(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023183317
(43)【公開日】2023-12-27
(54)【発明の名称】ポリフェニレンエーテル、その製造方法、熱硬化性組成物、プリプレグ、及び積層体
(51)【国際特許分類】
C08G 65/38 20060101AFI20231220BHJP
C08G 65/44 20060101ALI20231220BHJP
C08G 65/48 20060101ALI20231220BHJP
C08J 5/24 20060101ALI20231220BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20231220BHJP
【FI】
C08G65/38
C08G65/44
C08G65/48
C08J5/24 CEZ
B32B27/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022096861
(22)【出願日】2022-06-15
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165951
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 憲悟
(74)【代理人】
【識別番号】100196298
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 高雄
(72)【発明者】
【氏名】田中 雄大
(72)【発明者】
【氏名】福圓 真一
(72)【発明者】
【氏名】金 載勲
【テーマコード(参考)】
4F072
4F100
4J005
【Fターム(参考)】
4F072AA08
4F072AB09
4F072AB28
4F072AD42
4F072AG03
4F072AH02
4F072AJ04
4F072AL13
4F100AB33B
4F100AG00B
4F100AK25A
4F100AK53A
4F100AK54A
4F100AL05A
4F100AT00B
4F100BA01
4F100BA02
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10B
4F100DG12B
4F100DH01A
4F100JA07
4F100JB13A
4F100YY00A
4J005AA26
4J005BB01
4J005BB02
4J005BD00
(57)【要約】
【課題】本発明の目的は、誘電特性に優れるポリフェニレンエーテル及びその製造方法を提供することを目的とする。また、該ポリフェニレンエーテルを用いた、熱硬化性組成物、プリプレグ、及び積層体を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明のポリフェニレンエーテルは、式(1)のフェノールから誘導された繰り返し単位と、式(2)のフェノールから誘導された繰り返し単位と、式(4)のフェノールから誘導された繰り返し単位とを有する、ことを特徴としている。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)のフェノールから誘導された繰り返し単位と、下記式(2)のフェノールから誘導された繰り返し単位と、下記式(4)のフェノールから誘導された繰り返し単位とを有する、ことを特徴とするポリフェニレンエーテル。
【化1】
(式(1)中、R
11は各々独立に、置換されていてもよい炭素数1~6の飽和炭化水素基、置換されていてもよい炭素数6~12のアリール基、又はハロゲン原子であり、R
12は各々独立に、水素原子、置換されていてもよい炭素数1~6の炭化水素基、置換されていてもよい炭素数6~12のアリール基、又はハロゲン原子である。)
【化2】
(式(2)中、R
22は各々独立に、水素原子、置換されていてもよい炭素数1~20の飽和若しくは不飽和炭化水素基、置換されていてもよい炭素数6~12のアリール基、又はハロゲン原子であり、2つのR
22は両方が水素原子でなく、R
21は下記式(3)で表される部分構造である。
【化3】
(式(3)中、R
31は各々独立に、置換されていてもよい炭素数1~8の直鎖アルキル基、又は2つのR
31が結合した炭素数1~8の環状アルキル構造であり、R
32は各々独立に、置換されていてもよい炭素数1~8のアルキレン基であり、bは各々独立に、0又は1であり、R
33は、水素原子、置換されていてもよい炭素数1~8のアルキル基又は置換されていてもよいフェニル基である。)
【化4】
(式(4)中、R
41は、前記R
21と異なり、置換されていてもよい炭素数1~6の飽和炭化水素基、置換されていてもよい炭素数6~12のアリール基、又はハロゲン原子であり、R
42は各々独立に、水素原子、置換されていてもよい炭素数1~6の炭化水素基、置換されていてもよい炭素数6~12のアリール基、又はハロゲン原子である。)
【請求項2】
前記式(1)のフェノールから誘導された繰り返し単位と、前記式(2)のフェノールから誘導された繰り返し単位と、前記式(4)のフェノールから誘導された繰り返し単位との合計100mol%に対して、前記式(1)のフェノールから誘導された繰り返し単位5~50mol%と、前記式(2)のフェノールから誘導された繰り返し単位25~75mol%と、前記式(4)のフェノールから誘導された繰り返し単位5~60mol%とを含む、請求項1に記載のポリフェニレンエーテル。
【請求項3】
前記R21がt-ブチル基である式(2)のフェノールから誘導された繰り返し単位を含む、請求項1又は2に記載のポリフェニレンエーテル。
【請求項4】
前記式(4)のフェノールが、オルトクレゾール、及び2,5-ジメチルフェノールからなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1又は2に記載のポリフェニレンエーテル。
【請求項5】
下記式(5)、式(6)、式(7)、及び式(8)からなる群から選ばれる少なくとも一つの部分構造を有する、請求項1又は2に記載のポリフェニレンエーテル。
【化5】
【化6】
【化7】
(式(7)中、R
7は、水素原子又は炭素数1~10の飽和若しくは不飽和の炭化水素基であり、前記飽和若しくは不飽和の炭化水素は炭素数1~10の条件を満たす限度で置換基を有していてもよい。)
【化8】
(式(8)中、R
81は、炭素数1~10の飽和又は不飽和の2価の炭化水素基であり、該飽和又は不飽和の2価の炭化水素は炭素数1~10の条件を満たす限度で置換基を有していてもよく、R
82は、水素原子又は炭素数1~10の飽和又は不飽和の炭化水素基であり、該飽和又は不飽和の炭化水素は炭素数1~10の条件を満たす限度で置換基を有していてもよい。)
【請求項6】
前記式(1)のフェノール、前記式(2)のフェノール及び前記式(4)のフェノールを含む原料の酸化重合を行う工程を含む、請求項1又は2に記載のポリフェニレンエーテルの製造方法。
【請求項7】
請求項1又は2に記載のポリフェニレンエーテルを含む、熱硬化性組成物。
【請求項8】
基材と、請求項7に記載の熱硬化性組成物とを含む、プリプレグ。
【請求項9】
前記基材がガラスクロスである、請求項8に記載のプリプレグ。
【請求項10】
請求項8に記載のプリプレグの硬化物と、金属箔とを含む、積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリフェニレンエーテル、その製造方法、熱硬化性組成物、プリプレグ、及び積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリフェニレンエーテル(以下、「PPE」ともいう。)は、優れた高周波特性、難燃性、耐熱性を有するため、電気・電子分野、自動車分野、食品・包装分野の製品・部品用の材料、その他の各種工業材料分野の材料として幅広く用いられている。特に、近年、その誘電特性や耐熱性を活かし基板材料等の電子材料用途及び様々な用途における改質剤としての応用が進められている。
【0003】
しかしながら、一般的に2,6-ジメチルフェノールに代表される1価フェノールから誘導される繰返し単位を有する高分子量のポリフェニレンエーテルは、第5世代通信システム(5G)向けミリ波レーダーに対応できるような、高周波数帯における十分な誘電特性を有していない。
【0004】
特許文献1には、不飽和脂肪族炭化水素基が置換したポリフェニレンエーテル誘導体を用いた、高周波数帯において低誘電正接を示す樹脂組成物が開示されている。
特許文献2には、多官能型変性ポリフェニレンエーテル樹脂を用いた、低誘電正接を示す高速電子回路基材における樹脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2020/095422号
【特許文献2】特許第6514405号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の通り、特許文献1、2には樹脂組成物の誘電特性を改善するためのポリフェニレンエーテル等の製造方法が開示されている。しかし、単にポリフェニエンエーテルへの不飽和脂肪族炭化水素基の導入や、多官能基性に変化させるのみでは、第5世代通信システム(5G)向けミリ波レーダー等に応用可能な高周波数における誘電特性への高い性能要求に対して不十分であり、更なる低誘電正接を有する必要がある。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、誘電特性に優れるポリフェニレンエーテル及びその製造方法を提供することを目的とする。
また、該ポリフェニレンエーテルを用いた、熱硬化性組成物、プリプレグ、及び積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1]
下記式(1)のフェノールから誘導された繰り返し単位と、下記式(2)のフェノールから誘導された繰り返し単位と、下記式(4)のフェノールから誘導された繰り返し単位とを有する、ことを特徴とするポリフェニレンエーテル。
【化1】
(式(1)中、R
11は各々独立に、置換されていてもよい炭素数1~6の飽和炭化水素基、置換されていてもよい炭素数6~12のアリール基、又はハロゲン原子であり、R
12は各々独立に、水素原子、置換されていてもよい炭素数1~6の炭化水素基、置換されていてもよい炭素数6~12のアリール基、又はハロゲン原子である。)
【化2】
(式(2)中、R
22は各々独立に、水素原子、置換されていてもよい炭素数1~20の飽和若しくは不飽和炭化水素基、置換されていてもよい炭素数6~12のアリール基、又はハロゲン原子であり、2つのR
22は両方が水素原子でなく、R
21は下記式(3)で表される部分構造である。
【化3】
(式(3)中、R
31は各々独立に、置換されていてもよい炭素数1~8の直鎖アルキル基、又は2つのR
31が結合した炭素数1~8の環状アルキル構造であり、R
32は各々独立に、置換されていてもよい炭素数1~8のアルキレン基であり、bは各々独立に、0又は1であり、R
33は、水素原子、置換されていてもよい炭素数1~8のアルキル基又は置換されていてもよいフェニル基である。)
【化4】
(式(4)中、R
41は、前記R
21と異なり、置換されていてもよい炭素数1~6の飽和炭化水素基、置換されていてもよい炭素数6~12のアリール基、又はハロゲン原子であり、R
42は各々独立に、水素原子、置換されていてもよい炭素数1~6の炭化水素基、置換されていてもよい炭素数6~12のアリール基、又はハロゲン原子である。)
[2]
前記式(1)のフェノールから誘導された繰り返し単位と、前記式(2)のフェノールから誘導された繰り返し単位と、前記式(4)のフェノールから誘導された繰り返し単位との合計100mol%に対して、前記式(1)のフェノールから誘導された繰り返し単位5~50mol%と、前記式(2)のフェノールから誘導された繰り返し単位25~75mol%と、前記式(4)のフェノールから誘導された繰り返し単位5~60mol%とを含む、[1]に記載のポリフェニレンエーテル。
[3]
前記R
21がt-ブチル基である式(2)のフェノールから誘導された繰り返し単位を含む、[1]又は[2]に記載のポリフェニレンエーテル。
[4]
前記式(4)のフェノールが、オルトクレゾール、及び2,5-ジメチルフェノールからなる群から選ばれる少なくとも1種である、[1]~[3]のいずれかに記載のポリフェニレンエーテル。
[5]
下記式(5)、式(6)、式(7)、及び式(8)からなる群から選ばれる少なくとも一つの部分構造を有する、[1]~[4]のいずれかに記載のポリフェニレンエーテル。
【化5】
【化6】
【化7】
(式(7)中、R
7は、水素原子又は炭素数1~10の飽和若しくは不飽和の炭化水素基であり、前記飽和若しくは不飽和の炭化水素は炭素数1~10の条件を満たす限度で置換基を有していてもよい。)
【化8】
(式(8)中、R
81は、炭素数1~10の飽和又は不飽和の2価の炭化水素基であり、該飽和又は不飽和の2価の炭化水素は炭素数1~10の条件を満たす限度で置換基を有していてもよく、R
82は、水素原子又は炭素数1~10の飽和又は不飽和の炭化水素基であり、該飽和又は不飽和の炭化水素は炭素数1~10の条件を満たす限度で置換基を有していてもよい。)
[6]
前記式(1)のフェノール、前記式(2)のフェノール及び前記式(4)のフェノールを含む原料の酸化重合を行う工程を含む、[1]~[5]のいずれかに記載のポリフェニレンエーテルの製造方法。
[7]
[1]~[5]のいずれかに記載のポリフェニレンエーテルを含む、熱硬化性組成物。
[8]
基材と、[7]に記載の熱硬化性組成物とを含む、プリプレグ。
[9]
前記基材がガラスクロスである、[8]に記載のプリプレグ。
[10]
[8]に記載のプリプレグの硬化物と、金属箔とを含む、積層体。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、誘電特性に優れるポリフェニレンエーテル及びその製造方法を提供することができる。また、該ポリフェニレンエーテルを用いた、熱硬化性組成物、プリプレグ、及び積層体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という。)について、詳細に説明する。以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明は、この本実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明は、その要旨の範囲内で適宜に変形して実施できる。
【0011】
本実施形態において、ポリフェニレンエーテルが含有する一部又は全部の水酸基が変性されたポリフェニレンエーテルを、単に「ポリフェニレンエーテル」と表現する場合がある。従って、「ポリフェニレンエーテル」と表現された場合には、特に矛盾が生じない限り、未変性のポリフェニレンエーテル及び変性されたポリフェニレンエーテルの両方を含む。
なお、本明細書において、A(数値)~B(数値)は、A以上B以下を意味する。また、本明細書において、置換基とは、例えば、炭素数1~10の飽和又は不飽和炭化水素基、炭素数6~10のアリール基、ハロゲン原子等が挙げられる。
【0012】
<ポリフェニレンエーテル>
本実施形態のポリフェニレンエーテルは、下記式(1)のフェノールから誘導された繰り返し単位と下記式(2)のフェノールから誘導された繰り返し単位と下記式(4)のフェノールから誘導された繰り返し単位とを少なくとも含み、下記式(1)のフェノールから誘導された繰り返し単位と下記式(2)のフェノールから誘導された繰り返し単位と下記式(4)のフェノールから誘導された繰り返し単位とのみからなっていてもよい。
【化9】
(式(1)中、R
11は各々独立に、置換されていてもよい炭素数1~6の飽和炭化水素基、置換されていてもよい炭素数6~12のアリール基、又はハロゲン原子であり、R
12は各々独立に、水素原子、置換されていてもよい炭素数1~6の炭化水素基、置換されていてもよい炭素数6~12のアリール基、又はハロゲン原子である。)
【化10】
(式(2)中、R
22は各々独立に、水素原子、置換されていてもよい炭素数1~20の飽和若しくは不飽和炭化水素基、置換されていてもよい炭素数6~12のアリール基、又はハロゲン原子であり、2つのR
22は両方が水素原子でなく、R
21は下記式(3)で表される部分構造である。
【化11】
(式(3)中、R
31は各々独立に、置換されていてもよい炭素数1~8の直鎖アルキル基、又は2つのR
31が結合した炭素数1~8の環状アルキル構造であり、R
32は各々独立に、置換されていてもよい炭素数1~8のアルキレン基であり、bは各々独立に、0又は1であり、R
33は、水素原子、置換されていてもよい炭素数1~8のアルキル基又は置換されていてもよいフェニル基である。)
【化12】
(式(4)中、R
41は、上記R
21と異なる構造であり、置換されていてもよい炭素数1~6の飽和炭化水素基、置換されていてもよい炭素数6~12のアリール基、又はハロゲン原子であり、R
42は各々独立に、水素原子、置換されていてもよい炭素数1~6の炭化水素基、置換されていてもよい炭素数6~12のアリール基、又はハロゲン原子である。)
【0013】
上記式(1)中、R11は各々独立に、炭素数1~6の飽和炭化水素基又は炭素数6~12のアリール基であることが好ましく、より好ましくはメチル基又はフェニル基、さらに好ましくはメチル基である。式(1)中、2つのR11は、共に同じ構造であることが好ましい。
上記R11の炭素数1~6の飽和炭化水素基、炭素数6~12のアリール基における置換基としては、炭素数1~10の飽和又は不飽和炭化水素基、炭素数6~10のアリール基、ハロゲン原子が挙げられる。
【0014】
上記式(1)中、R12は各々独立に、水素原子又は炭素数1~6の炭化水素基であることが好ましく、より好ましくは水素原子又はメチル基、さらに好ましくは水素原子である。式(1)中、2つのR12は、同じ構造であってもよいし異なる構造であってもよいが、同じ構造であることが好ましい。
上記R12の炭素数1~6の炭化水素基、炭素数6~12のアリール基における置換基としては、炭素数1~10の飽和又は不飽和炭化水素基、炭素数6~10のアリール基、ハロゲン原子が挙げられる。
【0015】
上記式(2)中、R22は各々独立に、水素原子、炭素数1~15の飽和若しくは不飽和炭化水素基、又は炭素数1~6のアルキル基で置換されていてもよい炭素数6~12のアリール基であることが好ましく、水素原子、炭素数1~6の炭化水素基、又は炭素数1~6のアルキル基で置換されていてもよい炭素数6~10のアリール基であることがより好ましく、さらに好ましくは水素原子又はメチル基である。式(2)中、2つのR22は異なることが好ましく、一方が水素原子、他方が炭素数1~6の炭化水素基(好ましくはメチル基)であることがより好ましい。
上記R22の炭素数1~20の飽和又は不飽和炭化水素基、炭素数6~12のアリール基における置換基としては、炭素数1~10の飽和又は不飽和炭化水素基、炭素数6~10のアリール基、ハロゲン原子が挙げられる。
【0016】
上記式(3)で表される部分構造としては、好ましくは、2級及び/又は3級炭素を含む基であり、例えばイソプロピル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、tert-アミル基、2,2-ジメチルプロピル基、シクロヘキシル基や、これらの末端にフェニル基を有する構造等が挙げられ、より好ましくは、tert-ブチル基、シクロヘキシル基であり、さらに好ましくはtert-ブチル基である。
なお、上記R31の炭素数1~8の直鎖アルキル基における置換基、上記R32の炭素数1~8のアルキレン基における置換基、及び上記R33の炭素数1~8のアルキル基及びフェニル基における置換基、としては、炭素数1~10の飽和又は不飽和炭化水素基、炭素数6~10のアリール基、ハロゲン原子が挙げられる。
【0017】
上記式(4)中、R
41はR
21とは異なり、置換されていてもよい炭素数1~6の飽和炭化水素基又は置換されていてもよい炭素数6~12のアリール基であることが好ましく、より好ましくはメチル基又はフェニル基さらに好ましくはメチル基である。
上記「R
41はR
21とは異なり」としては、R
41が下記式(3’)を満たさないことが好ましい。
【化13】
(式(3’)中、R
31は各々独立に、置換されていてもよい炭素数1~8の直鎖アルキル基、又は2つのR
31が結合した炭素数1~8の環状アルキル構造であり、R
32は各々独立に、置換されていてもよい炭素数1~8のアルキレン基であり、bは各々独立に、0又は1であり、R
33は、水素原子、置換されていてもよい炭素数1~8のアルキル基又は置換されていてもよいフェニル基である。)
上記R
41の炭素数1~6の飽和炭化水素基、炭素数6~12のアリール基における置換基としては、炭素数1~10の飽和又は不飽和炭化水素基、炭素数6~10のアリール基、ハロゲン原子が挙げられる。
【0018】
上記式(4)中、R42は各々独立に、水素原子、置換されていてもよい炭素数1~6の炭化水素基、置換されていてもよい炭素数6~12のアリール基、又はハロゲン原子であることが好ましく、水素原子、メチル基、フェニル基であることがより好ましく、さらに好ましくは水素原子又はメチル基である。式(4)中、2つのR42は両方が水素原子又は一方が水素原子、他方が炭素数1~6の炭化水素基(好ましくはメチル基)であってもよい。
上記R42の炭素数1~6の飽和炭化水素基、炭素数6~12のアリール基における置換基としては、炭素数1~10の飽和又は不飽和炭化水素基、炭素数6~10のアリール基、ハロゲン原子が挙げられる。
【0019】
上記式(4)のフェノールは、オルトクレゾール、及び2,5-ジメチルフェノールからなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0020】
本実施形態のポリフェニレンエーテルは、式(1)のフェノールから誘導された繰り返し単位と式(2)のフェノールから誘導された繰り返し単位と式(4)のフェノールから誘導された繰り返し単位の合計100mol%に対して、式(1)のフェノールから誘導された繰り返し単位を5~50mol%と式(2)のフェノールから誘導された繰り返し単位を25~75mol%と式(4)のフェノールから誘導された繰り返し単位を5~60mol%含有する。
低誘電正接であるポリフェニレンエーテルを得る観点より、式(1)のフェノールから誘導された繰り返し単位は、式(1)のフェノールから誘導された繰り返し単位と式(2)のフェノールから誘導された繰り返し単位と式(4)のフェノールから誘導された繰り返し単位の合計100mol%に対して、7~48mol%であることが好ましく、より好ましくは10~45mol%である。
同様の観点から、式(2)のフェノールから誘導された繰り返し単位は、式(1)のフェノールから誘導された繰り返し単位と式(2)のフェノールから誘導された繰り返し単位と式(4)のフェノールから誘導された繰り返し単位の合計100mol%に対して、28~72mol%であることが好ましく、より好ましくは30~70mol%である。
同様の観点から、式(4)のフェノールから誘導された繰り返し単位は、式(1)のフェノールから誘導された繰り返し単位と式(2)のフェノールから誘導された繰り返し単位と式(4)のフェノールから誘導された繰り返し単位の合計100mol%に対して、7~58mol%であることが好ましく、より好ましくは10~55mol%である。
【0021】
本実施形態のポリフェニレンエーテル100mol%に対して、式(1)のフェノールから誘導された繰り返し単位と式(2)のフェノールから誘導された繰り返し単位と式(4)のフェノールから誘導された繰り返し単位の合計モルは、75mol%以上であることが好ましく、より好ましくは90mol%以上、さらに好ましくは95mol%以上である。
【0022】
式(1)のフェノールは未置換のオルト位を有さないため(即ち、ヒドロキシル基が結合する炭素原子の2つのオルト位の炭素原子には水素原子が結合しないため)、フェノール性ヒドロキシル基とパラ位の炭素原子だけにおいて別のフェノール性モノマーと反応できる。従って、式(1)から誘導された繰り返し単位は、下記式(9)の構造を有する繰り返し単位を含む。
【化14】
(式(9)中、R
11とR
12は式(1)と同様である。)
【0023】
式(2)のフェノールは、フェノール性ヒドロキシル基に加えて、フェノールのオルト位又はパラ位のいずれかで別のフェノール性モノマーと反応可能である。従って、式(2)のフェノールから誘導された繰り返し単位は、下記式(10)、下記式(11)の構造あるいはこれらの組み合わせを有する。
【化15】
【化16】
(式(10)、式(11)中、R
21、R
22は式(2)と同様である。)
【0024】
式(4)のフェノールは、式(2)のフェノールと同様に、フェノール性ヒドロキシル基に加えて、フェノールのオルト位又はパラ位のいずれかで別のフェノール性モノマーと反応可能である。従って、式(4)のフェノールから誘導された繰り返し単位は、下記式(12)、下記式(13)の構造あるいはこれらの組み合わせを有する。
【化17】
【化18】
(式(12)、式(13)中、R
41、R
42は式(4)と同様である。)
【0025】
本実施形態におけるポリフェニレンエーテルは、式(1)のフェノールと式(2)のフェノールと式(4)のフェノールに加え、下記式(14)の2価フェノールに由来する構造を含有する4元共重合体を不純物(本明細書において、単に「不純物A」と称する場合がある。)として含有しても良い。本実施形態のポリフェニレンエーテルは、上記ポリフェニレンエーテルと上記不純物Aとの混合物であってもよい。本実施形態のポリフェニレンエーテル100モル%に対する不純物Aのモル割合としては、10モル%以下であることが好ましく、より好ましくは5モル%以下である。
上記不純物Aは、例えば、1価フェノールの酸化重合の際に副生成物として発生する下記式(15)と1価フェノールから構成されるポリフェニレンエーテルとの反応により、式(14)のz=0である2価フェノール由来の構造を含有する4元共重合体として合成され得る。
【化19】
(式(14)中、R
11とR
12は式(1)と同様である。zは0又は1であり、Yは、
【化20】
(式中、R
51は各々独立に、置換されていてもよい炭素数1~6の炭化水素基、置換されていてもよい炭素数6~12のアリール基、及びハロゲン原子のいずれか)のいずれかである。)
【化21】
(式(15)中、R
11とR
12は式(1)と同様である。)
【0026】
本実施形態におけるポリフェニレンエーテルは、ポリフェニレンエーテルに含まれる水酸基が官能基(例えば、不飽和炭素結合を含む官能基等)へ変性された変性ポリフェニレンエーテルであっても良い。
【0027】
本実施形態におけるポリフェニレンエーテルは下記式(5)、式(6)、式(7)、及び式(8)からなる群から少なくとも一つの部分構造を有しても良い。
【化22】
【化23】
【化24】
(式(7)中、R
7は、水素原子又は炭素数1~10の飽和若しくは不飽和の炭化水素基であり、上記飽和若しくは不飽和の炭化水素は炭素数1~10の条件を満たす限度で置換基を有していてもよい。)
【化25】
(式(8)中、R
81は、炭素数1~10の飽和又は不飽和の2価の炭化水素基であり、該飽和又は不飽和の2価の炭化水素は炭素数1~10の条件を満たす限度で置換基を有していてもよく、R
82は、水素原子又は炭素数1~10の飽和又は不飽和の炭化水素基であり、該飽和又は不飽和の炭化水素は炭素数1~10の条件を満たす限度で置換基を有していてもよい。)
なお、上記式(5)、式(6)、式(7)、式(8)からなる群から選ばれる少なくとも一つで表される部分構造は、ポリフェニレンエーテルに含まれる水酸基と直接結合してもよい。
【0028】
<ポリフェニレンエーテルの製造方法>
本実施形態のポリフェニレンエーテルは、例えば、上記式(1)、式(2)、式(4)で表される一価のフェノール化合物の酸化重合を行う工程を少なくとも含む方法により得られる。上記酸化重合を行う工程は、上記式(1)のフェノール及び式(2)のフェノール及び式(4)のフェノールを少なくとも含む原料を酸化重合することが好ましい。
【0029】
上記式(1)で表される一価のフェノール化合物としては、例えば、2,6-ジメチルフェノール、2-メチル-6-エチルフェノール、2,6-ジエチルフェノール、2-エチル-6-n-プロピルフェノール、2-メチル-6-クロルフェノール、2-メチル-6-ブロモフェノール、2-メチル-6-n-プロピルフェノール、2-エチル-6-ブロモフェノール、2-メチル-6-n-ブチルフェノール、2,6-ジ-n-プロピルフェノール、2-エチル-6-クロルフェノール、2-メチル-6-フェニルフェノール、2,6-ジフェニルフェノール、2-メチル-6-トリルフェノール、2,6-ジトリルフェノール、2,3,6-トリメチルフェノール、2,3-ジエチル-6-n―プロピルフェノール、2,3,6-トリブチルフェノール、2,6-ジ-n-ブチル-3-メチルフェノール、2,6-ジメチル-3-n-ブチルフェノール、2,6-ジメチル-3-t-ブチルフェノール等が挙げられる。中でも、特に、安価であり入手が容易であるため、2,6-ジメチルフェノール、2,3,6-トリメチルフェノール、2,6-ジフェニルフェノールが好ましい。
上記式(1)で表される一価のフェノール化合物は、1種を単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0030】
上記式(2)で表される一価のフェノール化合物としては、例えば2-イソプロピル-5-メチルフェノール、2-シクロヘキシル-5-メチルフェノール、2-tert-ブチル-5-メチルフェノール、2-イソブチル-5-メチルフェノール等が挙げられる。多分岐化抑制、ゲル化抑制の観点より嵩高い置換基である2-t-ブチル-5-メチルフェノール、2-シクロヘキシル-5-メチルフェノールがより好ましい。
上記式(2)で表される一価のフェノール化合物は、1種を単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0031】
上記式(4)で表される一価のフェノール化合物としては、例えばo-クレゾール、2-エチルフェノール、2-フェニルフェノール、2,3-ジメチルフェノール、2,5-ジメチルフェノール、2-メチル-3-エチルフェノール、2-メチル-5-エチルフェノール、2-メチル-5-n-プロピルフェノール、2-メチル-5-クロルフェノール、2-メチル-5-ブロモフェノール、2,5-ジエチルフェノール、2-エチル-5-n-プロピルフェノール、2-メチル-5-n-ブチルフェノール、2,5-ジ-n-プロピルフェノール、2-エチル-5-クロルフェノール、2-エチル-5-ブロモフェノール、2-メチル-5-フェニルフェノール、2,5-ジフェニルフェノール、2-メチル-5-トリルフェノール、2,5-ジトリルフェノール、2,3,5-ジメチルフェノール等が挙げられる。中でも、特に、安価であり入手が容易であるため、o-クレゾール、2,5-ジメチルフェノールが好ましい。
上記式(4)で表される一価のフェノール化合物は、1種を単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
通常、上記式(4)で表されるオルト位に水素原子を有するフェノールの酸化重合(例えば、2-メチルフェノール、2,5-ジメチルフェノール、2-フェニルフェノール)はオルト位においてもエーテル結合が形成され得るため、酸化重合時のフェノール化合物の結合位置の制御が困難となり、平均水酸基数が3個/分子以上の分岐状に重合された高分子量なポリマーが得られ、最終的には溶剤に不溶なゲル成分が発生する(下記参考例1の2,5-ジメチルフェノールと2,6-ジメチルフェノールの酸化重合を参照)。
一方、上記式(2)で表される片側のオルト位に嵩高い置換基を有するフェノールを用いた場合には反対側のオルト位に水素原子を有するにも関わらず、酸化重合時のフェノール化合物の結合位置の制御が可能となり、平均水酸基が2.5個/分子未満のポリフェニレンエーテルを得ることが出来る。上記式(2)で表される片側のオルト位に嵩高い置換基を有するフェノールを用いた場合には、第3成分として上記式(4)で表されるフェノールを有する1価フェノールを用いた場合にもゲル化せず、平均水酸基が2.5個/分子未満のポリフェニレンエーテルを得ることが出来る。
【0033】
本実施形態で用いられる重合触媒としては、一般的にポリフェニレンエーテルの製造に用いることが可能な公知の触媒系を使用できる。一般的に知られている触媒系としては、酸化還元能を有する遷移金属イオンと当該遷移金属イオンと錯形成可能なアミン化合物からなるものが知られており、例えば、銅化合物とアミン化合物からなる触媒系、マンガン化合物とアミン化合物からなる触媒系、コバルト化合物とアミン化合物からなる触媒系、等である。重合反応は若干のアルカリ性条件下で効率よく進行するため、ここに若干のアルカリもしくは更なるアミン化合物を加えることもある。
【0034】
本実施形態で好適に使用される重合触媒は、触媒の構成成分として銅化合物、ハロゲン化合物並びにアミン化合物からなる触媒であり、より好ましくは、アミン化合物として下記式(16)で表されるジアミン化合物を含む触媒である。
【化26】
式(16)中、R
16、R
17、R
18、R
19は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1から6の直鎖状又は分岐状アルキル基であり、全てが同時に水素原子ではない。R
20は、炭素数2から5の直鎖状又はメチル分岐を持つアルキレン基である。
【0035】
ここで述べられた触媒成分の銅化合物の例を列挙する。好適な銅化合物としては、第一銅化合物、第二銅化合物又はそれらの混合物を使用することができる。第二銅化合物としては、例えば、塩化第二銅、臭化第二銅、硫酸第二銅、硝酸第二銅等を例示することができる。また、第一銅化合物としては、例えば、塩化第一銅、臭化第一銅、硫酸第一銅、硝酸第一銅等を例示することができる。これらの中で特に好ましい金属化合物は、塩化第一銅、塩化第二銅、臭化第一銅、臭化第二銅である。またこれらの銅塩は、酸化物(例えば酸化第一銅)、炭酸塩、水酸化物等と対応するハロゲン又は酸から使用時に合成しても良い。しばしば用いられる方法は、先に例示の酸化第一銅とハロゲン化水素(又はハロゲン化水素の溶液)を混合して作製する方法である。
【0036】
ハロゲン化合物としては、例えば、塩化水素、臭化水素、ヨウ化水素、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、ヨウ化ナトリウム、塩化カリウム、臭化カリウム、ヨウ化カリウム、塩化テトラメチルアンモニウム、臭化テトラメチルアンモニウム、ヨウ化テトラメチルアンモニウム、塩化テトラエチルアンモニウム、臭化テトラエチルアンモニウム、ヨウ化テトラエチルアンモニウム等である。また、これらは、水溶液や適当な溶剤を用いた溶液として使用できる。これらのハロゲン化合物は、成分として単独でも用いられるし、2種類以上組み合わせて用いても良い。好ましいハロゲン化合物は、塩化水素の水溶液、臭化水素の水溶液である。
【0037】
これらの化合物の使用量は、特に限定されないが、銅原子のモル量に対してハロゲン原子として2倍以上20倍以下が好ましく、重合反応に添加するフェノール化合物100モルに対して好ましい銅原子の使用量としては0.02モルから0.6モルの範囲である。
【0038】
次に触媒成分のジアミン化合物の例を列挙する。例えば、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N’-トリメチルエチレンジアミン、N,N’-ジメチルエチレンジアミン、N,N-ジメチルエチレンジアミン、N-メチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’-テトラエチルエチレンジアミン、N,N,N’-トリエチルエチレンジアミン、N,N’-ジエチルエチレンジアミン、N,N-ジエチルエチレンジアミン、N-エチルエチレンジアミン、N,N-ジメチル-N’-エチルエチレンジアミン、N,N’-ジメチル-N-エチルエチレンジアミン、N-n-プロピルエチレンジアミン、N,N’-n-プロピルエチレンジアミン、N-i-プロピルエチレンジアミン、N,N’-i-プロピルエチレンジアミン、N-n-ブチルエチレンジアミン、N,N’-n-ブチルエチレンジアミン、N-i-ブチルエチレンジアミン、N,N’-i-ブチルエチレンジアミン、N-t-ブチルエチレンジアミン、N,N’-t-ブチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’-テトラメチル-1,3-ジアミノプロパン、N,N,N’-トリメチル-1,3-ジアミノプロパン、N,N’-ジメチル-1,3-ジアミノプロパン、N-メチル-1,3-ジアミノプロパン、N,N,N’,N’-テトラメチル-1,3-ジアミノ-1-メチルプロパン、N,N,N’,N’-テトラメチル-1,3-ジアミノ-2-メチルプロパン、N,N,N’,N’-テトラメチル-1,4-ジアミノブタン、N,N,N’,N’-テトラメチル-1,5-ジアミノペンタン等が挙げられる。本実施形態にとって好ましいジアミン化合物は、2つの窒素原子をつなぐアルキレン基の炭素数が2又は3のものである。これらのジアミン化合物の使用量は、特に限定されないが、重合反応に添加するフェノール化合物100モルに対して0.01モルから10モルの範囲が好ましい。
【0039】
本実施形態においては、重合触媒の構成成分として、第1級アミン及び第2級モノアミンを含むことができる。第2級モノアミンとしては、以下に限定されるものではないが、例えば、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジ-n-プロピルアミン、ジ-i-プロピルアミン、ジ-n-ブチルアミン、ジ-i-ブチルアミン、ジ-t-ブチルアミン、ジペンチルアミン類、ジヘキシルアミン類、ジオクチルアミン類、ジデシルアミン類、ジベンジルアミン類、メチルエチルアミン、メチルプロピルアミン、メチルブチルアミン、シクロヘキシルアミン、N-フェニルメタノールアミン、N-フェニルエタノールアミン、N-フェニルプロパノールアミン、N-(m-メチルフェニル)エタノールアミン、N-(p-メチルフェニル)エタノールアミン、N-(2’,6’-ジメチルフェニル)エタノールアミン、N-(p-クロロフェニル)エタノールアミン、N-エチルアニリン、N-ブチルアニリン、N-メチル-2-メチルアニリン、N-メチル-2,6-ジメチルアニリン、ジフェニルアミン等が挙げられる。
【0040】
本実施形態における重合触媒の構成成分として、第3級モノアミン化合物を含むこともできる。第3級モノアミン化合物とは、脂環式第3級アミンを含めた脂肪族第3級アミンである。例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリイソブチルアミン、ジメチルエチルアミン、ジメチルプロピルアミン、アリルジエチルアミン、ジメチル-n-ブチルアミン、ジエチルイソプロピルアミン、N-メチルシクロヘキシルアミン等が挙げられる。これらの第3級モノアミンは、単独でも用いられるし、2種類以上組み合わせて用いても良い。これらの使用量は、特に限定されないが、重合反応に添加するフェノール化合物100モルに対して15モル以下の範囲が好ましい。
【0041】
本実施形態では、従来より重合活性に向上効果を有することが知られている界面活性剤を添加することについて、何ら制限されない。そのような界面活性剤として、例えば、Aliquat336やCapriquatの商品名で知られるトリオクチルメチルアンモニウムクロライドが挙げられる。その使用量は、重合反応混合物の全量100質量%に対して0.1質量%を超えない範囲が好ましい。
【0042】
本実施形態の重合における酸素含有ガスとしては、純酸素の他、酸素と窒素等の不活性ガスとを任意の割合で混合したもの、空気、更には空気と窒素等の不活性ガスとを任意の割合で混合したもの等が使用できる。重合反応中の系内圧力は、常圧で充分であるが、必要に応じて減圧でも加圧でも使用できる。
【0043】
重合の温度は、特に限定されないが、低すぎると反応が進行しにくく、また高すぎると反応選択性の低下やゲルが生成するおそれがあるので、0~60℃、好ましくは10~45℃の範囲である。
【0044】
ポリフェニレンエーテルの製造方法では、アルコール等の貧溶剤中で重合を行うことも出来る。
【0045】
(銅抽出及び副生成物除去工程)
本実施形態において、重合反応終了後の後処理方法については、特に制限はない。通常、塩酸や酢酸等の酸、又はエチレンジアミン4酢酸(EDTA)及びその塩、イミノ二酢酸及びその塩、ニトリロトリ酢酸及びその塩等を反応液に加えて、触媒を失活させる。また、ポリフェニレンエーテルの重合により生じる二価フェノール体の副生成物を除去処理する方法も、従来既知の方法を用いて行うことができる。上記の様に触媒である金属イオンが実質的に失活されている状態であれば、該混合物を加熱するだけで脱色される。また既知の還元剤を必要量添加する方法でも可能である。既知の還元剤としては、ハイドロキノン、亜二チオン酸ナトリウム等が挙げられる。
【0046】
(液液分離工程)
ポリフェニレンエーテルの製造方法においては、銅触媒を失活させた化合物を抽出するため水を添加し、有機相と水相に液液分離を行った後、水相を除去することで有機相から銅触媒を除去してよい。この液液分離工程は、特に限定しないが、静置分離、遠心分離機による分離等の方法が挙げられる。上記液液分離を促進させるためには、公知の界面活性剤等を用いてもよい。
【0047】
(濃縮・乾燥工程)
続いて、本実施形態のポリフェニレンエーテルの製造方法においては、液液分離後の上記ポリフェニレンエーテルが含まれた有機相を、溶剤を揮発させることで濃縮・乾燥させてよい。
【0048】
上記有機相に含まれる溶剤を揮発させる方法としては、特に限定はしないが、有機相を高温の濃縮槽に移し溶剤を留去させて濃縮する方法やロータリーエバポレーター等の機器を用いてトルエンを留去させて濃縮する方法等が挙げられる。
【0049】
乾燥工程における乾燥処理の温度としては、少なくとも60℃以上が好ましく、80℃以上がより好ましく、120℃以上が更に好ましく、140℃以上が最も好ましい。ポリフェニレンエーテルの乾燥を60℃以上の温度で行うと、ポリフェニレンエーテル粉体中の高沸点揮発成分の含有量を効率よく低減できる。
【0050】
ポリフェニレンエーテルを高効率で得るためには、乾燥温度を上昇させる方法、乾燥雰囲気中の真空度を上昇させる方法、乾燥中に撹拌を行う方法等が有効であるが、特に、乾燥温度を上昇させる方法が製造効率の観点から好ましい。乾燥工程は、混合機能を備えた乾燥機を使用することが好ましい。混合機能としては、撹拌式、転動式の乾燥機等が挙げられる。これにより処理量を多くすることができ、生産性を高く維持できる。
【0051】
本実施形態のポリフェニレンエーテルは上記式(1)のフェノールから誘導されるポリフェニレンエーテルを酸化剤の存在下で、上記式(2)のフェノール化合物と上記式(4)のフェノール化合物とを平衡化する再分配反応によって製造することもできる。再分配反応は、当該技術において公知であり、例えばCooperらの米国特許第3496236号明細書、及びLiskaらの米国特許第5880221号明細書に記載されている。
【0052】
(変性反応工程)
未変性ポリフェニレンエーテルの水酸基へ官能基を導入する方法に限定はなく、例えば、未変性ポリフェニレンエーテルの水酸基と、炭素-炭素2重結合を有するカルボン酸(以下カルボン酸)とのエステル結合の形成反応により得られる。エステル結合の形成法は、公知の様々な方法を利用することが出来る。たとえば、a.カルボン酸ハロゲン化物とポリマー末端の水酸基との反応、b.カルボン酸無水物との反応によるエステル結合の形成、c.カルボン酸との直接反応、d.エステル交換反応による方法、等があげられる。aのカルボン酸ハロゲン化物との反応は最も一般的な方法の一つである。カルボン酸ハロゲン化物としては、塩化物、臭化物が一般的に用いられるが、他のハロゲンを利用してもかまわない。反応は、水酸基との直接反応、水酸基のアルカリ金属塩との反応いずれでも構わない。カルボン酸ハロゲン化物と水酸基との直接反応ではハロゲン化水素等の酸が発生するため、酸をトラップする目的でアミン等の弱塩基を共存させてもよい。bのカルボン酸無水物との反応やcのカルボン酸との直接反応では、反応点を活性化し、反応を促進するために、例えばカルボジイミド類やジメチルアミノピリジン等の化合物を共存させてもかまわない。dのエステル交換反応の場合は、必要に応じて、生成したアルコール類の除去を行うことが望ましい。また、反応を促進させるために公知の金属触媒類を共存させてもかまわない。反応後は、アミン塩等の副生物等を除くために、水、酸性、又はアルカリ性の水溶液で洗浄してもかまわないし、ポリマー溶液をアルコール類のような貧溶媒中に滴下し、再沈殿により、目的物を回収してもかまわない。またポリマー溶液を洗浄後、減圧下に溶媒を留去し、ポリマーを回収してもかまわない。
【0053】
本実施形態の変性ポリフェニレンエーテルの製造方法は、上述のポリフェニレンエーテルの製造方法に限定されることなく、上述の、酸化重合工程、銅抽出及び副生成物除去工程、液液分離工程、濃縮・乾燥工程の順序や回数等を適宜調整してよい。
【0054】
<熱硬化性組成物>
本実施形態のポリフェニレンエーテルは、熱硬化性組成物の原料として用いることができる。熱硬化性組成物は、上述の本実施形態のポリフェニレンエーテルを含むものであれば特に限定されないが、架橋剤と、有機過酸化物とを更に含むことが好ましく、所望により、熱可塑性樹脂、難燃剤、その他の添加剤、シリカフィラー、溶剤等を更に含むことができる。本実施形態の熱硬化性組成物の構成要素について以下に説明する。
【0055】
(ポリフェニレンエーテル)
本実施形態の熱硬化性組成物に含まれるポリフェニレンエーテルは、上述のとおり、熱硬化性組成物において、単独の樹脂として使用してもよいし、他の構造を有するポリフェニレンエーテルと併用してもよいし、公知の各種添加剤と組み合わせて使用することもできる。
他の成分と組み合わせて用いる場合、熱硬化性組成物中のポリフェニレンエーテルの含有量は、0.5~95質量%であることが好ましく、より好ましくは20~93質量%、更に好ましくは40~90質量%である。
【0056】
(架橋剤)
本実施形態の熱硬化性組成物では、架橋反応を起こすか、又は促進する能力を有する任意の架橋剤を使用することができる。
架橋剤は、数平均分子量が4,000以下であることが好ましい。架橋剤の数平均分子量が4,000以下であると、熱硬化性組成物の粘度の増大を抑制でき、また加熱成形時の良好な樹脂流動性が得られる。
なお、数平均分子量は、一般的な分子量測定方法で測定した値としてよく、具体的には、GPCを用いて測定した値等が挙げられる。
【0057】
架橋剤は、架橋反応の観点から、炭素-炭素不飽和二重結合を1分子中に平均2個以上有することが好ましい。架橋剤は、1種類の化合物で構成されてもよく、2種類以上の化合物で構成されてもよい。
なお、本明細書にいう「炭素-炭素不飽和二重結合」とは、架橋剤がポリマー又はオリゴマーである場合、主鎖より分岐した末端に位置する二重結合をいう。炭素-炭素不飽和二重結合としては、例えば、ポリブタジエンにおける1,2-ビニル結合が挙げられる。
【0058】
架橋剤の数平均分子量が600未満である場合、架橋剤の1分子当たりの炭素-炭素不飽和二重結合の数(平均値)は、2~4であることが好ましい。架橋剤の数平均分子量が600以上1,500未満の場合には、架橋剤の1分子当たりの炭素-炭素不飽和二重結合の数(平均値)は、4~26であることが好ましい。架橋剤の数平均分子量が1,500以上4,000未満の場合には、架橋剤の1分子当たりの炭素-炭素不飽和二重結合の数(平均値)は、26~60であることが好ましい。架橋剤の数平均分子量が上記範囲内にある場合に、炭素-炭素不飽和二重結合の数が上記特定値以上であることにより、本実施形態の熱硬化性組成物は、架橋剤の反応性が一層高まり、熱硬化性組成物の硬化物の架橋密度が一層向上し、その結果、一層優れた耐熱性を付与できる。一方で、架橋剤の数平均分子量が上記範囲内にある場合に、炭素-炭素不飽和二重結合の数が、上記特定値以下であることにより、加熱成形時に一層優れた樹脂流動性を付与できる。
【0059】
架橋剤としては、例えば、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)等のトリアルケニルイソシアヌレート化合物、トリアリルシアヌレート(TAC)等のトリアルケニルシアヌレート化合物、分子中にメタクリル基を2個以上有する多官能メタクリレート化合物、分子中にアクリル基を2個以上有する多官能アクリレート化合物、ポリブタジエン等の分子中にビニル基を2個以上有する多官能ビニル化合物、分子中にビニルベンジル基を有するジビニルベンゼン等のビニルベンジル化合物、4,4’-ビスマレイミドジフェニルメタン等の分子中にマレイミド基を2個以上有する多官能マレイミド化合物等が挙げられる。これらの架橋剤は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いられる。架橋剤は、これらの中でも、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、及びポリブタジエンから成る群より選択される少なくとも1種の化合物を含むことが好ましい。架橋剤が、上記で説明された少なくとも1種以上の化合物を含むことにより、熱硬化性組成物は、架橋剤とポリフェニレンエーテルとの相溶性及び塗工性に一層優れ、そして電子回路基板に実装されると基板特性に一層優れる傾向にある。
【0060】
ポリフェニレンエーテルと架橋剤との質量比(ポリフェニレンエーテル:架橋剤)は、架橋剤と変性ポリフェニレンエーテルとの相溶性、熱硬化性組成物の塗工性、及び実装された電子回路基板の特性に一層優れるという観点から、25:75~95:5であることが好ましく、より好ましくは、32:68~85:15である。
【0061】
(有機過酸化物)
本実施形態では、ポリフェニレンエーテル及び架橋剤を含む熱硬化性組成物の重合反応を促進する能力を有する任意の有機過酸化物を使用することができる。有機過酸化物としては、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、2,5-ジメチルヘキサン-2,5-ジハイドロパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3、ジ-t-ブチルパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイド、ジ(2-t-ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジクミルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキシイソフタレート、t-ブチルパーオキシベンゾエート、2,2-ビス(t-ブチルパーオキシ)ブタン、2,2-ビス(t-ブチルパーオキシ)オクタン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、ジ(トリメチルシリル)パーオキサイド、トリメチルシリルトリフェニルシリルパーオキサイド等の過酸化物が挙げられる。なお、2,3-ジメチル-2,3-ジフェニルブタン等のラジカル発生剤も熱硬化性組成物のための反応開始剤として使用することができる。中でも、得られる耐熱性及び機械特性に優れ、更に低い誘電正接(さらに誘電率も低いことが好ましい)を有する硬化物を提供することができるという観点から、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3、ジ(2-t-ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、及び2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサンが好ましい。
【0062】
有機過酸化物の1分間半減期温度は、好ましくは155~185℃であり、より好ましくは160~180℃、更に好ましくは165~175℃である。有機過酸化物の1分間半減期温度が155~185℃の範囲内にあることにより、有機過酸化物と変性PPEとの相溶性、熱硬化性組成物の塗工性、及び実装された電子回路基板の特性に一層優れる傾向にある。
なお、本明細書において、1分間半減期温度とは、有機過酸化物が分解して、その活性酸素量が半分になる時間が1分間となる温度である。1分間半減期温度は、ラジカルに対して不活性な溶剤、例えばベンゼン等に有機過酸化物を0.05~0.1mol/Lの濃度となるように溶解させ、有機過酸化物溶液を窒素雰囲気化で熱分解させる方法で確認される値である。
【0063】
1分間半減期温度が155~185℃の範囲内にある有機過酸化物としては、例えば、t-へキシルペルオキシイソプロピルモノカーボネート(155.0℃)、t-ブチルペルオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサノエート(166.0℃)、t-ブチルペルオキシラウレート(159.4℃)、t-ブチルペルオキシイソプロピルモノカーボネート(158.8℃)、t-ブチルペルオキシ2-エチルへキシルモノカーボネート(161.4℃)、t-へキシルパーオキシベンゾエート(160.3℃)、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン(158.2℃)、t-ブチルペルオキシアセテート(159.9℃)、2,2-ジ-(t-ブチルパーオキシ)ブタン(159.9℃)、t-ブチルパーオキシベンゾエート(166.8℃)、n-ブチル4,4-ジ-(t-ブチルペルオキシ)バレラート(172.5℃)、ジ(2-t-ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン(175.4℃)、ジクミルパーオキサイド(175.2℃)、ジ-t-へキシルパーオキサイド(176.7℃)、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン(179.8℃)、及びt-ブチルクミルパーオキサイド(173.3℃)等が挙げられる。
【0064】
有機過酸化物の含有量は、ポリフェニレンエーテルと架橋剤との合計100質量部を基準として、有機過酸化物と変性PPEとの相溶性及び熱硬化性組成物の塗工性に一層優れるという観点から、好ましくは0.05質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上、更に好ましくは1質量部以上、より更に好ましくは1.5質量部以上であり、熱硬化性組成物が電子回路基板に実装されると基板特性に優れるという観点から、好ましくは5質量部以下、より好ましくは4.5質量部以下である。
【0065】
(熱可塑性樹脂)
熱可塑性樹脂は、ビニル芳香族化合物とオレフィン系アルケン化合物とのブロック共重合体及びその水素添加物(ビニル芳香族化合物とオレフィン系アルケン化合物とのブロック共重合体を水素添加して得られる水添ブロック共重合体)、並びにビニル芳香族化合物の単独重合体から成る群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
また、熱可塑性樹脂の重量平均分子量は、ポリフェニレンエーテルとの相溶性、樹脂流動性、熱硬化性組成物の塗工性及び硬化時の耐熱性等に一層優れる観点から、好ましくは50,000~780,000、より好ましくは60,000~750,000、更に好ましくは70,000~700,000である。
熱硬化性組成物は、ポリフェニレンエーテル、架橋剤及び有機過酸化物と、上記で説明された種類及び重量平均分子量を有する熱可塑性樹脂とを含むと、変性PPEと他の含有成分との相溶性及び基材等への塗工性が良好になる傾向にあり、ひいては電子回路基板に組み込まれたときの基板特性にも優れることがある。
【0066】
上記ブロック共重合体又はその水素添加物のビニル芳香族化合物由来の単位の含有率は、下限値について、20質量%以上であることが好ましく、より好ましくは、22質量%以上、24質量%以上、26質量%以上、28質量%以上、30質量%以上、32質量%以上である。また、上限値について、70質量%以下であることが好ましく、より好ましくは、69質量%以下、68質量%以下、67質量%以下である。上記ブロック共重合体又はその水素添加物のビニル芳香族化合物由来の単位の含有率が20~70質量%であることにより、変性ポリフェニレンエーテルとの相溶性が一層向上し、かつ/又は金属箔との密着強度が一層向上する傾向にある。
【0067】
ビニル芳香族化合物としては、分子内に芳香環及びビニル基を有すればよく、例えば、スチレン等が挙げられる。
オレフィン系アルケン化合物としては、分子内に直鎖若しくは分岐構造を有するアルケンであればよく、例えば、エチレン、プロピレン、ブチレン、イソブチレン、ブタジエン、及びイソプレン等が挙げられる。
熱可塑性樹脂としては、ポリフェニレンエーテルとの相溶性に一層優れる観点から、スチレン-ブタジエンブロック共重合体、スチレン-エチレン-ブタジエンブロック共重合体、スチレン-エチレン-ブチレンブロック共重合体、スチレン-ブタジエン-ブチレンブロック共重合体、スチレン-イソプレンブロック共重合体、スチレン-エチレン-プロピレンブロック共重合体、スチレン-イソブチレンブロック共重合体、スチレン-ブタジエンブロック共重合体の水素添加物、スチレン-エチレン-ブタジエンブロック共重合体の水素添加物、スチレン-ブタジエン-ブチレンブロック共重合体の水素添加物、スチレン-イソプレンブロック共重合体の水素添加物、及びスチレンの単独重合体(ポリスチレン)から成る群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、スチレン-ブタジエンブロック共重合体、スチレン-ブタジエンブロック共重合体の水素添加物、及びポリスチレンからなる群より選択される1種以上であることがより好ましい。
【0068】
上記水素添加物における水素添加率は、特に限定されず、オレフィン系アルケン化合物由来の炭素-炭素不飽和二重結合が一部残存していてもよい。
【0069】
熱可塑性樹脂の含有量は、ポリフェニレンエーテルと架橋剤との合計100質量部を基準として、2~20質量部であることが好ましく、3~19質量部であることがより好ましく、4~18質量部であることがさらに好ましく、5~17質量部であることが特に好ましい。この含有量が上記数値範囲内にあることにより、本実施形態の熱硬化性組成物は、熱可塑性樹脂と変性ポリフェニレンエーテルとの相溶性及び塗工性に一層優れ、そして電子回路基板に実装されると基板特性に一層優れる傾向にある。
【0070】
なお、本実施形態の熱硬化性組成物は、上記で説明された種類及び重量平均分子量を有する熱可塑性樹脂以外の熱可塑性樹脂を含むこともできる。
【0071】
(難燃剤)
本実施形態の熱硬化性組成物は、難燃剤を含むことが好ましい。難燃剤としては、耐熱性を向上できる観点から、熱硬化性組成物の硬化後に熱硬化性組成物中の他の含有成分と相溶しないものであれば特に制限されない。好ましくは、難燃剤は、熱硬化性組成物の硬化後に熱硬化性組成物中のポリフェニレンエーテル及び/又は架橋剤と相溶しない。
難燃剤としては、例えば、三酸化アンチモン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ホウ酸亜鉛等の無機難燃剤;ヘキサブロモベンゼン、デカブロモジフェニルエタン、4,4-ジブロモビフェニル、エチレンビステトラブロモフタルイミド等の芳香族臭素化合物;レゾルシノールビス-ジフェニルホスフェート、レゾルシノールビス-ジキシレニルホスフェート等のリン系難燃剤等が挙げられる。これらの難燃剤は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、難燃剤は、難燃剤と変性PPEとの相溶性、熱硬化性組成物の塗工性、実装された電子回路基板の特性に一層優れる観点から、デカブロモジフェニルエタンであることが好ましい。
【0072】
難燃剤の含有量は、特に限定されないが、UL規格94のV-0レベルの難燃性を維持するという観点から、ポリフェニレンエーテル樹脂と架橋剤との合計100質量部に対して、好ましくは5質量部以上、より好ましくは10質量部以上、更に好ましくは15質量部以上である。また、得られる硬化物の誘電正接を低く維持できる観点から(好ましくはさらに誘電率も低く維持できる観点から)、難燃剤の含有量は、好ましくは50質量部以下、より好ましくは45質量部以下、更に好ましくは40質量部以下である。
【0073】
(シリカフィラー)
本実施形態の熱硬化性組成物は、シリカフィラーを含有してもよい。シリカフィラーとしては、例えば、天然シリカ、溶融シリカ、合成シリカ、アモルファスシリカ、アエロジル、及び中空シリカ等が挙げられる。
シリカフィラーの含有量は、ポリフェニレンエーテル樹脂と架橋剤との合計100質量部に対して、10~100質量部としてよい。また、シリカフィラーは、その表面にシランカップリング剤等を用いて表面処理をされたものであってもよい。
【0074】
本実施形態の熱硬化性組成物は、難燃剤及びシリカフィラー以外に、熱安定剤、酸化防止剤、UV吸収剤、界面活性剤、滑剤等の添加剤、溶剤等を更に含んでもよい。
本実施形態の熱硬化性組成物は、溶剤を含む場合には、熱硬化性組成物中の固形成分が溶剤に溶解又は分散したワニスの形態であることが可能であり、また、本実施形態の熱硬化性組成物から樹脂フィルムを形成することができる。
【0075】
(溶剤)
溶剤としては、溶解性の観点から、トルエン、キシレン等の芳香族系化合物、メチルエチルケトン(MEK)、シクロペンタノン、シクロヘキサノン及びクロロホルム等が好ましい。これらの溶剤は1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0076】
<プリプレグ>
本実施形態のプリプレグは、基材と上述の本実施形態の熱硬化性組成物とを含み、基材とこの基材に含浸又は塗布された本実施形態の熱硬化性組成物とを含む複合体であることが好ましい。プリプレグは、例えば、ガラスクロス等の基材を上記熱硬化性組成物のワニスに含浸させた後、熱風乾燥機等で溶剤分を乾燥除去することにより得られる。
【0077】
基材としては、ロービングクロス、クロス、チョップドマット、サーフェシングマット等の各種ガラスクロス;アスベスト布、金属繊維布、及びその他の合成若しくは天然の無機繊維布;全芳香族ポリアミド繊維、全芳香族ポリエステル繊維、ポリベンゾオキサゾール繊維等の液晶繊維から得られる織布又は不織布;綿布、麻布、フェルト等の天然繊維布;カーボン繊維布、クラフト紙、コットン紙、紙-ガラス混繊糸から得られる布等の天然セルロース系基材;ポリテトラフルオロエチレン多孔質フィルム;等が挙げられる。中でもガラスクロスが好ましい。これらの基材は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0078】
プリプレグ中の本実施形態の熱硬化性組成物固形分(熱硬化性組成物の溶剤以外の成分)の割合は、30~80質量%であることが好ましく、40~70質量%であることがより好ましい。上記割合が30質量%以上であることにより、プリプレグを電子基板用等に用いた場合に絶縁信頼性に一層優れる傾向にある。上記割合が80質量%以下であることにより、電子基板等の用途において、曲げ弾性率等の機械特性に一層優れる傾向にある。
【0079】
<積層体>
本実施形態の積層体は、上述の本実施形態のプリプレグの硬化物と金属箔とを含み、本実施形態の熱硬化性組成物又は本実施形態のプリプレグと金属箔とを積層して硬化して得られる金属張積層板であることが好ましい。金属張積層板は、プリプレグの硬化物(以下、「硬化物複合体」ともいう。)と金属箔とが積層して密着している形態を有することが好ましく、電子基板用材料として好適に用いられる。
金属箔としては、例えば、アルミ箔及び銅箔が挙げられ、これらの中でも銅箔は電気抵抗が低いため好ましい。
金属箔と組合せる硬化物複合体は、1枚でも複数枚でもよく、用途に応じて複合体の片面又は両面に金属箔を重ねて積層板に加工する。
【0080】
金属張積層板の製造方法としては、例えば、熱硬化性組成物と基材とから構成される複合体(例えば、上述のプリプレグ)を形成し、これを金属箔と重ねた後、熱硬化性組成物を硬化させることにより、硬化物積層体と金属箔とが積層されている積層板を得る方法が挙げられる。
上記金属張積層板の特に好ましい用途の1つはプリント配線板である。プリント配線板は、金属張積層板から金属箔の少なくとも一部が除去されていることが好ましい。
【0081】
<プリント配線板>
上記金属張積層板から金属箔の少なくとも一部を除去して、プリント配線板とすることができる。上記プリント配線板は、典型的には、上述した本実施形態のプリプレグを用いて、加圧加熱成形する方法で形成できる。基材としてはプリプレグに関して上述したのと同様のものが挙げられる。
上記プリント配線板は、本実施形態の熱硬化性組成物を含むことにより、優れた耐熱性及び電気特性(低誘電正接及び/又は低誘電率)を有し、更には環境変動に伴う電気特性の変動を抑制可能であり、更には優れた絶縁信頼性及び機械特性を有する。
【実施例0082】
以下、実施例に基づいて本実施形態を更に詳細に説明するが、本実施形態は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0083】
まず、下記に各物性及び評価の測定方法及び評価基準について述べる。
【0084】
(1)数平均分子量(Mn)
測定装置として、昭和電工(株)製ゲルパーミエーションクロマトグラフィーSystem21を用い、標準ポリスチレンとエチルベンゼンにより検量線を作成し、この検量線を利用して、得られた変性ポリフェニレンエーテルの数平均分子量(Mn)の測定を行った。標準ポリスチレンとしては、分子量が、3,650,000、2,170,000、1,090,000、681,000、204,000、52,000、30,200、13,800、3,360、1,300、550のものを用いた。
カラムは、昭和電工(株)製K-805Lを2本直列につないだものを使用した。溶剤は、クロロホルムを使用し、溶剤の流量は1.0mL/分、カラムの温度は40℃として測定した。測定用試料としては、変性ポリフェニレンエーテルの1g/Lクロロホルム溶液を作製して用いた。検出部のUVの波長は、標準ポリスチレンの場合は254nm、ポリフェニレンエーテルの場合は283nmとした。
上記測定データに基づきGPCにより得られた分子量分布を示す曲線に基づくピーク面積の割合から数平均分子量(Mn)(g/mol)算出した。
【0085】
(2)熱硬化性組成物の硬化物の誘電正接
実施例及び比較例で製造された積層板の10GHzでの誘電正接を、空洞共振法にて測定した。測定装置として、ネットワークアナライザー(N5230A、AgilentTechnologies社製)、及び関東電子応用開発社製の空洞共振器(Cavity Resornator CPシリーズ)を用いた。積層板を、ガラスクロスの経糸が長辺となるように幅約2mm、長さ50mm、厚さ約0.5mmの短冊状に切り出した。次に、105℃±2℃のオーブンに入れ2時間乾燥させた後、23℃相対湿度50±5%の環境下に24±5時間静置した。その後、23℃、相対湿度50±5%の環境下で上記測定装置を用いることにより、誘電正接の測定を行った。
【0086】
以下、各実施例及び比較例のポリフェニレンエーテルの製造方法を説明する。
【0087】
(実施例1)
重合槽底部に酸素含有ガス導入のためのスパージャー、撹拌タービン翼及びバッフルを備え、重合槽上部のベントガスラインに還流冷却器を備えた40リットルのジャケット付き重合槽に、30.9L/分の流量で窒素ガスを吹き込みながら、3.2gの酸化第二銅、24.3gの47質量%臭化水素水溶液、7.8gのジ-t-ブチルエチレンジアミン、37.7gのジ-n-ブチルアミン、114.7gのブチルジメチルアミン、17.8kgのトルエン、及び336gの2,6-ジメチルフェノール、773gの2-tert-ブチル-5-メチルフェノール、891gのo-クレゾールを入れ、均一溶液とした。次に、重合槽へ21.0L/分の速度で乾燥空気をスパージャーより導入し始め、重合を開始した。乾燥空気を120分間通気し、重合混合物を得た。なお、重合中は内温が45℃になるようコントロールした。重合終結時の重合混合物(重合液)は均一な溶液状態であった。
乾燥空気の通気を停止し、重合混合物に45.2gのエチレンジアミン四酢酸4ナトリウム塩(東京化成工業株式会社製試薬)を水2kgの水溶液として添加した。70℃で180分間、重合混合物を撹拌し、その後20分静置し、液-液分離により有機相と水相とを分離した。上記有機相をロータリーエバポレーターにより濃縮し、トルエンを除去した。ついで、乾燥機にて、140℃、1mmHgで120分保持し、乾燥状態のポリフェニレンエーテルを得た。
得られた乾燥ポリフェニレンエーテルについて上述した方法により各測定を行った。
得られた乾燥ポリフェニレンエーテルは、40質量%のトルエン溶液に調製し、変性反応の原液として用いた。変性反応器として、300mL三口ナスフラスコを用い、上部に窒素ガス導入の為のライン、反応器上部のベントガスラインに還流冷却器を備えた。内部を窒素置換した300mL三口フラスコに、40質量%トルエン溶液となるよう調整した乾燥ポリフェニレンエーテルの溶液(未変性ポリフェニレンエーテル溶液)100g、48%水酸化ナトリウム水溶液21.40g、テトラブチルアンモニウムブロミド0.77gを投入した。その後、4-(クロロメチル)スチレン14.49mLをシリンジに採取し、攪拌しながら室温にて系内に滴下した。オイルバスでフラスコを加熱し80℃で攪拌を継続した。90℃で攪拌を開始してから4時間経過した時点で加熱をやめ、常温に戻った後に10%塩酸水溶液で反応を停止させ、溶液のpHを7とした。上記溶液を、ポリマー溶液に対するメタノールの比が10となるメタノールと混合し、ポリマーの析出を行った。ガラスフィルターを用いた減圧濾過により湿潤ポリフェニレンエーテルを得た。さらに湿潤ポリフェニレンエーテルに対するメタノールの比が2.5となる量のメタノールにより湿潤ポリフェニレンエーテルを洗浄した。上記洗浄操作を三回行った。ついで、湿潤ポリフェニレンエーテルを、100℃、1mmHgで8時間保持し、乾燥状態の変性ポリフェニレンエーテルを得た。1H NMR測定を行いビニルベンジル基のオレフィン由来のプロトンピークを確認したことより、水酸基がビニルベンジル基に変性に変性されていると判断した。
次に、変性したポリフェニレンエーテル40.0質量部に対し、TAIC(日本化成社製)10.0質量部、熱可塑性樹脂(タフテックH1041、旭化成社製)5.0質量部、有機過酸化物(パーブチルP、日油社製)0.8質量部、シリカフィラー(CRS1077-EXR4、龍森社製)30.0質量部、難燃剤(SAYTEX8010、アルベマール日本社製)14.2質量部をトルエンに添加し、攪拌、溶解させてワニスを得た(固形分濃度70質量%)。このワニスに、Lガラスクロス(旭シュエーベル社製、スタイル:2116)を含浸させた後、所定のスリットに通すことにより余分なワニスを掻き落とし、105℃の乾燥オーブンにて所定時間乾燥させ、トルエンを除去することにより、プリプレグを得た。このプリプレグを所定サイズに切り出し、そのプリプレグの質量と同サイズのガラスクロスの質量とを比較することで、プリプレグにおける熱硬化性組成物の固形分の含有量を算出したところ、56質量%であった。
このプリプレグを所定枚数重ね、更にその重ね合わせたプリプレグの両面に銅箔(古川電気工業株式会社製、厚み35μm、GTS-MP箔)を重ね合わせた状態で、真空プレスを行うことにより、銅張積層板を得た。この真空プレスの工程では、先ず、室温から昇温速度2℃/分で加熱しながら圧力40kg/cm2の条件とし、次いで、温度が200℃に達した後に、温度を200℃に維持したまま圧力40kg/cm2及び時間60分間の条件を採用した。
次に、上記銅張積層板から、エッチングにより銅箔を除去することにより積層板(厚さ約0.5mm)を得た。上述した方法により得られた積層板の誘電特性を測定した。
各分析結果を表1に示す。
【0088】
(実施例2)
フェノール原料を689gの2,6-ジメチルフェノール、1158gの2-tert-ブチル-5-メチルフェノール、152gのo-クレゾールとした他は実施例1と同様の方法で操作を実施した。
各分析結果を表1に示す。
【0089】
(実施例3)
フェノール原料を522gの2,6-ジメチルフェノール、1170gの2-tert-ブチル-5-メチルフェノール、308gのo-クレゾールとした他は実施例1と同様の方法で操作を実施した。
各分析結果を表1に示す。
【0090】
(実施例4)
フェノール原料を178gの2,6-ジメチルフェノール、1194gの2-tert-ブチル-5-メチルフェノール、628gのo-クレゾールとした他は実施例1と同様の方法で操作を実施した。
各分析結果を表1に示す。
【0091】
(実施例5)
フェノール原料を123gの2,6-ジメチルフェノール、1549gの2-tert-ブチル-5-メチルフェノール、328gのo-クレゾールとした他は実施例1と同様の方法で操作を実施した。
各分析結果を表1に示す。
【0092】
(実施例6)
フェノール原料を683gの2,6-ジメチルフェノール、1147gの2-tert-ブチル-5-メチルフェノール、170gの2,5-ジメチルフェノールとした他は実施例1と同様の方法で操作を実施した。
各分析結果を表1に示す。
【0093】
(比較例1)
フェノール原料を、1626gの2,6-ジメチルフェノール、374gの2,2-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパンとした他は実施例1と同様の方法で操作を実施した。
各分析結果を表1に示す。
【0094】
(参考例1)
反応器底部に酸素含有ガス導入の為のスパージャー、攪拌タービン翼及びバッフル、反応器上部のベントガスラインに還流冷却器を備えた1.5リットルのジャケット付き反応器に、予め調整した0.15gの酸化第一銅及び1.12gの47%臭化水素の混合物と、0.36gのN,N’-ジ-t-ブチルエチレンジアミン、5.31gのジメチル-n-ブチルアミン、1.74gのジ-n-ブチルアミン、891.3gのトルエン、50.0gの2,6-ジメチルフェノール、50.0gの2,5-ジメチルフェノールを入れた。次いで、激しく攪拌しながら反応器へ1.05L/分の速度で空気をスパージャーより導入し始めると同時に、重合温度は40℃を保つようにジャケットに熱媒を通して調節した。空気を導入し始めてから120分後、溶液全体が高粘度化が進行し、ゲルが発生した。
【0095】
【0096】
表1に示すとおり、比較例との比較により、実施例のポリフェニレンエーテルを用いることで、誘電正接が低下した積層板を得ることができた。