(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023183480
(43)【公開日】2023-12-28
(54)【発明の名称】土砂移動域推定方法、学習済みモデル、および土砂移動域推定装置
(51)【国際特許分類】
G01C 7/04 20060101AFI20231221BHJP
G06Q 10/04 20230101ALI20231221BHJP
G01C 15/00 20060101ALI20231221BHJP
【FI】
G01C7/04
G06Q10/04
G01C15/00 102C
G01C15/00 104C
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022097014
(22)【出願日】2022-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】390034463
【氏名又は名称】株式会社オリエンタルコンサルタンツ
(71)【出願人】
【識別番号】599035627
【氏名又は名称】学校法人加計学園
(74)【代理人】
【識別番号】100112874
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 薫
(72)【発明者】
【氏名】平川 泰之
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 丈晴
【テーマコード(参考)】
5L049
【Fターム(参考)】
5L049AA04
(57)【要約】
【課題】土砂の移動域を高精度に推定すること。
【解決手段】コンピュータを利用して土砂の移動域を推定する土砂移動域推定方法であって、前記コンピュータが備えている演算部が、土砂災害前に計測された数値標高モデルと、土砂災害後に計測された数値標高モデルと、の差分により、標高差分情報を生成する標高差分生成段階と、前記演算部が、土砂災害後に計測された数値表層モデルと、土砂災害後に計測された数値標高モデルと、の差分により、地物高さ情報を生成する地物高さ生成段階と、前記演算部が、土砂災害後に取得されたオルソ画像データを色値に変換する色値変換段階と、前記演算部が、前記標高差分情報、前記地物高さ情報、および前記色値のうち少なくとも一つに基づいて、前記移動域を推定する推定段階と、を少なくとも含んでいる、土砂移動域推定方法を提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータを利用して土砂の移動域を推定する土砂移動域推定方法であって、
前記コンピュータが備えている演算部が、土砂災害前に計測された数値標高モデルと、土砂災害後に計測された数値標高モデルと、の差分により、標高差分情報を生成する標高差分生成段階と、
前記演算部が、土砂災害後に計測された数値表層モデルと、土砂災害後に計測された数値標高モデルと、の差分により、地物高さ情報を生成する地物高さ生成段階と、
前記演算部が、土砂災害後に取得されたオルソ画像データを色値に変換する色値変換段階と、
前記演算部が、前記標高差分情報、前記地物高さ情報、および前記色値のうち少なくとも一つに基づいて、前記移動域を推定する推定段階と、を少なくとも含んでいる、土砂移動域推定方法。
【請求項2】
前記数値標高モデルおよび前記数値表層モデルのそれぞれは、航空レーザ測量を用いて取得される、
請求項1に記載の土砂移動域推定方法。
【請求項3】
前記色値は、RGB値である、
請求項1に記載の土砂移動域推定方法。
【請求項4】
前記推定段階において、前記演算部が、前記標高差分情報、前記地物高さ情報、および前記色値のうち少なくとも一つを入力とし、土砂の移動域を出力とする機械学習を行うことで生成される学習済みモデルを用いる、
請求項1から3のいずれか一項に記載の土砂移動域推定方法。
【請求項5】
コンピュータを利用して土砂の移動域を推定する土砂移動域推定方法に用いられる学習済みモデルであって、
前記コンピュータが備えている演算部が、土砂災害前に計測された数値標高モデルと、土砂災害後に計測された数値標高モデルと、の差分により生成した標高差分情報と、
前記演算部が、土砂災害後に計測された数値表層モデルと、土砂災害後に計測された数値標高モデルと、の差分により生成した地物高さ情報と、
前記演算部が、土砂災害後に取得されたオルソ画像データを変換した色値と、のうち少なくとも一つを入力とし、土砂の移動域を出力とする機械学習を行うことで生成される、学習済みモデル。
【請求項6】
土砂の移動域を推定する演算部を少なくとも備えており、
前記演算部が、
土砂災害前に計測された数値標高モデルと、土砂災害後に計測された数値標高モデルと、の差分により、標高差分情報を生成する標高差分生成段階と、
土砂災害後に計測された数値表層モデルと、土砂災害後に計測された数値標高モデルと、の差分により、地物高さ情報を生成する地物高さ生成段階と、
土砂災害後に取得されたオルソ画像データを色値に変換する色値変換段階と、
前記標高差分情報、前記地物高さ情報、および前記色値のうち少なくとも一つに基づいて、前記移動域を推定する推定段階と、を少なくとも行う、土砂移動域推定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土砂の移動域を推定する土砂移動域推定方法、学習済みモデル、および土砂移動域推定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、大規模な土砂災害が発生した後には、災害全貌の把握や復旧計画の立案などのために、移動した土砂量を迅速に算出することが求められる。たとえば特許文献1では、航空写真画像データを正射投影に変換したオルソ画像データを用いて、移動土砂量を推定する技術が開示されている。この特許文献では、オルソ画像データに基づいて三次元メッシュデータ(土砂の移動域を示す地形データ)を作成し、移動土砂量を推定する技術について説明されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、オルソ画像データは天候や季節などに影響される。そのため、土砂の移動域の推定精度が低下するおそれがある。
【0005】
そこで、本発明は、土砂の移動域を高精度に推定する土砂移動域推定方法、学習済みモデル、および土砂移動域推定装置を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、コンピュータを利用して土砂の移動域を推定する土砂移動域推定方法であって、前記コンピュータが備えている演算部が、土砂災害前に計測された数値標高モデルと、土砂災害後に計測された数値標高モデルと、の差分により、標高差分情報を生成する標高差分生成段階と、前記演算部が、土砂災害後に計測された数値表層モデルと、土砂災害後に計測された数値標高モデルと、の差分により、地物高さ情報を生成する地物高さ生成段階と、前記演算部が、土砂災害後に取得されたオルソ画像データを色値に変換する色値変換段階と、前記演算部が、前記標高差分情報、前記地物高さ情報、および前記色値のうち少なくとも一つに基づいて、前記移動域を推定する推定段階と、を少なくとも含んでいる、土砂移動域推定方法を提供する。
前記数値標高モデルおよび前記数値表層モデルのそれぞれは、航空レーザ測量を用いて取得されてよい。
前記色値は、RGB値であってよい。
前記推定段階において、前記演算部が、前記標高差分情報、前記地物高さ情報、および前記色値のうち少なくとも一つを入力とし、土砂の移動域を出力とする機械学習を行うことで生成される学習済みモデルを用いてよい。
また、本発明は、コンピュータを利用して土砂の移動域を推定する土砂移動域推定方法に用いられる学習済みモデルであって、前記コンピュータが備えている演算部が、土砂災害前に計測された数値標高モデルと、土砂災害後に計測された数値標高モデルと、の差分により生成した標高差分情報と、前記演算部が、土砂災害後に計測された数値表層モデルと、土砂災害後に計測された数値標高モデルと、の差分により生成した地物高さ情報と、前記演算部が、土砂災害後に取得されたオルソ画像データを変換した色値と、のうち少なくとも一つを入力とし、土砂の移動域を出力とする機械学習を行うことで生成される、学習済みモデルを提供する。
また、本発明は、土砂の移動域を推定する演算部を少なくとも備えており、前記演算部が、土砂災害前に計測された数値標高モデルと、土砂災害後に計測された数値標高モデルと、の差分により、標高差分情報を生成する標高差分生成段階と、土砂災害後に計測された数値表層モデルと、土砂災害後に計測された数値標高モデルと、の差分により、地物高さ情報を生成する地物高さ生成段階と、土砂災害後に取得されたオルソ画像データを色値に変換する色値変換段階と、前記標高差分情報、前記地物高さ情報、および前記色値のうち少なくとも一つに基づいて、前記移動域を推定する推定段階と、を少なくとも行う、土砂移動域推定装置を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、土砂の移動域を高精度に推定する土砂移動域推定方法、学習済みモデル、および土砂移動域推定装置を提供できる。なお、本明細書中に記載した効果はあくまで例示であって限定されるものではなく、また他の効果があってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施形態に係る土砂移動域推定方法の一例を示すフローチャートである。
【
図2】本発明の一実施形態に係る土砂移動域推定方法を実現する構成例を示すブロック図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る土砂移動域推定方法が利用するコンピュータ(土砂移動域推定装置)50の構成例を示すブロック図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る土砂移動域推定方法の検証に用いた領域を示す図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係る土砂移動域推定方法が用いる標高差分情報の一例を示す図である。
【
図6】本発明の一実施形態に係る土砂移動域推定方法が用いる地物高さ情報の一例を示す図である。
【
図7】本発明の一実施形態に係る土砂移動域推定方法による推定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本技術を実施するための好適な形態について説明する。以下に説明する実施形態は、本技術の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本技術の範囲が狭く解釈されることはない。なお、特に断りがない限り、図面において、「上」とは図中の上方向または上側を意味し、「下」とは、図中の下方向または下側を意味し、「左」とは図中の左方向または左側を意味し、「右」とは図中の右方向または右側を意味する。また、図面については、同一または同等の要素または部材には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0010】
本発明の説明は以下の順序で行う。
1.本発明に係る第1の実施形態(土砂移動域推定方法)
(1)背景
(2)本発明
(3)ハードウェア構成
(4)検証結果
2.本発明に係る第2の実施形態(土砂移動域推定装置)
【0011】
<1.本発明に係る第1の実施形態(土砂移動域推定方法)>
<(1)背景>
従来、大規模な土砂災害が発生した後には、災害全貌の把握や復旧計画の立案などのために、移動した土砂量を迅速に算出することが求められる。この土砂量の算出には、航空レーザ測量を用いて計測された三次元地形地物データを用いることができる。航空レーザ測量は、航空機から地表に向かってレーザ光を出射して、地形および地物の標高を計測する技術である。なお、地形とは、土地の形状をいう。地物とは、たとえば、建物、樹木、および岩石など、土地の上に存在する物をいう。
【0012】
航空レーザ測量について説明する。航空レーザ測量を行う航空機には、レーザ測距装置、全球測位衛星システム(GNSS:Global Navigation Satellite System)受信機、および慣性計測装置(IMU:Inertial Measurement Unit)が搭載される。
【0013】
レーザ測距装置は、地表に向かってレーザ光を出射し、地表からの反射光を受光する。レーザ光を出射した時刻と、反射光を受光した時刻と、の差分に基づいて、航空機から地表までの距離を計測できる。これにより、地形および地物の標高が計測される。レーザ測距装置は、レーザ光を1秒間にたとえば5~10万回発射し、地表を60cm以下の間隔で計測できる。そのため、高密度な三次元地形地物データが得られる。
【0014】
GNSS受信機は、GPS(Global Positioning System)衛星からの電波を受信する。これにより、GNSS受信機は、航空機の位置を計測できる。
【0015】
IMUは、航空機の加速度および角速度を計測する。これにより、航空機の姿勢および速度が得られる。その結果、レーザ光の出射方向を補正できる。
【0016】
航空レーザ測量を用いて計測された三次元地形地物データを用いて、移動した土砂量を推定する方法について説明する。コンピュータは、災害発生前に計測された三次元地形地物データと、災害発生後に計測された三次元地形地物データと、の差分情報を生成する。この差分情報の生成により、座標ごとの標高の増減が算出できる。この標高の増減に面積を乗算すれば、移動した土砂量が推定できる。
【0017】
ただし、三次元地形地物データには誤差情報が含まれることが多い。たとえば、災害の発生により地盤そのものが移動したり、地表に到達すべきレーザ光が樹木の枝葉で遮られて地表に到達しなかったり、反射光の強度が弱いため受信できなかったりすることにより、誤差情報が生じる。この誤差情報が含まれている三次元地形地物データに基づいて土砂量を推定すると、土砂が移動していない地域が、土砂が移動した地域と誤って推定されるおそれがある。これにより、推定された土砂量に誤差が生じるおそれがある。
【0018】
そのため、オルソ画像データを目視して土砂が移動した地域(土砂の移動域)を判別することが行われている。災害発生前後の差分情報において、土砂の移動域を目視で判別している。しかし、この判別には経験やノウハウを必要とする。災害の発生後は、災害全貌の把握や復旧計画の立案などを迅速に行う必要があるため、移動した土砂量を迅速に推定する必要がある。そのため、経験やノウハウを持たない人員が多く動員されることがある。その結果、判別精度のばらつきや土砂量の算出の遅延などが生じるおそれがある。また、人件費や時間を要するため、コストが増大するという問題も生じる。さらに、オルソ画像データは天候や季節などに影響される。そのため、土砂の移動域の推定精度が低下するおそれがある。
【0019】
<(2)本発明>
発明者らは、土砂の移動域を高精度に推定する技術について研究を重ね、本発明を完成させた。本発明は、コンピュータを利用して土砂の移動域を推定する土砂移動域推定方法であって、前記コンピュータが備えている演算部が、土砂災害前に計測された数値標高モデルと、土砂災害後に計測された数値標高モデルと、の差分により、標高差分情報を生成する標高差分生成段階と、前記演算部が、土砂災害後に計測された数値表層モデルと、土砂災害後に計測された数値標高モデルと、の差分により、地物高さ情報を生成する地物高さ生成段階と、前記演算部が、土砂災害後に取得されたオルソ画像データを色値に変換する色値変換段階と、前記演算部が、前記標高差分情報、前記地物高さ情報、および前記色値のうち少なくとも一つに基づいて、前記移動域を推定する推定段階と、を少なくとも含んでいる、土砂移動域推定方法を提供する。
【0020】
本発明の一実施形態に係る土砂移動域推定方法について
図1を参照しつつ説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る土砂移動域推定方法の一例を示すフローチャートである。
図1に示されるとおり、本発明の一実施形態に係る土砂移動域推定方法は、標高差分生成段階(ステップS1)と、地物高さ生成段階(ステップS2)と、色値変換段階(ステップS3)と、推定段階(ステップS4)と、を少なくとも含んでいる。
【0021】
航空レーザ測量を用いて取得された三次元地形地物データには、数値表層モデル(DSM:Digital Surface Model)、数値標高モデル(DEM:Digital Elevation Model)、およびオルソ画像データが含まれている。数値表層モデル(DSM)は、地物を含んだ地球表面の高さのモデルをいう。数値標高モデル(DEM)は、地物の高さを取り除いた地盤の高さのモデルをいう。オルソ画像データは、航空写真画像データを正射投影に変換した画像データをいう。
【0022】
標高差分生成段階(ステップS1)では、コンピュータが備えている演算部が、土砂災害前に計測された数値標高モデル(DEM)と、土砂災害後に計測された数値標高モデル(DEM)と、の差分により、標高差分情報を生成する。演算部は、たとえばCPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphic Processing Unit)などでありうる。土砂災害により、土砂の崩壊および堆積が生じる。そのため、標高の変化は、土砂の移動域の推定に有用である。上述したように、数値標高モデル(DEM)は、航空レーザ測量を用いて取得される。
【0023】
地物高さ生成段階(ステップS2)では、演算部が、土砂災害後に計測された数値表層モデル(DSM)と、土砂災害後に計測された数値標高モデル(DSM)と、の差分により、地物高さ情報を生成する。土砂災害により、地物の位置および高さに変化が生じる。そのため、地物の位置および高さの変化は、土砂の移動域の推定に有用である。上述したように、数値表層モデル(DSM)は、航空レーザ測量を用いて取得される。
【0024】
色値変換段階(ステップS3)では、演算部が、オルソ画像データを色値に変換する。色値は、たとえば、RGB値、HSV値、CIE L*a*b*表示系で規定される値、または16進数カラーコードであってよい。オルソ画像データにおいて、土砂災害により土砂が崩壊した地域は、茶色く変色することが多い。そのため、色値は土砂の移動域の推定に有用である。上述したように、オルソ画像データは、航空レーザ測量を用いて取得される。
【0025】
推定段階(ステップS4)では、演算部が、標高差分情報、地物高さ情報、および色値のうち少なくとも一つに基づいて、土砂の移動域を推定する。演算部が用いるデータは、標高差分情報、地物高さ情報、および色値のうち少なくとも一つであればよいが、複数あると推定精度が高くなり、より好ましい。標高差分情報、地物高さ情報、および色値のすべてを用いると推定精度がさらに高くなり、さらに好ましい。
【0026】
本発明の一実施形態に係る土砂移動域推定方法は、航空レーザ測量を用いて取得された三次元地形地物データをそのまま用いておらず、標高差分生成段階(ステップS1)、地物高さ生成段階(ステップS2)、および色値変換段階(ステップS3)を含む前処理により生成されたデータを用いている。これにより、土砂の移動域の推定精度を向上させている。
【0027】
なお、図示を省略するが、推定段階(ステップS4)の後に、演算部が、移動した土砂量を算出してもよい。演算部は、たとえば、土砂の移動域および標高差分情報に基づいて土砂量を算出できる。
【0028】
また、推定段階(ステップS4)では、コンピュータが備えている演算部が、標高差分情報、地物高さ情報、および色値のうち少なくとも一つを入力とし、土砂の移動域を出力とする機械学習を行うことで生成される学習済みモデルを用いることができる。つまり、この学習済みモデルは、コンピュータを利用して土砂の移動域を推定する土砂移動域推定方法に用いられる学習済みモデルであって、前記コンピュータが備えている演算部が、土砂災害前に計測された数値標高モデルと、土砂災害後に計測された数値標高モデルと、の差分により生成した標高差分情報と、前記演算部が、土砂災害後に計測された数値表層モデルと、土砂災害後に計測された数値標高モデルと、の差分により生成した地物高さ情報と、前記演算部が、土砂災害後に取得されたオルソ画像データを変換した色値と、のうち少なくとも一つを入力とし、土砂の移動域を出力とする機械学習を行うことで生成される。
【0029】
なお、機械学習とは、あるデータの中から一定の規則を発見し、その規則に基づいて未知のデータに対する推測や予測などを実現する学習手法の一つである。機械学習については公知の技術が用いられることができる。本発明は、機械学習の機能を備えたコンピュータおよび学習済みモデルなどを用いることにより実現できる。
【0030】
この学習済みモデルの生成において、航空レーザ測量を用いて取得された三次元地形地物データをそのまま教師データとして用いず、標高差分生成段階(ステップS1)、地物高さ生成段階(ステップS2)、および色値変換段階(ステップS3)を含む前処理により生成されたデータを教師データとして選択することが好ましい。これにより、学習済みモデルの推定精度を向上させることができる。
【0031】
機械学習の手法は特に限定されないが、たとえば、ID3やランダムフォレストなどの決定木学習、相関ルール学習、教師あり学習、教師なし学習などが用いられてよい。あるいは、人工ニューラルネットワーク(ANN:Artificial Neural Network)、ディープニューラルネットワーク(DNN:Deep Neural Network)、畳み込みニューラルネットワーク(CNN:Convolutional Neural Network)、再帰型ニューラルネットワーク(RNN:Recurrent Neural Network)など、各種のニューラルネットワークが用いられてよい。あるいは、遺伝的プログラミング(GP:Genetic Programming)、帰納論理プログラミング(ILP:Inductive Logic Programming)、ファジィアルゴリズム、進化的アルゴリズム(EA:Evolutionary Algorithm)、強化学習(Reinforcement Learning)、サポートベクターマシン(SVM:Support Vector Machine)、クラスタリング(Clustering)、ベイジアンネットワーク(Bayesian Network)などが用いられてよい。さらには、これらの手法を組み合わせたものや、これらを深層学習(Deep Learning)の技術を用いて発展させたものであってもよい。
【0032】
たとえばニューラルネットワークを用いて機械学習する場合について
図2を参照しつつ説明する。
図2は、本発明の一実施形態に係る土砂移動域推定方法を実現する構成例を示すブロック図である。
図2に示されるとおり、たとえばニューラルネットワークを用いて機械学習する場合、標高差分情報、地物高さ情報、および色値のうち少なくとも一つを入力層に入力する入力変数11とし、土砂の移動域を出力層から出力される出力変数13として設定する。これにより、学習済みモデル(ニューラルネットワーク)12に含まれるパラメータが最適化される。学習済みモデル12は、後述するコンピュータ50に搭載されることができる。
【0033】
<(3)ハードウェア構成>
本発明の一実施形態に係る土砂移動域推定方法が利用するコンピュータのハードウェア構成について
図3を参照しつつ説明する。
図3は、本発明の一実施形態に係る土砂移動域推定方法が利用するコンピュータ50の構成例を示すブロック図である。
図3に示されるとおり、コンピュータ50は、構成要素として、演算部101、ストレージ102、メモリ103、および表示部104を備えうる。それぞれの構成要素は、たとえばデータの伝送路としてのバスで接続されている。
【0034】
演算部101は、たとえばCPU、GPUなどで構成される。演算部101は、コンピュータ50が備えているそれぞれの構成要素を制御する。標高差分生成段階(ステップS1)、地物高さ生成段階(ステップS2)、色値変換段階(ステップS3)、および推定段階(ステップS4)のそれぞれを実現するプログラムを演算部101が読み込むことによりコンピュータ50が機能する。
ストレージ102は、演算部101が使用するプログラム、演算パラメータなどの制御用データ、および画像データなどを記憶する。ストレージ102は、たとえばHDD(Hard Disk Drive)またはSSD(Solid State Drive)などを利用することにより実現される。
【0035】
メモリ103は、たとえば演算部101により実行されるプログラムなどを一時的に記憶する。メモリ103は、たとえばRAM(Random Access Memory)などを利用することにより実現される。
【0036】
表示部104は、情報を表示する。表示部104は、たとえば土砂移動域を表示しうる。表示部104は、たとえばLCD(Liquid Crystal Display)またはOLED(Organic Light-Emitting Diode)等により実現される。
【0037】
図示を省略するが、コンピュータ50は、通信インタフェースを備えていてもよい。この通信インタフェースは、たとえばWi-Fi、Bluetooth(登録商標)、LTE(Long Term Evolution)などの通信技術を利用して、情報通信ネットワークを介して通信する機能を有する。たとえば、演算部101は、この通信インタフェースを介して得られた画像データに基づいて、土砂移動域を推定することができる。
【0038】
コンピュータ50は、たとえばサーバであってもよいし、スマートフォン端末、タブレット端末、携帯電話端末、PDA(Personal Digital Assistant)、PC(Personal Computer)、携帯用音楽プレーヤー、携帯用ゲーム機、またはウェアラブル端末(HMD:Head Mounted Display、メガネ型HMD、時計型端末、バンド型端末等)であってもよい。
【0039】
推定段階(ステップS4)などを実現するプログラムは、コンピュータ50のほかのコンピュータ装置またはコンピュータシステムに格納されてもよい。この場合、コンピュータ50は、このプログラムが有する機能を提供するクラウドサービスを利用することができる。このクラウドサービスとして、たとえばSaaS(Software as a Service)、IaaS(Infrastructure as a Service)、PaaS(Platform as a Service)等が挙げられる。
【0040】
さらにこのプログラムは、様々なタイプの非一時的なコンピュータ可読媒体(non-transitory computer readable medium)を用いて格納され、コンピュータに供給することができる。非一時的なコンピュータ可読媒体は、様々なタイプの実体のある記録媒体(tangible storage medium)を含む。非一時的なコンピュータ可読媒体の例は、磁気記録媒体(たとえばフレキシブルディスク、磁気テープ、ハードディスクドライブ)、光磁気記録媒体(たとえば光磁気ディスク)、Compact Disc Read Only Memory(CD-ROM)、CD-R、CD-R/W、半導体メモリ(たとえば、マスクROM、Programmable ROM(PROM)、Erasable PROM(EPROM)、フラッシュROM、Random Access Memory(RAM))を含む。また、上記プログラムは、様々なタイプの一時的なコンピュータ可読媒体(transitory computer readable medium)によってコンピュータに供給されてもよい。一時的なコンピュータ可読媒体の例は、電気信号、光信号、および電磁波を含む。一時的なコンピュータ可読媒体は、電線および光ファイバ等の有線通信路、または無線通信路を介して、上記プログラムをコンピュータに供給できる。
【0041】
<(4)検証結果>
本発明の一実施形態に係る土砂移動域推定方法の検証結果について
図4から
図7を参照しつつ説明する。
図4は、本発明の一実施形態に係る土砂移動域推定方法の検証に用いた領域を示す図である。
図4において、学習領域LAおよび推定領域EAが示されている。なお、ライン1は、目視で判別した土砂の移動域の境界線である。後述する
図5から
図7においても同様の符号で示されている。
【0042】
コンピュータが備えている演算部は、学習領域LAにおける標高差分情報、地物高さ情報、および色値を入力とし、学習領域LAにおける土砂の移動域を出力とする機械学習を行うことで生成された学習済みモデルを用いた。演算部は、この学習済みモデルを用いて、推定領域EAにおける標高差分情報、地物高さ情報、および色値に基づいて、推定領域EAにおける土砂の移動域を推定した。
図5は、本発明の一実施形態に係る土砂移動域推定方法が用いる標高差分情報の一例を示す図である。
図5に示されるとおり、標高差分生成段階(ステップS1)において、演算部は、土砂災害前に計測された数値標高モデル(DEM)と、土砂災害後に計測された数値標高モデル(DEM)と、の差分を演算する。たとえば値が「5」である領域は、差分が5m程度である領域である。
図6は、本発明の一実施形態に係る土砂移動域推定方法が用いる地物高さ情報の一例を示す図である。
図6に示されるとおり、地物高さ生成段階(ステップS2)において、演算部は、土砂災害後に計測された数値表層モデル(DSM)および数値標高モデル(DSM)の差分を演算し、地物領域A1およびエラー領域A2が生成される。薄い灰色で示されている地物領域A1は、差分が3m以上である領域、つまり地物が存在する領域である。濃い灰色で示されているエラー領域A2は、差分が0m以下である領域、つまりエラーとなった領域である。
図7は、本発明の一実施形態に係る土砂移動域推定方法による推定結果を示す図である。
図7に示されるとおり、推定段階(ステップS4)において、標高差分情報、地物高さ情報、および色値(RGB値)に基づいて、推定領域EAにおける土砂の移動域が推定されている。ライン1は、目視で判別した土砂の移動域の境界線である。ライン2は、演算部が推定した土砂の移動域の境界線である。多少の誤差はあるが、ライン1およびライン2はおおむね一致している。
【0043】
演算部の推定結果について、2つの方法で定量的に評価した。1つめの方法は、推定領域EAを1m単位のメッシュに分割して、メッシュごとに正解および不正解を評価する方法である。ここでは、目視で判別された土砂の移動域と、演算部が推定した土砂の移動域が一致することを正解と定義した。2つめの方法は、目視で判別された土砂の移動域における土砂量と、演算部が推定した土砂の移動域における土砂量を比較する方法である。
【0044】
1つめのメッシュごとに評価する方法では、土砂が移動した領域であると目視で判別したメッシュであり、かつ、土砂が移動した領域であると演算部が推定したメッシュをTP(正解)と特定した。土砂が移動していない領域であると目視で判別したメッシュであり、かつ、土砂が移動していない領域であると演算部が推定したメッシュをTN(正解)と特定した。土砂が移動した領域であると目視で判別したメッシュであり、かつ、土砂が移動していない領域であると演算部が推定したメッシュをTN(不正解/見逃し)と特定した。土砂が移動していない領域であると目視で判別したメッシュであり、かつ、土砂が移動した領域であると演算部が推定したメッシュをTP(不正解/空振り)と特定した。メッシュごとにTP、TN、FN、およびFPを特定し、次の式(1)により正解率CAを算出した。この検証結果では、正解率CAは0.92となり、良好な結果を得た。
【0045】
CA=TP/(TP+TN+FN+FP) ・・・(1)
【0046】
土砂量を比較する2つめの方法では、標高差分情報に基づいて土砂量を算出した。目視で判別された土砂の移動域における土砂量は77,250m3であった。一方、演算部が推定した土砂の移動域における土砂量は75,923m3であった。誤差は約1.7%となり、良好な結果を得た。
【0047】
本発明の第1の実施形態に係る土砂移動域推定方法について説明した上記の内容は、技術的な矛盾が特にない限り、本発明の他の実施形態に適用できる。
【0048】
<2.本発明に係る第2の実施形態(土砂移動域推定装置)>
本発明は、土砂の移動域を推定する演算部を少なくとも備えており、前記演算部が、土砂災害前に計測された数値標高モデルと、土砂災害後に計測された数値標高モデルと、の差分により、標高差分情報を生成する標高差分生成段階と、土砂災害後に計測された数値表層モデルと、土砂災害後に計測された数値標高モデルと、の差分により、地物高さ情報を生成する地物高さ生成段階と、土砂災害後に取得されたオルソ画像データを色値に変換する色値変換段階と、前記標高差分情報、前記地物高さ情報、および前記色値のうち少なくとも一つに基づいて、前記移動域を推定する推定段階と、を少なくとも行う、土砂移動域推定装置を提供する。
【0049】
本発明の一実施形態に係る土砂移動域推定装置の構成例は、
図3に示される構成例であってよい。
図3に示されるとおり、土砂移動域推定装置50は、土砂の移動域を推定する演算部101を少なくとも備えている。
【0050】
演算部101は、土砂災害前に計測された数値標高モデルと、土砂災害後に計測された数値標高モデルと、の差分により、標高差分情報を生成する。次に、演算部101は、土砂災害後に計測された数値表層モデルと、土砂災害後に計測された数値標高モデルと、の差分により、地物高さ情報を生成する。次に、演算部101は、土砂災害後に取得されたオルソ画像データを色値に変換する。そして、演算部101は、標高差分情報、地物高さ情報、および色値のうち少なくとも一つに基づいて、移動域を推定する。
【0051】
本発明の第2の実施形態に係る土砂移動域推定装置について説明した上記の内容は、技術的な矛盾が特にない限り、本発明の他の実施形態に適用できる。
【0052】
なお、本発明は、以下のような構成をとることもできる。
[1]
コンピュータを利用して土砂の移動域を推定する土砂移動域推定方法であって、
前記コンピュータが備えている演算部が、土砂災害前に計測された数値標高モデルと、土砂災害後に計測された数値標高モデルと、の差分により、標高差分情報を生成する標高差分生成段階と、
前記演算部が、土砂災害後に計測された数値表層モデルと、土砂災害後に計測された数値標高モデルと、の差分により、地物高さ情報を生成する地物高さ生成段階と、
前記演算部が、土砂災害後に取得されたオルソ画像データを色値に変換する色値変換段階と、
前記演算部が、前記標高差分情報、前記地物高さ情報、および前記色値のうち少なくとも一つに基づいて、前記移動域を推定する推定段階と、を少なくとも含んでいる、土砂移動域推定方法。
[2]
前記数値標高モデルおよび前記数値表層モデルのそれぞれは、航空レーザ測量を用いて取得される、
[1]に記載の土砂移動域推定方法。
[3]
前記色値は、RGB値である、
[1]または[2]に記載の土砂移動域推定方法。
[4]
前記推定段階において、前記演算部が、前記標高差分情報、前記地物高さ情報、および前記色値のうち少なくとも一つを入力とし、土砂の移動域を出力とする機械学習を行うことで生成される学習済みモデルを用いる、
[1]から[3]のいずれか一つに記載の土砂移動域推定方法。
[5]
コンピュータを利用して土砂の移動域を推定する土砂移動域推定方法に用いられる学習済みモデルであって、
前記コンピュータが備えている演算部が、土砂災害前に計測された数値標高モデルと、土砂災害後に計測された数値標高モデルと、の差分により生成した標高差分情報と、
前記演算部が、土砂災害後に計測された数値表層モデルと、土砂災害後に計測された数値標高モデルと、の差分により生成した地物高さ情報と、
前記演算部が、土砂災害後に取得されたオルソ画像データを変換した色値と、のうち少なくとも一つを入力とし、土砂の移動域を出力とする機械学習を行うことで生成される、学習済みモデル。
[6]
土砂の移動域を推定する演算部を少なくとも備えており、
前記演算部が、
土砂災害前に計測された数値標高モデルと、土砂災害後に計測された数値標高モデルと、の差分により、標高差分情報を生成する標高差分生成段階と、
土砂災害後に計測された数値表層モデルと、土砂災害後に計測された数値標高モデルと、の差分により、地物高さ情報を生成する地物高さ生成段階と、
土砂災害後に取得されたオルソ画像データを色値に変換する色値変換段階と、
前記標高差分情報、前記地物高さ情報、および前記色値のうち少なくとも一つに基づいて、前記移動域を推定する推定段階と、を少なくとも行う、土砂移動域推定装置。
【符号の説明】
【0053】
S1 標高差分生成段階
S2 地物高さ生成段階
S3 色値変換段階
S4 推定段階
50 コンピュータ(土砂移動域推定装置)
101 演算部
102 ストレージ
103 メモリ
104 表示部
12 学習済みモデル