(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023183518
(43)【公開日】2023-12-28
(54)【発明の名称】搬送制御装置、搬送制御方法、搬送制御プログラム
(51)【国際特許分類】
B05C 13/02 20060101AFI20231221BHJP
B65H 23/192 20060101ALI20231221BHJP
D06H 3/10 20060101ALI20231221BHJP
【FI】
B05C13/02
B65H23/192
D06H3/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022097076
(22)【出願日】2022-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【弁理士】
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 正樹
【テーマコード(参考)】
3B154
3F105
4F042
【Fターム(参考)】
3B154AB01
3B154AB18
3B154BB39
3B154BB47
3B154BC03
3B154BC22
3B154CA09
3B154CA16
3B154CA39
3F105AA01
3F105AA04
3F105AA11
3F105AA12
3F105AA16
3F105AB03
3F105BA09
3F105CA11
3F105CB01
3F105DA12
3F105DA63
3F105DA64
3F105DB11
3F105DB16
3F105DC03
4F042AA22
4F042AB00
4F042BA04
4F042BA05
4F042BA14
4F042DF19
4F042DF20
4F042DF24
4F042DH09
(57)【要約】
【課題】張力検出器によらなくても被搬送物の異常を効果的に検知できる搬送制御装置等を提供する。
【解決手段】搬送制御装置1は、速度指令に応じた駆動速度で被搬送物3を駆動する駆動モータ11と、駆動モータ11の駆動速度を測定するエンコーダ12と、速度指令と駆動速度の差に基づいて被搬送物3の異常を検知する異常検知部16と、を備える。異常検知部16は、駆動速度が速度指令より所定の閾値以上大きい場合に、被搬送物3の破断等の異常を検知する。速度指令に基づいて速度制御値を演算する速度制御部13と、速度制御値と駆動モータ11の回転速度の差に基づいて、駆動モータ11に対するトルク指令を演算するトルク制御部15と、を更に備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
速度指令に応じた駆動速度で被搬送物を駆動する駆動部と、
前記駆動速度を測定する駆動速度測定部と、
前記速度指令と前記駆動速度の差に基づいて前記被搬送物の異常を検知する異常検知部と、
を備える搬送制御装置。
【請求項2】
前記異常検知部は、前記駆動速度が前記速度指令より大きい場合に異常を検知する、請求項1に記載の搬送制御装置。
【請求項3】
前記異常検知部は、前記駆動速度が前記速度指令より所定の閾値以上大きい場合に異常を検知する、請求項2に記載の搬送制御装置。
【請求項4】
前記異常検知部は、前記速度指令と前記駆動速度の差に基づいて前記被搬送物の破断を検知する、請求項1から3のいずれかに記載の搬送制御装置。
【請求項5】
前記駆動部は、前記速度指令に応じた回転速度で回転して前記被搬送物を駆動するモータであり、
前記駆動速度測定部は、前記回転速度を測定し、
前記異常検知部は、前記速度指令と前記回転速度の差に基づいて前記被搬送物の異常を検知する、
請求項1から3のいずれかに記載の搬送制御装置。
【請求項6】
前記速度指令に基づいて速度制御値を演算する速度制御部と、
前記速度制御値と前記回転速度の差に基づいて、前記モータに対するトルク指令を演算するトルク制御部と、
を更に備える請求項5に記載の搬送制御装置。
【請求項7】
速度指令に応じた駆動速度で被搬送物を駆動する駆動ステップと、
前記駆動速度を測定する駆動速度測定ステップと、
前記速度指令と前記駆動速度の差に基づいて前記被搬送物の異常を検知する異常検知ステップと、
を備える搬送制御方法。
【請求項8】
速度指令に応じた駆動速度で被搬送物を駆動する駆動ステップと、
前記駆動速度を測定する駆動速度測定ステップと、
前記速度指令と前記駆動速度の差に基づいて前記被搬送物の異常を検知する異常検知ステップと、
をコンピュータに実行させる搬送制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は搬送制御装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、被搬送物に塗工処理を施す塗工装置において、被搬送物に破断等が発生しないように当該被搬送物の張力を制御する技術が開示されている。具体的には、塗工処理部の前段に設けられる張力検出器によって検出された張力と張力指令(張力設定値)の張力偏差に応じて、塗工処理部におけるローラの回転速度を制御することで被搬送物の張力を所望の範囲内に維持して破断等を防止する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
被搬送物の破断等の防止のために張力検出器が設けられる特許文献1では、比較的大型の張力検出器のための設置スペースを塗工装置内に確保する必要がある。しかし、塗工装置内のスペースの制約や塗工処理上の制約のために張力検出器を設置することが現実的ではない場合も想定される。また、張力検出器は塗工装置の高コスト化の直接的な要因でもある。
【0005】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、張力検出器によらなくても被搬送物の異常を効果的に検知できる搬送制御装置等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の搬送制御装置は、速度指令に応じた駆動速度で被搬送物を駆動する駆動部と、駆動速度を測定する駆動速度測定部と、速度指令と駆動速度の差に基づいて被搬送物の異常を検知する異常検知部と、を備える。
【0007】
この態様によれば、被搬送物に破断等の異常が発生した場合に生じる速度指令と駆動速度の差に基づいて、当該異常を効果的に検知できる。
【0008】
本発明の別の態様は、搬送制御方法である。この方法は、速度指令に応じた駆動速度で被搬送物を駆動する駆動ステップと、駆動速度を測定する駆動速度測定ステップと、速度指令と駆動速度の差に基づいて被搬送物の異常を検知する異常検知ステップと、を備える。
【0009】
なお、以上の構成要素の任意の組合せや、これらの表現を方法、装置、システム、記録媒体、コンピュータプログラム等に変換したものも、本発明に包含される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、張力検出器によらなくても被搬送物の異常を効果的に検知できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下では、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態(以下では実施形態ともいう)について詳細に説明する。説明および/または図面においては、同一または同等の構成要素、部材、処理等に同一の符号を付して重複する説明を省略する。図示される各部の縮尺や形状は、説明の簡易化のために便宜的に設定されており、特に言及がない限り限定的に解釈されるものではない。実施形態は例示であり、本発明の範囲を何ら限定するものではない。実施形態に記載される全ての特徴やそれらの組合せは、必ずしも本発明の本質的なものであるとは限らない。
【0013】
図1は、被搬送物3を搬送する搬送装置2の搬送動作を制御する搬送制御装置1の構成を模式的に示す。被搬送物3としては、紐やワイヤ等の線状のものや、紙、布、フィルム、箔、ゴム等の面状またはシート状のものが例示される。本実施形態では、シート状の基材を被搬送物3として搬送方向(
図1において概ね左から右に向かう方向)に搬送するロール・ツー・ロール(Roll-to-Roll)方式の搬送装置2について説明する。搬送装置2は、搬送される被搬送物に対して任意の処理を施す装置、例えば、被搬送物にコーティング等の塗工処理を施すコータまたは塗工装置、被搬送物に印刷を施す印刷機、被搬送物に張力を印加して延伸する延伸装置等の一部でもよい。本実施形態では搬送装置2が塗工装置の一部であるものとする。
【0014】
搬送装置2は、被搬送物3の搬送経路上に設けられて当該被搬送物3を搬送方向に搬送または案内する複数のローラ21~23を備える。駆動ローラ21は、駆動モータ11によって
図1における時計回り方向に回転駆動されて被搬送物3を搬送方向に送り出す。駆動ローラ21は、被搬送物3の塗工面(例えば、
図1における上面)に塗工材をコーティングする塗工処理部を構成してもよい。
【0015】
駆動ローラ21の後段に設けられるガイドローラ22、23は、被搬送物3の表面(
図1における上面)に接触しながら被搬送物3を搬送方向に案内する。ガイドローラ22、23は、駆動ローラ21と同様に、不図示の駆動モータや減速機によって
図1における反時計回り方向に回転駆動されてもよい。
【0016】
搬送制御装置1は、駆動部としての駆動モータ11と、駆動速度測定部としてのエンコーダ12またはパルス生成器(PG: Pulse Generator)と、速度制御部13と、減算器14と、トルク制御部15と、異常検知部16と、報知部17を備える。これらの機能ブロック(特に、異常検知部16および報知部17)は、コンピュータの中央演算処理装置、メモリ、入力装置、出力装置、コンピュータに接続される周辺機器等のハードウェア資源と、それらを用いて実行されるソフトウェアの協働により実現される。コンピュータの種類や設置場所は問わず、上記の各機能ブロックは、単一のコンピュータのハードウェア資源で実現してもよいし、複数のコンピュータに分散したハードウェア資源を組み合わせて実現してもよい。例えば、搬送制御装置1の機能ブロックの一部または全部は、搬送装置2と同じ敷地や建物に設けられるコンピュータやプロセッサで分散的または集中的に実現してもよいし、搬送装置2と異なる敷地や建物に設けられるコンピュータやプロセッサで分散的または集中的に実現してもよい。
【0017】
駆動モータ11は、後述する速度指令に応じた駆動速度(搬送速度)で被搬送物3を駆動する駆動部である。具体的には、駆動モータ11は、速度指令に応じた回転速度で回転して駆動ローラ21を
図1における時計回り方向に回転駆動する。駆動モータ11と駆動ローラ21の間に減速機が設けられる場合、その変速比のために駆動モータ11の回転速度と駆動ローラ21の回転速度は異なる。典型的には、駆動モータ11の回転速度は駆動ローラ21の回転速度より大きい。
【0018】
エンコーダ12は、駆動モータ11による駆動速度を測定する駆動速度測定部である。エンコーダ12は、駆動モータ11の回転速度を駆動速度として測定してもよいし、駆動ローラ21の回転速度を駆動速度として測定してもよい。また、駆動ローラ21の回転速度と等価な被搬送物3の搬送速度を駆動速度として測定する駆動速度測定部が、エンコーダ12に加えてまたは代えて設けられてもよい。駆動モータ11および/または駆動ローラ21の回転角度または回転位置を検出するエンコーダ12の方式は、インクリメンタル方式でもよいしアブソリュート方式でもよい。
【0019】
例えば、インクリメンタル方式のエンコーダ12は、所定回数(複数)のA相、B相のパルス信号と一回のZ相のパルス信号を、駆動モータ11および/または駆動ローラ21の一回転毎に出力する。A相、B相のパルス信号はカウンタによって計数され、Z相のパルス信号によって計数値がリセットされる。駆動モータ11および/または駆動ローラ21の各回転において増加するA相、B相のパルス信号の計数値は、駆動モータ11および/または駆動ローラ21の位相または回転位置を表す。このようなパルス信号によって連続的に検知される駆動モータ11および/または駆動ローラ21の回転位置を、その時間間隔で除算することで駆動モータ11および/または駆動ローラ21の回転速度が得られる。
【0020】
速度制御部13は、搬送制御装置1外または搬送制御装置1内の不図示の上位コントローラから与えられる速度指令に基づいて速度制御値を演算する。速度制御部13は、速度指令に比例ゲインを乗算する比例制御部、速度指令に積分ゲインを乗算して積分する積分制御部、速度指令に微分ゲインを乗算して微分する微分制御部の少なくともいずれかを含んでもよい。
【0021】
減算器14は、速度制御部13によって演算された速度制御値と、エンコーダ12によって測定された駆動速度(測定速度)を減算して、速度偏差を求める。なお、搬送制御装置1は速度制御部13を備えなくてもよく、その場合の減算器14は、上位コントローラから与えられる速度指令と、エンコーダ12によって測定された駆動速度(測定速度)を減算して、速度偏差を求める。
【0022】
トルク制御部15は、減算器14によって演算された速度偏差(速度制御値または速度指令と、駆動速度または回転速度の差)に基づいて駆動モータ11に対するトルク指令を演算する。トルク制御部15は、速度偏差に比例ゲインを乗算する比例制御部、速度偏差に積分ゲインを乗算して積分する積分制御部、速度偏差に微分ゲインを乗算して微分する微分制御部の少なくともいずれかを含んでもよい。
【0023】
駆動モータ11は、上位コントローラから与えられる速度指令およびトルク制御部15によって演算されるトルク指令に応じた駆動電流によって、所望の回転速度およびトルクで回転駆動される。
【0024】
異常検知部16は、上位コントローラから与えられる速度指令と、エンコーダ12等の駆動速度測定部によって測定される駆動速度または回転速度の差に基づいて被搬送物3の異常を検知する。被搬送物3の異常の類型としては、破断、張り、弛み、皺等が例示される。このうち破断が発生すると、搬送動作のバランスを維持していた負荷としての被搬送物3の張力が消失または激減する結果、駆動モータ11および/または駆動ローラ21の駆動速度が速度指令から乖離する「暴走」状態となる。典型的には、トルク指令(および速度指令)に応じて駆動モータ11に流され続ける駆動電流によって過剰になったトルクが、駆動モータ11および駆動ローラ21に加速度運動を行わせる結果、駆動速度が速度指令より大きくなる「オーバースピード」状態となる。このため、異常検知部16は、駆動速度が速度指令より有意に大きくなった場合に、被搬送物3に破断等の異常が発生したことを検知できる。例えば、駆動速度と速度指令の差(「駆動速度」-「速度指令」)が、破断等の異常を検知するために予め設定された異常検知閾値以上になった場合に、異常検知部16は被搬送物3に破断等の異常が発生したことを検知する。
【0025】
なお、異常検知部16は、上位コントローラから与えられる速度指令の代わりに、速度制御部13によって演算される速度制御値を利用してもよい。この場合、異常検知部16は、速度制御部13によって演算される速度制御値と、エンコーダ12等の駆動速度測定部によって測定される駆動速度または回転速度の差(減算器14の出力と同等)に基づいて被搬送物3の異常を検知する。また、破断以外の張り、弛み、皺等の被搬送物3の異常も、速度指令または速度制御値と駆動速度または回転速度のアンバランスの原因または結果となりえるため、このような速度のアンバランスを監視する異常検知部16が破断以外の類型の被搬送物3の異常を検知できる可能性がある。この場合、破断時のように駆動速度が速度指令より大きくなることだけでなく、破断時とは異なり駆動速度が速度指令より小さくなることも想定される。
【0026】
報知部17は、異常検知部16によって検知された被搬送物3の破断等の異常を搬送装置2および/または搬送制御装置1の管理者等に報知する。特に被搬送物3に破断が発生した場合は、適切な塗工処理等を継続できないだけでなく、破断した被搬送物3が塗工装置等の意図しないローラに巻き込まれる等の恐れもあるため、報知部17自体または報知部17に併設される不図示の異常停止部が、搬送装置2および/または搬送制御装置1を異常停止させるのが好ましい。
【0027】
本実施形態によれば、被搬送物3に破断等の異常が発生した場合に生じる速度指令と駆動速度の差に基づいて、当該異常を張力検出器によらなくても効果的に検知できる。特許文献1のように張力検出器を設ける必要がないため、搬送装置2や塗工装置における限られたスペースを張力検出器のために割く必要がなくなり、搬送装置2や塗工装置の低コスト化にも繋がる。但し、本発明は張力検出器を排除することを意図するものではなく、例えば
図1の本実施形態の構成に対して張力検出器を付加してもよい(例えば、ガイドローラ22、23の間にダンサ等の張力検出器を設けてもよい)。
【0028】
以上、本発明を実施形態に基づいて説明した。例示としての実施形態における各構成要素や各処理の組合せには様々な変形例が可能であり、そのような変形例が本発明の範囲に含まれることは当業者にとって自明である。
【0029】
なお、実施形態で説明した各装置や各方法の構成、作用、機能は、ハードウェア資源またはソフトウェア資源によって、あるいは、ハードウェア資源とソフトウェア資源の協働によって実現できる。ハードウェア資源としては、例えば、プロセッサ、ROM、RAM、各種の集積回路を利用できる。ソフトウェア資源としては、例えば、オペレーティングシステム、アプリケーション等のプログラムを利用できる。
【符号の説明】
【0030】
1 搬送制御装置、2 搬送装置、3 被搬送物、11 駆動モータ、12 エンコーダ、13 速度制御部、14 減算器、15 トルク制御部、16 異常検知部、17 報知部、21 駆動ローラ。