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  • 特開-加湿用積層体、および加湿器 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023183331
(43)【公開日】2023-12-27
(54)【発明の名称】加湿用積層体、および加湿器
(51)【国際特許分類】
   B32B 5/18 20060101AFI20231220BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20231220BHJP
   F24F 6/04 20060101ALI20231220BHJP
【FI】
B32B5/18
B32B27/00 B
F24F6/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022096878
(22)【出願日】2022-06-15
(71)【出願人】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(71)【出願人】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002239
【氏名又は名称】弁理士法人G-chemical
(72)【発明者】
【氏名】前谷 臣治
(72)【発明者】
【氏名】西尾 直高
(72)【発明者】
【氏名】榊原 隆広
(72)【発明者】
【氏名】水田 智也
(72)【発明者】
【氏名】坂田 祐未
(72)【発明者】
【氏名】中澤 武馬
【テーマコード(参考)】
3L055
4F100
【Fターム(参考)】
3L055BA02
4F100AK01B
4F100AK07
4F100AK12
4F100AK25
4F100AK49
4F100AK53
4F100AL01
4F100AR00A
4F100AR00B
4F100AR00C
4F100BA02
4F100BA03
4F100BA07
4F100DJ00
4F100DJ00A
4F100EH46
4F100EJ55
4F100GB48
4F100JB05B
4F100JB06
4F100JB06B
4F100JB16B
4F100JD04
4F100JD04A
4F100JD04B
4F100JD15A
4F100JD15B
4F100JD16A
4F100JD16B
4F100YY00B
(57)【要約】      (修正有)
【課題】スケール成分の付着・堆積を抑制可能な加湿用積層体を提供する。
【解決手段】本開示の加湿用積層体1は多孔の補強材11と、多孔の補強材11の少なくとも一方の面に積層される透湿膜として機能する無孔膜12とを有する積層体であり、前記無孔膜12表面が撥水性を有し、ゼータ電位が+20mV以上である。また、無孔膜12は多孔の補強材11に対して液体の水側に配置され、前記液体の水を吸収して空気中に放出することに用いられることが好ましい。また、無孔膜12はカチオン部を有する熱可塑性樹脂を含有し、前記カチオン部はアンモニウムイオンを含む基またはアンモニウムイオンを形成可能な基を含有することが好ましい。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔の補強材と、前記多孔の補強材の少なくとも一方の面に積層される透湿膜として機能する無孔膜とを有する積層体であり、前記無孔膜表面が撥水性を有し、ゼータ電位が+20mV以上である加湿用積層体。
【請求項2】
前記無孔膜は前記多孔の補強材に対して液体の水側に配置され、前記液体の水を吸収して空気中に放出することに用いられる請求項1に記載の加湿用積層体。
【請求項3】
前記無孔膜はカチオン部を有する熱可塑性樹脂を含有し、前記カチオン部はアンモニウムイオンを含む基またはアンモニウムイオンを形成可能な基を含有する請求項1または2に記載の加湿用積層体。
【請求項4】
前記無孔膜は親水部を有する熱可塑性樹脂を含有し、前記親水部は下記式(1)で表される構成単位を含有する請求項1または2に記載の加湿用積層体。
【化1】
(R1,R2はそれぞれ独立して水素原子またはメチル基を示す)
【請求項5】
前記無孔膜は疎水部を有する熱可塑性樹脂を含有し、前記疎水部は下記式(2)および/または下記式(3)で表される構成単位を含有する請求項1または2に記載の加湿用積層体。
【化2】
(R1は水素原子またはメチル基を示し、R3は炭素数1~2のアルキル基を示す)
【化3】
(R1は水素原子またはメチル基を示し、R4は炭素数3以上の分岐型アルキル基を示す)
【請求項6】
前記無孔膜は前記多孔の補強材の少なくとも一方の表面を覆うようにコーティングされている請求項1または2に記載の加湿用積層体。
【請求項7】
請求項1または2に記載の加湿用積層体とフレームとを貼り合わせた袋状の保水容器が複数枚設置された加湿器。
【請求項8】
請求項7に記載の加湿器を搭載した空調機。
【請求項9】
請求項7に記載の加湿器を搭載した換気装置。
【請求項10】
請求項7に記載の加湿器を搭載した空気清浄機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、加湿用積層体、および加湿器に関する。
【背景技術】
【0002】
透湿膜式の加湿器は水蒸気のみが透湿膜を透過し、加湿する空気と水が直接的に触れ合うことがないため、雑菌やスケール成分の飛散を抑制することが可能である。このような透湿膜式の加湿器の透湿性能を向上させるために、透湿膜の面積を拡大するための工夫がなされてきた。例えば特許文献1のような3次元の多孔板を無孔の透湿膜の中に封入する形態が知られていた。
【0003】
特許文献1のような3次元の多孔板を使用する構成は、透湿膜と水の接触する表面積を向上して、透湿性能を向上させることが可能であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8-233315号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1では3次元の多孔板自体が親水性であるため、スケール成分が3次元の多孔板に付着・堆積してしまうという問題があった。
【0006】
また、上記のような構造で1度スケール成分が付着・堆積してしまうと、目詰まりが発生し易く、給水した水が排水されにくくなるという問題があった。排水が残存してしまうとスケール成分の付着・堆積が促進され、また、排水が難しくなることで雑菌や藻類などが繁殖しやすくなるため、加湿器として使用することができなくなり、このような構造の加湿器は長期的な耐用性が不十分であった。
【0007】
したがって、本開示の目的は、このような課題を解決するものであって、スケール成分の付着・堆積を抑制可能な加湿用積層体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、多孔の補強材と、上記多孔の補強材の少なくとも一方の面に積層される透湿膜として機能する無孔膜とを有する積層体であり、上記無孔膜表面が撥水性を有し、ゼータ電位が+20mV以上である加湿用積層体であればスケール成分の付着・堆積を抑制可能であることを見出した。本開示はこれらの知見に基づいて完成させたものに関する。
【0009】
すなわち、本開示は、多孔の補強材と、上記多孔の補強材の少なくとも一方の面に積層される透湿膜として機能する無孔膜とを有する積層体であり、上記無孔膜表面が撥水性を有し、ゼータ電位が+20mV以上である加湿用積層体を提供する。
【0010】
上記加湿用積層体は無孔膜表面が撥水性を有し、ゼータ電位が+20mV以上であることにより、通常金属イオンを含み、ゼータ電位が+であることが多いスケール成分に対して反発力を発揮することができ、無孔膜表面へのスケール成分の付着・堆積を抑制することができる。
【0011】
また、上記無孔膜は上記多孔の補強材に対して液体の水側に配置され、上記液体の水を吸収して空気中に放出することに用いられることが好ましい。
【0012】
上記無孔膜はカチオン部を有する熱可塑性樹脂を含有し、上記カチオン部はアンモニウムイオンを含む基またはアンモニウムイオンを形成可能な基を含有することが好ましい。アンモニウムイオンを含む基またはアンモニウムイオンを形成可能な基を含有することにより、上記無孔膜が殺菌作用を発揮することが可能となるため、雑菌などの付着・堆積を抑制することができる。
【0013】
上記無孔膜は親水部を有する熱可塑性樹脂を含有し、上記親水部は下記式(1)で表される構成単位を含有することが好ましい。上記無孔膜が上記構成単位の親水部を有することにより、無孔膜中に導水パスを形成することができ、透湿性を発揮することが容易となる。
【化1】
(R1,R2はそれぞれ独立して水素原子またはメチル基を示す)
【0014】
また、上記無孔膜は疎水部を有する熱可塑性樹脂を含有し、上記疎水部は下記式(2)および/または下記式(3)で表される構成単位を含有することが好ましい。上記無孔膜が上記構成単位の疎水部を有することにより、無孔膜表面が撥水性を発揮することができる。
【化2】
(R1は水素原子またはメチル基を示し、R3は水素原子または炭素数1~2のアルキル基を示す)
【化3】
(R1は水素原子またはメチル基を示し、R4は炭素数3以上の分岐鎖状アルキル基を示す)
【0015】
また、上記加湿用積層体は上記無孔膜が上記多孔の補強材の少なくとも一方の表面を覆うようにコーティングされていることが好ましい。
【0016】
また、本開示は、上記加湿用積層体とフレームとを貼り合わせた袋状の保水容器が複数枚設置された加湿器を提供する。上記加湿用積層体から形成された袋状の保水容器はスケール成分の付着・堆積を抑制することができるため、目詰まりを起こしにくく、長期的な耐用性に優れる傾向にある。
【0017】
また、本開示は上記加湿器を搭載した空調機を提供する。
【0018】
また、本開示は上記加湿器を搭載した換気装置を提供する。
【0019】
また、本開示は上記加湿器を搭載した空気清浄機を提供する。
【発明の効果】
【0020】
本開示の加湿用積層体は、スケール成分の付着・堆積を抑制することができ、透湿膜としての長寿命化を達成することができる。このため、本開示の加湿用積層体は透湿膜式の加湿器に好ましく用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本開示の加湿用積層体の一実施形態を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
[加湿用積層体]
本開示の一実施形態に係る加湿用積層体は、多孔の補強材と、上記多孔の補強材の少なくとも一方の面に設けられた無孔膜と、を少なくとも備える。上記無孔膜は、上記多孔の補強材の片面に設けられていてもよいし、両面に設けられていてもよい。また、上記加湿用積層体は、上記無孔膜が2つの上記多孔の補強材に挟まれた構造であってもよい。すなわち上記多孔の補強材は上記無孔膜の両面に設けられていてもよい。この場合の2つの上記多孔の補強材は、同一の多孔の補強材であってもよいし、材質や厚さなどが異なる多孔の補強材であってもよい。
【0023】
図1は、本開示の加湿用積層体の一実施形態を表す断面模式図である。加湿用積層体1は、多孔の補強材11と、多孔の補強材11の一方の面11aに設けられた無孔膜12と、を備える。
【0024】
<無孔膜>
上記無孔膜は透湿膜として機能する。また、上記無孔膜は表面が撥水性を有し、ゼータ電位が+20mV以上である。無孔膜表面が撥水性を有し、ゼータ電位が+20mV以上であることで、通常金属イオンを含み、ゼータ電位が+であることが多いスケール成分に対して反発力を発揮し、スケール成分の無孔膜表面への付着・堆積を抑制することができる。また、上記無孔膜を含む加湿用積層体を加湿器に使用した際に長寿命化を達成することが可能となる。
【0025】
また、上記無孔膜表面のゼータ電位は+25以上であることが好ましく、より好ましくは+30以上であり、特に好ましくは+35以上である。
【0026】
上記無孔膜は透湿膜であり、上記無孔膜に水分を吸収するため、熱可塑性樹脂を含むことが好ましい。上記熱可塑性樹脂は親水部を有することが好ましい。また、上記無孔膜表面に撥水性を付与しつつ、上記無孔膜中に導水パスを形成するために上記熱可塑性樹脂に疎水部を有することが好ましい。したがって、上記熱可塑性樹脂は親水部と疎水部との両方を有することが好ましい。上記無孔膜において、上記親水部と上記疎水部が相分離した構造を形成することで上記親水部が導水パスとして機能し、水蒸気をより多く透過させることが可能となるため、より透湿性が優れると推測される。
【0027】
上記熱可塑性樹脂としては、例えば、アクリル系樹脂、セルロース系樹脂、およびポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリエチレン、ポリスチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド系樹脂、ポリテトラフルオロエチレン系樹脂、ポリカプロラクトン、およびポリ乳酸などが挙げられる。
【0028】
上記熱可塑性樹脂は上述のように親水部と疎水部とを有することが好ましいことから、異なるモノマー成分を含む熱可塑性の共重合体であることが好ましい。
【0029】
上記親水部とは上記共重合体の構成単位のうち、側鎖に親水性の官能基を含有するモノマー(a)(以後、モノマー(a)とする)単位によって構成されるものが好ましい。また、上記疎水部とは側鎖に疎水性の官能基を含有するモノマー(b)(以後、モノマー(b)とする)単位によって構成されるものが好ましい。また、上記親水部および上記疎水部は上記共重合体内に形成されていることが好ましい。上記無孔膜において上記共重合体が内側に疎水部、外側に親水部を形成するコアシェル構造を維持していてもよく、その場合は、上記親水部および疎水部は隣り合う2以上の上記共重合体のコア部およびシェル部によって形成されていてもよい。また、上記共重合体は、無孔膜形成前においてコアシェル構造であり、上記無孔膜形成時においてはコアシェル構造を維持していなくてもよい。
【0030】
上記共重合体は、上記親水部を構成する部分として上記モノマー(a)由来の構造単位を含有することが好ましい。上記モノマー(a)としては、例えば、グリシジル基含有モノマー、加水分解性シリル基含有モノマー、アセトアセチル基含有モノマー、ヒドロキシル基含有モノマー、カルボキシ基含有モノマー、メチル(メタ)アクリレート、および後述のカチオン性の官能基を有するモノマーなどが挙げられる。中でも、カルボキシ基含有モノマー、メチル(メタ)アクリレート、および後述のカチオン性の官能基を有するモノマーであることが好ましい。上記モノマー(a)は単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。なお、本明細書における「(メタ)アクリル」は、「アクリル」および「メタクリル」の少なくとも一方を表す。
【0031】
上記グリシジル基含有モノマーとしては、例えば、グリシジル(メタ)アクリレート、およびグリシジル(メタ)アリルエーテルなどが挙げられる。
【0032】
上記加水分解性シリル基含有モノマーとしては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β-メトキシエトキシ)シランおよびビニルメチルジメトキシシランなどのビニル系シリル基含有モノマー;γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、およびγ-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシランなどの(メタ)アクリロキシ系シリル基含有モノマーが挙げられる。
【0033】
上記アセトアセチル基含有モノマーとしては、例えば、ジアセト酢酸アリルエステル、アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート、アセトアセトキシエチルクロトナート、アセトアセトキシプロピル(メタ)アクリレート、アセトアセトキシプロピルクロトナート、および2-シアノアセトアセトキシエチル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0034】
上記ヒドロキシル基含有モノマーとしては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、および4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどのヒドロキシル基含有(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0035】
上記カルボキシ基含有モノマーとしては、例えば、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸などの酸無水物モノマー、フマル酸、シトラコン酸、グルタコン酸、イタコン酸、アクリルアミドN-グリコール酸、ケイ皮酸、および(メタ)アクリル酸などが挙げられる。
【0036】
また、上記モノマー(a)としては、特にメチル(メタ)アクリレートおよび/または(メタ)アクリル酸が好ましく、すなわち、上記親水部は下記式(1)で表される構成単位を含むことが好ましい。
【化1】
(R1、R2はそれぞれ独立して水素原子またはメチル基を示す)
【0037】
上記モノマー(a)の含有割合は、上記共重合体を構成する単量体成分全体に対して、好ましくは20モル%~70モル%、より好ましくは30モル%~70モル%、さらに好ましくは40モル%~60モル%である。上記モノマー(a)の含有割合をこの範囲内に調整することにより、無孔膜に親水部を形成して導水パスを容易に形成できるようになり、透湿性により優れる。
【0038】
上記共重合体は、上記疎水部を構成する部分として上記モノマー(b)由来の構造単位を含有することが好ましい。上記モノマー(b)としては、特に限定されないが、好ましくは炭素数2以上の炭化水素基を含むものであり、より好ましくは炭素数2以上の炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステルが挙げられる。上記モノマー(b)は単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用していてもよい。
【0039】
上記炭素数2以上の炭化水素基としては、例えば、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基、およびこれらが2以上結合した基などが挙げられる。
【0040】
上記脂肪族炭化水素基としては、例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基などが挙げられる。アルキル基としては、例えば、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ヘキシル基、オクチル基、イソオクチル基、デシル基、ドデシル基、ステアリル基などの直鎖または分岐鎖状アルキル基が挙げられる。アルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、メタリル基、1-プロペニル基、イソプロペニル基、1-ブテニル基、2-ブテニル基、3-ブテニル基、1-ペンテニル基、2-ペンテニル基、3-ペンテニル基、4-ペンテニル基、5-ヘキセニル基などの直鎖状または分岐鎖状アルケニル基が挙げられる。アルキニル基としては、例えば、エチニル基、プロピニル基などの直鎖状または分岐鎖状アルキニル基が挙げられる。
【0041】
上記脂環式炭化水素基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロドデシル基などの炭素数3~12のシクロアルキル基;シクロヘキセニル基などの炭素数3~12のシクロアルケニル基;ビシクロヘプタニル基、ビシクロヘプテニル基などの炭素数4~15の架橋環式炭化水素基などが挙げられる。
【0042】
上記芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基などの炭素数6~14のアリール基(特に、炭素数6~10のアリール基)などが挙げられる。
【0043】
上記炭素数2以上の炭化水素基としては、脂肪族炭化水素基および芳香族炭化水素基が好ましく、より好ましくは直鎖または分岐鎖状アルキル基および芳香族炭化水素基である。
【0044】
中でも、上記モノマー(b)としては、具体的には、例えば下記式(2)、および/または下記式(3)に記載される構成単位を形成可能なモノマーが好ましい。すなわち、上記疎水部は下記式(2)および/または下記式(3)で表される構成単位を含むことが好ましい。
【化2】
(R1は水素原子またはメチル基を示し、R3は水素原子または炭素数1~2のアルキル基を示す)
【化3】
(R1は水素原子またはメチル基を示し、R4は炭素数3以上の分岐鎖状アルキル基を示す)
【0045】
上記式(2)のうち、R3の結合位置はベンゼン環を構成する炭化水素のどれであってもよく、上記式(2)で表される構成単位を形成可能なモノマーとしては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-エチルスチレンなどが挙げられる。
【0046】
上記式(3)のうち、R4は炭素数3~10の分岐鎖状アルキル基であることが好ましく、上記式(3)で表される構成単位を形成可能なモノマーとしては、例えば、イソプロピル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0047】
上記モノマー(b)の含有割合は、上記共重合体を構成する単量体成分全体に対して、好ましくは20モル%~70モル%、より好ましくは30モル%~70モル%、さらに好ましくは40モル%~60モル%である。上記モノマー(b)の含有割合をこの範囲内に調整することにより、撥水性を発揮しつつ、無孔膜に疎水部を形成して導水パスを容易に形成できるようになり、透湿性により優れる。
【0048】
上記熱可塑性樹脂はカチオン部を有することが好ましい。この場合、上記親水部および/または上記疎水部にカチオン部を有していてもよいし、これら以外にカチオン部を有していてもよい。また、上記熱可塑性樹脂は親水部にカチオン部を有することが好ましい。上記カチオン部はカチオン性の官能基またはカチオン性の官能基を生成可能な基であることが好ましい。上記カチオン性の官能基を生成可能な基とは上記熱可塑性樹脂の段階ではカチオン性の官能基を有しておらず、上記無孔膜を形成した段階や使用時においてカチオン性の官能基を生成するような基を指す。また、上記カチオン性の官能基はカチオンとアニオンの両方が存在する両性イオン性の官能基であってもよい。したがって、上記熱可塑性樹脂はアニオン部を有していてもよい。また、上記熱可塑性樹脂はアニオン部を有さないことが好ましい。
【0049】
上記カチオン性の官能基としては、例えば窒素含有基が挙げられる。上記窒素含有基としては、アンモニウムイオンを含む基またはアンモニウムイオンを形成可能な基が挙げられる。ここで上記アンモニウムイオンを形成可能な基とは上記熱可塑性樹脂の段階ではイオン化しておらず、上記無孔膜を形成した段階や使用時においてイオン化体を形成するような基を指す。上記アンモニウムイオンを含む基および上記アンモニウムイオンを生成可能な基としては、例えば1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基、4級アンモニウム基、イミノ基(-NH-基および=NH基)、アミジノ基、イミジノ基、ヒドラジノ基、アミド基、イミド基、ピリジル基などの窒素原子を含む環状基などが挙げられる。また、上記両性イオン性の官能基としては例えば、4級アンモニウム含有基が挙げられる。上記4級アンモニウム含有基としては例えば、ベタイン基、ホスホコリン基などが挙げられる。中でも上記熱可塑性樹脂においては、抗菌性を発揮させて無孔膜からの雑菌の飛散を防ぐ観点から、無孔膜形成後にアンモニウムイオンを生成可能な基が好ましく、4級アンモニウム基を生成することが可能な基(4級アンモニウム基、イミド基)がより好ましい。
【0050】
上記熱可塑性樹脂が上記共重合体である場合、上記共重合体は側鎖にカチオン性の官能基を有するモノマー由来の構造単位を含有することが好ましい。上記カチオン性の官能基を有するモノマーとしては、上述の窒素含有基を官能基として有するモノマーが挙げられる。上記窒素含有基を官能基として有するモノマーとしては、たとえばアミド基含有モノマー、アミノ基含有モノマー、およびイミド基含有モノマーなどが挙げられる。アミド基含有モノマーとしてN,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジイソプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジ(n-ブチル)(メタ)アクリルアミド、N,N-ジ(t-ブチル)(メタ)アクリルアミドなどのN,N-ジアルキル(メタ)アクリルアミド;N-エチル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N-ブチル(メタ)アクリルアミド、N-n-ブチル(メタ)アクリルアミドなどのN-アルキル(メタ)アクリルアミド;N-ビニルアセトアミド、N-(2-ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、N-(2-ヒドロキシプロピル)(メタ)アクリルアミド、N-(1-ヒドロキシプロピル)(メタ)アクリルアミド、N-(3-ヒドロキシプロピル)(メタ)アクリルアミド、N-(2-ヒドロキシブチル)(メタ)アクリルアミド、N-(3-ヒドロキシブチル)(メタ)アクリルアミド、N-(4-ヒドロキシブチル)(メタ)アクリルアミドなどのN-ヒドロキシアルキル(メタ)アクリルアミド;N-メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-メトキシエチル(メタ)アクリルアミド、N-ブトキシメチル(メタ)アクリルアミドなどのN-アルコキシアルキル(メタ)アクリルアミド;その他、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、およびN-(メタ)アクリロイルモルホリンなどが挙げられる。また、アミノ基含有モノマーとしてアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、およびt-ブチルアミノエチル(メタ)アクリレートなどの置換または無置換アミノ基含有(メタ)アクリレートなどが挙げられる。また、イミド基含有モノマーとしてN-(メタ)アクリロイルオキシメチレンスクシンイミド、N-(メタ)アクリロイル-6-オキシヘキサメチレンスクシンイミド、N-(メタ)アクリロイル-8-オキシヘキサメチレンスクシンイミド、N-シクロヘキシルマレイミド、N-イソプロピルマレイミド 、N-ラウリルマレイミド、N-フェニルマレイミド、N-メチルイタコンイミド、N-エチルイタコンイミド、N-ブチルイタコンイミド、N-オクチルイタコンイミド、N-2-エチルへキシルイタコンイミド、N-シクロへキシルイタコンイミド、およびN-ラウリルイタコンイミドなどが挙げられる。上記カチオン性の官能基を有するモノマーは単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0051】
上記カチオン性の官能基を有するモノマーの含有割合は、上記共重合体を構成する単量体成分全体に対して、好ましくは0.5モル%~10モル%、より好ましくは1モル%~7モル%、さらに好ましくは2モル%~5モル%である。上記カチオン性の官能基を有するモノマーの含有割合をこの範囲内に調整することにより、スケール成分との斥力を発揮することが可能となり、スケール成分の無孔膜への付着・堆積を抑制することができる。
【0052】
また、上記共重合体は架橋剤に由来する構造部を含有していてもよい。上記架橋剤としては、上記共重合体を構成するモノマーの側鎖と架橋可能な化合物であれば特に限定されないが、例えば、反応性官能基を2つ有する2官能体が好ましく、重合体内の架橋密度の粗密の幅を大きくし、力学物性などを調整する観点から3官能以上の架橋剤を使用してもよい。上記架橋剤としては、例えば2官能以上のエポキシ基含有化合物、2官能以上のイソシアネート基含有化合物などが挙げられる。上記共重合体においては側鎖に形成される官能基との架橋反応後に4級アンモニウムイオンを生成可能になることから、特に2官能以上のエポキシ基含有化合物を含有するものが好ましい。
【0053】
上記エポキシ基含有化合物としては例えば、ビスフェノールAおよびエピクロルヒドリン型のエポキシ化合物、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ジグリシジルアニリン、N,N,N′,N′-テトラグリシジル-m-キシレンジアミン(例えば、商品名「TETRAD-X」、三菱ガス化学社製)、1,3-ビス(N,N-ジグリシジルアミノメチル)シクロへキサン(例えば、商品名「TETRAD-C」、三菱ガス化学社製)などが挙げられる。
【0054】
上記架橋剤の使用量は、上記共重合体の反応可能な側鎖の総量(100モル部)に対して、好ましくは1モル部~60モル部、より好ましくは2モル部~30モル部、さらに好ましくは4モル部~15モル部である。上記架橋剤の使用量をこの範囲内に調整することにより、無孔膜に導水パスを容易に形成できるようになり、透湿性に優れることが容易となる。
【0055】
上記熱可塑性樹脂の重量平均分子量は、特に限定されないが、2万~200万が好ましく、より好ましくは3万~150万、さらに好ましくは5万~100万、特に好ましくは7万~50万である。上記重量平均分子量は、ゲルパーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)により測定し、ポリスチレン換算により算出された値をいうものとする。
【0056】
上記無孔膜は、本開示の加湿用積層体における効果を損なわない範囲内で、上記熱可塑性樹脂以外のその他の成分を含んでいてもよい。
【0057】
上記無孔膜は、本開示の加湿用積層体における効果を損なわない範囲内で、上記熱可塑性樹脂以外のその他の成分を含んでいてもよい。上記その他の成分としては例えば、防腐剤、アンチブロッキング剤、離型剤、レベリング剤などが挙げられる。上記その他の成分の含有量としては、上記共重合体の総量(100質量部)に対して、0.1質量部~10質量部であることが好ましく、より好ましくは0.15質量部~3質量部であり、特に好ましくは0.2質量部~2質量部である。
【0058】
<多孔の補強材>
上記多孔の補強材は、上記無孔膜の支持体となる要素であり、透湿性に優れるものであることが好ましい。
【0059】
上記多孔の補強材を形成する材料としては、親水性材料および疎水性材料のいずれであってもよいが、疎水性材料であることが好ましい。上記疎水性材料を用いると、無孔膜を形成するための組成物を塗布した際、組成物が多孔の補強材に染み込まないため、多孔の補強材において組成物が塗膜形成面とは反対側の面から流れ落ちるのを防ぐためのリード基材が不要となる。
【0060】
上記多孔の補強材を形成する材料としては、例えば、ポリオレフィン系樹脂、セルロース系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、およびフッ素系樹脂などの有機物、金属、ガラス、およびセラミックなどの無機物などが挙げられる。中でも、上記無孔膜は上記多孔の補強材上に比較的低温で製膜可能であるため、また、透湿性および耐水性に優れる観点から、有機物であることが好ましく、上記有機物としては特にポリオレフィン系樹脂が好ましい。上記材料は、金属繊維、無機繊維などの繊維状であってもよい。上記多孔の補強材を形成する材料は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0061】
上記多孔の補強材としては、例えば、樹脂多孔膜、無機多孔膜、金属多孔膜、繊維状基材などが挙げられる。
【0062】
上記ポリオレフィン系樹脂は、オレフィンを必須の単量体成分として構成される重合体(オレフィン系エラストマーを含む)であり、即ち、分子中(1分子中)にオレフィンに由来する構成単位を少なくとも含む重合体である。上記オレフィンとしては、特に限定されないが、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、4-メチル-1-ペンテンなどのα-オレフィンが挙げられる。
【0063】
上記ポリオレフィン系樹脂としては、例えば、エチレンを必須の単量体成分として構成される重合体(ポリエチレン系樹脂)、プロピレンを必須の単量体成分として構成される重合体(ポリプロピレン系樹脂)、アイオノマー、非晶性環状オレフィン系重合体などが挙げられる。
【0064】
上記多孔の補強材の空隙率は、特に限定されないが、30体積%~90体積%が好ましく、より好ましくは40体積%~70体積%である。上記空隙率が30体積%以上であると、透湿性がより良好となる。上記空隙率が90体積%以下であると、無孔膜の支持性能がより良好となる。
【0065】
上記多孔の補強材の厚さは、特に限定されないが、上記無孔膜を充分に支持可能である観点から、5μm以上が好ましく、より好ましくは10μm以上である。また、上記多孔の補強材の厚さは、透湿性に優れる観点や経済性を考慮して、50μm以下が好ましく、より好ましくは30μm以下である。
【0066】
上記多孔の補強材の上記無孔膜を備える側の表面(例えば図1に示す面11a)は、上記無孔膜を容易に形成可能とする観点から、親水化処理が施されていることが好ましい。特に、上記多孔の補強材を形成する材料として疎水性材料を用いた場合、上記親水化処理が施されていることが好ましい。上記親水化処理としては、コロナ放電処理、プラズマ処理などが挙げられる。これらの親水化処理により、多孔の補強材表面にカルボキシ基、ヒドロキシル基、或いはカルボニル基を生じさせることができ、上記無孔膜を形成するための組成物が多孔の補強材表面に濡れ広がりやすくなり、上記無孔膜の形成が容易となる。また、これにより、上記多孔の補強材と上記無孔膜の密着性が向上する。また、疎水性基材から形成された上記多孔の補強材を巻回体として保管する際、巻回体において上記多孔の補強材の一方の面と他方の面とが接触する形態となるが、親水性の一方の面と疎水性の他方の面とが接触することとなるため、ブロッキングを抑制することができる。
【0067】
上記多孔の補強材の上記無孔膜を形成する側の面の表面張力は、35dyn/cm~55dyn/cmが好ましく、より好ましくは37dyn/cm~50dyn/cmである。上記表面張力が35dyn/cm以上であると、上記無孔膜を形成するための組成物を塗布することが容易となり、上記無孔膜の形成が容易となる。上記表面張力が55dyn/cm以下であると、上記無孔膜を形成するための組成物が濡れ広がりすぎず、上記多孔の補強材表面に容易に上記無孔膜を形成することができる。なお、上記多孔の補強材の表面が親水化処理されている場合、上記無孔膜を形成する側の面は、上記親水化処理が施された面である。
【0068】
上記多孔の補強材の内部(すなわち、上記無孔膜が形成されていない領域である内部)の表面張力は、35dyn/cm未満が好ましく、より好ましくは33dyn/cm以下である。上記表面張力が35dyn/cm未満であると、上記無孔膜を形成するための組成物が上記多孔の補強材の内部まで浸透するのを抑制され、上記多孔の補強材表面に容易に上記無孔膜を形成することができる。なお、上記多孔の補強材の表面が親水化処理されている場合、上記多孔の補強材の内部は、親水化処理が施されていない領域である内部である。また、上記内部の表面張力は、上記多孔の補強材を切断した断面について測定して得ることができる。
【0069】
上記加湿用積層体は、JIS Z0208-1976の透湿度試験方法(カップ法)に基づき、温度20℃、相対湿度65%、風速0.1m/sの条件で恒温恒湿槽内に水を40g入れた状態の透湿カップを設置し、1時間経過時における、水と透湿カップの合計質量の減少分を試験片1m2・24時間あたりの質量に換算したものである透湿度が、1350g/(m2・24h)超であることが好ましく、より好ましくは1370g/(m2・24h)以上である。上記加湿用積層体は、透湿性に優れるため、上記透湿度が1350g/(m2・24h)超である構成とすることが可能である。
【0070】
また、上記加湿用積層体は、JIS Z0208-1976の透湿度試験方法(カップ法)に基づき、温度20℃、相対湿度30%、風速2.4m/sの条件で恒温恒湿槽内に水を40g入れた状態の透湿カップを設置し、1時間経過時における、水と透湿カップの合計質量の減少分を試験片1m2・24時間あたりの質量に換算したものである透湿度が18000g/(m2・24h)超であることが好ましく、より好ましくは19000g/(m2・24h)以上であり、さらに好ましくは20000g/(m2・24h)以上である。上記加湿用積層体は、透湿性に優れるため、上記透湿度が18000g/(m2・24h)超である構成とすることが可能である。
【0071】
[加湿用積層体の製造法]
本開示の加湿用積層体は、上記多孔の補強材の少なくとも一方の表面上に、公知乃至慣用の方法により上記無孔膜を形成することで作製することができる。例えば、上記無孔膜を上記多孔の補強材の一方の表面に直接形成してもよいし、いったん他の支持体上に上記無孔膜を形成した後、上記多孔の補強材の一方の表面に転写する(貼り合わせる)ことにより、多孔の補強材上に上記無孔膜を形成してもよい。中でも、上記無孔膜と上記多孔の補強材の密着性に優れる観点から、前者の方法が好ましい。
【0072】
上記多孔の補強材の上記無孔膜を設ける側の表面に親水化処理を施してもよい。上記親水化処理としては、上述のものが挙げられる。
【0073】
上記無孔膜は、上記多孔の補強材または上記他の支持体上に、上記無孔膜を形成するための組成物を塗布(塗工)し、得られた塗膜を加熱などにより脱溶媒することで形成することができる。
【0074】
上記多孔の補強材は上記親水化処理を施されることでブロッキングが抑制されているため、あらかじめ巻回体として作製した上記多孔の補強材に無孔膜を形成後、再度巻回体の状態とするロールtoロール方式で製造することができる。
【0075】
上記組成物は、公知乃至慣用の方法で作製することができる。例えば、上記共重合体を溶媒に溶解または分散させ、必要に応じて防腐剤などの添加剤を混合することにより、作製することができる。上記溶媒としては、水および/または水溶性溶媒が好ましい。水や水溶性溶媒を用いると、上記共重合体は、内側を疎水部、外側を親水部とするコアシェル形状で組成物中に分散するものと推測される。このような組成物を用いることで、塗膜を乾燥した際に親水部と疎水部が相分離し導水パスを有する状態で無孔膜が形成され、また、疎水部同士が強固に結合した状態となるものと推測され、耐水性がより良好となる。
【0076】
上記水溶性溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、i-プロパノールなどの脂肪族系の水溶性アルコール;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテルなどのグリコールエーテルなどが挙げられる。上記水溶性溶媒は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0077】
上記共重合体が溶解または分散した上記組成物中の上記共重合体の割合(濃度)は、特に限定されないが、0.5~5質量%が好ましく、より好ましくは1~4質量%、さらに好ましくは1.5~3質量%である。上記濃度が5質量%以下であると、塗工層の厚みが厚くなるため、乾燥後の無孔膜の膜厚がより均一化される。これにより、ガスバリア性に優れつつ、より薄膜化された無孔膜を形成することができ、結果として透湿性がより向上する。また、上記濃度が上記範囲内であると、塗工性に優れ、また、透湿性およびガスバリア性に優れる無孔膜の形成が容易である。
【0078】
なお、上記組成物の塗布(塗工)には、公知のコーティング法を利用してもよい。例えば、グラビヤロールコーター、リバースロールコーター、キスロールコーター、ディップロールコーター、バーコーター、ナイフコーター、スプレーコーター、コンマコーター、ダイレクトコーターなどのコーターが用いられてもよい。このようなコーティングにより形成することで無孔膜を形成することが容易となる。
【0079】
上記塗膜を脱溶媒する際の加熱温度は、35℃~90℃が好ましく、より好ましくは40℃~85℃、さらに好ましくは45℃~80℃である。加熱時間は、適宜、適切な時間が採用され得るが、例えば5秒~20分であり、好ましくは5秒~10分、より好ましくは10秒~5分である。上記組成物を用いて90℃以下(特に、80℃以下)の低温で無孔膜を形成可能であるため、製膜が容易であり、また、多孔の補強材として透湿性に優れるポリオレフィン系樹脂を使用することができる。
【0080】
上記多孔の補強材の少なくとも一方の面に上述の方法で上記無孔膜を形成した加湿用積層体は、無孔膜表面のゼータ電位が+20mV以上であるため、スケール成分の付着・堆積を抑制することができる。さらに、上記無孔膜は撥水性を有するため、無孔膜同士のブロッキングを抑制することが可能となり、無孔膜同士のより近接して設置可能となるため、加湿器をより小型化することが可能となる。なお、上記加湿用積層体とは、水蒸気を、加湿用積層体を介して移動させることができる積層体を意味する。また、上記加湿用積層体は、親水部と疎水部が相分離した構造を有するため、透湿性を有するバリアフィルムとして用いることもできる。上記親水部の径が小さい場合、上記透湿性を有するバリアフィルムであることにより、親水性を有する小サイズの物質(例えば水蒸気)については親水部を通過させ、サイズの大きい物質(例えばウイルス)を通過させないで、両者を分離することができる。
【0081】
[袋状の保水容器]
上記加湿用積層体がフレームの外側を覆うことで袋状の保水容器を作製することができる。
【0082】
上記フレームは剛性を有している材料であると好ましく、例えば樹脂や金属・合金材料などが挙げられる。また、上記フレームは押出成型により作製した板状もしくは袋状のフレームであってもよいし、射出成型にて板状に作製したフレームであってもよいし、板状に作製したフレームを2枚以上貼り合わせることで袋状の構造を作製してもよい。また、袋状のフレームを作製後に孔部を設けてもよいし、あらかじめ孔部を設けたフレームを作製してもよい。
【0083】
上記積層体と上記フレームとの接触部分のうち、一部または全体を貼り付けられていることが好ましい。上記フレームに貼り付ける方法は特に限定されないが、公知乃至慣用の接着剤により接着する方法や、超音波融着、高周波融着、熱融着などの方法により、融着する方法で貼り付けることができる。
【0084】
上述の方法で袋状の保水容器を作製することができる。上記袋状の保水容器はフレーム構造の外側に積層体が配置されており、上記袋状の保水容器に通液した液体の水が、上記積層体に水蒸気として吸水され、上記積層体内を拡散し、積層体全体から水蒸気を放出することができる。
【0085】
また、上記袋状の保水容器を複数個搭載して加湿器を作製することができる。このような加湿器は従来よりも加湿性能が向上しているため、加湿器を小型化したうえで同等の性能を発揮することができ、コスト面にも優れる。
【0086】
したがって、上記加湿器は上記加湿用積層体を有することにより、加湿器として長寿命化することが可能となるため、空調機、換気装置、空気清浄機などの用途に好適に使用することができる。
【0087】
本明細書に開示された各々の態様は、本明細書に開示された他のいかなる特徴とも組み合わせることができる。各実施形態における各構成およびそれらの組み合わせなどは、一例であって、本開示の趣旨から逸脱しない範囲内で、適宜、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。また、本開示に係る各発明は、実施形態や以下の実施例によって限定されることはなく、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例0088】
以下に、実施例に基づいて本開示の一実施形態をより詳細に説明する。
【0089】
実施例1
ポリマー中の疎水部を形成する構成単位としてアクリル酸イソブチル47モル部、スチレン1モル部、親水部を形成する構成単位としてアクリル酸21モル部、アクリル酸メチル28モル部、カチオン部形成する構成単位としてイミド3モル部、架橋剤としてエポキシ化合物を2モル部含有する熱可塑性樹脂溶液A100質量部を、エタノール22質量部と蒸留水143質量部で希釈して、樹脂濃度10質量%のコート液を調製した。一方、ポリプロピレン樹脂製多孔質基材(厚さ:20μm、空隙率:48体積%)の一方の表面にコロナ処理を行い、表面張力39dynの親水性表面を形成した。そして、上記多孔の補強材の親水性表面に、ワイヤーバーを用いて上記コート液を塗工し、70℃で1分間加熱して、無孔膜(厚さ:1μm)を形成した。このようにして実施例1の加湿用積層体を作製した。なお、実施例1の無孔膜は疎水部を有し、撥水性が付与された無孔膜である。
【0090】
比較例1
熱可塑性樹脂溶液B(商品名「スーパーフレックス620」、第一工業製薬社製)100質量部を、エタノール20質量部と蒸留水180質量部で希釈して、樹脂濃度10質量%のコート液を調製した。一方、ポリプロピレン樹脂製多孔質基材(厚さ:20μm、空隙率:48体積%)の一方の表面にコロナ処理を行い、表面張力39dynの親水性表面を形成した。そして、上記多孔の補強材の親水性表面に、ワイヤーバーを用いて上記コート液を塗工し、70℃で1分間加熱して、無孔膜(厚さ:1μm)を形成した。このようにして比較例1の加湿用積層体を作製した。
【0091】
[評価]
実施例および比較例で得られた各加湿用積層体について以下のように評価した。評価結果は表に記載した。また、無孔膜が形成されていないポリプロピレン樹脂製多孔質基材そのものを比較例2として評価を行った。
【0092】
(1)透湿度
実施例および比較例で得られた加湿用積層体について、JIS Z0208-1976の透湿度試験方法(カップ法)に基づき、透湿度を測定した。具体的には、実施例および比較例で得られた加湿用積層体を2時間以上測定環境に静置した後に透湿シートとして上記透湿カップを覆い、気密した。そして、温度20℃、相対湿度30%、風速2.4m/s環境下の恒温恒湿槽内に水を40g入れた状態の透湿カップを設置し、1時間経過時における、水と透湿カップの合計質量の減少分を試験片1m2・24時間あたりの質量に換算し、透湿度として計算した。また、同様の条件で温度20℃、相対湿度65%、実質無風状態(風速0.1m/s)の環境下での透湿度の計測も行った。
【0093】
(2)ゼータ電位
上記加湿用積層体の無孔膜側をガラス板に両面テープで張り付け、ゼータ電位計(商品名「ELSZ-1」、大塚電子社製)に付属の平板セルに挿入し、セル内部を電気泳動液で満たし上記ゼータ電位計を用いて25℃で測定した。電気泳動液は、モニター粒子溶液(大塚電子社製)を、超純水とNaCl(ナカライテスク社製)から作製した10mMの水溶液で200倍に希釈して調整した。測定は同一試料、同一測定条件に対して2回行い、その平均値をゼータ電位とした。
【0094】
(3)スケール堆積試験
直径7cmの円形にカットした上記加湿用積層体の無孔膜側に硬度調整水(Ca硬度1435mg/L)を7ml滴下し、60℃で4時間乾燥させた。得られたスケール堆積サンプルの無孔膜側を純水に15分間含水させ洗浄し、60℃で30分間乾燥した。乾燥後の無孔膜表面のスケールの堆積有無をSEMで観察した。
【0095】
【表1】
【0096】
無孔膜表面のゼータ電位が+20mV以上であり、疎水部を備え、撥水性を有する実施例1の加湿用積層体ではスケール成分が付着・堆積しないことが確認された。これは無孔膜表面が撥水性を有し、ゼータ電位が+20mV以上であることでスケール成分に対して反発力を発生させたためであると推測される。このような無孔膜を有する加湿用積層体はスケール成分の付着・堆積を抑制することができ長寿命化を達成することが可能となる。また、ゼータ電位が十分でない場合(比較例1)や、ゼータ電位が負の値を示す場合(比較例2)はスケール成分の付着・堆積を抑制することができないことが確認された。
【0097】
以下本開示に係る発明のバリエーションを記載する。
[付記1]
多孔の補強材と、前記多孔の補強材の少なくとも一方の面に積層される透湿膜として機能する無孔膜とを有する積層体であり、前記無孔膜表面が撥水性を有し、ゼータ電位が+20mV以上である加湿用積層体。
[付記2]
前記無孔膜は前記多孔の補強材に対して液体の水側に配置され、前記液体の水を吸収して空気中に放出することに用いられる付記1に記載の加湿用積層体。
[付記3]
前記無孔膜はカチオン部を有する熱可塑性樹脂を含有し、前記カチオン部はアンモニウムイオンを含む基またはアンモニウムイオンを形成可能な基を含有する付記1または2に記載の加湿用積層体。
[付記4]
前記無孔膜は親水部を有する熱可塑性樹脂を含有し、前記親水部は下記式(1)で表される構成単位を含有する付記1~3のいずれか1つに記載の加湿用積層体。
【化1】
(R1,R2はそれぞれ独立して水素原子またはメチル基を示す)
[付記5]
前記無孔膜は疎水部を有する熱可塑性樹脂を含有し、前記疎水部は下記式(2)および/または下記式(3)で表される構成単位を含有する付記1~4のいずれか1つに記載の加湿用積層体。
【化2】
(R1は水素原子またはメチル基を示し、R3は炭素数1~2のアルキル基を示す)
【化3】
(R1は水素原子またはメチル基を示し、R4は炭素数3以上の分岐型アルキル基を示す)
[付記6]
前記無孔膜は前記多孔の補強材の少なくとも一方の表面を覆うようにコーティングされている付記1~5のいずれか1つに記載の加湿用積層体。
[付記7]
付記1~6のいずれか1つに記載の加湿用積層体とフレームとを貼り合わせた袋状の保水容器が複数枚設置された加湿器。
[付記8]
付記7に記載の加湿器を搭載した空調機。
[付記9]
付記7に記載の加湿器を搭載した換気装置。
[付記10]
付記7に記載の加湿器を搭載した空気清浄機。
【符号の説明】
【0098】
1 積層体
11 多孔の補強材
11a 多孔の補強材の一方の面
12 無孔膜
図1