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特開2023-183453水処理方法、水処理装置、スライム抑制剤、および洗浄方法
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  • 特開-水処理方法、水処理装置、スライム抑制剤、および洗浄方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023183453
(43)【公開日】2023-12-28
(54)【発明の名称】水処理方法、水処理装置、スライム抑制剤、および洗浄方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/469 20230101AFI20231221BHJP
   B01D 61/48 20060101ALI20231221BHJP
   B01D 61/58 20060101ALI20231221BHJP
   B01D 65/02 20060101ALI20231221BHJP
   C02F 1/44 20230101ALI20231221BHJP
   C02F 1/50 20230101ALI20231221BHJP
   C02F 1/76 20230101ALI20231221BHJP
【FI】
C02F1/469
B01D61/48
B01D61/58
B01D65/02 500
C02F1/44 D
C02F1/50 510C
C02F1/50 531J
C02F1/50 531L
C02F1/50 531M
C02F1/50 531P
C02F1/50 532H
C02F1/50 540B
C02F1/50 550C
C02F1/50 560E
C02F1/50 560F
C02F1/76 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022096973
(22)【出願日】2022-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】000004400
【氏名又は名称】オルガノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】森 光矢
(72)【発明者】
【氏名】山本 昌平
(72)【発明者】
【氏名】森田 樹生
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 慶介
(72)【発明者】
【氏名】吉川 浩
【テーマコード(参考)】
4D006
4D050
4D061
【Fターム(参考)】
4D006GA03
4D006GA06
4D006GA07
4D006GA14
4D006GA17
4D006HA47
4D006JA30A
4D006JA30C
4D006KA03
4D006KA52
4D006KA55
4D006KA57
4D006KD01
4D006KD30
4D006KE03P
4D006KE03Q
4D006MA03
4D006MA13
4D006MA14
4D006PA01
4D006PB05
4D050AA02
4D050AB06
4D050BB03
4D050BB04
4D050BB06
4D050CA09
4D050CA10
4D061DA02
4D061DB13
4D061EA09
4D061EB01
4D061EB04
4D061EB13
4D061EB17
4D061EB19
4D061ED01
4D061FA08
4D061FA09
4D061GA05
(57)【要約】
【課題】電気式脱イオン水製造装置(EDI装置)を備える水処理装置において、EDI装置における処理水質の低下および通水差圧の上昇を引き起こすことなくEDI装置を稼働できるようにする。
【解決手段】脱塩室23に充填されるイオン交換体の少なくとも一部がアニオン交換体であるEDI装置10を使用し、スライム抑制剤としてヨウ素含有酸化剤が添加された被処理水がEDI装置10に供給されるようにする。ヨウ素含有酸化剤は、例えば、ヨウ素とヨウ化物とを水に溶解させた溶液である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理水に薬品を添加してヨウ素を含有するとともに酸化力を有する被処理水を得る添加工程と、
前記添加工程を経た前記被処理水を電気式脱イオン水製造装置に供給して前記電気式脱イオン水製造装置において処理する処理工程と、
を有し、
前記電気式脱イオン水製造装置の脱塩室に充填されているイオン交換体の少なくとも一部がアニオン交換体である、水処理方法。
【請求項2】
前記処理工程において前記添加工程を経た前記被処理水を前記電気式脱イオン水製造装置に供給する前に、前記添加工程を経た前記被処理水を分離膜で処理する、請求項1に記載の水処理方法。
【請求項3】
前記薬品は、水とヨウ素とヨウ化物とを含む溶液である、請求項1または2に記載の水処理方法。
【請求項4】
被処理水に薬品を添加してヨウ素を含有するとともに酸化力を有する被処理水とする添加手段と、
脱塩室に充填されるイオン交換体の少なくとも一部がアニオン交換体である電気式脱イオン水製造装置と、
を備え、
前記添加手段により前記薬品が添加された前記被処理水が前記電気式脱イオン水製造装置に供給される、水処理装置。
【請求項5】
前記添加手段の後段であって前記電気式脱イオン水製造装置の前段となる位置に分離膜が設けられ、
前記薬品が添加された前記被処理水が、前記分離膜によって処理されたのちに前記電気式脱イオン水製造装置に供給される、請求項4に記載の水処理装置。
【請求項6】
前記薬品は、水とヨウ素とヨウ化物とを含む溶液である、請求項4または5に記載の水処理装置。
【請求項7】
前記電気式脱イオン水製造装置の濃縮室に充填されるイオン交換体の少なくとも一部がアニオン交換体である、請求項4または5に記載の水処理装置。
【請求項8】
ヨウ素含有酸化剤を含み、電気式脱イオン水製造装置に用いられるスライム抑制剤。
【請求項9】
水とヨウ素とヨウ化物とを含む溶液である、請求項8に記載のスライム抑制剤。
【請求項10】
請求項8または9に記載のスライム抑制剤を含む洗浄液を電気式脱イオン水製造装置に通液して前記電気式脱イオン水製造装置を洗浄する、洗浄方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気式脱イオン水製造装置を用いる水処理方法および水処理装置と、電気式脱イオン水製造装置に用いられるスライム抑制剤と、電気式脱イオン水製造装置の洗浄方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
被処理水から脱イオン水を生成する装置の1つとして、電気式脱イオン水製造装置(EDI(Electro Deionization)装置ともいう。以下、電気式脱イオン水製造装置のことをEDI装置とも称する。)がある。EDI装置は、電気泳動と電気透析とを組み合わせた装置であって、陽極と陰極との間に、一対のイオン交換膜で区画された脱塩室を配置した構成を有する。EDI装置では、少なくともその脱塩室にはイオン交換樹脂などのイオン交換体が充填されており、陽極と陰極との間に直流電圧を印加し、脱塩室に被処理水を通水することにより、イオン成分が除去された処理水が脱塩室から流出するとともに脱塩室内のイオン交換体の再生処理が進行する。EDI装置は、薬剤によってイオン交換体を再生する処理を不要とするという利点を有する。EDI装置では、脱塩室を区画するイオン交換膜を挟んで濃縮室が脱塩室に隣接するが、濃縮室では脱塩室から移動してきたイオン成分によってイオン濃度が高くなりやすく、生菌由来のスライムが発生しやすい。スライムが発生した場合には、水の流れが阻害されるので、通水差圧が上昇しやすい(例えば特許文献1を参照)。
【0003】
一般に水処理を行う機器においてスライムの発生を抑制するために、その機器に供給される水に対し、スライム抑制剤(スライムコントロール剤ともいう)を添加する方法がある。スライム抑制剤は、例えば、殺菌作用を有する次亜塩素酸、過酸化水素、オゾンなどによって構成される。しかしながら、次亜塩素酸、過酸化水素、オゾンなどは酸化剤であり、これらの酸化剤がEDI装置に流入すると、特許文献1,2などに記載されるように、EDI装置を構成するイオン交換樹脂やイオン交換膜が劣化し、処理水における急激な水質の低下や、濃縮室および脱塩室における通水差圧の上昇が起こることがある。特許文献1は、酸化剤によるEDI装置の劣化はEDI装置の陽極と陰極との間に直流電流が印加されているときにより速く進行するので、スライム除去のために酸化性殺菌剤を含む水をEDI装置に流しているときは、陽極と陰極との間の電圧印加を停止するか弱くすることを開示している。特許文献3は、EDI装置においてスライムの発生により通水差圧が上昇したときに、ヒドラジン一水和物およびアルカリを含有する薬剤によって洗浄処理を行い、スライムを除去することを開示している。
【0004】
EDI装置と同様に、逆浸透膜を備える逆浸透膜装置などにおいてもスライムの発生のおそれがあるが、逆浸透膜などの膜も酸化剤と接触することで劣化する。逆浸透膜の劣化を抑えることができるスライム抑制剤として、特許文献4は、安定化次亜臭素酸組成物を用いることを開示し、特許文献5は、水とヨウ素とヨウ化物とを含むヨウ素系酸化剤を用いることを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018-51453号公報
【特許文献2】特開2000-279967号公報
【特許文献3】特開2004-113973号公報
【特許文献4】特開2015-62889号公報
【特許文献5】国際公開第2021/192582号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
EDI装置の濃縮室に発生したスライムを特許文献3に記載されるように薬品による洗浄で除去する場合、洗浄工程そのものに長時間(例えば数日間)を要するため、その間はEDI装置を使用できない、という課題がある。また、スライムによって閉塞された空間には薬液が流れにくく、その結果、その空間内のスライムを完全に取り除くことは困難である。酸化剤であるスライム抑制剤を含む水をEDI装置に通水する場合には、スライムによる閉塞を予防することができるが、特許文献1に記載されるようにスライム抑制剤をEDI装置に供給しているときはEDI装置での電圧印加を停止あるいは低減せざるを得ず、その間はEDI装置において被処理水に対する脱塩処理を行うことができない。
【0007】
本発明の目的は、EDI装置を用いる水処理方法および装置であって、EDI装置における処理水質の低下および通水差圧の上昇を引き起こすことなくEDI装置を稼働させることができる水処理方法および装置を提供することにある。
【0008】
本発明の別の目的は、EDI装置における処理水質の低下および通水差圧の上昇を引き起こすことなく稼働中のEDI装置に使用できるスライム抑制剤と、EDI装置の洗浄方法とを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の水処理方法は、被処理水に薬品を添加してヨウ素を含有するとともに酸化力を有する被処理水を得る添加工程と、添加工程を経た被処理水をEDI装置(電気式脱イオン水製造装置)に供給してEDI装置において処理する処理工程と、を有し、EDI装置の脱塩室に充填されているイオン交換体の少なくとも一部がアニオン交換体である。添加工程で添加される薬品は、例えばヨウ素含有酸化剤であるが、被処理水が既に酸化剤を含むときは薬品はヨウ化物であってもよく、被処理水が既にヨウ化物を含むときは薬品は酸化剤であってもよい。
【0010】
本発明の水処理装置は、被処理水に薬品を添加してヨウ素を含有するとともに酸化力を有する被処理水とする添加手段と、脱塩室に充填されるイオン交換体の少なくとも一部がアニオン交換体であるEDI装置と、を備え、添加手段により薬品が添加された被処理水がEDI装置に供給される。添加工程により添加される薬品は、例えばヨウ素含有酸化剤であるが、被処理水が既に酸化剤を含むときは薬品はヨウ化物であってもよく、被処理水が既にヨウ化物を含むときは薬品は酸化剤であってもよい。
【0011】
本発明のスライム抑制剤は、ヨウ素含有酸化剤を含み、EDI装置に用いられる。
【0012】
本発明の洗浄方法は、本発明のスライム抑制剤を含む洗浄液をEDI装置に通液してEDI装置を洗浄する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、EDI装置における処理水質の低下および通水差圧の上昇を引き起こすことなくEDI装置を稼働させることができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施の一形態の水処理装置を示す図である。
図2】EDI装置の構成の一例を示す図である。
図3】水処理装置の別の構成例を示す図である。
図4】水処理装置のさらに別の構成例を示す図である。
図5】EDI装置の構成の別の例を示す図である。
図6】実施例1における処理水の比抵抗の変化を示すグラフである。
図7】実施例1における脱塩室の通水差圧の変化を示すグラフである。
図8】実施例1における濃縮室の通水差圧の変化を示すグラフである。
図9】実施例3における濃縮水中のヨウ素濃度の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本発明の好ましい実施の形態について、図面を参照して説明する。図1は、本発明の実施の一形態の水処理装置の構成を示す図である。図1に示す水処理装置は、電気式脱イオン水製造装置(EDI装置)10を備えており、EDI装置10には被処理水が通水される。EDI装置10は、供給された被処理水に対して例えば脱塩処理を実行し、処理水を排出する。さらに水処理装置は、EDI装置10に供給される被処理水に対し、スライム抑制剤としてヨウ素含有酸化剤を添加する機構を備えている。スライム抑制剤として用いられるヨウ素含有酸化剤の詳細については後述する。
【0016】
図2は、EDI装置10の構成の一例を示している。EDI装置10は、陽極11を備えた陽極室21と陰極12を備えた陰極室25との間に脱塩室23を備えたものであり、脱塩室23の陽極室21の側には濃縮室22が配置し、脱塩室23の陰極室25の側には濃縮室24が配置している。陽極室21と濃縮室22の間はカチオン交換膜31で仕切られ、濃縮室22と脱塩室23の間はアニオン交換膜32で仕切られている。脱塩室23と濃縮室24の間はカチオン交換膜33で仕切られ、濃縮室24と陰極室25の間はアニオン交換膜34で仕切られている。結局、脱塩室23は、陽極11の側に位置するアニオン交換膜32と、陰極12の側に位置するカチオン交換膜33とによって区画されていることになる。脱塩室23内には、イオン交換樹脂が充填されている。図示されたものでは、アニオン交換樹脂(AER)とカチオン交換樹脂(CER)とが混床形態(MB)で充填されている。また陽極室21にはカチオン交換樹脂が充填され、濃縮室22,24および陰極室25にはアニオン交換樹脂が充填されている。濃縮室22,24には、アニオン交換樹脂(AER)とカチオン交換樹脂(CER)とを混床形態で充填してもよい。
【0017】
次に、図1に示す水処理装置の動作を説明する。EDI装置10の陽極室21、濃縮室22,24および陰極室25にそれぞれ供給水を通水し、陽極11と陰極12との間に直流電流を印加した状態で、ヨウ素含有酸化剤が添加されている被処理水を脱塩室23に通水する。被処理水を脱塩室23に通水すると、被処理水中のイオン成分(アニオンおよびカチオン)が脱塩室23内のイオン交換樹脂に吸着する。このとき脱塩室23では、印加電流によって異種のイオン交換性物質の界面で生じる電位差により、水の解離反応(HO→H+OH)が起こり、水素イオン(H)および水酸化物イオン(OH)が生成する。このように生成した水素イオンと水酸化物イオンとによって、先に脱塩室23内のイオン交換樹脂に吸着されていたイオン成分がイオン交換されてイオン交換樹脂から脱離する。脱離したイオン成分のうちアニオンはアニオン交換膜32を介して陽極11に近い方の濃縮室22に移動し、この濃縮室22から濃縮水として排出される。同様にカチオンは、カチオン交換膜33を介して陰極12に近い方の濃縮室24に移行し、この濃縮室24から濃縮水として排出される。結局、脱塩室23に供給された被処理水中のイオン成分は、濃縮室22,24に移行して排出され、同時に、脱塩室23のイオン交換樹脂も再生される。脱塩室23からは、イオン成分が除去された処理水すなわち脱イオン水が排出される。なお、陽極室21および陰極室25からは電極水がそれぞれ排出される。直流電流の印加は被処理水の通水時に連続的に行ってもよいし、断続的に行ってもよい。なお、被処理水に添加されたヨウ素含有酸化剤に由来するヨウ素成分が処理水にリークすることを防ぐためには、脱塩室23に充填されるイオン交換体の少なくとも一部をアニオン交換体とする必要があり、濃縮室24に充填されるイオン交換体の少なくとも一部をアニオン交換体とすることが好ましい。
【0018】
図2に示すEDI装置10では、[濃縮室(C)22|アニオン交換膜(AEM)32|脱塩室(D)23|カチオン交換膜(CEM)33|濃縮室(C)24]からなる基本構成が陽極11と陰極12の間に配置されている。この基本構成をセルセットと呼ぶ。実際には、電極間にこのようなセルセットを複数個(図2では「Nセット」)並置し、電気的には複数個のセルセットが一端を陽極11とし、他端を陰極12として直列接続されるようにして、処理能力の増大を図ることができる。この場合、隣接するセルセット間で隣り合う濃縮室を共有することができるので、EDI装置10の構成としては、[AEM|D|CEM|C]からなる繰り返し単位をXで表すこととすると、[陽極室|CEM|C|X|X|・・・|X|AEM|陰極室]の構成とすることができる。このような直列構造において、陽極室21に最も近い脱塩室23に関し、陽極室21との間に独立の濃縮室22を介在させることなく陽極室21自体を濃縮室22として機能させることができる。同様に、陰極室25に最も近い脱塩室23に関し、陰極室25との間に独立の濃縮室24を介在させることなく陰極室25自体を濃縮室24として機能させることができる。
【0019】
次に、被処理水に添加されるヨウ素含有酸化剤について説明する。EDI装置10は、一般に、粒状のイオン交換樹脂などのイオン交換体が充填された空間内に大きな流速で被処理水を通水する構成を有するが、このようなEDI装置においても生菌に由来するスライムが発生することがある。EDI装置では、スライムが発生した際に閉塞が発生しやすく、それによる通水差圧の上昇や、水の流れが偏ることによる性能低下が進行しやすい傾向にある。一般にスライムの発生を抑制するためには、スライム抑制剤(スライムコントロール剤)として、酸化性を有する殺菌剤を通水することが有効である。しかしながら、酸化性を有する殺菌剤は酸化剤にほかならず、一般に酸化剤は、EDI装置を構成するイオン交換樹脂やイオン交換膜を劣化させる。このため従来は、EDI装置、特に直流電流を印加して動作中のEDI装置に対して酸化剤を含む水を供給することは避けなければならないこととされてきた。本発明者らは、EDI装置でのスライムの発生の抑制とEDI装置におけるイオン交換樹脂やイオン交換膜の劣化の抑制とを両立させる方策について検討したところ、スライム抑制剤としてヨウ素含有酸化剤を用いることにより、EDI装置における性能の劣化を抑制できることを見出し、本発明を完成させた。後述の実施例から明らかになるように、スライム抑制剤として一般的に使用されている次亜塩素酸あるいは次亜塩素酸塩を被処理水に添加してEDI装置を運転したときには早期に処理水の水質が悪化し、この水質の悪化はイオン交換膜やイオン交換樹脂の劣化によるものと考えられるが、ヨウ素含有酸化剤を使用した場合には長期にわたって処理水の水質が良好に保たれた。
【0020】
本発明においてヨウ素含有酸化剤とは、元素としてヨウ素を含む酸化剤のことであり、それ自体が酸化剤として機能するヨウ素化合物であってもよいし、ヨウ素化合物と酸化剤との反応物であってもよい。ヨウ素の単体(すなわちI)も酸化力を有するから、ヨウ素単体を含む溶液もヨウ素含有酸化剤の範疇に含まれる。ヨウ素含有酸化物に元素として含まれるヨウ素はどのような形態であってもよく、例えば、分子状のヨウ素、ヨウ化物、多ヨウ化物、ヨウ素酸、次亜ヨウ素酸、ヨウ化水素、ポリビニルピロリドンやシクロデキストリン等の有機溶媒に配位されたヨウ素のうちのいずれか一つであってよく、また、これらの形態が組み合わされていてもよい。これらのいずれかの形態のヨウ素を得るための方法としては、ベンゼンや四塩化炭素などの無極性溶媒やアルコール類にヨウ素単体を溶解する方法、アルカリ剤と水とを用いてヨウ素単体を溶解する方法、あるいはヨウ化物と水とを用いてヨウ素単体を溶解する方法などを用いることができ、ヨウ化物およびヨウ化物イオンのうち少なくとも1つを含有する溶液に酸または酸化剤を加えることによって全ヨウ素を得てもよい。また、ポリビニルピロリドンにヨウ素を配位させたポピドンヨード、シクロデキストリンにヨウ素を包接させたヨウ素包接シクロデキストリン、有機ポリマーおよび界面活性剤等にヨウ素を担持させたヨードホール等を用いて、ポリビニルピロリドンやシクロデキストリン等の有機溶媒に配位されたヨウ素を得てもよい。
【0021】
ヨウ素含有酸化剤としては、取り扱いの容易性や、被処理水および処理水の水質への影響が小さいことなどの観点から、有機物を用いずにヨウ素単体をヨウ化物と水とを用いて溶解したもの、すなわち水とヨウ素とヨウ化物とを含む溶液が好ましい。ヨウ素単体は単独では水への溶解度が低いが、ヨウ化物またはヨウ化物イオンが共存することで水に溶解するようになる。そしてヨウ素単体をヨウ化物と水とを用いて溶解したものでは、ヨウ素濃度が比較的高濃度でかつ安定な一液型の酸化剤が得られ、取り扱いが容易である。なお、ヨウ化物とは、酸化数が-1であるヨウ素化合物のことを指す。ヨウ化物として、例えば、ヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化リチウム、ヨウ化水素、ヨウ化銀、ヨウ化銅、ヨウ化亜鉛等が挙げられる。これらのヨウ化物は水に溶解して解離することでヨウ化物イオンを与える。
【0022】
ヨウ素化合物と酸化剤との反応物であるヨウ素含有酸化剤を得る場合には、ヨウ素化合物として、例えば、ヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化リチウム、ヨウ化水素、ヨウ化銀、ヨウ化銅、ヨウ化亜鉛などを用いることができ、これらの2種類以上を同時に使用してもよい。この場合のヨウ素化合物としては、コストなどの観点から、ヨウ化ナトリウムまたはヨウ化カリウムを用いることが好ましい。ヨウ素化合物と反応させる酸化剤としては、ヨウ素よりも酸化還元電位(ORP)の高い酸化剤を使用することができる。使用できる酸化剤の例としては、結合塩素や、安定化次亜臭素酸組成物なども挙げられるが、反応の速さ等の観点から遊離塩素として検出される形態の酸化剤であることが好ましい。遊離塩素として検出される形態の酸化剤としては、次亜塩素酸、次亜臭素酸、またはそれらの塩などが代表的なものとして挙げられる。なお、安定化次亜臭素酸組成物とは、臭素系酸化剤とスルファミン酸化合物との反応生成物、あるいは、臭素化合物と塩素系酸化剤との反応物にさらにスルファミン酸化合物を反応させて得た生成物のことである。ここでいう臭素系酸化剤としては、例えば、臭素単体、塩化臭素、臭素酸、臭素酸塩などが挙げられる。
【0023】
ヨウ素含有酸化剤が水とヨウ素とヨウ化物とを含む溶液である場合、ヨウ素に対するヨウ化物のモル比は、水に対するヨウ素の溶解度の観点から、1以上であることが好ましく、安定性の観点から、そのpHは3以上9以下であることが好ましく、3以上7以下であることがより好ましく、4以上6.5以下であることがさらに好ましい。pHが3未満であるとヨウ素の結晶が析出する可能性があり、9を超えると有効成分が著しく減少する可能性がある。スライム抑制剤の輸送コストなどを考慮した場合、有効成分が高濃度でかつ安定していることが好ましいので、ヨウ素含有酸化剤における全ヨウ素濃度は3質量%以上であることが好ましく、3質量%以上40質量%以下の範囲であることがより好ましく、10質量%以上25質量%以下であることがさらに好ましい。ここでいう全ヨウ素濃度とは、ヨウ化物であるかヨウ素単体であるかなどを問わずにヨウ素含有酸化剤に含まれるすべての形態のヨウ素の総量に基づいて算出された濃度のことである。
【0024】
上述したヨウ素含有酸化剤は、EDI装置10に対するスライム抑制剤として使用されるものであるが、EDI装置10の各室(陽極室21、濃縮室22,24、脱塩室23および陰極室25)の洗浄にも使用できる。EDI装置10の洗浄を行うときは、EDI装置10の動作を停止した状態で、純水にヨウ素含有酸化剤を溶解させて洗浄液とし、この洗浄液をEDI装置10の各室に通液すればよい。
【0025】
被処理水におけるヨウ素含有酸化剤の濃度を管理する場合、ヨウ素に関する各種の定量方法を使用することができる。特に、ヨウ素含有酸化剤が水とヨウ素とヨウ化物とを含む溶液である場合、ヨウ化物ではないヨウ素が、酸化剤として有効なヨウ素であるが、この有効なヨウ素は、DPD(N,N-ジエチルパラフェニレンジアミン)を用いる比色法(すなわちDPD法)で水中の全塩素(総残留塩素)を測定するときに、残留塩素と同様の呈色反応を示す。したがって、残留塩素が存在しないことを前提としてDPD法による全塩素濃度計を用いて測定を行い、その測定値をもって酸化剤として有効なヨウ素の濃度を管理することできる。DPD法以外の残留塩素定量法あるいは全塩素定量法を用いることによっても有効なヨウ素濃度を管理することができる。例えば、残留塩素の定量方法として、残留塩素がヨウ化カリウムを酸化することにより遊離したヨウ素を、チオ硫酸ナトリウムによる酸化還元滴定で定量する方法が知られている。この方法を応用して被処理水に対してチオ硫酸ナトリウムによる酸化還元滴定を行えば、全塩素濃度に換算した値としてその被処理水中の有効なヨウ素濃度を求めることができる。以下の説明において、全ヨウ素濃度ではなくて有効ヨウ素濃度というときに、その濃度を全塩素濃度の測定を行ったときの測定値(すなわち全塩素濃度換算値)で表わすことがある。全塩素濃度換算値で表した場合には、そのことを明示するために「as Cl」が付記されている。
【0026】
被処理水に添加するときのヨウ素含有酸化剤の濃度は、十分な殺菌能力を有するようなものである必要がある。そのような観点からすると、被処理水にヨウ素含有酸化剤を添加するときにおいて、EDI装置10に供給される被処理水中の酸化剤として有効なヨウ素濃度を0.01mg/L as Cl以上とすることが好ましい。次亜塩素酸などに比べてヨウ素含有酸化剤がEDI装置に与える影響は軽微であるとしても、ヨウ素含有酸化剤の濃度が過度に高い場合には、EDI装置の劣化をもたらす恐れがある。したがって、EDI装置10に供給される被処理水中の有効なヨウ素濃度は10.0 mg/L as Cl未満とすることが好ましい。被処理水に対するヨウ素含有酸化剤の添加は、連続的に行ってもよいし、間欠的に行ってもよい。スライムの発生を抑制するためにはヨウ素含有酸化剤の添加量が多い方がよいが、ヨウ素含有酸化剤を被処理水に添加し続ける必要はなく、被処理水へのヨウ素含有酸化剤の添加を間欠的に行うことができる。ヨウ素含有酸化剤の添加を間欠的に行うことにより、EDI装置10の劣化をより抑制することができる。被処理水に対する脱塩処理を連続的に行うこととし、被処理水にヨウ素含有酸化物を添加する期間を添加期間、添加しない期間を無添加期間として、例えば、いずれの24時間以内においても添加期間が12時間以内であるように、添加期間を0.01~12時間の範囲とし、無添加期間を1~320時間の範囲として被処理水にヨウ素含有酸化剤を添加することができる。被処理水に間欠的にヨウ素含有酸化剤の添加するときは、ヨウ素含有酸化剤を添加しているときの被処理水中での酸化剤濃度だけでは、ヨウ素含有酸化剤がEDI装置10に与える影響を評価することは適切でない。そこで、被処理水へのヨウ素含有酸化剤の添加を行っているときの被処理水中での酸化剤として有効なヨウ素濃度を全塩素濃度で換算した値をCとして、被処理水にヨウ素含有酸化剤の添加を行う期間Tにおける濃度Cの積算量すなわちCT値を算出し、CT値を管理用の指標として用いることが好ましい。
【0027】
以上の説明では、ヨウ素含有酸化剤が添加された被処理水をEDI装置10の脱塩室23に通水するものとしているが、ヨウ素含有酸化剤が添加された被処理水をさらに、濃縮室22,24および電極室(すなわち陽極室21および陰極室25)に供給するようにしてもよい。濃縮室22,24および電極室に通水される供給水としては特に制限はないが、濃縮室22,24はイオン濃度が高くなりやすく、そのため、生菌が繁殖しやすく、スライムが発生しやすい環境となっている。電極室においても供給水の種類によっては生菌が繁殖してスライムが発生する恐れがある。したがって、濃縮室22,24および電極室に対する供給水として、ヨウ素含有酸化剤が添加された水を連続的あるいは間欠的に使用することにより、濃縮室22,24および電極室におけるスライムなどの発生を抑制することができる。
【0028】
本実施形態では、EDI装置においてスライム抑制剤として使用される酸化剤として、次亜塩素酸あるいは次亜塩素酸塩などの塩素系酸化剤ではなくヨウ素含有酸化剤を使用することにより、酸化剤除去手段をEDI装置の前段に設けたりEDI装置の停止制御を行なったりすることなく、EDI装置を連続的に運転しながら、EDI装置の劣化を防ぎつつ十分な殺菌効果を得ることができ、スライムの発生を抑制することができる。
【0029】
EDI装置を備える水処理装置では、EDI装置が単独で用いられる例は少なく、分離膜を有する膜装置がEDI装置の前段に設けられ、分離膜を透過した被処理水がEDI装置に供給されることが多い。図3は、図1に示す水処理装置において、分離膜である逆浸透膜41を備える逆浸透膜装置40がEDI装置10の前段に設けられた水処理装置を示している。図3に示す水処理装置では、被処理水がまず逆浸透膜装置40に供給され、逆浸透膜装置40の逆浸透膜41を透過した被処理水(すなわち透過水)が、EDI装置10の脱塩室23に供給される。逆浸透膜装置40からの透過水は、EDI装置10の濃縮室22,24や電極室に供給されてもよい。逆浸透膜装置40からは、逆浸透膜41を透過しなかった被処理水が濃縮水として排出される。図3に示す水処理装置では、被処理水に対してスライム抑制剤であるヨウ素含有酸化剤を添加する機構は、逆浸透膜装置40の前段に設けられている。逆浸透膜装置40の前段において被処理水にヨウ素含有酸化剤を添加するので、逆浸透膜41へのスライムの付着を抑制することもできる。
【0030】
逆浸透膜装置40では、各種の有機物などが除去されるので、逆浸透膜装置40を透過してEDI装置10に供給される被処理水における不純物濃度は、図1に示す水処理装置においてEDI装置10に供給される被処理水における不純物濃度よりも低い。そのため、図3に示す水処理装置では、図1に示す水処理装置に比べ、EDI装置10におけるスライムの発生が起こり難くなっている。そこでEDI装置10の前段に逆浸透膜装置40を設ける場合、EDI装置10の入口での被処理水における、酸化剤として有効なヨウ素濃度を図1に示す水処理装置における濃度よりも低くすることが可能である。
【0031】
EDI装置10の前段に設けられる分離膜としては、図3に示した例における逆浸透膜41のほかに、例えば、ナノろ過膜(NF膜)、精密ろ過膜(MF膜)、限外ろ過膜(UF膜)、正浸透膜(FO膜)などを用いることができ、これらの膜を組み合わせることもできる。分離膜を透過した被処理水がEDI装置10に供給される。これらの分離膜におけるスライムの発生を抑制するために、分離膜の前段で被処理水にヨウ素含有酸化剤を添加することが好ましい。
【0032】
図4は、本発明に基づく別の水処理装置の構成を示している。図4に示す水処理装置は、図3に示す水処理装置において、逆浸透膜装置40の透過水出口に接続されたDPD法による全塩素濃度計50と、逆浸透膜装置40の透過水を逆浸透膜装置40の前段に戻す配管とを設けたものである。全塩素濃度計50は、逆浸透膜装置40の透過水におけるヨウ素含有酸化剤の濃度、具体的には有効なヨウ素濃度を求めるために設けられている。この水処理装置では、後段のEDI装置10に供給される被処理水における酸化剤である有効なヨウ素濃度を低減するために、全塩素濃度計50によって残留塩素濃度として測定される有効なヨウ素濃度が所定値未満となるような制御が行われる。透過水における有効なヨウ素濃度を低減するためには、例えば、全塩素濃度計50の測定値に基づいて、ヨウ素含有酸化剤の添加量を制御したり、逆浸透膜装置40から排出される透過水を逆浸透膜装置40の前段側に戻すときの量を増減させたり、あるいは、逆浸透膜装置40の透過水出口に対して活性炭装置を設けたりして、EDI装置10に供給される被処理水における酸化剤濃度を調整すればよい。
【0033】
図3および図4示す水処理装置は、EDI装置10の前段に逆浸透膜装置40を配置し、逆浸透膜装置40に供給される被処理水に対してヨウ素含有酸化剤を添加するようにしたものである。これらの水処理装置においても、被処理水へのヨウ素含有酸化剤の添加は連続的に行ってもよいし、間欠的に行ってもよい。スライムの発生を抑制しつつ逆浸透膜41やEDI装置10の劣化を抑制し、処理水における水質の低下を抑制するためには、逆浸透膜装置40の前段においてヨウ素含有酸化剤を被処理水に添加する場合においても、ヨウ素含有酸化剤の添加を間欠的に行うことが好ましい。水処理装置に対して連続的に被処理水を供給することとして、例えば、いずれの24時間以内においても添加期間が12時間以内であるように、添加期間を0.01~12時間の範囲とし、無添加期間を1~320時間の範囲として、逆浸透膜装置40に供給される被処理水にヨウ素含有酸化剤を添加することができる。
【0034】
図5は、図1図3および図4に示す水処理装置の各々において使用できるEDI装置の別の例を示している。図5に示すEDI装置は、図2に示したEDI装置10の脱塩室23を中間イオン交換膜で仕切り、中間イオン交換膜よりも陽極11の側を第1小脱塩室27とし、中間イオン交換膜よりも陰極12の側を第2小脱塩室28としたものである。中間イオン交換膜としてはアニオン交換膜37が用いられている。したがって、第1小脱塩室27はアニオン交換膜32とアニオン交換膜37により区画され、第2小脱塩室28はアニオン交換膜37とカチオン交換膜33により区画されることになる。このEDI装置では、被処理水はまず第1小脱塩室27に供給され、第1小脱塩室27の出口水がそのまま第2小脱塩室28に供給され、第2小脱塩室28からは、このEDI装置の処理水が排出する。ここで示す例では第1小脱塩室27にはアニオン交換樹脂が充填されている。第2小脱塩室28は、複床構成となっており、被処理水の流れの方向に沿って上流側にはカチオン交換樹脂が充填され、下流側にはアニオン交換樹脂が充填されている。図5に示すEDI装置においても、アニオン交換膜32、第1小脱塩室27、アニオン交換膜37、第2小脱塩室28、カチオン交換膜33および濃縮室24からなる並びを繰り返し単位Xとして、陽極室21に隣接する濃縮室22と、陰極室25に接するアニオン交換膜34との間に、繰り返し単位Xを直列に複数セット設けることができる。
【0035】
上述したように本実施形態で用いられるヨウ素含有酸化剤とは、元素としてヨウ素を含む酸化剤のことであり、ヨウ素含有酸化剤を添加されることによって、被処理水は酸化力を有するようになる。したがって、被処理水自体が既に酸化剤を含んでいて酸化力を有する場合には、その被処理水にヨウ化物を添加するだけで、被処理水は、ヨウ素含有酸化剤が添加されたときと同じ状態になる。同様に、被処理水自体が既にヨウ化物を含んでいる場合には、その被処理水に酸化剤を添加するだけで、被処理水は、ヨウ素含有酸化剤が添加されたときと同じ状態になる。したがって、本発明は、被処理水に薬品を添加するとして、その薬品がヨウ素含有酸化剤である場合だけでなく、被処理水が既に酸化剤を含むときに被処理水に添加される薬品がヨウ化物である場合と、被処理水が既にヨウ化物を含むときに被処理水に添加される薬品が酸化剤である場合とを包含する。また、被処理水中における混合あるいは反応によってヨウ素含有酸化剤が生成するように、被処理水に対し、ヨウ素を含有する薬品と酸化剤とを別々に添加する場合も本発明の範疇に含まれる。
【実施例0036】
次に、本発明について実施例によりさらに詳しく説明する。以下において、有効ヨウ素濃度は、DPD法による全塩素濃度測定を行うことによって得られた値である。そしてCT値は、上述したように、ヨウ素含有酸化剤の添加を行う期間Tにおける被処理水での有効ヨウ素濃度Cの積算量として得られる値である。
【0037】
[実施例1]
図5に示したEDI装置10を組み立て、このEDI装置10に対し、スライム抑制剤としてヨウ素含有酸化剤を添加した被処理水を供給してEDI装置10を運転し、そのときの第2小脱塩室28から排出される処理水の比抵抗と、第1小脱塩室27および第2小脱塩室28の全体での通水差圧(これを脱塩室の通水差圧とする)の変化と、濃縮室22,24での通水差圧の変化とを調べた。被処理水としては相模原市における井水を使用し、ヨウ素含有酸化剤を添加するときの被処理水での有効ヨウ素濃度を0.75mg/L as Clとした。ヨウ素含有酸化物として、水とヨウ素とヨウ化物とを含む溶液を使用した。結果を図6(処理水の比抵抗)、図7(脱塩室の通水差圧)および図8(濃縮室の通水差圧)に示す。これらの図における横軸はCT値で表されている。
【0038】
[比較例1,2]
図5に示すEDI装置10を組み立て、実施例1と同様に運転した。ただし、被処理水に添加されるスライム抑制剤として次亜塩素酸ナトリウム(比較例1)および安定化次亜臭素酸組成物(比較例2)を使用し、処理水の比抵抗の変化を調べた。表1は、運転開始前と、運転開始後にCT値が100mg・h/L as Clとなったときに得られた処理水の比抵抗を、上述した実施例1の場合での結果とともに示している。
【0039】
【表1】
【0040】
実施例1に示すように、スライム抑制剤としてヨウ素含有酸化剤を使用したときは、長期にわたってEDI装置の処理水の比抵抗が高く維持され、脱塩室および濃縮室の通水差圧もほとんど変化しなかった。これに対し、スライム抑制剤として次亜塩素酸ナトリウムを用いたとき(比較例1)および安定化次亜臭素酸組成物(比較例2)を用いたときは、EDI装置の運転時間が長くなると比抵抗が低下し、処理水の水質が悪化することが分かった。比抵抗の変化の傾向として、次亜塩素酸ナトリウムを用いた比較例1では、EDI装置の運転開始から早い時期に処理水の比抵抗が急激に低下し、その後、比抵抗はあまり変化しなかった。これに対し、安定化次亜臭素酸組成物を用いた比較例2では、比抵抗が徐々に低下した。これらの結果から、スライム抑制剤としてヨウ素含有酸化剤を使用することにより、EDI装置における処理水質の低下や通水差圧の上昇を抑制できることが分かった。
【0041】
[実施例2、比較例3,4]
生菌を含む水に対し、スライム抑制剤として、実施例1で用いたものと同じヨウ素含有酸化剤(実施例2)、次亜塩素酸ナトリウム(比較例3)および安定化次亜臭素酸組成物(比較例4)を接触させ、スライム抑制剤を接触させる前の生菌数とスライム抑制剤を1時間にわたって接触させた後の生菌数とを調べた。スライム抑制剤の濃度はいずれの場合も1mg/L as Clであった。結果を表2に示す。
【0042】
【表2】
【0043】
以上の結果から、スライム抑制剤としてヨウ素含有酸化剤は、次亜塩素酸ナトリウムや安定化次亜臭素酸組成物に比べて殺菌力が強いことが分かった。上述したようにスライム抑制剤としてヨウ素含有酸化剤を用いることにより、EDI装置における処理水質の低下や通水差圧の上昇を抑制できるので、ヨウ素含有酸化剤は、稼働中のEDI装置にも用いることができる優れたスライム抑制剤であることが分かった。
【0044】
[実施例3]
図5に示すEDI装置10を組み立て、スライム抑制剤としてヨウ素含有酸化剤を添加した被処理水をEDI装置10の第1小脱塩室27に供給してEDI装置10を運転した。そして、EDI装置10の濃縮室22,24に充填されているアニオン交換樹脂(AER)の体積の総量に対するEDI装置10に連続して流入した有効ヨウ素の累積量の比と、EDI装置10から排出される濃縮水における有効ヨウ素濃度との関係を調べた。その結果を図9に示す。EDI装置10に連続して流れ込む有効ヨウ素の累積量がある値に達するまでは、濃縮室22,24から流れ出る濃縮水へのヨウ素成分(これはヨウ化物イオンなども含む)のリークが起こらず、ヨウ素がEDI装置10内のアニオン交換樹脂に捕捉されることが分かった。
【符号の説明】
【0045】
10 電気式脱イオン水製造装置(EDI装置)
40 逆浸透膜装置
41 逆浸透膜
50 全塩素濃度計
11 陽極
12 陰極
21 陽極室
22,24 濃縮室
23 脱塩室
25 陰極室
27,28 小脱塩室
31,33 カチオン交換膜
32,34,37 アニオン交換膜
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9