IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 独立行政法人 宇宙航空研究開発機構の特許一覧

<>
  • 特開-形状制御方法 図1
  • 特開-形状制御方法 図2
  • 特開-形状制御方法 図3
  • 特開-形状制御方法 図4
  • 特開-形状制御方法 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023183257
(43)【公開日】2023-12-27
(54)【発明の名称】形状制御方法
(51)【国際特許分類】
   B64G 1/40 20060101AFI20231220BHJP
   B64G 1/64 20060101ALI20231220BHJP
【FI】
B64G1/40 900
B64G1/64 800
B64G1/40 700
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022096780
(22)【出願日】2022-06-15
(71)【出願人】
【識別番号】503361400
【氏名又は名称】国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100181124
【弁理士】
【氏名又は名称】沖田 壮男
(72)【発明者】
【氏名】高尾 勇輝
(72)【発明者】
【氏名】森 治
(57)【要約】
【課題】線状体を所望の形状に変形させる形状制御方法を提供する。
【解決手段】形状制御方法S11は、線状体の端部を基準軸回りに回転させつつ、線状体の端部を基準軸に沿う方向に振動させる基本回転・振動工程S12と、基準軸回りの所定の向きに線状体が配置されたときに、基準軸に沿う方向において、線状体が同じ位置に配置されるように制御する所定の向きに対する同一位置工程S13と、を行う。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
線状体の端部を基準軸回りに回転させつつ、前記線状体の前記端部を前記基準軸に沿う方向に振動させる基本回転・振動工程と、
前記基準軸回りの所定の向きに前記線状体が配置されたときに、前記基準軸に沿う方向において、前記線状体が同じ位置に配置されるように制御する所定の向きに対する同一位置工程と、
を行う、形状制御方法。
【請求項2】
前記基本回転・振動工程及び前記所定の向きに対する同一位置工程として、前記線状体の前記基準軸に沿う方向の変位w(r,t)を、(1)式を用いて得られる(2)式を満たすように制御する、請求項1に記載の形状制御方法。
ただし、ωは前記線状体の前記端部を前記基準軸に沿う方向に振動させる角振動数であり、A,αは定数であり、r及びxはそれぞれ前記線状体における前記基準軸に直交する方向の座標であり、Ωは前記線状体の前記基準軸回りの回転速度であり、mは自然数であり、tは時間であり、H(ω)は前記線状体の周波数応答関数であり、Φ(x)は前記線状体のn次の固有関数ある。
【数1】
【請求項3】
前記基本回転・振動工程及び前記所定の向きに対する同一位置工程として、前記基準軸回りに配置された複数の前記線状体の前記基準軸に沿う方向の変位w(r,θ,t)を、(3)式を用いて得られる(4)式を満たすように制御する、請求項1に記載の形状制御方法。
ただし、ωは前記線状体の前記端部を前記基準軸に沿う方向に振動させる角振動数であり、A,αは定数であり、r及びxはそれぞれ前記線状体における前記基準軸に直交する方向の座標であり、mは自然数であり、θはそれぞれの前記線状体の前記基準軸回りの座標であり、tは時間であり、H(ω)は周波数応答関数であり、Φ(x)はn次の固有関数ある。
【数2】
【請求項4】
線状体の端部を基準軸回りに回転させつつ、前記線状体の前記端部を前記基準軸に沿う方向に振動させる基本回転・振動工程と、
前記基準軸回りの所定の向きに前記線状体が配置されたときの前記線状体の前記基準軸に沿う方向の位置と、前記線状体がさらに前記基準軸回りに、1回転に加えて変位角度ずれた位置まで回転したときの前記線状体の前記基準軸に沿う方向の位置とが、互いに等しくなるように制御するずれた位置に対する同一位置工程と、
を行う、形状制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、形状制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、宇宙機から多数の帯電したテザー(ワイヤ。線状体)を伸展させ、太陽風の荷電粒子との反発力を利用する推進方法は、エレクトリックセイルと呼ばれる。これとは別に、複数の宇宙機をテザーで連結した装置は、テザーシステムと呼ばれる(例えば、非特許文献1及び2参照)。
テザーの用途としては、テザーに流した電流と惑星の磁場の相互作用(ローレンツ力)を利用したテザー推進等が存在する。テザーの他の用途としては、高速回転するテザーの先端を切り離して宇宙機を加速させたり、逆に外部から飛来してきた物体をテザーの先端で捉え減速させるロトベータ等が存在する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Marco Bassetto, Lorenzo Niccolai, Alessandro A. Quarta, Giovanni. Mengali, “A comprehensive review of Electric Solar Wind Sail concept and its applications”, Progress in Aerospace Sciences, 128 (2022), p. 1-27, 2022.
【非特許文献2】M. P. Cartmell and D. J. McKenzie, “A review of space tether research”, Progress in Aerospace Sciences, 44 (2008), p. 1-21
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、テザーは柔軟構造物であるため、何らかの形で張力を与え、直線状に展張された状態で使用する必要がある。慣性系において、テザーの形状を曲面状に変えることができれば、その用途はさらに拡大するが、そのような技術は存在しない。
【0005】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであって、線状体を所望の形状に変形させる形状制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、この発明は以下の手段を提案している。
(1)本発明の態様1は、線状体の端部を基準軸回りに回転させつつ、前記線状体の前記端部を前記基準軸に沿う方向に振動させる基本回転・振動工程と、前記基準軸回りの所定の向きに前記線状体が配置されたときに、前記基準軸に沿う方向において、前記線状体が同じ位置に配置されるように制御する所定の向きに対する同一位置工程と、を行う、形状制御方法である。
この発明では、基本回転・振動工程を行い、線状体の端部を基準軸回りに回転させつつ、線状体の端部を基準軸に沿う方向に振動させる。この状態で、所定の向きに対する同一位置工程を行い、基準軸回りの所定の向きに線状体が配置されたときに、基準軸に沿う方向において、線状体が同じ位置に配置されるように制御する。すると、慣性系において、基準軸回りに回転する線状体が所定の曲面上を移動し、線状体が通過する軌跡が一定の形状になる。従って、線状体を所望の形状に変形させることができる。
【0007】
(2)本発明の態様2は、前記基本回転・振動工程及び前記所定の向きに対する同一位置工程として、前記線状体の前記基準軸に沿う方向の変位w(r,t)を、(1)式を用いて得られる(2)式を満たすように制御する、前記(1)に記載の形状制御方法であってもよい。
ただし、ωは前記線状体の前記端部を前記基準軸に沿う方向に振動させる角振動数であり、A,αは定数であり、r及びxはそれぞれ前記線状体における前記基準軸に直交する動径方向の座標であり、Ωは前記線状体の前記基準軸回りの回転速度であり、mは自然数であり、tは時間であり、H(ω)は線状体の周波数応答関数であり、Φ(x)は線状体のn次の固有関数ある。
【0008】
【数1】
【0009】
この発明では、発明者等は、線状体における既知の運動方程式及び自由振動の一般解に基づいて、線状体の端部を基準軸回りに回転させつつ、線状体の端部を基準軸に沿う方向に振動させたときの線状体の形状の制御方法を鋭意検討した。その結果、基本回転・振動工程及び所定の向きに対する同一位置工程として、変位w(r,t)を、(1)式を用いて得られる(2)式を満たすように制御することにより、線状体を(2)式を所定の曲面とする一定の形状に変形させることができる。
【0010】
(3)本発明の態様3は、前記基本回転・振動工程及び前記所定の向きに対する同一位置工程として、前記基準軸回りに配置された複数の前記線状体の前記基準軸に沿う方向の変位w(r,t)を、(3)式を用いて得られる(4)式を満たすように制御する、前記(1)に記載の形状制御方法であってもよい。
ただし、ωは前記線状体の前記端部を前記基準軸に沿う方向に振動させる角振動数であり、A,αは定数であり、r及びxはそれぞれ前記線状体における前記基準軸に直交する方向の座標であり、mは自然数であり、θはそれぞれの前記線状体の前記基準軸回りの座標であり、tは時間であり、H(ω)は線状体の周波数応答関数であり、Φ(x)は線状体のn次の固有関数ある。
【0011】
【数2】
【0012】
この発明では、発明者等は、線状体における既知の運動方程式及び自由振動の一般解に基づいて、複数の線状体の端部を基準軸回りに回転させつつ、複数の線状体の端部を基準軸に沿う方向に振動させたときの線状体の形状の制御方法を鋭意検討した。その結果、基本回転・振動工程及び所定の向きに対する同一位置工程として、変位w(r,θ,t)を、(3)式を用いて得られる(4)式を満たすように制御することにより、複数の線状体を(4)式を所定の曲面とする一定の形状に制御することができる。
【0013】
(4)本発明の態様4は、線状体の端部を基準軸回りに回転させつつ、前記線状体の前記端部を前記基準軸に沿う方向に振動させる基本回転・振動工程と、前記基準軸回りの所定の向きに前記線状体が配置されたときの前記線状体の前記基準軸に沿う方向の位置と、前記線状体がさらに前記基準軸回りに、1回転に加えて変位角度ずれた位置まで回転したときの前記線状体の前記基準軸に沿う方向の位置とが、互いに等しくなるように制御するずれた位置に対する同一位置工程と、を行う、形状制御方法である。
この発明では、基本回転・振動工程を行い、線状体の端部を基準軸回りに回転させつつ、線状体の端部を基準軸に沿う方向に振動させる。この状態で、ずれた位置に対する同一位置工程を行い、基準軸回りの所定の向きに線状体が配置されたときの線状体の基準軸に沿う方向の位置と、線状体がさらに基準軸回りに、1回転に加えて変位角度ずれた位置まで回転したときの線状体の前記基準軸に沿う方向の位置とが、互いに等しくなるように制御する。すると、慣性系において、基準軸回りに回転する線状体が、基準軸回りに所定の速度で回転する所定の曲面上を移動し、線状体が通過する軌跡が基準軸回りに回転する一定の形状になる。従って、線状体を所望の形状に変形させることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の形状制御方法では、線状体を所望の形状に変形させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態の形状制御方法で形状を制御する複数の線状体を、基準軸回りに回転させたときの斜視図である。
図2】同形状制御方法を示すフローチャートである。
図3】複数の線状体を、基準軸回りに回転させつつ基準軸に沿う方向に振動させたときの斜視図である。
図4】線状体に対して規定されるx軸及びz軸を説明する図である。
図5】線状体の微小線要素に作用する力の釣り合い条件を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る形状制御方法の一実施形態を、図1から図5を参照しながら説明する。
【0017】
〔1.複数の線状体が移動する所定の曲面〕
この形状制御方法では、例えば、図1に示す複数の線状体100の形状を制御する。図1中には、複数の線状体100の形状を制御する形状制御装置1の一例を示している。なお、形状制御装置1の構成は、複数の線状体100の端部を基準軸O1回りに回転させたり、基準軸O1に沿う方向に振動させたりできれば、限定されない。
【0018】
ここで、外力が作用しない自然状態での(平坦な形状にした)線状体において、最も長い寸法となる方向を最長方向と言い、最も短い寸法となる方向を最短方向と言う。最長方向及び最短方向にそれぞれ直交する方向を、直交方向と言う。例えば、ここで言う線状体とは、最短方向の長さに対して直交方向の長さが1倍以上10倍未満であり、直交方向の長さに対して最長方向の長さが2倍以上である形状を意味する。線状体には、いわゆる帯状の物体(帯状体)も含む。
【0019】
例えば、線状体100は、ポリイミド樹脂で線状に形成されている。例えば、線状体100は、ロープ(tether:テザー)である。線状体100には、導電性を有する部材が埋め込まれていることが好ましい。この場合には、形状制御装置を用いた宇宙機を、エレクトリックセイルとして用いることができる。
線状体の幅が比較的広い場合には、線状体の外面に、反射率が比較的高い被膜等が設けられていることが好ましい。この場合には、線状体により太陽光を反射して推進することにより、宇宙機をヘリオジャイロ(宇宙版のヘリコプター)として用いることができる。
【0020】
形状制御方法では、複数の線状体100の端部を基準軸O1回りに回転させる。複数の線状体100は、基準軸O1回りに配置されている。複数の線状体100は、基準軸O1回りに等角度ごとに配置されていることが好ましい。以下では、複数の線状体100を区別して言うときには、基準軸O1回りに線状体100A,100B,100C,‥と言う場合がある。
基準軸O1に沿う方向から見て、線状体100Aに対する線状体100B,100C,‥の基準軸O1回りの角度差を、θ,θ,‥と規定する。
形状制御装置1は、複数の線状体100の端部を保持する。
図1に示すように、慣性系において、複数の線状体100の端部を基準軸O1回りに回転させると、複数の線状体100が移動する所定の曲面S1は、平坦面になる。
以下では、複数の線状体100を基準軸O1に沿う方向から見て、基準軸O1に直交する方向を径方向と言い、基準軸O1回りに周回する方向を周方向と言う。
【0021】
図2に示すように、本形状制御方法S11では、基本回転・振動工程S12で、慣性系において、複数の線状体100の端部を基準軸O1回りの所定の向きに回転させつつ、線状体100の端部を基準軸O1に沿う方向に振動させる。
本形状制御方法S11では、基本回転・振動工程S12を行う際に、所定の向きに対する同一位置工程S13で、慣性系において、基準軸O1回りの所定の向きに線状体100Aが配置されたときに、基準軸O1回りの線状体100Aの回転数によらず、基準軸O1に沿う方向において、線状体100Aが、径方向の位置によらず同じ位置に配置されるように制御する。
すると、図3に示すように、慣性系において、基準軸O1回りに回転する線状体100Aが所定の曲面S5上を移動し、線状体100Aが通過する軌跡が一定の形状になる。慣性系において、所定の曲面S5は静止している。
例えば、所定の曲面S5には、慣性系において、2つの山部S6と、2つの谷部S7とが形成される。山部S6では、所定の曲面S5が、基準軸O1に沿う方向の第1側に向かって突出している。谷部S7では、所定の曲面S5が、基準軸O1に沿う方向の第1側とは反対側の第2側に向かって突出している。
【0022】
さらに、線状体100B,100C,‥については、定在波角度差同一位置工程S14(図2参照)で、慣性系において、所定の時刻の所定の曲面S5上の線状体100Aの位置に対して、所定の曲面S5上で基準軸O1回りの前記所定の向きに角度差θ,θ,‥回転した位置に、線状体100B,100C,‥がそれぞれ配置されるように制御する。
形状制御方法S11において、基本回転・振動工程S12、所定の向きに対する同一位置工程S13、及び定在波角度差同一位置工程S14は、同時に行われる。
【0023】
慣性系において静止した所定の曲面S5上を通る複数の線状体100の波形を、定在波と言う。
なお、慣性系において、基準軸O1回りに回転する複数の線状体100が、基準軸O1回りに所定の速度で回転する所定の曲面上を移動する場合がある。慣性系において、線状体100全体の形状が基準軸O1回りに回転する所定の曲面上を通る場合の、複数の線状体100の波形を、準定在波と言う。
以下では、線状体100の運動方程式を考慮した線状体100の形状制御方法について説明する。
【0024】
〔2.線状体の運動方程式を考慮した線状体の形状制御方法〕
〔2.1.線状体の運動方程式〕
なお、以下に説明する長さ等の単位には、長さに対しては「m」といった、SI単位が好ましく用いられる。
図4に示すように、1本の線状体100に対して、線状体100の長手方向にx軸を規定する。線状体100の第1端をx軸の原点とし、線状体100の第1端から第2端に向かう向きを、x軸の正の向きとする。すなわち、xは、線状体100における(設定される)基準軸O1に直交する方向の座標である。x軸に直交し、基準軸O1に平行な方向に、z軸を規定する。
線状体100の長さを、Lと規定する。線状体100のz軸(基準軸O1)回りの回転速度を、Ωと規定する。
線状体100の線密度を、ρと規定する。位置xにおける、線状体100の張力をT(x)と規定し、線状体100のz方向の変位をw(x,t)と規定する。ただし、tは時間(時刻)である。
まず、線状体100に変位が無い(w=0)場合の、線状体100に作用する張力T(x)を求める。
【0025】
図5に示すように、x軸方向の長さ△x分の、線状体100の微小線要素101に作用する力の釣り合い条件は、(11)式のように表される。
【0026】
【数3】
【0027】
(11)式において△x→0の極限を考えると、(12)式が得られる。
【0028】
【数4】
【0029】
(12)式に、線状体100の第2端(x=L)で張力T(x)=0となるような境界条件を与えると、(13)式が得られる。
【0030】
【数5】
【0031】
次に、変位が無いとした線状体100に対して、変位wが微小であるため、張力T(x)は変わらないと仮定する。このとき、微小線要素101に作用するz方向の力Fは、(14)式により得られる。
【0032】
【数6】
【0033】
よって、微小線要素101の運動方程式は、(15)式、すなわち(15)式を変形した(16)式となる。
【0034】
【数7】
【0035】
〔2.2.線状体の自由振動の一般解〕
線状体100の変位w(x,t)が、位置xの関数であるΦ(x)と、時刻tの関数であるq(t)との積で、xとtとを分離して、w(x,t)=Φ(x)q(t)のように表されると仮定する。Φ(x)は、固有関数であり、固有振動モード形状を表す関数である。
すると、(19)式、及び(19)式を変形した(20)式が得られる。
【0036】
【数8】
【0037】
張力T(x)は、xに依存する。このため、(20)式の左辺は時間tのみに依存し、(20)式の右辺はxのみに依存する。このため、変数分離法に基づいて、(20)式の両辺は定数として扱える。この定数を-ωとすると、(21)式及び(22)式が得られる。
【0038】
【数9】
【0039】
ここで、(x/L)を無次元化した位置x^(記号「x」の上方に「^」の記号)と規定し、(ω/Ω)を無次元化した角周波数ω^と規定する。(22)式に、(13)式、位置x^、及び角周波数ω^を代入すると、(23)式及び(24)式が得られる。
【0040】
【数10】
【0041】
ここで、2(ω^)=n(n+1)とおくと、(24)式は、ルジャンドルの微分方程式と一致する。よって、固有関数Φ(x)は、ルジャンドル多項式で書ける。
ルジャンドル多項式は、2(ω^)の値によって様々な値を取る。x^=1(線状体100の第2端)でルジャンドル多項式が有限の値となるためには、nは0以上の整数でなければならない。
この条件から、固有振動数ω^が離散的に決まり、n次の固有関数Φ(x^)は(27)式により得られる。
【0042】
【数11】
【0043】
以上より、z軸回りに回転する線状体100の変位w(x,t)の一般解は、(28)式で与えられる。ただし、A,Bは、初期条件から決まる積分定数である。
【0044】
【数12】
【0045】
重要な性質として、固有関数(ルジャンドル多項式)は、(29)式で表される直交性の性質を持つ。ただし、δmnは、クロネッカーのデルタである。
【0046】
【数13】
【0047】
〔2.3.線状体の形状制御:外部入力応答〕
位置x及び時刻tにおいて、外力F(x,t)を線状体100に与えたとする。外力F(x,t)は、x軸方向の単位長さ当たりの、z軸方向の外力である。
このとき、線状体100の運動方程式は、(32)式で与えられる。
【0048】
【数14】
【0049】
固有関数Φ(x)は、〔2.2〕における線状体100の自由振動と変わらず、モード座標q(t)が未知数であると仮定する。すると、(33)式が得られる。(33)式を(32)式に代入すると、(34)式が得られる。
【0050】
【数15】
【0051】
(34)式の両辺にΦ(x^)をかけ、位置x^に関する区間[0,1]で積分する。すると、固有関数の直交性から、1つのモードだけが抽出され、(35)式が得られる。
ただし、M 、F は、それぞれn次の一般化質量、一般化力であり、(36)式、(37)式で表される。
【0052】
【数16】
【0053】
よって、外力F(x,t)が与えられた場合、(35)式をモード座標q(t)について解き、固有関数で重ね合わせれば、応答としての線状体100の変位w(x,t)が求められる。
以下では、その変位w(x,t)について説明する。
【0054】
〔2.4.線状体の形状制御:制御側〕
z軸回りに回転する線状体100の第1端(x=0)において、(40)式で表される周期入力F(t)を与えたと仮定する。
ただし、A,αは、定数である。ωは、線状体100の端部を基準軸O1に沿う方向に振動させる角振動数である。
【0055】
【数17】
【0056】
Diracのデルタ関数を用いて、F(x,t)=δ(x)F(t)と表されると仮定する。このとき、一般化力F は、(42)式で表される。
【0057】
【数18】
【0058】
ここで、1自由度系の(35)式の周波数応答関数を、H(ω)と規定する。このとき、モード座標の応答は、(43)式で表される。
ただし、H(ω)は、角振動数ωに対応する周波数応答関数である。
【0059】
【数19】
【0060】
ゆえに、線状体100の変位w(x,t)は、(44)式で表される。
【0061】
【数20】
【0062】
ここで、入力に対する増幅率Gω0(x)が、(45)式で表されると規定する。このとき、変位w(x,t)は、(46)式で表される。
【0063】
【数21】
【0064】
ここで、慣性空間における円筒座標系r-θ-zを規定する。rは、z軸を原点とする、線状体100における(設定される)基準軸O1に直交する方向の座標である。θは、それぞれの線状体100の基準軸O1回りの座標である。
線状体100は、z軸回りに回転速度Ωで回転している。線状体100が、時刻t=0で位置θ=0を通過すると仮定する。
ある角回転数ω=mΩで、線状体100の第1端(根本)を加振する。この加振、及びz軸方向のF(x,t)は、基本回転・振動工程S12に相当する。
線状体100の変形応答は、(49)式で表される。
【0065】
【数22】
【0066】
ここで、θ=Ωtなので、位置θを通過するときの線状体100の変位w(r,θ,t)は、(50)式で表される。
【0067】
【数23】
【0068】
よって、mが自然数であれば、(50)式の右辺におけるsin(mθ+α)の項は、位置θに対してz軸回りの一周で閉じる波形(定在波)となる。mが自然数である(50)式は、所定の向きに対する同一位置工程S13に相当する。
すなわち、慣性空間(慣性系)における線状体100の変位w(r,θ,t)は、時間tによらず一定となる。言い換えると、線状体100は、Gω0(r)Asin(mθ+α)で表される、慣性空間において静止した波面上をたどりながら振動変形する。
【0069】
〔3.形状制御方法のまとめ〕
〔3.1.定在波の場合〕
複数の線状体100の形状を制御する形状制御方法S11では、基本回転・振動工程S12及び所定の向きに対する同一位置工程S13として、複数の線状体100の基準軸O1に沿う方向の変位w(r,θ,t)を、(45)式を用いて得られる(50)式を満たすように制御する。
なお、1本の線状体100Aの形状を制御する形状制御方法では、基本回転・振動工程S12及び所定の向きに対する同一位置工程S13として、線状体100Aの基準軸O1に沿う方向の変位w(r,t)を、(45)式を用いて得られる(49)式を満たすように制御する。
【0070】
〔3.2.準定在波の場合〕
この場合、形状制御方法では、基本回転・振動工程S12を行いながら、ずれた位置に対する同一位置工程で、慣性系において、各線状体100に対して、基準軸O1回りの所定の向きに線状体100Aが配置されたときの線状体100Aの基準軸O1に沿う方向の位置と、線状体100Aがさらに基準軸O1回りに、1回転に加えて変位角度ずれた位置まで回転したときの線状体100Aの基準軸O1に沿う方向の位置とが、互いに等しくなるように制御する。ここで、変位角度は、例えば、予め定められる-180°以上180°未満の角度である。
このように制御することにより、線状体100Aが、基準軸O1回りに所定の速度で回転する所定の曲面(以下では、この所定の曲面を、回転曲面と言う)上を移動する。
さらに、線状体100B,100C,‥については、準定在波角度差同一位置工程で、慣性系において、所定の時刻の回転曲面上の線状体100Aの位置に対して、回転曲面上で基準軸O1回りの前記所定の向きに角度差を、(θ+変位角度),(θ+変位角度),‥回転した位置に、線状体100B,100C,‥がそれぞれ配置されるように制御する。
【0071】
準定在波の場合には、(49)式及び(50)式において、mを非整数の値(実数)とする。
【0072】
〔4.形状制御装置を用いた宇宙機の動作〕
本実施形態の形状制御方法を行うことができる形状制御装置1を用いて、宇宙機を構成することができる。
宇宙機では、複数の線状体100に埋め込まれた導電性を有する部材に電流を流しながら形状制御方法を行い、複数の線状体100を所望の形状に変形させる。そして、宇宙機が太陽等の磁場の影響を受ける際に、複数の線状体100がローレンツ力を受けることにより、宇宙機を移動させる向きを変えることができる。
そして、例えば、宇宙機は、宇宙デブリ(debris:ゴミ)の捕獲や、小天体のサンプルを採取することができる。
【0073】
〔5.本実施形態の効果〕
以上説明したように、本実施形態の形状制御方法S11では、線状体100Aに対して、基本回転・振動工程S12を行っている状態で、所定の向きに対する同一位置工程S13を行う。すると、慣性系において、基準軸O1回りに回転する線状体100Aが所定の曲面上を移動し、線状体100Aが通過する軌跡が一定の形状になる。従って、線状体100Aを所望の形状に変形させることができる。
【0074】
線状体100Aに対して、基本回転・振動工程S12及び所定の向きに対する同一位置工程S13として、線状体100Aの基準軸O1に沿う方向の変位w(r,t)を、(45)式を用いて得られる(49)式を満たすように制御する。発明者等は、線状体100における既知の運動方程式及び自由振動の一般解に基づいて、線状体100の端部を基準軸O1回りに回転させつつ、線状体100の端部を基準軸O1に沿う方向に振動させたときの線状体100の形状の制御方法を鋭意検討した。その結果、変位w(r,t)を、(45)式を用いて得られる(49)式を満たすように制御することにより、線状体100を(49)式を所定の曲面とする一定の形状に変形させることができる。
【0075】
複数の線状体100に対して、基本回転・振動工程S12及び所定の向きに対する同一位置工程S13として、複数の線状体100の基準軸O1に沿う方向の変位w(r,θ,t)を、(45)式を用いて得られる(50)式を満たすように制御する。発明者等は、線状体100における既知の運動方程式及び自由振動の一般解に基づいて、複数の線状体100の端部を基準軸O1回りに回転させつつ、複数の線状体100の端部を基準軸O1に沿う方向に振動させたときの線状体100の形状の制御方法を鋭意検討した。その結果、変位w(r,θ,t)を、(45)式を用いて得られる(50)式を満たすように制御することにより、複数の線状体100を(50)式を所定の曲面とする一定の形状に制御することができる。
【0076】
準定在波の形状制御方法では、基本回転・振動工程S12を行いながらずれた位置に対する同一位置工程を行う。すると、慣性系において、基準軸O1回りに回転する複数の線状体100が、基準軸O1回りに所定の速度で回転する所定の曲面上を移動し、複数の線状体100が通過する軌跡が基準軸O1回りに回転する一定の形状になる。従って、複数の線状体100を所望の形状に変形させることができる。
【0077】
以上、本発明の一実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の構成の変更、組み合わせ、削除等も含まれる。
例えば、前記実施形態では、形状制御方法を行う際に、(49)式及び(50)式を用いなくてもよい。
形状制御方法は、1本の線状体100に対して行ってもよい。この場合、形状制御方法において、定在波角度差同一位置工程S14及び準定在波角度差同一位置工程は、行われない。
【0078】
LED(Light Emitting Diode)等の発光素子を取付けた線状体を変形させてもよい。そして、線状体を変形させると共に、発光素子の色や輝度、すなわち絵柄を変え、線状体を立体モニターとして使用してもよい。あるいは、所望の形状に変形させた線状体に対して、外部の光源を利用した立体プロジェクションマッピングを行ってもよい。
複数の線状体により、風力発電を行ってもよい。そして、形状制御装置を用いたUAV(Unmanned Aerial Vehicle:無人航空機)の飛行経路をより立体化してもよいし、UAVの制御における発電効率を、向上させてもよい。
【符号の説明】
【0079】
100 線状体
O1 基準軸
S11 形状制御方法
S12 基本回転・振動工程
S13 所定の向きに対する同一位置工程
図1
図2
図3
図4
図5