(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023183481
(43)【公開日】2023-12-28
(54)【発明の名称】検査装置
(51)【国際特許分類】
G01N 29/265 20060101AFI20231221BHJP
G01N 27/83 20060101ALI20231221BHJP
G01N 27/90 20210101ALI20231221BHJP
【FI】
G01N29/265
G01N27/83
G01N27/90
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022097015
(22)【出願日】2022-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002158
【氏名又は名称】弁理士法人上野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森永 武
【テーマコード(参考)】
2G047
2G053
【Fターム(参考)】
2G047AA06
2G047AB01
2G047BA03
2G047BB01
2G047BC03
2G047BC09
2G047DB10
2G047DB17
2G047EA10
2G047GA06
2G047GJ11
2G047GJ13
2G053AA11
2G053AB21
2G053AB22
2G053BA03
2G053BA13
2G053DB16
2G053DB20
2G053DB22
2G053DB23
(57)【要約】
【課題】円柱状の検査材に対して、検査プローブの相対配置を安定に保持して検査を行うことができる検査装置を提供する。
【解決手段】検査装置1を構成する保持具3は、検査プローブ2を保持するプローブ保持部と、検査材Sに接触して、検査材Sの運動に伴って回転可能な複数のギャップ規定用ローラ52および複数の倣い用ローラ53と、それらが取り付けられたヘッド基部54と、ヘッド基部54を移動可能に支持する面内調整ユニット6と、を有し、複数のギャップ規定用ローラ52は、共通の接触面P1において、正規配置にある検査材Sにそれぞれ接触し、複数の倣い用ローラ53は、中央面P2の両側に配置され、正規配置にある検査材Sにそれぞれ接触し、面内調整ユニット6は、中央面P2を挟んで両側に伸縮可能に配置された複数のコイルバネ62を介して、ヘッド基部54を支持している。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向または周方向に沿った運動方向に運動する円柱状の検査材に対して、非接触で検査を行う検査プローブと、
前記検査プローブを保持する保持具と、を有する検査装置であって、
前記検査プローブに対して前記検査材が正規の検査位置に配置された状態を正規配置とし、前記正規配置において前記検査プローブと前記検査材の中心軸とを結ぶ軸を検査軸、前記検査軸と前記検査材の中心軸を含む平面を中央面として、
前記保持具は、
運動しないように固定される固定部と、
前記検査プローブを保持するプローブ保持部と、
それぞれ、前記検査材に接触して、前記検査材の前記運動方向への運動に伴って回転可能な、複数のギャップ規定用ローラ、および複数の倣い用ローラと、
前記プローブ保持部、前記ギャップ規定用ローラ、前記倣い用ローラが取り付けられたヘッド基部と、
前記ヘッド基部を、前記固定部と前記検査材の間で、前記検査軸に直交する面内で移動可能に支持する面内調整ユニットと、を有し、
前記複数のギャップ規定用ローラは、前記検査軸に直交する共通の接触面において、前記検査軸を囲む複数の位置で、前記正規配置にある検査材にそれぞれ接触し、
前記複数の倣い用ローラは、前記中央面の両側に配置され、前記正規配置にある前記検査材にそれぞれ接触し、
前記面内調整ユニットは、前記中央面を挟んで両側に伸縮可能に配置された、複数のコイルバネを介して、前記ヘッド基部を支持している、検査装置。
【請求項2】
前記面内調整ユニットは、前記固定部に対して、伸縮軸を前記検査軸に平行に向けた複数のコイルバネを介して結合されている、請求項1に記載の検査装置。
【請求項3】
前記複数の倣い用ローラはそれぞれ、前記ヘッド基部に対して、前記接触面からの距離を変更可能に取り付けられている、請求項1または請求項2に記載の検査装置。
【請求項4】
前記複数の倣い用ローラのそれぞれの回転軸が、前記ヘッド基部に対して、方向可変に突出して設けられている、請求項3に記載の検査装置。
【請求項5】
前記検査材は、前記長手方向に沿って運動し、
前記ギャップ規定用ローラおよび前記倣い用ローラは、前記長手方向に沿って回転可能である、請求項1または請求項2に記載の検査装置。
【請求項6】
前記検査材は、前記周方向に沿って運動し、
前記ギャップ規定用ローラおよび前記倣い用ローラは、前記周方向に沿って回転可能である、請求項1または請求項2に記載の検査装置。
【請求項7】
前記検査プローブは、超音波探傷、渦流探傷、漏洩磁束探傷のいずれかの検査を行う、請求項1または請求項2に記載の検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検査装置に関し、さらに詳しくは、円柱状の検査材を移動させながら検査を行う検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
金属等の材料において、表面や内部の品質を保証するための非破壊検査として、種々の非接触型の検査方法が開発されている。非接触にて金属材の表面または内部の欠陥を検出できる検査方法として、超音波探傷や渦流探傷、漏洩磁束探傷等を例示することができる。それらをはじめ、多くの非接触検査においては、検査材と検査プローブの間の位置関係が、検出結果に大きな影響を与えうる。よって、検査材を検査プローブに対して相対移動させながら、検査材の表面の広い範囲で検査を行う場合に、検査材の表面に対する検査プローブの距離および姿勢を、できる限り一定に保持することが、検査結果の信頼性向上の観点から望まれる。そこで、検査プローブと検査材の位置関係を安定に維持するために、特許文献1,2に示すもの等、保持した検査プローブを、検査材の表面形状に追従して移動させることができる倣い装置や、倣い機構を内蔵した検査装置が開発されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開平5-75660号公報
【特許文献2】特開2005-127727号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
検査材が、丸棒状の金属材等、円柱形状をとる場合には、平板状やブロック状等、表面が平面的な形状をとる場合と比較して、検査材と検査プローブの間の相対位置や角度のずれが、検査結果に大きな影響を与えやすい。円柱形状を有する検査材の側面の外側に検査プローブを固定しておいた場合に、検査材が位置や角度のずれを起こすと、円柱の側面が連続した曲面形状を有していることにより、ずれの絶対量としては小さくても、検査材の表面に対する検査プローブの相対的な距離や姿勢に、大きなずれとして反映されやすいからである。このような場合に、検査装置に適切な倣い機構が設けられていれば、検査プローブを検査材のずれに追従して移動させ、検査条件を一定に保てる可能性がある。しかし、特許文献1,2に開示されているもの等、平板状の検査材を主な適用対象としている倣い機構は、円柱状の検査材に適用したとしても、検査材に対する検査プローブの相対位置や角度を十分に安定に保つのに、適したものであるとは言えない。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、円柱状の検査材に対して、検査プローブの相対配置を安定に保持して検査を行うことができる検査装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明にかかる検査装置は、以下の構成を有する。
[1]本発明にかかる検査装置は、長手方向または周方向に沿った運動方向に運動する円柱状の検査材に対して、非接触で検査を行う検査プローブと、前記検査プローブを保持する保持具と、を有する検査装置であって、前記検査プローブに対して前記検査材が正規の検査位置に配置された状態を正規配置とし、前記正規配置において前記検査プローブと前記検査材の中心軸とを結ぶ軸を検査軸、前記検査軸と前記検査材の中心軸を含む平面を中央面として、前記保持具は、運動しないように固定される固定部と、前記検査プローブを保持するプローブ保持部と、それぞれ、前記検査材に接触して、前記検査材の前記運動方向への運動に伴って回転可能な、複数のギャップ規定用ローラ、および複数の倣い用ローラと、前記プローブ保持部、前記ギャップ規定用ローラ、前記倣い用ローラが取り付けられたヘッド基部と、前記ヘッド基部を、前記固定部と前記検査材の間で、前記検査軸に直交する面内で移動可能に支持する面内調整ユニットと、を有し、前記複数のギャップ規定用ローラは、前記検査軸に直交する共通の接触面において、前記検査軸を囲む複数の位置で、前記正規配置にある検査材にそれぞれ接触し、前記複数の倣い用ローラは、前記中央面の両側に配置され、前記正規配置にある前記検査材にそれぞれ接触し、前記面内調整ユニットは、前記中央面を挟んで両側に伸縮可能に配置された、複数のコイルバネを介して、前記ヘッド基部を支持している。
【0007】
[2]ここで、前記[1]の態様において、前記面内調整ユニットは、前記固定部に対して、伸縮軸を前記検査軸に平行に向けた複数のコイルバネを介して結合されているとよい。
【0008】
[3]前記[1]または[2]の態様において、前記複数の倣い用ローラはそれぞれ、前記ヘッド基部に対して、前記接触面からの距離を変更可能に取り付けられているとよい。
【0009】
[4]前記[3]の態様において、前記複数の倣い用ローラのそれぞれの回転軸が、前記ヘッド基部に対して、方向可変に突出して設けられているとよい。
【0010】
[5]前記[1]から[4]のいずれか1つの態様において、前記検査材は、前記長手方向に沿って運動し、前記ギャップ規定用ローラおよび前記倣い用ローラは、前記長手方向に沿って回転可能であるとよい。
【0011】
[6]あるいは、前記[1]から[4]のいずれか1つの態様において、前記検査材は、前記周方向に沿って運動し、前記ギャップ規定用ローラおよび前記倣い用ローラは、前記周方向に沿って回転可能であるとよい。
【0012】
[7]前記[1]から[6]のいずれか1つの態様において、前記検査プローブは、超音波探傷、渦流探傷、漏洩磁束探傷のいずれかの検査を行うものであるとよい。
【発明の効果】
【0013】
上記[1]の発明にかかる検査装置においては、検査プローブを保持する保持具にギャップ規定用ローラが設けられており、検査軸を囲む複数のギャップ規定用ローラが、共通の接触面において検査材に接触することにより、検査軸に沿って、検査プローブと検査材の表面の間の距離が、一定に保たれる。さらに、保持具に倣い用ローラと面内調整ユニットが設けられていることにより、検査材が正規配置から面内で位置や角度のずれを起こした場合でも、検査プローブがそのずれに追従して移動し、検査材に対して、正規配置、あるいはそこから大きくずれない相対配置を維持することができる。複数の倣い用ローラが、正規配置にある検査材に対して、中央面の両側の位置で検査材に接触しており、検査材の位置が正規配置からずれると、検査材から一部の倣い用ローラに対して加えられる押圧力により、面内調整ユニットにおいて、中央面を挟んで両側に設けられたコイルバネが伸縮することで、ヘッド基部が検査軸に直交する面内で移動するからである。このように、ギャップ規定用ローラによる検査軸に沿った距離の維持、および倣い用ローラと面内調整ユニットによる検査軸方向に直交する面内での相対位置の維持の効果により、検査プローブと検査材との間の相対配置を、正規配置、あるいはそれに近い配置に保持しながら、安定した条件で検査を行うことができる。
【0014】
上記[2]の態様においては、面内調整ユニットが固定部に対して、検査軸に平行な方向に伸縮可能なコイルバネを介して結合されている。このコイルバネを利用して、ギャップ規定用ローラおよび倣い用ローラを検査材に対して押し付けるように接触させて、検査装置を配置することで、検査材の位置が上下方向にずれることがあっても、検査材に対して検査プローブを、正規配置、あるいはそれに近い配置に安定に保持して、検査を進めることができる。
【0015】
上記[3]の態様においては、倣い用ローラが、接触面からの距離を変更可能に取り付けられている。倣い用ローラと接触面の間の距離を調整することで、円柱状の検査材の径が変化しても、円柱形状の表面に倣い用ローラを確実に接触させることができる。その結果、面内調整ユニットおよび倣い用ローラの働きにより、検査材に対する検査プローブの配置を安定に保持する倣い機能を、検査材の径によらずに利用することができる。
【0016】
上記[4]の態様においては、倣い用ローラの回転軸がヘッド基部に対して方向可変に突出して設けられている。この場合には、ヘッド基部からの倣い用ローラの突出方向を変更することで、簡便に、倣い用ローラと接触面の間の距離を変更し、検査材の径の変化に対応することができる。
【0017】
上記[5]の態様においては、検査材が長手方向に沿って運動する場合に、ギャップ規定用ローラおよび倣い用ローラが、長手方向に沿って回転可能となっている。また、上記[6]の態様においては、検査材が周方向に沿って運動する場合に、ギャップ規定用ローラおよび倣い用ローラが、周方向に沿って回転可能となっている。これらいずれの場合にも、検査材の運動に伴って、ギャップ規定用ローラおよび倣い用ローラが円滑に回転しながら、検査材の表面に接触した状態を保ち、検査材に対する検査プローブの相対配置を安定に維持する倣い機能を発揮する。よって、検査材の運動に伴って、検査材の位置や角度にずれが生じても、そのずれに追従して検査プローブを移動させ、安定した検査条件での検査を継続することができる。
【0018】
上記[7]の態様においては、検査プローブが、超音波探傷、渦流探傷、漏洩磁束探傷のいずれかの検査を行う。これらの探傷手法はいずれも、金属よりなる検査材の表面または内部の欠陥を敏感に検出できる手法である。これらの手法においては、検査材と検査プローブの間の位置関係が検査結果に影響を及ぼしやすいが、上記[1]~[6]の態様の検査装置を用い、検査材に対する検査プローブの相対配置を安定に維持しながら検査を行うことで、検査材の各位置における欠陥の検査を、安定した条件で実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の第一の実施形態にかかる検査装置を示す斜視図である。
【
図2】上記第一の実施形態にかかる検査装置を示す概略正面図である。
【
図3】上記第一の実施形態にかかる検査装置を示す概略側面図である。
【
図4】本発明の第二の実施形態にかかる検査装置を示す概略正面図である。
【
図5】上記第二の実施形態にかかる検査装置を示す概略側面図である。
【
図6】実施例の探傷試験における検査材および検査方法を説明する図であり、(a)は正面図、(b)は側面図である。
【
図7】実施例の探傷試験の結果であり、(a)は位置ずれなしの場合、(b)は3mmの垂直ずれありの場合、(c)は3mmの水平ずれありの場合を示している。
【
図8】実施例の探傷試験の結果におけるS/N比を、位置ずれ方向および位置ずれ量ごとに示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明の実施形態にかかる検査装置について説明する。本発明の実施形態にかかる検査装置は、円柱状の検査材を移動させながら、検査材に対して検査を行うものである。検査材の移動方向は、第一の実施形態においては、検査材の長手方向であり、第二の実施形態においては検査材の周方向である。
【0021】
検査材の材質は特に限定されるものではない。検査の種類も、検査材に対して非接触で検査を行えるものであれば、特に限定されず、検査材の材質および得るべき情報に応じて、適した検査方法を選択すればよい。以下では、金属材よりなる検査材に対して、探傷検査を行う形態を例として扱う。金属材の表面または内部の探傷を行える方法としては、超音波探傷、渦流探傷、漏洩磁束探傷等を用いることができるが、以下では、超音波探傷を行う場合を主に想定する。本明細書において、「垂直」、「平行」等、部材の形状や配置を示す語には、幾何的に厳密な概念のみならず、この種の検査装置や検査材、検査方法において一般に許容される誤差の範囲も含むものとする。
【0022】
[第一の実施形態にかかる検査装置の構造]
図1~3に、本発明の第一の実施形態にかかる検査装置1を、検査材Sとともに示す。
図1は斜視図であり、
図2,3はそれぞれ、簡略化して示した正面図および側面図である。
【0023】
検査装置1は、検査プローブ2と、保持具3と、を有している。検査プローブ2は、検査材Sに対して非接触で検査を行う検査装置のヘッド部であり、ここでは、超音波探傷装置の超音波探触子として構成されている。保持具3は、検査プローブ2を保持し、検査材Sの移動中に検査プローブ2と検査材Sの相対位置を維持するための倣い装置として機能する。長手方向に移動する(運動M1)検査材Sに対して、円柱状の曲面として構成された検査材Sの側面から離間した位置に、検査プローブ2が配置される。
【0024】
以下では、検査プローブ2に対して検査材Sが正規の検査位置に配置された状態を正規配置と称する。正規の検査位置とは、検査プローブ2による検査を正常に行うことができる、検査材Sに対する検査プローブ2の相対配置(相対的な位置および傾斜角度)を指す。正規の検査位置は、検査プローブ2および検査材Sの種類、検査条件等によって定められる。本実施形態においては、検査プローブ2の中心軸を、検査材Sの表面に対して垂直に立て、検査プローブ2の先端を検査材Sの表面から距離aだけ離した状態を、正規配置とする。
【0025】
以下、特記しないかぎり、検査装置1と検査材Sおよびその構成部材との位置関係は、正規配置における位置関係に基づいて記載するものとする。また、正規配置における検査材Sの長手方向を前後方向(x方向)とする。さらに、正規配置において、検査プローブ2と、検査材Sの中心軸Oとを垂直に結ぶ軸を検査軸A1とし、その検査軸A1に沿って検査プローブ2が配置された方向を上方(+z方向)、検査材Sが配置された方向を下方(-z方向)とする。上下方向(z方向)を垂直方向と称する場合もある。そして、x方向およびz方向に直交する方向を、幅方向(y方向)とする。x方向とy方向を水平方向とまとめて称する場合もある。なお、ここで、上下や水平等の方向を示す語は、便宜的なものであり、必ずしも重力方向を基準とした上下、水平等の方向に従うものではない。
【0026】
ここで、保持具3の構成について説明する。保持具3は、固定部4と、ヘッド部5と、面内調整ユニット6とを備えている。ヘッド部5は、プローブ保持部51と、複数のギャップ規定用ローラ52と、複数の倣い用ローラ53と、ヘッド基部54とを有している。ヘッド部5は、面内調整ユニット6を介して、固定部4に結合されている。
【0027】
固定部4は、運動しないように固定される部材であり、検査材Sの移動(運動M1)や、それに伴う倣いのためのヘッド部5の移動によって位置が変化しないように、固定される。
図1に示した形態では、固定部4は、2つのブロックに分かれて構成されており、外部の固定柱Rを2つのブロックの間に挟み込むことで、固定柱Rに対して固定されている。
【0028】
ヘッド部5を構成するヘッド基部54は、板状の底面に側壁面が立設された形状を有している。底面には、プローブ保持部51、ギャップ規定用ローラ52、倣い用ローラ53が一括して取り付けられている。側壁面は底面とともに、上端が開口した収容空間54aを形成しており、後に説明する面内調整ユニット6を収容空間54aに収容することができる。
【0029】
プローブ保持部51は、検査プローブ2を保持する部材である。検査プローブ2は、プローブ保持部51に保持された状態で、検査材Sに対して正規配置をとる。つまり、検査プローブ2の中心軸が、上下方向に延びた検査軸A1に一致するとともに、検査プローブ2の先端が、検査材Sの表面から所定の距離aだけ離れた位置に配置される。また、検査プローブ2の中心軸が、保持具3全体としての中心、つまり固定柱Rの直下に位置することになる。
【0030】
複数のギャップ規定用ローラ52はそれぞれ、ローラ部材として構成されており、相互に独立して軸回転可能となっている。本実施形態においては、各ギャップ規定用ローラ52は、回転軸を幅方向(y方向)に向けて取り付けられており、前後方向(x方向)に軸回転可能となっている。なお、ギャップ規定用ローラ52の位置および角度は、次に説明する倣い用ローラ53とは異なり、ヘッド基部54に対して不変となっている。
【0031】
複数のギャップ規定用ローラ52は、共通の接触面P1において、正規配置にある検査材Sに接触する。ここで、接触面P1は、検査軸A1に直交する平面(xy平面)として設定されており、検査材Sの上方の接平面に相当する。複数のギャップ規定用ローラ52は、接触面P1において、検査軸A1を囲む複数の位置、つまり検査プローブ2の直下の位置を囲む複数の位置で検査材Sに接触するように、配置されている。この限りにおいて、ギャップ規定用ローラ52の具体的な数や位置は特に限定されるものではないが、図示した形態においては、検査軸A1の前方と後方に1つずつ、合計2つのギャップ規定用ローラ52が配置されている。つまり、前方のギャップ規定用ローラ52、検査プローブ2、後方のギャップ規定用ローラ52が、この順に前後方向(x方向)に直線状に並んでいる。このように、検査プローブ2の前後に1つずつギャップ規定用ローラ52を配置すれば、後に説明する検査プローブ2と検査材Sの間の距離の規定というギャップ規定用ローラ52の機能を、安定して果たすことができる。
【0032】
倣い用ローラ53も、ギャップ規定用ローラ52と同様に、それぞれ、ローラ部材として構成されており、相互に独立して軸回転可能となっている。本実施形態においては、各倣い用ローラ53は、前後方向に直交する面内(yz平面内)に回転軸A2を有して取り付けられており、前後方向(x方向)に軸回転可能となっている。
【0033】
複数の倣い用ローラ53はそれぞれ、正規配置にある検査材Sに接触する。複数の倣い用ローラ53の接触位置は、中央面P2を挟んで両側に配置されている。ここで、中央面P2は、正規配置において、検査軸A1と検査材Sの中心軸Oをともに含む平面であり、検査プローブ2の中心を通るxz平面となっている。また各倣い用ローラ53の検査材Sへの接触位置は、ギャップ規定用ローラ52の接触位置である接触面P1よりも下側に位置している。複数の倣い用ローラ53は、中央面P2の両側に配置されていれば、具体的な数や位置を特に限定されるものではないが、図示した形態では、4つの倣い用ローラ53が検査軸A1の位置を囲んで配置されており、検査軸A1の前方側および後方側のそれぞれで、1対の倣い用ローラ53が、中央面P2を挟んで対称に配置されている。このように、検査軸A1を囲んで4つの倣い用ローラ53を配置すること、また中央面P2を挟んで対称に倣い用ローラ53を配置することで、後に説明する水平方向における検査プローブ2の位置の保持という倣い用ローラ53の機能を、安定して果たすことができる。なお、正規配置において、倣い用ローラ53と検査材Sの間には、検査材Sと検査プローブ2の相対配置において許容できる範囲で、遊隙が設けられてもよい。
【0034】
任意ではあるが、各倣い用ローラ53は、軸配置変更部材55を介してヘッド基部54に取り付けられている。軸配置変更部材55により、ヘッド基部54に対して、各倣い用ローラ53の回転軸A2が、方向可変に突出した状態となっている。これにより、倣い用ローラ53と接触面P1の間の距離を変更可能となっている。具体的には、軸配置変更部材55は、軸部材55aと、軸部材55aに取り付けられたロックギア55bを有している。軸部材55aは、yz平面内で軸回転可能となっており、軸部材55aの回転により、yz平面内で倣い用ローラ53の回転軸A2の位置が回転移動し(運動M2)、倣い用ローラ53と接触面P1との間の距離が変更される。つまり、
図2において、左側(-y側)の倣い用ローラ53に対応する軸部材55aを時計回りに、右側(+y側)の倣い用ローラ53に対応する軸部材55aを反時計回りに、それぞれ回転させると、左右両側の倣い用ローラ53が、上方、つまり、検査材Sへの接触箇所が接触面P1に近づく方向に移動する。軸配置変更部材55において、ロックギア55bをロックすることで、所望の回転位置に軸部材55aを固定し、接触面P1と倣い用ローラ53の間の距離を固定することができる。このようにして接触面P1と倣い用ローラ53の間の距離を調整することで、検査材Sの円柱形状の径が変更された場合でも、ギャップ規定用ローラ52と検査材Sの間の接触を保ちながら、検査材Sに対して倣い用ローラ53を接触させることができる。なお、軸部材55aやロックギア55b等、軸配置変更部材55の構成部材は、検査材Sには接触しない。
【0035】
面内調整ユニット6は、ヘッド部5を構成するヘッド基部54を、水平面内(検査軸A1に直交する面内;xy平面)で移動可能に、支持している。具体的には、面内調整ユニット6は、中央ブロック61と、コイルバネとして構成された複数の水平バネ62を有している。ヘッド基部54の収容空間54aに中央ブロック61が収容された状態で、中央面P2を挟んで両側に伸縮可能に配置された複数の水平バネ62を介して、面内調整ユニット6がヘッド基部54を支持している。図示した形態では、4本の水平バネ62のそれぞれが、伸縮軸を幅方向(y方向)に向けており、中央面P2を挟んで両側の位置において、面内調整ユニット6と中央ブロック61の間に介在している。さらに具体的には、中央ブロック61には、幅方向両側に、それぞれ2本ずつ前後方向に並んで、水平バネ支柱63が、幅方向外側へと突出して固定されている。水平バネ支柱63の幅方向外側の端部は、抜け止めされた状態で、ヘッド基部54の側壁面に設けられた貫通孔に挿通されている。そして、4本の水平バネ62のそれぞれが、中空部に水平バネ支柱63を挿通された状態で、中央ブロック61と、ヘッド基部54の側壁面との間に保持されている。
【0036】
面内調整ユニット6が、水平バネ62により、幅方向両側から、ヘッド基部54を移動可能に支持していることにより、ヘッド部5全体が、水平面内で移動可能となっている。各水平バネ62は、正規配置において、自然長をとるようにしておけばよい。
【0037】
さらに、任意ではあるが、固定部4と面内調整ユニット6の間は、複数の垂直バネ71を有する垂直調整ユニット7を介して結合されていることが好ましい。各垂直バネ71は、上下方向(z方向)に伸縮軸を向けたコイルバネとして構成されている。図示した形態では、固定部4に対して固定された板状の上板部材72と、ヘッド基部54の収容空間54aの開口よりも大きな板状に構成され、面内調整ユニット6の中央ブロック61に固定された下板部材73の間に、4本の垂直バネ71が配置されている。さらに具体的には、下板部材73の4箇所に垂直バネ支柱74が立設されている。垂直バネ支柱74の上端部は、抜け止めされた状態で、上板部材72に設けられた貫通孔に挿通されている。そして、4本の垂直バネ71のそれぞれが、中空部に垂直バネ支柱74を挿通された状態で上板部材72と下板部材73との間に保持されている。
【0038】
面内調整ユニット6が、固定部4に対して、垂直バネ71を有する垂直調整ユニット7を介して結合されていることで、面内調整ユニット6、および面内調整ユニット6に支持されたヘッド部5が、上下方向(z方向)に移動可能となっている。特に、各垂直バネ71を、正規配置において、自然長から固定部4および上板部材72の重量によって圧縮された長さよりも、さらに圧縮しておくことが好ましい。
【0039】
[保持具による正規配置の維持]
以上に説明した検査装置1においては、保持具3が、ギャップ規定用ローラ52、倣い用ローラ53、面内調整ユニット6、さらに必要に応じて垂直調整ユニット7を有することにより、円柱状の検査材Sを移動させて検査を行う間、検査材Sに対する検査プローブ2の相対配置を、正規配置(あるいは許容される誤差の範囲で正規配置に近接した位置;以下同)に、安定に維持することができる。
【0040】
ギャップ規定用ローラ52は、検査材Sと検査プローブ2の間の距離(ギャップ)を安定に保つ役割を果たす。複数のギャップ規定用ローラ52が共通の接触面P1において検査材Sと接触することにより、検査プローブ2と検査材Sの間に、ギャップ規定用ローラ52によって規定される所定の距離aが確保されるからである。その所定の距離aが、正規の検査位置を与える距離となる。そして、ギャップ規定用ローラ52が検査材Sに接触している状態で、検査材Sが前後方向に移動すると(運動M1)、ギャップ規定用ローラ52が回転し、検査材Sの移動中も、ギャップ規定用ローラ52が検査材Sに接触面P1にて接触した状態が維持される。よって、検査材Sが移動しても、検査プローブ2と検査材Sの間の距離を、所定の距離aに安定に維持することができる。
【0041】
このように、複数のギャップ規定用ローラ52が検査材Sの表面に接触していれば、ギャップ規定用ローラ52の機能として、検査プローブ2と検査材Sの距離を安定に維持して、検査プローブ2による検査を行うことができる。しかし、検査材Sが、正規配置から、位置や角度のずれを生じると、ギャップ規定用ローラ52が検査材Sの表面に接触できなくなり、検査プローブ2と検査材Sの間に所定の距離aを維持できなくなる可能性がある。また、検査材Sの表面に対する検査プローブ2の姿勢(配置角度)が、正規配置における姿勢からずれてしまう可能性もある。ここで、正規配置からの検査材Sの位置のずれとは、検査材Sの中心軸Oの位置が、水平面内でずれる現象を指し、角度のずれとは、検査材Sの中心軸Oの方向が、前後方向軸(x方向)からずれてしまう現象を指す。これら検査材Sの位置や角度のずれは、検査材Sの寸法における製造誤差、検査材Sを移動のための搬送装置(図略)に設置する際の誤差、搬送装置の運転条件の変動等に起因して、生じうる。
【0042】
検査材Sの位置や角度のずれに伴って、検査材Sに対する検査プローブ2の距離や姿勢にずれが生じると、検査材Sを移動させながら検査プローブ2による検査を連続して実施する間に、検査条件を一定に保つことができなくなる。すると、S/N比の低下等、検査結果の信頼性の低下を招く可能性がある。特に、本実施形態においては、検査の対象を、円柱形状の検査材Sとしており、検査材Sの位置や角度のずれが、幅方向(y方向)に生じると、小さなずれであっても、検査材Sに対する検査プローブ2の距離や姿勢において、大きなずれとして反映されやすい。円柱の側面が、連続的な曲面形状をとっていることにより、曲面形状の頂部にあたる検査軸A1の位置(正規配置における検査プローブ2の直下の位置)から、検査プローブ2に対して検査材Sが少しでも幅方向にずれると、検査プローブ2の直下に位置する円柱の表面の位置が、下方に大きく下がり、検査プローブ2と検査材Sの間の距離が大きくなってしまうからである。
【0043】
しかし、本実施形態にかかる検査装置1においては、保持具3に、倣い用ローラ53と面内調整ユニット6が備えられ、倣い機能が発揮されることで、検査材Sが位置や角度のずれを起こしても、検査プローブ2を保持したヘッド部5が、そのずれに追従して移動し、検査材Sに対して、正規配置を保つことができる。検査材Sが正規配置から水平方向の位置や角度のずれを起こすと、検査材Sが、複数のうち一部の倣い用ローラ53に対して、他の倣い用ローラ53よりも強く押し付けられ、検査材Sからその倣い用ローラ53に、水平方向の成分を有する押圧力が印加されることになる。すると、その押圧力がヘッド基部54に伝達され、ヘッド基部54に接している面内調整ユニット6の水平バネ62のそれぞれを伸長または収縮させることになる。具体的には、複数の水平バネ62のうち、押圧力が向かう方向に配置された水平バネ62が収縮され、それと反対側に配置された水平バネ62が伸長する。これら水平バネ62の伸縮を伴って、ヘッド基部54が、面内調整ユニット6に対して、水平面内で移動する。この移動は、検査材Sの位置がずれ、倣い用ローラ53に押圧力を印加した方向に起こる。つまり、検査材Sの位置がずれると、そのずれた方向に向かって、検査装置1のヘッド部5もともに移動し、ヘッド部5が、ずれた検査材Sに対して正規配置を保つ。つまり、各ギャップ規定用ローラ52が接触面P1にて検査材Sに接触し、検査プローブ2が、検査材Sに対して、所定の距離aと所定の姿勢をとった状態を保つ。
【0044】
例えば、検査材Sが、正規配置から、
図2の左方向(-y方向)にずれたとする。この場合には、左側の倣い用ローラ53に対して、検査材Sから、右から左に押圧する力が印加される。すると、左右の水平バネ62のうち、左側(-y側)の水平バネ62が収縮し、右側(+y側)の水平バネ62が伸長するとともに、ヘッド基部54が、中央ブロック61に対して、左方向に移動する。これにより、ヘッド部5が、検査材Sがずれを起こした方向である左方向に移動し、ずれた検査材Sに対してヘッド部5が正規配置を保つ。つまり、各ギャップ規定用ローラ52が、検査材Sの上部に接触するとともに、検査プローブ2が、検査材Sの中心軸Oからまっすぐ上方に、検査材Sの表面との間に距離aだけ離れて配置された状態が保たれる。ヘッド部5が移動したことで、4つの倣い用ローラ53には、略均等に力が印加されるようになり、左側の倣い用ローラ53に集中して押圧力が印加された状態は解消される。
【0045】
このように、複数の倣い用ローラ53と、水平バネ62を備えた面内調整ユニット6の協働により、検査材Sが、水平面内で位置や角度のずれを起こしても、そのずれに検査装置1のヘッド部5が追従して移動し、検査プローブ2を検査材Sに対して規定配置に維持する。その規定配置においては、検査材Sにギャップ規定用ローラ52が接触することで、検査材Sと検査プローブ2の間の距離が、所定の距離aに安定に保たれる。これら、倣い用ローラ53およびギャップ規定用ローラ52の2種のローラと面内調整ユニット6の働きにより、円柱状の検査材Sを移動させながら、長手方向軸の各位置において、安定した条件で、検査プローブ2による検査材Sの検査を連続的に実行することができる。
【0046】
さらに、倣い用ローラ53が、軸配置変更部材55を介してヘッド基部54に結合されていれば、検査材Sの径が変更されても、検査材Sの表面に倣い用ローラ53を接触させ、面内調整ユニット6との協働による倣い機能を発揮させることができる。軸配置変更部材55を利用して検査材Sの表面に倣い用ローラ53を接触させておく限りにおいて、検査材Sの径が変化しても、検査材Sに対するギャップ規定用ローラ52および検査プローブ2の位置関係は変化しない。よって、検査材Sの径によらず一定の条件で、検査プローブ2による検査を行うことができる。検査材Sが丸棒状の金属材である場合等、同一の製造ラインで異なる径の円柱状材料が製造されることも多く、そのような場合に、軸配置変更部材55を設けておけば、検査材Sの径の変更があっても、同じ検査装置1を用いて、簡便に、検査材Sの検査を実行することができる。
【0047】
また、検査装置1のヘッド部5が、水平バネ62を有する面内調整ユニット6に加えて、垂直バネ71を有する垂直調整ユニット7備えており、それら2方向の調整ユニット6,7を介して固定部4に結合されていれば、水平方向のみならず、垂直方向に検査材Sの位置ずれが起こった場合にも、検査材Sに対して、所定の正規配置に検査プローブ2を配置した状態を維持することができる。検査材Sにおいては、製造時や搬送装置への設置時の誤差、搬送条件の変動等の要因、特に搬送装置で検査材Sを移動させている間のがたつきに起因して、上下方向の位置ずれも発生しやすい。検査材Sが正規配置より下方に移動すると、ギャップ規定用ローラ52が検査材Sの表面から離れてしまい、検査プローブ2と検査材Sの表面との間に、所定の距離aを維持できなくなる。また、倣い用ローラ53も検査材Sの表面に接触した状態を保てなくなり、倣い用ローラ53による水平方向の倣い機能も利用できなくなる。また、検査材Sが正規配置より上方に移動しようとすると、検査材Sが各倣い用ローラ53に過度に強く押し付けられる可能性があり、この場合にも、倣い用ローラ53による水平方向の倣い機能が十分に発揮されにくくなる。
【0048】
しかし、検査装置1に垂直調整ユニット7が備えられていれば、垂直バネ71の伸縮により、検査材Sが正規配置から上下方向に移動した際に、その上下動に追従して、面内調整ユニット6とヘッド部5の集合体も上下に移動する。これにより、検査材Sに上下動が生じる状況でも、検査プローブ2を、検査材Sに対して、正規配置における所定の距離aに保持するとともに、倣い用ローラ53と水平バネ62による水平方向への倣い機能を、効果的に発揮させることができる。その結果として、検査プローブ2を、水平方向と垂直方向の両方において、検査材Sに対して正規配置に維持し、安定した条件で、検査プローブ2による検査を連続的に実施することができる。特に、正規配置において、垂直バネ71を、自然長から固定部4および上板部材72の重量によって圧縮された長さよりもさらに圧縮した状態としておけば、検査材Sが上下いずれの方向に移動した際にも、倣い用ローラ53およびギャップ規定用ローラ52を検査材Sに押し付けた状態を維持しやすい。
【0049】
[第二の実施形態にかかる検査装置]
次に、本発明の第二の実施形態にかかる検査装置1’について簡単に説明する。上記第一の実施形態にかかる検査装置1は、円柱状の検査材Sを長手軸方向に移動させながら検査を行うのに適したものであったが、第二の実施形態にかかる検査装置1’は、円柱状の検査材Sを周方向に移動させながら、つまり中心軸Oの周りに回転させながら検査を行うのに、適したものである。ここでは、上記第一の実施形態にかかる検査装置1と共通する構成については説明を省略し、異なる構成についてのみ説明する。
【0050】
図4,5に、第二の実施形態にかかる検査装置1’の概略を、それぞれ正面図および側面図にて示す。第二の実施形態にかかる検査装置1’は、ギャップ規定用ローラ52および倣い用ローラ53の回転方向において、上記第一の実施形態にかかる検査装置1と相違している。第二の実施形態にかかる検査装置1’において、複数のギャップ規定用ローラ52および複数の倣い用ローラ53の回転方向は、いずれも、正規配置にある検査材Sの周方向に沿った方向となっている。つまり、それら各ローラの回転軸が、前後方向(x方向)に向けられており、各ローラがyz平面内で回転する。
【0051】
このように、ギャップ規定用ローラ52および倣い用ローラ53が検査材Sの周方向に回転可能となっていることで、検査材Sを周方向に回転させながら検査を行う際に、検査材Sの回転に伴ってギャップ規定用ローラ52および倣い用ローラ53が円滑に回転する。そのため、検査材Sが回転している間、検査プローブ2と検査材Sの間に距離aを維持するギャップ規定用ローラ52の機能、および倣い用ローラ53と面内調整ユニット6による水平方向への倣い機能が、効果的に発揮され、安定した条件で、検査プローブ2による検査を継続することができる。ヘッド基部54に、ギャップ規定用ローラ52および倣い用ローラ53を取り付けるための構造を、2とおり設けておき、各ローラ52,53を2とおりの間で付け替え可能としておけば、共通の検査装置を、第一の実施形態にかかる検査装置1および第二の実施形態にかかる検査装置1’の両方として使用することも可能である。
【実施例0052】
以下に本発明の実施例を示す。なお、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。ここでは、人工的な欠陥を設けた検査材に対して超音波探傷検査を行って、保持具によって検査材の位置ずれの影響を解消できるかを検証した。
【0053】
[試験方法]
図6に示すように、試験用の検査材(S)として、鋼材よりなる直径78mmの円柱状の金属材に、人工欠陥(S1)を形成したものを準備した。
図6(a)は正面図、
図6(b)は側面図である。具体的には、金属材の長手方向に沿って溝状に彫り込んだ傷の形態の人工欠陥を、金属材の長手方向および周方向にずらして複数設けた。周方向の人工欠陥の間隔は、5°ピッチとし、金属材の下端の位置から、25°上方の位置まで、6つの人工欠陥を設けた。長手方向については、人工欠陥の長さを40mmとし、人工欠陥の間隔を80mmピッチとした。
【0054】
作製した検査材に対して、超音波探傷試験を行った。試験には、ギャップ規定用ローラ、倣い用ローラ、面内調整ユニット、垂直調整ユニットを含み、検査プローブとして超音波探触子を有する、上記本発明の第一の実施形態にかかる検査装置を用いた。探傷試験としては、
図6に示すように、所定の周波数を有する超音波を探触子(2)より検査材(S)に入射し、反射成分を同じく探触子により検出した。検査は、矢印の方向に超音波探触子を移動させながら行った。
【0055】
探傷試験は、
図6に示したとおり、探触子を検査材に対してまっすぐ上方に配置した「位置ずれなし」の状態と、スライダを用いて検査材を垂直方向にずらした「垂直ずれあり」の状態、および水平方向にずらした「水平ずれあり」の状態の3とおりに対して実施した。「垂直ずれあり」については、「位置ずれなし」よりも検査材を所定の距離だけ上方または下方にずらした。一方、「水平ずれあり」については、「位置ずれなし」よりも検査材を所定の距離だけ、幅方向のうち人工欠陥が形成されている方向に向かって、つまり
図6(a)の右側へとずらした。
【0056】
[試験結果]
図7(a)~(c)に、3とおりの場合について、検査材の長手方向の各位置において、探触子で反射波の振幅を計測した結果を示す。(a)が位置ずれなし、(b)が3mmの垂直ずれあり(上方へのずれ)、(c)が3mmの水平ずれありの場合を示している。それぞれ、横軸に、探傷距離、つまり探傷試験を行った検査材の長手方向の位置を示している。縦軸は、超音波の反射成分の振幅を任意単位にて表示している。
【0057】
まず、
図7(a)の位置ずれなしの結果を見ると、横軸に沿ってほぼ等間隔に、反射振幅が大きくなったピーク構造が見られる。これらピーク構造はそれぞれ、人工欠陥での超音波の反射に対応する。グラフ上部に角度値を示したように、それぞれのピークが、検査材の下端部を基準として各角度位置に形成された人工欠陥に対応している。
図6(a)に模式的に示すように、検査材に入射された超音波(U)は、探触子の位置から徐々に広がって伝播するため、反射波の強度は、探触子の直下の位置で最も強くなり、その直下の位置から離れるほど弱くなる。
図7(a)の検査結果において、大きな角度位置に形成された人工欠陥が与えるピークほど強度が小さくなっているのは、このことに対応している。
【0058】
次に、
図7(b),(c)の、検査材に位置ずれを意図的に起こした場合の検査結果を見ると、いずれも、
図7(a)の位置ずれなしの場合と類似した結果が得られている。ピークが出現する位置や、各ピークの高さや幅も、
図7(b),(c)の場合と、
図7(a)の場合とで、非常によく似ている。つまり、検査材に垂直方向や水平方向の位置ずれが存在している場合でも、その位置ずれの影響をほぼキャンセルして、超音波探傷を正常に行えていると言える。このことから、検査装置に備えられる保持具によって、探触子が、検査材に対して、垂直方向および水平方向の両方において、正規配置を安定に維持できていることが確認される。
【0059】
さらに、超音波探傷結果におけるS/N比を、垂直方向および水平方向の位置ずれ量ごとに評価したものを、
図8に示す。ここでは、
図7に示したような超音波探傷結果において、25°の位置に形成された人工欠陥に対応する反射成分のピークに対して、ノイズレベルに対する信号強度の比率として、S/N比を見積もった。超音波探傷とS/N比の見積もりを、位置ずれなしの場合、垂直ずれ量(上方へのずれ)、および水平ずれ量を1mm、2mm、3mmと変化させた場合のそれぞれについて行い、得られたS/N比を、位置ずれ量に対してプロットしたものが、
図8である。位置ずれなしの場合をダイヤ印で、垂直ずれありの場合を丸印で、水平ずれありの場合を三角印で表示している。S/N比が大きいほど、ノイズに対して信号強度が大きく得られており、反射成分を安定性高く検出できていることを示す。
【0060】
図8によると、位置ずれなしの場合と比較して、垂直ずれありおよび水平ずれありのいずれの場合も、±20%程度の範囲のS/N比が得られている。また、位置ずれ量の増大に対して、S/N比が系統的に変化する傾向も見られていない。この結果は、
図7(a)~(c)の比較で見られたとおり、保持具によって垂直方向および水平方向への探触子の位置を安定に保持する効果が高いことを示している。
【0061】
以上、本発明の実施形態について説明した。本発明は、これらの実施形態に特に限定されることなく、種々の改変を行うことが可能である。なお、上記で説明した検査装置は、円柱状に限らず、平板状等、各種形状の検査材に対して適用することもできる。検査材の形状に応じて、ギャップ規定用ローラおよび倣い用ローラを、正規配置において検査材の表面に接触するように取り付けておけばよい。