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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023183215
(43)【公開日】2023-12-27
(54)【発明の名称】溶接作業評価システム
(51)【国際特許分類】
   G09B 19/00 20060101AFI20231220BHJP
   G09B 19/24 20060101ALI20231220BHJP
   B23K 31/00 20060101ALI20231220BHJP
   G06Q 50/20 20120101ALI20231220BHJP
   G06Q 50/08 20120101ALI20231220BHJP
【FI】
G09B19/00 H
G09B19/24 Z
B23K31/00 Z
G06Q50/20
G06Q50/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022096724
(22)【出願日】2022-06-15
(71)【出願人】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】多羅沢 湘
(72)【発明者】
【氏名】杉江 一寿
(72)【発明者】
【氏名】曽我 幸弘
【テーマコード(参考)】
5L049
【Fターム(参考)】
5L049CC07
5L049CC34
(57)【要約】
【課題】溶接作業の技能を容易に評価できる溶接作業評価システムを提供する。
【解決手段】本発明による溶接作業評価システムは、被溶接材3を溶接する溶接作業者50に把持された溶接トーチ2の動作を測定する計測装置7と、複数の基準データを格納したデータベース35と、複数の基準データを用いて、溶接部角度5における理想動作データを生成する理想動作データ生成部33と、溶接トーチ2の動作から求めた溶接作業者50の溶接動作を、採点アルゴリズムと理想動作データに基づいて採点する溶接動作評価部34を備える。基準データは、溶接姿勢に応じて任意に定められた、溶接動作のデータである。溶接部角度5は、予め定められた基準面に対する被溶接材3の角度である。理想動作データとは、溶接作業者50が目標とする溶接動作についてのデータである。採点アルゴリズムは、溶接作業者50の溶接動作を採点するための方法である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被溶接材を溶接する溶接作業者に把持された溶接トーチの動作を測定する計測装置と、
複数の基準データを格納したデータベースと、
複数の前記基準データを用いて、溶接部角度における理想動作データを生成する理想動作データ生成部と、
前記計測装置が測定した前記溶接トーチの動作から求めた前記溶接作業者の溶接動作を、採点アルゴリズムと前記理想動作データに基づいて採点する溶接動作評価部と、
を備え、
前記基準データは、溶接姿勢に応じて任意に定められた、溶接動作のデータであり、
前記溶接部角度は、予め定められた基準面に対する前記被溶接材の角度であり、
前記理想動作データとは、前記溶接作業者が目標とする溶接動作についてのデータであり、
前記採点アルゴリズムは、前記溶接作業者の溶接動作を採点するための方法である、
ことを特徴とする溶接作業評価システム。
【請求項2】
前記理想動作データ生成部は、前記溶接部角度を用いて、複数の前記基準データのそれぞれについて前記溶接作業者の溶接動作に対する寄与度を求めることで、前記溶接部角度における前記理想動作データを生成する、
請求項1に記載の溶接作業評価システム。
【請求項3】
前記溶接部角度を算出する溶接部角度計算部を備え、
前記溶接部角度計算部は、前記計測装置が測定した前記溶接トーチの動作と予め入力された前記被溶接材の形状から前記溶接部角度を計算する、
請求項1に記載の溶接作業評価システム。
【請求項4】
入力インターフェースを備え、
前記採点アルゴリズムは、ユーザが前記入力インターフェースを操作することで指定される、
請求項1に記載の溶接作業評価システム。
【請求項5】
前記溶接トーチは、マーカを備え、
前記計測装置は、前記マーカの位置を計測するモーションキャプチャ装置であり、前記マーカの位置を基に前記溶接トーチの動作を測定する、
請求項1に記載の溶接作業評価システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接作業の技能を評価するシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
これまで、溶接等の高度技能は、経験豊富な溶接作業者が時間をかけてOJT等を通して初心者に教育してきた。しかし、近年の少子高齢化に伴う熟練溶接作業者の急速な減少の中、初心者は必ずしも熟練者からの教育を受けられない場合があり、製造現場から熟練技能が急速に失われている。このような状況において、溶接作業をロボットを用いて自動化する取り組みも行われており、工数低減や品質安定化の上で成果を上げている。一方、ロボットがアクセスできない狭隘部や、寸法ばらつきが大きい大型構造物の溶接においては、手動溶接の必要性が依然として高く、次の世代の溶接作業者を効率的に育成するシステムが求められている。
【0003】
近年のこのような状況を鑑み、溶接作業に対する教育の支援システムや支援方法がいくつか提案されている。例えば、特許文献1には、シミュレーション仮想現実環境又は拡張現実環境においてアーク溶接訓練を提供し、仮想現実溶接システムに外部データをインポートし分析することを提供するためのシステム及び方法が開示されている。特許文献2には、溶接作業の技能評価を一層適切に行う溶接作業評価装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2016-511446号公報
【特許文献2】特開2021―189380号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の技術において、溶接技能を評価するには、溶接作業者の溶接動作が計測装置類によって測定され、測定された溶接動作が、理想的な溶接動作のデータ(以下、「理想動作データ」と呼ぶ)に基づいて評価または採点される必要がある。実際の溶接においては、溶接作業者の取る姿勢は様々である。溶接姿勢には、大きく分けて、被溶接材を見下ろす向きに溶接を行う下向姿勢、見上げる向きに溶接を行う上向姿勢、重力の方向に対して横向きに溶接を行う横向姿勢、及び重力の方向に対して平行に溶接を行う立向姿勢がある。従って、溶接技能を評価するには、これらの各姿勢に対して理想動作データを用意する必要がある。
【0006】
さらに、工場や発電所等のプラントに多く存在している配管を溶接する場合には、配管が固定されていると、溶接作業者は、姿勢を変化させながら溶接施工を行う。このため、上述した溶接姿勢以外のあらゆる溶接姿勢に対しても理想動作データが必要になる。理想動作データは、データベースに格納されて使用される。理想動作データを格納するデータベースを「理想動作データベース」と呼ぶ。
【0007】
このように、従来の技術では、溶接技能を評価するには、様々な溶接姿勢に対応した多くの理想動作データを理想動作データベースに格納する必要がある。理想動作データベースは、溶接条件(電流、電圧、溶接速度、及び溶接トーチ角度等)と溶接欠陥の関係を溶接実験で検討しながら構築する必要があるため、構築に多くの時間と費用がかかることが課題である。このため、様々な溶接姿勢に対応した理想動作データベースを構築しなくても、溶接作業の技能を容易に評価できるシステムが望まれている。
【0008】
本発明は、溶接作業の技能を容易に評価できる溶接作業評価システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明による溶接作業評価システムは、被溶接材を溶接する溶接作業者に把持された溶接トーチの動作を測定する計測装置と、複数の基準データを格納したデータベースと、複数の前記基準データを用いて、溶接部角度における理想動作データを生成する理想動作データ生成部と、前記計測装置が測定した前記溶接トーチの動作から求めた前記溶接作業者の溶接動作を、採点アルゴリズムと前記理想動作データに基づいて採点する溶接動作評価部とを備える。前記基準データは、溶接姿勢に応じて任意に定められた、溶接動作のデータである。前記溶接部角度は、予め定められた基準面に対する前記被溶接材の角度である。前記理想動作データとは、前記溶接作業者が目標とする溶接動作についてのデータである。前記採点アルゴリズムは、前記溶接作業者の溶接動作を採点するための方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、溶接作業の技能を容易に評価できる溶接作業評価システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施例1による溶接作業評価システムの構成と、溶接作業者の溶接作業を示す模式図である。
図2】出力インターフェースに表示される、計測データと採点結果の例を示す図である。
図3】実施例1による溶接作業評価システムが実行する、溶接作業者の溶接動作の採点処理のフローチャートである。
図4】実施例1における採点アルゴリズムの一例を示す図である。
図5】基準データのそれぞれの、動作パラメータに対する寄与度を求める方法の例を説明するための図である。
図6】実施例1において、動作パラメータの採点例を示す図である。
図7】本発明の実施例2による溶接作業評価システムの構成と、溶接作業者の溶接作業を示す模式図である。
図8A】実施例2における採点アルゴリズムの例を示す図である。
図8B】実施例2における採点アルゴリズムの例を示す図である。
図8C】実施例2における採点アルゴリズムの例を示す図である。
図9】実施例2において、溶接部角度φnを計算する方法の例を説明するための図である。
図10】実施例2において、動作パラメータの採点例を示す図である。
図11A】実施例2において生成された理想動作データの例を示す図である。
図11B図11Aに示した理想動作データに、溶接作業者の溶接作業における動作パラメータ(溶接速度)の値と、その採点結果である点数を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
溶接作業は、多くの物理現象が組み合わさった複雑な作業である。熟練の溶接作業者は、数多くの経験から溶接条件を微調整して溶接作業を実施している。例えば、同じ溶接方法であっても、接合部を見上げるようにして溶接を行う上向姿勢と、接合部を見下ろすようにして溶接を行う下向姿勢の溶接では、溶融金属への重力の作用の仕方が異なる。一般的に、上向姿勢の溶接においては、溶接中に溶接金属が垂れやすいため、溶接速度を上げて溶接金属を素早く凝固させる必要がある。
【0013】
上述したように、従来の技術では、溶接技能を評価するには、理想動作データベースが、様々な溶接姿勢に対応した多くの理想動作データを格納している必要がある。しかし、このような理想動作データベースを構築するのは、多くの時間と費用が必要であり困難である。例えば、上述した特許文献1に開示された技術では、評価可能な溶接姿勢が限定されている。また、例えば、特許文献2では、溶接姿勢が徐々に変わっていく場合について述べられているが、溶接作業者の溶接姿勢が、基準となるデータと異なる場合については考慮されていない。このように、従来の技術では、様々な溶接姿勢で作業を行う実際の現場での溶接技能を評価するのが困難である。
【0014】
本発明による溶接作業評価システムでは、溶接作業者の溶接姿勢が、基準となるデータ(基準データ)と異なる場合であっても、基準データから理想動作データを生成して採点アルゴリズムを用いることで、溶接技能を評価する。このため、本発明による溶接作業評価システムは、様々な溶接姿勢に対応した理想動作データベースを構築することなく、溶接作業の技能(溶接技能)を容易に評価できる。
【0015】
以下、本発明の実施例による溶接作業評価システムについて、図面を参照して説明する。本実施例による溶接作業評価システムは、溶接作業者の溶接動作を採点することで、溶接技能を評価する。以下の実施例では、一例として、溶接作業者がアーク溶接を行う例を説明する。なお、本明細書で用いる図面において、同一のまたは対応する構成要素には同一の符号を付け、これらの構成要素については繰り返しの説明を省略する場合がある。
【実施例0016】
図1は、本発明の実施例1による溶接作業評価システムの構成と、溶接作業者50の溶接作業を示す模式図である。
【0017】
溶接トーチ2は、デジタル溶接機1に接続され、溶接作業者50によって把持される。デジタル溶接機1から溶接トーチ2に電力が供給されると、溶接作業者50は、溶接トーチ2を把持して被溶接材3に溶接作業を実施する。被溶接材3には、溶接作業により溶接ビード4が形成される。
【0018】
本実施例による溶接作業評価システムは、センサー6と、計測装置7と、データロガー8と、制御装置10を備え、溶接作業者50の溶接作業の技能(溶接技能)を評価する。図1に示した装置、例えば、デジタル溶接機1、計測装置7、データロガー8、及び制御装置10は、無線LANまたは有線LAN等の通信網を介して相互に接続されている。
【0019】
デジタル溶接機1は、溶接トーチ2に接続され、溶接に必要な電力や溶接材料(溶加材)を供給する。デジタル溶接機1は、溶接トーチ2に供給される電流、電圧、及び溶接材料の供給量を管理する機能を備える。
【0020】
データロガー8は、溶接トーチ2に供給された電流、電圧、及び溶接材料の供給量の情報をデジタル溶接機1から取得して制御装置10に供給する。また、データロガー8は、計測装置7が測定した溶接トーチ2の動作の情報を計測装置7から取得して制御装置10に供給する。
【0021】
被溶接材3について、予め定められた基準面(例えば、水平面)に対する被溶接材3の溶接部の表面の角度を、溶接部角度5と呼ぶ。溶接部角度5は、後述するように、制御装置10が求めることができる。また、溶接部角度5は、予め既知である場合には、溶接作業評価システムの操作者(ユーザ)が制御装置10に入力することもできる。
【0022】
センサー6は、溶接トーチ2に取り付けられており、溶接トーチ2の位置、姿勢、及び動きを測定する。センサー6は、例えば、GPSセンサー、水平センサー、ジャイロスコープのうち少なくとも1つで構成することができる。
【0023】
計測装置7は、溶接トーチ2の動作を測定する装置である。計測装置7は、例えば、溶接トーチ2の先端の位置を取得することで、溶接トーチ2の被溶接材3に対する動作(例えば、被溶接材3に対する角度、溶接速度、及びトーチ高さ等)を測定する。計測装置7は、センサー6からの情報を用いて溶接トーチ2の動作を測定することも、センサー6からの情報を用いずに溶接トーチ2の動作を測定することもできる。
【0024】
計測装置7は、任意の装置で構成することができる。計測装置7がセンサー6からの情報を用いて溶接トーチ2の動作を測定する場合には、計測装置7は、センサー6の測定値から溶接トーチ2の動作を演算して求める装置で構成することができる。また、例えば、溶接作業者50の周囲に計測装置7を設置可能であれば、計測装置7は、モーションキャプチャカメラまたはステレオカメラを備えることで、このカメラの映像データから溶接トーチ2の動作を求めることができる。計測装置7がカメラを備える構成では、計測装置7は、センサー6からの情報を用いずに溶接トーチ2の動作を測定することができる。
【0025】
図1には、一例として、カメラ型の計測装置7を用いて溶接トーチ2の動作を求める構成を示している。図1に示した計測装置7は、カメラで構成されているが、センサー6からの情報を用いて溶接トーチ2の動作を測定することもできる。なお、実際の溶接では強力なアーク光が発生するため、この影響を受け難いセンサー6とカメラを使用する必要がある。
【0026】
計測装置7が測定した溶接トーチ2の動作の情報は、データロガー8を介して、制御装置10に供給される。
【0027】
制御装置10は、データロガー8を介して、溶接トーチ2に供給された電流、電圧、及び溶接材料の供給量の情報と、計測装置7が測定した溶接トーチ2の動作の情報を入力する。
【0028】
制御装置10は、入力インターフェース20と、演算装置30と、出力インターフェース40を備える。また、制御装置10は、被溶接材3の形状と位置(溶接される位置の空間座標)が予めユーザによって入力され、これらを記憶している。
【0029】
入力インターフェース20は、ユーザに操作され、制御装置10が行う演算に必要な設定値や、ユーザが指定した採点アルゴリズムを、制御装置10に入力する。入力インターフェース20は、例えば、キーボード及びタッチパネルで構成することができる。
【0030】
演算に必要な設定値は、例えば、採点区間、及び採点間隔である。採点区間は、採点を実施する時間範囲である。採点間隔は、採点区間における採点の時間間隔である。採点とは、溶接作業者50の溶接動作に点数をつけることである。溶接作業者50の溶接動作は、測定されて採点される。さらに、溶接部角度5が予め既知である場合には、溶接部角度5を、入力インターフェース20が入力する設定値に含めることができる。
【0031】
採点アルゴリズムとは、溶接作業者50の溶接動作を採点するための方法のことである。溶接作業者50の溶接動作は、溶接動作を表すパラメータ(動作パラメータ)ごとに、この採点アルゴリズムに従って採点される。採点アルゴリズムは、例えば、予め1つまたは複数を制御装置10が記憶しており、この中から溶接手法や溶接作業者50の練度に応じてユーザが選択することで指定することができる。ユーザは、入力インターフェース20を操作することで、採点アルゴリズムを選択して指定する。
【0032】
演算装置30は、コンピュータで構成されており、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、及びSSD(Solid State Drive)等の、一般的なコンピュータとしてのハードウエアを備える。SSDには、OS(Operating System)、アプリケーションプログラム、及び各種データが格納されている。OSとアプリケーションプログラムは、RAMに展開され、CPUによって実行される。図1において、制御装置10の内部は、アプリケーションプログラム等によって実現される機能を、ブロックとして示している。
【0033】
出力インターフェース40は、計測データや、演算装置30の演算結果(例えば、採点結果)等を表示する。出力インターフェース40は、例えば、アナログテスター、デジタルテスター、及びディスプレイで構成することができる。また、計測データや演算結果を音声として出力する場合には、出力インターフェース40をスピーカーやイヤホンで構成することもできる。
【0034】
計測データには、溶接トーチ2に供給された電流、電圧、及び溶接材料の供給量や、センサー6が測定した溶接トーチ2の位置、姿勢、及び動きや、計測装置7が測定した溶接トーチ2の動作が含まれる。計測装置7がカメラを備える構成をとる場合には、計測データにカメラの映像データを含めることができる。出力インターフェース40は、計測データとして、制御装置10が得たデータをそのまま表示してもよいし、必要に応じてサンプリングレートや画質を調整したデータを表示してもよい。
【0035】
採点結果として、測定された溶接作業者50の動作パラメータ(溶接動作を表すパラメータ)の採点結果が表示される。出力インターフェース40は、採点結果として、全ての動作パラメータの採点結果をレーダーチャート等で可視化して表示してもよいし、個々の動作パラメータの採点結果を数値で示してもよい。
【0036】
演算装置30は、溶接部角度計算部31、理想動作データ生成部33、データベース32、データベース35、及び溶接動作評価部34を備える。データベース32とデータベース35は、1つのデータベースで構成してもよい。
【0037】
溶接部角度計算部31は、溶接部角度5を計算して取得する。溶接部角度5は、基準面(例えば、水平面)に対する被溶接材3の溶接部の表面の角度であるので、溶接部角度計算部31は、計測データ(例えば、センサー6が測定した溶接トーチ2の位置、姿勢、及び動きや、計測装置7が測定した溶接トーチ2の動作)と、予め入力された被溶接材3の形状と位置から、溶接部角度5を計算することができる。なお、溶接部角度計算部31が溶接部角度5を計算する場合には、ユーザは、溶接部角度5を入力インターフェース20で入力しなくてもよい。
【0038】
理想動作データ生成部33は、入力インターフェース20が入力した溶接部角度5、または溶接部角度計算部31が計算した溶接部角度5を入力し、データベース35に格納されている複数の基準データを用いて、この溶接部角度5における理想動作データを生成する。理想動作データとは、溶接作業者50の理想的な溶接動作、すなわち溶接作業者50が目標とする溶接動作についてのデータである。例えば、理想動作データには、溶接動作の目標となる目標値と標準偏差が含まれる。理想動作データ生成部33は、生成した理想動作データをデータベース32に格納する。
【0039】
データベース35には、複数の基準データが格納されている。基準データは、溶接姿勢に応じて予め任意に定められた、溶接動作の基準となるデータである。本実施例では、後述するように、4つの基準データを使用する。基準データには、それぞれの溶接姿勢における各動作パラメータの目標値と標準偏差が、基準となるデータとして含まれている。
【0040】
溶接動作評価部34は、溶接作業者50の溶接動作を、動作パラメータごとに、採点アルゴリズムと理想動作データに基づいて採点する。溶接動作評価部34は、溶接作業者50の溶接動作(動作パラメータ)を、計測装置7が測定した溶接作業者50の溶接トーチ2の動作、または溶接トーチ2に供給された電流、電圧、及び溶接材料の供給量から求めることができる。溶接動作評価部34は、採点結果を出力インターフェース40に送信する。
【0041】
図2は、出力インターフェース40に表示される、計測データと採点結果の例を示す図である。図2の溶接条件の項目には、計測データとして、測定で得られた電流値、電圧値、溶接速度、及び入熱量の平均が表示される。時系列データの項目には、経過時間に対する溶接条件やトーチの動きが表示される。映像の項目には、カメラを備える計測装置7が撮影した溶接作業者50の溶接作業の映像が表示される。採点データの項目には、溶接動作評価部34が溶接条件やトーチの動きなどを示す動作パラメータを採点した結果が、レーダーチャートで表示される。
【0042】
なお、図2に示す項目は、表示される項目の一例である。出力インターフェース40には、図2に示した項目の他に、溶接の特徴量のデータや、特徴量を演算して得られたデータなどを表示することもできる。
【0043】
図3は、本実施例による溶接作業評価システムが実行する、溶接作業者50の溶接動作の採点処理のフローチャートである。採点される動作パラメータには、代表的なものとして、溶接速度、溶接トーチ角度、溶接トーチ高さ、電流値、及び電圧値等がある。以下では、採点される動作パラメータとして、溶接速度を例に挙げて説明する。
【0044】
ステップS00で、制御装置10は、溶接作業者50の溶接動作の採点処理を開始する。溶接動作の採点処理は、溶接作業者50の溶接作業の終了後に実施される。但し、溶接部角度5が予め既知であり設定値として制御装置10に入力されている場合には、溶接作業者50が溶接作業を実行している間に採点処理を行うこともできる。
【0045】
ステップS01で、制御装置10は、ユーザが指定した採点区間を入力する。ユーザは、入力インターフェース20を操作して採点区間を指定する。採点区間は、演算装置30が溶接動作を採点する時間範囲のことである。例えば、溶接作業者50が全部で45秒の溶接を行ったとして、このうち5秒から35秒までの範囲の動作を採点したい場合には、「5~35(秒)」という範囲を採点区間として指定する。この場合、採点される時間の長さは、30秒(=35秒-5秒)である。
【0046】
なお、一般的に、溶接の始まりと終わりには、始終端処理と呼ばれる特殊な溶接動作が実施されることが多い。溶接作業者50の溶接動作の採点処理では、始終端処理の動作を除いて採点することが望ましい。
【0047】
ステップS02で、制御装置10は、ユーザが指定した採点間隔を入力する。ユーザは、入力インターフェース20を操作して採点間隔を指定する。採点間隔は、採点区間において、演算装置30が溶接動作を採点する時間間隔(ピッチ)のことである。例えば、0.5秒ごとに採点を実施したい場合には、「2.0(Hz)」を採点間隔として指定する。この場合、採点される時間の長さが30秒であると、制御装置10は、60回(=30秒×2.0Hz)の採点を行う。すなわち、採点区間には、60個の採点期間が存在する。
【0048】
ステップS03で、制御装置10は、ユーザが指定した採点アルゴリズムを入力する。上述したように、採点アルゴリズムは、例えば、予め1つまたは複数を制御装置10が記憶しており、ユーザは、この中から1つを選択することで採点アルゴリズムを指定することができる。また、ユーザは、入力インターフェース20を介して採点アルゴリズムを制御装置10に入力することで、採点アルゴリズムを指定してもよい。
【0049】
採点アルゴリズムとは、溶接作業者50の溶接動作を採点するための方法である。例えば、溶接動作のばらつきを採点する場合には、動作パラメータの目標値と標準偏差を含む理想動作データを用いて、採点アルゴリズムに従い、溶接動作を採点する。以下では、理想動作データに含まれる、動作パラメータの目標値と標準偏差のことを、それぞれ「理想動作の目標値」と「理想動作の標準偏差」と呼ぶ。採点アルゴリズムは、理想動作の目標値と理想動作の標準偏差を使って、どのように溶接動作(動作パラメータ)を採点するかということを定める基準であり、溶接の品質基準や溶接作業者50の訓練方針と密接に関わる。
【0050】
図4は、採点アルゴリズムの一例を示す図であり、動作パラメータの値と採点における動作パラメータの点数との関係を示す図である。図4に示す採点アルゴリズムでは、動作パラメータの値が理想動作の目標値Gである場合には、点数が100点であり、動作パラメータの値が理想動作の目標値Gから理想動作の標準偏差σだけ大きい場合と小さい場合には、点数が0点であり、動作パラメータの値がこれらの間の値である場合には、点数が100点から0点まで線形に変化する。この採点アルゴリズムは、動作パラメータの値が目標値Gに近いほど高い品質が得られる動作の採点に向いている。なお、採点アルゴリズムは、図4に示すものに限らず、例えば実施例2で示すもの等、任意に定めることができる。
【0051】
図3の説明に戻る。
【0052】
ステップS04で、制御装置10は、採点のループ処理を開始する。例えば、採点区間が5~35秒(採点される時間の長さが30秒)で、採点間隔が2.0Hzであれば、採点区間に60個の採点期間が存在し、制御装置10は、採点区間において60回の採点を実施する。以下では、採点区間のうちn番目の採点期間で採点されている(すなわち、60回の採点のうちn番目の採点が実施されている)として、n番目のループにおける処理を説明する。
【0053】
ステップS05で、制御装置10の溶接部角度計算部31は、n番目の採点期間における溶接部角度5を計算する。以下では、n番目の採点期間における溶接部角度5を角度φnで示すこともある。溶接部角度計算部31は、上述したように溶接部角度φnを計測データと予め入力された被溶接材3の形状と位置から計算するが、採点期間での平均的な値を溶接部角度φnとして求めてもよく、採点期間での中間の値を溶接部角度φnとして求めてもよい。
【0054】
なお、ユーザが溶接部角度φnを設定値として制御装置10に入力した場合には、ステップS05の処理を省略することもできる。
【0055】
ステップS06で、制御装置10の理想動作データ生成部33は、溶接部角度φnを用いて、データベース35に格納されている複数の基準データのそれぞれについて、溶接作業者50の溶接作業における動作パラメータに対する寄与度(重みづけ)を求める。寄与度は、複数の基準データのそれぞれが、動作パラメータにおいてどの程度の割合を占めるかという重みづけを示す。基準データのそれぞれの寄与度は、溶接部角度φnで決められる。
【0056】
基準データは、溶接姿勢に応じて予め任意に定められた、溶接動作のデータである。基準データは、それぞれの溶接姿勢における各動作パラメータの目標値と標準偏差が含まれており、データベース35に格納されている。本実施例では、一例として、4つの基準データ、すなわち上向溶接データ(UD)、下向溶接データ(DD)、立向溶接データ(VD)、及び横向溶接データ(HD)という基準データを使用する。上向溶接データ、下向溶接データ、立向溶接データ、及び横向溶接データは、それぞれ上向姿勢の溶接、下向姿勢の溶接、立向姿勢の溶接、及び横向姿勢の溶接における、例えば各動作パラメータの目標値と標準偏差のデータである。この目標値と標準偏差は、予め定められている。
【0057】
図5は、基準データのそれぞれの、動作パラメータに対する寄与度を求める方法の例を説明するための図であり、被溶接材3、溶接部角度5(φn)、及び溶接トーチ2を示す図である。図5に示す例では、一例として、溶接部角度φnが60度である。
【0058】
図5に示すように、立向溶接データの寄与度は、VDsin(φn)、下向溶接データの寄与度は、DDcos(φn)で計算される。なお、図5に示す例では、上向溶接データと横向溶接データの寄与度はゼロである。
【0059】
図3の説明に戻る。
【0060】
ステップS07で、理想動作データ生成部33は、基準データの動作パラメータに対する寄与度を足し合わせて、溶接部角度φnにおける理想動作データを生成する。理想動作データには、溶接部角度φnにおける、溶接作業者50の溶接作業での動作パラメータの目標値と標準偏差が含まれる。
【0061】
図5に示す例では、溶接部角度φnにおける理想動作データは、
{VDsin(φn)+DDcos(φn)}/(sin(φn)+cos(φn))
で計算される。例えば、溶接部角度φnが60度であり、動作パラメータである溶接速度について、立向溶接データ(VD)での目標値が150mm/minで標準偏差が30mm/minであり、下向溶接データ(DD)での目標値が100mm/minで標準偏差が20mm/minである場合には、理想動作の目標値は、132mm/minとなり、理想動作の標準偏差は、26mm/minとなる。
【0062】
ステップS08で、溶接動作評価部34は、n番目の採点期間において、採点アルゴリズムと理想動作データに基づいて、溶接作業者50の溶接作業におけるそれぞれの動作パラメータを採点する。溶接作業者50の動作パラメータは、計測装置7が測定した溶接トーチ2の動作、または溶接トーチ2に供給された電流、電圧、及び溶接材料の供給量から求めることができる。採点される動作パラメータの例には、上述したように、溶接速度、溶接トーチ角度、溶接トーチ高さ、電流値、及び電圧値等がある。
【0063】
図6は、動作パラメータの採点例を示す図である。本実施例では、動作パラメータは溶接速度であり、採点アルゴリズムには図4に示したものを用いている。採点アルゴリズムにおいて、理想動作の目標値は、132mm/minであり、理想動作の標準偏差は、26mm/minである。すなわち、溶接速度が132mm/minの場合には、動作パラメータの点数が100点であり、溶接速度が標準偏差の範囲内である場合には、点数が線形に変化し、溶接速度が標準偏差の範囲外(158mm/min以上または106mm/min以下)である場合には、点数が0点である。
【0064】
溶接動作評価部34は、このような採点アルゴリズムと理想動作データに基づいて、溶接作業者50の溶接速度を採点する。図6に示すように、n番目の採点期間において、溶接作業者50の溶接速度が145mm/minであるとすると、点数は50点である。
【0065】
図3の説明に戻る。
【0066】
ステップS09で、溶接動作評価部34は、採点区間の全ての採点期間について採点を行ったか否かを判定する。本実施例では、採点区間に60個の採点期間が存在する。従って、nが60未満の場合には、全ての採点期間について採点が行われていないので、nを1つ増やして(nをn+1として)ステップS04の処理に戻る。nが60であると、全ての採点期間について採点を行ったので、ステップS10の処理を実施する。
【0067】
ステップS09の処理が終了した時点で、採点区間の全ての採点期間について、理想動作データの生成と溶接作業者50の動作パラメータの採点が終了している。
【0068】
ステップS10で、溶接動作評価部34は、動作パラメータごとに、採点区間における動作パラメータの点数を平均化する。例えば、採点区間に60個の採点期間が存在し、動作パラメータ(溶接速度)について、1番目の採点期間の点数が40点、2番目の採点期間の点数が65点、n番目(3≦n≦59)の採点期間の点数が50点、60番目の採点期間の点数が80点の場合には、溶接作業者50の溶接作業における動作パラメータの点数は、次のように平均化される。
(40+65+・・・+50+・・・80)/60
溶接動作評価部34は、この採点結果を出力インターフェース40に送信する。なお、溶接動作評価部34は、採点区間における動作パラメータの点数を平均化せずに、動作パラメータの点数が予め定めた基準値より高い採点期間や低い採点期間を求め、求めた採点期間を採点結果として出力インターフェース40に送信してもよい。
【0069】
ステップS11で、制御装置10は、各動作パラメータの採点が終了したので、溶接作業者50の溶接動作の採点処理を終了する。
【0070】
出力インターフェース40は、これらの採点結果や計測データ等の、制御装置10が演算したり入力したりして得たデータや情報を表示することができる。本実施例による溶接作業評価システムは、このようなデータや情報を可視化して表示することで、溶接作業者50を効果的に訓練することができる。また、このようなデータや情報は、自動的にデータベース32に保存され、今後の溶接作業者50の訓練に役立てることもできる。
【0071】
本実施例による溶接作業評価システムは、以上の構成を備え、溶接作業の技能を容易に評価することができる。
【実施例0072】
図7は、本発明の実施例2による溶接作業評価システムの構成と、溶接作業者50の溶接作業を示す模式図である。溶接作業者50は、工場プラント等の現地溶接で多く見られる配管溶接を実施している。
【0073】
本実施例による溶接作業評価システムは、モーションキャプチャ装置12と、データロガー8と、制御装置10を備え、溶接作業者50の溶接作業の技能(溶接技能)を評価する。図7に示した装置、例えば、デジタル溶接機1、モーションキャプチャ装置12、データロガー8、及び制御装置10は、無線LANまたは有線LAN等の通信網を介して相互に接続されている。
【0074】
本実施例では、被溶接材3は、配管等の円筒状部材である。一例として、溶接作業者50は、被溶接材3を、垂直な固定壁9に対して水平に溶接する。
【0075】
溶接トーチ2の先端付近には、モーションキャプチャ装置12に反応するセンサーとして、反射材が塗布された複数のマーカ11が装着されている。
【0076】
モーションキャプチャ装置12は、固定壁9の周囲で溶接作業者50の作業位置の周りに設置されており、溶接トーチ2が備えるマーカ11の位置を計測する計測装置である。モーションキャプチャ装置12は、実施例1での計測装置7(図1)に対応し、マーカ11の位置を基に、溶接トーチ2の動作を測定する。モーションキャプチャ装置12は、溶接トーチ2のマーカ11からの反射光に基づいて溶接トーチ2の3次元的な位置を検出し、溶接トーチ2の先端の動きと角度を詳細に求めることができる。モーションキャプチャ装置12は、これによって、被溶接材3に対する溶接トーチ2の位置と角度(傾き)を特定することができる。
【0077】
なお、図7には、一例として、本実施例による溶接作業評価システムが2台のモーションキャプチャ装置12を備える構成を示している。本実施例による溶接作業評価システムが備えるモーションキャプチャ装置12の数は、1台でも3台以上でもよい。3台以上のモーションキャプチャ装置12が設置されると、測定精度を高めたり測定範囲を広くしたりすることができる。
【0078】
本実施例での制御装置10は、実施例1での制御装置10(図1)と同様の構成を備える。但し、溶接部角度5は、入力インターフェース20が入力する設定値に含まれない(すなわち、ユーザは、溶接部角度5を入力しない)。溶接部角度5は、溶接部角度計算部31が計算する。また、制御装置10は、円筒状部材である被溶接材3の形状と位置(溶接される位置の空間座標)が予めユーザによって入力され、これらを記憶している。
【0079】
本実施例による溶接作業評価システムが実行する、溶接作業者50の溶接動作の採点処理のフローチャートは、図3と同一である。以下では、本実施例による溶接作業評価システムが実行する採点処理について、実施例1で説明した点と異なる点を主に説明する。
【0080】
本実施例では、円筒状部材である被溶接材3の固定壁9への溶接において、溶接作業者50が、立向姿勢での上進溶接から下向姿勢の溶接への作業を75秒間かけて行ったとして説明する。
【0081】
図3のステップS00で、制御装置10は、溶接作業者50の溶接動作の採点処理を開始する。溶接動作の採点処理は、溶接作業者50の溶接作業の終了後に実施される。
【0082】
ステップS01で、制御装置10は、ユーザが指定した採点区間を入力する。例えば、溶接作業者50が全部で75秒の溶接を行ったとして、このうち10秒から70秒までの範囲の動作を採点したい場合には、「10~70(秒)」という範囲を採点区間として指定する。この場合、採点される時間の長さは、60秒(=70秒-10秒)である。
【0083】
ステップS02で、制御装置10は、ユーザが指定した採点間隔を入力する。例えば、5秒ごとに採点を実施したい場合には、「0.2(Hz)」を採点間隔として指定する。この場合、採点される時間の長さが60秒であると、制御装置10は、12回(=60秒×0.2Hz)の採点を行う。すなわち、採点区間には、12個の採点期間が存在する。
【0084】
ステップS03で、制御装置10は、ユーザが指定した採点アルゴリズムを入力する。本実施例では、制御装置10は、3つの採点アルゴリズムを備えており、ユーザは、この中から1つを選択することで採点アルゴリズムを指定する。
【0085】
図8A、8B、8Cは、本実施例における採点アルゴリズムの例を示す図であり、動作パラメータの値と採点における動作パラメータの点数との関係を示す図である。
【0086】
図8Aに示す採点アルゴリズムは、図4に示した採点アルゴリズムと同一である。
【0087】
図8Bに示す採点アルゴリズムでは、動作パラメータの値が理想動作の目標値Gである場合には、点数が100点であり、動作パラメータの値が理想動作の目標値Gから理想動作の標準偏差σだけ大きい場合と小さい場合には、点数が0点であり、動作パラメータの値がさらに理想動作の標準偏差σだけ大きい場合と小さい場合には、点数が-100点であり、動作パラメータの値がこれらの間の値である場合には、点数が100点から-100点まで線形に変化する。この採点アルゴリズムは、動作パラメータの値が目標値Gから大きく乖離すると品質不良を引き起こす等の場合に用いられ、溶接作業者50に禁止動作を設定したい場合の採点に向いている。
【0088】
図8Cに示す採点アルゴリズムでは、動作パラメータの値が理想動作の目標値Gである場合には、点数が100点であり、動作パラメータの値が理想動作の目標値Gから理想動作の標準偏差σだけ大きい場合と小さい場合には、点数が0点であり、動作パラメータの値がこれらの間の値である場合には、点数が100点である。この採点アルゴリズムは、動作パラメータの値が目標値Gから乖離していても、標準偏差σに含まれる範囲内であれば、品質に大きな差がなくて品質不良が発生しない場合の採点に向いている。
【0089】
本実施例では、ユーザが図8Aに示す採点アルゴリズムを選択したとする。
【0090】
図3の説明に戻る。
【0091】
ステップS04で、制御装置10は、採点のループ処理を開始する。例えば、採点区間が10~70秒(採点される時間の長さが60秒)で、採点間隔が0.2Hzであれば、採点区間に12個の採点期間が存在し、制御装置10は、採点区間において12回の採点を実施する。以下では、採点区間のうちn番目の採点期間で採点されている(すなわち、12回の採点のうちn番目の採点が実施されている)として、n番目のループにおける処理を説明する。
【0092】
ステップS05で、制御装置10の溶接部角度計算部31は、n番目の採点期間における溶接部角度φnを計算する。
【0093】
ここで、図9を用いて、本実施例における溶接部角度φnの計算方法を説明する。
【0094】
図9は、本実施例において、溶接部角度φnを計算する方法の例を説明するための図であり、被溶接材3、溶接部角度5(φn)、及び溶接トーチ2を示す図である。上述したように、制御装置10は、被溶接材3の形状と位置(溶接される位置の空間座標)を予め記憶している。
【0095】
以下では、説明を分かり易くするために、円筒状の被溶接材3の中心軸の位置でX軸(水平軸)とY軸が交わっており、被溶接材3の外周半径がRであるとする。また、モーションキャプチャ装置12により、溶接トーチ2の先端の位置の座標(Xn、Yn)が測定されたとする。
【0096】
被溶接材3の外周半径Rは、
R=√(Xn^2+Yn^2) (1)
と表される。
【0097】
配管の溶接は、配管の外周に沿って行われる。従って、配管等の円筒状部材である被溶接材3が溶接されている間は、溶接トーチ2の先端は、常に被溶接材3の外周上に位置する。このため、溶接部角度φnは、図9に示すように、溶接トーチ2の先端の位置における被溶接材3の外周に対する接線とX軸(水平軸)とがなす角度となる。幾何学的には、
sin(φn)=R/Xn (2)
と表される。
【0098】
式(1)、(2)より、溶接部角度φnは、次式で求められる。
φn=arcsin(√(Xn^2+Yn^2)/Xn) (3)
溶接部角度計算部31は、式(3)から、モーションキャプチャ装置12が測定した溶接トーチ2の先端の座標(Xn、Yn)を用いて溶接部角度φnを計算する。
【0099】
なお、被溶接材3の外周半径Rが既知であれば、式(3)がRを含んでもよいが、溶接の積層により外周半径Rが大きくなっていくため、溶接トーチ2の先端の位置の座標(Xn、Yn)から溶接部角度φnを求める方が望ましい。また、採点間隔(採点のサンプリング周波数)が大きい場合には、採点期間において溶接部角度φnが徐々に変化していくので、溶接部角度φnとしてこの採点期間における代表的な値を使用することが望ましい。例えば、本実施例では、採点期間における代表的な値として、溶接部角度φnの平均値を用いる。
【0100】
図3の説明に戻る。
【0101】
ステップS06で、制御装置10の理想動作データ生成部33は、溶接部角度φnを用いて、データベース35に格納されている複数の基準データのそれぞれについて、溶接作業者50の溶接作業における動作パラメータに対する寄与度(重みづけ)を求める。基準データのそれぞれの寄与度は、溶接部角度φnで決められる。
【0102】
ステップS07で、理想動作データ生成部33は、基準データの動作パラメータに対する寄与度を足し合わせて、溶接部角度φnにおける理想動作データを生成する。理想動作データには、溶接部角度φnにおける、溶接作業者50の溶接作業での動作パラメータの目標値と標準偏差が含まれる。
【0103】
溶接部角度φnにおける理想動作データは、実施例1と同様に、
{VDsin(φn)+DDcos(φn)}/(sin(φn)+cos(φn))
で計算される。例えば、溶接部角度φnが60度であり、動作パラメータである溶接速度について、立向溶接データ(VD)での目標値が150mm/minで標準偏差が15mm/minであり、下向溶接データ(DD)での目標値が100mm/minで標準偏差が30mm/minである場合には、理想動作の目標値は、132mm/minとなり、理想動作の標準偏差は、20mm/minとなる。
【0104】
ステップS08で、溶接動作評価部34は、n番目の採点期間において、採点アルゴリズムと理想動作データに基づいて、溶接作業者50の溶接作業におけるそれぞれの動作パラメータを採点する。
【0105】
図10は、動作パラメータの採点例を示す図である。本実施例では、動作パラメータは溶接速度であり、採点アルゴリズムには図8Aに示したものを用いている。採点アルゴリズムにおいて、理想動作の目標値は、132mm/minであり、理想動作の標準偏差は、20mm/minである。すなわち、溶接速度が132mm/minの場合には、動作パラメータの点数が100点であり、溶接速度が標準偏差の範囲内である場合には、点数が線形に変化し、溶接速度が標準偏差の範囲外(152mm/min以上または112mm/min以下)である場合には、点数が0点である。
【0106】
溶接動作評価部34は、このような採点アルゴリズムと理想動作データに基づいて、溶接作業者50の溶接速度を採点する。図10に示すように、n番目の採点期間において、溶接作業者50の溶接速度が122mm/minであるとすると、点数は50点である。
【0107】
図3の説明に戻る。
【0108】
ステップS09で、溶接動作評価部34は、採点区間の全ての採点期間について採点を行ったか否かを判定する。本実施例では、採点区間に12個の採点期間が存在する。従って、nが12未満の場合には、全ての採点期間について採点が行われていないので、nを1つ増やして(nをn+1として)ステップS04の処理に戻る。nが12であると、全ての採点期間について採点を行ったので、ステップS10の処理を実施する。
【0109】
ステップS09の処理が終了した時点で、採点区間の全ての採点期間について、理想動作データの生成と溶接作業者50の動作パラメータの採点が終了している。
【0110】
図11Aは、本実施例において生成された理想動作データの例を示す図である。本実施例では、採点区間が10~70秒(採点される時間の長さが60秒)で、採点間隔が0.2Hzであるので、採点区間において12個の採点期間が存在し12回の採点が実施される。図11Aには、この60秒の採点時間において生成された動作パラメータ(溶接速度)の目標値Gと標準偏差σを示している。図11Aにおいて、横軸が時間の経過を示し、縦軸が溶接速度を示す。なお、この60秒の採点時間の間に、溶接位置角度θ(図9)が0度から90度までの溶接が行われる。
【0111】
図11Bは、図11Aに示した理想動作データに、溶接作業者50の溶接作業における動作パラメータ(溶接速度)の値Pと、その採点結果である点数Sを示した図である。溶接作業者50の溶接速度の値Pが目標値Gに近い方ほど、点数Sが高くなり、値Pが目標値Gから離れるにつれて、点数Sが低くなっていき、値Pが標準偏差σの範囲から外れると、点数Sが0点になる。
【0112】
図3の説明に戻る。
【0113】
ステップS10で、溶接動作評価部34は、動作パラメータごとに、採点区間における動作パラメータの点数を平均化する。図11A図11Bに示した例について説明する。図11A図11Bに示すように、採点区間には、12個の採点期間が存在する。溶接作業者50の溶接作業における動作パラメータ(溶接速度)の点数は、これら12個の採点期間について次のように平均化される。
(57+53+0+83+55+85+28+58+86+52+33+21)/12
すなわち、この採点区間における、溶接作業者50の溶接速度の点数は、51点である。
【0114】
なお、溶接動作評価部34は、採点区間における動作パラメータの点数を平均化せずに、動作パラメータの点数が予め定めた基準値より高い採点期間や低い採点期間を求め、求めた採点期間を採点結果として出力インターフェース40に送信してもよい。
【0115】
ステップS11で、制御装置10は、各動作パラメータの採点が終了したので、溶接作業者50の溶接動作の採点処理を終了する。
【0116】
出力インターフェース40は、これらの採点結果や計測データ等の、制御装置10が演算したり入力したりして得たデータや情報を表示することができる。本実施例による溶接作業評価システムは、このようなデータや情報を可視化して表示することで、溶接作業者50を効果的に訓練することができる。また、このようなデータや情報は、自動的にデータベース32に保存され、今後の溶接作業者50の訓練に役立てることもできる。
【0117】
本実施例による溶接作業評価システムは、以上の構成を備え、実施例1による溶接作業評価システムと同様に、溶接作業の技能を容易に評価することができる。
【0118】
なお、本発明は、上記の実施例に限定されるものではなく、様々な変形が可能である。例えば、上記の実施例は、本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、本発明は、必ずしも説明した全ての構成を備える態様に限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能である。また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、削除したり、他の構成を追加・置換したりすることが可能である。
【符号の説明】
【0119】
1…デジタル溶接機、2…溶接トーチ、3…被溶接材、4…溶接ビード、5…溶接部角度、6…センサー、7…計測装置、8…データロガー、9…固定壁、10…制御装置、11…マーカ、12…モーションキャプチャ装置、20…入力インターフェース、30…演算装置、31…溶接部角度計算部、32…データベース、33…理想動作データ生成部、34…溶接動作評価部、35…データベース、40…出力インターフェース、50…溶接作業者。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図8C
図9
図10
図11A
図11B