(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023183496
(43)【公開日】2023-12-28
(54)【発明の名称】ガス測定装置
(51)【国際特許分類】
G01N 27/16 20060101AFI20231221BHJP
G01N 27/12 20060101ALI20231221BHJP
【FI】
G01N27/16 C
G01N27/12 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022097041
(22)【出願日】2022-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】000250421
【氏名又は名称】理研計器株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100153497
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 信男
(72)【発明者】
【氏名】馬場 史朗
(72)【発明者】
【氏名】小川 高史
(72)【発明者】
【氏名】景本 宗良
【テーマコード(参考)】
2G046
2G060
【Fターム(参考)】
2G046BA07
2G046DC01
2G060AA01
2G060AE19
2G060AF07
2G060BA03
2G060BB02
2G060BD01
2G060HB06
2G060KA01
(57)【要約】
【課題】高温環境下で使用される場合であっても、ガス測定を高い精度で連続的に実施可能なガス測定装置を提供すること。
【解決手段】ガス検知素子及び補償素子を備えたガスセンサと、ガス検知素子及び補償素子に対する通電を制御する通電制御部とを備えたガス測定装置であって、通電制御部は、検知対象ガスを検知可能な作動温度に加熱する第1通電条件でガス検知素子を駆動させると共に、第1通電条件と作動温度より低い温度に加熱する第2通電条件とを交互に切り替えるようにして補償素子を駆動させる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
検知対象ガスが接触することで抵抗値が変化するガス検知素子及び前記検知対象ガスに不感応な補償素子を備えたガスセンサと、前記ガス検知素子及び前記補償素子に対する通電を制御する通電制御部とを備えたガス測定装置であって、
前記通電制御部は、前記検知対象ガスを検知可能な作動温度に加熱する第1通電条件で前記ガス検知素子を駆動させると共に、前記第1通電条件と前記作動温度より低い温度に加熱する第2通電条件とを交互に切り替えるようにして前記補償素子を駆動させることを特徴とするガス測定装置。
【請求項2】
前記ガス検知素子の抵抗値変化に応じたガス検知出力を補正する出力処理部をさらに備え、
前記出力処理部は、前記ガス検知素子によるガス検知出力を、前記補償素子を前記第1通電条件で駆動させたときの該補償素子の抵抗値変化に応じた1次補正用出力に基づいて補正することでセンサ出力を取得し、前記センサ出力のスパン出力を、前記補償素子を前記第2通電条件で駆動させたときの該補償素子の抵抗値変化に応じた2次補正用出力に基づく補正量で補正することを特徴とする請求項1に記載のガス測定装置。
【請求項3】
前記出力処理部は、前記センサ出力の単位温度当たりの出力変化量で示される前記ガス検知素子及び前記補償素子に固有の温度補正係数と、前記2次補正用出力の単位温度当たりの出力変化量で示される前記補償素子に固有の温度換算定数と、前記2次補正用出力のスパン出力とから前記補正量を算出することを特徴とする請求項2に記載のガス測定装置。
【請求項4】
前記出力処理部は、予め取得しておいたゼロ校正出力を前記2次補正用出力に基づく補正量で補正することで補正ゼロ校正出力を算出し、前記センサ出力のスパン出力を前記センサ出力から前記補正ゼロ校正出力を減算することで算出することを特徴とする請求項2に記載のガス測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば乾燥設備内や排気ダクト内などの高温環境下でのガス濃度測定に好適なガス測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、乾燥設備内や排気ダクト内のガス濃度を測定するためのガス測定装置として、いわゆる直挿タイプのガス測定装置が知られている(例えば特許文献1参照。)。
特許文献1に記載のガス測定装置は、炉内に挿入され先端部が炉内に配置されると共に基端部が炉外に配置される筒状部と、筒状部にフランジ状に突出して設けられた、炉壁に対する取付手段と、筒状部の先端に設けられ所定のガスを検知するガス検知部と、筒状部の基端部に接続されガス検知部の検出結果に基づき所定の状態を表示する表示部と、筒状部の内部に配置されガス検知部と表示部とを接続する伝達手段としてのケーブルとを備えている。このガス測定装置におけるガス検知部は、接触燃焼式ガスセンサを備えており、炉内の可燃性ガスが検知可能となっている。
【0003】
接触燃焼式ガスセンサは、通常、ガス検知素子及び補償素子と、2個の抵抗素子とによりブリッジ回路が構成され、周囲温度の変化による影響を補償している。しかしながら、接触燃焼式ガスセンサが高温環境下で使用される場合には、十分な温度補正を行うことが困難であり、温度センサを別個に設けて温度補償を行なうようにしている(例えば特許文献2参照。)。
【0004】
また、接触燃焼式ガスセンサのセンサ出力の温度補償を行う方法として、ガス検知素子に、ガスの濃度を検出するための一定の高レベルと、ガスの濃度を検出しない一定の低レベルとにパルス的に交互にレベル変化する電圧を印加し、低レベル時の電圧が供給されている間に検出された電流値から温度補償のための温度情報を取得する方法が知られている(例えば特許文献3参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018-163127号公報
【特許文献2】特開平11-183422号公報
【特許文献3】特許第4528628号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
而して、直挿タイプのガス測定装置においては、ガス検知部近傍の温度を測定する必要があり、例えば、サーミスタ付きの基板を測定対象空間内の位置にされる筒状部内に搭載する、あるいは、測定対象空間の外部に配置される表示部から熱電対を伸ばして配置する必要がある。
しかしながら、前者の場合には、乾燥設備内や排気ダクト内は、例えば約150℃~約220℃程度 の温度に設定されていることから、温度センサが高温の熱で加熱されて破損するおそれがある。一方、後者の場合には、熱電対自体のコストが高く、制御する回路が必要になるという問題がある。
さらにまた、特許文献3に記載の出力補正では、ガス検知素子に対する印加電圧を低レベルに切り替えることで温度情報を取得することから、ガス濃度の連続測定を行うことができず、しかも補償素子を有さないことから、センサ出力に対する湿度の影響を排除することができない、という問題がある。また、高温環境下においては、ガス測定を精度よく行うことが困難であることが判明した。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みて完成されたものであって、高温環境下で使用される場合であっても、ガス測定を高い精度で連続的に実施可能なガス測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のガス測定装置は、検知対象ガスが接触することで抵抗値が変化するガス検知素子及び前記検知対象ガスに不感応な補償素子を備えたガスセンサと、前記ガス検知素子及び前記補償素子に対する通電を制御する通電制御部とを備えたガス測定装置であって、前記通電制御部は、前記検知対象ガスを検知可能な作動温度に加熱する第1通電条件で前記ガス検知素子を駆動させると共に、前記第1通電条件と前記作動温度より低い温度に加熱する第2通電条件とを交互に切り替えるようにして前記補償素子を駆動させることにより、上記課題を解決するものである。
【発明の効果】
【0009】
本請求項1に係る発明によれば、基本的には、ガス検知素子に対しては第1通電条件で連続通電することでガス検知素子によるガス検知出力を連続的に取得することができ、環境雰囲気の連続的なモニタリングが可能となる。
しかも、補償素子に対しては第1通電条件と第2通電条件とを交互に切り替えて通電することで、第1通電条件での駆動時の補償素子による検知出力としての1次補正用出力は、環境雰囲気の温度及び湿度に依存した補償素子の抵抗値変化を示すものとなり、第2通電条件での駆動時の補償素子による検知出力としての2次補正用出力は、環境雰囲気の温度のみに依存する補償素子抵抗値変化を示すものとなる。このため、温度センサを用いることなく、ガス検知素子によるガス検知出力の温度及び湿度による誤差を補償するための1次補正用出力と、ガス検知素子と補償素子との温特性性の差に起因する誤差を補正するための2次補正用出力を取得することが可能である。従って、ガス検知素子によるガス検知出力を1次補正用出力及び2次補正用出力に基づいて補正することで、高温環境下で使用される場合であっても、信頼性の高いガス測定が可能となる。
【0010】
本請求項2に係る発明によれば、ガス検知素子によるガス検知出力を第1通電条件での駆動時の補償素子による検知出力である1次補正用出力に基づいて補正することで、ガス検知素子による検知出力の温度及び湿度による誤差を補償することが可能であり、しかもガス検知素子によるガス検知出力を第2通電条件での駆動時の補償素子による検知出力である2次補正用出力に応じた補正量に基づいて補正することで、ガス検知素子と補償素子との温特性性の差に起因する誤差を補正することが可能となる。このため、ガス測定を高い精度で行うことが可能となる。
【0011】
本請求項3に係る発明によれば、補正量の算出に際して、ガス検知素子及び補償素子に固有の温度補正係数、並びに、補償素子に固有の温度換算定数を用いることで、ガス検知素子及び補償素子の個体差による温度特性のバラツキに拘わらず、ガス検知素子によるガス検知出力の補正を適切に行うことが可能となる。
【0012】
本請求項4に係る発明によれば、ガス検知部のゼロガス調整時から測定対象空間の温度が変化することによるゼロ校正出力の変動(ドリフト)を補償することができ、ガス測定の精度をより一層高くすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明のガス測定装置の一例における構成を概略的に示す外観図である。
【
図2】本発明のガス測定装置における回路構成を概略的に示すブロック図である。
【
図3】ガスセンサの駆動方式を示す図であって、(a)ガス検知素子に対する印加電圧を示すタイミングチャート、(b)補償素子に対する印加電圧を示すタイミングチャートである。
【
図4】実験例1に係るガス測定装置についての、試験用ガスのガス濃度値と、取得された出力割合との関係を示す図である。
【
図5】比較実験例1に係るガス測定装置についての、試験用ガスのガス濃度値と、取得された出力割合との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態に係るガス測定装置について、図面に基づいて説明する。
図1は、本発明のガス測定装置の一例における構成の概略を示す外観図である。
このガス測定装置100は、先端部にガス検知部120を有する円筒型の長尺なプローブ115と、このプローブ115の基端部に設けられ表示部及び操作部を有する本体部110とにより構成されている。
【0015】
プローブ115には、検知対象空間Sを区画する隔壁Wに対する取り付け用部材116が設けられており、プローブ115の先端側部分を検知対象空間Sを区画する隔壁Wを介して挿入してガス検知部120を検知対象空間S内に位置させた状態において隔壁Wに対して例えば固定用ネジ117によって固定可能となっている。取り付け用部材116は、プローブ115の外周面に例えば溶接等により固定されて設けられていても、プローブ115に対する固定位置がプローブ115の軸方向に調整可能に設けられていてもよい。
【0016】
ガス検知部120は、
図2に示すように、検知対象ガスが接触することで抵抗値が変化するガス検知素子122及び検知対象ガスに不感応な補償素子123を備えたガスセンサ121を備える。
ガスセンサ121は、プローブ115の内部に配設されたセンサケーブル(図示せず)を介して本体部110に接続されている。
本実施形態においては、ガスセンサ121として、例えば接触燃焼式ガスセンサが用いられているが、ガスセンサ121としては、例えば熱線型半導体式ガスセンサ、半導体式ガスセンサ、ニューセラミック式ガスセンサ、熱伝導式ガスセンサなどを用いることができる。
【0017】
補償素子123は、通電によりジュール熱を発生する白金などのコイル状ヒータの表面に検知対象ガスに不感応な耐熱性材料、例えばセラミックスの層が形成されて構成されており、またガス検知素子122は、補償素子123との温度バランスをとりやすくするため、補償素子123の表面に検知対象ガスの酸化を促進する触媒層が形成されて構成されている。
【0018】
本体部110は、鋳物よりなる耐圧防爆容器を備え、この耐圧防爆容器内に、各部の動作制御を行うと共にガス検知素子122及び補償素子123の各々の検知出力に基づいてガス濃度を算出するメイン制御基板111及びその他の電子部品が配設されている。
【0019】
メイン制御基板111は、ガスセンサ駆動制御部と、出力処理部と、記憶部とを備える。
図2に示すように、ガスセンサ駆動制御部130は、ガス検知素子駆動回路部131と、補償素子駆動回路部136と、通電制御部140とを備える。
【0020】
ガス検知素子駆動回路部131は、ガス検知素子122への通電を行うガス検知素子用電源132と、ガス検知素子122に流れる電流を測定する電流計133とを備える。
【0021】
補償素子駆動回路部136は、補償素子123への通電を行う補償素子用電源137と、補償素子123に流れる電流を測定する電流計138とを備える。
【0022】
本実施形態における通電制御部140は、ガス検知素子122及び補償素子123の各々を例えば定電圧制御するように構成されているが、ガス検知素子122及び補償素子123の各々を定電流制御するように構成されていてもよい。定電流制御の場合には、ガス検知素子駆動回路部131及び補償素子駆動回路部136の各々において電流計133,138に代えて電圧計が用いられる。
【0023】
通電制御部140は、
図3(a)に示すように、ガス検知素子122を検知対象ガスを検知可能な作動温度に加熱する第1通電条件で駆動させる。ここに、作動温度は、検知対象ガスの種類に応じて例えば200~500℃の温度範囲内で設定される。
また、通電制御部140は、
図3(b)に示すように、補償素子123をガス検知素子122と同一の通電条件である第1通電条件と、補償素子123を作動温度より低い温度に加熱する第2通電条件とを交互に切り替えるようにして駆動させる。
ガス検知素子122及び補償素子123の各々を定電圧制御するときの、第1通電条件でのガス検知素子122及び補償素子123の各々に対する印加電圧をVHとすると、第2通電条件での補償素子123に対する印加電圧VLは、第1通電条件での印加電圧VHに対して例えば1~50%の大きさに設定される。
補償素子123を第2通電条件で駆動させる周期T1は、例えば1~600秒間であり、補償素子123を第2通電条件で駆動させる時間T2は、例えば1~600秒間である。
【0024】
出力処理部150は、ガス検知素子122により取得されるガス検知出力Id(x)を、補償素子123により取得される検知出力に基づいて補正して検知対象ガスの濃度を算出する機能を有する。ガス濃度算出処理については後述する。
【0025】
記憶部160には、ガス濃度算出処理に用いられるデータなどのガス測定装置100に固有の情報が記録されている。
具体的には、検知対象ガスについてのガスセンサ121のセンサ出力の単位温度当たりの出力変化量により示される温度補正係数K、ゼロガス(例えばエアー)によるセンサ出力であるゼロ校正出力Ic(a)、補償素子123を第2通電条件で駆動させたときのゼロガス(エアー)についての補償素子123の検知出力IcL(a)、スパンガスによるセンサ出力(スパン校正出力)Ic(s)、補償素子を第2通電条件で駆動させたときの検知対象ガスについての検知出力IcL(x)の単位温度当たりの出力変化量により示される温度換算定数A、センサ出力とガス濃度との関係を示す検量線データなどを挙げることができる。また、複数種の検知対象ガスの各々について設定された複数のデータを記録させておいてもよい。
これらのデータは、ガス検知素子122及び補償素子123に固有のデータであって、これにより、ガス検知素子122及び補償素子123の個体差によるバラツキを補償可能となっている。
【0026】
以下、上記ガス測定装置100の動作について説明する。
ガス測定においては、先ず、ガス検知素子122及び補償素子123の各々を第1通電条件で駆動することで、ガス検知素子122によるガス検知出力Id(x)を取得すると共に補償素子123による検知出力を1次補正用出力IcH(x)として取得する。そして、ガス検知素子122に対しては、第1通電条件で駆動させた状態を維持したまま、所定時間経過した後、補償素子123を第1通電条件から第2通電条件に切り替えて駆動することで、ガス検知素子122によるガス検知出力Id(x)を連続的に取得すると共に補償素子123による検知出力を2次補正用出力IcL(x)として取得する。
【0027】
このように、補償素子123に対しては第1通電条件と第2通電条件とを交互に切り替えて通電することで、補償素子123を第1通電条件で駆動させた時の補償素子123による検知出力は、環境雰囲気の温度及び湿度に依存した補償素子123の抵抗値変化を示すものとなり、補償素子123を第2通電条件で駆動させた時の補償素子123による検知出力は、環境雰囲気の温度のみに依存する補償素子123の抵抗値変化を示すものとなる。このため、温度センサを用いることなく、ガス検知素子122によるガス検知出力Id(x)の、温度及び湿度による誤差を補償するための1次補正用出力IcH(x)と、ガス検知素子122と補償素子123との温特性性の差に起因する誤差を補正するための2次補正用出力IcL(x)を取得することが可能となる。
【0028】
出力処理部150によるガス濃度算出処理においては、先ず、ガス検知素子122によるガス検知出力Id(x)を補償素子123による1次補正用出力IcH(x)に基づいて補正(温湿度補正)し、センサ出力Is(x)を取得する。具体的には、補償素子123による1次補正用出力IcH(x)からガス検知素子122によるガス検知出力Id(x)を減算することでセンサ出力Is(x)を取得する。
【0029】
また、予め取得しておいたゼロ校正出力Ic(a)を補償素子123による2次補正用出力IcL(x)に基づく補正量ΔItで補正することで、補正ゼロ校正出力Ic´(a)を取得する。具体的には、ゼロ校正出力Ic(a)から補正量ΔItを減算することで補正ゼロ校正出力Ic´(a)を取得する。これにより、炉内温度が変動することによるエアー出力変動(ドリフト)の不具合を補償することが可能である。
補正量ΔItは、センサ出力Is(x)の単位温度当たりの出力変化量で示されるガス検知素子122及び補償素子123に固有の温度補正係数Kと、2次補正用出力IcL(x)の単位温度当たりの出力変化量で示される補償素子123に固有の温度換算定数Aと、2次補正用出力IcL(x)のスパン出力IcL(x)span(=IcL(x)-IcL(a))とから下記式1に基づいて算出する。
式1:ΔIt=K・(IcL(x)span/A)
=K・{(IcL(x)-IcL(a))/A}
そして、センサ出力Is(x)から補正ゼロ校正出力Ic´(a)を減算したセンサ出力Is(x)のスパン出力Is(x)spanを算出する。
【0030】
次いで、センサ出力Is(x)のスパン出力Is(x)spanを、補償素子123による2次補正用出力IcL(x)に基づく補正量ΔItで補正することで、ガス検知素子122と補償素子123との温特性性の差に起因する誤差が補償された補正センサ出力Is´(x)spanを取得する。具体的には、センサ出力Is(x)のスパン出力Is(x)spanから補正量ΔItを減算することで補正センサ出力Is´(x)spanを取得する。
補正量ΔItは、温度補正係数Kと、温度換算定数Aと、2次補正用出力IcL(x)のスパン出力IcL(x)spanとから上記式1に基づいて算出する。
【0031】
このようにして取得した補正センサ出力Is´(x)spanに基づいて検量線データからガス濃度指示値を取得する。
【0032】
以上のように、上記のガス測定装置100においては、ガス検知素子122に対しては第1通電条件で連続通電することでガス検知素子122によるガス検知出力を連続的に取得することができ、環境雰囲気の連続的なモニタリングが可能となる。しかも、補償素子123に対しては第1通電条件と第2通電条件とを交互に切り替えて通電することで、温度センサを用いることなく、ガス検知素子122によるガス検知出力Id(x)の、温度及び湿度による誤差を補償するための1次補正用出力IcH(x)と、ガス検知素子122と補償素子123との温特性性の差に起因する誤差を補正するための2次補正用出力IcL(x)を取得することができる。
従って、ガス検知素子122によるガス検知出力Id(x)を1次補正用出力IcH(x)に基づいて補正することでガス検知素子122によるガス検知出力Id(x)の温度及び湿度による誤差を補償することが可能となると共に、さらにガス検知出力Id(x)を2次補正用出力IcL(x)に基づいて補正することで、ガス検知素子122と補償素子123との温特性性の差に起因する誤差を補正することが可能となる。このため、高温環境下で使用される場合であっても、信頼性の高いガス測定が可能となる。また、ガス検知素子122及び補償素子123に固有の温度補正係数、並びに、補償素子123に固有の温度換算定数を用いて補正量を算出するため、ガス検知素子122及び補償素子123の個体差による温度特性のバラツキに拘わらず、ガス検知素子122によるガス検知出力Id(x)の補正を適切に行うことが可能となる。
【0033】
以上、本発明のガス検知器の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されず、種々の変更を加えることができる。
例えば、上記の実施形態においては、ガス検知部を有するプローブの先端側部分が検知対象空間を区画する隔壁を介して挿入されてガス検知部が検知対象空間内に位置されるよう隔壁に固定されて用いられる構成について説明したが、ガス測定装置は、このような構成のものに限定されるものではない。
【0034】
<実験例1>
図2に示す構成を参照してガス測定装置を作製し、ガス濃度が互いに異なる複数種のN-メチル-2-ピロリドンを試験用ガスとし、各々の試験用ガスの温度及び湿度を適宜変更しながらガス濃度測定を行った。
ガス検知素子は第1通電条件で定電圧制御により連続駆動させ、補償素子は第1通電条件と第2通電条件とを交互に切り替えるようにして定電圧制御により駆動させた。第1通電条件は、ガス検知素子及び補償素子の温度を200℃以上(常温環境下)となるよう加熱する条件とし、第2通電条件は、補償素子の温度を100℃以下(常温環境下)となるよう加熱する条件とした。
試験用ガスの温度は30℃~250℃の温度範囲内で調整し、試験用ガスの湿度は0~95%RHの範囲内で調整した。
ガス検知素子によるガス検知出力に対し、補償素子を第1通電条件で駆動させたときの1次補正用出力に基づく温湿度補正処理を行うと共に、補償素子を第2通電条件で駆動させたときの2次補正用出力に基づく素子温度特性補正処理を行い、試験用ガスのガス濃度値と取得された補正センサ出力値との関係を調べた。結果を
図4に示す。
図4における縦軸は、補正センサ出力値Is´(x)spanの、スパン校正値(フルスケール値)Ic(s)に対する出力割合〔%〕である。
【0035】
<比較実験例1>
上記実験例1において、ガス検知素子及び補償素子を第1通電条件で連続して駆動させ、ガス検知素子によるガス検知出力を補償素子による検知出力に基づいて補正する処理のみを行ったことの他は、実験例1と同様にしてガス濃度測定を行い、試験用ガスのガス濃度値と補正されたセンサ出力値との関係を調べた。結果を
図5に示す。
【0036】
以上の結果から明らかなように、実験例1に係るガス濃度測定装置によれば、試験用ガスの温度及び湿度に拘わらず、試験用ガスのガス濃度値に対して一定の出力割合を示すことが確認された。
これに対し、比較実験例1に係るガス濃度測定装置においては、試験用ガスのガス濃度値が高くなるに従って、試験用ガスの温度及び湿度の影響により出力割合のバラツキの程度が大きくなることが確認された。
【0037】
また、試験用ガスとして、ジメチルアセトアミドや、ジメチルホルムアミドを用いた場合であっても、同様の結果が得られることが確認され、従って、本発明に係るガス測定装置は、例えば高沸点溶媒ガスの検知に極めて有用であることが確認された。
【符号の説明】
【0038】
100 ガス測定装置
110 本体部
111 メイン制御基板
115 プローブ
116 取り付け用部材
117 固定用ネジ
120 ガス検知部
121 ガスセンサ
122 ガス検知素子
123 補償素子
130 ガスセンサ駆動制御部
131 ガス検知素子駆動回路部
132 ガス検知素子用電源
133 電流計
136 補償素子駆動回路部
137 補償素子用電源
138 電流計
140 通電制御部
150 出力処理部
160 記憶部
S 検知対象空間
W 隔壁