(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023183334
(43)【公開日】2023-12-27
(54)【発明の名称】植物の活動状態判別方法
(51)【国際特許分類】
A01G 7/00 20060101AFI20231220BHJP
【FI】
A01G7/00 603
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022096884
(22)【出願日】2022-06-15
(71)【出願人】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100186015
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 靖之
(74)【代理人】
【識別番号】100180655
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 俊樹
(72)【発明者】
【氏名】曽根 恒星
(57)【要約】
【課題】経験、熟練を要することなく、精度よく植物の活動状態を判別可能な植物の活動状態判別方法が提供される。
【解決手段】植物の活動状態判別方法は、植物の表面温度と、植物の周囲温度と、を測定する測定工程(S1)と、測定された表面温度及び周囲温度を用いて、統計学的手法又は機械学習手法によって予測値を算出する算出工程(S2)と、算出された予測値に基づいて、植物の活動状態を判別するために用いられる、表面温度及び周囲温度と活動状態との対応関係を示す関係式又は関係図を生成する、関係生成工程(S3)と、を含む。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物の表面温度と、前記植物の周囲温度と、を測定する測定工程と、
測定された前記表面温度及び前記周囲温度を用いて、統計学的手法又は機械学習手法によって予測値を算出する算出工程と、
算出された前記予測値に基づいて、前記植物の活動状態を判別するために用いられる、前記表面温度及び前記周囲温度と前記活動状態との対応関係を示す関係式又は関係図を生成する、関係生成工程と、を含む、植物の活動状態判別方法。
【請求項2】
前記統計学的手法はロジスティック回帰である、請求項1に記載の植物の活動状態判別方法。
【請求項3】
前記算出工程において、pを罹病確率、nを2以上の整数、a
i(i=1、2、…n)を回帰係数、bを定数、x
i(i=1、2、…n)を前記表面温度及び前記周囲温度を含む変数として、下記の式を用いるロジスティック回帰が行われる、請求項2に記載の植物の活動状態判別方法。
【数1】
【請求項4】
前記算出工程は、ROC曲線を用いて、前記予測値についての基準を算出することを含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の植物の活動状態判別方法。
【請求項5】
前記関係生成工程は、算出された前記予測値及び前記基準に基づいて、前記表面温度及び前記周囲温度と、少なくとも罹病及び健全を含む前記植物の活動状態との対応関係を示す前記関係図を生成する、請求項4に記載の植物の活動状態判別方法。
【請求項6】
前記植物はパラゴムノキである、請求項1から3のいずれか一項に記載の植物の活動状態判別方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、植物の活動状態判別方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、農園では、農園で働く従事者が、栽培されている木が罹病しているかを判別していた。罹病している場合には、適切な治療を施す等の管理が必要になる。罹病木(感染木)と健全木(非感染木)とを区別する罹病診断は従事者の経験と熟練に基づいていた。感染とは、例えば、根白腐病(WRD:White Root Disease)への罹病である。
【0003】
これに対して、例えば特許文献1は、測定した表面温度と周囲温度とに基づいて、健全、罹病などを含むパラゴムノキの活動状態を判別する方法を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の技術は、人間によってでなく、データに基づいてシステムがパラゴムノキの活動状態を判別する。つまり、特許文献1の技術は、経験、熟練を必要とすることなくパラゴムノキの活動状態を判別することを可能にする。ここで、活動状態の判別において閾値との比較が行われることがあり、閾値を適切に設定することによって更に判別精度を向上させることが可能である。
【0006】
かかる事情に鑑みてなされた本開示の目的は、経験、熟練を要することなく、精度よく植物の活動状態を判別可能な植物の活動状態判別方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一実施形態に係る植物の活動状態判別方法は、植物の表面温度と、前記植物の周囲温度と、を測定する測定工程と、測定された前記表面温度及び前記周囲温度を用いて、統計学的手法又は機械学習手法によって予測値を算出する算出工程と、算出された前記予測値に基づいて、前記植物の活動状態を判別するために用いられる、前記表面温度及び前記周囲温度と前記活動状態との対応関係を示す関係式又は関係図を生成する、関係生成工程と、を含む。
この構成により、経験、熟練を要することなく、精度よく植物の活動状態を判別することが可能になる。
【0008】
本開示の一実施形態として、前記統計学的手法はロジスティック回帰である。
この構成により、植物の活動状態の判別の精度を高めることができる。
【0009】
本開示の一実施形態として、前記算出工程において、pを罹病確率、nを2以上の整数、a
i(i=1、2、…n)を回帰係数、bを定数、x
i(i=1、2、…n)を前記表面温度及び前記周囲温度を含む変数として、下記の式を用いるロジスティック回帰が行われる。
【数1】
この構成により、植物の活動状態の判別の精度を高めることができる。
【0010】
本開示の一実施形態として、前記算出工程は、ROC曲線を用いて、前記予測値についての基準を算出することを含む。
この構成により、植物の活動状態の判別における精度の高い基準が得られる。
【0011】
本開示の一実施形態として、前記関係生成工程は、算出された前記予測値及び前記基準に基づいて、前記表面温度及び前記周囲温度と、少なくとも罹病及び健全を含む前記植物の活動状態との対応関係を示す前記関係図を生成する。
この構成により、経験、熟練を必要とすることなく、高精度な判別を素早く行うことが可能になる。
【0012】
本開示の一実施形態として、前記植物はパラゴムノキである。
この構成により、パラゴムノキが罹病しているか等を高精度に判別でき、パラゴムノキ農園の生産性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0013】
本開示によれば、経験、熟練を要することなく、精度よく植物の活動状態を判別可能な植物の活動状態判別方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、活動状態判別システムを示す模式図である。
【
図2】
図2は、温度測定装置で取得された温度データの一例を示す図である。
【
図3】
図3は、本開示の一実施形態に係る活動状態判別方法を示すフローチャートである。
【
図4】
図4は、温度と植物の活動状態との対応関係を示す関係図の例を示す図である。
【
図5】
図5は、統計学的手法がロジスティック回帰である場合のROC曲線の例を示す図である。
【
図6】
図6は、機械学習手法がニューラルネットワークである場合のROC曲線の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して本開示の一実施形態に係る植物の活動状態判別方法が説明される。各図中、同一又は相当する部分には、同一符号が付されている。本実施形態の説明において、同一又は相当する部分については、説明を適宜省略又は簡略化する。
【0016】
図1は、本実施形態に係る植物の活動状態判別方法(以下、単に「活動状態判別方法」と称することがある)を実行する活動状態判別システム1を示す模式図である。活動状態判別システム1は、様々な植物を対象とし、対象とする植物の種類が限定されるものでないが、本実施形態においてパラゴムノキを例に説明する。本実施形態に係る活動状態判別方法は、例えばパラゴムノキの幹の表面温度から、パラゴムノキが罹病しているかを判別するために実行される。以下に説明される高精度な判別によって、パラゴムノキ農園の生産性を向上させることができる。
【0017】
本実施形態に係る活動状態判別方法を実行する活動状態判別システム1は、板Br、温度測定装置10及び演算装置20を含んで構成される。活動状態判別システム1において、温度測定装置10は、木Trの幹の表面温度と、木Trの幹の周囲に取り付けた板Brの周囲温度とを測定する。本実施形態において、測定対象の木Trは、パラゴムノキである。演算装置20は、測定した表面温度と周囲温度とに基づいて、木Trの活動状態を判別するための演算を実行する。
【0018】
温度測定装置10及び演算装置20は、互いにデータを送受信可能である。データの送受信の方法は限定されない。例えば温度測定装置10及び演算装置20は、インターネットなどのネットワーク経由でデータを送受信してよい。温度測定装置10及び演算装置20は、有線による通信を行ってよいし、無線による通信を行ってよい。また、例えば温度測定装置10及び演算装置20は記憶媒体を着脱可能に格納するホルダを備えてよい。温度測定装置10に格納されて測定のデータを記憶した記憶媒体が取り外されて、演算装置20に格納されることにより、記憶媒体に記憶されたデータが受け渡されてよい。記憶媒体は、例えば、メモリーカードである。
【0019】
板Brは木製の薄板である。板Brの形状は、本実施形態において正方形であるが、特定の形状に限定されない。板Brの形状は、例えば長方形であってよい。また、板Brの一辺の長さは、本実施形態において約50cmであるが、特定の長さに限定されない。板Brの一辺の長さは、木Trの幹の幅よりも十分に大きいように、幹の幅に応じて決定されてよい。板Brの一辺の長さは、例えば木Trの幹の幅の3倍から9倍に定められてよい。
【0020】
ここで、板Brが木製であることで十分に高い放射率を得ることができる。放射率は、物体から熱放射により放射されるエネルギー量の、黒体放射により放射されるエネルギー量に対する比である。一例として、板Br及び木Trの放射率をそれぞれ約97%にすることができる。
【0021】
板Brの周縁部に木製の枠が設けられてよい。枠を設けることにより、接触されたり、風が当たったりしても板Brの形態を維持することができる。枠の幅及び厚さは約2cmであってよいが、これに限定されない。
【0022】
温度測定装置10は、例えば、視野Vf内に含まれる被写体から到来した赤外線に基づく画像として撮像する赤外線(IR:Infrared)カメラであってよい。赤外線カメラで撮像される画像は各画素に到来した赤外線のスペクトルに基づき測定された温度、つまり被写体の温度分布を示す。温度測定装置10は、視野Vfが板Br及び木Trの幹を含む方向に向けられる。好ましくは、温度測定装置10は、視野Vfの大部分に、木Trの幹の後方に設置された板Brの表面の全体が表される位置に設置される。視野Vfの大部分とは、例えば、撮像された画像の水平方向の幅の1/4以上又は垂直方向の高さの1/3以上である。温度測定装置10は、被写体として木Trの幹及び板Brの温度分布を示す温度データを演算装置20に出力する。
【0023】
ここで、温度測定装置10が、木Trの幹の温度の他、板Brの温度も測定するのは、測定した温度を比較対象として使用できるようにするためである。温度測定装置10として赤外線カメラを用いることで、一度に複数の広がりを有する領域の温度データを、測定対象物に非接触で簡便に取得することができる。温度測定装置10は、後述する測定工程を実行する。
【0024】
演算装置20は、木Trの活動状態を予測して判別するための演算を実行する。活動状態は、例えば「健全」、「罹病」、「罹病が疑われる」、「枯死」などである。概要として、演算装置20は、測定された植物(本実施形態においてゴムパラノキ)の表面温度及び周囲温度を用いて、統計学的手法又は機械学習手法によって予測値を算出し、予測値に基づいて植物の表面温度及び周囲温度と植物の活動状態との対応関係を示す関係式又は関係図を生成する。統計学的手法は例えばロジスティック回帰などを含む。機械学習手法は例えばニューラルネットワーク、サポートベクターマシン、ランダムフォレストなどを含む。予測値は、ある活動状態(一例として罹病)である確率(一例として罹病確率)である。関係式又は関係図は、ある判別対象の植物の活動状態の判別に用いられる。演算装置20は、後述する算出工程、関係生成工程を実行する。活動状態判別システム1が後述する判別工程も継続実行する場合には、演算装置20が温度測定装置10とともに判別工程を実行してよい。
【0025】
ここで、演算装置20はコンピュータで実現されてよい。このとき、後述する活動状態判別方法の処理を実行するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませて、処理が実行されてよい。ここで、コンピュータシステムはOS(Operating System)及び周辺機器等を含んで構成されてよい。また、コンピュータ読み取り可能な記録媒体は、例えばフレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM(Read-only Memory)、CD(Compact Disc)-ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。
【0026】
図2は、温度測定装置10で取得された温度データの一例を示す図である。被写体の表面の温度が濃淡で表される。温度が高い部分ほど明るく表され、温度が低い部分ほど暗く表されている。
図2の中央部において明るく表された四角形は、板Brの周縁部における温度分布を示す。また、周縁部で囲まれる、より暗く表された部分は、板Brの表面における温度分布を示す。また、
図2の四角形のほぼ中央部を上下に交差する、より明るく表された部分は、木Trの幹の表面における温度分布を示す。
図2の例において、木Trの幹の表面の方が、板Brの表面よりも明るく表され、温度が高いことを示す。
【0027】
木Trの根がWRDの病原菌に感染すると、根による水分の吸収と葉への輸送が阻害される。このとき、木Trの葉の気孔が閉じ、葉からの水分の散逸が抑制される。つまり、木Trからの蒸散が抑制されることで気化熱が少なくなるので、木Trの幹の温度が健全木の温度よりも高くなる。木Trが罹病すると木Trの幹の温度が高くなることは、木Trの罹病を判別することに利用できる。また、ゴムパラノキに限らず、一般的に植物について同様の傾向がある。ここで、木Trの葉の温度は、木Tr周辺の気温により変動し、水分の散逸にも影響する。そのため、上記のように、温度測定装置10は、木Trの幹の温度の他、板Brの温度も測定し、測定した温度を比較対象として用いることができるようにする。
【0028】
(活動状態判別方法)
図3は、本実施形態に係る活動状態判別方法を示すフローチャートである。
【0029】
(測定工程)
温度測定装置10は、視野Vf内に含まれる被写体として木Trの幹と板Brの温度分布を測定する(ステップS1、測定工程)。ここで、温度測定装置10は、木Trの各個体について複数回の測定を実行してよい。測定の実施時期については、活動状態が健全な健全木が活発に蒸散する日中での測定が好ましい。具体的には、10時から14時までの太陽の高度が他の時間帯よりも高い時間帯である。測定の季節については、蒸散が行われない又は不活発な落葉期以外の測定が好ましい。
【0030】
本実施形態において、温度測定装置10は、複数の木Trについて木Trの幹の温度(表面温度)と板Brの温度(周囲温度)とを測定する。また、複数の木Trのそれぞれについて、観察などによって実際の活動状態が特定されて、実績データとして演算装置20がアクセス可能な記憶装置(例えばメモリ又はハードディスク)又は記憶媒体に蓄積される。本実施形態において、活動状態として、罹病か健全かが特定される。表1は実績データの一例を示す。
【0031】
【0032】
表1において、識別番号は複数の木Trのそれぞれに付された固有の番号である。実際の活動状態は、木Trが罹病木であれば1で、健全木であれば0で示されている。
【0033】
(算出工程)
演算装置20は、実績データを用いて、統計学的手法又は機械学習手法によって予測値を算出する(ステップS2、算出工程)。本実施形態において、演算装置20は、統計学的手法によって予測値を算出する。本実施形態において、統計学的手法が用いられて、統計学的手法はロジスティック回帰である。また、本実施形態において、予測値は罹病確率である。具体的な実施例については後述するが、本発明者がいくつかの統計学的手法及び機械学習手法を用いて比較検討したところ、統計学的手法としてロジスティック回帰を用いる場合に、植物の活動状態の判別の精度が比較的高いことがわかった。つまり、統計学的手法としてロジスティック回帰を用いることによって、植物の活動状態の判別の精度を高めることができる。
【0034】
ロジスティック回帰は、いくつかの説明変数から目的変数の発生確率を得る手法であり、下記の式を用いることができる。
【0035】
【0036】
ここで、pは罹病確率である。つまり、pは、罹病を「1」、健全を「0」とする目的変数の発生確率に対応する。nを2以上の整数として、ai(i=1、2、…n)は回帰係数である。また、bは定数である。xi(i=1、2、…n)は表面温度及び周囲温度を含む変数である。本実施形態において、nが2であって、変数は表面温度及び周囲温度である。ただし、上記の式のように、変数は3以上であってよく、例えば測定時の風速などがさらに加えられてよい。また、変数は1つであってよく、例えば表面温度と周囲温度との相対温度差などが用いられてよい。
【0037】
演算装置20は、表1のような実績データを用いて、上記の式における回帰係数及び定数を定めて、予測値を算出できる。ここで、予測値は発生確率(本実施形態において罹病確率)として与えられる。そのため、最終的な予測である植物の活動状態の判別(本実施形態において罹病又は健全の判別)をするために、算出された予測値と比較するための基準(閾値)が設定される必要がある。例えば罹病確率が0.5である場合に、基準が0.51であれば健全木であると判別され、基準が0.49であれば罹病木と判別される。したがって、植物の活動状態の判別における精度は、基準がどのように設定されるかに影響される。本実施形態において、演算装置20は、以下に説明するように基準を算出して、表面温度及び周囲温度と活動状態とを高い精度で対応させた関係式又は関係図(
図4参照)を生成可能にする。
【0038】
演算装置20は、算出工程において、ROC(Receiver Operating Characteristic)曲線を用いて、予測値についての基準を算出する。ROC曲線が用いられることによって、植物の活動状態の判別における精度の高い基準が得られる。
図5は、統計学的手法がロジスティック回帰である場合のROC曲線の例を示す図である。縦軸は真陽性率(TPR:True Positive Rate)又は感度である。横軸は偽陽性率(FPR:False Positive Rate)又は「1-特異度」である。演算装置20は、AUC(Area Under Curve)を最大化させるように基準を選択する。
【0039】
(関係生成工程)
演算装置20は、算出された予測値に基づいて、植物の活動状態を判別するために用いられる、表面温度及び周囲温度と活動状態との対応関係を示す関係式又は関係図を生成する(ステップS3、関係生成工程)。生成された関係式又は関係図は、演算装置20がアクセス可能な記憶装置に記憶されてよい。また、演算装置20は、ネットワーク経由などで、後述する判別工程が実行される場所にある表示装置(一例として携帯端末のディスプレイ)に関係図を表示させてよい。
【0040】
図4は、温度と植物の活動状態との対応関係を示す関係図の例を示す図である。
図4の関係図は、縦方向に表面温度が示され、横方向に周囲温度が示されている。そして、交点において、表面温度と周囲温度の組み合わせに基づいて計算される予測値(上記の式の罹病確率であるp)と算出された基準値によって判別される活動状態(罹病、罹病が疑われる又は健全)が示されている。
【0041】
本実施形態における関係生成工程において、演算装置20は、算出された予測値及び基準に基づいて、表面温度及び周囲温度と、少なくとも罹病及び健全を含む植物の活動状態との対応関係を示す関係図を生成する。このような関係図を用いることによって、経験、熟練を必要とすることなく、高精度な判別を素早く行うことが可能になる。例えば熟練していない従事者であっても、パラゴムノキが生えている場所において表面温度と周囲温度とを測定して、これらの温度と関係図と見比べることによって、活動状態を素早く高精度に判別することができる。ここで、演算装置20は、関係図をテーブル形式で記憶装置に記憶してよい。また、関係式は、
図4のような関係図を数式化したものであってよい。
【0042】
ここで、
図4の関係図では、判別される活動状態として「罹病が疑われる」を含むが、省略されてよい。つまり、罹病及び健全だけを示す、より明確な判別が可能な関係図が生成されてよい。演算装置20は、複数の統計学的手法、複数の機械学習手法又は統計学的手法及び機械学習手法をそれぞれ1つ以上含む組み合わせによって予測値を算出可能であり、複数の手法のそれぞれについて上記のROC曲線を用いて基準を設定することができる。このような場合において、一部の手法では罹病と判別されて、別の手法では健全と判別されるようなケースで「罹病が疑われる」が使用されてよい。
【0043】
(判別工程)
演算装置20によって関係式又は関係図が生成された後に、生成された関係式又は関係図を用いて、判別対象の植物の活動状態の判別が実行される。判別対象の植物は、上記の実績データを得た植物とは別の個体の植物である。活動状態判別システム1が判別を継続実行する場合に(ステップS4のYES)、温度測定装置10及び演算装置20によって判別対象の植物の活動状態の判別(ステップS5、判別工程)が実行される。また、温度測定装置10又は別の装置によって判別対象の植物の表面温度と周囲温度とが測定されて、生成された関係式又は関係図を用いて、人間又は別のコンピュータ(例えば携帯端末など)が活動状態の判別を実行してよい。つまり、判別工程は、活動状態判別システム1以外の人間などによって実行されてよい。このような場合に、活動状態判別システム1は判別を継続実行せずに(ステップS4のNO)、一連の処理を終了する。
【0044】
判別工程において、判別対象の植物の温度測定装置10又は別の装置によって判別対象の植物の表面温度と周囲温度とが測定される。また、測定された温度に基づいて、罹病確率が算出されてよい。表2は判別対象の植物の温度データ及び罹病確率の一例を示す。識別番号は、表1と同じく、木Trを識別するための固有の番号である。
【0045】
【0046】
判別工程において、演算装置20、別のコンピュータ又は人間は、生成された関係式又は関係図を用いて、判別対象の植物の活動状態を判別する。
【0047】
以上のように、本実施形態に係る植物の活動状態判別方法では、活動状態判別システム1によって、実績データに基づいて植物の活動状態の判別の基準が示される。そのため、経験、熟練を要することなく、植物の活動状態を判別することが可能になる。また、上記の基準は、実績データを用いて統計学的手法又は機械学習手法によって算出される予測値に基づいて定められるものであって、判別の精度を高めることができる。よって、本実施形態に係る植物の活動状態判別方法は、経験、熟練を必要とすることなくパラゴムノキの活動状態を判別することを可能にする。
【0048】
(実施例)
以下、本開示の効果を実施例に基づいて具体的に説明するが、本開示は実施例の内容に限定されるものではない。
【0049】
上記の実施形態に記載の通り、演算装置20によって、ロジスティック回帰を用いて予測値が算出されて、表面温度及び周囲温度と活動状態とを対応させた関係図が生成された。実績データとして、罹病木が54本で、健全木が198本の計252本のパラゴムノキについての温度データが用いられた。
図5に示すROC曲線が得られて、関係図が生成された。別の75本のパラゴムノキの表面温度及び周囲温度を測定して、生成された関係図に基づいて活動状態の判別(予測)が行われた。ロジスティック回帰を用いた場合に、陽性的中率が42%、陰性的中率が92%、平均正診率が67%で、従来技術より高精度にゴムパラノキの罹病を判別することができた。
【0050】
また、別の実施例として、演算装置20によって、ニューラルネットワークを用いて予測値が算出されて、表面温度及び周囲温度と活動状態とを対応させた関係図が生成された。実績データは、ロジスティック回帰の場合と同じものが用いられた。
図6に示すROC曲線が得られて、関係図が生成された。ロジスティック回帰の場合と同じく、75本のパラゴムノキの表面温度及び周囲温度を測定して、生成された関係図に基づいて活動状態の判別が行われた。ニューラルネットワークを用いた場合に、陽性的中率が40%、陰性的中率が90%、平均正診率が66%で、ロジスティック回帰の場合とほぼ同じ判別精度が得られた。
【0051】
また、演算装置20によって、サポートベクターマシン、ランダムフォレスト及び勾配ブースティングの機械学習手法による予測値の算出が行われた。これらの機械学習手法の場合にも、ニューラルネットワークの場合と同等又はそれ以上の平均正診率が得られた。したがって、算出工程における予測値の算出手法は、統計学的手法に限定されず、機械学習手法も有効であることがわかった。
【符号の説明】
【0052】
1 活動状態判別システム
10 温度測定装置
20 演算装置
Br 板
Tr 木