(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023183439
(43)【公開日】2023-12-28
(54)【発明の名称】ベリー付きカリバーロール、圧延材の製造方法、鋼管の製造方法および圧延機
(51)【国際特許分類】
B21B 1/02 20060101AFI20231221BHJP
B21B 19/04 20060101ALI20231221BHJP
B21B 27/02 20060101ALI20231221BHJP
【FI】
B21B1/02 B
B21B19/04
B21B27/02 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022096951
(22)【出願日】2022-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100184859
【弁理士】
【氏名又は名称】磯村 哲朗
(74)【代理人】
【識別番号】100123386
【弁理士】
【氏名又は名称】熊坂 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100196667
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100130834
【弁理士】
【氏名又は名称】森 和弘
(72)【発明者】
【氏名】赤池 淳
(72)【発明者】
【氏名】勝村 龍郎
【テーマコード(参考)】
4E002
4E016
【Fターム(参考)】
4E002AA07
4E002AB02
4E002BA03
4E002BB01
4E002CB03
4E016AA06
4E016DA06
(57)【要約】
【課題】圧延材に疵が形成されることを抑制する技術を提供する。
【解決手段】被圧延材Sに圧延を施すカリバーロールであって、ロール10の外表面上かつ周方向に凹状に延設され、圧延時に被圧延材Sを嵌合させる溝部11を1又は2以上有し、溝部11は、1対の側壁部12と、該1対の側壁部12夫々に隣接する底部13とを、嵌合される被圧延材Sの対向面として有し、少なくとも1つの溝部11における底部13は、1対の側壁部12夫々から離隔するに従い、嵌合された被圧延材側に傾斜した山形構造を有しており、ロール軸方向に対する山形構造の傾斜角度θが以下の式(1)を満たす、ベリー付きカリバーロール。
0度<θ≦30度 ・・・(1)
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被圧延材に圧延を施すカリバーロールであって、
ロールの外表面上かつ周方向に凹状に延設され、前記圧延時に前記被圧延材を嵌合させる溝部を1又は2以上有し、
前記溝部は、1対の側壁部と、該1対の側壁部夫々に隣接する底部とを、嵌合される前記被圧延材の対向面として有し、
少なくとも1つの前記溝部における前記底部は、前記1対の側壁部夫々から離隔するに従い、嵌合された前記被圧延材側に傾斜した山形構造を有しており、
ロール軸方向に対する前記山形構造の傾斜角度θが以下の式(1)を満たす、ベリー付きカリバーロール。
0度<θ≦30度 ・・・(1)
【請求項2】
請求項1に記載のベリー付きカリバーロールを用いた圧延により圧延材を製造する方法であって、
前記圧延では、被圧延材を、800℃以上の加熱温度に加熱した後、1対の前記ベリー付きカリバーロール間に通し、1パス当たりの圧下率を70%以下とする、圧延材の製造方法。
【請求項3】
前記被圧延材として、Crを5.0質量%以上含有するCr鋼を用いる、請求項2に記載の圧延材の製造方法。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の圧延材の製造方法により得られた圧延材を用いて鋼管を製造する、鋼管の製造方法。
【請求項5】
被圧延材に圧延を施す圧延機であって、
対向配置される1対のベリー付きカリバーロールを有し、
前記1対のベリー付きカリバーロール夫々は、
ロールの外表面上かつ周方向に凹状に延設され、前記圧延時に前記被圧延材を嵌合させる溝部を1又は2以上有し、
前記溝部は、1対の側壁部と、該1対の側壁部夫々に隣接する底部とを、嵌合される前記被圧延材の対向面として有し、
少なくとも1つの前記溝部における前記底部は、前記1対の側壁部夫々から離隔するに従い、嵌合された前記被圧延材側に傾斜した山形構造を有しており、
ロール軸方向に対する前記山形構造の傾斜角度θが以下の式(1)を満たす、圧延機。
0度<θ≦30度 ・・・(1)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、継目無鋼管素材、棒鋼素材、線材素材等として用いることが可能な、高耐食性が求められる高Cr鋼やその他の高合金鋼といった難加工鋼材等に圧延を施す技術に関し、特には、得られる圧延材表面に疵が発生することを抑制する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の分塊圧延工程においては、まず、スラブ等の被圧延材を加熱炉で800℃以上1300℃以下に加熱する。本発明で、圧延を施す被圧延材は、鋼塊(インゴット)だけでなく、鍛造によって得られるビレット、ブルーム、スラブなどの鋳片も含む。
【0003】
次に、上下にセットされ所定の隙間がある分塊圧延機の孔型形状のカリバーロールの間を被圧延材が通り抜けて圧延され、その後被圧延材は周方向に90度回転させられる。
被圧延材を圧延方向に対して反対方向に動かし、ロールも逆回転させるリバース圧延を繰り返し行い、所定の断面形状を有するブルーム等の分塊圧延材を得られるまで圧延する。
リバース圧延では、少ないものは5~8パス程度で所望の断面寸法を得ることが可能であるが、小さな断面寸法を得るまで圧延する場合は、上記以上の圧延が必要であり、場合によっては20パス以上のリバース圧延を行う必要がある。
【0004】
圧延が進むにつれ、被圧延材の温度は低下する。炭素鋼等の熱間加工性に優れる鋼材については、一度の加熱で所望の断面寸法を得るまで圧延することが可能である。しかしながら、高Cr鋼やその他の高合金鋼等の熱間加工性が悪い鋼材(以下、難加工鋼材とも記す。)については、得られる分塊圧延材表面に疵が形成され、表面性状を悪化させることがある。このとき、表面、特に角部付近に疵が形成されることで、手入れ時間が増加したり、歩留まりが悪化したりすることになる。
【0005】
そこで、疵の抑制を目的に、難加工材の分塊圧延では熱間加工性を向上させるための成分組成が提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。
また、加工温度領域を高温化させることで、熱間強度を下げ、熱間加工性を向上させる方法が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
また、鋳片から分塊圧延ではなく、特定の鍛造工程を含むようにした熱間加工方法も提案されている(例えば、特許文献4参照)。また、スラブ接触面に異なる2つ以上のテーパーをつけたロールによる圧延方法が提案されている(例えば、特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭61-201727号公報
【特許文献2】特開2005-205454号公報
【特許文献3】特開平1-262048号公報
【特許文献4】特開2002-194431号公報
【特許文献5】特開平5-76913号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1や特許文献2に記載の技術のように、熱間加工性を向上させるためのMn、Ni、B等の成分の添加は、コストを増加させるという問題があるばかりか、圧延後の被加工材の表面品質は十分とは言い難い。
【0008】
また、特許文献3に記載されているような高温領域での加工については、高温領域においてフェライト分率が高い二相ステンレス鋼やフェライト系ステンレス鋼等は、高温にすると熱間強度が著しく低下することで、炉内で垂れが発生したり、炉材が鋼材に食い込むことによる疵が発生したりする。
また、フェライト系ステンレス鋼は、熱間加工性が高いため、圧延疵は発生しにくいが、一方で、二相ステンレス鋼は、熱間加工温度領域でフェライト相とオーステナイト相の強度が異なる相が存在することとなり、一般的に熱間加工性は低く、圧延疵は発生しやすい。そのため、二相ステンレス鋼等の熱間加工性に劣る材質においては、加熱温度を高くすることができず、特許文献3に記載の技術が適用できないという問題がある。
【0009】
また、特許文献4に記載の技術のように、予加工工程として鍛造工程を含むことで、工数が増加し、コストが増加するという問題がある。
また、特許文献5に記載の技術のように、圧延後の被圧延材の形状が非対称になるロール形状であると、周方向に回転させながらリバース圧延させる分塊圧延では、被圧延材が搬送路に対して水平にならないため、ハンドリング性が悪くなるという問題がある。
【0010】
このように、加工温度を調整したり、鍛造工程を含むようにしたりせずとも、得られる圧延材に疵が形成されることを抑制できる技術の改良が希求されていた。
【0011】
本発明は従来技術の問題点を解決するべくなされたものであり、圧延材に疵が形成されることを抑制する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、圧延用のカリバーロールについて、被圧延材と接触するカリバー底(溝部における底部)の形状に着目し、得られる圧延材に疵が形成されることを抑制するカリバーロール形状を知見した。
【0013】
疵は、その疵が発生する部位付近に引張応力が作用することで形成される。圧延ロールによって厚さ方向に圧縮された鋼板等の被圧延材は長さ方向だけでなく、幅方向にも延伸する。
被圧延材が延伸する際、被圧延材の圧延ロールと接触している箇所と、圧延ロールと接触していない被圧延材中心とでは、圧延ロールとの摩擦の程度により延伸する量が異なり、被圧延材の中心側の方が大きく延伸する。
そのため、圧延ロールとの接触面に対して被圧延材は山形に変形し、この山形になる変形をバルジング(以降、バルジ変形)と呼ぶ。バルジ変形は、ロール径、圧下率、被圧延材の厚みや幅、摩擦抵抗等の大きさによって変化する。
【0014】
被圧延材の厚みが小さい時は、厚みの中心にバルジ変形のトップ(変形が最も大きくなる部位)が形成される。
一方、被圧延材の厚みが大きく、圧下率が小さい時は、厚みの中心ではなく、被圧延材の幅方向の両端部にバルジ変形が生じる。このようなバルジング形状をダブルバルジと呼ぶ。
【0015】
このダブルバルジが形成され、圧延の際にバルジングが発生する部位(バルジング部)が、圧延ロールに先に接触して圧延されるため、引張応力が作用し、疵が形成されると考えられる。
特に、バルジング部が被圧延材の角部に近い位置で生じた場合、バルジング部の圧延により変形する部位が自由変形部となり、周囲の拘束が少ないことから多軸引張が生じやすいため、角部に疵が形成される。
【0016】
本発明者らは、このような圧延における問題点に着目し、カリバーロールのカリバー底形状(溝部における底部の形状)を調整することで、被圧延材のバルジング部の材料の流れ(メタルフロー)を制御し、疵が形成されやすい被圧延材の角部に多軸引張を生じさせず、疵を低減させた圧延材を得られることを知見した。
【0017】
本発明はかかる知見に基づいて、さらに検討を加えて完成されたものであり、本発明の要旨はつぎのとおりである。
[1]被圧延材に圧延を施すカリバーロールであって、
ロールの外表面上かつ周方向に凹状に延設され、前記圧延時に前記被圧延材を嵌合させる溝部を1又は2以上有し、
前記溝部は、1対の側壁部と、該1対の側壁部夫々に隣接する底部とを、嵌合される前記被圧延材の対向面として有し、
少なくとも1つの前記溝部における前記底部は、前記1対の側壁部夫々から離隔するに従い、嵌合された前記被圧延材側に傾斜した山形構造を有しており、
ロール軸方向に対する前記山形構造の傾斜角度θが以下の式(1)を満たす、ベリー付きカリバーロール。
0度<θ≦30度 ・・・(1)
[2]前記[1]に記載のベリー付きカリバーロールを用いた圧延により圧延材を製造する方法であって、
前記圧延では、被圧延材を、800℃以上の加熱温度に加熱した後、1対の前記ベリー付きカリバーロール間に通し、1パス当たりの圧下率を70%以下とする、圧延材の製造方法。
[3]前記被圧延材として、Crを5.0質量%以上含有するCr鋼を用いる、前記[2]に記載の圧延材の製造方法。
[4]前記[2]又は[3]に記載の圧延材の製造方法により得られた圧延材を用いて鋼管を製造する、鋼管の製造方法。
[5]被圧延材に圧延を施す圧延機であって、
対向配置される1対のベリー付きカリバーロールを有し、
前記1対のベリー付きカリバーロール夫々は、
ロールの外表面上かつ周方向に凹状に延設され、前記圧延時に前記被圧延材を嵌合させる溝部を1又は2以上有し、
前記溝部は、1対の側壁部と、該1対の側壁部夫々に隣接する底部とを、嵌合される前記被圧延材の対向面として有し、
少なくとも1つの前記溝部における前記底部は、前記1対の側壁部夫々から離隔するに従い、嵌合された前記被圧延材側に傾斜した山形構造を有しており、
ロール軸方向に対する前記山形構造の傾斜角度θが以下の式(1)を満たす、圧延機。
0度<θ≦30度 ・・・(1)
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、圧延材に疵が形成されることを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、被圧延材(スラブ)の断面形状を説明するための図である。
【
図2】
図2は、圧延機(分塊圧延機)の概要を説明するための図である。
【
図3】
図3は、本発明のベリー付きカリバーロールを説明するための図である。
【
図4】
図4は、本発明のベリー付きカリバーロールで規定する傾斜角度θを説明するための図である。
【
図5】
図5は、従来のカリバーロールと本発明のベリー付きカリバーロールの夫々のロール形状で圧延した際のバルジング部の疵形成メカニズムを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0021】
まず、本発明のベリー付きカリバーロールの説明をする前に、本発明のベリー付きカリバーロールで圧延する被圧延材、本発明のベリー付きカリバーロールを有する圧延機(分塊圧延機)について説明する。
【0022】
図1は、本発明で用いるスラブ等の被圧延材Sの断面形状を説明するための図である。
図1に示すように、被圧延材Sは圧延方向垂直断面視で、形状が矩形であり、第1辺と、第1辺に隣接し、第1パスの圧延開始前における長さが第1辺の長さ以上である第2辺を有する。被圧延材Sは、
図2を参照しながら後述するベリー付きカリバーロールを有する圧延機(分塊圧延機)により圧延を施されることで、圧延材(分塊圧延材)に成形される。
【0023】
図2は、本発明のベリー付きカリバーロール10(以下、単にカリバーロール10とも記す。)を有する圧延機(分塊圧延機)1を説明するための図である。
圧延機(分塊圧延機)1は、一対の対向配置されるベリー付きカリバーロール10を有する。
圧延機(分塊圧延機)1は、カリバーロール10の外表面に設けられ、被圧延材Sを支持可能であるフランジにより形成される溝部(孔状部)に被圧延材Sを嵌合させて、被圧延材Sに対して圧延(分塊圧延)を施す。
被圧延材Sは、圧延機(分塊圧延機)1で圧延を施される前に加熱炉で800℃以上の加熱温度に加熱することができ、その後、
図2に示す圧延機(分塊圧延機)1が有する1対のカリバーロール10間を通り抜けることで、圧延方向(図中、矢印R.D.参照)に圧延される。その後、被圧延材Sは、周方向に90度回転させられ、上記の圧延方向に対して逆方向に移動しながら再度圧延される。このように、被圧延材Sがカリバーロール(孔型圧延ロール)10を通り抜けると、その度にロール10を逆回転させながらリバース圧延を繰り返し行い、被圧延材Sが所定の断面形状を有する圧延材(ブルーム)になるまで圧延する。全パスにおける1パス当たりの圧下率は70%以下とすることが好ましい。
ここで、
図1を参照しながら説明した第1辺、第2辺は、周方向に90度回転させても、各パス後において夫々同じ部位を指す。第2辺の第1パスの圧延開始前における長さが上記第1辺の長さ以上であればよく、第1パスより後の長さにおいては、第2辺の長さが第1辺の長さ以下となる場合もある。
【0024】
次に、本発明のベリー付きカリバーロール10の詳細を説明する。
図3は、本発明のベリー付きカリバーロール10を説明するための断面図(ロール10を円柱形状とした場合の底面(円)に対する垂直な断面図、ロール回転軸を含む断面図(
図2中、A-A矢視断面図))である。
図3に示すように、本発明のベリー付きカリバーロール10は、被圧延材Sに圧延(分塊圧延)を施すロールであって、ロール10の外表面上かつ周方向(矢印a参照)に凹状に延設され、圧延時(分塊圧延時)に前記被圧延材を嵌合させる溝部11(11A、11B、11C、11D)を1又は2以上有し、上記溝部11は、1対の側壁部12と、該1対の側壁部12夫々に隣接する底部13とを、嵌合される上記被圧延材Sの対向面として有し、少なくとも1つの上記溝部11における上記底部13は、上記1対の側壁部12夫々から離隔するに従い、嵌合された上記被圧延材S側に傾斜した山形構造を有しており、ロール軸方向に対する上記山形構造の傾斜角度θが以下の式(1)を満たす、ベリー付きカリバーロールである。
0度<θ≦30度 ・・・(1)
【0025】
本発明のベリー付きカリバーロール10におけるロールの形状としては、圧延(分塊圧延)を行うことができれば、特に限定されず、例えば、円柱形状とすることができる。また、ロールの材質についても、特に限定されず、例えば、超硬合金(炭化タングステンとコバルトの合金)、ハイス鋼とすることができる。
【0026】
また、ベリー付きカリバーロールの「ベリー」とは、溝部における底部において、嵌合される被圧延材側に突出形成された部位のことを指し、本発明のベリー付きカリバーロール10の「ベリー」では、底部13における特定の山形構造のことを指す。
【0027】
本発明のベリー付きカリバーロール10は、1又は2以上の溝部(カリバー、孔状部、凹部)11を有しており、1つの溝部のみを有していてもよい。また、ロール幅方向(ロール軸方向、圧延方向の垂直方向、X方向)に2以上の溝部11を有していてもよく、これらの溝部夫々は、形状や大きさは異なっていてよいが、圧延時に向かい合う1対の溝部11は同じ形状であり、同じ大きさであることが好ましい。
図3に示す例では、カリバーロール10は、4つの溝部11A、11B、11C、11Dを有しており、前述したリバース圧延において、溝部11Aにおいて1パス目の圧延を行い、溝部11Bにおいて3、5パス目の圧延を行い、溝部11Cにおいて7、9パス目の圧延を行い、溝部11Dにおいて2、4、6、8パス目の圧延を行うが、本発明はこのような例に限定されず、得られるべき圧延材(分塊圧延材)の形状等に対して設定される圧延条件に適切なカリバーロールを採用すればよい。具体的には、各パスで設定すべき被圧延材Sの第1辺と第2辺の長さ比に応じて、被圧延材Sを嵌合させる溝部を適宜選択したり、設計したりすることができる。
【0028】
本発明のベリー付カリバーロール10は、溝部11の形状に特徴を有している。溝部11は、1対の側壁部12と、該1対の側壁部12夫々に隣接する底部13とを、嵌合される被圧延材Sの対向面として有する。そして、ベリー付カリバーロール10において、少なくとも1つの溝部11における底部13が、1対の側壁部12夫々から離隔するに従い、嵌合された上記被圧延材S側に傾斜した山形構造を有しており、ロール軸方向(X方向)に対する上記山形構造の傾斜角度θが、後述する式(1)を満たす。
図3に示すように、ロール10中、式(1)を満たす溝部11では、1対の側壁部12夫々に隣接する底部13の両端の2ヶ所の部位において、上記の傾斜角度θとなる傾斜部が形成される。
底部の両端に形成される傾斜角度θは、夫々異なっていてもよいし、同じでもよいが、圧延時のハンドリング性の点から、両端の傾斜角度θの差は、5度以下の範囲内であることが好ましい。また、底部の両端に形成される傾斜角度θは、夫々同じであることがより好ましい。すなわち、
図3中の断面視で、上記の山形構造において、軸方向(X軸方向)中心位置から底部13と側壁部12両側の境界位置までの距離が同一であって、上記軸方向中心位置が被圧延材側(Z軸方向側)に最も突出していることが好ましい。
また、1対のカリバーロール10において、圧延時に向かい合う1対の溝部11に形成される四隅に位置する傾斜部の傾斜角度θは、夫々異なっていてもよいし、同じでもよいが、圧延時のハンドリング性の点から、四隅の傾斜角度θの差は、5度以下の範囲内であることが好ましい。また、四隅の傾斜角度θは、夫々同じであることがより好ましい。
なお、本発明のベリー付きカリバーロール10では、1又は2以上の溝部11のうち、少なくとも1つの溝部11が式(1)を満たす山形構造を有していればよく、山形構造を有さない(底部が平らである(θ=0度))溝部を有していてもよい。
特に、疵は圧下量が多い奇数パス時に形成されやすいため、奇数パスにおいて山形構造を有する溝部で圧延を行うことが好ましい。
【0029】
0度<θ≦30度 ・・・(1)
次に、式(1)の規定理由について説明する。
図4は、本発明のベリー付きカリバーロール10で規定する傾斜角度θを説明するための図である。具体的には、ベリー付きカリバーロール10の部分断面図(ロール10を円柱形状とした場合の底面(円)に対する垂直な部分断面図(
図2中、A-A矢視断面図))である。
図4に示すように、本発明では、ベリー付きカリバーロール10が有する底部の山形構造に関し、ロール軸方向(X軸方向)に対する山形構造の傾斜角度θ(θ
1、θ
2、θ
3、θ
4)が上記の式(1)を満たす。
以下では、圧延時に向かい合う1対の溝部11に形成される四隅に位置する傾斜部の傾斜角度θ(θ
1、θ
2、θ
3、θ
4)は、全て同じ角度であるとするが、式(1)を満たす範囲内であれば、異なっていてもよい。なお、
図4中、符号Hはベリー高さを示し、符号hはカリバー深さを示し、X1はフランジ高さを示す。
【0030】
ここで、まず、本発明のベリー付きカリバーロール10により、圧延材(分塊圧延材)の角部の疵が抑制されていることを調べた評価方法及び結果を説明する。
以下の表1は、評価した圧延条件を示す。本発明例のベリー付きカリバーロール(ベリーロール)10として、1、3、5、7パス用の溝部、9、11、13パス用の溝部、また、山形構造を有さない偶数パス用の溝部の計3つの溝部を有するロールを用いた。1、3、5、7パス用の溝部ではθ=7度とし、1、3、5、7パス用の溝部とは形状、サイズが異なる9、11、13パス用の溝部においてもθ=7度とした。偶数パス用の溝部では、θ=0度である。なお、各溝部内における4つのθは全て同じとした。
また、本発明の範囲外となる比較例として、全ての溝部においてベリーを有さず、すなわち、全ての溝部における底部(カリバー底)がフラットである従来技術のカリバーロールを用いた。すなわち、従来技術のカリバーロールは、全ての溝部において、本発明で特定するθが0度である。
被圧延材としては、SUS329J1を用いた。本発明例と比較例のいずれも表1に示す条件で圧延を行った。
【0031】
【0032】
表1に示す被圧延材長短比は、上記矩形における第1辺と、該第1辺に隣接し、第1パスの圧延開始前における長さが上記第1辺の長さ以上である第2辺とに関し、各パスの圧延後における、上記第2辺の長さ(mm)/上記第1辺の長さ(mm)である(
図1再参照)。
【0033】
加熱炉で1100℃まで加熱した被圧延材を表1に示す圧延条件で圧延した。圧延が終わった後の分塊圧延材に対して、フェルスター社製の漏洩磁束探傷機を用いて、漏洩磁束探傷試験法(Magnetic Leakage Flux Testing method、以下、MLFTとも記す。)により、表面の疵の深さを非破壊検査し、3.0mm以上の疵深さを圧延方向に測定し、個数をカウントし、評価項目とした。より具体的には、得られた分塊圧延材を回転させながら、MLFTにより圧延方向全長のピーク強度を取得し、ピークレベルが3.0mm以上となる疵の個数を調べ、該個数を上記の圧延方向全長で除した値を疵個数(個/m)として算出した。
それぞれのMLFTによる評価結果は、従来のカリバーロールでは114.2個/mであり、本発明のベリー付きカリバーロールでは44.8個/mであった。これより、表1に示す条件に対し、ベリー付きカリバーロールにより圧延をすることで、疵の形成が抑制されることが認められた。MLFTによる疵個数が多いほど、分塊圧延材表面の疵を除去するためのグラインダー等による手入れをする時間が増加し、歩留まりも悪くなる。
【0034】
以上のように、ベリー付きカリバーロール10を用いて圧延することで疵の発生を低減することができた。
【0035】
次に、ベリー付きカリバーロールにおいて、圧延時に被圧延材の疵が形成される部位(バルジング部)に対して、引張応力ではなく主に圧縮応力が作用した原因について説明する。
図5は、従来のカリバーロールとベリーロールのバルジング部の疵形成メカニズムの概略図を表す。
図5(a)に示すように、従来のカリバーロール100では、圧延初期時、溝部110の底部130において、バルジング部から接触することで接触点から左右にメタルフローが発生して、引張応力が作用し、疵が形成されている。一方で、
図5(b)に示すように、ベリー付きカリバーロール10では、溝部11の底部13において、側壁部12(
図5中は図示せず)から離隔するに従い、嵌合された被圧延材Sの側に傾斜した山形構造を有している。すなわち、ベリー付きカリバーロール10では、ロール中心(軸方向(X軸方向)における中心)から側壁部(フランジ部)12に向けて傾斜がかかっている。そのため、バルジング部のメタルフローが片側に制御されることで、引張応力が抑制されている。すなわち、ベリー付きカリバーロール10では、圧延時に被圧延材に対して、引張応力が抑制され、主に圧縮応力が作用することになる。
以上より、本発明のベリー付きカリバーロール10は、バルジング部のメタルフローを制御することで疵を低減させることができる。
【0036】
上記知見に基づいて鋭意検討した結果、本発明では式(1)として、「0度<θ≦30度」を規定する。この範囲規定理由について次に説明する。
まず、式(1)において、θ=0度のときは、
図5(a)を参照しながら説明した従来技術のカリバーロールと同義であり、前述のように疵の発生の抑制が十分でなかったため、除外する。
また、θ<0度のとき、すなわち、底部が、1対の側壁部夫々から離隔するに従い、嵌合された被圧延材から離れる方向に傾斜した山形構造を有することになる。このようなロール中心に向かって凹形状の傾斜では、バルジング部のメタルフローを片側に寄せるという点では同様の効果を得ることが可能であるが、圧延された被圧延材の形状が辺の中心に向かって突出した山形形状となる。そのため、このような凸型の山形形状であることから、被圧延材の搬送中等において、精度良くハンドリングすることができず、意図せず被圧延材が横転し、設備に損傷を加える可能性もある。以上より、本発明では、θ>0度とする。好ましくは、θ>1度であり、より好ましくは、θ≧2度である。
また、圧延によって形成されたバルジング部よりも傾斜角度が小さい場合、メタルフローを片側に制御する力が弱くなるため、好ましくは、θ≦予め想定されるバルジング部の頂点からバルジングが形成されていない平面部までの傾斜角である。
【0037】
次に、θ≦30度について説明する。傾斜角度θが大きくなるに伴い、底部13の山形構造の傾斜が急になり、鋭角なベリーとなる。鋭角なベリーで圧延した場合、被圧延材の中心が大きく凹み、その凹みを形成させる過程で材料中心に向かって引張応力が作用し、疵の形成に繋がる。そして、θが30度超となると、所望の疵抑制の効果が得られなくなる。よって、本発明ではθ≦30度とする。好ましくはθ≦15度であり、より好ましくはθ<10度である。
【0038】
θの測定位置については、底部13のロール軸方向(X方向)の両端部であって、隣接する側壁部12との境界位置とする。
【0039】
上記の本発明の圧延材(分塊圧延材)の製造方法で用いる被圧延材Sとしては、Crを5.0質量%以上含有するCr鋼やステンレス鋼等の難加工鋼材(難加工高合金鋼)が挙げられる。ここで難加工鋼材とは圧延温度領域時に金属組織が二相以上の状態となる鋼材のことを指し、具体的には、17質量%Cr、22質量%Cr、25質量%Crなどの高Cr量を有するステンレス鋼が挙げられる。難加工鋼材は、単相の鋼材に比べ、相の強度差を有することから加工が難しいものの、本発明の圧延材(分塊圧延材)の製造方法では、被圧延材Sがこれらの難加工鋼材であっても、疵の発生を抑制することができる。
【0040】
被圧延材Sは以下のプロセスで作製される。まず、高炉で鉄鉱石を溶かしながら、コークスを同時に溶かすことで銑鉄を作製する。その後、脱珪処理、脱硫処理など溶銑予備処理を行い、転炉で炭素を除去し、溶鋼を作製する。溶鋼に必要な合金元素など成分を微調整する二次精錬を行った後に、連続鋳造により、被圧延材Sを得る。連続鋳造のほか、造塊により被圧延材Sを製造してもよい。
本発明では、被圧延材として鋼塊(インゴット)だけでなく、鍛造によって得られるビレット、ブルーム、スラブなどの鋳片を用いることができる。
【0041】
被圧延材Sは、800℃以上の加熱温度に加熱した後、1対のベリー付きカリバーロール(孔型圧延ロール)10間に通すことが好ましい。また、全パスにおいて、1パス当たりの圧下率を70%以下とすることが好ましい。
【0042】
加熱温度が800℃未満では、被圧延材Sの変形抵抗が高くなり、ロールの耐荷重を超える場合がある。よって、上記加熱温度は、800℃以上とすることが好ましい。また、より好ましくは、1000℃以上であり、さらに好ましくは、1200℃以上である。一方、加熱温度の上限値は特に限定されないが、1300℃超えでは、22質量%Cr等の高Cr鋼はフェライトの分率が高いため、被圧延材の変形抵抗が低く、炉内で材料が垂れる場合がある。よって、上記加熱温度は、1300℃以下とすることが好ましい。また、より好ましくは、1290℃以下であり、さらに好ましくは、1250℃以下である。
【0043】
また、1パス当たりの圧下率が70%超えでは、一様な変形挙動がされず、材料の対角線上にズレるように割れ、せん断割れのような現象となる場合がある。よって、上記圧下率は、70%以下とすることが好ましい。また、より好ましくは、50%以下であり、さらに好ましくは、35%以下である。また、圧下率が低過ぎると所定の寸法にするために時間がかかりすぎ、被圧延材の温度が下がるため、より好ましくは、5%以上であり、さらに好ましくは、10%以上である。
【0044】
なお、上記の圧下率(%)は、各パスにおいて、
((圧延前の第1辺の長さ(mm)-圧延後の第1辺の長さ(mm))/圧延前の第1辺の長さ(mm))×100、及び
((圧延前の第2辺の長さ(mm)-圧延後の第2辺の長さ(mm))/圧延前の前記第2辺の長さ(mm))×100のうち、より大きな値である。
上記第1辺の長さ、第2辺の長さは、被圧延材の圧延方向垂直断面視における矩形の辺の長さである(
図1再参照)。
【0045】
また、本発明では、前述した圧延材の製造方法により得られた圧延材を用いて鋼管を製造することができる。
【0046】
鋼管の製造条件としては、好ましくは、圧延材(分塊圧延材)として丸鋼片を材料とし、加熱炉で1100~1300℃に加熱し、マンネスマン穿孔機で中空素管にする。中空素管は、マンドレルミルで圧延し、外径と厚さを減少させ長尺素管にする。次に、これを再加熱炉において700~1000℃で1時間保持し、再加熱してからストレッチレデューサーで仕上がり寸法とし、冷却、矯正、切断を経て鋼管とする。
【実施例0047】
本発明における疵抑制技術を調査するために、本発明条件と比較条件を用意し、圧延後のMLFT結果を調査した。
【0048】
被圧延材としてはSUS329J1を用いた。被圧延材の初期断面寸法は第1辺:275mm×第2辺:710mmであった。加熱炉で被圧延材を1100℃まで加熱したものを圧延した。その他条件は表1に示す。カリバーロールの各傾斜角度θとMLFTによる3.0mm以上の疵個数の結果を表2に示す。
疵の測定については、より具体的には、得られた分塊圧延材を回転させながら、MLFTにより圧延方向全長のピーク強度を取得し、ピークレベルが3.0mm以上となる疵の個数を調べ、該個数を上記の圧延方向全長で除した値を疵個数(個/m)として算出した。
各水準において、1、3、5、7パス用の溝部、9、11、13パス用の溝部、また、山形構造を有さない偶数パス用の溝部の計3つの溝部を有するロールを用いた。
1、3、5、7パス用の溝部のθ、9、11、13パス用の溝部のθは全て表2に示す角度で同一とした。また、偶数パス用の溝部では、θ=0度である。なお、各溝部内における4つのθは全て同じとした。
【0049】
本発明では、分塊圧延材の表面において、疵深さが3.0mm以上である疵が、圧延方向に100個/m以下である場合、疵の形成が抑制されていると判断した。
【0050】
【0051】
水準1~5は式(1)を満たす条件で圧延した例である。
具体的には、水準1はθ=7度であり、疵個数は44.8個/mであった。
水準2はθ=15度であり、疵個数は87.4個/mであった。
水準3のθ=30度は、疵個数は95.5個/mであった。
特に、水準1では、バルジング部の疵の抑制をしつつ、材料中心(ベリー付きカリバーロールの山形構造の頂点部、
図4中のZ軸)の疵の低減も実現でき、疵個数を非常に少なくすることができた。
【0052】
水準4はθ=3度であり、本圧延条件における事前に解析により測定したバルジング部の高さに合わせた傾斜角度であり、疵個数は39.8個/mであった。
水準5はθ=1度であり、疵個数は98.0個/mであった。
特に、水準4では、メタルフローを片側に制御する働きが強く、角部の疵の発生を精度良く抑制できたため、疵個数を非常に少なくすることができた。
【0053】
水準6~8は式(1)を満たさない条件で圧延した例である。
具体的には、水準6はθ=0度であり、従来カリバーロールと同義である。疵個数は114.2個/mであった。水準7はθ=45度であり、材料中心側の疵が増大し、バルジング部付近まで大きく中心に向かって変形したため、疵個数は235.1個/mであった。水準8はθ=―10度であり、ロール中心に向かって凹形状のベリーである。途中のパスで被圧延材が倒れてしまい、最後まで圧延することができなかった。
【0054】
表2より、本発明の条件で圧延することにより、疵が形成されることを抑制できることが明らかになった。