IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日立オートモティブシステムズ株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-電力変換装置 図1
  • 特開-電力変換装置 図2
  • 特開-電力変換装置 図3
  • 特開-電力変換装置 図4
  • 特開-電力変換装置 図5
  • 特開-電力変換装置 図6
  • 特開-電力変換装置 図7
  • 特開-電力変換装置 図8
  • 特開-電力変換装置 図9
  • 特開-電力変換装置 図10
  • 特開-電力変換装置 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023183301
(43)【公開日】2023-12-27
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20231220BHJP
【FI】
H02M7/48 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022096841
(22)【出願日】2022-06-15
(71)【出願人】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】弁理士法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】楠川 順平
(72)【発明者】
【氏名】井出 英一
【テーマコード(参考)】
5H770
【Fターム(参考)】
5H770AA21
5H770PA22
5H770PA42
5H770QA01
5H770QA06
5H770QA08
5H770QA28
(57)【要約】
【課題】絶縁信頼性の確保と放熱性の向上と小型化を並立させた電力変換装置を提供する。
【解決手段】
電力変換装置は、半導体装置と、配線基板と、を備え、前記配線基板は貫通孔を有し、前記半導体装置のヒートスプレッダおよび前記絶縁樹脂の一部が、前記貫通孔を通って前記配線基板の他方面に突出するように配置され、前記半導体装置は、フランジ部を有し、前記貫通孔の内周面と前記貫通孔内の前記半導体装置の前記絶縁樹脂との間の隙間、または、前記配線基板の前記一方面と前記フランジ部との間の隙間の少なくとも一方には、第1の樹脂材が充填され、前記配線基板の一方面には、前記外部端子と前記電力配線層との接続部を少なくとも覆う第2の樹脂材が塗布されている。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体素子およびヒートスプレッダが絶縁樹脂で封止され、前記絶縁樹脂から突出する外部端子を有する半導体装置と、
前記半導体装置が実装され、前記外部端子と接続される電力配線層を有する配線基板と、を備え、
前記配線基板は、貫通孔を有し、
前記半導体装置は、前記配線基板の一方面において、前記外部端子と前記電力配線層とが接続されるとともに、前記半導体装置の前記ヒートスプレッダおよび前記絶縁樹脂の一部が、前記貫通孔を通って前記配線基板の他方面に突出するように配置され、
前記半導体装置は、前記配線基板の前記一方面における前記貫通孔の開口縁を覆うようにして、前記配線基板の前記一方面と対向または接触するフランジ部を有し、
前記貫通孔の内周面と前記貫通孔内の前記半導体装置の前記絶縁樹脂との間の隙間、または、前記配線基板の前記一方面と前記フランジ部との間の隙間の少なくとも一方には、第1の樹脂材が充填され、
前記配線基板の一方面には、前記外部端子と前記電力配線層との接続部を少なくとも覆う第2の樹脂材が塗布されている
電力変換装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電力変換装置であって、
前記第2の樹脂材は、前記第1の樹脂材よりも溶融状態での流動性が高い樹脂材である
電力変換装置。
【請求項3】
請求項1に記載の電力変換装置であって、
前記貫通孔を通って前記配線基板の他方面に前記絶縁樹脂が突出する方向に従って、前記絶縁樹脂と前記貫通孔との隙間が広くなる
電力変換装置。
【請求項4】
請求項1に記載の電力変換装置であって、
前記ヒートスプレッダは、前記配線基板の他方面に突出する第1の面が、前記配線基板の他方面よりも外側に配置され、
第1の樹脂材または第2の樹脂材は、前記第1の面には形成されない
電力変換装置。
【請求項5】
請求項1に記載の電力変換装置であって、
前記第1の樹脂材および前記第2の樹脂材にはフィラーが含まれ、前記第1の樹脂材の前記フィラーの含有量は、前記第2の樹脂材の前記フィラーの含有量よりも多い
電力変換装置。
【請求項6】
請求項1から6のいずれか一項に記載の電力変換装置であって、
前記配線基板は、前記第2の樹脂材が塗布されている面の端部に樹脂枠を形成し、
前記第1の樹脂材および前記第2の樹脂材は、前記樹脂枠の形成に用いられる樹脂材および前記半導体装置の前記絶縁樹脂よりも低弾性の樹脂である
電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年において資源の有効活用、省エネルギー化の推進、地球温暖化ガスの排出を抑制する観点から、パワー半導体素子を用いた電力変換装置が民生用、自動車用、鉄道用、産業用、インフラ用などの各分野で幅広く利用されている。例えば、自動車用であれば、電気自動車(EV)や、モータ駆動とエンジン駆動を組み合わせたハイブリッドカー(HEV)などが代表的である。エンジンの駆動力にモータの駆動力を補助して走行するHEVに対し、EVでは純粋に電気の力であるモータの駆動力のみで走行する。そのため、EV普及のためには、より大きな電力を扱うことができる電力変換装置が必要になる。
【0003】
EVで使用される電力変換装置は、例えば航続距離の拡大が課題であり、搭載するバッテリーの容量を大きくする必要がある。この容量を大きくすると、バッテリーのサイズが拡大して重量が増大するため、バッテリーの技術開発としては、高エネルギー密度化による小型軽量での大容量化が進められている。また、バッテリーに限らず、電力変換装置の体積と重量が大きくなると、自動車の電費性能(一定の電力に対する走行可能距離)と、走る、曲がる、止まるといった自動車の基本性能である走行性能が低下する。そのため、駆動システム全体、主にモータ、電力変換装置での小型軽量化も求められている。
【0004】
電力変換装置で主要となる部品は、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)やSiC-MOSFET(Silicon Carbide-Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)等のパワー半導体素子からなるパワー半導体装置(パワーモジュール)である。パワー半導体装置は、通常の電子回路に比較し、高電圧及び大電流を扱う電子部品となる。電流を大きくする場合は、電流の二乗に比例することで損失が増加し、発熱量が増大する。この発熱を低減するためには、電力変換装置に使用される導体量を増やして導体抵抗を下げ、回路部品をプリント基板に実装しつつ、回路部品の発熱を冷却する必要がある。
【0005】
例えば、特許文献1では、筐体に開口部を設け、筐体の開口部にヒートスプレッダを配置させることによって、電子部品の発熱を冷却している半導体装置の構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第5898575号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の技術では、プリント基板の開口部に実装するパワーモジュールの端子間について、樹脂コーティングで絶縁する構造を採用する場合、基板と端子間の隙間への樹脂充填の際に樹脂漏れやボイドが形成されることで、絶縁信頼性の確保が課題になっていた。これを鑑みて本発明では、絶縁信頼性の確保と放熱性の向上と小型化を並立させた電力変換装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
電力変換装置は、半導体素子およびヒートスプレッダが絶縁樹脂で封止され、前記絶縁樹脂から突出する外部端子を有する半導体装置と、前記半導体装置が実装され、前記外部端子と接続される電力配線層を有する配線基板と、を備え、前記配線基板は、貫通孔を有し、前記半導体装置は、前記配線基板の一方面において、前記外部端子と前記電力配線層とが接続されるとともに、前記半導体装置の前記ヒートスプレッダおよび前記絶縁樹脂の一部が、前記貫通孔を通って前記配線基板の他方面に突出するように配置され、前記半導体装置は、前記配線基板の前記一方面における前記貫通孔の開口縁を覆うようにして、前記配線基板の前記一方面と対向または接触するフランジ部を有し、前記貫通孔の内周面と前記貫通孔内の前記半導体装置の前記絶縁樹脂との間の隙間、または、前記配線基板の前記一方面と前記フランジ部との間の隙間の少なくとも一方には、第1の樹脂材が充填され、前記配線基板の一方面には、前記外部端子と前記電力配線層との接続部を少なくとも覆う第2の樹脂材が塗布されている。
【発明の効果】
【0009】
絶縁信頼性の確保と放熱性の向上と小型化を並立させた電力変換装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】従来技術を用いた電力変換装置の一例を示す平面図と断面図である。
図2】従来技術を用いた電力変換装置についての第1の課題を示す図である。
図3】従来技術を用いた電力変換装置についての第2の課題を示す図である。
図4】本発明の一実施形態を表す、電力変換装置の図である。
図5】本発明の電力変換装置に使用されるパワー半導体装置の断面図である。
図6】本発明の電力変換装置に使用されるプリント配線基板の断面図である。
図7】本発明の変形例を示す図である。
図8】本発明の電力変換装置の製造工程を示す図である。
図9】本発明の変形例の電力変換装置の製造工程を示す図である。
図10】本発明の一実施形態、変形例、図2および図3に示した従来技術例、それぞれの電力変換装置について、部分放電試験結果を示す図である。
図11】本発明の電力変換装置の上下に冷却器を備えた構成を示す断面図である。
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。以下の記載および図面は、本発明を説明するための例示であって、説明の明確化のため、適宜、省略および簡略化がなされている。本発明は、他の種々の形態でも実施する事が可能である。特に限定しない限り、各構成要素は単数でも複数でも構わない。
【0012】
図面において示す各構成要素の位置、大きさ、形状、範囲などは、発明の理解を容易にするため、実際の位置、大きさ、形状、範囲などを表していない場合がある。このため、本発明は、必ずしも、図面に開示された位置、大きさ、形状、範囲などに限定されない。
【0013】
(本発明の一実施形態と装置の全体構成)
図1
図1(a)は従来の電力変換装置の断面図、図1(b)は従来の電力変換装置の上方視点からの平面図である。電力変換装置100は、パワー半導体装置10(パワーモジュール)、プリント配線基板20(以下基板20)、バスバ、キャパシタ等で構成される。なお、基板20の内層の配線層は省略し図示はしていない。
【0014】
電力変換装置100は、バッテリーの直流電圧をパワー半導体素子11のスイッチングにより擬似的な交流電圧に変換し、この交流電圧によってモータを高効率に駆動する装置である。パワー半導体素子11は、例えばIGBT等を含む。パワー半導体素子11での大電流によるスイッチングによってパワーモジュールは発熱し、また、基板20、バスバ、キャパシタも、各材料の電気的な抵抗成分による損失でそれぞれに流れる電流の二乗の積に比例して発熱する。
【0015】
従来の電力変換装置100は、貫通孔を設けた基板20に、パワー半導体装置10(以下半導体装置10)を配置している。半導体装置10と基板20との間には隙間41が形成されている。半導体装置10は、パワー半導体素子11およびヒートスプレッダ12,13が絶縁樹脂16で封止されており、また、絶縁樹脂16から突出する外部端子15を有している。半導体素子11とヒートスプレッダ13とは、接合材14によって接合されている。半導体装置10が実装される基板20の両端部には、非流動性の樹脂材によって樹脂枠32が形成される。基板20は、外部端子15と接続される回路導体である電力配線層22と絶縁層21とスルーホール23を有する。外部端子15は、基板20に形成されているスルーホール23に挿入され、溶融されているはんだ等の接合材30がスルーホール23内に充填されることによって、スルーホール23内に接合固定される。これにより、基板20の電力配線層22と半導体装置10は、外部端子15を介して電気的に接続される。
【0016】
半導体装置10は、その出力容量にもよるが、小さいもので数Aから大きいもので数100Aの電流を扱う。特に、数100Aの大電流を扱う半導体装置10の場合、外部端子15間の幅は、数mmから数10mm広くなる。このような電力変換装置100と半導体装置10の小型化を図るには、半導体装置10の端子15間の絶縁距離の縮小と、それに対応して、基板20の配線22間の絶縁距離を小さくする必要がある。なお、絶縁距離に関しては、IEC60664-1等の規格があり、樹脂封止されていない外部端子15間および配線22間は、この規格に沿った空間距離と沿面距離が必要になる。絶縁距離をこれよりもさらに小さくするには、外部端子15及び配線22に樹脂封止が必要となる。
【0017】
図2
従来の半導体装置100に樹脂封止を行った場合の課題点をあげる。電力変換装置100Cは、従来の電力変換装置100において、基板20と半導体装置10の外部端子15に樹脂材34を塗布したものである。なお、樹脂材34は、25℃での粘度が0.5Pa・sのものを採用し、基板20の配線層22および外部端子15を覆うように塗布した。その後、所定の条件で樹脂材34を硬化させているが、樹脂材34の塗布時または硬化時に、基板20と半導体装置10の隙間から樹脂材34が流れ落ち、樹脂材の漏れ35が発生している。このように所定の基準よりも樹脂材34の粘度が低い場合には、外部端子15を樹脂材34で覆うことができないという課題が発生する。
【0018】
図3
また、従来の電力変換装置100に樹脂封止を行った場合の別の課題点をあげる。電力変換装置100Dは、従来の電力変換装置100において、基板20と半導体装置10の外部端子15に樹脂材34を塗布したものであるが、樹脂材34は図2よりも粘度が高い25℃での粘度が30Pa・sのものを採用した。その後、所定の条件で樹脂材34を硬化させているが、図2とは異なり、基板20と半導体装置10の隙間からの樹脂漏れは防止できているものの、外部端子15と基板20との隙間に樹脂34が充填されない空間(ボイド)36が形成されている。
【0019】
このように、所定の基準よりも樹脂材34の粘度が高い場合にボイド36が形成されると、端子15間および端子15と配線22との間において、高電圧が印加された時、樹脂34とボイド26の比誘電率の関係からボイド26に高い電界がかかる。電界が高くなるとボイド26で部分放電が発生し、かつ樹脂材34においては部分放電劣化が進行し、端子15間および端子15と配線22との間で絶縁破壊が生じる可能性がある。
【0020】
図4図5図6
図4(a)が本発明の一実施形態に係る、電力変換装置100Aの断面図、図4(b)が電力変換装置100Aの上方平面図、図4(c)が下方から見た平面図である。従来の電力変換装置100C、100Dで生じた課題を解消するため、本発明の電力変換装置100Aにおいて、下記の構成を採用する。
【0021】
半導体装置10は、基板20の一方面において、外部端子15と電力配線層22とが接続されるとともに、半導体装置10のヒートスプレッダ13および絶縁樹脂16の一部が、貫通孔24(図6)を通って基板20の他方面に突出するように配置されている。基板20に設けられた貫通孔24に挿入された際に形成されるヒートスプレッダ12と基板20の隙間は、半導体装置10の絶縁樹脂16に傾斜を持たせることで、ヒートスプレッダ12の表面(樹脂材31に覆われていない面)に近い隙間41aほど広く、基板20に近い隙間41bほど狭くなっている。つまり、貫通孔24を通って基板20の他方面に半導体装置10の絶縁樹脂16が突出する方向に従って、絶縁樹脂16と貫通孔24との隙間は広くなっている。このようにすることで、第1の樹脂材31を充填しやすくなり、基板20に近い方を狭くすることで樹脂の充填性を高める。
【0022】
さらに、半導体装置10は、基板20の一方面における貫通孔24の開口縁を覆うようにして、基板20の一方面と対向または接触するフランジ部16aを有している(図5)。貫通孔24の内周面と貫通孔24内の半導体装置10の絶縁樹脂16との間の隙間、または、基板20の一方面とフランジ部16aとの間の隙間の少なくとも一方には、第1の樹脂材31が充填される。また、基板20の一方面には、外部端子15と電力配線層22との接続部を少なくとも覆う第2の樹脂材33が塗布されている。
【0023】
第2の樹脂材33は、第1の樹脂材31よりも溶融状態での流動性が高い樹脂材を用いる。また、基板20は、第2の樹脂材33が塗布されている面(基板20の一方面)の端部に樹脂枠32を形成し、第1の樹脂材31および第2の樹脂材33は、樹脂枠32の形成に用いられる樹脂材および半導体装置10の絶縁樹脂16よりもやわらかい低弾性の樹脂を用いる。第2の樹脂材33で用いられる流動性が高い樹脂材とはシリコーン、エポキシなどである。このようにすることで、樹脂材31,33と基板20との間、樹脂材31、33と半導体装置の絶縁樹脂16との間に形成されるクラックを抑制できる。
【0024】
以上のような構成にすることによって、半導体装置10と基板20との隙間41からの樹脂材の漏れ35は発生せずに、そのまま樹脂材(第2の樹脂材33)を硬化でき、外部端子15に第2の樹脂材33を覆うことができる電力変換装置100Aを提供できる。なお、第1の樹脂材31や第2の樹脂材33の硬化は、そのまま室温にて放置硬化させる方法(室温硬化型の樹脂材)を用いてもよいし、120℃の熱をかけて硬化させる方法(加熱硬化型の樹脂材)を用いてもよい。
【0025】
また、第2の樹脂材33に第1の樹脂材31よりも低い粘度の樹脂材を用いることで、幅広く設けられた外部端子15と基板20との隙間にも、ボイド36を発生させることなく、樹脂を充填できるようになる。これにより、高電圧印加においても部分放電の発生を防止でき、絶縁信頼性が確保できる。このようにして、絶縁信頼性が高くなれば、絶縁距離をさらに小さくすることができ、電力変換装置100Aの小型化が可能となる。
【0026】
(変形例)
図7
本発明の変形例である電力変換装置100Bは、基板20の一方面と半導体装置10のフランジ部16a(図5参照)との間の隙間部分のみに第1の樹脂材31が形成され、残りの基板20に対しての樹脂材の塗布は、第2の樹脂材33が用いられる。このように基板20に対しての第1の樹脂材31と第2の樹脂材33の塗布配分を変えても、樹脂漏れ35やボイド36の形成を防ぐことができる。
【0027】
(電力変換装置の作成方法)
図8
図8(a)~図8(e)を用いて電力変換装置100Aの作成方法を説明する。まず、電力変換装置100Aに必要な半導体装置10と基板20の作成方法について述べる。なお、それぞれ工程を説明する図は省略し、搭載部品の説明は図5図6を参照する。
【0028】
まず、半導体装置10は、ヒートスプレッダ12上に接合材(はんだ)14を介してパワー半導体素子11を接合し、パワー半導体素子11のゲート電極と外部端子15との間を、ワイヤー(図では省略し図示せず)を用いて電気的に接合している。次に、パワー半導体素子11のヒートスプレッダ12と接合した面の反対側の面に、接合材14を介してヒートスプレッダ13を接合する。その後、ヒートスプレッダ12,13は、パワー半導体素子11と接合されている面とは反対側の面をそれぞれ露出させた状態で、パワー半導体素子11とヒートスプレッダ12,13はトランスファーモールドによってそれぞれ絶縁樹脂16で封止される。最後に外部端子15を折り曲げて半導体装置10を完成させている。ヒートスプレッダ12と外部端子15はリードフレームで一体成型されている。
【0029】
つづいて、配線層を4層有する多層プリント配線基板20を準備する。なお、電力変換装置100Aで取り扱う電流は数100Aであるため、基板20の配線層22には銅箔200μm(一般的で電子機器で使用されている銅箔よりも厚いもの)を採用した。基板20の絶縁層21には、ガラス繊維強化エポキシ樹脂基材が使用されている。基板20の各配線層22は、電力変換装置100の回路となるように予め銅箔がエッチングされている。基板20には、半導体装置10が配置される箇所として貫通孔24と、外部端子15を挿入するためのスルーホール23が形成され、基板20を完成させた。
【0030】
完成した半導体装置10と基板20を踏まえて、電力変換装置100Aの作成方法を説明する。図8(a)では、基板20の貫通孔24に半導体装置10のヒートスプレッダ12側が挿入側(下側)になるように配置する。半導体装置10の外部端子15を基板20のスルーホール23に挿入した。次に図8(b)において、フローはんだ装置でスルーホール内に溶融したはんだ30を流し込み、スルーホール23と外部端子15を電気的に接合した。次に図8(c)において、半導体装置10と基板20を裏返し、25℃での粘度が30Pa・sの第1の樹脂材31を半導体装置10と基板20との隙間に充填させ、基板20の配線層22を覆うように第1の樹脂材31を塗布して、所定の条件で第1の樹脂材31を硬化させた。ここで、基板20の他方面に突出している半導体装置10のヒートスプレッダ12の表面(第1の面12a)は、第1の樹脂材31に覆われないように、基板20の他方面よりも外側に配置される。このようにすることで、第1の樹脂材31または第2の樹脂材33は、第1の面12aには形成されない。
【0031】
次に、図8(d)において、半導体装置10と基板20を反転して図8(b)と同じ状態にして、樹脂材31を塗布していない基板20の面の端部に、非流動性の樹脂材で樹脂枠32を形成した。そして、図8(e)において、25℃での粘度が0.5Pa・sの第2の樹脂材33で基板20の配線層22を覆う高さまで塗布し、所定の硬化条件で樹脂材33を硬化させ、電力変換装置100Aを完成させた。なお、第1の樹脂材31および第2の樹脂材33には、含有量の異なるフィラーを含ませることで、同じ樹脂材を用いて同様の作成方法を実施することができる。このとき、第1の樹脂材31は第2の樹脂材33よりも粘度を高くする必要があるため、第1の樹脂材31のフィラーの含有量は、第2の樹脂材33のフィラーの含有量よりも多い。フィラーは例えば、アルミ、シリカなどの粉成分であり、含有量が多いほど粘度が高くなる。
【0032】
(変形例の電力変換装置の製造方法)
図9
図9(a)~図9(h)を用いて電力変換装置100Bの作成方法を説明する。なお、電力変換装置100Bについて、半導体装置10と基板20の製造方法は、図8で説明した電力変換装置100Aと同様である。図9(a)において、基板20の貫通孔24周囲において半導体装置10のフランジ部16aと対向する表面に、25℃での粘度が100Pa・sの第1の樹脂材31を塗布した。続いて、図9(b)において、基板20の貫通孔24に半導体装置10の下部のヒートスプレッダ12側を下側になるように配置するとともに、半導体装置10の外部端子15を基板20のスルーホール23に挿入し、第1の樹脂材31を所定の条件で硬化することで、半導体装置10と基板20を固定し、かつ半導体装置10の基板20の隙間を塞いだ。
【0033】
次に図9(c)において、フローはんだ装置でスルーホール23内に溶融したはんだ30を流し込み、スルーホール23と外部端子15を電気的に接合した。次に図9(d)において、基板20の一方の面(第1の樹脂材31が形成されており、半導体装置10のフランジ部16aが接する面)の端部に非流動性の樹脂材で樹脂枠32を形成した。図9(e)において、25℃での粘度が0.5Pa・sの第2の樹脂材33で基板20の配線層22を覆う高さまで塗布し、所定の硬化条件で樹脂材33を硬化させた。図9(f)において、半導体装置10と基板20を反転させ、基板20の他方の面の端部にも非流動性の樹脂材で樹脂枠32を形成した。図8(g)において、25℃での粘度が0.5Pa・sの第2の樹脂材33で基板20の配線層22を覆う高さまで塗布し、所定の硬化条件で樹脂材33を硬化させた。図9(h)において、樹脂材33を硬化後、半導体装置10と基板20を再び180度反転させて、電力変換装置100Bを完成させた。
【0034】
図10
本発明による電力変換装置100A、変形例の電力変換装置100B、従来の電力変換装置100C、100D、それぞれについての絶縁信頼性の効果を検証するため、部分放電試験を実施した結果を、以下で説明する。
【0035】
部分放電試験は、部分放電測定装置を用いて、半導体装置10の外部端子15間に交流電圧を印加し、交流電圧を0Vから徐々に上昇させたときに、それぞれのサンプルにおいて部分放電が発生する電圧(部分放電開始電圧)を測定した。なお、半導体装置10の外部端子15は、基板20のスルーホール23に挿入されてはんだで接合されているので、基板20の配線22にも電圧が印加されることになる。なお、部分放電が発生したと判断する閾値は10pCとし、部分放電の試験電圧は最大2.5kVrmsとした。
【0036】
図10(a)は、電力変換装置100Aについての試験結果である。試験結果では、半導体装置10の外部端子15の上部、外部端子15と基板20の隙間にもボイド36なく第2の樹脂材33を充填することができたため、部分放電は発生しなかった。また、試験電圧の最大の2.5kVrmsにおいても部分放電の発生は無く、また絶縁破壊もなかった。
【0037】
図10(b)は、電力変換装置100Bについての試験結果である。試験結果では、電力変換装置100Aと同様に、半導体装置10の外部端子15の上部、外部端子15と基板20の隙間にもボイド36なく第2の樹脂材33を充填することができたため、部分放電は発生しなかった。また、試験電圧の最大の2.5kVrmsにおいても部分放電の発生は無く、また絶縁破壊もなかった。
【0038】
図10(c)は、電力変換装置100Cについての試験結果である。試験結果では、印加電圧1.7kVrmsを超えた電圧で電荷量1000pC以上の放電が検知された。また、外部端子15間が絶縁破壊(フラッシオーバー)した。これは、半導体装置10と基板20との隙間から樹脂材34が漏れたことで外部端子15が露出された状態であるために、外部端子15間で沿面放電が発生し、絶縁破壊したことが原因であると考えられる。
【0039】
図10(d)は、電力変換装置100Dについての試験結果である。試験結果では、印加電圧1.7kVrmsを超えた電圧で部分放電が発生し始め、1.8kVrmsで部分放電発生の閾値10pCを超えた。その後、電圧を上昇させ2.0kVrmsで放電電荷量は約40pCとなり、試験電圧の最大の2.5kVrmsでも放電電荷量は約40pCを維持して、絶縁破壊は発生しなかった。これは、外部端子15の上部が樹脂材で覆われていることから、外部端子15間の絶縁破壊にはならなかったが、外部端子15下にボイド36が形成されていたために、部分放電が発生したものと考える。たしかに、短時間の絶縁試験では絶縁破壊することはないが、実際の使用において高電圧が長期に亘って印加されると、樹脂材または基板20の絶縁層21が部分放電劣化を受けて、最悪の場合は絶縁破壊へと至る可能性が考えられる。
【0040】
上記のように、従来の電力変換装置100C、100Dに比べて、本発明の電力変換装置100A、100Bは、絶縁信頼性に優れている。このように、本発明によって、電力変換装置100A、100Bは、外部端子15間の絶縁距離、基板20の配線22と配線間の絶縁距離をより小さくすることができる。これにより、主回路インダクタンスの低減と小型化に貢献できる。なお、耐圧の高いパワー半導体素子11を半導体装置10、電力変換装置100A,100Bに適用してもよい。
【0041】
図11
本発明の電力変換装置100Aの両面に冷却器51を設け、電力変換装置100Aと冷却器51との間には、電気絶縁性放熱剤52を設けた。このようにすることで、本発明の電力変換装置100Aを、EVやHEV等の車両へ搭載できる。
【0042】
以上説明した本発明の一実施形態によれば、以下の作用効果を奏する。
【0043】
(1)電力変換装置100Aは、半導体素子11およびヒートスプレッダ12,13が絶縁樹脂16で封止され、絶縁樹脂16から突出する外部端子15を有する半導体装置10と、半導体装置10が実装され、外部端子15と接続される電力配線層22を有する配線基板20と、を備えている。配線基板20は、貫通孔24を有し、半導体装置10は、配線基板20の一方面において、外部端子15と電力配線層22とが接続されるとともに、半導体装置10のヒートスプレッダ12および絶縁樹脂16の一部が、貫通孔24を通って配線基板20の他方面に突出するように配置されている。半導体装置10は、配線基板20の一方面における貫通孔24の開口縁を覆うようにして、配線基板20の一方面と対向または接触するフランジ部16aを有している。貫通孔24の内周面と貫通孔24内の半導体装置10の絶縁樹脂16との間の隙間41、または、配線基板20の一方面とフランジ部16aとの間の隙間の少なくとも一方には、第1の樹脂材31が充填される。配線基板20の一方面には、外部端子15と電力配線層22との接続部を少なくとも覆う第2の樹脂材33が塗布されている。このようにしたことで、絶縁信頼性の確保と放熱性の向上と小型化を並立させた電力変換装置100Aを提供できる。
【0044】
(2)第2の樹脂材33は、第1の樹脂材31よりも溶融状態での流動性が高い樹脂材である。このようにしたことで、基板20と半導体装置10のフランジ部16aの隙間から樹脂漏れが発生しない。
【0045】
(3)貫通孔24を通って配線基板20の他方面に絶縁樹脂16が突出する方向に従って、絶縁樹脂16と貫通孔24との隙間が広くなる。このようにしたことで、基板20と半導体装置10のフランジ部16aの隙間から樹脂漏れが発生しない。
【0046】
(4)ヒートスプレッダ12は、配線基板20の他方面に突出する第1の面12aが、配線基板20の他方面よりも外側に配置され、第1の樹脂材31または第2の樹脂材33は、第1の面12aには形成されない。このようにしたことで、ヒートスプレッダ表面12aへの樹脂材の形成を防止する。
【0047】
(5)第1の樹脂材31および第2の樹脂材33にはフィラーが含まれ、第1の樹脂材31のフィラーの含有量は、第2の樹脂材33のフィラーの含有量よりも多い。このようにしたことで、第1の樹脂材31および第2の樹脂材33に同じ樹脂の材料を使っていても、フィラーの含有量で粘度を分けることができる。
【0048】
(6)配線基板20は、第2の樹脂材33が塗布されている面の端部に樹脂枠32を形成し、第1の樹脂材31および第2の樹脂材33は、樹脂枠32の形成に用いられる樹脂材および半導体装置10の絶縁樹脂16よりも低弾性の樹脂である。このようにしたことで、樹脂材31,33と基板20との間、あるいは樹脂材31、33と半導体装置の絶縁樹脂16との間に形成されるクラックを抑制できる。
【0049】
なお、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内で様々な変形や他の構成を組み合わせることができる。また本発明は、上記の実施形態で説明した全ての構成を備えるものに限定されず、その構成の一部を削除したものも含まれる。
【符号の説明】
【0050】
10:パワー半導体装置
11:パワー半導体素子
12:ヒートスプレッダ(IGBTのコレクタ側)
12a:第1の面
13:ヒートスプレッダ(IGBTのエミッタ側)
14:接合材
15:外部端子
16:絶縁樹脂
16a:フランジ部
20:プリント配線基板
21:プリント配線基板の絶縁層
22:プリント配線基板の回路導体(電力配線層)
23:スルーホール
24:プリント配線基板の貫通孔
30:接合材(はんだ)
31:第1の樹脂材
32:樹脂枠
33:第2の樹脂材
34:樹脂材(従来)
35:樹脂材の漏れ
36:樹脂の未充填部(ボイド)
41:パワー半導体装置とプリント配線基板の隙間
41a:第1の面に近い隙間
41b:基板に近い隙間
51:冷却器
52:電気絶縁性放熱材
100:従来の電力変換装置
100A:本発明の電力変換装置
100B:変形例の電力変換装置
100C:第1の課題を抱える電力変換装置
100D:第2の課題を抱える電力変換装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11