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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023183477
(43)【公開日】2023-12-28
(54)【発明の名称】内燃機関制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 45/00 20060101AFI20231221BHJP
【FI】
F02D45/00 368A
F02D45/00 360Z
F02D45/00 370
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022097010
(22)【出願日】2022-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【弁理士】
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【弁理士】
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100122437
【弁理士】
【氏名又は名称】大宅 一宏
(74)【代理人】
【識別番号】100147566
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100161171
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 潤一郎
(72)【発明者】
【氏名】横野 道久
(72)【発明者】
【氏名】松嶋 裕平
(72)【発明者】
【氏名】井上 純一
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 敏克
(72)【発明者】
【氏名】若山 光男
(72)【発明者】
【氏名】市橋 実歩
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 賢一
(72)【発明者】
【氏名】東尾 理克
(72)【発明者】
【氏名】奥村 拓仁
(72)【発明者】
【氏名】津川 毅
【テーマコード(参考)】
3G384
【Fターム(参考)】
3G384DA04
3G384DA56
3G384EC01
3G384FA06Z
3G384FA33Z
3G384FA58Z
3G384FA61Z
(57)【要約】
【課題】ノックの検出性を向上することができる内燃機関制御装置を得ることを目的とする。
【解決手段】内燃機関制御装置100は、ノックセンサ11からの振動検出信号と、クランク角度センサ9からの角度検出信号とから、振動波形を検出する振動波形検出部20と、振動波形のうち、インジェクタ3の動作タイミングから設定期間内の波形であるインジェクタ動作時波形を抽出し、インジェクタ動作時波形に基づいて、インジェクタ3の動作に起因するノイズを除去するための補正値を算出するインジェクタノイズ補正値算出部21と、振動波形のうち、インジェクタ3の動作タイミングから設定期間の波形を対象に、補正値を適用することにより、ノイズの除去処理を行うノイズ振動波形除去部22と、除去処理後の波形に基づいて、エンジン1にノックが発生しているかどうかを判定する判定部23と、を有している。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関に生じる振動を検出するノックセンサからの振動検出信号と、前記内燃機関のクランク角度を検出するクランク角度センサからの角度検出信号とが入力される電子制御装置を備え、
前記電子制御装置は、
前記振動検出信号と前記角度検出信号とからノック固有周波数成分の振動波形を検出する振動波形検出部と、
前記振動波形のうち、前記内燃機関に燃料を噴射するインジェクタの動作のタイミングから設定期間内の波形であるインジェクタ動作時波形を抽出し、抽出した前記インジェクタ動作時波形に基づいて、前記インジェクタの動作に起因する振動ノイズであるインジェクタノイズを前記振動波形から除去するための補正値を算出するインジェクタノイズ補正値算出部と、
前記振動波形のうち、前記インジェクタの動作のタイミングから前記設定期間内の波形を対象に、前記補正値を適用することにより、前記インジェクタノイズの除去処理を行うノイズ振動波形除去部と、
前記除去処理が行われた後の波形に基づいて、前記内燃機関にノックが発生しているかどうかを判定する判定部と
を有している、内燃機関制御装置。
【請求項2】
前記インジェクタノイズ補正値算出部は、抽出した前記インジェクタ動作時波形に対して変形処理を行い、前記変形処理後の前記インジェクタ動作時波形に基づいて、前記補正値を算出し、
前記変形処理は、抽出された前記インジェクタ動作時波形から、設計サンプル数の期間内に含まれている波形を注目波形として抽出する注目波形抽出処理と、当該注目波形内の最大値を、変形後の前記インジェクタ動作時波形の値とする置換え処理とを、前記設計サンプル数の前記期間をスライドさせながら繰り返し行う処理である、請求項1記載の内燃機関制御装置。
【請求項3】
前記インジェクタノイズ補正値算出部は、前記インジェクタ動作時波形に対し、設定値を乗算し、または設定値を減算し、または前記乗算と前記減算との両方の演算を行うことにより、前記補正値を算出する、請求項1または2記載の内燃機関制御装置。
【請求項4】
前記インジェクタノイズ補正値算出部は、前記内燃機関の回転速度及び負荷状態のいずれかに基づいて予め決定された値を、前記乗算用または前記減算用の前記設定値として用いる、請求項3記載の内燃機関制御装置。
【請求項5】
前記ノイズ振動波形除去部は、前記補正値を適用した結果が負値となった場合、前記結果が予め設定された下限値となるように下限クリップ処理を行う、請求項1または2記載の内燃機関制御装置。
【請求項6】
前記インジェクタが1点火に対して1回の燃料噴射を行う場合、
前記インジェクタノイズ補正値算出部は、前記インジェクタの開動作時における前記インジェクタ動作時波形を抽出し、抽出した前記インジェクタ動作時波形に基づいて、前記補正値を開動作時補正値として算出し、
前記ノイズ振動波形除去部は、前記インジェクタの閉動作時における波形を対象に、前記開動作時補正値を適用する、請求項1または2記載の内燃機関制御装置。
【請求項7】
前記インジェクタが1点火に対して複数回の燃料噴射を行う場合、
前記インジェクタノイズ補正値算出部は、前記インジェクタの1回目の開動作時における前記インジェクタ動作時波形を抽出し、抽出した前記インジェクタ動作時波形に基づいて、前記補正値を開動作時補正値として算出し、
前記ノイズ振動波形除去部は、前記インジェクタの2回目以降の開動作時における波形を対象に、前記開動作時補正値を適用し、
前記インジェクタノイズ補正値算出部は、前記インジェクタの1回目の閉動作時における前記インジェクタ動作時波形を抽出し、抽出した前記インジェクタ動作時波形に基づいて、前記補正値を閉動作時補正値として算出し、
前記ノイズ振動波形除去部は、前記インジェクタの2回目以降の閉動作時における波形を対象に、前記閉動作時補正値を適用する、請求項1または2記載の内燃機関制御装置。
【請求項8】
前記インジェクタノイズ補正値算出部と前記ノイズ振動波形除去部とは、前記内燃機関の回転速度及び負荷状態のいずれかが予め定められた範囲内となる場合のみ動作する、請求項1または2記載の内燃機関制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、内燃機関制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の内燃機関のノッキング判定装置は、ノイズ波形記憶部と、除去部と、判定部とを備えている。ノイズ波形記憶部は、ノック以外のノイズ振動波形を予め記憶する。除去部は、検出された振動波形から、記憶されているノイズ振動波形に対応する部分を除去する。判定部は、ノイズ振動波形が除去された後の波形に基づいて、ノックが発生しているか否かを判定する(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4491376号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の内燃機関のノッキング判定装置において、内燃機関の構成部品の作動に起因するノイズ振動波形は、構成部品の個体差、ノックセンサと構成部品との設置距離などにより変化する。このように変化するノイズ振動波形が重畳している振動波形に対し、予め定められているノイズ振動波形を適用しても、適切にノイズを除去することができない。
【0005】
本開示は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、ノックの検出性を向上することができる内燃機関制御装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係る内燃機関制御装置は、内燃機関に生じる振動を検出するノックセンサからの振動検出信号と、内燃機関のクランク角度を検出するクランク角度センサからの角度検出信号とが入力される電子制御装置を備え、電子制御装置は、振動検出信号と角度検出信号とからノック固有周波数成分の振動波形を検出する振動波形検出部と、振動波形のうち、内燃機関に燃料を噴射するインジェクタの動作のタイミングから設定期間内の波形であるインジェクタ動作時波形を抽出し、抽出したインジェクタ動作時波形に基づいて、インジェクタの動作に起因する振動ノイズであるインジェクタノイズを振動波形から除去するための補正値を算出するインジェクタノイズ補正値算出部と、振動波形のうち、インジェクタの動作のタイミングから設定期間内の波形を対象に、補正値を適用することにより、インジェクタノイズの除去処理を行うノイズ振動波形除去部と、除去処理が行われた後の波形に基づいて、内燃機関にノックが発生しているかどうかを判定する判定部とを有している。
【発明の効果】
【0007】
本開示の内燃機関制御装置によれば、ノックの検出性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施の形態1におけるエンジン及びエンジンを制御するための装置構成を示す図である。
図2】実施の形態1における内燃機関制御装置を示すブロック図である。
図3図2の振動波形検出部によって検出される振動波形の第1例を示す図である。
図4図2の振動波形検出部によって検出される振動波形の第2例を示す図である。
図5図2の振動波形検出部によって検出される振動波形の第3例を示す図である。
図6図2の振動波形検出部によって検出される振動波形の第4例を示す図である。
図7図2のインジェクタノイズ補正値算出部による第1の補正値算出方法を説明する図である。
図8】インジェクタノイズ補正値算出部による処理の一部、及び図2のノイズ振動波形除去部による除去処理を説明する図である。
図9図2のインジェクタノイズ補正値算出部による第2の補正値算出方法を説明する図である。
図10】インジェクタノイズ補正値算出部による処理の一部、及び図2のノイズ振動波形除去部による除去処理を説明する図である。
図11図2の内燃機関制御装置の動作の要部を示すフローチャートである。
図12】実施の形態1のマイクロコンピュータを実現する処理回路の第1例を示す構成図である。
図13】実施の形態1のマイクロコンピュータを実現する処理回路の第2例を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0010】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1におけるエンジン及びエンジンを制御するための装置構成を示す図である。
【0011】
図1において、エンジン1は、気筒1aを備えている。気筒1a内の燃焼室1bには、吸気バルブ1cと、排気バルブ1dと、ピストン1eとが備えられている。また、エンジン1は、点火プラグ2とインジェクタ3とを備えている。点火プラグ2とインジェクタ3とは、燃焼室1b内を臨むようにして設けられている。
【0012】
また、エンジン1は、吸気通路4と接続されている。吸気通路4には、電子制御スロットル5が設けられている。電子制御スロットル5は、エンジン1の吸入空気量を調整する。
【0013】
電子制御スロットル5は、スロットルバルブ5aと、モータ5bと、スロットル開度センサ5cとを備えている。スロットルバルブ5aは、エンジン1への吸入空気量を調整する。モータ5bは、スロットルバルブ5aを駆動させる。スロットル開度センサ5cは、スロットルバルブ5aの開度を検出する。
【0014】
ECU(Electronic Control Unit)6は、エンジン1を制御する電子制御装置である。アクセルポジションセンサ8は、アクセルペダル7の操作量を検出する。ECU6は、アクセルポジションセンサ8からの出力信号を取得し、モータ5bに制御信号を送る。ECU6は、モータ5bに制御信号を送ることにより、スロットルバルブ5aを適切な開度に制御する。
【0015】
カム角センサ10は、吸気側のカム軸1gのカム角度を検出する。ノックセンサ11は、エンジン1の振動を検出する。
【0016】
エアクリーナ14は、吸気通路4に設けられている。エアクリーナ14は、吸気通路4に吸入される空気内の塵、ごみなどを除去する。エアフローセンサ12は、除去後の吸入空気の流量を計測する。
【0017】
吸気通路4に吸入された空気は、電子制御スロットル5と、サージタンク15と、吸気バルブ1cとを通って燃焼室1bに導入される。燃焼室1b内に導入された吸入空気は、インジェクタ3から噴射された燃料と混ざりあう。これにより、空気と燃料との混合気が形成される。混合気は、点火プラグ2の火花放電によって着火されて燃焼する。
【0018】
混合気の燃焼圧力は、ピストン1eに伝えられてピストン1eを往復運動させる。ピストン1eの往復運動は、コネクティングロッド1hを介して、クランク軸1fに伝えられる。これにより、ピストン1eの往復運動は、クランク軸1fの回転運動に変換される。
【0019】
クランク角度センサ9は、クランク軸1fの回転運動によって変化するクランク角度を検出する。クランク角度センサ9は、検出したクランク角度を、角度検出信号としてECU6に出力する。
【0020】
燃焼後の混合気は、排気ガスとなり、排気バルブ1dを通ってエキゾーストマニホールド16を通過する。その後、排気ガスは、触媒17で浄化され、大気中へ排出される。
【0021】
ECU6は、アクセルポジションセンサ8、クランク角度センサ9、カム角センサ10、エアフローセンサ12、ノックセンサ11のほか、図示しない各種センサ類からの出力信号を取得する。ECU6は、取得した出力信号に基づいて、点火時期、燃料噴射量などを決定する。そして、ECU6は、決定値に基づいて、インジェクタ3を駆動させて燃料を燃焼室1b内に噴射供給する。ECU6は、決定値に基づいて、点火コイル13を駆動する。これにより、点火プラグ2のプラグギャップから火花が放電させる。
【0022】
図2は、実施の形態1における内燃機関制御装置を示すブロック図である。
【0023】
図2において、内燃機関制御装置100は、ECU6を備えている。また、ECU6は、I/F(Interface)回路61とマイクロコンピュータ62とを備えている。
【0024】
I/F回路61には、各種センサの出力信号が入力される。図2において、I/F回路61には、ノックセンサ11からの振動検出信号と、クランク角度センサ9からの角度検出信号とが入力される。
【0025】
I/F回路61は、ローパスフィルタ(LPF)18を有している。ローパスフィルタ18は、ノックセンサ11から出力される振動検出信号の高周波成分を除去する。
【0026】
また、ローパスフィルタ18は、振動成分の中心が例えば2.5Vとなるように、振動検出信号にバイアスをかける。また、ローパスフィルタ18は、2.5Vを中心に0~5Vの範囲に振動成分が収まるように、ゲイン変換を行う。ローパスフィルタ18は、振動成分が小さい場合には2.5Vを中心に振動成分を増幅させる。ローパスフィルタ18は、振動成分が大きい場合には2.5Vを中心に振動成分を減少させる。このため、後段のA/D変換部19においては、全振動成分が取り込まれる。
【0027】
マイクロコンピュータ62は、A/D変換部19、振動波形検出部20、インジェクタノイズ補正値算出部21、ノイズ振動波形除去部22、判定部23、及び制御量算出部24を有している。判定部23は、ノック判定閾値算出部231と、ノック判定部232とを有している。なお、図面においては、インジェクタのことを「INJ」と表記する場合がある。
【0028】
A/D変換部19は、ローパスフィルタ18を通過した振動検出信号をA/D変換し、デジタル信号を振動波形検出部20に送る。A/D変換部19は、10μs、20μsなどの一定時間間隔毎に、A/D変換を行う。
【0029】
A/D変換部19は、A/D変換を常時行い、以降の処理において必要となるデジタル信号のみを、振動波形検出部20に送るようにしてもよい。また、A/D変換部19は、以降の処理において必要となる振動検出信号のみをA/D変換し、振動波形検出部20に送るようにしてもよい。
【0030】
振動波形検出部20は、デジタル信号処理により周波数解析を実施して、ノック固有周波数成分の振動波形を算出する。振動波形検出部20は、デジタル信号処理として、離散フーリエ変換(DFT:Discrete Fourier Transform)、短時間フーリエ変換(STFT:Short-Time Fourier Transform)などの処理を行う。振動波形検出部20は、デジタル信号処理を行うことにより、定められた時間毎または定められたクランク角度毎に、ノック固有周波数成分のスペクトルを算出する。以下、ノック固有周波数成分のスペクトルを振動強度と称する。また、振動強度の時間毎またはクランク角度毎の変化を、振動波形と称する。
【0031】
振動波形検出部20は、デジタル信号処理として、無限インパルス応答(IIR:Infinite Impulse Response)フィルタ、有限インパルス応答(FIR:Finite Impulse Response)フィルタなどのフィルタ処理を用いてもよい。また、振動波形検出部20は、A/D変換部19によりA/D変換が行われる毎にデジタル信号処理を行ってもよい。また、振動波形検出部20は、A/D変換部19からのデータを蓄積しておき、エンジン1の回転に同期した割込み処理に応じて、まとめてデジタル信号処理を行ってもよい。
【0032】
振動波形検出部20によって検出される振動波形には、ノック以外の振動がノイズとして重畳している。このような振動ノイズとして、インジェクタ3、吸気バルブ1c、排気バルブ1dなどの構成部品の動作に起因するものがある。また、ピストン1eの動作に起因する振動ノイズ、混合気の燃焼に起因する振動ノイズなどもある。
【0033】
これらの振動ノイズが振動波形に重畳している場合、後段の判定部23において精度良くノックの発生の有無を判定することができない。このため、振動ノイズを除去する必要がある。
【0034】
振動ノイズの中でも、特に、インジェクタ3の動作に起因するノイズの波形は、以下のとおり各時点におけるエンジン状態、環境などに応じて変化する。
【0035】
インジェクタ3は、コイルの通電により発生する電磁力を用いて、自装置に備えられているプランジャを開閉させる。このプランジャの開動作時及び閉動作時に発生する機械的な衝突により、振動が生じる。
【0036】
また、プランジャには、インジェクタ3内に設けられているバネにより閉じ側に荷重がかかっている。また、エンジン1が作動している場合、プランジャには、筒内圧力及び燃料圧力がかかっている。このため、筒内圧力及び燃料圧力が変化すると、プランジャの開閉時の衝突力も変化する。
【0037】
また、コイルに通電する際に生じる電磁力は、印加される電圧及び温度によって変化する。このため、開閉時の衝突力は、これらの電圧及び温度の状態によっても変化する。
【0038】
このように、インジェクタ3の動作に起因する振動ノイズの波形は、エンジンの回転速度、エンジンの負荷状態、環境温度、燃料圧力、及び印加電圧の変化などにより変化する。このため、インジェクタ3の動作に起因する振動ノイズについては、現状の振動ノイズの波形を捉えた上で、除去する必要がある。
【0039】
一方、ノックは、点火後の一定期間に発生する。このため、ノックが発生しているかどうかの判定は、点火後の一定期間の振動波形に基づいて行われる。この判定対象となる期間を、ノックウインドウ開期間と呼ぶ。
【0040】
このノックウインドウ開期間に振動ノイズが重畳している場合、ノックが発生していないにもかかわらず、ノックが発生していると判定されるおそれがある。特に、多気筒エンジンのように気筒数が多い場合、ノックセンサ11は、他の気筒からの振動ノイズも検出する。このため、単気筒よりも多気筒の方が、振動ノイズの検出間隔が狭くなり、振動波形に振動ノイズが重畳しやすくなる。
【0041】
以下、具体例を用いて説明する。
【0042】
図3は、図2の振動波形検出部20によって検出される振動波形の第1例を示す図である。また、図3は、6気筒エンジンのうちの第3気筒に注目し、第2気筒のインジェクタの振動ノイズが重畳している時の波形を例示している図である。また、図3においては、ノックによる振動波形は検出されていない。
【0043】
図3において、横軸は、第3気筒の上死点TDC(Top Dead Center)を基準としたクランク角度である。また、点火タイミングSAは、第3気筒の点火開始のタイミングである。開動作タイミングSOIは、インジェクタの開動作開始のタイミングであり、開動作タイミングSOI(#2)は、第2気筒用インジェクタの開動作開始のタイミングである。閉動作タイミングEOIは、インジェクタの閉動作開始のタイミングであり、閉動作タイミングEOI(#2)は、第2気筒用インジェクタの閉動作開始のタイミングである。
【0044】
また、点火タイミングSA後のノックウインドウ開期間が、第3気筒におけるノック検出の対象期間となる。
【0045】
また、吸気バルブ閉動作タイミングIVC(#6)は、第6気筒の吸気バルブの閉動作開始のタイミングである。排気バルブ閉動作タイミングEVC(#4)は、第4気筒の排気バルブの閉動作開始のタイミングである。
【0046】
図3においては、開動作タイミングSOI(#2)及び閉動作タイミングEOI(#2)の両タイミングの後に、第2気筒のインジェクタの動作に起因する振動ノイズが重畳している。このインジェクタの動作に起因する振動ノイズを、インジェクタノイズと称する。
【0047】
図3において、第2気筒のインジェクタノイズは、ノックウインドウ開期間以外に発生している。このため、インジェクタノイズによるノックの誤判定は発生しない。
【0048】
また、上死点TDC近傍の第4気筒の排気バルブの閉動作開始については、ノックウインドウ開期間内に発生している。しかしながら、ノイズの重畳レベルが小さいため、誤判定に至るものではない。また、第6気筒の吸気バルブの閉動作開始についても、ノイズの重畳レベルが小さいため、考慮する必要はない。
【0049】
図4は、図2の振動波形検出部20によって検出される振動波形の第2例を示す図である。また、図4は、ノックが発生している場合の振動波形を示す図である。
【0050】
図4の場合においても、第2気筒のインジェクタノイズが振動波形に重畳している。しかしながら、インジェクタノイズは、ノックウインドウ開期間以外に発生している。このため、図4において、インジェクタノイズは、ノックが発生しているかどうかの判定には、影響がない。
【0051】
図5は、図2の振動波形検出部20によって検出される振動波形の第3例を示す図である。図5において、第2気筒のインジェクタは、図3とは異なり、1回の点火に対して2回に分けて燃料噴射を行っている。このような噴射形態を分割噴射と称する。
【0052】
また、図5の開動作タイミングSOI1は、1回目の噴射におけるインジェクタの開動作開始のタイミングである。閉動作タイミングEOI1は、1回目の噴射におけるインジェクタの閉動作開始のタイミングである。開動作タイミングSOI2は、2回目の噴射におけるインジェクタの開動作開始のタイミングである。閉動作タイミングEOI2は、2回目の噴射におけるインジェクタの閉動作開始のタイミングである。
【0053】
図5においては、開動作タイミングSOI2後のインジェクタノイズと閉動作タイミングEOI2後のインジェクタノイズとが、第3気筒のノックウインドウ開期間内に重畳している。このため、ノックが発生していないにもかかわらず、ノックが発生していると判定されるおそれがある。
【0054】
図6は、図2の振動波形検出部20によって検出される振動波形の第4例を示す図である。図6は、図5と同様に第2気筒において分割噴射が行われており、且つ、第3気筒においてノックが発生している振動波形を示している。ノックが発生していることに加え、開動作タイミングSOI2後のインジェクタノイズと閉動作タイミングEOI2後のインジェクタノイズとが重畳しているため、ノックウインドウ開期間内の振動強度は、図5に比べて高くなっている。この場合、ノックの閾値判定の結果、及びノックを抑制するための制御量に影響がでる。
【0055】
図2に示すインジェクタノイズ補正値算出部21は、このようなインジェクタノイズを除去するための補正値を算出する。そして、ノイズ振動波形除去部22は、算出された補正値を適用することにより、インジェクタノイズの除去処理を行う。
【0056】
以下、インジェクタノイズ補正値算出部21及びノイズ振動波形除去部22について説明する。
【0057】
インジェクタノイズ補正値算出部21は、インジェクタノイズに対して除去処理を行うための補正値を算出する。この補正値を、インジェクタノイズ補正値と称する。インジェクタノイズ補正値算出部21は、インジェクタ3の動作のタイミングから設定期間内の波形であるインジェクタ動作時波形を抽出する。このインジェクタ3の動作のタイミングは、開動作タイミングであってもよく、閉動作タイミングであってもよい。また、インジェクタノイズ補正値算出部21は、抽出したインジェクタ動作時波形に基づいて、インジェクタノイズ補正値を算出する。
【0058】
図7は、図2のインジェクタノイズ補正値算出部21による第1の補正値算出方法を説明する図である。
【0059】
図7においては、上記の予め定められた設定期間を2msec相当としている。例えば、振動波形検出部20は、10μsec周期によりA/D変換された値を用い、72個のサンプルデータに対して離散フーリエ変換処理を行うものとする。また、振動波形検出部20は、72個のサンプルデータの1/4サンプルずつ対象範囲をシフトさせながら、演算結果を出力するものとする。この場合、180μsec毎に離散フーリエ変換の演算結果が出力される。
【0060】
振動波形検出部20による振動波形の出力条件が上記のような場合、2msec以上且つ2msecに近しいサンプル数は12となる。よって、インジェクタノイズ補正値算出部21は、図7の(1)に示すように、インジェクタ3が閉状態から開状態に変化したタイミングから12個分のサンプルデータを抽出する。そして、インジェクタノイズ補正値算出部21は、図7の(2)に示すように、抽出した12個分のサンプルデータを、補正値算出用のデータとして記憶する。
【0061】
引き続き、インジェクタノイズ補正値の数値条件ついて説明する。
【0062】
一般的に、ノック判定に用いられるノック判定閾値は、ノックが発生していない状態における振動強度であるバックグランドレベル(BGL:Back Ground Level)をもとに、算出される。そして、ノック判定閾値に対して大きな振動強度が検出された場合、ノックが発生していると判定される。
【0063】
後述するが、補正は、振動波形検出部20によって検出された値から、インジェクタノイズ補正値を減算することにより行われる。ここで、インジェクタノイズ補正値が過度に大きいと、インジェクタノイズ補正値を減算した後の振動強度が小さくなり過ぎる。このように振動強度が小さくなり過ぎると、バックグランドレベル及びノック判定閾値も小さくなり過ぎてしまい、ノックの検出が困難になる。
【0064】
このため、インジェクタノイズ補正値算出部21は、インジェクタノイズ補正値が過度に大きくならないように、元の波形である補正用記憶値に対し、演算処理を行う。なお、図7において、補正用記憶値は、インジェクタ3の動作タイミングから12個のサンプル分の振動波形である。そして、インジェクタノイズ補正値算出部21は、この演算処理後の波形をインジェクタノイズ補正値とする。
【0065】
図7の例において、インジェクタノイズ補正値算出部21は、補正用記憶値に対し、設定値を乗算し、または設定値を減算し、または乗算と減算との両方の演算を行う。インジェクタノイズ補正値算出部21は、この演算処理により、インジェクタノイズ補正値を算出する。
【0066】
図7の(3)の実線波形は、乗算により算出された後のインジェクタノイズ補正値の波形である。インジェクタノイズ補正値算出部21は、補正用記憶値に対して設定値を乗算することにより、インジェクタノイズ補正値を算出する。
【0067】
図7の(4)の実線波形は、減算により算出された後のインジェクタノイズ補正値の波形である。インジェクタノイズ補正値算出部21は、補正用記憶値に対して設定値を減算することにより、インジェクタノイズ補正値を算出する。なお、インジェクタノイズ補正値算出部21は、減算結果が負値となる場合、予め設けられた下限値、例えば下限値が0になるように、下限クリップ処理を行う。この下限値は、バックグランドレベルを考慮した値であってもよい。
【0068】
インジェクタノイズ補正値算出部21は、補正用記憶値に対し設定値を減算した後に、別の設定値を乗算するなど、両方の演算を行ってインジェクタノイズ補正値を算出してもよい。
【0069】
また、インジェクタノイズ補正値を算出する際の乗算に用いられる設定値は、単一の値としてもよい。また、インジェクタノイズ補正値を算出する際の減算に用いられる設定値は、単一の値としてもよい。
【0070】
また、インジェクタノイズ補正値算出部21は、エンジンの回転速度と設定値とを対応付けたマップデータを用いて、乗算または減算に用いられる設定値を求めてもよい。この場合、インジェクタノイズ補正値算出部21は、現状のエンジンの回転速度から、マップデータを用いて設定値を導出する。
【0071】
また、インジェクタノイズ補正値算出部21は、エンジンの負荷状態と設定値とを対応付けたマップデータを用いて、乗算または減算に用いられる設定値を求めてもよい。この場合、インジェクタノイズ補正値算出部21は、現状のエンジンの負荷状態から、マップデータを用いて設定値を導出する。
【0072】
このように、インジェクタノイズ補正値算出部21は、元の補正用記憶値に対して乗算または減算した値を、インジェクタノイズ補正値とする。このため、BGL及びノック判定閾値が過度に小さくなるのを回避することができる。よって、ノック判定が正常に行うことができなくなる状態を回避することができる。
【0073】
図7においては、インジェクタ3の開動作についてのインジェクタノイズ補正値の算出方法を示しているが、閉動作についても同様である。すなわち、インジェクタノイズ補正値算出部21は、インジェクタ3の開動作タイミング及び閉動作タイミングのそれぞれについて、設定期間内の振動波形を抽出し、記憶する。
【0074】
図8の(1)及び(2)は、インジェクタ3の閉動作時のインジェクタノイズ補正値算出部21の動作の一部を示した図である。ここでは、インジェクタ3の閉動作時の振動波形を抽出し、記憶させている。
【0075】
インジェクタ3の開動作時と閉動作時とでは、インジェクタノイズの発生状況が異なる場合がある。図7の(1)及び(2)の例においては、インジェクタ3の開動作後の12個のサンプルが、インジェクタノイズ補正値を算出するために記憶される。これに対し、図8の(1)及び(2)の例においては、インジェクタ3の閉動作後の14個のサンプルが、インジェクタノイズ補正値を算出するために記憶される。
【0076】
このように、開動作及び閉動作のそれぞれに対する記憶時間は同じでもよいし、インジェクタ3の特性に合わせて異なる時間であってもよい。
【0077】
インジェクタノイズ補正値算出部21は、以降、減算もしくは乗算することにより、インジェクタ3の閉動作時におけるインジェクタノイズ補正値を算出する。この内容については、図7の(3)及び(4)と同じである。
【0078】
引き続き、ノイズ振動波形除去部22について説明する。ノイズ振動波形除去部22は、振動波形検出部20によって検出された振動波形から、インジェクタノイズ補正値を減算する。ノイズ振動波形除去部22は、このように、インジェクタノイズ補正値を用いて減算することにより、インジェクタノイズに対する除去処理を行い、ノックの判定の対象となる波形を得る。ここで、除去処理後のノックの判定の対象となる波形を、ノック振動波形と称する。
【0079】
図8の(3)及び(4)は、図2のノイズ振動波形除去部22による除去処理を説明する図である。
【0080】
閉動作後の波形に対する補正は、開動作後の波形に基づいて算出されたインジェクタノイズ補正値を用いることにより行われる。よって、閉動作後の12個のサンプルに対してのみ、インジェクタノイズ補正値を用いて減算処理が行われる。
【0081】
図8の(3)は、図7の(3)により示されるインジェクタノイズ補正値を用いて、減算処理を行った場合の例である。また、図8の(3)において、破線が図8の(1)で示す波動波形であり、実線が補正後のノック振動波形である。
【0082】
また、図8の(4)は、図7の(4)により示されるインジェクタノイズ補正値を用いて、減算処理を行った場合の例である。図8の(4)において、破線が図8の(1)で示す波動波形であり、実線が補正後のノック振動波形である。
【0083】
ノックの判定においては、後述するようにピーク値が重要となる。図8の(3)と図8の(4)とは、補正後の波形の形状に差が生じているが、重要な要素であるピーク値は、同程度となっている。
【0084】
引き続き、上記とは一部の手法が異なるインジェクタノイズの除去処理について説明する。
【0085】
図9は、図2のインジェクタノイズ補正値算出部21による第2の補正値算出方法を説明する図である。また、図9は、予め設定されているサンプル期間の最大値を、補正用記憶値として取得する方法を示している。
【0086】
インジェクタ3の開動作と閉動作とでは、プランジャにかかる力の状態に差が生じる。このため、開動作と閉動作とでは、インジェクタノイズのピーク値の発生タイミングが異なる場合がある。
【0087】
また、開動作と閉動作とが同じ動作の状態であるとしても、車両の運転状態、離散フーリエ変換の演算処理のタイミングなどによって、インジェクタノイズのピーク値の発生タイミングが異なる場合がある。
【0088】
これらの発生タイミングのばらつきによる影響を低減させるため、インジェクタノイズ補正値算出部21は、予め設定されているサンプル期間の最大値を、補正用記憶値として採用する。図9の(1)及び(2)においては、3回のサンプリングにおける最大値をとる方法を示している。
【0089】
以降の図9の(3)及び(4)に示されるインジェクタノイズ補正値の算出方法については、図7の(3)及び(4)で示した乗算及び減算の方法と同じである。
【0090】
図10の(1)及び(2)は、閉動作時のインジェクタノイズ補正値算出部21の動作の一部を示している。インジェクタノイズ補正値算出部21は、インジェクタ3の閉動作後の14個のサンプルを抽出する。そして、インジェクタノイズ補正値算出部21は、図9の(1)及び(2)により説明した最大値を採用する変形処理を行う。そして、インジェクタノイズ補正値算出部21は、変形処理後のインジェクタノイズ補正値を、補正用記憶値として記憶する。
【0091】
図10の(3)及び(4)は、図2のノイズ振動波形除去部22によるインジェクタノイズの除去方法を説明する図である。また、図10の(3)及び(4)は、図9の手法により求められたインジェクタノイズ補正値を用いて、インジェクタノイズの除去処理を行うことを示す図である。
【0092】
図10の(3)及び(4)においても、図8の(3)及び(4)において説明した除去方法と同じ手法により、インジェクタノイズが除去される。
【0093】
ここで、図10の(3)及び(4)に示す除去処理後のスペクトルのピーク値は、図8の(3)及び(4)に示すものと同程度となっている。このため、第2の補正値算出方法を用いても、ノックの判定において重要な要素であるピーク値を同程度に算出することが可能である。加えて、第2の補正値算出方法を用いることにより、タイミングのばらつきの影響を低減させることができる。
【0094】
なお、図5図6に示す分割噴射が行われた場合、開動作タイミングSOI1後の振動波形を用いたインジェクタノイズ補正値によって、閉動作タイミングEOI1後及び開動作タイミングSOI2後の波形が補正される。また、閉動作タイミングEOI1後の振動波形を用いたインジェクタノイズ補正値によって、閉動作タイミングEOI2後の波形が補正される。ここで、図5図6に示すように、開動作タイミングSOI1は、インジェクタ3の1回目における開動作開始のタイミングであり、閉動作タイミングEOI1は、インジェクタ3の1回目における閉動作開始のタイミングである。また、開動作タイミングSOI2は、インジェクタ3の2回目における開動作開始のタイミングであり、閉動作タイミングEOI2は、インジェクタ3の2回目における閉動作開始のタイミングである。
【0095】
また、1点火につき3回以上の噴射が行われる場合についても、分割噴射と同様である。すなわち、1回目の開動作タイミングSOI後の振動波形を用いて算出されたインジェクタノイズ補正値によって、1回目の閉動作タイミングEOI後及び2回目以降の開動作タイミングSOI後の波形が補正される。また、1回目の閉動作タイミングEOI後の振動波形を用いて算出されたインジェクタノイズ補正値によって、2回目以降の閉動作タイミングEOI後の波形が補正される。
【0096】
図2に戻り、引き続き判定部23について説明する。判定部23のノック判定閾値算出部231は、ノック振動波形のピーク値VPに基づいて、ノック判定閾値VTHを算出する。ノック判定閾値VTHの算出には、以下の(式1)~(式4)が用いられる。
【0097】
先ず、ノック判定閾値算出部231は、エンジン1の行程毎に、ピーク値VPに対してフィルタ処理を実施する。そして、ノック判定閾値算出部231は、ピーク値VPの平均値に相当するバックグランドレベルであるピーク平均バックグランドレベルVBGLを算出する。
【0098】
VBGL[n]=KBGL×VBGL[n-1]+(1-KBGL)×VP[n]
・・・(式1)
VBGL[n]:ピーク平均バックグランドレベル
VP[n] :ノック振動波形のピーク値
KBGL :フィルタ係数
【0099】
次に、ノック判定閾値算出部231は、ピーク値VPの分散VVAR及び標準偏差VSGMを算出する。
VVAR[n]=KVAR×VVAR[n-1]
+(1-KVAR)×(VP[n]-VBGL[n])・・・(式2)
VSGM[n]=VVAR[n]1/2・・・(式3)
VSGM[n]:VPの標準偏差
VVAR[n]:VPの分散、
KVAR :フィルタ係数
【0100】
次に、ノック判定閾値算出部231は、ノック判定閾値VTHを算出する。
VTH[n]=VBGL[n]+KTH×VSGM[n]・・・(式4)
VTH[n]:ノック判定閾値
KTH :ノック判定閾値算出係数
【0101】
判定部23のノック判定部232は、以下の(式5)により、ノックが発生しているかどうかを判定する。また、ノック判定部232は、ノック強度に応じた信号を出力する。
VK[n]=(VP[n]-VBGL[n])/(VTH[n]-VBGL[n])
・・・(式5)
VK[n]:ノック強度
【0102】
ノック判定部232は、式5の結果がVK[n]>0となる場合、ノックが発生していると判定する。一方、ノック判定部232は、式5の結果がVK[n]≦0となる場合、ノックが発生していないと判定する。
【0103】
制御量算出部24は、以下の(式6)~(式7)により、ノック強度に応じた遅角量を算出する。まず、制御量算出部24は、1点火毎のノック強度に応じた遅角量を算出する。
ΔθR[n]=max(-VK[n]×KR,θmin)・・・(式6)
ΔθR[n]:1点火毎遅角量
KR :遅角量反映係数
θmin :最大遅角量
【0104】
次に、制御量算出部24は、1点火毎の遅角量を積算することにより、点火時期のノック制御量を算出する。ここで、ノックが発生していないと判定された場合、制御量算出部24は、進角復帰させる。
θR[n]=min(θR[n-1]+ΔθR[n]+KA,θmax)
・・・(式7)
θR[n]:ノック制御量
KA[n]:進角復帰係数
θmax :最大進角量
【0105】
なお、上記の(式1)~(式7)は、実施の形態1の動作を説明するための一例に過ぎず、これらの式に限定されるものではない。
【0106】
図11は、図2の内燃機関制御装置100の動作の要部を示すフローチャートである。
【0107】
振動波形検出部20は、ステップS101において、ノックセンサ11からの振動検出信号と、クランク角度センサ9からの角度検出信号とに基づいて、振動波形を検出する。
【0108】
振動波形の検出は、少なくとも、ノック検出区間とインジェクタノイズ振動波形算出区間とが含まれるように検出される。ここで、ノック検出区間は、上記のノックウインドウ開期間を含んだ区間であり、例えば上死点TDCから60[deg.ATDC](ATDC:After Top Dead Center)の区間である。また、インジェクタノイズ振動波形算出区間は、クランク角度を基準として予め実験的に求められるクランク角度区間であり、例えば、-60[deg.ATDC]から60[deg.ATDC]である。
【0109】
インジェクタノイズ補正値算出部21は、ステップS102において、インジェクタ3の動作のタイミングから設定期間内の波形であるインジェクタ動作時波形を抽出し、記憶する。
【0110】
ここで、インジェクタノイズ補正値算出部21は、ステップS102において、図9の(1)及び(2)に示す第2の手法を用いてもよい。この場合、インジェクタノイズ補正値算出部21は、抽出したインジェクタ動作時波形に対して変形処理を行う。この変形処理は、注目波形抽出処理と置換え処理とを行う処理である。
【0111】
また、注目波形抽出処理は、抽出されたインジェクタ動作時波形から、設計サンプル数の期間内に含まれている波形を注目波形として抽出する処理である。設計サンプル数は、予め設計されたサンプル数である。図9の(1)及び(2)の例においては、設計サンプル数は3個である。また、設計サンプル数の期間は、3個のサンプルを含んだ期間のことである。
【0112】
置換え処理は、注目波形内の最大値を、変形後のインジェクタ動作時波形の値に置き換える処理である。
【0113】
インジェクタノイズ補正値算出部21は、変形処理として、設計サンプル数の期間をスライドさせながら、注目波形抽出処理と置換え処理とを繰り返し行う。
【0114】
インジェクタノイズ補正値算出部21は、ステップ103において、抽出された振動波形に対し、予め定められた設定値を乗算または減算し、またはその両方を行う。これにより、ノイズ振動波形除去部22は、インジェクタノイズ補正値を算出する。
【0115】
ノイズ振動波形除去部22は、ステップS104において、ノック検出区間にインジェクタノイズが重畳している場合、インジェクタノイズの除去処理を行う。これにより、ノイズ振動波形除去部22は、ノック振動波形を得ることができる。
【0116】
ノイズ振動波形除去部22は、ステップS105において、ノック振動波形のノック検出区間におけるピーク値VPを算出する。
【0117】
ノック判定閾値算出部231は、ステップS106において、ピーク値VPに基づいてノック判定閾値VTHを算出する。
【0118】
ノック判定部232は、ステップS107において、ピーク値VPとノック判定閾値VTHとに基づいて、ノックが発生しているかどうかを判定する。ノック判定部232は、ノックが発生していると判定した場合、処理をステップS108に進める。ノック判定部232は、ノックが発生していないと判定した場合、処理をステップS109に進める。
【0119】
制御量算出部24は、ステップS108において、点火のタイミングを遅角させる。また、制御量算出部24は、ステップS109において、点火のタイミングを進角させる。
【0120】
インジェクタ3の動作に起因する振動ノイズは、上記のように、インジェクタ3にかかる燃料圧力、電源電圧、インジェクタの温度などにより影響を受ける。このため、インジェクタ3の動作に起因するインジェクタノイズに対し、予め補正値を用意し、これを適用しても、適切にノイズを除去することができない。
【0121】
これに対し、実施の形態1における内燃機関制御装置100は、運転中のインジェクタ3の開動作時または閉動作時に生じるインジェクタノイズに基づいて、以降に発生するインジェクタノイズを補正することができる。このため、各種運転条件の影響を受けることなく、精度よくインジェクタノイズの除去処理を行うことができる。
【0122】
また、インジェクタノイズの補正が必要となるのは、ノックウインドウ開期間にインジェクタの作動状態変化が発生する場合である。特に、エンジン回転速度が低速となる運転領域の場合、バックグランドレベルが比較的小さくなるため、インジェクタノイズによる影響が大きくなる。このため、エンジン回転速度またはエンジン負荷が低い時にのみ、インジェクタノイズの除去処理を行うようにしてもよい。これにより、プログラムの処理負荷軽減を図ることができる。この場合、図11において、エンジン回転速度及びエンジン負荷のいずれかが予め定められた範囲内となる場合のみ、ステップS102からステップS104までの処理が行われる。
【0123】
実施の形態1におけるインジェクタノイズ補正値算出部21は、振動波形のうち、インジェクタ3の動作のタイミングから設定期間内の波形であるインジェクタ動作時波形を抽出する。また、インジェクタノイズ補正値算出部21は、抽出したインジェクタ動作時波形に基づいて、インジェクタノイズ補正値を算出する。ノイズ振動波形除去部22は、振動波形のうち、インジェクタ3の動作のタイミングから設定期間の波形を対象に、インジェクタノイズ補正値を適用することにより、インジェクタノイズの除去処理を行う。また、判定部23は、除去処理が行われた後の波形に基づいて、エンジン1にノックが発生しているかどうかを判定する。このため、ノックの検出性を向上することができる。
【0124】
また、インジェクタノイズ補正値算出部21は、抽出したインジェクタ動作時波形に対して変形処理を行い、変形処理後のインジェクタ動作時波形に基づいて、補正値を算出する。インジェクタノイズ補正値算出部21は、この変形処理として、インジェクタノイズ補正値算出部21は、注目波形抽出処理と置換え処理とを、設計サンプル数の期間をスライドさせながら、繰り返し行う。このため、ノックの判定において重要な要素であるピーク値を損なうことなく、タイミングのばらつきの影響を低減させることができる。
【0125】
また、インジェクタノイズ補正値算出部21は、インジェクタ動作時波形に対し、設定値を乗算し、または設定値を減算し、または乗算と減算との両方の演算を行うことにより、インジェクタノイズ補正値を算出する。このため、ノック判定が正常に行うことができなくなる状態を回避することができる。
【0126】
また、インジェクタノイズ補正値算出部21は、エンジン1の回転速度及び負荷状態のいずれかに基づいて予め決定された値を、乗算用または減算用の設定値として用いる。このため、各時点におけるエンジン1の状態に合わせたインジェクタノイズ補正値を得ることができる。
【0127】
また、ノイズ振動波形除去部22は、インジェクタノイズ補正値を適用した結果が負値となった場合、結果が予め設定された下限値となるように下限クリップ処理を行う。このため、インジェクタノイズ補正値を適用した結果が設定範囲外となるのを抑止することができる。
【0128】
また、インジェクタ3が1点火に対して1回の燃料噴射を行う場合、インジェクタノイズ補正値算出部21は、インジェクタ3の開動作時におけるインジェクタ動作時波形を抽出する。また、インジェクタノイズ補正値算出部21は、抽出したインジェクタ動作時波形に基づいて、インジェクタノイズ補正値を開動作時補正値として算出する。そして、ノイズ振動波形除去部22は、インジェクタの閉動作時における波形を対象に、開動作時補正値を適用する。このため、現状の環境に則したインジェクタノイズ補正値を生成し、且つ、即時にインジェクタノイズ補正値を適用させることができる。
【0129】
また、インジェクタ3が1点火に対して複数回の燃料噴射を行う場合、インジェクタノイズ補正値算出部21は、インジェクタ3の1回目の開動作時におけるインジェクタ動作時波形を抽出する。また、インジェクタノイズ補正値算出部21は、抽出したインジェクタ動作時波形に基づいて、インジェクタノイズ補正値を開動作時補正値として算出する。ノイズ振動波形除去部22は、インジェクタ3の2回目以降の開動作時における波形を対象に、開動作時補正値を適用する。
【0130】
このため、インジェクタ3が1点火に対して複数回の燃料噴射を行う場合においても、現状の環境に則したインジェクタノイズ補正値を生成し、且つ、即時にインジェクタノイズ補正値を適用させることができる。
【0131】
また、インジェクタノイズ補正値算出部21とノイズ振動波形除去部22とは、内燃機関の回転速度及び負荷状態のいずれかが予め定められた範囲内となる場合のみ動作する。このため、プログラムの処理負荷軽減を図ることができる。
【0132】
なお、実施の形態1のマイクロコンピュータ62の各機能は、処理回路によって実現される。図12は、実施の形態1のマイクロコンピュータ62の各機能を実現する処理回路の第1例を示す構成図である。第1例の処理回路150は、専用のハードウェアである。
【0133】
処理回路150は、例えば、単一回路、複合回路、プログラム化したプロセッサ、並列プログラム化したプロセッサ、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、またはこれらを組み合わせたものに該当する。また、マイクロコンピュータ62の各機能それぞれを個別の処理回路150により実現してもよい。もしくは、マイクロコンピュータ62の各機能をまとめて処理回路150により実現してもよい。
【0134】
また、図13は、実施の形態1のマイクロコンピュータ62の各機能を実現する処理回路の第2例を示す図である。第2例の処理回路160は、プロセッサ161及びメモリ162を備えている。
【0135】
処理回路160において、マイクロコンピュータ62の各機能は、ソフトウェア、ファームウェア、またはソフトウェアとファームウェアとの組み合わせにより実現される。ソフトウェア及びファームウェアは、プログラムとして記述される。そして、ソフトウェア及びファームウェアは、メモリ162に格納される。プロセッサ161は、メモリ162に記憶されたプログラムを読み出して実行することにより、各部の機能を実現する。
【0136】
メモリ162に格納されるプログラムは、上述した各部の手順あるいは方法を、コンピュータに実行させるものであるともいえる。ここで、メモリ162とは、例えば、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ、EPROM(Erasable Programmable Read Only Memory)、EEPROM(Electrically Erasable and Programmable Read Only Memory)等の、不揮発性または揮発性の半導体メモリが該当する。また、磁気ディスク、フレキシブルディスク、光ディスク、コンパクトディスク、ミニディスク、DVD等も、メモリ162に該当する。
【0137】
上述した各部の機能について、一部が専用のハードウェアにより実現され、一部がソフトウェアまたはファームウェアにより実現されてもよい。
【0138】
このように、処理回路は、ハードウェア、ソフトウェア、ファームウェア、またはこれらの組み合わせによって、上述した各部の機能を実現することができる。
【0139】
以上、実施の形態を詳説したが、実施の形態に制限されることはなく、種々の変形及び置換を加えることができる。
【0140】
以下、本開示における態様を、付記としてまとめる。
(付記1)
内燃機関に生じる振動を検出するノックセンサからの振動検出信号と、前記内燃機関のクランク角度を検出するクランク角度センサからの角度検出信号とが入力される電子制御装置を備え、
前記電子制御装置は、
前記振動検出信号と前記角度検出信号とからノック固有周波数成分の振動波形を検出する振動波形検出部と、
前記振動波形のうち、前記内燃機関に燃料を噴射するインジェクタの動作のタイミングから設定期間内の波形であるインジェクタ動作時波形を抽出し、抽出した前記インジェクタ動作時波形に基づいて、前記インジェクタの動作に起因する振動ノイズであるインジェクタノイズを前記振動波形から除去するための補正値を算出するインジェクタノイズ補正値算出部と、
前記振動波形のうち、前記インジェクタの動作のタイミングから前記設定期間内の波形を対象に、前記補正値を適用することにより、前記インジェクタノイズの除去処理を行うノイズ振動波形除去部と、
前記除去処理が行われた後の波形に基づいて、前記内燃機関にノックが発生しているかどうかを判定する判定部と
を有している、内燃機関制御装置。
(付記2)
前記インジェクタノイズ補正値算出部は、抽出した前記インジェクタ動作時波形に対して変形処理を行い、前記変形処理後の前記インジェクタ動作時波形に基づいて、前記補正値を算出し、
前記変形処理は、抽出された前記インジェクタ動作時波形から、設計サンプル数の期間内に含まれている波形を注目波形として抽出する注目波形抽出処理と、当該注目波形内の最大値を、変形後の前記インジェクタ動作時波形の値とする置換え処理とを、前記設計サンプル数の前記期間をスライドさせながら繰り返し行う処理である、付記1記載の内燃機関制御装置。
(付記3)
前記インジェクタノイズ補正値算出部は、前記インジェクタ動作時波形に対し、設定値を乗算し、または設定値を減算し、または前記乗算と前記減算との両方の演算を行うことにより、前記補正値を算出する、付記1または2記載の内燃機関制御装置。
(付記4)
前記インジェクタノイズ補正値算出部は、前記内燃機関の回転速度及び負荷状態のいずれかに基づいて予め決定された値を、前記乗算用または前記減算用の前記設定値として用いる、付記3記載の内燃機関制御装置。
(付記5)
前記ノイズ振動波形除去部は、前記補正値を適用した結果が負値となった場合、前記結果が予め設定された下限値となるように下限クリップ処理を行う、付記1から4までのいずれか1項記載の内燃機関制御装置。
(付記6)
前記インジェクタが1点火に対して1回の燃料噴射を行う場合、
前記インジェクタノイズ補正値算出部は、前記インジェクタの開動作時における前記インジェクタ動作時波形を抽出し、抽出した前記インジェクタ動作時波形に基づいて、前記補正値を開動作時補正値として算出し、
前記ノイズ振動波形除去部は、前記インジェクタの閉動作時における波形を対象に、前記開動作時補正値を適用する、付記1から5までのいずれか1項記載の内燃機関制御装置。
(付記7)
前記インジェクタが1点火に対して複数回の燃料噴射を行う場合、
前記インジェクタノイズ補正値算出部は、前記インジェクタの1回目の開動作時における前記インジェクタ動作時波形を抽出し、抽出した前記インジェクタ動作時波形に基づいて、前記補正値を開動作時補正値として算出し、
前記ノイズ振動波形除去部は、前記インジェクタの2回目以降の開動作時における波形を対象に、前記開動作時補正値を適用し、
前記インジェクタノイズ補正値算出部は、前記インジェクタの1回目の閉動作時における前記インジェクタ動作時波形を抽出し、抽出した前記インジェクタ動作時波形に基づいて、前記補正値を閉動作時補正値として算出し、
前記ノイズ振動波形除去部は、前記インジェクタの2回目以降の閉動作時における波形を対象に、前記閉動作時補正値を適用する、付記1から5までのいずれか1項記載の内燃機関制御装置。
(付記8)
前記インジェクタノイズ補正値算出部と前記ノイズ振動波形除去部とは、前記内燃機関の回転速度及び負荷状態のいずれかが予め定められた範囲内となる場合のみ動作する、付記1から7までのいずれか1項記載の内燃機関制御装置。
【符号の説明】
【0141】
1 エンジン、6 ECU(電子制御装置)、9 クランク角度センサ、11 ノックセンサ、20 振動波形検出部、21 インジェクタノイズ補正値算出部、22 ノイズ振動波形除去部、23 判定部、100 内燃機関制御装置。
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