(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023183291
(43)【公開日】2023-12-27
(54)【発明の名称】蓋体用積層シート、蓋体、食品用包装容器及び包装食品
(51)【国際特許分類】
B65D 65/40 20060101AFI20231220BHJP
B32B 27/10 20060101ALI20231220BHJP
【FI】
B65D65/40 D
B32B27/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022096825
(22)【出願日】2022-06-15
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100199565
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100209048
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 元嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100212705
【弁理士】
【氏名又は名称】矢頭 尚之
(74)【代理人】
【識別番号】100219542
【弁理士】
【氏名又は名称】大宅 郁治
(72)【発明者】
【氏名】竹内 礼
(72)【発明者】
【氏名】小出 晋也
(72)【発明者】
【氏名】石田 悟
(72)【発明者】
【氏名】岡村 賢吾
(72)【発明者】
【氏名】山田 幹典
【テーマコード(参考)】
3E086
4F100
【Fターム(参考)】
3E086AB01
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(57)【要約】
【課題】食品用包装容器に用いられ、紙基材を含み、開封性に優れた蓋体を提供する。
【解決手段】本発明の実施形態に係る蓋体用積層シート10は、開口が設けられている容器本体と上記開口を覆う蓋体とを備える食品用包装容器の上記蓋体に用いられる蓋体用積層シートである。蓋体用積層シート10は、耐水性を有する機能層7と、紙基材5と、支持層3と、ヒートシール層1とをこの順序で含み、上記紙基材5の質量は、蓋体用積層シート10に含まれる他の何れの層の質量よりも大きく、上記ヒートシール層は、厚さが1μm以上5.5μm以下の範囲内にあり、上記ヒートシール層の複合弾性率は190MPa以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口が設けられている容器本体と前記開口を覆う蓋体とを備える食品用包装容器の前記蓋体に用いられる蓋体用積層シートであって、耐水性を有する機能層と、紙基材と、支持層と、ヒートシール層とをこの順序で含み、前記紙基材の質量は、前記蓋体用積層シートに含まれる他の何れの層の質量よりも大きく、前記ヒートシール層は、厚さが1μm以上5.5μm以下の範囲内にあり、前記ヒートシール層の複合弾性率は190MPa以下である蓋体用積層シート。
【請求項2】
前記複合弾性率は100MPa以上である請求項1に記載の蓋体用積層シート。
【請求項3】
前記機能層と前記紙基材との間に印刷層を更に含んだ請求項1に記載の蓋体用積層シート。
【請求項4】
前記印刷層と前記ヒートシール層との間にガスバリア性を有するガスバリア層を更に含んだ請求項3に記載の蓋体用積層シート。
【請求項5】
前記ガスバリア層は、無機酸化物層及び樹脂含有層の少なくとも一方からなる請求項4に記載の蓋体用積層シート。
【請求項6】
前記蓋体用積層シートに含まれる、前記紙基材以外の層を、プラスチックからなる層と、その他の層とに分類した場合に、前記紙基材の質量は、前記プラスチックからなる層の合計質量及び前記その他の層の合計質量と比較してより大きい請求項1に記載の蓋体用積層シート。
【請求項7】
前記紙基材は、一方の面にコート層を有する塗工紙である請求項1に記載の蓋体用積層シート。
【請求項8】
前記ヒートシール層は、ガラス転移温度が20乃至55℃の範囲内にあり、エチレン-酢酸ビニル共重合体を含んだヒートシールニスからなる請求項1に記載の蓋体用積層シート。
【請求項9】
前記支持層と前記ヒートシール層との間に、厚さが0.5μm以上2.5μm以下の範囲内にあるアンカーコート層を更に含んだ請求項1に記載の蓋体用積層シート。
【請求項10】
請求項1乃至9の何れか1項に記載の蓋体用積層シートからなる蓋体。
【請求項11】
開口が設けられている容器本体と、前記開口を覆う請求項10に記載の蓋体とを備えた食品用包装容器であって、前記支持層が前記紙基材と前記食品用包装容器の内部空間との間に配置されている食品用包装容器。
【請求項12】
前記容器本体は前記開口の周りにフランジを有し、前記蓋体は前記ヒートシール層を介して前記フランジにヒートシールされている請求項11に記載の食品用包装容器。
【請求項13】
前記食品用包装容器の前記内部空間は、酸素ガス、窒素ガス及び炭酸ガスを含む混合ガスで充填されている請求項11に記載の食品用包装容器。
【請求項14】
前記食品用包装容器はチルド食品用包装容器又は冷凍食品用包装容器である請求項11に記載の食品用包装容器。
【請求項15】
請求項11に記載の食品用包装容器と、前記食品用包装容器に収容された食品とを備えた包装食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓋体用積層シート、蓋体、食品用包装容器及び包装食品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の核家族化による世帯構成の変化やライフスタイルの変化に加えて、流通及び冷凍・冷蔵技術の進歩に支えられて、コンビニエンスストアやスーパマーケットなどで販売されている調理又は加工済みチルド食品及び冷凍食品の需要が伸びている。それと同時にチルド食品及び冷凍食品を収容する包装容器の需要も伸びている。
【0003】
一方、プラスチックごみの削減が進められている中、環境負荷が小さく、再生可能な資源である紙を基材に使用した食品用包装容器の需要が高まっている。チルド食品を収容する包装容器にも、基材として紙を使用した紙製の包装容器を使用することが求められている。
【0004】
また、包装容器として、開口が設けられている容器本体と、この開口を覆う蓋体とを備えたものがある。
【0005】
例えば、特許文献1には、蓋体に用いられるフィルムとして、基材層、凝集破壊層及びヒートシール層をこの順で備えたフィルムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、食品用包装容器に用いられ、紙基材を含み、開封性に優れた蓋体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様によると、開口が設けられている容器本体と前記開口を覆う蓋体とを備える食品用包装容器の前記蓋体に用いられる蓋体用積層シートであって、耐水性を有する機能層と、紙基材と、支持層と、ヒートシール層とをこの順序で含み、前記紙基材の質量は、前記蓋体用積層シートに含まれる他の何れの層の質量よりも大きく、前記ヒートシール層は、厚さが1μm以上5.5μm以下の範囲内にあり、前記ヒートシール層の複合弾性率は190MPa以下である蓋体用積層シートが提供される。
【0009】
本発明の他の態様によると、前記複合弾性率は100MPa以上である上記態様に係る蓋体用積層シートが提供される。
【0010】
本発明の更に他の態様によると、前記機能層と前記紙基材との間に印刷層を更に含んだ上記態様の何れかに係る蓋体用積層シートが提供される。
【0011】
本発明の更に他の態様によると、前記印刷層と前記ヒートシール層との間にガスバリア性を有するガスバリア層を更に含んだ上記態様に係る蓋体用積層シートが提供される。
【0012】
本発明の更に他の態様によると、前記ガスバリア層は、無機酸化物層及び樹脂含有層の少なくとも一方からなる上記態様に係る蓋体用積層シートが提供される。
【0013】
本発明の更に他の態様によると、前記蓋体用積層シートに含まれる、前記紙基材以外の層を、プラスチックからなる層と、その他の層とに分類した場合に、前記紙基材の質量は、前記プラスチックからなる層の合計質量及び前記その他の層の合計質量と比較してより大きい上記態様の何れかに係る蓋体用積層シートが提供される。
【0014】
本発明の更に他の態様によると、前記紙基材は、一方の面にコート層を有する塗工紙である上記態様の何れかに係る蓋体用積層シートが提供される。
【0015】
本発明の更に他の態様によると、前記ヒートシール層は、ガラス転移温度が20乃至55℃の範囲内にあり、エチレン-酢酸ビニル共重合体を含んだヒートシールニスからなる上記態様の何れかに係る蓋体用積層シートが提供される。
【0016】
本発明の更に他の態様によると、前記支持層と前記ヒートシール層との間に、厚さが0.5μm以上2.5μm以下の範囲内にあるアンカーコート層を更に含んだ上記態様の何れかに係る蓋体用積層シートが提供される。
【0017】
本発明の更に他の態様によると、上記態様の何れかに係る蓋体用積層シートからなる蓋体が提供される。
【0018】
本発明の更に他の態様によると、開口が設けられている容器本体と、前記開口を覆う上記蓋体とを備えた食品用包装容器であって、前記支持層が前記紙基材と前記食品用包装容器の内部空間との間に配置されている食品用包装容器が提供される。
【0019】
本発明の更に他の態様によると、前記容器本体は前記開口の周りにフランジを有し、前記蓋体は前記ヒートシール層を介して前記フランジにヒートシールされている上記態様に係る食品用包装容器が提供される。
【0020】
本発明の更に他の態様によると、前記食品用包装容器の前記内部空間は、酸素ガス、窒素ガス及び炭酸ガスを含む混合ガスで充填されている上記態様の何れかに係る食品用包装容器が提供される。
【0021】
本発明の更に他の態様によると、前記食品用包装容器はチルド食品用包装容器又は冷凍食品用包装容器である上記態様の何れかに係る食品用包装容器が提供される。
【0022】
本発明の更に他の態様によると、上記態様の何れかに係る食品用包装容器と、前記食品用包装容器に収容された食品とを備えた包装食品が提供される。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、食品用包装容器に用いられ、紙基材を含み、開封性に優れた蓋体が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る蓋体用積層シートの一例を概略的に示す部分断面図。
【
図2】複合弾性率の測定における一工程を概略的に示す断面図。
【
図4】本発明の第3実施形態に係る食品用包装容器を概略的に示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。以下に説明する実施形態は、上記側面の何れかをより具体化したものである。なお、同様又は類似した機能を有する要素については、同一の参照符号を付し、重複する説明は省略する。
【0026】
[第1実施形態]
図1は、本発明の第1実施形態に係る蓋体用積層シートの一例を概略的に示す断面図である。
図1に示す蓋体用積層シート10は、開口が設けられている容器本体と、その開口を覆う蓋体とを備えた食品用包装容器において、蓋体に用いられるものである。即ち、蓋体用積層シート10は、それ自体が蓋体として使用されるか、又は、それから切り出された部分が蓋体として使用される蓋材である。
【0027】
蓋体用積層シート10は、ヒートシール層1と、アンカーコート層2と、支持層3と、ガスバリア層4と、紙基材5と、印刷層6と、耐水性を有する機能層(耐水性層)7とをこの順序で含んでいる。
【0028】
蓋体用積層シート10が含んでいる各層について、以下に説明する。
【0029】
(耐水性を有する機能層)
耐水性を有する機能層(耐水性層)7は、後述する包装食品において、結露等による水分や油等の容器外部の液体が蓋体に浸透するのを抑制して、この液体が印刷層6、紙基材5及びガスバリア層4等の層に到達することを抑制する層である。機能層7は、容器外部の液体が印刷層6、紙基材5及びガスバリア層4等の層に到達するのを抑制することで、例えば、これらの層の劣化、破壊又は密着性の低下を防ぐ。
【0030】
一例によれば、機能層7は、印刷層6の上に形成されることにより、蓋体用積層シート10のうち機能層7からガスバリア層4までの部分である部分積層シートの吸水度を制御する。機能層7は、以下に記載するコッブ法による蓋体用積層シートの吸水度を、20g/m2以下にする耐水性を有していることが好ましい。
【0031】
ここで、吸水度とは、JIS P8140:1998「紙及び板紙-吸水度試験方法-コッブ法」に規定された方法において、測定面を機能層7の表面とし、試験片と水との接触時間300秒とした場合に得られる吸水度である。この吸水度は、上記の通り20g/m2以下であることが好ましく、10g/m2以下であることがより好ましく、5g/m2以下であることが更に好ましい。この吸水度の下限値は、理想的には0g/m2である。一例によれば、この吸水度は1g/m2以上である。
【0032】
機能層7は、オーバープリントニス層(以下において、「OPニス層」という。)であることが好ましい。
機能層7は、一例によれば、耐水性樹脂を含有する。耐水性樹脂としては、上述した吸水度を実現可能な樹脂であれば、制限なく使用することができる。耐水性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、及び塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体等のポリオレフィン系樹脂、シリコーン系樹脂、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリエステル系樹脂、セルロース系樹脂、又はウレタン系樹脂を使用することができる。機能層7は、例えば、耐水性樹脂を含有する塗料を、印刷層6が形成された紙基材5上に公知の方法で塗工することにより得ることができる。上記塗料は、耐水性樹脂に加え、顔料、染料、硬化剤、レベリング剤、ブロッキング防止剤、及び易滑剤等の添加剤や溶剤等を更に含有することができる。
【0033】
機能層7は、十分な耐水性を維持できるように、高い耐磨耗性及び耐擦傷性を有していることが好ましい。このような観点から、機能層7の厚さ及びその材料である塗料の塗布量は、通常のOPニス層の厚さ及び通常のOPニスの塗布量より大きいことが好ましい。ここで、「塗布量」は、面積当たりの固形分質量である。
【0034】
例えば、
図1に示す蓋体用積層シート10において、機能層7を形成するための塗料は、その塗布量が0.2g/m
2以上となるように塗工することが好ましく、2.0g/m
2以上となるように塗工することがより好ましい。この塗料は、その塗布量が、例えば、10g/m
2以下となるように塗工する。機能層7の厚さは、0.2μm以上であることが好ましく、2.0μm以上であることがより好ましい。機能層7の厚さは、例えば、10μm以下である。なお、機能層7は、ラミネートによって印刷層6上に設けてもよい。
【0035】
(印刷層)
印刷層6は、蓋体用積層シート10又は蓋体を商業製品として実用に供するために形成される層である。印刷層6は、例えば、ウレタン系、アクリル系、ニトロセルロース系、ゴム系、及び塩化ビニル系等の従来から用いられているインキバインダ樹脂に各種顔料、体質顔料、可塑剤、乾燥剤、及び安定剤等の添加剤が添加されているインキにより構成される層であって、文字及び絵柄等のパターンを表示している。印刷層6の形成方法としては、例えば、オフセット印刷法、グラビア印刷法、及びシルクスクリーン印刷法等の周知の印刷方式や、ロールコート、ナイフエッジコート、及びグラビアコート等の周知の塗布方式を用いることができる。
【0036】
印刷層6の厚さは、特に限定されるものではなく、一例によれば0.1乃至5μmの範囲内にあり、他の例によれば0.2乃至1μmの範囲内にある。
【0037】
(紙基材)
蓋体用積層シート10は、紙基材5を含んでいる。紙基材5の質量は、蓋体用積層シート10が含んでいる他の何れの層の質量よりも大きい。蓋体用積層シート10の質量に占める紙基材5の質量の割合は、40%以上であることが好ましく、45%以上であることがより好ましく、50%以上であることが更に好ましく、50%超であることが更に好ましい。この割合は、一例によれば80%以下であり、他の例によれば70%以下であり、更に他の例によれば65%以下である。
【0038】
蓋体用積層シート10が含んでいる紙基材5以外の層を、プラスチックからなる層とその他の層とに分類した場合に、紙基材5の質量は、プラスチックからなる層の合計質量及びその他の層の合計質量と比較してより大きいことが好ましい。この場合、日本国では、蓋体用積層シート10を、容器包装リサイクル法上の紙として扱うことができる。
【0039】
ここで、上記の分類は、「容器包装リサイクル法 説明資料」に従う。即ち、「プラスチック」は、高分子を必須成分として含み、加工時に流動性を利用して賦形及び製品化した材料である。塗料及び接着剤は、「賦形」の概念と無関係であるため、プラスチックには含まれない。従って、
図1に示す例では、支持層3は、「プラスチックからなる層」である。また、
図1に示す例では、ヒートシール層1、アンカーコート層2、インキから形成された印刷層6、塗工によって形成された機能層7、及び接着剤からなる接着層(図示せず)は、「その他の層」である。
【0040】
一方、ガスバリア層4については以下のように場合分けして分類する。すなわち、
図1に示す例において、ガスバリア層4が紙基材5上に塗工や蒸着によって形成された層である場合、上記説明資料に沿えば「紙基材」として扱うことも可能であるが、ここでは「その他の層」として扱う。例えば、紙基材5が、その一方の面にガスバリア層4が塗工や蒸着されたバリア紙である場合、ガスバリア層4は「その他の層」である。また、ガスバリア層4が支持層3上に塗工や蒸着によって形成された層である場合、ここでは「その他の層」として扱う。また、ガスバリア層4に少なくとも押出加工等の溶融成型により作製された高分子フィルムを使用した場合は、「プラスチックからなる層」である。
【0041】
紙基材5の坪量、即ち、面積当たりの質量は、一例によれば20乃至500g/m2の範囲内にあり、他の例によれば40乃至100g/m2の範囲内にある。紙基材5の坪量を大きくすると、蓋体が硬くなり、開封性が低下しやすい。坪量を小さくすると、蓋体の強度が低下する。
【0042】
なお、紙基材5の坪量を大きくすると、蓋体用積層シート10の質量に占める紙基材5の質量の割合も大きくなる。しかしながら、紙基材5の坪量を大きくすると、紙基材5の製造や蓋体用積層シート10の廃棄に伴う二酸化炭素の排出量が増加する。
【0043】
紙基材5は、植物由来のパルプを主成分とするものであれば特に制限はない。紙基材5としては、例えば、上質紙、中質紙、微塗工紙などの塗工紙、片艶紙、晒及び未晒クラフト紙(酸性紙又は中性紙)が挙げられる。
【0044】
紙基材5は、少なくとも一方の面にコート層を有する塗工紙であることが好ましい。即ち、紙基材5は、片面塗工紙であるか又は両面塗工紙であることが好ましい。塗工紙のコート層が設けられた面は、コート層が設けられていない紙の表面と比較して、平滑性に優れている。
【0045】
紙基材5が一方の面にコート層を有する塗工紙である場合、印刷層6は、例えば、コート層上に設けることができる。この場合、紙基材5と印刷層6との間で優れた密着性を実現することができる。
【0046】
紙基材5が一方の面にコート層を有する塗工紙である場合、ガスバリア層4は、例えば、コート層上に設けることができる。こうすることにより、紙基材5に対するガスバリア層4の密着性が向上する。また、バリア性の発現に必要なガスバリア層4の厚みを低減できる。
【0047】
紙基材5として、両面にコート層を有する塗工紙を使用すると、紙基材5と印刷層6との間で優れた密着性を実現することができる。また、紙基材5とガスバリア層4との間で優れた密着性を実現することが容易になる。
【0048】
コート層は、樹脂を含んでいる。コート層が含む樹脂としては、例えば、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状(線状)低密度ポリエチレン、メタロセン触媒(シングルサイト触媒)を使用して重合させたエチレン-α-オレフィン共重合体、ポリプロピレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、アイオノマー樹脂、エチレン-アクリル酸エチル共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-メタクリル酸共重合体、エチレン-プロピレン共重合体、メチルペンテンポリマー、ポリエチレン及びポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂をアクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸、及びフマル酸等の不飽和カルボン酸で変性させた酸変性ポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ナイロン樹脂、及びスチレン-ブタジエンゴム等の熱可塑性樹脂等が挙げられる。これらの樹脂は、2以上を組み合わせて使用してもよく、2以上を共重合させて使用してもよい。コート層は、添加剤、例えば、シリカ、クレー、カオリン、炭酸カルシウム、タルク、マイカ、及び酸化チタン等の充填材を更に含有していてもよい。
【0049】
コート層の厚さは、0.5乃至50μmの範囲内にあることが好ましく、1乃至15μmの範囲内にあることがより好ましい。
【0050】
(ガスバリア層)
ガスバリア層4は、酸素バリア性及び水蒸気バリア性などのガスバリア性を有している。ガスバリア層4は、後述する包装食品において、容器外部の酸素、水蒸気、及び香気成分等のガスが容器内へ侵入するのを抑制する。これにより、ガスバリア層4は、包装食品において、内容物である食品の劣化を抑制する。また、ガスバリア層4は、包装食品において、内容物の臭気成分等が容器外部へ拡散するのを抑制する。ガスバリア層4は、一例によれば、温度30℃、相対湿度70%の雰囲気下における酸素透過度が0.1乃至100cc/m2/day/atmである。
【0051】
ガスバリア層4は、例えば、金属層、無機酸化物層、樹脂含有層、又は、それらの2以上の組み合わせである。電子レンジによるマイクロ波加熱が想定される場合、ガスバリア層4は、無機酸化物層、樹脂含有層、又は、それらの組み合わせであることが好ましい。
【0052】
ガスバリア層4は、塗工によって形成したものであってもよく、溶融成形によって形成したものであってもよく、無機酸化物を蒸着したものであってもよい。或いは、ガスバリア層4は、アルミニウム箔などの金属箔であってもよく、アルミニウムなどの金属を蒸着したものであってもよい。
【0053】
無機酸化物としては、例えば、酸化珪素、酸化ホウ素、又は、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化カリウム、酸化錫、酸化ナトリウム、酸化チタン、酸化鉛、酸化ジルコニウム、及び酸化イットリウムなどの金属酸化物を使用できる。
【0054】
樹脂含有層は、例えば、塗工で形成することができる。この場合、ポリビニルアルコール(PVA)、エチレン-ビニルアルコール共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、及びエポキシ樹脂などの樹脂を含んだ塗液を使用することができる。この塗液には、有機又は無機粒子、層状化合物、及び硬化剤などの添加剤を添加してもよい。塗工手段として、グラビアコート法、ダイコート法、ブレードコート法、ナイフコート法、バーコート法などの各種コート法を用いることができる。
【0055】
樹脂含有層を溶融成形によって形成する場合、例えば、Tダイやインフレーションなどの押出成形技術を利用することができる。溶融成形では、例えば、上記樹脂又は上記樹脂と添加剤との混合物を加熱溶融し、Tダイやインフレーション等によりガスバリア層4をフィルムやシートに加工する。このフィルム又はシートを紙基材5と貼り合わせる。貼り合わせる手段としては、溶剤系接着剤を用いるドライラミネート法、無溶剤系接着剤を用いるノンソルラミネート法や溶融樹脂を接着剤として用いるサンドラミネート法などがある。また、押出しラミネート法などにより直接紙基材上に形成することもでき、このときも必要により紙基材上に接着層を形成してもよい。
【0056】
ガスバリア層4は、支持層3の一方の面に形成することにより、紙基材5と支持層3との間に介在させてもよい。或いは、ガスバリア層4は、一方の面にガスバリア層4を有する紙基材5からなるバリア紙を使用することにより、蓋体用積層シート10の紙基材5と支持層3との間に介在させてもよい。バリア紙を構成する紙基材5は、少なくとも一方の面にコート層を有する塗工紙であってもよい。バリア紙を構成する紙基材5が一方の面のみにコート層を有する場合、ガスバリア層4はコート層上に設けられていてもよいし、コート層が形成されていない紙基材5の面上に設けられていてもよい。
【0057】
ガスバリア層4の厚さは、一例によれば0.01乃至30μmの範囲内にあり、他の例によれば0.1μm乃至12μmの範囲内にある。
【0058】
(支持層)
支持層3は、蓋体用積層シート10の強度を向上させる。
支持層3は、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリアミド、エチレン・ビニルアルコール共重合、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメチルペンテン(PMP)、ポリビニルアルコール樹脂、オレフィン樹脂、又は不飽和ポリエステル樹脂を含む。支持層3は、単層構造を有していてもよく、多層構造を有していてもよい。
【0059】
支持層3は、無延伸フィルムであってもよく、2軸延伸フィルムなどの延伸フィルムであってもよい。延伸フィルムである場合、二軸延伸フィルムを利用することが好ましい。二軸延伸により、フィルム面内の方向に対する破断強度等の諸物性の変動が1軸延伸に比べて小さくなるためである。
【0060】
支持層3は、硬化剤、フィラー、アンチブロッキング剤、及び帯電防止剤などの添加剤を更に含むことができる。また、支持層3の材料として、紫外線及び電子線などの活性エネルギー線の照射による硬化するものを使用することもできる。
【0061】
支持層3の厚さは、3乃至60μmの範囲内にあることが好ましく、10乃至30μmの範囲内にあることがより好ましい。支持層3が厚すぎると、蓋体用積層シート10の質量に占める紙基材5の質量の割合を大きくすることが難しくなる。
【0062】
支持層の形成手段としては、接着剤を介して紙基材にラミネートする手法が利用でき、溶剤系接着剤を用いるドライラミネート法、無溶剤系接着剤を用いるノンソルラミネート法や溶融樹脂を接着剤として用いるサンドラミネート法などがある。また、押出しラミネート法など支持層の組成物が溶融した状態を押出して、直接紙基材上に形成することもでき、このときも必要により紙基材上に接着層を形成してもよい。
(アンカーコート層)
アンカーコート層2は、ヒートシール層1と支持層3との間の密着性を向上させるための層である。
アンカーコート層2の材料には、これを介して接着する層の材料に応じて、必要な接着強度が得られる接着樹脂や接着剤を適宜選択して用いる。
【0063】
接着樹脂としては、例えば、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、及びメタロセン触媒を利用して重合したエチレン-αオレフィンとの共重合体などのポリエチレン;エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-アクリル酸エチル共重合体、エチレン-メタクリル酸共重合体、エチレン-メタクリル酸メチル共重合体、及びエチレン-マレイン酸共重合体などのエチレン-不飽和カルボン酸共重合体;及びアイオノマー樹脂から選択される1種又は2種以上の樹脂を使用することができる。
【0064】
接着剤は、例えば、主剤及び溶剤を含む第1組成物と、硬化剤及び溶剤を含む第2組成物とを混合してなる接着剤組成物である。この接着剤から得られる接着層は、接着剤組成物中の主剤と硬化剤とが反応して生成された硬化物を含む。
【0065】
主剤の例としては、ポリオールを挙げることができる。硬化剤の例としては、イソシアネート化合物を挙げることができる。接着剤の例としては、エーテル系の二液反応型接着剤又はエステル系の二液反応型接着剤を挙げることができる。
【0066】
エーテル系の二液反応型接着剤の硬化物は、例えば、ポリエーテルポリウレタンである。ポリエーテルポリウレタンは、主剤としてのポリエーテルポリオールと、硬化剤としてのイソシアネート化合物とが反応することにより生成する。
【0067】
エステル系の二液反応型接着剤の硬化物は、例えば、ポリエステルポリウレタン及びポリエステルである。ポリエステルポリウレタンは、主剤としてのポリエステルポリオールと、硬化剤としてのイソシアネート化合物とが反応することにより生成する。
【0068】
二液反応型接着剤では、主剤としてアクリルポリオールを用いてもよい。また、上記の接着剤組成物は、加熱による溶融や低粘度化を生じるものであれば、溶剤を含んでいなくてもよい。
【0069】
アンカーコート層2の厚さは、0.5μm以上2.5μm以下の範囲内にあることが好ましく、0.8乃至2.0μmの範囲内にあることがより好ましい。アンカーコート層2の厚さが上記の範囲内にある場合、アンカーコート層2の厚さが薄いにも関わらず、高い密着性を達成することが可能である。
【0070】
アンカーコート層2の面積当たりの乾燥質量、即ち、塗布量は、0.5乃至2.5g/m2の範囲内にあることが好ましく、0.8乃至2.0g/m2の範囲内にあることがより好ましく、1.0乃至1.8g/m2の範囲内にあることが更に好ましい。塗工手段として、グラビアコート法、ダイコート法、ブレードコート法、ナイフコート法、バーコート法などの各種コート法を用いることができる。
【0071】
(ヒートシール層)
ヒートシール層1は、後述する
図4に示す食品用包装容器20の容器本体22への蓋体21のヒートシールを可能とするものである。
【0072】
ヒートシール層1は、一例によると、ラミネートによってアンカーコート層2上に設けることができる。この場合、ヒートシール層1は、例えば、イージーピールシーラントからなる。ヒートシール層をラミネート等によりアンカーコート層と貼り合わせる手段としては、溶剤系接着剤を用いるドライラミネート法、無溶剤系接着剤を用いるノンソルラミネート法や溶融樹脂を接着剤として用いるサンドラミネート法などがある。また、ヒートシール層を溶融樹脂で押出し成形する場合には、押出しラミネート法を用いることもできる。
【0073】
ヒートシール層1は、他の例によると、塗布によってアンカーコート層2上に形成することもできる。この場合、ヒートシール層1は、例えば、ヒートシールニスからなる。ヒートシール層1がヒートシールニスからなる場合、ヒートシール層1がイージーピールシーラントからなる場合と比較して、薄いヒートシール層が得られやすい。これは、イージーピールシーラントが多層構造を有しているためである。ヒートシール層1が薄い場合、石油由来の化合物の使用量を低減しやすい。また、ヒートシールニスからなるヒートシール層1を用いた場合、イージーピールシーラントからなるヒートシール層1を用いた場合と比較して、低コスト化が可能である。ここでは、一例として、ヒートシール層1はヒートシールニスからなるとする。塗工手段として、グラビアコート法、ダイコート法、ブレードコート法、ナイフコート法、バーコート法などの各種コート法を用いることができる。
【0074】
ヒートシール層1は、例えば、エチレン-酢酸ビニル共重合体(Ethylene-vinyl acetate;EVA)、アイオノマー樹脂、又は、ポリプロピレン、直鎖状低密度ポリエチレン(Linear Low Density Polyethylene;LLDPE)及び超低密度直鎖状ポリエチレン(Very Low Density Polyethylene;VLDPE)等のポリオレフィン類を含む。ヒートシール層1は、紫外線吸収剤などの添加剤を含んでいてもよい。
【0075】
ヒートシール層1は、好ましくは、エチレン-酢酸ビニル共重合体を含む層であり、より好ましくは、エチレン-酢酸ビニル共重合体を主成分として含む層であり、更に好ましくは、エチレン-酢酸ビニル共重合体からなる層である。
【0076】
ヒートシール層1のガラス転移温度は、20乃至55℃の範囲内にあることが好ましく、25乃至50℃の範囲内にあることがより好ましい。ガラス転移温度が低すぎると、ブロッキングが生じやすい。ガラス転移温度が高すぎると蓋体を容器本体にヒートシールする際に、他の層に損傷が生じる可能性がある。
【0077】
ヒートシール層1の厚さは、1μm以上5.5μm以下の範囲内にある。ヒートシール層1の厚さは、1.2μm以上5.0μm以下の範囲内にあることが好ましく、1.5μm以上4.5μm以下の範囲内にあることがより好ましい。ヒートシール層1の厚さが1μm未満である場合、蓋体と容器本体との間で高いヒートシール強さを達成することが難しい。即ち、高い密封性を達成することが難しい。ヒートシール層1の厚さが5.5μmより大きい場合、蓋体を容器本体から剥離する際に毛羽立ち及び糸引きが生じやすい。毛羽立ち及び糸引きについては後述する。また、ヒートシール層1が厚すぎる場合、乾燥に時間がかかるため、生産性が低下しやすい。
【0078】
ヒートシール層1の面積当たりの乾燥質量、即ち、塗布量は、0.5乃至5.0g/m2の範囲内にあることが好ましく、1.0乃至4.5g/m2の範囲内にあることがより好ましく、1.5乃至4.0g/m2の範囲内にあることが更に好ましい。
【0079】
ヒートシール層1の複合弾性率は190MPa以下である。ヒートシール層1の複合弾性率は185MPa以下であることが好ましく、180MPa以下であることがより好ましい。ヒートシール層1の複合弾性率は100MPa以上であることが好ましく、115MPa以上であることがより好ましく、125MPa以上であることが更に好ましい。
【0080】
ヒートシール層1の複合弾性率が小さすぎると、ブロッキングが生じやすい。ヒートシール層1の複合弾性率が190MPaより大きい場合、蓋体を容器本体から剥離する際に、毛羽立ち及び糸引きが生じやすい。
【0081】
ヒートシール層1の複合弾性率は、100乃至190MPaの範囲内にあることが好ましく、115乃至185MPaの範囲内にあることがより好ましく、125乃至180MPaの範囲内にあることが更に好ましい。
【0082】
複合弾性率は、ナノインデンテーション法により得られる。以下、複合弾性率の測定方法について述べる。
【0083】
先ず、蓋体用積層シート10から、長さが3mmであり、幅が1mmである短冊状のシート片を切り出す。次に、得られたシート片のヒートシール層1側の表面及び機能層7側の表面を樹脂で被覆する。これにより、シート片を樹脂で包埋する。樹脂としては、紫外線硬化性樹脂及び可視光硬化性樹脂等の光硬化性樹脂を使用する。
【0084】
次に、ミクロトームを用いて、蓋体用積層シート10の厚さ方向に平行であり、且つ、幅方向に平行な方向に、樹脂で包埋したシート片を切削する。仕上げ時の条件としては、切削厚さは300nmとし、切削速度は1mm/秒とする。この処理により、断面を均一にする。また、この処理によると、ヒートシールニスが垂れたり、脱落したりすることを抑制することができる。また、切削は、紙基材5に包埋樹脂がしみ込んだ部分が露出するように行う。これにより、紙繊維のほつれ等が測定結果に干渉することを防ぐ。このようにして試験片を得る。
【0085】
次に、得られた試験片をナノインデンターに設置する。ここでは、ナノインデンターが備える圧子が、ヒートシール層1の断面に対して垂直に接触するように、試験片をナノインデンターに設置する。ナノインデンターとしては、1μNでの表面検出が可能であるものを使用する。なお、設置の際には、必要に応じて、包埋樹脂のトリミングを行っても良い。
【0086】
次に、
図2に示すように、圧子30をヒートシール層1へ押し込む。押し込む速度は100nm/秒とする。
図2は、最大深さにて、圧子30をヒートシール層1へ押し込んだ状態を概略的に示す断面図である。
図2において、hmaxは、ヒートシール層1への押し込みに対する最大深さ、即ち、最大変位を示す。Acは接触投影面積を示す。hcは接触深さを示す。圧子30を押し込む過程において、ヒートシール層1に加わる荷重及び押し込み深さをナノインデンターにより測定する。
【0087】
圧子30としては、ダイヤモンド製のバーコビッチ圧子を使用する。バーコビッチ圧子の先端は、各々が三角形状を有している3つの面からなる。各三角形は、その頂点の1つの位置が他の2つの三角形の各々の頂点の1つの位置と一致している。また、これら三角形は、上記の頂点から伸びた二辺が成す角度が互いに等しい。即ち、これら3つの面は、略正三角錐を形成している。ここで使用する圧子30は、各三角形の上記角度が115°である。また、圧子30の中心線と上記の三角形の1つを含む平面とがなす角度は65.27°である。ナノインデンターは、表面検出荷重が1μNに達してから、圧子30がヒートシール層1の表面を更に200nm押し込むように設定する。このように設定した場合、実際の押し込み深さは約260nmとなる。最大深さでの保持時間は2秒とする。
【0088】
次に、圧子30をヒートシール層1から引き抜く。引き抜く速度は100nm/秒とする。この過程においても、ヒートシール層1に加わる荷重及び押し込み深さをナノインデンターにより測定する。なお、
図2において、Pmaxは除荷曲線の最大荷重を示している。
【0089】
上述した動作によると、
図3に示すグラフが得られる。
図3は、荷重変位曲線を示すグラフである。
図3における縦軸は、ヒートシール層1に加わった荷重であり、横軸は、圧子30の押し込み深さ、即ち、変位である。
図3において、荷重が0Nであることは、圧子30がヒートシール層1と接していない状態を示す。また、変位0の位置は、ヒートシール層1に加わった荷重が0Nから増加し始めた位置である。
図3において、荷重が0μNから始まり約13μNで終わる曲線は、圧子30をヒートシール層1に押し込む過程における、荷重と変位との関係を示す。荷重が約9μNから始まり約-1μNで終わる曲線は、除荷曲線である。除荷曲線は、圧子30をヒートシール層1から引き抜く過程における、荷重と変位との関係を示す。
【0090】
次に、Oliver-Pharr法を用いた解析により、接触深さhcを求める。
【0091】
接触深さhcは、以下の式(1)によって求めることができる。
【0092】
【0093】
ここで、εは、圧子形状に関する定数である。バーコビッチ圧子では、この定数は0.75である。除荷曲線の最大荷重Pmax及び最大変位hmaxは、
図3に示すグラフに基づいて求めることができる。Sは、接触剛性である。接触剛性Sは、
図3における除荷曲線のうち、最大荷重に対して60乃至95%の範囲を、以下の式(2)の関数でフィッティングしてなる近似曲線の、引き抜き直後の傾きである。ここで、Pは荷重であり、hは押し込み深さである。また、A、h
f及びmは、フィッティングの際のフィッティングパラメーターである。
【0094】
【0095】
次に、接触投影面積Acを、圧子の形状及び接触深さhcに基づいて求める。接触投影面積Acは、以下の式(3)に示すように、接触深さhcの関数で表すことができる。なお、式(3)は、圧子形状の影響を補正するために、補正項と呼ばれるC1乃至C5を含む項を含んでいる。C1乃至C5は、溶融石英を試験片として用いて、最大荷重20μN乃至10mNの測定を行い、各最大荷重における複合弾性率が溶融石英の複合弾性率Erである69.6GPaとなるように定めた値である。
【0096】
【0097】
次に、接触投影面積Ac及び接触剛性Sに基づいて、複合弾性率Erを求める。複合弾性率Erは、以下の式(4)によって求めることができる。
【0098】
【0099】
複合弾性率Erは、1つの試験片につき複数箇所、例えば、25箇所測定し、得られた複合弾性率Erの平均値を複合弾性率として得る。
以上、複合弾性率の測定方法について述べた。
【0100】
(接着層)
蓋体用積層シート10は、1以上の接着層を更に含むことができる。
例えば、蓋体用積層シート10は、ガスバリア層4と紙基材5との間に、それらを接着する接着層を含んでいてもよい。或いは、蓋体用積層シート10は、支持層3とガスバリア層4との間に、それらを接着する接着層を含んでいてもよい。或いは、蓋体用積層シート10は、上述した接着層の2層以上を含んでいてもよい。
【0101】
接着層の材料には、これを介して接着する層の材料に応じて、必要な接着強度が得られる接着樹脂や接着剤を適宜選択して用いる。接着剤層には、例えば、アンカーコート層2に用いることができる材料と同じ材料を用いることができる。塗工手段として、グラビアコート法、ダイコート法、ブレードコート法、ナイフコート法、バーコート法などの各種コート法を用いることができる。
【0102】
上記の蓋体用積層シート10の厚さは、40乃至170μmの範囲内にあることが好ましく、45乃至160μmの範囲内にあることがより好ましい。
【0103】
この蓋体用積層シート10は、面積当たりの質量が、45乃至160g/m2の範囲内にあることが好ましく、50乃至150g/m2の範囲内にあることがより好ましい。この値を小さくすると、蓋体の強度が低下する。この値を大きくすると、蓋体が硬くなり、開封性が低下しやすい。また、この値を大きくすると、コストが高くなるのに加え、製造及び排気に伴う二酸化炭素の排出量が増加する。
【0104】
ところで、保管時における内容物の劣化及び運搬時における蓋体の剥離を抑制するために、蓋体と容器本体との間には高いヒートシール強度が必要である。しかしながら、ヒートシール強度を高めると、開封時において、蓋体及び容器本体に加わる負荷が大きくなる。この負荷が大きすぎると、開封時における不具合が生じやすくなる。例えば、開封時において、蓋体の一部が容器本体に残留することにより、毛羽立ち又は糸引きが生じることがある。
【0105】
毛羽立ちとは、開封時において、ヒートシール層1等の蓋体を構成する層が膜状に容器本体に残留することである。糸引きとは、開封時において、ヒートシール層1等の蓋体を構成する層が糸状に容器本体に残留することである。
【0106】
一例によると、毛羽立ち及び糸引きによって、蓋体の一部が容器本体の開口に突き出ることがある。この場合、内容物が取り出しにくく、蓋体の一部が内容物中に混入することがある。このような包装容器は、外観が好ましくないため、消費者の印象悪化につながるおそれがある。
【0107】
毛羽立ち及び糸引きは、包装容器のうちヒートシールされている部分と、ヒートシールされていない部分との境界にて生じる。毛羽立ち及び糸引きは、開封時において、ヒートシール層1等の蓋体の一部が上記の境界において瞬時に破断せずに、膜状又は糸状に伸展した後に破断することで生じると考えられる。このため、毛羽立ち及び糸引きを抑制するためには、例えば、ヒートシール層1を伸展する前に破断させることが考えられる。
【0108】
また、特に、層間剥離が生じやすい蓋体においては、ヒートシール層の破断が生じにくいと考えられる。このため、毛羽立ち及び糸引きを抑制するためには、蓋体を構成する隣り合う2つの層の間が高い密着性を有していることが好ましいと考えられる。
【0109】
上述した蓋体用積層シート10は、ヒートシール層1の厚さが上記の範囲内にあり、且つ、ヒートシール層1の複合弾性率が上記の範囲内にあるため、ヒートシール層1が破断しやすい。このため、上述した蓋体用積層シート10によると毛羽立ちや糸引きが生じにくい。従って、上述した蓋体用積層シート10は開封性に優れている。
【0110】
また、上述した蓋体用積層シート10は、容器本体と蓋体との間で高いヒートシール強度を達成し得るため、密封性にも優れている。
【0111】
また、上述した蓋体用積層シート10において、紙基材5の質量は、蓋体用積層シート10に含まれる他の何れの層の質量よりも大きいため、石油由来の化合物の使用量を小さくすることができる。このため、上述した蓋体用積層シート10によると、環境負荷を低減することができる。
【0112】
また、この蓋体用積層シート10は、開封性に優れていることに加え、高いガスバリア性を有している。更に、この蓋体用積層シート10は、ガスバリア性、特には酸素バリア性の低下を生じ難い。これについて、以下に説明する。
【0113】
食品用包装容器には、充填された食品の酸化を抑えるため、外部からの酸素の侵入を防ぐ酸素バリア性に優れていることが望まれることがある。そのような食品用包装容器では、その蓋体にも酸素バリア性が求められる。
【0114】
紙を基材とする蓋体への酸素等に対するガスバリア性の付与には、例えば紙基材上に、ガスバリア層として、アルミニウム等の金属からなる金属箔や金属蒸着フィルムを設けることが多い。しかしながら、蓋体が金属層を含んだ食品用包装容器には、内容物充填後の金属探知機による金属異物の混入検査ができない、金属を含むため紙として焼却処理できず、古紙としても再利用できない、電子レンジにより加熱調理されることが想定されるチルド食品等の包装容器には使用できない、といった問題がある。
【0115】
上記の通り、ガスバリア層には、金属層を含まないものもある。そのようなガスバリア層としては、ポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール共重合体、ポリ塩化ビニリデン、ナイロンMXD-6などのポリアミド、及び、ポリアクリロニトリル等の樹脂を含んだものが使用されることが多い。金属層レスの蓋体は、上記の問題を回避し得る。
【0116】
チルド食品の流通及び保管温度は、食品別に最適な温度帯が設定されるが、一般には0乃至10℃の範囲内である。食品用包装容器にチルド食品を収容してなる包装食品は、その製造後、様々な流通経路を通って消費者の手に渡る。この過程において、例えば、消費者が店舗で包装食品を購入してから自宅の冷蔵庫に保管するまでの間や、消費者が包装食品を冷蔵庫から出してから調理を開始するまでの間、包装食品は常温環境下に置かれる。
【0117】
本発明者らは、蓋体が紙基材とガスバリア層とを含んだ食品用包装容器にチルド食品を収容してなる包装食品、特にはガスバリア層が樹脂含有層からなる包装食品は、冷蔵状態から常温環境下に晒された最初の数時間の間に、蓋体のガスバリア性、特には酸素バリア性が大きく低下することを見出した。これは、蓋体の質量に占める紙基材の質量の割合が大きい場合に顕著である。
【0118】
本発明者らは、上記の問題は、蓋体表面に生じる結露に起因するものであることをつきとめている。即ち、冷蔵環境下にあった包装物品が常温環境に晒されることにより、蓋体の外側表面に結露が生じ、その水分がガスバリア層に到達してガスバリア層が損傷を受ける。その結果、蓋体の酸素バリア性が低下する。
【0119】
上記の蓋体用積層シート10は、耐水性を有している機能層7を含んでいる。それ故、この蓋体用積層シート10を蓋材として使用した包装食品では、結露によって蓋体の外側表面に生じた水分はガスバリア層4に到達し難い。従って、この蓋体用積層シート10を蓋材として使用した包装食品では、蓋体の外側表面での結露に起因したガスバリア層4の損傷は生じ難く、酸素バリア性の低下を生じ難い。
【0120】
以上、蓋体用積層シート10について述べた。
なお、
図1では、紙基材5と支持層3との間にガスバリア層4を設けているが、ガスバリア層4は、機能層7とヒートシール層1との間の何れの位置に設けてもよい。例えば、ガスバリア層4は、印刷層6とヒートシール層1との間の何れの位置に設けてもよい。また、アンカーコート層2、ガスバリア層4及び印刷層6は省略してもよい。
【0121】
[第2実施形態]
本発明の第2実施形態に係る蓋体は、上述した第1実施形態に係る蓋体用積層シートから得られる蓋体である。第2実施形態に係る蓋体の一例は、後で
図4を参照しながら説明する蓋体21である。本実施形態に係る蓋体は、蓋体用積層シート10に関連して説明した通り、開封性に優れている。
【0122】
[第3実施形態]
図4は、本発明の第3実施形態に係る食品用包装容器を概略的に示す断面図である。
図4に示す食品用包装容器20は、開口が設けられている容器本体22と、上記開口を覆う蓋体21とを備えている。
【0123】
容器本体22は、例えば、有底筒状である。容器本体22は、ここでは、底部と胴部(又は側壁部)とフランジ22aとを備えている。フランジ22aは、胴部の上方開口の位置で外側へ向けて広がっている。
【0124】
容器本体22は、例えば、ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂を含む。容器本体22は、そのガスバリア性を高めるために、エチレン-ビニルアルコール共重合体等の成分を更に含んでいてもよい。また、容器本体22は、添加剤、例えば、加工性、意匠性、及び化学的耐久性の向上を目的とした添加剤を更に含んでいてもよい。
【0125】
容器本体22は、単層構造を有していてもよく、多層構造を有していてもよい。この多層構造は、二層構造であってもよく、3以上の層を含むものであってもよい。後者の場合、多層構造は、ガスバリア層、例えば上述したエチレン-ビニルアルコール共重合体等の成分を含んだ層を中間層として含んでいてもよい。
【0126】
容器本体22には、紙を用いることもできる。内容物が液状物を含む場合、容器本体22には、紙基材と、これに液状物が浸み込むのを防止するべく、その内容物側の面に設けられた、樹脂等からなる層とを含んだ多層構造を採用することができる。紙基材を含んだ容器本体22の材料としては、例えば、紙葉、紙粉、パルプ、又は古紙を使用することができる。容器本体22への成形には、紙パックの製造において行うような紙葉を含むシートの折り曲げや貼り付けによる方法、金型を使用したシートのプレス成型、及びパルプモールドなどの汎用技術を利用可能である。容器本体22に紙を用いることで、食品用包装容器20の全体で、その製造及び廃棄に伴う二酸化炭素の排出量の低減を図ることが可能となり、それ故、環境への負荷が小さくなる。
【0127】
蓋体21は、蓋体用積層シート10、又は、これを切り出したものである。蓋体21は、容器本体22内への内容物を収容後に、ヒートシール層1を介してフランジ22aにヒートシールされる。このヒートシールにおいて、シール温度、シール圧力、及びシール時間は、適宜設定することができる。
【0128】
[第4実施形態]
本発明の第4実施形態に係る包装食品は、上述した第3実施形態に係る食品用包装容器に食品を収容してなるものである。収容される食品は、特に限定されるものではないが、チルド食品又は冷凍食品であることが好ましい。チルド食品及び冷凍食品は、例えば、調理又は加工済みの食品である。チルド食品及び冷凍食品は、例えば、焼き魚、煮魚、又は総菜である。
【0129】
この包装食品では、蓋体21と容器本体22との間のヒートシール強さは、5N/15mm以上であることが好ましい。ここで、ヒートシール強さは、JIS Z0238:1998「ヒートシール軟包装袋及び半剛性容器の試験方法」に規定される方法で得られる値である。
【0130】
この包装食品の製造においては、蓋体21を容器本体22へヒートシールする前に、例えば、容器本体22内へ内容物を収容した後であって、蓋体21を容器本体22へヒートシールする前に、容器本体22内のガスを公知の方法で置換してもよい。例えば、容器本体22内に不活性ガスを充填してもよい。容器内のガス組成を適切に変更することで、細菌の増殖を抑えて品質保持期間を長くしたり、酸化防止により食品の風味や色彩等を長く維持したり、ビタミンの損失を防止したりすることができる。置換ガスは、内容物である食品の種類に応じて適宜選択する。置換ガスとしては、酸素ガス、窒素ガス及び炭酸ガスの混合ガスが好適に用いられる。
【0131】
この包装食品が含んでいる蓋体は、開封性に優れている。それ故、この包装食品は、開封時における毛羽立ち及び糸引き等が生じ難い。
【実施例0132】
以下に、本発明に関連して行った試験について記載する。
<1>蓋体用積層シートの製造
(例1)
図1に示す蓋体用積層シート10を、以下の方法により製造した。
先ず、紙基材5として、坪量が52.3g/m
2の片面塗工紙を準備した。この片面塗工紙は、面積当たりの質量が37.3g/m
2である模造紙に、ポリビニルアルコール(PVA)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、シリカ及び層状ケイ酸塩を主成分として含有し、主な溶剤として水を含有した塗液を塗工することによって得た。得られたコート層は、固形分の面積当たりの質量が15g/m
2であった。
【0133】
次に、紙基材5のコート層が形成されている面に、グラビア多色印刷機を使用して、印刷層6及び機能層7を順次形成した。印刷層6は、通常の印刷インキを使用して形成した。印刷インキの塗布量は1.0g/m2とした。機能層7は、ニトロセルロース系樹脂とポリエチレン系の粒状ワックスとを主成分とするOPニス剤を使用して形成した。OPニス剤の塗布量は0.6g/m2とした。
【0134】
次に、支持層3として、厚さが12μmであり、面積当たりの質量が16.8g/m2であるポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを準備した。この支持層3の一方の面に無機酸化物膜を形成し、その後、ポリビニルアルコール(PVA)を主成分として含有する塗液を塗工することにより、ガスバリア層4を形成した。これによりガスバリアフィルムを得た。このガスバリアフィルムの面積当たりの質量は17.0乃至17.4g/m2の範囲内にあった。
【0135】
次に、紙基材5と印刷層6と機能層7とからなる積層体に、ドライラミネートによって上記のガスバリアフィルムを貼り合わせた。ドライラミネートに当たっては、先ず、上記ガスバリアフィルムのガスバリア層4の面に、グラビアコータを使用してドライラミネート剤を塗布して、接着層を形成した。ドライラミネート剤としては、ポリエステル系主剤とイソシアネート系硬化剤を含む二液反応型の接着剤とを使用した。ドライラミネート剤の塗布量は3.0g/m2とした。次いで、この接着層を間に挟んで、ガスバリア層4が紙基材5と向き合うように、上記積層体と上記ガスバリアフィルムとを貼り合わせた。
【0136】
その後、支持層3とガスバリア層4と紙基材5と印刷層6と機能層7とを含んだ積層体の支持層3の上に、グラビア印刷法によりヒートシールニスAを塗布して、ヒートシール層1を形成した。ヒートシールニスAは、乾燥状態において、面積当たりの質量が3.2g/m2となるように塗布した。ヒートシールニスAは、エチレン-酢酸ビニル共重合体を主成分として含む水系エマルジョンである。ヒートシールニスAに含まれる溶媒は、水及びイソプロピルアルコール(IPA)である。また、ヒートシールニスAに含まれる固形分のガラス転移温度は35℃である。また、ヒートシールニスAの融点は70乃至100℃の範囲内にある。
以上のようにして、蓋体用積層シートを得た。
【0137】
(例2)
以下の点を除き、例1と同様の方法により、蓋体用積層シートを製造した。即ち、本例では、ヒートシールニスAの代わりに、ヒートシールニスCを使用し、ヒートシールニスCを、乾燥状態における面積当たりの質量が3.3g/m2となるように塗布した。ヒートシールニスCは、上述したヒートシールニスAとヒートシールニスBと混合物である。この混合物において、ヒートシールニスAとヒートシールニスBとの固形分の質量比は7:3である。ヒートシールニスBは、エチレン-酢酸ビニル共重合体を主成分として含む水系エマルジョンである。ヒートシールニスBに含まれる溶媒は、水及びイソプロピルアルコール(IPA)である。また、ヒートシールニスBに含まれる固形分のガラス転移温度は50℃である。また、ヒートシールニスBの融点は70乃至100℃の範囲内にある。
【0138】
(例3)
以下の点を除き、例1と同様の方法により、蓋体用積層シートを製造した。即ち、本例では、ヒートシールニスAの代わりにヒートシールニスDを使用し、ヒートシールニスDを、乾燥状態における面積当たりの質量が3.3g/m2となるように塗布し、ヒートシール層1と支持層3との間にアンカーコート層2を設けた。ヒートシールニスDは、上述したヒートシールニスAとヒートシールニスBと混合物である。この混合物において、ヒートシールニスAとヒートシールニスBとの固形分の質量比は3:7である。アンカーコート層2は、支持層3の上に、グラビア印刷法によって、エステル系樹脂を主成分として含有し、イソシアネート硬化剤を更に含有した溶剤系の塗工液を、乾燥状態における面積当たりの質量が1.5g/m2となるように塗布することで形成した。アンカーコート層2の厚さは1.3μmであった。
【0139】
(例4)
以下の点を除き、例1と同様の方法により、蓋体用積層シートを製造した。即ち、本例では、ヒートシールニスAの代わりにヒートシールニスBを使用し、ヒートシールニスBを、乾燥状態における面積当たりの質量が2.5g/m2となるように塗布し、ヒートシール層1と支持層3との間に上述したアンカーコート層2を設けた。
【0140】
(例5)
以下の点を除き、例1と同様の方法により、蓋体用積層シートを製造した。即ち、本例では、ヒートシールニスAの代わりにヒートシールニスEを使用し、ヒートシールニスEを、乾燥状態における面積当たりの質量が3.7g/m2となるように塗布し、ヒートシール層1と支持層3との間に上述したアンカーコート層2を設けた。ヒートシールニスEは、エチレン-酢酸ビニル共重合体を主成分として含む水系エマルジョンである。ヒートシールニスEに含まれる溶媒は、水及びイソプロピルアルコール(IPA)である。また、ヒートシールニスEに含まれる固形分のガラス転移温度は52℃である。また、ヒートシールニスEの融点は80乃至110℃の範囲内にある。
【0141】
(例6)
以下の点を除き、例1と同様の方法により、蓋体用積層シートを製造した。即ち、本例では、ヒートシールニスAの乾燥状態における面積当たりの質量を3.2g/m2から4.5g/m2に変更した。
【0142】
(例7)
以下の点を除き、例1と同様の方法により、蓋体用積層シートを製造した。即ち、本例では、ヒートシールニスAの代わりにヒートシールニスCを使用し、ヒートシールニスCを、乾燥状態における面積当たりの質量が4.2g/m2となるように塗布した。
【0143】
(例8)
以下の点を除き、例1と同様の方法により、蓋体用積層シートを製造した。即ち、本例では、ヒートシールニスAの代わりにヒートシールニスDを使用し、ヒートシールニスDを、乾燥状態における面積当たりの質量が4.1g/m2となるように塗布し、ヒートシール層1と支持層3との間に上述したアンカーコート層2を設けた。
【0144】
(例9)
以下の点を除き、例1と同様の方法により、蓋体用積層シートを製造した。即ち、本例では、ヒートシールニスAの代わりにヒートシールニスBを使用し、ヒートシールニスBを、乾燥状態における面積当たりの質量が4.1g/m2となるように塗布し、ヒートシール層1と支持層3との間に上述したアンカーコート層2を設けた。
【0145】
(例10)
以下の点を除き、例1と同様の方法により、蓋体用積層シートを製造した。即ち、本例では、ヒートシールニスAの乾燥状態における面積当たりの質量を3.2g/m2から1.1g/m2に変更した。
【0146】
(例11)
以下の点を除き、例1と同様の方法により、蓋体用積層シートを製造した。即ち、本例では、ヒートシールニスAの代わりにヒートシールニスBを使用し、ヒートシールニスBを、乾燥状態における面積当たりの質量が1.1g/m2となるように塗布した。
【0147】
(例12)
以下の点を除き、例1と同様の方法により、蓋体用積層シートを製造した。即ち、本例では、ヒートシールニスAの乾燥状態における面積当たりの質量を3.2g/m2から4.5g/m2に変更し、印刷層を省略した。
【0148】
(比較例1)
以下の点を除き、例1と同様の方法により、蓋体用積層シートを製造した。即ち、本比較例では、ヒートシールニスAの乾燥状態における面積当たりの質量を3.2g/m2から5.4g/m2に変更した。
【0149】
(比較例2)
以下の点を除き、例1と同様の方法により、蓋体用積層シートを製造した。即ち、本例では、ヒートシールニスAの代わりにヒートシールニスBを使用し、ヒートシールニスBを、乾燥状態における面積当たりの質量が5.4g/m2となるように塗布し、ヒートシール層1と支持層3との間に上述したアンカーコート層2を設けた。
【0150】
(比較例3)
以下の点を除き、例1と同様の方法により、蓋体用積層シートを製造した。即ち、本比較例では、ヒートシールニスAの乾燥状態における面積当たりの質量を3.2g/m2から0.4g/m2に変更した。
【0151】
(比較例4)
以下の点を除き、例1と同様の方法により、蓋体用積層シートを製造した。即ち、本例では、ヒートシールニスAの代わりにヒートシールニスEを使用し、ヒートシールニスEを、乾燥状態における面積当たりの質量が5.6g/m2となるように塗布し、ヒートシール層1と支持層3との間に上述したアンカーコート層2を設けた。
【0152】
(比較例5)
以下の点を除き、例1と同様の方法により、蓋体用積層シートを製造した。即ち、本例では、ヒートシールニスAの代わりにヒートシールニスEを使用し、ヒートシールニスEを、乾燥状態における面積当たりの質量が2.3g/m2となるように塗布し、ヒートシール層1と支持層3との間に上述したアンカーコート層2を設けた。
【0153】
<2>評価
(複合弾性率の測定)
例1乃至12及び比較例1乃至5に係る蓋体用積層シートについて、上述した方法により、複合弾性率を測定した。ナノインデンターとしては、TI Premier(ブルカージャパン株式会社製)を使用した。また、シート片を包埋する樹脂としては、可視光硬化性樹脂(商品名「アロニックス(登録商標)LCR D-800」(東亜合成社製))を使用した。この樹脂の硬化には、ハロゲンランプ光源装置(商品名「KTX-100R」、株式会社ケンコー・トキナー製)を用いた。この光源装置の最大光量にて1.5分間樹脂に光を照射することで、樹脂を硬化させた。また、ミクロトームとしては、ウルトラミクロトーム(商品名「Leica EM UC7」、ライカマイクロシステムズ株式会社製)にダイヤモンドナイフを取り付けたものを用いた。また、測定の際に圧子が断面に垂直に侵入するように、切削は、シート片を、これを固定するためのホルダーに予め固定した上で行った。
【0154】
(アンカーコート層の厚さの測定)
先ず、例1乃至12及び比較例1乃至5に係る蓋体用積層シートの各々から、長さが5乃至10mmの範囲内にある試験片を切り出した。次に、得られた試験片の最表面を紫外線硬化性樹脂で被覆した。次に、ミクロトームを用いて、蓋体用積層シートの厚さ方向に、樹脂で被覆された蓋体用積層シート10を切削した。次に、走査電子顕微鏡(SEM)を用いて、得られた断面において任意の5箇所を撮像した。次に、得られた5つの画像の各々において、任意の5箇所についてアンカーコート層の厚さを測定し、得られた値の平均値をアンカーコート層の厚さとした。なお、厚さの測定には、得られた画像に記載された尺度を利用した。
【0155】
(ヒートシール層の厚さの測定)
例1乃至12及び比較例1乃至5に係る蓋体用積層シートの各々について、ヒートシール層の厚さを、上述したアンカーコート層の厚さの測定方法と同様の方法によって測定した。
【0156】
(ヒートシール強さの測定)
例1乃至12及び比較例1乃至5に係る蓋体用積層シートについて、上述した方法により、樹脂シートに対するヒートシール(HS)強さを測定した。
【0157】
ここでは、樹脂シートとして、一対のポリプロピレン層と、それらの間に介在した、ポリプロピレンと4質量%のエチレン-ビニルアルコール共重合体との混合物からなる層とを含んだ三層構造のシートを使用した。
【0158】
各蓋体用積層シートと樹脂シートとは、テスター産業社製TP-701-Bヒートシールテスターを使用してヒートシールした。ここで使用したヒートシールテスターは、シールバーの幅が5mmであった。シールバーの長さ方向は、MDに対して垂直にした。ヒートシールは、各ヒートシール位置で、蓋体用積層シートと樹脂シートとの積層体へ、210℃の温度及び0.2MPaの圧力を2秒間加えることにより行った。このようにして部分的にヒートシールした各積層体から、幅が15mmの短冊形状を有し、長さ方向がMDに平行であり、一端側ではヒートシールされておらず、他端側で30乃至50mmの長さに亘ってヒートシールされた3つの試験片を切り出した。
【0159】
また、これとは別に、各蓋体用積層シートと樹脂シートとを、シールバーの長さ方向をTDに対して垂直にしたこと以外は上記と同様の方法によりヒートシールした。このようにして部分的にヒートシールした各積層体から、幅が15mmの短冊形状を有し、長さ方向がTDに平行であり、一端側ではヒートシールされておらず、他端側で30乃至50mmの長さに亘ってヒートシールされた3つの試験片を切り出した。
【0160】
次に、各試験片のヒートシール強さを、上述した方法により測定した。具体的には、ヒートシール強さの測定には、テンシロン万能試験機を使用した。各試験片のヒートシールされていない蓋体用積層シート部及び樹脂シート部を試験機の掴み具に掴ませ、それら掴み具を互いから離れる方向へ移動させた。それら掴み具の相対移動速度、即ち、剥離速度は300mm/分とした。各試験片について、その破断を生じるまでの間に加えた引張荷重の最大値を記録した。つかみの間隔は50mmとした。
【0161】
蓋体用積層シート毎に、長さ方向がMDに平行な3つの試験片について得られた引張荷重の最大値を算術平均することによって、MDにおけるヒートシール強さを得た。また、蓋体用積層シート毎に、長さ方向がTDに平行な3つの試験片について得られた引張荷重の最大値を算術平均することによって、TDにおけるヒートシール強さを得た。
【0162】
(開封試験)
例1乃至12及び比較例1乃至5に係る蓋体用積層シートから、蓋体を切り出した。これら蓋体を用いて、
図4に示す食品用包装容器20を製造した。ここでは、容器本体22として、ヒートシール強さの測定に使用した樹脂シートをトレイ形状へ成形してなるものを使用した。容器本体22は、長辺方向の寸法が120mmであり、短辺方向の寸法が90mmである略長方形状の開口を有しており、高さが30mmであった。蓋体21のフランジ22aへのヒートシールは、フランジ22aの形状に沿うように作製した、幅が5mmのシールバーを使用し、210℃の温度及び0.2MPaの圧力を1.5秒間加えることにより行った。
【0163】
次に、各食品用包装容器20において、任意の10個について、容器本体22の角から蓋体21を手で剥離した。その後、毛羽立ちや糸引きが生じたか確認した。また、紙剥けが生じたかについても確認した。ここで、「紙剥け」とは、蓋体を容器本体から剥離した場合に、紙基材の凝集破壊が生じて、蓋体の一部が容器本体に残留することである。
【0164】
(吸水度)
例1乃至12及び比較例1乃至5に係る蓋体用積層シートについて、上述した方法により吸水度を測定した。
【0165】
上記の測定及び試験の結果を、以下の表1及び表2に纏める。
【0166】
【0167】
【0168】
上記表1及び表2において、「質量」は、面積当たりの質量である。「質量割合」と表記された欄における、「紙」、「プラスチック」及び「その他」の分類は、「容器包装リサイクル法 説明資料」に従うものであり、上掲で説明した通りである。「差分」と表記された欄には、支持層の破断強度から蓋体用積層シートと樹脂シートとの間のヒートシール強さを引いた値を記載している。
【0169】
上記表1及び表2の「開封試験」と表記された欄において、「A」は、視認可能な毛羽立ち及び糸引きが生じなかったことを示している。「B」は、視認可能な毛羽立ち及び糸引きのうち少なくとも一方が局所的に生じたものの、毛羽立ち及び糸引きによる、蓋体の一部の容器本体の開口への突き出しは生じなかったことを示している。「C」は、毛羽立ち及び糸引きのうち少なくとも一方を生じ、毛羽立ち及び糸引きによる、蓋体の一部の容器本体の開口への突き出しが生じたことを示している。「C」の場合、毛羽立ち及び糸引きが内容物に混入する虞がある。
【0170】
上記表1及び表2の「ヒートシール強さ」と表記された欄において、「A」は、MD及びTDにおけるヒートシール強さが何れも5N/15mm以上であったことを示している。「C」は、MD及びTDにおけるヒートシール強さのうち少なくとも一方が5N/15mm未満であったことを示している。
【0171】
上記表1及び表2に示すように、例1乃至12に係る蓋体用積層シートを使用した場合、毛羽立ち及び糸引きが生じなかった。これに対し、比較例1、2、4及び5に係る蓋体用積層シートを使用した場合、毛羽立ち及び糸引きのうち少なくとも一方が生じた。
【0172】
また、上記表1及び表2に示すように、例1乃至12並びに比較例1、2、4及び5に係る蓋体用積層シートは、高いヒートシール強さを達成した。即ち、高い密封性を達成することができた。一方、比較例3に係る蓋体用積層シートは、高いヒートシール強さを達成することができなかった。
【0173】
また、例1乃至12及び比較例1乃至5に係る蓋体用積層シートを使用した場合、紙剥けは生じなかった。また、例1乃至12及び比較例1乃至5に係る蓋体用積層シートの吸水度は何れも20g/m2以下であった。
【0174】
<3>酸素バリア性の評価
<参考例>
紙基材としての片艶紙(坪量65g/m2)の非艶面の主面上に、ポリビニルアルコールを主成分とする塗布膜(塗布量13g/m2、厚さ10μm)からなるガスバリア層が積層された積層シートを用意した。
【0175】
紙基材のガスバリア層が形成された主面とは反対側の主面上に、印刷インクをグラビア印刷法により塗布量1g/m2で塗布し、印刷層を積層した。印刷層の上に、ニトロセルロース系樹脂を主成分とするOPニス剤をグラビアコート法により塗布し、塗布量10g/m2(乾燥状態)のOPニス層からなる機能層を積層した。
【0176】
次いで、ガスバリア層の上に、ポリエステル系主剤及び脂肪族イソシアネート系硬化剤を含む接着剤組成物をグラビアコート法により塗布し、塗布量2g/m2(乾燥状態)の接着層を積層した。接着層の上に、ヒートシール層として厚さ30μm、27g/m2の直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)を主成分とする無延伸フィルムを積層することにより、蓋体用積層シートを得た。
【0177】
<比較例6>
参考例に対し、OPニス層からなる機能層を設けなかったこと以外は参考例1と同様の方法により蓋体用積層シートを製造した。
【0178】
(酸素透過度測定用の試験体の作製)
上記で得た参考例と比較例6の各蓋体用積層シートを、4cm×4cmの形状に切断したものを試験片とした。参考例と比較例6の各々について試験片を2つずつ用意した。中央部に直径25mmの孔を有するアルミフィルム2枚で試験片を挟んで、2つの孔が重なる配置となるよう接着剤で固定し積層することにより、蓋体用積層シートを挟持するアルミの積層体(以下において、「アルミ積層体」とも言う。)を得た。このアルミ積層体を、後述する酸素透過度の測定試験において、アルミニウム製のカップの蓋体として用いた。
【0179】
アルミニウム製のカップは、JAPAN TAPPI 紙パルプ試験方法 No.7:2000 紙及び板紙-透湿度試験方法 B法に規定されているアルミニウム製透湿カップに準じたカップを用意した。このカップの開口部に、上記試験片を挟持したアルミ積層体を載せることにより蓋をし、締め具で固定することにより、以下に説明する試験で使用する環境保管用の試験体を合計4個作製した。
【0180】
(試験体の環境保管と酸素透過度の測定試験)
上記で得た各試験体を、まず温度5℃、湿度フリーの冷蔵環境下で12時間保管した。次いで、参考例1及び比較例6の各々における2つの試験体のうち一方を、温度40℃、相対湿度90%の高温高湿環境下で1時間の環境保管を実施することにより、カップの外部側に位置する試験体の表面に強制的に結露を生じさせた。次いで、酸素透過度測定前の静置調整として、各試験体を温度24℃、相対湿度55%の環境下に24時間保管した後、酸素透過度を測定した(条件2)。また、参考例及び比較例6の各々における他方の試験体については、上記冷蔵環境下で保管した後、上記高温高湿環境下での環境保管を実施することなく、上記静置調整を実施した後、酸素透過度を測定した(条件1)。
【0181】
酸素透過度の測定は、MOCON社製酸素透過率測定装置OX-TRAN2/20、温度30℃、相対湿度70%の条件により行った。結果を表3に示す。酸素透過度が低いほど酸素バリア性に優れることを示す。
【0182】
【0183】
表3に示される測定値より、ガスバリア層及び機能層の両方を備えた蓋体用積層シートを用いた蓋体は、冷蔵環境下から高温高湿環境下に晒されても結露によるバリア性能の低下が制御され、酸素バリア性能の低下が飛躍的に改善されていることがわかる。消費者が店舗でチルド食品が収容された包装物品を購入してから自宅の冷蔵庫に保管するまでの時間や、消費者が包装物品を冷蔵庫から出して調理するまでの時間が通常1時間程度であることに鑑みると、ガスバリア層及び機能層の両方を備えた蓋体用積層シートを用いた蓋体は、チルド食品用包装容器における蓋体として極めて有効であることがわかる。
【0184】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々に変形することが可能である。また、各実施形態は適宜組み合わせて実施してもよく、その場合組み合わせた効果が得られる。更に、上記実施形態には種々の発明が含まれており、開示される複数の構成要件から選択された組み合わせにより種々の発明が抽出され得る。例えば、実施形態に示される全構成要件からいくつかの構成要件が削除されても、課題が解決でき、効果が得られる場合には、この構成要件が削除された構成が発明として抽出され得る。
1…ヒートシール層、2…アンカーコート層、3…支持層、4…ガスバリア層、5…紙基材、6…印刷層、7…耐水性を有する機能層、10…蓋体用積層シート、20…食品用包装容器、21…蓋体、22…容器本体、22a…フランジ。