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特開2023-183234画像処理装置、画像処理方法およびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023183234
(43)【公開日】2023-12-27
(54)【発明の名称】画像処理装置、画像処理方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   H04N 1/405 20060101AFI20231220BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20231220BHJP
【FI】
H04N1/405
B41J2/01 203
【審査請求】未請求
【請求項の数】29
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022096751
(22)【出願日】2022-06-15
(71)【出願人】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】溝口 慶範
(72)【発明者】
【氏名】石川 尚
(72)【発明者】
【氏名】山田 顕季
【テーマコード(参考)】
2C056
5C077
【Fターム(参考)】
2C056EA07
2C056EC74
2C056EC76
2C056EC77
2C056EC79
2C056ED05
2C056FA10
2C056FA11
5C077LL19
5C077MP01
5C077NN08
5C077TT05
(57)【要約】
【課題】走査間レジずれに対する画質低下を抑制することができる画像処理装置を提供する。
【解決手段】第1の閾値マトリクスおよび第3の閾値マトリクスを用いて第1の走査に対応する第1の記録データに対する量子化処理を実行し、第2の閾値マトリクスおよび第4の閾値マトリクスを用いて第2の走査に対応する第2の記録データに対する量子化処理を実行する。第3の閾値マトリクスを用いて量子化された結果であるドット配置と、第4の閾値マトリクスを用いて量子化された結果であるドット配置とが排他関係にある第1の度合いは、第1の閾値マトリクスを用いて量子化された結果であるドット配置と、第2の閾値マトリクスを用いて量子化された結果であるドット配置とが排他関係にある第2の度合いよりも小さい。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像データを入力する入力手段と、
前記入力手段により入力された前記画像データから、記録手段の複数回の走査のそれぞれで用いられる記録データを生成する生成手段と、
前記画像データが表す階調値に基づいて、閾値マトリクスを取得する取得手段と、
前記取得手段により取得された前記閾値マトリクスを用いて、前記記録データに対する量子化処理を実行する量子化手段と、
を備え、
前記取得手段は、階調値が第1の範囲に含まれる場合に、前記複数回の走査のうち、第1の走査に対応する第1の閾値マトリクスを取得し、第2の走査に対応する第2の閾値マトリクスを取得し、階調値が前記第1の範囲よりも高階調側の第2の範囲に含まれる場合に、前記第1の走査に対応する第3の閾値マトリクスを取得し、前記第2の走査に対応する第4の閾値マトリクスを取得し、
前記量子化手段は、前記第1の閾値マトリクスおよび前記第3の閾値マトリクスを用いて前記第1の走査に対応する第1の記録データに対する量子化処理を実行し、前記第2の閾値マトリクスおよび前記第4の閾値マトリクスを用いて前記第2の走査に対応する第2の記録データに対する量子化処理を実行し、
前記第3の閾値マトリクスを用いて量子化された結果であるドット配置と、前記第4の閾値マトリクスを用いて量子化された結果であるドット配置とが排他関係にある第1の度合いは、前記第1の閾値マトリクスを用いて量子化された結果であるドット配置と、前記第2の閾値マトリクスを用いて量子化された結果であるドット配置とが排他関係にある第2の度合いよりも小さい、
ことを特徴とする画像処理装置。
【請求項2】
前記第1の度合いおよび前記第2の度合いは、重なりがないと想定される場合において異なる閾値マトリクスを用いて量子化された結果であるドット配置の総画素数に対する、前記異なる閾値マトリクスを用いて量子化された結果重なりが生じる画素数の比率として表されることを特徴とする請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項3】
前記入力手段は、前記画像データを記録する際の記録条件を取得し、
前記第1の範囲および前記第2の範囲は、前記記録条件に応じて決定されることを特徴とする請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項4】
前記第1の閾値マトリクスと前記第3の閾値マトリクスは、同じ閾値マトリクスであることを特徴とする請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項5】
前記第1の範囲と前記第2の範囲は重複せず、切替え階調値を介して切り替わり、
前記記録条件が、第1の記録条件の場合の前記切替え階調値と、第2の記録条件の場合の前記切替え階調値は異なることを特徴とする請求項3に記載の画像処理装置。
【請求項6】
前記第1の記録条件の場合の前記切替え階調値は、前記第2の記録条件の場合の前記切替え階調値より小さいことを特徴とする請求項5に記載の画像処理装置。
【請求項7】
前記第1の記録条件による走査間のドットの重なり量は、前記第2の記録条件による走査間のドットの重なり量よりも大きいことを特徴とする請求項6に記載の画像処理装置。
【請求項8】
前記第1の記録条件で規定される記録媒体の種類は、前記第2の記録条件で規定される記録媒体の種類よりもインクの浸透性が高いことを特徴とする請求項7に記載の画像処理装置。
【請求項9】
前記第1の記録条件で規定される前記記録手段の走査速度は、前記第2の記録条件で規定される前記記録手段の走査速度より速いことを特徴とする請求項7に記載の画像処理装置。
【請求項10】
前記第1の閾値マトリクスと前記第2の閾値マトリクスを記憶したメモリをさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項11】
前記第2の閾値マトリクスは、前記第1の閾値マトリクスの閾値を変更することにより生成されることを特徴とする請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項12】
前記記録データが表す階調値を所定の比率で、前記第1の記録データと前記第2の記録データに割り当てる割当て手段、をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項13】
前記割当て手段は、前記第1の記録データと前記第2の記録データそれぞれに対して等しい比率で割り当てることを特徴とする請求項12に記載の画像処理装置。
【請求項14】
前記第1の範囲において、前記割当て手段により前記第1の記録データに割り当てられる比率は、前記第2の記録データに割り当てられる比率より大きいことを特徴とする請求項12に記載の画像処理装置。
【請求項15】
前記第2の範囲における前記第1の範囲との切替え付近では、前記割当て手段により前記第1の記録データに割り当てられる比率は、前記第2の記録データに割り当てられる比率より大きいことを特徴とする請求項12に記載の画像処理装置。
【請求項16】
前記量子化手段により量子化処理が実行されたデータを前記記録手段に出力する出力手段、をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項17】
前記記録手段を含むことを特徴とする請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項18】
前記複数回の走査は2回の走査であることを特徴とする請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項19】
前記第1の閾値マトリクスと前記第2の閾値マトリクスの間のドット配置が排他関係にある前記第1の度合いと、前記第3の閾値マトリクスと前記第4の閾値マトリクスの間のドット配置が排他関係にある前記第2の度合いは、予め測定されたドットの重なりの評価値として記憶されていることを特徴とする請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項20】
画像データを入力する入力工程と、
前記入力工程において入力された前記画像データから、記録手段の複数回の走査のそれぞれで用いられる記録データを生成する生成工程と、
前記画像データが表す階調値に基づいて、閾値マトリクスを取得する取得工程と、
前記取得工程において取得された前記閾値マトリクスを用いて、前記記録データに対する量子化処理を実行する量子化工程と、
を有し、
前記取得工程では、階調値が第1の範囲に含まれる場合に、前記複数回の走査のうち、第1の走査に対応する第1の閾値マトリクスを取得し、第2の走査に対応する第2の閾値マトリクスを取得し、階調値が前記第1の範囲よりも高階調側の第2の範囲に含まれる場合に、前記第1の走査に対応する第3の閾値マトリクスを取得し、前記第2の走査に対応する第4の閾値マトリクスを取得し、
前記第3の閾値マトリクスを用いて量子化された結果であるドット配置と、前記第4の閾値マトリクスを用いて量子化された結果であるドット配置とが排他関係にある第1の度合いは、前記第1の閾値マトリクスを用いて量子化された結果であるドット配置と、前記第2の閾値マトリクスを用いて量子化された結果であるドット配置とが排他関係にある第2の度合いよりも小さい、
ことを特徴とする画像処理方法。
【請求項21】
請求項20に記載の画像処理方法の各工程をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項22】
画像データを入力する入力手段と、
前記入力手段により入力された前記画像データから、記録手段の第1の走査及び第2の走査を含む複数回の走査のそれぞれで用いられる記録データを生成する生成手段と、
閾値マトリクスを用いて前記複数回の走査のそれぞれに対応する記録データに対して量子化処理を行う量子化手段と、
を備え、
前記量子化手段は、
前記画像データが表す階調値が第1の範囲に含まれる場合、前記第1の走査に対応する記録データと第1の閾値マトリクスとを用いて量子化処理を行うことにより前記第1の走査に対応する第1の量子化データを取得し、前記第1の走査に対応する記録データを用いて、前記第2の走査で記録すべき記録データ及び前記第1の閾値マトリクスの少なくとも一方をオフセットし、オフセット後の記録データ及び前記第1の閾値マトリクスを用いて量子化処理を行うことにより前記第2の走査に対応する第2の量子化データを取得し、
前記画像データが表す階調値が前記第1の範囲よりも高階調側の第2の範囲に含まれる場合、前記第1の走査に対応する記録データと前記第1の閾値マトリクスとを用いて量子化処理を行うことにより前記第1の走査に対応する第3の量子化データを取得し、前記第2の走査に対応する記録データと前記第1の閾値マトリクスとは異なる第2の閾値マトリクスとを用いて量子化処理を行うことにより前記第2の走査に対応する第4の量子化データを取得する、
ことを特徴とする画像処理装置。
【請求項23】
前記量子化手段は、前記第1の走査に対応する記録データを前記第1の閾値マトリクスから減算することによりオフセットすることを特徴とする請求項22に記載の画像処理装置。
【請求項24】
前記量子化手段は、前記第1の走査に対応する記録データを前記第2の走査に対応する記録データに加算することによりオフセットすることを特徴とする請求項22に記載の画像処理装置。
【請求項25】
前記第1の量子化データの第1のドット配置と、前記第2の量子化データの第2のドット配置とが重なりがないと想定される場合におけるドット配置の総数に対する、前記第1のドット配置と前記第2のドット配置との間で重なりが生じる数の比率を第1の比率とし、
前記第3の量子化データの第3のドット配置と、前記第4の量子化データの第4のドット配置とが重なりがないと想定される場合におけるドット配置の総数に対する、前記第3のドット配置と前記第4のドット配置との間で重なりが生じる数の比率を第2の比率とし、
前記第1の比率は、前記第2の比率よりも低いことを特徴とする請求項22に記載の画像処理装置。
【請求項26】
画像データを入力する入力工程と、
前記入力工程において入力された前記画像データから、記録手段の第1の走査及び第2の走査を含む複数回の走査のそれぞれで用いられる記録データを生成する生成工程と、
閾値マトリクスを用いて前記複数回の走査のそれぞれに対応する記録データに対して量子化処理を行う量子化工程と、
を有し、
前記量子化工程では、
前記画像データが表す階調値が第1の範囲に含まれる場合、前記第1の走査に対応する記録データと第1の閾値マトリクスとを用いて量子化処理を行うことにより前記第1の走査に対応する第1の量子化データを取得し、前記第1の走査に対応する記録データを用いて、前記第2の走査で記録すべき記録データ及び前記第1の閾値マトリクスの少なくとも一方をオフセットし、オフセット後の記録データ及び前記第1の閾値マトリクスを用いて量子化処理を行うことにより前記第2の走査に対応する第2の量子化データを取得し、
前記画像データが表す階調値が前記第1の範囲よりも高階調側の第2の範囲に含まれる場合、前記第1の走査に対応する記録データと前記第1の閾値マトリクスとを用いて量子化処理を行うことにより前記第1の走査に対応する第3の量子化データを取得し、前記第2の走査に対応する記録データと前記第1の閾値マトリクスとは異なる第2の閾値マトリクスとを用いて量子化処理を行うことにより前記第2の走査に対応する第4の量子化データを取得する、
ことを特徴とする画像処理方法。
【請求項27】
前記量子化工程では、前記第1の走査に対応する記録データを前記第1の閾値マトリクスから減算することによりオフセットすることを特徴とする請求項26に記載の画像処理方法。
【請求項28】
前記量子化工程では、前記第1の走査に対応する記録データを前記第2の走査に対応する記録データに加算することによりオフセットすることを特徴とする請求項26に記載の画像処理方法。
【請求項29】
前記第1の量子化データの第1のドット配置と、前記第2の量子化データの第2のドット配置とが重なりがないと想定される場合におけるドット配置の総数に対する、前記第1のドット配置と前記第2のドット配置との間で重なりが生じる数の比率を第1の比率とし、
前記第3の量子化データの第3のドット配置と、前記第4の量子化データの第4のドット配置とが重なりがないと想定される場合におけるドット配置の総数に対する、前記第3のドット配置と前記第4のドット配置との間で重なりが生じる数の比率を第2の比率とし、
前記第1の比率は、前記第2の比率よりも低いことを特徴とする請求項26に記載の画像処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像処理装置、画像処理方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
疑似階調法を用いて画像を記録装置で記録する場合、多値の画像データを量子化する必要があるが、この際に利用される量子化画像の生成手法として、誤差拡散法やディザ法が知られている。特に、予め記憶されている閾値と多値データの階調値とを比較してドットの記録または非記録を決定するディザ法では、誤差拡散法に比べて処理負荷が小さく、多くの画像処理装置で有用されている。
【0003】
ディザを用いた多値量子化においては、ドット配置が理想的に置かれた状態における粒状性に関わる様々な画質改善が試みられてきた。例えば、記録ヘッドが複数回走査する環境下では、記録媒体への着弾位置について、走査間でズレが発生(以降、走査間レジずれと称す)する。実際の記録動作においてドットの着弾位置がずれることに関する粒状性とずれに対するロバスト性の両立について改善が求められている。特許文献1には、走査間レジずれへの対処として、入力信号の濃度に従い、走査間の閾値マトリクスを事前にロバスト性を考慮して設計することが記載されている。特許文献2には、複数の色材それぞれについて閾値マトリクスを設定することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015-66943号公報
【特許文献2】特開2017-38127号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
走査間レジずれの程度は、種々の記録条件に応じて変わり得る。そのため、各記録条件に応じて閾値マトリクスを用意しておくことが想定される。
【0006】
本発明は、走査間レジずれに対する画質低下を抑制する画像処理装置、画像処理方法及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明に係る画像処理装置は、画像データを入力する入力手段と、前記入力手段により入力された前記画像データから、記録手段の複数回の走査のそれぞれで用いられる記録データを生成する生成手段と、前記画像データが表す階調値に基づいて、閾値マトリクスを取得する取得手段と、前記取得手段により取得された前記閾値マトリクスを用いて、前記記録データに対する量子化処理を実行する量子化手段と、を備え、前記取得手段は、階調値が第1の範囲に含まれる場合に、前記複数回の走査のうち、第1の走査に対応する第1の閾値マトリクスを取得し、第2の走査に対応する第2の閾値マトリクスを取得し、階調値が前記第1の範囲よりも高階調側の第2の範囲に含まれる場合に、前記第1の走査に対応する第3の閾値マトリクスを取得し、前記第2の走査に対応する第4の閾値マトリクスを取得し、前記量子化手段は、前記第1の閾値マトリクスおよび前記第3の閾値マトリクスを用いて前記第1の走査に対応する第1の記録データに対する量子化処理を実行し、前記第2の閾値マトリクスおよび前記第4の閾値マトリクスを用いて前記第2の走査に対応する第2の記録データに対する量子化処理を実行し、前記第3の閾値マトリクスを用いて量子化された結果であるドット配置と、前記第4の閾値マトリクスを用いて量子化された結果であるドット配置とが排他関係にある第1の度合いは、前記第1の閾値マトリクスを用いて量子化された結果であるドット配置と、前記第2の閾値マトリクスを用いて量子化された結果であるドット配置とが排他関係にある第2の度合いよりも小さいことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、走査間レジずれに対する画質低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】記録システムの制御の構成を示すブロック図である。
図2】記録装置の記録部の構成を説明するための側断面図である。
図3】記録ヘッドをノズル面側から見た図である。
図4】画像データの処理を示すフローチャートである。
図5】走査回数分解処理、量子化処理を実行する構成を示すブロック図である。
図6】量子化処理を示すフローチャートである。
図7】量子化結果を示す図である。
図8】ムラ改善を説明するための図である。
図9】ムラ改善を説明するための図である。
図10】レジずれが発生する様子を示す図である。
図11】閾値マトリクスの候補選択の処理を説明するための図である。
図12】閾値マトリクスの選択処理を示すフローチャートである。
図13】ドットオンドットの発生確率の特徴を説明するための図である。
図14】走査間でレジずれが生じた際の影響を説明するための図である。
図15】走査間でレジずれが生じた際の影響を説明するための図である。
図16】入力階調値に対応した閾値マトリクスの選択を説明するための図である。
図17】閾値マトリクスの候補選択を説明するための図である。
図18】量子化処理を示すフローチャートである。
図19】入力階調値に対応した閾値マトリクスの選択を説明するための図である。
図20】入力階調値に対応した閾値マトリクスの選択を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。なお、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。実施形態には複数の特徴が記載されているが、これらの複数の特徴の全てが発明に必須のものとは限らず、また、複数の特徴は任意に組み合わせられてもよい。さらに、添付図面においては、同一若しくは同様の構成に同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0011】
[第1実施形態]
図1は、本実施形態に適用可能な記録システムの制御の構成の一例を示すブロック図である。本実施形態における記録システムは、画像供給装置3、画像処理装置2およびインクジェット記録装置1(以下、単に記録装置とも言う)を含んで構成されている。画像供給装置3から供給された画像データは、画像処理装置2にて所定の画像処理が施された後、記録装置1に送られ、記録媒体上への記録(印刷)が行われる。
【0012】
記録装置1において、記録装置主制御部100は記録装置1全体を制御するためのものであり、CPU、ROM、RAMなどを含んで構成されている。記録バッファ101は、記録ヘッド102に転送する前の画像データを、ラスタデータとして記憶する。記録ヘッド102は、インク滴を吐出可能な複数のノズルを有するインクジェット記録方式の記録ヘッドであり、記録バッファ101に記憶された画像データに従って、各ノズルからインクを吐出する。本実施形態では、一例として、シアン、マゼンタ、イエローおよびブラックの4色分のノズル列が、記録ヘッド102上に配列されるものとする。
【0013】
給排紙モータ制御部103は、記録媒体の搬送や給排紙の制御を行い、記録ヘッド102から吐出されるインク滴を記録媒体上の正確な位置に着弾させるよう記録媒体の位置を制御する。給排紙モータ制御部103は、記録ヘッド102が複数回走査を行う場合を考慮して、モータのスタート・ストップ動作を実施可能である。
【0014】
記録装置インタフェース(I/F)104は、画像処理装置2との間でデータ信号の授受を行う。I/F信号線114は、記録装置1と画像処理装置2を接続する。I/F信号線114の種類としては、例えばセントロニクス社の仕様のものを適用可能である。データバッファ105は、画像処理装置2から受信した画像データを一時的に記憶する。操作部106は、開発者等のユーザによるコマンド操作を受け付けるための機構を持つ。システムバス107は、記録装置1の各機能ブロック間を接続する。
【0015】
画像処理装置2において、画像処理装置主制御部108は、画像供給装置3から供給された画像データに対して様々な処理を行って記録装置1が記録可能な画像データを生成する。画像処理装置主制御部108は、CPU、ROM、RAM等を含んで構成されている。画像処理装置主制御部108は、図1に示すように記録装置1本体とは異なる装置で構成されても良いし、記録装置1本体に構成されても良い。なお、後述する図5に示す量子化の構成は、画像処理装置主制御部108に備えられており、図4で説明するフローチャートは、画像処理装置主制御部108のCPUにより実行されるものである。量子化処理で用いられるディザの閾値マトリクスは、画像処理装置主制御部108内のROMに予め記憶されている。画像処理装置インタフェース(I/F)109は、記録装置1との間でデータ信号の授受を行う。外部接続インタフェース(I/F)113は、外部に接続された画像供給装置3との間で、画像データなどの授受を行う。表示部110は、ユーザに対して様々な情報を表示し、例えばLCDなどが適用可能である。操作部111は、ユーザからのコマンド操作を受け付けるための機構であり、例えばキーボードやマウスを適用可能である。システムバス112は、画像処理装置2の各機能ブロック間を接続する。
【0016】
図2は、本実施形態に使用可能な記録装置1の記録部の構成を説明するための側断面図である。4つのインク色に対応するノズルを備えた記録ヘッド102と光学センサ206を搭載したキャリッジ201は、ベルト205を介して伝達されるキャリッジモータの駆動力によって、図のX方向に往復移動可能になっている。X方向への往復移動を走査回数と表現する。キャリッジ201が記録媒体に対し相対的にX方向に移動する最中、記録ヘッド102が記録データに従ってZ方向にインク滴を吐出することにより、プラテン204上に配置された記録媒体に1走査分の画像が記録される。
【0017】
X方向への移動が記録媒体の同一領域に複数回実施されることを「複数回走査」と呼ぶ。複数回走査を実施する目的の一つとして「濃度の達成」がある。つまり、必要な濃度を達成するためのインク吐出回数を複数のキャリッジ走査によって実現するものである。他の目的としては「スジ・ムラの改善」がある。記録ヘッド102に備わったノズルはそれぞれ、吐出量が僅かに異なる場合がある。プリンタ製造時の公差や、継続使用することにより吐出量がずれていくことがある。複数回走査による記録によって、こうした吐出量差を記録媒体上で目立たなくすることができる。必要な記録走査数が終了すると、記録媒体は1走査分の記録幅に対応した距離だけ図のX方向とは交差するY方向(搬送方向)に搬送される。このような複数回のX方向の記録ヘッド102の移動とY方向の記録媒体の移動を交互に繰り返すことにより、記録媒体上に徐々に画像が形成される。
【0018】
光学センサ206は、キャリッジ201とともに移動しながら記録媒体の検出動作を行うことにより、プラテン204上に記録媒体が存在するか否かの信号を検出する。キャリッジ201の走査領域であってプラテン204から外れた位置には、記録ヘッド102のメンテナンス処理を行うための回復部203が設けられている。図2に示すように、キャリッジ201は、X方向に移動しながらインク滴の吐出を行い、X方向の移動を停止すると、Y方向への記録媒体の搬送が行われる。
【0019】
図8及び図9は、複数回走査によるムラ改善の例を示す図である。図8及び図9では、記録ヘッド102は8つのインク色のノズルを備えており、記録ヘッド102内のY方向に等間隔にノズルが配置されているとする。図8(a)及び図9(a)はそれぞれ1回の走査回数で記録媒体の同一領域への吐出を完了する1回走査の構成を示している。図8(b)及び図9(b)はそれぞれ2回の走査回数で記録媒体の同一領域への吐出を完了する複数回走査の構成を示している。図8(b)及び図9(b)において、濃い部分で示した吐出結果はノズル1~4によるもの、薄い部分で示した吐出結果はノズル5~8によるもの、として区別して示している。但し、実際は、どちらも同色のインクタンクと繋がっている。
【0020】
図8(a)及び図8(b)は8つのノズル間の吐出量が均一である。そのため、図8(a)の1回走査の構成において、記録媒体上に均一にドットが配置され、ムラは発生しない。図8(b)の複数回走査の構成においてもムラは発生しない。但し、2回の走査回数になったことで印刷生産性は図8(a)に比べて低下する。
【0021】
図9(a)及び図9(b)は8つのノズルの内、2つ目と4つ目のノズルが周りのノズルに比べて吐出量が小さい。吐出量が小さくなる原因としては、ノズル自体が狭く成型されてしまっていることや、吐出を繰り返すうちに記録媒体に浸透せず空中にミストとして舞ったインクがノズル孔付近で堆積することがある。従って、吐出量の大小は製造時点から生じている場合や使用回数によって生じる場合、環境条件などで生じる場合がある。図9(a)の1回走査の構成において、2つ目と4つ目のノズルが吐出した記録媒体上の領域は周りのドットと比べて吐出量が小さいことから、2つの箇所でスジ・ムラが発生したように見えてしまう。一方で、図9(b)の複数回走査の構成においては、2つ目のノズルが対応した領域には6つ目のノズルが、4つ目のノズルが対応した領域には8つ目のノズルが、同一Y方向に濃度を分担するため、スジ・ムラの発生を抑制することができる。2回の走査回数となることで印刷生産性は図9(a)に比べて低下するものの、ノズル間の吐出量差を記録媒体上で平均化することができる。その吐出量差は、より多くの吐出を伴う走査回数になるほど平均化される。
【0022】
以上のように、「スジ・ムラ改善」は複数回走査の構成にすることで実現できる。一方で、複数回走査の構成にすることで、走査間のレジずれが発生しやすくなる。例えば図9(b)を例にとると、2つ目のノズルと6つ目のノズル、4つ目のノズルと8つ目のノズルが互いに濃度を分担する。濃度を分担したノズルが互い違いにインク滴を打つことによりスジ・ムラを抑制できているものの、一方が記録媒体に対して相対的なX方向に打つ位置がずれた場合には、2回の走査間で強いムラが発生する。
【0023】
図10は、X方向のレジずれが発生する様子を示す図である。図10図9と同様に、濃い部分で示した吐出は1回目の走査に吐出した結果、薄い部分で示した吐出は2回目の走査に吐出した結果、として区別して示されている。しかしながら、実際は、どちらも同色のインクタンクと繋がっている。
【0024】
図10(a)に示すように、1回目の走査の吐出結果と2回目の走査の吐出結果は、互いに排他位置となっている。記録結果の評価の観点の一つとして「粒状性」があるが、粒状性が良いとされる条件として、「ドットの配置分離性」「明度差の平滑性」が重要である。すなわち、インク滴の吐出が記録媒体上の空白領域に対して行われていくことで記録媒体の白地が埋まっていき、明度が平滑化されることが望ましい。また、同様の観点から、記録媒体の白地が埋まる前にドットが重なってしまうことで、白地との明度差がより強調されてしまうことを防ぐ必要がある。「粒状性」を重視する上では、図10(a)は望ましい結果であるといえる。「粒状性」が良いことで、記録結果においてドットの配置が人の目に付きにくくなる効果が生じる。
【0025】
図10(b)は、図10(a)の結果に対して、2回目の走査の吐出がX方向にレジずれした場合の結果を示している。本来打たれるはずであった記録媒体上の白地領域を外れ、1回目の走査に吐出された場所に重畳して吐出されてしまう画素が発生している。白地が出てしまっているだけでなく、インクが重畳によって記録媒体上でより濃く見えてしまうことで明度差が強調され、「粒状性」は著しく低下する。このように、複数回走査の構成にしたことでムラが発生する原因が生まれる。ここでは一例としてX方向に対するレジずれを示したが、走査間のY方向のレジずれの場合も同様である。
【0026】
走査間レジずれの原因や影響度は、プリンタ自身の着弾・搬送に係る精度誤差、記録媒体の特性、インクの特性、など複数の要因で変わり得る。例えば、記録媒体の受容層の特徴によってインクの記録媒体上の広がりは異なる。走査間レジずれが見た目上で顕著になるのは、複数の本来重ならないはずのドットが重なってしまうことであり、インクの記録媒体上の広がりはこうした走査間レジずれ影響に対して関係がある。インクが広がりやすいと、走査間レジずれで重なりやすくなるためである。
【0027】
図3は、記録ヘッド102をノズル面側から見た図である。記録ヘッド102には4つのノズル列207~210がX方向に並列配置されている。ノズル列207~210のそれぞれでは、インク滴を吐出するためのノズルが複数(例えば16個)Y方向に1200dpiのピッチで所定方向に配列している。ノズル列207~210は、C(シアン)、M(マゼンタ)、Y(イエロー)、K(ブラック)のインクをそれぞれ吐出する。
【0028】
図4は、画像処理装置主制御部108が行う画像データの処理を示すフローチャートである。本処理は、画像処理装置主制御部108に備えられたCPUが、ROMに記憶されたプログラムを読み出して実行することにより実現される。S301において、画像供給装置3より処理対象となる注目画素の画像データが入力される。S302において、画像処理装置主制御部108は、色補正を実行する。画像処理装置2が画像供給装置3より受信する画像データは、sRGB等の規格化された色空間を表現するための、R(レッド)、G(グリーン)およびB(ブルー)の各8Bit輝度データである。S302では、これらの輝度データを記録装置1に固有の色空間に対応するRGB8Bitの輝度データに変換する。信号値を変換する方法として、ROM等に予め格納されたルックアップテーブル(LUT)を参照する等の公知の方法が用いられても良い。
【0029】
S303において、画像処理装置主制御部108は、変換後のRGBデータを記録装置1のインク色であるC(シアン)、M(マゼンタ)、Y(イエロー)およびK(ブラック)のそれぞれ8Bit256値の階調データ(濃度データ)に分解する。この段階で、8Bitのグレー画像が4チャンネル分(4色分)生成される。インク色分解処理において、色補正処理と同様、ROMなどに予め格納されたLUTが用いられても良い。
【0030】
S304において、画像処理装置主制御部108は、CMYKそれぞれに対し、階調補正処理を行う。一般的に、記録媒体に記録されるドットの数と、その数のドットによって記録媒体で実現される光学輝度は線形関係には無い。よって、この関係を線形にするために多値の色信号データCMYKを一次変換して、記録媒体に記録されるドットの数を調整する。具体的には、夫々のインク色に対応して用意された一次元LUTを参照し、8Bit256値のCMYKを同じく8Bit256値のC’M’Y’K’に変換する。
【0031】
S305において、画像処理装置主制御部108は、C’M’Y’K’に対し、各画素の記録ヘッド102の走査回数に応じた走査回数分解を行う。走査回数分解として、例えば、入力階調値を各走査に均等に振り分ける。例えばC’のある画素PIXiの入力階調値が200であるとき、記録ヘッド102が2回の走査回数で画素PIXiに濃度形成する場合には、1回目の走査(PIXi1)に100、2回目の走査(PIXi2)に100と割当てる。なお、このような走査回数分解の手法は一例であり、その手法に限られない。S305の処理によって、C’はC1’C2’・・・CX’を得る。Xは、走査回数に応じて変動する。Mインク、Yインク、Kインクに対応するデータも同様である。
【0032】
S306において、画像処理装置主制御部108は、C1’C2’・・・CX’に対して所定の量子化処理を行い、ドット吐出データに変換する。Mインク、Yインク、Kインクに対応するデータも同様である。S306の量子化処理については、後述する。そして、S307において、画像処理装置主制御部108は、S306で変換されたドット吐出データを出力する。以上で、図4の処理が終了する。
【0033】
図5は、図4のS305の走査回数分解処理、S306の量子化処理を実行する構成を示す機能ブロック図である。本実施形態の量子化処理はディザ法によって行われる。走査回数分解部401は、各インク色について、個々の画素の濃度を示す8Bitの多値階調データC’M’Y’K’を取得し、走査回数に応じた濃度の振り分けを行う。ここでは対象となる画素について、2回の走査回数に分けて記録媒体に吐出を行うことを想定している。即ち、例えば、C’は、C1’、C2’に振り分けられる。振り分けが行われた後、元の多値情報C’と、C1’、C2’は、ディザ処理部402に転送される。Mインク、Yインク、Kインクに対応するデータも同様である。ディザ処理部402における処理は、各インクそれぞれについて並列に行われる。ここでは、例としてCインク1色の処理について説明する。
【0034】
ディザ処理部402において、量子化すべき入力多値データC1’、C2’はそのまま量子化処理部407に送信される。一方、閾値選択部405は、入力多値データC’の情報を用いて閾値取得部406を制御する。閾値取得部406は、メモリ403にアクセスし、該当する適切な閾値マトリクス404を取得する。閾値取得部406は、入力多値データの座標に対応するディザ閾値を、C1’向け、C2’向けにそれぞれについて選択し、これを量子化処理部407に送信する。量子化処理部407は、入力多値データC1’と、閾値取得部406から取得したディザ閾値Dth1とを用いて所定の量子化処理を行い量子化データを出力する。また、量子化処理部407は、入力多値データC2’と、閾値取得部406から取得したディザ閾値Dth2とを用いて所定の量子化処理を行い量子化データを出力する。
【0035】
図6は、量子化処理の工程において、量子化処理部407が実行する1画素分の量子化処理を説明するためのフローチャートである。C1’、C2’はこのフローチャートに従って処理される。
【0036】
1画素分の入力多値データInが入力されると、量子化処理部407は、S501において、ディザ閾値Dthを用意する。ディザ閾値Dthは、閾値取得部406が取得した閾値マトリクス404の中で入力多値データInの座標(x、y)に対応する位置に配置された値である。
【0037】
S502において、量子化処理部407は、入力多値データInとディザ閾値Dthとを比較する。そして、In≧Dthの場合は、S503に遷移し、量子化値Nを1と設定して本処理を終了する。一方で、In<Dthの場合は、S504に遷移し、量子化値Nを0のまま本処理を終了する。量子化値が1と設定された画素についてはドットが吐出される。量子化値が0と設定された画素についてはドットが吐出されない。
【0038】
図7は、図6のフローチャートを実行することによって得られる量子化結果の一例を示す図である。いくつかの入力多値データInに対する量子化結果を具体的に示している。In=0のとき全画素の量子化結果は0となる。In=255のとき全画素の量子化結果は1となる。また、0<In<255のときは0と1の量子化値が混在する。量子化結果は分散性を考慮して配置され、配置された1の量子化値の数に従って、入力RGBデータに対応した濃度を記録媒体上に再現する。
【0039】
本実施形態では図5に示したように、各走査に振り分けられた濃度ごとにディザの閾値マトリクスが選択される。本実施形態では、閾値マトリクスの選択によって、走査間のレジずれに対してロバスト性を得ることができる。
【0040】
図11(a)は、閾値マトリクスの候補選択の処理を示すフローチャートである。閾値選択部405によって指示され、閾値取得部406の中でプログラムの実行内容を解釈することにより、図11(a)の各処理が行われる。
【0041】
S901において、閾値取得部406は、閾値マトリクス選択のための条件値の取得が行われる。本実施形態では、記録対象の記録媒体の種類と記録ヘッド102の走査速度とが条件値として取得される。例えば、記録媒体の種類=普通紙、記録ヘッド102の走査速度=40inch/秒といった設定情報(記録条件)が設定される。S901の条件値の取得は、例えば、ユーザにより設定された内容から取得しても良い。また、記録ヘッド102の走査速度は、内部の記憶領域に予め保持していても良いし、記録装置1から取得するようにしても良い。
【0042】
S902において、閾値取得部406は、図11(b)に示す対応テーブルに基づき、閾値マトリクス選択候補を取得する。各走査について選択すべき閾値マトリクスの情報が取得される。S903において、閾値取得部406は、図11(b)に示す対応テーブルに基づき、閾値マトリクス切替え階調値を取得する。
【0043】
図11(b)は、本実施形態において閾値取得部406が参照する対応テーブルを示す図である。例えば、対応テーブルにおいては、記録媒体の種類及び記録ヘッド102の走査速度の設定情報に対して、第1閾値マトリクス((1)と表記))、第2閾値マトリクス((2)と表記)という複数の閾値マトリクスが登録されている。本実施形態では、2つの閾値マトリクスを登録可能としたが、3つ以上でもあっても良い。例えば、記録媒体の種類=普通紙、記録ヘッド102の走査速度=40inch/秒といった条件が設定されている場合には、S902では、閾値マトリクス選択候補として1回目の走査については閾値マトリクスaが取得され、2回目の走査については閾値マトリクスb、閾値マトリクスdが取得される。また、S903では、切替え階調値80が取得される。第1閾値マトリクスと第2閾値マトリクスのどちらの閾値マトリクスを使用するかは、切替え階調値により決定される。切替え階調値を用いた閾値マトリクスの切替えについては図12において説明する。
【0044】
図12は、入力階調値に応じた閾値マトリクスの選択処理を示すフローチャートである。図12の処理は、閾値選択部405によって指示され、閾値取得部406の中でプログラムの実行内容を解釈して各処理が行われる。選択された閾値マトリクスは、量子化処理部407に送られる。
【0045】
S1001において、閾値取得部406は、閾値選択部405によって入力される入力階調値と、S903で取得した切替え階調値とを用いて判定処理を行う。即ち、入力階調値が切替え階調値より小さい場合はS1002に遷移し、切替え階調値以上である場合はS1005に遷移する。
【0046】
S1002において、閾値取得部406は、走査回数分のループ処理を実施する。S1003において、閾値取得部406は、図11(b)の対応テーブルの設定情報に対応する行に対して、第1閾値マトリクスとして登録されている閾値マトリクスを走査回数Xに対して選択する。例えば、設定情報が、記録媒体の種類=普通紙、記録ヘッド102の走査速度=40inch/秒の場合で且つ入力階調値が50である場合、入力階調値50<切替え階調値80であるのでS1002へ遷移する。そして、1回目の走査には閾値マトリクスaが選択され、2回目の走査には閾値マトリクスbが選択される。
【0047】
S1004において、閾値取得部406は、S1002のループ処理の終端処理を行う。即ち、走査回数分のループ処理が実行されていなければS1002へ戻る。
【0048】
一方、S1005において、閾値取得部406は、走査回数分のループ処理を実施する。S1006において、閾値取得部406は、図11(b)の対応テーブルの設定情報に対応する行に対して、第2閾値マトリクスとして登録されている閾値マトリクスを走査回数Xに対して選択する。例えば、設定情報が、記録媒体の種類=普通紙、記録ヘッドの走査速度=40inch/秒である場合で且つ入力階調値が100である場合、入力階調値100>切替え階調値80であるのでS1005へ遷移する。そして、1回目の走査には閾値マトリクスaが選択され、2回目の走査には閾値マトリクスdが選択される。
【0049】
S1007において、閾値取得部406は、S1005のループ処理の終端処理を行う。即ち、走査回数分のループ処理が実行されていなければS1005へ戻る。
【0050】
以上のように、入力階調値に応じた各走査の閾値マトリクスの選択が可能となる。本実施形態では、閾値マトリクスの選択候補は、図11(a)のフローチャートの処理および図11(b)の対応テーブルにより特定される。
【0051】
図13は、一方の走査回数で閾値マトリクスaを用い、他方の走査回数において閾値マトリクスb、c、dそれぞれを用いた場合の各組み合わせにおけるドットオンドットの発生確率の特徴を説明するための図である。
【0052】
ドットオンドットとは、走査間においてデジタルデータ上でドットを吐出する画素が同一画素となり重なることをいう。記録媒体上でもパス間レジずれなどの影響がない状態において、ドットオンドットはデジタルデータと同じ確率で発生するといえる。
【0053】
ドットオンドットの発生確率とは、所定の記録領域の面積に対して、記録ヘッドの吐出によって走査間のドットが重なって着弾される領域面積の割合である。一方でドットオンドットの発生理論値は、各走査のドット吐出データが互いに相関性を持たない組み合わせで生成されたときのドットの重なりを表す。ドットオンドットの発生理論値の確率とは、所定の記録領域に対応したデジタルデータ上の領域面積に対して、デジタルデータ上でドットを吐出する画素が走査間で同一画素となる領域面積の割合である。
【0054】
ドットオンドットの発生理論値は、確率論における組み合わせ式を用いた以下の式(1)により算出されることができる。
【0055】
・・・(1)
式(1)において、Nは、記録媒体のある記録領域に相当する画素数を示す。D1は1回目の走査によって吐出されるドット数、D2は2回目の走査によって吐出されるドット数、Xは2回の吐出を伴う走査によってドットオンドットが発生する画素数を示している。D1とD2の合計はNと等しく、また式(1)の条件は、D1≦D2であるとする。このような条件において、ドットオンドット発生理論値を評価することが可能である。例えばN=5画素、D1=2回分の吐出、D2=3回分の吐出と仮定する。X=2(2回の吐出を伴う走査で、5画素中2画素がドットオンドットとなる)については0.3という算出結果が求まる。同様にX=1については0.3、X=0については0が求まる。これらの算出結果を加算することでドットオンドット発生理論値は0.6と算出される。なお、走査間で互いに相関性を持つということは、式(1)における分母の条件が異なるということである。式(1)は、画素数Nから無作為にD1を吐出、D2を吐出する時の組み合わせを示しているが、無作為でなければ組み合わせ確率は変動する。
【0056】
図13は、1回目の走査で閾値マトリクスaを用いて吐出を行った後に、2回目の走査で吐出を行うと、走査間のドットオンドットがどれだけ発生するかの確率分布を示している。なお、図13では、入力階調値を1回目の走査および2回目の走査それぞれで50%ずつに分配した場合を想定している。
【0057】
図13では、1回目の走査では4×4画素の記録領域に対して8か所で吐出していると想定している。このとき、2回目の走査でのドットオンドット発生理論値は50%である(8/16がドットオンドット、8/16が非ドットオンドット)。
【0058】
閾値マトリクスbは、ドットオンドット発生理論値よりも各走査間のドットオンドットの発生確率が極めて小さく、平均10%程度の発生確率で分布するよう設計されている。図13では4×4画素の記録領域を例示しているが、記録領域が4×4画素の記録領域よりも広い場合にはドットオンドット発生確率は必ずしもいつでも10%とはならず、10%未満になるもしくは10%以上になることもあり得る。発生確率のばらつきは標準偏差で表すことが可能であるので、発生確率は正規分布で表現することができる。ドットオンドット発生確率がドットオンドット発生理論値よりも小さいことから、走査間では排他的に配置される傾向(排他関係)にあり、互いに相関関係を持つといえる。
【0059】
閾値マトリクスcは、ドットオンドット発生理論値よりもドットオンドットの発生確率が小さく、平均40%程度の発生確率で分布するよう設計されている。走査間の排他関係は閾値マトリクスa-b間よりも弱まる。
【0060】
閾値マトリクスdは、ドットオンドットの発生確率がドットオンドット発生理論値と近く、平均50%程度の発生確率で分布するよう設計されている。走査間では相関性を持たず互いに重なりを意識していないといえる。
【0061】
つまり、閾値マトリクスbは、閾値マトリクスcや閾値マトリクスdに比べて、閾値マトリクスaとの排他関係がある。また、ドットオンドット発生理論値に対する乖離は、閾値マトリクスa-bの組み合わせが最も大きい。乖離が大きいということは、例えば以下の式(2)から算出される値で表される。
【0062】
(閾値マトリクス〇―×を用いた場合の走査間のドットオンドット発生確率)÷(走査間のドットオンドット発生理論値) ・・・(2)
なお、式(2)における〇と×は、ここでは、閾値マトリクスのa~dのいずれかを表している。
【0063】
図13の条件で式(2)に基づいて乖離を算出すると以下のようになる。
【0064】
閾値マトリクスa―b間:0.1÷0.5=0.2
閾値マトリクスa―c間:0.4÷0.5=0.8
閾値マトリクスa―d間:0.5÷0.5=1
異なる条件に対しても、走査間のドットオンドット発生理論値からの乖離はほぼ均一であり、入力階調値によって走査間で使い分ける閾値マトリクスの特徴を表すことができる。なお、異なる閾値マトリクスを使うことによるドットオンドットの発生確率の分布は一部で重なる部分がある。ただし、正規分布の特性上、ばらつきの端部が重なっていたところで互いの閾値マトリクスの特性が異なることは自明である。例えば正規分布の統計論を用いればσ=2の条件内に発生実績の約95%が内包されることになるため、その外側での重なりは閾値マトリクスの特性を述べる上で重要ではない。
【0065】
なお、ドットオンドット発生理論値の算出方法はこれに限定されない。どの算出方法を用いて評価する場合でも、ドットオンドット発生理論値は、各走査における吐出が互いに相関性を持たない無相関である特徴と傾向が一致する。例えば図13でもドットオンドット発生理論値は、互いに無相関に設計された閾値マトリクスa―d間とほぼ一致する。この無相関状態を数値評価できる指標を持ち、実際に記録領域上で測定された2回の走査によって吐出されるドットオンドット発生確率との乖離が評価できれば良い。そのように得られた評価値は、画像処理装置主制御部108のROM等の記憶領域に保存されている。
【0066】
同一の記録領域に対して3回以上の走査をする場合も同様である。3回以上の走査である場合、ドットオンドット発生理論値の算出式はより複雑となるが、各走査で吐出されるドットが走査間で互いに無相関であるということは上述のドットオンドット発生理論値と同じである。
【0067】
図14(a)及び図14(b)は、各走査で用いる閾値マトリクスに従った吐出分布を示す図であり、走査間でレジずれが生じた際の影響について例示している。各グラフにおいて、点線は1回目の走査を示し、実線は2回目の走査を示している。
【0068】
図14(a)及び図14(b)は、入力階調値が低い場合を示し、図15(a)及び図15(b)は、入力階調値が高い場合を示している。また、図14(a)及び図15(a)は、各走査が互いに排他関係が強い(相関性がある)場合を示し、図14(b)及び図15(b)は各走査が互いに排他関係が低い(相関性がない)場合を示している。
【0069】
各グラフにおいて、横軸は記録媒体のX方向もしくはY方向を示す。縦軸は各走査での吐出分布を示しており、縦軸上の値が高ければ濃度が高いことを示し、低ければ濃度が低いことを示している。従って、縦軸上の値が高い箇所は、その箇所で吐出が行われていることを表す。
【0070】
図14(a)は、入力階調が低い場合で、1回目の走査と2回目の走査間には強い排他関係があることを示している。従って、図14(a)の上段のレジずれが無い理想状態では1回目の走査の濃度が低い箇所に2回目の走査の濃度が高い箇所が重なっている。図14(a)の下段の2回目の走査のレジがずれた状態では実線位置がずれるが、1回目の走査の濃度が高い所と2回目の走査の濃度が高い所とが重なることはない。従って、入力階調が低い場合において走査間の着弾位置に強い排他関係を持たせると、記録媒体上の濃度は均一に近づき粒状感が良い状態が実現することができる。また、レジずれが起きても記録媒体上の明度均一性は崩れないことから、レジずれに対するロバスト性も高くなる。
【0071】
図14(b)は、入力階調値が低い場合で、さらに、1回目の走査と2回目の走査間は排他関係が弱いことを示している。即ち、各走査は互いに無相関に近い関係にあるといえる。従って、図14(b)の上段のレジずれが無い理想状態であっても、図14(b)の下段のレジずれがある状態であっても、ある程度の確率で両走査回数の濃度が高い所が重なる。レジずれがあってもなくても状態変化が小さいことから、レジずれに対するロバスト性は高いといえる。ただし、記録媒体上の濃度は均一でない部分を含むことから、図14(a)の強い排他関係がある場合に比べると、画質が低下する。
【0072】
図15(a)は、入力階調値が高い場合で、1回目の走査と2回目の走査間には強い排他関係があることを示している。従って、図15(a)の上段のレジずれが無い理想状態では1回目の走査の濃度が低い箇所に2回目の走査の濃度が高い箇所が重なっている。図15(a)の下段の2回目の走査のレジがずれた状態では、1回目の走査の濃度が高い所と2回目の走査の濃度が高い所、1回目の走査の濃度が低い所と2回目の走査の濃度が低い所が全体的に重なる。図15(a)は、図14(a)に比べると入力階調値が高いことからドットの着弾周波数が高いため、少しのレジずれで明度の逆転を生じてしまうことから、レジずれに対するロバスト性は低いといえる。図14(a)の場合は入力階調値が低いため、記録媒体の地色が見えている所と吐出される所とで高い濃度差が生まれるが、図15(a)では入力階調値が高いため、記録媒体の地色が見えづらい。従って、走査間でドットが重なって記録媒体上の明度の均一性が損なわれたとはいえ、明度差の強調は画質低下の大きな要因にはなりづらい。
【0073】
図15(b)は、入力階調値が高い場合で、1回目の走査と2回目の走査間は排他関係が弱いことを示している。即ち、各走査は、互いに無相関に近い関係にあるといえる。従って、図15(b)の上段のレジずれが無い理想状態であっても、図15(b)の下段のレジずれがある状態であっても、ある程度の確率で両走査回数の濃度が高い所が重なる。レジずれがあってもなくても状態変化が小さいことから、レジずれに対するロバスト性は高いといえる。図15(b)の場合は入力階調値が高いため、記録媒体の地色が見えづらい。従って、走査間で濃度が高い部分が重なった箇所があっても、濃度差が画質低下の大きな要因にはなりづらく、粒状感が良い状態は維持されている。
【0074】
以上のことより、図14(a)、図14(b)、図15(a)、図15(b)に示すように、入力階調値が低い場合には、走査間に強い排他関係がある方が粒状性及びロバスト性の観点で優れている。また、入力階調値が高い場合には、走査間の排他関係が弱い方が粒状性及びロバスト性の観点で優れている。
【0075】
図11(b)の対応テーブルにおいて規定される閾値マトリクスの組み合わせは、粒状性及びロバスト性に優れた閾値マトリクスの組み合わせとして規定されている。本実施形態においては、全ての記録媒体の種類、記録ヘッド102の走査速度の条件で、入力階調値が低い時に使用する閾値マトリクスは共通している。即ち、図11(b)に示すように、第1閾値マトリクスについて、1回目の走査では閾値マトリクスaを用い、2回目の走査では閾値マトリクスbを用いる。図13にも示したように、閾値マトリクスaと閾値マトリクスbの組み合わせはドットオンドットの発生確率がドットオンドット発生理論値に比べて大きく乖離しており、排他関係が強い。入力階調値が低い場合に排他関係が強い閾値マトリクスの組み合わせを用いることで、粒状性とロバスト性の両立を実現することができる。一方、入力階調値が高い場合に使用する閾値マトリクスは、閾値マトリクスaに対して、閾値マトリクスcまたは閾値マトリクスdの組み合わせが規定されている。これらの組み合わせは、ドットオンドットの発生確率がドットオンドット発生理論値に対してそれほど乖離しておらず、排他関係が弱い。即ち、互いに無相関に近い関係にある。本実施形態では、入力階調値が高い場合に排他関係が弱い閾値マトリクスの組み合わせを用いることで、粒状性とロバスト性の両立を実現することができる。
【0076】
図14(a)、図14(b)、図15(a)、図15(b)で示した分布が記録に際しての条件によって変わることから、本実施形態では、各設定情報と対応付けられて切替え階調値が設けられている。例えば写真紙に比べて普通紙はインクの浸透性が高く、ドットが広がりやすいので、ドットの重なりは写真紙より低い階調から発生し始める。従って、普通紙の切替え階調値は写真紙の切替え階調値より小さく設定される。そのような構成により、普通紙の場合には、排他関係の弱い閾値マトリクスに早く切り替わることができる。また、記録ヘッド102の走査速度の早い方が、着弾精度が低くズレが強く発生する事が想定される。そのため、記録ヘッド102の走査速度が早い方について、切替え階調値はより小さく設定される。そのような構成により、記録ヘッド102の走査速度がより速い場合には、排他関係の弱い閾値マトリクスに早く切り替わることができる。つまり、レジずれの発生の可能性が高い条件ほど、レジずれに対するロバスト性が低下することを防ぐために、より低い切替え階調値によって、排他関係が弱い第2閾値マトリクスに早く切り替えるようにしている。
【0077】
切替え階調値は、記録媒体に対するドットの広がりとレジずれの頻度・大きさから決定される。本実施形態では、その決定条件として記録媒体の種類と記録ヘッド102の走査速度を用いているが、それに限られない。記録媒体の種類が類似する記録媒体であっても、インクの浸透率の違い、吐出するインクの種類によって、ドットの広がりは左右される。また、記録ヘッド102と記録媒体との距離、記録ヘッド102の走査回数、記録領域が記録媒体の端部であるか中央部であるか、によって、レジずれの頻度・大きさが左右される。記録ヘッド102と記録媒体との距離が長いと着弾精度が低下することから、ズレの頻度が高くなり、そのズレ量も大きくなる。また、記録装置1の本体仕様にもよるが、記録媒体の端部は搬送ローラーの押し当てが弱くバタつきやすい特徴を持つことがあり、それによりズレの頻度が高くなり、そのズレ量も大きくなる。切替え階調値は、上記の複数の条件を組み合わせて決定されるようにしても良い。なお、本実施形態では、普通紙でも記録ヘッド102の走査速度によって使う閾値マトリクスの組み合わせを変えている。記録ヘッド102の走査速度が遅いモードでは、プリンタドライバ上の設定内容が「高品位」という表示にされていることが多い。高品位を求めるユーザにとって粒状感は重要度が高いため、本実施形態では、閾値マトリクスaと閾値マトリクスcの組み合わせを用いる。これは、図13に示すように、閾値マトリクスaと閾値マトリクスcの組み合わせは、閾値マトリクスaと閾値マトリクスdの組み合わせに比べて、非レジずれ時の粒状感が良いためである。
【0078】
図16(a) 及び図16(b)は、本実施形態における入力階調値に対応した閾値マトリクスの選択を図示したものである。図16(a)は、設定情報が「記録媒体の種類=普通紙、記録ヘッド102の走査速度=20inch/秒」の場合を示している。1回目の走査では、入力階調値が上がっていき切替え階調値を跨いでも、同じ閾値マトリクスを使用し続ける。一方、2回目の走査では、入力階調値が上がっていき切替え階調値を跨いだ前後で異なる閾値マトリクスを使用する。図16(b)は、設定情報が「記録媒体の種類=写真紙、記録ヘッド102の走査速度=25inch/秒」の場合を示している。閾値マトリクスの選択は図16(a)と同様であるが、切替え階調値がより大きく設定されている。
【0079】
切替え階調値は、入力階調値に基づく範囲から決定するようにしても良い。レジが最大1画素分ずれることと、ドットの広がりが最大1画素分広がることを考慮すれば、対象画素の周囲8画素に対してドットが置かれる場合に粒状感低下や明度逆転の可能性が高まると考えられる。従って、最も高い入力階調値に対する1/9程度の階調値(=約10%)以降の範囲で、所定の切替え階調値を決定するようにしても良い。
【0080】
ここで、所定の切替え階調値に対して、切替え階調値よりも低階調側を第一の範囲、切替え階調値よりも高階調側を第二の範囲と定義する。階調値の取り得る範囲が0~255であり、切替え階調値を80としたときに、第一の範囲は0~79、第二の範囲は81~255となる。入力階調値が第一の範囲に含まれる場合のドットオンドットの発生確率÷ドットオンドット発生理論値は、入力階調値が第二の範囲に含まれる場合のドットオンドットの発生確率÷ドットオンドット発生理論値よりも小さい。
【0081】
図16(a)の例では、入力階調値が第一の範囲に含まれる場合、閾値マトリクスaと閾値マトリクスbの組み合わせでドット吐出データが生成される。例えば、入力階調値を第1の階調値(例えば50)とすると、まず、走査回数分解部401において、2回の走査に対応する階調値C1’=25、C2’=25が生成される。第1の階調値(50)は第一の範囲0~79に含まれる値であるため、1回目の走査に対応する階調値C1’(25)が閾値マトリクスaを用いて量子化され、第1のドット配置が生成される。同様に、2回目の走査に対応する階調値C2’(25)が閾値マトリクスbを用いて量子化され、第2のドット配置が生成される。ここで、重なりがないと想定される場合の第1のドット配置と第2のドット配置の総画素数に対する、閾値マトリクスaと閾値マトリクスbを用いて量子化された結果重なりが生じる画素数の比率を第1の比率とする。
【0082】
一方、入力階調値が第二の範囲に含まれる場合、閾値マトリクスaと閾値マトリクスcの組み合わせでドット吐出データが生成される。例えば、入力階調値を第2の階調値(例えば250)とすると、まず、走査回数分解部401において、2回の走査に対応する階調値C1’=125、C2’=125が生成される。第2の階調値(250)は第二の範囲81~255に含まれる値であるため、1回目の走査に対応する階調値C1’(125)が閾値マトリクスaを用いて量子化され、第3のドット配置が生成される。同様に、2回目の走査に対応する階調値C2’(125)が閾値マトリクスcを用いて量子化され、第4のドット配置が生成される。ここで、重なりがないと想定される場合の第3のドット配置と第4のドット配置の総画素数に対する、閾値マトリクスaと閾値マトリクスcを用いて量子化された結果重なりが生じる画素数の比率を第2の比率とする。
【0083】
上記の例でいえば、第1の比率は、重なりがないと想定される場合の第1のドット配置と第2のドット配置の総画素数(100)に対する、閾値マトリクスaと閾値マトリクスbを用いて量子化された結果重なりが生じる画素数(例えば5)の比率となるので、5/100となる。一方、第2の比率は、重なりがないと想定される場合の第1のドット配置と第2のドット配置の総画素数(250)に対する、閾値マトリクスaと閾値マトリクスbを用いて量子化された結果重なりが生じる画素数(例えば100)の比率となるので、100/250となる。第1の比率及び第2の比率はそれぞれ、比率が低いほど、ドットオンドットの発生比率が低く、排他関係が強いことを示している。そして、上記の例で示されるように、本実施形態の閾値マトリクスの組み合わせは、第1の比率が第2の比率よりも低くなるように設定されている。すなわち、切り替え階調値よりも低い入力階調値の場合のドットオンドットの発生比率が、切り替え階調値よりも高い入力階調値の場合のドットオンドットの発生比率よりも低いことを示している。
【0084】
なお、排他関係の強さを比較できればよいため、上記の指標に限られない。例えば、重なりがないと想定される場合の画素の総数に対する、閾値マトリクスを用いて量子化された結果重なりが生じない画素数の比率を用いても良い。この場合には、切り替え階調値よりも低い階調値における比率が、切り替え階調値よりも高い階調値における比率よりも高くなるようにすることで、低階調側のドットオンドットの発生確率を低くすることができる。
【0085】
なお、上述したようにドットオンドット発生理論値の算出手法は限定されない。また、ドットオンドット発生理論値は、各走査間で吐出されるドットが互いに相関性を持たない時とほぼ等しい。
【0086】
本実施形態によれば、閾値マトリクスの選択制御により、走査間のレジずれ影響を最小化しつつ粒状性も優れた状態とすることができる。また、設定情報に応じて、閾値マトリクスの選択と閾値マトリクスの切替え階調値の変更を行うことで、多様な記録条件に対して同じ制御で対応が可能となる。またドットの広がりが異なる記録条件に対しても、切替え階調値を変えるだけで同じ閾値マトリクスを使用することが可能となる。例えば、設定情報が「記録媒体の種類=写真紙、記録ヘッド102の走査速度=10inch/秒」である場合と、設定情報が「記録媒体の種類=写真紙、記録ヘッド102の走査速度=10inch/秒」である場合は、切替え階調値を変えるだけで同じ閾値マトリクスを使用することが可能となる。そのため、RAM容量を抑えることができる。
【0087】
本実施形態においては、所定の単位領域に対する記録を完成させる走査回数が2である場合について説明したが、走査回数がそれより多い場合でも同様である。各走査間で排他関係の強いもしくは弱い閾値マトリクスの組み合わせを選択すれば良い。その場合には、走査回数分解部401において、走査回数に対応する数のデータが生成される。
【0088】
また、切替え階調値は複数設定されても良い。例えば、入力階調値が低濃度であるとき、中間調であるとき、高濃度であるときで閾値マトリクスの選択を切り替えるようにしても良い。中間調ではレジずれによる影響は大きいが、高濃度になれば、レジずれでドットオンドットが発生したところで濃度差はほぼ変動しない。従って、中間調では閾値マトリクスaと閾値マトリクスc、高濃度では閾値マトリクスaと閾値マトリクスdという組み合わせで構成することで、各階調で適したドット配置を実現することができる。
【0089】
また、上記例では、走査回数分解部401において、入力階調値が50の場合には階調値25のデータが2つ生成されたが、生成される複数のデータの階調値は等しく分割して同数とする例に限られず、適宜比率を変更してもよい。等分割する場合には、1つのデータを生成して、選択された閾値マトリクスの組み合わせを用いてそれぞれ量子化してドット配置を示すデータを生成してもよい。
【0090】
[第2実施形態]
以下、第2実施形態について、第1実施形態と異なる点を説明する。第1実施形態では、切替え階調値を用いて、切替え階調値の前後において各走査回数で用いる閾値マトリクスを設定することを説明した。そして、切替え階調値の前後で設定した閾値マトリクスを用いることで、排他関係(相関関係)の大小を制御していた。例えば、閾値マトリクスaと閾値マトリクスbの組み合わせのように強い排他関係を実現していた。閾値マトリクスで排他関係を作る場合、一方の閾値マトリクスにおいて閾値が低く設定されている箇所については、他方の閾値マトリクスで同位置に割り当てられる閾値を高く設定することで排他関係を実現することができる。
【0091】
本実施形態では、排他関係を閾値マトリクスの組み合わせだけでなく、1つの閾値マトリクスに基づいて制御による排他で実現する。これにより、別々の複数の閾値マトリクスを用意する必要がなくメモリをより低減させることができる。また、走査回数が増えても、閾値の設定が複雑化してしまうことを防ぐことができる。
【0092】
図17(a)は、本実施形態における閾値マトリクスの候補選択の処理を示すフローチャートである。図17(a)の処理は、画像処理装置主制御部108に備えられたCPUが、ROMに記憶されたプログラムを読み出して実行することにより実現される。
【0093】
S1401において、閾値取得部406は、閾値マトリクス選択のための設定情報を取得する。本実施形態では、記録対象の記録媒体の種類と記録ヘッド102の走査速度とが取得される。例えば、記録媒体の種類=普通紙、記録ヘッド102の走査速度=40inch/秒といった設定情報(記録条件)が取得される。設定情報は、例えば、ユーザにより設定された内容から取得しても良い。また、記録ヘッド102の走査速度は、内部の記憶領域に予め保持していても良いし、記録装置1から取得するようにしても良い。
【0094】
S1402において、閾値取得部406は、図17(b)に示す対応テーブルに基づき、設定情報に対応する閾値マトリクス選択候補を取得する。例えば、上記の設定情報について、1回目の走査においては閾値マトリクスa、2回目の走査においては閾値マトリクスaと閾値マトリクスdが閾値マトリクス選択候補として取得される。
【0095】
S1403において、閾値取得部406は、図17(b)に示す対応テーブルに基づき、閾値制御方法を取得する。
【0096】
図17(b)は、S1402及びS1403において閾値取得部406が参照する対応テーブルの一例を示している。対応テーブルにおいては、図11(b)と同様に、各設定情報に対して、第1閾値マトリクス、第2閾値マトリクスが登録されている。第1閾値マトリクスにも第2閾値マトリクスにも制御方法の項目があり、「オフセットモード」と「独立モード」のいずれかが設定されている。第1実施形態と同様に、切替え階調値未満の階調値では第1閾値マトリクスが選択され、切替え階調値以上の階調値では第2マトリクスが選択される。加えて、本実施形態では、切替え階調値未満の場合の各走査における閾値マトリクスの選択はオフセットモードにより行われ、切替え階調値以上の場合の各走査における閾値マトリクスの選択は独立モードにより行われる。
【0097】
図18は、本実施形態における量子化処理を示すフローチャートである。図18の処理は、ディザ処理部402の量子化処理部407により実行される。
【0098】
1画素分の入力多値データInが入力されると、量子化処理部407は、S1501でディザ閾値Dthを用意する。用意する閾値Dthは、図17(b)で選択された閾値マトリクスの組み合わせに従って、図12で各走査に割り当てられたものになる。例えば、記録媒体の種類=普通紙、記録ヘッド102の走査速度=40inch/秒である場合、入力階調値が50であれば、切替え階調値未満であることから1回目の走査には閾値マトリクスa、2回目の走査には閾値マトリクスaが割り当てられる。また、入力階調値を各走査で等しく分配するので、1回目の走査の入力多値データIn=25、第2の走査の入力多値データIn=25となる。
【0099】
S1502において、量子化処理部407は、対象画素の制御方法を判定する。図17(b)に示すように、制御方法には、オフセットモードと独立モードが規定されている。設定情報が上記の記録媒体の種類=普通紙、記録ヘッド102の走査速度=40inch/秒である場合、入力階調値=50に対してはオフセットモードが判定されている。そのため、S1502からS1503に遷移する。なお、入力階調値が80以上である場合は、独立モードであると判定され、S1502からS1506に遷移する。
【0100】
S1503において、量子化処理部407は、参照先の走査の入力値を取得する。例えば、本実施形態では、走査回数は2回であり、2回目の走査については1回目の走査の入力値を参照するものとする。従って、1回目の走査について参照先の走査は存在せず、2回目の走査について1回目の走査の入力値を取得することになる。
【0101】
S1504において、量子化処理部407は、取得した参照先の走査の入力値から閾値オフセット値Ofsを取得する。閾値オフセット値Ofsは、式(3)により算出される。
【0102】
Ofs = 参照先の走査の入力値の合計 ・・・(3)
従って、1回目の走査については、Ofs=0となる。2回目の走査については1回目の走査の入力値を参照することから、1回目の走査の入力値=25である場合、Ofs=25となる。本実施形態では、走査回数が2回の場合を例示しているが、それ以上の走査回数でも同様であり、走査回数が2回以上の場合は、Ofsに全ての参照先の走査の入力値を合計した値が取得される。
【0103】
S1505において、量子化処理部407は、ディザ閾値Dthと、閾値オフセット値Ofsからディザ閾値Dth’を算出する。ディザ閾値Dth’の算出方法は以下の式(4)及び(5)により算出される。
【0104】
Dth’=Dth-Ofs ・・・(4)
Dth’<0であるとき
Dth’=Dth’+Dth_Max ・・・(5)
このとき、Dth_Maxは、Dthの取り得る値の範囲(0~Dth_Max)の最大値を示している。
【0105】
一方、S1502からS1506に遷移した場合は、量子化処理部407は、閾値Dthの内容を閾値Dth’に代入する。
【0106】
S1507において、量子化処理部407は、算出したDth’と入力多値データInとで比較演算を行う。S1508とS1509の処理は、S503及びS504と同様であるのでそれらの説明を省略する。
【0107】
図18に示す量子化処理を実施することで、走査間の排他関係を制御することが可能となる。例えば、1回目の走査の入力値=25、2回目の走査の入力値=25であり、画素位置に対応する閾値Dthが40、Dth_Maxが255とする。このとき、1回目の走査については、Dthが入力値よりも大きいことから量子化結果は0となる。一方、2回目の走査については、式(4)及び(5)によって、Dth’は40-25=15となり、Dth’よりも入力値の値が大きいことから量子化結果は1となる。このように、同じ閾値マトリクスによっても、参照先の走査の入力値を用いた閾値オフセット値を用いて、ドットの排他的な配置を行うことができる。また、本実施形態の構成によれば、走査回数が3回以上であっても各走査についての閾値オフセットのOfsが容易に算出される。また、排他関係にある閾値マトリクスを設計する必要が無いことから設計難度も簡便化され、RAM容量もより抑えることができる。
【0108】
図19は、本実施形態における入力階調値に対応した閾値マトリクスの選択を示した図である。図19では、設定情報が、記録媒体の種類=普通紙、記録ヘッド102の走査速度=20inch/秒の場合を示している。1回目の走査では、入力階調値が上がって切替え階調値を跨いでも、同じ閾値マトリクスを使用し続ける。一方、2回目の走査では、入力階調値が上がっていき切替え階調値を跨いだ前後で異なる閾値マトリクスを使用する。2回目の走査では、切替え閾値よりも手前の階調では1回目の走査と同じ閾値マトリクスを用いるオフセットモードにより、1回目の走査との排他関係を実現している。一方、切替え階調値よりも高い階調では、第1実施形態で説明したように1回目の走査とは異なる閾値マトリクスを用いる独立モードにより、1回目の走査とドット配置が無相関に近くなる関係を実現している。
【0109】
このように、本実施形態によれば、1つの閾値マトリクスを用いて、走査間で排他関係のある閾値マトリクスを実現することができる。なお、本実施形態では、閾値マトリクスの閾値をオフセットしたが、2走査目以降の階調値をオフセットする方法であってもよい。多値データと閾値マトリクスの少なくとも一方をオフセット(加算もしくは減算)する変更処理を行い、変更処理後の多値データと閾値マトリクスを用いて量子化する。このように、1つの閾値マトリクスを用いて複数の走査に対応する複数の量子化処理を行う場合であっても、オフセット処理を行うことにより、互いに排他の関係にあるドット配置を得ることができる。
【0110】
[第3実施形態]
以下、第1及び第2実施形態と異なる点について第3実施形態を説明する。図19に示すように、これまでは入力階調値を、各走査に等しく分配して、各走査のドット形成を実施していた。しかしながら、各走査に等しく分配した場合、切替え階調値の前後で異なる閾値マトリクスを使うことによってドット配置の変化が目立ってしまう場合がある。例えば、切替え階調値が80であると仮定する。切替え階調値の前後で閾値マトリクスの切り替えがなければ、入力階調値79と入力階調値80で殆どのドット配置は変わらないはずである。入力階調値が増えている分、量子化後のドット数が多くなるが、入力階調値79におけるドット配置は入力階調値80のドット配置に包含されている。しかしながら、切替え階調値の前後で閾値マトリクスaから閾値マトリクスcのように変わると、入力階調値80のドット配置に入力階調値79のドット配置は内包されない。例えばグラデーション状に画素値が大きくなるよう推移する入力画像である場合に、途中で閾値マトリクスの切り替えが発生し、上記のようなドット配置の変化が顕著となってしまう場合がある。本実施形態では、このような切替え階調値の前後で発生する閾値マトリクスの切り替えによる上記の現象を低減させるための構成を説明する。
【0111】
図20(a)~図20(c)は、本実施形態における入力階調値に対応した閾値マトリクスの選択を図示したものである。なお、図20(a)~図20(c)における閾値マトリクスの種類については、図19と同様である。
【0112】
図20(a)は、切替え階調値までの階調は、入力階調値を1回目の走査と2回目の走査とで等しい割合に分配している。切替え階調値の直後では入力階調値の殆どの割合を1回目の走査に割り当てている。入力階調値が高くなるにつれて2回目の走査に対する分配比率が増えていく。このような構成である場合、切替え階調値の前後でドット配置がほぼ変わらない結果が得られる。例えば、切替え階調値が80であるとすると、入力階調値80はほぼ全て1回目の走査に割り当てられて閾値マトリクスaが使用される。入力階調値79では1回目の走査と2回目の走査がどちらも閾値マトリクスaが設定されている。即ち、切替え階調値の前後で同じ閾値マトリクスを使うため切り替わりが目立たない。また、切替え階調値以降の入力階調値においては2回目の走査が徐々に増えていくことで閾値マトリクスcのドット配置が始まっても、ドット配置の変化が顕著になり難い。
【0113】
図20(b)は、切替え階調値以降の走査間の分配比率の変化、即ち2回目の走査の分配比率の増加度合いは、図20(a)ほど急峻ではない。一方の走査に対して吐出を集中させると、他方の走査で使用されるノズルの吐出公差が記録媒体上に反映されてしまう可能性がある。図20(b)のような走査間の分配比率とすることで、ノズルの吐出公差が記録媒体上でムラとなることを低減させることができる。
【0114】
図20(c)は、図20(b)の場合よりも、分配比率の変化をさらに滑らかにするために、切替え階調値よりも手前の階調から、走査間の分配比率を不均等、即ち、1回目の走査への分配比率が大きくなるように設定する。走査回数が2回の場合は、記録ヘッド102の1回目の走査がX方向で往方向、2回目の走査が復方向となることがある。記録ヘッド102の走査方向によってドットの着弾位置が微妙にずれる、サテライトの飛び方が変わることから、各走査に割り当てられる濃度はグラデュアリーに変化する方が走査方向による差が目立ちにくい。従って、切替え階調値よりも前から1回目の走査に濃度を集中させて、切替え階調値以降が不均等な分配比率であっても、走査間の濃度比率が極端に変わらないように制御することができる。
【0115】
以上のように、走査回数分解部401で入力階調値を各走査に不均等に割り当てることで、切替え階調値の前後でのドット配置の変化が顕著になることを抑えることができる。図20(a)~図20(c)に示すように、入力階調値が上がるにつれて、ある走査に対する分配比率が増加していく傾向がある。図20(a)~図20(c)に示す分配比率は、例えば、入力階調値に対して演算によって分配比率を決定しても良いし、LUTを用いて入力階調値と分配比率を紐づけて管理するようにしても良い。
【0116】
[他の実施形態]
以上の実施形態では、図4で示した全ての処理が画像処理装置2で実行されるとして説明したが、図4の処理それぞれは図1で示した記録システム内で行われれば、いずれの装置で処理されるようにしても良い。例えば、S305の走査回数分解処理までを画像処理装置2が実行し、S306の量子化処理は記録装置1で実行するようにしても良い。また、記録装置1が画像処理装置2の機能を備えるものとして、S301以降の全ての処理を記録装置1で実行するようにしても良い。その場合、記録装置1が各実施形態の画像処理装置2として動作することになる。
【0117】
また、上述した各処理における入出力のbit数は、上述した実施形態に限定されるものではない。精度を保持するために出力bit数を入力のbit数よりも多くしてよく、bit数は用途や状況に応じて様々に調整可能としても良い。
【0118】
更に、以上では、量子化で処理した画像を記録する構成としてインクジェット記録装置を説明したが、インクジェット記録装置に限定されるものではない。個々の画素において、多値量子化後のレベルに応じた複数段階の濃度を表現することができれば、どのような記録方式でも各実施形態の動作を適用可能である。例えば、電子写真方式により画像を記録する装置においても、レーザの出力値を数段階に調整することにより量子化後のレベルに応じた濃度を個々の画素で表現することができれば、各実施形態の動作を適用し、同様の効果を得ることができる。
【0119】
本発明は、上述の実施形態の1以上の機能を実現するプログラムを、ネットワーク又は記憶媒体を介してシステム又は装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサーがプログラムを読出し実行する処理でも実現可能である。また、1以上の機能を実現する回路(例えば、ASIC)によっても実現可能である。
【0120】
本実施形態の開示は、以下の画像処理装置、画像処理方法及びプログラムを含む。
(項目1)
画像データを入力する入力手段と、
前記入力手段により入力された前記画像データから、記録手段の複数回の走査のそれぞれで用いられる記録データを生成する生成手段と、
前記画像データが表す階調値に基づいて、閾値マトリクスを取得する取得手段と、
前記取得手段により取得された前記閾値マトリクスを用いて、前記記録データに対する量子化処理を実行する量子化手段と、
を備え、
前記取得手段は、階調値が第1の範囲に含まれる場合に、前記複数回の走査のうち、第1の走査に対応する第1の閾値マトリクスを取得し、第2の走査に対応する第2の閾値マトリクスを取得し、階調値が前記第1の範囲よりも高階調側の第2の範囲に含まれる場合に、前記第1の走査に対応する第3の閾値マトリクスを取得し、前記第2の走査に対応する第4の閾値マトリクスを取得し、
前記量子化手段は、前記第1の閾値マトリクスおよび前記第3の閾値マトリクスを用いて前記第1の走査に対応する第1の記録データに対する量子化処理を実行し、前記第2の閾値マトリクスおよび前記第4の閾値マトリクスを用いて前記第2の走査に対応する第2の記録データに対する量子化処理を実行し、
前記第3の閾値マトリクスを用いて量子化された結果であるドット配置と、前記第4の閾値マトリクスを用いて量子化された結果であるドット配置とが排他関係にある第1の度合いは、前記第1の閾値マトリクスを用いて量子化された結果であるドット配置と、前記第2の閾値マトリクスを用いて量子化された結果であるドット配置とが排他関係にある第2の度合いよりも小さい、
ことを特徴とする画像処理装置。
(項目2)
前記第1の度合いおよび前記第2の度合いは、重なりがないと想定される場合において異なる閾値マトリクスを用いて量子化された結果であるドット配置の総画素数に対する、前記異なる閾値マトリクスを用いて量子化された結果重なりが生じる画素数の比率として表されることを特徴とする項目1に記載の画像処理装置。
(項目3)
前記入力手段は、前記画像データを記録する際の記録条件を取得し、前記第1の範囲および前記第2の範囲は、前記記録条件に応じて決定されることを特徴とする項目1又は2に記載の画像処理装置。
(項目4)
前記第1の閾値マトリクスと前記第3の閾値マトリクスは、同じ閾値マトリクスであることを特徴とする項目1乃至3のいずれか1項に記載の画像処理装置。
(項目5)
前記第1の範囲と前記第2の範囲は重複せず、切替え階調値を介して切り替わり、
前記記録条件が、第1の記録条件の場合の前記切替え階調値と、第2の記録条件の場合の前記切替え階調値は異なることを特徴とする項目3に記載の画像処理装置。
(項目6)
前記第1の記録条件の場合の前記切替え階調値は、前記第2の記録条件の場合の前記切替え階調値より小さいことを特徴とする項目5に記載の画像処理装置。
(項目7)
前記第1の記録条件による走査間のドットの重なり量は、前記第2の記録条件による走査間のドットの重なり量よりも大きいことを特徴とする項目6に記載の画像処理装置。
(項目8)
前記第1の記録条件で規定される記録媒体の種類は、前記第2の記録条件で規定される記録媒体の種類よりもインクの浸透性が高いことを特徴とする項目7に記載の画像処理装置。
(項目9)
前記第1の記録条件で規定される前記記録手段の走査速度は、前記第2の記録条件で規定される前記記録手段の走査速度より速いことを特徴とする項目7又は8に記載の画像処理装置。
(項目10)
前記第1の閾値マトリクスと前記第2の閾値マトリクスを記憶したメモリをさらに備えることを特徴とする項目1乃至9のいずれか1項に記載の画像処理装置。
(項目11)
前記第2の閾値マトリクスは、前記第1の閾値マトリクスの閾値を変更することにより生成されることを特徴とする項目1乃至10のいずれか1項に記載の画像処理装置。
(項目12)
前記記録データが表す階調値を所定の比率で、前記第1の記録データと前記第2の記録データに割り当てる割当て手段、をさらに備えることを特徴とする項目1乃至11のいずれか1項に記載の画像処理装置。
(項目13)
前記割当て手段は、前記第1の記録データと前記第2の記録データそれぞれに対して等しい比率で割り当てることを特徴とする項目12に記載の画像処理装置。
(項目14)
前記第1の範囲において、前記割当て手段により前記第1の記録データに割り当てられる比率は、前記第2の記録データに割り当てられる比率より大きいことを特徴とする項目12に記載の画像処理装置。
(項目15)
前記第2の範囲における前記第1の範囲との切替え付近では、前記割当て手段により前記第1の記録データに割り当てられる比率は、前記第2の記録データに割り当てられる比率より大きいことを特徴とする項目12に記載の画像処理装置。
(項目16)
前記量子化手段により量子化処理が実行されたデータを前記記録手段に出力する出力手段、をさらに備えることを特徴とする項目1乃至15のいずれか1項に記載の画像処理装置。
(項目17)
前記記録手段を含むことを特徴とする項目1乃至16のいずれか1項に記載の画像処理装置。
(項目18)
前記複数回の走査は2回の走査であることを特徴とする項目1乃至17のいずれか1項に記載の画像処理装置。
(項目19)
前記第1の閾値マトリクスと前記第2の閾値マトリクスの間のドット配置が排他関係にある前記第1の度合いと、前記第3の閾値マトリクスと前記第4の閾値マトリクスの間のドット配置が排他関係にある前記第2の度合いは、予め測定されたドットの重なりの評価値として記憶されていることを特徴とする項目1乃至18のいずれか1項に記載の画像処理装置。
(項目20)
画像データを入力する入力工程と、
前記入力工程において入力された前記画像データから、記録手段の複数回の走査のそれぞれで用いられる記録データを生成する生成工程と、
前記画像データが表す階調値に基づいて、閾値マトリクスを取得する取得工程と、
前記取得工程において取得された前記閾値マトリクスを用いて、前記記録データに対する量子化処理を実行する量子化工程と、
を有し、
前記取得工程では、階調値が第1の範囲に含まれる場合に、前記複数回の走査のうち、第1の走査に対応する第1の閾値マトリクスを取得し、第2の走査に対応する第2の閾値マトリクスを取得し、階調値が前記第1の範囲よりも高階調側の第2の範囲に含まれる場合に、前記第1の走査に対応する第3の閾値マトリクスを取得し、前記第2の走査に対応する第4の閾値マトリクスを取得し、
前記第3の閾値マトリクスを用いて量子化された結果であるドット配置と、前記第4の閾値マトリクスを用いて量子化された結果であるドット配置とが排他関係にある第1の度合いは、前記第1の閾値マトリクスを用いて量子化された結果であるドット配置と、前記第2の閾値マトリクスを用いて量子化された結果であるドット配置とが排他関係にある第2の度合いよりも小さい、
ことを特徴とする画像処理方法。
(項目21)
項目1乃至19に記載の画像処理装置の各手段としてコンピュータを機能させるためのプログラム。
(項目22)
画像データを入力する入力手段と、
前記入力手段により入力された前記画像データから、記録手段の第1の走査及び第2の走査を含む複数回の走査のそれぞれで用いられる記録データを生成する生成手段と、
閾値マトリクスを用いて前記複数回の走査のそれぞれに対応する記録データに対して量子化処理を行う量子化手段と、
を備え、
前記量子化手段は、
前記画像データが表す階調値が第1の範囲に含まれる場合、前記第1の走査に対応する記録データと第1の閾値マトリクスとを用いて量子化処理を行うことにより前記第1の走査に対応する第1の量子化データを取得し、前記第1の走査に対応する記録データを用いて、前記第2の走査で記録すべき記録データ及び前記第1の閾値マトリクスの少なくとも一方をオフセットし、オフセット後の記録データ及び前記第1の閾値マトリクスを用いて量子化処理を行うことにより前記第2の走査に対応する第2の量子化データを取得し、
前記画像データが表す階調値が前記第1の範囲よりも高階調側の第2の範囲に含まれる場合、前記第1の走査に対応する記録データと前記第1の閾値マトリクスとを用いて量子化処理を行うことにより前記第1の走査に対応する第3の量子化データを取得し、前記第2の走査に対応する記録データと前記第1の閾値マトリクスとは異なる第2の閾値マトリクスとを用いて量子化処理を行うことにより前記第2の走査に対応する第4の量子化データを取得する、
ことを特徴とする画像処理装置。
(項目23)
前記量子化手段は、前記第1の走査に対応する記録データを前記第1の閾値マトリクスから減算することによりオフセットすることを特徴とする項目22に記載の画像処理装置。
(項目24)
前記量子化手段は、前記第1の走査に対応する記録データを前記第2の走査に対応する記録データに加算することによりオフセットすることを特徴とする項目22又は23に記載の画像処理装置。
(項目25)
前記第1の量子化データの第1のドット配置と、前記第2の量子化データの第2のドット配置とが重なりがないと想定される場合におけるドット配置の総数に対する、前記第1のドット配置と前記第2のドット配置との間で重なりが生じる数の比率を第1の比率とし、
前記第3の量子化データの第3のドット配置と、前記第4の量子化データの第4のドット配置とが重なりがないと想定される場合におけるドット配置の総数に対する、前記第3のドット配置と前記第4のドット配置との間で重なりが生じる数の比率を第2の比率とし、
前記第1の比率は、前記第2の比率よりも低いことを特徴とする項目22乃至24のいずれか1項に記載の画像処理装置。
(項目26)
画像データを入力する入力工程と、
前記入力工程において入力された前記画像データから、記録手段の第1の走査及び第2の走査を含む複数回の走査のそれぞれで用いられる記録データを生成する生成工程と、
閾値マトリクスを用いて前記複数回の走査のそれぞれに対応する記録データに対して量子化処理を行う量子化工程と、
を有し、
前記量子化工程では、
前記画像データが表す階調値が第1の範囲に含まれる場合、前記第1の走査に対応する記録データと第1の閾値マトリクスとを用いて量子化処理を行うことにより前記第1の走査に対応する第1の量子化データを取得し、前記第1の走査に対応する記録データを用いて、前記第2の走査で記録すべき記録データ及び前記第1の閾値マトリクスの少なくとも一方をオフセットし、オフセット後の記録データ及び前記第1の閾値マトリクスを用いて量子化処理を行うことにより前記第2の走査に対応する第2の量子化データを取得し、
前記画像データが表す階調値が前記第1の範囲よりも高階調側の第2の範囲に含まれる場合、前記第1の走査に対応する記録データと前記第1の閾値マトリクスとを用いて量子化処理を行うことにより前記第1の走査に対応する第3の量子化データを取得し、前記第2の走査に対応する記録データと前記第1の閾値マトリクスとは異なる第2の閾値マトリクスとを用いて量子化処理を行うことにより前記第2の走査に対応する第4の量子化データを取得する、
ことを特徴とする画像処理方法。
(項目27)
前記量子化工程では、前記第1の走査に対応する記録データを前記第1の閾値マトリクスから減算することによりオフセットすることを特徴とする項目26に記載の画像処理方法。
(項目28)
前記量子化工程では、前記第1の走査に対応する記録データを前記第2の走査に対応する記録データに加算することによりオフセットすることを特徴とする項目26又は27に記載の画像処理方法。
(項目29)
前記第1の量子化データの第1のドット配置と、前記第2の量子化データの第2のドット配置とが重なりがないと想定される場合におけるドット配置の総数に対する、前記第1のドット配置と前記第2のドット配置との間で重なりが生じる数の比率を第1の比率とし、
前記第3の量子化データの第3のドット配置と、前記第4の量子化データの第4のドット配置とが重なりがないと想定される場合におけるドット配置の総数に対する、前記第3のドット配置と前記第4のドット配置との間で重なりが生じる数の比率を第2の比率とし、
前記第1の比率は、前記第2の比率よりも低いことを特徴とする項目26乃至28のいずれか1項に記載の画像処理方法。
【0121】
発明は上記実施形態に制限されるものではなく、発明の精神及び範囲から離脱することなく、様々な変更及び変形が可能である。従って、発明の範囲を公にするために請求項を添付する。
【符号の説明】
【0122】
1 記録装置: 2 画像処理装置: 100 記録装置主制御部: 108 画像処理装置主制御部
図1
図2
図3
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図5
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