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特開2023-183335モデル生成装置、路面状態の判定方法、プログラム及びモデル生成方法
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  • 特開-モデル生成装置、路面状態の判定方法、プログラム及びモデル生成方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023183335
(43)【公開日】2023-12-27
(54)【発明の名称】モデル生成装置、路面状態の判定方法、プログラム及びモデル生成方法
(51)【国際特許分類】
   B60W 40/06 20120101AFI20231220BHJP
【FI】
B60W40/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022096885
(22)【出願日】2022-06-15
(71)【出願人】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100186015
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 靖之
(74)【代理人】
【識別番号】100180655
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 俊樹
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 泰賀
(72)【発明者】
【氏名】川眞田 智
【テーマコード(参考)】
3D241
【Fターム(参考)】
3D241BA50
3D241CE01
3D241DA58Z
3D241DC46Z
(57)【要約】
【課題】分類された路面状態を高精度に推定可能にするモデル生成装置、路面状態の判定方法、プログラム及びモデル生成方法が提供される。
【解決手段】モデル生成装置(路面状態の判定装置10)は、車両(20)の走行状態と車両が走行している路面の路面状態とを含む実績データを取得して、実績データから、路面状態を目的変数とし、少なくとも車両のステア反力に基づくパラメータを説明変数とする教師データを生成する教師データ生成部(130)と、生成された教師データを用いて機械学習を実行し、路面状態の判定に用いられる機械学習モデルを生成するモデル生成部(131)と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の走行状態と前記車両が走行している路面の路面状態とを含む実績データを取得して、前記実績データから、路面状態を目的変数とし、少なくとも前記車両のステア反力に基づくパラメータを説明変数とする教師データを生成する教師データ生成部と、
生成された前記教師データを用いて機械学習を実行し、路面状態の判定に用いられる機械学習モデルを生成するモデル生成部と、を備える、モデル生成装置。
【請求項2】
前記教師データ生成部は、前記車両のステア反力のスペクトルにおける複数の周波数帯域の積分値の比を、前記パラメータとする、請求項1に記載のモデル生成装置。
【請求項3】
前記教師データ生成部は、前記車両のステア反力の時系列データにおける特定の周波数帯域での周期性を、前記パラメータとする、請求項1に記載のモデル生成装置。
【請求項4】
前記教師データ生成部は、前記車両の加速度の絶対値が所定の閾値以下である前記実績データを用いて、前記教師データを生成する、請求項1から3のいずれか一項に記載のモデル生成装置。
【請求項5】
前記教師データ生成部は、前記車両のステア反力の大きさが所定の閾値以下である前記実績データを用いて、前記教師データを生成する、請求項1から3のいずれか一項に記載のモデル生成装置。
【請求項6】
請求項1から3のいずれか一項に記載のモデル生成装置によって生成された機械学習モデルを用いて、判定の対象である路面を走行する車両のステア反力を含む入力データを取得し、判定の対象である路面の路面状態を判定する、路面状態の判定方法。
【請求項7】
コンピュータを、
車両の走行状態と前記車両が走行している路面の路面状態とを含む実績データを取得して、前記実績データから、路面状態を目的変数とし、少なくとも前記車両のステア反力に基づくパラメータを説明変数とする教師データを生成する教師データ生成部と、
生成された前記教師データを用いて機械学習を実行し、路面状態の判定に用いられる機械学習モデルを生成するモデル生成部、として機能させる、プログラム。
【請求項8】
モデル生成装置が実行するモデル生成方法であって、
車両の走行状態と前記車両が走行している路面の路面状態とを含む実績データを取得して、前記実績データから、路面状態を目的変数とし、少なくとも前記車両のステア反力に基づくパラメータを説明変数とする教師データを生成することと、
生成された前記教師データを用いて機械学習を実行し、路面状態の判定に用いられる機械学習モデルを生成することと、を含む、モデル生成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、モデル生成装置、路面状態の判定方法、プログラム及びモデル生成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の走行快適性を高めるため、走行時のタイヤが接地している路面状態を推定し、車両制御へフィードバックする技術が提案されている。例えば特許文献1に記載の推定装置は、ホイールに取付けられた加速度センサで検出したホイールの振動情報信号に基づいて、路面摩擦係数μを推定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003-182476号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、自動運転車では道路条件に応じて自動運転の継続可否の判定が行われることがある。分類された路面状態を高精度に推定することによって、車両の走行安全性を向上させることができる。
【0005】
かかる事情に鑑みてなされた本開示の目的は、分類された路面状態を高精度に推定可能にするモデル生成装置、路面状態の判定方法、プログラム及びモデル生成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本開示の一実施形態に係るモデル生成装置は、車両の走行状態と前記車両が走行している路面の路面状態とを含む実績データを取得して、前記実績データから、路面状態を目的変数とし、少なくとも前記車両のステア反力に基づくパラメータを説明変数とする教師データを生成する教師データ生成部と、生成された前記教師データを用いて機械学習を実行し、路面状態の判定に用いられる機械学習モデルを生成するモデル生成部と、を備える。
この構成により、分類された路面状態を高精度に推定可能なモデルを生成することができる。
【0007】
(2)本開示の一実施形態として、(1)において、前記教師データ生成部は、前記車両のステア反力のスペクトルにおける複数の周波数帯域の積分値の比を、前記パラメータとする。
この構成により、ステア反力の周波数帯域に応じた特徴に基づいて直接的に路面状態との対応付けが可能になる。
【0008】
(3)本開示の一実施形態として、(1)において、前記教師データ生成部は、前記車両のステア反力の時系列データにおける特定の周波数帯域での周期性を、前記パラメータとする。
この構成により、ステア反力の時間変化に関する特徴に基づいて直接的に路面状態との対応付けが可能になる。
【0009】
(4)本開示の一実施形態として、(1)から(3)のいずれかにおいて、前記教師データ生成部は、前記車両の加速度の絶対値が所定の閾値以下である前記実績データを用いて、前記教師データを生成する。
この構成により、教師データからノイズを除いて、より高精度な推定が可能な機械学習モデルを生成することができる。
【0010】
(5)本開示の一実施形態として、(1)から(4)のいずれかにおいて、前記教師データ生成部は、前記車両のステア反力の大きさが所定の閾値以下である前記実績データを用いて、前記教師データを生成する。
この構成により、教師データからノイズを除いて、より高精度な推定が可能な機械学習モデルを生成することができる。
【0011】
(6)本開示の一実施形態に係る路面状態の判定方法は、(1)から(5)のいずれかに記載のモデル生成装置によって生成された機械学習モデルを用いて、判定の対象である路面を走行する車両のステア反力を含む入力データを取得し、判定の対象である路面の路面状態を判定する。
この構成により、分類された路面状態を高精度に推定することができる。
【0012】
(7)本開示の一実施形態に係るプログラムは、コンピュータを、車両の走行状態と前記車両が走行している路面の路面状態とを含む実績データを取得して、前記実績データから、路面状態を目的変数とし、少なくとも前記車両のステア反力に基づくパラメータを説明変数とする教師データを生成する教師データ生成部と、生成された前記教師データを用いて機械学習を実行し、路面状態の判定に用いられる機械学習モデルを生成するモデル生成部、として機能させる。
この構成により、分類された路面状態を高精度に推定可能なモデルを生成することができる。
【0013】
(8)本開示の一実施形態に係るモデル生成方法は、モデル生成装置が実行するモデル生成方法であって、車両の走行状態と前記車両が走行している路面の路面状態とを含む実績データを取得して、前記実績データから、路面状態を目的変数とし、少なくとも前記車両のステア反力に基づくパラメータを説明変数とする教師データを生成することと、生成された前記教師データを用いて機械学習を実行し、路面状態の判定に用いられる機械学習モデルを生成することと、を含む。
この構成により、分類された路面状態を高精度に推定可能なモデルを生成することができる。
【発明の効果】
【0014】
本開示によれば、分類された路面状態を高精度に推定可能にするモデル生成装置、路面状態の判定方法、プログラム及びモデル生成方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、路面状態の判定装置を含む路面状態の判定システムの構成例を示す図である。
図2図2は、図1の路面状態の判定システムの構成例を示す別の図である。
図3図3は、ステア反力のスペクトルを例示する図である。
図4図4は、ステア反力の時系列データを例示する図である。
図5図5は、路面状態を判定する処理を例示するフローチャートである。
図6図6は、図5のモデル生成工程の詳細を示すフローチャートである。
図7図7は、図5の路面状態の判定工程の詳細を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本開示の一実施形態に係るモデル生成装置、路面状態の判定方法、プログラム及びモデル生成方法が説明される。各図中、同一又は相当する部分には、同一符号が付されている。本実施形態の説明において、同一又は相当する部分については、説明を適宜省略又は簡略化する。
【0017】
図1及び図2は、路面状態の判定システムの構成例を示す図である。本実施形態において、路面状態の判定システムは、路面状態の判定装置10を含む。図1は路面状態の判定装置10の内部構成例を含むブロック図である。図2は路面状態の判定システムの全体構成を示す。
【0018】
路面状態の判定装置10は、車両20が走行する道路の路面状態判定のための装置である。本実施形態において、路面状態の判定装置10は、モデルを生成し、生成したモデルを用いて車両20が走行する道路の路面状態を判定(推定)する。つまり、路面状態の判定装置10は、モデル生成装置の機能と路面状態を推定する装置の両方の機能を備える装置であるとして説明される。ここで、路面状態の判定装置10は、モデルを生成する機能のみを備えてよいし、車両20が走行する道路の路面状態を判定する機能のみを備えてよい。
【0019】
路面状態は、道路の表面の状態であって、本実施形態において「Dry」、「Wet」、「Ice」及び「Snow」の4つの区分に分類される。路面状態は、これら4つの区分に限定されず、例えば一部の区分を省略してよいし、例えば舗装された道路と砂利道とを区別する区分などをさらに含んでよい。Dryは路面が乾いた状態であることを示す。Wetは路面が濡れている状態であることを示す。Iceは路面が凍結している状態であることを示す。Snowは路面が積雪している状態であることを示す。
【0020】
路面状態の判定装置10は、通信部11と、記憶部12と、制御部13と、を備える。制御部13は、教師データ生成部130と、モデル生成部131と、判定部132と、を備える。路面状態の判定装置10は、ハードウェア構成として、例えばコンピュータであってよい。路面状態の判定装置10の構成要素の詳細については後述する。
【0021】
路面状態の判定装置10は、ネットワーク40で接続される走行管理装置60とともに、路面状態の判定システムを構成してよい。ネットワーク40は、例えばインターネットであるが、LAN(Local Area Network)などであってよい。
【0022】
走行管理装置60は、車両20の走行を管理する装置である。走行管理装置60は、例えば路面状態の判定装置10とは別のコンピュータで構成される。車両20は、特定の用途のものに限定されるものでなく、例えば乗用車、タクシー、バス、トラック等であり得るが、本実施形態において乗用車であるとして説明される。車両20は例えば自動運転機能を有する乗用車であってよい。例えば走行管理装置60は、車両20が自動運転で走行する道路の路面状態がIce又はSnowであると判定される場合に、手動運転に切り替えるように車両20の運転者に警告してよい。また、走行管理装置60は、車両20の走行状態を記録し、車両20の装着しているタイヤ30の状態などを管理してよい。また、走行管理装置60は、車両20の走行ルートの地図情報などを管理し、天候及び気温の情報などをネットワーク40経由で取得してよい。走行管理装置60は、車両20に関する情報をデータベースとして蓄積して、アクセス可能な記憶装置に記憶してよい。また、走行管理装置60は、路面状態の判定装置10が教師データを生成するために、データベースの情報を路面状態の判定装置10に提供する。ここで、走行管理装置60は、本実施形態において車両20と別の場所に設けられるとして説明するが、別の例として車両20に搭載される装置であってよい。
【0023】
本実施形態において、車両20は、検出装置70及び車載通信装置80を備える。検出装置70は、車両20の走行状態を示す情報である車両走行情報を検出して車載通信装置80に出力する。本実施形態において、検出装置70は、ステアリングシャフトに取り付けられたトルクセンサを含む。また、本実施形態において、車両走行情報は、トルクセンサで検出されたステアトルクを含む。ここで、ステアトルクはステア反力の一例である。ステア反力は、走行する車両20において、路面と接するタイヤ30で発生した力がシャフトを介してステアリングホイールまで伝わる力である。ステア反力のうち、ステアリングシャフトに取り付けられたトルクセンサによってトルクとして検出されるものがステアトルクである。
【0024】
また、検出装置70は、例えば車輪速センサを含み、車両走行情報としてタイヤ30の回転速度(車輪速)の情報を出力してよい。また、検出装置70は、例えば加速度センサを含み、車両走行情報として車両20の加速度又はばね下加速度の情報を出力してよい。ばね下とは、サスペンションを含む、サスペンション以下に位置する車両20の構成部分を意味する。また、検出装置70は、マイクなどの音響センサを含み、車両走行情報として車両20の走行音の情報を出力してよい。
【0025】
車載通信装置80は、車両走行情報を走行管理装置60に出力する車載装置である。車載通信装置80は例えば無線通信モジュールで構成されてよいし、例えばデジタルタコグラフであってよいが、特定の装置に限定されない。本実施形態において、車載通信装置80は、ネットワーク40を介して、走行管理装置60と通信可能であるように構成される。走行管理装置60に出力された車両走行情報は、実績データとして走行管理装置60のデータベースに蓄積される。
【0026】
ここで、実績データ(車載通信装置80を介して走行管理装置60に出力された車両走行情報)は、走行管理装置60によって車両20が走行した道路の実際の路面状況(Dry、Wet、Ice又はSnow)と関連付けられてデータベースに蓄積される。車両20の実際の路面状況は、走行管理装置60が地図情報、天候及び気温の情報などに基づいて判定してよいし、車両20から車両走行情報とともに付加的な情報として与えられてよい。車両20からの付加的な情報として与えられる場合に、実際の路面状況は、運転者又は同乗者によって車載通信装置80などに入力されてよい。
【0027】
以下、路面状態の判定装置10の構成要素の詳細が説明される。通信部11は、ネットワーク40に接続する1つ以上の通信モジュールを含んで構成される。通信部11は、例えば4G(4th Generation)、5G(5th Generation)などの移動体通信規格に対応する通信モジュールを含んでよい。通信部11は、例えば有線のLAN規格(一例として1000BASE-T)に対応する通信モジュールを含んでよい。通信部11は、例えば無線のLAN規格(一例としてIEEE802.11)に対応する通信モジュールを含んでよい。
【0028】
記憶部12は、1つ以上のメモリである。メモリは、例えば半導体メモリ、磁気メモリ、又は光メモリ等であるが、これらに限られず任意のメモリとすることができる。記憶部12は、例えば路面状態の判定装置10に内蔵されるが、任意のインターフェースを介して路面状態の判定装置10によって外部からアクセスされる構成も可能である。
【0029】
記憶部12は、制御部13が実行する各種の算出において使用される各種のデータを記憶する。また、記憶部12は、制御部13が実行する各種の算出の結果及び中間データを記憶してよい。本実施形態において、記憶部12は、生成されたモデルを記憶する。
【0030】
制御部13は、1つ以上のプロセッサである。プロセッサは、例えば汎用のプロセッサ、又は特定の処理に特化した専用プロセッサであるが、これらに限られず任意のプロセッサとすることができる。制御部13は、路面状態の判定装置10の全体の動作を制御する。
【0031】
ここで、路面状態の判定装置10は、以下のようなソフトウェア構成を有してよい。路面状態の判定装置10の動作の制御に用いられる1つ以上のプログラムが記憶部12に記憶される。記憶部12に記憶されたプログラムは、制御部13のプロセッサによって読み込まれると、制御部13を教師データ生成部130、モデル生成部131及び判定部132として機能させる。
【0032】
教師データ生成部130は、車両20が走行する道路の路面状態(本実施形態においてDry、Wet、Ice又はSnow)を判定するための機械学習モデルの生成に用いられる教師データを生成する。教師データ生成部130は、通信部11を介して、車両20の走行状態(車両走行情報)と車両20が走行している路面の路面状態とを含む実績データを取得する。教師データ生成部130は、実績データから、路面状態を目的変数とし、少なくとも車両20の「ステア反力に基づくパラメータ(特徴量)」を説明変数とする教師データを生成する。
【0033】
ここで、学習済みの機械学習モデルの精度は教師データの質及び量に影響される。教師データの質を高めるべく、本発明者が鋭意究明したところ、特にステア反力における2つの特徴量が路面状態と強い相関を有することがわかった。以下、低周波数帯域に関する特徴量、高周波数帯域に関する特徴量が順に説明される。
【0034】
図3は、ステア反力のスペクトルを例示する図である。横軸はステアトルクの周波数である。また、縦軸はステアトルクのトルク量を示す。ステアトルクの周波数のうち低周波数帯域では、タイヤ30及び車両20の振動が大きく影響し、路面状態に応じた振動によってトルク量が変化すると考えられる。ここで、4つの周波数帯域のそれぞれにおいてトルク量の積分値が求められた。第1の周波数帯域は1.4-2.8Hzである。第2の周波数帯域は22-45Hzである。第3の周波数帯域は45-89Hzである。第4の周波数帯域は88-180Hzである。この例において、第1の周波数帯域での積分値の大小関係がSnow<Dry≦Wet≦Iceであるのに対し、他の周波数帯域ではDry<Wet<Ice<Snowになるという違いがあった。また、同じ路面状態についても、第2から第4の周波数帯域のそれぞれで積分値の値が異なっていた。したがって、複数の周波数帯域の積分値の比は、路面状態に応じて値が大きく異なると考えられる。教師データ生成部130は、車両20のステア反力のスペクトルにおける複数の周波数帯域の積分値の比を、低周波数帯域に関する特徴量とすることができる。このとき、教師データにおいて、ステア反力の時間変化に関する特徴に基づいて直接的に路面状態との対応付けが可能になる。そのため、例えば路面摩擦係数μの算出を経ることなく、分類された路面状態を高精度に推定できるモデルの生成が可能になる。ここで、図3の例において、第1~第4の周波数帯域における積分値がそれぞれ「A」、「B」、「C」及び「D」であるとする。この場合に、複数の周波数帯域の積分値の比は、A/B、B/A、A/C、C/A、A/D、D/A、B/C、C/B、B/D、D/B、C/D、D/Cの12個の比である。
【0035】
図4は、ステア反力の時系列データを例示する図である。横軸は時間である。また、縦軸は、Dry、Wet、Ice及びSnowの路面状態のそれぞれにおけるステアトルクのトルク量を示す。ステアトルクの周波数のうち高周波数帯域では、タイヤ30及び車両20の振動の影響が小さいと考えられる。ここで、図4は、0.5秒分の実績データから高周波帯域(2800-5000Hz)だけをバンドパスフィルタによって抽出したものである。ステアトルクの時系列データにおいて、路面状態がDry又はWetの場合に周期的な信号が見られたが、路面状態がIce又はSnowの場合に周期的な信号は見られなかった。また、同じ区間(時間)で比較する場合に、トルク量の振幅(変化の大きさ)はWet<Dryの関係があった。また、同じ区間で比較する場合に、トルク量の振幅はIce<Snowの関係があった。したがって、ステア反力の時系列データは、路面状態に応じた特徴を有すると考えられる。教師データ生成部130は、車両20のステア反力の時系列データにおける特定の周波数帯域での周期性を、高周波数帯域に関する特徴量とすることができる。このとき、教師データにおいて、ステア反力の時間変化に関する特徴に基づいて直接的に路面状態との対応付けが可能になる。そのため、例えば路面摩擦係数μの算出を経ることなく、分類された路面状態を高精度に推定できるモデルの生成が可能になる。ここで、特定の周波数帯域は、高周波数帯域であれば、2800-5000Hzに限定されるものでない。
【0036】
本実施形態において、教師データ生成部130は、目的変数として路面状態の実績を、説明変数としてステア反力に基づくパラメータである上記の低周波数帯域に関する特徴量又は高周波数帯域に関する特徴量を用いて、教師データを生成する。さらに、教師データ生成部130は、車両20の加速度の絶対値が所定の閾値以下である実績データを用いて、教師データを生成してよい。つまり、教師データ生成部130は、加速及び減速が大きくノイズが大きいと考えられる実績データを除いて、教師データを生成してよい。このとき、教師データからノイズを除いて、より高精度な推定が可能な機械学習モデルを生成することができる。さらに、教師データ生成部130は、ステア反力の大きさが所定の閾値以下である実績データを用いて、教師データを生成してよい。つまり、教師データ生成部130は、検出したトルク量などにノイズが乗って、値が大きくなった可能性がある実績データを除いて、教師データを生成してよい。このとき、教師データからノイズを除いて、より高精度な推定が可能な機械学習モデルを生成することができる。
【0037】
モデル生成部131は、教師データ生成部130によって生成された教師データを用いて機械学習を実行し、路面状態の判定に用いられる機械学習モデルを生成する。機械学習の手法は、限定されないが、例えばニューラルネットワークなどであってよい。上記のように、教師データ生成部130は、ステア反力に基づく特徴量を用いて、質を高めた教師データを生成する。そのため、モデル生成部131は、分類された路面状態を高精度に推定可能なモデルを生成できる。モデル生成部131は、生成したモデルを記憶部12に記憶させてよい。
【0038】
判定部132は、モデル生成部131によって生成された機械学習モデルを用いて、判定の対象である路面を走行する車両20のステア反力を含む入力データを取得し、判定の対象である路面の路面状態を判定する。判定部132は、通信部11を介して、路面状態の判定装置10の外部から判定(推定)の実行指示及び推定の条件(入力データ)を受け取った場合に、路面状態を判定してよい。モデル生成部131によって複数のモデルが生成された場合に、判定部132は、入力データに応じてモデルを選択してよい。例えば、入力データが低周波数帯域に関する特徴量又は高周波数帯域に関する特徴量の指定を含む場合に、判定部132は、指定された特徴量を用いて生成されたモデルを選択して、路面状態を判定してよい。判定部132は判定結果を例えば走行管理装置60などに出力してよい。
【0039】
図5は、路面状態の判定装置10が実行する路面状態を判定する処理を例示するフローチャートである。教師データ生成部130及びモデル生成部131は、路面状態を判定するための機械学習モデルを生成するモデル生成工程(ステップS1、モデル生成方法)を実行する。また、判定部132は、生成されたモデルを用いて、判定の対象である路面の路面状態を判定する路面状態の判定工程(ステップS2、路面状態の判定方法)を実行する。路面状態の判定工程は、モデル生成工程と連続して実行されてよいが、モデル生成工程の後に一定の時間が経過してから実行されてよい。
【0040】
図6は、図5のモデル生成工程の詳細を示すフローチャートである。教師データ生成部130は、走行管理装置60のデータベースに蓄積された実績データを取得する(ステップS11)。教師データ生成部130は、路面状態を目的変数とし、少なくとも車両20のステア反力に基づくパラメータを説明変数とする教師データを生成する(ステップS12)。本実施形態において、教師データ生成部130は、ステア反力に基づくパラメータとして、スペクトルにおける複数の周波数帯域の積分値の比(低周波数帯域に関する特徴量)又は時系列データにおける特定の周波数帯域での周期性(高周波数帯域に関する特徴量)を用いる。そして、モデル生成部131はモデルを生成する(ステップS13)。ここで、モデル生成部131は、低周波数帯域に関する特徴量を用いた教師データ及び高周波数帯域に関する特徴量を用いた教師データのそれぞれで機械学習を実行して、複数の機械学習モデルを生成してよい。また、モデル生成部131は、低周波数帯域に関する特徴量を用いた教師データ及び高周波数帯域に関する特徴量を用いた教師データの一方だけで機械学習を実行して、1つの機械学習モデルを生成してよい。
【0041】
図7は、図5の路面状態の判定工程の詳細を示すフローチャートである。判定部132は、路面状態の判定装置10の外部から判定実行の指示を受け取ると、入力データを取得し(ステップS21)、記憶部12からモデルを取得する(ステップS22)。入力データは、上記のように推定(判定)の条件を示すデータである。判定部132は、複数のモデルが生成されている場合に、入力データに基づいて判定に用いるモデルを選択してよい。入力データは、例えば自動運転している車両20が判定の対象である路面の走行中に得たステアトルクの情報を含む。判定部132は、選択したモデルに合わせて、入力データに対して特定の周波数でのフィルタリングなどの処理を実行してよい。そして、判定部132は、モデルを用いて判定の対象である路面の路面状態を判定し、判定結果を出力する(ステップS23)。判定結果は、ネットワーク40を介して送信されて、要求者(例えば車両20の走行管理者)が見ることができるディスプレイに表示されてよい。
【0042】
以上のように、本実施形態に係るモデル生成装置(路面状態の判定装置10のモデルを生成する部分)、路面状態の判定方法、プログラム及びモデル生成方法は、上記の構成及び工程によって、例えば路面摩擦係数μの算出を経ることなく、分類された路面状態を高精度に推定可能にする。
【0043】
(実施例)
以下、本開示の効果を実施例に基づいて具体的に説明するが、本開示は実施例の内容に限定されるものではない。
【0044】
上記の実施形態に記載の通り、路面状態の判定装置10によって、低周波数帯域に関する特徴量を用いた教師データを用いて機械学習が実行されて、路面状態のDry、Wet、Ice又はSnowを判定する機械学習モデルが生成された。4つの区分のそれぞれについて、車両20の2秒の直進定速走行の30個の実績データが用意された。4つの区分のそれぞれについて、20個が教師データに用いられて、残りの10個が生成されたモデルを評価するための検証データに用いられた。生成された機械学習モデルに対して、入力データとして教師データを与えたところ、表1に示す結果が得られた。例えば実際の路面状態がDryの場合に、路面状態の判定装置10は、生成されたモデルを用いて20個のデータの全てに対してDryであると判定した。最終的な正解率は0.950であった。ここで、最終的な正解率は4つの区分のそれぞれの正解率の平均値で与えられる。また、入力データとして検証データを与えたところ、表2に示す結果が得られた。最終的な正解率は0.800であり、従来技術と比べて、分類された路面状態を高い精度で推定できた。
【0045】
【表1】
【0046】
【表2】
【0047】
また、上記の実施形態に記載の通り、路面状態の判定装置10によって、高周波数帯域に関する特徴量を用いた教師データを用いて機械学習が実行されて、路面状態のDry、Wet、Ice又はSnowを判定する機械学習モデルが生成された。4つの区分のそれぞれについて、車両20の0.5秒の直進定速走行の120個の実績データが用意された。4つの区分のそれぞれについて、80個が教師データに用いられて、残りの40個が生成されたモデルを評価するための検証データに用いられた。生成された機械学習モデルに対して、入力データとして教師データを与えたところ、表3に示す結果が得られた。最終的な正解率は0.919であった。また、入力データとして検証データを与えたところ、表4に示す結果が得られた。最終的な正解率は0.925であり、従来技術と比べて、分類された路面状態をさらに高い精度で推定できた。
【0048】
【表3】
【0049】
【表4】
【0050】
本開示の実施形態について、諸図面及び実施例に基づき説明してきたが、当業者であれば本開示に基づき種々の変形又は修正を行うことが容易であることに注意されたい。従って、これらの変形又は修正は本開示の範囲に含まれることに留意されたい。例えば、各構成部又は各ステップなどに含まれる機能などは論理的に矛盾しないように再配置可能であり、複数の構成部又はステップなどを1つに組み合わせたり、或いは分割したりすることが可能である。本開示に係る実施形態は装置が備えるプロセッサにより実行されるプログラムを記録した記憶媒体としても実現し得るものである。本開示の範囲にはこれらも包含されるものと理解されたい。
【0051】
例えば図1及び図2に示される路面状態の判定装置10及び路面状態の判定システムの構成は一例であって、図1及び図2の構成に限定されるものでない。例えば路面状態の判定システムは、路面状態の判定装置10と走行管理装置60とが一体化された構成であってよい。この場合に、路面状態の判定装置10が走行管理装置60の機能も実行し、路面状態の判定装置10が単体で路面状態の判定システムとして機能してよい。
【0052】
また、教師データ生成部130及びモデル生成部131と、判定部132と、が異なるコンピュータに含まれる構成であってよい。例えば、教師データ生成部130及びモデル生成部131は、路面状態の判定装置10と通信可能であって、記憶部12にもアクセス可能な別のコンピュータ(独立したモデル生成装置)に含まれてよい。この場合に、路面状態の判定装置10は、別のコンピュータで生成されて記憶部12に記憶されたモデルを用いて、車両20が走行する道路の路面状態を判定してよい。モデルは上記と同様に生成されてよい。つまり、別のコンピュータが、車両20の実績データを取得し、実績データに基づく教師データを用いてモデルを生成してよい。
【0053】
また、上記の実施形態において、教師データ生成部130は車両20のステア反力に基づくパラメータを説明変数とする教師データを生成するが、さらに車両20の別の情報を説明変数に用いてよい。車両20の別の情報として、車輪速、ばね下加速度及び走行音の少なくとも1つが用いられてよい。路面状態に応じて変化すると考えられる車輪速、ばね下加速度及び走行音の少なくとも1つの情報が加えられることにより、教師データとしての質をさらに高めて、路面状態をさらに高精度に推定可能にするモデルを生成できる。
【符号の説明】
【0054】
10 路面状態の判定装置
11 通信部
12 記憶部
13 制御部
20 車両
30 タイヤ
40 ネットワーク
60 走行管理装置
70 検出装置
80 車載通信装置
130 教師データ生成部
131 モデル生成部
132 判定部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7