(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023183258
(43)【公開日】2023-12-27
(54)【発明の名称】放射線治療システムおよびその制御方法
(51)【国際特許分類】
A61N 5/10 20060101AFI20231220BHJP
【FI】
A61N5/10 M
A61N5/10 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022096781
(22)【出願日】2022-06-15
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000279
【氏名又は名称】弁理士法人ウィルフォート国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉山 秀隆
(72)【発明者】
【氏名】木谷 貴雄
(72)【発明者】
【氏名】柳澤 伸
【テーマコード(参考)】
4C082
【Fターム(参考)】
4C082AA01
4C082AC04
4C082AE03
4C082AJ07
4C082AJ08
4C082AJ16
4C082AL07
4C082AN01
4C082AP13
(57)【要約】
【課題】適切な撮像パラメータを効率よく選択することができるようにすること。
【解決手段】照射装置10と撮像装置12-15を有するガントリ11を備える放射線治療システム1000は、撮像装置が撮像を開始するときのガントリ角度である撮像開始角度と、撮像装置が撮像を終了するときのガントリ角度である撮像終了角度と、ガントリの回転方向とを含む撮像パラメータを選択するパラメータ選択部59と、パラメータ選択部により選択された所定の撮像パラメータを用いて撮像装置を制御する制御部51を備え、パラメータ選択部は、1つ以上の撮像パラメータの候補を生成し、生成された撮像パラメータの候補のうち、撮像装置による撮像と照射装置による治療用放射線の照射とに要するガントリの合計移動量がより短くなる候補を所定の撮像パラメータとして選択する。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
照射装置と撮像装置を有するガントリを備える放射線治療システムであって、
前記撮像装置が撮像を開始するときのガントリ角度である撮像開始角度と、前記撮像装置が撮像を終了するときのガントリ角度である撮像終了角度と、前記ガントリの回転方向とを含む撮像パラメータを選択するパラメータ選択部と、
前記パラメータ選択部により選択された所定の撮像パラメータを用いて前記撮像装置を制御する制御部を備え、
前記パラメータ選択部は、
1つ以上の撮像パラメータの候補を生成し、
前記生成された撮像パラメータの候補のうち、前記撮像装置による撮像と前記照射装置による治療用放射線の照射とに要する前記ガントリの合計移動量がより短くなる候補を前記所定の撮像パラメータとして選択する
放射線治療システム。
【請求項2】
前記パラメータ選択部は、
前記照射装置から治療用放射線が照射されるガントリ角度である照射開始角度と前記撮像終了角度との差が所定範囲内に収まる1つ以上の撮像パラメータの候補を生成し、
前記生成された撮像パラメータの候補のうち、前記撮像装置による撮像と前記照射装置による治療用放射線の照射とに要する前記ガントリの合計移動量がより短くなる候補を前記所定の撮像パラメータとして選択する
請求項1に記載の放射線治療システム。
【請求項3】
前記パラメータ選択部は、
前記生成された撮像パラメータの候補のうち、前記ガントリの現在角度から前記照射開始角度までの合計移動量がより短くなる撮像パラメータを選択する
請求項2に記載の放射線治療システム。
【請求項4】
前記パラメータ選択部は、
前記生成された撮像パラメータの候補のうち、前記ガントリの現在角度から前記撮像装置による撮像を経て前記照射装置による治療用放射線の照射へ移行するまでの、前記ガントリの合計移動量がより短くなる撮像パラメータの候補を前記所定の撮像パラメータとして選択する
請求項2に記載の放射線治療システム。
【請求項5】
前記ガントリには、一回転以上の回転が規制される回転規制角度が設定されており、
前記パラメータ選択部は、
前記撮像開始角度から前記撮像終了角度までの範囲に前記回転規制角度を含まない撮像パラメータの候補を少なくとも1つ生成する
請求項1に記載の放射線治療システム。
【請求項6】
前記ガントリには、一回転以上の回転が規制される回転規制角度が設定されており、
前記パラメータ選択部は、
前記生成された撮像パラメータの中に前記撮像開始角度から前記撮像終了角度までの範囲に前記回転規制角度が存在する場合、前記撮像開始角度から前記撮像終了角度までの範囲に前記回転規制角度を含まない他の撮像パラメータの候補を生成し、
前記生成された他の撮像パラメータの候補のうち、前記撮像装置による撮像と前記照射装置による治療用放射線の照射とに要する前記ガントリの合計移動量がより短くなる候補を前記所定の撮像パラメータとして選択する
請求項1に記載の放射線治療システム。
【請求項7】
前記パラメータ選択部は、前記撮像開始角度が前記回転規制角度となるように、前記他の撮像パラメータの候補を生成する
請求項6に記載の放射線治療システム。
【請求項8】
前記撮像装置は、照射部を挟んで設けられる複数のX線発生部と、前記各X線発生部に対向する位置で前記ガントリに設けられる複数のX線撮像部とを備えており、
前記対向して配置される複数のX線発生部およびX線撮像部の組のうち、少なくともいずれか1組のX線発生部およびX線撮像部により撮像される
請求項1に記載の放射線治療システム
【請求項9】
前記パラメータ選択部は、
前記対向して配置される複数のX線発生部および前記X線撮像部の組のうちいずれか1つの組のX線発生部およびX線撮像部により撮像する場合の撮像パラメータの候補と、前記対向して配置される複数のX線発生部およびX線撮像部の組のうち全ての組のX線発生部およぶX線撮像部により撮像する場合の撮像パラメータの候補とを生成する
請求項8に記載の放射線治療システム。
【請求項10】
前記撮像装置は、X線により照射対象を含む二次元画像を取得する二次元画像取得モードと、X線により前記照射対象を含む三次元画像を取得する三次元画像取得モードとのいずれかを選択できる
請求項1に記載の放射線治療システム。
【請求項11】
前記パラメータ選択部は、
前記二次元画像取得モードが選択された場合、あらかじめ用意された複数の撮像角度のうち、前記照射装置から治療用放射線が照射されるガントリ角度である照射開始角度までの前記ガントリの移動量がより短くなる撮像パラメータの候補を生成する
請求項10に記載の放射線治療システム。
【請求項12】
照射装置から治療用放射線が照射されるガントリ角度である照射開始角度と前記撮像終了角度との差が所定範囲内に収まるとは、前記照射開始角度と前記撮像終了角度とが一致する場合を含む
請求項2に記載の放射線治療システム。
【請求項13】
前記制御部は、前記撮像装置により撮像された照射対象の現在画像と、治療計画時の参照画像との位置ずれ量とに基づいて、前記照射装置から前記照射対象へ治療用放射線を照射させる
請求項1に記載の放射線治療システム。
【請求項14】
照射装置と撮像装置を有するガントリを備える放射線治療システムの制御方法であって、
前記撮像装置が撮像を開始するときのガントリ角度である撮像開始角度と、前記撮像装置が撮像を終了するときのガントリ角度である撮像終了角度と、前記ガントリの回転方向とを含む撮像パラメータの候補を生成し、
前記生成された撮像パラメータの候補のうち、前記撮像装置による撮像と前記照射装置による治療用放射線の照射とに要する前記ガントリの合計移動量がより短くなる候補を前記所定の撮像パラメータとして選択する
放射線治療システムの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線治療システムおよびその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
IGRT(Image-Guided Radiation Therapy):画像誘導放射線治療)とは、治療計画時の画像と治療直前または治療中に撮像された画像とを照合し、検出した位置のずれを自動補正して治療用放射線を照射する治療である。治療計画を作成したときの患部の状況と治療直前の患部の状況とは変化するため、治療直前に患部を撮像し、治療計画とのずれを検出する。
【0003】
特許文献1には、ガントリの回転角度と照射門の照射角度とに基づいて放射線治療に要する時間を予測し、予測した時間を表示させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
治療直前の患部の位置を決定する撮像フィールドの後で、治療計画にしたがって患部へ所定量の放射線を照射する治療フィールドが実施される。放射線治療を効率的に進めるには、撮像フィールド後、できるだけ少ない移動量でガントリを照射角度まで回転させて、治療フィールドへ速やかに移行するのが好ましい。このためには、適切な撮像パラメータを医師または放射線技師などのユーザが検討して設定する必要がある。したがって、適切な撮像パラメータを設定するためのユーザの負担が大きい。さらに、適切な撮像パラメータの設定に要する時間が長くなるほど治療時間も長くなるため、放射線治療を受ける患者の負担も大きい。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたもので、その目的は、適切な撮像パラメータを効率よく選択することができるようにした放射線治療システムおよびその制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決すべく、本発明に従う放射線治療システムは、照射装置と撮像装置を有するガントリを備える放射線治療システムであって、撮像装置が撮像を開始するときのガントリ角度である撮像開始角度と、撮像装置が撮像を終了するときのガントリ角度である撮像終了角度と、ガントリの回転方向とを含む撮像パラメータを選択するパラメータ選択部と、パラメータ選択部により選択された所定の撮像パラメータを用いて撮像装置を制御する制御部を備え、パラメータ選択部は、1つ以上の撮像パラメータの候補を生成し、生成された撮像パラメータの候補のうち、撮像装置による撮像と照射装置による治療用放射線の照射とに要するガントリの合計移動量がより短くなる候補を所定の撮像パラメータとして選択する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ガントリの合計移動量がより短くなる所定の撮像パラメータを選択することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図4】ガントリの回転が規制される様子を示す説明図である。
【
図7】CBCTの撮像範囲を管理するテーブルの例である。
【
図8】放射線治療システムの制御システムの機能構成図である。
【
図10】撮像パラメータを設定する処理のフローチャートである。
【
図11】撮像パラメータの候補を管理するテーブルの例である。
【
図12】ガントリの現在角度、撮像開始角度、撮像終了角度の関係を模式的に示す説明図である。
【
図13】第2実施例に係り、複数の照射角度から治療用放射線を照射する場合の順番の例を示す説明図である。
【
図14】撮像パラメータの候補をケースごとに管理するテーブルの例である。
【
図15】照射角度ごとの撮像パラメータの算出と照射順序を決定する処理のフローチャートである。
【
図16】第3実施例に係り、RAD撮像のセットアップ角度を示す説明図である。
【
図17】撮像パラメータを設定する処理のフローチャートである。
【
図18】第4実施例に係り、複数の照射角度から治療用放射線を照射する場合の順番の例を示す説明図である。
【
図19】撮像パラメータを設定する処理のフローチャートである。
【
図20】第5実施例に係り、ガントリに回転規制角度TPが設定されていない場合の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面に基づいて、本発明の実施の形態を説明する。本実施形態に係る放射線治療システム1000では、治療用放射線の照射開始角度を考慮して、ガントリ11の回転移動量がより短くなる撮像パラメータ(撮像開始ガントリ角度、撮像終了ガントリ角度、ガントリ回転方向を含む。)を自動的に決定し、決定された撮像パラメータを医師または放射線技師などのユーザへ提供する。
【0011】
本実施形態では、治療用放射線として粒子線を例に説明する。粒子線には、例えば、中性子線、陽子(水素)線、ヘリウム線、炭素線などがある。しかし、粒子線に限らず、X線または電子線にも本実施形態を適用できる。以下、治療用放射線を粒子線と呼ぶことがある。
【0012】
本開示の一形態に従う放射線治療システムは、パラメータ選択部が、照射装置から治療用放射線が照射されるガントリ角度である照射開始角度と撮像終了角度との差が所定範囲内に収まる1つ以上の撮像パラメータの候補を生成し、生成された撮像パラメータの候補のうち、撮像装置による撮像と照射装置による治療用放射線の照射とに要するガントリの合計移動量がより短くなる候補を所定の撮像パラメータとして選択する構成であってもよい。
【0013】
本開示の一形態に従う放射線治療システムは、パラメータ選択部が、生成された撮像パラメータの候補のうち、前記ガントリの現在角度から前記照射開始角度までの合計移動量がより短くなる撮像パラメータを選択する構成であってもよい。
【0014】
本開示の一形態に従う放射線治療システムは、 パラメータ選択部が、生成された撮像パラメータの候補のうち、ガントリの現在角度からX線撮像装置による撮像を経て照射装置による治療用放射線の照射へ移行するまでの、ガントリの合計移動量がより短くなる撮像パラメータの候補を所定の撮像パラメータとして選択する構成であってもよい。
【0015】
本開示の一形態に従う放射線治療システムは、一回転以上の回転が規制される回転規制角度が設定される回転ガントリを備え、パラメータ選択部は、撮像開始角度から撮像終了角度までの範囲に回転規制角度を含まない撮像パラメータの候補を少なくとも1つ生成する構成であってもよい。
【0016】
本開示の一形態に従う放射線治療システムは、一回転以上の回転が規制される回転規制角度が設定される回転ガントリを備え、パラメータ選択部が、生成された撮像パラメータの中に撮像開始角度から撮像終了角度までの範囲に回転規制角度が存在する場合、撮像開始角度から撮像終了角度までの範囲に回転規制角度を含まない他の撮像パラメータの候補を生成し、生成された他の撮像パラメータの候補のうち、撮像装置による撮像と照射装置による治療用放射線の照射とに要するガントリの合計移動量がより短くなる候補を所定の撮像パラメータとして選択する構成であってもよい。
【0017】
本開示の一形態に従う放射線治療システムは、パラメータ選択部が撮像開始角度が回転規制角度となるように、他の撮像パラメータの候補を生成する構成であってもよい。
【0018】
本開示の一形態に従う放射線治療システムは、撮像装置が、照射部を挟んで設けられる複数のX線発生部と、各X線発生部に対向する位置でガントリに設けられる複数のX線撮像部とを備えており、対向して配置される複数のX線発生部およびX線撮像部の組のうち、少なくともいずれか1組のX線発生部およびX線撮像部により撮像する構成であってもよい。
【0019】
本開示の一形態に従う放射線治療システムは、パラメータ選択部が、対向して配置される複数のX線発生部およびX線撮像部の組のうちいずれか1つの組のX線発生部およびX線撮像部により撮像する場合の撮像パラメータの候補と、対向して配置される複数のX線発生部およびX線撮像部の組のうち全ての組のX線発生部およぶX線撮像部により撮像する場合の撮像パラメータの候補とを生成する構成であってもよい。
【0020】
本開示の一形態に従う放射線治療システムは、撮像装置が、X線により照射対象を含む二次元画像を取得する二次元画像取得モードと、X線により照射対象を含む三次元画像を取得する三次元画像取得モードとのいずれかを選択可能な構成であってもよい。
【0021】
本開示の一形態に従う放射線治療システムは、パラメータ選択部が、二次元画像取得モードが選択された場合、あらかじめ用意された複数の撮像角度のうち、照射装置から治療用放射線が照射されるガントリ角度である照射開始角度までのガントリの移動量がより短くなる撮像パラメータの候補を生成する構成であってもよい。
【0022】
本開示の一形態に従う放射線治療システムは、照射装置から治療用放射線が照射されるガントリ角度である照射開始角度と撮像終了角度との差が所定範囲内に収まるとは、照射開始角度と撮像終了角度とが一致する場合を含む構成であってもよい。
【0023】
本開示の一形態に従う放射線治療システムは、制御部が、撮像装置により撮像された照射対象の現在画像と、治療計画時の参照画像との位置ずれ量とに基づいて、照射装置から照射対象へ治療用放射線を照射するように制御してもよい。
【0024】
本開示の一形態に従う放射線治療システムの制御方法は、照射装置と撮像装置を有するガントリを備える放射線治療システムの制御方法であって、撮像装置が撮像を開始するときのガントリ角度である撮像開始角度と、撮像装置が撮像を終了するときのガントリ角度である撮像終了角度と、ガントリの回転方向とを含む撮像パラメータの候補を生成し、生成された撮像パラメータの候補のうち、撮像装置による撮像と照射装置による治療用放射線の照射とに要するガントリの合計移動量がより短くなる候補を所定の撮像パラメータとして選択する構成であってもよい。
【実施例0025】
図1~
図12を用いて実施例1を説明する。
図1は、放射線治療システムの全体構成を示す。放射線治療システムは、主に治療用放射線発生装置1、粒子線輸送系5、および治療室9を備える。
【0026】
治療用放射線発生装置1は、例えば、図示しないイオン源と、前段加速装置としてのライナック2と、円形加装置(例えば、シンクロトロン)3を有する。本実施形態では円形加速装置としてシンクロトロン3を例に説明するが、サイクロトロン又はシンクロサイクロトロン等の他の円形加速器であってもよい。粒子線輸送系5は、例えば、治療用放射線発生装置1と治療室9とを接続する粒子線経路7と、粒子線経路7の途中に設けられた四極電磁石(図示せず)と、偏向電磁石4,6,8を有する。
【0027】
治療室9は、例えば略筒状のガントリ11と、照射装置10と、X線発生装置12,13と、X線検出器14,15と、カウチ17を有する。
【0028】
イオン源より発生した治療用放射線(陽子線)は、ライナック2により前段加速され、シンクロトロン3へ入射する。シンクロトロン3でさらに加速された治療用放射線は、粒子線輸送系5へ出射される。
【0029】
シンクロトロン3から出射された治療用放射線は、粒子線経路7を通過しながら四極電磁石(図示せず)によって収束し、偏向電磁石4,6,8によって方向を変えて治療室9へ入射する。粒子線輸送系5の一部(偏向電磁石6,8と粒子線経路7の一部)は、ガントリ11と一体に回転するようガントリ11に設置されている。
【0030】
粒子線輸送系5から治療室9内へ入射した治療用放射線は、照射装置10からカウチ17上に配置された照射対象16へ向けて出射される。照射装置10は、ガントリ11に設置されており、ガントリ11の回転制御によって任意の角度に調整できる。
【0031】
図2を用いて、ガントリ11の内部構成を説明する。ガントリ11には、照射対象16内のターゲット18へ向けて治療用放射線を出射する照射装置10が設置されている。さらに、照射装置10の粒子線照射口を挟むようにして、複数のX線撮像装置の組が配置されている。つまり、X線発生装置12,13およびX線検出器14,15のそれぞれの組合せからなるX線撮像装置が、それぞれのX線の経路が直交するようにガントリ11に配置されている。図示の例では、互いに対向するX線発生装置12とX線検出器14が1つの組を構成し、互いに対向するX線発生装置13とX線検出器15とが他の1つの組を構成する。
【0032】
治療用放射線をターゲット18に照射するために、照射対象16は、予め設定された位置に精度良く配置される。医師または放射線技師などのユーザは、X線撮像装置(12,14),(13,15)による照射対象16のX線画像を確認しながら、カウチ17を移動させ、照射対象16を治療計画で予め設定された位置に配置する。
【0033】
照射装置10は、照射対象16に向けて治療用放射線を出射し、照射対象16内におけるターゲット18の形状に適した線量分布を形成する。
【0034】
図3は、ガントリ11の平面図である。図中上側をガントリ角度0度とする。ガントリ11は、時計回り(CW)に90度、180度まで回転できる。本明細書では、
図3の真上に示す0度から時計回りの角度を記載するが、角度に続くかっこ内には0度から反時計回りの角度を記載する。反時計回りで示す角度にはマイナス符号が付けられる。基準角度0度から時計回りに一回転すると360度となる。ガントリ11は、反時計回り(CCW)に-90度(時計回りでは270度)、-180度(時計回りでは180度)まで回転できる。本実施形態では、時計回りおよび反時計回りのいずれも、ガントリ11は一回転以上回転することはできない構成を例に説明する。本実施例のガントリ11は、
図4にも示すように、回転規制角度TPで折り返して回動する構成である。機器構造上の制限により、ガントリ11の回転が規制されている。後述のように、ガントリ11の回転開始角度を回転規制角度TPに設定した場合、ガントリ11は360度未満(例えば359度まで)回転することができる。
【0035】
図5は、2軸でX線撮像を行う場合の説明図である。2軸でのX線撮像とは、2組のX線撮像装置(12,14),(13,15)を用いて、照射対象16のターゲット18を含む画像を取得することである。
【0036】
図6は、1軸でX線撮像を行う場合の説明図である。1軸でのX線撮像とは、2組のX線撮像装置(12,14),(13,15)のうちいずれか1組のX線撮像装置を用いて、照射対象16のターゲット18を含む画像を取得することである。
【0037】
後述のように、コーンビームで撮像するCTの場合(以下、CBCT)、1軸でのX線撮像に要する角度範囲よりも2軸でのX線撮像に要する角度範囲の方が小さくできるため、一般的に、2軸でのX線撮像が行われる。しかし、2組のX線撮像装置(12,14),(13,15)のうちいずれか一方を利用し、1軸でのX線撮像が行われる可能性がある。そこで、本実施例の放射線治療システム1000では、1軸でのX線撮像と2軸でのX線撮像の両方に対応できるようにしている。
【0038】
図7は、CBCTの撮像範囲を管理するテーブルT1の例である。CBCT撮像範囲管理テーブルT1は、例えば、FOV_C11と、軸数C12と、撮像角度範囲C13とを対応付けて管理する。
【0039】
FOV_C11は、撮像視野(field of view)である。本実施例では、例えば撮像視野が小さい場合(Small)と大きい場合(Large)の2種類を用意している。3種類以上のFOVを利用可能でもよい。
【0040】
軸数C12は、2組のX線撮像装置(12,14),(13,15)のうち何個のX線撮像装置を使用するかを示す。上述の通り、軸数C12には「1軸」と「2軸」とがある。
【0041】
撮像角度範囲C13は、必要な範囲を撮像するために要する角度範囲である。例えば、FOVが「Small」で1軸でのX線撮像の場合、ガントリ11を200度回転させて撮像する必要がある。これに対し、FOVが「Small」で2軸でのX線撮像の場合、ガントリ11を110度回転させるだけで必要な範囲の画像を得ることができる。
【0042】
FOVが「Large」の場合、1軸でのX線撮像ではガントリ11を360度回転させる必要がある。これに対し、FOVが「Large」の場合、2軸でのX線撮像ではガントリ11を290度回転させればよい。
【0043】
以上述べたように、FOVが同一の場合、1軸でのX線撮像のよりも2軸でのX線撮像の方が撮像に要するガントリ回転角度は小さくなる。さらに、FOVが大きいほど、撮像に必要なガントリ回転角度は大きくなる。
【0044】
図8を用いて、制御システム50の制御ブロックの構成を説明する。制御システム50は、例えば中央制御装置51、加速器制御装置52、ガントリ制御装置53、照射制御装置54、X線撮像制御装置55、カウチ制御装置56を備えており、放射線治療情報システム60と通信可能に接続されている。患部を撮影するために使用される放射線を撮影用放射線と呼ぶ。本実施例では、撮影用照射線の例としてX線を挙げる。
【0045】
中央制御装置51は、加速器制御装置52、ガントリ制御装置53、照射制御装置54、X線撮像制御装置55およびカウチ制御装置56に接続され、これらの間で必要な情報を送受信することにより制御システム50を制御する。
【0046】
加速器制御装置52は、治療用放射線発生装置1および粒子線輸送系5に接続され、これらを制御する。ガントリ制御装置53は、ガントリ11に接続されており、ガントリ11の回転を制御する。照射制御装置54は、照射装置10内の機器を制御することにより、照射対象16内で所定の線量分布が形成されるように、照射装置10から照射対象16のターゲット18に向けて治療用放射線を照射させる。
【0047】
X線撮像制御装置55は、上述した2組のX線撮像装置(12,14),(13,15)にそれぞれ接続されており、これら2組のX線撮像装置(12,14),(13,15)を制御する。カウチ制御装置56は、カウチ17に接続されており、カウチ17を制御する。
【0048】
X線撮像制御装置55は、撮像制御装置57、画像生成装置58、および治療情報制御装置59を備えている。撮像制御装置57は、X線発生装置12,13の動作を制御する。
【0049】
X線撮像信号を受信したX線発生装置12,13は、それぞれターゲット18に向けて撮影用放射線の例であるX線を照射する。ターゲット18を透過したX線は、それぞれ対向するX線検出器14,15によって検出される。X線検出器14,15は、検出したX線を電気信号に変換して画像生成装置58へ送信する。画像生成装置58は、X線検出器14,15から得られた電気信号情報を基にX線撮像画像を生成し、生成された画像データを表示させる。
【0050】
「パラメータ選択部」としての治療情報制御装置59は、放射線治療情報システム60から治療計画を取得し、撮像パラメータを選択して中央制御装置51へ入力する。
図10,
図15,
図17,
図19で後述する処理を「パラメータ制御部」の例として理解することもできる。
【0051】
「制御部」としての中央制御装置51は、照射許可信号がONになると、加速器制御装置52および照射制御装置54へ照射開始信号を送信する。加速器制御装置52および照射制御装置54は、治療用放射線発生装置1および照射装置10をそれぞれ制御して、ターゲット18に治療用放射線を照射させる。
【0052】
図9のフローチャートを用いて、放射線治療処理を説明する。制御システム50は、放射線治療情報システム60から治療計画を取得し(S10)、治療装置を準備すると共に撮像パラメータを設定する(S20)。ステップS20では、ガントリ11の位置(角度)とカウチ17の位置および姿勢が制御される。ステップS20のうち、撮像パラメータの設定方法については、
図10で後述する。
【0053】
照射対象16である患者がカウチ17上に所定の姿勢で固定される(S30)。この一連の作業を患者セットアップと呼ぶ。ステップS30は、制御システム50により実行される処理ではなく、ユーザおよび補助作業者によって手動で実施される。しかし、セットアップ支援ロボットなどを用いて、患者をカウチ17に固定させることもでき、その場合、制御システム50はセットアップ支援ロボットを制御することができる。
【0054】
制御システム50は、患者位置決め用のX線画像(現在画像の一例)を取得する(S40)。患者位置決め用のX線画像は、X線撮像装置で撮像したターゲット18の現在位置を示すX線画像である。制御システム50は、治療計画時に取得した患者のX線画像(参照画像の一例)を治療計画装置から取得する。そして、制御システム50は、治療計画時の参照画像とX線撮像装置で撮影した現在画像のずれ量に基づいて、治療計画におけるターゲット18の位置とステップS40で取得した最新のターゲット18の位置とのずれ量を計算し、カウチ制御装置56へ出力する(S50)。カウチ制御装置56は、制御システム50から位置ずれ量を受け取ると、その位置ずれ量を解消させるべく、カウチ17を移動させる(S60)。
【0055】
制御システム50は、カウチ17およびガントリ11を治療位置へ移動させる(S70)。ステップS70では、RAD撮像の場合に、ガントリ11はセットアップ角度から照射角度へ移動される(S70)。治療開始の準備が整うと、制御システム50は、照射装置10から治療用放射線を照射対象16へ照射させる(S80)。
【0056】
図10のフローチャートは、撮像パラメータを設定する処理を示す。本処理は、
図9で述べたステップS20の一部として実行される。本処理では、3D3D方式で放射線治療を行う場合の、CBCT撮像のパラメータを設定する。ここで、3D3Dとは、治療計画時と治療直前とでCBCTを用いることで、ターゲット18を含む3次元画像を取得する処理である。
【0057】
制御システム50は、CBCT撮像の基本情報としてFOVの値(SmallかLargeか)を取得する(S201)。制御システム50は、撮像終了角度を照射開始角度に設定した場合に、CBCT撮像が可能であるかを判定する(S202)。
【0058】
撮像終了角度を照射開始角度に一致させれば、撮像フィールドから治療フィールドへ短時間で移行させることができ、放射線治療に要する時間を短縮できる。一方、ガントリ11の回転には規制角度TPが設定されており、規制角度TPを越えて回転することはできない。撮像終了角度を照射開始角度に一致させた場合、撮像開始角度はFOVの値、及び軸数から自ずと定まる。FOVの値と軸数に基づいて定まる撮像開始角度から撮像終了角度までの範囲内に規制角度TPが含まれる場合、ガントリ11はその経路上を移動できない。
【0059】
なお、撮像終了角度と照射開始角度とを厳密に一致させてもよいし、実質的に一致させてもよい。撮像終了角度と照射開始角度を実質的に一致させるとは、例えば、DICOM(Digital Imaging and Communications in Medicine)に規定される許容範囲内の誤差で一致することを意味する。実質的同一を越えて、照射開始角度と撮像終了角度との差が所定範囲内に収まる場合も、本実施例の範囲に含まれる。例えば、撮像終了角度が照射開始角度と数度~十数度異なる場合も、本実施例の範囲に含まれる。この場合も、撮像フィールドから治療フィールドへ比較的短時間で移行させることができる。
【0060】
ステップS202において、撮像終了角度を照射開始角度に設定した場合にCBCT撮像が可能であると判定されると(S202:YES)、制御システム50は、CBCTの撮像終了角度が最初の粒子線(治療用放射線)が照射される角度(照射角度)となるように設定する(S203)。そして、制御システム50は、ガントリ11の移動量(回転量)がより短くなるように、CBCTの撮像開始角度およびガントリ11の回転方向を設定する(S204)。この設定方法の例は
図11で後述する。
【0061】
これに対し、撮像終了角度を照射開始角度に一致させるとCBCT撮像を行うことができない場合(S202:NO)、制御システム50は、CBCTの撮像開始角度を回転規制角度TPに一致させた場合の、時計回り方向での撮像終了角度と反時計回りでの撮像終了角度と計算する(S205)。制御システム50は、時計回りでの撮像終了角度と反時計回りでの撮像終了角度のうち、治療計画に定められた最初の粒子線の照射角度に近い方の撮像終了角度を選択する(S206)。
【0062】
図11は、撮像パラメータの候補を管理するテーブルT2の例である。この候補テーブルT2は、最初に照射される角度が決まっている場合、または照射角度が1つだけの場合に適用される。以下、治療計画に定められた照射角度が30度、FOVは「Small」、現在のガントリ角度が90度の場合を説明する。現在のガントリ角度とは、撮像パラメータを選択する前のガントリ角度の初期値である。
【0063】
ここでは、治療に要する時間を短縮等すべく、撮像終了角度と照射開始角度を一致させるものとする。FOVが「Small」の場合、
図7で述べたように、1軸での撮像角度範囲は200度、2軸での撮像角度範囲は110度である。
【0064】
1軸でCBCT撮像するケース1の場合は、ガントリ11を撮像終了角度30度まで時計回りに200度回転させて撮像する。このため、撮像開始角度は190度(-170度)となる。2軸でCBCT撮像する場合は、時計回りと反時計回りの2つのケースが存在する。
【0065】
時計回りにガントリ11を撮像終了角度30度まで回転させてCBCT撮像するケース2では、280度(-80度)が撮像開始角度となる(
図3参照)。反時計回りにガントリ11を撮像終了角度30度まで回転させてCBCT撮像するケース3では、撮像開始角度は140度となる。
【0066】
所与の値として、現在のガントリ角度は90度である。現在のガントリ角度90度と、ケース2の撮像開始角度280度(-80度)およびケース3の撮像開始角度140度とをそれぞれ比較すると、140度の方が近い。したがって、
図12に示すように、ケース3に規定された撮像パラメータが選択される。ケース3の撮像パラメータが設定されると、ガントリ11は、現在角度90度から時計回りで50度回転して撮像開始角度140度に達する。そして、CBCT撮像が開始される。ガントリ11が撮像開始角度140度から反時計回りに110度回転しながら、CBCT撮像が続けられ、ガントリ11が撮像終了角度30度に達するとCBCT撮像は終了する。したがって、撮影開始までに、ガントリ11は、90度から140度までの50度回転移動し、撮影中に140度から30度まで110度回転移動する。ガントリ11の合計移動量は160(=50+110)度となる。ケース2の場合、ガントリ11は現在角度90度から280度(-80度)まで反時計回りに170度回転して撮影開始角度に達し、そこから時計回りに110度回転してCBCT撮像する。したがって、ガントリ11の合計移動量は280(170+110)度となる。ケース3の合計移動量はケース2の合計移動量よりも少ないため、ガントリ11の移動に伴う摩耗などを低減することができ、消費電力も少なくできる。
【0067】
なお通常は、治療時間を短くするために、2軸でのCBCT撮像が選択されるが、いずれか一方のX線撮像装置が故障している場合、1軸でのCBCT撮像が行われる。この場合、ケース1の撮像パラメータが選択される。
【0068】
このように構成される本実施例によれば、CBCT撮像に要する時間がより短くなる撮像パラメータを自動的に選択して設定することができるため、ユーザにとっての使い勝手が向上する。さらに、本実施例によれば、CBCT撮像に要する時間を短くできるため、治療に要する時間も短くすることができ、患者の負担を軽減できる。さらに、本実施例では、ガントリ11が撮像フィールドから治療フィールドまで移動する場合の合計移動量を少なくすることができるため、ガントリ11の移動に伴う摩耗などを低減でき、保守頻度を少なくすることができる。さらに、ガントリ11の合計移動量が少なくなるため、消費電力も低減できる。そして、保守頻度の低下と消費電力の低減とにより、放射線治療システム1000の運用コストを少なくすることができる。
【0069】
本実施例では、撮像パラメータの候補の中から、ガントリ11の合計移動量(ガントリ11が撮像フィールドから治療フィールドまで移動する場合の合計移動量)がより短くなる撮像パラメータの候補を選択するものとして述べた。合計移動量がより短くなる撮像パラメータの候補には、合計移動量が最も短くなる候補が含まれる。合計移動量が最短となる撮像パラメータの候補に限らず、最短ではないが合計移動量が従来よりも短くなる撮像パラメータの候補は、本開示の範囲に含まれる。
【0070】
本実施形態では、ガントリ11の可動範囲の機械的制限から一回転以上の回転ができないガントリを例に説明したが、後述する他の実施例のように、ガントリ11が360度以上の回転可能な構成であっても本実施例を適用することができる。
照射順序P1の場合(ケース1,2の場合)、最初に粒子線を照射する角度は、270度(-90度)である。したがって、ケース1の1軸でのCBCT撮像時の撮像開始角度は110度となる(110度から反時計回りに200度回転すると角度270度(-90度))。同様に、ケース2の2軸でのCBCT撮像時の撮像開始角度は20度となる(反時計回りで撮像)。
照射順序P2の場合(ケース3,4の場合)、最初に粒子線を照射する角度は90度である。したがって、ケース3の1軸でのCBCT撮像時の撮像開始角度は250度(-110度)となる(250度(-110度)から時計回りに200度回転すると角度90度となる。)。同様に、ケース4の2軸でのCBCT撮像時の撮像開始角度は340度(-20度)となる(時計回りで撮像)。
治療時間を短縮するために、通常は2軸でのCBCT撮像が選択される。したがって、ケース2,4のいずれかの撮像パラメータが選択される。ケース2の撮像開始角度は20度であり、現在のガントリ角度30度から最も近いため、ケース2の撮像パラメータが選択される。なお、1軸でのCBCT撮像が行われる場合、現在のガントリ角度30度に最も近い撮像開始角度となるケース1の撮像パラメータが選択される。
制御システム50は、照射角度ごとに撮像パラメータの候補を演算して記憶する(S207)。制御システム50は、全ての照射角度について撮像パラメータの演算が終了したか判定する(S208)。制御システム50は、撮像パラメータを算出していない照射角度がある場合(S208:NO)、次の演算対象となる照射角度を1つ選択し(S209)、ステップS202へ戻る。
制御システム50は、ステップS201Aで取得した全ての照射角度について撮像パラメータを算出すると(S208:YES)、ガントリ角度の照射順序の候補を算出する(S210)。制御システム50は、照射順序の候補のうち、ガントリ11の移動量が最も少ない照射順序を1つ選択する(S211)。
このように構成される本実施例も実施例1と同様の作用効果を奏する。さらに本実施例では、複数の照射角度から治療用放射線を照射する場合においても、ガントリ11の移動量がより少なくなるように照射順序および撮像パラメータを設定できる。したがって、ユーザの検討時間を短くして使い勝手を高めることができ、治療時間を短縮して患者の負担を軽減できる。さらに、ガントリ11の移動に伴う摩耗などをより一層低減でき、保守頻度を低下させることができると共に、消費電力を少なくできる。したがって、放射線治療システム1000の運用コストを低減できる。