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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023183216
(43)【公開日】2023-12-27
(54)【発明の名称】電動ブレーキ装置
(51)【国際特許分類】
   B60T 8/171 20060101AFI20231220BHJP
   B60T 13/74 20060101ALI20231220BHJP
   F16D 65/16 20060101ALI20231220BHJP
   F16D 121/24 20120101ALN20231220BHJP
   F16D 125/20 20120101ALN20231220BHJP
【FI】
B60T8/171 Z
B60T13/74 G
F16D65/16
F16D121:24
F16D125:20
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022096726
(22)【出願日】2022-06-15
(71)【出願人】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】瀬戸 信治
(72)【発明者】
【氏名】後藤 大輔
【テーマコード(参考)】
3D048
3D246
3J058
【Fターム(参考)】
3D048BB51
3D048HH18
3D048HH66
3D048HH68
3D048KK09
3D048KK12
3D048QQ07
3D048QQ12
3D048RR02
3D048RR11
3D048RR13
3D048RR29
3D246BA08
3D246DA01
3D246DA02
3D246EA02
3D246EA05
3D246EA10
3D246GA13
3D246GA25
3D246GB37
3D246GC09
3D246GC14
3D246HA13A
3D246HA35C
3D246HA38A
3D246HA39A
3D246HA81A
3D246HA94A
3D246HC01
3D246JB53
3D246LA13Z
3D246LA15Z
3J058AA43
3J058AA48
3J058AA53
3J058AA63
3J058AA69
3J058AA73
3J058AA78
3J058AA87
3J058BA60
3J058BA62
3J058CC15
3J058DB18
3J058DB23
3J058DB25
3J058DB29
(57)【要約】
【課題】低コストで高精度な制御が可能な電動ブレーキ装置を提供することにある。
【解決手段】
本発明は、ブレーキパッド5a,5bを押圧するための電動モータ8の回転を制御するモータ制御装置11を備える。モータ制御装置11は、電動モータ8の回転位置と電動モータ8の電流との関係を取得するモータ位置電流関係作成部43と、電動モータ8の回転位置からブレーキパッド5a,5bを押圧する制動トルクを推定する制動トルク推定部41と、モータ位置電流関係作成部43と制動トルク推定部41からの情報に基づいて電動モータ8の回転位置と制動トルクの関係を取得する制動トルク位置関係作成部42とを備える。制動トルク位置関係作成部42からの情報に基づいて電動モータ8の回転を制御する。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動モータと、前記電動モータの回転により移動する直動部と、前記直動部の移動によって発生する推力で車輪とともに回転するディスクロータを押圧するブレーキパッドと、前記電動モータの回転を制御するモータ制御装置を備えた電動ブレーキ装置において、
前記モータ制御装置は、前記電動モータの回転位置と前記電動モータの電流との関係を取得するモータ位置電流関係作成部と、
所定のタイミングにおいて前記電動モータの回転位置から前記ブレーキパッドを押圧する制動トルクを推定する制動トルク推定部と、
前記モータ位置電流関係作成部と前記制動トルク推定部からの情報に基づいて前記電動モータの回転位置と前記制動トルクの関係を取得する制動トルク位置関係作成部とを備え、
前記制動トルク位置関係作成部からの情報に基づいて前記電動モータの回転を制御することを特徴とする電動ブレーキ装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記制動トルク推定部は、車両の直進時に制動トルクを推定することを特徴とする電動ブレーキ装置。
【請求項3】
請求項2において、
前記制動トルク推定部において制動トルクを推定する際には、前記車輪を駆動するエンジン、あるいは前記車輪を駆動する主機モータと前記車輪との接続を遮断することを特徴とする電動ブレーキ装置。
【請求項4】
請求項1において、
前記モータ位置電流関係作成部は、車両走行時と車両停止時とに分けて前記電動モータの回転位置と前記電動モータの電流との関係を取得することを特徴とする電動ブレーキ装置。
【請求項5】
請求項1において、
前記モータ位置電流関係作成部は、アプライ動作とリリース動作とで分けて前記電動モータの回転位置と前記電動モータの電流との関係を取得することを特徴とする電動ブレーキ装置。
【請求項6】
請求項1において、
前記モータ位置電流関係作成部は、アプライ動作時、あるいはリリース動作時に前記電動モータの回転位置と前記電動モータの電流との関係を取得することを特徴とする電動ブレーキ装置。
【請求項7】
請求項3において、
前記制動トルク推定部は、前記エンジン、あるいは前記主機モータによる制駆動力を除いて制動トルクを推定することを特徴とする電動ブレーキ装置。
【請求項8】
請求項1において、
前記制動トルク推定部は、車両の情報を取得するセンサからの情報に基づいて制動トルクを推定することを特徴とする電動ブレーキ装置。
【請求項9】
請求項8において、
前記センサは、加速度センサ、ヨーレートセンサ、舵角センサ、GPS(Global Positioning System)の少なくとも1つであることを特徴とする電動ブレーキ装置。
【請求項10】
請求項1において、
前記制動トルク推定部は、タイヤ荷重とスリップ比とから制動トルクを推定することを特徴とする電動ブレーキ装置。
【請求項11】
請求項1において、
前記制動トルク位置関係作成部は、前記制動トルク推定部で推定された制動トルクの値を複数回取得し、取得した制動トルクの値をフィルタ処理し、前記電動モータの回転位置と前記制動トルクの関係を取得することを特徴とする電動ブレーキ装置。
【請求項12】
請求項1において、
前記モータ位置電流関係作成部は、前記電動モータの回転位置と前記電動モータの電流との関係を取得したときの環境から異なる環境になった際の特性を推定して位置とモータ電流の関係を取得することを特徴とする電動ブレーキ装置。
【請求項13】
請求項1において、
前記制動トルク推定部は、取得したときの環境から異なる環境になった際の制動トルクを推定することを特徴とする電動ブレーキ装置。
【請求項14】
請求項1において、
前記制動トルク位置関係作成部からの情報に基づいて前記電動モータの位置指令を出力する制動トルク位置指令変換部を備えたことを特徴とする電動ブレーキ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の制動に用いられる電動ブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電動ブレーキ装置では、制動力を制御するために制動力を精度よく推定することでよりきめ細かい制御が可能となる。推力センサを使用して推定することで推定精度を上げることは可能であるが、コストが増大する。推力センサを使用せずに制動力を推定する方法として、例えば特許文献1に記載の技術が提案されている。
【0003】
特許文献1では、車輪に制動力を付与した状態で駆動輪に対して駆動力が付与され、駆動輪の駆動力が制動力を上回ったときの駆動力に基づき、車輪に設けられるブレーキ機構の電動モータを駆動するための制御パラメータを較正するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2020/262278号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の技術においては、制動力を推定する際に、駆動力と比較する必要があることから、その駆動力を作り出して制御パラメータを補正する必要があった。正確な駆動力の情報を得るためには高精度なセンサの設置が必要となり、コストが増加する課題があった。また、高精度なセンサを用いずに正確な駆動力の情報を得るためには、駆動輪に特殊な動作をさせる必要があり、制御が複雑化するといった課題があった。
【0006】
本発明の目的は、低コストで高精度な制御が可能な電動ブレーキ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために本発明は、電動モータと、前記電動モータの回転により移動する直動部と、前記直動部の移動によって発生する推力で車輪とともに回転するディスクロータを押圧するブレーキパッドと、前記電動モータの回転を制御するモータ制御装置を備えた電動ブレーキ装置において、前記モータ制御装置は、前記電動モータの回転位置と前記電動モータの電流との関係を取得するモータ位置電流関係作成部と、所定のタイミングにおいて前記電動モータの回転位置から前記ブレーキパッドを押圧する制動トルクを推定する制動トルク推定部と、前記モータ位置電流関係作成部と前記制動トルク推定部からの情報に基づいて前記電動モータの回転位置と前記制動トルクの関係を取得する制動トルク位置関係作成部とを備え、前記制動トルク位置関係作成部からの情報に基づいて前記電動モータの回転を制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、低コストで高精度な制御が可能な電動ブレーキ装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施例1に係る電動ブレーキ装置の概略図である。
図2】本発明の実施例1に係る電動ブレーキ装置の制御ブロック図である。
図3】本発明の実施例1に係るモータ位置電流関係作成部で取得されるモータ電流とモータ位置の関係を示す図である。
図4】本発明の実施例1に係る制動トルク位置電流関係作成部で作成されるモータ位置と制動トルクの関係を示す図である。
図5】本発明の実施例2に係るモータ位置電流関係作成部でリリース動作時に取得されるモータ電流とモータ位置の関係を示す図である。
図6】本発明の実施例2に係る制動トルク位置関係作成部で作成されるリリース時のモータ位置と制動トルクの関係を示す図である。
図7】本発明の実施例2に係る制動トルク位置関係作成部で作成されるリリース時のモータ位置と制動トルクの関係を示す図である。
図8】本発明の実施例3に係る制動トルク位置指令変換部に用いられるモータ位置と制動トルクの関係を示す図である。
図9】本発明の実施例3に係る制動トルク位置関係作成部で作成されるモータ位置と制動トルクの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施例を、図面を使用し、説明する。なお、実質的に同一又は類似の構成には、同一の符号を付し、説明が重複する場合には、重複する説明を省略する場合がある。
【実施例0011】
先ず、実施例1に記載する電動ブレーキ装置を説明する。図1は、本発明の実施例1に係る電動ブレーキ装置の概略図である。図2は、本発明の実施例1に係る電動ブレーキ装置の制御ブロック図である。
【0012】
一般的に、自動車等の車両は、前輪の左右及び後輪の左右の4輪から構成され、各車輪にブレーキ装置が設置される。図1に示すように、ブレーキ装置1は、ディスクロータ2(回転部材)より車両内側に位置する車両の非回転部に固定されたキャリア(図示せず)に、ディスクロータ2の軸方向へ浮動可能に支持されたハウジング4と、ディスクロータ2の左右両側に配置されたブレーキパッド5a,5b(押圧部材)と、ハウジング4内に直動可能なピストン6(直動部)と、ピストン6を駆動する電動モータ8等から構成される。電動モータ8は、回転直動変換機構10及びピストン6を介してブレーキパッド5a、5bに推力を与え、ブレーキパッド5a,5bは車輪と共に回転するディスクロータ2を左右方向から押圧し、挟み込む力(パッド推力)で制動力を与える。
【0013】
電動モータ8の出力軸は、減速機9と接続され、減速機9の出力軸が回転直動変換機構10に接続され、回転直動変換機構10によりピストン6は直動方向に移動可能となる。ピストン6は、電動モータ8の回転により直動方向に移動する。
【0014】
実施例1では、ディスクロータ2、ハウジング4、ブレーキパッド5a,5b、ピストン6、電動モータ8、減速機9、回転直動変換機構10によってブレーキキャリパ3を構成している。また、回転直動変換機構10及びピストン6は直動部を構成している。
【0015】
電動モータ8は、モータ制御装置11(コントローラ)と電線12によって接続される。電動モータ8の回転制御は、モータ制御装置11によって行われる。図1では電動モータ8とモータ制御装置11は別体で記載しているが、一体とした構成であっても良い。また、図2に示すように電動モータ8には、駆動時の電流を検出する電流検出部31と位置検出部32を備える。
【0016】
モータ制御装置11は、上位制御装置(車両制御用ECU)等による制動トルク指令29を受け、電流検出部31の検出値、位置検出部32の検出値に基づいて予め設定された制御プログラム等に基づいて電動モータ8へ電流指令を与える。
【0017】
モータ制御装置11には、制御信号線21及び通信線22、23が接続されている。制御信号線21は、車両制御用ECU(Electronic Control Unit)等の上位制御装置からの制御指令をモータ制御装置11に入力するものである。通信線22、23は、上位制御装置と制御指令以外の情報を通信するものである。なお、ここでは、上位制御装置とモータ制御装置11を別体に配置したものとしているが、両者を一体化した制御装置としても良い。
【0018】
モータ制御装置11の演算方法を図2に示す。制御信号線21を介して車両制御用ECUから制動トルク指令29が与えられると、制動トルク位置指令変換部36で位置指令値に変換され、位置電流制御部44に入力される。位置電流制御部44は、位置指令を基に位置検出部32から得られた位置情報、電流検出部31で得られた電動モータ8の電流値をフィードバックし、ブレーキキャリパ3内の電動モータ8へ電流指令が与えられる。
【0019】
制動トルク位置指令変換部36は、制動トルク位置関係作成部42に基づいて作成されるモータ位置と制動トルクの関係(例えば、制動トルク位置をマップ上で表した制動トルク位置マップで表現)を基に、制動トルク指令が入力されるとモータ位置指令に変換して出力する。制動トルク位置関係作成部42は、モータ位置電流関係作成部43によるモータ位置とモータ電流の関係と制動トルク推定部41の出力から生成される。
【0020】
次にモータ位置電流関係作成部43について説明する。図3は、本発明の実施例1に係るモータ位置電流関係作成部で取得されるモータ電流とモータ位置の関係を示す図である。モータ位置電流関係作成部43は、電動モータ8の回転位置と電動モータ8の電流とを取得し、電動モータ8の回転位置と電動モータ8の電流の関係を作成する。
【0021】
電動モータ8には、電流検出部31と位置検出部32を備えていることから、例えば走行時に、ブレーキをかける際に、ブレーキパッド5a,5bをディスクロータ2に押圧する動作(アプライ動作)により、モータ位置(電動モータ8の回転位置)とモータ電流(電動モータ8の電流)を同時に計測することで、図3に示すようにモータ位置xとモータ電流Iの関係51を取得することができる。この際、モータ電流Iには通常ノイズ成分が乗ることからローパスフィルタなどを用いてフィルタ処理を行うとよい。モータ電流Iには、回転直動部等で発生する摩擦分(摩擦分のモータ電流I0)が含まれる。摩擦分はパッド接触前のクリアランス領域の電流などから推定でき、その分を差し引いて有効モータ電流Iaを抽出することでモータ位置電流の関係52が得られる。なお、さらにモータ動作の加減速が大きい際には必要に応じて慣性分を差し引くとより精度よく有効モータ電流成分が抽出できる。
【0022】
ここで、この関係を取得する条件を示す。通常走行時にはブレーキ力は小さい範囲でしか使用されず、例えば図3で示すI、IIの状態の範囲でしか動作できない。図3においてIの状態は、まだ制動力を発生させていないパッドクリアランスがある状態である。このIの状態で摩擦分のモータ電流I0を取得する。
【0023】
次にIIの状態で低推力生域での特性を取得する。IIの状態は、通常走行時においてブレーキパッド5a,5bがディスクロータ2に接触し、制動力を得ている状態である。通常走行時では発生頻度が少ない高推力の範囲の特性を得るため、停止時に、さらに推力を増加させるIIIの動作をさせることで、駐車ブレーキで発生させる推力までの範囲でモータ位置とモータ電流の関係を取得することができる。さらに駐車時に必要な推力よりもさらに大きな推力に一時的に増加させることでより高い推力のIVの領域でモータ位置とモータ電流の関係を取得することができる。
【0024】
上記のようにモータ位置電流関係作成部43は、車両走行時と車両停止時とに分けて電動モータ8の回転位置と電動モータ8の電流との関係を取得する。本実施例では、高い推力まで含めて発生させたい制動力の全領域において非線形の特性となるモータ位置xとモータ電流Iの関係を取得することができる。
【0025】
次に、ブレーキパッド5a,5bを押圧する制動トルクを推定する制動トルク推定部41について説明する。制動トルクは例えば車両状態から推定することができる。ここで制動トルクは制動時に推定する。
【0026】
ブレーキによって停止しようとする力となるタイヤ前後力Ftxは、タイヤ荷重Ftzの関数で表され、制動力の小さい範囲では線形で近似でき、かつスリップ比λに比例し次式1で示される。
【0027】
〔式1〕 Ftx=λ/Kw×Ftz
〔式2〕 λ=(Vb-Vw)/Vb
ここで、Vbは車体速、Vwは車輪速を重心位置に換算した値、Kwはタイヤ特性等によって決まる比例係数を表す
したがって、車体速Vb、車輪速Vw、タイヤ荷重Ftz、比例係数Kwが決まればタイヤ前後力Ftxが推定できる。タイヤ前後力Ftxにはエンジン車でのエンジン、あるいは電気自動車では主機モータによる制駆動力Fdが含まれるため、式3に示すようにタイヤ荷重Ftzから制駆動力Fdを差し引いた値が制動トルクによる制動力となる。そこで、エンジン、モータによって発生する制駆動力を推定した値から差し引く(除く)ことで制動力Fbが推定可能である。
【0028】
〔式3〕 Fb=Ftx-Fd
タイヤ荷重Ftzは車重を用いて、車体のロール動作やピッチ動作により変動した分を考慮して推定する。
【0029】
ここで、制動力Fbにタイヤ半径Rを掛けることで制動トルクTbを推定できる。このとき、同時に電動モータ8の回転位置x(モータ位置)を計測しているので、その値と推定された制動トルクとの関係がわかる。ここで、位置xとしてモータ回転位置を示したが、これを回転直動部で変換した直動部分の例えばピストン6での直動変位を計測または推定したものを用いてもよい。これにより、例えば図4のモータ位置x0での制動トルクTbx0推定が可能である。図4は、本発明の実施例1に係る制動トルク位置電流関係作成部で作成されるモータ位置と制動トルクの関係を示す図である。
【0030】
制動トルク推定部41において制動トルクを推定する際には、上述のようにタイヤ荷重Ftz、車輪速Vw、制駆動力Fdの推定が必要である。以下、それらの推定タイミングについて説明する。
【0031】
まず、車輪を駆動するエンジン、あるいは車輪を駆動する主機モータと車輪の接続をクラッチ等により遮断する状態にすると、制駆動力Fd=0とすることができ、制駆動力Fdの推定が必要なくなり、それによる誤差も除去できる。あるいは、制駆動力Fdの影響が小さい状態とすれば、タイヤ荷重Ftzと制駆動力Fdの関係は、Ftz≫Fdであり制駆動力Fdの推定誤差の影響を小さくできる。
【0032】
また、旋回中は、タイヤ荷重Ftzが左右で変化し、その推定も必要になる点、各輪の車輪速の重心位置への変換が必要な点でその推定を行う必要がある。そこで、直進時に限定することで推定誤差を小さくできる。
【0033】
また、傾斜がある場合には、傾斜による加減速によって、推定誤差が大きくなる場合もあるため、傾斜が少ないときに限定して推定することで推定誤差を小さくできる。
【0034】
以上のように所定のタイミングにおいて誤差要因を少なくする条件をいくつか選ぶことで、それぞれ推定誤差の要因を除去できるので推定精度を高めることが可能である。
【0035】
なお、制動トルク推定の方法としては上記した以外に、車両の情報を取得する各種センサからの情報に基づいて推定してもよい。各種センサとしては、例えば、加速度センサ、ヨーレートセンサ、舵角センサ、GPS(Global Positioning System:全地球測位システム)などがあり、少なくとも何れか1つを用いる。これらの情報は、図2のセンサ情報40として制動トルク推定部41に入力される。
【0036】
次に、制動トルク位置関係作成部42について説明する。制動トルク位置関係作成部42は、モータ位置電流関係作成部43と制動トルク推定部41からの情報に基づいて電動モータ8の回転位置と制動トルクの関係を取得する。
【0037】
モータ位置電流関係作成部43ではモータ電流Iとモータ位置xの関係を把握できていることから、制動トルク推定部41で推定する際のモータ位置x0におけるモータ電流Iax0もモータ位置電流関係作成部43で得た関係から算出できる。
【0038】
通常、有効モータ電流成分とモータで発生するトルク、それによって発生する制動トルクは比例することから、比例係数ktiaが次式で算出できる。
【0039】
〔式4〕 ktia=Tbax0/Iax0
この比例係数ktiaは、例えば、複数点でのデータを用いて精度を高めるようにするとよい。そして、複数点のデータの平均から算出して求めるなどで高精度化できる。また複数点の中で他の値に比べ値が大きく外れているノイズ値がある場合には除去するようにするとより精度が高まる。このKtiaを用いて制動トルクTbaは次式のように書ける。
【0040】
〔式5〕 Tba=Ktia×Ia
したがって、図3に示すモータ電流Iaとモータ位置の特性に対してktiaを全体に掛けた制動トルクTbaとモータ位置xの関係53(図4)を得ることができる。
【0041】
次に制動トルク制御の方式について再度説明する。上位からの制動トルク指令29が入力されると、制動トルク位置指令変換部36では図4に示す制動トルク指令29がTbrefであった場合、制動トルクTbとモータ位置xの関係53に基づいて、モータ位置がxrefと求まる。そして、位置電流制御部44に位置指令としてxrefが入力され、位置検出部32で検出された値とを比較しフィードバック制御がなされ、電流指令に変換されて電動モータ8に出力される。なお、制動トルク指令29の代わりにタイヤにかかる制動力をそのまま指令値としてもよい。
【0042】
本実施例によれば、通常個体差の大きい、各部剛性の違い、モータ特性の違いによって異なる位置と制動トルク間の特性の違いや、通常の制動動作時に検出することにより、経年で変化するモータ位置と制動トルク間の特性も考慮した高精度な制動トルク制御を行うことができる。また、本実施例では、制動トルク制御に推力センサを用いていないので、低コスト化が可能となる。
【実施例0043】
次に本発明の実施例2について説明する。実施例1ではアプライ動作でのマップ作成を示したが、実施例2ではリリース動作時のマップ作成方法について説明する。図5は、本発明の実施例2に係るモータ位置電流関係作成部でリリース動作時に取得されるモータ電流とモータ位置の関係を示す図である。図6は、本発明の実施例2に係る制動トルク位置関係作成部で作成されるリリース時のモータ位置と制動トルクの関係を示す図である。図7は、本発明の実施例2に係る制動トルク位置関係作成部で作成されるリリース時のモータ位置と制動トルクの関係を示す図である。
【0044】
リリース動作時に得られるモータ電流とモータ位置の関係を図5に示す。実施例1で説明したように、停止時に電動モータを駐車ブレーキに必要な推力よりもさらに高い領域IVまで動作させ、その後一旦駐車ブレーキに必要な推力まで戻す動作を行うことから、その際に領域IVでのモータ電流Iとモータ位置xの関係61が得られる。その後、駐車時の駐車ブレーキを解除することでIII、II、Iの順に、リリース時のモータ電流とモータ位置の関係62を取得でき、アプライ時と同様に摩擦分のモータ電流I0を考慮した有効電流Irとモータ位置xの関係を取得することができる。
【0045】
一方、走行時にも、アプライ動作させた後、リリース動作を行う場面において、図5のIIからIの状況に向けて電流を下げる方向に動作し、モータ位置xとモータ電流Iの関係61が得られる。そして、ブレーキパッドにクリアランスが生じると領域Iのほぼ電流が一定となり、摩擦相当のモータ電流I0が得られる。
【0046】
次に制動トルク推定部41について説明する。制動トルクはアプライ時と同様に例えば車両状態から推定することができる。ここで制動トルクはブレーキ制動を解除する動作の時に推定する。この際、同時にモータ位置も計測することでモータ位置x0における制動トルクTbx0が推定できる。
【0047】
アプライ時と同様に、モータ位置x0での有効モータ電流Irも図5から取得できる。有効モータ電流Irと発生する制動トルクは比例することから、比例係数が算出できる。
【0048】
〔式6〕 ktir=Tbx0/Ix0
この比例係数ktirはアプライ時同様に複数点から求めてよい。このKtirを用いて制動トルクは次式のように書ける。
【0049】
〔式7〕 Tbr=Ktir×Ir
すなわち、図5に示すモータ電流Irとモータ位置xの特性に対してktirを全体にかけることで制動トルクTbとモータ位置xの関係63(図6)を得ることができる。
【0050】
これにより、一般的には正効率と逆効率は必ずしも一致しないので、図7に示すようにアプライ側の特性(Tba-x)53とリリース側の特性(Tbr-x)63の2つの特性が得られる。
【0051】
この特性を基に、制動トルク位置指令変換部36では制動トルク指令Tbrefが入力された場合に、アプライ動作か、リリース動作かを判断したうえで、モータ位置指令xrefに変換し、位置電流制御部44に出力する。位置電流制御部44では、モータ位置指令xrefと位置検出部32で検出された値とを比較し、フィードバック制御がなされ、電流指令に変換されて電動モータ8に出力される。
【0052】
本実施例によれば、アプライ動作とリリース動作を分けて指令することで、その動作に応じた高精度な制動トルク制御が可能となる。
【実施例0053】
次に本発明の実施例3について図8および図9を用いて説明する。図8は、本発明の実施例3に係る制動トルク位置指令変換部に用いられるモータ位置と制動トルクの関係を示す図である。図9は、本発明の実施例3に係る制動トルク位置関係作成部で作成されるモータ位置と制動トルクの関係を示す図である。
【0054】
実施例3では、実施例1、2で説明したモータ位置電流関係作成部43にてモータ位置とモータ電流の関係を取得する際の環境(環境A)、制動トルク推定部41にて制動トルクを推定する際の環境(環境B)、さらにこの結果を基に制御する環境(環境C)が異なることで特性が変化することを考慮した場合の例を示す。
【0055】
例えば、温度によってブレーキパッドや機器が収縮膨張すること等によって剛性が変化し、また電動モータ8のトルク定数の変化等によってモータ電流Iとモータ位置xとの関係が変化する。
【0056】
電動モータ8で発生させたトルクや回転直動を介して変換された推力が制動トルクに変換される際のブレーキパッドの摩擦係数も、温度や回転速度によって変化する場合がある。
【0057】
そこで、実施例3では、モータ位置電流関係作成部43に、環境変化に対する関係を予め記憶しておく、若しくは定式化しておく。例えば、式8に示すような変換式を用意しておく。一例として、同じ推力が発生するモータ位置xが次式のように変化することを定式化しておく。
【0058】
〔式8〕 x=a×Tpad+b
ここでTpadはブレーキパッド温度、a,bはそれぞれ温度に対する傾きと切片を表す。この値から標準状態(例えば常温と設定する)での特性を推定するようにする。
【0059】
例えば図8に示すように、環境Aとしてブレーキパッド温度が300℃、モータ温度が60℃の状態だった場合に、(1)に示すような特性が得られたとする。その場合、ブレーキパッド5a、5bが式8に基づき常温の場合に一旦変換し、その特性として(2)を求める。また、モータ温度に関しても、通常トルク定数が低温ほど減少することから、同じトルクを発生する地点では、モータ電流が減少し(3)のように、モータ常温時、ブレーキパッド常温時での特性が求められる。
【0060】
ここで、ブレーキパッド温度やモータ温度は、直接計測してもよく、作動回数などから推定したものでもよい。
【0061】
一方、制動トルクは電動モータ8で発生する推力に対してブレーキパッド5a、5bとディスクロータ2間の摩擦係数がかかったものとなる。しかし、摩擦係数は、接触する物体の温度や相対速度などの環境で変化する。そこで制動トルク推定部41では、取得した環境から異なる環境になった際に、ブレーキパッド5a、5bの温度や相対速度を推定あるいは計測する。この場合においても標準状態(例えば常温、速度をV0)を決めておき、図9に示すような実際に計測された制動トルクとモータ位置(Tbx0m、x0m)に対して標準状態だった場合の制動トルクとモータ位置(Tbx0、x0)を算出する。
【0062】
この標準状態での値を必要に応じてアプライ時とリリース時を分けて式4、または式6に基づいて比例係数を算出する。
【0063】
そして、図8の(3)の特性に、例えば比例係数Ktirをかけて図9の実線で示すモータ位置xと制動トルクTbaまたはTbrの関係71を得る。
【0064】
さらに制御を実施する際には、標準状態での制動トルクとモータ位置の関係から制御する際の環境(環境C)(モータ温度、ブレーキパッド温度、相対速度)、制動トルクとモータ位置の関係71を算出する。この関係を基に制動トルク指令が算出された場合のモータ位置をモータ位置指令として位置電流制御部に出力する。
【0065】
本実施例によれば、モータ位置電流関係作成部43でモータ位置電流関係を取得する際の環境(環境A)と制動トルク推定部41で制動トルク推定部を推定する環境(環境B)、さらにこの結果を基に制御する環境(環境C)が異なる場合でも、精度よく制動トルクの制御が可能となる。
【実施例0066】
次に実施例4について説明する。実施例4では、実施例1から3にて説明した制動トルク位置関係作成部42での制動トルクとモータ位置の関係を更新するタイミングについて説明する。
【0067】
実施例1から3で算出する有効モータ電流と発生する制動トルクの間の比例係数ktiaまたはktirに関しては、経年で変化する割合は実際には小さい。特に実施例3で説明したように標準状態に換算するとその変化は小さい。したがって、制動トルク推定時で検出されたktiaまたはktirが前回値と大きく変わるような場合(たとえば10%以上変化)はノイズとしてその値を採用せず、前回値を採用するような処理を行う。これにより誤差を低減できる。
【0068】
また、制動トルク位置関係作成部42は、制動トルク推定部41で推定された制動トルクの値を複数回取得し、取得した制動トルクの値を平均化、あるいはフィルタ処理し、フィルタ処理した値ktiaまたはktirとして、電動モータ8の回転位置と制動トルクの関係を取得し、更新するようにしても良い。これにより、誤差要因を小さくし、精度を向上することが可能となる。
【0069】
なお、各実施例ではディスクブレーキを用いた電動ブレーキを例に説明したが、各種ブレーキ、たとえばドラムブレーキにおいて、電動モータ等によりピストンを動作させることで、ブレーキライニングを回転体であるブレーキドラムに押し付けて制動力を発生させる構成としてもよい。
【符号の説明】
【0070】
1…ブレーキ装置、2…ディスクロータ、3…ブレーキキャリパ、4…ハウジング、5a、5b…ブレーキパッド、6…ピストン、8…電動モータ、9…減速機、10…回転直動変換機構、11…モータ制御装置、29…制動トルク指令、31…電流検出部、32…位置検出部、36…制動トルク位置指令変換部、41…制動トルク推定部、42…制動トルク位置関係作成部、43…モータ位置電流関係作成部、44…位置電流制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9