(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023183259
(43)【公開日】2023-12-27
(54)【発明の名称】無線給電装置および方法
(51)【国際特許分類】
H02J 50/20 20160101AFI20231220BHJP
H02J 50/90 20160101ALI20231220BHJP
H02J 50/40 20160101ALI20231220BHJP
H01Q 21/06 20060101ALI20231220BHJP
【FI】
H02J50/20
H02J50/90
H02J50/40
H01Q21/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022096783
(22)【出願日】2022-06-15
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成31年度 国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的イノベーション創造プログラム「5.7GHz 帯高度ビームフォーミング方式の開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100118876
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 順生
(72)【発明者】
【氏名】三友 敏也
【テーマコード(参考)】
5J021
【Fターム(参考)】
5J021AA05
5J021EA04
5J021HA03
(57)【要約】
【課題】レトロディレクティブ送信のための伝搬路の推定を行うことを可能にする。
【解決手段】本開示の無線給電装置は、無線信号を送信する受電器に無線給電可能な無線給電装置であって、N個のアンテナ素子と、前記N個のアンテナ素子で受信された無線信号に基づいて、アナログ信号を取得するN個の無線信号処理部と、前記N個の無線信号処理部のうち第1の無線信号処理部からの前記アナログ信号である第1のアナログ信号に基づいて第1のデジタル信号を取得する第1の信号処理部と、前記N個の無線信号処理部のうち前記第1の無線信号処理部と異なるN-1個の第2の無線信号処理部からの前記アナログ信号である第2のアナログ信号のうちの1つを選択する第1の選択部と、前記第1の選択部により選択された第2のアナログ信号に基づいて第2のデジタル信号を取得する第2の信号処理部と、前記第1のデジタル信号および前記第2のデジタル信号に基づいて、前記受電器との間の伝搬路を推定する制御部とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線信号を送信する受電器に無線給電可能な無線給電装置であって、
N個のアンテナ素子と、
前記N個のアンテナ素子で受信された無線信号に基づいて、アナログ信号を取得するN個の無線信号処理部と、
前記N個の無線信号処理部のうち第1の無線信号処理部により取得された前記アナログ信号である第1のアナログ信号に基づいて第1のデジタル信号を取得する第1の信号処理部と、
前記N個の無線信号処理部のうち前記第1の無線信号処理部とは異なるN-1個の第2の無線信号処理部により取得された前記アナログ信号である第2のアナログ信号のうちの1つを選択する第1選択部と、
前記第1選択部により選択された第2のアナログ信号に基づいて第2のデジタル信号を取得する第2の信号処理部と
前記第1のデジタル信号および前記第2のデジタル信号に基づいて、前記受電器との間の伝搬路を推定する制御部と
を備えた無線給電装置。
【請求項2】
前記第1選択部は、前記N-1個の第2の無線信号処理部を前記第2の信号処理部へ接続する複数のスイッチを含む
請求項1に記載の無線給電装置。
【請求項3】
前記第1選択部は、複数の時刻に対応して複数の前記第2のアナログ信号のうちの1つを順番に選択し、
前記制御部は、前記時刻毎に選択された前記第2のアナログ信号から取得された前記第2のデジタル信号と、前記時刻毎に対応する前記第1のアナログ信号から取得された前記第1のデジタル信号とに基づき、前記受電器との間の伝搬路を推定する
請求項1に記載の無線給電装置。
【請求項4】
前記第1のデジタル信号は、前記第1の無線信号処理部に入力される前記無線信号の振幅と位相の情報を含み、
前記第2のデジタル信号は、前記第2の無線信号処理部に入力される前記無線信号の振幅と位相の情報を含み、
前記制御部は、前記第1のデジタル信号と前記第2のデジタル信号間における前記位相の差分、または前記振幅の差分および前記位相の差分とに基づき、前記伝搬路を推定する
請求項1に記載の無線給電装置。
【請求項5】
前記N個の無線信号処理部は、前記無線信号の移相を行う移相器を含み、
前記制御部は、前記伝搬路の情報に基づいて、前記N個の無線信号処理部における前記移相器のうちの少なくとも2つの無線信号処理部における移相器の移相量を制御し、
前記少なくとも2つの無線信号処理部により取得された前記アナログ信号を合成する合成部をさらに備えた、
請求項3に記載の無線給電装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記合成部により前記アナログ信号を合成することにより得られる合成信号に基づき、前記受電器と異なる無線器が前記受電器の方向を含む方向に存在するか否かを判定する
請求項5に記載の無線給電装置。
【請求項7】
前記制御部は、前記無線器が前記受電器の方向を含む前記方向に含まれる場合に、前記受電器に前記無線給電を行わないことを決定し、
前記制御部は、前記無線器が前記受電器の方向を含む前記方向に含まれない場合に、前記受電器に前記無線給電を行うことを決定する
請求項6に記載の無線給電装置。
【請求項8】
オブジェクトの検出用信号を生成する信号発生器をさらに備え、
前記第1の無線信号処理部は、前記N個のアンテナ素子のうち第1のアンテナ素子で受信された無線信号に基づいて前記第1のアナログ信号を取得し、
前記N-1個の第2の無線信号処理部は、前記N個のアンテナ素子のうち第2~第Nのアンテナ素子で受信された無線信号に基づいて前記第2のアナログ信号を取得し、
前記N-1個の第2の無線信号処理部のうちの2つ以上は、前記信号発生器からの前記検出用信号をそれぞれの前記アンテナ素子から送信し、
前記第1の無線信号処理部は、前記第1のアンテナ素子を介して受信される複数の前記検出用信号の反射信号に基づいて、複数の受信信号を取得し、
前記第1の信号処理部により前記複数の受信信号に基づいて取得される複数のデジタル信号に基づき、給電エリアに存在するオブジェクトの位置および方向の少なくとも一方を検出する制御部を備えた
請求項1に記載の無線給電装置。
【請求項9】
前記制御部は、検出した前記オブジェクトの位置および方向の少なくとも一方に基づいて、前記受電器に対する前記無線給電を制御する
請求項8に記載の無線給電装置。
【請求項10】
前記オブジェクトは人体であり、
前記検出用信号は、電界強度の実効値が137V/m以下、磁界強度の実効値が0.365A/m以下、または電力束密度が5mW/cm2以下である
請求項8に記載の無線給電装置。
【請求項11】
前記制御部は、前記受電器の方向を含む方向に前記オブジェクトが含まれる場合に前記無線給電を行わないことを決定し、
前記制御部は、前記受電器の方向を含む方向に前記オブジェクトが含まれない場合に前記無線給電を行うことを決定する
請求項8に記載の無線給電装置。
【請求項12】
前記制御部は、前記受電器の方向を含む前記方向にオブジェクトが含まれる場合、前記オブジェクトの存在する方向に対するヌルを生成して、前記受電器に前記無線給電を行う
請求項8に記載の無線給電装置。
【請求項13】
前記オブジェクトは人体であり、
前記制御部は、前記人体に照射される電波が、電界強度の実効値が137V/m以下、磁界強度の実効値が0.365A/m以下、または電力束密度が5mW/cm2以下になるように、前記ヌルを生成する
請求項12に記載の無線給電装置。
【請求項14】
前記検出用信号は発振器信号であり、
前記発振器信号を前記第1の信号処理部および前記第2の信号処理部に供給することと、前記発振器信号を前記検出用信号として2つ以上の前記第2の無線信号処理部に提供することとを選択的に切り替える第1の切替部
をさらに備え、
前記第1の無線信号処理部は、前記発振器信号に基づき前記第1のアナログ信号の周波数を変換する第1のミキサを含み、
前記第2の無線信号処理部は、前記発振器信号に基づき前記第2のアナログ信号の周波数を変換する第2のミキサを含む、
請求項8に記載の無線給電装置。
【請求項15】
給電信号を生成する信号発生器をさらに備え、
前記N個の無線信号処理部は、前記給電信号の移相を行う移相器を含み、
前記制御部は、前記伝搬路の情報に基づいて、前記N個の無線信号処理部のうちの少なくとも2つの無線信号処理部における移相器の移相量を制御し、
前記少なくとも2つの無線信号処理部から前記移相器により移相した前記給電信号をそれぞれの前記アンテナ素子から送信することにより、前記無線給電を行う
請求項1に記載の無線給電装置。
【請求項16】
前記給電信号は発振器信号であり、
前記発振器信号を前記第1の信号処理部および前記第2の信号処理部に供給することと、前記発振器信号を前記給電信号として前記少なくとも2つの無線信号処理部に提供することとを選択的に切り替える第2の切替部
をさらに備え、
前記第1の信号処理部は、前記発振器信号に基づき前記第1のアナログ信号の周波数を変換する第1のミキサを備え、
前記第2の信号処理部は、前記発振器信号に基づき前記第2のアナログ信号の周波数を変換する第2のミキサを備える、
請求項15に記載の無線給電装置。
【請求項17】
前記N個の無線信号処理部のうちの1つを選択する第2の選択部を備え、
選択した前記無線信号処理部は前記第1の無線信号処理部であり、
選択した前記無線信号処理部以外のN-1個の無線信号処理部は、N-1個の前記第2の無線信号処理部である
請求項1に記載の無線給電装置。
【請求項18】
前記第2の選択部は、前記N個の無線信号処理部を前記第1の信号処理部へ選択的に接続するスイッチ回路を含む
請求項17に記載の無線給電装置。
【請求項19】
前記受電器から送信される前記無線信号は、ビーコン信号である
請求項1に記載の無線給電装置。
【請求項20】
無線信号を送信する受電器に給電可能な無線給電装置により実行される方法であって、
N個のアンテナ素子のうち第1のアンテナ素子で受信された第1の無線信号に基づいて、第1のアナログ信号を取得し、前記第1のアナログ信号に基づいて第1のデジタル信号を取得し、
前記N個のアンテナ素子のうち第1のアンテナ素子と異なるN-1個の第2のアンテナ素子で受信された第2の無線信号に基づいて、複数の第2のアナログ信号を取得し、
前記N個の無線信号処理部のうち前記第1の無線信号処理部とは異なるN-1個の第2の無線信号処理部により取得された前記アナログ信号である第2のアナログ信号のうちの1つを選択し、
選択された第2のアナログ信号に基づいて第2のデジタル信号を取得し、
前記第1のデジタル信号および前記第2のデジタル信号に基づいて、前記受電器との間の伝搬路を推定する、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、無線給電装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
無線給電の方式として、給電対象の無線器(受電器)が送信する微弱な電波信号(ビーコン信号)を送電側の複数のアンテナ素子で受信し、ビーコン信号に基づき推定した受電器の方向に、給電信号を送信するレトロディレクティブ方式が知られている。受電器の方向の推定は、複数のアンテナ素子間で、受信したビーコン信号の位相の差、または位相および振幅の差を用いた伝搬路推定により行う。一方、送電の際には、給電対象でない他の無線器への悪影響を防ぐために、給電信号の送信方向(受電器の方向)に他の無線器が無いことを確認する必要がある。この確認は、給電信号の送信方向において、他の無線器から送信される電波信号が観測されるかどうかで判定できる。この観測において優れたSN比を得るために、つまり他の無線器の検出における正確度を向上するために、給電信号の送信方向に受信ビームフォーミングを行うことが好ましい。
【0003】
ビームフォーミングには、主にデジタルビームフォーミング(DBF:Digital Beamforming)方式とアナログビームフォーミング(ABF:Analog Beamforming)方式が用いられている。DBF方式は、各アンテナ素子が受信した信号をデジタル信号に変換してから移相および合成等の処理を行い、信号SN比を向上できる。しかし、複数のアンテナ素子のそれぞれに対して直交ミキサ回路、フィルタおよびA/Dコンバータなどの高価なデジタル信号処理用の素子を設ける必要があり、アンテナ素子数の増加とともに高コスト化する。これに対し、ABF方式を採用した無線給電装置では、各アンテナ素子が受信した信号に対してアナログ信号の状態で移相および合成等の処理を行うため、デジタル信号処理用の素子を使う箇所を限定でき、低コスト化を実現できる。しかし、ABF方式を採用した無線給電装置ではアンテナ素子間の位相差および振幅差を取得できないため、伝搬路推定を行うことができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-038193号公報
【特許文献2】国際公開第2019/065054号
【特許文献3】特開2019-47341号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の実施形態は、レトロディレクティブ送信のための伝搬路の推定を行うことを可能にする無線給電装置および方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の無線給電装置は、無線信号を送信する受電器に無線給電可能な無線給電装置であって、N個のアンテナ素子と、前記N個のアンテナ素子で受信された無線信号に基づいて、アナログ信号を取得するN個の無線信号処理部と、前記N個の無線信号処理部のうち第1の無線信号処理部からの前記アナログ信号である第1のアナログ信号に基づいて第1のデジタル信号を取得する第1の信号処理部と、前記N個の無線信号処理部のうち前記第1の無線信号処理部と異なるN-1個の第2の無線信号処理部からの前記アナログ信号である第2のアナログ信号のうちの1つを選択する第1の選択部と、前記第1の選択部により選択された第2のアナログ信号に基づいて第2のデジタル信号を取得する第2の信号処理部と、前記第1のデジタル信号および前記第2のデジタル信号に基づいて、前記受電器との間の伝搬路を推定する制御部とを備える。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】第1実施形態の第1構成例に係る無線給電装置のブロック図。
【
図2】第1実施形態の第1構成例に係る無線給電装置の詳細な構成を示すブロック図。
【
図5】第1実施形態の第1構成例に係る処理のフローチャート。
【
図6】第1実施形態の第2構成例に係る無線給電装置のブロック図。
【
図7】第1実施形態の第2構成例に係る無線給電装置の詳細な構成を示すブロック図。
【
図8】第1実施形態の第2構成例に係る処理のフローチャート。
【
図9】第1実施形態の第3構成例に係る無線給電装置のブロック図。
【
図10】第1実施形態の第3構成例に係る処理のフローチャート。
【
図11】第1実施形態の第4構成例に係る無線給電装置のブロック図。
【
図12】第1実施形態に係る処理のフローチャート。
【
図13】第2実施形態に係る無線給電装置のブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。
【0009】
(第1実施形態)
[第1構成例(伝搬路推定)]
図1は、第1実施形態の第1構成例に係る無線給電装置100と受電器500とを備えた給電システムを示す。
図2は無線給電装置100の具体的な構成例を示す。第1構成例は、安全かつ確実に無線給電を行うために、給電対象である受電器の方向を高い精度で特定するために行う伝搬路の推定を簡単な構成で行うことを実現する。
【0010】
無線給電装置100は、複数(N個)のアンテナ素子110_1~110_Nと、複数のRF(Radio Frequency)信号処理部120_1~120_Nと、複数の切替部130_2~130_Nを含む選択部30(第1の選択部)と、分配・合成器140と、第1の信号処理部150と、第2の信号処理部160と、信号発生器170と、切替部171と、制御部180と、受電器と通信を行う無線モジュール等(図示せず)とを備える。RF信号処理部120_1~120_Nは、高周波信号処理部または無線信号処理部とも記載される。
【0011】
RF信号処理部、選択部30、分配・合成器140、第1の信号処理部150、第2の信号処理部160、信号発生器170、切替部171、制御部180の少なくとも一部はASIC(application specific integrated circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)等の回路またはプロセッサにより構成されてもよい。あるいはこれらの要素のうちの一部または全部が、プログラムを実行するCPUによって実行されてもよい。
【0012】
受電器500は、無線給電装置100の給電対象となる装置に含まれる。給電対象となる装置は、例えば工場等の施設で用いられるIoT(Internet of Things)センサまたはカメラ等である。受電器500は移動ロボット、AGV(Automatic Guided Vehicle)、ドローンなどの移動体に搭載されていてよい。受電器500は充放電可能な蓄電池501、およびアンテナ502等を備える。受電器500は、アンテナ502を介して無線給電装置100から送信される給電信号を受信し、給電信号に基づき蓄電池501を充電可能である。また受電器500は自器の存在を知らせる無線信号であるビーコン信号を定期的またはその他のタイミングで送信可能である。受電器500は、アンテナ502を介して各種信号を送受信する通信回路(図示せず)、受電器500全体を制御する制御回路(図示せず)、受信RF信号を直流に整流する整流回路(図示せず)、充電制御回路(図示せず)、無線給電装置100と通信を行う無線モジュール(図示せず)等を備える。
【0013】
受電器500は、一定時間毎にビーコン信号Bを送信する。受電器500は、無線給電装置100からの要求信号に応答して、ビーコン信号Bまたはその他の任意の信号を送信してもよい。一回のビーコン信号Bの持続時間は、例えば数ミリ秒である。ビーコン信号Bは、例えばマイクロ波である。
【0014】
無線給電装置100は、複数のアンテナ素子110_1~110_Nでビーコン信号Bを受信し、伝搬路推定を行う。伝搬路推定のために、無線給電装置100は、基準となる位置のアンテナ素子(基準アンテナ素子)で受信されるビーコン信号Bを基準信号とし、同時に、基準アンテナ素子と異なる位置のアンテナ素子(比較アンテナ素子)で受信されるビーコン信号Bを比較信号とする。送信源が同一の電波信号であっても、アンテナ素子毎に受信される電波信号は、伝搬経路の違い等に起因して、到達時間および伝搬損失等に差が生じる。到達時間および伝搬損失等の差により、アンテナ素子毎に受信される電波信号間には位相差および振幅差が生じる。無線給電装置100は、基準信号と比較信号との間の位相差および振幅差を取得し、取得した各アンテナ間の位相差、または、位相差および振幅差に基づき、受電器500との間の伝搬路を推定する。これにより、受電器500の方向または位置を推定することができる。無線給電装置100は、推定した受電器500の方向(ビーコン信号Bの到来方向)に受信ビームフォーミングを行うことで、無線給電を行う前に、受電器500の方向に、通信を保護すべき他の無線器が存在するかを検査できる。また、無線給電装置100は、送信ビームフォーミングにより受電器500に高い効率で無線給電を行うことが可能となる。第1構成例では伝搬路推定を行う構成および動作を中心に説明し、伝搬路推定後に行うその他の動作およびそのための構成については第2構成例以降の説明で詳細に記載する。
【0015】
以下、
図1および
図2を参照しながら、各構成要素の詳細を説明する。
【0016】
アンテナ素子110_1~110_Nは、受電器500との信号の送受信に用いられるアンテナ素子である。アンテナ素子110_1~110_Nの数は例えば3個以上(N≧3)である。アンテナ素子110_1~110_Nは任意の配置で並べられており、互いの位置は異なっている。例えば、アンテナ素子110_1~110_Nはアレイ状に設置されている。以下、任意の1つのアンテナ素子をアンテナ素子110と記載する場合がある。
【0017】
以下、アンテナ素子110_1を伝搬路推定のための基準アンテナ素子(第1のアンテナ素子)とする。また、アンテナ素子110_2~110_Nを、伝搬路推定のための比較アンテナ素子(第2のアンテナ素子)とする。基準アンテナ素子に接続されるRF信号処理部120_1は第1のRF信号処理部(第1の無線信号処理部)、比較アンテナ素子に接続されるRF信号処理部120_2~120_Nは第2のRF信号処理部(第2の無線信号処理部)に対応する。
【0018】
RF信号処理部120_1は、アンテナ素子110_1で受信される無線信号であるビーコン信号Bに増幅および移相などのアナログ処理を行い、アナログ信号(第1のアナログ信号)を取得する。RF信号処理部120_2~120~Nは、アンテナ素子110_2~110_Nで受信される無線信号であるビーコン信号Bに増幅および移相などのアナログ処理を行い、アナログ信号(第2のアナログ信号)を取得する。RF信号処理部120_1~120~Nは、アンテナ素子110_1~110_Nと同数存在し、一対一で対応する。例えば、RF信号処理部120_2はアンテナ素子110_2で受信されたビーコン信号Bの処理を行う。以下、任意の1つのRF信号処理部を、RF信号処理部120と記載する場合がある。
【0019】
また、ビーコン信号Bはアンテナ素子110_1~110_Nで同時に受信されるが、アンテナ素子110_1~110_Nで受信されたビーコン信号Bを、それぞれビーコン信号B_1~B_Nと記載する場合がある。例えば、アンテナ素子110_2で受信されたビーコン信号Bはビーコン信号B_2である。
【0020】
ビーコン信号B_1を伝搬路推定のための基準信号とし、ビーコン信号B_2~B_Nを、基準信号の位相および振幅と比較する比較信号とする。
【0021】
図2に示すように、RF信号処理部120は、送受切替スイッチ121と、受信用増幅器122、送信用可変増幅器123、移相器124を備える。
【0022】
送受切替スイッチ121は、無線給電用の給電信号などの信号の送信時には送信用可変増幅器123側に、ビーコン信号などの信号の受信時には受信用増幅器122側に切り替えられる。
【0023】
受信用増幅器122は、受信したビーコン信号Bを、所定の増幅率で増幅する。受信用増幅器122の台数は任意である。
【0024】
送信用可変増幅器123は、出力(送信)する信号を、制御部180により設定された増幅率で増幅する。送信用可変増幅器123は、例えば増幅器と可変減衰器とを備えていてもよい。
【0025】
移相器124は、受信用増幅器122から入力される増幅後のビーコン信号Bの移相を行う。移相器124の移相量は制御部180によって可変である。
【0026】
選択部30における切替部130_2~130_Nは、比較アンテナ素子のRF信号処理部120_2~120_Nと分配・合成器140との接続のON-OFFを切り替える。切替部130_2~130_NはRF信号処理部120_2~120_Nと同数存在し、一対一で対応する。例えば、切替部130_2をONにすると、RF信号処理部120_2と分配・合成器140とが接続される。選択部30は、切替部130_2~130_Nを用いて、RF信号処理部120_2~120_Nで処理された信号(アナログ信号)のうちの1つを選択して、分配・合成器140を介して第2の信号処理部160に出力する機能を備える。以下、切替部130_2~130_Nのうち任意の1つの切替部を切替部130と記載する場合がある。
【0027】
切替部130は、スイッチを備えており、スイッチによって接続のON-OFFを切り替える。なお、切替部130または制御部180は、各RF信号処理部120の電源を一時的にOFFするコンピュータなどの装置を含んでいてもよい。この場合、切替部130の処理は、電気回路により行ってもよいし、プログラムにより行ってもよい。
【0028】
分配・合成器140は、RF信号処理部120_2~120_Nでビーコン信号Bを増幅および移相した信号(第2のアナログ信号)のうちの1つを受けて、第2の信号処理部160に送る。
【0029】
信号発生器170はローカル発振器(LO:Local Oscillator)を含む。信号発生器170は、周波数変換のためのローカル発振器信号(LO信号)を生成する。
【0030】
切替部171は、信号発生器170により生成されるLO信号の出力先(接続先)を切り替える。切替部171は、伝搬路推定時、信号発生器170を第1の信号処理部150および第2の信号処理部160に接続する。これにより、信号発生器170で生成されたLO信号が第1の信号処理部150および第2の信号処理部160に供給される。信号発生器170を分配・合成器140に接続する動作は、後述する他の構成例の説明で記載する。
【0031】
第1の信号処理部150は、基準アンテナ素子のRF信号処理部120と接続され、第1の信号処理部150は、基準アンテナ素子のRF信号処理部120で基準信号(ビーコン信号B_1)を増幅および移相した信号(第1のアナログ信号)を受ける。第1の信号処理部150は、当該信号に周波数変換およびA/D変換などの処理を行うことにより、基準アンテナ素子で受信されたビーコン信号Bの位相および振幅の情報を含むデジタル信号(第1のデジタル信号)を取得する。
【0032】
第2の信号処理部160は、切替部130および分配・合成器140を介して比較アンテナ素子のRF信号処理部120と接続されている。第2の信号処理部160は、比較アンテナ素子のRF信号処理部120のうちの1つから入力された信号(第2のアナログ信号)に周波数変換およびA/D変換などの処理を行う。これにより、比較アンテナ素子で受信されたビーコン信号Bの位相および振幅の情報を含むデジタル信号(第2のデジタル信号)を取得する。
【0033】
より詳細には、
図2に示すように、第1の信号処理部150は、直交ミキサ151(第1のミキサ)と、ローパスフィルタ152と、可変利得増幅器153と、A/Dコンバータ154を備える。第2の信号処理部160は、直交ミキサ161(第2のミキサ)と、ローパスフィルタ162と、可変利得増幅器163と、A/Dコンバータ164を備える。
【0034】
直交ミキサ151は、基準アンテナ素子のRF信号処理部120から入力された信号を、互いに直交するI(In-phase)信号とQ(Quadrature)信号に変換する。直交ミキサ151は、I信号とQ信号とに、信号発生器170によって生成されたLO信号と掛け合わせてベースバンド(BB)帯域に周波数変換する。これにより、ベースバンド帯域におけるI/Qの直交信号が得られる。I/Qの直交信号を用いて、位相および振幅の取得が可能となる。
直交ミキサ161は、比較アンテナ素子のRF信号処理部120から入力された信号を、互いに直交するI(In-phase)信号とQ(Quadrature)信号に変換する。直交ミキサ161は、I信号とQ信号とに、信号発生器170によって生成されたLO信号と掛け合わせてベースバンド(BB)帯域に周波数変換する。これによりベースバンド帯域におけるI/Qの直交信号が得られる。I/Qの直交信号を用いて位相および振幅の取得が可能となる。
【0035】
ローパスフィルタ152は、直交ミキサ151でBB帯域に周波数変換されたI信号およびQ信号に含まれる、不要な高周波成分を除去する。
ローパスフィルタ162は、直交ミキサ161でBB帯域に周波数変換されたI信号およびQ信号に含まれる、不要な高周波成分を除去する。
【0036】
可変利得増幅器153はローパスフィルタ152の出力信号(I信号およびQ信号)を適切な大きさに増幅する。可変利得増幅器153は、例えば増幅器と可変減衰器とを備えていてもよい。可変利得増幅器153はローパスフィルタ152と配置が入れ替わっていてもよい。
可変利得増幅器163は、ローパスフィルタ162の出力信号(I信号およびQ信号)を適切な大きさに増幅する。可変利得増幅器163は、例えば増幅器と可変減衰器とを備えていてもよい。可変利得増幅器163はローパスフィルタ162と配置が入れ替わっていてもよい。
【0037】
A/Dコンバータ154は、可変利得増幅器153で増幅された信号(I信号およびQ信号)をアナログ信号からデジタル信号に変換する。
A/Dコンバータ164は、可変利得増幅器163で増幅された信号(I信号およびQ信号)をアナログ信号からデジタル信号に変換する。
【0038】
制御部180は、第1の信号処理部150からのデジタル信号(I信号およびQ信号)に基づき、基準アンテナ素子で受信されたビーコン信号B_1(基準信号)の位相および振幅の情報を取得する。制御部180は、第2の信号処理部160からのデジタル信号(I信号およびQ信号)に基づき、比較アンテナ素子で受信されたビーコン信号(比較信号)、すなわち、選択部30によって選択されたRF信号処理部の比較アンテナ素子で受信されたビーコン信号の位相および振幅の情報を取得する。制御部180は、基準アンテナ素子で受信されたビーコン信号(基準信号)の位相および振幅の取得と、比較アンテナ素子で受信されたビーコン信号(比較信号)の位相および振幅の取得とを、選択部30によって選択するRF信号処理部を順番に切り替えることで、繰り返し行う。制御部180は、繰り返しによって取得した基準信号と比較信号との複数の組の位相差、または、位相差および振幅差の情報に基づいて、伝搬路推定を行う。
【0039】
つまり、伝搬路推定に際して、同時刻に観測された(観測とは位相および振幅の情報が取得されることを意味する)基準信号と比較信号との組が必要である。本実施形態では複数の比較アンテナ素子に対して、比較信号の周波数変換およびA/D変換を行う信号処理部は第2の信号処理部160の1つのみである。そのため、全ての比較アンテナ素子からの比較信号(I信号およびQ信号)を同時に観測することはできない。そこで、切替部130_2~130_Nを用いて、所定のサンプリング時間毎に第2の信号処理部160に入力する比較信号を切り替える。
【0040】
図3は、切替部130_2~130_Nの動作を説明する表である。tは、時刻である。切替部130_2~130_Nは、任意のサンプリング時間T毎にON-OFFが切り替わる。サンプリング時間Tは、例えばサブミリ秒の期間である。
【0041】
図3に示すように、ある時刻において、1つの切替部130が選択され、選択された切替部130がONに、それ以外の切替部130がOFFになる。全N-1個のON-OFFパターンで、切替部130_2~130_Nが切り替わる。例えば、t=0~Tの期間は、切替部130_2のみがONになり、t=T~2Tの期間は、切替部130_3のみがONになる。これを繰り返し、最後の切替部130_NがONになるまで切替部130_2~130_Nが順番に切り替わる。
【0042】
これにより、切替部130_2~130_Nは、ある時刻において選択された1つの比較アンテナ素子が受信した比較信号(第2のアナログ信号)のみを第2の信号処理部160に入力させる。
【0043】
図4は、第1の信号処理部150によって処理されるビーコン信号B_1(基準信号)と第2の信号処理部160によって処理されるビーコン信号B_2~B_N(比較信号)とを示す。太線部分の信号が実際に処理される信号であり、点線部分の信号は選択部30によって選択されないため破棄される(第2の信号処理部160に入力されない)。
【0044】
第1の信号処理部150は、RF信号処理部120_1と常に接続されている。そのため、
図4に示すように、基準信号であるビーコン信号B_1(より詳細にはビーコン信号B_1をRF信号処理部120で処理して取得されるアナログ信号)は、第1の信号処理部150によってサンプリング時間T毎に常に第1の信号処理部150で処理されている。
【0045】
ここで、例えば、t=0~Tの期間に第1の信号処理部150で処理されるビーコン信号(より詳細にはビーコン信号をRF信号処理部120で処理して取得されるアナログ信号)を、ビーコン信号BT_1と表す。
【0046】
第2の信号処理部160は、切替部130_2~130_Nによって選択された比較アンテナ素子のRF信号処理部120とサンプリング時間Tの期間のみ接続される。そのため、比較信号であるビーコン信号B_2~B_N(より詳細にはビーコン信号B_2~B_NをRF信号処理部120で処理して取得されるアナログ信号)は、対応する切替部130がONしている期間のみ、第2の信号処理部160によって処理される。
【0047】
例えば、t=0~Tの期間は、切替部130_2のみがONしているため、ビーコン信号B_2(より詳細にはビーコン信号B_2をRF信号処理部120で処理して取得されるアナログ信号)のみが、第2の信号処理部160で処理される。同様に、t=T~2Tの期間は、切替部130_3のみがONしているため、比較信号のうちビーコン信号B_3のみが第2の信号処理部160に処理される。
【0048】
ここで、例えば、t=0~Tの期間に第2の信号処理部160で処理されるビーコン信号をビーコン信号BT_2、t=T~2Tの期間に第2の信号処理部160で処理されるビーコン信号を、ビーコン信号B2T_3のように表す。
【0049】
図4に示すように、t=0~Tの期間は、第1の信号処理部150によってビーコン信号B
T_1が処理され、第2の信号処理部160によってビーコン信号B
T_2が処理される。そして、処理されたビーコン信号B
T_1およびビーコン信号B
T_2のそれぞれの位相および振幅の情報は、制御部180によって取得され、両者の振幅および位相の差分が算出される。
【0050】
またその後、t=T~2Tの期間は、第1の信号処理部150によってビーコン信号B2T_1が処理され、第2の信号処理部160によってビーコン信号B2T_3が処理される。そして、処理されたビーコン信号B2T_1およびビーコン信号B2T_3のそれぞれの位相および振幅の情報は、制御部180によって取得され、両者の振幅および位相の差分が算出される。
【0051】
以下同様に、t=(i-2)T~(i-1)Tの期間は、第1の信号処理部150によってビーコン信号B(i-1)T_1が処理され、第2の信号処理部160によってビーコン信号B(i-1)T_iが処理される。そして、処理されたビーコン信号B(i-1)T_1およびビーコン信号B(i-1)T_iの位相および振幅の情報は、制御部180によって取得され、振幅および位相の差分が算出される。
【0052】
以上の動作を繰り返して、制御部180は、同時刻において異なる位置で計測されたビーコン信号B_1とビーコン信号B_X(X=2~N)とのそれぞれの位相および振幅の情報を取得し、位相および振幅の差分を算出する。つまり、ビーコン信号BT_1とビーコン信号BT_2との組、ビーコン信号B2T_1とビーコン信号B2T_3との組、・・・、ビーコン信号B(N-1)T_1とビーコン信号B(N-1)T_Nとの組についてそれぞれ位相および振幅の差分を算出する。制御部180は、取得した差分に基づいて伝搬路推定を行う。
【0053】
図5は、無線給電装置100において伝搬路推定時に実行する処理のフローチャートである。
【0054】
制御部180は、t=(i-2)T~(i-1)Tの期間、切替部130_iのみをONにする(ステップS111)。ここで、i=2~Nであり、初期値はi=2である。
【0055】
次に、制御部180は、t=(i-2)T~(i-1)Tの期間に第1の信号処理部150が処理したビーコン信号B(i-1)T_1の位相および振幅の情報と、t=(i-2)T~(i-1)Tの期間に第2の信号処理部160が処理したビーコン信号B(i-1)T_iの位相および振幅の情報を取得する。制御部180は、両者の差分を算出する(ステップS112)。
【0056】
次に、制御部180は、全ての切替部130_2~130_Nを選択(ON)したかを判定する。つまり、iがNに達したかを判定する(ステップS113)。
【0057】
iがNに達していないと判定した場合、制御部180は、前回、切替部130_2~130_Nを切り替えた時刻から、サンプリング時間Tが経過した時刻に、次の切替部130_iのみがONするように切り替え、ステップS111に戻る(ステップS114)。
【0058】
iがNに達していると判定した場合、制御部180は、得られたビーコン信号B_1とビーコン信号B_2~B_Nとの間の位相および振幅の差分に基づいて伝搬路推定を行う(S116)。これにより制御部180は、ビーコン信号Bの送信元である受電器500の方向を決定する。
【0059】
このような処理により、周波数変換およびA/D変換を行う信号処理部を、第1の信号処理部150と第2の信号処理部160の2つのみとして伝搬路推定を行うことができる。
【0060】
なお、ONになる切替部130が選択される順序は上記に限定されず、任意でよい。
【0061】
また、制御部180は、ビーコン信号B_2~B_Nの全てを用いずに伝搬路推定を行ってもよい。例えば、比較アンテナ素子のRF信号処理部110_2~110_Nの一部が故障などで正常に作動しない場合、そのRF信号処理部が受信するはずだったビーコン信号Bを無視してもよい。
【0062】
切替部130_2~130_Nは、上記の動作を行うことが可能な範囲で位置を変更してもよい。例えば、切替部130_2~130_Nは、各アンテナ素子110と各RF信号処理部120の間に位置してもよい。
【0063】
以上、第1実施形態の第1構成例によれば、同時刻における基準信号と複数の比較信号とを観測するための、デジタル信号処理を行う第1の信号処理部150と第2の信号処理部160を設けることで、レトロディレクティブ送信のためのビーコン信号Bの伝搬路推定を行う無線給電装置を実現できる。さらに、基準アンテナ素子と比較アンテナ素子との総数分の信号処理部を設ける必要がある関連技術と比較して、低コストでレトロディレクティブ送信のためのビーコン信号Bの伝搬路推定を行う無線給電装置を実現できる。
【0064】
[第2構成例(受信ビームフォーミング)]
図6は、第1実施形態の第2構成例に係る無線給電装置100Aと受電器500とを備えた無線給電システムのブロック図である。
図7は、無線給電装置100Aの詳細ブロック図である。上述した第1実施形態における
図1と同じ名称または機能の要素には同じ符号を付している。以後、変更または追加された事項を除き説明を省略する。
【0065】
第2構成例では、第1構成例と同様にして行う伝搬路推定の結果を用いて受信ビームフォーミングを行うことにより、受電器500の方向に受電器500以外の無線器が存在するか否かを判定する。これにより受電器500に無線給電を行う前に、給電の方向に、受電器500以外の無線器が存在しないことを確認する。
【0066】
図6および
図7において無線給電装置100Aは、切替部131を備えている。切替部131は、基準アンテナ素子のRF信号処理部120_1の接続先を第1の信号処理部150と分配・合成器140間で切り替える。無線給電装置100Aは、上述した第1構成例の無線給電装置100と同様に伝搬路推定を行う機能を備える。伝搬路推定を行っている間、切替部131は、RF信号処理部120_1を第1の信号処理部150に接続している。すなわち、RF信号処理部120_1を第1の信号処理部150に接続した構成の動作は、第1構成例に係る無線給電装置100と同様である。
【0067】
切替部131は、例えばスイッチを備えており、スイッチによって接続のON-OFFを切り替える。
【0068】
無線器600は、無線給電装置100Aの給電対象ではない無線機器である。無線器600は、例えば工場で用いられる無線LAN(Local Area Network)の基地局または基地局の子機に相当するステーション等である。無線器600は、無線給電装置100Aの無線給電用の電波(後述する給電信号R2)に近い周波数の電波を送受信する。給電信号R2が無線器600の方向に送信されると通信障害等の悪影響を生じるため、無線給電装置100Aは無線器600が存在する方向に給電信号R2を送信することを避けなければならない。
【0069】
無線給電装置100Aは、受電器500の方向に無線器600が存在するかを判断する際、無線器600の検出のSN比向上のために、受信アナログビームフォーミング(ABF)を行う。
【0070】
受信ABFは、特定の方向から到来する電波信号の受信におけるSN比を向上させる技術である。複数または全ての各アンテナ素子で受信された信号に、各アンテナ素子の位置に基づいて、移相処理を行う。すなわち各アンテナ素子の位置と、特定の方向(受電器500の方向)とに応じて、各受信信号を位相を調整する。各受信信号に対して移相処理を行ったのち、各受信信号を合成することで、受信ビームフォーミングが達成される。移相処理がなされた各受信信号を合成すると、特定の方向から到来する電波信号は位相が揃うため強め合い、該方向とは異なる方向から到来する電波信号は弱めあう。これにより、合成された信号のうち特定の方向から到来する電波信号の受信におけるSN比を向上させることができる。受信ABF時は、上述した伝搬路推定時と異なり、第1のアンテナ素子110_1と第2のアンテナ素子110_2~110_Nとで処理の区別はしない。
【0071】
切替部130_2~130_Nは、複数または全てONされている。以下の説明では切替部130_2~130_Nの全てがONされている場合を想定する。切替部131は、分配・合成器140側に切り替えられている。但し、受信ABFに基準アンテナ素子110_1を用いない場合は、切替部131は、分配・合成器140側に切り替えられていなくてもよい。
【0072】
図2の送受切替スイッチ121は、受信用増幅器122側に切り替えられている。各アンテナ素子110で受信された信号は、各RF信号処理部120が備える受信用増幅器122によって増幅される。
【0073】
各RF信号処理部120の移相器124は、受信用増幅器122により増幅された信号を移相する。
【0074】
制御部180は、
図6に示すように、推定した受電器500の方向に受信ビームR1が向くように、各移相器124の移相量を制御する。
【0075】
分配・合成器140は、受信した信号を合成する合成部を含む。分配・合成器140は、各RF信号処理部120から入力された、移相処理がなされた各受信信号を合成する。これにより、受信ABFが行われる。分配・合成器140は、各受信信号を合成した合成信号を第2の信号処理部160に出力する。
【0076】
第2の信号処理部160は、分配・合成器140から入力された合成信号を、周波数変換およびA/D変換する。なお、受信ABF時は、第1の信号処理部150は用いられない。
【0077】
信号発生器170は、伝搬路推定時と同様に、周波数変換のためのLO信号を生成する。また切替部171は、信号発生器170と第2の信号処理部160間を接続する。
【0078】
制御部180は、第2の信号処理部160で処理されたデジタルの受信信号(受信ABFが行われた合成信号)を取得する。制御部180は、取得した受信信号に基づき、受電器500の方向に無線器600が含まれるかを判定する。例えば、取得した受信信号に、無線器600から送信される電波信号が含まれているかを判定する。例えば取得した受信信号に閾値以上の電力の信号が含まれる場合に、無線器600により送信される電波信号が含まれていると決定してもよい。あるいは、制御部180が無線LANのプロトコルを解釈可能な回路を含み、取得した受信信号から無線LANのフレームが検出された場合に、無線器600により送信される電波信号が含まれていると決定してもよい。取得した受信信号は、推定した受電器500の方向から到来する電波信号の成分が大きい。そのため、推定した受電器500の方向における無線器600の検出の正確度を向上させることができる。制御部180は、上記の方法以外のその他の方法で無線器600の電波信号が含まれているかを判定してもよい。
【0079】
図8は、無線給電装置100Aにおいて受信ABF時に実行する処理のフローチャートである。
【0080】
まず、制御部180は、ビーコン信号Bの伝搬路推定の結果に基づいて、受信ビームR1が受電器500を向くように、各アンテナ素子のRF信号処理部における移相器124の移相量を制御する(ステップS121)。
【0081】
次に、制御部180は、分配・合成器140によって合成されたデジタルの受信信号(合成信号)を第2の信号処理部160から取得する(ステップS122)。
【0082】
次に、制御部180は、取得した受信信号に基づき、受電器500の方向に無線器600が存在するかを判断する(ステップS123)。
【0083】
制御部180が、受電器500の方向に無線器600が存在すると決定した場合、無線給電を行わない(ステップS124)。ステップS124の後は、再度同シーケンス(ステップS121~S123)を開始してもよいし、異なる受電器への伝搬路に基づいた受信ビームフォーミングのための位相制御を行ってもよい。
【0084】
制御部180が、受電器500の方向に無線器600が存在しないと決定した場合、無線給電を行う(ステップS125)。無線給電を行う動作の詳細は後述する他の構成例の説明で記載する。
【0085】
制御部180は、ステップS124で受電器500に対する無線給電の中止を決定した場合、受電器500に無線給電を行うことを可能にするための処理を行ってもよい。例えば、受電器500が車両など移動可能な装置に搭載されている場合に、制御部180は、無線給電装置100と受電器500との間に無線器600が位置しないように、受電器500または装置に対して、移動を命じる命令データを送信してもよい。受電器500の移動先の位置を無線給電装置100が決定してもよい。この場合、決定した位置を命令データに含めてもよい。或いは、制御部180は、別の位置にある無線給電装置(図示せず)に受電器500に無線給電を行うことを命じる命令データを送信してもよい。
【0086】
以上、第1実施形態の第2構成例によれば、受電器500の方向に受電器500以外の無線器600が存在するか否かを高い精度で判定することができる。これにより、受電器500の方向に無線器600が存在する状況で給電を行うことが回避できるため、無線器600の通信を阻害することを防止できる。
【0087】
[第3構成例(人体検出)]
図9は、第1実施形態の第3構成例に係る無線給電装置100Bを含む無線給電システムを示す。給電対象となる受電器の図示は省略している。無線給電装置100Bの詳細ブロック図は、
図7と同じである。上述した
図6および
図7と同じ名称または機能の要素には同じ符号を付している。以後、変更または追加された事項を除き説明を省略する。
【0088】
第3構成例では、無線給電を行う前に、受電器500の方向に人体等のオブジェクトが存在するかを判定する。これにより、無線給電装置100Bから受電器500に無線給電を行う前に、給電の方向に、人等のオブジェクトが存在しないことを確認する。
【0089】
無線給電装置100Bは、上述した第1および第2構成例に係る無線給電装置の機能を備え、さらに、無線給電装置100Bが無線給電を行う範囲内に、回避すべきオブジェクト(本例では人体700)が存在するかを判定する。人体700が存在する場合は無線給電を行わず、人体700が存在しない場合には無線給電を行う。オブジェクトは、人体に限定されず、例えば無人搬送車などの移動体、或いは、壁または柱などの静止している物体でもよい。以下、オブジェクトが人体700の場合を記載するが、人体に限定されない。
【0090】
人体検出時は、無線給電装置100Bから微弱な電波信号S1(検出用信号)を送信したのち、人体700を含むオブジェクトによって反射された信号S2を受信し、反射信号S2に基づき、人体700の有無を判定する。例えば、受信信号の中に人体特有の振動(人体の揺れや心臓の鼓動など)が含まれているか否かで人体700の有無を判定する。あるいは、反射信号S2と送信した検出用信号S1との振幅を比較し、減衰が下限値以上かつ上限値以下の場合に人体を検出してもよい。このときアンテナ素子110_2~110_Nは送信用アンテナ素子、アンテナ素子110_1は受信用アンテナ素子として用いられる。
【0091】
アンテナ素子110_2~110_Nの送受切替スイッチ121(
図7参照)は、送信用可変増幅器123側に切り替えられており、アンテナ素子110_1の送受切替スイッチ121は、受信用増幅器122側に切り替えられている。また、切替部131は、第1の信号処理部150側に切り替えられている。
【0092】
信号発生器170は、人体検出時に、ローカル発振器信号を検出用信号として分配・合成器140に出力する。このとき切替部171は、信号発生器170と分配・合成器140間を接続する。
【0093】
信号発生器170から検出用信号S1が分配・合成器140に出力された後、切替部171は、信号発生器170と第1の信号処理部150間を接続するように切り替えられる。
【0094】
信号発生器170からの検出用信号は、分配・合成器140によってRF信号処理部120_2~120_Nに順番に分配され、アンテナ素子110_2~110_Nのうちの1つから順番に検出用信号S1として送信される。検出用信号S1は、例えばマイクロ波である。
【0095】
切替部171は、ローカル発振器信号を第1の信号処理部150および第2の信号処理部160に供給することと、ローカル発振器信号を検出用信号として2つ以上のRF信号処理部(第2の無線信号処理部)に提供することとを選択的に切り替える第1の切替部に対応する。
【0096】
アンテナ素子110から送信される検出用信号S1の大きさは、人体防護指針を満たす大きさである。例えば、アンテナ素子110から送信される検出用信号S1は、電界強度の実効値が137V/m以下であるか、磁界強度の実効値が0.365A/m以下であるか、電力束密度が5mW/cm2以下である。
【0097】
アンテナ素子110から送信される検出用信号S1は、ビームフォーミングによる指向性を有しておらず(すなわち単体のアンテナ指向性で)、無線給電装置100Bから人体700(オブジェクト)のある方向を含む方向に伝播する。
【0098】
アンテナ素子110(ここではアンテナ素子110_2~110_Nのうちの1つ)から送信された検出用信号S1の一部は、人体700で反射し、反射信号S2としてアンテナ素子110_1によって受信される。
【0099】
アンテナ素子110_1によって受信された反射信号S2は、RF信号処理部120_1で処理されてアナログの受信信号とされ、第1の信号処理部150によって受信信号の周波数変換およびデジタル信号への変換等がなされる。
【0100】
本構成例において、検出用信号S1の信号源は周波数変換のためのLO信号の信号源と同じ(信号発生器170)であるが、検出用信号S1の信号源とLO信号の信号源とを別々に用意してもよい。
【0101】
制御部180は、第1の信号処理部150が処理された反射信号S2の受信信号を、異なるアンテナ素子から送信される検出用信号S1ごとに取得する。制御部180は、受信信号に基づき、受電器500の方向を含む方向に人体が存在するかを判定する。また制御部180は、人体の位置または方向を検出し、さらに人体との間の伝搬路を推定してもよい。
【0102】
図10は、無線給電装置100Bにおいて人体検出時に実行する処理のフローチャートである。
【0103】
まず、制御部180は、信号発生器170を分配・合成器140側に接続し、切替部130_2~130_Nのうちの1つをオンする(アンテナ素子110_2~110_Nのうちの1つに信号発生器170を接続させる)。信号発生器170からはローカル発振器信号が検出用信号として出力され、選択されたRF信号処理部を介してアンテナ素子から検出用信号S1が送信される(ステップS151)。
【0104】
次に、制御部180は、信号発生器170の切替部171を第1の信号処理部150側に接続させる(ステップS152)。
【0105】
次に、RF信号処理部1は、検出用信号S1の反射信号S2を、アンテナ素子110_1を介して受信及処理して、受信信号を取得する(ステップS153)。第1の信号処理部150が、受信信号を処理してデジタルの受信信号を取得し、制御部180に提供する(同ステップS153)。
【0106】
ステップS151~S153を繰り返し、検出用信号S1の送信を各アンテナ素子110_2~110_Nについて順番に行う。例えば各RF信号処理部120_2~120_Nから順番に、検出用信号S1の送信を行う。
【0107】
次に、制御部180は、各受信信号に基づき人体の検出を行う。人体を検出した際、人体の位置または方向をさらに検出してもよい。また人体との間の伝搬路を推定してもよい(ステップS154)。
【0108】
制御部180は、人体700が存在していることを決定した場合、人体700への無線給電(給電信号R2の送信)を回避するために、無線給電を中止する(ステップS155)。
【0109】
制御部180は、人体700が存在していないと決定した場合、人体700が存在していないことを決定し、無線給電を行う(ステップS156)。
【0110】
制御部180は、ステップS155において、無線給電の中止以外の処理を取ってもよい。例えば、人体700が存在する方向に対するヌル生成などの処理を行うことで、人体700への給電信号(後述する
図11の給電信号R2を参照)の送信を回避してもよい。このとき人体700に送信される給電信号の大きさは、人体防護指針を満たす大きさである。例えば、制御部180は、人体700に送信される給電信号が、電界強度の実効値が137V/m以下になるか、磁界強度の実効値が0.365A/m以下になるか、電力束密度が5mW/cm
2以下になるように、人体700の方向を含む方向にヌルを生成してもよい。
【0111】
また、制御部180は、無線給電を中止したのちに、人体700に対して移動指令を出してもよい。移動指令は人体700が認識可能な情報であれば、形態は問わない。例えば、警告音、点灯、人体700が保持する端末画面へのメッセージ表示などでもよい。その後、制御部180は、人体700が人体検出の対象範囲から外れたことを確認して、無線給電を行ってもよい。
【0112】
また、制御部180は、人体700以外のオブジェクト(人体700が存在しない環境)に対して、上記の処理(
図10のフローチャートの処理)を行うことで、人体検出のキャリブレーションを行ってもよい。
【0113】
以上、第1実施形態の第3構成例によれば、人体700の存在の有無を判定できるため、人体700に給電信号が照射されることを回避し、安全に無線給電を行うことができる。
【0114】
[第4構成例(無線給電)]
図11は、第1実施形態の第4構成例に係る無線給電装置100Cと受電器500とを含む無線給電システムを示す。無線給電装置100Cの詳細ブロック図は
図7と同じである。上述した第1実施形態における
図1、
図6、または
図9と同じ名称または機能の要素には同じ符号を付している。以後、変更または追加された事項を除き説明を省略する。
【0115】
無線給電装置100Cは、上述した第1~第3構成例に係る無線給電装置の機能を備え、さらに、受電器500に対して送信ビームフォーミングにより無線給電を行う機能を備える。すなわち無線給電装置100Cは、無線給電の際には、送信ビームフォーミングを行い、給電信号R2の送信ビームを形成する。給電信号R2は、例えばマイクロ波の信号である。
【0116】
無線給電時は、制御部180の制御の下、信号発生器170が生成するローカル発振器信号を給電信号として用いる。このとき切替部171は分配・合成器140側に接続されており、生成された給電信号は分配・合成器140により各アンテナ素子110_1~110_NのRF信号処理部120_1~120_Nに分配される。無線給電時は、第1のアンテナ素子110_1と第2のアンテナ素子110_2~110_Nとで処理の区別はしない。
【0117】
切替部171は、ローカル発振器信号を第1の信号処理部150および第2の信号処理部160に供給することと、ローカル発振器信号を給電信号として少なくとも2つのRF信号処理部(無線信号処理部)に提供することとを選択的に切り替える第2の切替部に対応する。
【0118】
切替部130_2~130_Nは、複数または全てONされている。以下の説明では切替部130_2~130_Nの全てがONされている場合を想定する。また、切替部131は、分配・合成器140側に切り替えられている。但し、送信ビームフォーミングにアンテナ素子110_1を用いない場合は、切替部131は、分配・合成器140側に切り替えられていなくてもよい。
【0119】
分配された給電信号は、各RF信号処理部120における移相器124によって位相が制御される。
【0120】
このとき制御部180は、上述の受信ビームフォーミングと同様に、
図11に示すように、推定された受電器500の方向を含む方向に送信ビームR2が向くように、各移相器124の移相量を制御する。
【0121】
各移相器124で移相量が制御された各給電信号は、各RF信号処理部120における送信用可変増幅器123によって振幅が制御されたのち、複数のアンテナ素子110(110_1~110_N)に供給される。複数のアンテナ素子110から給電信号R2が放射され、受電器500に給電信号R2の送信ビームが形成される。
【0122】
以上、第1実施形態の第4構成例によれば、受電器500に対するビーム送信により無線給電を高い効率で行うことができる。
【0123】
図12は、第1実施形態に係る無線給電装置100Cにより行われる処理の一連の流れを説明するフローチャートである。
【0124】
まず、制御部180は、ビーコン信号B_1~B_Nの位相および振幅に基づいて、ビーコン信号Bの伝搬路推定を行い、ビーコン信号Bの送信元(受電器500)の方向を推定または決定する(ステップS11)。
【0125】
次に、制御部180は、ステップS11で推定された方向において受信ビームフォーミングを行う(ステップS12)。
【0126】
次に、制御部180は、受信ビームフォーミングで受信された信号に基づき、給電対象である受電器500以外の無線器600が、推定された方向に存在するか否かを判定する(ステップS13)。
【0127】
制御部180は、受電器500以外の無線器600が推定された方向に存在することを決定した場合、無線器600の通信の阻害を回避するために、無線給電を行わない(ステップS14)。
【0128】
制御部180は、無線器600が推定した方向に存在しないことを決定した場合、制御部180は、ステップS11で推定された方向に人体700が存在するかを判定する(ステップS15)。
【0129】
制御部180は、推定された方向に人体700が存在することを決定した場合、人体700へ悪影響を回避するために、無線給電を行わない(ステップS14)。
【0130】
制御部180は、推定された方向に人体700が存在しないことを決定した場合、無線給電を行う、すなわち、給電信号R2を送信する(ステップS16)。
【0131】
ステップS12~S13とステップS15が実行される順番は任意でよい。つまり、推定した方向に人体700が存在しないことを確認したのちに、無線器600が存在するかどうかを判定してもよい。
【0132】
以上、第1実施形態によれば、AD変換を含む信号処理部として2つの信号処理部150、160のみでレトロディレクティブ送信のための伝搬路推定を行うことができるため、構成を簡単にでき、低コスト化が可能である。また、その上で、受信ビームフォーミングおよび人体検出等を行うことができ、他の無線器との共存および人体の防護を達成することができる。
【0133】
(第2実施形態)
第1実施形態では、所定の1つのアンテナ素子を第1のアンテナ素子(基準アンテナ素子)としていた。第1のアンテナ素子となるアンテナ素子は固定であり、変更できなかった。そのため、第1のアンテナ素子または第1のアンテナ素子のRF信号処理部が故障などで使用できなくなると、伝搬路推定および人体検出などを行うことができない。これに対し、第2実施形態では、第1のアンテナ素子となるアンテナ素子を変更することを可能にする。
【0134】
図13は、第2実施形態に係る無線給電装置200を備えた無線給電システムを示す。給電対象となる受電器の図示は省略している。無線給電装置200の詳細ブロック図は
図7と同じである。上述した第1実施形態に係る
図1、
図6、
図9または
図11と同じ名称または機能の要素には同じ符号を付している。以後、変更または追加された事項を除き説明を省略する。
【0135】
無線給電装置200は、切替部130_1と、切替部132(第2の選択部)とを備える。
【0136】
切替部130_1は、RF信号処理部1と分配・合成器140間の接続のON-OFFを切り替える。切替部130_1は、切替部130_2~130_Nと同様の機能を有する。選択部30(第1の選択部)は、切替部130_1~130_Nを含む。
【0137】
切替部132は、RF信号処理部1~Nと第1の信号処理部150との接続のON-OFFを切り替える。切替部132は1つのRF信号処理部を選択し、選択したRF信号処理部と第1の信号処理部150とを接続する選択部(第2の選択部)である。このとき選択されたRF信号処理部が第1の無線信号処理部となる。選択されなかったRF信号処理部が第2の無線信号処理部となる。
【0138】
制御部180は、切替部132により選択されたRF信号処理部を分配・合成器140に接続しないように切替部130_1~130_Nを制御する。例えば、切替部132がRF信号処理部120_1と第1の信号処理部150とを接続した場合、切替部130_1はOFFにされ、切替部130_2~130_Nの全部または一部がONされる。
【0139】
切替部132は、例えば複数のスイッチを備えたスイッチ回路であり、スイッチによって接続のON-OFFを切り替える。切替部132の処理は、電気回路により行ってもよいし、プログラムにより行ってもよい。切替部132または制御部180は、第1の信号処理部150および第2の信号処理部160のいずれでも使用しないRF信号処理部の電源を一時的にOFFする機能を備えていてもよい。この場合、切替部132または制御部180は、コンピュータなどの装置であってもよい。
【0140】
これにより、複数のアンテナ素子のうちの任意のアンテナ素子を第1のアンテナ素子とすることができる。また、第2実施形態でも第1実施形態と同様に、伝搬路推定、受信ビームフォーミング、人体検出および送信ビームフォーミングによる無線給電を行うことができる。
【0141】
以上、第2実施形態によれば、任意のアンテナ素子を第1のアンテナ素子とすることができる。そのため、第1のアンテナ素子として使用されるあるアンテナ素子のRF信号処理部が故障などで使用できなくなった場合でも、正常なRF信号処理部のアンテナ素子を新たに第1のアンテナ素子に割り当てることで、伝搬路推定および人体検出等を行うことができる。また第1のアンテナ素子として使用されるアンテナ素子自体が破損等で使用できなくなった場合でも、正常なアンテナ素子を新たに第1のアンテナ素子に割り当てることで、伝搬路推定および人体検出等を行うことができる。
【0142】
なお、本発明は上記各実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記各実施形態に開示されている複数の構成要素を適宜組み合わせることによって種々の発明を形成できる。また例えば、各実施形態に示される全構成要素からいくつかの構成要素を削除した構成も考えられる。さらに、異なる実施形態に記載した構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【0143】
なお、本実施形態は以下のような構成を取ることもできる。
[項目1]
無線信号を送信する受電器に無線給電可能な無線給電装置であって、
N個のアンテナ素子と、
前記N個のアンテナ素子で受信された無線信号に基づいて、アナログ信号を取得するN個の無線信号処理部と、
前記N個の無線信号処理部のうち第1の無線信号処理部により取得された前記アナログ信号である第1のアナログ信号に基づいて第1のデジタル信号を取得する第1の信号処理部と、
前記N個の無線信号処理部のうち前記第1の無線信号処理部とは異なるN-1個の第2の無線信号処理部により取得された前記アナログ信号である第2のアナログ信号のうちの1つを選択する第1選択部と、
前記第1選択部により選択された第2のアナログ信号に基づいて第2のデジタル信号を取得する第2の信号処理部と
前記第1のデジタル信号および前記第2のデジタル信号に基づいて、前記受電器との間の伝搬路を推定する制御部と
を備えた無線給電装置。
[項目2]
前記第1選択部は、前記N-1個の第2の無線信号処理部を前記第2の信号処理部へ接続する複数のスイッチを含む
項目1に記載の無線給電装置。
[項目3]
前記第1選択部は、複数の時刻に対応して複数の前記第2のアナログ信号のうちの1つを順番に選択し、
前記制御部は、前記時刻毎に選択された前記第2のアナログ信号から取得された前記第2のデジタル信号と、前記時刻毎に対応する前記第1のアナログ信号から取得された前記第1のデジタル信号とに基づき、前記受電器との間の伝搬路を推定する
項目1または2に記載の無線給電装置。
[項目4]
前記第1のデジタル信号は、前記第1の無線信号処理部に入力される前記無線信号の振幅と位相の情報を含み、
前記第2のデジタル信号は、前記第2の無線信号処理部に入力される前記無線信号の振幅と位相の情報を含み、
前記制御部は、前記第1のデジタル信号と前記第2のデジタル信号間における前記位相の差分、または前記振幅の差分および前記位相の差分とに基づき、前記伝搬路を推定する
項目1~3のいずれか一項に記載の無線給電装置。
[項目5]
前記N個の無線信号処理部は、前記無線信号の移相を行う移相器を含み、
前記制御部は、前記伝搬路の情報に基づいて、前記N個の無線信号処理部における前記移相器のうちの少なくとも2つの無線信号処理部における移相器の移相量を制御し、
前記少なくとも2つの無線信号処理部により取得された前記アナログ信号を合成する合成部をさらに備えた、
項目3に記載の無線給電装置。
[項目6]
前記制御部は、前記合成部により前記アナログ信号を合成することにより得られる合成信号に基づき、前記受電器と異なる無線器が前記受電器の方向を含む方向に存在するか否かを判定する
項目5に記載の無線給電装置。
[項目7]
前記制御部は、前記無線器が前記受電器の方向を含む前記方向に含まれる場合に、前記受電器に前記無線給電を行わないことを決定し、
前記制御部は、前記無線器が前記受電器の方向を含む前記方向に含まれない場合に、前記受電器に前記無線給電を行うことを決定する
項目6に記載の無線給電装置。
[項目8]
オブジェクトの検出用信号を生成する信号発生器をさらに備え、
前記第1の無線信号処理部は、前記N個のアンテナ素子のうち第1のアンテナ素子で受信された無線信号に基づいて前記第1アナログ信号を取得し、
前記N-1個の第2の無線信号処理部は、前記N個のアンテナ素子のうち第2~第Nのアンテナ素子で受信された無線信号に基づいて前記第2アナログ信号を取得し、
前記N-1個の第2の無線信号処理部のうちの2つ以上は、前記信号発生器からの前記検出用信号をそれぞれの前記アンテナ素子から送信し、
前記第1の無線信号処理部は、前記第1のアンテナ素子を介して受信される複数の前記検出用信号の反射信号に基づいて、複数の受信信号を取得し、
前記第1の信号処理部により前記複数の受信信号に基づいて取得される複数のデジタル信号に基づき、給電エリアに存在するオブジェクトの位置および方向の少なくとも一方を検出する制御部を備えた
項目1~7のいずれか一項に記載の無線給電装置。
[項目9]
前記制御部は、検出した前記オブジェクトの位置および方向の少なくとも一方に基づいて、前記受電器に対する前記無線給電を制御する
項目8に記載の無線給電装置。
[項目10]
前記オブジェクトは人体であり、
前記検出用信号は、電界強度の実効値が137V/m以下、磁界強度の実効値が0.365A/m以下、または電力束密度が5mW/cm2以下である
項目8または9に記載の無線給電装置。
[項目11]
前記制御部は、前記受電器の方向を含む方向に前記オブジェクトが含まれる場合に前記無線給電を行わないことを決定し、
前記制御部は、前記受電器の方向を含む方向に前記オブジェクトが含まれない場合に前記無線給電を行うことを決定する
項目8~10のいずれか一項に記載の無線給電装置。
[項目12]
前記制御部は、前記受電器の方向を含む前記方向にオブジェクトが含まれる場合、前記オブジェクトの存在する方向に対するヌルを生成して、前記受電器に前記無線給電を行う
項目8~11のいずれか一項に記載の無線給電装置。
[項目13]
前記オブジェクトは人体であり、
前記制御部は、前記人体に照射される電波が、電界強度の実効値が137V/m以下、磁界強度の実効値が0.365A/m以下、または電力束密度が5mW/cm2以下になるように、前記ヌルを生成する
項目12に記載の無線給電装置。
[項目14]
前記検出用信号は発振器信号であり、
前記発振器信号を前記第1の信号処理部および前記第2の信号処理部に供給することと、前記発振器信号を前記検出用信号として2つ以上の前記第2の無線信号処理部に提供することとを選択的に切り替える第1の切替部
をさらに備え、
前記第1の無線信号処理部は、前記発振器信号に基づき前記第1のアナログ信号の周波数を変換する第1のミキサを含み、
前記第2の無線信号処理部は、前記発振器信号に基づき前記第2のアナログ信号の周波数を変換する第2のミキサを含む、
項目8~13のいずれか一項に記載の無線給電装置。
[項目15]
給電信号を生成する信号発生器をさらに備え、
前記N個の無線信号処理部は、前記給電信号の移相を行う移相器を含み、
前記制御部は、前記伝搬路の情報に基づいて、前記N個の無線信号処理部のうちの少なくとも2つの無線信号処理部における移相器の移相量を制御し、
前記少なくとも2つの無線信号処理部から前記移相器により移相した前記給電信号をそれぞれの前記アンテナ素子から送信することにより、前記無線給電を行う
項目1~14のいずれか一項に記載の無線給電装置。
[項目16]
前記給電信号は発振器信号であり、
前記発振器信号を前記第1の信号処理部および前記第2の信号処理部に供給することと、前記発振器信号を前記給電信号として前記少なくとも2つの無線信号処理部に提供することとを選択的に切り替える第2の切替部
をさらに備え、
前記第1の信号処理部は、前記発振器信号に基づき前記第1のアナログ信号の周波数を変換する第1のミキサを備え、
前記第2の信号処理部は、前記発振器信号に基づき前記第2のアナログ信号の周波数を変換する第2のミキサを備える、
項目15に記載の無線給電装置。
[項目17]
前記N個の無線信号処理部のうちの1つを選択する第2の選択部を備え、
選択した前記無線信号処理部は前記第1の無線信号処理部であり、
選択した前記無線信号処理部以外のN-1個の無線信号処理部は、N-1個の前記第2の無線信号処理部である
項目1~16のいずれか一項に記載の無線給電装置。
[項目18]
前記第2の選択部は、前記N個の無線信号処理部を前記第1の信号処理部へ選択的に接続するスイッチ回路を含む
項目17に記載の無線給電装置。
[項目19]
前記受電器から送信される前記無線信号は、ビーコン信号である
項目1~18のいずれか一項に記載の無線給電装置。
[項目20]
無線信号を送信する受電器に給電可能な無線給電装置により実行される方法であって、
N個のアンテナ素子のうち第1のアンテナ素子で受信された第1の無線信号に基づいて、第1のアナログ信号を取得し、前記第1のアナログ信号に基づいて第1のデジタル信号を取得し、
前記N個のアンテナ素子のうち第1のアンテナ素子と異なるN-1個の第2のアンテナ素子で受信された第2の無線信号に基づいて、複数の第2のアナログ信号を取得し、
前記N個の無線信号処理部のうち前記第1の無線信号処理部とは異なるN-1個の第2の無線信号処理部により取得された前記アナログ信号である第2のアナログ信号のうちの1つを選択し、
選択された第2のアナログ信号に基づいて第2のデジタル信号を取得し、
前記第1のデジタル信号および前記第2のデジタル信号に基づいて、前記受電器との間の伝搬路を推定する、方法。
【符号の説明】
【0144】
30 選択部(第1の選択部)
100,100A,100B,100C 無線給電装置
110,110_1~110_N アンテナ素子
120,120_1~120_N RF信号処理部(無線信号処理部)
121 送受切替スイッチ
122 受信用増幅器
123 送信用可変増幅器
124 移相器
130,130_1~130_N 切替部
131 切替部
132 切替部(第1の切替部)
140 分配・合成器(合成部)
150 第1の信号処理部
151 直交ミキサ(第1のミキサ)
152 ローパスフィルタ
153 可変利得増幅器
154 A/Dコンバータ
160 第2の信号処理部
161 直交ミキサ(第2のミキサ)
162 ローパスフィルタ
163 可変利得増幅器
164 A/Dコンバータ
170 信号発生器
171 切替部(第1の切替部、第2の切替部)
180 制御部
200 無線給電装置
500 受電器
600 無線器
700 人体
B,B_1~B_N ビーコン信号
R1 受信ビーム
R2 送信ビーム,給電信号
S1 検出用信号
S2 反射信号