(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023183310
(43)【公開日】2023-12-27
(54)【発明の名称】部分放電計測装置、部分放電計測方法、及び部分放電計測システム
(51)【国際特許分類】
G01R 31/12 20200101AFI20231220BHJP
G01R 31/34 20200101ALI20231220BHJP
G01R 35/00 20060101ALI20231220BHJP
【FI】
G01R31/12 A
G01R31/34 B
G01R35/00 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022096852
(22)【出願日】2022-06-15
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100124372
【弁理士】
【氏名又は名称】山ノ井 傑
(74)【代理人】
【識別番号】100125151
【弁理士】
【氏名又は名称】新畠 弘之
(72)【発明者】
【氏名】藤本 旺
(72)【発明者】
【氏名】原川 崇
(72)【発明者】
【氏名】高根沢 真
(72)【発明者】
【氏名】椿原 大貴
【テーマコード(参考)】
2G015
2G116
【Fターム(参考)】
2G015AA12
2G015BA02
2G015BA04
2G116BA01
2G116BA03
2G116BC02
(57)【要約】
【課題】本実施形態は、計測対象領域における部分放電に関する計測値をより高精度に計測可能な部分放電計測装置、部分放電計測方法、及び部分放電計測システムを提供する。
【解決手段】本実施形態によれば、絶縁されている導体を介して電力を供給又は受給する回転電機内に生じる部分放電を検出する部分放電計測装置であって、校正用信号生成部と、センサと、補正処理部と、信号処理部と、を備える。校正用信号生成部は、絶縁されている導体の絶縁層表面に校正用信号を供給する。センサは、部分放電に関する物理量を計測する。補正処理部は、校正用信号を供給した際のセンサの出力信号を用いて、補正係数を生成する。信号処理部は、補正係数に基づき、センサの出力信号を処理する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁されている導体を介して電力を供給又は受給する回転電機内に生じる部分放電を検出する部分放電計測装置であって、
前記絶縁されている導体の絶縁層表面に校正用信号を供給する校正用信号生成部と、
前記部分放電に関する物理量を計測するセンサと、
前記校正用信号を供給した際の前記センサの出力信号を用いて、補正係数を生成する補正処理部と、
前記補正係数に基づき、前記センサの出力信号を処理する信号処理部と、
を備える、部分放電計測装置。
【請求項2】
前記センサは、前記絶縁されている導体と空間的な静電容量を介して設置され、
前記校正用信号生成部は、
前記校正用信号を生成する信号生成部と、
前記絶縁されている導体の外面に対応させて配置可能であり、前記絶縁されている導体に前記校正用信号を供給する同電位部と、
を有する、請求項1に記載の部分放電計測装置。
【請求項3】
前記補正処理部は、前記絶縁されている導体に対する前記同電位部の位置と、前記センサの位置と、前記絶縁されている導体の絶縁層の内側の計測領域に関する情報と、に基づく等価回路の情報を用いて、前記補正係数を生成する、請求項2に記載の部分放電計測装置。
【請求項4】
前記信号処理部は、前記補正係数に基づき、前記センサの出力信号を、前記計測領域で計測した部分放電に対応する計測信号として生成する、請求項3に記載の部分放電計測装置。
【請求項5】
前記校正用信号生成部は、前記絶縁されている導体の複数の位置において前記同電位部から前記校正用信号を供給し、
前記補正処理部は、前記複数の位置から前記校正用信号を供給した際の前記センサのそれぞれの出力信号を用いて、前記補正係数を生成する請求項4に記載の部分放電計測装置。
【請求項6】
前記補正処理部は、前記等価回路の構成要素に関する入力項目を表示部に表示させ、前記入力項目に対応する入力数値に基づき、前記補正係数を生成する、請求項3に記載の部分放電計測装置。
【請求項7】
前記補正処理部は、複数の異なる等価回路を前記表示部に表示させ、操作者の選択に応じて前記補正係数を生成する、請求項6に記載の部分放電計測装置。
【請求項8】
前記補正処理部は、前記補正係数が所定の範囲である場合には、係数を1とする、請求項1に記載の部分放電計測装置。
【請求項9】
前記信号生成部は、
前記校正用信号として電流の電気パルスを生成し、
前記補正処理部は、前記電気パルスを供給した際の前記センサの出力信号の実効値に基づき、前記補正係数を生成する、請求項2に記載の部分放電計測装置。
【請求項10】
前記校正用信号生成部は、
前記校正用信号を生成する信号生成部と、
前記絶縁されている導体の外面に配置可能であり、前記絶縁されている導体に非接触に前記校正用信号を供給するアンテナと、
を有する、請求項1に記載の部分放電計測装置。
【請求項11】
絶縁されている導体を介して電力を供給又は受給する発電機内に生じる部分放電を検出する部分放電計測方法であって、
前記絶縁されている導体の絶縁層表面に校正用信号を供給する供給工程と、
前記校正用信号を供給した際の、前記絶縁されている導体と非接触に設置されたセンサの出力信号を用いて、補正係数を生成する補正処理工程と、
前記補正係数に基づき、前記センサの出力信号を処理する信号処理工程と、
を備える、部分放電計測方法。
【請求項12】
筐体内に配置される固定子コイルと回転子を含む回転電機と、
前記固定子コイルに接続された、絶縁されている導体と、
前記筐体内において、前記絶縁されている導体の少なくとも一部を囲うように配置される導体保護カバーと、
前記導体保護カバーの前記導体側に配置され、前記回転電機内に生じる部分放電に関する物理量を計測するセンサと、
前記センサの出力信号を処理する信号処理部と、
を備え、
前記筐体内の前記導体保護カバーは、所定の低電位に接続される、部分放電計測システム。
【請求項13】
前記筐体内の前記絶縁されている導体表面に同電位部から校正用信号を供給した際の、前記センサの出力信号を用いて補正係数を生成する補正処理部であって、前記絶縁されている導体に対する前記同電位部の位置と、前記センサの位置と、前記絶縁されている導体の絶縁層の内側の計測領域に関する情報と、に基づく等価回路の情報を用いて、補正係数を生成する補正処理部を、更に備え、
前記信号処理部は、前記補正係数に基づき、前記センサの出力信号を、前記計測領域で計測した部分放電に対応する計測信号として生成する、請求項12に記載の部分放電計測システム。
【請求項14】
筐体内に配置される固定子コイルと回転子を含む回転電機と、前記固定子コイルに接続された、絶縁されている導体と、前記筐体内において、所定の低電位に接続され、前記絶縁されている導体の少なくとも一部を囲うように配置される導体保護カバーと、を有する発電機の前記固定子コイルに生じる部分放電を検出する部分放電計測装置であって、
前記導体保護カバーの前記導体側に配置され、前記部分放電に関する物理量を計測するセンサと、
前記センサの出力信号を処理する信号処理部と、
を備える、部分放電計測装置。
【請求項15】
前記筐体内の前記絶縁されている導体表面に同電位部から校正用信号を供給した際の、前記センサの出力信号を用いて補正係数を生成する補正処理部であって、前記絶縁されている導体に対する前記同電位部の位置と、前記センサの位置と、前記絶縁されている導体の絶縁層の内側の計測領域に関する情報と、に基づく等価回路の情報を用いて、補正係数を生成する補正処理部を、更に備え、
前記信号処理部は、前記補正係数に基づき、前記センサの出力信号を、前記計測領域で計測した部分放電に対応する計測信号として生成する、請求項14に記載の部分放電計測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、部分放電計測装置、部分放電計測方法、及び部分放電計測システムに関する。
【背景技術】
【0002】
部分放電は、回転電機の固定子コイルに電圧が印加された際に、絶縁層内部で生じる微小な放電である。この放電が生じても回転電機の運転に直ぐに影響を及ぼすものではないとされている。しかし、絶縁材料自身は部分放電により、ある一定度合いでの劣化が進行することが知られている。そこで、劣化が進行して運転中に絶縁破壊に至らないように、部分放電計測装置による計測が行われる。部分放電計測装置による部分放電の定期的な計測により、回転電機の信頼性が診断される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-211233号公報
【特許文献2】特許6345803号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
部分放電計測装置におけるセンサの配置位置は、計測対象領域との距離が近くなるに従い、計測精度がより向上すると考えられている。しかしながら、小規模火力発電設備、水力発電設備などでは、回転電機から距離がある配電盤まで導体であるケーブルに絶縁処理が施されたり、既設の設備である回転電機への近接が阻害されたりするので、センサの配置位置を計測対象領域に近づけることが困難となる恐れがある。また、導体に絶縁処理が施されるので、計測対象領域を直接的に計測することが困難となり、導体を囲む絶縁層に応じて、部分放電の計測値が変動する恐れがある。さらにまた、より安全な計測処理が求められている。
【0005】
本実施形態は、計測対象領域における部分放電に関する計測値をより高精度に計測可能な部分放電計測装置、部分放電計測方法、及び部分放電計測システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本実施形態によれば、絶縁されている導体を介して電力を供給又は受給する回転電機内に生じる部分放電を検出する部分放電計測装置であって、校正用信号生成部と、センサと、補正処理部と、信号処理部と、を備える。校正用信号生成部は、絶縁されている導体の絶縁層表面に校正用信号を供給する。センサは、部分放電に関する物理量を計測する。補正処理部は、校正用信号を供給した際のセンサの出力信号を用いて、補正係数を生成する。信号処理部は、補正係数に基づき、センサの出力信号を処理する。
【発明の効果】
【0007】
本実施形態によれば、計測対象領域における部分放電に関する計測値をより高精度に計測できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本実施形態に係る部分放電計測システムの概略的な構成例を示す図。
【
図3】記憶部に記憶されるセンサと、同電位部と、の配置パターン例を示す図。
【
図5】
図4で示した配置例における計測系の等価回路を示す図。
【
図6】等価回路の各構成要素に対する入力項目、及び入力値の例を示す図。
【
図8】
図7で示した配置例における計測系の等価回路を示す図。
【
図9】等価回路の各構成要素に対する入力項目、及び入力値の例を示す図。
【
図10】本実施形態に係る補正処理例のフローチャート。
【
図11】本実施形態に係る本計測のフローチャート。
【
図12】導体に対するセンサと、アンテナと、の配置パターン例を示す図。
【
図14】導体に対するセンサと、同電位部と、の配置パターン例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態に係る部分放電計測システム、部分放電計測装置、及び部分放電計測方法について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下に示す実施形態は、本発明の実施形態の一例であって、本発明はこれらの実施形態に限定して解釈されるものではない。また、本実施形態で参照する図面において、同一部分又は同様な機能を有する部分には同一の符号又は類似の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する場合がある。また、図面の寸法比率は説明の都合上実際の比率とは異なる場合や、構成の一部が図面から省略される場合がある。
【0010】
(第1実施形態)
図1は、本実施形態に係る部分放電計測システムの概略的な構成例を示す図である。
図1では、回転電機10の垂直断面図を模式的に示している。
図1に示すように、この部分放電計測システム1は、回転電機10内で発生する部分放電を計測することが可能なシステムであり、例えば、回転電機10と、部分放電計測装置20とを備える。
【0011】
回転電機10は、例えば水車発電機であり、水車の回転軸に機械的に接続された回転子2が回転することにより発電する。部分放電計測装置20は、計測信号の補正が可能な装置であり、回転電機10内の部分放電を計測する。すなわち、この部分放電計測装置20は、計測対象と離れた位置での計測信号の補正が可能な装置である。
【0012】
図1に示すように、回転電機10は、例えば回転子2と、固定子3と、絶縁されている導体4と、筐体5と、導体保護カバー6と、を有する。回転子2は、水車に機械的に接続される回転軸M10を回転中心として、回転する。固定子3には、所定の固定子コイルが巻かれている。より具体的には、固定子コイルは、固定子3に挿入された状態で導体4に電気的に接続される。
【0013】
導体4は、例えば三相(U、V、W相)用の導体ケーブルであり、インバータ、又は配電盤などに接続される。導体4は、導体ケーブルの表面が絶縁体で覆われ、絶縁されている。なお、本実施形態では、発電機の例で説明するが、これに限定されない。例えば、三相(U、V、W相)用の交流ケーブルから電力を供給することにより、回転電機10をモータとして回転させることも可能である。すなわち、回転電機10は、絶縁されている導体4を介して電力を受給することにより、回転する。この場合にも、部分放電計測装置20は、回転電機10内の部分放電を検出することが可能である。
【0014】
筐体5は、回転子2と、固定子3と、導体保護カバー6とを内包する。筐体5は、風洞と称する場合がある。導体保護カバー6は、筐体5内において、導体4の鉛直下方に配置される。この導体保護カバー6は、筐体5に固定され、センサ30を支持する。
【0015】
この導体保護カバー6は、例えば金属の網状素材により構成され、所定の低電位、例えば接地電位に接続されている。これにより、センサ30に、ノイズ信号が混入するのを防ぐことが可能となる。また、筐体5の内部の固定子3の周囲は、運転中でも現場作業員が入る場合がある。この場合にも、現場作業員が筐体5内の高電圧部に触れることを防ぐことを可能となる。このように、導体保護カバー6を導体4の鉛直下方に設け、導体保護カバー6によりセンサ30を支持することにより、センサ30に、ノイズ信号が混入するのを防ぐことが可能となると共に、現場作業員が高電圧部に触れることを防ぐことが可能となる。更に、後述するように、部分放電に対応する校正用信号を生成している場合に、例えば誤って現場作業員が筐体5の内部に入ってしまった場合にも、校正用信号に感電することを確実に防ぐことができる。なお、本実施形態では、導体保護カバー6が導体4の鉛直下方に設けられる場合を例示して説明したが、この導体保護カバー6は、現場作業員による導体4への接触を防ぐことができれば良く、導体保護カバー6が導体の周囲に設けられれば良い。具体的には、導体4の鉛直上方に現場作業員が入る通路が設けられる場合には、この通路と導体4との間である導体4の鉛直上方に導体保護カバー6が設けられても良いし、導体4の左または右側に現場作業員が入る通路が設けられる場合には、この通路と導体4との間である導体4の左または右側に導体保護カバー6が設けられても良い。さらに、現場作業員が筐体の内部に入ることが出来ないような小型の回転電機が回転電機10である場合には、導体4の周囲を囲うように導体保護カバー6を設けても良いし、導体4への接触を遮るよう導体4の左右側に導体保護カバー6を設けても良い。
【0016】
この回転電機10は、水車の回転に従って、固定子3が回転し、固定子3のコイルに交流電流が発生する。この交流電流は、導体4を介して、インバータ、又は配電盤などに供給される。
【0017】
部分放電計測装置20は、センサ30と、同電位部40と、信号生成部50と、計測器60と、表示部70と、操作部80とを、有する。上述のように、センサ30は、導体保護カバー6に配置される。センサ30は、回転電機10内に発生する部分放電に関する物理量を非接触に計測するセンサであり、部分放電計測センサとして機能する。例えば、このセンサ30は、導体4に流れる電流に応じた検出信号を生成するセンサである。より具体的には、このセンサ30は、例えば導体4と空間的に静電容量結合される電流センサである。なお、本実施形態に係るセンサ30は、静電容量結合されるセンサであるが、これに限定されない。例えば、導体4に非接触で計測可能なセンサであればよく、例えばCT(Current Trans former)などの電流センサでもよい。また、本実施形態に係るセンサ30は、電流センサであるが、これに限定されない。例えば、導体4に非接触で、部分放電に関する物理量を計測可能なセンサであればよく、例えば電圧計測センサでもよい。
【0018】
同電位部40は、例えばアルミニウムなどで構成され、絶縁された導体4の絶縁層表面に校正用信号を伝導する同電位体である。すなわち、この同電位部40は、絶縁された導体4における絶縁層の周囲に配置される。同電位部40の導体4に対向する面は、点状の領域でもよいし、或いは面状の領域であってもよい。また、絶縁された導体4における絶縁層の周囲に完全に接触している必要はなく、部分的に接触するように構成されてもよい。このように、同電位部40は、絶縁されている導体4の外面に対応させて配置可能である。
【0019】
信号生成部50は、部分放電に対応する校正用信号を生成する。この校正用信号は、例えば、所定の電荷、例えば数百ピコクーロンを所定の時間、例えば数ナノ秒範囲内で供給するパルス状の信号である。例えば、この校正用信号は、計測対象の部分放電における周波数の代表値に基づき設定される。これにより、この校正用信号は、計測対象の部分放電に対応する周波数を有するように構成される。
【0020】
なお、同電位部40及び信号生成部50は、本計測前の信号補正用のデータの取得に使用される。このため、本計測では、同電位部40及び信号生成部50を、部分放電計測システム1から外すことが可能である。また、本実施形態に係る同電位部40、及び信号生成部50が、校正用信号生成部50aを構成する。
【0021】
計測器60は、部分放電計測装置20の各構成を制御するとともに、センサ30の検出信号を用いて、部分放電に関する物理量を計測する。この計測器60は、信号生成部50の生成する校正用信号を用いて、センサ30の検出信号を補正することが可能である。なお、計測器60の詳細は後述する。
【0022】
表示部70は、例えばモニタである。この表示部70は、例えば、計測系の等価回路図、等価回路図の入力項目、計測結果、部分放電に対する判定結果などを表示可能である。
【0023】
操作部80は、例えば、キーボード、マウスなどにより構成される。操作部80は、例えば、部分放電計測装置20の計測系の回路パラメータなどを設定する。
【0024】
図2は、計測器60の構成例を示すブロック図である。計測器60は、AD変換部602と、記憶部604と、制御処理部606と、入出力部608とを有する。
【0025】
AD変換部602は、センサ30が出力する検出信号をデジタル出力信号に変換する。AD変換部602は、増幅回路を含んで構成してもよい。
【0026】
記憶部604は、例えば、RAM(Random Access Memory)、フラッシュメモリ等の半導体メモリ素子、ハードディスク、光ディスク等により実現される。この記憶部604は、AD変換部602、及び制御処理部606が生成したデジタル出力信号を記憶する。また、記憶部604は、計測器60のプログラム、及び等価回路情報などの処理に必要となる情報、を記憶する。
【0027】
制御処理部606は、例えばCPU(CentralProcessingUnit)を含んで構成される。制御処理部606は、記憶部604に記憶されるプログラムにしたがい、制御処理を行う。すなわち、制御処理部606は、記憶部100に記憶されるプログラムにしたがい、制御処理部606は、補正処理部610、信号処理部612、及び判定処理部614を構成する。
【0028】
入出力部608は、入出力インターフェースとして機能する。すなわち、入出力部608は、計測器60と、信号生成部50、表示部70、及び操作部80との間の信号の入出力を行うことが可能である。
【0029】
補正処理部610は、信号生成部50の生成した校正用信号を絶縁されている導体4に供給した際のセンサ30の出力信号を用いて、補正係数を生成する。なお、補正処理部610の詳細は後述する。
【0030】
信号処理部612は、本計測の場合に、補正処理部610が生成した補正係数に基づき、センサ30の出力信号に基づくデジタル出力信号を処理する。例えば、信号処理部612は、デジタル出力信号に補正係数を乗算して、計測信号を生成する。この計測信号は、部分放電の電荷量に対応する。換言すると、補正係数は、部分放電の電荷量に等価となるように生成される。なお、信号処理部はローパスフィルタなどを用いたノイズ低減処理を行ってもよい。或いは、回転電機10の回転周期にデジタル出力信号を対応させ、回転周期ごとにデジタル出力信号を加算してもよい。
【0031】
信号処理部612は、計測信号を記憶部604に記憶する。また、信号処理部612は、入出力部608を介して計測信号を表示部70に時系列に表示させることが可能である。これにより、操作者は、部分放電に関す物理量を観察することが可能となる。
【0032】
判定処理部614は、信号処理部612が生成した計測信号に基づき、回転電機10の状態を判定する。例えば、信号処理部612が生成した計測信号の絶対値が所定の閾値を超えた場合に、異常と判定する。判定処理部614は、異常と判定した場合に、入出力部608を介して異常を示す表示形態を表示部70に表示させることが可能である。
【0033】
また、別の判定処理例としては、1秒間当たり10回以上発生したパル状の部分放電に対応する計測信号の最大の値を、最大放電電荷量と定義する。判定処理部614は、号処理部612が生成した計測信号に基づき、1秒間当たり10回以上の部分放電に対応するパルスピークが得られ、且つピークの最大値が、所定の閾値を超えた場合に、異常と判定する。判定処理部614は、異常と判定した場合に、入出力部608を介して異常を示す表示形態を表示部70に表示させることが可能である。また、判定処理部614での診断前に、既知の放電信号を模した校正用信号を後述する第1計測領域9に投入し、センサ30の出力信号のピークなどの特徴量との関係を明らかにしておく解析的な校正処理を行ってもよい。この解析的な校正処理に基づき、本計測における診断時の放電電荷量は、取得した信号の特徴量から逆算して求めることが可能となる。
【0034】
図3乃至
図9を用いて、補正処理部610の詳細な処理例を説明する。
図3は、記憶部604に記憶されるセンサ30と、同電位部40と、の配置パターン例を示す図である。配置パターン1は、センサ30が同電位部40の直下にある配置パターンである。配置パターン2は、センサ30が同電位部40の直下にない配置パターンである。センサ30と、同電位部40と、の配置パターンは、このように例えば2つの配置パターンに対応する。
【0035】
これから分かるように、部分放電計測装置20の計測系の等価回路は、後述する
図5、8などで示すように、例えば2パターンとなる。補正処理部610は、
図3に示す配置例を示す図を表示部70に表示させる。操作者は、操作部80を介して配置パターンを選択する。
【0036】
図4は、配置パターン1の配置例を示す図である。第1計測領域9は、校正用信号を入力する同電位部40の領域である。第2計測領域8は、同電位部40及び絶縁体を外した時に、センサ30の計測対象となる仮想的な領域である。すなわち、第2計測領域8は、導体4に直接的に接する仮想の計測点であり、絶縁層内の領域である。第1計測領域9は、同電位部40の内面に覆われる導体4の絶縁層表面の領域である。補正処理部610は、第1計測領域9に校正用信号を供給した際の計測信号を用いて、計測信号と第2計測領域8に流れる電流との対応関係を補正係数として生成する。つまり、この計測系では、回転電機10内で発生する部分放電は、第2計測領域8で計測される信号に対応する。
【0037】
図5は、
図4で示した配置例における計測系の等価回路を示す図である。
図6は、等価回路の各構成要素に対する入力項目、及び入力値の例を示す図である。この等価回路は一例であり、等価回路、及び数値例は、これらに限定されない。
【0038】
例えば配置パターン1が選択された場合に、補正処理部610は、
図5で示す等価回路と、
図6で示す入力項目を表示部70に表示させる。操作者は、
図6で示す入力項目に対応する構成値として、数値を入力する。これらは、一度設定すると、記憶部604に記憶されるので、計測系を変更しない場合には、再設定は不要である。
【0039】
図4に示すように、発電機インダクタンス10zは、回転電機10内のインダクタンスであり、静電容量11は、導体4を囲む絶縁層の静電容量であり、静電容量12は、導体4とセンサ30間の静電容量であり、静電容量13は、センサとシールド間の静電容量である。静電容量14は、導体4を構成する同軸ケーブルの静電容量であり、インダクタンス15は、導体4を構成する同軸ケーブルのインダクタンスである。インピーダンス16は、センサ30の検出インピーダンスである。
【0040】
これらの等価回路の各要素の数値は、既知であるか、計測値を用いて演算可能である。インピーダンスZの各要素と、静電容量12とは、既知である。また、例えば静電容量11は、第2計測領域8とセンサ30までの仮想距離dと、第2計測領域8の仮想面積Sと、絶縁層の比誘電率εrと、真空の誘電率ε0を用いてε0εr×S/dより算出可能である。なお、本実施形態では、発電機インダクタンス10zは、計測系のインピーダンスへの影響は小さいため、演算では無視することとする。
【0041】
同電位部40の第1計測領域9から校正用信号を供給した際に、計測点17の電位V1が生成される。上述のように、インピーダンス16は、センサ30の検出インピーダンスであるので、校正用信号を供給した際の計測点17の電位V1は、センサ30の計測信号の信号値に対応する。
【0042】
上述のように、等価回路の各要素の数値が既知である。このため、例えば、第2計測領域8における発生電位v0と、第1計測領域9の絶縁表面電位v0’との比である減衰特性v0’/v0は1/k1=0.909として演算される。このとき、第1計測領域9の絶縁表面電位v0’は、所定の時間あたり、例えば数ナノ秒あたりの所定の電荷量、例えば数百ピコクーロンに対応する。これにより、計測点17の電位V1に減衰特性の逆数として係数k1=v0/v0’をかけることによって、所定の電荷量に対応する補正演算を行うことが可能となる。
図6で示すよう、例えば、導体4の絶縁層の静電容量11を10pF、導体4とセンサ30間の静電容量12を1pF、センサ30とシールド間の静電容量13を1.5pF、同軸ケーブルの静電容量14を2.04nF、同軸ケーブルのインダクタンス5.1μH、センサ30の検出インピーダンスを50Ωである場合、1/k1=0.901となる。このように、補正処理部610は、
図6で示す入力項目の数値に従い、自動的に係数k1を演算する。
【0043】
例えば、導体4の絶縁層の静電容量11を200pF、導体4とセンサ30間の静電容量12を1pF、センサ30とシールド間の静電容量13を1.5pF、同軸ケーブルの静電容量14を2.04nF、同軸ケーブルのインダクタンス4.97μH、センサ30の検出インピーダンスを50Ωである場合、1/k1=0.995となる。本実施形態では、減衰特性値が1に十分近い場合は、校正精度への影響が小さいため、補正処理を省略することとする。例えば、減衰特性値の絶対値が0.990から1.010のである場合に、補正処理を省略することとする。
【0044】
このように、補正処理部610は、実際に第1計測領域9に校正用信号を流し、実際の計測系を介してセンサ30で計測を行うこととした。更に、計測系の等価回路は、既知であるので、補正処理部610は、等価回路の各要素の値を用いて、センサ30の計測値と、第2計測領域8の計測値との対応関係を係数k1として演算する。これにより、信号処理部612は、計測信号を計測電流I8=k1×V1として演算する。k1は補正係数である。これらから分かるように、信号処理部612の生成する計測信号は、第2計測領域8で計測される計測電流の電流値I8と対応している。すなわち、信号処理部612の生成する計測信号は、所定時間内における部分放電の電荷量と等価な値となる。なお、本実施形態では、計測信号を電流として説明するが、これに限定されない。上述のように、計測信号は、第2計測領域8で計測される部分放電の電荷量に対応すればよく、例えば電圧信号としてもよく、或いは、所定時間あたりの電荷信号としてもよい。
【0045】
図7は、配置パターン2の配置例を示す図である。第1計測領域9は、校正用信号を入力する同電位部40の領域である。第2計測領域8は、同電位部40及び絶縁体を外した時に、センサ30の計測対象となる領域である。すなわち、第2計測領域8と、センサ30の位置は離れている。
【0046】
図8は、
図7で示した配置例における計測系の等価回路を示す図である。同電位部40からセンサ30直上位置までの導体のインダクタンス18が追加されている。
【0047】
図9は、等価回路の各構成要素に対する入力項目、及び入力値の例を示す図である。この等価回路は一例であり、等価回路、及び数値例は、これらに限定されない。
【0048】
上述のように、信号処理部612は、等価回路の情報を用いて、校正用信号と、電位V1との関係に基づき、計測信号の電流値I8=k1b×V1として演算する。k1bは補正係数である。このように、信号処理部612の生成する計測信号は、実際に発生する部分放電の電荷量と等価な関係にあり、例えば部分放電の電荷量と物理的なディメンションが一致している。
【0049】
図9で示すよう、例えば、導体4の絶縁層の静電容量11を10pF、導体4とセンサ30間の静電容量12を1pF、センサ30とシールド間の静電容量13を1.5pF、同軸ケーブルの静電容量14を2.04nF、同軸ケーブルのインダクタンス5.1μH、センサ30の検出インピーダンスを50Ω、インダクタンス18を5pHである場合、1/k1b=1.100となる。
【0050】
例えば、導体4の絶縁層の静電容量11を200pF、導体4とセンサ30間の静電容量12を1pF、センサ30とシールド間の静電容量13を1.5pF、同軸ケーブルの静電容量14を2.04nF、同軸ケーブルのインダクタンス5.1μH、センサ30の検出インピーダンスを50Ω、インダクタンス18を5pHである場合、1/k1b=1.001となる。上述のように、例えば、減衰特性値の絶対値が0.990から1.010の間である場合に、補正処理を省略することとする。
【0051】
以上が本実施形態の構成の説明であるが、以下に処理例を説明する。
図10は、本実施形態に係る補正処理例のフローチャートである。
図10に示すように、操作者は、例えばセンサ30を導体保護カバー6(
図1参照)に配置し、同電位部40を筐体5に配置する(ステップS100)。
【0052】
次に、補正処理部610が表示部70に表示させる選択画面(
図3参照)を介して、操作者は、操作部80を介して例えば配置パターン1を選択する(ステップS102)。続けて、補正処理部610は、配置パターン1の等価回路と、等価回路に対応する入力項目(
図5、
図6参照)を表示部70に表示させ、操作者は、操作部80を介して各項目に対応する構成値を入力する(ステップS104)。これらの構成値は、記憶部604に記憶される。
【0053】
次に、操作部80を介した操作者の校正開始信号の入力に応じて、信号生成部50に校正用信号を生成させて、同電位部40の第1計測領域9から既知の校正用信号を出力する。この際の、センサ30の出力信号は、AD変換部608でデジタル出力信号に変換され、補正処理部610に供給される(ステップS106)。
【0054】
次に、補正処理部610は、等価回路に対応する入力項目と、デジタル出力信号とに基づき、補正係数k1を演算する(ステップS106)。このように、補正処理部610は、実際に第1計測領域9に校正用信号を流し、実際の計測系を介してセンサ30で計測を行うことにより、センサ30の計測信号V1と実際の校正用信号と、等価回路の各構成値とに基づき、第2計測領域8の電流値と計測信号V1との対応関係を補正係数k1として演算する。
【0055】
図11は、本実施形態に係る本計測のフローチャートである。
図11に示すように、操作者は、操作部80を介して計測60の計測を開始する(ステップS200)。
【0056】
次に、信号処理部612は、補正処理部610が生成した補正係数k1などに基づき、センサ30の出力信号に基づくデジタル出力信号を用いて、計測信号を生成する(ステップS202)。
【0057】
次に、信号処理部612は、入出力部608を介して、生成した計測信号を時系列に表示部70に表示させる(ステップS204)。このように、信号処理部612は、補正係数k1に基づき、計測信号を生成し、表示部70に時系列に表示させる。これにより、操作者は、導体4の絶縁層の内側における第2計測領域8で計測される電流と等価な計測信号を監視することが可能となる。
【0058】
以上説明したように、本実施形態によれば、校正用信号生成部50aを構成する同電位部40、及び信号生成部50が、絶縁された導体4に校正用信号を供給し、補正処理部610が校正用信号を供給した際のセンサ30の出力信号を用いて、補正係数k1、k1bを生成することとした。そして、信号処理部612は、本計測時に、補正係数k1、k1bに基づきセンサ30の出力信号を処理することとした。これにより、信号処理部612の生成する計測信号を部分放電の電荷量と比例させることが可能となる。更に、補正処理部610は、絶縁されている導体4に対する同電位部40の位置と、センサ30の位置と、に基づく等価回路の情報を用いて、補正係数k1、k1bを生成するので、信号処理部612は、導体4の絶縁層の内側における第2計測領域8で計測される部分放電に対応する電流と等価な計測信号を生成可能となる。
【0059】
(第1実施形態の変形例)
第1実施形態の変形例に係る部分放電計測システム1は、同電位部40の替わりにアンテナ40aを用いて導体4と非接触に校正用信号を導体4に供給する点で第1実施形態に係る部分放電計測システム1と相違する。以下では、第1実施形態に係る部分放電計測システム1と相違する点を説明する。
【0060】
図12は、導体4に対するセンサ30と、アンテナ40aと、の配置パターン例を示す図である。
図13は、
図12で示す計測系の等価回路を示す図である。
図12に示すように、アンテナ40aを用いて導体4と非接触に校正用信号を導体4に供給する。この場合、導体4との接触抵抗の影響を抑制して、より安定的に各補正係数を演算可能となる。
図13に示すように、補正処理部610は、アンテナ40aに関する静電容量を、静電容量11bとして各補正係数を演算することが可能である。なお、本実施形態に係るアンテナ40a、及び信号生成部50が、校正用信号生成部50aを構成する。
【0061】
(第2実施形態)
第2実施形態係る部分放電計測システム1は、導体4の長さに依存した減衰率を更に計測可能である点で第1実施形態に係る部分放電計測システム1と相違する。以下では、第1実施形態に係る部分放電計測システム1と相違する点を説明する。
【0062】
図14は、導体4に対するセンサ30と、同電位部40と、の配置パターン例を示す図である。
図14に示すように、導体4に対するセンサ30と、同電位部40と、の位置を変えて、校正用信号を導体4に供給し、計測信号を計測する。
【0063】
図15は、計測結果例を示す図である。横軸は、同電位部40と、センサ30との間の距離を示し、縦軸は計測信号の強度を示す。これらのデータは記憶部604に記憶される。
【0064】
補正処理部610は、同電位部40と、センサ30との距離に応じた減衰率を演算し、補正係数k1、k1bに反映する。これにより、計測信号に同電位部40と、センサ30との距離の情報を反映することが可能となり、計測精度がより向上する。
【0065】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0066】
1:部分放電計測システム、2:回転子、3:固定子、4:導体、5:筐体、6:導体保護カバー、10:回転電機、20:部分放電計測装置、30:センサ、40:同電位部、40a:アンテナ、50:信号生成部、50a:校正用信号生成部、60:計測器、70:表示部、80:操作部、610:補正処理部、612:信号処理部、614:判定処理部、k1、k1b:補正係数。