換されたアルキル基、重合性官能基以外の基で置換されたアルキル基、重合性官能基及び重合性官能基以外の基で置換されたアルキル基、無置換のアリール基、重合性官能基で置換されたアリール基、重合性官能基以外の基で置換されたアリール基、又は重合性官能基及び重合性官能基以外の基で置換されたアリール基、を示す。
ただしR
9~R
12のうち少なくとも1つは、重合性官能基、重合性官能基で置換されたアルキル基、重合性官能基及び重合性官能基以外の基で置換されたアルキル基、重合性官能基で置換されたアリール基、又は重合性官能基及び重合性官能基以外の基で置換されたアリール基、を示す。)
(構成2)
前記式(1)中、R
2、R
3、R
6、及びR
7のうち少なくとも一つが、ハロゲン原子、炭素数が12以下の置換若しくは無置換のアルキル基を示す、構成1に記載の電子写真感光体。
(構成3)
前記式(1)中、R
2とR
7が同一である、構成1又は構成2に記載の電子写真感光体。
(構成4)
前記式(1)中、-CHR
9R
10で示される基が、-CHR
11R
12で示される基と同一ではない、構成1から3のいずれかに記載の電子写真感光体。
(構成5)
前記式(1)中、R
9が重合性官能基を有する炭素数が2以下のアルキル基を示す、構成1から4のいずれかに記載の電子写真感光体。
(構成6)
前記式(1)中の重合性官能基の少なくとも一つがヒドロキシ基を示す、構成1から5のいずれかに記載の電子写真感光体。
(構成7)
前記架橋剤が、イソシアネート基若しくはブロックイソシアネート基を有するイソシアネート化合物、又はN-メチロール基若しくはアルキルエーテル化されたN-メチロール基を有するアミン化合物である、構成1から6のいずれかに記載の電子写真感光体。
(構成8)
前記組成物の前記重合性官能基を有する電子輸送物質(1)の含有量が、42質量%以上70質量%以下である、構成1から7のいずれかに記載の電子写真感光体。
(構成9)
構成1から8のいずれか1の構成に記載の電子写真感光体と、帯電手段、現像手段、及びクリーニング手段からなる群より選択される少なくとも1つの手段とを一体に支持し、電子写真装置に着脱自在であるプロセスカートリッジ。
(構成10)
構成1から8のいずれか1の構成に記載の電子写真感光体、帯電手段、露光手段、現像手段、及び転写手段を有する電子写真装置。
(方法1)
前記式(1)で示される電子輸送物質、及び架橋剤を含有する下引き層用塗布液の塗膜を形成する工程、及び該塗膜を重合させることによって前記下引き層を形成する工程を有する、構成1から8のいずれかに記載の電子写真感光体の製造方法。