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特開2023-183382外乱推定装置、外乱推定方法および外乱推定プログラム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023183382
(43)【公開日】2023-12-27
(54)【発明の名称】外乱推定装置、外乱推定方法および外乱推定プログラム
(51)【国際特許分類】
   B63B 79/20 20200101AFI20231220BHJP
   B63B 49/00 20060101ALI20231220BHJP
   B63B 79/15 20200101ALI20231220BHJP
   B63B 79/40 20200101ALI20231220BHJP
【FI】
B63B79/20
B63B49/00 Z
B63B79/15
B63B79/40
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023084199
(22)【出願日】2023-05-22
(31)【優先権主張番号】17/841,236
(32)【優先日】2022-06-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】000166247
【氏名又は名称】古野電気株式会社
(72)【発明者】
【氏名】高橋 知靖
(72)【発明者】
【氏名】宮部 佑太
(57)【要約】      (修正有)
【課題】より早く目的地まで航行したり、船を定位置に保持したりするために、船舶に作用する外乱を適時かつ正確に推定する方法や装置を提供する。
【解決手段】外乱推定装置は、航行情報受信部、推力情報受信部、位置推定部、外乱算出部を含む。航行情報受信部は、水面における実際の船の位置と時刻を含む航行情報を取得する。推力情報受信部は、船の推力の大きさと方向を示す推力情報を受信する。位置推定部は、航行情報と推力情報に基づく状態推定モデルを使用して、将来の所定の時刻における外乱状態がない場合の船の予測位置を推定する。外乱算出部は、予測位置と所定の時刻における実際の船の位置との差に基づいて、外力により漂流した船の漂流方向を含む外乱情報を求める。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶の位置及び時刻を含む航行情報を取得する航行情報受信部と、
前記船舶の推力の大きさと方向を示す推力情報を取得する推力情報受信部と、
前記航行情報と前記推力情報に基づいて、状態推定モデルを用いて、外乱がない状態で航行した場合の所定時間経過後における前記船舶の予測位置を推定する位置推定部と、
前記状態推定モデルによって推定された予測位置と、前記所定時間経過後における実際の前記船舶の位置との比較に基づいて、外力によって漂流した船の漂流方向を含む外乱情報を求める外乱算出部と、
を備える、外乱推定装置。
【請求項2】
前記状態推定モデルは船体操縦運動モデルであり、
前記位置推定部は、前記航行情報と前記推力情報に基づいて、前記船体操縦運動モデルを用いて、前記外乱がない状態で航行した場合の所定時間経過後における前記船舶の前記予測位置を推定する、
請求項1に記載の外乱推定装置。
【請求項3】
前記位置推定部は、風速計からの情報に基づいて、風による外乱の影響を考慮した前記船体操縦運動モデルを用いて、前記所定時間経過後における前記予測位置を推定し、
前記外乱算出部は、前記船体操縦運動モデルによって推定された前記予測位置と、前記所定時間経過後における実際の前記船舶の位置との比較に基づいて、潮流によって流された前記船舶の漂流方向を含む前記外乱情報を求める、
請求項2に記載の外乱推定装置。
【請求項4】
前記位置推定部は、潮流計からの情報を基づいて、潮流による外乱の影響を考慮した前記船体操縦運動モデルを用いて、前記所定時間経過後における前記予測位置を推定し、
前記外乱算出部は、前記船体操縦運動モデルによって推定された前記予測位置と、前記所定時間経過後における実際の前記船舶の位置との比較に基づいて、風によって流された前記船舶の漂流方向を含む外乱情報を求める、
請求項2に記載の外乱推定装置。
【請求項5】
前記状態推定モデルが、前記航行情報および前記推力情報を含む入力に基づいて、前記所定時間経過後の前記予測位置を出力する第1学習モデルであり、
前記位置推定部は、前記第1学習モデルに前記航行情報と前記推力情報を入力することで、前記所定時間経過後における前記予測位置を推定し、
前記外乱算出部は、前記第1学習モデルによって推定された前記予測位置と、前記所定時間経過後における実際の前記船舶の位置との比較に基づいて、外力によって漂流した船の漂流方向を含む外乱情報を求める、
請求項1に記載の外乱推定装置。
【請求項6】
前記船舶の大きさ、重量、喫水、形状のいずれかを含む船体情報を取得するように構成された船体情報受信部を備え、
前記位置推定部は、前記航行情報、前記推力情報および前記船体情報を入力した場合、前記所定時間経過後における前記予測位置を出力する前記第1学習モデルに、前記航行情報、前記推力情報および前記船体情報を入力することで、前記予測位置を推定する、
請求項5に記載の外乱推定装置。
【請求項7】
潮流計および風速計で測定された測定情報を取得する測定値取得部と、
前記測定情報に基づいて外乱の有無を判定する外乱判定部と、
前記外乱判定部により外乱がないと判定された場合に、前記所定時間経過後における実際の前記船舶位置に基づいて第1学習モデルを再学習する補正部と、を備える、
請求項5に記載の外乱推定装置。
【請求項8】
時刻、潮流情報、風情報を含む基本情報を取得する基本情報受信部と、
前記基本情報、前記予測位置および前記所定時間を入力した場合、前記所定時間経過後における外乱によって前記船舶が漂流することを考慮した予測漂流位置を出力する第2学習モデルに、前記基本情報、前記予測位置および前記所定時間を入力することで、前記予測漂流位置を推定する漂流位置推定部と、を備える、
請求項5に記載の外乱推定装置。
【請求項9】
前記船舶の実際の位置を受信するGNSS受信部と、を備える、
請求項1に記載の外乱推定装置。
【請求項10】
前記船舶が航行する地域を含む海図と、前記外乱情報が求められる前記海図上での前記船舶の位置に前記漂流方向を含む前記外乱情報を表示するディスプレイと、を備える、
請求項1に記載の外乱推定装置。
【請求項11】
前記外乱情報は、外力によって漂流される前記船舶の漂流速度をさらに含み、
前記外乱算出部は、前記予測位置と前記実際の船舶の位置との距離を、前記所定時間で割った値に基づいて、漂流速度を求める、
請求項1に記載の外乱推定装置。
【請求項12】
前記船舶が航行する地域を含む海図と、前記外乱情報が求められる前記海図上での前記船舶の位置に前記漂流方向と前記漂流速度を含む前記外乱情報を表示するディスプレイと、を備える、
請求項11に記載の外乱推定装置。
【請求項13】
外乱算出部は、船舶の推力の大きさと方向が、前記所定時間において実質的に一定であるときに、外乱情報を求める、
請求項1に記載の外乱推定装置。
【請求項14】
船舶の位置及び時刻を含む航行情報を取得し、
前記船舶の推力の大きさと方向を示す推力情報を取得し、
前記航行情報と前記推力情報に基づいて、状態推定モデルを用いて、外乱がない状態で航行した場合の所定時間経過後における前記船舶の予測位置を推定し、
前記状態推定モデルによって推定された予測位置と、前記所定時間経過後における実際の前記船舶の位置との比較に基づいて、外力によって漂流した船の漂流方向を含む外乱情報を求める、
外乱推定方法。
【請求項15】
船舶の位置及び時刻を含む航行情報を取得し、
前記船舶の推力の大きさと方向を示す推力情報を取得し、
前記航行情報と前記推力情報に基づいて、状態推定モデルを用いて、外乱がない状態で航行した場合の所定時間経過後における前記船舶の予測位置を推定し、
前記状態推定モデルによって推定された予測位置と、前記所定時間経過後における実際の前記船舶の位置との比較に基づいて、外力によって漂流した船の漂流方向を含む外乱情報を求める、
外乱推定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に海上の船舶の外乱を推定し、位置を決定するための方法および装置、より具体的には、海上の船舶の選択された位置または船首方位を自動的に維持するための方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶の自動操縦(オートパイロット)や船舶の定位置保持では、船内のGNSS(全球測位衛星システム)装置を用いて船舶の位置を測位することで、位置情報や速度情報など必要な情報を取得する。位置情報や速度情報を基に、船体を任意の針路や定位置に向けて制御する。しかし、通常は外乱が船体に作用し、安定した制御を妨げることがある。ここでいう外乱とは、各種機器が通常の動作状態に対して外部から受ける干渉 (力) のことである。船舶も例外ではなく、波浪による波の力や風による空気の力、時には海面の凹凸などが外乱の主要因となることがある。
【0003】
通常、操船時に獲得される船の運動量には、「船が発生させる推力による船の運動量」と「外乱による船の運動量」が含まれる。船の位置情報から外乱を正確に推定することは、「船が発生させる推力による船の運動量」と「外乱による船の運動量」を判別することが難しいため困難である。さらに、この外乱は通常、増分によって変化する。外乱が船の制御にどの程度影響するかを適時に把握できれば、船体制御をより適切に行うことができる。その結果、より早く、より正確に目的地に到達できることが期待される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】US2021/0122452
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上の理由から、より早く目的地まで航行したり、船を定位置に保持したりするために、船舶に作用する外乱を適時かつ正確に推定する方法や装置を提供する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の外乱推定装置は、航行情報受信部、推力情報受信部、位置推定部および外乱算出部を備える。航行情報受信部は、船舶の位置及び時刻を含む航行情報を取得する。推力情報受信部は、船舶の推力の大きさと方向を示す推力情報を取得する。位置推定部は、航行情報と推力情報に基づいて、状態推定モデルを用いて、外乱がない状態で航行した場合の所定時間経過後における船舶の予測位置を推定する。外乱算出部は、状態推定モデルによって推定された予測位置と、所定時間経過後における実際の船舶の位置との比較に基づいて、外力によって漂流した船の漂流方向を含む外乱情報を求める。
【0007】
本発明の外乱推定装置の状態推定モデルは、船体操縦運動モデルであり、位置推定部は、航行情報と推力情報に基づいて、船体操縦運動モデルを用いて、外乱がない状態で航行した場合の所定時間経過後における船舶の予測位置を推定するように構成される。
【0008】
本発明の外乱推定装置の位置推定部は、風速計からの情報に基づいて、風による外乱の影響を考慮した船体操縦運動モデルを用いて、所定時間経過後における予測位置を推定し、
外乱算出部は、船体操縦運動モデルによって推定された予測位置と、所定時間経過後における実際の船舶の位置との比較に基づいて、潮流によって流された船舶の漂流方向を含む外乱情報を求めるように構成される。
【0009】
本発明の外乱推定装置の位置推定部は、潮流計からの情報を基づいて、潮流による外乱の影響を考慮した船体操縦運動モデルを用いて、所定時間経過後における予測位置を推定し、
外乱算出部は、船体操縦運動モデルによって推定された予測位置と、所定時間経過後における実際の船舶の位置との比較に基づいて、風によって流された船舶の漂流方向を含む外乱情報を求める。
【0010】
本発明の外乱推定装置の状態推定モデルが、航行情報および推力情報を含む入力に基づいて、所定時間経過後の予測位置を出力する第1学習モデルであり、
位置推定部は、第1学習モデルに航行情報と推力情報を入力することで、所定時間経過後における予測位置を推定し、
外乱算出部は、第1学習モデルによって推定された予測位置と、所定時間経過後における実際の船舶の位置との比較に基づいて、外力によって漂流した船の漂流方向を含む外乱情報を求めるように構成する。
【0011】
本発明の外乱推定装置は、さらに、船舶の大きさ、重量、喫水、形状のいずれかを含む船体情報を取得するように構成された船体情報受信部を備え、
位置推定部は、航行情報、推力情報および船体情報を入力した場合、所定時間経過後における予測位置を出力する第1学習モデルに、航行情報、推力情報および船体情報を入力することで、予測位置を推定するように構成される。
【0012】
本発明の外乱推定装置は、潮流計および風速計で測定された測定情報を取得する測定値取得部と、
測定情報に基づいて外乱の有無を判定する外乱判定部と、
外乱判定部により外乱がないと判定された場合に、所定時間経過後における実際の船舶位置に基づいて第1学習モデルを再学習する補正部とさらに備えるように構成される。
【0013】
本発明の外乱推定装置は、さらに、時刻、潮流情報、風情報を含む基本情報を取得する基本情報受信部と、
基本情報、予測位置および所定時間を入力した場合、所定時間経過後における外乱によって船舶が漂流することを考慮した予測漂流位置を出力する第2学習モデルに、基本情報、予測位置および所定時間を入力することで、予測漂流位置を推定する漂流位置推定部を備えるように構成される。
【0014】
本発明の外乱推定装置は、船舶の実際の位置を受信するGNSS受信部とを備えるように構成される。
【0015】
本発明の外乱推定装置は、船舶が航行する地域を含む海図と、外乱情報が求められる海図上での船舶の位置に漂流方向を含む外乱情報を表示するディスプレイとを備えるように構成される。
【0016】
本発明の外乱推定装置において、外乱情報は、外力によって漂流される船舶の漂流速度をさらに含み、
外乱算出部は、予測位置と実際の船舶の位置との距離を、所定時間で割った値に基づいて、漂流速度を求めるように構成される。
【0017】
本発明の外乱推定装置は、船舶が航行する地域を含む海図と、外乱情報が求められる海図上での船舶の位置に漂流方向と漂流速度を含む外乱情報を表示するディスプレイとを備えるように構成される。
【0018】
本発明の外乱推定装置は、船舶の方向と速度のそれぞれが所定の時間にわたって実質的に一定であるときに、外乱情報を推定するようにさらに構成される。
【0019】
本発明の外乱推定装置の外乱算出部は、船舶の推力の大きさと方向が、所定時間において実質的に一定であるときに、外乱情報を求めるように構成される。
【0020】
本発明の外乱推定方法は、船舶の位置及び時刻を含む航行情報を取得し、船舶の推力の大きさと方向を示す推力情報を取得し、航行情報と推力情報に基づいて、状態推定モデルを用いて、外乱がない状態で航行した場合の所定時間経過後における船舶の予測位置を推定し、状態推定モデルによって推定された予測位置と、所定時間経過後における実際の船舶の位置との比較に基づいて、外力によって漂流した船の漂流方向を含む外乱情報を求める、
【0021】
本発明の外乱推定プログラムは、コンピュータで実行されると、船舶の位置及び時刻を含む航行情報を取得し、船舶の推力の大きさと方向を示す推力情報を取得し、航行情報と推力情報に基づいて、状態推定モデルを用いて、外乱がない状態で航行した場合の所定時間経過後における船舶の予測位置を推定し、状態推定モデルによって推定された予測位置と、所定時間経過後における実際の船舶の位置との比較に基づいて、外力によって漂流した船の漂流方向を含む外乱情報を求める。
【0022】
本発明の外乱推定装置は、船舶が外乱を正確に把握することを可能にし、その結果、船舶が方向転換する際に、事前に船舶を制御することができるようになる。また、外乱を正確に把握することにより、船舶を定位置に保持する性能を向上させるとともに、直進・旋回性能の向上につながる。例えば、旋回時には、外乱に抵抗するためのトリム舵角がリセットされる。旋回前に外乱を把握するため、必要なトリム舵角を比較的容易に予測できる。外乱情報は、外乱を正確に表示するためにディスプレイに表示される。特に釣りをする人にとっては、手動操作の利点に加えて、現在の船がどの方向にどれだけ速く漂流しているかが、魚の動きを得る上で貴重である。かく乱情報は、利用者が船を操縦したり、船を定位置に固定したり、釣りをしたりする際に役立つ重要な情報の一つである。
【図面の簡単な説明】
【0023】
実施形態の説明においては、図面を参照することによってより理解することができるであろう。なお、図面では同様の部分は全体を通して同様の符号によって示される。
以下の説明はあくまでも一実施形態としてのみ意図されており、本明細書における主題と一致するデバイス、システム、及びプロセスの特定の選択された実施形態を示すものである。
図1】本発明の一実施形態に係る外乱推定装置の構成を示すブロック図である。
図2】本発明の一実施形態に係る外乱情報の推定するための例示的な図である。
図3】本発明の一実施形態に係る船舶と外乱情報を表示する画面の図である。
図4】本発明の一実施形態に係る船舶と外乱情報を表示する画面の図である。
図5】本発明の一実施形態に係るさらに別の実施形態に係るブロック図である。
図6】本発明の一実施形態に係る外乱推定装置の構成を示すブロック図である。
図7】本発明のさらに別の実施形態に係る外乱推定装置の構成を示すブロック図である。
図8】本発明のさらに別の実施形態に係る外乱推定装置の構成を示すブロック図である。
図9】本発明の一実施形態に係る第1学習部の構成を示すブロック図である。
図10A】本発明の一実施形態に係る外乱推定方法を示すフローチャートである。
図10B】本発明の一実施形態に係る外乱推定方法を示すフローチャートである。
図11】本発明の一実施形態に係る外乱情報を推定するための例示的な図である。
図12】本発明のさらに別の実施形態に係る外乱推定装置の構成を示すブロック図である。
図13】本発明の一実施形態に係る外乱推定方法を示すフローチャートである。
図14】本発明の一実施形態に係る外乱情報を推定するための例示的な図である。
図15】本発明の一実施形態に係る風の条件下での外乱情報を推定するための例示的な図である。
図16】本発明の一実施形態に係る風条件下での外乱推定装置の構成を示すブロック図である。
図17】本発明の一実施形態に係る風条件下の外乱推定方法を示すフローチャートである。
図18】本発明の一実施形態に係る潮流条件下での外乱情報を推定するための例示的な図である。
図19】本発明の一実施形態に係る潮流条件下での外乱推定装置の構成を示すブロック図である。
図20】本発明の一実施形態に係る潮流条件下での外乱推定方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の外乱推定装置の一実施形態について説明する。以下の詳細な説明では、その一部を構成する図面を参照する。他の例示的な実施形態又は特徴をさらに利用することができ、本明細書に提示する主題の精神又は範囲から逸脱することなく他の変更を行うこともできる。すなわち、本明細書に記載される例示的な実施形態は限定するものではなく、その態様は本明細書に一般的に記載され図面に示されるように、多種多様な異なる構成で配置、置換、結合、分離、及び設計することができ、そのすべてが本明細書で明確に意図されることは容易に理解されるであろう。
【0025】
図1は、本発明の一実施形態による、船舶200に作用する外乱を推定するための外乱推定装置1の構成を示すブロック図である。図2は、本発明の一実施形態による、外乱情報を推定するための例示的な図である。
【0026】
外乱推定装置1は、原点から到達点への船舶200の航行中に、船舶200に作用する外乱を推定するために船舶200に設置することができる。船舶200に作用する外乱を継続的に監視する必要がある。外乱推定装置1は、潮流や風の流れなどによって船舶200に作用する外乱を推定することで、船舶200の選択した位置や進行方向を自動的に維持するために使用することができる。船舶200の自動操縦(オートパイロット)は、外乱推定装置1を利用して船舶200の航行や定位置維持などの船舶200の動きを制御する。
【0027】
外乱推定装置1は、全球測位衛星システム(GNSS)受信部2、航行情報受信部3、推力情報受信部4、制御部5、ディスプレイ6を備える。
【0028】
GNSS受信部2は、全球測位衛星システムから複数の信号を取得し、その複数の信号(以下「GNSS信号」ともいう)に基づいて船舶200の位置を決定し、船舶200の実際の位置を取得する。GNSS受信部2は、船舶200の実際の位置を航行情報受信部3に提供する。GNSS信号に基づく船200の位置の決定は、定期的または継続的に行われ、船200の移動方向と移動速度は、船200の実際の位置とともに決定される。一実施形態では、移動方向と移動速度は、船の速度計など、GNSS受信部2以外の装置によって決定される場合がある。実際の位置とともに、実際の取得が生成された時刻が取得され、航行情報受信部3に提供される。
【0029】
航行情報受信部3は、時刻T1における船舶200の水面上の位置を示す実際の位置P1と、時刻T2における船舶200の位置を示す実際の位置P2(すなわち、所定時間T2)を含む航行情報を取得する。
【0030】
一実施例では、航行情報受信部3は、GNSS受信部2から実際の位置P1またはP2を受信する。推力情報受信部4は、航行中に船舶200を駆動する推力の大きさと方向を示す推力情報を受信する。制御部5は、船舶200の未来の時点T2における船舶の予測位置(後述の仮想位置と同じ)P2’を、将来の時点T2における船舶200の予測位置P2’を出力する状態推定モデル(本実施例では第1訓練モデル)に航行情報と推力情報を入力することで、予測位置P2’に到達するように推定する。
【0031】
制御部5は、第1訓練モデルによって推定された予測位置P2’と、所定の時点T2における船舶200の実際の位置P2との差に基づいて、外力によって漂流した船舶200の漂流方向を含む外乱情報を推定する。外乱情報は、船舶200に作用する外乱を示し、船舶200の動きを制御して正確な航行や船舶200を定位置に保持することに利用する。制御部5は外乱情報を出力する。
【0032】
引き続き図1を参照し、制御部5は、位置推定部51、外乱計算部52、外乱情報出力部53、第1学習部54を含む。モーター (エンジン)や船体に取り付けられたセンサー(後述)が取得した推力情報に基づいて、船舶200の稼働状態を評価する。
【0033】
当業者であれば、本発明の本実施形態では 「モーター」 と記載されているが、本発明の範囲から逸脱することなく、代わりに電気モーターに加えて「内燃機関」を使用してもよいことを理解するであろう。
【0034】
一実施形態では、外乱算出部52は、船舶200の漂流速度をさらに求める。外乱情報は、外力によって漂流する船舶200の漂流速度をさらに含む。外乱算出部52は、予測位置P2’から実際の位置P2の距離を、原点P1から実際の位置P2に到達するまでの時間(図2において、T1からT2までの時間)で割ることにより、漂流速度を求める。
【0035】
一実施例では、外乱算出部52は、船舶200の推力の大きさと方向が所定の時間にわたって実質的に一定であるとき、すなわち、推力の大きさと方向が特定の時間間隔の間に所定の範囲内にあるときに、外乱情報を求める。別の実施例では、船舶200の向きと速度が所定の時間にわたって実質的に一定であるとき、すなわち、船舶200の向きと速度が特定の時間間隔の間に所定の範囲内にあるときに、外乱算出部52は外乱情報を求める。
【0036】
図2では、外乱がない場合、T1からT2までの間に船200がP2’に到着すると予測されるが、外乱の影響によって船200がP2に到着する。P2からP2’へのベクトルは、外乱の方向と大きさとして解釈できる。学習モデルが、外乱がないと仮定してT2の到達点P2’を予測できる場合、予測された到達点P2’とその時点T2の実際の到達点P2との差から外乱を計算できる。時間T2は任意であり、時間T2の例としては、10秒後、1分後、10分後などがあるが、これらに限定されない。
【0037】
図1を参照し、外乱情報出力部53は外乱算出部52およびディスプレイ6と動作可能に結合されている。外乱情報出力部53は、船舶200の航行または移動の制御を補助する外乱情報をディスプレイ6に表示するための外乱情報を出力する。
【0038】
図3は、本発明の一実施形態による船舶200と外乱情報を示す領域を含む表示画面300である。ディスプレイ6は、船舶200の船内に配置され、船舶200の制御部5と一緒に、または電気的に接続することができる。ディスプレイ6は、船舶200が航行する領域(たとえば、Redfish cove)を含むチャート300を表示する。
【0039】
また、一実施形態では、ディスプレイ6は、表示画面300に漂流方向を含む外乱情報を表示する。他の実施形態では、ディスプレイ6は、表示画像300に漂流方向と漂流速度を含む外乱情報を表示する。表示位置は、外乱情報を求める位置に対応する。外乱情報は、外乱推定装置1のデータベース(図示せず)に、「漂流方向」(船舶の移動方向情報)および「漂流速度」(船舶の移動速度情報)として時系列情報として格納されている。この情報は、各外乱推定処理の時刻および位置情報と関連付けて格納される。ディスプレイ6は、上記の情報をデータベースに格納するために使用できる多機能ディスプレイであってもよい。
【0040】
ディスプレイ6は、例えば、船舶200を運航する船舶乗船者、すなわち利用者が使用する航海補助装置の一部を構成するディスプレイ画面として構成されてもよい。ただし、ディスプレイ6は上記の構成に限定されるものではなく、例えば、船舶200から周囲の状況を監視する船舶乗船者の補助者が携帯する携帯用コンピュータのディスプレイ画面、乗船者が船舶200の船室内で視聴するためのディスプレイ画面、乗船者が装着するウェアラブルグラスなどのヘッドマウントディスプレイの表示部などである。
【0041】
図4は、本発明の実施形態による、船舶200と外乱情報を示す表示画面400を示す。ディスプレイ6は、船舶200上に配置され、制御部5を備えていてもよいし、電気的に接続されていてもよい。
【0042】
ディスプレイ6には、船舶200が航行する領域(たとえば、Redfish cove)を含むチャート400が表示される。また、ディスプレイ6には、チャート400上の表示位置における漂流方向と漂流速度を含む外乱情報が表示される。表示位置は、外乱情報が求められる位置に対応している。
【0043】
外乱情報は、外乱推定装置1のデータベース(図示せず)に、「漂流方向」(船舶の移動方向情報)および「漂流速度」(船舶の移動速度情報)として時系列情報として格納されている。この情報は、各外乱推定処理の時刻および位置情報と関連付けて格納される。ディスプレイ6は、上記の情報をデータベースに格納するために使用できる多機能ディスプレイであってもよい。
【0044】
図4は、フロリダ州Redfish coveを西から東 (左から右) に巡航する船舶200を示している。漂流方向は画面上の矢印で示される。この実施例では漂流速度も計算され、その大きさは矢印の長さでわかる。
【0045】
本実施例では漂流方向と漂流速度は矢印を使用して表示されるが、本発明の範囲はそれに限定されないことは当業者には明らかであろう。他の様々な実施形態では、漂流方向と漂流速度は、例えば、円の内側を漂流方向と漂流速度と共にグレースケールで表示したり、波の状態を動画で表示するなど、本発明の範囲を逸脱することなく、任意の適切な方法で表示することができる。
【0046】
図5は、本発明の別の実施形態による、船舶200に作用する外乱を推定するための外乱推定装置1の構成を示すブロック図である。
【0047】
外乱推定装置1は、さらに、船舶200の大きさ、重量、喫水、形状などの船体情報を取得する船体情報受信部7を含む。位置推定装置51は、第1学習モデルに船体情報を入力し、第1学習モデルが船体情報に従って所定時間T2における予測位置P2’を出力するようにする。外乱情報はさらに船舶200の漂流速度を含む。漂流速度は、潮流や風流などの外乱要因が同じであっても、船舶200の大きさや形状によって変化する。
【0048】
ここで、外乱の作用を受ける船舶200の速度とは、外乱によって船舶200が移動する速度、すなわち「外乱による漂流速度」と定義される。推力の大きさと方向が所定時間ほぼ一定になると、外乱情報の推定処理が開始される。これにより、外乱算出部52は、船舶200の漂流方向と漂流速度を求める。
【0049】
図6は、本発明のさらに別の実施形態による、船舶200に作用する外乱を推定するための外乱推定装置1の構成を示すブロック図である。
【0050】
制御部5はさらに、潮流計または風速計で測定された測定情報を取得する補正部55を含む。計測情報には、潮流計で計測した潮流情報と、風速計で計測した風情報がある。補正部55は、計測情報に基づいて外乱の有無を判定し、外乱がないと判定した時点の予測時刻T2に到達した実際の位置P2に基づいて、補正後の予測位置を出力するためのトレーニング情報として、補正後の情報を用いて第1学習済みモデルを再学習する。
【0051】
図7は、本発明のさらに別の実施形態による、船舶200に作用する外乱を推定するための外乱推定装置1の構成を示すブロック図である。
【0052】
外乱推定装置1はさらに基本情報受信部8を含み、制御部5はさらに漂流位置推定装置56、漂流位置出力部57、第2学習部58を含む。基本情報受信部8は時刻、潮流情報、特定時刻の風情報を含む基本的な情報を取得する。漂流位置推定機56は、第2学習モデルに上記基本的な情報、予測位置、所定時間を入力することで、船舶200が航行中の外乱によって漂流することを考慮した予測漂流位置を推定する。第2学習モデルは第2学習部58により生成さる。
【0053】
図8は、本発明のさらに別の実施形態による、船舶200に作用する外乱を推定するための外乱推定装置1の構成を示すブロック図である。
【0054】
外乱推定装置1は、さらに船体情報受信部7と基本情報受信部8を含み、制御部5は、さらに、漂流位置推定部56、漂流出力部57、第2学習部58を含む。基本情報受信部8は、時刻、潮流情報、特定時刻の風情報や潮流情報を含む基本情報を取得する。漂流位置推定部56は、第2学習モデルに上記基本情報、予測位置、所定時間を入力することで、船舶200が航行中の外乱によって漂流することを考慮した予測漂流位置を推定する。第2学習モデルは第2学習部58により生成される。
【0055】
また、船体情報受信部7は、船舶200の大きさ、重量、喫水、形状等の船体情報を取得する。漂流位置推定部56は、第2学習モデルに船体情報を入力し、第2学習モデルが船体情報に従って所定の時刻の予測漂流位置を出力するようにする。
【0056】
一実施形態では、外乱推定装置1は、それぞれモーター回転数センサーまたはプロペラ回転数センサーまたはギアセンサー(図示せず)を含むモーターまたはプロペラまたはギア(図示せず)をさらに含む。モーターまたはプロペラまたはギアは、モーターまたはプロペラまたはギアにより発生した推進力(推力)をセンサーにより測定する構成を有する船舶200の駆動に関連する。
【0057】
外乱推定装置1は、さらに、舵センサー(図示せず)を含む舵(図示せず)を含む。舵は、舵センサーにより舵角(以下 「推力方向」 ともいう)を測定する構成を有する船舶200の駆動に関連する。測定された推力と推力方向は、回転数センサーと舵センサーに提供され、推力情報を生成する。推力情報は、モーターまたはプロペラまたはギアの回転数と舵角に相当する。回転速度は、モーターまたはプロペラまたはギアに取り付けられたセンサーによって測定される。舵角は、舵センサーによって測定される。回転数センサーと舵センサーは、推力情報受信部4に推力情報を提供する。
【0058】
センサーやその他の要素が利用する通信モードモーターしては、船舶200の環境に基づいたシリアル通信 (NMEA 0183) 、イーサネット、CAN (NMEA 2000) などがあるが、これらに限定されない。
【0059】
図9は、本発明の一実施形態による、第1学習部54の構成を示すブロック図である。第1学習部54は、情報処理部902、学習部904、出力部906を含む。学習過程で、情報処理部902は入力情報として推力情報、船体情報、航行情報を受け取り、入力情報を処理して訓練用情報を生成する。
【0060】
さらに、学習部904は、学習プログラム908、学習前のパラメータ910、ハイパーパラメータ912を格納する。学習部904は、情報処理部902から学習用情報を受け取り、推力情報、航行情報、船体情報を学習用情報、学習プログラム908、ハイパーパラメータ912として、第1ニューラルネットワークに予測位置と予測時間を学習させる。
【0061】
学習用情報には船体情報が含まれることがある。ハイパーパラメータ912は第1ニューラルネットワークのトレーニングを制御するために使用される値を持つパラメータである。出力部906は学習部904の出力を受け取り、学習部904の出力に基づいて学習済みプログラム914と学習済みパラメータ916を格納する。出力部906は、学習済みプログラム914、学習済みパラメータ916、および出力部906に格納された推定プログラム918に基づいて、学習された第1ニューラルネットワークを位置推定部51に提供する。
【0062】
学習プロセスの後、学習された第1ニューラルネットワークは入力情報を受け取り、位置推定部51は、将来の時点における船舶200の予測位置P2’を推定する。
【0063】
第1ニューラルネットワークのトレーニングでは、誤差関数を使用する。重みは、トレーニング用情報上の誤差関数の平均和を最小化するように調整される。重みを調整するプロセスは、一般にトレーニングと呼ばれる。一般に、望ましいと考えられる何らかの方法で重みを制限するために、誤差にペナルティ項が適用される。ペナルティ項は、重みの大きさにペナルティを与えるために使用される。このようにして、第1ニューラルネットワークは学習され、例えば外乱情報の生成のようなタスクの各繰り返しでより正確な出力を提供する。外乱情報に基づいて、船200は安全に航行する。
【0064】
第2学習部58が第1学習部54と構造的にも機能的にも類似していることは、当業者には明らかであろう。
【0065】
図10Aと10Bを合わせて、本発明の一実施形態による外乱推定方法1000のフローチャートを表す。
【0066】
ステップ1002で、航行情報受信部3は、船舶200の実際の位置と時刻を含む航行情報を取得する。ステップ1004で、推力情報受信部4は、船舶200の推力の大きさと方向を示す推力情報を受信する。ステップ1006で、制御部5は、航行情報と推力情報を第1学習モデルに入力することで、所定時間T2経過後の船舶200の予測位置P2’を推定する。
【0067】
ステップ1008で、制御部5は、所定時間T2経過後における実際の位置P2を取得する。
【0068】
ステップ1010で、制御部5は、推力の大きさと方向のそれぞれが、所定時間にわたって実質的に一定であるかどうかを判断する。
【0069】
ステップ1010で、制御部5が推力の大きさと方向のそれぞれが所定時間、実質的に一定ではないと判断した場合、ステップ1010を再度実行する。
【0070】
ステップ1010で、推力の大きさと方向のそれぞれが所定時間、実質的に一定であると制御部5が判断した場合、ステップ1012を実行する。ここで、「一定」とは、推力の大きさと方向のそれぞれの値が、所定の下限より大きく、かつ、所定の上限より小さいままであることを意味する。制御部は、センサー情報に基づいて、推力の大きさと方向のそれぞれが、所定の期間にわたって実質的に一定であると判断することもあれば、外部装置で判断して制御部に外部から入力することもある。
【0071】
ステップ1012で、制御部5は、船舶の方向と速度が、所定の時間にわたって実質的に一定であるかどうかを判断する。ステップ1012で、方向と速度の船の動きのそれぞれが、所定の時間にわたって実質的に一定でないと制御部5が判断した場合、ステップ1010が再び実行される。ステップ1012で、方向と速度の船の動きのそれぞれが、所定の時間にわたって実質的に一定であると制御部5が判断した場合、ステップ1014が実行される。ここで、「一定」とは、船の動きの方向と速度のそれぞれの値が、所定の下限より大きく、かつ、所定の上限より小さいままであることを意味する。
【0072】
制御部5は、センサー情報に基づいて、船の動きの方向と速度のそれぞれが、所定の時間にわたって実質的に一定であると判断する場合もあれば、外部装置で判断して制御部5に外部から入力する場合もある。
【0073】
ステップ1014で、制御部5は、第1学習モデルによって推定された予測位置P2’と、所定時間経過後T2における実際の船200の位置P2との差に基づいて、外力によって漂流した船200の漂流方向を含む外乱情報を決定する。
【0074】
ステップ1016では、ディスプレイ6に船舶200が航行する地域を含む表示画面が表示される。1018では、ディスプレイ6に、表示画面上の各表示位置における漂流方向と漂流速度を含む外乱情報が表示される。
【0075】
本実施形態では、水面上の船舶の実際の位置と時刻を含む航行情報を取得するように外乱推定装置を構成する。さらに、船舶の推力の大きさと方向を示す推力情報を受信するように外乱推定装置を構成する。
【0076】
さらに、航行情報と推力情報を基にした状態推定モデルを用いて、外乱状態がない場合の所定時間経過後の船舶の予測位置を推定するように外乱推定装置を構成する。さらに、外乱推定装置は、状態推定モデルによって推定された予測位置と、所定時間経過後における実際の船舶の位置との差に基づいて、外力によって漂流した船舶の漂流方向を含む外乱情報を決定する。
【0077】
本実施形態では、状態推定モデルは、前述の実施形態では第一学習モデルであったが、船体操縦運動モデルであってもよい。このとき、航行情報と推力情報に基づく船体操縦運動モデルを使用して、外乱状態がない場合の船の予測位置を推定する。
【0078】
本実施形態では、風速計からの情報に基づいて、風による外乱下の船体操縦運動モデルを用いて、所定の時刻における船の予測位置が推定される。さらに、船体操縦運動モデルによって推定される予測位置と、所定の時刻における実際の船の位置との差に基づいて、潮流によって漂流する船の漂流方向を含む外乱情報が推定される。
【0079】
本実施形態では、潮流計からの情報に基づいて、潮流による外乱下の船体操縦運動モデルを用いて、所定の時刻における船の予測位置が推定される。さらに、船体操縦運動モデルによって推定される予測位置と、所定の時刻における実際の船の位置との差に基づいて、風によって漂流する船の漂流方向を含む外乱情報が決定される。
【0080】
図11は本発明の一実施形態による漂流ベクトルを推定する図である。本実施形態では、船舶1100が船舶制御装置を備えて航行していると仮定する。
【0081】
さらに、航行情報受信部3は、船舶1100に関連する航行情報を受信するように構成される。航行情報は、時刻T1における船舶1100の位置を示す実位置P1と、時刻T2における船舶1100の位置を示す実際の位置P2とを含む。また、推力情報受信部4は、航行中に船舶1100を駆動する推力の大きさと方向を示す推力情報を受信する。
【0082】
さらに、制御部5は、将来の所定の時刻における船舶1100の予測位置P2’を推定するように構成されている。予測位置P2’は、外乱がない場合の予測位置である。
【0083】
予測位置P2’は、時刻T2における外乱のない仮想位置と呼ばれる。その後、制御部5は、時刻T2における予測位置P2’と実際の船1100の位置P2との差に基づいて、外力によって漂流した船1100の漂流方向を含む外乱情報を求める。漂流方向は船1100の漂流ベクトルを示す。
【0084】
あるシナリオでは、時間T1からT2にかけて、船1100は仮想位置P2’に到着するはずだが、外乱により船1100は実際の位置P2に到着する。P2からP2’へのベクトルは、外乱の方向と大きさとして解釈できる。船体操縦運動モデルにより外乱がないと仮定した場合のT2での到達点P2’を推定し、推定された到達点P2’とその時点T2での実際の到達点P2との差から外乱を計算できる。時間T2は任意であり、時間T2の例としては、1 第2後、1分後、10分後などがあるが、これらに限定されない。
【0085】
図12は、本発明の一実施形態による外乱がない場合の外乱の判定を示すブロック図1200である。一実施例では、プロペラ速度検出器1202は、船舶1100の回転数を検出するように構成されている。回転数は、発生した推進力(すなわち推力)を測定するための構成を有する船舶1100の駆動用に構成されたプロペラに関連付けられる。さらに、軸回転計とともにエンジン速度とギア比の関係が回転数の検出に使用される。
【0086】
また、操舵角検出1204は、船舶1100の舵角を測定するように構成されている。
【0087】
さらに、位置推定部(仮想位置推定部とも呼ばれる)1206は、プロペラ回転数と舵角の推力情報と、船体情報(船体パラメータとも呼ばれる)1212を受信するように構成されている。
【0088】
受信すると、位置推定部1206は、将来の所定の時刻における外乱がない場合の船舶1100の仮想位置を決定するように構成されている。一実施例では、外乱がない場合にプロペラ回転数と舵角が維持されている場合に、船舶1100の仮想位置が決定される。
【0089】
一例では、Maneuvering Modeling Group(MMGモデル) が船体操縦運動モデルとして使用される。モデルパラメータは、直接入力することも、貴島の式または芳村の式を使用して船体情報から推定することもできる。MMG標準モデルによる運動方程式を以下の式に示す。
【0090】
【数1】
【0091】
ここで船の質量をm、慣性モーメントをI_zzとする。m_x、m_y、J_zはx軸付加質量、y軸付加質量、z軸付加慣性モーメントを示す。船体重心での力、及びモーメントをX、Y、Nと表す。添字H、R、Pは船体成分、舵成分、プロペラ成分を表す。u'、v'、r'はそれぞれ、u、v、rの微分である。
【0092】
無外乱状態のモデル計算を行なう場合、船は直進するため、v=r= v'=r'=0である。これを上記運動方程式に反映すると、式は以下のようになる。
【0093】
【数2】
【0094】
上記の運動方程式をEuler法、Runge-Kutta法などを用いて数値的に解くと、外乱がないときの時刻t=t1における船の仮想的な位置(すなわち仮想的な位置)が求められる。
【0095】
さらに、航行情報受信部1208により、時刻t=t1における船1100の実際の位置を検出する。航行情報受信部1208は、GNSSを用いて船の実際の位置を検出する。
【0096】
外乱算出部1210は、航行情報受信部1208が検出した実際の位置と、位置推定部1206が予測した仮想位置との差に基づいて外乱(ベクトル)を決定するように構成されている。仮想位置を(x_V, y_V )、実際の位置を(x_A, y_A)として、外乱ベクトルVDは、次の式を用いて決定される。
【0097】
【数3】
【0098】
一例では、舵角は0と仮定される。これは、実環境で外乱が小さい場合に有効な仮定である。この仮定により、運動方程式は以下のように簡略化できる。
【0099】
【数4】
図13は、本発明の一実施形態による外乱がない場合の外乱の判定を示すフローチャート1300である。ステップ1302では、船舶のプロペラ回転数、船舶の舵角、時刻t=t0における船舶の実際の位置を求める。
【0100】
ステップ1304では、プロペラ回転数、舵角、船体情報に基づいて、外乱のない状態での時刻t=t1での仮想的な船舶の位置を推定する。ステップ1306では、時刻t=t1における実際の船の位置を取得する。
【0101】
ステップ1308では、時刻t=t1における仮想位置と実際の位置に基づいて外乱を決定する。
【0102】
図14は、本発明の一実施形態による外乱を推定する図である。船舶1400に関連する航行情報を受信する。航行情報には、時刻T1における船舶1400の位置を示す実際の位置P1と、時刻T2における船舶1400の位置を示す実位置P2が含まれる。一実施例では、船舶はウェイポイントを結ぶ線上を航行する。
【0103】
さらに、航行中の船舶1400を駆動する推力の大きさと方向を示す推力情報を受信する。さらに、所定時間後の外乱条件がない場合の船舶1400の予測位置P2’を推定する。予測位置P2’を、所定時間T2における仮想位置ともいう。
【0104】
続いて、時刻T2における予測位置P2’と実際の船舶1400の位置P2との差に基づいて、外力によって漂流した船舶1400の漂流方向を含む外乱情報を求める。漂流方向は船舶1400の漂流ベクトルの方向である。
【0105】
図14では、船舶1400が航路点を結ぶ線上を航行し、その結果、時刻T2における実際の位置と、時刻T2における仮想位置が異なる場合、その差はベクトル(すなわち、漂流ベクトル)となる。
【0106】
図15は、本発明の一実施形態の外乱を推定する図である。船舶1500に関連する航行情報を受信する。航行情報には、時刻T1における船舶1500の位置を示す実際の位置P1と、時刻T2における船舶1500の位置を示す実際の位置P2が含まれる。
【0107】
さらに、航行中の船舶1500を駆動する推力の大きさと方向を示す推力情報を受信する。さらに、将来の所定時間における船舶1500の予測位置P2’を推定する。予測位置P2’は、将来の所定時間における風による外乱状態で推定する。予測位置P2’は、時刻T2 (すなわち、あらかじめ決められた所定時間)における仮想位置という。
【0108】
続いて、時刻T2における予測位置P2’と実際の船舶1500の位置P2との差に基づいて、外力によって漂流した船舶1500の漂流方向を含む外乱情報を求める。漂流方向は船舶1500の潮流ベクトルを示す。潮流ベクトルは船舶への外乱である。本実施例では、MMGモデルに風による外力項を導入することで潮流による外乱を推定することができる。
【0109】
図16は、本発明の一実施例による外乱(潮流ベクトル)を推定するための構成を示すブロック図1600である。本実施例では、プロペラ回転数検出部1202、舵角検出部1204、航行情報受信部1208は、図12で説明したのと同様に機能する。
【0110】
風向風速検出部1602は、風向風速を測定するように構成されている。さらに、風向風速検出器1602は、位置推定器1206に測定した情報を出力する。
【0111】
さらに、位置推定器1206は、プロペラ回転数、舵角、風向風速、船体情報1212に基づいて、船舶の仮想的な位置を決定するように構成されている。船舶の仮想的な位置は、風による外乱を考慮して決定される。位置推定部1206は、風による力を含むMMGモデルを使用して、船舶の仮想的な位置を取得するように構成されている。
【0112】
位置推定部1206は、以下の式を使用して、風外乱下の船舶の仮想的な位置を決定する。X_W, Y_W, N_Wは相対風向と相対風速の関数であり、これらの関数の係数は、Blendermanの式、藤原の式などを使用して船舶の形状から決定される。(x_VW, y_VW )は、風の外乱を受けている船舶の仮想的な位置である。(x_VW, y_VW )は、以下の式をEuler法、Runge-Kutta法などを用いて数値的に解くことによって得られる。
【0113】
【数5】
【0114】
外乱算出部1210は、航行情報受信部1208で検出した実際の船位と、位置推定部1206で検出した仮想の船位とに基づいて外乱ベクトルを決定する。潮流による外乱は以下の式に基づいて求められる。(x_AW, y_AW)は、航行情報受信部1208によって検出された実際の船の位置である。
【0115】
【数6】
【0116】
図17は、本発明の一実施形態による外乱判定のフローチャート1700である。ステップ1702では、船のプロペラ回転数、船の舵角、時刻t=t0における実際の船の位置を求める。
【0117】
ステップ1704では、プロペラ速度、操舵角、船の情報に基づいて、風外乱状態にある船の仮想位置を求める。仮想位置は時間t=t1で決定される。
【0118】
ステップ1706では、時間t=t1における実際の船の位置を取得する。
【0119】
ステップ1708では、時間t=t1における仮想位置と実際の船の位置に基づいて、外乱(潮流ベクトル)を決定する。
【0120】
一実施例では、潮流ベクトルの推定に使用されるのと同じ方法を使用して、外乱(風の流れベクトル)を推定することができる。この場合、図16に示すように風向風速計の代わりに潮流計が使用される。また、図16の位置推定器1206で使用される風による力のMMGモデルの代わりに、潮流による力X_C, Y_C, N_Cを付加したMMGモデルが使用される。一実施例では、潮流の外乱の下での仮想位置は、以下の式を使用して計算される。
【0121】
【数7】
【0122】
別の実施形態では、潮流ベクトルから潮流による力を求める場合、仮想位置を求める計算式が複雑になることがある。船が表層の水とともに移動すると仮定すると、以下の方法で、外乱条件下での仮想位置(x_VC, y_VC )を計算することができる。
【0123】
最初は、外乱がないと仮定したMMGモデルを使用して、外乱のない場合の仮想位置(x_V, y_V )を計算する。
【0124】
また、時刻T1からT2までの船舶の位置 (x_C, y_C)は、以下の式を使用して計算される。u_Cとv_Cは潮流計で検出した潮流ベクトルの時間積分値である。
【0125】
【数8】
【0126】
これらの値から、潮流外乱下の仮想位置は、次のように求められる。
【0127】
【数9】
【0128】
図18は、本発明の一実施形態による外乱(風)を推定する図である。船1800に関連する航行情報を受信する。航行情報には、時刻T1における船1500の位置を示す実際の位置P1と、時刻T2における船1800の位置を示す実際の位置P2が含まれる。
【0129】
さらに、航行中の船1800を駆動する推力の大きさと方向を示す推力情報を受信する。さらに、将来の所定時間における船1800の予測位置P2’を推定する。予測位置P2’は、潮流による外乱条件を考慮したMMGモデルにて推定する。
【0130】
続いて、時刻T2における予測位置P2’と実際の船舶1800の位置P2との差に基づいて、外力によって漂流した船舶1800の漂流方向を含む外乱情報を求める。漂流方向は、船舶1800の風ベクトルを示す。風ベクトルは外乱と呼ばれる。
【0131】
図19は、本発明の一実施形態による潮流の外乱下での外乱を推定する構成を示すブロック図1900である。一実施例では、プロペラ回転数検出部1202、舵角検出部1204、航行情報受信部1208は、図12で説明したのと同様に機能する。
【0132】
潮流計1902は、潮流を測定するように構成されている。潮流計1902は、位置推定部1206に測定結果を出力する。
【0133】
さらに、位置推定部1206は、プロペラ回転数、舵角、潮流、船体情報1212に基づいて、船舶の仮想的な位置を推定するように構成されている。船舶の仮想的な位置は、潮流の外乱の下で推定される。
【0134】
さらに、外乱算出部1210を備え、航行情報受信部1208が検出した船舶の実際の位置と、位置推定部1206が推定した船舶の仮想的な位置とに基づいて外乱を推定する。
【0135】
図20は、本発明の一実施形態による潮流による外乱下での外乱を推定するためのフローチャート2000である。ステップ2002では、船舶のプロペラ回転数、船舶の舵角、時刻t=t0における船舶の実際の位置を求める。
【0136】
ステップ2004では、プロペラ回転数、舵角、船体情報を基に、潮流による外乱の影響を受ける船舶の時刻t=t1における仮想位置を求める。
【0137】
ステップ2006では、時刻t=t1における実際の船の位置を取得する。
【0138】
ステップ2008では、時刻t=t1における仮想位置と実際の船の位置に基づいて外乱を推定する。
【符号の説明】
【0139】
1…外乱推定装置
2…全球測位衛星システム(GNSS)受信部
3…航行情報受信部
4…推力情報受信部
5…制御部
6…表示部
8…基本情報受信部
51…位置推定部
52…外乱算出部
53…外乱情報出力部
54…第1学習部
56…漂流位置推定部
200…船体
902…情報処理部
904…学習部
906…出力部
908…学習プログラム
910…学習前のパラメータ
912…ハイパーパラメータ
914…学習済みプログラム
916…学習済みパラメータ
918…推定プログラム
1202…プロペラ回転数検出部
1204…舵角検出部
1206…位置推定部
1208…航行情報受信部
1210…外乱算出部
1212…船体情報
1602…風向風速計
1902…潮流計
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10A
図10B
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20