(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023183329
(43)【公開日】2023-12-27
(54)【発明の名称】加湿用積層体、および加湿器
(51)【国際特許分類】
B32B 5/18 20060101AFI20231220BHJP
F24F 1/0087 20190101ALI20231220BHJP
F24F 1/037 20190101ALI20231220BHJP
F24F 6/04 20060101ALI20231220BHJP
【FI】
B32B5/18
F24F1/0087
F24F1/037
F24F6/04
【審査請求】有
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022096876
(22)【出願日】2022-06-15
(71)【出願人】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(71)【出願人】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002239
【氏名又は名称】弁理士法人G-chemical
(72)【発明者】
【氏名】前谷 臣治
(72)【発明者】
【氏名】西尾 直高
(72)【発明者】
【氏名】榊原 隆広
(72)【発明者】
【氏名】水田 智也
(72)【発明者】
【氏名】坂田 祐未
(72)【発明者】
【氏名】中澤 武馬
(72)【発明者】
【氏名】大久保 英作
(72)【発明者】
【氏名】田中 秀和
【テーマコード(参考)】
3L050
3L055
4F100
【Fターム(参考)】
3L050AA08
3L055BA02
4F100AK01B
4F100AK07
4F100AK12
4F100AK25
4F100AK53
4F100AL01
4F100AR00A
4F100AR00B
4F100AR00C
4F100BA02
4F100BA03
4F100BA07
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4F100DJ00A
4F100EH46
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4F100GB48
4F100JB05
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4F100JB16B
4F100JD04
4F100JD04A
4F100JD04B
4F100JD15
4F100JD15B
4F100YY00B
(57)【要約】 (修正有)
【課題】透湿性能を向上させ、加湿器の小型化を可能にする加湿用積層体を提供する。
【解決手段】本開示の加湿用積層体1は多孔の補強材11と、多孔の補強材11の少なくとも一方の面11aに積層された無孔膜12とを有し、加湿用積層体1の透湿度が、多孔の補強材11単体の透湿度以上である。また、無孔膜12は膜厚が厚いほど透湿度が高くなる性質を備えることが好ましい。また、多孔の補強材11の吸着等温線はIUPACで示されるI~VI型のいずれか1つであることが好ましい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔の補強材と、前記多孔の補強材の少なくとも一方の面に積層され、透湿膜として機能する無孔膜とを有する積層体であり、前記積層体の透湿度が前記多孔の補強材単体の透湿度以上である加湿用積層体。
【請求項2】
前記無孔膜は膜厚が厚いほど透湿度が高くなる性質を備える請求項1に記載の加湿用積層体。
【請求項3】
前記多孔の補強材の吸着等温線はIUPACで示されるI~VI型のいずれか1つである請求項1または2に記載の加湿用積層体。
【請求項4】
前記多孔の補強材の吸着等温線はIUPACで示されるIII型である請求項1または2に記載の加湿用積層体。
【請求項5】
前記無孔膜の吸着等温線はIUPACで示されるI~VI型のいずれか1つである請求項1または2に記載の加湿用積層体。
【請求項6】
前記無孔膜の吸着等温線はIUPACで示されるIII型である請求項1または2に記載の加湿用積層体。
【請求項7】
前記無孔膜は前記多孔の補強材に対し、相対湿度100%時の含水率が10倍以上である請求項1または2に記載の加湿用積層体。
【請求項8】
前記無孔膜は前記多孔の補強材に対して液体の水側に配置され、前記液体の水を吸収して空気中に放出することに用いられる請求項1または2に記載の加湿用積層体。
【請求項9】
前記無孔膜はカチオン部を有する熱可塑性樹脂を含み、前記カチオン部はアンモニウムイオンを含む基またはアンモニウムイオンを形成可能な基を含有する請求項1または2に記載の加湿用積層体。
【請求項10】
前記熱可塑性樹脂は親水部を有し、前記親水部は下記式(1)で表される構成単位を含有する請求項1または2に記載の加湿用積層体。
【化1】
(R
1,R
2は独立して水素原子またはメチル基を示す)
【請求項11】
前記熱可塑性樹脂は疎水部を有し、前記疎水部は下記式(2)および/または下記式(3)で表される構成単位を含有する請求項1または2に記載の加湿用積層体。
【化2】
(R
1は水素原子またはメチル基を示し、R
3は炭素数1~2のアルキル基を示す)
【化3】
(R
1は水素原子またはメチル基を示し、R
4は炭素数3以上の分岐型アルキル基を示す)
【請求項12】
前記無孔膜は前記多孔の補強材の少なくとも一方の表面を覆うようにコーティングされている請求項1または2に記載の加湿用積層体。
【請求項13】
請求項1または2に記載の加湿用積層体とフレームとを貼り合わせた袋状の保水容器が複数枚設置された加湿器。
【請求項14】
請求項13に記載の加湿器を搭載した空調機。
【請求項15】
請求項13に記載の加湿器を搭載した換気装置。
【請求項16】
請求項13に記載の加湿器を搭載した空気清浄機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、加湿用積層体、および加湿器に関する。
【背景技術】
【0002】
加湿器として、換気と加湿を両立できる透湿膜式の加湿器が知られているが、このような透湿膜式の加湿器は、蒸発板表面に給水し空気中に加湿する自然蒸発式の加湿器と比較して加湿性能は高いものの、コストが高くなってしまう問題があった。
【0003】
コストを削減するために構成部材の削減や小型化の検討が進められており、例えば特許文献1のような透湿膜の表面積を増大させるために膜表面に凹凸形状を有した透湿膜式の加湿器が検討されてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の発明では透湿膜に凹凸形状を与えるための部材のサイズに応じて透湿膜の膜厚を厚くする必要があるため、加湿器のサイズの小型化にも限界があり、引き続きコスト削減も不十分であった。
【0006】
さらに、凹凸形状に合わせて、透湿膜の膜厚を必要以上に厚くする必要があり、透湿抵抗が発生して、透湿性能自体が低くなってしまう問題もあった。
【0007】
したがって、本開示の目的は、透湿性能を向上させ、加湿器の小型化を可能にする加湿用積層体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、多孔の補強材と、上記多孔の補強材の少なくとも一方の面に積層され、透湿膜として機能する無孔膜とを有する積層体であり、上記積層体の透湿度が上記多孔の補強材単体の透湿度以上である加湿用積層体であれば透湿性能を向上させ、加湿器の小型化を可能にすることを見出した。本開示はこれらの知見に基づいて完成させたものに関する。
【0009】
すなわち、本開示は、多孔の補強材と、上記多孔の補強材の少なくとも一方の面に積層され、透湿膜として機能する無孔膜とを有する積層体であり、上記積層体の透湿度が上記多孔の補強材単体の透湿度以上である加湿用積層体を提供する。
【0010】
上記加湿用積層体が上記多孔の補強材単体以上の透湿度を有するような無孔膜を使用することで、上記加湿用積層体に凹凸形状を設けなくても十分な透湿性を発揮することが可能となり、加湿器を小型化することが可能となる。
【0011】
上記無孔膜は膜厚が厚いほど透湿度が高くなる性質を備えることが好ましい。このような無孔膜を使用することで上記加湿用積層体は透湿性能を発揮することがさらに容易になる。
【0012】
上記多孔の補強材の吸着等温線はIUPACで示されるI~VI型のいずれか1つであることが好ましい。
【0013】
また、上記多孔の補強材の吸着等温線はIUPACで示されるIII型であることが好ましい。
【0014】
上記無孔膜の吸着等温線はIUPACで示されるI~VI型のいずれか1つであるであることが好ましい。
【0015】
また、上記無孔膜の吸着等温線はIUPACで示されるIII型であることが好ましい。
【0016】
また、上記無孔膜は上記多孔の補強材に対し、相対湿度100%時の含水率が10倍以上であることが好ましい。相対湿度100%時の無孔膜の含水率が多孔の補強材の含水率の10倍以上であることにより、上記加湿用積層体は透湿性能を発揮することが容易になる。
【0017】
また、上記無孔膜は上記多孔の補強材に対して液体の水側に配置され、上記液体の水を吸収して空気中に放出することに用いられることが好ましい。
【0018】
上記カチオン部はアンモニウムイオンを含む基またはアンモニウムイオンを形成可能な基を含有することが好ましい。アンモニウムイオンを含む基またはアンモニウムイオンを形成可能な基を含有することにより、上記無孔膜が殺菌作用を発揮することが可能となるため、雑菌などの付着・堆積を抑制することができる。
【0019】
上記熱可塑性樹脂は親水部を有し、上記親水部は下記式(1)で表される構成単位を含有することが好ましい。上記無孔膜が上記構成単位の親水部を有することにより、無孔膜中に導水パスを形成することができ、透湿性を発揮することが容易となる。
【化1】
(R
1,R
2は独立して水素原子またはメチル基を示す)
【0020】
また、上記熱可塑性樹脂は疎水部を有し、上記疎水部は下記式(2)および/または下記式(3)で表される構成単位を含有することが好ましい。上記無孔膜が上記構成単位の疎水部を有することにより、無孔膜中に導水パスを形成することができ、透湿性を発揮することが容易となる。
【化2】
(R
1は水素原子またはメチル基を示し、R
3は水素原子または炭素数1~2のアルキル基を示す)
【化3】
(R
1は水素原子またはメチル基を示し、R
4は炭素数3以上の分岐鎖状アルキル基を示す)
【0021】
また、上記加湿用積層体は上記無孔膜が上記多孔の補強材の少なくとも一方の表面を覆うようにコーティングされていることが好ましい。
【0022】
また、本開示は、上記加湿用積層体とフレームとを貼り合わせた袋状の保水容器が複数枚設置された加湿器を提供する。
【0023】
また、本開示は上記加湿器を搭載した空調機を提供する。
【0024】
また、本開示は上記加湿器を搭載した換気装置を提供する。
【0025】
また、本開示は上記加湿器を搭載した空気清浄機を提供する。
【発明の効果】
【0026】
本開示の加湿用積層体は、透湿性能を向上させ、加湿器の小型化を可能にすることができる。このため、本開示の加湿用積層体は透湿膜式の加湿器に好ましく用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本開示の加湿用積層体の一実施形態を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
[加湿用積層体]
本開示の一実施形態に係る加湿用積層体は、多孔の補強材と、上記多孔の補強材の少なくとも一方の面に設けられた無孔膜と、を少なくとも備える。上記無孔膜は、上記多孔の補強材の片面に設けられていてもよいし、両面に設けられていてもよい。また、上記加湿用積層体は、上記無孔膜が2つの上記多孔の補強材に挟まれた構造であってもよい。すなわち上記多孔の補強材は上記無孔膜の両面に設けられていてもよい。この場合の2つの上記多孔の補強材は、同一の多孔の補強材であってもよいし、材質や厚さなどが異なる多孔の補強材であってもよい。
【0029】
図1は、本開示の加湿用積層体の一実施形態を表す断面模式図である。加湿用積層体1は、多孔の補強材11と、多孔の補強材11の一方の面11aに設けられた無孔膜12と、を備える。
【0030】
<無孔膜>
上記無孔膜は透湿膜として機能する。上記多孔の補強材の少なくとも一方の面に上記無孔膜を有する上記加湿用積層体は、上記多孔の補強材単体以上の透湿性を有する。これは上記無孔膜が高い保水性を備えることによるものと推測される。このような無孔膜は表面積を大きくするために凸凹形状を設ける必要がなく、加湿用積層体の構造を小型化することが可能になる。なお、上記透湿性とはJIS Z0208-1976の透湿度試験方法(カップ法)に基づき、温度20℃、相対湿度30%、風速2.4m/sの条件および温度20℃、相対湿度65%、風速0.1m/sの条件で恒温恒湿槽内に水を40g入れた状態の透湿カップを設置し、1時間経過時における、水と透湿カップの合計質量の減少分を試験片1m2・24時間あたりの質量に換算し、透湿度として計算するものとする。
【0031】
さらに、上記無孔膜は膜厚が厚いほど高い透湿性を発揮する性質を備えるものであることが好ましい。通常の透湿膜では膜厚が厚くなることにより透湿抵抗が発生し、透湿性が低下してしまうのに対し、上記無孔膜は高い保水性を有することで透湿抵抗が引き起こされず、膜厚が厚くなっても高い透湿性を発揮できるものであると推測される。
【0032】
上記無孔膜の厚さは、0.5μm~5μmが好ましく、より好ましくは1μm~4μmである。上記厚さが0.5μm以上であると、製膜性が良好となり、ガスバリア性向上しつつ透湿性をより向上することができる。上記厚さが5μm以下であると薄膜形成が容易であり、十分な透湿性を維持しつつ、加湿器を小型化することが可能となり、経済性にも優れる。
【0033】
上記無孔膜の吸着等温線はIUPACに示されるI型~VI型のうちのいずれか1つであることが好ましく、より好ましくはIII型である。無孔膜の吸着等温線がIUPACに示されるI型~VI型のうちのいずれか1つであることにより無孔膜の保水量が増加する傾向にあるため、上記加湿用積層体は透湿性を発揮することが容易となる。
【0034】
上記無孔膜の相対湿度100%時の含水率は2%以上であることが好ましく、より好ましくは2.5%以上であり、特に好ましくは3%以上である。無孔膜の相対湿度100%時の含水率は2%以上であることにより、上記加湿用積層体は透湿性を発揮することが容易となる。
【0035】
また、上記無孔膜は上記多孔の補強材に対し、相対湿度100%時の含水率が10倍以上であることが好ましく、より好ましくは15倍以上である。相対湿度100%時の無孔膜の含水率が多孔の補強材の含水率の10倍以上であることにより、上記加湿用積層体は透湿性能を発揮することが容易になる。
【0036】
また、上記無孔膜は、熱可塑性樹脂を含むことが好ましく、上記熱可塑性樹脂はカチオン部を有することが好ましい。したがって、上記無孔膜は上記カチオン部を有することが好ましい。上記無孔膜はカチオン部を有することで、通常金属イオンを主原料として正の電荷を有することの多いスケール成分に対して斥力を発揮することができ、無孔膜へのスケール成分の付着・堆積を抑制することができる。
【0037】
上記無孔膜に水分を吸収するため、上記熱可塑性樹脂に親水部を有することが好ましい。また、上記無孔膜中に導水パスを形成するために上記熱可塑性樹脂に疎水部を有することが好ましい。したがって、上記熱可塑性樹脂は親水部と疎水部との両方を有することが好ましい。上記無孔膜において、上記親水部と上記疎水部が相分離した構造を形成することで上記親水部が導水パスとして機能し、水蒸気をより多く透過させることが可能となるため、より透湿性が優れると推測される。
【0038】
上記熱可塑性樹脂としては、例えば、アクリル系樹脂、セルロース系樹脂、およびポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリエチレン、ポリスチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド系樹脂、ポリテトラフルオロエチレン系樹脂、ポリカプロラクトン、およびポリ乳酸などが挙げられる。
【0039】
上記熱可塑性樹脂は上述のように親水部と疎水部とカチオン部とを有することが好ましいことから、異なるモノマー成分を含む熱可塑性の共重合体であることが好ましい。
【0040】
上記親水部とは上記共重合体の構成単位のうち、側鎖に親水性の官能基を含有するモノマー(a)(以後、モノマー(a)とする)単位によって構成されるものが好ましい。また、上記疎水部とは側鎖に疎水性の官能基を含有するモノマー(b)(以後、モノマー(b)とする)単位によって構成されるものが好ましい。また、上記親水部および上記疎水部は上記共重合体内に形成されていることが好ましい。上記無孔膜において上記共重合体が内側に疎水部、外側に親水部を形成するコアシェル構造を維持していてもよく、その場合は、上記親水部および疎水部は隣り合う2以上の上記共重合体のコア部およびシェル部によって形成されていてもよい。また、上記共重合体は、無孔膜形成前においてコアシェル構造であり、上記無孔膜形成時においてはコアシェル構造を維持していなくてもよい。
【0041】
上記共重合体は、上記親水部を構成する部分として上記モノマー(a)由来の構造単位を含有することが好ましい。上記モノマー(a)としては、例えば、グリシジル基含有モノマー、加水分解性シリル基含有モノマー、アセトアセチル基含有モノマー、ヒドロキシル基含有モノマー、カルボキシ基含有モノマー、メチル(メタ)アクリレート、および後述のカチオン性の官能基を有するモノマーなどが挙げられる。中でも、カルボキシ基含有モノマー、メチル(メタ)アクリレート、および後述のカチオン性の官能基を有するモノマーであることが好ましい。上記モノマー(a)は単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。なお、本明細書における「(メタ)アクリル」は、「アクリル」および「メタクリル」の少なくとも一方を表す。
【0042】
上記グリシジル基含有モノマーとしては、例えば、グリシジル(メタ)アクリレート、およびグリシジル(メタ)アリルエーテルなどが挙げられる。
【0043】
上記加水分解性シリル基含有モノマーとしては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β-メトキシエトキシ)シランおよびビニルメチルジメトキシシランなどのビニル系シリル基含有モノマー;γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、およびγ-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシランなどの(メタ)アクリロキシ系シリル基含有モノマーが挙げられる。
【0044】
上記アセトアセチル基含有モノマーとしては、例えば、ジアセト酢酸アリルエステル、アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート、アセトアセトキシエチルクロトナート、アセトアセトキシプロピル(メタ)アクリレート、アセトアセトキシプロピルクロトナート、および2-シアノアセトアセトキシエチル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0045】
上記ヒドロキシル基含有モノマーとしては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、および4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどのヒドロキシル基含有(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0046】
上記カルボキシ基含有モノマーとしては、例えば、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸などの酸無水物モノマー、フマル酸、シトラコン酸、グルタコン酸、イタコン酸、アクリルアミドN-グリコール酸、ケイ皮酸、および(メタ)アクリル酸などが挙げられる。
【0047】
また、上記モノマー(a)としては、特にメチル(メタ)アクリレートおよび/または(メタ)アクリル酸が好ましく、すなわち、上記親水部は下記式(1)で表される構成単位を含むことが好ましい。
【化1】
(R
1、R
2はそれぞれ独立して水素原子またはメチル基を示す)
【0048】
上記モノマー(a)の含有割合は、上記共重合体を構成する単量体成分全体に対して、好ましくは20モル%~70モル%、より好ましくは30モル%~70モル%、さらに好ましくは40モル%~60モル%である。上記モノマー(a)の含有割合をこの範囲内に調整することにより、無孔膜に親水部を形成して導水パスを容易に形成できるようになり、透湿性により優れる。
【0049】
上記共重合体は、上記疎水部を構成する部分として上記モノマー(b)由来の構造単位を含有することが好ましい。上記モノマー(b)としては、特に限定されないが、好ましくは炭素数2以上の炭化水素基を含むものであり、より好ましくは炭素数2以上の炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステルが挙げられる。上記モノマー(b)は単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用していてもよい。
【0050】
上記炭素数2以上の炭化水素基としては、例えば、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基、およびこれらが2以上結合した基などが挙げられる。
【0051】
上記脂肪族炭化水素基としては、例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基などが挙げられる。アルキル基としては、例えば、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ヘキシル基、オクチル基、イソオクチル基、デシル基、ドデシル基、ステアリル基などの直鎖または分岐鎖状アルキル基が挙げられる。アルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、メタリル基、1-プロペニル基、イソプロペニル基、1-ブテニル基、2-ブテニル基、3-ブテニル基、1-ペンテニル基、2-ペンテニル基、3-ペンテニル基、4-ペンテニル基、5-ヘキセニル基などの直鎖状または分岐鎖状アルケニル基が挙げられる。アルキニル基としては、例えば、エチニル基、プロピニル基などの直鎖状または分岐鎖状アルキニル基が挙げられる。
【0052】
上記脂環式炭化水素基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロドデシル基などの炭素数3~12のシクロアルキル基;シクロヘキセニル基などの炭素数3~12のシクロアルケニル基;ビシクロヘプタニル基、ビシクロヘプテニル基などの炭素数4~15の架橋環式炭化水素基などが挙げられる。
【0053】
上記芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基などの炭素数6~14のアリール基(特に、炭素数6~10のアリール基)などが挙げられる。
【0054】
上記炭素数2以上の炭化水素基としては、脂肪族炭化水素基および芳香族炭化水素基が好ましく、より好ましくは直鎖または分岐鎖状アルキル基および芳香族炭化水素基である。
【0055】
中でも、上記モノマー(b)としては、具体的には、例えば下記式(2)、および/または下記式(3)に記載される構成単位を形成可能なモノマーが好ましい。すなわち、上記疎水部は下記式(2)および/または下記式(3)で表される構成単位を含むことが好ましい。
【化2】
(R
1は水素原子またはメチル基を示し、R
3は水素原子または炭素数1~2のアルキル基を示す)
【化3】
(R
1は水素原子またはメチル基を示し、R
4は炭素数3以上の分岐鎖状アルキル基を示す)
【0056】
上記式(2)のうち、R3の結合位置はベンゼン環を構成する炭化水素のいずれか1つであることが好ましい。上記式(2)で表される構成単位を形成可能なモノマーとしては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-エチルスチレンなどが挙げられる。
【0057】
上記式(3)のうち、R4の炭素数は3~10であることが好ましい。上記式(3)で表される構成単位を形成可能なモノマーとしては、例えば、イソプロピル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0058】
上記モノマー(b)の含有割合は、上記共重合体を構成する単量体成分全体に対して、好ましくは20モル%~70モル%、より好ましくは30モル%~70モル%、さらに好ましくは40モル%~60モル%である。上記モノマー(b)の含有割合をこの範囲内に調整することにより、無孔膜に疎水部を形成して導水パスを容易に形成できるようになり、透湿性により優れる。
【0059】
上記熱可塑性樹脂は上記親水部および/または上記疎水部にカチオン部を有していてもよいし、これら以外に有していてもよい。また、上記熱可塑性樹脂は親水部にカチオン部を有することが好ましい。上記カチオン部はカチオン性の官能基またはカチオン性の官能基を生成可能な基であることが好ましい。上記カチオン性の官能基を生成可能な基とは上記熱可塑性樹脂の段階ではカチオン性の官能基を有しておらず、上記無孔膜を形成した段階や使用時においてカチオン性の官能基を生成するような基を指す。また、上記カチオン性の官能基はカチオンとアニオンの両方が存在する両性イオン性の官能基であってもよい。したがって、上記熱可塑性樹脂はアニオン部を有していてもよい。また、上記熱可塑性樹脂はアニオン部を有さないことが好ましい。
【0060】
上記カチオン性の官能基としては、例えば窒素含有基が挙げられる。上記窒素含有基としては、アンモニウムイオンを含む基またはアンモニウムイオンを形成可能な基が挙げられる。ここで上記アンモニウムイオンを形成可能な基とは上記熱可塑性樹脂の段階ではイオン化しておらず、上記無孔膜を形成した段階や使用時においてイオン化体を形成するような基を指す。上記アンモニウムイオンを含む基および上記アンモニウムイオンを生成可能な基としては、例えば1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基、4級アンモニウム基、イミノ基(-NH-基および=NH基)、アミジノ基、イミジノ基、ヒドラジノ基、アミド基、イミド基、ピリジル基などの窒素原子を含む環状基などが挙げられる。また、上記両性イオン性の官能基としては例えば、4級アンモニウム含有基が挙げられる。上記4級アンモニウム含有基としては例えば、ベタイン基、ホスホコリン基などが挙げられる。中でも上記熱可塑性樹脂においては、抗菌性を発揮させて無孔膜からの雑菌の飛散を防ぐ観点から、無孔膜形成後にアンモニウムイオンを生成可能な基が好ましく、4級アンモニウム基を生成することが可能な基(4級アンモニウム基、イミド基)がより好ましい。
【0061】
上記熱可塑性樹脂が上記共重合体である場合、上記共重合体は側鎖にカチオン性の官能基を有するモノマー由来の構造単位を含有することが好ましい。上記カチオン性の官能基を有するモノマーとしては、上述の窒素含有基を官能基として有するモノマーが挙げられる。上記窒素含有基を官能基として有するモノマーとしては、たとえばアミド基含有モノマー、アミノ基含有モノマー、およびイミド基含有モノマーなどが挙げられる。アミド基含有モノマーとしてN,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジイソプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジ(n-ブチル)(メタ)アクリルアミド、N,N-ジ(t-ブチル)(メタ)アクリルアミドなどのN,N-ジアルキル(メタ)アクリルアミド;N-エチル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N-ブチル(メタ)アクリルアミド、N-n-ブチル(メタ)アクリルアミドなどのN-アルキル(メタ)アクリルアミド;N-ビニルアセトアミド、N-(2-ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、N-(2-ヒドロキシプロピル)(メタ)アクリルアミド、N-(1-ヒドロキシプロピル)(メタ)アクリルアミド、N-(3-ヒドロキシプロピル)(メタ)アクリルアミド、N-(2-ヒドロキシブチル)(メタ)アクリルアミド、N-(3-ヒドロキシブチル)(メタ)アクリルアミド、N-(4-ヒドロキシブチル)(メタ)アクリルアミドなどのN-ヒドロキシアルキル(メタ)アクリルアミド;N-メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-メトキシエチル(メタ)アクリルアミド、N-ブトキシメチル(メタ)アクリルアミドなどのN-アルコキシアルキル(メタ)アクリルアミド;その他、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、およびN-(メタ)アクリロイルモルホリンなどが挙げられる。また、アミノ基含有モノマーとしてアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、およびt-ブチルアミノエチル(メタ)アクリレートなどの置換または無置換アミノ基含有(メタ)アクリレートなどが挙げられる。また、イミド基含有モノマーとしてN-(メタ)アクリロイルオキシメチレンスクシンイミド、N-(メタ)アクリロイル-6-オキシヘキサメチレンスクシンイミド、N-(メタ)アクリロイル-8-オキシヘキサメチレンスクシンイミド、N-シクロヘキシルマレイミド、N-イソプロピルマレイミド、N-ラウリルマレイミド、N-フェニルマレイミド、N-メチルイタコンイミド、N-エチルイタコンイミド、N-ブチルイタコンイミド、N-オクチルイタコンイミド、N-2-エチルへキシルイタコンイミド、N-シクロへキシルイタコンイミド、およびN-ラウリルイタコンイミドなどが挙げられる。上記カチオン性の官能基を有するモノマーは単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0062】
上記カチオン性の官能基を有するモノマーの含有割合は、上記共重合体を構成する単量体成分全体に対して、好ましくは0.5モル%~10モル%、より好ましくは1モル%~7モル%、さらに好ましくは2モル%~5モル%である。上記カチオン性の官能基を有するモノマーの含有割合をこの範囲内に調整することにより、スケール成分との斥力を発揮することが可能となり、スケール成分の無孔膜への付着・堆積を抑制することができる。
【0063】
また、上記共重合体は架橋剤に由来する構造部を含有していてもよい。上記架橋剤としては、上記共重合体を構成するモノマーの側鎖と架橋可能な化合物であれば特に限定されないが、例えば、反応性官能基を2つ有する2官能体が好ましく、重合体内の架橋密度の粗密の幅を大きくし、力学物性などを調整する観点から3官能以上の架橋剤を使用してもよい。上記架橋剤としては、例えば2官能以上のエポキシ基含有化合物、2官能以上のイソシアネート基含有化合物などが挙げられる。上記共重合体においては側鎖に形成される官能基との架橋反応後に4級アンモニウムイオンを生成可能になることから、特に2官能以上のエポキシ基含有化合物を含有するものが好ましい。
【0064】
上記エポキシ基含有化合物としては例えば、ビスフェノールAおよびエピクロルヒドリン型のエポキシ化合物、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ジグリシジルアニリン、N,N,N′,N′-テトラグリシジル-m-キシレンジアミン(例えば、商品名「TETRAD-X」、三菱ガス化学社製)、1,3-ビス(N,N-ジグリシジルアミノメチル)シクロへキサン(例えば、商品名「TETRAD-C」、三菱ガス化学社製)などが挙げられる。
【0065】
上記架橋剤の使用量は、上記共重合体の反応可能な側鎖の総量(100モル部)に対して、好ましくは1モル部~60モル部、より好ましくは2モル部~30モル部、さらに好ましくは4モル部~15モル部である。上記架橋剤の使用量をこの範囲内に調整することにより、無孔膜に導水パスを容易に形成できるようになり、透湿性に優れることが容易となる。
【0066】
上記熱可塑性樹脂の重量平均分子量は、特に限定されないが、2万~200万が好ましく、より好ましくは3万~150万、さらに好ましくは5万~100万、特に好ましくは7万~50万である。上記重量平均分子量は、ゲルパーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)により測定し、ポリスチレン換算により算出された値をいうものとする。
【0067】
上記無孔膜は、本開示の加湿用積層体における効果を損なわない範囲内で、上記熱可塑性樹脂以外のその他の成分を含んでいてもよい。上記その他の成分としては例えば、防腐剤、アンチブロッキング剤、離型剤、レベリング剤などが挙げられる。上記その他の成分の含有量としては、上記共重合体の総量(100質量部)に対して、0.1質量部~10質量部であることが好ましく、より好ましくは0.15質量部~3質量部であり、特に好ましくは0.2質量部~2質量部である。
【0068】
上記共重合体が親水部および疎水部を有することに起因して、上記無孔膜は表面に親水部および疎水部が相分離した構造を有することが好ましい。上記無孔膜表面における親水部の最大径は50nm以下であることが好ましく、より好ましくは20nm以下である。上記親水部の最大径が50nm以下であると、サイズが50nmを超える物質が上記無孔膜を透過しにくく、上記無孔膜を、50nm以上の物質(例えばウイルスなど)を透過させないバリアフィルムとして使用することができる。上記親水部の径は次の方法によって評価される。走査型プローブ顕微鏡(SPM)の凝着力測定モードを用いて吸着力の高い部位(親水部)と吸着力の低い部位(疎水部)を凝着力によって数値化し、画像解析ソフトで処理することで、円相当径として親水部の径を算出することができる。そして、上記最大径は、上述のようにして算出された親水部の径(円相当径)のうち、最も径が大きい径である。
【0069】
なお、本開示において、上記親水部の最大径が50nm以下の構造は50nm以上の大きさの成分を透過しないことから実質的に水蒸気のみを透過するものであるため、本開示における上記無孔膜の孔とは上記親水部に形成される50nm以下のものを除くものとする。また、上記親水部の最大径が50nm超である場合、水蒸気以外のその他の成分を透過させる可能性があるため、上記親水部の最大径が50nm超の構造を複数有する膜を多孔膜であると定義する。
【0070】
上記無孔膜はコーティングにより形成された層であることが好ましい。コーティングにより形成されることで無孔膜として容易に作製することができ、スケール成分や雑菌などの飛散を抑制することが容易になる。
【0071】
<多孔の補強材>
上記多孔の補強材は、上記無孔膜の支持体となる要素であり、透湿性に優れるものであることが好ましい。
【0072】
上記多孔の補強材を形成する材料としては、親水性材料および疎水性材料のいずれであってもよいが、疎水性材料であることが好ましい。上記疎水性材料を用いると、無孔膜を形成するための組成物を塗布した際、組成物が多孔の補強材に染み込まないため、多孔の補強材において組成物が塗膜形成面とは反対側の面から流れ落ちるのを防ぐためのリード基材が不要となる。
【0073】
上記多孔の補強材を形成する材料としては、例えば、ポリオレフィン系樹脂、セルロース系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、およびフッ素系樹脂などの有機物、金属、ガラス、およびセラミックなどの無機物などが挙げられる。中でも、上記無孔膜は上記多孔の補強材上に比較的低温で製膜可能であるため、また、透湿性および耐水性に優れる観点から、有機物であることが好ましく、上記有機物としては特にポリオレフィン系樹脂が好ましい。上記材料は、金属繊維、無機繊維などの繊維状であってもよい。上記多孔の補強材を形成する材料は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0074】
上記多孔の補強材としては、例えば、樹脂多孔膜、無機多孔膜、金属多孔膜、繊維状基材などが挙げられる。
【0075】
上記ポリオレフィン系樹脂は、オレフィンを必須の単量体成分として構成される重合体(オレフィン系エラストマーを含む)であり、即ち、分子中(1分子中)にオレフィンに由来する構成単位を少なくとも含む重合体である。上記オレフィンとしては、特に限定されないが、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、4-メチル-1-ペンテンなどのα-オレフィンが挙げられる。
【0076】
上記ポリオレフィン系樹脂としては、例えば、エチレンを必須の単量体成分として構成される重合体(ポリエチレン系樹脂)、プロピレンを必須の単量体成分として構成される重合体(ポリプロピレン系樹脂)、アイオノマー、非晶性環状オレフィン系重合体などが挙げられる。
【0077】
上記多孔の補強材の空隙率は、特に限定されないが、30体積%~90体積%が好ましく、より好ましくは40体積%~70体積%である。上記空隙率が30体積%以上であると、透湿性がより良好となる。上記空隙率が90体積%以下であると、無孔膜の支持性能がより良好となる。
【0078】
上記多孔の補強材の厚さは、特に限定されないが、上記無孔膜を充分に支持可能である観点から、5μm以上が好ましく、より好ましくは10μm以上である。また、上記多孔の補強材の厚さは、透湿性に優れる観点や経済性を考慮して、50μm以下が好ましく、より好ましくは30μm以下である。
【0079】
上記多孔の補強材の上記無孔膜を備える側の表面(例えば
図1に示す面11a)は、上記無孔膜を容易に形成可能とする観点から、親水化処理が施されていることが好ましい。特に、上記多孔の補強材を形成する材料として疎水性材料を用いた場合、上記親水化処理が施されていることが好ましい。上記親水化処理としては、コロナ放電処理、プラズマ処理などが挙げられる。これらの親水化処理により、多孔の補強材表面にカルボキシ基、ヒドロキシル基、或いはカルボニル基を生じさせることができ、上記無孔膜を形成するための組成物が多孔の補強材表面に濡れ広がりやすくなり、上記無孔膜の形成が容易となる。また、これにより、上記多孔の補強材と上記無孔膜の密着性が向上する。また、疎水性基材から形成された上記多孔の補強材を巻回体として保管する際、巻回体において上記多孔の補強材の一方の面と他方の面とが接触する形態となるが、親水性の一方の面と疎水性の他方の面とが接触することとなるため、ブロッキングを抑制することができる。
【0080】
上記多孔の補強材の上記無孔膜を形成する側の面の表面張力は、35dyn/cm~55dyn/cmが好ましく、より好ましくは37dyn/cm~50dyn/cmである。上記表面張力が35dyn/cm以上であると、上記無孔膜を形成するための組成物を塗布することが容易となり、上記無孔膜の形成が容易となる。上記表面張力が55dyn/cm以下であると、上記無孔膜を形成するための組成物が濡れ広がりすぎず、上記多孔の補強材表面に容易に上記無孔膜を形成することができる。なお、上記多孔の補強材の表面が親水化処理されている場合、上記無孔膜を形成する側の面は、上記親水化処理が施された面である。
【0081】
上記多孔の補強材の内部(すなわち、上記無孔膜が形成されていない領域である内部)の表面張力は、35dyn/cm未満が好ましく、より好ましくは33dyn/cm以下である。上記表面張力が35dyn/cm未満であると、上記無孔膜を形成するための組成物が上記多孔の補強材の内部まで浸透するのを抑制され、上記多孔の補強材表面に容易に上記無孔膜を形成することができる。なお、上記多孔の補強材の表面が親水化処理されている場合、上記多孔の補強材の内部は、親水化処理が施されていない領域である内部である。また、上記内部の表面張力は、上記多孔の補強材を切断した断面について測定して得ることができる。
【0082】
上記多孔の補強材の相対湿度100%時の含水率は0.01%~0.5%であることが好ましく、より好ましくは0.05%~0.4%であり、特に好ましくは0.1%~0.3%である。無孔膜の含水量を多孔の補強材の10倍以上とする観点から、多孔の補強材の相対湿度100%時の含水率は上記範囲内であることが好ましい。
【0083】
上記多孔の補強材の吸着等温線はIUPACに示されるI型~VI型のいずれか1つであることが好ましく、より好ましくはIII型である。多孔の補強材の吸着等温線がIUPACに示されるI型~VI型のうちのいずれか1つであることにより、無孔膜の保水量が増加する傾向にあるため、透湿性を発揮することが容易となる。
【0084】
上記多孔の補強材は、JIS Z0208-1976の透湿度試験方法(カップ法)に基づく、温度20℃、相対湿度65%、風速0.1m/sの条件における透湿度が、1350g/(m2・24h)以下であることが好ましく、より好ましくは1000g/(m2・24h)以下である。
【0085】
また、上記多孔の補強材は、JIS Z0208-1976の透湿度試験方法(カップ法)に基づく、温度20℃、相対湿度30%、風速2.4m/sの条件における透湿度が18000g/(m2・24h)以下であることが好ましく、より好ましくは15000g/(m2・24h)以下であり、さらに好ましくは10000g/(m2・24h)以下である。
【0086】
上記加湿用積層体は、JIS Z0208-1976の透湿度試験方法(カップ法)に基づく、温度20℃、相対湿度65%、風速0.1m/sの条件における透湿度が、1350g/(m2・24h)超であることが好ましく、より好ましくは1370g/(m2・24h)以上である。上記加湿用積層体は、透湿性に優れるため、上記透湿度が1350g/(m2・24h)超である構成とすることが可能である。
【0087】
また、上記加湿用積層体は、JIS Z0208-1976の透湿度試験方法(カップ法)に基づく、温度20℃、相対湿度30%、風速2.4m/sの条件における透湿度が18000g/(m2・24h)超であることが好ましく、より好ましくは19000g/(m2・24h)以上であり、さらに好ましくは20000g/(m2・24h)以上である。上記加湿用積層体は、透湿性に優れるため、上記透湿度が18000g/(m2・24h)超である構成とすることが可能である。
【0088】
また、上記加湿用積層体は上記多孔の補強材単体と比較して、JIS Z0208-1976の透湿度試験方法(カップ法)に基づく、温度20℃、相対湿度65%、風速0.1m/sの条件における透湿度の差が0g/(m2・24h)以上であることが好ましく、より好ましくは10g/(m2・24h)以上であり、特に好ましくは30g/(m2・24h)以上である。
【0089】
また、上記加湿用積層体は上記多孔の補強材単体と比較して、JIS Z0208-1976の透湿度試験方法(カップ法)に基づく、温度20℃、相対湿度30%、風速02.4m/sの条件における透湿度の差が0g/(m2・24h)以上であることが好ましく、より好ましくは1000g/(m2・24h)以上であり、特に好ましくは2000g/(m2・24h)以上である。
【0090】
上記加湿用積層体の厚さは、特に限定されないが、5.5μm~55μmであることが好ましく、より好ましくは7μm~30μmである。加湿用積層体の厚さが5.5μm以上であることで透湿性を発揮することが容易となり、55μm以下であることで経済性に優れつつ、加湿器に使用した際に小型化することが容易となる。
【0091】
[加湿用積層体の製造法]
本開示の加湿用積層体は、上記多孔の補強材の少なくとも一方の表面上に、公知乃至慣用の方法により上記無孔膜を形成することで作製することができる。例えば、上記無孔膜を上記多孔の補強材の一方の表面に直接形成してもよいし、いったん他の支持体上に上記無孔膜を形成した後、上記多孔の補強材の一方の表面に転写する(貼り合わせる)ことにより、多孔の補強材上に上記無孔膜を形成してもよい。中でも、上記無孔膜と上記多孔の補強材の密着性に優れる観点から、前者の方法が好ましい。
【0092】
上記多孔の補強材の上記無孔膜を設ける側の表面に親水化処理を施してもよい。上記親水化処理としては、上述のものが挙げられる。
【0093】
上記無孔膜は、上記多孔の補強材または上記他の支持体上に、上記無孔膜を形成するための組成物を塗布(塗工)し、得られた塗膜を加熱などにより脱溶媒することで形成することができる。
【0094】
上記多孔の補強材は上記親水化処理を施されることでブロッキングが抑制されているため、あらかじめ巻回体として作製した上記多孔の補強材に無孔膜を形成後、再度巻回体の状態とするロールtoロール方式で製造することができる。
【0095】
上記組成物は、公知乃至慣用の方法で作製することができる。例えば、上記共重合体を溶媒に溶解または分散させ、必要に応じて防腐剤などの添加剤を混合することにより、作製することができる。上記溶媒としては、水および/または水溶性溶媒が好ましい。水や水溶性溶媒を用いると、上記共重合体は、内側を疎水部、外側を親水部とするコアシェル形状で組成物中に分散するものと推測される。このような組成物を用いることで、塗膜を乾燥した際に親水部と疎水部が相分離し導水パスを有する状態で無孔膜が形成され、また、疎水部同士が強固に結合した状態となるものと推測され、耐水性がより良好となる。
【0096】
上記水溶性溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、i-プロパノールなどの脂肪族系の水溶性アルコール;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテルなどのグリコールエーテルなどが挙げられる。上記水溶性溶媒は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0097】
上記共重合体が溶解または分散した上記組成物中の上記共重合体の割合(濃度)は、特に限定されないが、0.5~5質量%が好ましく、より好ましくは1~4質量%、さらに好ましくは1.5~3質量%である。上記濃度が5質量%以下であると、塗工層の厚みが厚くなるため、乾燥後の無孔膜の膜厚がより均一化される。これにより、ガスバリア性に優れつつ、より薄膜化された無孔膜を形成することができ、結果として透湿性がより向上する。また、上記濃度が上記範囲内であると、塗工性に優れ、また、透湿性およびガスバリア性に優れる無孔膜の形成が容易である。
【0098】
なお、上記組成物の塗布(塗工)には、公知のコーティング法を利用してもよい。例えば、グラビヤロールコーター、リバースロールコーター、キスロールコーター、ディップロールコーター、バーコーター、ナイフコーター、スプレーコーター、コンマコーター、ダイレクトコーターなどのコーターが用いられてもよい。このようなコーティングにより形成することで無孔膜を形成することが容易となる。
【0099】
上記塗膜を脱溶媒する際の加熱温度は、35℃~90℃が好ましく、より好ましくは40℃~85℃、さらに好ましくは45℃~80℃である。加熱時間は、適宜、適切な時間が採用され得るが、例えば5秒~20分であり、好ましくは5秒~10分、より好ましくは10秒~5分である。上記組成物を用いて90℃以下(特に、80℃以下)の低温で無孔膜を形成可能であるため、製膜が容易であり、また、多孔の補強材として透湿性に優れるポリオレフィン系樹脂を使用することができる。
【0100】
上記多孔の補強材の少なくとも一方の面に上述の方法で上記無孔膜を形成した加湿用積層体は、透湿性に優れつつ、加湿器の形状を小型化することができる。なお、上記加湿用積層体とは、水蒸気を、加湿用積層体を介して移動させることができる積層体を意味する。また、上記加湿用積層体は、親水部と疎水部が相分離した構造を有するため、透湿性を有するバリアフィルムとして用いることもできる。上記親水部の径が小さい場合、上記透湿性を有するバリアフィルムであることにより、親水性を有する小サイズの物質(例えば水蒸気)については親水部を通過させ、サイズの大きい物質(例えばウイルス)を通過させないで、両者を分離することができる。
【0101】
さらに上記加湿用積層体は従来の透湿膜よりも薄膜化することが可能となるため、加湿器に使用した際に、形状自体を小型化することができ、経済性にも優れる。
【0102】
[袋状の保水容器]
上記加湿用積層体がフレームの外側を覆うことで袋状の保水容器を作製することができる。
【0103】
上記フレームは剛性を有している材料であると好ましく、例えば樹脂や金属・合金材料などが挙げられる。また、上記フレームは押出成型により作製した板状もしくは袋状のフレームであってもよいし、射出成型にて板状に作製したフレームであってもよいし、板状に作製したフレームを2枚以上貼り合わせることで袋状の構造を作製してもよい。また、袋状のフレームを作製後に孔部を設けてもよいし、あらかじめ孔部を設けたフレームを作製してもよい。
【0104】
上記積層体と上記フレームとの接触部分のうち、一部または全体を貼り付けられていることが好ましい。上記フレームに貼り付ける方法は特に限定されないが、公知乃至慣用の接着剤により接着する方法や、超音波融着、高周波融着、熱融着などの方法により、融着する方法で貼り付けることができる。
【0105】
上述の方法で袋状の保水容器を作製することができる。上記袋状の保水容器はフレーム構造の外側に積層体が配置されており、上記袋状の保水容器に通液した液体の水が、上記積層体に水蒸気として吸水され、上記積層体内を拡散し、積層体全体から水蒸気を放出することができる。
【0106】
また、上記袋状の保水容器を複数個搭載して加湿器を作製することができる。このような加湿器は従来よりも加湿性能が向上しているため、加湿器を小型化したうえで同等の性能を発揮することができ、コスト面にも優れる。
【0107】
したがって、上記加湿器は上記加湿用積層体を有することにより、透湿性を向上することで小型化が可能となるため、空調機、換気装置、空気清浄機などの用途に好適に使用することができる。
【0108】
本明細書に開示された各々の態様は、本明細書に開示された他のいかなる特徴とも組み合わせることができる。各実施形態における各構成およびそれらの組み合わせなどは、一例であって、本開示の趣旨から逸脱しない範囲内で、適宜、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。また、本開示に係る各発明は、実施形態や以下の実施例によって限定されることはなく、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例0109】
以下に、実施例に基づいて本開示の一実施形態をより詳細に説明する。
【0110】
実施例1
ポリマー中の疎水部を形成する構成単位としてアクリル酸イソブチル47モル部、スチレン1モル部、親水部を形成する構成単位としてアクリル酸21モル部、アクリル酸メチル28モル部、カチオン部形成する構成単位としてイミド3モル部、架橋剤としてエポキシ化合物を2モル部含有する熱可塑性樹脂溶液100質量部を、エタノール22質量部と蒸留水143質量部で希釈して、樹脂濃度10質量%のコート液を調製した。一方、ポリプロピレン樹脂製多孔質基材(厚さ:20μm、空隙率:48体積%)の一方の表面にコロナ処理を行い、表面張力39dynの親水性表面を形成した。そして、上記多孔の補強材の親水性表面に、ワイヤーバーを用いて上記組成物を塗工し、70℃で1分間加熱して、無孔膜(厚さ:1μm)を形成した。このようにして実施例1の加湿用積層体を作製した。
【0111】
実施例2~3
無孔膜の厚みを変更すること以外は実施例1と同様にして、実施例2~3の加湿用積層体を作製した。
【0112】
[評価]
実施例および比較例で得られた各加湿用積層体について以下のように評価した。評価結果は表に記載した。また、無孔膜が形成されていないポリプロピレン樹脂製多孔質基材そのものを比較例1として評価を行った。
【0113】
(1)透湿度
実施例および比較例で得られた加湿用積層体について、JIS Z0208-1976の透湿度試験方法(カップ法)に基づき、透湿度を測定した。具体的には、実施例および比較例で得られた加湿用積層体を2時間以上測定環境に静置した後に透湿シートとして上記透湿カップを覆い、気密した。そして、温度20℃、相対湿度30%、風速2.4m/s環境下の恒温恒湿槽内に水を40g入れた状態の透湿カップを設置し、1時間経過時における、水と透湿カップの合計質量の減少分を試験片1m2・24時間あたりの質量に換算し、透湿度として計算した。また、同様の条件で温度20℃、相対湿度65%、実質無風状態(風速0.1m/s)の環境下での透湿度の計測も行った。
【0114】
(2)含水率
実施例および比較例で得られた各加湿用積層体について、水蒸気吸着法により含水率を測定した。
【0115】
【0116】
実施例1~3の結果に示す通り、本開示の加湿用積層体は無孔膜を有することで、比較例1に示す多孔の補強材単体以上の透湿性を有することが確認できた。さらに無孔膜が厚くなるほど、透湿性が向上することも確認された。
【0117】
以下本開示に係る発明のバリエーションを記載する。
[付記1]
多孔の補強材と、前記多孔の補強材の少なくとも一方の面に積層され、透湿膜として機能する無孔膜とを有する積層体であり、前記積層体の透湿度が前記多孔の補強材単体の透湿度以上である加湿用積層体。
[付記2]
前記無孔膜は膜厚が厚いほど透湿度が高くなる性質を備える付記1に記載の加湿用積層体。
[付記3]
前記多孔の補強材の吸着等温線はIUPACで示されるI~VI型のいずれか1つである付記1または2に記載の加湿用積層体。
[付記4]
前記多孔の補強材の吸着等温線はIUPACで示されるIII型である付記1~3のいずれか1つに記載の加湿用積層体。
[付記5]
前記無孔膜の吸着等温線はIUPACで示されるI~VI型のいずれか1つである付記1~4のいずれか1つに記載の加湿用積層体。
[付記6]
前記無孔膜の吸着等温線はIUPACで示されるIII型である付記1~5のいずれか1つに記載の加湿用積層体。
[付記7]
前記無孔膜は前記多孔の補強材に対し、相対湿度100%時の含水率が15倍以上である付記1~6のいずれか1つに記載の加湿用積層体。
[付記8]
前記無孔膜は前記多孔の補強材に対して液体の水側に配置され、前記液体の水を吸収して空気中に放出することに用いられる付記1~7のいずれか1つに記載の加湿用積層体。
[付記9]
前記無孔膜はカチオン部を有する熱可塑性樹脂を含み、前記カチオン部はアンモニウムイオンを含む基またはアンモニウムイオンを形成可能な基を含有する付記1~8のいずれか1つに記載の加湿用積層体。
[付記10]
前記熱可塑性樹脂は親水部を有し、前記親水部は下記式(1)で表される構成単位を含有する付記1~9のいずれか1つに記載の加湿用積層体。
【化1】
(R
1,R
2はそれぞれ独立して水素原子またはメチル基を示す)
[付記11]
前記熱可塑性樹脂は疎水部を有し、前記疎水部は下記式(2)及び/または下記式(3)で表される構成単位を含有する付記1~10のいずれか1つに記載の加湿用積層体。
【化2】
(R
1は水素原子またはメチル基を示し、R
3は炭素数1~2のアルキル基を示す)
【化3】
(R
1は水素原子またはメチル基を示し、R
4は炭素数3以上の分岐型アルキル基を示す)
[付記12]
前記無孔膜は前記多孔の補強材の少なくとも一方の表面を覆うようにコーティングされている付記1~11のいずれか1つに記載の加湿用積層体。
[付記13]
付記1~12のいずれか1つに記載の加湿用積層体とフレームとを貼り合わせた袋状の保水容器が複数枚設置された加湿器。
[付記14]
付記13に記載の加湿器を搭載した空調機。
[付記15]
付記13に記載の加湿器を搭載した換気装置。
[付記16]
付記13に記載の加湿器を搭載した空気清浄機。