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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023183497
(43)【公開日】2023-12-28
(54)【発明の名称】ポンプ装置
(51)【国際特許分類】
   F04B 43/12 20060101AFI20231221BHJP
   F04B 43/10 20060101ALI20231221BHJP
【FI】
F04B43/12 T
F04B43/10
F04B43/12 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022097042
(22)【出願日】2022-06-16
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (刊行物1) 第22回計測自動制御学会システムインテグレーション部門講演会の講演論文集(令和3年12月16日発行)1C5-05pp.379-381にて公開 (刊行物2) 2022 IEEE/SICE International Symposium on System Integration(SII),2022.pp.65-70.(2022年 IEEE/SICE システムインテグレーション国際シンポジウム)の講演論文集(令和4年1月9日発行)pp.65-70.にて公開
(71)【出願人】
【識別番号】599011687
【氏名又は名称】学校法人 中央大学
(74)【代理人】
【識別番号】100141243
【弁理士】
【氏名又は名称】宮園 靖夫
(72)【発明者】
【氏名】中村 太郎
(72)【発明者】
【氏名】奥井 学
(72)【発明者】
【氏名】西濱 里英
(72)【発明者】
【氏名】松井 大育
(72)【発明者】
【氏名】押野 紗菜
(72)【発明者】
【氏名】寺山 伊織
【テーマコード(参考)】
3H077
【Fターム(参考)】
3H077AA00
3H077BB10
3H077CC03
3H077CC08
3H077CC10
3H077CC18
3H077DD14
3H077EE01
3H077EE15
3H077FF07
3H077FF34
3H077FF45
(57)【要約】      (修正有)
【課題】ポンプユニットの動作を、生体の腸管の運動生成メカニズムを規範とし、搬送物の物性に応じた搬送動作等を可能とするポンプ装置を提供する。
【解決手段】外筒と、外筒の内周面に沿って設けられた内筒と、内筒と外筒との間に作動媒体を供給するための流体室とを有し、流体室への作動媒体の供給により内筒が半径方向内側に膨張し、作動媒体の排出により内筒が膨張前の状態に収縮するポンプユニット10を複数連結して構成されたポンプ部と、ポンプ部を構成する各ポンプユニットの流体室への作動媒体の供給及び排出を制御し、各ポンプユニットの膨張・収縮を個別に制御する制御装置とを備えたポンプ装置であって、制御装置は、各ポンプユニットが膨張・収縮を繰り返す動作中にいずれかのポンプユニットが搬送物を検出したときに、少なくとも搬送物を検出したポンプユニットに隣接するポンプユニットを協働させて所定の動作をさせる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外筒と、
前記外筒の内周面に沿って設けられた内筒と、
前記内筒と前記外筒との間に作動媒体を供給するための流体室とを有し、前記流体室への作動媒体の供給により前記内筒が半径方向内側に膨張し、作動媒体の排出により前記内筒が膨張前の状態に収縮するポンプユニットを複数連結して構成されたポンプ部と、
前記ポンプ部を構成する各ポンプユニットの前記流体室への作動媒体の供給及び排出を制御し、各ポンプユニットの膨張・収縮を個別に制御する制御装置と、
を備えたポンプ装置であって、
前記制御装置は、各ポンプユニットが膨張・収縮を繰り返す動作中にいずれかのポンプユニットが搬送物を検出したときに、少なくとも搬送物を検出したポンプユニットに隣接するポンプユニットを協働させて所定の動作をさせることを特徴とするポンプ装置。
【請求項2】
前記制御装置は、
各ポンプユニットを非協働の状態で膨張・収縮を繰り返すランダム動作モードと、
前記ランダム動作モードの動作中にいずれかのポンプユニットが搬送物を検出したときに、少なくとも搬送物を検出したポンプユニットに隣接するポンプユニットのランダム動作モードを解除し、前記ランダム動作モードが解除されたポンプユニットを協働させて所定の動作をさせる協働動作モードと、
を備えることを特徴とする請求項1に記載のポンプ装置。
【請求項3】
前記搬送物の検出は、ポンプユニットの前記内筒内に搬送物がないときの前記内筒の膨張状態に基づいてなされることを特徴とする請求項1に記載のポンプ装置。
【請求項4】
前記協働動作モードは、ランダム動作モードが解除されたポンプユニットの間で搬送方向に搬送物を搬送する搬送モードを含むことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のポンプ装置。
【請求項5】
前記協働動作モードは、ランダム動作モードが解除されたポンプユニットの間で搬送物を搬送方向上流側や下流側に移動させて搬送物を混錬する混錬モードを含むことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のポンプ装置。



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポンプ装置に関し、特に、外筒と内筒との間に加圧用媒体を供給し、内筒を膨張可能とされたポンプユニットを連結し、ポンプユニットの内筒を順次膨張させることで内筒の内周側を搬送路として構成されたポンプ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、特許文献1に示すように、二重管構造となるように、円筒状の外筒内に内筒を設け、外筒と内筒との間に形成された環状のチャンバー内に、空気等の流体を供給することにより、内筒を径方向内側に向けて膨張可能とし、内筒の膨張に伴う内筒内の容積を変化可能に構成されたポンプユニットを複数連結して搬送物を搬送する搬送装置が知られている。そして、連結されたポンプユニットの内筒を、例えば、人の腸における蠕動運動を模した所定の駆動パターンで順に膨張させることにより、搬送物の搬送を可能としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013-174140号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
駆動パターンは、連結されたポンプユニットがあらかじめ決められた動作を繰り返すように制御装置に入力されたものである。このため、一定の物性を有する搬送物が連続的に供給される場合には問題がないが、搬送物の物性が変化する場合や搬送物が間欠的に供給される場合にはうまく搬送することができない場合がある。
例えば、生体の腸では、消化物が腸内に進入したことによる刺激に応じて蠕動運動を開始するとともに、その消化物の内容によって蠕動運動を変化させている。
【0005】
そこで、本発明では、外筒及び内筒を備え、該外筒と内筒との間に加圧用媒体を供給して内筒を求心方向に膨張させて搬送物を搬送するポンプユニットの動作を、生体の腸管の運動生成メカニズムを規範とし、搬送物の物性に応じた搬送動作等を可能とするポンプ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するためのポンプ装置の構成として外筒と、外筒の内周面に沿って設けられた内筒と、内筒と外筒との間に作動媒体を供給するための流体室とを有し、前記流体室への作動媒体の供給により内筒が半径方向内側に膨張し、作動媒体の排出により内筒が膨張前の状態に収縮するポンプユニットを複数連結して構成されたポンプ部と、ポンプ部を構成する各ポンプユニットの流体室への作動媒体の供給及び排出を制御し、各ポンプユニットの膨張・収縮を個別に制御する制御装置と、を備えたポンプ装置であって、前記制御装置は、各ポンプユニットが膨張・収縮を繰り返す動作中にいずれかのポンプユニットが搬送物を検出したときに、少なくとも搬送物を検出したポンプユニットに隣接するポンプユニットを協働させて所定の動作をさせる構成とした。
本構成によれば、腸管の運動生成メカニズムを規範とし、搬送物の刺激に応じて蠕動運動の動作を変化可能とし、自律した動作をさせることができる。
また、前記制御装置は、各ポンプユニットを非協働の状態で膨張・収縮を繰り返すランダム動作モードと、前記ランダム動作モードの動作中にいずれかのポンプユニットが搬送物を検出したときに、少なくとも搬送物を検出したポンプユニットに隣接するポンプユニットのランダム動作モードを解除し、前記ランダム動作モードが解除されたポンプユニットを協働させて所定の動作をさせる協働動作モードとを備える構成とした。
本構成によれば、腸管の運動生成メカニズムを規範とし、搬送物の刺激に応じて蠕動運動の動作を変化可能とし、自律した動作をさせることができる。
また、前記搬送物の検出は、ポンプユニットの内筒内に搬送物がないときの内筒の膨張状態に基づいてなされる構成とした。
本構成によれば、搬送物を確実に検出することができる。
また、協働動作モードは、ランダム動作モードが解除されたポンプユニットの間で搬送方向に搬送物を搬送する搬送モードを含むようにしたり、ランダム動作モードが解除されたポンプユニットの間で搬送物を搬送方向上流側や下流側に移動させて搬送物を混錬する混錬モードを含むように構成しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】ポンプ装置の概略構成図である。
図2】ポンプユニットの軸方向断面図及び径方向断面図である。
図3図2のA-A矢視における半径方向断面図である。
図4】電気系制御部のハードウェアの構成を示すブロック図である。
図5】ポンプユニットが収縮状態から膨張状態となるときの圧縮空気の流量の変化を示す図である。
図6】ポンプ部の搬送動作を例示したものである。
図7】3つのポンプユニット10により蠕動運動を開始するときのダイヤグラムである。
図8】実験から得られた各ポンプユニットの給気側流量、積算流量、給排気の状態を示す。
図9】実験から得られた各ポンプユニットの給気側流量、積算流量、給排気の状態を示す。
【0008】
以下、発明の実施形態を通じて本発明を詳説するが、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また実施形態の中で説明される特徴の組み合わせのすべてが発明の解決手段に必須であるとは限らず、選択的に採用される構成を含むものである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[蠕動運動型ポンプ全体の概略構成]
図1は、ポンプ装置1の一実施形態を示す概略構成図である。図1に示すようにポンプ装置1は、ポンプユニット10と、作動媒体供給装置200と、搬送制御装置100と、を備える。ポンプユニット10は、複数連結することにより搬送路兼ポンプ部8を構成する。本実施形態では、ポンプユニット10を5つ直列に連結してポンプ部8を構成するものとして説明するが連結する数量はこれに限定されない。
ポンプ部8は、例えば、搬送物が貯留される貯留装置の出口や、既設の配管の途中等に設けられる。
【0010】
[ポンプユニット10について]
図2は、ポンプユニット10の軸方向に沿う断面図である。
図2に示すように、ポンプユニット10は、内筒12と、内筒12の中心軸と同軸の二重管を形成するように配置される外筒14と、内筒12の外周と外筒14の内周との間に形成される空間を閉塞する一対の端部部材16;16とを備える。
【0011】
ポンプユニット10は、端部部材16;16により閉塞され、内筒12の外周と外筒14の内周との間に形成された空間に流体(作動媒体)を供給することで内筒12が該内筒12の求心方向(径方向)に膨張するように構成される。本実施形態では、流体に空気を利用するものとして説明するが、流体は空気に限定されず、他の気体や水などの液体を利用しても良い。なお、後述する流体系制御部110は、利用する流体に応じて、以下で説明する機能が得られるように適宜変更すれば良い。
【0012】
[内筒について]
内筒12は、気密性及び弾性を有する円筒体として構成される。内筒12を構成する素材には、例えば、天然ラテックスゴムやシリコーンゴム等のゴムやエラストマー等の弾性素材を利用できる。
【0013】
図2に示すように、内筒12は、円筒状の筒部12Aの両端にフランジ部12Bを備える。フランジ部12Bは、筒部12Aと一体的に形成され、筒部12Aの端部において半径方向外側に向けて同心円状に広がる中空円板状に形成されている。このフランジ部12Bは、先端(外周部)に、筒部12A側(軸方向内向き)に突出する突起部13が全周にわたり形成されている。
【0014】
[外筒について]
図3は、図2(a)のA-A矢視における半径方向断面図である。
外筒14は、気密性を維持しつつ軸方向への伸縮を弾性体よりなる筒体として構成される。外筒14は、例えば、弾性素材と繊維素材とを含んで構成される。なお、外筒14は、実質的に軸方向に非伸縮とされる剛性を有する素材により構成しても良い。
図3に示すように、外筒14は、例えば、半径方向の断面視において弾性素材15Aと、弾性素材15Aに内包される複数の繊維15Bとを備える。
【0015】
弾性素材15Aは、例えば、天然ラテックスゴムやシリコーンゴム等のゴムやエラストマー等の弾性素材を利用できる。
【0016】
繊維15Bは、外筒14の軸線方向への伸長を拘束するために設けられ、外筒14の軸方向への伸長を拘束する拘束手段として機能する。
【0017】
繊維15Bは、例えば、層状に設けられ、外筒14の一端側から他端側まで連続して延長する長さを有し、外筒14の軸方向に沿って延長するように配設される。
なお、繊維15Bは、外筒14において必ずしも層状に含まれる必要はなく、弾性素材内に分散して埋設されていても良い。
【0018】
繊維15Bの素材には、軸方向への伸縮変化の小さい、高弾性繊維が好適である。例えば、アラミド繊維、炭素(カーボン)繊維、ガラス繊維、ナイロン、ポリアミド系繊維やポリオレフィン系繊維、金属繊維等の被伸長性を有するものを適宜選択して用いることができる。繊維には、適当なプライマー処理、又は、表面酸化処理を行うことで、接着性を十分に向上させることができるが、好ましくは、弾性素材との接着性に応じて選択すると良い。
【0019】
繊維素材の形態としては、フィラメント、ヤーン(スパン・ヤーン及びフィラメント・ヤーン)、ストランド等のいずれの形態でも用いることができ、さらに、撚りをかけずに収束させた無撚繊維、これらの繊維を複数本撚って作成した繊維を用いることも可能である。繊維の種類にもよるが、二種類以上の素材の異なる繊維や形態の異なる繊維を組み合わせても良い。
【0020】
なお、繊維15Bの長さは、一端側から他端側まで連続する長さに限定されず、外筒14の軸方向長さよりも短い複数の繊維を軸方向に沿って連続的に分布させて一端側から他端側まで到達するように構成しても良い。
【0021】
また、外筒14における拘束手段は、繊維15Bに代えて、弾性素材そのもので構成しても良い。例えば、外筒14の軸方向に延長するリブを外筒14を構成する弾性素材で一体的に形成し、拘束手段としても良い。
【0022】
また、ポンプユニット10は、内筒12の求心方向への膨張のしやすさを考慮して、外筒14の弾性率が内筒12の弾性率よりも大きくなるように構成されることが好ましい。
【0023】
[端部部材について]
端部部材16;16は、内筒12及び外筒14の両端に配置される。端部部材16;16は、内筒12及び外筒14の両端に固定可能とされるとともに、他のポンプユニット10との連結が可能に構成される。
【0024】
端部部材16;16は、フランジ部16Aと、筒部16Bとを備える。フランジ部16Aは、中空部20を有する平板矩形状に形成される。中空部20は、内筒12の筒部12Aが貫通可能な円孔として設けられる。中空部20の直径は、例えば、内筒12の筒部12Aの外周面に密着するような寸法とすると良い。
【0025】
フランジ部16Aは、軸方向外側の端面16aに、環状に窪む環状溝22を備える。環状溝22は、中空部20と同心円状に形成され、内筒12のフランジ部12Bの先端の突起部13が嵌合可能とされる。また、フランジ部16Aの外側の端面16aは、環状溝22に内筒12の突起部13が嵌合された状態において、内筒12のフランジ部12Bが、該外側の端面16aよりも外側に突出するように形成されている。
【0026】
内筒12は、端部部材16の環状溝22に、フランジ部12Bの突起部13が嵌め合わされることで端部部材16;16に取り付けられる。内筒12は、端部部材16;16を介して他のポンプユニット10の端部部材16や、既存の配管に設けられたフランジと連結されることで、フランジ部12Bが端部部材16に押し付けられて端部部材16との気密が構成される。
また、内筒12は、突起部13が端部部材16の環状溝22に嵌め合わされることにより、流体室V内における(圧縮)空気の圧力を上げた際に、端部部材16から外れにくくする効果が得られる。
【0027】
筒部16Bは、フランジ部16Aの内側の端面16bから軸方向に円筒状に突出して設けられる。筒部16Bは、中心軸が中空部20と同心とされ、フランジ部16Aと一体的に形成されている。筒部16Bは、外径が外筒14の内周側に密着状態で挿入可能な大きさを有するように設定され、内径が中空部20の内径よりも大きな寸法を有するように設定されている。
【0028】
カシメ中間部材24は、カシメ部材26と共に外筒14を端部部材16;16に気密状態で固定するための固定手段を構成する。カシメ中間部材24は、端部部材16の筒部16Bを外筒14に挿入した状態において外筒14の外周に挿入可能な環状部材として形成される。
【0029】
カシメ中間部材24は、内周側が円筒面として形成され、外筒14の外周に対して例えば、締り嵌めとなるように内径が設定される。また、カシメ中間部材24は、外周側が円錐面(テーパー面)として形成され、内周面に対して漸次肉厚となるように形成される。カシメ中間部材24は、厚肉側を端部部材16に押し付けるようにして外筒14の外周に配置される。
【0030】
カシメ部材26は、外筒14に配置されたカシメ中間部材24の外周に嵌合可能な環状部材として形成される。カシメ部材26は、内周側が円錐面(テーパー面)として形成され、カシメ中間部材24の円錐面に対して面接触するように構成される。
【0031】
カシメ部材26は、内周側の円錐面をカシメ中間部材24の円錐面に接触させて、図外のボルト等の固定手段で端部部材16の内側の端面16bに固定される。これにより、カシメ中間部材24が外筒14に押し付けられ、端部部材16の筒部16Bに外筒14が気密状態で固定される。
【0032】
上述のように、端部部材16;16が、内筒12及び外筒14の端部に取り付けられることにより、内筒12の外周及び外筒14の内周の間に形成された空間を閉空間とし、ポンプユニット10における流体室Vを形成する。
【0033】
一方の端部部材16は、流体室Vに流体を供給・排出するための給排孔28を備える。給排孔28は、一端が端部部材16のフランジ部16Aの外周の端面に開口し、他端がフランジ部16Aの内側端面16bの内筒12及び外筒14の間に開口する。
【0034】
給排孔28を構成するフランジ部16Aの外周の端面の開口には、搬送制御装置100から延長し、流体室Vへの流体の供給、流体室Vから流体を排出するための図外の管が接続可能とされる。
【0035】
なお、給排孔28は、一方の端部部材16に限定されず、他方の端部部材16に設け、両方の端部部材16;16から流体室Vに流体を供給・排出するようにしても良い。また、給排孔28は、端部部材16に設けることに限定されず、外筒14に設けて流体室Vに流体を供給・排出するようにしても良く、適宜ポンプユニット10の構成に応じて変更すれば良い。
【0036】
上記構成によれば、ポンプユニット10は、給排孔28を介して流体室Vに圧縮空気を供給することにより、図2(b)に示すように内筒12が半径方向内側(求心方向)に向けて膨張するとともに軸方向に収縮し、流体室Vに供給された圧縮空気を排出することにより、図2(a)に示すように膨張前の半径方向外側に向けて収縮するとともに軸方向に伸長する。
【0037】
[作動媒体供給装置について]
作動媒体供給装置200は、作動媒体を空気とした場合、例えば、コンプレッサー112と、レギュレータ114とで構成することができる。
【0038】
コンプレッサー112は、ポンプユニット10の流体室Vに供給する空気を圧縮空気として生成する。
【0039】
レギュレータ114は、コンプレッサー112と接続され、コンプレッサー112により加圧された圧縮空気を入力とし、入力された圧縮空気を所定の圧力に減圧して一定圧の圧縮空気を出力する。レギュレータ114から出力される圧縮空気の圧力は、ポンプユニット10を膨張させたときにポンプユニット10の内筒12の少なくとも内周面同士が密接可能な圧力、或いはそれよりも大きく設定される。
【0040】
[搬送制御装置について]
搬送制御装置100は、ポンプユニット10を連結して構成されたポンプ部8の動作を制御するための装置である。搬送制御装置100は、例えば、図1に示すように、流体系制御部110と、電気系制御部160とで構成することができる。なお、図1において破線は電気的な信号の経路を示す信号線、実線は流体の流路を示す管をそれぞれ示している。
【0041】
[流体系制御部]
流体系制御部110は、ポンプユニット10への流体の供給、停止、排出を制御する。
【0042】
流体系制御部110は、供給弁116、排出弁118、流量センサ120;124、圧力センサ122等を備える。
【0043】
供給弁116は、連結されたポンプユニット10毎に設けられ、レギュレータ114と、各ポンプユニット10との間に配置される。供給弁116は、レギュレータ114により減圧された圧縮空気を入力とし、この圧縮空気をポンプユニット10の流体室Vへの出力(流体室Vへの圧縮空気の供給及び供給の停止)を制御する。供給弁116は、電気的な信号に基づいて開閉する弁を有し、弁を開くことで圧縮空気を流体室Vに供給し、弁を閉じることで圧縮空気の供給を停止する。供給弁116は、電気系制御部160と電気的に接続され、電気系制御部160から入力される信号に基づいて弁を開閉する。
【0044】
排出弁118は、ポンプユニット10毎に設けられ、それぞれポンプユニット10と接続される。排出弁118は、流体室Vにおける圧縮空気を入力とし、この圧縮空気が大気中に排出されるように出力側に設けられた流量センサ124を介して大気開放される。排出弁118は、電気的な信号に基づいて開閉する弁を有し、弁を開くことで流体室Vを流量センサ124を介して大気開放することによって流体室V内の圧縮空気を大気中に排出し、弁を閉じることで圧縮空気の排出を停止する。排出弁118は、電気系制御部160と電気的に接続され、電気系制御部160から入力される信号に基づいて弁を開閉する。
【0045】
流量センサ120及び流量センサ124は、ポンプユニット10毎に設けられる。
流量センサ120は、ポンプユニット10毎に設けられた供給弁116と対応するポンプユニット10との間に設けられ、ポンプユニット10に供給された圧縮空気の流量を計測する。流量センサ120は、電気系制御部160と電気的に接続され、計測した圧縮空気の流量を電気系制御部160に出力する。なお、流量センサ120が設けられる位置は、流体室Vに供給される圧縮空気の流量を計測できるのであればいずれであっても良い。以下、流量センサ120を供給用流量センサ120という。
【0046】
また、流量センサ124は、ポンプユニット10毎に設けられた排出弁118の出力側に設けられ、ポンプユニット10から排出された圧縮空気の流量を計測する。流量センサ124は、電気系制御部160と電気的に接続され、計測した圧縮空気の流量を電気系制御部160に出力する。以下、流量センサ124を排出用流量センサ124という。
【0047】
圧力センサ122は、例えば、ポンプユニット10毎に設けられた供給用流量センサ120と対応するポンプユニット10との間に設けられ、ポンプユニット10の流体室V内の圧力を計測する。圧力センサ122は、電気系制御部160と電気的に接続され、計測した流体室V内の圧力を電気系制御部160に出力する。
なお、圧力センサ122の設けられる位置は、流体室V内の圧力を計測できるのであればいずれの位置であっても良い。
【0048】
また、供給弁116及び排出弁118は、初期状態として信号が入力されない状態において弁を閉じた状態とし、信号が入力されることで弁を開き、信号が停止されることで弁を閉じるものとして説明する。
【0049】
供給弁116及び排出弁118には、例えば、ソレノイドバルブを適用することができる。ソレノイドバルブを用いることにより、ポンプユニット10を膨張或いは収縮させるときの応答速度を向上させることができる。
【0050】
図4は、電気系制御部160のハードウェアの構成を示すブロック図である。
電気系制御部160は、ポンプ部8を構成するポンプユニット10の膨張、膨張状態の維持、収縮、収縮状態の維持等、状態の変化を制御するための装置であって、所謂コンピュータにより構成することができる。
【0051】
電気系制御部160は、ハードウェア資源として設けられたROM,RAM等の記憶手段162、CPU等の演算処理手段164、インターネットとの接続を可能にするネットワークインターフェイス等の通信手段166、キーボードやマウス、タッチパネル等の入力手段168、モニター等の表示手段170、供給弁116及び排出弁118との信号の入出力を可能とする外部入出力インターフェース(外部IF)172を備える。なお、電気系制御部160の構成は、上記構成に限定されず適宜変更すれば良い。
【0052】
ここでいうコンピュータとは、タブレット型、ノート型、デスクトップ型、ポンプ部8の駆動を専用に設計されたワンボードマイコン等、その形態は問わない。
【0053】
記憶手段162には、例えば、ポンプ部8を動作させるための制御プログラムや、供給弁116及び排出弁118への信号の出力・停止を判定するための判定値等を含んで記憶される。
【0054】
演算処理手段164が、記憶手段162に記憶された制御プログラムを順次実行することにより、電気系制御部160を後述の各手段として機能させるとともに、流体系制御部110を構成する供給弁116及び排出弁118に信号を出力し、ポンプ部8を構成する各ポンプユニット10の動作を制御する。
【0055】
制御プログラムは、例えば、ポンプ部8における基本動作となる搬送物を上流側から下流側に向けて移動させる搬送動作プログラム(搬送モード)、搬送物を上流側から下流側に移動させながらその途中において上流側から下流側、下流側から上流側へと往復させる混錬動作プログラム(混錬モード)等を含んで構成することができる。
【0056】
電気系制御部160は、膨張・収縮制御手段180と、積算流量算出手段182と、搬送物検出手段184とを備える。
膨張・収縮制御手段180は、ポンプユニット10の膨張、膨張状態の維持、収縮、収縮状態の維持等を制御する。
【0057】
[ポンプユニット10の膨張制御]
膨張・収縮制御手段180は、ポンプユニット10を膨張させる場合、供給弁116にのみ信号を出力し、排出弁118には信号の出力の停止状態を維持する。流体室V内に圧縮空気が流入し、内筒12が求心方向に膨張する。
【0058】
膨張・収縮制御手段180は、流体室Vへの圧縮空気の供給過程において、供給用流量センサ120から入力される流量の変化と、圧力センサ122から入力される圧力の変化とを監視する。そして、膨張・収縮制御手段180は、入力された流量と圧力とがポンプユニット10の完全膨張に達したとされる判定値となったときに、供給弁116への信号の出力を停止する。これにより、ポンプユニット10の内筒12は、図2(b)に示すような膨張状態となる。以下、この膨張状態を単に膨張とも言う場合がある。
なお、完全膨張とは、搬送物の搬送動作において内筒12を最も膨張させたときであって、例えば、搬送路が実質的に最も閉塞された所定の状態に達したときをいう。
【0059】
また、膨張・収縮制御手段180は、ポンプユニット10が膨張状態にあるときに、供給弁116及び排出弁118への信号の停止状態を維持することで、ポンプユニット10の膨張状態を維持する。
【0060】
[ポンプユニット10の収縮制御]
また、膨張・収縮制御手段180は、ポンプユニット10が完全膨張した状態から収縮させる場合、供給弁116には信号の出力の停止状態を維持し、排出弁118にのみ信号を出力する。これにより、ポンプユニット10の内筒12は、流体室V内の圧縮空気が排出弁118を介して大気に放出され、収縮が開始される。
【0061】
膨張・収縮制御手段180は、流体室Vからの圧縮空気の排出過程において、流体室Vの圧力の変化を監視する。そして、膨張・収縮制御手段180は、入力された圧力がポンプユニット10の完全収縮に達したとされる判定値となったときに、排出弁118への信号の出力を停止する。これにより、ポンプユニット10は、図2(a)に示すような収縮状態となる。この収縮状態を単に収縮とも言う場合がある。
なお、完全収縮とは、例えば、搬送物の搬送動作において流体室Vから圧縮空気が排出され、流体室Vの圧力が大気圧となったときとしても良い。
【0062】
また、膨張・収縮制御手段180は、ポンプユニット10が収縮状態にあるときに、供給弁116及び排出弁118への信号の停止状態を維持することで、ポンプユニット10の収縮状態を維持する。
【0063】
積算流量算出手段182は、ポンプユニット10が収縮状態から膨張状態に達したとされるまでに、供給用流量センサ120により計測され、入力された圧縮空気の流量に基づいて、流体室Vに供給された圧縮空気の積算流量を算出する。
【0064】
搬送物検出手段184は、各ポンプユニット10が膨張・収縮するときの動作において個別にポンプユニット10(内筒12)内における搬送物の有無を検出する。
【0065】
図5は、ポンプユニットが収縮状態から膨張状態となるときの圧縮空気の流量の変化を示す図である。同図において実線は、搬送物がない時の圧縮空気の流量の変化を示し、破線は、ポンプユニット10内に搬送物がある状態において、搬送物のない時に収縮状態から膨張状態に要する時間、圧縮空気を供給したときの流量の変化を示している。以下、搬送物のない時に収縮状態から膨張状態に要する時間を1タイムステップという。
【0066】
図5に示すように、ポンプユニット10内に搬送物がない時と、搬送物がある時とにおいて、1タイムステップにおける流量の積算値に差がある。この差は、搬送物が内筒12内において占有する体積、或いは、内筒12が膨張したときの体積の変化として見なすことができる。本実施形態では、この流量の積算値の差に基づいて、搬送物の有無を検出する。また、各ポンプユニット10に存在する搬送物の体積の検出が可能である。
【0067】
このように内筒12が膨張するときの体積の変化を利用して、どのポンプユニット10内に搬送物があるかを検出することにより、ポンプ部8の蠕動運動の動作を自律的に生成することが可能とされる。従って、従来のように搬送物に応じたポンプ部8の動作をあらかじめプログラムしておく必要や、強制的に手動で変更する必要をなくすことができる。
【0068】
本実施形態に係る電気系制御部160は、ポンプ部8を構成する各ポンプユニット10が膨張・収縮を繰り返す動作中にいずれかのポンプユニット10が搬送物を検出したときに、少なくとも搬送物を検出したポンプユニット10に隣接するポンプユニット10を協働させて所定の動作をさせるように構成される。例えば、電気系制御部160は、腸の動作を模すようにポンプ部8の動作を制御する。
腸は、一部に刺激を検出したときに、口側を強く閉塞し、肛門側が弛緩するような蠕動運動を促すことで腸内の移送物(便)を移送するように動作することが知られており、電気系制御部160は、この腸の動作を模すように、ポンプ部8の動作を制御する。
【0069】
そこで、ポンプ部8を腸とみなし、ポンプ部8を構成する各ポンプユニット10のいずれかにおいて搬送物を検出したとき(刺激を検出したとき)に、刺激を検出したポンプユニット10よりも搬送方向上流側のポンプユニット10を閉塞し、下流側のポンプユニット10が開放(弛緩)するようにポンプ部8を制御する。さらに、この状態において電気系制御部160は、搬送物を検出した(刺激を受けた)ポンプユニット10を閉塞するようにポンプ部8を動作させることにより、搬送物(搬送物)が下流側(肛門側)へと押し出される。この動作を刺激を検出したポンプユニット10の下流側に隣接するポンプユニット10へと連鎖させることで、搬送物を長距離搬送することが可能となる。
【0070】
つまり、電気系制御部160は、例えば、ポンプ部8を構成する上流側の端に位置するポンプユニット10から下流側へと順に空気圧を印加し、各ポンプユニット10において空気の印加が完了した順に減圧することにより人の腸の蠕動運動を再現している。以下、ポンプユニット10に空気圧を印加することを、“オン”といい、減圧することを“オフ”という場合がある。また、ポンプユニット10が膨張したときを“オン状態”、収縮したときを“オフ状態”等とも言う。
【0071】
電気系制御部160は、1タイムステップごとに、内筒12を完全膨張させて内部を閉塞した閉塞状態(オン状態)もしくは,内筒12を完全収縮させて内部を開放した開放状態の2パターン(オフ状態)のどちらかの状態なるように各ポンプユニット10を個別に制御する。
【0072】
また、電気系制御部160は、ポンプ部8全体に対して以下のように制御する。
1)各ポンプユニット10を原則ランダムに動作させる(ランダム動作モード)。ランダムに動作するとは、各ポンプユニット10が同期、非同期に関わらず、各ポンプユニット10が1タイムステップを基準時間として、独立してオフ状態からオン状態、オン状態からオフ状態となるように周期的に膨張・収縮を繰り返すことを言う(以下、単にランダム動作と言う)。
2)あるポンプユニット10が搬送物の存在を検出した場合、搬送物を検出したポンプユニット10を中心とし、これに上流側、下流側に隣接するポンプユニット10が所定の動作(協働動作モード)とされる蠕動運動を開始するように制御する。即ち、搬送物を検出したポンプユニット10を中心とし、これに上流側、下流側に隣接するポンプユニット10のランダム動作が解除される。隣接するポンプユニット10以外のポンプユニット10は、ランダム動作を維持したままとする。
3)蠕動運動の終了後,蠕動運動をしていたポンプユニット10は、ランダム動作に戻る。
各ポンプユニット10は、搬送物の有無によらず、周期的に状態が変わり、ランダムで2つの状態(オン状態またはオフ状態)のどちらかの状態とする。
これにより、各ポンプユニット10がオンの時には、給気側流量センサ120の積分値により搬送物の有無を判定できる。ここで、搬送物の存在を検出した場合、搬送物の検出のきっかけとなったポンプユニット10を中心に蠕動運動を開始する。
【0073】
図6は、ポンプ部8の搬送動作の一例を示す図である。
例えば、図6に示すように、左から右へと搬送物を搬送する場合について前述の蠕動運動を説明する(搬送モード)。以下の説明では、ポンプユニット10の位置関係を特定するため、ポンプ部8の上流側から下流側に向かってポンプユニット10A,10B、10C、・・・等として示す。
例えば、ポンプユニット10Bにおいて搬送物が検出されたとする。
s1:搬送物を検出したポンプユニット10Bの上流側に隣接するポンプユニット10Aを閉塞する(オン状態とする)とともに、ポンプユニット10B及びポンプユニット10Bの下流側に隣接するポンプユニット10Cを開放状態とする(オフ状態とする)。
s2:ポンプユニット10Aの閉塞状態を維持し、ポンプユニット10Bを閉塞状態とし、ポンプユニット10Cは開放状態を維持する。
s3:ポンプユニット10Aを開放状態とし、ポンプユニット10Bの閉塞状態を維持し、ポンプユニット10Cを閉塞する。
s4:ポンプユニット10Aの開放状態を維持し、ポンプユニット10Bを開放状態とし、ポンプユニット10Cの閉塞状態を維持する。
電気系制御部160は、この4ステップを搬送物が検出されたときの固定動作としてポンプ部8に蠕動運動を生じさせることにより搬送物を搬送する。
【0074】
図7は、3つのポンプユニット10により蠕動運動を開始するときのダイヤグラムである。なお、以下の説明では、連結されたポンプユニット10の数を一般化して説明する。また、ポンプユニット10をポンプユニットn-1,ポンプユニットn,ポンプユニットn+1等として示す。
図7に示すように、まず、ステップt-1のように、搬送物を検出していない状態では各ポンプユニット10がランダム運動の状態にある。
ステップtにおいて、ポンプユニットnがオフ(排気)状態からオン(給気)状態への移行によって搬送を検出したときに、隣接するポンプユニットn-1,n+1を含む3ユニットを前述の固定運動を実施させるべく、ステップt+1でランダム運動から蠕動運動へと切り替える。ランダム運動から蠕動運動への切り替えは、ステップt+3まで継続されるものとして処理する。
【0075】
蠕動運動への切り替え後、ステップt+2におけるユニットnの搬送物の検出の有無により蠕動運動を繰り返すか、終えるか(ランダム運動とするか)を決定する。
ステップt+2においてユニットnが搬送物を検出しないときには、ステップt+3で蠕動運動を終え、次のステップt+4で3ユニットをランダム駆動に切り替える(図7(a)参照)。
一方、ステップt+2においてユニットnが搬送物を検出したときには、ステップt+4を経て再度ステップt+1に戻り蠕動運動を繰り返す(図7(b)参照)。
【0076】
上記説明では、ポンプ部8を構成するいずれか1つのポンプユニット10が搬送物を検出したときの制御について説明したが、以下では、ポンプ部8において、近接する複数のポンプユニット10が搬送物を検出したときの制御について説明する。
この場合、以下の2つのケースに分けてポンプ部8の動作を決定する。
【0077】
ケース1:同じステップにおいて、連続する複数のポンプユニットが搬送物を検出した場合、検出したポンプユニット10内で最も上流側のポンプユニットを中心とした3ユニットが蠕動運動を行うように制御する。但し、搬送物を検出したポンプユニットの間に2ユニット以上ある場合、検出したそれぞれのポンプユニットを中心としてそれぞれにおいて蠕動運動をするように制御する。
【0078】
ケース2:隣接するユニットが既に蠕動運動をしている状態で搬送物を検出した場合、これは,例えば以下のような場合である。ユニットn+2を中心とした隣接する3ユニットで蠕動運動をしている(図6に示すs1~s4のいずれかのステップに該当)間に、ユニットnで搬送物を検出した場合.この時は、ユニットn+2を中心とした蠕動運動を優先し、ユニットnを中心とした蠕動運動を実施しない。
【0079】
上記処理によれば、搬送物がスムーズに下流側に隣接するポンプユニットに移動する場合、搬送物を検出するポンプユニットも次々に下流側に移動するため、連結されるポンプユニットの数が多い場合でも蠕動運動を連続的に生成することができる。
また、途中のポンプユニットにおいて詰まり等が発生した場合であっても,その部分のみ蠕動運動を発生させ,詰まりを解消させることもできる。
【0080】
以下、上記実施形態で説明したポンプ部8の動作の効果を検証するため、剛体棒を搬送物として搬送する実験を実施した。以下に検証に設定した実験条件を示す。
実験条件
収縮状態から膨張状態に要する時間とした前述の1タイムステップを2秒とし、2秒ごとに電磁弁に信号を出力し、状態を遷移させる。
また、印加空気圧力を60kPa、流量センサ及び圧力センサのサンプリング周期を100Hzとした。
搬送物として、剛体棒(アクリル製のパイプ)直径35mm,長さ330mmのものを用いた。パイプの長さは,本ユニットの3ユニット分に相当する。パイプは、ポンプ部8の2.5ユニット分挿入した状態から開始した。
パイプの存在を検出するための給気時の積算流量値の閾値は,予備実験により設定した。
各ポンプユニット間で同じ搬送物体積の場合でも積算流量の値に差が見られた。
また、2秒間の給気側の積算流量が205~220ml以上、250~265ml以下の場合にパイプ有りとした。
全ポンプユニットで,上限値と下限値の間隔(検出ありと検出する閾値範囲)は45mlである。閾値範囲外ではパイプなしとした。
【0081】
図8は、実験開始から20秒間に得られた各ポンプユニットの給気側流量(a)、積算流量(b)、給排気の状態(c)を示す。
0秒において、ポンプ部8の動作には、ランダム運動が設定され、パイプはポンプユニット10Aからポンプユニット10Cの中間に存在する。また、本実験では、0秒において、ポンプユニット10B,10D,10Eが給気から開始、ポンプユニット10A;10Cが排気から開始とされる。即ち、ポンプユニット10B;10D;10Eで搬送物の有無の検出がなされる。
この結果、2秒後においてポンプユニット10Bの積算流量が搬送物を検出する閾値の範囲内となり、ポンプユニット10D、10Eの積算流量が閾値から外れた。つまり、ポンプユニット10Bの内部にあるパイプを検出していることを示している一方で、ポンプユニット10D;10Eの内部が空状態、即ち、搬送物がないことを示している。これにより、積算流量の閾値が搬送物の検出に機能していることがわかる。
また、ポンプユニット10Bが搬送物を検出したことで、ポンプユニット10Bを中心としてポンプユニット10A~10Cで2秒目に蠕動運動が開始された。
さらに、ポンプユニット10A~10Cは、給気後2秒でパイプを検出している。一方、ポンプユニット10D;10Eでは4秒後~8秒後でもパイプが検出されていない。
これは実際のポンプユニット10A~10E内におけるパイプの位置、即ち搬送物の検出を正確にセンシングできていることを示している。そして、6秒目においてポンプユニット10Bが搬送物を検出したため、10秒目以降もポンプユニット10Bを中心とする蠕動運動が継続されていることが確認できる。
【0082】
次に、蠕動運動の中心となるポンプユニットの切り替わりに注目する。
図9は、実験開始から470秒目から490秒目までの各ポンプユニット10A~10Eの給気側流量(a),積算流量(b),給排気の状態(c)を示す。
開始2秒目からポンプユニット10Bを中心としたポンプユニット10A~10Cによる蠕動運動が継続されている。470秒目にてポンプユニット10Eが、また、472秒目にてポンプユニット10Bが搬送物を検出した。
これにより、ポンプユニット10Bだけでなくポンプユニット10Eも蠕動運動の中心となり、ポンプユニット10Eを中心とする蠕動運動が470秒目から開始される。なお、ポンプユニット10Eは、ポンプ部8の下流側の端部に位置するため、実質的にはポンプユニット10D;ポンプユニット10Eによる蠕動運動となる。
即ち、このときのポンプ部8では、ポンプユニット10B;10Eを中心とした2つの蠕動運動が行われている。
その後480秒目において、ポンプユニット10Bの積算流量が、搬送物を検出する閾値範囲外となり、搬送物が検出されなかった。これによりポンプユニット10Bを中心とした蠕動運動が終わり、ポンプユニット10Bはランダム駆動に切り替わる。一方で,ポンプユニット10Eは、オフ状態からオン状態に切り替わったときに、搬送物を検出しているため、蠕動運動が継続される。
これにより,搬送物が搬送されると共に蠕動運動が下流側に伝播することが確認できた。
また,486秒目において、ポンプユニット10Bの積算流量が搬送物を検出する閾値範囲内となり、搬送物を検出した。しかし、その次の検出タイミング(直近のオフ状態からオン状態となったとき)では積算流量が閾値範囲外となり搬送物を検出していないことから、ポンプユニット10Eを中心とした蠕動運動により搬送物が一時的に上流側にずれたことに起因するものであり、一時的な検出と考えられる。つまり、ポンプユニットの膨張に伴なう体積の変化を精度良く検出していると言える。
【0083】
上記実験結果によれば、ポンプユニット10の膨張状態の変化をトリガーとして搬送物を検出し、搬送物を検出したポンプユニットを中心とする隣接するポンプユニットによって、ポンプ部8において自律的に蠕動運動を実施させることが確認できた。
したがって、従来のようにポンプ部8全体による蠕動運動をあらかじめプログラミングすることなく、搬送物を搬送させることが可能となった。
なお、本実施形態では、ポンプ部8を5つのポンプユニットを連結して構成したが、これに限定されることなく、さらにポンプユニットの数を増やしても上記実施形態で説明したとおりの動作がなされることは明らかである。
また、上述の検証実験では、搬送物として剛体棒を用いて例示したが、剛体棒に限定されず、粉体や液体、それらの混合物であっても良い。前述のようにポンプ部8において搬送状態に応じて自律的に蠕動運動が実行されることから、搬送物が剛体棒以外であっても搬送物を搬送できることも明らかである。
【0084】
以上説明したように、ポンプ装置1を構成することにより、ポンプ部8における搬送物の物性に応じた搬送動作等について生体の腸管の運動生成メカニズムを規範としたように動作させることができる。
【0085】
なお、上記実施形態では、搬送物を検出したポンプユニットと、これに直接的に隣接するポンプユニットの3つを蠕動運動(協働動作)させるものとして説明したがこれに限定されない。例えば、搬送物を検出したポンプユニットの上流側の2つのポンプユニット、下流側の2つのポンプユニット等としても良く、適宜蠕動運動(協働動作)をなすポンプユニットの範囲を設定すれば良い。
【0086】
なお、ランダム動作は、必ずしもポンプ部8を構成する各ポンプユニット10が独立した周期的な膨張・収縮を繰り返すような非協働の動作に限定されず、例えば、前述の搬送動作や混錬動作等のような協働した動作を設定しても良い。この場合のポンプ部8には、搬送物を検出したポンプユニット10を含む所定の範囲のポンプユニット10による協働動作としての搬送動作や混錬動作等と、それ以外の範囲のポンプユニット10によるランダム動作として継続される搬送動作や混錬動作とが実行されることになる。
【0087】
また、各ポンプユニット10の膨張・収縮をさせるための流体系制御部110の構成や、電気系制御部160の構成は、上記説明したものに限定されず、適宜変更すれば良い。
例えば、上記実施形態では、ポンプユニット10の流体室Vを圧力センサ122により監視し、流量センサ124により検出された流量とに基づいて、ポンプユニット10の膨張や収縮を判定するものとしたが、圧力センサ122や流量センサ124のいずれか一方としても良い。好ましくは、流量センサ124の一方によりポンプユニット10の膨張や収縮を判定するように搬送制御装置110を構成すると良い。
【0088】
また、本実施形態では、ポンプユニット10の膨張には、コンプレッサー112による正圧を利用し、収縮には流体室Vを大気開放することによりポンプユニット10を膨張収縮させるものとして説明したがこれに限定されない。例えば、ポンプユニット10の収縮時に負圧を印加した強制的に流体室Vから空気を供給させるようにしても良い。
また、負圧を利用してポンプユニット10を収縮させる場合、流体室Vを大気開放したときよりも、流体室Vの容積が小さくなるように、さらに収縮させるようにしても良い。
【符号の説明】
【0089】
1 ポンプ装置、8 ポンプ、10 ポンプユニット、12 内筒、14 外筒、
100 搬送制御装置、
110 流体系制御部、112 コンプレッサー、114 レギュレータ、
116 供給弁、118 排出弁、120;124 流量センサ、
122 圧力センサ、160 電気系制御部、180 膨張・収縮制御手段、
182 積算流量算出手段、184 搬送物検出手段、V 流体室、。



図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9