(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023183460
(43)【公開日】2023-12-28
(54)【発明の名称】構造物管理方法、構造物管理装置、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G01N 17/00 20060101AFI20231221BHJP
【FI】
G01N17/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022096989
(22)【出願日】2022-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】000003687
【氏名又は名称】東京電力ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100179833
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 将尚
(74)【代理人】
【識別番号】100114937
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 裕幸
(72)【発明者】
【氏名】吉野 恵一
(72)【発明者】
【氏名】伊地知 弘光
(72)【発明者】
【氏名】岸垣 暢浩
(72)【発明者】
【氏名】龍岡 照久
(72)【発明者】
【氏名】山戸 祐貴
(72)【発明者】
【氏名】白石 智規
【テーマコード(参考)】
2G050
【Fターム(参考)】
2G050AA01
2G050AA04
2G050BA05
2G050BA20
2G050EB07
(57)【要約】
【課題】構造物の塗装面の劣化速度を精度よく推定することができる構造物管理方法、構造物管理装置、及びプログラムを提供する。
【解決手段】構造物に施工された塗装面に比して劣化速度が高い試験用塗装面を有する試験片を作成し、前記試験片を環境条件が異なる複数の測定点に設置し、前記試験片の劣化状態に基づいて前記測定点における前記試験用塗装面の劣化速度を測定し、測定により得られた実測値を用いて重回帰分析を行い、前記塗装面の劣化速度を前記塗装面の劣化要因に関連するパラメータに基づいて算出するための関係式を算出し、前記関係式に基づいて、前記測定点と異なる位置に配置された前記構造物の前記塗装面の前記劣化速度を前記位置に応じた前記パラメータに基づいて算出し、前記位置と前記構造物とを対応させた前記塗装面の状態を管理するマップを作成する構造物管理方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物に施工された塗装面に比して劣化速度が高い試験用塗装面を有する試験片を作成し、
前記試験片を環境条件が異なる複数の測定点に設置し、
前記試験片の劣化状態に基づいて前記測定点における前記試験用塗装面の劣化速度を測定し、
測定により得られた実測値を用いて重回帰分析を行い、前記塗装面の劣化速度を前記塗装面の劣化要因に関連するパラメータに基づいて算出するための関係式を算出し、
前記関係式に基づいて、前記測定点と異なる位置に配置された前記構造物の前記塗装面の前記劣化速度を前記位置に応じた前記パラメータに基づいて算出し、
前記位置と前記構造物とを対応させた前記塗装面の状態を管理するマップを作成する、
構造物管理方法。
【請求項2】
前記パラメータは、前記塗装面の下層のメッキ層の腐食度合いを示す亜鉛腐食速度と、前記塗装面の劣化に影響を与える前記構造物の前記位置における紫外線量を含み、
前記劣化速度は、前記塗装面に生じる錆の発生度合いを示す錆面積率を含む、
請求項1に記載の構造物管理方法。
【請求項3】
構造物に施工された塗装面に比して劣化速度が高い試験用塗装面を有する試験片を環境条件が異なる複数の測定点に設置して前記試験片の前記試験用塗装面の劣化速度を測定した実測値を取得する取得部と、
前記実測値を用いて重回帰分析を行い、前記塗装面の劣化速度を前記塗装面の劣化要因に関連するパラメータに基づいて算出するための関係式を算出し、前記関係式に基づいて、前記測定点と異なる位置に配置された前記構造物の前記塗装面の前記劣化速度を前記位置に応じた前記パラメータに基づいて算出し、前記位置と前記構造物とを対応させた前記塗装面の状態を管理するマップを作成する、演算部を備える、
構造物管理装置。
【請求項4】
構造物の塗装面の劣化状態を管理する構造物管理装置に搭載されたコンピュータに、
環境条件が異なる複数の測定点に設置され、構造物に施工された塗装面に比して劣化速度が高い試験用塗装面を有する試験片の劣化状態に基づいて前記測定点における前記試験用塗装面の劣化速度の測定により得られた実測値を取得させ、
前記実測値を用いて重回帰分析を行わせ、
前記塗装面の劣化速度を前記塗装面の劣化要因に関連するパラメータに基づいて算出するための関係式を算出させ、
前記関係式に基づいて、前記測定点と異なる位置に配置された前記構造物の前記塗装面の前記劣化速度を前記位置に応じた前記パラメータに基づいて算出させ、
前記位置と前記構造物とを対応させた前記塗装面の状態を管理するマップを作成させる、
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗装面の劣化を予測するための構造物管理方法、構造物管理装置、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
鉄塔等の金属構造物は、腐食防止のために表面に塗装が施されている。金属部材の表面に施工された塗膜は、経時的に劣化が進行し金属部材が腐食する虞がある。そのため、金属構造物の塗装面は、定期的に点検され、劣化の状態に応じて塗り替え等の補修が行われる。一般的に、構造物に施工された塗装の寿命は、塗装の目的に応じて、光沢度の低下や塗膜の消失減耗に基づいて評価されている。
【0003】
塗装の点検においては、作業者が限度見本等と塗装面とを比較して、経験や知見に基づいて塗膜下に腐食が発生しているか否かを判定し、塗り替え時期を決定している。このとき、塗装面が塗り替え時期に達していなければ、継続的に点検を行っている。防錆を目的とした実際の塗装の場合、塗膜下において発生する腐食の面積の拡大度合いを判断し塗り替えを行うか否かが決定されている。このため、塗装の寿命は、塗膜下において発生する腐食の有無に基づいて評価されることが望ましい。
【0004】
塗膜下において発生する腐食の発生時期や劣化速度は、構造物の周辺環境に応じて異なっていることが経験的に知られている。環境に応じた塗膜下における腐食の劣化速度が分かれば、定量的に塗り替え時期を判断することが可能である。しかしながら、環境に応じた塗膜下の部材表面の劣化速度については、定量的に評価されていないのが現状である。
【0005】
出願人は、特許文献1において、周辺環境に応じた亜鉛腐食速度を推定する腐食速度評価方法を提案している。特許文献1に記載された手法によれば、目的変数を亜鉛腐食速度、説明変数を気象などの腐食に影響を与える環境因子や地形などの腐食に影響を与える地形因子に設定して重回帰分析を行い、亜鉛腐食速度を分析している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
塗料は高分子材料であるため、塗装面の劣化速度を正確かつ定量的に評価する場合、説明変数は、環境因子や地形因子だけでなく塗装面を形成する高分子の劣化に関係する因子を考慮する必要がある。特許文献1に記載された手法においては、塗装面の劣化に関係する因子についてはまだ提案されていなかった。
【0008】
本発明は、構造物の塗装面の劣化速度を精度よく推定することができる構造物管理方法、構造物管理装置、及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、構造物に施工された塗装面に比して劣化速度が高い試験用塗装面を有する試験片を作成し、前記試験片を環境条件が異なる複数の測定点に設置し、前記試験片の劣化状態に基づいて前記測定点における前記試験用塗装面の劣化速度を測定し、測定により得られた実測値を用いて重回帰分析を行い、前記塗装面の劣化速度を前記塗装面の劣化要因に関連するパラメータに基づいて算出するための関係式を算出し、前記関係式に基づいて、前記測定点と異なる位置に配置された前記構造物の前記塗装面の前記劣化速度を前記位置に応じた前記パラメータに基づいて算出し、前記位置と前記構造物とを対応させた前記塗装面の状態を管理するマップを作成する、構造物管理方法である。
【0010】
本発明によれば、試験片の試験用塗装面の劣化速度を測定することにより、構造物の塗装面の劣化状態を定量的に推定する関係式を算出することができる。本発明によれば、関係式に基づいて測定点以外の構造物の塗装面の将来的な劣化状態を定量的に推定することができる。本発明によれば、関係式を用いて算出した構造物の塗装面の劣化状態に基づいて構造物の塗装面を管理するマップを作成することができる。
【0011】
また、本発明の前記パラメータは、前記塗装面の下層のメッキ層の腐食度合いを示す亜鉛腐食速度と、前記塗装面の劣化に影響を与える前記構造物の前記位置における紫外線量を含み、前記劣化速度は、前記塗装面に生じる錆の発生度合いを示す錆面積率を含んでいてもよい。
【0012】
本発明によれば、構造物の塗装面等の高分子の劣化に関係する因子をパラメータとする関係式を算出することにより、塗装面の将来的な劣化状態を定量的に推定することができる。
【0013】
また、本発明の一態様は、構造物に施工された塗装面に比して劣化速度が高い試験用塗装面を有する試験片を環境条件が異なる複数の測定点に設置して前記試験片の前記試験用塗装面の劣化速度を測定した実測値を取得する取得部と、前記実測値を用いて重回帰分析を行い、前記塗装面の劣化速度を前記塗装面の劣化要因に関連するパラメータに基づいて算出するための関係式を算出し、前記関係式に基づいて、前記測定点と異なる位置に配置された前記構造物の前記塗装面の前記劣化速度を前記位置に応じた前記パラメータに基づいて算出し、前記位置と前記構造物とを対応させた前記塗装面の状態を管理するマップを作成する、演算部を備える、構造物管理装置である。
【0014】
本発明によれば、試験片の試験用塗装面の劣化速度を測定結果に基づいて、構造物の塗装面の劣化状態を定量的に推定する関係式を算出する構造物管理装置を構成することができる。
【0015】
また、本発明の一態様は、構造物の塗装面の劣化状態を管理する構造物管理装置に搭載されたコンピュータに、環境条件が異なる複数の測定点に設置され、構造物に施工された塗装面に比して劣化速度が高い試験用塗装面を有する試験片の劣化状態に基づいて前記測定点における前記試験用塗装面の劣化速度の測定により得られた実測値を取得させ、前記実測値を用いて重回帰分析を行わせ、前記塗装面の劣化速度を前記塗装面の劣化要因に関連するパラメータに基づいて算出するための関係式を算出させ、前記関係式に基づいて、前記測定点と異なる位置に配置された前記構造物の前記塗装面の前記劣化速度を前記位置に応じた前記パラメータに基づいて算出させ、前記位置と前記構造物とを対応させた前記塗装面の状態を管理するマップを作成させる、プログラムである。
【0016】
本発明によれば、試験片の試験用塗装面の劣化速度を測定結果に基づいて、構造物の塗装面の劣化状態を定量的に推定する関係式を算出させるプログラムを構成することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、構造物の塗装面の劣化速度を精度よく推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図2】試験片を観測点において所定期間暴露した後の劣化状態を示す図である。
【
図3】試験片の観測結果に基づいて算出した関係式の再現性を示す図である。
【
図4】腐食に関係する因子及び高分子の劣化に関係する因子と塗装面の劣化速度との関連性を示す図である。
【
図5】構造物を管理するマップの一例を示す図である。
【
図6】構造物を管理する管理情報の一例を示す図である。
【
図7】構造物管理システムの構成を示すブロック図である。
【
図8】構造物管理方法の各工程を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態に係る構造物管理方法、構造物管理装置、及びプログラムについて説明する。
【0020】
図1には、構造物管理方法に用いられる試験片Sが示されている。試験片Sは、矩形の板状に形成されている。試験片Sは、金属板S1と、金属板S1を覆う塗装面S2(試験用塗装面)とにより形成されている。金属板S1は、鉄塔等の金属構造物を構成する金属部材と同一の材料により形成されている。金属板S1の表面には、金属部材の種類に応じて亜鉛メッキが施工されている。金属板S1の表面或いは上層には、塗膜となる塗装面S2が形成されている。
【0021】
塗装面S2は、金属構造物に施工された塗装面に用いられた塗料と同一の塗料を用いて形成されている。塗装面S2は例えば、金属構造物の塗装面の実際の塗膜の厚さT0に比して半分程度の厚さT1に形成されている。これにより、塗装面S2は、実際の金属構造物に施工された塗装面に比して劣化速度が高く、早期に劣化するように形成されている。塗装面S2の厚さは、適宜調整されてもよい。塗装面S2の下地の状態は、実際の塗装面に応じて錆止め塗装や下地塗装等に適宜変更されてもよい。
【0022】
試験片Sは、環境条件が異なる複数の測定点において、空中に暴露された状態に設置される。測定点とは、例えば、実際の金属構造物の位置である。それぞれの測定点は、温度、湿度、降雨、大気中を飛来している海塩や腐食性ガス(SOx)などの環境因子が異なる。また、それぞれの測定点は、平均温度、波浪、波浪などの気象因子が異なっている。また、それぞれの測定点は、緯度、経度、標高、曲率(地形の凹凸)、海距離、海度(海の占める割合)、前方障害度、中間障害標高、地点中間距離、中間海距離などの地形因子が異なっている。測定点において、所定の観測期間が経過した後、試験片Sの劣化状態が判定される。測定点において、試験片Sの塗装面S2の劣化状態に基づいて塗装面S2の劣化速度が測定される。
【0023】
図2には、異なる環境状態の6箇所の測定点に所定期間の間に設置された試験片Sの劣化状態が示されている。試験片Sの劣化速度は、測定期間(例えば、1年)における試験片Sの面積に対する錆が発生した面積が占める割合である錆面積率(%/年)により算出される。試験片Sの劣化速度は、錆面積率だけでなく、試験片Sの腐食状態が判定可能であれば電気的な特性値等の他のパラメータが用いられてもよい。図示するように、測定点における環境状態の違いに応じて試験片Sの劣化状態が異なっている。測定点における環境状態の指標は、例えば、紫外線量(MJ/m
2/day)と、亜鉛腐食速度(μm/年)が用いられる。これらの指標は、予め計測点において計測されたデータであり、データベースに記憶されている。試験片Sの劣化状態を観察すると、測定点における塗装面の劣化要因が大きくなると塗装面S2の劣化の進行度合いが増加する傾向がわかる試験片Sにより得られた測定値に基づいて、塗装面S2の劣化速度を定量化する。
【0024】
試験片Sを用いて測定された塗装面S2の劣化速度、測定点における環境状態の指標データを用いて構造物の塗装面の劣化速度推定式を算出する。劣化速度推定式は、塗装面の劣化速度を塗装面の劣化要因に関連するパラメータに基づいて算出する関係式であり、測定点以外に設置された構造物の塗装面の劣化速度を推定することができる。
【0025】
本発明の実施の形態では、構造物の塗装面の劣化速度は、例えば、重回帰分析法を用いて算出する。劣化速度推定式の目的変数は、構造物の塗装面の劣化速度に設定される。劣化速度推定式の説明変数は、塗装面の劣化要因に関連するパラメータに設定される。説明変数のパラメータは、例えば、亜鉛腐食速度と紫外線量である。重回帰分析法は、任意の説明変数X1~Xn(n:自然数)に基づいて目的変数Yを求める関係式である。重回帰式は、a1~anを係数、bを定数としたとき、下記の(1)式で示される。
Y=a1X1+a2X2+…anXn+b (1)
【0026】
目的変数Yである塗装面の劣化速度は、複数の測定点において測定される。測定点での説明変数X1~Xnの数値は、測定点に対応して記録されたデータベースから取得する。劣化速度の実測値と、説明変数の記録値とを用いて重回帰分析を行い、関係式の係数a1~anと定数bとが算出される。一例として、塗装面の劣化速度は、目的変数を塗装面の劣化速度、説明変数を亜鉛腐食速度及び紫外線量とすると、関係式は、重回帰分析に基づいて以下の式(2)により示される。
錆面積率(%/年)=31.35×亜鉛腐食速度(μm/年)+177.87×紫外線量(MJ/m2/day)-161.75 (2)
【0027】
図3に示されるように、算出された関係式と実測値とは相関関係があり、算出された関係式を用いると、測定点以外の地点に存在する構造物の塗装面の劣化速度を定量的に推定することができる。
図4に示されるように、塗装面の劣化速度は、腐食に関係する因子が大きく、且つ高分子の劣化に関係する因子が大きくなるほど速くなるという関連性があり、腐食に関係する因子が小さく、且つ劣化に関係する因子が小さくなるほど遅くなるという関連性がある。関係式に基づいて、測定点と異なる位置に配置された構造物の塗装面の劣化速度を位置に応じた亜鉛腐食速度や紫外線量等のパラメータに基づいて算出する。算出値に基づいて、位置と構造物とを対応させた塗装面の将来的な状態を管理するための管理情報となるマップを作成することができる。
【0028】
図5には、マップの表示画像M1の一例が示されている。表示画像M1には、地図をメッシュ化し、複数のメッシュ要素Msには、鉄塔T等の金属構造物が配置されている。各鉄塔Tには、IDが付されており、IDと管理情報とが関連付けられて管理されている。
【0029】
図6には、鉄塔Tの管理情報Kの一例が示されている。管理情報Kは、例えば、関係式を用いて算出された算出結果に基づいて作成される。管理情報Kは、例えば、マップ上の鉄塔Tを選択する操作に基づいて表示される。管理情報Kは、後述の管理装置の表示部に表示される。管理情報Kにおいては、算出値に基づいて構造物の塗装面の将来的な状態を定量的に推定することができ、算出値と予め設定された閾値とを比較して、構造物の塗装面の次回の塗装時期を算出することができる。
【0030】
管理情報Kにおいて、塗装面の劣化レベルに基づいて塗装時期が近いと算出された鉄塔Tは、表示画像M1上においてアラート等の情報が示されてもよい。アラートは、例えば、文字情報、画像に基づく情報が表示される。画像に基づく情報は、例えば、表示画像M1上において塗装時期であると算出された鉄塔Tを含むメッシュ要素Msを他のメッシュ要素Msと区別する色が付されて表示されるものであってもよい。
【0031】
図7に示されるように、管理情報Kは、鉄塔Tを管理するための構造物管理システム1に基づいて、自動的に生成され、管理されてもよい。構造物管理システム1は、例えば、管理対象となる所定数の鉄塔Tm(m:自然数)のうち、選択された複数の鉄塔Tn(n<m:自然数)に設けられた所定数の検出部2-nと、検出部2-nの検出結果に基づいて、鉄塔Tの塗装面の劣化状態を管理する構造物管理装置10とにより構成されている。
【0032】
鉄塔Tnは、所定数の鉄塔Tmのうち、環境条件が異なる複数の測定点から選択される。鉄塔Tnには、試験片Sが空中に暴露された状態において配置されている。鉄塔Tnには、試験片Sの塗装面S2の劣化速度を測定する検出部2-nが設けられている。検出部2-nは、例えば、カメラを用いて試験片Sの塗装面S2を撮像し、劣化速度の実測値となる撮像データを生成する。検出部2-nは、撮像データの他、試験片Sに設けられた電極に流れる電流値や電圧を検出するものであってもよい。検出部2-nは、例えば、有線或いは無線通信に基づいてネットワークNWを介して構造物管理装置10に通信可能に接続されている。検出部2-nは、例えば、月毎などの所定のタイミングにおいて定期的に撮像データ等の検出値を構造物管理装置10に送信する。
【0033】
構造物管理装置10は、管理対象となる鉄塔Tmの状態や塗装時期を管理する管理情報Kを精製する情報処理端末装置である。構造物管理装置10は、例えば、パーソナルコンピュータ、タブレット型端末、スマートフォン等により実現される。構造物管理装置10は、検出部2―nとネットワークNWを介して通信可能に接続されている。構造物管理装置10は、例えば、検出部2から検出値のデータを取得する取得部12と、検出値に基づいて管理情報Kを生成する演算部14と、演算に関するデータを記憶する記憶部16と、演算結果を表示する表示部18とを備える。
【0034】
取得部12は、鉄塔Tnに施工された塗装面に比して劣化速度が高い塗装面S2を有する試験片Sの試験用塗装面の劣化速度を測定した実測値を取得する。取得部12は、ローカルネットワーク又は公衆ネットワークに接続された通信インタフェースである。記憶部16は、ハードディスクドライブ(HDD)、フラッシュメモリ等の記憶媒体を有する。記憶部16は構造物管理装置10に必ずしも内蔵され、又は外部接続されているわけではなく、ネットワークを通じてデータを提供するサーバ(不図示)に設けられていてもよい。表示部18は、液晶ディスプレイ等の表示装置である。表示部18は、表示画像M1や管理情報Kを表示する。
【0035】
取得された撮像データを用いて、構造物管理装置10において、試験片Sの塗装面S2の劣化状態が記録される。このとき、試験片Sの塗装面S2の劣化状態は、操作者の経験に基づいて入力されてもよいし、演算部14による処理に基づいて自動的に判定されてもよい。演算部14は、例えば、試験片Sを撮像した撮像データに基づいて試験片Sの劣化状態を判定する。演算部14は、例えば、予め試験片Sの腐食度合いを示す撮像データを教師データとするディープラーニングを用いた機械学習に基づいて撮像データにおける試験片Sの劣化状態を判定する。
【0036】
図8には、構造物管理方法の各工程がフローチャートにより示されている。管理者は、試験用塗装面を有する試験片を作成する(ステップS100)。管理者は、試験片を環境条件が異なる複数の測定点に設置する(ステップS102)。演算部14は、試験片の劣化状態に基づいて測定点における試験用塗装面の劣化速度を測定する(ステップS104)。ステップS104は、管理者による判定処理であってもよい。演算部14は、試験片Sの劣化状態の実測値を用いて重回帰分析を行い、鉄塔Tの塗装面の劣化速度を塗装面の劣化要因に関連するパラメータに基づいて算出するための関係式を算出する(ステップS106)。
【0037】
演算部14は、関係式に基づいて、測定点と異なる位置に配置された鉄塔Tの塗装面の劣化速度を位置に応じたパラメータに基づいて算出する(ステップS108)。演算部14は、塗装面の下層のメッキ層の腐食度合いを示す亜鉛腐食速度と、塗装面の劣化に影響を与える構造物の位置における紫外線量及び亜鉛腐食速度をパラメータとし、塗装面に生じる錆の発生度合いを示す錆面積率を劣化速度とした関係式を算出する。演算部14は、鉄塔Tの塗装時期を推定する。演算部14は、算出した鉄塔Tの塗装時期を含む管理情報Kを生成する。
【0038】
演算部14は、算出した関係式を用いて位置と鉄塔Tとを対応させた塗装面の状態を管理するマップを作成する(ステップS110)。演算部14は、位置と構造物とを対応させた塗装面の状態を管理するマップを作成する。演算部14は、表示部18を制御して管理情報Kを表示させる(ステップS112)。
【0039】
演算部14は、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)等のプロセッサがプログラム(ソフトウェア)を実行することで実現される。これらの各機能部のうち一部または全部は、LSI(Large Scale Integration)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)等のハードウェアによって実現されてもよいし、ソフトウェアとハードウェアの協働によって実現されてもよい。プログラムは、予め記憶部16に設けられたHDD(Hard Disk Drive)やフラッシュメモリなどの記憶装置に格納されていてもよいし、DVDやCD-ROMなどの着脱可能な記憶媒体に格納されており、記憶媒体がドライブ装置に装着されることで記憶装置にインストールされてもよい。
【0040】
プログラムは、鉄塔Tの塗装面の劣化状態を管理する構造物管理装置10に搭載されたコンピュータに、以下の処理を実行させる。プログラムは、環境条件が異なる複数の測定点に設置された試験片Sの塗装面S2の劣化速度の実測値を取得させる。プログラムは、実測値を用いて重回帰分析を行わせる。プログラムは、塗装面の劣化速度を塗装面の劣化要因に関連するパラメータに基づいて算出する関係式を算出させる。プログラムは、関係式に基づいて、測定点と異なる位置に配置された構造物の塗装面の劣化速度を位置に応じたパラメータに基づいて算出させる。プログラムは、位置と構造物とを対応させた塗装面の状態を管理するマップを作成させる。
【0041】
上述したように構造物管理方法によれば、金属構造物の塗装面の将来的な劣化状態を精度よく定量的に推定することができる。構造物管理方法によれば、実際の構造物の塗装面に比して劣化速度が高い塗装面S2を有する試験片Sを利用することにより、金属構造物の塗装面の劣化速度を定量的に示す関係式を算出することができる。構造物管理方法によれば、関係式を利用して、観測点に設置された構造物以外の位置に設置された他の構造物の塗装面の将来的な劣化状態を予測することができる。構造物管理方法によれば、関係式を利用して管理対象となる全ての構造物の塗装面の状態を管理するマップを作成することができる。構造物管理方法によれば、マップに基づいて管理対象となる全ての構造物の塗装面の塗装時期を管理することができる。
【0042】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。例えば、構造物管理方法は、鉄塔Tだけでなく他の金属構造物や、船舶、車両等の金属下地を有する塗装面の劣化状態の推定に適用してもよい。構造物管理方法は、亜鉛腐食速度と、構造物の前記位置における紫外線量だけでなく塗装面の劣化状態に影響を与える要因となる気候条件や環境条件等の他のパラメータを用いて関係式を算出してもよい。
【0043】
試験片Sは、金属下地に塗装したものだけでなく、旧塗装面を剥離せずにケレンしたものを下地として塗装した状態を再現したもの等、前回施工された塗装状態からの劣化速度を判定するものであってもよい。この場合、試験片Sは、旧塗装面を様々な膜厚にて再現して形成し、劣化速度を判定するものであってもよい。塗装面の劣化速度が高い環境においては、試験片Sだけでなく、構造物の実際の塗装面の劣化状態を観察して塗装時期を判定してもよい。関係式を利用して算出された将来的な塗装面の劣化状態の推定結果は、構造物の実際の塗装面の劣化状態を観察した実測データに基づいて適宜修正されてもよい。
【符号の説明】
【0044】
10 構造物管理装置
12 取得部
14 演算部
S 試験片
S2 塗装面