(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023183304
(43)【公開日】2023-12-27
(54)【発明の名称】層別沈下量測定装置及び層別沈下量の測定方法
(51)【国際特許分類】
G01S 13/90 20060101AFI20231220BHJP
E02D 1/00 20060101ALI20231220BHJP
【FI】
G01S13/90 127
E02D1/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022096845
(22)【出願日】2022-06-15
(71)【出願人】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】谷川 友浩
(72)【発明者】
【氏名】濱田 純次
(72)【発明者】
【氏名】井上 修作
(72)【発明者】
【氏名】関 光雄
【テーマコード(参考)】
2D043
5J070
【Fターム(参考)】
2D043AA00
2D043AB00
2D043AC03
2D043BA10
5J070AC03
5J070AE07
5J070AF08
5J070BE02
(57)【要約】
【課題】長期に亘って地層別の経時的な沈下量を測定する。
【解決手段】層別沈下量測定装置100は、地盤の地表面の鉛直変位量及び地盤に構築された構造物の鉛直変位量の経時変化を上空から観測して作成した観測データを取得する観測データ取得部110と、構造物の基礎の先端部を支持する地層が特定されている地盤の地層構成の地層データを取得する地層データ取得部120と、観測データ及び地層データから地盤の地層別の経時的な沈下量を導出する導出部130と、を備えている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤の地表面の鉛直変位量及び前記地盤に構築された構造物の鉛直変位量の経時変化を上空から観測して作成した観測データを取得する観測データ取得部と、
前記構造物の基礎の先端部を支持する地層が特定されている前記地盤の地層構成の地層データを取得する地層データ取得部と、
前記観測データ及び前記地層データから前記地盤の地層別の経時的な沈下量を導出する導出部と、
を備えた層別沈下量測定装置。
【請求項2】
前記観測データは、衛星を用いた干渉SAR解析で作成する、
請求項1に記載の層別沈下量測定装置。
【請求項3】
前記構造物は、既設の建築物であり、
前記地層データは、前記建築物の設計図書から作成する、
請求項1又は請求項2に記載の層別沈下量測定装置。
【請求項4】
地盤の地表面の鉛直変位量及び前記地盤に構築された構造物の鉛直変位量の経時変化を上空から観測して作成した観測データを取得する観測データ取得工程と、
前記構造物の基礎の先端部を支持する地層が特定された前記地盤の地層構成の地層データを取得する地層データ取得工程と、
前記観測データ及び前記地層データから前記地盤の地層別の経時的な沈下量を導出する導出工程と、
を備えた層別沈下量の測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、層別沈下量測定装置及び層別沈下量の測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、盛土の層別沈下量と地下水位を同時に計測するための計測装置に関する技術が開示されている。この先行技術の計測装置は、複数の測定用パイプとこれら測定用パイプを移動自在に連結するための連結用パイプとからなっている。測定用パイプには、略中央部に測定リングが設けられ、この測定リングの水平方向にクロスアームが固定され、測定用パイプ連結用パイプには孔が形成されている。
【0003】
特許文献2には、海底地盤の埋め立て工事及び土砂埋設工事を施工する際に沈下状態を測定する方式に関する技術が開示されている。この先行技術の沈下測定方式では、少なくても2台以上の圧力計と、圧力計の背圧室を全て連通する第1の連通管と、圧力計の受圧室を全て連通する第2の連通管と、第2の連通管に連通される加圧液槽からなる。そして、加圧液槽と第2の連通管と受圧室に液体のみを充満し、加圧液槽に可撓性のある蛇腹状の構造を持たせている。
【0004】
特許文献3には、地盤の沈下量を測定するための計測方法と計測装置に関する技術が開示されている。この先行技術では、ボーリング等によって削孔した孔内に、内部に所定の間隔で標識を有する伸縮自在な沈下計測パイプを地盤と一体化して埋設し、深度計測機能を有する孔内観測用カメラで沈下計測パイプ内の標識を観測して各標識の深度を計測し、各標識の深度の経時変化から各標識の深度における地盤の沈下量を求めている。
【0005】
非特許文献1には、環境省が取りまとめた「地盤沈下観測等における衛星活用マニュアル」が開示されている。この先行技術では、人工衛星により観測された衛星データを活用することで、地盤沈下を効率的に監視している。
【0006】
また、その他関連する技術が、非特許文献2及び非特許文献3に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平03-009217号公報
【特許文献2】特開2002-131094号公報
【特許文献3】特開2007-114079号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】2022年04月03日検索、インターネット<https://www.env.go.jp/press/104084.html> 「地盤沈下観測等における衛星活用マニュアル」
【非特許文献2】2022年04月01日検索、インターネット<https://sorabatake.jp/3364/> 「合成開口レーダ(SAR)のキホン~事例、分かること、センサ、衛星、波長~」
【非特許文献3】2022年04月03日検索、インターネット<https://sorabatake.jp/4343/> 「干渉SAR(InSAR)とは-分かること、事例、仕組み、読み解き方-」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
地盤の層別の沈下量の測定には、層別沈下計が用いられることがある。しかし、層別沈下計は、測定員が定期的に沈下量を現地に行って測定する必要がある。よって、長期に亘って、例えば数十年以上に亘って定期的に測定することは、費用や引継ぎ等から難しい。
【0010】
一方、非特許文献1、非特許文献2及び非特許文献3に記載されている衛星データを用いた鉛直変位測定技術(干渉SAR解析)による地盤沈下観測は、長期に亘って観測することが可能である。しかし、この鉛直変位測定技術(干渉SAR解析)による地盤沈下観測は、原理的に地表面レベルの鉛直変位しか測定できないので、地層別の沈下量を測定することはできない。
【0011】
本発明は、上記事実を鑑み、長期に亘って地層別の経時的な沈下量を測定することが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
第一態様は、地盤の地表面の鉛直変位量及び前記地盤に構築された構造物の鉛直変位量の経時変化を上空から観測して作成した観測データを取得する観測データ取得部と、前記構造物の基礎の先端部を支持する地層が特定されている前記地盤の地層構成の地層データを取得する地層データ取得部と、前記観測データ及び前記地層データから前記地盤の地層別の経時的な沈下量を導出する導出部と、を備えた層別沈下量測定装置である。
【0013】
第一態様の層別沈下量測定装置では、観測データにおける構造物の鉛直変量を構造物の基礎を支持する地層の沈下量とし、観測データ及び地層データから地層別の経時的な沈下量を導出する。観測データである地盤の地表面の鉛直変位量及び構造物の鉛直変位量の経時変化は、上空から観測して作成するので、例えば測定員が定期的に沈下量を現地に行って測定する必要がない。したがって、長期に亘って地層別の経時的な沈下量を測定できる。
【0014】
第二態様は、前記観測データは、衛星を用いた干渉SAR解析で作成する、第一態様に記載の層別沈下量測定装置である。
【0015】
第二態様の層別沈下量測定装置では、観測データは衛星を用いた干渉SAR解析で作成されるので、長期に亘って高精度の観測データを作成できる。
【0016】
第三態様は、前記構造物は、既設の建築物であり、前記地層データは、前記建築物の設計図書から作成する、第一態様又は第二態様に記載の層別沈下量測定装置である。
【0017】
第三態様の層別沈下量測定装置では、既設の建築物を利用することで新たに構造物を構築する必要がない、或いは新たに構築する構造物の構築数を削減できる。また、建築物の設計図書から地層データを作成するので、例えばボーリング調査をすることとなく地層データを作成可能である。
【0018】
第四態様は、地盤の地表面の鉛直変位量及び前記地盤に構築された構造物の鉛直変位量の経時変化を上空から観測した観測データを取得する観測データ取得工程と、前記構造物の基礎の先端部を支持する地層が特定された前記地盤の地層構成の地層データを取得する地層データ取得工程と、前記観測データ及び前記地層データから前記地盤の地層別の経時的な沈下量を導出する導出工程と、を備えた層別沈下量の測定方法である。
【0019】
第四態様の層別沈下量の測定方法では、構造物の鉛直変量を構造物の基礎を支持する地層の沈下量とすることで、観測データ及び地層データから地層別の経時的な沈下量を導出する。観測データである地盤の地表面の鉛直変位量及び構造物の鉛直変位量の経時変化は、上空から観測するので、測定員が定期的に沈下量を現地に行って測定する必要がない。したがって、長期に亘って地層別の経時的な沈下量が測定される。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、長期に亘って地層別の経時的な沈下量を測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】層別沈下量測定システムの構成と地盤の地盤構成の構成図である。
【
図2】層別沈下量測定装置の機能構成の例を示すブロック図である。
【
図4】数値解析における(A)は沈下前の状態を示す
図1に対応する構成図であり、(B)は沈下後の状態を示す
図1に対応した構成図である。
【
図5】数値解析における沈下量を示す
図3に対応したグラフである。
【
図6】日層別の沈下量及び層厚変化量を求めるフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
<実施形態>
本発明の一実施形態の層別沈下量測定装置について説明する。
【0023】
[構成]
本実施形態の層別沈下量測定装置の構成について説明する。
【0024】
図1には、本実施形態の層別沈下量測定装置100を含んだ層別沈下量測定システム10の全体構成が示されている。層別沈下量測定システム10は、地盤500の地層別の経時的な沈下量を測定するシステムである。
【0025】
層別沈下量測定システム10は、層別沈下量測定装置100と、人工衛星20と、地盤500に構築された複数の既設の建築物200、210、230及び新設の構造物220と、を有して構成されている。
【0026】
本実施形態の人工衛星20は、合成開口レーダー(Synthetic Aperture Radar(SAR))を搭載したSAR衛星である。なお、以降「合成開口レーダー」を「SAR」と記すことがある。
【0027】
本実施形態の地盤500は、地盤500の地層構成500Kは、上層側から盛土層510、第一粘土層512、第一砂礫層514、第二粘土層516及び第二砂礫層518となっている。第二砂礫層518よりも深い層全体を深部層520とする。なお、
図1等に示す地層構成500Kは一例であって、これに限定されるものではない。
【0028】
既設の建築物200、210、230は、地盤500上に構築されているオフィスビル、集合住宅及び戸建住宅等である。また、建築物200、210、230は、鉄筋コンクリート造、鉄骨鉄筋コンクリート造及び木造等、どのような構造のものであってもよい。
【0029】
なお、各図では判り易くするため、建築物200、210、230は、後述する構造物220と同じ大きさの四角で図示しているが、実際にはそれぞれの建築物に応じた大きさや形状となっている。
【0030】
建築物200、210、230及び後述する構造物220を支持する基礎の先端部は、それぞれ異なる地層に定着している。具体的には、建築物200の基礎は、盛土層510に支持されたべた基礎202である。建築物210の基礎は、先端部214が盛土層510の下層部分に支持された杭212である。建築物230の基礎は、先端部234が第二砂礫層518に支持された杭232である。
【0031】
新設の構造物220は、地盤500の地層別の沈下量を測定するために新たに構築されたものである。本実施形態の構造物220は、鉄筋コンクリート造の1メートル四方の立方体であるが、これに限定されるものではない。但し、人工衛星20の電波が周囲の建物等によって遮られない程度の大きさや場所である必要がある。また、構造物220の基礎は、先端部224が第一砂礫層514に支持された杭222である。
【0032】
ここで、本実施形態では、地盤500の地層構成500K及び建築物200、210、230の基礎の先端部が支持されている地層は、建築物200、210、230の設計図書から把握する。構造物220の基礎の先端部が支持されている地層、本実施形態では第一砂礫層514は、杭222を打つ際に把握する。
【0033】
なお、杭212、222、223は、例えば、コンクリート杭、鉄骨杭及びFRPポール等、どのような杭であってもよい。
【0034】
ここで、設計図書とは、建築物を建築するために必要な図書で、設計図及び仕様書等の総称である。設計図書は、設計事務所や行政機関等に保管されている。
【0035】
図1に示す実施形態の層別沈下量測定装置100のハードウェア構成は、図示していないCPU(Central Processing Unit)、各処理ルーチンを実現するためのプログラム等を記憶したROM(Read Only Memory)、データを一時的に記憶するRAM(Random Access Memory)、記憶手段としてのメモリ及びネットワークインタフェース等を含んだコンピュータによって構成されている。なお、層別沈下量測定装置100は、複数のサーバーやクラウド等を含んで構成されていてもよい。
【0036】
CPUは、中央演算処理ユニットであり、各種プログラムを実行したり、各部を制御したりする。すなわち、CPUは、ROM等からプログラムを読み出し、RAMを作業領域としてプログラムを実行する。CPUは、ROM等に記録されているプログラムにしたがって、各種の演算処理を行う。
【0037】
図2に示すように、層別沈下量測定装置100は、機能的には、観測データ取得部110と、地層データ取得部120と、導出部130と、を備えている。また、観測データ取得部110には解析部30が接続され、観測データ取得部110はこの解析部30から観測データを取得する。地層データ取得部120には入力部122が接続され、地層データ取得部120は入力部122から地層データを取得する。
【0038】
なお、「観測データ」とは、
図1に示す地盤500の地表面502、建築物200、210、230及び構造物220の初期状態(観測開始時点)又は前回観測時からの鉛直方向の変位量である。また、「地層データ」とは、建築物200、210、230及び構造物220の基礎が支持されている地層が特定されている地層構成500Kである。
【0039】
解析部30は、人工衛星20(
図1も参照)から衛星データを受信すると共に受信した衛星データに対しての干渉SAR解析を行い、
図1に示す地盤500の地表面502、建築物200、210、230及び構造物220の鉛直方向の変位量を求める。
【0040】
なお、本実施形態では、「鉛直方向の変位量」を「鉛直変位量」と記載する。また、地表面502の鉛直変位量をS0、建築物200の鉛直変位量をS1、建築物210の鉛直変位量をS2、建築物230の鉛直変位量をS4及び構造物220の鉛直変位量をS3とする。
【0041】
干渉SAR解析は、前述した非特許文献1、非特許文献2及び非特許文献3等に記載されている。簡単に説明すると、干渉SAR解析は、人工衛星20から電波(マイクロ波)を発射し、跳ね返ってきた電波の位相変化を捉えることで鉛直変位量を解析して求めるものである。言い換えると、干渉SAR解析は、変位前に観測した電波と変位後に観測した電波とでは、変位量分だけ僅かに電波がずれるので、この前後の波を疑似的に「干渉」させることで、鉛直変位量を解析して求める仕組みである。
【0042】
なお、本実施形態では、建築物200、210、230及び構造物220を含む一定範囲の平均の鉛直変位量を、建築物200、210、230及び構造物220の鉛直変位量とする。
【0043】
人工衛星20(
図1も参照)を打ち上げ後は、基本的に常時観測し続けている。しかし、衛星20が当該観測対象地区の上空を通過する毎に衛星データを取得することは困難であり、また、衛星データには様々なノイズが入っている。よって、本実施形態では、解析部30は、一定期間(例えば六か月)に亘って取得した衛星データを一度に干渉SAR解析して地盤500の地表面502、建築物200、210、230及び構造物220の鉛直変位量を求めている。なお、このような解析手法は一般的に干渉SAR解析で行われているものであるが、これに限定されるものではない。
【0044】
そして、観測データ取得部110は、干渉SAR解析後の地盤500の地表面502、建築物200、210、230及び構造物220の鉛直変位量の観測データを解析部30から取得して格納する。なお、初期状態(観測開始時点)からの変化から、それぞれの初期状態(観測開始時点)からの鉛直変位量を求めてもよいし、前回観測時からの変化を累積することで、それぞれの初期状態(観測開始時点)からの鉛直変位量を求めてもよい。
【0045】
地層データ取得部120は、入力部122を介して、地層構成500Kと、地層構成500Kにおける建築物200、210、230及び構造物220の基礎の先端部が定着した地層と、で構成された地層データを取得する。別の観点から説明すると、建築物200、210、230及び構造物220の基礎の先端部を支持する地層が特定されている地盤500の地層構成500Kの地層データを入力部122から地層データ取得部120が取得する。地層データは、前述した設計図書等に基づいてコンピュータ等で作成し、入力部122を介して地層データ取得部120が地層データを取得する。
【0046】
なお、本実施形態では、地層データは、Microsoft Excel(登録商標)等の表計算ソフトウェアを用いて作成されたCSV形式のデータであるが、これに限定されるものではない。また、入力部122は、地層データを地層データ取得部120に入力する機能を有していればよい。具体的には、地層データを作成したコンピュータとケーブルで接続する接続部や地層データが格納されたUSBメモリ等の記憶ストレージが接続されるコネクタ等である。
【0047】
導出部130は、観測データ及び地層データから地盤500の地層別の経時的な沈下量等を導出する。具体的には、建築物200、210、230及び構造物220の鉛直変位量を、それぞれの基礎の先端部が定着している地層の沈下量とし、地層別の経時的な沈下量を導出する。導出結果は、図示していないモニターなどに表示される。
【0048】
(地層別の経時的な沈下量等の導出例)
次に、本実施形態における導出部130が行う具体的な導出例について説明する。なお、鉛直変位量及び沈下量等は、初期状態(観測開始時点)から今回測定時までの変化量である。
【0049】
図1に示す建築物200、210、230及び構造物220の鉛直変位量を、それぞれの基礎の先端部が定着している地層の経時的な沈下量とする。具体的には、建築物230の鉛直変位量S4を第二砂礫層518の沈下量とし、構造物220の鉛直変位量S3を第一砂礫層514の沈下量とする。
【0050】
なお、本実施形態では、圧縮された地層の層厚変化も算出している。よって、次に層厚変化量の算出方法例について説明する。
【0051】
第二砂礫層518の沈下量は、第二砂礫層518よりも下の深部層520の層厚変化量の総和である。また、第一砂礫層514の沈下量は、第一砂礫層514よりも下の地層である第二粘土層516、第二砂礫層518及び深部層520の層厚変化量の総和である。
【0052】
よって、第二砂礫層518の沈下量、つまり、建築物230の鉛直変位量S4を深部層520全体の層厚変化量R4とする。
【0053】
また、第二砂礫層518の沈下量と第一砂礫層514の沈下量との差、つまり、建築物230の鉛直変位量S4と構造物220の鉛直変位量S3との差を算出し、算出結果を第二粘土層516の層厚変化量R3とする。
【0054】
また、第一砂礫層514の沈下量と盛土層510との差、つまり、構造物220の鉛直変位量S3と建築物210の鉛直変位量S2との差を算出し、算出結果を第一粘土層512の層厚変化量R2とする。
【0055】
また、建築物210の鉛直変位量S2は、盛土層510よりも下の第一粘土層512、第一砂礫層514、第二粘土層516、第二砂礫層518及びその下の深部層520の層厚変化量の総和である。よって、建築物210の鉛直変位量S2と地表面502の鉛直変位量S0と差を盛土層510の層厚変化量R1とする。
【0056】
なお、直接基礎202である建築物200の鉛直変位量S1は、地表面502の鉛直変位量S0と同じ又は略同じになる。鉛直変位量S1が鉛直変位量S0よりも優位に大きい場合は、何らかの原因で建築物200の直下の地盤が局地的に沈下していること等が考えられる。
【0057】
ここで、第一砂礫層514及び第二砂礫層518は、所謂支持層であり、層厚変化は無い又は略無いと考えられる。しかし、第一粘土層512及び第二粘土層516は、所謂軟弱層であり、層厚変化が発生し、これにより第一砂礫層514及び第二砂礫層518が沈下すると考えられる。なお、後述する例では、盛土層510は、層厚変化が無い又は略無い。しかし、一般的には盛土層は層厚変化することが多い。
【0058】
(フローチャートによる説明)
次に、導出部130のCPUが行う導出及び算出の例を
図6のフローチャートを用いて説明する。CPUはプログラムを読み出して、RAMに展開して実行することにより、導出処理が行なわれる。なお、ここでは建築物200の不同沈下量の算出は反映していない。
【0059】
CPUは、
図1に示す建築物200、210、230及び構造物220の鉛直変位量を、それぞれの基礎の先端部が定着している地層の沈下量とする。具体的には、建築物230の鉛直変位量S4を第二砂礫層518の沈下量とし、構造物220の鉛直変位量S3を第一砂礫層514の沈下量とする(
図6のステップS101)。
【0060】
次に、CPUは、建築物230の鉛直変位量S4を深部層520全体の層厚変化量R4とする(
図6のステップS102)。
【0061】
次に、CPUは、建築物230の鉛直変位量S4と構造物220の鉛直変位量S3との差を求め、この差を第二粘土層516の層厚変化量R3とする(
図6のステップS103)。
【0062】
次に、CPUは、建築物210の鉛直変位量S2と構造物220の鉛直変位量S3との差を求め、この差を第一粘土層512の層厚変化量R2とする(
図6のステップS104)。
【0063】
次に、CPUは、建築物210の鉛直変位量S1と地表面502の鉛直変位量S0との差を求め、この差を盛土層510の層厚変化量R1とする(
図6のステップS105)。
【0064】
(導出結果の例)
次に、
図3を用いて地盤500における地層別の経時的な沈下量等の導出結果の一例を説明する。なお、実際には、測定は定期的に行われるので、データは離散的であるが、
図3ではそれらを結んで線にして示している。
【0065】
図3には、地表面502(
図1参照)の鉛直変位量S0、建築物200(
図1参照)の鉛直変位量S1、建築物210(
図1参照)の鉛直変位量S2、構造物220(
図1参照)の鉛直変位量S3及び建築物230の鉛直変位量S4の経時変化が示されている。そして、前述したように、鉛直変位量S0、S1は地表面502の沈下量であり、鉛直変位量S3は第一砂礫層514(
図1参照)の沈下量であり、鉛直変位量S4は第二砂礫層518(
図1参照)の沈下量である。
【0066】
また、鉛直変位量S0、S1から鉛直変位量S2を引いたR1が盛土層510の層厚変化量である。鉛直変位量S2から鉛直変位量S3を引いたR2が第一粘土層512の層厚変化量であり、鉛直変位量S3から鉛直変位量S4を引いたR3が第二粘土層516の層厚変化量である。そして、鉛直変位量S4が深部層520全体の層厚変化量R4である。
【0067】
(数値解析による検証)
次に、
図1の解析モデルを作成し、数値解析によって、建築物230の鉛直変位量S4が第二砂礫層518の沈下量となり、構造物220の鉛直変位量S3が第一砂礫層514の沈下量となることを検証した結果を説明する。
【0068】
図4(A)及び
図4(B)に示すように、第一粘土層512の層厚がD1からD2に変化し、第二粘土層516の層厚がD3からD4に変化したとした。その他の地層の層厚は不変とした。
【0069】
なお、
図4(A)は、初期状態で
図1と同じである。
図4(B)は、数値解析の結果を反映した図である。
図4(B)を見ると分かるように、構造物220及び建築物230は地表面502から突出していることが判る。また、地表面502と建築物230との高低差F1が第一粘土層512の層厚変化量と第二粘土層516の層厚変化量の合計と一致し、地表面502と構造物220との高低差F2が第一粘土層512の層厚変化量と一致し、建築物230と構造物220との高低差F3が、第二粘土層516の層厚変化量が一致する。なお、地表面502と建築物230との高低差F1は、第一粘土層512の層厚変化量F1と第二粘土層516の層厚変化量F2との合計である。
【0070】
図5は、解析結果に基づいて作成した地表面502(
図4参照)の鉛直変位量S0、建築物200(
図4参照)の鉛直変位量S1、建築物210(
図4参照)の鉛直変位量S2、構造物220(
図4参照)の鉛直変位量S3及び建築物230の鉛直変位量S4の変化を示すグラフである。そして、図示は省略するが、地表面502、第一砂礫層514及び第二砂礫層518の沈下量の変化も
図5と全く同じであることが確認された。つまり、建築物230の鉛直変位量S4が第二砂礫層518の沈下量であり、構造物220の鉛直変位量S3が第一砂礫層514の沈下量であることが、数値解析によって確認された。なお、鉛直変位量S0と鉛直変位量S1、S2とは同じであるが、判り易くするため
図5では重ならないように図示している。
【0071】
[作用及び効果]
次に本実施形態の作用及び効果について説明する。
【0072】
本実施形態の層別沈下量測定装置100及び層別沈下量測定システム10では、観測データにおける
図1に示す建築物200、210、230及び構造物220の鉛直変位量を、それぞれの基礎の先端部が定着している地層の沈下量とし、地層別の経時的な沈下量等を導出する。
【0073】
観測データである地盤500の地表面502の鉛直変位量S0及び建築物200、210、230及び構造物220の鉛直変位量S1、S2、S3、S4の経時変化は、上空から観測して作成するので、例えば測定員が定期的に沈下量を現地に行って測定する必要がない。したがって、長期に亘って、例えば数十年以上に亘って定期的に測定することが容易に低コストで可能である。
【0074】
更に、観測データは人工衛星20を用いた干渉SAR解析で作成されるので、長期に亘って高精度の観測データを作成できる。
【0075】
また、既設の建築物200、210、230を利用することで、新たに構造物220を構築するのみでよい。また、建築物200、210、230の設計図書から地層データを作成するので、例えばボーリング調査をすることとなく地層構成500Kを把握可能である。
【0076】
<その他>
尚、本発明は上記実施形態に限定されない。
【0077】
例えば、上記実施形態では、既設の建築物200、210、230と新たに構築した測定専用の構造物220との鉛直変位量を測定したが、これに限定されるものではない。既設の建築物の鉛直変位量のみを測定してもよいし、新たに構築した複数の測定専用の構造物の鉛直変位量のみを測定してもよい。
【0078】
また、例えば、上記実施形態では、地層別の沈下量と層厚変化量とを求めたが、これに限定されるものではない。少なくとも地層別の沈下量を求めればよい。
【0079】
また、例えば、上記実施形態では、既設の建築物200、210、230及び新たに構築した測定専用の構造物220の鉛直変位量を測定したが、これに限定されるものではない。干渉SAR解析以外の方法で、衛星を用いて鉛直変位量を測定してもよい。或いは、航空写真から鉛直変位量を測定して観測データ取得部に入力してもよい。
【0080】
また、例えば、上記実施形態では、コンピュータが自動的に地層別の沈下量を導出したが、これに限定されるものではない。地盤の地表面の鉛直変位量及び地盤に構築された構造物の鉛直変位量の経時変化を上空から観測して作成した観測データと、構造物の基礎の先端部を支持する地層が特定された地盤の地層構成の地層データと、を用いて、地盤の地層別の経時的な沈下量を作業者が計算器を用いて導出してもよい。
【0081】
また、例えば、上記実施形態では、基礎は直接基礎又は杭基礎であったが、これに限定されるものではない。基礎は、例えば、地盤改良体であってもよい。
【0082】
更に、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々なる態様で実施し得る。
【符号の説明】
【0083】
10 層別沈下量測定システム
20 衛星
100 層別沈下量測定装置
110 観測データ取得部
120 地層データ取得部
130 導出部
200 建築物(構造物の一例)
210 建築物(構造物の一例)
220 構造物
230 建築物(構造物の一例)
500 地盤
500K 地層構成
502 地表面