IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ オルガノ株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-イオン交換体の殺菌方法 図1
  • 特開-イオン交換体の殺菌方法 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023183541
(43)【公開日】2023-12-28
(54)【発明の名称】イオン交換体の殺菌方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/50 20230101AFI20231221BHJP
   A61L 2/18 20060101ALN20231221BHJP
   A61L 101/06 20060101ALN20231221BHJP
【FI】
C02F1/50 510B
C02F1/50 520B
C02F1/50 520F
C02F1/50 520P
C02F1/50 532H
C02F1/50 531M
C02F1/50 531L
C02F1/50 532E
C02F1/50 532J
C02F1/50 550C
C02F1/50 540B
C02F1/50 531P
C02F1/50 531N
A61L2/18
A61L101:06
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022097111
(22)【出願日】2022-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】000004400
【氏名又は名称】オルガノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉川 浩
(72)【発明者】
【氏名】森田 樹生
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 雄大
【テーマコード(参考)】
4C058
【Fターム(参考)】
4C058AA24
4C058BB07
4C058CC02
4C058DD05
4C058DD07
4C058JJ07
4C058JJ08
(57)【要約】
【課題】イオン交換体の劣化を抑制しつつ微生物の増殖を抑制することができるイオン交換体の殺菌方法を提供する。
【解決手段】イオン交換体の殺菌を行うイオン交換体の殺菌方法であって、イオン交換体に流入する水に、殺菌剤として臭素系酸化剤、塩素系酸化剤とスルファミン酸化合物とを含む安定化次亜塩素酸組成物、および臭素系酸化剤とスルファミン酸化合物とを含む安定化次亜臭素酸組成物のうちの少なくとも1つを添加する、イオン交換体の殺菌方法である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン交換体の殺菌を行うイオン交換体の殺菌方法であって、
前記イオン交換体に流入する水に、殺菌剤として臭素系酸化剤、塩素系酸化剤とスルファミン酸化合物とを含む安定化次亜塩素酸組成物、および臭素系酸化剤とスルファミン酸化合物とを含む安定化次亜臭素酸組成物のうちの少なくとも1つを添加することを特徴とするイオン交換体の殺菌方法。
【請求項2】
請求項1に記載のイオン交換体の殺菌方法であって、
前記殺菌剤が、前記安定化次亜臭素酸組成物であることを特徴とするイオン交換体の殺菌方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載のイオン交換体の殺菌方法であって、
前記イオン交換体が、ゲル型のイオン交換樹脂であることを特徴とするイオン交換体の殺菌方法。
【請求項4】
請求項1または2に記載のイオン交換体の殺菌方法であって、
前記イオン交換体への前記殺菌剤の接触量が、有効塩素としての濃度(mgCl/L)と接触時間(h)との積であるCT値として、9,000,000(mgCl/L・h)以下であることを特徴とするイオン交換体の殺菌方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン交換体の殺菌方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の水不足に伴い、工場における水回収率が増加している。水回収においてイオン交換樹脂が用いられる場合、イオン交換樹脂にも排水等の有機物の含有量が高い水が直接流入するケースがある。その場合、イオン交換樹脂で微生物が増殖し、処理水質を悪化させたり、運転効率の低下を引き起こしたりする可能性がある(特許文献1参照)。
【0003】
特許文献2には、イオン交換樹脂に対する殺菌処理として、熱水殺菌や次亜塩素酸含有水を一時的に流入させることが記載されている。
【0004】
しかし、次亜塩素酸は酸化剤であるため、イオン交換樹脂を酸化劣化させる懸念がある。イオン交換樹脂が劣化した場合、イオン交換樹脂由来の溶出物が、イオン交換樹脂処理の後段の装置や処理水の水質に悪影響を及ぼす可能性がある(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-018851号公報
【特許文献2】特開2007-209945号公報
【特許文献3】特開2010-227886号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、イオン交換体の劣化を抑制しつつ微生物の増殖を抑制することができるイオン交換体の殺菌方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、イオン交換体の殺菌を行うイオン交換体の殺菌方法であって、前記イオン交換体に流入する水に、殺菌剤として臭素系酸化剤、塩素系酸化剤とスルファミン酸化合物とを含む安定化次亜塩素酸組成物、および臭素系酸化剤とスルファミン酸化合物とを含む安定化次亜臭素酸組成物のうちの少なくとも1つを添加する、イオン交換体の殺菌方法である。
【0008】
前記イオン交換体の殺菌方法において、前記殺菌剤が、前記安定化次亜臭素酸組成物であることが好ましい。
【0009】
前記イオン交換体の殺菌方法において、前記イオン交換体が、ゲル型のイオン交換樹脂であることが好ましい。
【0010】
前記イオン交換体の殺菌方法において、前記イオン交換体への前記殺菌剤の接触量が、有効塩素としての濃度(mgCl/L)と接触時間(h)との積であるCT値として、9,000,000(mgCl/L・h)以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によって、イオン交換体の劣化を抑制しつつ微生物の増殖を抑制することができるイオン交換体の殺菌方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施形態に係るイオン交換体の殺菌方法を適用することができる水処理装置を示す概略構成図である。
図2】実施例におけるイオン交換樹脂の浸漬液からの溶出TOCの推移を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施の形態について以下説明する。本実施形態は本発明を実施する一例であって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
【0014】
<イオン交換体の殺菌方法>
本実施形態に係るイオン交換体の殺菌方法は、イオン交換体に流入する水に、殺菌剤として臭素系酸化剤、塩素系酸化剤とスルファミン酸化合物とを含む安定化次亜塩素酸組成物、および臭素系酸化剤とスルファミン酸化合物とを含む安定化次亜臭素酸組成物のうちの少なくとも1つを添加する方法である。
【0015】
本発明の実施形態に係るイオン交換体の殺菌方法を適用することができる水処理装置の一例の概略を図1に示し、その構成について説明する。
【0016】
水処理装置1は、イオン交換体を用いて被処理水を処理するイオン交換処理手段として、イオン交換体を有するイオン交換処理装置10を備える。
【0017】
図1の水処理装置1において、イオン交換処理装置10の被処理水入口には、被処理水配管12が接続され、処理水出口には処理水配管14が接続されている。被処理水配管12には、イオン交換処理装置10の前段において、イオン交換体に流入する水に、殺菌剤として臭素系酸化剤、塩素系酸化剤とスルファミン酸化合物とを含む安定化次亜塩素酸組成物、および臭素系酸化剤とスルファミン酸化合物とを含む安定化次亜臭素酸組成物のうちの少なくとも1つを添加する殺菌剤添加手段として、殺菌剤添加配管16が接続されている。
【0018】
本実施形態に係るイオン交換体の殺菌方法を適用することができる水処理方法および水処理装置1の動作について説明する。
【0019】
イオン交換体に流入する水である被処理水は、被処理水配管12を通してイオン交換処理装置10へ送液される。ここで、被処理水配管12において殺菌剤添加配管16を通して、殺菌剤として臭素系酸化剤、塩素系酸化剤とスルファミン酸化合物とを含む安定化次亜塩素酸組成物、および臭素系酸化剤とスルファミン酸化合物とを含む安定化次亜臭素酸組成物のうちの少なくとも1つが被処理水に添加され(殺菌剤添加工程)、殺菌剤が添加された被処理水がイオン交換処理装置10へ送液される。イオン交換処理装置10において、被処理水のイオン交換処理が行われる(イオン交換処理工程)。イオン交換処理が行われた処理水は、処理水配管14を通して排出される。
【0020】
イオン交換処理装置10の前段に、被処理水を貯留する被処理水槽を設置してもよい。その場合、殺菌剤は、被処理水槽において被処理水に添加されてもよいし、被処理水配管12において被処理水に添加されてもよい。
【0021】
本発明者らは、イオン交換体に流入する被処理水に、臭素系酸化剤、塩素系酸化剤とスルファミン酸化合物とを含む安定化次亜塩素酸組成物、および臭素系酸化剤とスルファミン酸化合物とを含む安定化次亜臭素酸組成物のうちの少なくとも1つを添加することによって、イオン交換体の劣化を抑制しつつ微生物の増殖を抑制することができることを見出した。イオン交換体の性能をほとんど損ねることなく、微生物の増殖を抑制することができる。
【0022】
[イオン交換体]
イオン交換体に特に制限はないが、水中のイオン成分を除去することができるアニオン交換樹脂やカチオン交換樹脂等のイオン交換樹脂等が対象となる。イオン交換体の形状は、粒状のイオン交換樹脂の他に、モノリス形状のイオン交換体も使用することができる。
【0023】
イオン交換樹脂は、ゲル型であっても、マクロポーラス型であってもよいが、表面積がより小さいために酸化剤と接触した際の劣化が少ない、交換容量が大きい等の点で、ゲル型のイオン交換樹脂であることが好ましい。
【0024】
イオン交換体の水分保有能力は、例えば、30~80%の範囲であり、総交換容量は、例えば、0.1~5.0eq/L・樹脂の範囲である。
【0025】
イオン交換処理装置10は、イオン交換体を用いて被処理水のイオン交換処理を行うものであればよく、特に制限はないが、例えば、イオン交換樹脂を充填したイオン交換樹脂塔、カートリッジ、ボンベ等が挙げられる。
【0026】
[被処理水]
被処理水に特に制限はない。被処理水として、例えば、地下水、河川水、海水等の環境水や、各種の工場等から排出される排水等が挙げられる。
【0027】
[殺菌剤]
殺菌剤は、臭素系酸化剤や、塩素系酸化剤とスルファミン酸化合物とを含む安定化次亜塩素酸組成物、臭素系酸化剤とスルファミン酸化合物とを含む安定化次亜臭素酸組成物のうちの少なくとも1つである。
【0028】
「塩素系酸化剤とスルファミン酸化合物とを含む安定化次亜塩素酸組成物」は、「塩素系酸化剤」と「スルファミン酸化合物」との混合物を含む安定化次亜塩素酸組成物であってもよいし、「塩素系酸化剤とスルファミン酸化合物との反応生成物」を含む安定化次亜塩素酸組成物であってもよい。「臭素系酸化剤とスルファミン酸化合物とを含む安定化次亜臭素酸組成物」は、「臭素系酸化剤」と「スルファミン酸化合物」との混合物を含む安定化次亜臭素酸組成物であってもよいし、「臭素系酸化剤とスルファミン酸化合物との反応生成物」を含む安定化次亜臭素酸組成物であってもよい。
【0029】
臭素系酸化剤としては、臭素(液体臭素)、塩化臭素、臭素酸、臭素酸塩、次亜臭素酸等が挙げられる。次亜臭素酸は、臭化ナトリウム等の臭素化合物と次亜塩素酸等の塩素系酸化剤とを反応させて生成させたものであってもよい。
【0030】
臭素化合物としては、臭化ナトリウム、臭化カリウム、臭化リチウム、臭化アンモニウムおよび臭化水素酸等が挙げられる。これらのうち、製剤コスト等の点から、臭化ナトリウムが好ましい。
【0031】
塩素系酸化剤としては、例えば、塩素ガス、二酸化塩素、次亜塩素酸またはその塩、亜塩素酸またはその塩、塩素酸またはその塩、過塩素酸またはその塩、塩素化イソシアヌル酸またはその塩等が挙げられる。これらのうち、塩としては、例えば、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カリウム等の次亜塩素酸アルカリ金属塩、次亜塩素酸カルシウム、次亜塩素酸バリウム等の次亜塩素酸アルカリ土類金属塩、亜塩素酸ナトリウム、亜塩素酸カリウム等の亜塩素酸アルカリ金属塩、亜塩素酸バリウム等の亜塩素酸アルカリ土類金属塩、亜塩素酸ニッケル等の他の亜塩素酸金属塩、塩素酸アンモニウム、塩素酸ナトリウム、塩素酸カリウム等の塩素酸アルカリ金属塩、塩素酸カルシウム、塩素酸バリウム等の塩素酸アルカリ土類金属塩等が挙げられる。これらの塩素系酸化剤は、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。塩素系酸化剤としては、取り扱い性等の点から、次亜塩素酸ナトリウムを用いるのが好ましい。
【0032】
スルファミン酸化合物は、以下の一般式(1)で示される化合物である。
NSOH (1)
(式中、Rは独立して水素原子または炭素数1~8のアルキル基である。)
【0033】
スルファミン酸化合物としては、例えば、2個のR基の両方が水素原子であるスルファミン酸(アミド硫酸)の他に、N-メチルスルファミン酸、N-エチルスルファミン酸、N-プロピルスルファミン酸、N-イソプロピルスルファミン酸、N-ブチルスルファミン酸等の2個のR基の一方が水素原子であり、他方が炭素数1~8のアルキル基であるスルファミン酸化合物、N,N-ジメチルスルファミン酸、N,N-ジエチルスルファミン酸、N,N-ジプロピルスルファミン酸、N,N-ジブチルスルファミン酸、N-メチル-N-エチルスルファミン酸、N-メチル-N-プロピルスルファミン酸等の2個のR基の両方が炭素数1~8のアルキル基であるスルファミン酸化合物、N-フェニルスルファミン酸等の2個のR基の一方が水素原子であり、他方が炭素数6~10のアリール基であるスルファミン酸化合物、またはこれらの塩等が挙げられる。スルファミン酸塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、カルシウム塩、ストロンチウム塩、バリウム塩等のアルカリ土類金属塩、マンガン塩、銅塩、亜鉛塩、鉄塩、コバルト塩、ニッケル塩等の他の金属塩、アンモニウム塩およびグアニジン塩等が挙げられる。スルファミン酸化合物およびこれらの塩は、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。スルファミン酸化合物としては、環境負荷等の点から、スルファミン酸(アミド硫酸)を用いるのが好ましい。
【0034】
安定化次亜臭素酸組成物は、さらにアルカリを含んでもよい。アルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水酸化アルカリ等が挙げられる。低温の製品安定性等の点から、水酸化ナトリウムと水酸化カリウムとを併用してもよい。また、アルカリは、固形でなく、水溶液として用いてもよい。
【0035】
安定化次亜臭素酸組成物としては、イオン交換体をより劣化させないため、臭素と、スルファミン酸化合物とを含有するもの、または臭素とスルファミン酸化合物の混合物を含有するもの、例えば、臭素とスルファミン酸化合物とアルカリと水との混合物、または、臭素とスルファミン酸化合物との反応生成物を含有するもの、例えば、臭素とスルファミン酸化合物との反応生成物と、アルカリと、水との混合物が好ましい。
【0036】
安定化次亜臭素酸組成物、特に臭素とスルファミン酸化合物とを含む安定化次亜臭素酸組成物は、次亜塩素酸等の塩素系酸化剤と比較すると、良好な殺菌効果を有しながらも、次亜塩素酸等の塩素系酸化剤のような著しいイオン交換体の劣化をほとんど引き起こすことがない。通常の使用濃度では、イオン交換体の劣化への影響は実質的に無視することができる。このため、イオン交換体の殺菌剤としては最適である。安定化次亜臭素酸組成物を用いれば、イオン交換処理装置の後段に逆浸透膜処理装置を備える場合には、逆浸透膜の劣化を抑制することができるため、逆浸透膜の保護にもなる。
【0037】
安定化次亜臭素酸組成物は、次亜塩素酸等と同様に現場で濃度を測定することができるため、より正確な濃度管理が可能である。
【0038】
安定化次亜臭素酸組成物のpHは、例えば、13.0超であり、13.2超であることがより好ましい。安定化次亜臭素酸組成物のpHが13.0以下であると安定化次亜臭素酸組成物中の有効ハロゲンが不安定になる場合がある。
【0039】
安定化次亜臭素酸組成物中の臭素酸濃度は、5mg/kg未満であることが好ましい。安定化次亜臭素酸組成物中の臭素酸濃度が5mg/kg以上であると、被処理水の臭素酸イオン濃度が高くなる場合がある。
【0040】
(安定化次亜臭素酸組成物の製造方法)
安定化次亜臭素酸組成物は、臭素系酸化剤とスルファミン酸化合物とを混合することにより得られ、さらにアルカリを混合してもよい。
【0041】
臭素とスルファミン酸化合物とを含む安定化次亜臭素酸組成物の製造方法としては、水、アルカリおよびスルファミン酸化合物を含む混合液に臭素を不活性ガス雰囲気下で添加して反応させる工程、または、水、アルカリおよびスルファミン酸化合物を含む混合液に臭素を不活性ガス雰囲気下で添加する工程を含むことが好ましい。不活性ガス雰囲気下で添加して反応させる、または、不活性ガス雰囲気下で添加することにより、安定化次亜臭素酸組成物中の臭素酸イオン濃度が低くなる。
【0042】
用いる不活性ガスとしては限定されないが、製造等の面から窒素およびアルゴンのうち少なくとも1つが好ましく、特に製造コスト等の面から窒素が好ましい。
【0043】
臭素の添加の際の反応器内の酸素濃度は6%以下が好ましいが、4%以下がより好ましく、2%以下がさらに好ましく、1%以下が特に好ましい。臭素の反応の際の反応器内の酸素濃度が6%を超えると、反応系内の臭素酸の生成量が増加する場合がある。
【0044】
臭素の添加率は、安定化次亜臭素酸組成物全体の量に対して25重量%以下であることが好ましく、1重量%以上20重量%以下であることがより好ましい。臭素の添加率が安定化次亜臭素酸組成物全体の量に対して25重量%を超えると、反応系内の臭素酸の生成量が増加する場合がある。1重量%未満であると、洗浄力が劣る場合がある。
【0045】
臭素添加の際の反応温度は、0℃以上25℃以下の範囲に制御することが好ましいが、製造コスト等の面から、0℃以上15℃以下の範囲に制御することがより好ましい。臭素添加の際の反応温度が25℃を超えると、反応系内の臭素酸の生成量が増加する場合があり、0℃未満であると、凍結する場合がある。
【0046】
[殺菌剤の添加方法]
殺菌剤は、殺菌剤注入ポンプ等によって、手動で被処理水に添加してもよいし、自動的に被処理水に添加してもよい。
【0047】
「安定化次亜塩素酸組成物」は、例えば、「塩素系酸化剤」と「スルファミン酸化合物」とは別々に被処理水に添加してもよく、または、原液同士で混合させてから被処理水に添加してもよい。「安定化次亜臭素酸組成物」は、例えば、「臭素系酸化剤」と「スルファミン酸化合物」とは別々に被処理水に添加してもよく、または、原液同士で混合させてから被処理水に添加してもよい。
【0048】
殺菌剤の添加方法は、被処理水へ殺菌剤を連続的に添加する連続添加でもよいし、被処理水へ殺菌剤を添加する添加期間と被処理水へ殺菌剤を添加しない無添加期間とを設ける間欠添加でもよい。殺菌効果を保ちつつイオン交換体への接触時間を短くし、イオン交換体の劣化をさらに小さくすることができる等の点から、間欠添加であることが好ましい。
【0049】
殺菌剤の添加場所は、被処理水配管12において添加してもよいし、被処理水槽を別途設けて、被処理水槽において添加してもよい。
【0050】
イオン交換体への臭素系酸化剤、安定化次亜塩素酸組成物、および安定化次亜臭素酸組成物のうちの少なくとも1つの接触量が、有効塩素としての濃度(mgCl/L)と接触時間(h)との積であるCT値として、9,000,000(mgCl/L・h)以下であることが好ましく、440(mgCl/L・h)以下であることがより好ましい。CT値が9,000,000を超えると、イオン交換体を劣化させる場合がある。
【0051】
本明細書は、以下に示す実施形態を含む。
[1]イオン交換体の殺菌を行うイオン交換体の殺菌方法であって、
前記イオン交換体に流入する水に、殺菌剤として臭素系酸化剤、塩素系酸化剤とスルファミン酸化合物とを含む安定化次亜塩素酸組成物、および臭素系酸化剤とスルファミン酸化合物とを含む安定化次亜臭素酸組成物のうちの少なくとも1つを添加する、イオン交換体の殺菌方法。
【0052】
[2][1]に記載のイオン交換体の殺菌方法であって、
前記殺菌剤が、前記安定化次亜臭素酸組成物である、イオン交換体の殺菌方法。
【0053】
[3][1]または[2]に記載のイオン交換体の殺菌方法であって、
前記イオン交換体が、ゲル型のイオン交換樹脂である、イオン交換体の殺菌方法。
【0054】
[4][1]~[3]のいずれか1つに記載のイオン交換体の殺菌方法であって、
前記イオン交換体への前記殺菌剤の接触量が、有効塩素としての濃度(mgCl/L)と接触時間(h)との積であるCT値として、9,000,000(mgCl/L・h)以下である、イオン交換体の殺菌方法。
【実施例0055】
以下、実施例および比較例を挙げ、本発明をより具体的に詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0056】
[使用した酸化剤]
(安定化次亜臭素酸組成物)
窒素雰囲気下で、液体臭素:16.9重量%(wt%)、スルファミン酸:10.7重量%、水酸化ナトリウム:12.9重量%、水酸化カリウム:3.94重量%、水:残分を混合して、安定化次亜臭素酸組成物を調製した。安定化次亜臭素酸組成物のpHは14、全塩素濃度は7.5重量%であった。全塩素濃度は、HACH社の多項目水質分析計DR/4000を用いて、全塩素測定法(DPD(ジエチル-p-フェニレンジアミン)法)により測定した値(mg-Cl/L)である。安定化次亜臭素酸組成物の詳細な調製方法は以下の通りである。
【0057】
反応容器内の酸素濃度が1%に維持されるように、窒素ガスの流量をマスフローコントローラでコントロールしながら連続注入で封入した2Lの4つ口フラスコに1436gの水、361gの水酸化ナトリウムを加え混合し、次いで300gのスルファミン酸を加え混合した後、反応液の温度が0~15℃になるように冷却を維持しながら、473gの液体臭素を加え、さらに48%水酸化カリウム溶液230gを加え、組成物全体の量に対する重量比でスルファミン酸10.7%、臭素16.9%、臭素の当量に対するスルファミン酸の当量比が1.04である、目的の安定化次亜臭素酸組成物を得た。生じた溶液のpHは、ガラス電極法にて測定したところ、14であった。生じた溶液の臭素含有率は、臭素をヨウ化カリウムによりヨウ素に転換後、チオ硫酸ナトリウムを用いて酸化還元滴定する方法により測定したところ16.9%であり、理論含有率(16.9%)の100.0%であった。また、臭素反応の際の反応容器内の酸素濃度は、株式会社ジコー製の「酸素モニタJKO-02 LJDII」を用いて測定した。なお、臭素酸濃度は5mg/kg未満であった。
【0058】
なお、pHの測定は、以下の条件で行った。
電極タイプ:ガラス電極式
pH測定計:東亜ディーケーケー社製、IOL-30型
電極の校正:関東化学社製中性リン酸塩pH(6.86)標準液(第2種)、同社製ホウ酸塩pH(9.18)標準液(第2種)の2点校正で行った
測定温度:25℃
測定値:測定液に電極を浸漬し、安定後の値を測定値とし、3回測定の平均値
【0059】
(次亜臭素酸ナトリウム)
12%次亜塩素酸ナトリウム:40重量%、40%臭化ナトリウム(NaBr)溶液:18.4%、水:残分を混合して、次亜臭素酸ナトリウムを調製した。
【0060】
(次亜塩素酸ナトリウム)
市販の12%次亜塩素酸ナトリウム水溶液を使用した。
【0061】
<実施例1>
[イオン交換樹脂劣化試験(高濃度条件下の加速ビーカー試験)]
イオン交換樹脂への各種酸化剤の影響を比較するため、通常の接触濃度よりも高濃度で加速的に試験を行った。
【0062】
[試験条件]
・イオン交換樹脂:アニオン交換樹脂(Dupont製「AMBERTEC 4003 Cl」、母体構造:ゲル型、水分保有能力:49~55%、総交換容量:≧1.25eq/L・樹脂)
・樹脂量:200mL
・酸化剤:上記に示す次亜臭素酸ナトリウム(実施例1)、安定化次亜臭素酸組成物(実施例2)、次亜塩素酸ナトリウム(比較例1)
・酸化剤濃度:有効塩素換算で1000mg/L
・浸漬水:純水に各種酸化剤を所定濃度添加したもの
・浸漬水量:800mL
・浸漬時間:900時間
・浸漬温度:25℃
・有効塩素としての濃度(mgCl/L)と接触時間(h)の積であるCT値:9,000,000(mgCl/L・h)
【0063】
試験前後のイオン交換樹脂の中性塩分解容量、水分保有能力を表1、表2にそれぞれ示す。また、浸漬中にイオン交換樹脂から溶出した積算TOC量の推移を図1に示す。
【0064】
【表1】
【0065】
【表2】
【0066】
中性塩分解容量の交換の目安は1.20(eq/L・膨潤樹脂)以下とする場合が一般的である。次亜塩素酸に比べて、臭素系酸化剤は、イオン交換樹脂性能への影響が小さかった。次亜塩素酸に比べて、臭素系酸化剤は、イオン交換樹脂からのTOC溶出が少ないことからも、イオン交換樹脂への影響が小さいと言える。また、TOCの溶出は後段の水質に影響するため好ましくない。酸化剤の中でも、安定化次亜臭素酸組成物は、イオン交換樹脂への影響がより少ないと言える。
【0067】
<実施例3>
[イオン交換樹脂劣化試験(通常濃度条件下でのカラム通水試験)]
通常の使用条件における、安定化次亜臭素酸組成物のイオン交換樹脂への影響を確認するために、樹脂カラムを使用して、実使用に即した条件で試験を行った。具体的には、所定濃度の安定化次亜臭素酸組成物を含有する試験水を、カチオン交換樹脂、アニオン交換樹脂の順に所定時間、連続的に通水し、試験後の中性塩交換容量、水分保有能力を測定した。試験前後のイオン交換樹脂の中性塩分解容量、水分保有能力を表3、表4にそれぞれ示す。
【0068】
[試験条件]
・カチオン交換樹脂:Dupont製「AMBERLITE HPR1024 H」、母体構造:ゲル、水分保有能力:45~51%、総交換容量:≧2.10eq/L・樹脂
・アニオン交換樹脂:Dupont製「AMBERJET 4002(OH)-HG」、母体構造:ゲル、水分保有能力:49~55%、総交換容量:≧1.25eq/L・樹脂
・樹脂量:カチオン交換樹脂=480mL、アニオン交換樹脂=1300mL
・酸化剤:上記に示す安定化次亜臭素酸組成物
・酸化剤濃度:有効塩素換算で0.2mg/L
・試験水:純水に酸化剤を所定濃度添加したもの
・通水量:30L/h
・通水時間:2200時間
・浸漬温度:25℃
・有効塩素としての濃度(mgCl/L)と接触時間(h)の積であるCT値:440(mgCl/L・h)
【0069】
【表3】
【0070】
【表4】
【0071】
実使用条件においても、CT値として360(mgCl/L・h)以下であれば、安定化次亜臭素酸は、イオン交換樹脂の性能にほとんど影響を及ぼさないことを確認した。また、安定化次亜臭素酸を用いることによって、微生物の増殖が抑制されていることがわかる。
【0072】
このように、実施例のように、イオン交換体に流入する水に、殺菌剤として臭素系酸化剤、塩素系酸化剤とスルファミン酸化合物とを含む安定化次亜塩素酸組成物、および臭素系酸化剤とスルファミン酸化合物とを含む安定化次亜臭素酸組成物のうちの少なくとも1つを添加することによって、イオン交換体の劣化を抑制しつつ微生物の増殖を抑制することができた。
【符号の説明】
【0073】
1 水処理装置、10 イオン交換処理装置、12 被処理水配管、14 処理水配管、16 殺菌剤添加配管。
図1
図2