(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023018332
(43)【公開日】2023-02-08
(54)【発明の名称】赤外LED素子
(51)【国際特許分類】
H01L 33/22 20100101AFI20230201BHJP
H01L 33/10 20100101ALI20230201BHJP
【FI】
H01L33/22
H01L33/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021122379
(22)【出願日】2021-07-27
(71)【出願人】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石原 邦亮
(72)【発明者】
【氏名】杉山 徹
【テーマコード(参考)】
5F241
【Fターム(参考)】
5F241AA03
5F241CA04
5F241CA05
5F241CA12
5F241CA34
5F241CA74
5F241CA75
5F241CA84
5F241CA92
5F241CB13
5F241CB15
(57)【要約】
【課題】量産しても素子間で発光スペクトルにバラツキが少なく、マルチピーク化を抑制可能な赤外LED素子を提供する。
【解決手段】本発明に係る赤外LED素子は、ピーク波長が1000nm~1800nmの赤外光を出射可能であって、導電性の支持基板と、支持基板の上層に配置され少なくとも一部が前記赤外光に対する反射性を示す材料からなる導電層と、導電層の上層に配置され、InPと格子整合可能な材料からなる半導体積層体と、半導体積層体の一部分の上層に配置された上面電極とを備える。半導体積層体は、支持基板に近い側から順に、p型又はn型の第一半導体層、活性層及び第二半導体層が積層されてなる。第二半導体層は、上面電極が形成されている側の面である第一面に、相互に異なる規則性を示す複数の周期構造で構成された凹凸部を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピーク波長が1000nm~1800nmの赤外光を出射可能な赤外LED素子であって、
導電性の支持基板と、
前記支持基板の上層に配置され、少なくとも一部が前記赤外光に対する反射性を示す材料からなる導電層と、
前記導電層の上層に配置され、InPと格子整合可能な材料からなる半導体積層体と、
前記半導体積層体の一部分の上層に配置された上面電極と、
前記支持基板の、前記導電層が形成されている側とは反対側の面に配置された裏面電極とを備え、
前記半導体積層体は、前記支持基板に近い側から順に、p型又はn型の第一半導体層、活性層、及び前記第一半導体層とは導電型の異なる第二半導体層が積層されてなり、
前記第二半導体層は、前記上面電極が形成されている側の面である第一面に、相互に異なる規則性を示す複数の周期構造を示す凹凸部を備えることを特徴とする、赤外LED素子。
【請求項2】
前記凹凸部は、隣接する凸部同士又は凹部同士の離間距離である周期長、及び前記第二半導体層の前記第一面の法線方向から見たときの配列形状のうち、少なくとも一方の規則性が相互に異なる、複数の凹凸グループを含むことを特徴とする、請求項1に記載の赤外LED素子。
【請求項3】
前記第二半導体層の前記第一面上における座標位置毎の高さの情報をフーリエ変換して得られる波数空間上の回折強度パターンは、少なくとも、前記複数の凹凸グループに属する第一凹凸グループに由来する第一回折強度パターンと、前記複数の凹凸グループに属し前記第一凹凸グループとは異なる第二凹凸グループに由来する第二回折強度パターンとが重ね合わせられてなり、
前記第一回折強度パターン及び前記第二回折強度パターンは、相互に異なるパターン形状を示すことを特徴とする、請求項2に記載の赤外LED素子。
【請求項4】
前記第一面の法線方向から見たときに、前記第一凹凸グループに含まれる凹部と、前記第二凹凸グループに含まれる凹部の形状が相互に異なることを特徴とする、請求項3に記載の赤外LED素子。
【請求項5】
前記複数の凹凸グループは、前記第一凹凸グループと前記第二凹凸グループのみで構成されることを特徴とする、請求項3又は4に記載の赤外LED素子。
【請求項6】
前記半導体積層体は、厚みが20μm以下であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の赤外LED素子。
【請求項7】
前記第二半導体層の前記第一面の、前記上面電極が形成されていない領域に、前記赤外光に対する透過性を示す誘電体層を備えることを特徴とする、請求項1又は2に記載の赤外LED素子。
【請求項8】
前記導電層は、前記赤外光のピーク波長に対して50%以上の反射率を示す反射層を含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載の赤外LED素子。
【請求項9】
出射される前記赤外光の発光スペクトルが、実質的に単一の極大値を示すシングルピーク波形であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の赤外LED素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は赤外LED素子に関し、特にピーク発光波長が1000nm~1800nmの赤外光を出射可能な赤外LED素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、発光波長が1000nm以上の赤外域に属する半導体発光素子は、防犯カメラ、監視カメラ、ガス検知器、医療用のセンサ、又は産業機器等の用途で幅広く用いられている。
【0003】
発光波長が1000nm以上の半導体発光素子は、従来、以下の手順で製造されるのが一般的であった(下記、特許文献1参照)。成長基板としてのInP基板上に、InPに対して格子整合する、第一導電型の半導体層、活性層(「発光層」と称されることもある。)、及び第二導電型の半導体層を順次エピタキシャル成長させる。次に、半導体ウエハ上に、電流を注入するための電極を形成し、チップ状に切断して製造される。
【0004】
従来、発光波長が1000nm以上の半導体発光素子としては、半導体レーザ素子の開発が先行して進められてきた経緯がある。一方で、LED素子については、その用途があまりなかったこともあり、レーザ素子よりは開発が進んでいなかった。
【0005】
しかしながら、近年、アプリケーションの広がりを受け、赤外LED素子についても光出力の向上が求められるようになってきている。InP基板は、可視光領域で用いられるGaAs基板と同様に、屈折率が3以上と高い値を示す。このため、InP基板を通じて光を取り出そうとすると、空気との界面における屈折率差に起因した全反射が生じ、光取り出し効率が低く制限される。更に、InP基板は熱抵抗が大きいため、高出力を実現すべく高電流を注入しても、光出力が飽和しやすい。このような事情から、特許文献1に開示されている構造は、高出力のLED素子を実現するのには不向きであった。
【0006】
特許文献1に開示された構造よりも高い光出力を得る方法として、例えば、特許文献2に開示された構造の採用が考えられる。この構造は、高い放熱性を示す導電性の支持基板(ホウ素(B)などが高濃度にドープされたSi基板)に対して、エピタキシャル層が形成された成長基板を貼り合わせた後、成長基板を除去することで実現される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平4-282875号公報
【特許文献2】特開2013-030606号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、本発明者の鋭意研究によれば、特許文献2に記載された方法で波長1000nm以上の赤外LED素子を製造して実際に発光させると、発光スペクトルにおいて複数のピークが現れる現象(マルチピーク化)が確認された。
【0009】
発光スペクトルがマルチピーク化すると、素子毎にピーク波長が微妙に異なったり、ピーク波長間における強度比にもバラツキが生じるおそれがある。このような赤外LED素子が、分光分析又は特定波長の吸収の用途等の、特定波長の利用を前提とするアプリケーションに利用されると、測定値に揺らぎが生じるおそれがある。つまり、アプリケーションによっては、利用に適さない赤外LED素子となる可能性がある。
【0010】
また、利用する側のアプリケーションの工夫により、スペクトルをシングルピーク化できたとしても、赤外LED素子の出荷検査時にはマルチピークスペクトルを示すことから、最も重要な性能要素である発光波長を正しく検査できないといった問題が生じる。
【0011】
本発明は上記の課題に鑑み、量産しても素子間で発光スペクトルにバラツキが少なく、マルチピーク化を抑制可能な赤外LED素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
特許文献2に記載された方法で波長1000nm以上の赤外LED素子を製造した場合に、発光スペクトルがマルチピーク化した理由について、本発明者は以下のように結論付けた。
【0013】
エピタキシャル層が形成された成長基板としてのInP基板と、支持基板としてのSi基板とを貼り合わせるに際しては、貼り合わせ強度の安定化及び導電性の確保の観点から、両者の間に金属層を介在させるのが一般的である。InP基板に対してSi基板が貼り合わせられた後に、InP基板は剥離される。InP基板が剥離される構造の場合、活性層で生成された光は、支持基板側ではなく、その反対側から取り出されるのが通常である。つまり、支持基板とは反対側の位置に光取り出し面が形成される。
【0014】
金属層は赤外光に対して反射性を示すため、活性層で生成された光のうち、支持基板側に進行した光についても、金属層で反射して光取り出し面に進行する。つまり、活性層で生成された光は、直進光及び反射光のいずれにおいても、エピタキシャル層内を進行した後で外部に取り出される。なお、「直進光」という用語は、活性層から光取り出し面側に向かって進行する光を意味する用語として用いられている。
【0015】
エピタキシャル層の厚みは、支持基板と比較して十分薄いのが一般的である。例えば、支持基板の厚みが100μm以上であるのに対し、エピタキシャル層の厚みは高々30μm以下であり、典型的には5μm~20μmである。この理由は、エピタキシャル層が厚く積まれると、エピタキシャル層内において応力が蓄積されやすくなり、結晶欠陥又はクラックといった結晶品質の低下を招くおそれがあるためである。また、別の理由として、そもそもエピタキシャル層が厚く積まれるほど、エピタキシャル成長の際に利用される原料ガスの消費量が増えることから、製造コストの高騰につながることも挙げられる。
【0016】
このような事情から、成長基板を剥離し支持基板が貼り合わされた構造(以下、適宜「縦型構造」という。)を示す赤外LED素子において、活性層で生成された光は、5μm~20μm程度の厚みを有したエピタキシャル層(結晶層)内を伝搬する。ピーク発光波長が1000nm~1800nmの赤外光を発する赤外LED素子を実際に製造して発光させると、その赤外光のFWHM(半値全幅)は50nm~100nm程度であり、コヒーレンス長は15μm~50μm程度となる。つまり、このコヒーレンス長は、エピタキシャル層の膜厚と同等のオーダー値である。
【0017】
その結果、活性層で発生した自然放出光(LED光)は、エピタキシャル層内で光の干渉による影響を受け、波長によって光が強め合ったり弱め合ったりする現象を生じさせ、発光スペクトルに複数のピーク(マルチピーク)が生じる。ちなみに、このような現象は、本発明が想定しているピーク発光波長が1000nm~1800nmを示すInP系の赤外LED素子よりも、発光波長の短いGaN系やGaAs系の赤外LED素子においても確認される。
【0018】
発光スペクトルがマルチピーク化する現象は、反射性を示す一対の界面で挟まれた薄い領域内を光が伝搬することで生じる。この点に鑑みると、光取り出し面の反射率を低下させることで、マルチピーク化が抑制できると考えられる。上述したGaN系やGaAs系のLED素子においては、光取り出し面を構成する半導体層の主面に対してエッチングを行って、表面をランダムに荒らすことが行われる。これによって、GaN系やGaAs系のLED素子の発光スペクトルの、マルチピーク化が抑制される。
【0019】
GaN系やGaAs系のLED素子において、上記のような方法が採用できるのは、半導体層の主面に対して再現性の高いエッチングを行うことのできる方法が確立されているためである。GaN系の場合、窒素極性面([000-1]面)は、相対的に化学的安定性が低く且つ欠陥密度が高いため、KOH等の薬液によるエッチングによって比較的容易に粗面を形成できる。また、GaAs系の場合、Asが相対的に酸化しやすい元素であるため、酸化剤が添加されたエッチャントを用いて表面にマイクロマスクを形成しながらエッチングすることで、容易に粗面を形成できる。
【0020】
しかしながら、本発明の時点において、InP系のLED素子において、再現性良く表面をランダムに荒らす方法が確立されていない。この理由としては、InPはGaNの窒素極性面より安定性が高く欠陥密度も低い上、好適に酸化物マイクロマスクも形成しにくいことが挙げられる。更に、上述したように、InP系のLED素子は、GaN系やGaAs系のLED素子と比べて、これまで需要が少なかったこともあり、ランダムに表面を荒らすことのできるエッチャントの開発が進んでいない事情も存在する。また、仮にそのようなエッチャントが開発されたとしても、上記事情に鑑みれば、その費用は極めて高価なものになることが想定される。
【0021】
更に、縦型構造の赤外LED素子においては、光取り出し面の上面に電極が配置される。光取り出し面を荒らす場合には、この電極が形成されている領域を意図的に避けながら行う必要がある。このような事情により、表面を荒らすに際しては、高い再現性が必要になる。
【0022】
以上の事情により、InP系の赤外LED素子において、再現性良く表面をランダムに荒らすことのできる方法は、現時点において実用化されていない。
【0023】
なお、上述したように、エピタキシャル層の厚みは5μm~20μm程度と薄いため、光取り出し面に対して物理的な方法を用いて削ることで表面に微小な凹凸を設けることも事実上困難である。仮にそのような方法を採用した場合、凹部が活性層にまで達する可能性があり、発光効率が低下するおそれがある。
【0024】
本発明者は、上記の検証に鑑み、フォトリソグラフィ技術を利用して光取り出し面に対して周期的なパターニングを施した後、そのパターンによって形成された凹部を通じてウェットエッチングを行うことで、光取り出し面に対して周期的な凹凸構造を形成することを検討した。周期的な凹凸構造とすることで、電極等の除外領域への対応を容易化できると共に、ウェットエッチングの進行の程度を一様化できるため、均質性と再現性の両立が可能になると考えられる。
【0025】
しかし、後述されるように、このような方法によって光取り出し面上に周期的な凹凸構造を設けた場合、凹凸構造を設けていない素子と比べると発光スペクトルのピーク数は削減されるものの、依然として発光スペクトルの曲線には、マルチピークに起因する形状が現れた。つまり、この方法で製造されたInP系の赤外LED素子においても、マルチピークが完全には解消されないことが確認された。
【0026】
本発明者は、このような現象が発生した原因の一つが、高い対称性と均一性を持つ周期構造によって生じる回折の反転対称性にあると推定した。回折光学によれば、光取り出し面に設けられた凹凸形状にθ1の角度で入射した光が+α次(αは0を除く整数)の回折によりθ2の角度で反射されるとすれば、同様にθ2の角度で入射した光は-α次の回折によりθ1の角度で反射される。本発明者は、この現象に由来し、元々θ1の角度で入射した光と、元々θ2の角度の光の間で、(当初よりは弱い強度かもしれないが)干渉現象が依然として生じているのではないかと考えた。
【0027】
かかる考察の下、本発明者は、周期的な凹凸構造が形成された光取り出し面に対して、別の周期的な凹凸構造を形成することで、上記の干渉現象を更に抑制できると推定するに至った。
【0028】
以上に鑑み、本発明に係る赤外LED素子は、ピーク波長が1000nm~1800nmの赤外光を出射可能であって、
導電性の支持基板と、
前記支持基板の上層に配置され、少なくとも一部が前記赤外光に対する反射性を示す材料からなる導電層と、
前記導電層の上層に配置され、InPと格子整合可能な材料からなる半導体積層体と、
前記半導体積層体の一部分の上層に配置された上面電極と、
前記支持基板の、前記導電層が形成されている側とは反対側の面に配置された裏面電極とを備え、
前記半導体積層体は、前記支持基板に近い側から順に、p型又はn型の第一半導体層、活性層、及び前記第一半導体層とは導電型の異なる第二半導体層が積層されてなり、
前記第二半導体層は、前記上面電極が形成されている側の面である第一面に、相互に異なる規則性を示す複数の周期構造で構成された凹凸部を備えることを特徴とする。
【0029】
上記の構造によれば、光取り出し面を構成する第二半導体層の第一面上には、相互に異なる規則性を示す複数の周期構造で構成された凹凸部が形成されている。このため、半導体積層体内において、大きさや向きの異なる複数の回折が同時に生じるため、上述した光の干渉現象を相乗的に低減できる。従って、従来のInP系の赤外LED素子よりも、マルチピーク化を大幅に抑制できる。好適には、出射される前記赤外光の発光スペクトルは、実質的に単一の極大値を示すシングルピーク波形である。
【0030】
ここで、「実質的に単一の極大値」とは、ノイズレベルの極大値を除けば、極大値が単一であることを表す。ここで、ノイズレベルとは、極大値を示す波長λ1の発光強度をA(λ1)、λ1に近接する極小値を示す波長λ2の発光強度をA(λ2)としたときに、ある微小な閾値εを用いて、比率σ=[A(λ1)-A(λ2)]/A(λ1)<εであるものを意味する。典型的なεの値として0.001としてよい。
【0031】
上記の構造を有する赤外LED素子であれば、半導体製造手法として確立されているフォトリソグラフィ技術とエッチング技術を利用して製造できるため、量産性、均質性及び再現性が担保される。
【0032】
前記半導体積層体は、InPと格子整合可能な材料、より詳細にはInPからなる成長基板の上層にエピタキシャル成長が可能な材料で構成される。具体的には、InP、GaInAsP、AlGaInAs、及びInGaAsを含む群に属する1種又は2種以上の材料で構成される。なお、本明細書において、「GaInAsP」という記述は、GaとInとAsとPの混晶であることを意味し、組成比の記述を単に省略して記載したものである。「AlGaInAs」等の他の記載も同様である。
【0033】
前記凹凸部は、隣接する凸部同士又は凹部同士の離間距離である周期長、及び前記第二半導体層の前記第一面の法線方向から見たときの配列形状のうち、少なくとも一方の規則性が相互に異なる、複数の凹凸グループを含むものとしても構わない。
【0034】
一例として、第一凹凸グループは、前記周期長が6μmで前記配列形状が三角格子状であるのに対し、第二凹凸グループは、前記周期長が4μmで前記配列形状が三角格子状である。
【0035】
別の一例として、第一凹凸グループは、前記周期長が6μmで前記配列形状が三角格子状であるのに対し、第二凹凸グループは、前記周期長が6μmで前記配列形状が正方格子状である。
【0036】
更に別の一例として、第一凹凸グループは、前記周期長が6μmで前記配列形状が三角格子状であるのに対し、第二凹凸グループは、前記周期長が6μmで前記配列形状が第一凹凸グループとは異なる形状を呈した三角格子状である。より具体的には、前記第二凹凸グループの前記配列形状は、前記第一凹凸グループの前記配列形状とは完全には重なり合っておらず、60°の倍数を除く回転角で回転されている。一例として、前記回転角は90°である。
【0037】
更に別の一例として、第一凹凸グループは、前記周期長が6μmで前記配列形状が三角格子状であるのに対し、第二凹凸グループは、前記周期長が4μmで前記配列形状が正方格子状である。
【0038】
つまり、複数の凹凸グループは、前記周期長と前記配列形状のうち、いずれか一方又は双方が相互に異なっている。
【0039】
前記第二半導体層の前記第一面上における座標位置毎の高さの情報をフーリエ変換して得られる波数空間上の回折強度パターンは、少なくとも、前記複数の凹凸グループに属する第一凹凸グループに由来する第一回折強度パターンと、前記複数の凹凸グループに属し前記第一凹凸グループとは異なる第二凹凸グループに由来する第二回折強度パターンとが重ね合わせられてなり、
前記第一回折強度パターン及び前記第二回折強度パターンは、相互に異なるパターン形状を示すものとしても構わない。
【0040】
上述したように、複数の凹凸グループは、それぞれ規則性を示す周期構造で構成されており、その規則性が相互に異なっている。第二半導体層の第一面上において、同一の周期構造で構成された凹凸部が形成されている場合、その第一面上の座標位置の高さの情報をフーリエ変換して得られる情報は、この凹凸構造の周期性に由来した情報に変換される。例えば、凹凸構造の配列形状が三角格子状である場合、その配列形状の対称性から、波数空間上の回折強度パターンとしては、原点を中心に等間隔の6か所の位置に高い強度値が得られる。この強度値が現れる場所は、凹凸構造の周期長に依存して決定される。
【0041】
回折強度パターンにおいて、高い強度値が示される箇所(スポット)は、回折光の強さと入射光の回折方向とを決定する。つまり、この箇所が少ない場合、言い換えれば極めて限定的な箇所において高い強度値が示されている場合、強い回折光が比較的同じ方向に向かって進行することになる。このような場合、回折光同士が相互に干渉しやすくなると考えられる。逆にいえば、回折強度パターンにおいて、相対的に高い強度値が現れる場所が増えれば増えるほど、光が散乱される方向が増え、干渉の程度が弱められる。
【0042】
上記の構成によれば、前記第二半導体層の前記第一面上に形成された前記凹凸部は、相互に規則性が異なる第一凹凸グループと第二凹凸グループを含み、それぞれの凹凸グループの規則性に由来した回折強度パターンが異なっている。この結果、単一の周期構造を示す凹凸が形成されている場合と比べて、光の散乱方向が増えるため、干渉性が弱められる。
【0043】
前記第一面の法線方向から見たときに、前記第一凹凸グループに含まれる凹部と、前記第二凹凸グループに含まれる凹部の形状が相互に異なるものとしても構わない。
【0044】
第二半導体層の第一面に対して、第一凹凸グループに属する凹凸を形成する方法の一例として、フォトリソグラフィ技術を用いたパターニングとエッチングの一連の処理が実行される。この状態で前記第一面に対して形成された凹部は、この処理で用いられたエッチング処理でエッチングが進行しにくい面が露出されている。このため、次に、第二凹凸グループに属する凹凸を形成すべく、先程と同一のエッチャントを用いてエッチング処理を行っても、エッチングが十分に進行しない可能性がある。
【0045】
かかる観点から、第一凹凸グループに属する凹凸が形成された後の第一面に対して、第二凹凸グループに属する凹凸を形成する際には、異なるエッチャントを用いるのが好適である。この場合、それぞれのエッチャントの材料に起因した第二半導体層の面に対するエッチング特性が異なるため、前記法線方向から見たときに、前記第一凹凸グループに含まれる凹部と、前記第二凹凸グループに含まれる凹部の形状が相互に異なりやすい。典型的な例として、前記第一凹凸グループに含まれる凹部は楕円形状を示し、前記第二凹凸グループに含まれる凹部は真円形状を示す。
【0046】
前記複数の凹凸グループは、前記第一凹凸グループと前記第二凹凸グループのみで構成されるものとしても構わない。
【0047】
上記構成によれば、フォトリソグラフィ技術を用いたパターニングとエッチングの一連の処理を2回行うことで凹凸部を形成できる。つまり、製造工程を大幅に増加することなく、量産性、均質性及び再現性が担保された、シングルピークの赤外LED素子が実現される。
【0048】
前記半導体積層体は、厚みが20μm以下であるものとしても構わない。
【0049】
前記赤外LED素子は、前記第二半導体層の前記第一面側のうちの、前記上面電極が形成されていない領域に、前記赤外光に対する透過性を示す誘電体層を備えるものとしても構わない。
【0050】
上記構成によれば、前記第二半導体層の前記第一面と空気との界面における全反射が抑制され、光取り出し効率が更に高められる。前記誘電体層としては、例えばSiO2、SiN、Al2O3、ZrO、HfO、及びMgOからなる群に属する1種又は2種以上である。
【0051】
前記導電層は、前記赤外光のピーク波長に対して50%以上の反射率を示す反射層を含むものとしても構わない。
【0052】
上記構成によれば、活性層で生成され支持基板側に進行した光を、高効率で第二半導体の第一面側(光取り出し面側)に導くことができる。そして、上述したように、上記構成によれば、半導体積層体内を光が伝搬する間に光同士が干渉する現象が抑制されている。この結果、マルチピーク化を抑制しながらも、光取り出し効率を向上できる。
【0053】
前記反射層としては、例えば、Ag、Ag合金、Au、Al、及びCuからなる群に属する1種又は2種以上とすることができる。
【発明の効果】
【0054】
本発明の赤外LED素子によれば、量産しても素子間で発光スペクトルにバラツキが少なく、且つマルチピーク化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【
図1】本発明の赤外LED素子の一実施形態の構造を模式的に示す断面図である。
【
図2】第二クラッド層の第一面における高さ位置の実空間分布を示す画像である。
【
図3】
図2に示す高さ位置の分布情報をフーリエ変換し、波数空間上に表示した画像である。
【
図4A】第一凹凸グループに属する凹凸のみが形成されている状態の、第二クラッド層の第一面における高さ位置の実空間分布を示す画像である。
【
図4B】
図4Aに示す高さ位置の分布情報をフーリエ変換し、波数空間上に表示した画像である。
【
図5A】第二凹凸グループに属する凹凸のみが形成されている状態の、第二クラッド層の第一面における高さ位置の実空間分布を示す画像である。
【
図5B】
図5Aに示す高さ位置の分布情報をフーリエ変換し、波数空間上に表示した画像である。
【
図6A】ランダムに荒らされた表面上における高さ位置の実空間分布を示す画像である。
【
図6B】
図6Aに示す高さ位置の分布情報をフーリエ変換し、波数空間上に表示した画像である。
【
図7】赤外LED素子から出射される赤外光のスペクトルの一例であり、実施例1の素子の発光スペクトルに対応する。
【
図8A】
図1に示す赤外LED素子の製造方法を説明するための、一工程における断面図である。
【
図8B】
図1に示す赤外LED素子の製造方法を説明するための、一工程における断面図である。
【
図8C】
図1に示す赤外LED素子の製造方法を説明するための、一工程における断面図である。
【
図8D】
図1に示す赤外LED素子の製造方法を説明するための、一工程における断面図である。
【
図8E】
図1に示す赤外LED素子の製造方法を説明するための、一工程における断面図である。
【
図8F】
図1に示す赤外LED素子の製造方法を説明するための、一工程における断面図である。
【
図8G】
図1に示す赤外LED素子の製造方法を説明するための、一工程における断面図である。
【
図8H】
図1に示す赤外LED素子の製造方法を説明するための、一工程における断面図である。
【
図8I】
図1に示す赤外LED素子の製造方法を説明するための、一工程における断面図である。
【
図8J】
図1に示す赤外LED素子の製造方法を説明するための、一工程における断面図である。
【
図8K】
図1に示す赤外LED素子の製造方法を説明するための、一工程における断面図である。
【
図8L】
図1に示す赤外LED素子の製造方法を説明するための、一工程における断面図である。
【
図8M】
図1に示す赤外LED素子の製造方法を説明するための、一工程における断面図である。
【
図8N】
図1に示す赤外LED素子の製造方法を説明するための、一工程における断面図である。
【
図9】比較例1の赤外LED素子の構造を模式的に示す断面図である。
【
図10】比較例1の赤外LED素子から出射される赤外光のスペクトルである。
【
図11】参考例1の赤外LED素子の構造を模式的に示す断面図である。
【
図12】参考例1の赤外LED素子から出射される赤外光のスペクトルである。
【
図13】実施例2の赤外LED素子の、第二クラッド層の第一面における高さ位置の実空間分布を示す画像である。
【
図14】
図13に示す高さ位置の分布情報をフーリエ変換し、波数空間上に表示した画像である。
【
図15A】実施例2の素子において、第二凹凸グループに属する凹凸のみが形成されている状態の、第二クラッド層の第一面における高さ位置の実空間分布を示す画像である。
【
図15B】
図15Aに示す高さ位置の分布情報をフーリエ変換し、波数空間上に表示した画像である。
【
図16】実施例2の赤外LED素子から出射される赤外光のスペクトルである。
【
図17】実施例3の赤外LED素子の、第二クラッド層の第一面における高さ位置の実空間分布を示す画像である。
【
図18】
図17に示す高さ位置の分布情報をフーリエ変換し、波数空間上に表示した画像である。
【
図19】本発明の赤外LED素子の別実施形態の構造を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0056】
本発明に係る赤外LED素子の実施形態につき、図面を参照して説明する。なお、以下の図面は模式的に示されたものであり、図面上の寸法比と実際の寸法比とは必ずしも一致しない。また、各図面間においても寸法比が一致していない場合がある。
【0057】
本明細書内において、「層Q1の上層に層Q2が形成されている」という表現は、層Q1の面上に直接層Q2が形成されている場合はもちろん、層Q1の面上に薄膜を介して層Q2が形成されている場合も含む意図である。なお、ここでいう「薄膜」とは、膜厚10nm以下の層を指し、好ましくは5nm以下の層を指すものとして構わない。
【0058】
図1は、本実施形態の赤外LED素子の構造を模式的に示す断面図である。
図1に示す赤外LED素子1は、支持基板11の上層(+Y側)に配置された半導体積層体20を備える。
図1に示す赤外LED素子1は、所定の位置においてXY平面に沿って切断したときの模式的な断面図に対応する。以下の説明では、適宜、
図1に付されたXYZ座標系が参照される。
【0059】
以下の説明では、方向を表現する際に正負の向きを区別する場合には、「+X方向」、「-X方向」のように、正負の符号を付して記載される。また、正負の向きを区別せずに方向を表現する場合には、単に「X方向」と記載される。すなわち、本明細書において、単に「X方向」と記載されている場合には、「+X方向」と「-X方向」の双方が含まれる。Y方向及びZ方向についても同様である。
【0060】
赤外LED素子1は、半導体積層体20内(より詳細には後述される活性層25内)で、赤外光Lが生成される。より詳細には、
図1に示すように、赤外光L(L1,L2)は、活性層25を基準としたときに+Y方向に取り出される。赤外光Lは、ピーク波長が1000nm~1800nmである。
【0061】
[素子構造]
以下、赤外LED素子1の構造について詳細に説明する。
【0062】
(支持基板11)
支持基板11は、例えばSi、Ge等の半導体、又はCu、CuW等の金属材料で構成される。支持基板11が半導体からなる場合、導電性を示すように高濃度にドーパントがドープされていてもよい。一例として、支持基板11は、ホウ素(B)が1×1019/cm3以上のドーパント濃度でドープされた、抵抗率が10mΩcm以下のSi基板である。ドーパントとしては、ホウ素(B)以外には、例えば、リン(P)、砒素(As)、アンチモン(Sb)等が利用できる。高い放熱性と低い製造コストとを両立する観点から、支持基板11は好適にはSi基板である。
【0063】
支持基板11の厚み(Y方向に係る長さ)は、特に限定されないが、例えば50μm~500μmであり、好ましくは100μm~300μmである。
【0064】
(導電層19)
図1に示す赤外LED素子1は、支持基板11の上層に配置された導電層19を備える。本実施形態において、導電層19は、バリア層16、接合層13、バリア層14及び反射層15の積層構造である。以下、それぞれの要素について説明する。
【0065】
(接合層13)
赤外LED素子1は、支持基板11の上層に配置された接合層13を備える。なお、
図1の実施形態では、支持基板11の上層にバリア層16が配置され、バリア層16の上層に接合層13が配置されているが、後述するようにバリア層16を備えるか否かは任意である。
【0066】
接合層13は低融点のハンダ材料からなり、例えばAu、Au-Zn、Au-Sn、Au-In、Au-Cu-Sn、Cu-Sn、Pd-Sn、又はSn等で構成される。
図8Gを参照して後述されるように、この接合層13は、半導体積層体20が上面に形成された成長基板3と、支持基板11とを貼り合わせるために利用される。接合層13の厚みは、特に限定されないが、例えば0.5μm~5.0μmであり、好ましくは1.0μm~3.0μmである。
【0067】
(バリア層14)
図1に示す赤外LED素子1は、接合層13の上層に配置されたバリア層14を備える。バリア層14は、接合層13を構成するハンダ材料の拡散を抑制する目的で設けられており、かかる機能を実現する限りにおいて材料は限定されない。例えば、バリア層14は、Ti、Pt、W、Mo、又はNi等を含む材料で実現できる。より具体的な一例として、バリア層14は、Ti/Pt/Auの積層体である。
【0068】
バリア層14の厚みは、特に限定されないが、例えば0.05μm~3μmであり、好ましくは0.2μm~1μmである。
【0069】
なお、
図1に示す赤外LED素子1はバリア層14を備えているが、本発明においてバリア層14を備えるか否かは任意である。
【0070】
(反射層15)
赤外LED素子1は、接合層13の上層に配置された反射層15を備える。本実施形態では、反射層15は、接合層13の上層であって、更にバリア層14の上層に配置されている。
【0071】
反射層15は、活性層25内で生成された赤外光Lのうち、支持基板11側(-Y方向)に進行する赤外光L2を反射させて、+Y方向に導く機能を奏する。反射層15は、導電性材料であって、且つ赤外光Lに対して高い反射率を示す材料で構成される。反射層15の赤外光Lに対する反射率は50%以上であり、70%以上であるのが好ましく、80%以上であるのがより好ましく、90%以上であるのが特に好ましい。
【0072】
赤外光Lのピーク波長が1000nm~1800nmである場合、反射層15の材料としては、Ag、Ag合金、Au、Al、又はCu等が利用できる。この材料は、赤外光Lの波長に応じて適宜選択され得る。
【0073】
反射層15の厚みは特に限定されないが、例えば0.1μm~2.0μm以下であり、好ましくは0.3μm~1.0μm以下である。
【0074】
図1に示すように、反射層15と接合層13の間にバリア層14が形成される場合、接合層13を構成する材料が反射層15側に拡散して反射層15の反射率が低下するのを抑制できる。
【0075】
光取り出し効率を向上させる観点からは、
図1に示すように、赤外LED素子1が反射層15を備えるのが好適であるが、本発明において、赤外LED素子1が反射層15を備えるか否かは任意である。仮に赤外LED素子1が反射層15を備えていなくても、導電層19内のいずれかの層において赤外光L1の一部が反射される。
【0076】
(バリア層16)
図1に示す赤外LED素子1は、支持基板11と接合層13との間にバリア層16を備えている。このバリア層16は、バリア層14と同一の材料で構成されるものとして構わない。ただし、上述したように、赤外LED素子1がバリア層16を備えるか否かは任意である。
【0077】
(絶縁層17)
図1に示す赤外LED素子1は、反射層15の上層に配置された絶縁層17を備える。絶縁層17は、電気的絶縁性を示し、且つ赤外光Lに対する透過性の高い材料で構成される。絶縁層17の赤外光Lに対する透過率は、70%以上であるのが好ましく、80%以上であるのがより好ましく、90%以上であるのが特に好ましい。
【0078】
赤外光Lのピーク波長が1000nm~1800nmである場合、絶縁層17の材料としては、SiO2、SiN、Al2O3、ZrO、HfO、又はMgO等を用いることができる。この材料は、活性層25で生成される光の波長に応じて適宜選択され得る。
【0079】
(半導体積層体20)
図1に示す赤外LED素子1は、絶縁層17の上層に配置された半導体積層体20を有する。半導体積層体20は、複数の半導体層の積層体であり、例えば、コンタクト層21と、第一クラッド層23と、活性層25と、第二クラッド層27とを含む。半導体積層体20を構成する各半導体層(21,23,25,27)は、後述される成長基板3と格子整合してエピタキシャル成長が可能な材料からなる。
【0080】
半導体積層体20の全体の厚みは、30μm(30000nm)以下であり、好ましくは5μm~20μmである。
【0081】
《コンタクト層21,第一クラッド層23》
本実施形態において、コンタクト層21は例えばp型のGaInAsPで構成される。コンタクト層21の厚みは限定されないが、例えば、10nm~1000nmであり、好ましくは50nm~500nmである。また、コンタクト層21のp型ドーパント濃度は、好ましくは5×1017/cm3~3×1019/cm3であり、より好ましくは1×1018/cm3~2×1019/cm3である。
【0082】
本実施形態において、第一クラッド層23はコンタクト層21の上層に配置されており、例えばp型のInPで構成される。第一クラッド層23の厚みは限定されないが、例えば1000nm~10000nmであり、好ましくは2000nm~5000nmである。第一クラッド層23のp型ドーパント濃度は、活性層25から離れた位置において、好ましくは1×1017/cm3~3×1018/cm3以下であり、より好ましくは5×1017/cm3~3×1018/cm3以下である。
【0083】
コンタクト層21及び第一クラッド層23に含まれるp型ドーパントとしては、Zn、Mg、又はBe等を利用でき、Zn又はMgが好ましく、Znが特に好ましい。本実施形態では、コンタクト層21及び第一クラッド層23が「第一半導体層」に対応する。
【0084】
《活性層25》
本実施形態において、活性層25は、第一クラッド層23の上層に配置されている。活性層25は、狙いとする波長の光を生成可能であって、且つ
図8B等を参照して後述されるように、成長基板3と格子整合してエピタキシャル成長が可能な材料から適宜選択される。
【0085】
ピーク波長が1000nm~1800nmの赤外光Lを出射する赤外LED素子1を製造するに際しては、活性層25は、GaInAsP、AlGaInAs、又はInGaAsの単層構造としても構わないし、GaInAsP、AlGaInAs、又はInGaAsからなる井戸層と、井戸層よりもバンドギャップエネルギーの大きいGaInAsP、AlGaInAs、InGaAs、又はInPからなる障壁層とを含むMQW(Multiple Quantum Well:多重量子井戸)構造としても構わない。
【0086】
活性層25の膜厚は、活性層25が単層構造の場合は、50nm~2000nmであり、好ましくは100nm~300nmである。また、活性層25がMQW構造の場合は、膜厚5nm~20nmの井戸層及び障壁層が、2周期~50周期の範囲で積層されて構成される。
【0087】
活性層25は、n型又はp型にドープされていても構わないし、アンドープでも構わない。n型にドープされる場合には、ドーパントとしては例えばSiを利用できる。
【0088】
《第二クラッド層27》
本実施形態において、第二クラッド層27は、活性層25の上層に配置されており、例えばn型のInPで構成される。第二クラッド層27の厚みは限定されないが、例えば100nm~10000nmであり、好ましくは、500nm~5000nmである。第二クラッド層27のn型ドーパント濃度は、好ましくは1×1017/cm3~5×1018/cm3であり、より好ましくは、5×1017/cm3~4×1018/cm3である。第二クラッド層27にドープされるn型不純物材料としては、Sn、Si、S、Ge、又はSe等を利用することができ、Siが特に好ましい。第二クラッド層27が「第二半導体層」に対応する。
【0089】
第一クラッド層23及び第二クラッド層27は、活性層25で生成された赤外光Lを吸収しない材料であって、且つ成長基板3(
図8B参照)と格子整合してエピタキシャル成長が可能な材料から適宜選択される。成長基板3としてInP基板を採用する場合には、第一クラッド層23及び第二クラッド層27の材料としては、InP、GaInAsP、又はAlGaInAs等が利用可能である。
【0090】
図1に示すように、本実施形態の赤外LED素子1において、第二クラッド層27の+Y側の面(以下、「第一面27a」と称する。)には、凹凸部40が形成されている。この凹凸部40は、相互に異なる規則性を示す複数の周期構造を示す。この点については、
図2~
図5Bを参照して後述される。
【0091】
(内部電極31)
図1に示す赤外LED素子1は、絶縁層17内の複数の箇所においてY方向に貫通して形成された、内部電極31を有する。内部電極31は、第一半導体層(21,23)と支持基板11とを電気的に接続する。内部電極31は、好ましくはXZ平面に平行な方向(すなわち、支持基板11の主面に平行な方向)に分散した複数の位置に設けられている。
【0092】
内部電極31は、コンタクト層21に対してオーミック接続の形成が可能な材料で構成されている。一例として、内部電極31は、AuZn、AuBe、又は少なくともAuとZnを含む積層構造(例えばAu/Zn/Au等)で構成される。なお、これらの材料は、反射層15を構成する材料と比較して、赤外光Lに対する反射率が低い。
【0093】
Y方向に見た場合の、内部電極31のパターン形状は任意である。ただし、支持基板11の主面(XZ平面)に平行な方向(以下、「面方向」という。)に関して活性層25内の広い範囲に電流を流す観点からは、内部電極31は面方向に分散して複数配置されるのが好ましい。
【0094】
Y方向に見たときの、全ての内部電極31の総面積は、半導体積層体20(例えば活性層25)の面方向に係る面積に対して、30%以下であるのが好ましく、20%以下であるのがより好ましく、15%以下であるのが特に好ましい。内部電極31の総面積が比較的大きくなると、活性層25から支持基板11側(-Y方向)に進行する赤外光L2が内部電極31に吸収される光量が増えてしまい、光取り出し効率の低下を招く。一方で、内部電極31の総面積が小さすぎると、抵抗値が高くなって順方向電圧の上昇を招く。
【0095】
(上面電極32)
図1に示す赤外LED素子1は、半導体積層体20の上面に配置された上面電極32を有する。上面電極32は、典型的には複数本が所定の方向に延在するように形成されている。一例として、上面電極32は、半導体積層体20の辺に沿うように、X方向及びZ方向に複数延在して、櫛形の形状を呈している。ただし、上面電極32の配置パターン形状は任意であり、例えば格子状であっても構わないし、渦巻状であっても構わない。上面電極32は、下層(-Y側)に位置する第二クラッド層27の面を(直接又は同面上に形成された誘電体層の一部を除き)露出させつつ、XZ平面上の広い範囲にわたって形成される。これにより、活性層25内を流れる電流をXZ平面に平行な方向に広げることができ、活性層25内の広い範囲で発光させることができる。
【0096】
上面電極32は、一例として、AuGe/Ni/Au、又はAuGe等の材料で構成され、これらの材料を複数備えるものとしても構わない。
【0097】
(パッド電極34)
図1に示すように、赤外LED素子1は、上面電極32の一部の上面に配置されたパッド電極34を有する。なお、
図1では、上面電極32の全面にパッド電極34が形成されているように図示されているが、これは図示の都合によるものである。実際には、面方向に延伸する上面電極32の一部の面上に、パッド電極34が形成されるものとして構わない。
【0098】
パッド電極34は、例えばTi/Au、又はTi/Pt/Au等で構成される。このパッド電極34は、給電のためのボンディングワイヤを接触させる領域を確保する目的で設けられているが、本発明においてパッド電極34を備えるか否かは任意である。
【0099】
(裏面電極33)
図1に示す赤外LED素子1は、支持基板11の半導体積層体20とは反対側(-Y側)の面上に配置された、裏面電極33を備える。裏面電極33は支持基板11に対してオーミック接触が実現されている。裏面電極33は、一例として、Ti/Au、又はTi/Pt/Au等の材料で構成され、これらの材料を複数備えるものとしても構わない。
【0100】
[凹凸部40の構造]
上述したように、第二クラッド層27の一方の主面である第一面27aには、凹凸部40が形成されている。この凹凸部40は、相互に異なる規則性を示す複数の周期構造で構成されている。
【0101】
図2は、一実施形態の赤外LED素子1を+Y側からレーザ顕微鏡で撮影した画像に基づいて、凹凸部40が形成されている第二クラッド層27の第一面27aの、XZ平面上の位置毎の高さ(Y座標)の変化を示す画像である。すなわち、
図2は、第一面27aにおける高さ位置の実空間分布を示している。縦軸及び横軸は、それぞれXZ平面上における座標位置に対応し、高さ位置に応じた色味で表示されている。
【0102】
図2によれば、凹凸部40が、三角格子状に配列された第一凹凸グループ41と、周期長の異なる三角格子状に配列された第二凹凸グループ42を含んでいることが確認される。
図2に示す例では、第一凹凸グループ41は、周期長(凸部同士又は凹部同士の間隔)が6μmであり、凹部の深さが1μmである。また、第二凹凸グループ42は、周期長が4μmであり、凹部の深さが0.05μm~0.25μmである。ただし、それぞれの凹部の深さはこの数値に限定されるものではない。
【0103】
図3は、
図2で得られたXZ平面上の位置毎の高さ(Y座標)の分布情報を2次元フーリエ変換し、波数空間上に表示した画像である。詳細には、
図3は、高さ y = f (x,z)の情報を、下記(1)式に従ってフーリエ変換し、得られたF(K
x, K
z)の値を波数空間上にプロットして得られた画像である。
【0104】
【0105】
凹凸部40に含まれる、第一凹凸グループ41及び第二凹凸グループ42は、それぞれ周期構造であるため、その周期性に依存してXZ平面上の特定の位置でフーリエ変換強度F(Kx, Kz)の値が高くなる。この実施形態においては、第一凹凸グループ41及び第二凹凸グループ42がいずれも三角格子状に配列されているため、その対称性から、原点を中心に等間隔で6箇所にそれぞれ最も強度の強いスポットが現れる。なお、原点からの離間距離は、凹凸の周期長の逆数に依存する。
【0106】
波数空間上においてフーリエ変換強度が相対的に高いスポットは、入射光の回折方向(回折光の進行方向)と、回折光の強度とを決定する。なお、入射光が (i, j) 次の回折を受けるとは、波数ベクトル (kx, ky, kz) を持つ光が、波数ベクトル (kx+iKx, ky', kz+jKz) を持つ光に変換されることを意味する。なお、上記において、ky' は、下記(2)式で規定される値である。
【0107】
【0108】
すなわち、フーリエ変換強度 F(Kx, Kz) の値が相対的に高いスポット(逆格子点)の数が増えれば増えるほど、入射した光(ここでは赤外光L)が散乱される組み合わせが増えることになる。
【0109】
図3には、第一凹凸グループ41に由来する一次の逆格子点(丸で表示)及び二次の逆格子点(三角で表示)が現れている。識別性を高める目的で、それぞれの逆格子点が破線にて連絡されている。なお、三次及びそれよりも高次の逆格子点については、フーリエ変換強度の値が十分高くないため、表示色が薄く現れているか、視認が不可能な色(白色)で現れている。
【0110】
また、
図3には、第二凹凸グループ42に由来する一次の逆格子点(丸で表示)が現れている。識別性を高めるため、それぞれの逆格子点は、一点鎖線にて連絡されている。なお、二次及びそれよりも高次の逆格子点については、フーリエ変換強度の値が十分高くないため、表示色が薄く現れているか、視認が不可能な色(白色)で現れている。
【0111】
図3によれば、波数空間上において第一凹凸グループ41に由来する回折強度パターンと、第二凹凸グループ42に由来する回折強度パターンとが、相互に異なっていることが理解される。この点について、
図4A~
図5Bを参照して更に説明する。
【0112】
図4Aは、第一凹凸グループ41に属する凹凸のみが形成されている状態の、第二クラッド層27の第一面27aの、XZ平面上の位置毎の高さ(Y座標)の変化を示す画像であり、
図2にならって表示されている。
図4Bは、
図4Aで得られたXZ平面上の位置毎の高さ(Y座標)の情報を2次元フーリエ変換して得られた情報であり、
図3にならって表示されている。
【0113】
図5Aは、第二凹凸グループ42に属する凹凸のみが形成されている状態の、第二クラッド層27の第一面27aの、XZ平面上の位置毎の高さ(Y座標)の変化を示す画像であり、
図2にならって表示されている。
図5Bは、
図5Aで得られたXZ平面上の位置毎の高さ(Y座標)の情報を2次元フーリエ変換して得られた情報であり、
図3にならって表示されている。
【0114】
図4A~
図5Bを考慮すると、
図3に示される赤外LED素子1における第二クラッド層27の第一面27aの波数空間上における回折強度パターンは、第一凹凸グループ41に由来する回折強度パターン(第一回折強度パターン)と、第二凹凸グループ42に由来する回折強度パターン(第二回折強度パターン)とが重ね合わせられたものであることが理解される。そして、これらの第一回折強度パターンと第二回折強度パターンとは、相互に異なるパターン形状を示していることも理解される。
【0115】
図6Aは、比較のために準備した、ランダムに表面が荒らされた状態を示す表面上における、高さ位置の実空間分布を示す画像である。また、
図6Bは、
図6Aで得られた位置毎の高さを2次元フーリエ変換した値の波数空間分布を示す画像である。なお、この比較のための表面は、厚みの厚いInP基板に対して物理的な方法で研磨することで表面を荒らすことで得られたものである。
【0116】
図6Bによれば、ランダムに荒らされた表面の場合、波数空間上に特異的なスポット(逆格子点)が現れにくいことが確認される。
【0117】
図7は、赤外LED素子1から出射される赤外光Lの発光スペクトルの一例である。
図7によれば、シングルピークの発光スペクトルが実現できていることが確認される。なお、
図7は、後述される実施例1の素子の発光スペクトルに対応するものである。
【0118】
なお、第二クラッド層27の第一面27aに対して凹凸部40を設けなかった場合(比較例1)、及び第一凹凸グループ41に由来する凹凸のみを設けた場合(参考例1)は、それぞれ発光スペクトルがマルチピーク化された(
図10、
図12参照)。この点は、赤外LED素子1の製造方法の説明の後に、説明される。
【0119】
[製造方法]
上述した赤外LED素子1の製造方法の一例について、
図8A~
図8Nの各図を参照して説明する。
図8A~
図8Nは、いずれも製造プロセス内における一工程における断面図である。なお、以下の各手順は、赤外LED素子1の製造に影響のない範囲内であれば、その順序は適宜前後しても構わない。
【0120】
(ステップS1)
図8Aに示すように、成長基板3が準備される。本実施形態では、成長基板3として、(001)面を一方の主面とするInP基板が好適に利用される。厚みの一例は370μmであり、主面の直径は2インチである。ただし、成長基板3の厚み及び大きさは、製造する赤外LED素子1の出力に応じて適宜設定される。
【0121】
(ステップS2)
成長基板3を、例えばMOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)装置内に搬送し、成長基板3上に、バッファ層29、エッチングストップ層(ES層)28、第二クラッド層27、活性層25、第一クラッド層23及びコンタクト層21を順次エピタキシャル成長させて、半導体積層体20を形成する(
図8B参照)。本ステップS2において、成長させる層の材料又は膜厚に応じて、原料ガスの種類及び流量、処理時間、及び環境温度等が適宜調整される。
【0122】
半導体積層体20の形成例は以下の通りである。まず、成長基板3上に、Siをドーパントしたn型のInPが所定膜厚(例えば500nm程度)積層されて、バッファ層29が得られる。次に、バッファ層29とは異なる材料の層(ここでは、InGaAs層)が所定膜厚(例えば200nm程度)積層されて、ES層28が得られる。その後、上述した膜厚や組成となるように成長条件が設定された状態で、第二クラッド層27、活性層25、第一クラッド層23及びコンタクト層21が順次形成される。
【0123】
詳細な一例として、Siをドーパントとしたn型のInPが膜厚8000nm積層されて第二クラッド層27が得られる。次に、InGaAsPが膜厚900nm積層されて、活性層25が得られる。ここでは、赤外LED素子1から出射される赤外光Lのピーク波長が1300nmとなるような条件とされている。ただし上述したように、活性層25を構成する材料の組成比を調整したりMQW構造を採用することにより、赤外光Lのピーク波長は1000nm~1800nmの範囲内で調整可能である。
【0124】
その後、Znをドーパントとしたp型のInPが膜厚3000nm積層されて第一クラッド層23が形成され、引き続き、Znをドーパントとしたp型のInGaAsPが膜厚200nm積層されてコンタクト層21が形成される。
【0125】
(ステップS3)
成長基板3上に半導体積層体20が形成されたウェハが、MOCVD装置から取り出された後、プラズマCVD法によって例えばSiO
2からなる絶縁層17が成膜される(
図8C参照)。膜厚の一例は200nmである。次に、絶縁層17の表面に、フォトリソグラフィ法によってパターニングされたレジストマスクが形成される。バッファードフッ酸等の所定の薬剤を用いたエッチング法により、レジスト開口部に形成された絶縁層17が除去された後、EB蒸着装置を用いて例えば、Au/Zn/Auからなる内部電極31の材料膜が成膜される。内部電極31の材料膜の膜厚の一例は、Au/Zn/Au=25nm/25nm/150nmである。
【0126】
次に、レジストマスクが除去された後、不要領域に形成された材料膜がリフトオフされることで内部電極31が形成される(
図8C参照)。その後、例えば450℃、10分間の加熱処理によってアニール処理が施され、コンタクト層21と内部電極31との間のオーミック接触が実現される。
【0127】
(ステップS4)
図8Dに示すように、絶縁層17の上面に、反射層15、バリア層14、及び接合層13aが順次形成される。例えば、EB蒸着装置によって、Al/Auが所定の膜厚で成膜されることで反射層15が形成され、引き続きTi/Pt/Auが所定の膜厚で成膜されることでバリア層14が形成され、引き続きTi/Auが所定の膜厚で成膜されることで接合層13aが形成される。接合層13aは上述した接合層13と同一の材料として構わない。
【0128】
反射層15の材料膜の一例は、Al/Au=5nm/200nmである。バリア層14の材料膜の一例は、Ti/Pt/Au=150nm/300nm/200nmである。接合層13aの膜厚の一例は、Ti/Au=150nm/1500nmである。
【0129】
(ステップS5)
図8Eに示すように、成長基板3とは別の支持基板11が準備される。本実施形態では、(001)面を一方の主面とし、ホウ素(B)が高濃度にドープされた導電性を示すSi基板が利用される。支持基板11の電気抵抗率は、100mΩ・cm(=1mΩ・m)未満とするのが好適である。
【0130】
(ステップS6)
図8Fに示すように、支持基板11の主面上に、バリア層16及び接合層13bが形成される。バリア層16及び接合層13bは、ステップS4で上述した、バリア層14及び接合層13aと同様の方法で形成できる。
【0131】
(ステップS7)
図8Gに示すように、接合層13(13a,13b)を介して、成長基板3と支持基板11とが、例えばウェハボンディング装置を用いて加圧されながら貼り合わせられる。好ましくは、それぞれの接合層13(13a,13b)の表面を洗浄した状態で重ね合わせられる。この貼り合わせ処理は、例えば300℃、1MPa下で行われる。この処理により、成長基板3上の接合層13aと支持基板11上の接合層13bとが、溶融されて一体化される(接合層13)。
【0132】
(ステップS8)
図8Hに示すように、成長基板3が除去される。一例としては、接合後のウェハを塩酸系のエッチャントに浸漬することで、成長基板3が除去される。このとき、成長基板3やバッファ層29とは異なる材料で形成されたES層28は、塩酸系のエッチャントに不溶であるため、ES層28が露出した時点でエッチング処理が停止する。
【0133】
(ステップS9)
図8Iに示すように、ES層28を除去して第二クラッド層27を露出させる。例えば、必要に応じて純水で洗浄後、ES層28に対しては可溶で、第二クラッド層27に対しては不溶な所定の薬液に浸漬することで、ES層28が除去される。一例として、硫酸と過酸化水素水の混合溶液(SPM)を利用できる。
【0134】
(ステップS10)
図8Jに示すように、露出した第二クラッド層27の表面に対して上面電極32が形成される。具体的には、以下の手順で行われる。
【0135】
第二クラッド層27の表面にフォトリソグラフィ法によってパターニングされたレジストマスクが形成される。次に、EB蒸着装置によって、上面電極32の形成材料(例えば、Au/Ge/Au)が成膜された後、リフトオフすることで、上面電極32が形成される。上面電極32の膜厚の一例は、Au/Ge/Au=10nm/30nm/150nmである。
【0136】
その後、上面電極32のオーミック性を実現するために、例えば450℃、10分間の加熱処理によってアニール処理が施される。
【0137】
次に、上面電極32の所定位置の上面にパッド電極34が形成される。この場合も、上面電極32と同様に、EB蒸着装置による成膜工程及びリフトオフ工程によって実現できる。パッド電極34としては、例えばTi/Pt/Auが成膜され、その厚みの一例はTi/Pt/Au=150nm/300nm/1500nmである。
【0138】
(ステップS11)
図8Kに示すように、第二クラッド層27の第一面27aに対して、第一凹凸グループ41に基づく凹凸が形成される。
【0139】
具体的な方法の一例としては、まず、第二クラッド層27の第一面27aに対してフォトリソグラフィ法に基づいてパターニングされたレジストが形成される。このレジストには、上面電極32が形成されている領域を除く領域に対して、複数の直径3μmの孔部が周期長6μmで三角格子状に配列されたパターンが形成されている。なお、上面電極32が形成されている領域には、孔部が形成されていないレジストが覆われている。
【0140】
このパターニングされたレジストを介して、塩酸-リン酸混合液等のエッチャントを用いて第二クラッド層27の第一面27aに対してエッチングが行われる。これにより、レジストに設けられた孔部を通じて、第一面27aに対して例えば深さ1μmのエッチングパターンが形成される。その後、レジストがアセトンなどの洗浄液で除去される。一例として、ステップS11で得られるエッチングパターンは、Y方向(第一面27aに対する法線方向)から見て、楕円形状が複数配列された形状を示す(
図4A参照)。
【0141】
(ステップS12)
図8Lに示すように、第一凹凸グループ41に基づく凹凸が形成された第一面27aに対して、パターニングされたレジスト45を形成する。このレジスト45に形成されたパターンは、ステップS11で用いたレジストパターンと比較して、周期長及び配列形状の一方又は双方が異なっている。一例として、パターニングされたレジスト45は、上面電極32が形成されている領域を除く領域に対して、複数の直径2μmの孔部が周期長4μmで三角格子状に配列されたパターンが形成されている。別の一例として、パターニングされたレジスト45は、上面電極32が形成されている領域を除く領域に対して、複数の直径2μmの孔部が周期長6μmで正方格子状に配列されたパターンが形成されている。
【0142】
このレジスト45を介して、ステップS11とは異なるエッチャントを用いて第二クラッド層27の第一面27aに対してエッチングが行われる。これにより、レジスト45に設けられた孔部を通じて、第一面27aに対して例えば深さ2μmのエッチングパターンが形成される。一例として、ステップS12で得られるエッチングパターンは、Y方向(第一面27aに対する法線方向)から見て、真円形状が複数配列された形状を示す(
図5A参照)。
【0143】
その後、レジスト45がアセトン等の洗浄液で除去される。エッチャントの一例としては、例えば硫酸-過酸化水素水の混合液(SPM)が利用される。
【0144】
この結果、第一凹凸グループ41に基づく凹凸が形成された第一面27aに対して、更に第二凹凸グループ42に基づく凹凸が形成される。すなわち、第一面27aには、第一凹凸グループ41と、周期長及び配列形状の一方又は双方が異なる第二凹凸グループ42とを含む、凹凸部40が形成される(
図8M参照)。なお、各凹凸グループ(41、42)に基づくエッチングパターンの形状は、上記に限定されるものではない。
【0145】
(ステップS13)
図8Nに示すように、素子毎に分離するためのメサエッチングが施される。具体的には、第二クラッド層27の面のうちの非エッチング領域を、フォトリソグラフィ法によってパターニングされたレジストによってマスクした状態で、所定のエッチャントを用いてウェットエッチングが行われる。これにより、マスクされていない領域内に位置する半導体積層体20の一部が除去される。
【0146】
具体的な方法の一例として、まず塩酸-リン酸混合液を用いたエッチングにより、第二クラッド層27が除去される。この反応は活性層25が露出すると停止される。次に、硫酸と過酸化水素水の混合溶液(SPM)を用いたエッチングにより、活性層25が除去される。この反応は第一クラッド層23で停止される。次に、塩酸-リン酸混合液を用いたエッチングにより、第一クラッド層23及びコンタクト層21が除去され、絶縁層17が露出される。その後、アセトン等の洗浄液によってレジストが除去される。
【0147】
(ステップS14)
支持基板11の裏面側の厚みが調整された後、支持基板11の裏面側に裏面電極33が形成される(
図1参照)。裏面電極33の具体的な形成方法としては、上面電極32と同様に、真空蒸着装置によって裏面電極33の形成材料(例えばTi/Pt/Au)を成膜することで形成できる。裏面電極33の膜厚の一例は、Ti/Pt/Au=150nm/300nm/1500nmである。
【0148】
支持基板11の厚みの調整方法は任意であるが、一例として、半導体積層体20側をバックグラインドテープに貼り付けた状態で、バックグラインダにより研削する方法が採用できる。研削後の厚みは例えば50μm~250μmの範囲内で調整され、赤外LED素子1の用途やその後のプロセスによって適宜選択される。具体例として、研削後の支持基板11の厚みは150μmである。研削処理が終了した後は、テープから剥離され、洗浄される。
【0149】
なお、支持基板11の裏面側の厚みの調整は、必要に応じて行えばよく、必ずしも必須な工程ではない。
【0150】
(ステップS15)
次に、支持基板11ごとダイシングされることで、チップ化される。例えば、裏面電極33側がダイシングテープによって貼り付けられた状態で、ステップS13におけるメサエッチングにより形成されたダイシングラインに沿って、上面電極32側から、ダイヤモンドブレード等を用いて支持基板11と共にダイシングが行われる。
【0151】
その後、チップ化された赤外LED素子1は、Agペースト等の導電性接着剤を用いてステム等に実装される。パッド電極34は、ワイヤボンディングによって、ステムのポスト部に接続される。
【0152】
[検証]
以下、実施例及び比較例を用いた検証結果を説明する。
【0153】
(実施例1)
上述したステップS1~S15を経て製造された赤外LED素子1が、実施例1の素子とされた。なお、ステップS11によって形成された第一凹凸グループ41は、複数の凹凸が周期長6μmで三角格子状に配列されてなる構成であった。また、ステップS12によって形成された第二凹凸グループ42は、複数の凹凸が周期長4μmで三角格子状に配列されてなる構成であった。このときの、第二クラッド層27の第一面27aの高さ位置の変化を示す情報は、
図2及び
図3に示す通りであり、得られた赤外光Lの発光スペクトルは、
図7に示す通りであった。
【0154】
なお、
図7に示す発光スペクトルは、赤外LED素子1が実装されたステムに対して電源を接続して通電し、出射された赤外光Lをステム直上から直径400μm、NA0.22の光ファイバで受光し、光スペクトラムアナライザで測定することで得られたものである。以下の比較例1等においても同様である。
【0155】
(比較例1)
ステップS11~S12を実行しない点を除き、実施例1と同様の方法で製造された赤外LED素子51(
図9参照)が、比較例1の素子とされた。
図9に示すように、比較例1の素子は、第二クラッド層27の第一面27aに、凹凸部40が形成されていない。
【0156】
図10は、比較例1の赤外LED素子51から出射される赤外光Lのスペクトルの一例である。
図10によれば、発光スペクトルに多数のピークが確認される。
【0157】
(参考例1)
ステップS12を実行しない点を除き、実施例1と同様の方法で製造された赤外LED素子52(
図11参照)が、参考例1の素子とされた。
図11に示すように、参考例1の素子は、第二クラッド層27の第一面27aに、第一凹凸グループ41のみに由来する凹凸が形成されている。
【0158】
図12は、参考例1の赤外LED素子52から出射される赤外光Lの発光スペクトルの一例である。
図12によれば、
図10に示す比較例1の素子の発光スペクトルと比べると、スペクトル上に現れるピーク数は低下しているものの、
図7に示す実施例1の素子の発光スペクトルと比べると、ピーク数が多いことが確認される。つまり、参考例1の赤外LED素子52から出射される赤外光Lは、依然としてマルチピーク状態であることが分かる。
【0159】
なお、参考例1の赤外LED素子52における、第二クラッド層27の第一面27aの表面状態は、実空間上の情報としては
図4Aに対応し、波数空間上における回折強度パターンの情報としては
図4Bに対応する。
【0160】
(実施例2)
上述したステップS1~S15を経て製造された赤外LED素子1が、実施例2の素子とされた。ただし、実施例1とは異なり、ステップS12によって形成された第二凹凸グループ42は、複数の凹凸が周期長6μmで正方格子状に配列されてなる構成であった。
【0161】
図13は、実施例2の赤外LED素子1における、第二クラッド層27の第一面27aの、XZ平面上の位置毎の高さ(Y座標)の変化を示す画像を、
図2にならって表示したものである。
図14は、
図13で得られたXZ平面上の位置毎の高さ(Y座標)の情報を2次元フーリエ変換して得られた情報であり、
図3にならって表示されている。
【0162】
実施例2の赤外LED素子1に形成されている凹凸部40のうち、第一凹凸グループ41に由来する凹凸のパターンについては、実施例1の赤外LED素子1と共通である。このため、第一凹凸グループ41に属する凹凸のみが形成されている状態の、第二クラッド層27の第一面27aの表面状態は、
図4A及び
図4Bと共通である。
【0163】
図15Aは、実施例2の赤外LED素子1において、第二凹凸グループ42に属する凹凸のみが形成されている状態の、第二クラッド層27の第一面27aにおける高さ(Y座標)の変化を示す画像であり、
図2にならって表示されている。
図15Bは、
図15Aで得られたXZ平面上の位置毎の高さ(Y座標)の情報を2次元フーリエ変換して得られた情報であり、
図3にならって表示されている。
【0164】
図15Bに示す例では、第二凹凸グループ42に由来する一次の逆格子点(円で表示)及び二次の逆格子点(三角形で表示)が現れている。識別性を高めるため、それぞれの逆格子点は、一点鎖線にて連絡されている。なお、三次及びそれよりも高次の逆格子点については、フーリエ変換強度の値が十分高くないため、表示色が薄く現れているか、視認が不可能な色(白色)で現れている。
【0165】
図15Bによれば、各逆格子点が連絡されている一点鎖線が矩形状を示していることからも、この情報が、実施例2の赤外LED素子1に形成された第二凹凸グループ42(正方格子状)に由来する情報であることが理解される。
【0166】
図4A~
図4B及び
図15A~
図15Bを考慮すると、
図14に示される実施例2の赤外LED素子1における、第二クラッド層27の第一面27aの波数空間上における回折強度パターンは、第一凹凸グループ41に由来する回折強度パターン(第一回折強度パターン)と、第二凹凸グループ42に由来する回折強度パターン(第二回折強度パターン)とが重ね合わせられたものであることが理解される。そして、これらの第一回折強度パターン及び第二回折強度パターンは、相互に異なるパターン形状を示していることが理解される。
【0167】
図16は、実施例2の赤外LED素子1から出射される赤外光Lの発光スペクトルである。
図16によれば、実施例1と同様に、シングルピークの発光スペクトルが実現できていることが確認される。
【0168】
(実施例3)
上述したステップS1~S15を経て製造された赤外LED素子1が、実施例3の素子とされた。ただし、実施例1とは異なり、ステップS12によって形成された第二凹凸グループ42は、複数の凹凸が周期長6μmで、第一凹凸グループ41が構成する三角格子に対して90°回転した三角格子状に配列されてなる構成であった。
【0169】
図17は、実施例3の赤外LED素子1における、第二クラッド層27の第一面27aの、XZ平面上の位置毎の高さ(Y座標)の変化を示す画像を、
図2にならって表示したものである。
図18は、
図17で得られたXZ平面上の位置毎の高さ(Y座標)の情報を2次元フーリエ変換して得られた情報であり、
図3にならって表示されている。
【0170】
図18によれば、実施例3の赤外LED素子1における、第二クラッド層27の第一面27aの波数空間上における回折強度パターンについても、第一凹凸グループ41に由来する回折強度パターン(第一回折強度パターン)と、第二凹凸グループ42に由来する回折強度パターン(第二回折強度パターン)とが重ね合わせられたものであることが理解される。そして、これらの第一回折強度パターンと第二回折強度パターンとは、相互に異なるパターン形状を示していることが理解される。
【0171】
よって、実施例3の赤外LED素子1においても、実施例1及び実施例2の素子と同様に、発光スペクトルはシングルピークを示す。
【0172】
[別実施形態]
以下、別実施形態について説明する。
【0173】
〈1〉
図19に示すように、第二クラッド層27の第一面27aの上層に、第一面27aを覆うように誘電体層36が形成されていても構わない。この誘電体層36は、凹凸部40が形成された第一面27aの表面に沿って形成される。誘電体層36は、赤外光Lに対する透過性を示す材料からなり、例えば、SiO
2、SiN、Al
2O
3、ZrO、HfO、及びMgOからなる群の1種又は2種以上である。
【0174】
誘電体層36が第二クラッド層27の第一面27aに形成されることで、第二クラッド層27に対する保護機能が奏されると共に、空気と第二クラッド層27との屈折率差が縮小されることで、光取り出し効率が更に高められる。
【0175】
なお、
図19では、誘電体層36の表面が、凹凸部40の形状に沿うように図示されている。しかし、誘電体層36が、凹凸部40を埋めるように形成されても構わない。この場合であっても、誘電体層36と第二クラッド層27との間には十分な屈折率差が存在するため、上記で議論した事由と同等の効果が生じる。これにより、上記実施形態の赤外LED素子1と同様の理由により、発光スペクトルがシングルピークを示す。
【0176】
〈2〉 上記実施形態では、凹凸部40が、第一凹凸グループ41に由来する凹凸と第二凹凸グループ42に由来する凹凸とを含むものとして説明した。しかし、本発明は、凹凸部40が、3種類以上の凹凸グループを含む構成を排除しない。ただし、凹凸パターンの種類数が増えるほど、工程数が増加する上、2種類の凹凸パターンによってもシングルピークが実現できていることに鑑みると、凹凸部40に含まれる凹凸パターンは2種類とするのが好適である。
【0177】
〈3〉 上記実施形態では、第一半導体層(コンタクト層21,第一クラッド層23)がp型半導体であり、第二半導体層(第二クラッド層27)がn型半導体であるとされているが、両者の導電型が逆転しても構わない。
【符号の説明】
【0178】
1 :赤外LED素子
3 :成長基板
11 :支持基板
13,13a,13b :接合層
14 :バリア層
15 :反射層
16 :バリア層
17 :絶縁層
19 :導電層
20 :半導体積層体
21 :コンタクト層
23 :第一クラッド層
25 :活性層
27 :第二クラッド層
27a :第二クラッド層の第一面
28 :ES層
29 :バッファ層
31 :内部電極
32 :上面電極
33 :裏面電極
34 :パッド電極
36 :誘電体層
40 :凹凸部
41 :第一凹凸グループ
42 :第二凹凸グループ
45 :レジスト
51 :赤外LED素子
52 :赤外LED素子