(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023018350
(43)【公開日】2023-02-08
(54)【発明の名称】水力発電装置
(51)【国際特許分類】
F03B 7/00 20060101AFI20230201BHJP
F03B 11/02 20060101ALI20230201BHJP
F03B 3/04 20060101ALI20230201BHJP
【FI】
F03B7/00
F03B11/02
F03B3/04
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021122407
(22)【出願日】2021-07-27
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-01-30
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】弁理士法人サトー
(72)【発明者】
【氏名】加藤 輝美
【テーマコード(参考)】
3H072
【Fターム(参考)】
3H072AA13
3H072AA22
3H072BB08
3H072BB40
3H072CC42
3H072CC71
(57)【要約】
【課題】水を放流する放流水路に設けられる水力発電装置に関し、放流に伴う水温差の発生を抑制することができ、また、いわゆる「洗掘」の発生を抑制することができ、また、放流に伴う騒音の発生を抑制することができるようにした構成を提供する。
【解決手段】本実施形態に係る水力発電装置は、水を放流する放流水路に設けられる水力発電装置であって、前記放流水路内を、水の流速を維持する流速維持領域と、水の流速を低下させる流速低下領域と、に仕切る仕切り部と、前記放流水路内のうち前記流速低下領域に設けられ、前記流速低下領域内を流れる水によって回転体を回転させることにより電力を発生する発電機と、前記発電機を前記流速低下領域内に保持する保持部と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水を放流する放流水路に設けられる水力発電装置であって、
前記放流水路内を、水の流速を維持する流速維持領域と、水の流速を低下させる流速低下領域と、に仕切る仕切り部と、
前記放流水路内のうち前記流速低下領域に設けられ、前記流速低下領域内を流れる水によって回転体を回転させることにより電力を発生する発電機と、
前記発電機を前記流速低下領域内に保持する保持部と、
を備える水力発電装置。
【請求項2】
前記保持部は、前記流速低下領域内における前記発電機の高さを調整可能である請求項1に記載の水力発電装置。
【請求項3】
前記保持部は、前記流速低下領域内における前記発電機の向きを調整可能である請求項1または2に記載の水力発電装置。
【請求項4】
前記放流水路の側壁面のうち前記流速維持領域に対向する部分を覆う覆い部を備える請求項1から3の何れか1項に記載の水力発電装置。
【請求項5】
前記流速低下領域内に保持されている前記発電機に水を導く導水路を形成する導水路形成部を備える請求項1から3の何れか1項に記載の水力発電装置。
【請求項6】
前記放流水路の下流部に格子状の出口部を備える請求項1から5の何れか1項に記載の水力発電装置。
【請求項7】
前記放流水路内から前記放流水路外への水の流出を許容し、前記放流水路外から前記放流水路内への水の流入を阻止する逆流阻止部を備える請求項1から6の何れか1項に記載の水力発電装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、水を放流する放流水路に設けられる水力発電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、例えば、河川や上水配水路、農業用水路や工業用水路などといった水路に水力発電装置を設け、水路内を流れる水のエネルギーを利用して電力を発生する発電システムが知られている。このような水流を利用する発電システムは、再生可能な自然エネルギーを活用する発電システムとして注目されている。
【0003】
下水処理が施された再生処理水は、一部は修景、防火、消雪、灌漑などに幅広く利用されているが、その殆どは例えば河川などに放流されており、その放流水量は豊富であり、安定している。そのため、このように豊富で安定した水量を確保できる放流水路に水力発電装置を設けることにより、安定した水力発電を行うことができる。
【0004】
また、このような放流水路に設けられる水力発電装置においては、例えば特許文献1,2に開示されているように、水の落差を利用せずとも効率良く水力発電を行うことができる装置を備えることが考えられている。これにより、水の高低差を得るための大掛かりな土木工事などを不要とすることができ、水力発電装置の設置を容易に行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007-177797号公報
【特許文献2】特開2013-224592号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、放流水路に設けられる水力発電装置においては、次のような課題が問題視されている。即ち、放流水路を介して放流される水は、例えば生活排水や下水の処理水などを含んでいることから比較的高温である。そのため、放流水路を介して放流される水の温度は、その水の放流先である例えば河川などの水の温度に比べて高めである。よって、河川などの水に比較的高温である水が放流されることとなり、この水温差が例えば生態系や水質に悪影響を与えることが懸念されている。また、放流水路から放流される水によって、放流先である例えば河川の川底が削られてしまうこと、いわゆる「洗掘」が発生することも懸念されている。また、放流された水が放流先の水に混合する際に騒音が発生することも懸念されている。
【0007】
そこで、本実施形態は、水を放流する放流水路に設けられる水力発電装置に関し、放流に伴う水温差の発生を抑制することができ、また、いわゆる「洗掘」の発生を抑制することができ、また、放流に伴う騒音の発生を抑制することができるようにした構成を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本実施形態に係る水力発電装置は、水を放流する放流水路に設けられる水力発電装置であって、前記放流水路内を、水の流速を維持する流速維持領域と、水の流速を低下させる流速低下領域と、に仕切る仕切り部と、前記放流水路内のうち前記流速低下領域に設けられ、前記流速低下領域内を流れる水によって回転体を回転させることにより電力を発生する発電機と、前記発電機を前記流速低下領域内に保持する保持部と、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1実施形態に係る水力発電装置の構成例を概略的に示す斜視図
【
図2】第1実施形態に係る水力発電装置の構成例を概略的に示す縦断側面図
【
図3】第1実施形態に係る放流水路内における流速の相違を概略的に示す斜視図
【
図4】第2実施形態に係る水力発電装置の構成例を概略的に示す斜視図
【
図5】第2実施形態に係る水力発電装置の構成例を概略的に示す縦断側面図
【
図6】第3実施形態に係る水力発電装置の構成例を概略的に示す平面図
【
図7】第3実施形態に係る水力発電装置の構成例を概略的に示す縦断側面図
【
図8】第4実施形態に係る水力発電装置の構成例を概略的に示す縦断側面図
【
図9】第4実施形態に係る固定用構造物の構成例を概略的に示す斜視図
【
図10】第5実施形態に係る放流時における水力発電装置の構成例を概略的に示す縦断側面図
【
図11】第5実施形態に係る逆流時における水力発電装置の構成例を概略的に示す縦断側面図
【
図12】第5実施形態に係る固定用構造物の構成例を概略的に示す斜視図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の水力発電装置に係る複数の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、複数の実施形態において実質的に同一の要素には同一の符号を付して、その説明を省略する。
【0011】
(第1実施形態)
図1に例示するように、河川10の護岸堤防11には水門台12が設けられている。水門台12は、図示しない電動昇降装置により昇降可能に設けられた水門ゲート13を備えている。また、水門台12は、例えば導管などにより構成されている放水口14を備えている。水門台12は、水門ゲート13を上昇させることにより放水口14を開放し、水門ゲート13を下降させることにより放水口14を閉塞する。水門台12は、水門ゲート13を上昇させて放水口14を開放状態とすることにより、
図1に矢印W1で例示するように、当該放水口14から例えば下水処理水などといった水を放出可能となっている。水門台12の上流側には、例えば下水などの水を処理する浄化センターなどが設けられている。
【0012】
また、護岸堤防11よりも河川10側には河川敷15が形成されている。そして、この河川敷15には放流水路20が設けられている。放流水路20は、水門台12から河川10に向かって延びている。この場合、放流水路20は、水門台12から河川10に向かって直線状に延びている。水門台12の放水口14から放出された水は、この放流水路20を介して河川10に放流される。なお、放流水路20は、その一部が例えば蛇行していたり屈曲していたりしていてもよい。
【0013】
放流水路20は、底面21および側壁面22を有している。
図2にも例示するように、放流水路20の底面21は、この場合、水門台12側である上流側から河川10側である下流側に向かって緩やかな下り勾配となっている。このように構成される放流水路20によれば、当該放流水路20内において、重力による水の自然流下を促すことができる。これにより、放流水路20を介した水の放流を効率良く行うことができる。なお、放流水路20の底面21は、水平な底面であってもよいし、上流側から下流側に向かって緩やかな上り勾配になっていてもよい。
【0014】
また、放流水路20の側壁面22は、放流水路20の延伸方向に直交する方向つまり幅方向における両端部に設けられている。また、放流水路20の側壁面22は、ほぼ或いは完全に垂直な壁面を形成している。放流水路20の側壁面22は、例えばコンクリートやブロックなどによって構成されており、従って、その表面は、平滑ではなく、凹凸を有する粗面となっている。なお、放流水路20の底面21も、例えばコンクリートやブロックなどによって構成されており、従って、その表面は、平滑ではなく、凹凸を有する粗面となっている。
【0015】
本開示に係る水力発電装置100は、この放流水路20に設けられている。
図2にも例示するように、水力発電装置100は、仕切り板110、発電機120、吊り下げ構造部130を備えている。
【0016】
仕切り板110は、仕切り部の一例であり、例えば、ステンレスやアルミニウムなどといった耐水性や耐薬性を有する材料によって構成されている板状の部材である。仕切り板110の表面は、水流に対する抵抗の低減を図るべく、極力平滑な表面となっている。仕切り板110の表面を平滑化する手法としては、例えば、仕切り板110を構成する素材自体の表面を平滑に研磨したり、或いは、仕切り板110を構成する素材の表面に塗装やコーティングなどを施したりする手法が考えられる。また、仕切り板110は、極力強度の高い材料により構成することが好ましい。
【0017】
仕切り板110は、放流水路20内において、当該放流水路20の底面21にほぼ或いは完全に平行な下り勾配となるように設置されている。また、放流水路20内に設置された仕切り板110は、当該放流水路20内を複数の領域、この場合、上層領域104および下層領域105に仕切る。
図2に例示するように、仕切り板110は、放流水路20内の上流側から流れる水W1を上層領域104と下層領域105とに分流させる。即ち、放流水路20内の上流側から流れる水W1は、上層領域104内を流れる水W2と、下層領域105内を流れる水W3と、に分けられる。
【0018】
上層領域104は、流速維持領域の一例であり、放流水路20内のうち水の流速を維持することを意図して区画される領域である。一方、下層領域105は、流速低下領域の一例であり、放流水路20内のうち水の流速を低下させることを意図して区画される領域である。
【0019】
即ち、放流水路20内を流れる水W1は、当該放流水路20の底面21および側壁面22から摩擦や抵抗を受ける。そのため、放流水路20内を流れる水W1のうち底面21および側壁面22に接触する部分の水は、その流速が低下しやすい。一方、放流水路20内を流れる水W1のうち底面21および側壁面22に接触しない部分の水は、その流速が低下しにくく維持されやすい。
【0020】
そのため、
図3に例示するように、底面21に水が接触しない上層領域104においては、水W2の流速が低下しにくく維持されやすい。また、上層領域104のうちでも側壁面22にも水が接触しない幅方向における中央部においては、水W2の流速が一層低下しにくく一層維持されやすい。即ち、放流水路20内のうち上層領域104の幅方向における中央部が、最も水の流速が低下しにくく維持されやすい領域となっている。一方、底面21にも側壁面22にも水が接触する下層領域105においては、水W3の流速が低下しやすく維持されにくい。なお、上層領域104を流れる水W2についても、その水W2の表面においては大気との摩擦が起こることから、その流速が少なからず低下する。そのため、上層領域104のうちでも特に流速が低下しにくい領域は、上層領域104の表面よりも下の領域、換言すれば、大気との接触が無い領域である。
【0021】
発電機120は、いわゆる水中水車型の発電機であり、放流水路20内を流れる水に水没するように設けられる。この場合、発電機120は、放流水路20内において、より下部側である下層領域105内に設けられている。また、水力発電装置100は、複数、この場合、2つの発電機120を備えている。複数の発電機120は、放流水路20の幅方向に沿って相互に所定の間隔を有して設置されている。つまり、複数の発電機120は、放流水路20の幅方向において相互に離間した状態で配置されている。
【0022】
図2に例示するように、発電機120は、その外郭を構成する円筒状の筐体121の内部に、発電機本体部122および水車123を備えている。発電機本体部122は、放流水路20の底面21に沿う長尺な構成要素となっている。発電機120は、筐体121の内周面と発電機本体部122の外周面との間に狭小な水路124を形成している。水車123は、回転体の一例であり、この場合、発電機本体部122の下流側の端部に設けられている。また、水車123の回転軸125は、放流水路20の底面21に沿って延びている。なお、発電機120は、発電機本体部122の上流側の端部に水車123を備える構成であってもよい。
【0023】
このように構成される発電機120は、放流水路20内を流れる水W1のうち特に下層領域105内を流れる水W3により水車123を回転させ、これにより、電力を発生つまり発電する構成となっている。そして、発電機120が発生した電力は、例えば、図示しない水中ケーブルおよび保護電路を介して、地上の配電先設備に供給される。
【0024】
吊り下げ構造部130は、保持部の一例であり、歩廊131および吊り下げ部材132を備えている。歩廊131は、放流水路20の上部において当該放流水路20の幅方向に沿って掛け渡されている。また、歩廊131の長手方向の両端部は、放流水路20の側壁面22の上部に、図示しない治具類によって強固に固定されている。
【0025】
吊り下げ構造部130は、複数、この場合、2つの歩廊131を備えている。また、複数の歩廊131は、放流水路20の延伸方向に沿って相互に所定の間隔を有して設置されている。つまり、複数の歩廊131は、放流水路20の延伸方向において相互に離間した状態で配置されている。換言すれば、複数の歩廊131は、放流水路20の上流側と下流側に分かれて配置されている。例えば水力発電装置100の点検や補修などといった作業を行う作業者は、この歩廊131上を移動することができる。
【0026】
吊り下げ部材132は、棒状の長尺な部材であり、歩廊131に取り付けられている。吊り下げ構造部130は、1つの歩廊131に対して複数、この場合、2つの吊り下げ部材132を備えている。複数の吊り下げ部材132は、それぞれ歩廊131から下方に延びて仕切り板110を貫通しており、その下端部には発電機102が締結されている。即ち、複数の吊り下げ部材132は、発電機120を吊り下げるようにして保持している。この場合、発電機120は、上流側の端部と下流側の端部が吊り下げ部材132により吊り下げられている。
【0027】
また、複数の吊り下げ部材132は、それぞれ歩廊131に対して上下方向に位置調整可能に構成されている。吊り下げ構造部130は、歩廊131に対する吊り下げ部材132の位置を調整することにより、放流水路20内における所望の高さ位置に発電機120を配置可能となっている。この場合、発電機120は、放流水路20内のうち下層領域105内に配置されている。また、発電機120は、下層領域105内において放流水路20の底面21から離間した高さ位置、つまり、放流水路20の底面21に接触しない高さ位置に配置されている。
【0028】
また、吊り下げ構造部130は、下層領域105内における発電機120の向き、この場合、放流水路20の上流側から下流側に向けて傾斜する向きを調整可能となっている。即ち、吊り下げ構造部130は、上流側の吊り下げ部材132により発電機120の上流側の端部を相対的に高くし、下流側の吊り下げ部材132により発電機120の下流側の端部を相対的に低くすることにより、発電機120の向きを、上流側から下流側に向けて下降傾斜する向きに指向するように調整することができる。
【0029】
なお、吊り下げ構造部130は、上流側の吊り下げ部材132により発電機120の上流側の端部を相対的に高くするだけでも、発電機120の向きを、上流側から下流側に向けて下降傾斜する向きに指向するように調整することができる。また、吊り下げ構造部130は、下流側の吊り下げ部材132により発電機120の下流側の端部を相対的に低くするだけでも、発電機120の向きを、上流側から下流側に向けて下降傾斜する向きに指向するように調整することができる。
【0030】
また、吊り下げ構造部130は、上流側の吊り下げ部材132により発電機120の上流側の端部を相対的に低くし、下流側の吊り下げ部材132により発電機120の下流側の端部を相対的に高くすることにより、発電機120の向きを、上流側から下流側に向けて上昇傾斜する向きに指向するように調整することができる。
【0031】
なお、吊り下げ構造部130は、上流側の吊り下げ部材132により発電機120の上流側の端部を相対的に低くするだけでも、発電機120の向きを、上流側から下流側に向けて上昇傾斜する向きに指向するように調整することができる。また、吊り下げ構造部130は、下流側の吊り下げ部材132により発電機120の下流側の端部を相対的に高くするだけでも、発電機120の向きを、上流側から下流側に向けて上昇傾斜する向きに指向するように調整することができる。
【0032】
また、吊り下げ構造部130は、上流側の吊り下げ部材132および下流側の吊り下げ部材132により発電機120の上流側の端部および下流側の端部をほぼ或いは完全に同じ高さとすることにより、発電機120の向きを、ほぼ或いは完全に水平な方向に指向するように調整することができる。
【0033】
以上に例示した実施形態によれば、放流水路20に設けられる水力発電装置100に関し、放流水路20内を、仕切り板110によって、水の流速を維持しやすい上層領域104と水の流速を低下させやすい下層領域105とに仕切っている。この構成例によれば、放流水路20内を流れる水W1のうち上層領域104内に分流された水W2は、その流速が低下しにくく維持されやすい。そのため、水W2を放流水路20からより遠く離れた位置まで勢い良く飛散させることができ、広範囲にわたって放流することができる。これにより、仮に、放流水路20から放流される水W2の温度が放流先である河川10の水の温度よりも高温であったとしても、その高温の水W2を広範囲にわたる河川10の水により混合して希釈することができる。よって、放流に伴う水温差の発生を抑制することができ、放流に伴い発生する水温差が例えば生態系や水質に悪影響を与えることを抑制することができる。
【0034】
また、水力発電装置100によれば、仕切り板110の表面を極力平滑化した構成とすることにより、上層領域104内を流れる水W2の流速を一層維持しやすくでき、水W2を一層広範囲にわたって放流することができる。
【0035】
また、水力発電装置100によれば、放流水路20の上層領域104内つまり放流水路20のうち比較的高い位置から水W2を勢い良く放流することができ、従って、放流した水W2を一層遠くまで到達させることができ、一層広範囲にわたる放流を実現することができる。
【0036】
また、水力発電装置100によれば、放流水路20の上層領域104内から放流された水W2は、河川10のうち放流水路20からより遠く離れた位置に到達するまでに徐々に拡散する。そのため、その着水域を拡げやすく、また、着水時における衝突音も和らげることができる。また、放流水路20内を流れる水W1が上層領域104と下層領域105とに分流することに伴い、上層領域104から放出される水W2の水量を水W1の総水量に対しほぼ半減させることができる。そのため、水W2の着水量を少なくして衝突音を一層和らげることができる。さらに、上層領域104から放出される水W2は、放流水路20が設けられている河川敷からより遠く離れた位置に着水するので、河川敷に居る人が感じる着水時の音量を小さくできる効果を期待できる。また、上層領域104から放出される水W2は、より遠くまで放出されるので、その放出の過程で勢いが減衰する。そのため、この点においても、着水時における騒音の音量を抑える効果を期待できる。
【0037】
また、水力発電装置100によれば、放流水路20内を流れる水W1のうち下層領域105内に分流された水W3は、その水流を発電機120による発電に利用することができる。また、この発電機120が下層領域105内おける水路抵抗となることから、下層領域105内を流れる水W3の流速を効率良く低下させることができる。これにより、下層領域105内から放流される水W3の勢いを十分に弱めることができ、水W3によって河川10の川底が削られてしまうこと、いわゆる「洗掘」の発生を抑制することができる。また、水W3の流速の低下に加え、その水W3の水量も水W1の総水量に対しほぼ半減していることから、放流に伴い発生する騒音の音量等を抑制することができる。
【0038】
即ち、下層領域105内においては、水流のエネルギーを発電機120の水車123の回転エネルギーに効率良く変換して電力を発生することができる。また、これに伴い、水W3の流速を効率良く減速して放流される水W3の勢いを十分に弱めることができ、いわゆる「洗掘」の発生や騒音の発生を効果的に抑制することができる。また、下層領域105内に存在する発電機120そのものが水路抵抗となることから、水流W3の減速を一層効率良く行うことができる。また、発電機120は、狭小な水路124を形成しているから、このような狭小な水路124に水W3を通過させることにより、水流W3の減速を一層効率良く行うことができる。
【0039】
また、水力発電装置100によれば、放流水路20の下層側に発電機120を配置した構成、つまり、発電機120を放流水路20内の水に水没させるようにした構成であるので、発電機120に十分な量の水を長時間にわたって安定して供給することができる。また、水力発電装置100によれば、例えば、放流水路20内の水位変動、特に水位の低下が起った場合であっても、下層領域105には水が残りやすいため、発電機120を水没させた状態を維持しやすい構成ともなっている。これにより、放流水路20内の水位が安定している場合のみならず、放流水路20内の水位が不安定な場合、特に、水位が低下する場合であっても、発電機120による発電を一層効率良く且つ安定的に行うことができる。
【0040】
また、水力発電装置100によれば、放流水路20内に配置される仕切り板110を、上層領域104内を流れる水W2および下層領域105内を流れる水W3によって上下から挟むようにして支持することができる。これにより、放流水路20内における仕切り板110の位置ずれ、特に、上下方向における位置ずれを抑制することができる。
【0041】
また、水力発電装置100によれば、吊り下げ構造部130によって、発電機120を放流水路20のうち下層領域105内に適切に且つ安定的に保持することができる。これにより、下層領域105内を流れる水W3を確実に且つ安定的に発電機120に供給することができ、発電効率の向上を図ることができる。また、下層領域105内を流れる水W3を水路抵抗となる発電機120に確実に且つ安定的に接触させることができ、水W3の減速効率の向上を図ることができる。また、水W3中に冠水した発電機120には浮力が作用することから、吊り下げ構造部130にかかる発電機120の荷重も軽減できる。
【0042】
また、水力発電装置100によれば、吊り下げ構造部130は、下層領域105内における発電機120の高さを調整可能である。この構成例によれば、例えば、放流水路20を介して放流される水W1の水位が比較的低い場合には、発電機120の高さが低くなるように調整することにより、発電機120に供給される水W3が不足することを回避することができる。
【0043】
さらに、水力発電装置100によれば、吊り下げ構造部130は、下層領域105内における発電機120の向きを調整可能である。この構成例によれば、例えば、放流水路20の底面21の下り勾配に沿うように発電機120を指向させることができ、つまり、下層領域105内において水W3が流れる向きに発電機120の指向方向を合わせることができる。これにより、下層領域105内において水W3が流れる向きに応じた発電機120の配置態様を実現することができ、効率の良い発電および効率の良い水の減速を図ることができる。
【0044】
また、発電機120は、円筒状の筐体121の内部に発電機本体部122および水車123を備えた比較的簡素な構成である。そのため、発電機120の組み立てや取り扱いなどを比較的簡便に行うことができる。また、比較的簡素な構成である発電機120によれば、当該発電機120による水路抵抗が過大となることを回避することができる。そのため、下層領域105内を流れる水W3の流速が必要以上に低下してしまうことを抑制することができる。
【0045】
また、水力発電装置100によれば、歩廊131は、強固で頑丈な放流水路20の側壁面22の上部に固定されている。この構成例によれば、歩廊131が脱落してしまうことを抑制することでき、ひいては、仕切り板110や発電機120の位置ずれや脱落を抑制することができる。
【0046】
また、水力発電装置100によれば、主として作業時に使用する歩廊131を活用して、発電機120を放流水路20内に吊り下げる構成である。この構成例によれば、発電機120を保持するための支柱などを放流水路20内に設ける必要が無い。そのため、放流水路20の底面21や側壁面22に支柱などを差し込むための孔などを設ける必要が無く、放流水路20の強度が損なわれてしまうことを回避することができる。また、このような支柱が水路抵抗となることを回避することができる。
【0047】
(第2実施形態)
図4および
図5に例示する水力発電装置200は、さらに覆い板211を備えている。覆い板211は、覆い部の一例であり、この場合、放流水路20の側壁面22のうち上層領域104に対向する部分を覆っている。また、覆い板211は、仕切り板110の幅方向における両端部に一体的に設けられており、仕切り板110の幅方向における両端部から上方にほぼ或いは完全に直角に折り曲げられた構成となっている。また、覆い板211は、放流水路20の側壁面22にほぼ或いは完全に平行となる垂直な壁面を構成している。また、覆い板211の上端部は、放流水路20内を流れる水W1の水位および上層領域104内を流れる水W2の水位よりも高い位置まで延びている。また、覆い板211の表面は、仕切り板110の表面と同様に平滑な表面となっている。
【0048】
この構成例によれば、上層領域104内を流れる水W2が、粗面である放流水路20の側壁面22に接触することを覆い板211によって阻止することができる。よって、上層領域104内を流れる水W2の流速を一層維持しやすくすることができる。さらに、覆い板211の表面は、仕切り板110の表面と同様に平滑な表面となっている。よって、上層領域104内において水W2が一層流れやすくなり、水W2の流速を一層維持しやすくすることができる。
【0049】
また、覆い板211は、仕切り板110の幅方向における両端部を折り曲げることにより形成されている。この構成例によれば、折り曲げに伴い形成された稜線部分つまり覆い板211の下端部分により仕切り板110の補強効果を発揮することができ、仕切り板110全体としての強度の向上を図ることができる。
【0050】
なお、水力発電装置200は、覆い板211の上端部を歩廊131に固定した構成としてもよい。この構成例によれば、放流水路20内において仕切り板110を一層強固に且つ一層安定した状態で配置することができる。
【0051】
また、覆い板211は、少なくとも、上層領域104内を流れる水W2に接触する内面が平滑化された構成であればよく、放流水路20の側壁面22に対向する外面については必ずしも平滑化されていなくてもよい。
【0052】
また、水力発電装置200は、放流水路20の側壁面22のうち下層領域105に対向する部分を覆う覆い板を備える構成としてもよい。また、この覆い板の表面は、粗面とするとよい。この構成例によれば、下層領域105内を流れる水W3の流速を一層低下させやすくできる。
【0053】
また、覆い板211は、仕切り板110に一体的に設けるのではなく、仕切り板110とは別個の構成要素として設けてもよい。また、下層領域105に対向する部分に覆い板を設ける場合には、その覆い板は、仕切り板110に一体的に設けてもよいし、仕切り板110とは別個の構成要素として設けてもよい。
【0054】
(第3実施形態)
図6および
図7に例示する水力発電装置300は、放流水路30に設けられている。この場合、放流水路30は、底面31を有しているが、側壁面を有していない水路となっている。放流水路30の底面31は、上流側から下流側に向かって緩やかな下り勾配となっている。なお、放流水路30の底面31は、水平な底面であってもよいし、上流側から下流側に向かって緩やかな上り勾配になっていてもよい。
【0055】
水力発電装置300は、吊り下げ構造部330を備えている。吊り下げ構造部330は、保持部の一例であり、歩廊部331、脚部333を備えている。歩廊部331は、放流水路30の幅方向に沿って延びており、その長手方向の両端部が脚部333の上端部によって支持されている。脚部333の下端部は、放流水路30の底面31に固定されている。
【0056】
水力発電装置300は、複数、この場合、2つの吊り下げ構造部330を備えている。複数の吊り下げ構造部330は、放流水路30の延伸方向に沿って相互に所定の間隔を有して設置されている。つまり、複数の吊り下げ構造部330は、放流水路30の延伸方向において相互に離間した状態で配置されている。換言すれば、複数の吊り下げ構造部330は、放流水路30の上流側と下流側に分かれて配置されている。例えば水力発電装置300の点検や補修などといった作業を行う作業者は、この吊り下げ構造部330の歩廊部331上を移動することができる。
【0057】
発電機120は、歩廊部331に設けられている吊り下げ部材132によって吊り下げられており、この場合、放流水路30の下層領域105内に配置されている。吊り下げ構造部330は、歩廊部331に対する吊り下げ部材132の上下方向における位置を調整することにより、下層領域105内における発電機120の高さを調整可能となっている。また、吊り下げ構造部330は、歩廊部331に対する吊り下げ部材132の上下方向における位置を調整することにより、下層領域105内における発電機120の向きを調整可となっている。
【0058】
そして、水力発電装置300は、さらに、一対の導水板350を備えている。導水板350は、下層領域105内に保持されている発電機120の側方において、放流水路30の幅方向に沿って対をなすように配置されている。また、導水板350は、それぞれ発電機120から所定の間隔を有して配置されている。即ち、導水板350は、発電機120から離間した状態で配置されている。また、導水板350は、脚部333よりも内側に配置されている。
【0059】
導水板350は、導水路形成部の一例であり、下層領域105内に保持されている発電機120およびその周辺部分に水を導くことが可能な導水路351を形成する。即ち、導水路351は、一対の導水板350によって挟まれた領域に形成される水路であり、この導水路351内に発電機120が存在した構成となっている。
【0060】
上述した通り放流水路30は側壁面を有していない構成であり、このような放流水路30によれば、放流される水が放流水路30の幅方向に拡がってしまい、発電機120およびその周辺部分に効率良く水を供給することが困難となる。
【0061】
そのため、下層領域105内に保持されている発電機120およびその周辺部分に水を導くための導水路351を一対の導水板350によって形成した構成例によれば、放流水路30が側壁面を有しない構成であっても、導水路351内の発電機120およびその周辺部分に水W3を効率良く導くことができる。そのため、発電に必要な十分な量の水W3を発電機120に供給することができる。また、発電機120の水路抵抗により、発電機120に向けて導かれた水W3の流速を効率良く低下させることができる。
【0062】
また、第1実施形態と同様に、上層領域104内から放流される水W2については、より遠くまで放出することができ、また、水量がほぼ半減しており、また、その放水の過程で水の勢いが弱まることから、放流に伴う水温差の発生や騒音の発生を抑制することができる。また、第1実施形態と同様に、下層領域105内から放流される水W3については、流速の低下によって、いわゆる「洗掘」の発生を抑制することができ、また、水量がほぼ半減していることから、放流に伴う騒音の発生を抑制することができる。
【0063】
(第4実施形態)
図8に例示する水力発電装置400は、放流水路20の下流側の端部に格子状のゲート部401を備えている。ゲート部401は、出口部の一例であり、複数のフィン402を備えている。複数のフィン402は、それぞれ、水門台12側である上流側から河川10側である下流側に向かって上昇傾斜している。
【0064】
ゲート部401は、放流水路20の下流側の端部において固定用構造物450によって強固に固定されている。
図9に例示するように、固定用構造物450は、上流側上部幅方向部材451、下流側上部幅方向部材452、下流側下部幅方向部材453を備えている。上流側上部幅方向部材451、下流側上部幅方向部材452、下流側下部幅方向部材453は、何れも、放流水路20の幅方向に沿って直線状に延びている。
【0065】
上流側上部幅方向部材451および下流側下部幅方向部材453は、何れも、放流水路20の幅方向における長さとほぼ或いは完全に同じ長さを有しており、その長手方向における両端面が放流水路20の側壁面22にほぼ或いは完全に接触つまり内接している。一方、下流側上部幅方向部材452は、放流水路20の幅方向における長さよりも短く、換言すれば、上流側上部幅方向部材451および下流側下部幅方向部材453の長手方向の長さよりも短く、その長手方向における両端面が放流水路20の側壁面22に接触つまり内接していない。
【0066】
上流側上部幅方向部材451は、仕切り板110の下面に取り付けられる。また、上流側上部幅方向部材451は、吊り下げ部材132が貫通する図示しない貫通孔を有している。
【0067】
下流側上部幅方向部材452は、複数、この場合、2つの上側支持部材454によって上流側上部幅方向部材451に接続されている。上側支持部材454は、何れも、放流水路20の延伸方向に沿うようにして直線状に延出している。この場合、2つの上側支持部材454は、下流側上部幅方向部材452の長手方向における両端部をそれぞれ支持している。また、上側支持部材454は、下流側上部幅方向部材452を、上流側上部幅方向部材451の下流側において、放流水路20の幅方向における中央部に位置するように支持している。
【0068】
また、上側支持部材454は、仕切り板110の下面に取り付けられ、仕切り板110を下方側から支持する。
【0069】
下流側下部幅方向部材453は、複数、この場合、3つの傾斜支持部材455によって上流側上部幅方向部材451に接続されている。傾斜支持部材455は、何れも、放流水路20の上流側から下流側に向かって徐々に下降傾斜するようにして延出している。この場合、3つの傾斜支持部材455は、下流側下部幅方向部材453の長手方向における両端部および長手方向における中央部をそれぞれ支持している。また、傾斜支持部材455は、下流側下部幅方向部材453を、上流側上部幅方向部材451の下流側において、上流側上部幅方向部材451および下流側上部幅方向部材452よりも下方に位置するように支持している。
【0070】
そして、
図8に例示するように、下流側上部幅方向部材452には、例えば、図示しないボルトなどによって、ゲート部401の上下方向におけるほぼ中央部の部分が強固に固定される。また、下流側下部幅方向部材453には、例えば、図示しないボルトなどによって、ゲート部401の下端部が強固に固定される。これにより、固定用構造物450は、ゲート部401を、放流水路20の下流側の端部において強固に固定する。
【0071】
なお、ゲート部401は、例えば歩廊131などといった位置ずれが起きにくい頑丈な構成要素に、例えば、図示しないボルトなどを用いて固定されていてもよい。また、ゲート部401は、例えば、図示しないボルトなどを用いて、放流水路20の下流側の端部に直接的に固定されていてもよい。
【0072】
以上に例示したゲート部401を備える構成例によれば、
図8に例示するように、上層領域104内および下層領域105内から放出される水W2,W3は、何れも、複数のフィン402の間を通過することに伴い細分化され、且つ、そのフィン402が上流側から下流側に向かって上昇傾斜していることから、河川10に向かって上に凸の放物線を描くようにして放出されるようになる。
【0073】
これにより、上層領域104内から放流される水W2については、その水W2を細分化して放流することができ、河川10の水との混合を一層効率良く行うことができる。また、上に凸の放物線を描くように水W2を放出することにより、より遠くまで水W2を飛散させることができ、その水W2を一層広範囲にわたる河川10の水により混合して希釈することができる。
【0074】
また、下層領域105内から放流される水W3については、その水W3を細分化して放流することができ、着水時の衝撃を弱めることができる。よって、いわゆる「洗掘」の発生を一層効果的に抑制することができ、また、騒音の発生も一層効果的に抑制することができる。また、上に凸の放物線を描くように水W3を放出することにより、より広い範囲に水W3を飛散させることができ、水W3が狭小な範囲に集中して着水することを抑制することができる。よって、この点においても、いわゆる「洗掘」の発生を一層効果的に抑制することができ、また、騒音の発生も一層効果的に抑制することができる。
【0075】
また、水力発電装置400の一部を構成するゲート部401が例えば放流水路20の底面21、及び側壁面22に内接するように配置されていることにより、水力発電装置400全体としての強度の向上を図ることができる。また、ゲート部401といった構造物を放流水路20などに強固に固定すれば、水力発電装置400全体としての強度の一層の向上を図ることができる。
【0076】
また、河川10の増水時においては、河川10内の水が放流水路20内に流入つまり「逆流」してしまうことをゲート部401によって阻止することができる。この場合、ゲート部401を構成する複数のフィン402が上流側から下流側に向かって上昇傾斜している構成、つまり、河川10側である下流側部分が放流水路20側である上流側部分よりも高い構成であることから、河川10から放流水路20内への水の逆流を一層阻止しやすい構成が実現されている。
【0077】
なお、ゲート部401は、格子状の構成であればよく、例えば、複数のフィン402が傾斜せず水平になっている構成であってもよい。また、ゲート部401は、上層領域104に対応するフィン402の傾斜角度と下層領域105に対応するフィン402の傾斜角度とが異なる構成としてもよい。例えば、ゲート部401は、上層領域104に対応するフィン402の傾斜角度を下層領域105に対応するフィン402の傾斜角度よりも大きくすることにより、上層領域104内から放出される水W2を一層遠くまで飛散させることができる。
【0078】
また、ゲート部401は、複数のフィン402の傾斜角度を動的に調整可能に構成してもよい。また、フィン402は、平坦な板状のフィンであってもよいし、例えば、湾曲したフィンであってもよいし、断面波形状のフィンであってもよい。また、ゲート部401は、その全体が格子状である構成であってもよいし、その一部が格子状である構成であってもよい。ゲート部401の一部を格子状の構成とする場合には、例えば、上層領域104に対向する部分のみ、或いは、下層領域105に対向する部分のみを格子状の構成とすることができる。
【0079】
(第5実施形態)
図10および
図11に例示する水力発電装置500は、放流水路20の下流側の端部に、水に浮くことが可能な浮体501を備えている。即ち、浮体501は、例えば、その内部に空気を蓄えたバルーン状の構成、或いは、その全体または一部が水に浮く素材によって形成された構成であり、水に浮くことが可能である。浮体501は、逆流阻止部の一例であり、この場合、上層領域104の下流側の端部および下層領域105の下流側の端部にそれぞれ設けられている。浮体501は、平坦面部501aおよび円弧状面部501bを有する断面半円形状あるいは断面半楕円形状をなしている。浮体501は、平坦面部501aを放流水路20の上流側に向け、円弧状面部501bを放流水路20の下流側に向けた状態で取り付けられている。また、浮体501は、支点501cを中心として回動可能に取り付けられている。
【0080】
浮体501は、放流水路20の下流側の端部において固定用構造物550によって強固に固定されている。
図12に例示するように、固定用構造物550は、第4実施形態において例示した固定用構造物450とほぼ同様の構成となっている。但し、固定用構造物550においては、下流側上部幅方向部材452は、複数、この場合、2つの上側支持部材454の先端部の上部に固定されている。つまり、固定用構造物550は、下流側上部幅方向部材452の上流側の側面に上側支持部材454の先端部が差し込まれたような構成ではなく、下流側上部幅方向部材452が上側支持部材454の先端部上に載ったような構成となっている。この点が、固定用構造物550と固定用構造物450との相違点である。
【0081】
図10に例示するように、浮体501は、放流水路20内から放流水路20外へ水が流れる場合つまり「放流」が行われる場合には、その水の圧力を平坦面部501aにより受けて下流側に回動する。これにより、浮体501は、放流水路20内から放流水路20外への水の流出を許容する状態となる。
【0082】
また、このとき、浮体501は、その平坦面部501aが上流側から下流側に向かって上昇傾斜した状態となる。これにより、上層領域104内から放流される水W2を上に凸の放物線を描くように放出することができ、より遠くまで水W2を飛散させて、一層広範囲にわたる河川10の水に混合して希釈することができ、水温差の発生を抑制することができる。また、下層領域105内から放流される水W3を上に凸の放物線を描くように放出することができ、水W3が河川岸直近の狭小な範囲に集中して着水することを抑制して、いわゆる「洗掘」の発生や騒音の発生を抑制することができる。なお、放流時においても、浮体501には、ある程度の浮力が作用する。しかしながら、放流される水の勢いや圧力が大きいため、浮体501は、浮力の作用に抗して下流側に回動する。
【0083】
一方、
図11に例示するように、浮体501は、放流水路20外から放流水路20内へ水が流れる場合つまり「逆流」が起こる場合には、その水の圧力を円弧状面部501bにより受けるとともに、浮体501に浮力が作用するようになり、これにより上流側に回動する。これにより、浮体501は、放流水路20外から放流水路20内への水の流入を阻止する状態となる。
【0084】
なお、浮体501は、平坦面部501aがほぼ或いは完全に垂直な状態となる位置まで回動可能であれば十分であり、仮に浮体501がさらに上流側に回動してしまうと、放流水路20外から放流水路20内への水の流入を許してしまうおそれがある。そのため、水力発電装置500は、浮体501の上流側への回動可能範囲を、平坦面部501aがほぼ或いは完全に垂直な状態となる位置までの範囲に規制するストッパを設ける構成としてもよい。
【0085】
以上の通り、水力発電装置500は、放流水路20内から放流水路20外への水の流出つまり水の「放流」を許容し、且つ、放流水路20外から放流水路20内への水の流入つまり水の「逆流」を阻止する浮体501を備えている。この構成例によれば、放流水路20内から放流水路20外への水の流出つまり水の「放流」を許容しながらも、放流水路20外から放流水路20内への水の流入つまり水の「逆流」を阻止することができ、逆流した水や流出物などによって放流水路20内や水力発電装置500が損傷してしまうことを抑制することができる。
【0086】
なお、浮体501は、平坦面部501aおよび円弧状面部501bを有する断面半円形状あるいは断面半楕円形状の構成に限られず、例えば、断面板形状の構成などであってもよい。断面板形状の浮体であっても、放流水路20内から放流水路20外へ水が流れる場合つまり「放流」が行われる場合には、その水の圧力を受けて下流側に回動することができ、一方、放流水路20外から放流水路20内へ水が流れる場合つまり「逆流」が起こる場合には、その水の圧力を受けるとともに浮力の作用を受けて上流側に回動することができる。よって、例えば断面板形状の浮体であっても、放流水路20内から放流水路20外への水の流出つまり水の「放流」を許容し、且つ、放流水路20外から放流水路20内への水の流入つまり水の「逆流」を阻止する構成を十分に実現することができる。
【0087】
また、逆流阻止部は、水に浮く構成ではなく、水に浮かない構成であってもよい。この構成例によっても、水の勢いや圧力によって逆流阻止部を回動させることができるため、放流水路20内から放流水路20外への水の流出つまり水の「放流」を許容し、且つ、放流水路20外から放流水路20内への水の流入つまり水の「逆流」を阻止する構成を十分に実現することができる。
【0088】
(その他の実施形態)
なお、本開示は、上述した複数の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において、種々の変形や拡張を行うことができる。例えば、水力発電装置は、上述した複数の実施形態を適宜選択して組み合わせた構成としてもよい。
【0089】
また、放流水路20内における仕切り板110の高さ位置を適宜調整することにより、上層領域104内に流入する水W2の量と下層領域105内に流入する水W3の量とのバランスを調整することができる。即ち、放流水路20内における仕切り板110の高さ位置を高くすることにより、上層領域104内に流入する水W2の量を相対的に少なくし、下層領域105内に流入する水W3の量を相対的に多くすることができる。また、放流水路20内における仕切り板110の高さ位置を低くすることにより、上層領域104内に流入する水W2の量を相対的に多くし、下層領域105内に流入する水W3の量を相対的に少なくすることができる。
【0090】
よって、例えば、より広範囲に水を放流したい場合には、仕切り板110の高さ位置を低くして上層領域104内に流入する水W2の量を相対的に多くすればよい。一方、例えば、より効率良く発電を行いたい場合、或いは、より効率良く水の流速を減速させたい場合には、仕切り板110の高さ位置を高くして下層領域105内に流入する水W3の量を相対的に多くすればよい。
【0091】
また、発電機120は、本開示に例示した構成例に限られるものではなく、例えば特許文献1,2に開示されているような構成の発電機であってもよいし、一般的に公知となっている種々の発電機を適用することができる。なお、発電機としては、いわゆる水中水車型の発電機、つまり、水中に配置され、且つ、水流を受けて回転する回転体を有する構成の発電機であることが好ましいが、これ以外の発電機であってもよい。
【0092】
また、仕切り板110は、その表面、特に、下層領域105と接する下面を、平滑な表面ではなく、粗面状としてもよい。また、仕切り板110は、その表面、特に、下層領域105と接する下面に意図的に凹凸を有する構成であってもよい。
【0093】
また、歩廊131や歩廊部331の数、大きさ、設置位置などは、適宜変更して実施することができる。また、歩廊131や歩廊部331に手摺りや柵などを設けてもよい。また、歩廊131同士あるいは歩廊部331同士を連結する連結橋を設けた構成としてもよい。
【0094】
また、1つの発電機120を1つの吊り下げ部材132により保持する構成としてもよいし、1つの発電機120を少なくとも3つ以上の複数の吊り下げ部材132により保持する構成としてもよい。
【0095】
また、吊り下げ部材132は、仕切り板110および発電機120を保持するために十分な強度を確保するとともに、放流水路20,30内を流れる水の圧力に耐え得る十分な強度を確保する必要がある。
【0096】
また、水力発電装置は、吊り下げ部材132を支持する支持部材を設けた構成としてもよい。この構成例によれば、吊り下げ部材132が水流を受けることに伴う揺れや振動を抑制することができる。また、吊り下げ部材132は、放流水路20,30内を流れる水から受ける抵抗を極力軽減できる形状としたり、放流水路20,30内を流れる水に泡が極力発生しにくくなる形状としたりするとよく、例えば断面円形状や断面楕円形状とするとよい。
【0097】
また、歩廊131や歩廊部331に対する吊り下げ部材132の位置調整、換言すれば、放流水路20,30内における仕切り板110および発電機120の高さや向きの調整は、手動により行う構成としてもよいし、例えば電動昇降装置などを用いて自動的に行う構成としてもよい。電動昇降装置を用いる場合、その電源は、水門ゲート13を昇降させる電動昇降装置の電源から供給する構成としてもよいし、発電機120が発電した電力を蓄積する蓄電装置から供給する構成としてもよいし、その他の電源から供給する構成としてもよい。
【0098】
また、水力発電装置100は、その構成要素である仕切り板110、発電機120、吊り下げ構造部130を別個に放流水路20に設置、つまり、現地組み立てすることにより設けてもよいし、製作工場などで予め組み立てられた水力発電装置100を図示しないクレーンなどを用いて放流水路20に設置するようにしてもよい。なお、この技術思想は、水力発電装置200,300,400,500にも適用可能である。
【0099】
また、水力発電装置100は、1つの発電機120に対して1つの仕切り板110および1つの吊り下げ構造部130を備える構成としてもよい。即ち、水力発電装置100は、1つの仕切り板110、1つの発電機120、1つの吊り下げ構造部130からなる水力発電ユニットを1つ或いは複数備える構成としてもよい。この構成例によれば、水力発電ユニットごとに点検や補修などの作業を行うことができ、作業性の向上を図ることができる。
【0100】
また、全ての水力発電ユニットを停止させなくとも、作業対象となる水力発電ユニットのみを停止させて作業を行うことができる。つまり、作業対象ではない水力発電ユニットによる発電を継続したままで、作業対象となる水力発電ユニットのみについて、その動作を停止させて作業を行うことができる。また、この場合、作業対象となる水力発電ユニットを構成する吊り下げ構造部130の吊り下げ部材132を昇降させるための電源は、作業対象ではない水力発電ユニットが発生する電力を利用することができる。なお、これらの技術思想も、水力発電装置200,300,400,500にも適用可能である。
【0101】
また、固定用構造物450,550の構成例は、あくまでも一例であり、ゲート部401や浮体501を強固に固定できる構成であれば、種々の構成を適用することができる。
【0102】
以上、本発明に係る複数の実施形態を説明したが、これらの実施形態は、あくまでも例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の省略、置き換え、変更などを行うことができる。本実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明およびその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0103】
図面において、20,30は放流水路、100,200,300,400,500は水力発電装置、104は上層領域(流速維持領域)、105は下層領域(流速低下領域)、110は仕切り板(仕切り部)、120は発電機、123は水車(回転体)、130,330は吊り下げ構造部(保持部)、211は覆い板(覆い部)、350は導水板(導水路形成部)、351は導水路、401はゲート部(出口部)、501は浮体(逆流阻止部)、を示す。
【手続補正書】
【提出日】2022-10-13
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水を放流する放流水路に設けられる水力発電装置であって、
前記放流水路内を、水の流速を維持する流速維持領域と、水の流速を低下させる流速低下領域と、に仕切る仕切り部と、
前記放流水路内のうち前記流速低下領域に設けられ、前記流速低下領域内を流れる水によって回転体を回転させることにより電力を発生する発電機と、
前記発電機を前記流速低下領域内に保持する保持部と、
前記放流水路の側壁面のうち前記流速維持領域に対向する部分を覆う覆い部と、
を備える水力発電装置。
【請求項2】
前記保持部は、前記流速低下領域内における前記発電機の高さを調整可能である請求項1に記載の水力発電装置。
【請求項3】
前記保持部は、前記流速低下領域内における前記発電機の向きを調整可能である請求項1または2に記載の水力発電装置。
【請求項4】
前記流速低下領域内に保持されている前記発電機に水を導く導水路を形成する導水路形成部を備える請求項1から3の何れか1項に記載の水力発電装置。
【請求項5】
前記放流水路の下流部に格子状の出口部を備える請求項1から4の何れか1項に記載の水力発電装置。
【請求項6】
前記放流水路内から前記放流水路外への水の流出を許容し、前記放流水路外から前記放流水路内への水の流入を阻止する逆流阻止部を備える請求項1から5の何れか1項に記載の水力発電装置。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0008
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0008】
本実施形態に係る水力発電装置は、水を放流する放流水路に設けられる水力発電装置であって、前記放流水路内を、水の流速を維持する流速維持領域と、水の流速を低下させる流速低下領域と、に仕切る仕切り部と、前記放流水路内のうち前記流速低下領域に設けられ、前記流速低下領域内を流れる水によって回転体を回転させることにより電力を発生する発電機と、前記発電機を前記流速低下領域内に保持する保持部と、前記放流水路の側壁面のうち前記流速維持領域に対向する部分を覆う覆い部と、を備える。