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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023183260
(43)【公開日】2023-12-27
(54)【発明の名称】シートおよび制御方法
(51)【国際特許分類】
   B60N 2/22 20060101AFI20231220BHJP
   B60N 2/10 20060101ALI20231220BHJP
   B60N 2/90 20180101ALI20231220BHJP
【FI】
B60N2/22
B60N2/10
B60N2/90
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022096785
(22)【出願日】2022-06-15
(71)【出願人】
【識別番号】000241500
【氏名又は名称】トヨタ紡織株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】加藤 靖弘
(72)【発明者】
【氏名】清水 亮男
(72)【発明者】
【氏名】播田 貴広
【テーマコード(参考)】
3B087
【Fターム(参考)】
3B087AA02
3B087BA12
3B087BC27
3B087BD03
3B087DE10
(57)【要約】
【課題】リクライニング機構と、リクライニング機構以外の機構との調整方向を反転させる際に生じるリクライニング機構の作動遅れを解消する。
【解決手段】制御部(8)は、第1調整部(6)による角度の調整方向(R1)と、第2調整部(7)による姿勢の調整方向(R2)とを反転させる場合に、第2駆動部の駆動方向を反転させるタイミングよりも前に、第2調整部による姿勢の調整を停止させる停止期間を設け、第1調整部に対して、停止期間中に準備作動を予め実施させる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
座面と背もたれとを有するシートであって、
第1駆動部を有し、前記第1駆動部の駆動方向に応じた方向に、前記座面に対する前記背もたれの角度を調整する第1調整部と、
第2駆動部を有し、前記第2駆動部の駆動方向に応じた方向に、前記シートの姿勢を調整する第2調整部と、
前記第1駆動部と前記第2駆動部とを制御する制御部と、を備え、
前記第1調整部は、前記第1駆動部の駆動方向が反転してから、前記角度を調整する方向が反転するまでの期間に準備作動を要し、
前記制御部は、
前記第1調整部による前記角度の調整方向と、前記第2調整部による前記姿勢の調整方向とを反転させる場合に、
前記第2駆動部の駆動方向を反転させるタイミングよりも前に、前記第2調整部による前記姿勢の調整を停止させる停止期間を設け、
前記第1調整部に対して、前記停止期間中に前記準備作動を予め実施させるシート。
【請求項2】
前記第1調整部は、前記停止期間の終了予定タイミングから前記準備作動の所要時間前に前記準備作動を開始し、前記終了予定タイミングに前記準備作動を完了する請求項1に記載のシート。
【請求項3】
前記第1調整部は、
前記角度を調整する方向に回転するシャフトと、
前記シャフトの径方向外側に向けて、第1ベアリング部、外歯の順に配置される第1歯車と、
前記シャフトの径方向外側に向けて、第2ベアリング部、内歯の順に配置され、前記内歯が前記第1歯車の前記外歯と向かい合い、かつ、前記第2ベアリング部が前記第1歯車の前記第1ベアリング部と向かい合うように組み合わされる第2歯車と、
前記第1ベアリング部と前記第2ベアリング部との間に配置され、前記第1歯車の前記外歯と前記第2歯車の内歯とを噛み合わせる第1および第2楔部材と、
前記第1ベアリング部と前記第2ベアリング部との間に挿入される突起部を有し、前記シャフトの回転に応じて回転するストライカと、を有し、
前記ストライカは、前記突起部が前記シャフトの回転に応じて前記シャフトの周方向に移動することにより、前記突起部が前記第1楔部材の近傍に配置される第1状態と、前記突起部が前記第2楔部材の近傍に配置される第2状態との間を移動可能であり、
前記準備作動は、前記第1状態から前記第2状態へ、または、前記第2状態から前記第1状態へ前記突起部を移動させる作動である請求項1または2に記載のシート。
【請求項4】
前記第2調整部は、
前記座面に連結される第1端と、前記第1端と対向する第2端とを有し、前記第1端と前記第2端との間に回転軸を有するリンクを有し、
前記第2駆動部の駆動方向に応じた方向に前記リンクの前記第2端を回動させることにより前記リンクの前記第1端を回動させ、前記第1端の回動により前記シートの設置面に対する前記座面の角度を調整する請求項1または2に記載のシート。
【請求項5】
座面と、背もたれとを有するシートを制御する制御方法であって、
前記シートは、
第1駆動部を有し、前記第1駆動部の駆動方向に応じた方向に、前記座面に対する前記背もたれの角度を調整する第1調整部と、
第2駆動部を有し、前記第2駆動部の駆動方向に応じた方向に、前記シートの姿勢を調整する第2調整部と、
前記第1調整部と前記第2調整部とを制御する制御部と、を備え、
前記第1調整部は、前記第1駆動部の駆動方向が反転してから、前記角度を調整する方向が反転するまでの期間に準備作動を要し、
前記第1調整部による前記角度の調整方向と、前記第2調整部による前記姿勢の調整方向とを反転させる場合に、前記第2駆動部の駆動方向を反転させるタイミングよりも前に、前記第2調整部による前記姿勢の調整を停止させる停止期間が設けられ、
前記制御部が前記第1調整部に対して、前記停止期間中に前記準備作動を予め実施させる制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、シートおよび制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、外歯を有する第1のギアと、内歯を有する第2のギアと、第1のギア及び第2のギアのうちの一方を他方に対して移動させる第1及び第2の楔部材と、第1の楔部材と当接し、第1及び第2の楔部材を回転させるカム部材とを備えるシートリクライニング装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015-146873号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のような従来技術では、シートボトムに対するシートバックの角度の調整方向を反転させる際、第1の楔部材に当接していたカム部材を第2の楔部材に当接させる必要がある。カム部材を第1の楔部材に当接する位置から第2の楔部材に当接する位置まで回転させるとき、カム部材が第1および第2の楔部材のいずれにも当接していない期間が存在する。そのため、リクライニング機構と他の機構とを反転させる制御を行う場合に、リクライニング機構の作動が他の機構の作動に対して遅れるという問題がある。
【0005】
本開示の一態様は、リクライニング機構と、リクライニング機構以外の機構との調整方向を反転させる際に生じるリクライニング機構の作動遅れを解消することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本開示の一態様に係るシートは、座面と背もたれとを有するシートであって、第1駆動部を有し、前記第1駆動部の駆動方向に応じた方向に、前記座面に対する前記背もたれの角度を調整する第1調整部と、第2駆動部を有し、前記第2駆動部の駆動方向に応じた方向に、前記シートの姿勢を調整する第2調整部と、前記第1駆動部と前記第2駆動部とを制御する制御部と、を備え、前記第1調整部は、前記第1駆動部の駆動方向が反転してから、前記角度を調整する方向が反転するまでの期間に準備作動を要し、前記制御部は、前記第1調整部による前記角度の調整方向と、前記第2調整部による前記姿勢の調整方向とを反転させる場合に、前記第2駆動部の駆動方向を反転させるタイミングよりも前に、前記第2調整部による前記姿勢の調整を停止させる停止期間を設け、前記第1調整部に対して、前記停止期間中に前記準備作動を予め実施させる。
【0007】
上記の構成によれば、リクライニング機構以外の機構である第2調整部が停止している期間中に、リクライニング機構である第1調整部の準備作動を予め実施するため、リクライニング機構以外の機構の調整方向を反転させるタイミングに、作動遅れなくリクライニング機構の調整方向を反転させることができる。
【0008】
本開示の態様2に係るシートは、前記第1調整部は、前記停止期間の終了予定タイミングから前記準備作動の所要時間前に前記準備作動を開始し、前記終了予定タイミングに前記準備作動を完了する。
【0009】
上記の構成によれば、第2調整部の停止期間の終了予定タイミングに第1調整部の準備作動を完了することとしたため、調整方向を反転させた第1調整部の作動をスムーズに開始することができる。
【0010】
本開示の態様3に係るシートは、前記第1調整部は、前記角度を調整する方向に回転するシャフトと、前記シャフトの径方向外側に向けて、第1ベアリング部、外歯の順に配置される第1歯車と、前記シャフトの径方向外側に向けて、第2ベアリング部、内歯の順に配置され、前記内歯が前記第1歯車の前記外歯と向かい合い、かつ、前記第2ベアリング部が前記第1歯車の前記第1ベアリング部と向かい合うように組み合わされる第2歯車と、前記第1ベアリング部と前記第2ベアリング部との間に配置され、前記第1歯車の前記外歯と前記第2歯車の内歯とを噛み合わせる第1および第2楔部材と、前記第1ベアリング部と前記第2ベアリング部との間に挿入される突起部を有し、前記シャフトの回転に応じて回転するストライカと、を有し、前記ストライカは、前記突起部が前記シャフトの回転に応じて前記シャフトの周方向に移動することにより、前記突起部が前記第1楔部材の近傍に配置される第1状態と、前記突起部が前記第2楔部材の近傍に配置される第2状態との間を移動可能であり、前記準備作動は、前記第1状態から前記第2状態へ、または、前記第2状態から前記第1状態へ前記突起部を移動させる作動である。
【0011】
本開示の態様4に係るシートは、前記第2調整部は、前記座面に連結される第1端と、前記第1端と対向する第2端とを有し、前記第1端と前記第2端との間に回転軸を有するリンクを有し、前記第2駆動部の駆動方向に応じた方向に前記リンクの前記第2端を回動させることにより前記リンクの前記第1端を回動させ、前記第1端の回動により前記シートの設置面に対する前記座面の角度を調整する。
【0012】
本開示の態様5に係る制御方法は、座面と、背もたれとを有するシートを制御する制御方法であって、前記シートは、第1駆動部を有し、前記第1駆動部の駆動方向に応じた方向に、前記座面に対する前記背もたれの角度を調整する第1調整部と、第2駆動部を有し、前記第2駆動部の駆動方向に応じた方向に、前記シートの姿勢を調整する第2調整部と、前記第1調整部と前記第2調整部とを制御する制御部と、を備え、前記第1調整部は、前記第1駆動部の駆動方向が反転してから、前記角度を調整する方向が反転するまでの期間に準備作動を要し、前記第1調整部による前記角度の調整方向と、前記第2調整部による前記姿勢の調整方向とを反転させる場合に、前記第2駆動部の駆動方向を反転させるタイミングよりも前に、前記第2調整部による前記姿勢の調整を停止させる停止期間が設けられ、前記制御部が前記第1調整部に対して、前記停止期間中に前記準備作動を予め実施させる。
【0013】
上記の構成によれば、リクライニング機構以外の機構である第2調整部が停止している期間中に、リクライニング機構である第1調整部の準備作動を予め実施するため、リクライニング機構以外の機構の調整方向を反転させるタイミングに、作動遅れなくリクライニング機構の調整方向を反転させることができる。
【0014】
本開示の各態様に係るシートの制御部は、コンピュータによって実現してもよく、この場合には、コンピュータを前記制御部(ソフトウェア要素)として動作させることにより前記制御部をコンピュータにて実現させる制御プログラム、およびそれを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体も、本開示の範疇に入る。
【発明の効果】
【0015】
本開示の一態様によれば、リクライニング機構と、それ以外の機構との調整方向を反転させる際に生じるリクライニング機構の作動遅れを解消することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本開示の一実施形態に係るシートの外観を示す側面図である。
図2】本開示の一実施形態に係るシートのフレームの一例を示す側面図である。
図3】本開示の一実施形態に係るシートのフレームを前方下方から見上げた斜視図である。
図4】第1調整部の一例を示す図である。
図5】本開示の一実施形態に係るシートの制御例を示す図である。
図6】本開示の一実施形態に係るシートにおける揺動の一例を示す図である。
図7】第1調整部の準備作動の説明に用いる図である。
図8】第1調整部の作動例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は、本開示の一実施の形態に係るシート1の一例を示す図である。シート1は、シートバック2と、シートボトム3とを備える。シートバック2は、シート1の背もたれであって、方向R1に沿って回動可能に設けられている。シートボトム3は、シート1の座面である。シートボトム3は、方向R2に沿って回動可能に設けられている。以下、図1の矢印で示されるように、シート1の上下方向、前後方向を定義する。
【0018】
以下では、シート1は、自動車等の車両の床面Fに設置された座席シートとして説明するが、これに限定されない。例えば、航空機、鉄道、船舶等の移動体に設置された座席シート、マッサージチェア、介護用ベッド等であってもよい。
【0019】
以下、図2及び図3を用いて、シート1についてより詳細に説明する。図2は、シート1のフレームの一例を示す側面図である。図2では、アームレスト、ヘッドレスト、クッション、配線等の図示が省略されている。シート1は、ベース部4と、第1調整部6と、第2調整部7と、制御部8とを更に備える。ベース部4は、複数の脚部40を有する基台であり、床面Fに設置され、シート1の各部を支持する。
【0020】
以下では、ベース部4に対するシートバック2およびシートボトム3の位置および角度、ならびにシートボトム3に対するシートバック2の角度等のことをシート1の姿勢と呼称する。
【0021】
第1調整部6は、リクライニング機構であって、第1駆動部60と、リクライナ部61とを有し、シートボトム3に対するシートバック2の角度、すなわち座面に対する背もたれの角度の調整に用いられる。第1駆動部60は、モータで構成され、モータ軸が正転または負転する。第1駆動部60には、モータ軸の回転をリクライナ部61に伝えるギア等を更に含むことにしてもよい。リクライナ部61は、第1駆動部60の駆動方向、例えばモータ軸の回転方向に応じて、方向R1に沿ってシートバック2を回動させる。リクライナ部61の詳細については、図4を用いて後述する。
【0022】
第2調整部7は、第2駆動部70と、減速ギア71と、リンク72と、を有し、ベース部4または床面Fに対するシートボトム3の角度、すなわちベース部4または床面Fに対する座面の角度の調整に用いられる。第2駆動部70および減速ギア71は、ベース部4に支持されている。第2駆動部70は、モータで構成され、モータ軸が正転または負転する。減速ギア71は、1個以上のギアを有し、第2駆動部70のモータ軸の回転をリンク72へ伝達する。リンク72は、第2駆動部70の駆動方向に応じた方向に支点P2を中心に回動する。例えば、第2駆動部70のモータ軸が正転したときシートボトム3が支点P2を中心に方向R2上方に回動し、第2駆動部70のモータ軸が負転したときシートボトム3が支点P2を中心に方向R2下方に回動する。なお、第2駆動部70のモータ軸の回転方向と、シートボトム3の回動方向との関係はこれに限られない。また、第2駆動部70には、モータ軸の回転を減速ギア71に伝えるギア等を更に含むことにしてもよい。
【0023】
制御部8は、例えばECU(Electronic Control Unit)であって、第1駆動部60および第2駆動部70を制御する。図2では、制御部8は、ベース部4に固定されているが、制御部8の設置位置はこれに限られない。また、制御部8は、同期可能な複数の制御装置で構成することにしてもよい。
【0024】
図3を用いて、リンク72について詳細に説明する。図3は、シート1のフレームを前方下方から見上げた斜視図である。図3に示すように、リンク72は、その第1端72Aがブラケット9を介してシートボトム3に連結されており、第1端72Aに対向する第2端72Bにセクターギア171が設けられている。セクターギア171は、減速ギア71を構成するギアと噛み合っている。リンク72は、第2駆動部70の駆動方向、例えばモータ軸の回転方向に応じて、支点P1を回転軸として回動する。セクターギア171と減速ギア71との噛み合い位置が上方へ移動した場合は、リンク72の第1端72Aが支点P1を回転軸として上方に回動する。セクターギア171と減速ギア71との噛み合い位置が下方へ移動した場合は、リンク72の第1端72Aが支点P1を回転軸として下方に回動する。これらの回動により、ブラケット9に接続されたシートボトム3が図3に不図示の支点P2を中心に回動する。
【0025】
〔リクライナ部61の構成〕
図4を用いて、リクライナ部61の詳細について説明する。図4には、リクライナ部61の分解図400Aと断面図400Bとが示されている。分解図400Aおよび断面図400Bに図示されるように、リクライナ部61は、アッパギア161と、ロアギア162と、一対の小ウエッジ163Aおよび163Bと、大ウエッジ164と、ストライカ165と、スプリング166と、シャフト167と、外周リング168とを備える。
【0026】
アッパギア161は、第1歯車の一例であって、図4への図示を省略したシートバック2に連結されている。アッパギア161は、外歯161Aと、第1ベアリング部161Bと、鍔部161Dとを有する。第1ベアリング部161Bには開口161Cが設けられている。アッパギア161の外歯161Aは、鍔部161Dから突出している。第1ベアリング部161Bは、外歯161Aから更に突出している。
【0027】
ロアギア162は、第2歯車の一例であって、図4への図示を省略したシートボトム3に連結されている。ロアギア162は、内歯162Aと、第2ベアリング部162Bと、鍔部162Cとを有する。鍔部162Cは、凹部を有し、凹部の側壁に内歯162Aが設けられている。また、その凹部の中心には開口162Dを含む第2ベアリング部162Bが設けられている。
【0028】
アッパギア161は、外周リング168に回動可能に内包される。外周リング168は、ロアギア162にカシメ締結される。カシメ締結後のアッパギア161は、その外歯161Aがロアギア162の鍔部162Cの凹部に挿入された状態となる。
【0029】
断面図400Bに示されるように、アッパギア161とロアギア162とは、アッパギア161の外歯161Aがロアギア162の内歯162Aと向かい合い、アッパギア161の第1ベアリング部161Bがロアギア162の第2ベアリング部162Bと向かい合う。カシメ締結後のアッパギア161およびロアギア162は、シャフト167の径方向の内側から外側に向けて、第1ベアリング部161B、第2ベアリング部162B、外歯161A、内歯162Aの順に配置される。シートボトム3に対するシートバック2の角度は、アッパギア161の外歯161Aとロアギア162の内歯162Aとの噛み合い位置によって決まる。
【0030】
第1ベアリング部161Bの外周と第2ベアリング部162Bの内周との間には、一対の小ウエッジ163Aおよび163Bと、大ウエッジ164と、ストライカ165の一対の突起部165Aおよび165Bとが配置されている。一対の小ウエッジ163Aおよび163Bは、第1および第2の楔部材の一例である。
【0031】
小ウエッジ163Aの端部169Aと小ウエッジ163Bの端部169Bとは、互いに向かい合うように配置されており、端部169Aと端部169Bとの間に隙間S1を有する。一対の小ウエッジ163Aおよび163Bは、それらの端部169Aおよび169Bから互いに離れるに従って径方向の厚みが小さくなる。大ウエッジ164は、一対の小ウエッジ163Aおよび163Bを第1ベアリング部161Bとの間で挟むように配置されている。
【0032】
スプリング166は、小ウエッジ163Aの端部169Aと小ウエッジ163Bの端部169Bとに係止されている。スプリング166は、端部169Aと端部169Bとの間の隙間S1を広げる方向に、小ウエッジ163Aと163Bとを付勢している。スプリング166により付勢された小ウエッジ163Aおよび163Bは、第1ベアリング部161Bの外周と大ウエッジ164とに当接する。また、大ウエッジ164は、第2ベアリング部162Bの内周と一対の小ウエッジ163Aおよび163Bとに当接する。アッパギア161およびロアギア162は、スプリング166の不勢力に基づいた、第1ベアリング部161B、第2ベアリング部162B、小ウエッジ163Aおよび163B、ならびに大ウエッジ164の摩擦係合により回転が制限される。
【0033】
ストライカ165は、一対の突起部165Aおよび165Bと、鍔部165Dとを有する。鍔部165Dには開口165Cが設けられている。一対の突起部165Aおよび165Bは、第1ベアリング部161Bの外周と第2ベアリング部162Bの内周の間に挿入されている。突起部165Aは、突起部165Bよりも小ウエッジ163Aの近い位置に配置される。ストライカ165の開口165Cには、シャフト167が挿入されている。シャフト167は、図2の第1駆動部60の駆動方向に応じて周方向R3に沿った方向に回動する。ストライカ165は、シャフト167の回転に応じて、周方向R3に沿って回動する。以下では、第1駆動部60のモータ軸が正転すると、ストライカ165が周方向R3Bに回動するものとし、第1駆動部60のモータ軸が負転すると、ストライカ165が周方向R3Aに回動するものとする。
【0034】
〔制御部8による第1調整部6および第2調整部7の制御例〕
図5は、図2に示した制御部8による第1駆動部60および第2駆動部70の一制御例を示す。図5に示す制御例では、シート1を図6の側面図601に示す姿勢と、側面図602に示す姿勢との間で往復作動させる。側面図602に示す姿勢では、側面図601に示す姿勢よりも、シートバック2が方向R1に沿って後方に回動し、シートボトム3の前部が方向R2に沿って上方に回動している。このようにシート1を往復作動させることにより、シート1に着座したユーザをリラックスさせる効果、ユーザの平衡感覚に関与する耳石を刺激して眠気を誘う効果等を図る。
【0035】
図5に例示する制御の初期状態として、シート1は図6の側面図601に示す姿勢にあり、リクライナ部61は図7の断面図700Aに示す状態にあるものとする。図7の断面図700Aに示す状態は、第1状態の一例であり、ストライカ165の突起部165Bが小ウエッジ163Bの近傍に配置され、突起部165Bが大ウエッジ164の端部164Bに当接している。
【0036】
制御部8は、図5に例示されるSTEP1からSTEP6までの制御を繰り返す。
STEP1において、制御部8は、図2の第1駆動部60のモータ軸を正転させることにより、図7のストライカ165がスプリング166の付勢力に抗して周方向R3Bに沿って回動させる。また、制御部8は、図2の第2駆動部70のモータ軸を正転させることにより、リンク72のセクターギア171(図3)が下方へ回動させ、シートボトム3が方向R2に沿って上方へ回動させる。
【0037】
図8に示す断面図800Aは、図7の断面図700Aに示した状態から、スプリング166の付勢力に抗してストライカ165を周方向R3Bに沿って回動させた状態を示している。なお、図8では、外歯161Aおよび内歯162Aの図示が省略されている。
【0038】
ストライカ165が周方向R3Bに沿って回動したことにより、ストライカ165の突起部165Bに押された大ウエッジ164が周方向R3Bに沿って回動する。また、小ウエッジ163Bが大ウエッジ164の端部164Bの内周側に押され、スプリング166の付勢力に抗して方向R3Bに沿って回動し、隙間S1が狭まる。
【0039】
一方、大ウエッジ164の端部164Aの周辺では、大ウエッジ164の回動により、大ウエッジ164と小ウエッジ163Aとの間に隙間S2が生じる。隙間S2が生じることにより、第1ベアリング部161B、第2ベアリング部162B、一対の小ウエッジ163Aおよび163B、ならびに大ウエッジ164による摩擦係合が解除される。これにより、アッパギア161がロアギア162に対して回動可能となる。
【0040】
図8の断面図800Bに示すように、スプリング166の付勢力によって、小ウエッジ163Aが方向R3Bに沿って隙間S2に向けて回動し、隙間S1が広がる。このとき、アッパギア161がロアギア162に対して回動し、外歯161Aと内歯162Aとの噛み合い位置が動き、シートボトム3に対するシートバック2の角度が調整される。
【0041】
制御部8は、シートボトム3に対するシートバック2の角度が目標の角度になるまでストライカ165の突起部165Bにより大ウエッジ164を方向R3Bに沿って回動させる。制御部8は、シート1が図6の側面図602に示す姿勢になると、図5のSTEP2の制御に進む。
【0042】
図5のSTEP2において、図2の制御部8は、第1駆動部60および第2駆動部70を停止させる。シート1の揺動において、シートバック2およびシートボトム3の駆動方向を反転させる前に、シートバック2およびシートボトム3を一時的に停止させることにより、加速度変化による衝撃を緩和させることができる。また、第1駆動部60および第2駆動部70を構成するモータが加熱状態になることを抑制することができる。
【0043】
図5のSTEP2において、図2の第1駆動部60および第2駆動部70を停止させている間、図7の断面図700Aに示すように、ストライカ165の突起部165Bは、小ウエッジ163Bの近傍に位置し、大ウエッジ164の端部164Bに当接している。シート1を図6の側面図601に示す姿勢に戻すために、第1調整部6による角度の調整方向を反転させるためには、リクライナ部61を図7の断面図700Bに示す状態にする必要がある。図7の断面図700Bに示す状態は、第2状態の一例であって、ストライカ165の突起部165Aが小ウエッジ163Aの近傍に配置され、突起部165Aが大ウエッジ164の端部164Aに当接している。
【0044】
図5のSTEP1では、図8のストライカ165が周方向R3Bに沿って回動することにより、シートボトム3に対するシートバック2の角度が調整された。一方で、ストライカ165が図7の断面図700Aに示す第1状態から断面図700Bに示す第2状態まで回動している間は、ストライカ165が空走し、図2のシートボトム3に対するシートバック2の角度は変化しない。以下、ストライカ165を第1状態から第2状態へ、または、第2状態から第1状態へ移動させる作動のことを準備作動と呼称する。
【0045】
図2の第1駆動部60および第2駆動部70の駆動方向を同時に反転させた場合には、その準備作動の所要時間Tだけ、第1調整部6が調整を開始するタイミングは、第2調整部7が調整を開始するタイミングよりも遅れてしまう。準備作動の所要時間Tは、例えば、第1駆動部60のモータ軸をおよそ9回転させるのに必要な時間であって、およそ0.7秒である。このタイミングのずれは、シート1を往復作動させているユーザに違和感を与える虞がある。
【0046】
図5のSTEP3において、制御部8は、図2の第2駆動部70を停止させた状態のまま、準備作動の所要時間Tだけ、予め第1駆動部60を負転させる。これにより、第2駆動部70が停止している期間内に準備作動を完了させることができる。準備作動を行うタイミングは、第2駆動部70が停止しているSTEP3の停止期間中であればいつでもよい。停止期間の終了予定タイミングから所要時間T前に準備作動を開始することにしてもよいし、準備作動の後に第1駆動部60を再度停止させる期間を設けることにより、第1駆動部60のモータが過熱状態となることを防ぐことにしてもよい。
【0047】
図5のSTEP4において、制御部8は、図2の第1駆動部60および第2駆動部70を負転させる。STEP3において、第1調整部6の準備作動を予め完了させているため、第1調整部6が調整を開始するタイミングと、第2調整部7が調整を開始するタイミングとを一致させることができる。
【0048】
図5のSTEP4では、STEP1と反対の作動が行われる。すなわち、図2の制御部8が第1駆動部60を負転させることにより、図7の断面図700Bのストライカ165がスプリング166の付勢力に抗して方向R3Aに沿って回動する。小ウエッジ163Aが大ウエッジ164の端部164Aの内周側に押され、大ウエッジ164と共に方向R3Aに沿って回動するため、隙間S1が狭まる。また、ストライカ165の突起部165Aが方向R3Aに沿って大ウエッジ164を回動させ、端部164Bの近傍で大ウエッジ164と小ウエッジ163Bとの間に隙間を生じさせる。スプリング166の付勢力によって、小ウエッジ163Bが方向R3Aに沿って回動し、隙間S1が広がる。このとき、アッパギア161がロアギア162に対して回動し、外歯161Aと内歯162Aとの噛み合い位置が動き、シートボトム3に対するシートバック2の角度が調整される。
【0049】
STEP5では、STEP2と同様に、図2の制御部8は、第1駆動部60および第2駆動部70を停止させる。
【0050】
STEP6では、図2の制御部8は、第2駆動部70を停止させた状態のまま、準備作動の所要時間Tだけ、予め第1駆動部60を正転させる。この準備作動により、ストライカ165が第2状態から第1状態へ移動する。
【0051】
以降、図2の制御部8は、STEP1からSTEP6の処理を繰り返す。STEP6において第1調整部6の準備作動を予め完了させているため、続くSTEP1において第1調整部6による調整を開始するタイミングと、第2調整部7による調整を開始するタイミングとを一致させることができる。
【0052】
〔作用効果〕
以上のように、シート1の制御部8は、図5のSTEP4において、第1調整部6によるシートボトム3に対するシートバック2の角度の調整の方向と、第2調整部7によるベース部4に対するシートボトム3の角度の調整方向とを反転させる場合に、STEP2およびSTEP3において、第2調整部7による調整を停止させる。そして、制御部8は、STEP3の停止期間中に第1調整部6の準備作動を完了させる。そのため、第1調整部6および第2調整部7の調整方向を反転させる際に生じる第1調整部6の作動遅れを解消することができる。
【0053】
〔変形例〕
上記の実施形態では、第2調整部7は、ベース部4に対するシートボトム3の角度を調整することにしたが、それだけに限定されない。例えば、第2駆動部70等のモータの駆動方向に応じて、シートバック2およびシートボトム3を上下又は前後に移動させて、シート1の姿勢を調整することにしてもよい。また、シートバック2等に設けられたマッサージ用の機構を調整することにしてもよい。
【0054】
上記の実施形態では、図7のストライカ165は、断面図700Aに示すように、第1状態において突起部165Bが大ウエッジ164の端部164Bに当接することとした、また、断面図700Bに示すように、ストライカ165は、第2状態において突起部165Aが大ウエッジ164の端部164Aに当接しているものとした。しかし、第1状態および第2状態の定義は、これに限られない。例えば、第1状態では、ストライカ165の突起部165Bが大ウエッジ164の端部164Bに近づいていればよく、接触していることを要しない。また、第2状態では、ストライカ165の突起部165Aが大ウエッジ164の端部164Aに近づいていればよく、接触していることを要しない。
【0055】
リクライナ部61の構成は、上述したものだけに限られない。例えば、大ウエッジ164を設けなくてもよい。その場合は、一対の小ウエッジ163Aおよび163Bの径方向の厚みを増やし、一対の小ウエッジ163Aおよび163Bを第1ベアリング部161Bの外周と第2ベアリング部162Bの内周との両方に当接させることにすればよい。ストライカ165は、大ウエッジ164を介さず、突起部165Aまたは165Bが一対の小ウエッジ163Aおよび163Bに直接当接することにすればよい。このとき、ストライカ165の第1状態はストライカ165の突起部165Bが小ウエッジ163Bに当接した状態とし、第2状態はストライカ165の突起部165Aが小ウエッジ163Aに当接した状態とすればよい。
【0056】
また、ストライカ165の突起部165Aおよび165Bは、一体的に設けられてもよい。その場合、第1状態は、ストライカ165の突起部が小ウエッジ163Bの近傍に配置され、突起部が大ウエッジ164の端部164Bに当接した状態とすればよい。第2状態は、ストライカ165の突起部が小ウエッジ163Aの近傍に配置され、突起部が大ウエッジ164の端部164Aに当接した状態とすればよい。
【0057】
上記の実施形態および変形例では、第1調整部6の準備作動は、ストライカ165を第1状態から第2状態へ、または、第2状態から第1状態へ移動させる作動としたが、これに限られない。第1駆動部60の駆動方向が反転した後、第1調整部6による調整方向が実際に反転するまでの遅延につながる作動であれば、ストライカ165の移動以外の作動を含めてもよい。例えば、第1駆動部60に採用したアクチュエータの起動遅延等を含めることにしてもよい。
【0058】
上記の実施形態では、図5のSTEP1およびSTEP4にて、第1駆動部60と第2駆動部70とを、正転または負転させるものとたが、それらの駆動開始タイミングは、厳密に同時であることを要しない。シート1に着座したユーザに違和感を与えない範囲でタイミングが外れていてもよい。
【0059】
上記の実施形態では、制御部8による第1駆動部60および第2駆動部70の制御例として、側面図601に示す姿勢と側面図602に示す姿勢との間で往復作動させる制御について説明したが、本開示の制御方法の適用範囲はこれに限られない。第1駆動部60および第2駆動部70の駆動方向を略同時に反転させることを要する制御であれば、いかなる制御にも適用することができる。
【0060】
〔ソフトウェアによる実現例〕
シート1(以下、「装置」と呼ぶ)の機能は、当該装置としてコンピュータを機能させるためのプログラムであって、当該装置の各制御ブロック(特に制御部8に含まれる各部)としてコンピュータを機能させるためのプログラムにより実現することができる。
【0061】
この場合、上記装置は、上記プログラムを実行するためのハードウェアとして、少なくとも1つの制御装置(例えばプロセッサ)と少なくとも1つの記憶装置(例えばメモリ)を有するコンピュータを備えている。この制御装置と記憶装置により上記プログラムを実行することにより、上記各実施形態で説明した各機能が実現される。
【0062】
上記プログラムは、一時的ではなく、コンピュータ読み取り可能な、1または複数の記録媒体に記録されていてもよい。この記録媒体は、上記装置が備えていてもよいし、備えていなくてもよい。後者の場合、上記プログラムは、有線または無線の任意の伝送媒体を介して上記装置に供給されてもよい。
【0063】
また、上記各制御ブロックの機能の一部または全部は、論理回路により実現することも可能である。例えば、上記各制御ブロックとして機能する論理回路が形成された集積回路も本開示の範疇に含まれる。この他にも、例えば量子コンピュータにより上記各制御ブロックの機能を実現することも可能である。
【0064】
本開示は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本開示の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0065】
1 シート
2 シートバック
3 シートボトム
4 ベース部
6 第1調整部
7 第2調整部
8 制御部
40 脚部
60 第1駆動部
61 リクライナ部
70 第2駆動部
71 減速ギア
72 リンク
161 アッパギア
161A 外歯
161B 第1ベアリング部
162 ロアギア
162A 内歯
162B 第2ベアリング部
163A、163B 小ウエッジ
164 大ウエッジ
165 ストライカ
165A、165B 突起部
166 スプリング
167 シャフト
171 セクターギア
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8