(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023183448
(43)【公開日】2023-12-28
(54)【発明の名称】ブリ属養殖魚及びブリ属養殖魚の育成方法
(51)【国際特許分類】
A01K 61/10 20170101AFI20231221BHJP
A23K 50/80 20160101ALI20231221BHJP
A23K 10/22 20160101ALI20231221BHJP
【FI】
A01K61/10
A23K50/80
A23K10/22
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022096967
(22)【出願日】2022-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】000003274
【氏名又は名称】マルハニチロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤田 耕太郎
(72)【発明者】
【氏名】佐野 広明
(72)【発明者】
【氏名】田淵 玄洋
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 義宣
【テーマコード(参考)】
2B005
2B104
2B150
【Fターム(参考)】
2B005GA01
2B005LA02
2B104AA01
2B150AA08
2B150AB05
2B150CA22
2B150CD30
2B150CE01
2B150CJ08
2B150DE01
2B150DH35
(57)【要約】
【課題】エトキシキン及びエトキシキンダイマーの含有量の低いブリ属養殖魚を提供する。
【解決手段】ブリ属養殖魚の育成において、エトキシキン及びエトキシキンダイマーの合計含有量が20ppm以下の餌を、週3回以上の頻度で、出荷前に70日間以上給餌する工程を加え、下記式(I)で示される指標Aの値が1.0×10-5以下である、ブリ属養殖魚を得る。
A=B/C ・・・(I)
(式中Bは、可食部の筋肉組織に含まれるエトキシキン及びエトキシキンダイマーの合計含有量(ppm)であり、Cは、可食部の筋肉組織に含まれる脂質量(ppm)を示す)。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)で示される指標Aの値が1.0×10-5以下である、ブリ属養殖魚:
A=B/C ・・・(I)
(式中Bは、可食部の筋肉組織に含まれるエトキシキン及びエトキシキンダイマーの合計含有量(ppm)であり、Cは、可食部の筋肉組織に含まれる脂質量(ppm)を示す)。
【請求項2】
可食部の筋肉組織に含まれるエトキシキン及びエトキシキンダイマーの合計含有量が2ppm以下である、請求項1に記載のブリ属養殖魚。
【請求項3】
可食部の筋肉組織に含まれるエトキシキン及びエトキシキンダイマーの合計含有量が1ppm以下である、請求項2に記載のブリ属養殖魚。
【請求項4】
肥満度が17以上である、請求項1に記載のブリ属養殖魚。
【請求項5】
前記筋肉組織のうち、普通肉のイミダゾール系化合物の含有量が820mg/100g以上であり、
前記イミダゾール系化合物中のイミダゾールジペプチドの含有率が1.0重量%以上であり、
可食部の筋肉組織のうち、血合肉のタウリンの含有量が250mg/100g以上である、
請求項1に記載のブリ属養殖魚。
【請求項6】
普通肉のヒスチジンの含有量が800mg/100g以上である、請求項5に記載のブリ属養殖魚。
【請求項7】
前記イミダゾールジペプチドにアンセリンが含まれる、請求項5に記載のブリ属養殖魚。
【請求項8】
可食部の筋肉組織のHH比(Hypocholesterolaemic and Hypercholesterolaemic fatty acid ratio)が2.5以上であり、かつ
可食部の脂質における一価不飽和脂肪酸及びその誘導体の含有量が、脂肪酸組成比で34.0%以上である、請求項5に記載のブリ属養殖魚。
【請求項9】
前記可食部の筋肉組織の脂質における炭素数20以上の一価不飽和脂肪酸及びその誘導体の合計含有量が、脂肪酸組成比で2.4%以上である、請求項8に記載のブリ属養殖魚。
【請求項10】
エトキシキン及びエトキシキンダイマーの合計含有量が20ppm以下の餌を、週3回以上の頻度で、出荷前に70日間以上給餌することを含む、ブリ属養殖魚の育成方法。
【請求項11】
前記餌のエトキシキン及びエトキシキンダイマーの合計含有量が10ppm以下である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記餌を出荷前に150日間以上給餌することを含む、請求項10又は11に記載の方法。
【請求項13】
前記餌が配合飼料である、請求項10又は11に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エトキシキン及びエトキシキンダイマーの含有量の低いブリ属養殖魚、及び当該ブリ属養殖魚を得るための育成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エトキシキンは、その抗酸化作用から、主に飼料の油脂や脂溶性ビタミン等の有効成分の酸化防止を目的として使用される、わが国では飼料添加物として指定された化合物である。
【0003】
エトキシキンを含有する食品の安全性(あるいは毒性)について、エトキシキンを高濃度で摂取することで遺伝毒性が生じることが示唆されており(非特許文献1)、国によっては、水産食品、特に魚のエトキシキン含有量が厳しく規制されている。養殖魚のエトキシキン含有量を低減するため、例えば、エトキシキンを含有する魚粉を使用して製造された配合飼料を使用せず、エトキシキンを含まない餌、例えば冷凍魚(「生餌」とも称される)を出荷前に90日間以上の期間で給餌する手法がとられている。しかしながら、生餌は、製造・輸送等にコストがかかる、養殖に必要な量の餌の確保が困難である、という問題があった。
【0004】
ブリ属の飼料としては、乾燥魚粉を主原料とする配合飼料が主に使用される。乾燥魚粉は、多くは南米等で生産されて、長期間の海上輸送を経て我が国に輸入されるが、海上輸送時の自然発火防止手段を講じることが求められる。この自然発火防止手段として、抗酸化力、コスト面から、エトキシキンが使用されている。そのため、輸入魚粉を使用する限り、完全にエトキシキンを含まない乾燥魚粉を餌とすることは困難である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】食品添加物・農薬評価書 エトキシキン 2013年11月 食品安全委員会
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、エトキシキン及びエトキシキンダイマーの含有量(以下、「エトキシキン等含有量」とも称する)の低いブリ属養殖魚を提供することを目的とする。また、本発明は、エトキシキン等含有量の低いブリ属養殖魚の育成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討の結果、飼料のエトキシキン等含有量を一定以下とし、かつ、該飼料の給餌期間を出荷前の一定期間以上とすることで、所望のエトキシキン等含有量のブリ属養殖魚を取得できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下を提供するものである。
(1)下記式(I)で示される指標Aの値が1.0×10-5以下である、ブリ属養殖魚:
A=B/C ・・・(I)
(式中Bは、可食部の筋肉組織に含まれるエトキシキン及びエトキシキンダイマーの合計含有量(ppm)であり、Cは、可食部の筋肉組織に含まれる脂質量(ppm)を示す)。
(2)可食部の筋肉組織に含まれるエトキシキン及びエトキシキンダイマーの合計含有量が2ppm以下である、(1)に記載のブリ属養殖魚。
(3)可食部の筋肉組織に含まれるエトキシキン及びエトキシキンダイマーの合計含有量が1ppm以下である、(2)に記載のブリ属養殖魚。
(4)肥満度が17以上である、(1)に記載のブリ属養殖魚。
(5)前記筋肉組織のうち、普通肉のイミダゾール系化合物の含有量が820mg/100g以上であり、前記イミダゾール系化合物中のイミダゾールジペプチドの含有率が1.0重量%以上であり、可食部の筋肉組織のうち、血合肉のタウリンの含有量が250mg/100g以上である、(1)に記載のブリ属養殖魚。
(6)普通肉のヒスチジンの含有量が800mg/100g以上である、(5)に記載のブリ属養殖魚。
(7)前記イミダゾールジペプチドにアンセリンが含まれる、(5)に記載のブリ属養殖魚。
(8)可食部の筋肉組織のHH比(Hypocholesterolaemic and Hypercholesterolaemic fatty acid ratio)が2.5以上であり、かつ、可食部の脂質における一価不飽和脂肪酸及びその誘導体の含有量が、脂肪酸組成比で34.0%以上である、(5)に記載のブリ属養殖魚。
(9)前記可食部の筋肉組織の脂質における炭素数20以上の一価不飽和脂肪酸及びその誘導体の合計含有量が、脂肪酸組成比で2.4%以上である、(8)に記載のブリ属養殖魚。
(10)エトキシキン及びエトキシキンダイマーの合計含有量が20ppm以下の餌を、週3回以上の頻度で、出荷前に70日間以上給餌することを含む、ブリ属幼少魚の育成方法。
(11)前記餌のエトキシキン及びエトキシキンダイマーの合計含有量が10ppm以下である、(10)に記載の方法。
(12)前記餌を出荷前に150日間以上給餌することを含む、(10)又は(11)に記載の方法。
(13)前記餌が配合飼料である、(10)又は(11)に記載の方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、エトキシキン及びエトキシキンダイマーの含有量の低いブリ属養殖魚を提供することが可能である。また、本発明は、エトキシキン及びエトキシキンダイマーの含有量の低いブリ属養殖魚の育成方法を提供することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<ブリ属養殖魚>
本発明のブリ属養殖魚は、下記式(I)で示される指標Aの値が1.0×10-5以下である、ことを特徴とする。
A=B/C ・・・(I)
(式中Bは、可食部の筋肉組織に含まれるエトキシキン及びエトキシキンダイマーの合計含有量(ppm)であり、Cは、可食部の筋肉組織に含まれる脂質量(ppm)を示す)。
【0011】
本明細書において、「ブリ属」とは、スズキ目アジ科に分類される魚であり、学名Seriolaとして知られる魚である。ブリ属の魚としては、ブリ(Seriola quinqueradiata)、カンパチ(Seriola dumerili)、ヒラマサ(Seriola lalandi)、ヒレナガカンパチ(Seriola rivoliana)、Seriola carpenteri、Seriola fasciata、Seriola hippos、Seriola peruana、Seriola quinqueradiata、Seriola zonataなどが挙げられる。特にブリ又はカンパチが挙げられる。特に、ブリが挙げられる。
【0012】
本明細書において、「養殖魚」とは、期間の長短に関わらず、出荷前に生簀等の飼育管理条件下で給餌、育成された魚を指す。本明細書において、「養殖魚」は天然種苗も人工孵化も含む。これに対して、「天然魚」は、海上で捕獲された後、出荷まで、飼育管理条件下での給餌、育成が行われていない魚を指す。ここでいう「飼育管理条件下」とは、人工的に各種条件を管理した環境下であることを示す。具体的な条件については、「ブリ属養殖魚の育成方法」の項に記載する。
【0013】
本明細書において「可食部」とは、通常、ヒトが摂食する部分全てを指し、主に、筋肉組織であり、そのほか眼球周り、内臓などが挙げられる。ブリ属の可食部の多くは筋肉組織が占めており、筋肉組織は、通常の筋肉組織(本明細書では「普通肉」とも称する)と血合肉に分けられる。本明細書において「血合肉」とは、魚の背と腹の間に存在する赤色線維筋と呼ばれる、周囲の筋肉組織と比較して暗赤色を呈する部分を指す。筋肉組織は、通常、約75~85重量%が普通肉、約15~25重量%が血合肉で構成される。
【0014】
本明細書において「エトキシキン」とは、下記式(II)で示される化合物を指す。
【化1】
本明細書において「エトキシキンダイマー」とは、下記式(III)で示される化合物を指す。魚類に取り込まれたエトキシキンの多くは、体内でエトキシキンダイマーへ変換されることが知られている。
【化2】
【0015】
ブリ属養殖魚の筋肉組織のエトキシキン及びエトキシキンダイマーの含有量は、例えば、下記の方法で測定することができる。可食部10gに100μg/mL BHT含有メタノール溶液100mLを加え、ホモジナイズした後に吸引ろ過により不溶物を除去し、100μg/mL BHT含有メタノール溶液で200mLに定容する。その内の2mLをC18逆相クロマトグラフィーに吸着させ、水:アセトニトリル(3:2)混液10mLで洗浄後、50μg/mL BHT含有アセトニトリル溶液溶出画分を分取し、溶出液で10mLに定容し、液体クロマトグラフィータンデム質量分析装置にて測定する。
【0016】
本明細書において、可食部の筋肉組織に含まれる脂質量は、特に限定されないが、例えば、下記の方法で測定することができる。円筒ろ紙に可食部1g~5gを量り取り、硫酸ナトリウムを加えて混合した後、脱脂綿を上層に載せ、105℃に温めた恒温機内で一晩静置し、水分を除く。デシケーター内で常温になるまで静置した後、ソックスレー抽出器にてジエチルエーテル100mLを還流させて脂肪を抽出する。抽出された脂肪からジエチルエーテルを完全の蒸発させるために再度105℃に温めた恒温機内で1時間~2時間静置した後、デシケーター内で室温になるまで放冷し、抽出脂肪の重量を計測する。
【0017】
本発明のブリ属養殖魚は、上記式(I)で示される指標Aの値、すなわち、可食部の筋肉組織に含まれるエトキシキン及びエトキシキンダイマーの合計含有量(ppm)を、可食部の筋肉組織に含まれる脂質量(ppm)の値で除した値が、1.0×10-5以下、好ましくは5.0×10-6以下である。本発明のブリ属養殖魚は、さらに、可食部の筋肉組織に含まれるエトキシキン及びエトキシキンダイマーの合計含有量が2ppm以下、特に1ppm以下であることが好ましい。
【0018】
エトキシキン等は脂溶性であり、可食部においては脂質中に多く存在する。そのため、ブリ属の脂乗りがよくなる時期においては、エトキシキン含有量の低い餌を与えたとしても、エトキシキン等含有量が下がりにくい傾向にある。本発明者らは、育成時期に関わらず育成条件を最適化するための指標として、上記指標Aが有用であることを見出した。
【0019】
本発明のブリ属養殖魚は、肥満度が17以上、特に18以上、さらに19以上であることが好ましい。本明細書において「肥満度」とは、体重(g)/尾叉長(cm)3×1000で算出される値を指す。ここでいう「尾叉長」とは、上顎の先端から尾ビレが二叉する中央部の凹みの外縁までの長さを指す。
【0020】
本明細書において「イミダゾール系化合物」とは、イミダゾリン基を有する化合物全般を指すが、特にヒスチジン系アミノ酸全般を指す。ヒスチジン系アミノ酸としては、ヒスチジン、π-メチルヒスチジン、τ-メチルヒスチジン、及びイミダゾールジペプチド、並びにこれらの塩が挙げられる。本明細書において「イミダゾールジペプチド」とは、ヒスチジンとβ-アラニンとのジペプチドを指し、具体的にはカルノシン及びアンセリンを指す。また、「イミダゾールジペプチドの含有量」は具体的にはカルノシンとアンセリンの合計含有量を指す。
【0021】
イミダゾール系化合物の中でも、特にイミダゾールジペプチドは、緩衝作用、抗酸化力等を有し、脊椎動物、特に回遊性魚類の筋肉組織に多く含まれることが知られる(日本水産学会「水産学シリーズ[72]魚介類のエキス成分」恒星者厚生閣(1988))。イミダゾールジペプチドは、ヒトが機能性食品として摂取すると、抗疲労効果、運動機能向上効果等が得られることが報告されている(西谷真人他、日本補完代替医療学会誌、第6巻第3号123-129頁(2009))。
【0022】
本発明のブリ属養殖魚は、可食部の筋肉組織のうち、普通肉のイミダゾール系化合物の含有量が820mg/100g以上、特に、1000~1500mg/100gであり、かつ、イミダゾール系化合物中のイミダゾールジペプチドの含有率が1.0重量%以上、特に3.0~8.0重量%であることが好ましい。本発明のブリ属養殖魚は、普通肉にイミダゾールジペプチドとしてアンセリンが含まれることが好ましい。特に、普通肉におけるイミダゾールジペプチドに占めるアンセリンの量が、95重量%以上であることが好ましい。
【0023】
本明細書において、イミダゾール系化合物(イミダゾールジペプチドを含む)の含有量は、以下の手順で測定した量を指す。適切な量の試料を秤量し、0.02M塩酸を添加して破砕した後、9倍容量となるよう0.02M塩酸を添加する。試料を十分に攪拌した後、遠心分離により上清液を分離する。上清液に対して等容量の3%スルホサリチル酸水溶液を加え、再度遠心分離を行い、上清部を回収して除タンパク処理を行う。さらにn-ヘキサンを加えて攪拌後、遠心分離を行い、下層部を回収して脱脂処理を行う。この溶液又は必要に応じて10倍希釈した溶液をメンブレンろ過したろ液を、アミノ酸分析計(例えば、日立製作所製LA8080)に供して、イミダゾール系化合物の種類及び含有量を測定する。
【0024】
本発明のブリ属養殖魚において、普通肉に含まれるイミダゾール系化合物のうち、ヒスチジンの含有量が800mg/100g以上、特に900~1300mg/100gであり、かつイミダゾール系化合物中のイミダゾールジペプチドの含有率が1.0重量%以上であることが好ましい。ヒスチジンは必須アミノ酸の1つであり、生体内のタンパク質合成に必要な重要な成分である。ヒスチジンはアレルギー反応に関与するヒスタミンに変換されることから、過剰量の摂取は望ましくないが、一方で、血管拡張作用による血圧低下や虚血性脳障害の予防、透析による貧血の治療効果や、食欲抑制による脂肪燃焼促進作用が知られている。また、ヒスチジンは、神経機能への関与や、赤血球の形成に必要であることから貧血への効果、紫外線による皮膚への刺激軽減作用や抗酸化作用を有することが知られており、適量で摂取する限りでは有用な成分である。
【0025】
本明細書において、ヒスチジンの含有量は、以下の手順で測定した量を指す。適切な量の試料を秤量し、0.02M塩酸を添加して破砕した後、9倍容量となるよう0.02M塩酸を添加する。試料を十分に攪拌した後、遠心分離により上清液を分離する。上清液に対して等容量の3%スルホサリチル酸水溶液を加え、再度遠心分離を行い、上清部を回収して除タンパク処理を行う。さらにn-ヘキサンを加えて攪拌後、遠心分離を行い、下層部を回収して脱脂処理を行う。この溶液又は必要に応じて10倍希釈した溶液をメンブレンろ過したろ液を、アミノ酸分析計(例えば、日立製作所製LA8080)に供して、ヒスチジンの含有量を測定する。
【0026】
本明細書において「タウリン」とは、2-アミノエタンスルホン酸、アミノエチルスルホン酸とも称される化合物を指す。本発明のブリ属養殖魚は、可食部の筋肉組織のうち、血合肉のタウリンの含有量が250mg/100g以上、特に、350~1200mg/100gであることが好ましい。
【0027】
タウリンは、2-アミノエタンスルホン酸、アミノエチルスルホン酸とも称される化合物であって、イカ、タコ、貝類、甲殻類及び魚類に多く含まれる成分である。生体内での浸透圧の調整や、生体膜の機能障害や形態異常が生じた際に回復・安定化させる作用を有することが知られる(日本水産学会「水産学シリーズ[72]魚介類のエキス成分」恒星者厚生閣(1988))。高い抗酸化作用を有し、ヒトが機能性食品として摂取すると、血中コレステロール・中性脂肪の低下、肝臓等の機能向上、視力低下抑制、インスリン分泌促進、高血圧予防などの効果が得られることが知られる(一般社団法人大日本水産会発行「お魚便利帳」(2019))。
【0028】
本明細書においてタウリンの含有量は、以下の手順で測定した量を指す。適切な量の試料を秤量し、0.02M塩酸を添加して破砕した後、9倍容量となるよう0.02M塩酸を添加する。試料を十分に攪拌した後、遠心分離により上清液を分離する。上清液に対して等容量の3%スルホサリチル酸水溶液を加え、再度遠心分離を行い、上清部を回収して除タンパク処理を行う。さらにn-ヘキサンを加えて攪拌後、遠心分離を行い、下層部を回収して脱脂処理を行う。この溶液又は必要に応じて10倍希釈した溶液をメンブレンろ過したろ液を、アミノ酸分析計(例えば、日立製作所製LA8080)に供して、ヒスチジンの含有量を測定する。
【0029】
本明細書において、脂肪酸は、「C18:1(n-9)」のように表記する。C18:1(n-9)は、炭素数18で、不飽和結合を1つ有し、かつ、炭素鎖のメチル末端から数えて9番目の炭素-炭素結合に二重結合が存在する脂肪酸を示す。すなわち、C18:1(n-9)はオレイン酸である。
【0030】
本明細書において「HH比」(Hypocholesterolaemic and Hypercholesterolaemic fatty acid ratio)とは、脂質に含まれる脂肪酸に占める多価不飽和脂肪酸、一価不飽和脂肪酸と飽和脂肪酸との重量組成比であり、下記式で求められる値をいう。
HH比=(C18:1(n-9)+C18:2(n-6)+C20:4(n-6)+C18:3(n-3)+C20:5(n-3)+C22:5(n-3)+C22:6(n-3))
HH比の高い食品の摂取は、高コレステロール血症のリスク低減効果が期待されている(Haouas, et al., Int. J. Food Sci. Tech., 45, 1478-1485 (2010)、Santos-Silva Livestock Production Science 77 187-194 (2002))。
【0031】
本発明のブリ属養殖魚は、可食部の脂肪酸におけるHH比が2.5以上、特に2.8以上、さらに3.0以上であることが好ましい。
【0032】
本明細書において「一価不飽和脂肪酸」とは、モノエン酸、MUFAとも称される炭素鎖に一つの不飽和結合を有する脂肪酸を指し、多価不飽和脂肪酸(ポリエン酸、Poly Unsaturated Fatty Acid:PUFA)、飽和脂肪酸(Saturated Fatty Acid:SFA)と区別される。本明細書において、MUFAには、デセン酸(C10:1)、ミリストレイン酸(C14:1)、ペンタデセン酸(C15:1)、パルミトレイン酸(C16:1)、ヘプタデセン酸(C17:1)、オレイン酸(C18:1)、バクセン酸(C18:1)、エイコセン酸(C20:1)、ドコセン酸(C22:1)、テトラコセン酸(ネルボン酸)(C24:1)等が含まれる。特に魚類に含まれる代表的なMUFAとしては、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、エイコセン酸、ドコセン酸及びテトラコセン酸が挙げられる。
【0033】
上記MUFAの中でも、本発明のブリ属養殖魚は、特にエイコセン酸(C20:1)、ドコセン酸(C22:1)、テトラコセン酸(C24:1)等の長鎖一価不飽和脂肪酸を含むことが好ましい。本明細書において「長鎖一価不飽和脂肪酸」とは、LCMUFAとも称され、炭素数20以上の炭素鎖を含むMUFAを指す。エイコセン酸としては、例えばn-11、n-9(ガドレイン酸)、n-7(ゴンドイン酸)等が挙げられる。また、ドコセン酸としては、例えば、n-11(セトレイン酸)、n-9(エルカ酸)等が挙げられる。テトラコセン酸としては、n-9(ネルボン酸)等が挙げられる。LCMUFAは、アテローム性動脈硬化症(Yang, et al., Mol. Nutr. Food Res., 60(10): 2208-2218 (2016))、糖尿病(特開2001-294525号公報)、メタボリックシンドローム(国際公開2012/121080)などの予防、治療への効果が報告されている。
【0034】
本明細書において脂肪酸の「誘導体」とは、脂肪酸の骨格を保持した状態で、エステル、金属塩等としたものを指す。エステルの例としては、トリグリセリド、ジグリセリド、モノグリセリドといったグリセリルエステルに加えて、メチルエステル、エチルエステル、イソプロピルエステルが挙げられる。
【0035】
本明細書において「脂肪酸組成比」とは、試料に含まれる脂質及び脂質分解物に含まれる各種脂肪酸の量を、総脂肪酸100gあたりの重量比(%)で示したものを指す。測定方法は特に限定されないが、日本油化学会編「基準油脂分析試験法」に従って測定することが好ましい。すなわち、三フッ化ホウ素・メタノール法(BF3-MeOH法)を用いて、脂質をケン化して不ケン化物を除き、遊離脂肪酸とした後、エステル化し、ガスクロマトグラフィーで測定する方法である。
【0036】
本発明のブリ属養殖魚は、MUFA及びその誘導体を、脂肪酸組成比で34.0%以上、特に35.0%以上、さらに38.0%以上、よりさらに39.0%以上含むことが好ましい。また、本発明のブリ属養殖魚は、LCMUFA及びその誘導体を、脂肪酸組成比で2.4%以上、特に3.0%以上、さらに4.0%以上含むことが好ましい。
【0037】
本発明のブリ属養殖魚における、飽和脂肪酸(SFA)及びその誘導体の含有量は、可食部の脂肪酸組成比で、26.0%以下、特に24.0%以下、さらに23.0%以下であることが好ましい。SFAの組成比が低く抑えられることで、ブリの食感を口どけのよいものとすることができる。また、HH比を高くすることができる。
【0038】
本発明のブリ属養殖魚における、多価脂肪酸のn-3/n-6組成比は1.6以下、かつ0.9以上であることが好ましい。また、本発明のブリ属養殖魚における、ドコサヘキサエン酸(DHA)及びその誘導体の含有量は、可食部の脂肪酸組成比で11.0%以下、特に10.0%以下、さらには9.0%以下であることが好ましい。PUFAの組成比、特に二重結合が多く酸化されやすいドコサヘキサエン酸(DHA)の組成比を一定以下とすることで、ブリの脂質の酸化が抑制され、風味の劣化を生じにくい。
【0039】
本発明のブリ属養殖魚は、一定以上成長した魚であることが好ましい。具体的には、体重が1.0kg以上、特に2.0kg以上であることが好ましい。すなわち、本発明のブリ属養殖魚の好適例は、モジャコ等と称される稚魚を含まない。
【0040】
<ブリ属養殖魚の育成方法>
本発明のブリ属養殖魚の育成方法(以下、「本発明の方法」とも称する)は、エトキシキン及びエトキシキンダイマーの合計含有量(以下、「エトキシキン等含有量」とも称する)が20ppm以下の餌を、週3回以上の頻度で、70日間以上給餌することを含む、ことを特徴とする。本発明の方法は、上記の条件を満たす餌以外を給餌しないことを含む。
【0041】
1.養殖対象のブリ属
本発明の育成方法で養殖されるブリ属は、人工孵化由来であっても、天然種苗由来であってもよい。養殖開始時期のブリ属の齢数はその養殖期間によって異なるが、出荷時までにブリ属の魚体重が1kg以上となるよう育成することが好ましい。
【0042】
2.給餌条件
本発明の方法において、餌におけるエトキシキン等含有量は、20ppm以下、好ましくは、10ppm以下とする。餌として輸入の魚粉を含有する配合飼料を使用する場合は、例えば、エトキシキン等含有量の低い魚粉を選択して使用することにより、試料中のエトキシキン等含有量を調整することができる。餌のエトキシキン等含有量は、0ppmであってもよいが(エトキシキンフリー)、餌の製造コスト、入手容易性等との関係から、0ppm超とすることが好ましい。このような餌としては、特に限定されないが、配合飼料を使用することが好ましい。配合飼料は、生餌と比較して、一定の品質のものを安定して給餌することが可能であるが、主原料に魚粉を使用しているため、完全にエトキシキンフリーとすることが困難である。しかし、配合飼料のエトキシキン等含有量を一定以下とし、養殖期間を一定期間以上とすることで、育成されるブリ属養殖魚のエトキシキン等含有量を低減させることができる。配合飼料の原料は、エトキシキン等含有量が上記範囲であれば、特に限定されないが、通常は、魚粉等の動物質性飼料、穀類、植物性油かす類、油脂、各種ビタミン、ミネラル類等を含む。
【0043】
本発明の方法において、上記餌の給餌頻度は、週3回以上、好ましくは週5回以上、より好ましくは週7回とする。1日の給餌回数は、1回以下とすることが好ましい。本発明の方法において、上記餌を給餌する期間は、出荷前の70日間以上、好ましくは、出荷前の150日間以上とする。上記餌を70日間以上給餌することで、育成されるブリ属養殖魚の筋肉組織における、下記式(I)で示される指標Aの値を1.0×10-5以下とすることができる。
A=B/C ・・・(I)
(式中Bは、可食部の筋肉組織に含まれるエトキシキン等含有量(ppm)であり、Cは、可食部の筋肉組織に含まれる脂質量(ppm)を示す)。
一方、ブリ属養殖魚は、季節によって可食部の脂のり、すなわち可食部における筋肉組織に含まれる脂質量が増加する。一方、エトキシキン等は脂溶性であり、脂質中に蓄積されやすい。そのため、脂のりのよい時期には、上記指標Aの値を低く抑えることは可能であるが、エトキシキンダイマー等の含有量自体は低減しにくいことがある。しかしながら、上記餌を給餌する期間を150日間以上とすることで、育成開始時期に限らず、育成されるブリ属養殖魚の筋肉組織のエトキシキン等含有量を2ppm以下、特に1ppm以下とすることができる。ここでいう「出荷前」の期間は、出荷直前の期間を指し、例えば、「出荷前の70日間以上給餌する」という記載は、出荷日を起算日として70日間以上前から出荷直前まで、上記条件を満たす給餌を行うことを意味する。
【0044】
また、本発明の方法において、餌の含硫アミノ酸の含有量は、250mg/100g以上、特に300mg/100gとすることが好ましい。イミダゾール系化合物の含有量は、50mg/100g以上、特に、70mg/100g以上とすることが好ましい。前記飼料には、さらに、β-アラニンが、1.0mg/100g以上、特に1.2mg/100g以上が含まれることが好ましい。本明細書において、「含硫アミノ酸」とは、タウリン、メチオニン、システイン及びホモシステイン、好適にはタウリン及びメチオニンを指す。
【0045】
また、餌は、HH比が高く、かつMUFA、特にLCMUFAを多く含むものを与えることが好ましい。一方で、SFA、DHA及びn-3/n-6比の低い餌を与えることが好ましい。具体的には、餌に含まれる脂肪酸のHH比は、2.4以上、特に3.4以上、さらに3.5以上とすることが好ましい。また、餌に含まれる脂肪酸のMUFAの組成比は、30.0%以上、特に35.0%以上とすることが好ましい。さらに、LCMUFAの組成比は、0.1%以上、特に1.0%以上とすることが好ましい。餌の脂肪酸のn-3/n-6比は、2.5以下、特に2.0以下であることが好ましい。また、餌に含まれる脂肪酸のDHAの組成比は、12.5%以下、特に10.0%以下、さらに9.0%以下とすることが好ましい。
【0046】
3.飼育管理条件下での養殖
上記の養殖対象となるブリ属を、専用の生簀や水槽に移して、飼育管理条件下で養殖する。養殖時の条件として、水温、魚の密度などを調整し、管理することを要する。
【0047】
(1)養殖期間
本発明の育成方法において、養殖期間は、70日間以上、好ましくは150日間以上とする。そのうち、出荷直前の1~7日間(24~168時間)、好ましくは1~3日間(24~72時間)、より好ましくは1~2日間(24~48時間)給餌を中止し、絶食期間を設けることが好ましい。本発明者らは、前記絶食期間を設けることで、ブリ属養殖魚の可食部に含まれるイミダゾールジペプチド及びタウリンが増加し、ヒスチジンが減少することを確認した。また、絶食期間を設けることで、ブリ属養殖魚の可食部に含まれる旨味アミノ酸の含有量が増加し、苦味アミノ酸の含有量が減少することも確認した。絶食期間を経たブリ属養殖魚は、直ちに出荷されることが好ましい。
【0048】
(2)水温
ブリ属を養殖するための生簀や水槽内の水温は、15~28℃、特に、18~27℃、さらに20~25℃とすることが好ましい。ブリ属養殖魚の生簀は、通常海上に設置されるため、設置後の生簀内の水温を人為的に調節することは困難であるが、例えば、生簀の設置箇所を適切に選択することで、所望の温度条件下での養殖を行うことが可能である。
【0049】
(3)飼育密度
生簀や水槽内のブリ属養殖魚の飼育密度は、3~20kg/m3、特に、7~16kg/m3とすることが好ましい。生簀や水槽の大きさは、ブリ属養殖魚の各個体が他の個体と接触することなく遊泳可能であれば、特に限定されないが、例えば、縦及び横が8~60m、深さ8~25m程度の大きさとすることができる。
【0050】
本発明の方法は、上記の給餌条件下及び飼育管理条件下でブリ属を養殖することにより、エトキシキン等含有量の低いブリ属養殖魚を得ることを可能とする。
【実施例0051】
以下、実施例において本発明をさらに詳細に説明するが、以下の実施例は本発明を限定するものではない。
【0052】
<実施例1.ブリの飼育試験>
養殖場を試験区及び対照区に分け、ブリの飼育実験を行った。対象ブリは、2年ブリとした。試験区・対照区における、飼育管理条件は、飼料以外はいずれも同様に、水温を17.8~26.5℃、飼育密度を平均16.4kg/m3とした。また、飼育期間は、150日間とし、水揚げ前に1日間の絶食期間を設けた。
【0053】
<実施例2.飼料の成分分析>
試験区及び対照区は、給餌する餌のみを変更した。給餌頻度は1日1回とした。試験区、対照区の飼料原料を表1に示す。各区に使用する飼料について、エトキシキン、エトキシキンダイマー、イミダゾール系化合物、ヒスチジン、イミダゾールジペプチド、アンセリン、タウリン、メチオニン及びβアラニンの含有量、並びに脂肪酸組成比を測定した。各区の飼料は、時期によって異なるロットが使用されたが、対照区については最初のロットのみ、試験区については、エトキシキン及びエトキシキンダイマーの含有量は、全てのロット(7ロット)、他の成分等については最初のロットのみ測定した。
【0054】
【0055】
各配合飼料のエトキシキン及びエトキシキンダイマーの含有量は、以下の手順を用いて測定した。粉砕飼料2gに100μg/mL BHT含有メタノール溶液100mLを加えて混合し、吸引ろ過により不溶物を除去し、100μg/mL BHT含有メタノール溶液で200mLに定容した。その内の1mLを50μg/mL BHT含有アセトニトリル溶液で20倍希釈し、以下の条件で液体クロマトグラフィータンデム質量分析装置にて測定した。
カラム:InertSustain C18、φ2.1mm×150mm、粒形5μm
カラム温度:40℃
移動相:A液 2mmol/L酢酸アンモニウム溶液
B液 メタノール
B(%):50×5分→95×7分
流量:0.2mL/min
注入量:10μL
イオン化法:ESI 正イオンモード
設定質量数:m/z 218→160(エトキシキン)
m/z 433→375(エトキシキンダイマー)
各区(各ロット)の餌のエトキシキン及びエトキシキンダイマーの含有量を表2に示す。
【0056】
【0057】
各区の最初のロットのイミダゾール系化合物、ヒスチジン、イミダゾールジペプチド、アンセリン、タウリン、メチオニン及びβアラニンの含有量、並びに脂肪酸組成比を測定した。ミダゾール系化合物、ヒスチジン、イミダゾールジペプチド、アンセリン、タウリン、メチオニン及びβアラニンの含有量は、以下の方法で測定した。所定量の配合飼料に0.02M塩酸を加えて破砕し、抽出処理を行った。これを遠心分離(5000rpm、15分、4℃)した後、上清に3%スルホサリチル酸水溶液を加え、さらに遠心分離(5000rpm、15分、4℃)を行ってタンパク質を除去した。上清にn-ヘキサンを加えて脂質成分を除去した後、アミノ酸分析装置(日立製作所製LA8080)で各種成分の含有量を分析した。各成分の測定結果を表3に示す。
【0058】
脂肪酸組成比は以下の方法で測定した。各飼料100~200mgに内部標準として10mg/mL トリコサン酸メチル50μLを添加した後、蒸留水1mLを添加し、クロロホルム:メタノール=1:1溶液を5mL加えて攪拌した。遠心分離(3000rpm、10分、10℃)を行った後、下層部を綿栓ろ過して減圧乾燥して脂質を抽出した。得られた脂質に0.5M水酸化ナトリウム・メタノール溶液300μLを加えて攪拌し、窒素雰囲気下にて100℃、9分間加熱してけん化した。冷却後、三フッ化ホウ素メタノール溶液(ALDRICH製)400μLを加えて攪拌し、窒素雰囲気下にて100℃、7分間加熱してメチルエステル化した。冷却後、蒸留水600μL、ヘキサン600μLを加えて攪拌した後、遠心分離を行い、上層部を回収して無水硫酸ナトリウムにて脱水後、減圧乾燥して、脂肪酸のメチルエステルを得た。脂肪酸メチルエステルのヘキサン溶液について、以下の条件でガスクロマトグラフィー分析を行った。
カラム(充填剤、サイズ):DB-WAX(長さ30m×内径250mm、膜厚0.25μm、アジレント・テクノロジー製)
カラム温度:170℃で5分間保持し、1.5℃/分で240℃まで昇温後、10分保持
注入口温度:250℃
キャリアガス:ヘリウム
流速:1.07mL/分
脂肪酸の同定は、予め脂肪酸標準品の各成分の保持時間を求めることにより行った。また、濃度既知の標準品のピーク面積を基準として、試料の各ピークから各脂肪酸の量を算出した。各飼料の脂肪酸組成比、n-3/n-6比及びHH比を表3に示す。
【0059】
【0060】
<実施例3.養殖ブリのエトキシキン等含有量の測定>
上記条件下での給餌を開始してから0日目、71日目、150日目に水揚げした試験区、対照区の養殖ブリ各2尾について、筋肉組織中の脂肪、エトキシキン、エトキシキンダイマーの含有量及び肥満度を測定した。脂肪含有量は、以下の手順で測定した。円筒ろ紙に可食部1g~5gを量り取り、硫酸ナトリウムを加えて混合した後、脱脂綿を上層に載せ、105℃に温めた恒温機内で一晩静置し、水分を除いた。デシケーター内で常温になるまで静置した後、ソックスレー抽出器にてジエチルエーテル100mLを還流させて脂肪を抽出した。抽出された脂肪からジエチルエーテルを完全の蒸発させるために再度105℃に温めた恒温機内で1時間~2時間静置した後、デシケーター内で室温になるまで放冷し、抽出脂肪の重量を計測した。
【0061】
筋肉組織中のエトキシキン、エトキシキンダイマーの含有量は、以下の手順で測定した。可食部10gに100μg/mL BHT含有メタノール溶液100mLを加え、ホモジナイズした後に吸引ろ過により不溶物を除去し、100μg/mL BHT含有メタノール溶液で200mLに定容した。その内の2mLをC18逆相クロマトグラフィーに吸着させ、水:アセトニトリル(3:2)混液10mLで洗浄後、50μg/mL BHT含有アセトニトリル溶液溶出画分を分取し、溶出液で10mLに定容し、以下の条件で液体クロマトグラフィータンデム質量分析装置にて測定した。
<エトキシキン>
カラム:InertSustain C18、φ2.1mm×150mm、粒形5μm
カラム温度:40℃
移動相:A液 2mmol/L酢酸アンモニウム溶液
B液 メタノール
B(%):50×5分→95×7分
流量:0.2mL/min
注入量:10μL
イオン化法:ESI正イオンモード
設定質量数:m/z 218→160
<エトキシキンダイマー>
カラム:InertSustain C18、φ2.1mm×150mm、粒形5um
カラム温度:40℃
移動相:A液 2mmol/L酢酸アンモニウム溶液
B液 メタノール
B(%):95
流量:0.2mL/min
注入量:1μL
イオン化法:ESI正イオンモード
設定質量数:m/z 433→375
【0062】
肥満度は、各ブリについて、体重と尾叉長を測定し、式:体重(g)/尾叉長(cm)3×1000を用いて算出した。試験区、対照区の各測定値の平均値を表4に示す。筋肉組織中のエトキシキン等含有量は、最初の1~2ヶ月で顕著に低下したが、その後、低下速度が鈍化した。これは、ブリに最も脂が乗る時期が重なったためと考えられた。その後、150日目まで同条件での育成を継続することで、エトキシキン等含有量を十分低減させることができた。エトキシキン等含有量を脂質含有量で除した値を指標Aとしたところ、試験区において指標Aが安定して低減し、71日目までに1.0×10-5未満となることが示された。
【0063】
【0064】
<実施例4.養殖ブリの各種アミノ酸含有量の測定>
上記試験区と同様の条件で150日間以上育成してから水揚げした養殖ブリ5尾について、可食部の普通肉と血合肉を切り出し、普通肉中のヒスチジン、イミダゾールジペプチド(アンセリン、カルノシン)の含有量、並びに血合肉中のタウリンの含有量を測定した。また、普通肉における旨味アミノ酸(アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン)及び苦味アミノ酸(アルギニン、ヒスチジン、バリン、イソロイシン、メチオニン、フェニルアラニン)の含有量を測定した。
【0065】
各種アミノ酸、イミダゾールジペプチド及びタウリンの含有量の測定は以下の手順で実施した。水揚げした魚体の血抜き処理を行った後、塩水氷水下で冷却した。その後、冷蔵庫内で普通肉と血合肉を採取した。適切な量の採取した肉を秤量し、0.02M塩酸を添加して破砕した後、9倍容量となるよう0.02M塩酸を添加した。試料を十分に攪拌した後、遠心分離(3000rpm、10分、4℃)により上清液を分離した。上清液に対して等容量の3%スルホサリチル酸水溶液を加え、再度遠心分離(10000rpm、10分、4℃)を行い、上清部を回収して除タンパク処理を行った。さらに上清液に対して2/3倍量のn-ヘキサンを加えて攪拌後、遠心分離(10000rpm、10分、4℃)を行い、下層部を回収して脱脂処理を行った。この溶液又は必要に応じて10倍希釈した溶液をメンブレンろ過(0.45μm)したろ液を、アミノ酸分析計(日立製作所製LA8080)に供して、各種アミノ酸の含有量を分析した。各種アミノ酸の測定結果を表5に示す。
【0066】
【0067】
<実施例5.養殖ブリの脂肪酸組成比の測定>
上記条件下での給餌を開始してから0日目、71日目、150日目に水揚げした試験区の養殖ブリ各3尾について、筋肉組織中の脂質の脂肪酸組成比を測定した。脂肪酸組成比は、以下の手順で測定した。切り出した筋肉組織100~200mgに内部標準として10mg/mL トリコサン酸メチル50μLを添加した後、蒸留水1mLを添加し、クロロホルム:メタノール=1:1溶液を5mL加えて攪拌した。遠心分離(3000rpm、10分、10℃)を行った後、下層部を綿栓ろ過して減圧乾燥して脂質を抽出した。得られた脂質に0.5M水酸化ナトリウム・メタノール溶液300μLを加えて攪拌し、窒素雰囲気下にて100℃、9分間加熱してけん化した。冷却後、三フッ化ホウ素メタノール溶液(ALDRICH製)400μLを加えて攪拌し、窒素雰囲気下にて100℃、7分間加熱してメチルエステル化した。冷却後、蒸留水600μL、ヘキサン600μLを加えて攪拌した後、遠心分離を行い、上層部を回収して無水硫酸ナトリウムにて脱水後、減圧乾燥して、脂肪酸のメチルエステルを得た。脂肪酸メチルエステルのヘキサン溶液について、以下の条件でガスクロマトグラフィー分析を行った。
カラム(充填剤、サイズ):DB-WAX(長さ30m×内径250mm、膜厚0.25μm、アジレント・テクノロジー製)
カラム温度:170℃で5分間保持し、1.5℃/分で240℃まで昇温後、10分保持
注入口温度:250℃
キャリアガス:ヘリウム
流速:1.07mL/分
脂肪酸の同定は、予め脂肪酸標準品の各成分の保持時間を求めることにより行った。また、濃度既知の標準品のピーク面積を基準として、試料の各ピークから各脂肪酸の量を算出した。表6に、脂肪酸組成比の測定結果を示す。
【0068】