(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023183172
(43)【公開日】2023-12-27
(54)【発明の名称】車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
F02D 17/00 20060101AFI20231220BHJP
F02D 41/04 20060101ALI20231220BHJP
B60K 6/445 20071001ALI20231220BHJP
B60W 10/06 20060101ALI20231220BHJP
B60W 10/08 20060101ALI20231220BHJP
B60W 20/16 20160101ALI20231220BHJP
【FI】
F02D17/00 B
F02D41/04
B60K6/445 ZHV
B60W10/06 900
B60W10/08 900
B60W20/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022096654
(22)【出願日】2022-06-15
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】池田 悠人
(72)【発明者】
【氏名】杉山 亮太
(72)【発明者】
【氏名】後藤 嵩允
【テーマコード(参考)】
3D202
3G092
3G301
【Fターム(参考)】
3D202AA03
3D202BB09
3D202BB11
3D202BB53
3D202CC47
3D202DD18
3D202DD19
3D202DD22
3D202DD24
3G092AA06
3G092AA14
3G092AC02
3G092BB06
3G092CA08
3G092FA07
3G092HA01Z
3G092HD01Z
3G092HD05Z
3G092HD08Z
3G092HE03Z
3G092HE08Z
3G092HF08Z
3G092HF21Z
3G092HF26Z
3G301HA04
3G301HA07
3G301JA11
3G301MA18
3G301PA01Z
3G301PD02Z
3G301PD11Z
3G301PD14Z
3G301PE01Z
3G301PE03Z
3G301PE08Z
3G301PF01Z
3G301PF03Z
3G301PF05Z
(57)【要約】
【課題】停止指示が燃料噴射開始時期に間に合うようにできる車両の制御装置を提供する。
【解決手段】車両の制御装置は、2つの停止対象気筒に対する燃料供給を停止させる停止処理を実行する(S26)。制御装置は、停止対象気筒のうち、燃料供給を停止させる停止指示の対象となる1つの気筒を選択する選択処理を実行する(S22)。選択処理は、停止対象気筒のうち最も早く圧縮上死点が出現する気筒を選択する処理である。停止指示の対象となる気筒が選択されてから、停止指示の対象となる気筒が、停止対象気筒のうちの次の気筒に切り替わるまでのクランク角度間隔が停止可能角度間隔である。選択した気筒に対する停止指示は、燃料噴射開始時期よりも前であって、かつ、停止可能角度間隔において受理される。制御装置は、停止可能角度間隔に燃料噴射開始時期が含まれるように、燃料噴射開始時期を遅角する遅角処理を実行する(S20)。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の気筒を有する内燃機関を備えた車両の制御装置であって、
処理回路を備え、前記複数の気筒のうち2つ以上の気筒に対する燃料供給を停止させるとともに残りの1つ以上の気筒には燃料を供給する停止処理を実行するように構成され、
膨張行程の開始から圧縮行程の終了までの動作が燃焼サイクルであり、前記複数の気筒の各々は、前記複数の気筒において圧縮上死点が順次出現するように、前記燃焼サイクルを繰り返し実行するように構成され、
前記処理回路は、燃料供給を停止させる停止対象気筒のいずれかにおいて圧縮上死点が出現する度に、前記停止対象気筒のうち、燃料供給を停止させる停止指示の対象となる1つの気筒を選択する選択処理を前記停止処理よりも前において実行するように構成され、
前記選択処理は、前記選択処理の実行時点で前記停止対象気筒のうち最も早く圧縮上死点が出現する気筒を選択する処理であり、
前記停止指示の対象となる気筒が選択されてから、前記停止指示の対象となる気筒が、前記停止対象気筒のうちの次の気筒に切り替わるまでのクランク角度間隔が停止可能角度間隔であり、
選択した前記気筒に対する前記停止指示は、前記燃焼サイクル中において、燃料噴射開始時期よりも前であって、かつ、前記停止可能角度間隔において受理され、
前記処理回路は、前記停止可能角度間隔に前記燃料噴射開始時期が含まれるように、前記燃料噴射開始時期を遅角する遅角処理を実行するように構成されている、車両の制御装置。
【請求項2】
前記内燃機関は、前記複数の気筒のそれぞれに接続された複数の吸気ポートと、前記複数の吸気ポートにそれぞれ設けられた複数のポート噴射弁と、前記複数の気筒のそれぞれに設けられた複数の筒内噴射弁と、を備え、前記複数のポート噴射弁の各々は、前記複数の吸気ポートのうちの対応する吸気ポートに燃料を噴射するポート噴射を実行するように構成され、前記複数の筒内噴射弁の各々は、前記複数の気筒のうちの対応する気筒の中に燃料を噴射する筒内噴射を実行するように構成され、
前記処理回路は、前記停止対象気筒における燃料噴射態様をポート噴射態様から筒内噴射態様に変更することによって、前記遅角処理を実行するように構成されている、
請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項3】
前記内燃機関は、前記複数の気筒のそれぞれに接続された複数の吸気ポートと、前記複数の吸気ポートにそれぞれ設けられた複数のポート噴射弁と、を備え、前記複数のポート噴射弁の各々は、前記複数の吸気ポートのうちの対応する吸気ポートに燃料を噴射するポート噴射を実行するように構成され、
前記処理回路は、前記停止対象気筒における前記ポート噴射の噴射開始時期を遅角することによって、前記遅角処理を実行するように構成されている、
請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項4】
前記車両は、モータジェネレータを備え、前記処理回路は、前記内燃機関及び前記モータジェネレータが協同して前記車両に要求される出力トルクを生成するよう、前記内燃機関及び前記モータジェネレータを制御するように構成され、
前記処理回路は、前記停止処理とともに、前記停止処理によって生じる前記内燃機関の出力トルクの低下を、前記モータジェネレータを通じて補償する補償処理を実行するように構成されている、
請求項1~3のいずれか一項に記載の車両の制御装置。
【請求項5】
前記複数の気筒の数は6つであり、
前記停止処理は、前記複数の気筒のうちの2つの気筒である前記停止対象気筒に対する燃料供給を停止させるとともに残りの4つの気筒には燃料を供給する処理であり、
前記停止対象気筒の一方における圧縮上死点の到来タイミングは、前記停止対象気筒の他方における圧縮上死点の到来タイミングから、クランク角度で360度分離れており、
前記選択処理は、前記クランク角度で360度分毎に、前記停止対象気筒のうち、燃料供給を停止させる停止指示の対象となる1つの気筒を交互に選択する処理であり、
前記遅角処理は、圧縮上死点の到来タイミングよりも前記クランク角度で360度分前のタイミングから、圧縮上死点の到来タイミングまでの前記停止可能角度間隔に前記燃料噴射開始時期が含まれるように、前記燃料噴射開始時期を遅角する処理である、
請求項1~3のいずれか一項に記載の車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、複数の気筒を備えるエンジンと、モータジェネレータとを備えるハイブリッド車両が開示されている。このハイブリッド車両には、複数の気筒から排出された排気を浄化する排気浄化装置が設けられている。排気浄化装置の触媒は、活性化温度において排気浄化能力を発揮する。そのため、特許文献1に開示されているハイブリッド車両では、触媒の温度が低いときには、触媒を活性化温度まで温める触媒暖機を行う。
【0003】
特許文献1に開示されている制御装置は、触媒暖機が必要なときに、エンジンの複数の気筒のうち一部の気筒への燃料供給を停止させる一方で残りの気筒には燃料を供給する停止処理を実行する。これにより、燃料供給が停止されている気筒を通じて排気浄化装置に酸素が供給されるようになる。そして、触媒での酸化反応が促進されて触媒の温度が上昇する。こうして制御装置は、停止処理による酸素供給を実行することによって触媒暖機を促進することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図1は、6つの気筒#1~#6を備えたV型6気筒エンジンを示している。前から順に6つの気筒#1~#6が並んでいる。気筒#1、#3、#5が右バンクを構成する。気筒#2、#4、#6が左バンクを構成する。
【0006】
図2は、6つの気筒#1~#6のカウンタCNTを示している。カウンタCNTの0~720度は、燃焼サイクルに対応する。カウンタCNTの0~180度は、膨張行程に対応する。カウンタCNTの180~360度は、排気行程に対応する。カウンタCNTの360~540度は、吸気行程に対応する。カウンタCNTの540~720度は、圧縮行程に対応する。カウンタCNTの720度は、圧縮上死点に対応する。
図2に示すように、6つの気筒#1~#6において、この順で燃焼が行われる。燃焼が行われる角度間隔は、120度(=720度/6)である。
【0007】
V型6気筒エンジンにおいて上記の停止処理を実行する場合、2つの対向気筒への燃料供給を停止させる一方で残りの気筒には燃料を供給することが考えられる。対向気筒の一方における圧縮上死点の到来タイミングは、対向気筒の他方における圧縮上死点の到来タイミングから、クランク角度で360度分離れている。2つの対向気筒とは、例えば、気筒#2と気筒#5である。上述したように6つの気筒#1~#6において、この順で燃焼が行われる。このため、2つの対向気筒への燃料供給を停止させることは、エンジン全体で見て等間隔に燃焼を停止することを意味する。したがって、不等間隔に燃焼を停止する構成と比較して、エンジンからの出力の変動を抑えることが可能である。
【0008】
エンジンの制御装置が、気筒#2及び#5への燃料供給を停止しようとする場合について説明する。気筒#2への燃料供給を停止するか否かの判定は、気筒#2において圧縮上死点が出現する直前において行える構成が好ましい。これにより、気筒#2において圧縮上死点が出現する時点よりも少し前に、気筒#2への燃料供給を停止する要求が発生した場合でも、係る要求に即座に応じることができる。同様に、気筒#5への燃料供給を停止するか否かの判定は、気筒#5において圧縮上死点が出現する直前において行うことが好ましい。
【0009】
制御装置は、気筒#2及び#5のうち、現時点から見て先に圧縮上死点が出現する方に対する燃料の供給を停止する指示のみを行うことができる。
図3における時刻T11から時刻T12まで、時刻T13から時刻T14までは、制御装置は、気筒#5に対する燃料の供給を停止する指示のみを行うことができる。時刻T12から時刻T13まで、時刻T14から時刻T15までは、制御装置は、気筒#2に対する燃料の供給を停止する指示のみを行うことができる。これにより、制御装置が気筒#2に対する燃料の供給を停止する指示及び#5に対する燃料の供給を停止する指示を並列的に行い得る構成と比較して演算負荷を抑えることができる。
【0010】
ここで、気筒#1~#6の各々において圧縮上死点に対応するクランク角度よりも540度前のクランク角度においてポート噴射が行われている状況から、停止処理を開始しようとする状況を想定する。ポート噴射は、気筒#1~#6に接続された吸気通路に設けられたポート噴射弁を通じて行われ得る。
図3において、下向きの矢印でポート噴射における燃料噴射開始時期を示している。
【0011】
エンジンの制御装置が、気筒#2及び#5への燃料供給を停止しようとする場合、次に説明するように停止処理を実行することができない。上述したように時刻T12から時刻T13までは、制御装置は、気筒#2に対する燃料の供給を停止する指示のみを行うことができる。しかしながら、時刻T13で圧縮上死点が出現する際の気筒#2に対する供給分について、時刻T11から時刻T12の間に既にポート噴射が行われている。すなわち、気筒#2に対する燃料の供給は既に行われているため、時刻T12から時刻T13までの期間において気筒#2に対する燃料の供給を停止する指示を行っても、気筒#2に対する燃料の供給を停止することができない。上述したように時刻T13から時刻T14までは、制御装置は、気筒#5に対する燃料の供給を停止する指示のみを行うことができる。しかしながら、時刻T14で圧縮上死点が出現する際の気筒#5に対する供給分について、時刻T12から時刻T13の間に既にポート噴射が行われている。このため、気筒#5に対しても同様に燃料の供給を停止することができない。
【0012】
このように、燃焼サイクル中において、燃料の供給を停止する指示を行うことができる期間よりも前に、燃料噴射開始時期が到来する場合、燃料供給の停止ができない。
【課題を解決するための手段】
【0013】
以下、上記課題を解決するための手段及びその作用効果について記載する。
本開示の一態様によれば、複数の気筒を有する内燃機関を備えた車両の制御装置であって、処理回路を備え、前記複数の気筒のうち2つ以上の気筒に対する燃料供給を停止させるとともに残りの1つ以上の気筒には燃料を供給する停止処理を実行するように構成され、膨張行程の開始から圧縮行程の終了までの動作が燃焼サイクルであり、前記複数の気筒の各々は、前記複数の気筒において圧縮上死点が順次出現するように、前記燃焼サイクルを繰り返し実行するように構成され、前記処理回路は、燃料供給を停止させる停止対象気筒のいずれかにおいて圧縮上死点が出現する度に、前記停止対象気筒のうち、燃料供給を停止させる停止指示の対象となる1つの気筒を選択する選択処理を前記停止処理よりも前において実行するように構成され、前記選択処理は、前記選択処理の実行時点で前記停止対象気筒のうち最も早く圧縮上死点が出現する気筒を選択する処理であり、前記停止指示の対象となる気筒が選択されてから、前記停止指示の対象となる気筒が、前記停止対象気筒のうちの次の気筒に切り替わるまでのクランク角度間隔が停止可能角度間隔であり、選択した前記気筒に対する前記停止指示は、前記燃焼サイクル中において、燃料噴射開始時期よりも前であって、かつ、前記停止可能角度間隔において受理され、前記処理回路は、前記停止可能角度間隔に前記燃料噴射開始時期が含まれるように、前記燃料噴射開始時期を遅角する遅角処理を実行するように構成されている、車両の制御装置が提供される。
【0014】
燃焼サイクル中において、燃料噴射開始時期が、停止可能角度間隔よりも前である場合、停止指示は受理されない。上記構成によれば、処理回路は、停止可能角度間隔に燃料噴射開始時期が含まれるように、燃料噴射開始時期を遅角する遅角処理を実行する。このため、停止可能角度間隔において、燃料噴射開始時期よりも前の区間が存在する。停止指示が当該区間において受理される。停止指示が当該区間において受理されることにより、当該区間において燃料供給を停止できる。すなわち、燃焼サイクル中において、停止可能角度間隔よりも前に、燃料噴射開始時期が到来することにより燃料供給の停止ができない構成に対して、遅角処理を実行することで、燃料供給停止が可能となる。
【0015】
前記内燃機関は、前記複数の気筒のそれぞれに接続された複数の吸気ポートと、前記複数の吸気ポートにそれぞれ設けられた複数のポート噴射弁と、前記複数の気筒のそれぞれに設けられた複数の筒内噴射弁と、を備え、前記複数のポート噴射弁の各々は、前記複数の吸気ポートのうちの対応する吸気ポートに燃料を噴射するポート噴射を実行するように構成され、前記複数の筒内噴射弁の各々は、前記複数の気筒のうちの対応する気筒の中に燃料を噴射する筒内噴射を実行するように構成され、前記処理回路は、前記停止対象気筒における燃料噴射態様をポート噴射態様から筒内噴射態様に変更することによって、前記遅角処理を実行するように構成されていてもよい。
【0016】
ポート噴射は、圧縮行程の開始よりも前に行う必要がある。これに対し、筒内噴射は、圧縮行程の開始後に行うことが可能である。上記構成によれば、処理回路は、燃料噴射態様をポート噴射態様から筒内噴射態様に変更することによって、遅角処理を実行する。このため、ポート噴射の噴射開始時期を、ポート噴射態様に維持しつつ、遅角する構成と比較して大幅に噴射開始時期を遅角できる。したがって、停止指示が受理される区間を大きくできる。
【0017】
前記内燃機関は、前記複数の気筒のそれぞれに接続された複数の吸気ポートと、前記複数の吸気ポートにそれぞれ設けられた複数のポート噴射弁と、を備え、前記複数のポート噴射弁の各々は、前記複数の吸気ポートのうちの対応する吸気ポートに燃料を噴射するポート噴射を実行するように構成され、前記処理回路は、前記停止対象気筒における前記ポート噴射の噴射開始時期を遅角することによって、前記遅角処理を実行するように構成されていてもよい。
【0018】
内燃機関がポート噴射弁を備えているが、筒内噴射弁を備えていない構成において、停止指示が受理される区間を生成できる。内燃機関がポート噴射弁と筒内噴射弁とを備えている構成において、ポート噴射態様を維持したままでも、停止指示が受理される区間を生成できる。
【0019】
前記車両は、モータジェネレータを備え、前記処理回路は、前記内燃機関及び前記モータジェネレータが協同して前記車両に要求される出力トルクを生成するよう、前記内燃機関及び前記モータジェネレータを制御するように構成され、前記処理回路は、前記停止処理とともに、前記停止処理によって生じる前記内燃機関の出力トルクの低下を、前記モータジェネレータを通じて補償する補償処理を実行するように構成されていてもよい。
【0020】
上記構成によれば、モータジェネレータが、停止処理によって生じる内燃機関の出力トルクの低下を補償する。このため、車両の出力トルクの変動を抑制できる。
前記複数の気筒の数は6つであり、前記停止処理は、前記複数の気筒のうちの2つの気筒である前記停止対象気筒に対する燃料供給を停止させるとともに残りの4つの気筒には燃料を供給する処理であり、前記停止対象気筒の一方における圧縮上死点の到来タイミングは、前記停止対象気筒の他方における圧縮上死点の到来タイミングから、クランク角度で360度分離れており、前記選択処理は、前記クランク角度で360度分毎に、前記停止対象気筒のうち、燃料供給を停止させる停止指示の対象となる1つの気筒を交互に選択する処理であり、前記遅角処理は、圧縮上死点の到来タイミングよりも前記クランク角度で360度分前のタイミングから、圧縮上死点の到来タイミングまでの前記停止可能角度間隔に前記燃料噴射開始時期が含まれるように、前記燃料噴射開始時期を遅角する処理であってもよい。
【0021】
上記構成によれば、6気筒を有する内燃機関において遅角処理を行うことで2つの対向気筒への燃料供給を停止させることができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は、6気筒を有する内燃機関を示す図である。
【
図2】
図2は、
図1の6気筒において行われる燃焼を説明するタイムチャートであり、(a)~(f)は、それぞれ気筒#1~#6のカウンタの推移を示している。
【
図3】
図3は、
図1の気筒#2及び気筒#5において行われる燃焼を説明するタイムチャートであり、(a)、(b)は、それぞれ気筒#2、#5のカウンタの推移を示している。
【
図5】
図5は、
図4の車両が備える内燃機関を説明する図である。
【
図6】
図6は、再生処理の流れを示すフローチャートである。
【
図7】
図7は、各種の状態の推移を示すタイミングチャートであり、(a)は気筒#2のカウンタCNTの推移、(b)は気筒#5のカウンタCNTの推移、(c)はフラグFの推移を示している。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、一実施形態に係る車両の制御装置について、図面を参照して説明する。
<車両の構成について>
図4に示すように、内燃機関(以下、エンジンと記載する)10は、6つの気筒#1~#6を備える。気筒#1、#3、#5が右バンクを構成する。気筒#2、#4、#6が左バンクを構成する。以降、右バンクに対応する部材の参照符号の末尾をRとして説明する。左バンクに対応する部材の参照符号の末尾をLとして説明する。
図5に示すように、エンジン10はシリンダブロック11及びシリンダヘッド15R、15Lを有する。シリンダブロック11及びシリンダヘッド15R、15L内に各種部品が配置されている。
図5は、右バンクを構成する3つの気筒#1、#3、#5のうちの1つである気筒#1と、左バンクを構成する3つの気筒#2、#4、#6のうちの1つである気筒#2とを示している。
図4に示すように、エンジン10の吸気通路12には、スロットルバルブ14が設けられている。
図5に示すように、吸気通路12の下流部分である吸気ポート12R、12Lには、吸気ポート12R、12Lに燃料を噴射するポート噴射弁16R、16Lがそれぞれ設けられている。詳しくは、エンジン10は、複数の気筒#1、#3、#5のそれぞれに接続された複数の吸気ポート12Rにそれぞれ設けられた複数のポート噴射弁16Rを備える。エンジン10は、複数の気筒#2、#4、#6のそれぞれに接続された複数の吸気ポート12Lにそれぞれ設けられた複数のポート噴射弁16Lを備える。複数のポート噴射弁16R、16Lの各々は、複数の吸気ポート12R、12Lのうちの対応する1つに燃料を噴射するポート噴射を実行する。吸気通路12に吸入された空気やポート噴射弁16Rから噴射された燃料は、吸気バルブ18Rの開弁に伴って燃焼室20Rに流入する。吸気通路12に吸入された空気やポート噴射弁16Lから噴射された燃料は、吸気バルブ18Lの開弁に伴って燃焼室20Lに流入する。エンジン10は、複数の気筒#1、#3、#5のそれぞれに設けられた複数の筒内噴射弁22Rを備える。エンジン10は、複数の気筒#2、#4、#6のそれぞれに設けられた複数の筒内噴射弁22Lを備える。複数の筒内噴射弁22R、22Lの各々は、複数の気筒#1~#6のうちの対応する1つの中に燃料を噴射する筒内噴射を実行する。すなわち、筒内噴射弁22R、22Lから燃焼室20R、20L内に燃料が噴射される。また、燃焼室20R、20L内の空気と燃料との混合気は、点火プラグ24R、24Lの火花放電に伴って燃焼に供される。
【0024】
混合気が燃焼されるときに生成される燃焼エネルギは、次に説明するようにクランク軸26の回転エネルギに変換される。ピストン13Rが気筒#1、#3、#5の各々の内部において往復動作可能である。ピストン13Rは、コネクティングロッド13aRを介して、クランク軸26のクランクピン26aに連結されている。ピストン13Lが気筒#2、#4、#6の各々の内部において往復動作可能である。ピストン13Lは、コネクティングロッド13aLを介して、クランク軸26のクランクピン26aに連結されている。ピストン13L、13Rが往復動作することにより、クランク軸26が回転する。
【0025】
燃焼室20Rにおいて燃焼に供された混合気は、排気バルブ28Rの開弁に伴って、排気として排気通路30Rに排出される。燃焼室20Lにおいて燃焼に供された混合気は、排気バルブ28Lの開弁に伴って、排気として排気通路30Lに排出される。
図4に示すように、排気通路30Rには、排気浄化装置として、酸素吸蔵能力を有した三元触媒32Rと、ガソリンパティキュレートフィルタ(GPF34R)とが設けられている。排気通路30Lには、排気浄化装置として、酸素吸蔵能力を有した三元触媒32Lと、ガソリンパティキュレートフィルタ(GPF34L)とが設けられている。なお、GPF34R、34Lは、PMを捕集するフィルタに三元触媒が担持されたものである。
【0026】
クランク軸26には、歯部42が設けられたクランクロータ40が結合されている。クランクロータ40には、基本的には、10度毎に歯部42が32個設けられている。そのため、クランクロータ40には、歯部42が2つ足りない分、隣接する歯部42の間隔が広くなっている欠け歯部44が1箇所設けられている。これは、クランク軸26の基準となる回転角度を示すためのものである。
【0027】
クランク軸26は、動力分割装置を構成する遊星歯車機構50のキャリアCに機械的に連結されている。遊星歯車機構50のサンギアSには、第1モータジェネレータ52の回転軸52aが機械的に連結されている。また、遊星歯車機構50のリングギアRには、第2モータジェネレータ54の回転軸54aと駆動輪60とが機械的に連結されている。第1モータジェネレータ52の端子には、インバータ56によって交流電圧が印加される。また、第2モータジェネレータ54の端子には、インバータ58によって交流電圧が印加される。
【0028】
<制御装置500について>
制御装置500は、エンジン10、第1モータジェネレータ52及び第2モータジェネレータ54を制御する。制御装置500は、エンジン10を制御するエンジンコントロールユニット110を備えている。また、制御装置500は、第1モータジェネレータ52及び第2モータジェネレータ54を制御するモータコントロールユニット130を備えている。さらに制御装置500は、エンジンコントロールユニット110及びモータコントロールユニット130に接続されて車両の制御を統括する統括コントロールユニット100を備えている。なお、これらのコントロールユニットは、CPU、ROM、RAM、及び入出力インターフェース等を有する所謂マイクロコンピュータを含む。各コントロールユニットは、RAMの一時記憶機能を利用しつつROMに予め記憶されたプログラムに従って信号処理を行う。
【0029】
この制御装置500は、エンジン10、第1モータジェネレータ52及び第2モータジェネレータ54を制御する。すなわち、制御装置500は、車両のパワートレーンを制御する。制御装置500は、エンジン10及び第1モータジェネレータ52及び第2モータジェネレータ54が協同して車両に要求される出力トルクを生成するよう、エンジン10及び第1モータジェネレータ52及び第2モータジェネレータ54を制御する。制御装置500は、車両の各部に設けられたセンサの検出信号が入力されている。
【0030】
エンジンコントロールユニット110は、エンジン10の制御量であるトルクや排気成分比率等を制御するためにエンジン10の操作部を操作する。エンジン10の操作部は、例えば、スロットルバルブ14、ポート噴射弁16R、16L、筒内噴射弁22R、22L、及び点火プラグ24R、24Lである。
【0031】
また、モータコントロールユニット130は、第1モータジェネレータ52の制御量である回転速度を制御するためにインバータ56を操作する。また、モータコントロールユニット130は、第2モータジェネレータ54の制御量であるトルクを制御するためにインバータ58を操作する。
【0032】
図4及び
図5には、スロットルバルブ14、ポート噴射弁16R、16L、筒内噴射弁22R、22L、点火プラグ24R、24L、及びインバータ56、58のそれぞれの操作信号MS1~MS6を記載している。エンジンコントロールユニット110は、エンジン10の制御量を制御するために、エアフローメータ80によって検出される吸入空気量Gaを参照する。また、エンジンコントロールユニット110は、クランク角センサ82の出力信号Scr、水温センサ86によって検出される水温THWも参照する。エンジンコントロールユニット110は、排気圧センサ88Rによって検出されるGPF34Rに流入する排気の圧力PexRも参照する。エンジンコントロールユニット110は、排気圧センサ88Lによって検出されるGPF34Lに流入する排気の圧力PexLも参照する。また、モータコントロールユニット130は、第1モータジェネレータ52の制御量を制御するために、第1モータジェネレータ52の回転角を検知する第1回転角センサ90の出力信号Sm1を参照する。モータコントロールユニット130は、第2モータジェネレータ54の制御量を制御するために、第2モータジェネレータ54の回転角を検知する第2回転角センサ92の出力信号Sm2を参照する。
【0033】
エンジンコントロールユニット110とモータコントロールユニット130は、それぞれ通信線で統括コントロールユニット100に接続されている。そして、統括コントロールユニット100とモータコントロールユニット130とエンジンコントロールユニット110とのそれぞれが、CAN通信によってセンサから入力された検出信号に基づく情報や算出した情報を相互にやり取りし、共有している。
【0034】
統括コントロールユニット100には、アクセルポジションセンサ101と、ブレーキセンサ102と、車速センサ103とが接続されている。アクセルポジションセンサ101は、アクセル開度を検出する。ブレーキセンサ102は、ブレーキの操作量を検出する。車速センサ103は、車両の速度である車速を検出する。
【0035】
また、排気通路30R、30Lには、空燃比センサ81R、81Lが設けられている。空燃比センサ81R、81Lはエンジンコントロールユニット110に接続されている。空燃比センサ81R、81Lは、空燃比を検出する。
【0036】
また、エンジンコントロールユニット110には、排気通路30Rにおける三元触媒32RとGPF34Rとの間の排気の温度を検出する上流側温度センサ87Rが接続されている。エンジンコントロールユニット110には、排気通路30Lにおける三元触媒32LとGPF34Lとの間の排気の温度を検出する上流側温度センサ87Lが接続されている。また、エンジンコントロールユニット110には、GPF34Rよりも下流側の排気の温度を検出する下流側温度センサ89Rも接続されている。エンジンコントロールユニット110には、GPF34Lよりも下流側の排気の温度を検出する下流側温度センサ89Lも接続されている。
【0037】
エンジンコントロールユニット110は、機関負荷率KL及び機関回転速度NE、そして、これら上流側温度センサ87R、87L及び下流側温度センサ89R、89Lによって検出される排気の温度に基づいて触媒温度とGPF温度を推定する。触媒温度は三元触媒32R、32Lの温度である。一方、GPF温度はGPF34R、34Lの温度である。
【0038】
また、エンジンコントロールユニット110は、クランク角センサ82の出力信号Scrが入力された回数を計数してクランク角に相当する値であるカウンタCNTを算出する。カウンタCNTの値は、クランク角に対応していて、大きいほどクランク角が大きいことを示す値である。そして、720度、すなわち0度に相当する値になると、再び「0」にリセットされる。なお、カウンタCNTが「0」のクランク角は、圧縮上死点におけるクランク角である。
【0039】
<燃料噴射態様について>
エンジンコントロールユニット110は、機関負荷率KL及び機関回転速度NEに応じて、エンジン10における燃料噴射態様を変更する。例えば、エンジン10は、高負荷域では筒内噴射弁22R、22Lによる燃料噴射である筒内噴射のみによって燃料を供給する。エンジン10は、低負荷域ではポート噴射弁16R、16Lによる燃料噴射であるポート噴射のみによって燃料を供給する。また、エンジン10は、ポート噴射と筒内噴射とによって燃料を供給することもある。この場合、エンジンコントロールユニット110は、機関負荷率KL及び機関回転速度NEに応じてポート噴射と筒内噴射の割合を変更する。エンジン10は、こうして燃焼に適した混合気の形成を図っている。
【0040】
なお、機関回転速度NEは、エンジンコントロールユニット110により、出力信号Scrに基づき算出される。また、機関負荷率KLは、エンジンコントロールユニット110により、吸入空気量Ga及び機関回転速度NEに基づき算出される。
【0041】
<再生処理について>
図6に、エンジンコントロールユニット110が実行する再生処理にかかるルーチンにおける処理手順を示す。以下では、エンジン10においてポート噴射を行っており、かつ、後述のフラグFが0である状況から、フラグFが1に変化した場合を想定して説明する。
図6に示すルーチンは、メモリに記憶されたプログラムをエンジンコントロールユニット110が例えば所定周期で繰り返し実行することにより実現される。なお、以下では、先頭に「S」が付与された数字によって、各処理のステップ番号を表現する。
【0042】
図6に示すルーチンにおいて、エンジンコントロールユニット110は、まず、機関回転速度NE、機関負荷率KL及び水温THWを取得する(S10)。次にエンジンコントロールユニット110は、機関回転速度NE、機関負荷率KL及び水温THWに基づき、堆積量DPMの更新量ΔDPMを算出する(S12)。ここで、堆積量DPMは、GPF34R、34Lに捕集されているPMの量である。詳しくは、エンジンコントロールユニット110は、機関回転速度NE、機関負荷率KL及び水温THWに基づき排気通路30R、30Lに排出される排気中のPMの量を算出する。そしてエンジンコントロールユニット110は、排気中のPMの量やGPF温度に基づき更新量ΔDPMを算出する。
【0043】
次にエンジンコントロールユニット110は、堆積量DPMに更新量ΔDPMを加算することによって堆積量DPMを更新する(S14)。次に、エンジンコントロールユニット110は、フラグFが「1」であるか否かを判定する(S16)。フラグFは、「1」である場合に、GPF34R、34LのPMを燃焼除去するための再生処理を実行していることを示す。一方でフラグFは、「0」である場合に再生処理を実行していないことを示す。エンジンコントロールユニット110は、フラグFが「0」であると判定する場合(S16:NO)、堆積量DPMが再生実行値DPMH以上であるか否かを判定する(S18)。再生実行値DPMHは、堆積量DPMが再生実行値DPMH以上であることに基づいて、PMを除去する必要がある状態であることを判定するための閾値である。
【0044】
エンジンコントロールユニット110は、再生実行値DPMH以上であると判定する場合(S18:YES)、S20に進む。エンジンコントロールユニット110は、S20において、遅角処理を実行するとともにフラグFに「1」を代入する。遅角処理とは、後述の停止可能角度間隔に燃料噴射開始時期が含まれるように、燃料噴射開始時期を遅角する処理である。エンジンコントロールユニット110は、全ての気筒#1~#6の燃料噴射態様をポート噴射態様から筒内噴射態様に変更することによって、遅角処理を実行する。遅角処理については、
図7を参照しつつ後述する。
図7は、膨張行程の終了時点(180度)においてポート噴射を行う態様から、圧縮行程の開始時点(540度)において筒内噴射を行う態様への切り替えを示している。遅角処理とは、係る切り替えを意味する。
【0045】
エンジンコントロールユニット110は、S20の遅角処理を実行した後、S22に進む。エンジンコントロールユニット110は、S22において選択処理を実行する。選択処理は、停止対象気筒である気筒#2及び気筒#5のいずれかにおいて圧縮上死点が出現する度に、停止対象気筒のうち、燃料供給を停止させる停止指示の対象となる1つの気筒を選択する処理である。選択処理は、選択処理の実行時点で停止対象気筒である気筒#2及び気筒#5のうち最も早く圧縮上死点が出現する気筒を選択する処理である。本実施形態では、停止対象気筒の一方における圧縮上死点の到来タイミングは、停止対象気筒の他方における圧縮上死点の到来タイミングから、クランク角度で360度分離れている。このため、選択処理は、クランク角度で360度分毎に、停止対象気筒のうち、燃料供給を停止させる停止指示の対象となる1つの気筒を交互に選択する処理である。
図6に示すように、エンジンコントロールユニット110は、後述の停止処理よりも前において選択処理を実行している。
【0046】
エンジンコントロールユニット110は、S22の選択処理の実行後、S24に進む。エンジンコントロールユニット110は、S24において、再生処理の実行条件が成立するか否かを判定する。ここで実行条件は、以下の条件(A)~条件(D)の論理積が真である旨の条件とすればよい。
【0047】
条件(A):エンジン10に対するトルクの指令値である機関トルク指令値Te*が所定値Teth以上である旨の条件。
条件(B):機関回転速度NEが所定速度以上である旨の条件。
【0048】
条件(C):S28のMG2トルク補償処理を実行できる旨の条件。
条件(D):気筒#2及び気筒#5のうち停止指示の対象となる選択された気筒の燃焼サイクルにおいて、現時点が燃料噴射開始時期よりも前である旨の条件。
【0049】
条件(D)について、ここで説明する。複数の気筒#1~#6の各々は、複数の気筒#1~#6において圧縮上死点が順次出現するように、燃焼サイクルを繰り返し実行する。ここで、膨張行程の開始から圧縮行程の終了までの動作が燃焼サイクルである。停止指示の対象となる気筒が選択されてから、停止指示の対象となる気筒が、停止対象気筒のうちの次の気筒に切り替わるまでのクランク角度間隔が停止可能角度間隔である。選択した気筒に対する停止指示は、燃焼サイクル中において、燃料噴射開始時期よりも前であって、かつ、停止可能角度間隔において受理される。条件(D)は、係る要件を満たすか否かに関する条件である。
【0050】
エンジンコントロールユニット110は、論理積が真であると判定する場合(S24:YES)には、S26に進む。エンジンコントロールユニット110は、S26において停止処理を実行する。エンジンコントロールユニット110は、停止指示の対象となる選択された気筒に対して停止指示を行う。そして、エンジンコントロールユニット110は気筒#1、#3、#4、#6における混合気の空燃比を理論空燃比よりもリッチとする。すなわち、再生処理は、停止対象気筒である気筒#2、#5に対する燃料供給を停止させるとともに残りの気筒#1、#3、#4、#6には燃料を供給する停止処理を含む。この処理は、排気通路30R、30Lに酸素と未燃燃料とを排出することによってGPF34R、34Lの温度を上昇させてGPF34R、34Lが捕集したPMを燃焼除去するための処理である。すなわち、エンジンコントロールユニット110は、排気通路30R、30Lに酸素と未燃燃料を排出することによって三元触媒32R、32L等において未燃燃料を燃焼させ排気の温度を上昇させる。これにより、GPF34R、34Lの温度を上昇させることができる。また、GPF34R、34Lに酸素を供給することによってGPF34R、34Lが捕集したPMを燃焼除去することができる。
【0051】
エンジンコントロールユニット110は、モータコントロールユニット130に対して、気筒#2又は気筒#5の燃焼制御の停止に起因したエンジン10のクランク軸26のトルク変動を補償する処理を要求する(S28)。この要求を受けたモータコントロールユニット130は、第2モータジェネレータ54に対する走行のための要求トルクに、補償トルクを重畳する。そして、モータコントロールユニット130は、補償トルクが重畳された要求トルクに基づきインバータ58を操作する。このように、制御装置500は、停止処理とともに、停止処理によって生じるエンジン10の出力トルクの低下を、第2モータジェネレータ54を通じて補償する補償処理を実行する。
【0052】
なお、このMG2トルク補償処理を実行できる旨の条件(C)は、第2モータジェネレータ54に異常が生じていないこと、MG2トルク補償処理を実行するのに必要な電力がバッテリに蓄えられていることなどである。条件(C)は、さらに、エンジンコントロールユニット110とモータコントロールユニット130との間の通信に要する時間が確保されていることを含んでいてもよい。条件(C)は、モータコントロールユニット130の制御周期に起因して生じる制御の遅れを考慮して設定されていてもよい。
【0053】
一方、エンジンコントロールユニット110は、フラグFが「1」であると判定する場合(S16:YES)、S30に進む。エンジンコントロールユニット110は、S30において、堆積量DPMが停止用閾値DPML以下であるか否かを判定する。停止用閾値DPMLは、堆積量DPMが停止用閾値DPML以下であることに基づいて再生処理を停止させてもよい旨を判定するための閾値である。停止用閾値DPMLは、再生実行値DPMHよりも小さい。エンジンコントロールユニット110は、堆積量DPMが停止用閾値DPML以下となる場合(S30:YES)、S32に進む。エンジンコントロールユニット110は、S32において、再生処理を終了するとともにフラグFに「0」を代入する。エンジンコントロールユニット110は、次いでS34に進む。エンジンコントロールユニット110は、S34において、噴射時期設定処理を行う。噴射時期設定処理は、S20で設定した燃料噴射開始時期が燃焼に最適ではない場合、燃料噴射開始時期を最適化する処理である。例えば、燃料噴射開始時期が進角される。
【0054】
エンジンコントロールユニット110は、堆積量DPMが停止用閾値DPMLよりも大きい場合(S30:NO)、S22に進む。エンジンコントロールユニット110は、上述したようにS22及びS22よりも後の処理を実行する。
【0055】
なお、エンジンコントロールユニット110は、S28、S34の処理を完了する場合や、S18、S24の処理において否定判定する場合には、
図6に示すルーチンを一旦終了する。
【0056】
<本実施形態の作用>
図7を参照して、本実施形態の作用について説明する。
上述したように、再生処理は、停止対象気筒である気筒#2、#5に対する燃料供給を停止させるとともに残りの気筒#1、#3、#4、#6には燃料を供給する停止処理を含む。気筒#2、#5は、対向気筒と称される。対向気筒の一方における圧縮上死点の到来タイミングは、対向気筒の他方における圧縮上死点の到来タイミングから、クランク角度で360度分離れている。上述したように6つの気筒#1~#6において、この順で燃焼が行われる。
【0057】
S22の選択処理に関して上述したように、エンジンコントロールユニット110は、気筒#2及び気筒#5のうち、現時点から見て先に圧縮上死点が出現する方に対する燃料の供給を停止する指示のみを行うことができる。
図7における時刻T21から時刻T22まで、時刻T24から時刻T25までは、エンジンコントロールユニット110は、気筒#5に対する燃料の供給を停止する指示のみを行うことができる。時刻T21から時刻T22までの期間に相当するクランク角度間隔は、気筒#5に関する停止可能角度間隔である。同様に、時刻T24から時刻T25までの期間に相当するクランク角度間隔は、気筒#5に関する停止可能角度間隔である。時刻T22から時刻T24まで、時刻T25から時刻T26までは、エンジンコントロールユニット110は、気筒#2に対する燃料の供給を停止する指示のみを行うことができる。時刻T22から時刻T24までの期間に相当するクランク角度間隔は、気筒#2に関する停止可能角度間隔である。同様に、時刻T25から時刻T26までの期間に相当するクランク角度間隔は、気筒#2に関する停止可能角度間隔である。このように、停止可能角度間隔とは、圧縮上死点の到来タイミングよりもクランク角度で360度分前のタイミングから、圧縮上死点の到来タイミングまでの間隔である。
【0058】
ここで、気筒#1~#6の各々において圧縮上死点に対応するクランク角度よりも540度前のクランク角度においてポート噴射が行われている状況から、停止処理を開始しようとする状況を想定する。ポート噴射は、ポート噴射弁16R、16Lを通じて行われ得る。
図7において、下向きの矢印で燃料噴射開始時期を示している。
【0059】
エンジン10のエンジンコントロールユニット110が、気筒#2及び#5への燃料供給を停止しようとする場合、次に説明するように遅角処理を行うことにより停止処理が可能となる。
【0060】
時刻T21~時刻T23の間において、フラグFは0である。このため、時刻T21~時刻T23の間において、エンジンコントロールユニット110は、
図6のS10、S12、S14、S16、及びS18の処理をこの順で繰り返している。すなわち、時刻T21~時刻T23の間において、S26の停止処理は実行されない。
【0061】
時刻T23において、フラグFが「0」から「1」に切り替わる。詳しくは、エンジンコントロールユニット110は、
図6のS20において遅角処理を実行するとともにフラグFに「1」を代入する。遅角処理とは、
図7の白抜き矢印で示すように、燃料噴射開始時期を遅角する処理である。気筒#5に関し、時刻T22~時刻T25の間における遅角前の燃料噴射開始時期を破線で示すとともに、時刻T22~時刻T25の間における遅角後の燃料噴射開始時期を実線で示している。気筒#2に関し、時刻T24~時刻T26の間における遅角前の燃料噴射開始時期を破線で示すとともに、時刻T24~時刻T26の間における遅角後の燃料噴射開始時期を実線で示している。気筒#5に関し、遅角後の燃料噴射開始時期は、時刻T24から時刻T25までの期間内にある。気筒#2に関し、遅角後の燃料噴射開始時期は、時刻T25から時刻T26までの期間内にある。このように、遅角処理は、停止可能角度間隔に燃料噴射開始時期が含まれるように、燃料噴射開始時期を遅角する処理である。
【0062】
このようにして、停止可能角度間隔において、燃料噴射開始時期よりも前の区間が存在する。具体的には、時刻T24から、気筒#5の燃料噴射開始時期までの期間において、上述の条件(D)が満たされる。また、時刻T25から、気筒#2の燃料噴射開始時期までの期間において、条件(D)が満たされる。したがって、エンジンコントロールユニット110は、上述の条件(A)~条件(C)が全て成立する場合にS26の停止処理を実行できる。
【0063】
時刻T27において、フラグFが「1」から「0」に切り替わる。詳しくは、エンジンコントロールユニット110は、
図6のS32において再生処理を終了するとともにフラグFに「0」を代入する。
【0064】
<本実施形態の効果>
(1)燃焼サイクル中において、燃料噴射開始時期が、停止可能角度間隔よりも前である場合、停止指示は受理されない。上記実施形態によれば、制御装置500は、停止可能角度間隔に燃料噴射開始時期が含まれるように、燃料噴射開始時期を遅角する遅角処理を実行する。このため、停止可能角度間隔において、燃料噴射開始時期よりも前の区間が存在する。停止指示が当該区間において受理される。停止指示が当該区間において受理されることにより、当該区間において燃料供給を停止できる。すなわち、燃焼サイクル中において、停止可能角度間隔よりも前に、燃料噴射開始時期が到来することにより燃料供給の停止ができない構成に対して、遅角処理を実行することで、燃料供給停止が可能となる。
【0065】
(2)ポート噴射は、圧縮行程の開始よりも前に行う必要がある。これに対し、筒内噴射は、圧縮行程の開始後に行うことが可能である。上記実施形態によれば、制御装置500は、燃料噴射態様をポート噴射態様から筒内噴射態様に変更することによって、遅角処理を実行可能である。このため、ポート噴射の噴射開始時期を、ポート噴射態様を維持したまま遅角する構成と比較して大幅に噴射開始時期を遅角できる。したがって、停止指示が受理される区間を大きくできる。
【0066】
(3)上記実施形態によれば、第2モータジェネレータ54が、停止処理によって生じるエンジン10の出力トルクの低下を補償する。このため、車両の出力トルクの変動を抑制できる。
【0067】
(4)上記実施形態によれば、6気筒を有するエンジン10において遅角処理を行うことで2つの対向気筒である気筒#2、#5への燃料供給を停止させることができるようになる。
【0068】
<変更例>
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0069】
・上記実施形態では、気筒#2、#5が停止対象気筒である場合について説明した。例えば、S32において再生処理を終了する際に、次回の再生処理における停止対象気筒として気筒#3、#6を決定してもよい。すなわち、2つの停止対象気筒は、適当なタイミングで別の2つの停止対象気筒と切り替えられてもよい。
【0070】
・上記の実施形態では、S20の遅角処理は、全ての気筒#1~#6の燃料噴射態様をポート噴射から筒内噴射に変更する。しかしながら、これは例示に過ぎない。エンジンコントロールユニット110は、S20の遅角処理において、停止対象気筒である気筒#2、#5の燃料噴射態様のみを筒内噴射に変更するようにしてもよい。すなわち、エンジンコントロールユニット110は、停止対象気筒における燃料噴射態様をポート噴射態様から筒内噴射態様に変更することによって、遅角処理を実行してもよい。
【0071】
・上記実施形態では、停止処理は、停止対象気筒である気筒#2、#5に対する燃料供給を停止させるとともに残りの気筒#1、#3、#4、#6には燃料を供給する処理である。しかしながら、これは例示に過ぎない。停止処理は、複数の気筒#1~#6のうち2つ以上の気筒である停止対象気筒に対する燃料供給を停止させるとともに残りの1つ以上の気筒には燃料を供給する処理であってもよい。
【0072】
・上記実施形態では、エンジンコントロールユニット110は、停止対象気筒における燃料噴射態様をポート噴射態様から筒内噴射態様に変更することによって、遅角処理を実行する。エンジンコントロールユニット110は、停止対象気筒における燃料噴射態様をポート噴射態様に維持しつつ、停止対象気筒におけるポート噴射の噴射開始時期を遅角することによって、遅角処理を実行してもよい。エンジン10がポート噴射弁16R、16Lと筒内噴射弁22R、22Lとを備えている構成において、ポート噴射態様を維持したままでも、停止指示が受理される区間を生成できる。停止対象気筒以外の気筒#1、#3、#4、#6における噴射開始時期は遅角されてもよいし、されなくてもよい。
【0073】
・上記実施形態では、エンジン10がポート噴射弁16R、16Lと、筒内噴射弁22R、22Lとを備えている。しかしながら、これは例示に過ぎない。例えば、エンジン10がポート噴射弁16R、16Lを備えているが、筒内噴射弁22R、22Lを備えていない構成も可能である。エンジンコントロールユニット110は、停止対象気筒における燃料噴射態様をポート噴射態様に維持しつつ、停止対象気筒におけるポート噴射の噴射開始時期を遅角することによって、遅角処理を実行してもよい。これにより、停止指示が受理される区間を生成できる。
【0074】
・再生処理の実行条件としては、上記実施形態において例示したものに限らない。例えば、上記条件(A)~条件(C)の3つの条件に関しては、それらのうちの2つのみが実行条件に含まれていてもよく、また1つのみが実行条件に含まれていてもよい。条件(A)~条件(C)は省略されてもよい。条件(D)は、停止指示の対象となる選択された気筒の燃焼サイクルにおいて、現時点が燃料噴射開始時期よりも所定時間前である旨の条件であってもよい。当該所定時間は、例えば、停止指示に係る通信遅れを考慮して設定されていてもよい。
【0075】
・酸素供給を行う停止処理の実行目的は、再生処理に限らない。例えば、三元触媒32R、32Lの暖機のために停止処理を実行するエンジン10において上記実施形態のような遅角処理を実行するようにしてもよい。
【0076】
・堆積量DPMの推定処理としては、
図6において例示したものに限らない。例えば、GPF34R、34Lの上流側と下流側との圧力の差と吸入空気量Gaとに基づき堆積量DPMを推定してもよい。具体的には、圧力の差が大きい場合に小さい場合よりも堆積量DPMを大きい値に推定し、圧力の差が同一であっても、吸入空気量Gaが小さい場合に大きい場合よりも堆積量DPMを大きい値に推定すればよい。ここで、GPF34R、34Lの下流側の圧力を一定値とみなす場合、差圧に代えて上記圧力PexR、PexLを用いることができる。
【0077】
・排気通路30R、30Lにおける三元触媒32R、32LとGPF34R、34Lのレイアウトは、GPF34R、34Lが三元触媒32R、32Lの上流側に設けられているレイアウトであってもよい。
【0078】
・GPF34R、34Lとしては、三元触媒が担持されたフィルタに限らず、フィルタのみであってもよい。また、GPF34R、34Lとしては、排気通路30R、30Lのうちの三元触媒32R、32Lの下流に設けられるものに限らない。また、GPF34R、34Lを備えること自体必須ではない。例えば、後処理装置が三元触媒32R、32Lのみからなる場合であっても、上述したように、三元触媒32R、32Lの暖機のため停止処理を実行することがあり得る。
【0079】
・S28のMG2トルク補償処理は省略されてもよい。
・S26の停止処理は、停止対象気筒以外の気筒における空燃比のリッチ化を含んでいなくてもよい。例えば、GPF34R、34Lの再生処理の場合、GPF温度が十分高くなり、酸素を供給すれば、粒子状物質の燃焼が生じる状態になっていれば、停止処理においてリッチ化を行わなくても燃焼を継続させて再生を進行させることができる。
【0080】
・上記実施形態では、制御装置500は、CPUとROMとRAMとを備えて、ソフトウェア処理を実行する。しかしながら、これは例示に過ぎない。例えば、制御装置500は、上記実施形態において実行されるソフトウェア処理の少なくとも一部を処理する専用のハードウェア回路(例えばASIC等)を備えてもよい。すなわち、制御装置500は、以下の(a)~(c)のいずれかの構成であればよい。(a)制御装置500は、プログラムに従って全ての処理を実行する処理装置と、プログラムを記憶するROM等のプログラム格納装置とを備える。すなわち、制御装置500は、ソフトウェア実行装置を備える。(b)制御装置500は、プログラムに従って処理の一部を実行する処理装置と、プログラム格納装置とを備える。さらに、制御装置500は、残りの処理を実行する専用のハードウェア回路を備える。(c)制御装置500は、全ての処理を実行する専用のハードウェア回路を備える。ここで、ソフトウェア実行装置、及び/又は、専用のハードウェア回路は複数であってもよい。すなわち、上記処理は、ソフトウェア実行装置及び専用のハードウェア回路の少なくとも一方を備えた処理回路(processing circuitry)によって実行され得る。処理回路に含まれるソフトウェア実行装置及び専用のハードウェア回路は複数であってもよい。プログラム格納装置すなわちコンピュータ可読媒体は、汎用又は専用のコンピュータでアクセスできるあらゆる利用可能な媒体を含む。
【0081】
・上記実施形態では、エンジン10は、6つの気筒#1~#6を備える。しかしながら、これは例示に過ぎない。エンジン10が備える気筒の数は適宜変更可能である。例えば、エンジン10は、8つの気筒を有していてもよい。エンジン10は、直列型エンジン、水平対向型エンジンあるいはW型エンジンであってもよい。
【0082】
・上記実施形態では、車両は第1モータジェネレータ52及び第2モータジェネレータ54を備える。しかしながら、これは例示に過ぎない。例えば、車両は、モータジェネレータを1つのみ備えていてもよい。
【0083】
・車両としては、シリーズ・パラレルハイブリッド車に限らず、例えばパラレルハイブリッド車やシリーズハイブリッド車であってもよい。もっとも、ハイブリッド車に限らず、例えば、車両の動力発生装置がエンジン10のみの車両であってもよい。
【符号の説明】
【0084】
#1~#6…気筒
10…内燃機関(エンジン)
12L、12R…吸気ポート
16L、16R…ポート噴射弁
22L、22R…筒内噴射弁
500…制御装置