(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023183491
(43)【公開日】2023-12-28
(54)【発明の名称】交流回転機の制御装置、及び車両用発電電動機装置
(51)【国際特許分類】
H02P 21/18 20160101AFI20231221BHJP
【FI】
H02P21/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022097035
(22)【出願日】2022-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002941
【氏名又は名称】弁理士法人ぱるも特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古川 晃
【テーマコード(参考)】
5H505
【Fターム(参考)】
5H505AA16
5H505CC04
5H505DD03
5H505DD08
5H505EE30
5H505EE41
5H505EE48
5H505EE49
5H505HA09
5H505HA10
5H505HB01
5H505JJ03
5H505LL22
5H505LL41
5H505LL58
5H505MM19
(57)【要約】
【課題】交流回転機が接続された機械機構の特性の影響を受けずに、回転センサにより検出したセンサ角度の角度オフセットを設定することができる交流回転機の制御装置、及び車両用発電電動機装置を提供する。
【解決手段】第1の設定タイミングで、電機子電流指令値を第1の電流設定値に設定し、判定期間の経過後の第1の界磁電流変化量を検出し、第2の設定タイミングで、電機子電流指令値を、第1の電流設定値と位相が異なる第2の電流設定値に設定し、判定期間の経過後の第2の界磁電流変化量を検出し、第1の界磁電流変化量、及び第2の界磁電流変化量に基づいて、角度オフセットを設定する交流回転機の制御装置。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
界磁巻線及び電機子巻線を有する交流回転機を制御する交流回転機の制御であって、
前記界磁巻線に流れる界磁電流を検出する界磁電流検出部と、
前記電機子巻線に流れる電機子電流を検出する電機子電流検出部と、
回転センサの出力情報に基づいて、前記交流回転機のロータの電気角での角度であるセンサ角度を検出する角度検出部と、
角度オフセットを設定する角度オフセット設定部と、
前記角度オフセットにより前記センサ角度を補正して、制御用の角度を演算する角度演算部と、
前記制御用の角度を用い、前記電機子電流の検出値が電機子電流指令値に追従するように電機子電圧指令値を演算する電機子電流制御部と、
前記電機子電圧指令値に基づいて前記電機子巻線に電圧を印加する電機子電圧印加部と、
を備え、
前記角度オフセット設定部は、第1の設定タイミングで、前記電機子電流指令値を第1の電流設定値に設定し、前記第1の電流設定値に設定してから判定期間の経過後の前記界磁電流の検出値の変化量である第1の界磁電流変化量を検出し、前記第1の設定タイミングとは異なる第2の設定タイミングで、前記電機子電流指令値を、前記第1の電流設定値と位相が異なる第2の電流設定値に設定し、前記第2の電流設定値に設定してから前記判定期間の経過後の前記界磁電流の検出値の変化量である第2の界磁電流変化量を検出し、前記第1の電流設定値又は前記第1の電流設定値の設定後の電機子電流の検出値、前記第1の界磁電流変化量、前記第2の電流設定値又は前記第2の電流設定値の設定後の電機子電流の検出値、及び前記第2の界磁電流変化量に基づいて、前記角度オフセットを設定する交流回転機の制御装置。
【請求項2】
前記角度オフセット設定部は、前記第1の電流設定値として固定値を用い、前記第2の電流設定値として固定値を用いる請求項1に記載の交流回転機の制御装置。
【請求項3】
前記第1の電流設定値の位相及び前記第2の電流設定値の位相は、電気角でπ/2異なる請求項2に記載の交流回転機の制御装置。
【請求項4】
正の前記界磁電流を流したときに生じる磁束の方向をd軸とし、前記d軸に対して電気角で位相がπ/2異なる方向をq軸とし、
前記電機子電流制御部は、前記制御用の角度に基づいて前記d軸及び前記q軸を設定し、前記電機子電流指令値として、d軸の電流指令値及びq軸の電流指令値を設定し、
前記角度オフセット設定部は、前記第1の設定タイミングで、前記d軸の電流指令値を、初期の第1のd軸電流値から、前記第1の電流設定値としての固定値の第1のd軸の電流設定値にステップ的に変化させ、前記q軸の電流指令値を0のまま変化させず、前記第2の設定タイミングで、前記q軸の電流指令値を、初期の第2のq軸電流値から、前記第2の電流設定値としての固定値の第2のq軸の電流設定値にステップ的に変化させ、前記d軸の電流指令値を0のまま変化させず、
前記初期の第1のd軸電流値から前記第1のd軸の電流設定値へのステップ変化量をΔId1とし、前記初期の第2のq軸電流値から前記第2のq軸の電流設定値へのステップ変化量をΔIq2とし、前記第1の界磁電流変化量をΔIf1とし、前記第2の界磁電流変化量をΔIf2とし、角度オフセット更新量をΔθofsとし、
Δθofs=tan-1(ΔId1×ΔIf2/ΔIq2/ΔIf1)
の算出式により前記角度オフセット更新量を算出し、現在の前記角度オフセットの設定値に前記角度オフセット更新量を加算して、前記角度オフセットを更新し、
前記センサ角度に前記角度オフセットを加算して、前記制御用の角度を演算する請求項1に記載の交流回転機の制御装置。
【請求項5】
正の前記界磁電流を流したときに生じる磁束の方向をd軸とし、前記d軸に対して電気角で位相がπ/2異なる方向をq軸とし、
前記電機子電流制御部は、前記制御用の角度に基づいて前記d軸及び前記q軸を設定し、前記電機子電流指令値として、d軸の電流指令値及びq軸の電流指令値を設定し、
前記角度オフセット設定部は、前記第1の設定タイミングで、前記d軸の電流指令値を、初期の第1のd軸電流値から、前記第1の電流設定値としての固定値の第1のd軸の電流設定値にステップ的に変化させ、前記q軸の電流指令値を0のまま変化させず、前記第2の設定タイミングで、前記q軸の電流指令値を、初期の第2のq軸電流値から、前記第2の電流設定値としての固定値の第2のq軸の電流設定値にステップ的に変化させ、前記d軸の電流指令値を0のまま変化させず、
前記第1のd軸の電流設定値に変化させてから前記判定期間の経過後の前記d軸の電流検出値の変化量をΔId_det1とし、前記第2のq軸の電流設定値に変化させてから前記判定期間の経過後の前記q軸の電流検出値の変化量をΔIq_det2とし、前記第1の界磁電流変化量をΔIf1とし、前記第2の界磁電流変化量をΔIf2とし、角度オフセット更新量をΔθofsとし、
Δθofs=tan-1(ΔId_det1×ΔIf2/ΔIq_det2/ΔIf1)
の算出式により前記角度オフセット更新量を算出し、現在の前記角度オフセットの設定値に前記角度オフセット更新量を加算して、前記角度オフセットを更新し、
前記センサ角度に前記角度オフセットを加算して、前記制御用の角度を演算する請求項1に記載の交流回転機の制御装置。
【請求項6】
正の前記界磁電流を流したときに生じる磁束の方向をd軸とし、前記d軸に対して電気角で位相がπ/2異なる方向をq軸とし、
前記電機子電流制御部は、前記制御用の角度に基づいて前記d軸及び前記q軸を設定し、前記電機子電流指令値として、d軸の電流指令値及びq軸の電流指令値を設定し、
前記角度オフセット設定部は、前記第1の電流設定値として固定の第1のd軸の電流設定値及び固定の第1のq軸の電流設定値を設定し、前記第2の電流設定値として固定の第2のd軸の電流設定値及び固定の第2のq軸の電流設定値を設定し、
前記第1の設定タイミングで、前記d軸の電流指令値を、初期の第1のd軸電流値から、前記第1のd軸の電流設定値にステップ的に変化させると共に、前記q軸の電流指令値を、初期の第1のq軸電流値から、前記第1のq軸の電流設定値にステップ的に変化させ、前記第2の設定タイミングで、前記d軸の電流指令値を、初期の第2のd軸電流値から、前記第2のd軸の電流設定値にステップ的に変化させると共に、前記q軸の電流指令値を、初期の第2のq軸電流値から、前記第2のq軸の電流設定値にステップ的に変化させ、
前記第1の電流設定値の設定による電流ベクトルの大きさのステップ変化量をΔI1とし、前記第2の電流設定値の設定による電流ベクトルの大きさのステップ変化量をΔI2とし、前記第1の電流設定値の電流ベクトルに対する前記第2の電流設定値の電流ベクトルの位相をαとし、前記第1の界磁電流変化量をΔIf1とし、前記第2の界磁電流変化量をΔIf2とし、角度オフセット更新量をΔθofsとし、
Δθofs=tan-1{(ΔI1×ΔIf2/ΔI2/ΔIf1)/sinα-cosα}
の算出式により前記角度オフセット更新量を算出し、現在の前記角度オフセットの設定値に前記角度オフセット更新量を加算して、前記角度オフセットを更新し、
前記センサ角度に前記角度オフセットを加算して、前記制御用の角度を演算する請求項1に記載の交流回転機の制御装置。
【請求項7】
正の前記界磁電流を流したときに生じる磁束の方向をd軸とし、前記d軸に対して電気角で位相がπ/2異なる方向をq軸とし、
前記電機子電流制御部は、前記制御用の角度に基づいて前記d軸及び前記q軸を設定し、前記電機子電流指令値として、d軸の電流指令値及びq軸の電流指令値を設定し、
前記角度オフセット設定部は、前記第1の電流設定値として固定の第1のd軸の電流設定値及び固定の第1のq軸の電流設定値を設定し、前記第2の電流設定値として固定の第2のd軸の電流設定値及び固定の第2のq軸の電流設定値を設定し、
前記第1の設定タイミングで、前記d軸の電流指令値を、初期の第1のd軸電流値から、前記第1のd軸の電流設定値にステップ的に変化させると共に、前記q軸の電流指令値を、初期の第1のq軸電流値から、前記第1のq軸の電流設定値にステップ的に変化させ、前記第2の設定タイミングで、前記d軸の電流指令値を、初期の第2のd軸電流値から、前記第2のd軸の電流設定値にステップ的に変化させると共に、前記q軸の電流指令値を、初期の第2のq軸電流値から、前記第2のq軸の電流設定値にステップ的に変化させ、
前記第1の電流設定値に変化させてから前記判定期間の経過後の前記d軸の電流検出値の変化量及び前記q軸の電流検出値の変化量による電流ベクトルの大きさの変化量をΔI1_detとし、前記第2の電流設定値に変化させてから前記判定期間の経過後の前記d軸の電流検出値の変化量及び前記q軸の電流検出値の変化量による電流ベクトルの大きさの変化量をΔI2_detとし、前記第1の電流設定値の電流ベクトルに対する前記第2の電流設定値の電流ベクトルの位相をαとし、前記第1の界磁電流変化量をΔIf1とし、前記第2の界磁電流変化量をΔIf2とし、角度オフセット更新量をΔθofsとし、
Δθofs=tan-1{(ΔI1_det×ΔIf2/ΔI2_det/ΔIf1)/sinα-cosα}
の算出式により前記角度オフセット更新量を算出し、現在の前記角度オフセットの設定値に前記角度オフセット更新量を加算して、前記角度オフセットを更新し、
前記センサ角度に前記角度オフセットを加算して、前記制御用の角度を演算する請求項1に記載の交流回転機の制御装置。
【請求項8】
前記角度オフセット設定部は、前記判定期間を、前記電機子電流指令値から前記電機子電流の検出値までの伝達関数のカットオフ周波数の逆数である時定数よりも短い期間に設定する請求項2に記載の交流回転機の制御装置。
【請求項9】
前記角度オフセット設定部は、前記第1の電流設定値として固定の傾きで変化する値を用い、前記第2の電流設定値として固定の傾きで変化する値を用いる請求項1に記載の交流回転機の制御装置。
【請求項10】
前記第1の電流設定値の位相及び前記第2の電流設定値の位相は、電気角でπ/2異なる請求項9に記載の交流回転機の制御装置。
【請求項11】
正の前記界磁電流を流したときに生じる磁束の方向をd軸とし、前記d軸に対して電気角で位相がπ/2異なる方向をq軸とし、
前記電機子電流制御部は、前記制御用の角度に基づいて前記d軸及び前記q軸を設定し、前記電機子電流指令値として、d軸の電流指令値及びq軸の電流指令値を設定し、
前記角度オフセット設定部は、前記第1の設定タイミングで、前記d軸の電流指令値を、初期の第1のd軸電流値から、前記第1の電流設定値としての固定の第1のd軸の電流傾きで変化する値に変化させ、前記q軸の電流指令値を0のまま変化させず、前記第2の設定タイミングで、前記q軸の電流指令値を、初期の第2のq軸電流値から、前記第2の電流設定値としての固定の第2のq軸の電流傾きで変化する値に変化させ、前記d軸の電流指令値を0のまま変化させず、
前記第1のd軸の電流傾きをRId1とし、前記第2のq軸の電流傾きをRIq2とし、前記第1の界磁電流変化量をΔIf1とし、前記第2の界磁電流変化量をΔIf2とし、角度オフセット更新量をΔθofsとし、
Δθofs=tan-1(RId1×ΔIf2/RIq2/ΔIf1)
の算出式により前記角度オフセット更新量を算出し、現在の前記角度オフセットの設定値に前記角度オフセット更新量を加算して、前記角度オフセットを更新し、
前記センサ角度に前記角度オフセットを加算して、前記制御用の角度を演算する請求項1に記載の交流回転機の制御装置。
【請求項12】
正の前記界磁電流を流したときに生じる磁束の方向をd軸とし、前記d軸に対して電気角で位相がπ/2異なる方向をq軸とし、
前記電機子電流制御部は、前記制御用の角度に基づいて前記d軸及び前記q軸を設定し、前記電機子電流指令値として、d軸の電流指令値及びq軸の電流指令値を設定し、
前記角度オフセット設定部は、前記第1の設定タイミングで、前記d軸の電流指令値を、初期の第1のd軸電流値から、前記第1の電流設定値としての固定の第1のd軸の電流傾きで変化する値に変化させ、前記q軸の電流指令値を0のまま変化させず、前記第2の設定タイミングで、前記q軸の電流指令値を、初期の第2のq軸電流値から、前記第2の電流設定値としての固定の第2のq軸の電流傾きで変化する値に変化させ、前記d軸の電流指令値を0のまま変化させず、
前記第1のd軸の電流傾きで変化させ始めてから前記判定期間の経過後の前記d軸の電流検出値の変化量をΔId_det1とし、前記第2のq軸の電流傾きで変化させ始めてから前記判定期間の経過後の前記q軸の電流検出値の変化量をΔIq_det2とし、前記第1の界磁電流変化量をΔIf1とし、前記第2の界磁電流変化量をΔIf2とし、角度オフセット更新量をΔθofsとし、
Δθofs=tan-1(ΔId_det1×ΔIf2/ΔIq_det2/ΔIf1)
の算出式により前記角度オフセット更新量を算出し、現在の前記角度オフセットの設定値に前記角度オフセット更新量を加算して、前記角度オフセットを更新し、
前記センサ角度に前記角度オフセットを加算して、前記制御用の角度を演算する請求項1に記載の交流回転機の制御装置。
【請求項13】
正の前記界磁電流を流したときに生じる磁束の方向をd軸とし、前記d軸に対して電気角で位相がπ/2異なる方向をq軸とし、
前記電機子電流制御部は、前記制御用の角度に基づいて前記d軸及び前記q軸を設定し、前記電機子電流指令値として、d軸の電流指令値及びq軸の電流指令値を設定し、
前記角度オフセット設定部は、前記第1の電流設定値として第1のd軸の電流設定値及び第1のq軸の電流設定値を設定し、前記第2の電流設定値として第2のd軸の電流設定値及び第2のq軸の電流設定値を設定し、
前記第1の設定タイミングで、前記d軸の電流指令値及び前記q軸の電流指令値を、電流ベクトルの大きさが初期の第1の電流ベクトルの大きさから固定の第1の電流傾きで変化する前記第1のd軸の電流設定値及び前記第1のq軸の電流設定値に設定し、
前記第2の設定タイミングで、前記d軸の電流指令値及び前記q軸の電流指令値を、電流ベクトルの大きさが初期の第2の電流ベクトルの大きさから固定の第2の電流傾きで変化する前記第2のd軸の電流設定値及び前記第2のq軸の電流設定値に設定し、
前記第1の電流傾きをRI1とし、前記第2の電流傾きをRI2とし、前記第1の電流設定値の電流ベクトルに対する前記第2の電流設定値の電流ベクトルの位相をαとし、前記第1の界磁電流変化量をΔIf1とし、前記第2の界磁電流変化量をΔIf2とし、角度オフセット更新量をΔθofsとし、
Δθofs=tan-1{(RI1×ΔIf2/RI2/ΔIf1)/sinα-cosα}
の算出式により前記角度オフセット更新量を算出し、現在の前記角度オフセットの設定値に前記角度オフセット更新量を加算して、前記角度オフセットを更新し、
前記センサ角度に前記角度オフセットを加算して、制御用の角度を演算する請求項1に記載の交流回転機の制御装置。
【請求項14】
正の前記界磁電流を流したときに生じる磁束の方向をd軸とし、前記d軸に対して電気角で位相がπ/2異なる方向をq軸とし、
前記電機子電流制御部は、前記制御用の角度に基づいて前記d軸及び前記q軸を設定し、前記電機子電流指令値として、d軸の電流指令値及びq軸の電流指令値を設定し、
前記角度オフセット設定部は、前記第1の電流設定値として第1のd軸の電流設定値及び第1のq軸の電流設定値を設定し、前記第2の電流設定値として第2のd軸の電流設定値及び第2のq軸の電流設定値を設定し、
前記第1の設定タイミングで、前記d軸の電流指令値及び前記q軸の電流指令値を、電流ベクトルの大きさが初期の第1の電流ベクトルの大きさから固定の第1の電流傾きで変化する前記第1のd軸の電流設定値及び前記第1のq軸の電流設定値に設定し、
前記第2の設定タイミングで、前記d軸の電流指令値及び前記q軸の電流指令値を、電流ベクトルの大きさが初期の第2の電流ベクトルの大きさから固定の第2の電流傾きで変化する前記第2のd軸の電流設定値及び前記第2のq軸の電流設定値に設定し、
前記第1の電流傾きで変化させ始めてから前記判定期間の経過後の前記d軸の電流検出値の変化量及び前記q軸の電流検出値の変化量による電流ベクトルの大きさの変化量をΔI1_detとし、前記第2の電流傾きで変化させ始めてから前記判定期間の経過後の前記d軸の電流検出値の変化量及び前記q軸の電流検出値の変化量による電流ベクトルの大きさの変化量をΔI2_detとし、前記第1の電流設定値の電流ベクトルに対する前記第2の電流設定値の電流ベクトルの位相をαとし、前記第1の界磁電流変化量をΔIf1とし、前記第2の界磁電流変化量をΔIf2とし、角度オフセット更新量をΔθofsとし、
Δθofs=tan-1{(ΔI1_det×ΔIf2/ΔI2_det/ΔIf1)/sinα-cosα}
の算出式により前記角度オフセット更新量を算出し、現在の前記角度オフセットの設定値に前記角度オフセット更新量を加算して、前記角度オフセットを更新し、
前記センサ角度に前記角度オフセットを加算して、制御用の角度を演算する請求項1に記載の交流回転機の制御装置。
【請求項15】
前記角度オフセット設定部は、前記電機子電圧指令値の変調率が1未満である場合に、前記電機子電流指令値を前記第1の電流設定値及び前記第2の電流設定値に設定し、前記角度オフセットを設定する請求項1から14のいずれか一項に記載の交流回転機の制御装置。
【請求項16】
前記角度オフセット設定部は、前記交流回転機が回転停止状態である場合に、前記電機子電流指令値を前記第1の電流設定値及び前記第2の電流設定値に設定し、前記角度オフセットを設定する請求項1から14のいずれか一項に記載の交流回転機の制御装置。
【請求項17】
前記初期の第1のd軸電流値及び前記初期の第2のq軸電流値は、0に設定される請求項4、5、11、及び12のいずれか一項に記載の交流回転機の制御装置。
【請求項18】
前記初期の第1のd軸電流値及び前記初期の第1のq軸電流値、及び前記初期の第2のd軸電流値及び前記初期の第2のq軸電流値は、0に設定される請求項6又は7に記載の交流回転機の制御装置。
【請求項19】
前記初期の第1の電流ベクトルの大きさ及び前記初期の第2の電流ベクトルの大きさは、0に設定される請求項13又は14に記載の交流回転機の制御装置。
【請求項20】
請求項1から14のいずれか一項に記載の交流回転機の制御装置と、
駆動力が車両の車輪に伝達される発電電動機である前記交流回転機と、を備えた車両用発電電動機装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、交流回転機の制御装置、及び車両用発電電動機装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
回転センサにより検出したセンサ角度には、オフセット的な誤差(角度オフセットと称す)が生じる場合があり、角度オフセットを補正する必要がある。特許文献1の技術では、角度オフセットが所望の値の場合に、d軸電流を流すとモータが回転しないことを利用して、角度オフセットを増加減させたときのモータの回転の有無に基づいて角度オフセットを学習している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1の技術では、角度オフセットが所望の値の場合にd軸電流を流してもモータは回転しないが、角度オフセットがπ/2である場合にd軸電流を流すと実際にはq軸電流のみが流れるため、高トルクが発生する。また、モータに接続されている回転体のイナーシャで回転速度が変化するため、ギヤのかみ合い状態によって回転速度の変化が異なり、角度オフセットの学習精度が悪化する。角度オフセットが一定値以内の場合には、摺動抵抗によってモータは回転しないため、学習可能な角度オフセットの不感帯が生じる。また、それらの影響を無視できるほどの大きなd軸電流を流すと、角度オフセットがπ/2である場合に、高トルクが発生して、大きな駆動力が生じるおそれがある。すなわち、特許文献1の技術では、モータが接続された機械機構の特性の影響を受けて、角度オフセットの学習精度が変動する。
【0005】
そこで、本願は、交流回転機が接続された機械機構の特性の影響を受けずに、回転センサにより検出したセンサ角度の角度オフセットを設定することができる交流回転機の制御装置、及び車両用発電電動機装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願に係る交流回転機の制御装置は、
界磁巻線及び電機子巻線を有する交流回転機を制御する交流回転機の制御であって、
前記界磁巻線に流れる界磁電流を検出する界磁電流検出部と、
前記電機子巻線に流れる電機子電流を検出する電機子電流検出部と、
回転センサの出力情報に基づいて、前記交流回転機のロータの電気角での角度であるセンサ角度を検出する角度検出部と、
角度オフセットを設定する角度オフセット設定部と、
前記角度オフセットにより前記センサ角度を補正して、制御用の角度を演算する角度演算部と、
前記制御用の角度を用い、前記電機子電流の検出値が電機子電流指令値に追従するように電機子電圧指令値を演算する電機子電流制御部と、
前記電機子電圧指令値に基づいて前記電機子巻線に電圧を印加する電機子電圧印加部と、
を備え、
前記角度オフセット設定部は、第1の設定タイミングで、前記電機子電流指令値を第1の電流設定値に設定し、前記第1の電流設定値に設定してから判定期間の経過後の前記界磁電流の検出値の変化量である第1の界磁電流変化量を検出し、前記第1の設定タイミングとは異なる第2の設定タイミングで、前記電機子電流指令値を、前記第1の電流設定値と位相が異なる第2の電流設定値に設定し、前記第2の電流設定値に設定してから前記判定期間の経過後の前記界磁電流の検出値の変化量である第2の界磁電流変化量を検出し、前記第1の電流設定値又は前記第1の電流設定値の設定後の電機子電流の検出値、前記第1の界磁電流変化量、前記第2の電流設定値又は前記第2の電流設定値の設定後の電機子電流の検出値、及び前記第2の界磁電流変化量に基づいて、前記角度オフセットを設定するものである。
【0007】
本願に係る車両用発電電動機装置は、
上記の交流回転機の制御装置と、
駆動力が車両の車輪に伝達される発電電動機である前記交流回転機と、を備えたものである。
【発明の効果】
【0008】
本願に係る交流回転機の制御装置、及び車両用発電電動機装置によれば、電機子巻線と界磁巻線の間の相互インダクタンスにより、d軸電流の変化により、界磁電流が変化することを利用し、互いに位相の異なる第1の電流設定値及び第2の電流設定値をそれぞれ電機子電流指令値に設定したときの第1の界磁電流変化量及び第2の界磁電流変化量を検出する。この時、真の角度オフセットの余弦値及び正弦値、及び第1の電流設定値の位相に応じて、第1の電流設定値に対応する真のd軸電流が変動し、第1の界磁電流変化量が変動する。また、真の角度オフセットの余弦値及び正弦値、及び第2の電流設定値の位相に応じて、第2の電流設定値に対応する真のd軸電流が変動し、第2の界磁電流変化量が変動する。そのため、互いに位相の異なる、第1の電流設定値、第1の界磁電流変化量、第2の電流設定値、及び第2の界磁電流変化量により、真の角度オフセットの余弦値及び正弦値の情報を特定し、角度オフセットを設定することができる。よって、交流回転機が接続された機械機構の特性の影響を受けずに、交流回転機の電気的特性を用いて、角度オフセットを設定することができ、角度オフセットの設定精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施の形態1に係る交流回転機、インバータ、コンバータ、及び制御装置の概略構成図である。
【
図2】実施の形態1に係る制御装置の概略ブロック図である。
【
図3】実施の形態1に係る制御装置のハードウェア構成図である。
【
図4】実施の形態1に係る真の角度オフセットを説明するための図である。
【
図5】実施の形態1に係る第1の電流設定値の設定時の挙動を説明するタイムチャートである。
【
図6】実施の形態1に係る第2の電流設定値の設定時の挙動を説明するタイムチャートである。
【
図7】実施の形態1に係る車両用発電電動機装置の概略構成図である。
【
図8】実施の形態2に係る第1の電流設定値の設定時の挙動を説明するタイムチャートである。
【
図9】実施の形態2に係る第2の電流設定値の設定時の挙動を説明するタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
1.実施の形態1
実施の形態1に係る交流回転機の制御装置30(以下、単に、制御装置30と称す)について図面を参照して説明する。
図1は、本実施の形態に係る交流回転機1、インバータ5、コンバータ9、及び制御装置30の概略構成図である。
【0011】
1-1.交流回転機1
交流回転機1は、界磁巻線4及び電機子巻線12を備えている。交流回転機1は、ステータ18と、ステータ18の径方向内側に配置されたロータ14と、を備えている。交流回転機1は、界磁巻線型の同期回転機とされている。ステータ18の鉄心に、複数相の電機子巻線12が巻装されている。ロータ14の鉄心に界磁巻線4が巻装され、電磁石が設けられている。ロータ14には永久磁石も設けられている。なお、永久磁石が設けられなくてもよい。
【0012】
本実施の形態では、複数相の電機子巻線12は、U相、V相、及びW相の3相の電機子巻線Cu、Cv、Cwとされている。3相の電機子巻線Cu、Cv、Cwは、スター結線とされてもよいし、デルタ結線とされてもよい。
【0013】
ロータ14には、ロータ14の角度(センサ角度)を検出する回転センサ15が設けられている。回転センサ15の出力信号は、制御装置30に入力される。回転センサ15には、ホール素子、レゾルバ、又はエンコーダ等の各種のセンサが用いられる。
【0014】
1-2.直流電源2
直流電源2は、インバータ5及びコンバータ9に直流電圧Vdcを出力する。直流電源2として、バッテリー、DC-DCコンバータ、ダイオード整流器、PWM整流器等、直流電圧を出力する任意の機器が用いられる。直流電源2には、平滑コンデンサ3が並列接続されている。
【0015】
1-3.インバータ5
インバータ5は、複数のスイッチング素子を有し、直流電源2と電機子巻線12との間で電力変換を行う。インバータ5は、各相について、直流電源2の高電位側に接続される高電位側のスイッチング素子SPと、直流電源2の低電位側に接続される低電位側のスイッチング素子SNと、が直列接続された直列回路を設けている。各直列回路における2つのスイッチング素子の接続点が、対応する相の電機子巻線に接続される。3相各相の電機子巻線に対応して、3セットの直列回路が設けられている。
【0016】
具体的には、U相の直列回路では、U相の高電位側のスイッチング素子SPuとU相の低電位側のスイッチング素子SNuとが直列接続され、2つのスイッチング素子SPu、SNuの接続点がU相の電機子巻線Cuに接続されている。V相の直列回路では、V相の高電位側のスイッチング素子SPvとV相の低電位側のスイッチング素子SNvとが直列接続され、2つのスイッチング素子SPv、SNvの接続点がV相の電機子巻線Cvに接続されている。W相の直列回路では、Wの高電位側のスイッチング素子SPwとW相の低電位側のスイッチング素子SNwとが直列接続され、2つのスイッチング素子SPw、SNwの接続点がW相の電機子巻線Cwに接続されている。
【0017】
インバータ5の各スイッチング素子は、逆並列接続されたダイオードの機能を有している。例えば、各スイッチング素子には、ダイオードが逆並列接続されたIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)、ダイオードが逆並列接続されたバイポーラトランジスタ、逆並列接続された寄生ダイオードを有するMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)等が用いられる。各スイッチング素子のゲート端子は、ゲート駆動回路等を介して、制御装置30に接続されている。よって、各スイッチング素子は、制御装置30から出力されるスイッチング信号によりオン又はオフされる。
【0018】
電機子電流センサ8は、各相の電機子巻線Cu、Cv、Cwに流れる電流を検出する電流検出回路である。本実施の形態では、電機子電流センサ8は、各相のスイッチング素子の直列回路と電機子巻線とをつなぐ電線上に備えられている。各相の電機子電流センサ8の出力信号は、制御装置30に入力される。電機子電流センサ8は、ホール素子、シャント抵抗等の電流センサとされている。なお、電機子電流センサ8は、各相のスイッチング素子の直列回路に直列接続されてもよい。
【0019】
1-4.コンバータ9
コンバータ9は、スイッチング素子を有し、直流電源2と界磁巻線4との間で電力変換を行う。本実施の形態では、コンバータ9は、直流電源2の高電位側に接続される高電位側のスイッチング素子SPと直流電源2の低電位側に接続される低電位側のスイッチング素子SNとが直列接続された直列回路を2組設けたHブリッジ回路とされている。第1組の直列回路28における高電位側のスイッチング素子SP1と低電位側のスイッチング素子SN1との接続点が、界磁巻線4の一端に接続され、第2組の直列回路29における高電位側のスイッチング素子SP2と低電位側のスイッチング素子SN2との接続点が、界磁巻線4の他端に接続される。
【0020】
コンバータ9のスイッチング素子には、ダイオードが逆並列接続されたIGBT、ダイオードが逆並列接続されたバイポーラトランジスタ、MOSFET等が用いられる。各スイッチング素子のゲート端子は、ゲート駆動回路等を介して、制御装置30に接続されている。よって、各スイッチング素子は、制御装置30から出力されるスイッチング信号によりオン又はオフされる。
【0021】
なお、第1組の直列回路28の低電位側のスイッチング素子SN1をダイオードに置き換えたり、第2組の直列回路29の高電位側のスイッチング素子SP2をダイオードに置き換えたりする等、コンバータ9を他の構成としてもよい。
【0022】
界磁電流センサ6は、界磁巻線4を流れる電流である界磁電流Ifを検出する電流検出回路である。本実施の形態では、界磁電流センサ6は、第2組の直列回路29の低電位側のスイッチング素子SN2の低電位側の電線上に設けられている。界磁電流センサ6は、界磁電流Ifを検出可能な他の個所に設けられてもよい。界磁電流センサ6の出力信号は、制御装置30に入力される。界磁電流センサ6は、ホール素子、シャント抵抗等の電流センサとされている。
【0023】
1-5.制御装置30
制御装置30は、インバータ5及びコンバータ9を介して、交流回転機1を制御する。制御装置30は、
図2に示すように、界磁電流検出部31、電機子電流検出部32、角度検出部33、角度オフセット設定部34、角度演算部35、電機子電流制御部36、電機子電圧印加部37、界磁巻線電圧印加部38等の機能部を備えている。制御装置30の各機能は、制御装置30が備えた処理回路により実現される。具体的には、制御装置30は、
図3に示すように、処理回路として、CPU(Central Processing Unit)等の演算処理装置90(コンピュータ)、演算処理装置90とデータのやり取りする記憶装置91、演算処理装置90に外部の信号を入力する入力回路92、演算処理装置90から外部に信号を出力する出力回路93、及び外部装置とデータ通信を行う通信回路94等を備えている。
【0024】
演算処理装置90として、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、IC(Integrated Circuit)、DSP(Digital Signal Processor)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、各種の論理回路、及び各種の信号処理回路等が備えられてもよい。また、演算処理装置90として、同じ種類のもの又は異なる種類のものが複数備えられ、各処理が分担して実行されてもよい。記憶装置91として、演算処理装置90からデータを読み出し及び書き込みが可能に構成されたRAM(Random Access Memory)、及び演算処理装置90からデータを読み出し可能に構成されたROM(Read Only Memory)等が備えられている。入力回路92は、回転センサ15、電機子電流センサ8、界磁電流センサ6等の各種のセンサ及びスイッチが接続され、これらセンサ及びスイッチの出力信号を演算処理装置90に入力するA/D変換器等を備えている。出力回路93は、インバータ5及びコンバータ9のスイッチング素子をオンオフ駆動するゲート駆動回路等の電気負荷が接続され、これら電気負荷に演算処理装置90から制御信号を出力する駆動回路等を備えている。通信回路94は、外部装置と通信を行う。
【0025】
そして、制御装置30が備える各制御部31~38等の各機能は、演算処理装置90が、ROM等の記憶装置91に記憶されたソフトウェア(プログラム)を実行し、記憶装置91、入力回路92、及び出力回路93等の制御装置30の他のハードウェアと協働することにより実現される。なお、各制御部31~38等が用いる第1の電流設定値、第2の電流設定値、及び判定期間Tj等の設定データは、ソフトウェア(プログラム)の一部として、ROM等の記憶装置91に記憶されている。以下、制御装置30の各機能について詳細に説明する。
【0026】
1-5-1.界磁電流検出部31
界磁電流検出部31は、界磁電流センサ6の出力信号に基づいて、界磁巻線4に流れる電流である界磁電流If_detを検出する。
【0027】
1-5-2.電機子電流検出部32
電機子電流検出部32は、電機子巻線に流れる電機子電流を検出する。本実施の形態では、電機子電流センサ8の出力信号に基づいて、3相の電機子巻線に流れる3相の電機子電流Iu_det、Iv_det、Iw_detを検出する。なお、2相の電機子電流が検出され、残りの1相の電機子電流が、2相の電機子電流の検出値に基づいて算出されてもよい。
【0028】
1-5-3.角度検出部33
角度検出部33は、回転センサ15の出力情報に基づいて、交流回転機のロータの電気角での角度であるセンサ角度θsを検出する。センサ角度θsは、U相の電機子巻線Cuを基準にした、電気角でのロータの磁極(N極)の位置(角度)である。また、角度検出部33は、センサ角度θsに基づいて、電気角でのロータの角速度ωを検出する。なお、電気角は、ロータの機械角に磁石の極対数を乗算した角度になる。しかし、センサ角度θsには、オフセット的な誤差があり、後述するように角度オフセットθofsにより補正される。
【0029】
1-5-4.角度オフセット設定部34
角度オフセット設定部34は、角度オフセットθofsを設定する。詳細については後述する。
【0030】
1-5-5.角度演算部35
角度演算部35は、角度オフセットθofsによりセンサ角度θsを補正して、制御用の角度θcntを演算する。本実施の形態では、次式に示すように、角度演算部35は、センサ角度θsに角度オフセットθofsを加算して制御用の角度θcntを演算する。
【数1】
【0031】
1-5-6.電機子電流制御部36
電機子電流制御部36は、制御用の角度θcntを用い、電機子電流の検出値が電機子電流指令値に追従するように電機子電圧指令値を演算する。
【0032】
電機子電流制御部36は、公知の各種の方法を用いて、d軸の電流指令値Ido及びq軸の電流指令値Iqoを算出する。例えば、電機子電流制御部36は、公知のベクトル制御が用い、トルク指令値及び角速度ω等に基づいて、d軸及びq軸の電流指令値Ido、Iqoを算出する。トルク指令値は、制御装置30の内部で演算されてもよいし、外部の制御装置から伝達されてもよい。
【0033】
d軸は、正の界磁電流Ifを流したときに生じる磁束の方向(磁石のN極の方向)に定められ、q軸は、d軸に対して電気角で位相がπ/2異なる方向に定められる。本実施の形態では、制御用の角度θcntが磁石のN極の方向を表すため、d軸は、制御用の角度θcntの方向に設定され、q軸は、d軸に対して回転方向に電気角で位相がπ/2進んだ方向に設定される。
【0034】
電機子電流制御部36は、3相の電機子電流の検出値Iu_det、Iv_det、Iw_detを、制御用の角度θcnt(制御用の磁極位置θcnt)に基づいて、公知の3相2相変換及び回転座標変換を行って、d軸の電流Id_det及びq軸の電流Iq_detに変換する。
【0035】
電機子電流制御部36は、それぞれ、d軸及びq軸の電流の検出値Id_det、Iq_detがd軸及びq軸の電流指令値Ido、Iqoに追従するように、公知のフィードバック制御によりd軸及びq軸の電機子電圧指令値Vdo、Vqoを演算する。
【0036】
そして、電機子電流制御部36は、d軸及びq軸の電機子電圧指令値Vdo、Vqoを、制御用の角度θcnt(制御用の磁極位置θcnt)に基づいて、公知の固定座標変換及び2相3相変換を行って、3相の電機子電圧指令値Vuo、Vvo、Vwoを演算する。3相の電機子電圧指令値Vuo、Vvo、Vwoに対して空間ベクトル変調、2相変調等の公知の変調が加えられてもよい。
【0037】
なお、電機子電流制御部36は、制御用の角度θcntを用い、3相の電機子電流指令値Iuo、Ivo、Iwoを演算し、それぞれ、3相の電機子電流の検出値Iu_det、Iv_det、Iw_detが3相の電機子電流指令値Iuo、Ivo、Iwoに追従するように、フィードバック制御により3相の電機子電圧指令値Vuo、Vvo、Vwoを演算してもよい。
【0038】
1-5-7.電機子電圧印加部37
電機子電圧印加部37は、電機子電圧指令値に基づいて電機子巻線に電圧を印加する。電機子電圧印加部37は、3相の電機子電圧指令値Vuo、Vvo、Vwoに基づいて、インバータが有する複数のスイッチング素子をオンオフして、3相の電機子巻線Cu、Cv、Cwに電圧を印加する。電機子電圧印加部37は、公知のキャリア比較PWM又は空間ベクトルPWMを用いる。
【0039】
キャリア比較PWMが用いられる場合は、電機子電圧印加部37は、キャリア波と3相の電機子電圧指令値Vuo、Vvo、Vwoのそれぞれとを比較し、比較結果に基づいて、複数のスイッチング素子をオンオフするスイッチング信号を生成する。
【0040】
空間ベクトルPWMが用いられる場合は、電機子電圧印加部37は、3相の電機子電圧指令値Vuo、Vvo、Vwoから電圧指令ベクトルを生成し、電圧指令ベクトルに基づいて、PWM周期における7つの基本電圧ベクトルの出力時間配分を決定し、7つの基本電圧ベクトルの出力時間配分に基づいて、PWM周期において各スイッチング素子をオンオフするスイッチング信号を生成する。
【0041】
1-5-8.界磁巻線電圧印加部38
界磁巻線電圧印加部38は、界磁巻線4に電圧を印加する。界磁巻線電圧印加部38は、コンバータ9が有するスイッチング素子をオンオフして、界磁巻線4に電圧を印加する。本実施の形態では、電機子電圧印加部37は、トルク指令値及び角速度ω等に基づいて界磁電流指令値Ifoを設定し、界磁電流の検出値If_detが界磁電流指令値Ifoに追従するように、界磁電圧指令値Vfoを演算し、界磁電圧指令値Vfoに基づいて、PWM制御によりコンバータ9の複数のスイッチング素子をオンオフ制御する。
【0042】
本実施の形態では、角度オフセット設定部34により第1の電流設定値及び第2の電流設定値が設定される場合は、界磁巻線電圧印加部38は、界磁電圧指令値Vfoを0に設定するなどして、界磁巻線7に印加される界磁電圧Vfを0に設定する。
【0043】
1-5-9.角度オフセット設定部34の詳細構成
<電圧方程式を用いた式導出>
以下で、角度オフセットθofsの設定原理について詳細に説明する。交流回転機の電圧方程式は、式(2)で与えられる。なお、式(2)は、角度オフセットが無い真のdq軸についての式である。
【数2】
【0044】
ここで、ωは、電気角での角速度であり、Raは、電機子巻線の抵抗値であり、sは、ラプラス演算子であり、Ldは、d軸の電機子巻線の自己インダクタンスであり、Lqは、q軸の電機子巻線の自己インダクタンスであり、Lmdは、電機子巻線と界磁巻線の間の相互インダクタンスであり、Rfは、界磁巻線の抵抗値であり、Lfは、界磁巻線のインダクタンスであり、φf0は、永久磁石による鎖交磁束である。Vdは、電機子巻線に印加されるd軸の電機子電圧であり、Vqは、電機子巻線に印加されるq軸の電機子電圧であり、Vfは、界磁巻線に印加される界磁電圧である。Idは、電機子巻線に流れるd軸の電流であり、Iqは、電機子巻線に流れるq軸の電流であり、Ifは、界磁巻線に流れる界磁電流である。
【0045】
角速度ωが低い場合は、誘起電圧成分に係る角速度ωの項を無視できるので、式(2)は式(3)のように簡素化できる。
【数3】
【0046】
真のdq軸における真のd軸及びq軸の電流指令値Idot、Iqotに対するd軸及びq軸の電流Id、Iqの応答は、式(4)で与えられる。
【数4】
【0047】
ここで、ωcは、d軸及びq軸の電流指令値Ido、Iqoからd軸及びq軸の電流の検出値Id_det、Iq_detまでの電流制御系の伝達関数のカットオフ周波数(応答周波数ともいう)であり、時定数Tcの逆数である(ωc=1/Tc)。
【0048】
界磁電圧Vfを0に設定し、式(4)を式(3)に代入し、界磁電流Ifについて整理すると、式(5)が得られる。例えば、界磁電圧Vfを0に設定するために、コンバータ9の高電位側のスイッチング素子SP1及びSP2がオフにされ、低電位側のスイッチング素子SN1及びSN2がオフされる。なお、多くの場合において、界磁電流の電流制御系のカットオフ周波数は、電機子電流の電流制御系のカットオフ周波数ωcよりも低いため、コンバータ9のスイッチング素子のオンオフ状態を長期間保持することは必須では無い。
【数5】
【0049】
式(5)に示すように、電機子巻線と界磁巻線の間の相互インダクタンスLmdにより、d軸の電流の変化により、界磁電流Ifが変化する。
【0050】
<第1の電流設定値Id1の設定による界磁電流の変化量ΔIf1>
真の角度オフセットがδであるが、角度オフセット設定部34により設定される角度オフセットθofsが0であり、角度補正が行われない場合には、
図4に示すように、真のdq軸と制御用のdq軸がδだけずれる。制御用のdq軸におけるd軸及びq軸の電流指令値Ido、Iqoと、真のdq軸における真のd軸及びq軸の電流指令値Idot、Iqotとの関係は、式(6)の第1式及び第2式のようになる。このとき、d軸の電流指令値Idoを、第1のd軸の電流設定値Id1に設定し、q軸の電流指令値Iqoを、第1のq軸の電流設定値Iq1としての0に設定すると、真のdq軸における真のd軸の電流指令値Idotは、式(6)の第4式になる。
【数6】
【0051】
式(6)の第4式の真のd軸の電流指令値Idotを式(5)に代入すると、式(7)が得られる。したがって、角度補正が行われない場合には、界磁電流Ifは、式(7)のように、真の角度オフセットδ、及び第1のd軸の電流設定値Id1を用いて表すことができる。
【数7】
【0052】
d軸の電流指令値Idoを0からId1にステップ変化させたときの界磁電流Ifの時間応答は、式(8)で与えられる。
【数8】
【0053】
よって、第1のd軸の電流設定値Id1にステップ変化させてから判定期間Tjの経過後の第1の界磁電流の変化量ΔIf1は、式(9)で与えられる。
【数9】
【0054】
式(9)に示すように、第1のd軸の電流設定値Id1を設定しても、真の角度オフセットδの影響により、角度オフセットが無い場合の第1の界磁電流の変化量ΔIf1に対して、実際の第1の界磁電流の変化量ΔIf1がcosδ倍に変化する。
【0055】
図5に、真の角度オフセットδがπ/6であり、角度オフセットθofsが0に設定され、制御用の角度θcntにセンサ角度θsが設定され、Id1が-150[A]であり、ωcが100[rad/s]である場合の、各d軸電流、各q軸電流、及び界磁電流の変化を示したものである。第1の設定タイミングである時間t=0で、d軸の電流指令値Idoが、0から-150[A](Id1)にステップ変化されている。q軸の電流指令値Iqoは、d軸のステップ変化にかかわらず0[A]に設定されている。d軸の電流の検出値Id_detは、ステップ変化後、電機子電流制御系のカットオフ周波数ωcの応答性で、d軸の電流指令値Idoに追従している。なお、ここでは、d軸の電流指令値Idoを、0からステップ変化させているが、0では無い初期の第1のd軸電流値Id10から第1のd軸の電流設定値Id1にステップ変化させてもよい。この場合は、式(9)の右辺第1式の第1のd軸の電流設定値Id1の代わりに、式(9)の右辺第2式に示すように、d軸の電流指令値Idoを初期の第1のd軸電流値Id10から第1のd軸の電流設定値Id1にステップ変化させた場合のステップ変化量ΔId1(以下、第1のd軸電流のステップ変化量ΔId1と称す)(ΔId1=Id1-Id10)が用いられる。
【0056】
一方、真のd軸の電流Idtは、d軸の電流の検出値Id_detにcosδを乗算した値になっており、真のq軸の電流Iqtは、d軸の電流の検出値Id_detに-sinδを乗算した値になっている。
【0057】
界磁電流Ifは、ステップ変化後、約0.02[s]経過するまでは単調増加するが、それ以降は減少に転じる。これは、式(8)及び式(9)の第2項の影響が大きくなってくるためである。第2項に係る界磁巻線のインダクタンスLfは、界磁電流Ifの大きさによって変化するため、第2項の影響が大きくなる前の界磁電流の変化量ΔIfを検出することが望ましい。よって、界磁電流の変化量ΔIfを演算する判定期間Tjが、電機子電流制御系のカットオフ周波数ωcの逆数である時定数Tc(Tc=1/ωc)よりも短い期間に設定されるとよい。
【0058】
<第2の電流設定値Iq2の設定による界磁電流の変化量ΔIf2>
次に、第1のd軸及びq軸の電流設定値Id1、0とは、位相が電気角でπ/2異なる第2のd軸及びq軸の電流設定値0、Iq2を設定する。式(6)の第2式において、d軸の電流指令値Idoを、第2のd軸の電流設定値Id2としての0に設定し、q軸の電流指令値Iqoを、第2のq軸の電流設定値Iq2に設定すると、真のdq軸における真のd軸の電流指令値Idotは、式(10)の第2式になる。
【数10】
【0059】
式(10)の第2式の真のd軸の電流指令値Idotを式(5)に代入すると、式(11)が得られる。
【数11】
【0060】
q軸の電流指令値Iqoを0からIq2にステップ変化させたときの界磁電流Ifの時間応答は、式(12)で与えられる。
【数12】
【0061】
よって、第2のq軸の電流設定値Iq2にステップ変化させてから判定期間Tjの経過後の第2の界磁電流の変化量ΔIf2は、式(13)で与えられる。
【数13】
【0062】
式(13)に示すように、第2のq軸の電流設定値Iq2を設定しても、真の角度オフセットδの影響により、角度オフセットがπ/2である場合の第2の界磁電流の変化量ΔIf2に対して、実際の第2の界磁電流の変化量ΔIf2がsinδ倍に変化する。
【0063】
図6に、真の角度オフセットδがπ/6であり、角度オフセットθofsが0に設定され、制御用の角度θcntにセンサ角度θsが設定され、Iq2が150[A]であり、ωcが100[rad/s]である場合の、各d軸電流、各q軸電流、及び界磁電流の変化を示したものである。第2の設定タイミングである時間t=0で、q軸の電流指令値Iqoが、0から150[A](Iq2)にステップ変化されている。d軸の電流指令値Idoは、q軸のステップ変化にかかわらず0[A]に設定されている。q軸の電流の検出値Iq_detは、ステップ変化後、電機子電流制御系のカットオフ周波数ωcの応答性で、q軸の電流指令値Iqoに追従している。なお、ここでは、q軸の電流指令値Iqoを、0からステップ変化させているが、0では無い初期の第2のq軸電流値Iq20から第2のq軸の電流設定値Iq2にステップ変化させてもよい。この場合は、式(13)の右辺第1式の第1のd軸の電流設定値Iq2の代わりに、式(13)の右辺第2式に示すように、q軸の電流指令値Iqoを初期の第2のq軸電流値Iq20から第2のq軸の電流設定値Iq2にステップ変化させた場合のステップ変化量ΔIq2(以下、第2のq軸電流のステップ変化量ΔIq2と称す)(ΔIq2=Iq20-Iq0)が用いられる。
【0064】
一方、真のq軸の電流Iqtは、q軸の電流の検出値Iq_detにcosδを乗算した値になっており、真のd軸の電流Idtは、q軸の電流の検出値Iq_detにsinδを乗算した値になっている。
【0065】
界磁電流Ifは、ステップ変化後、約0.02[s]経過するまでは単調減少するが、それ以降は増加に転じる。
図5の場合と同様に、これは、式(12)及び式(13)の第2項の影響が大きくなってくるためである。
【0066】
<真の角度オフセットδの演算>
式(14)に示すように、式(13)の第2の界磁電流の変化量ΔIf2を、式(9)の第1の界磁電流の変化量ΔIf1で除算し、逆正接を演算することにより、真の角度オフセットδを演算することができ、真の角度オフセットδが、角度オフセット更新量Δθofsに設定されればよい。ここで、上述したように、ΔId1は、d軸の電流指令値Idoを、初期の第1のd軸電流値Id10から第1のd軸の電流設定値Id1にステップ変化させた場合の、d軸の電流指令値Idoのステップ変化量ΔId1(第1のd軸電流のステップ変化量ΔId1)であり(ΔId1=Id1-Id10)、ΔIq2は、q軸の電流指令値Iqoを、初期の第2のq軸電流値Iq20から第2のq軸の電流設定値Iq2にステップ変化させた場合の、q軸の電流指令値Iqoのステップ変化量ΔIq2(第2のq軸電流のステップ変化量ΔIq2)である(ΔIq2=Iq2-Iq20)。
【数14】
【0067】
以上のように、式(5)に示したように、電機子巻線と界磁巻線の間の相互インダクタンスLmdにより、d軸電流の変化により、界磁電流Ifが変化する。そして、式(9)、及び式(14)の第1式に示したように、第1のd軸の電流設定値Id1を設定した場合に、d軸に対する第1のd軸の電流設定値Id1の位相が0であるので、真の角度オフセットδの余弦値の影響により、角度オフセットが無い場合のd軸電流及び第1の界磁電流の変化量ΔIf1に対して、d軸電流及び第1の界磁電流の変化量ΔIf1がcosδ倍に変化する。一方、式(13)、及び式(14)の第1式に示したように、第2のq軸の電流設定値Iq2を設定した場合に、d軸に対する第2のq軸の電流設定値Iq2の位相がπ/2であるので、真の角度オフセットδの正弦値の影響により、角度オフセットがπ/2である場合のd軸電流及び第2の界磁電流の変化量ΔIf2に対して、d軸電流及び第2の界磁電流の変化量ΔIf2がsinδ倍に変化する。よって、これらの情報により、cosδ及びsinδの情報を特定し、逆正接を演算することにより、真の角度オフセットδを算出でき、角度オフセットθofsを設定することができる。
【0068】
なお、第1の電流設定値及び第2の電流設定値が、以上で説明したように設定されなくても、互いに位相が異なるように設定されれば、cosδ及びsinδの情報を特定することができ、真の角度オフセットδを算出できる。
【0069】
例えば、式(15)に示すように、第1の電流設定値(第1のd軸の電流設定値Id1、第1のq軸の電流設定値Iq1)を、第1の電流ベクトルの大きさI1と、制御用のd軸に対する第1の電流ベクトルの位相γとにより表す。また、第2の電流設定値(第2のd軸の電流設定値Id2、第2のq軸の電流設定値Iq2)を、第2の電流ベクトルの大きさI2と、制御用のd軸に対する第1の電流ベクトルの位相γと、第1の電流ベクトル(第1の電流設定値)に対する第2の電流ベクトル(第2の電流設定値)の位相αとにより表す。そして、ここでは詳しい式導出は省略するが、式(16)により、真の角度オフセットδを演算することができ、真の角度オフセットδが、角度オフセット更新量Δθofsに設定されればよい。ここで、ΔI1は、電流指令値の電流ベクトルの大きさを、初期の第1の電流ベクトルの大きさI10から第1の電流ベクトルの大きさI1にステップ変化させた場合の、電流ベクトルの大きさのステップ変化量ΔI1(第1の電流ベクトルの大きさのステップ変化量ΔI1と称す)であり、ΔI2は、電流指令値の電流ベクトルの大きさを、初期の第2の電流ベクトルの大きさI20から第2の電流ベクトルの大きさI2にステップ変化させた場合の、電流ベクトルの大きさのステップ変化量ΔI2(第2の電流ベクトルの大きさのステップ変化量ΔI2と称す)である。
【数15】
【数16】
【0070】
また、真の角度オフセットδの精度を向上するために、第1の電流設定値及び第2の電流設定値以外の、第3、第4の電流設定値が設定されてもよい。
【0071】
<角度オフセット設定部34の構成>
そこで、角度オフセット設定部34は、第1の設定タイミングで、電機子電流指令値を第1の電流設定値に設定し、第1の電流設定値に設定してから判定期間Tjの経過後の界磁電流の検出値の変化量である第1の界磁電流変化量ΔIf1を検出する。角度オフセット設定部34は、第1の設定タイミングとは異なる第2の設定タイミングで、電機子電流指令値を、第1の電流設定値と位相が異なる第2の電流設定値に設定し、第2の電流設定値に設定してから判定期間Tjの経過後の界磁電流の検出値の変化量である第2の界磁電流変化量ΔIf2を検出する。そして、角度オフセット設定部34は、第1の電流設定値又は第1の電流設定値の設定後の電機子電流の検出値、第1の界磁電流変化量ΔIf1、第2の電流設定値又は第2の電流設定値の設定後の電機子電流の検出値、及び第2の界磁電流変化量ΔIf2に基づいて、角度オフセットθofsを設定する。
【0072】
この構成によれば、電機子巻線と界磁巻線の間の相互インダクタンスLmdにより、d軸電流の変化により、界磁電流Ifが変化することを利用し、互いに位相の異なる第1の電流設定値及び第2の電流設定値をそれぞれ電機子電流指令値に設定したときの第1の界磁電流変化量ΔIf1及び第2の界磁電流変化量ΔIf2を検出する。この時、真の角度オフセットの余弦値及び正弦値、及び第1の電流設定値の位相に応じて、第1の電流設定値に対応する真のd軸電流が変動し、第1の界磁電流変化量が変動する。また、真の角度オフセットの余弦値及び正弦値、及び第2の電流設定値の位相に応じて、第2の電流設定値に対応する真のd軸電流が変動し、第2の界磁電流変化量が変動する。そのため、互いに位相の異なる、第1の電流設定値又は第1の電流設定値の設定後の電機子電流の検出値、第1の界磁電流変化量ΔIf1、第2の電流設定値又は第2の電流設定値の設定後の電機子電流の検出値、及び第2の界磁電流変化量ΔIf2により、真の角度オフセットδの余弦値及び正弦値の情報を特定し、角度オフセットθofsを設定することができる。
【0073】
本実施の形態では、角度オフセット設定部34は、第1の電流設定値として固定値を用い、第2の電流設定値として固定値を用いる。この構成によれば、電機子電流指令値をステップ変化させた後の、第1及び第2の界磁電流変化量ΔIf1、ΔIf2を検出することができ、角度オフセットθofsの設定精度を高めることができる。
【0074】
また、第1の電流設定値の位相及び第2の電流設定値の位相は、電気角でπ/2異なる。この構成によれば、真の角度オフセットの余弦値及び正弦値の情報を得やすくなり、角度オフセットθofsの設定精度を高めることができる。
【0075】
なお、式(15)、式(16)を用いて説明したように、第1の電流設定値と第2の電流設定値との位相差αは、0及びπを除く任意の位相差に設定されてもよく、真の角度オフセットδを算出することができる。
【0076】
本実施の形態では、角度オフセット設定部34は、現在の角度オフセットθofsが設定された状態で、第1の設定タイミングで、d軸の電流指令値Idoを、初期の第1のd軸電流値Id10から第1の電流設定値としての固定値の第1のd軸の電流設定値Id1にステップ的に変化させ、q軸の電流指令値Iqoを0のまま変化させない。角度オフセット設定部34は、第1のd軸の電流設定値Id1にステップ的に変化させてから判定期間Tjの経過後の界磁電流の検出値の変化量である第1の界磁電流変化量ΔIf1を検出する。
【0077】
また、角度オフセット設定部34は、現在の角度オフセットθofsが設定された状態で、第2の設定タイミングで、q軸の電流指令値Iqoを、初期の第2のq軸電流値Iq20から第2の電流設定値としての固定値の第2のq軸の電流設定値Iq2にステップ的に変化させ、d軸の電流指令値Idoを0のまま変化させない。角度オフセット設定部34は、第2のq軸の電流設定値Iq1にステップ的に変化させてから判定期間Tjの経過後の界磁電流の検出値の変化量である第2の界磁電流変化量ΔIf2を検出する。
【0078】
そして、角度オフセット設定部34は、初期の第1のd軸電流値Id10から第1のd軸の電流設定値Id1へのd軸の電流指令値Idoのステップ変化量ΔId1(第1のd軸電流のステップ変化量ΔId1)、初期の第2のq軸電流値Iq20から第2のq軸の電流設定値Iq2へのq軸の電流指令値Iqoのステップ変化量ΔIq2(第2のq軸電流のステップ変化量ΔIq2)、第1の界磁電流変化量ΔIf1、第2の界磁電流変化量ΔIf2に基づいて、式(14)の第2式を用い、角度オフセット更新量Δθofsを演算する。
【0079】
そして、式(17)に示すように、角度オフセット設定部34は、現在の角度オフセットθofsに角度オフセット更新量Δθofsを加算して、角度オフセットθofsを更新する。
【数17】
【0080】
式(9)、式(13)、式(14)の第1式に示したように、第1のd軸の電流設定値Id1を設定した場合に、真の角度オフセットδの影響により、角度オフセットが無い場合の第1の界磁電流の変化量ΔIf1に対して、第1の界磁電流の変化量ΔIf1がcosδ倍に変化し、第2のq軸の電流設定値Iq2を設定した場合に、真の角度オフセットδの影響により、角度オフセットがπ/2である場合の第2の界磁電流の変化量ΔIf2に対して、第2の界磁電流の変化量ΔIf2がsinδ倍に変化する。よって、これらの情報により、cosδ及びsinδの情報を特定でき、逆正接を演算することにより、真の角度オフセットδを算出でき、角度オフセットθofsを精度よく設定することができる。
【0081】
ここで、初期の第1のd軸電流値Id10及び初期の第2のq軸電流値Iq20が0に設定されるとよい。0に設定することで、角度オフセットθofsの設定時の電流消費量、トルクの発生量を少なくすることができる。なお、各初期の電流値Id10、Iq20は0以外の値に設定されてもよい。
【0082】
或いは、角度オフセット設定部34は、第1のd軸電流のステップ変化量ΔId1の代わりに、第1のd軸の電流設定値Id1に変化させてから判定期間の経過後のd軸の電流検出値の変化量ΔId_det1を用い、第2のq軸電流のステップ変化量ΔIq2の代わりに、第2のq軸の電流設定値Iq2に変化させてから判定期間の経過後のq軸の電流検出値の変化量ΔIq_det2を用い、式(18)を用い、角度オフセットθofsを演算してもよい。
【数18】
【0083】
d軸の電流検出値の変化量ΔId_detは、式(7)のωc/(s+ωc)×ΔId1に相当し、q軸の電流検出値の変化量ΔIq_detは、式(11)のωc/(s+ωc)×ΔIq2に相当するため、式(14)と同様に、式(16)の導出結果が得られる。
【0084】
角度オフセット設定部34は、判定期間Tjを、電機子電流指令値から電機子電流の検出値までの伝達関数のカットオフ周波数ωcの逆数である時定数Tcよりも短い期間に設定する。
【0085】
図5及び
図6を用いて説明したように、ステップ変化後の経過時間が時定数Tcよりも長くなると、界磁巻線のインダクタンスLfの影響が大きくなり、界磁巻線のインダクタンスLfは、界磁電流Ifにより変動する。よって、判定期間Tjを時定数Tcよりも短い期間に設定することにより、界磁巻線のインダクタンスLfの影響が大きくなる前の界磁電流の変化量ΔIfを検出することができ、角度オフセットθofsの設定精度を高めることができる。
【0086】
角度オフセット設定部34は、交流回転機が回転停止状態である場合に、電機子電流指令値を第1の電流設定値及び第2の電流設定値に設定し、角度オフセットθofsを設定する。
【0087】
この構成によれば、式(3)を用いて説明したように、交流回転機の角速度ωが低い場合に、誘起電圧成分に係る角速度ωの項を無視できるので、角度オフセットθofsの設定精度を向上できる。なお、交流回転機が回転停止状態でなくてもよく、角速度ωが判定角速度よりも低い場合に、角度オフセットθofsの設定が行われてもよい。
【0088】
角度オフセット設定部34は、界磁電圧Vf(本例では、界磁電圧指令値Vfo)を0に設定している状態で、電機子電流指令値を第1の電流設定値及び第2の電流設定値に設定し、角度オフセットθofsを設定する。
【0089】
この構成よれば、界磁電圧Vfによる界磁電流Ifの変化が無いので、角度オフセットθofsの設定精度を向上できる。
【0090】
角度オフセット設定部34は、電機子電圧指令値の変調率が1未満である場合に、電機子電流指令値を第1の電流設定値及び第2の電流設定値に設定し、角度オフセットθofsを設定する。
【0091】
電機子電圧指令値の変調率が1以上になり、直流電圧Vdcに対して電機子電圧指令値の電圧飽和が生じると、真の角度オフセットδに応じて、電流制御系のカットオフ周波数ωc及び時定数Tcが変動する。そのため、電機子電圧指令値の変調率が1未満である場合に、角度オフセットθofsを設定することにより、設定精度を向上できる。
【0092】
上記の実施の形態では、角度オフセット設定部34は、第1の電流設定値として、Ido=Id1、Iqo=0に設定し、第2の電流設定値として、Ido=0、Iqo=Iq2に設定していた。しかし、第1の電流設定値の位相と第2の電流設定値の位相とが異なれば、第1の電流設定値及び第2の電流設定値は他の設定値に設定されてもよい。この場合でも、cosδ及びsinδの情報が得られ、逆正接を演算することにより、真の角度オフセットδを算出でき、角度オフセットθofsを設定することができる。
【0093】
具体的には、式(15)及び式(16)を用いて説明したように、角度オフセット設定部34は、現在の角度オフセットθofsが設定された状態で、第1の設定タイミングで、d軸の電流指令値Idoを、初期の第1のd軸電流値Id10から固定値の第1のd軸の電流設定値Id1にステップ的に変化させると共に、q軸の電流指令値Iqoを、初期の第1のq軸電流値Iq10から固定値の第1のq軸の電流設定値Iq1にステップ的に変化させる。角度オフセット設定部34は、第1のd軸及びq軸の電流設定値Id1、Iq1にステップ的に変化させてから判定期間Tjの経過後の界磁電流の検出値の変化量である第1の界磁電流変化量ΔIf1を検出する。
【0094】
また、角度オフセット設定部34は、現在の角度オフセットθofsが設定された状態で、第2の設定タイミングで、d軸の電流指令値Idoを、初期の第2のd軸電流値Id20から固定値の第2のd軸の電流設定値Id2にステップ的に変化させると共に、q軸の電流指令値Iqoを、初期の第2のq軸電流値Iq20から固定値の第2のq軸の電流設定値Iq2にステップ的に変化させる。角度オフセット設定部34は、第2のd軸及びq軸の電流設定値Id2、Iq2にステップ的に変化させてから判定期間Tjの経過後の界磁電流の検出値の変化量である第2の界磁電流変化量ΔIf2を検出する。
【0095】
そして、角度オフセット設定部34は、第1の電流設定値の設定による電流ベクトルの大きさのステップ変化量ΔI1、第2の電流設定値の設定による電流ベクトルの大きさのステップ変化量ΔI2、第1の電流設定値の電流ベクトルに対する第2の電流設定値の電流ベクトルの位相α、及び第1の界磁電流変化量ΔIf1、第2の界磁電流変化量ΔIf2に基づいて、式(16)を用い、角度オフセット更新量Δθofsを演算する。
【0096】
そして、式(17)に示すように、角度オフセット設定部34は、現在の角度オフセットθofsに角度オフセット更新量Δθofsを加算して、角度オフセットθofsを更新する。
【0097】
ここで、初期の第1のd軸電流値Id10、初期の第1のq軸電流値Iq10、初期の第2のd軸電流値Id20、及び初期の第2のq軸電流値Iq20が、0に設定されるとよい。0に設定することで、角度オフセットθofsの設定時の電流消費量、トルクの発生量を少なくするとともに、第1の初期の電流設定値と第2の初期の電流設定値において電機子巻線と界磁巻線の間の相互インダクタンスを等しくすることで角度オフセットの精度を向上することができる。なお、各初期の電流値Id10、Iq10、Id20、Iq20は、0以外の値に設定されてもよい。
【0098】
式(16)の代わりに、式(19)を用い、角度オフセット設定部34は、第1の電流設定値に変化させてから判定期間Tjの経過後のd軸の電流検出値の変化量ΔId_det1及びq軸の電流検出値の変化量ΔIq_det1による電流ベクトルの大きさの変化量ΔI1_det、第2の電流設定値に変化させてから判定期間Tjの経過後のd軸の電流検出値の変化量ΔId_det2及びq軸の電流検出値の変化量ΔIq_det2による電流ベクトルの大きさの変化量ΔI2_det、第1の電流設定値の電流ベクトルに対する第2の電流設定値の電流ベクトルの位相α、及び第1の界磁電流変化量ΔIf1、第2の界磁電流変化量ΔIf2に基づいて、角度オフセット更新量Δθofsを演算してもよい。
【数19】
【0099】
角度オフセット設定部34は、電機子電流指令値を第1の電流設定値及び第2の電流設定値に設定していた。しかし、角度オフセット設定部34は、位相が互いに異なる3つ以上の電流設定値を設定し、各電流設定値による界磁電流変化量を検出し、各電流設定値、各界磁電流変化量に基づいて、角度オフセットθofsを設定してもよい。例えば、角度オフセット設定部34は、第1の電流設定値及び第2の電流設定値の設定だけでなく、追加的に、第1及び第2の設定タイミングと異なる第3の設定タイミングで、第1及び第2の電流設定値の位相と位相が異なる第3の電流設定値を設定し、第3の界磁電流変化量を検出し、第1の界磁電流変化量ΔIf1及び第2の界磁電流変化量ΔIf2だけでなく、追加的に第3の界磁電流変化量にも基づいて、角度オフセットθofsを設定してもよい。
【0100】
<車両用発電電動機装置>
本実施の形態に係る交流回転機1の用途は、特に限定されるものではないが、例えば、交流回転機1が、車両用発電電動機装置を構成する場合を説明する。車両用発電電動機装置は、交流回転機の制御装置30と、駆動力が車両の車輪に伝達される発電電動機である交流回転機1とを備えている。
【0101】
例えば、
図7に示すように、車両は、内燃機関102を備えており、交流回転機1は、プーリ及びベルト機構105を介して、内燃機関102のクランク軸に連結されている。交流回転機1の回転軸は、内燃機関102及び変速装置104を介して車輪103に連結される。交流回転機1は、電動機として機能し、内燃機関102の補機として、車輪103の駆動力源となると共に、発電機として機能し、内燃機関102の回転を利用して発電を行う。交流回転機1は、内燃機関102と変速装置104との間に設けられてもよいし、変速装置104内に設けられてもよい。また、内燃機関102が設けられなくてもよい。
【0102】
また、アイドルリングストップ車においては、交流回転機1の駆動トルクによって内燃機関100の再始動を行う。本実施の形態で説明したように角度オフセットθofsを精度よく設定することで、駆動時に必要な駆動力を確保できなくなることを抑制し、発電時に所望の発電量を確保できなくなることを抑制できる。
【0103】
2.実施の形態2
実施の形態2に係る制御装置30について図面を参照して説明する。上記の実施の形態1と同様の構成部分は説明を省略する。本実施の形態に係る交流回転機1、及び制御装置30等の基本的な構成は実施の形態1と同様である。しかし、実施の形態2では、角度オフセット設定部34における第1の電流設定値及び第2の電流設定値の設定方法が実施の形態1と異なる。
【0104】
本実施の形態では、角度オフセット設定部は、第1の電流設定値として固定の傾きで変化する値を用い、第2の電流設定値として固定の傾きで変化する値を用いる。すなわち、電機子電流指令値にランプ入力を与える。
【0105】
第1の電流設定値として、d軸の電流指令値Idoを、第1のd軸の電流傾きRId1で変化する値に設定し、q軸の電流指令値Iqoを、0に設定すると、真のdq軸における真のd軸の電流指令値Idotは、式(20)の第2式になる。
【数20】
【0106】
第2の電流設定値として、d軸の電流指令値Idoを、0に設定し、q軸の電流指令値Iqoを、第2のq軸の電流傾きRIq2で変化する値に設定すると、真のdq軸における真のd軸の電流指令値Idotは、式(21)の第2式になる。
【数21】
【0107】
式(20)の第2式、及び式(21)の第2式を用いて、実施の形態1と同様の式導出を行うと、式(22)を得る。
【数22】
【0108】
図8に、真の角度オフセットδがπ/6であり、角度オフセットθofsが0に設定され、制御用の角度θcntにセンサ角度θsが設定され、RId1が-3000[A/s]であり、ωcが100[rad/s]である場合の、各d軸電流、各q軸電流、及び界磁電流の変化を示したものである。第1の設定タイミングである時間t=0で、d軸の電流指令値Idoが、0から、第1のd軸の電流傾きRId1でランプ変化されている。q軸の電流指令値Iqoは、d軸のランプ変化にかかわらず0[A]に設定されている。ステップ変化する
図5に対して電流制御系の時定数Tcを大きくしたような波形になり、界磁電流Ifが単調増加する期間が長くなっている。なお、ここでは、d軸の電流指令値Idoを、0からランプ変化させているが、0では無い初期の第1のd軸電流値Id10から、第1のd軸の電流傾きRId1でランプ変化させても同様に考えられる。
【0109】
図9に、真の角度オフセットδがπ/6であり、角度オフセットθofsが0に設定され、制御用の角度θcntにセンサ角度θsが設定され、RIq2が3000[A/s]であり、ωcが100[rad/s]である場合の、各d軸電流、各q軸電流、及び界磁電流の変化を示したものである。第2の設定タイミングである時間t=0で、q軸の電流指令値Iqoが、0から、第2のq軸の電流傾きRIq2でランプ変化されている。d軸の電流指令値Idoは、d軸のランプ変化にかかわらず0[A]に設定されている。ステップ変化する
図6に対して電流制御系の時定数Tcを大きくしたような波形になり、界磁電流Ifが単調減少する期間が長くなっている。なお、ここでは、q軸の電流指令値Iqoを、0からランプ変化させているが、0では無い初期の第2のq軸電流値Iq20から、第2のq軸の電流傾きRIq2でランプ変化させても同様に考えられる。
【0110】
本実施の形態では、角度オフセット設定部34は、第1の電流設定値として固定の傾きで変化する値を用い、第2の電流設定値として固定の傾きで変化する値を用いる。この構成によれば、電機子電流指令値をランプ変化させた後、緩やかに変化する第1及び第2の界磁電流変化量ΔIf1、ΔIf2を検出することができ、角度オフセットθofsの設定精度を高めることができる。
【0111】
第1の電流設定値の位相及び第2の電流設定値の位相は、電気角でπ/2異なる。この構成によれば、真の角度オフセットの余弦値及び正弦値の情報を精度よく得やすくなり、角度オフセットθofsの設定精度を高めることができる。
【0112】
本実施の形態では、角度オフセット設定部34は、現在の角度オフセットθofsが設定された状態で、第1の設定タイミングで、d軸の電流指令値Idoを、初期の第1のd軸電流値Id10から、第1の電流設定値としての固定の第1のd軸の電流傾きRId1で変化する値に変化させ、q軸の電流指令値Iqoを0のまま変化させない。角度オフセット設定部34は、第1のd軸の電流傾きRId1で変化させ始めてから判定期間Tjの経過後の界磁電流の検出値の変化量である第1の界磁電流変化量ΔIf1を検出する。
【0113】
また、角度オフセット設定部34は、現在の角度オフセットθofsが設定された状態で、第2の設定タイミングで、q軸の電流指令値を、初期の第2のq軸電流値Iq20から、第2の電流設定値としての固定の第2のq軸の電流傾きRIq2で変化する値に変化させ、d軸の電流指令値Idoを0のまま変化させない。角度オフセット設定部34は、第2のq軸の電流傾きRIq2で変化させ始めてから判定期間Tjの経過後の界磁電流の検出値の変化量である第2の界磁電流変化量ΔIf2を検出する。
【0114】
そして、角度オフセット設定部34は、第1のd軸の電流傾きRId1、第2のq軸の電流傾きRIq2、第1の界磁電流変化量ΔIf1、第2の界磁電流変化量ΔIf2に基づいて、式(22)を用い、角度オフセット更新量Δθofsを演算する。
【0115】
そして、式(17)に示すように、角度オフセット設定部34は、現在の角度オフセットθofsに角度オフセット更新量Δθofsを加算して、角度オフセットθofsを更新する。
【0116】
実施の形態1と同様に、第1のd軸の電流傾きRId1で変化させた場合に、真の角度オフセットδの影響により、角度オフセットが無い場合の第1の界磁電流の変化量ΔIf1に対して、第1の界磁電流の変化量ΔIf1がcosδ倍に変化し、第2のq軸の電流傾きRIq2で変化させた場合に、真の角度オフセットδの影響により、角度オフセットがπ/2である場合の第2の界磁電流の変化量ΔIf2に対して、第2の界磁電流の変化量ΔIf2がsinδ倍に変化する。よって、これらの情報により、cosδ及びsinδの情報を特定し、逆正接を演算することにより、真の角度オフセットδを算出でき、角度オフセットθofsを精度よく設定することができる。
【0117】
ここで、初期の第1のd軸電流値Id10及び初期の第2のq軸電流値Iq20が0に設定されるとよい。0に設定することで、角度オフセットθofsの設定時の電流消費量、トルクの発生量を少なくするとともに、第1の初期の電流設定値と第2の初期の電流設定値において電機子巻線と界磁巻線の間の相互インダクタンスを等しくすることで角度オフセットの精度を向上することができる。なお、各初期の電流値Id10、Iq20は0以外の値に設定されてもよい。
【0118】
或いは、角度オフセット設定部34は、第1のd軸の電流傾きRId1の代わりに、第1のd軸の電流傾きRId1で変化させ始めてから判定期間Tjの経過後のd軸の電流検出値の変化量ΔId_det1を用い、第2のq軸の電流傾きRIq2の代わりに、第2のq軸の電流傾きRIq2で変化させ始めてから判定期間の経過後のq軸の電流検出値の変化量ΔIq_det2を用い、式(23)を用い、角度オフセットθofsを演算してもよい。
【数23】
【0119】
角度オフセット設定部34は、判定期間Tjを、電機子電流指令値から電機子電流の検出値までの伝達関数のカットオフ周波数ωcの逆数である時定数Tcよりも長い期間に設定してもよい。ランプ変化させているので、界磁電流Ifが単調変化する期間を、時定数Tcよりも長くすることができ、判定期間Tjを時定数Tcよりも長い期間に設定できる。
【0120】
実施の形態1と同様に、角度オフセット設定部34は、交流回転機が回転停止状態である場合に、電機子電流指令値を第1の電流設定値及び第2の電流設定値に設定し、角度オフセットθofsを設定する。なお、交流回転機が回転停止状態でなくてもよく、角速度ωが判定角速度よりも低い場合に、角度オフセットθofsの設定が行われてもよい。
【0121】
実施の形態1と同様に、角度オフセット設定部34は、界磁電圧Vf(本例では、界磁電圧指令値Vfo)を0に設定している状態で、電機子電流指令値を第1の電流設定値及び第2の電流設定値に設定し、角度オフセットθofsを設定する。
【0122】
角度オフセット設定部34は、電機子電圧指令値の変調率が1未満である場合に、電機子電流指令値を第1の電流設定値及び第2の電流設定値に設定し、角度オフセットθofsを設定する。
【0123】
上記の実施の形態では、角度オフセット設定部34は、第1の電流設定値として、Ido=RId1×t、Iqo=0に設定し、第2の電流設定値として、Ido=0、Iqo=RIq2×tに設定していた。しかし、第1の電流設定値の位相と第2の電流設定値の位相とが異なれば、第1の電流設定値及び第2の電流設定値は他の位相の設定値に設定されてもよい。この場合でも、cosδ及びsinδの情報が得られ、逆正接を演算することにより、真の角度オフセットδを算出でき、角度オフセットθofsを設定することができる。
【0124】
例えば、式(24)に示すように、第1の電流設定値として、固定の第1の電流傾きRI1で変化する第1のd軸の電流設定値Id1及び第1のq軸の電流設定値Iq1が設定され、第2の電流設定値として、固定の第2の電流傾きRI2で変化する第2のd軸の電流設定値Id2及び第2のq軸の電流設定値Iq2が設定される。制御用のd軸に対する第1の電流設定値の電流ベクトルの位相γと、第1の電流ベクトル(第1の電流設定値)に対する第2の電流ベクトル(第2の電流設定値)の位相αとが用いられる。そして、ここでは詳しい式導出は省略するが、式(25)により、真の角度オフセットδを演算することができ、真の角度オフセットδが、角度オフセット更新量Δθofsに設定されればよい。ここで、I10は、第1の電流傾きRI1によるランプ変化の開始時点の初期の第1の電流ベクトルの大きさであり、I20は、第2の電流傾きRI2によるランプ変化の開始時点の初期の第2の電流ベクトルの大きさである。
【数24】
【数25】
【0125】
式(24)に示したように、角度オフセット設定部34は、現在の角度オフセットθofsが設定された状態で、第1の設定タイミングで、d軸の電流指令値Ido及びq軸の電流指令値Iqoを、電流ベクトルの大きさが初期の第1の電流ベクトルの大きさI10から固定の第1の電流傾きRI1で変化する第1のd軸の電流設定値Id1及び第1のq軸の電流設定値Iq1に設定する。角度オフセット設定部34は、第1の電流傾きRI1で変化させ始めてから判定期間Tjの経過後の界磁電流の検出値の変化量である第1の界磁電流変化量ΔIf1を検出する。
【0126】
また、角度オフセット設定部34は、現在の角度オフセットθofsが設定された状態で、第2の設定タイミングで、d軸の電流指令値Ido及びq軸の電流指令値Iqoを、電流ベクトルの大きさが初期の第2の電流ベクトルの大きさI20から固定の第2の電流傾きRI2で変化する第2のd軸の電流設定値Id2及び第2のq軸の電流設定値Iq2に設定する。角度オフセット設定部34は、第2の電流傾きRI2で変化させ始めてから判定期間Tjの経過後の界磁電流の検出値の変化量である第2の界磁電流変化量ΔIf2を検出する。
【0127】
そして、角度オフセット設定部34は、第1の電流傾きRI1、第2の電流傾きRI2、第1の電流設定値の電流ベクトルに対する第2の電流設定値の電流ベクトルの位相α、及び第1の界磁電流変化量ΔIf1、第2の界磁電流変化量ΔIf2に基づいて、式(25)を用い、角度オフセット更新量Δθofsを演算する。
【0128】
そして、式(17)に示すように、角度オフセット設定部34は、現在の角度オフセットθofsに角度オフセット更新量Δθofsを加算して、角度オフセットθofsを更新する。
【0129】
ここで、初期の第1の電流ベクトルの大きさI10及び初期の第2の電流ベクトルの大きさI20が0に設定されるとよい。0に設定することで、角度オフセットθofsの設定時の電流消費量、トルクの発生量を少なくするとともに、第1の初期の電流設定値と第2の初期の電流設定値において電機子巻線と界磁巻線の間の相互インダクタンスを等しくすることで角度オフセットの精度を向上することができる。なお、各初期の電流ベクトルの大きさI10、I20は0以外の値に設定されてもよい。
【0130】
式(25)の代わりに、式(19)を用い、角度オフセット設定部34は、第1の電流傾きRI1で変化させ始めてから判定期間Tjの経過後のd軸の電流検出値の変化量ΔId_det1及びq軸の電流検出値の変化量ΔIq_det1による電流ベクトルの大きさの変化量ΔI1_det、第2の電流傾きRI2で変化させ始めてから判定期間Tjの経過後のd軸の電流検出値の変化量ΔId_det2及びq軸の電流検出値の変化量ΔIq_det2による電流ベクトルの大きさの変化量ΔI2_det、第1の電流設定値の電流ベクトルに対する第2の電流設定値の電流ベクトルの位相α、及び第1の界磁電流変化量ΔIf1、第2の界磁電流変化量ΔIf2に基づいて、角度オフセット更新量Δθofsを演算してもよい。
【0131】
角度オフセット設定部34は、電機子電流指令値を第1の電流設定値及び第2の電流設定値に設定していた。しかし、角度オフセット設定部34は、位相が互いに異なる3つ以上の電流設定値を設定し、各電流設定値による界磁電流変化量を検出し、各電流設定値、各界磁電流変化量に基づいて、角度オフセットθofsを設定してもよい。例えば、角度オフセット設定部34は、第1の電流設定値及び第2の電流設定値の設定だけでなく、追加的に、第1及び第2の設定タイミングと異なる第3の設定タイミングで、第1及び第2の電流設定値の位相と位相が異なる第3の電流設定値を設定し、第3の界磁電流変化量を検出し、第1の界磁電流変化量ΔIf1及び第2の界磁電流変化量ΔIf2だけでなく、追加的に第3の界磁電流変化量にも基づいて、角度オフセットθofsを設定してもよい。
【0132】
<転用例>
(1)上記の各実施の形態では、交流回転機は、車両用の発電電動機である場合を例に説明した。しかし、交流回転電機は、車両以外の各種の装置の駆動力源に用いられてもよい。
【0133】
(2)上記の各実施の形態では、3相の電機子巻線が設けられる場合を例として説明した。しかし、電機子巻線の相数は、複数相であれば、2相、4相等の任意の数に設定されてもよい。
【0134】
(3)上記の各実施の形態では、1組の3相の電機子巻線及びインバータが設けられる場合を例として説明した。しかし、2組以上の複数相の電機子巻線及びインバータが設けられてもよい。
【0135】
<本願の諸態様のまとめ>
以下、本願の諸態様を付記としてまとめて記載する。
【0136】
(付記1)
界磁巻線及び電機子巻線を有する交流回転機を制御する交流回転機の制御であって、
前記界磁巻線に流れる界磁電流を検出する界磁電流検出部と、
前記電機子巻線に流れる電機子電流を検出する電機子電流検出部と、
回転センサの出力情報に基づいて、前記交流回転機のロータの電気角での角度であるセンサ角度を検出する角度検出部と、
角度オフセットを設定する角度オフセット設定部と、
前記角度オフセットにより前記センサ角度を補正して、制御用の角度を演算する角度演算部と、
前記制御用の角度を用い、前記電機子電流の検出値が電機子電流指令値に追従するように電機子電圧指令値を演算する電機子電流制御部と、
前記電機子電圧指令値に基づいて前記電機子巻線に電圧を印加する電機子電圧印加部と、
を備え、
前記角度オフセット設定部は、第1の設定タイミングで、前記電機子電流指令値を第1の電流設定値に設定し、前記第1の電流設定値に設定してから判定期間の経過後の前記界磁電流の検出値の変化量である第1の界磁電流変化量を検出し、前記第1の設定タイミングとは異なる第2の設定タイミングで、前記電機子電流指令値を、前記第1の電流設定値と位相が異なる第2の電流設定値に設定し、前記第2の電流設定値に設定してから前記判定期間の経過後の前記界磁電流の検出値の変化量である第2の界磁電流変化量を検出し、前記第1の電流設定値又は前記第1の電流設定値の設定後の電機子電流の検出値、前記第1の界磁電流変化量、前記第2の電流設定値又は前記第2の電流設定値の設定後の電機子電流の検出値、及び前記第2の界磁電流変化量に基づいて、前記角度オフセットを設定する交流回転機の制御装置。
【0137】
(付記2)
前記角度オフセット設定部は、前記第1の電流設定値として固定値を用い、前記第2の電流設定値として固定値を用いる付記1に記載の交流回転機の制御装置。
【0138】
(付記3)
前記第1の電流設定値の位相及び前記第2の電流設定値の位相は、電気角でπ/2異なる付記2に記載の交流回転機の制御装置。
【0139】
(付記4)
正の前記界磁電流を流したときに生じる磁束の方向をd軸とし、前記d軸に対して電気角で位相がπ/2異なる方向をq軸とし、
前記電機子電流制御部は、前記制御用の角度に基づいて前記d軸及び前記q軸を設定し、前記電機子電流指令値として、d軸の電流指令値及びq軸の電流指令値を設定し、
前記角度オフセット設定部は、前記第1の設定タイミングで、前記d軸の電流指令値を、初期の第1のd軸電流値から、前記第1の電流設定値としての固定値の第1のd軸の電流設定値にステップ的に変化させ、前記q軸の電流指令値を0のまま変化させず、前記第2の設定タイミングで、前記q軸の電流指令値を、初期の第2のq軸電流値から、前記第2の電流設定値としての固定値の第2のq軸の電流設定値にステップ的に変化させ、前記d軸の電流指令値を0のまま変化させず、
前記初期の第1のd軸電流値から前記第1のd軸の電流設定値へのステップ変化量をΔId1とし、前記初期の第2のq軸電流値から前記第2のq軸の電流設定値へのステップ変化量をΔIq2とし、前記第1の界磁電流変化量をΔIf1とし、前記第2の界磁電流変化量をΔIf2とし、角度オフセット更新量をΔθofsとし、
Δθofs=tan-1(ΔId1×ΔIf2/ΔIq2/ΔIf1)
の算出式により前記角度オフセット更新量を算出し、現在の前記角度オフセットの設定値に前記角度オフセット更新量を加算して、前記角度オフセットを更新し、
前記センサ角度に前記角度オフセットを加算して、前記制御用の角度を演算する付記1に記載の交流回転機の制御装置。
【0140】
(付記5)
正の前記界磁電流を流したときに生じる磁束の方向をd軸とし、前記d軸に対して電気角で位相がπ/2異なる方向をq軸とし、
前記電機子電流制御部は、前記制御用の角度に基づいて前記d軸及び前記q軸を設定し、前記電機子電流指令値として、d軸の電流指令値及びq軸の電流指令値を設定し、
前記角度オフセット設定部は、前記第1の設定タイミングで、前記d軸の電流指令値を、初期の第1のd軸電流値から、前記第1の電流設定値としての固定値の第1のd軸の電流設定値にステップ的に変化させ、前記q軸の電流指令値を0のまま変化させず、前記第2の設定タイミングで、前記q軸の電流指令値を、初期の第2のq軸電流値から、前記第2の電流設定値としての固定値の第2のq軸の電流設定値にステップ的に変化させ、前記d軸の電流指令値を0のまま変化させず、
前記第1のd軸の電流設定値に変化させてから前記判定期間の経過後の前記d軸の電流検出値の変化量をΔId_det1とし、前記第2のq軸の電流設定値に変化させてから前記判定期間の経過後の前記q軸の電流検出値の変化量をΔIq_det2とし、前記第1の界磁電流変化量をΔIf1とし、前記第2の界磁電流変化量をΔIf2とし、角度オフセット更新量をΔθofsとし、
Δθofs=tan-1(ΔId_det1×ΔIf2/ΔIq_det2/ΔIf1)
の算出式により前記角度オフセット更新量を算出し、現在の前記角度オフセットの設定値に前記角度オフセット更新量を加算して、前記角度オフセットを更新し、
前記センサ角度に前記角度オフセットを加算して、前記制御用の角度を演算する付記1に記載の交流回転機の制御装置。
【0141】
(付記6)
正の前記界磁電流を流したときに生じる磁束の方向をd軸とし、前記d軸に対して電気角で位相がπ/2異なる方向をq軸とし、
前記電機子電流制御部は、前記制御用の角度に基づいて前記d軸及び前記q軸を設定し、前記電機子電流指令値として、d軸の電流指令値及びq軸の電流指令値を設定し、
前記角度オフセット設定部は、前記第1の電流設定値として固定の第1のd軸の電流設定値及び固定の第1のq軸の電流設定値を設定し、前記第2の電流設定値として固定の第2のd軸の電流設定値及び固定の第2のq軸の電流設定値を設定し、
前記第1の設定タイミングで、前記d軸の電流指令値を、初期の第1のd軸電流値から、前記第1のd軸の電流設定値にステップ的に変化させると共に、前記q軸の電流指令値を、初期の第1のq軸電流値から、前記第1のq軸の電流設定値にステップ的に変化させ、前記第2の設定タイミングで、前記d軸の電流指令値を、初期の第2のd軸電流値から、前記第2のd軸の電流設定値にステップ的に変化させると共に、前記q軸の電流指令値を、初期の第2のq軸電流値から、前記第2のq軸の電流設定値にステップ的に変化させ、
前記第1の電流設定値の設定による電流ベクトルの大きさのステップ変化量をΔI1とし、前記第2の電流設定値の設定による電流ベクトルの大きさのステップ変化量をΔI2とし、前記第1の電流設定値の電流ベクトルに対する前記第2の電流設定値の電流ベクトルの位相をαとし、前記第1の界磁電流変化量をΔIf1とし、前記第2の界磁電流変化量をΔIf2とし、角度オフセット更新量をΔθofsとし、
Δθofs=tan-1{(ΔI1×ΔIf2/ΔI2/ΔIf1)/sinα-cosα}
の算出式により前記角度オフセット更新量を算出し、現在の前記角度オフセットの設定値に前記角度オフセット更新量を加算して、前記角度オフセットを更新し、
前記センサ角度に前記角度オフセットを加算して、前記制御用の角度を演算する付記1に記載の交流回転機の制御装置。
【0142】
(付記7)
正の前記界磁電流を流したときに生じる磁束の方向をd軸とし、前記d軸に対して電気角で位相がπ/2異なる方向をq軸とし、
前記電機子電流制御部は、前記制御用の角度に基づいて前記d軸及び前記q軸を設定し、前記電機子電流指令値として、d軸の電流指令値及びq軸の電流指令値を設定し、
前記角度オフセット設定部は、前記第1の電流設定値として固定の第1のd軸の電流設定値及び固定の第1のq軸の電流設定値を設定し、前記第2の電流設定値として固定の第2のd軸の電流設定値及び固定の第2のq軸の電流設定値を設定し、
前記第1の設定タイミングで、前記d軸の電流指令値を、初期の第1のd軸電流値から、前記第1のd軸の電流設定値にステップ的に変化させると共に、前記q軸の電流指令値を、初期の第1のq軸電流値から、前記第1のq軸の電流設定値にステップ的に変化させ、前記第2の設定タイミングで、前記d軸の電流指令値を、初期の第2のd軸電流値から、前記第2のd軸の電流設定値にステップ的に変化させると共に、前記q軸の電流指令値を、初期の第2のq軸電流値から、前記第2のq軸の電流設定値にステップ的に変化させ、
前記第1の電流設定値に変化させてから前記判定期間の経過後の前記d軸の電流検出値の変化量及び前記q軸の電流検出値の変化量による電流ベクトルの大きさの変化量をΔI1_detとし、前記第2の電流設定値に変化させてから前記判定期間の経過後の前記d軸の電流検出値の変化量及び前記q軸の電流検出値の変化量による電流ベクトルの大きさの変化量をΔI2_detとし、前記第1の電流設定値の電流ベクトルに対する前記第2の電流設定値の電流ベクトルの位相をαとし、前記第1の界磁電流変化量をΔIf1とし、前記第2の界磁電流変化量をΔIf2とし、角度オフセット更新量をΔθofsとし、
Δθofs=tan-1{(ΔI1_det×ΔIf2/ΔI2_det/ΔIf1)/sinα-cosα}
の算出式により前記角度オフセット更新量を算出し、現在の前記角度オフセットの設定値に前記角度オフセット更新量を加算して、前記角度オフセットを更新し、
前記センサ角度に前記角度オフセットを加算して、前記制御用の角度を演算する付記1に記載の交流回転機の制御装置。
【0143】
(付記8)
前記角度オフセット設定部は、前記判定期間を、前記電機子電流指令値から前記電機子電流の検出値までの伝達関数のカットオフ周波数の逆数である時定数よりも短い期間に設定する付記1から7のいずれか一項に記載の交流回転機の制御装置。
【0144】
(付記9)
前記角度オフセット設定部は、前記第1の電流設定値として固定の傾きで変化する値を用い、前記第2の電流設定値として固定の傾きで変化する値を用いる付記1に記載の交流回転機の制御装置。
【0145】
(付記10)
前記第1の電流設定値の位相及び前記第2の電流設定値の位相は、電気角でπ/2異なる付記9に記載の交流回転機の制御装置。
【0146】
(付記11)
正の前記界磁電流を流したときに生じる磁束の方向をd軸とし、前記d軸に対して電気角で位相がπ/2異なる方向をq軸とし、
前記電機子電流制御部は、前記制御用の角度に基づいて前記d軸及び前記q軸を設定し、前記電機子電流指令値として、d軸の電流指令値及びq軸の電流指令値を設定し、
前記角度オフセット設定部は、前記第1の設定タイミングで、前記d軸の電流指令値を、初期の第1のd軸電流値から、前記第1の電流設定値としての固定の第1のd軸の電流傾きで変化する値に変化させ、前記q軸の電流指令値を0のまま変化させず、前記第2の設定タイミングで、前記q軸の電流指令値を、初期の第2のq軸電流値から、前記第2の電流設定値としての固定の第2のq軸の電流傾きで変化する値に変化させ、前記d軸の電流指令値を0のまま変化させず、
前記第1のd軸の電流傾きをRId1とし、前記第2のq軸の電流傾きをRIq2とし、前記第1の界磁電流変化量をΔIf1とし、前記第2の界磁電流変化量をΔIf2とし、角度オフセット更新量をΔθofsとし、
Δθofs=tan-1(RId1×ΔIf2/RIq2/ΔIf1)
の算出式により前記角度オフセット更新量を算出し、現在の前記角度オフセットの設定値に前記角度オフセット更新量を加算して、前記角度オフセットを更新し、
前記センサ角度に前記角度オフセットを加算して、前記制御用の角度を演算する付記1に記載の交流回転機の制御装置。
【0147】
(付記12)
正の前記界磁電流を流したときに生じる磁束の方向をd軸とし、前記d軸に対して電気角で位相がπ/2異なる方向をq軸とし、
前記電機子電流制御部は、前記制御用の角度に基づいて前記d軸及び前記q軸を設定し、前記電機子電流指令値として、d軸の電流指令値及びq軸の電流指令値を設定し、
前記角度オフセット設定部は、前記第1の設定タイミングで、前記d軸の電流指令値を、初期の第1のd軸電流値から、前記第1の電流設定値としての固定の第1のd軸の電流傾きで変化する値に変化させ、前記q軸の電流指令値を0のまま変化させず、前記第2の設定タイミングで、前記q軸の電流指令値を、初期の第2のq軸電流値から、前記第2の電流設定値としての固定の第2のq軸の電流傾きで変化する値に変化させ、前記d軸の電流指令値を0のまま変化させず、
前記第1のd軸の電流傾きで変化させ始めてから前記判定期間の経過後の前記d軸の電流検出値の変化量をΔId_det1とし、前記第2のq軸の電流傾きで変化させ始めてから前記判定期間の経過後の前記q軸の電流検出値の変化量をΔIq_det2とし、前記第1の界磁電流変化量をΔIf1とし、前記第2の界磁電流変化量をΔIf2とし、角度オフセット更新量をΔθofsとし、
Δθofs=tan-1(ΔId_det1×ΔIf2/ΔIq_det2/ΔIf1)
の算出式により前記角度オフセット更新量を算出し、現在の前記角度オフセットの設定値に前記角度オフセット更新量を加算して、前記角度オフセットを更新し、
前記センサ角度に前記角度オフセットを加算して、前記制御用の角度を演算する付記1に記載の交流回転機の制御装置。
【0148】
(付記13)
正の前記界磁電流を流したときに生じる磁束の方向をd軸とし、前記d軸に対して電気角で位相がπ/2異なる方向をq軸とし、
前記電機子電流制御部は、前記制御用の角度に基づいて前記d軸及び前記q軸を設定し、前記電機子電流指令値として、d軸の電流指令値及びq軸の電流指令値を設定し、
前記角度オフセット設定部は、前記第1の電流設定値として第1のd軸の電流設定値及び第1のq軸の電流設定値を設定し、前記第2の電流設定値として第2のd軸の電流設定値及び第2のq軸の電流設定値を設定し、
前記第1の設定タイミングで、前記d軸の電流指令値及び前記q軸の電流指令値を、電流ベクトルの大きさが初期の第1の電流ベクトルの大きさから固定の第1の電流傾きで変化する前記第1のd軸の電流設定値及び前記第1のq軸の電流設定値に設定し、
前記第2の設定タイミングで、前記d軸の電流指令値及び前記q軸の電流指令値を、電流ベクトルの大きさが初期の第2の電流ベクトルの大きさから固定の第2の電流傾きで変化する前記第2のd軸の電流設定値及び前記第2のq軸の電流設定値に設定し、
前記第1の電流傾きをRI1とし、前記第2の電流傾きをRI2とし、前記第1の電流設定値の電流ベクトルに対する前記第2の電流設定値の電流ベクトルの位相をαとし、前記第1の界磁電流変化量をΔIf1とし、前記第2の界磁電流変化量をΔIf2とし、角度オフセット更新量をΔθofsとし、
Δθofs=tan-1{(RI1×ΔIf2/RI2/ΔIf1)/sinα-cosα}
の算出式により前記角度オフセット更新量を算出し、現在の前記角度オフセットの設定値に前記角度オフセット更新量を加算して、前記角度オフセットを更新し、
前記センサ角度に前記角度オフセットを加算して、制御用の角度を演算する付記1に記載の交流回転機の制御装置。
【0149】
(付記14)
正の前記界磁電流を流したときに生じる磁束の方向をd軸とし、前記d軸に対して電気角で位相がπ/2異なる方向をq軸とし、
前記電機子電流制御部は、前記制御用の角度に基づいて前記d軸及び前記q軸を設定し、前記電機子電流指令値として、d軸の電流指令値及びq軸の電流指令値を設定し、
前記角度オフセット設定部は、前記第1の電流設定値として第1のd軸の電流設定値及び第1のq軸の電流設定値を設定し、前記第2の電流設定値として第2のd軸の電流設定値及び第2のq軸の電流設定値を設定し、
前記第1の設定タイミングで、前記d軸の電流指令値及び前記q軸の電流指令値を、電流ベクトルの大きさが初期の第1の電流ベクトルの大きさから固定の第1の電流傾きで変化する前記第1のd軸の電流設定値及び前記第1のq軸の電流設定値に設定し、
前記第2の設定タイミングで、前記d軸の電流指令値及び前記q軸の電流指令値を、電流ベクトルの大きさが初期の第2の電流ベクトルの大きさから固定の第2の電流傾きで変化する前記第2のd軸の電流設定値及び前記第2のq軸の電流設定値に設定し、
前記第1の電流傾きで変化させ始めてから前記判定期間の経過後の前記d軸の電流検出値の変化量及び前記q軸の電流検出値の変化量による電流ベクトルの大きさの変化量をΔI1_detとし、前記第2の電流傾きで変化させ始めてから前記判定期間の経過後の前記d軸の電流検出値の変化量及び前記q軸の電流検出値の変化量による電流ベクトルの大きさの変化量をΔI2_detとし、前記第1の電流設定値の電流ベクトルに対する前記第2の電流設定値の電流ベクトルの位相をαとし、前記第1の界磁電流変化量をΔIf1とし、前記第2の界磁電流変化量をΔIf2とし、角度オフセット更新量をΔθofsとし、
Δθofs=tan-1{(ΔI1_det×ΔIf2/ΔI2_det/ΔIf1)/sinα-cosα}
の算出式により前記角度オフセット更新量を算出し、現在の前記角度オフセットの設定値に前記角度オフセット更新量を加算して、前記角度オフセットを更新し、
前記センサ角度に前記角度オフセットを加算して、制御用の角度を演算する付記1に記載の交流回転機の制御装置。
【0150】
(付記15)
前記角度オフセット設定部は、前記電機子電圧指令値の変調率が1未満である場合に、前記電機子電流指令値を前記第1の電流設定値及び前記第2の電流設定値に設定し、前記角度オフセットを設定する付記1から14のいずれか一項に記載の交流回転機の制御装置。
【0151】
(付記16)
前記角度オフセット設定部は、前記交流回転機が回転停止状態である場合に、前記電機子電流指令値を前記第1の電流設定値及び前記第2の電流設定値に設定し、前記角度オフセットを設定する付記1から15のいずれか一項に記載の交流回転機の制御装置。
【0152】
(付記17)
前記初期の第1のd軸電流値及び前記初期の第2のq軸電流値は、0に設定される付記4、5、11、及び12のいずれか一項に記載の交流回転機の制御装置。
【0153】
(付記18)
前記初期の第1のd軸電流値及び前記初期の第1のq軸電流値、及び前記初期の第2のd軸電流値及び前記初期の第2のq軸電流値は、0に設定される付記6又は7に記載の交流回転機の制御装置。
【0154】
(付記19)
前記初期の第1の電流ベクトルの大きさ及び前記初期の第2の電流ベクトルの大きさは、0に設定される付記13又は14に記載の交流回転機の制御装置。
【0155】
(付記20)
付記1から19のいずれか一項に記載の交流回転機の制御装置と、
駆動力が車両の車輪に伝達される発電電動機である前記交流回転機と、を備えた車両用発電電動機装置。
【0156】
本願は、様々な例示的な実施の形態及び実施例が記載されているが、1つ、または複数の実施の形態に記載された様々な特徴、態様、及び機能は特定の実施の形態の適用に限られるのではなく、単独で、または様々な組み合わせで実施の形態に適用可能である。従って、例示されていない無数の変形例が、本願明細書に開示される技術の範囲内において想定される。例えば、少なくとも1つの構成要素を変形する場合、追加する場合または省略する場合、さらには、少なくとも1つの構成要素を抽出し、他の実施の形態の構成要素と組み合わせる場合が含まれるものとする。
【符号の説明】
【0157】
1 交流回転機、4 界磁巻線、12 電機子巻線、15 回転センサ、30 交流回転機の制御装置、31 界磁電流検出部、32 電機子電流検出部、33 角度検出部、34 角度オフセット設定部、35 角度演算部、36 電機子電流制御部、37 電機子電圧印加部、38 界磁巻線電圧印加部、ΔId1 第1のd軸電流のステップ変化量、ΔId_det1 判定期間の経過後のd軸の電流検出値の変化量、Ido d軸の電流指令値、If_det 界磁電流の検出値、ΔIq2 第2のq軸電流のステップ変化量、ΔIq_det2 判定期間の経過後のq軸の電流検出値の変化量、Iqo q軸の電流指令値、Tc 時定数、Tj 判定期間、ΔIf1 第1の界磁電流変化量、ΔIf2 第2の界磁電流変化量、θcnt 制御用の角度、θofs 角度オフセット、θs センサ角度、ωc カットオフ周波数