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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023183551
(43)【公開日】2023-12-28
(54)【発明の名称】液体吐出装置
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/01 20060101AFI20231221BHJP
【FI】
B41J2/01 203
B41J2/01 401
B41J2/01 107
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022097122
(22)【出願日】2022-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】000005267
【氏名又は名称】ブラザー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117101
【弁理士】
【氏名又は名称】西木 信夫
(74)【代理人】
【識別番号】100120318
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 朋浩
(72)【発明者】
【氏名】刑部 吉記
(72)【発明者】
【氏名】辻村 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】畔柳 草介
【テーマコード(参考)】
2C056
【Fターム(参考)】
2C056EA01
2C056EC07
2C056EC11
2C056EC36
2C056EC37
2C056EC80
2C056FA02
2C056FA10
2C056FA11
2C056HA10
2C056HA22
(57)【要約】
【課題】ノズル列が傾斜して配置されている場合に、被吐出媒体上に記録される画像の画質低下を抑制できる手段を提供する。
【解決手段】プリンタ10のヘッド32では、4つのノズル列K1~K4が第1傾斜方向5に並び、各ノズル列では、複数のノズル33が第2傾斜方向6に並ぶ。制御部40は、ヘッド32を左向きに移動してノズル33からインクを吐出させる片方向記録を実行可能である。4つのノズル列K1~K4は、ノズル列の両端のうち、ノズル33からシートSまでの距離が小さいほうの一端が他端より左右方向9において左に位置するように、前後方向8に対して傾斜して配置されている。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出する複数のノズルを有するヘッドと、
上記ヘッドを被吐出媒体に対して、主走査方向および上記主走査方向と交差する搬送方向に相対的に移動する移動機構と、
制御部と、を備え、
上記ヘッドは、複数のノズルが所定方向に並ぶ第1ノズル列を備え、
上記制御部は、上記ヘッドを上記主走査方向に沿った第1向きに移動して上記ノズルから液体を吐出させる第1吐出動作を行わせ、上記ヘッドを上記第1向きの反対向きである第2向きに移動して上記ノズルから液体を吐出させる第2吐出動作を行わせずに、上記被吐出媒体に画像を記録する片方向記録を実行可能であり、
上記第1ノズル列は、上記第1ノズル列の両端のうち、上記ノズルから被吐出媒体までの距離が小さいほうの一端が他端より上記第1向きにおいて終端側に位置するように、上記搬送方向に対して傾斜して配置されている液体吐出装置。
【請求項2】
上記ヘッドでは、第1方向に上記第1ノズル列および第2ノズル列が並び、
上記第1ノズル列および上記第2ノズル列では、上記第1方向と交差する第2方向に複数のノズルが並び、
上記第1ノズル列および上記第2ノズル列は、上記搬送方向において、上記第1ノズル列内のノズルと当該ノズルに隣接するノズルとの間に上記第2ノズル列内のノズルが位置するように、上記搬送方向に対して傾斜して配置されており、
上記第2ノズル列は、上記第1ノズル列と共に、上記第1ノズル列の両端のうち、上記ノズルから被吐出媒体までの距離が小さいほうの一端が他端より上記第1向きにおいて終端側に位置するように、上記搬送方向に対して傾斜して配置されている請求項1に記載の液体吐出装置。
【請求項3】
上記制御部は、上記片方向記録と、上記第1吐出動作および上記第2吐出動作にて上記被吐出媒体に画像を記録する双方向記録と、を選択的に実行可能である請求項1または2に記載の液体吐出装置。
【請求項4】
上記制御部は、上記第2吐出動作では上記第1吐出動作よりも、上記ノズルの吐出制御信号の出力タイミングをずらす量を大きくする請求項3に記載の液体吐出装置。
【請求項5】
上記制御部は、上記第2吐出動作では上記第1吐出動作よりも、上記ノズルの吐出制御信号の遅延量を大きくする請求項3に記載の液体吐出装置。
【請求項6】
上記制御部は、上記双方向記録を実行するときには、直前の吐出動作による吐出位置に基づいて、上記ノズルの吐出制御信号の出力タイミングをずらす請求項3に記載の液体吐出装置。
【請求項7】
上記制御部は、上記第2吐出動作では、上記ヘッドに含まれる各ノズル列内の一端側のノズルと他端側のノズルとについて、上記ノズルの吐出制御信号の遅延量を異なる量に設定する請求項3に記載の液体吐出装置。
【請求項8】
上記制御部は、上記第2吐出動作では上記第1吐出動作よりも、上記ヘッドの移動速度を遅くする請求項3に記載の液体吐出装置。
【請求項9】
上記第1ノズル列内のノズルは、上記第2方向に、第1解像度でドットを形成するための間隔を空けて配置され、
上記第2ノズル列内のノズルは、上記第2方向に、上記第1解像度でドットを形成するための間隔を空けて配置され、
上記第1ノズル列内のノズルおよび上記第2ノズル列内のノズルは、上記搬送方向に、上記第1解像度の2倍の解像度でドットを形成する請求項2に記載の液体吐出装置。
【請求項10】
上記ヘッドでは、上記第1ノズル列および上記第2ノズル列と共に、上記第1方向に第3ノズル列および第4ノズル列が並び、
上記第3ノズル列および上記第4ノズル列では、上記第2方向に複数のノズルが並び、
上記制御部は、上記第1から第4ノズル列内のノズルから同色の液体を吐出させる第1動作と、上記第1から第4ノズル列内のノズルから各ノズル列に応じた色の液体を吐出させる第2動作と、選択的に実行する請求項2に記載の液体吐出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被吐出媒体に対して液体を吐出する液体吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、2つのノズル列が印刷方向の前後に配置されたインクジェットプリンタが記載されている。一方のノズル列は、印刷方向に直交する方向(以下、直交方向と称される)に移動可能である。2つのノズル列は、直交方向に対して傾斜して配置されることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002-210937号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来のインクジェットプリンタにおいてノズル列を直交方向に対して傾斜して配置した場合、被吐出媒体上に印刷方向または直交方向と平行に記録されるべき罫線は、被吐出媒体上に印刷方向または直交方向に対して傾斜して記録される。また、ノズル列が延びる方向に被吐出媒体を搬送するインクジェットプリンタでは、ノズル列の一端と他端との間で、ノズルから被吐出媒体までの距離が異なる場合がある。この場合、ノズルから吐出されたインクが被吐出媒体に着弾するまでの時間も異なるので、罫線は被吐出媒体上に傾斜して記録される。ノズル列の傾斜による罫線の傾斜と、上記距離の差による罫線の傾斜との両方が発生した場合、被吐出媒体上に記録される罫線は大きく傾斜し、被吐出媒体上に記録される画像の画質は低下する。
【0005】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、ノズル列が傾斜して配置されている場合に、被吐出媒体上に記録される画像の画質低下を抑制できる手段を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1) 本発明の液体吐出装置は、液体を吐出する複数のノズルを有するヘッドと、上記ヘッドを被吐出媒体に対して、主走査方向および上記主走査方向と交差する搬送方向に相対的に移動する移動機構と、制御部と、を備えている。上記ヘッドは、複数のノズルが所定方向に並ぶ第1ノズル列を備えている。上記制御部は、上記ヘッドを上記主走査方向に沿った第1向きに移動して上記ノズルから液体を吐出させる第1吐出動作を行わせ、上記ヘッドを上記第1向きの反対向きである第2向きに移動して上記ノズルから液体を吐出させる第2吐出動作を行わせずに、上記被吐出媒体に画像を記録する片方向記録を実行可能である。上記第1ノズル列は、上記第1ノズル列の両端のうち、上記ノズルから被吐出媒体までの距離が小さいほうの一端が他端より上記第1向きにおいて終端側に位置するように、上記搬送方向に対して傾斜して配置されている。
【0007】
上記液体吐出装置では、第1ノズル列は、ノズルから被吐出媒体までの距離が小さいほうの一端が他端より第1向きの終端側に位置するように、搬送方向に対して傾斜して配置されている。このため、ヘッドを第1向きに移動して片方向記録を実行するときに、ノズルから被吐出媒体までの距離の差による画像の傾斜を小さくできる。したがって、ノズル列が傾斜して配置されている場合に、被吐出媒体上に記録される画像の画質低下を抑制できる。
【0008】
(2) 上記ヘッドでは、第1方向に上記第1ノズル列および第2ノズル列が並び、上記第1ノズル列および上記第2ノズル列では、上記第1方向と交差する第2方向に複数のノズルが並び、上記第1ノズル列および上記第2ノズル列は、上記搬送方向において、上記第1ノズル列内のノズルと当該ノズルに隣接するノズルとの間に上記第2ノズル列内のノズルが位置するように、上記搬送方向に対して傾斜して配置されており、上記第2ノズル列は、上記第1ノズル列と共に、上記第1ノズル列の両端のうち、上記ノズルから被吐出媒体までの距離が小さいほうの一端が他端より上記第1向きにおいて終端側に位置するように、上記搬送方向に対して傾斜して配置されていてもよい。
【0009】
(3) 好ましくは、上記制御部は、上記片方向記録と、上記第1吐出動作および上記第2吐出動作にて上記被吐出媒体に画像を記録する双方向記録と、を選択的に実行可能であってもよい。
【0010】
(4) 好ましくは、上記制御部は、上記第2吐出動作では上記第1吐出動作よりも、上記ノズルの吐出制御信号の出力タイミングをずらす量を大きくしてもよい。
【0011】
(5) 好ましくは、上記制御部は、上記第2吐出動作では上記第1吐出動作よりも、上記ノズルの吐出制御信号の遅延量を大きくしてもよい。
【0012】
(6) 好ましくは、上記制御部は、上記双方向記録を実行するときには、直前の吐出動作による吐出位置に基づいて、上記ノズルの吐出制御信号の出力タイミングをずらしてもよい。
【0013】
(7) 好ましくは、上記制御部は、上記第2吐出動作では、上記ヘッドに含まれる各ノズル列内の一端側のノズルと他端側のノズルとについて、上記ノズルの吐出制御信号の遅延量を異なる量に設定してもよい。
【0014】
(8) 好ましくは、上記制御部は、上記第2吐出動作では上記第1吐出動作よりも、上記ヘッドの移動速度を遅くしてもよい。
【0015】
(9) 好ましくは、上記第1ノズル列内のノズルは、上記第2方向に、第1解像度でドットを形成するための間隔を空けて配置され、上記第2ノズル列内のノズルは、上記第2方向に、上記第1解像度でドットを形成するための間隔を空けて配置され、上記第1ノズル列内のノズルおよび上記第2ノズル列内のノズルは、上記搬送方向に、上記第1解像度の2倍の解像度でドットを形成してもよい。
【0016】
(10) 好ましくは、上記ヘッドでは、上記第1ノズル列および上記第2ノズル列と共に、上記第1方向に第3ノズル列および第4ノズル列が並び、上記第3ノズル列および上記第4ノズル列では、上記第2方向に複数のノズルが並び、上記制御部は、上記第1から第4ノズル列内のノズルから同色の液体を吐出させる第1動作と、上記第1から第4ノズル列内のノズルから各ノズル列に応じた色の液体を吐出させる第2動作と、選択的に実行してもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ノズル列が傾斜して配置されている場合に、被吐出媒体上に記録される画像の画質低下を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、本発明の実施形態に係るプリンタ10の外観斜視図である。
図2図2は、プリンタ10の内部構造を模式的に示す縦断面図である。
図3図3は、プリンタ10のブロック図である。
図4図4は、ヘッド32およびノズル33の配置、並びにドットの記録位置を示す図である。
図5図5(A)は、ノズル33からシートSまでの距離の例を示す図であり、図5(B)は、この場合のノズル列の傾斜配置を示す図である。
図6図6(A)は、ノズル33からシートSまでの距離の他の例を示す図であり、図6(B)は、この場合のノズル列の傾斜配置を示す図である。
図7図7は、プリンタ10の片方向記録処理のフローチャートである。
図8図8(A)は、第1比較例に係るプリンタによる記録位置を示す図であり、図8(B)は、第2比較例に係るプリンタによる記録位置を示す図であり、図8(C)は、プリンタ10による記録位置を示す図である。
図9図9は、第1変形例に係るプリンタの双方向記録処理のフローチャートである。
図10図10(A)は、プリンタ10による記録位置を示す図であり、図10(B)は、第1変形例に係るプリンタによる記録位置を示す図である。
図11図11は、第2変形例に係るプリンタの双方向記録処理のフローチャートである。
図12図12は、第2変形例に係るプリンタによる記録位置を示す図である。
図13図13(A)は、第3比較例に係るプリンタによる記録位置を示す図であり、図13(B)は、第3変形例に係るプリンタによる記録位置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、以下に説明される実施形態は本発明の一例にすぎず、本発明の要旨を変更しない範囲で、本発明の実施形態を適宜変更できることは言うまでもない。以下の説明では、矢印の起点から終点に向かう進みが向きと表現され、矢印の起点と終点とを結ぶ線上の往来が方向と表現される。また、プリンタ10が使用可能に設置された状態(図1の状態)を基準として上下方向7が定義され、プリンタ10の開口13が形成された面を前面として前後方向8が定義され、プリンタ10を前面から視て左右方向9が定義される。上下方向7、前後方向8、および左右方向9は、互いに直交している。
【0020】
[プリンタ10の概要]
本実施形態に係るプリンタ10は、被吐出媒体に対して液体を吐出する液体吐出装置の一例である。プリンタ10は、インクジェット印刷方式でシート(被吐出媒体の一例)にブラックのインク(液体の一例)を吐出するモノクロプリンタである。プリンタ10は、ファクシミリ機能、スキャン機能、およびコピー機能などの機能を有する、いわゆる「複合機」であってもよい。
【0021】
プリンタ10は、概ね直方体形状の筐体11を有する。図1および図2に示されるように、筐体11の内部には、給送トレイ14と、給送ローラ21と、搬送ローラ対22と、キャリッジ31と、キャリッジ31に搭載され、複数のノズル33を有するヘッド32と、ヘッド32に対面するプラテン23と、排出ローラ対24と、排出トレイ15と、サブタンク35と、カートリッジ37を装着可能な装着ケース36と、装着ケース36に装着されたカートリッジ37およびヘッド32を連通させるチューブ34とが位置している。搬送ローラ対22は、駆動ローラ22aと従動ローラ22bとを含む。排出ローラ対24は、駆動ローラ24aと従動ローラ24bとを含む。プリンタ10を左から視た場合、複数のノズル33は、ヘッド32において前後方向8に並んでいる。
【0022】
プリンタ10は、給送ローラ21と搬送ローラ対22の駆動ローラ22aとを駆動して、給送トレイ14に支持されたシートを搬送路(図2において一点鎖線で示される経路)に沿ってプラテン23の位置まで搬送する。次に、プリンタ10は、装着ケース36に装着されたカートリッジ37からサブタンク35およびチューブ34を経由して供給されるインクを、ヘッド32のノズル33から吐出させる。これにより、プラテン23に支持されたシートにインクが着弾して、シート上に画像が記録される。プリンタ10は、排出ローラ対24の駆動ローラ24aを駆動して、画像が記録されたシートを排出トレイ15に排出する。
【0023】
キャリッジ31は、左右方向9に延伸する2本のガイドレール(図示せず)によって支持されており、前後方向8と交差する左右方向9に往復移動する。プリンタ10は、キャリッジ31が左右方向9に移動する間に、ヘッド32のノズル33からインクを吐出させる。これにより、ヘッド32に対面するシートの一部の領域に画像が記録される。次に、プリンタ10は、次に画像が記録されるべき領域がヘッド32に対面するように、搬送ローラ対22にシートを搬送させる。これらの処理を交互に繰り返し実行させることにより、シート上に画像が記録される。
【0024】
なお、左右方向9は、主走査方向の一例である。前後方向8は、主走査方向に交差する搬送方向の一例である。搬送ローラ対22、排出ローラ対24、およびキャリッジ31は、ヘッド32をシートに対して、主走査方向および搬送方向に相対的に移動する移動機構の一例である。
【0025】
図1に示されるように、筐体11は、筐体11の前面12でかつ左右方向9の右端部にカバー18を備える。カバー18の位置には、開口(図示せず)が形成されている。カバー18は、開口を閉塞させる位置(図1に示される位置)と、開口を開放する位置との間を回動可能である。開口の奥に広がる筐体11内部の収容空間には、1つの装着ケース36が位置している。装着ケース36には、ブラックのインクを貯留したカートリッジ37が装着される。
【0026】
カートリッジ37は、インクを貯留可能な液室38(図2参照)を有する。カートリッジ37が装着ケース36に装着されると、液室38に貯留されたインクは、液室38とサブタンク35とを連通するインク流路39を経由してサブタンク35に流入する。サブタンク35は、流入したインクを一時的に貯留する。サブタンク35に貯留されたインクは、チューブ34を経由してヘッド32に供給される。
【0027】
[制御部40]
筐体11の内部には、図3に示される制御部40が位置している。制御部40は、CPU41、ROM42、RAM43、EEPROM44、およびASIC45を備えている。ROM42は、CPU41が各種の処理を実行するためのプログラムなどを記憶している。RAM43は、CPU41がプログラムを実行する際に用いるデータや信号などを一時的に記録する記憶領域、あるいはデータ処理の作業領域として使用される。EEPROM44は、電源オフ後も保持すべき情報を記憶している。制御部40は、CPU41がRAM43に記憶されているプログラムを実行することにより、各種の処理を実行する。
【0028】
ASIC45は、給送ローラ21、搬送ローラ対22の駆動ローラ22a、排出ローラ対24の駆動ローラ24a、キャリッジ31、およびヘッド32を動作させるためのものである。制御部40は、ASIC45を通じてモータ(図示せず)を駆動させることによって、給送ローラ21、および駆動ローラ22a、24aを回転させる。制御部40は、ASIC45を通じてモータ(図示せず)を駆動させることによって、キャリッジ31を左右方向9に移動させる。制御部40は、ASIC45を通じてヘッド32の駆動素子(図示せず)に吐出制御信号を出力することによって、ヘッド32のノズル33からインクを吐出させる。ASIC45は、ノズル33から吐出すべきインクの量に応じた吐出制御信号を出力する。
【0029】
ASIC45には、ディスプレイ16と、操作パネル17とが接続されている。ディスプレイ16は、例えば、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイなどである。ディスプレイ16は、例えば、プリンタ10の状態を画面に表示する。操作パネル17は、ユーザによる操作に応じた操作信号を制御部40に出力する。操作パネル17は、例えば、押ボタンを有していてもよく、ディスプレイ16に重畳されたタッチセンサを有していてもよい。
【0030】
[ヘッド32およびノズル33の配置]
図4には、ヘッド32およびノズル33の配置、並びにドットの記録位置が示されている。図4において、横方向は左右方向9(キャリッジ31の移動方向)であり、縦方向は前後方向8(シートの搬送方向)である。図4に示される白い円は、ヘッド32を上から視たときのノズル33の配置位置を示す。図4に示される黒い円は、ノズル33から吐出されたインクによるドットの記録位置を示す。
【0031】
図4に示される第1傾斜方向5および第2傾斜方向6は、それぞれ、左右方向9および前後方向8から所定の角度(以下、角度θと称される)だけ傾斜した方向である。ヘッド32は、第1傾斜方向5および第2傾斜方向6に沿って、前後方向8および左右方向9に対して角度θだけ傾斜させてキャリッジ31に搭載されている。ヘッド32では、第1~第4ノズル列K1~K4が、第1傾斜方向5に等間隔で並んでいる。第1~第4ノズル列K1~K4では、複数のノズル33が第2傾斜方向6に等間隔で並んでいる。第2傾斜方向6は、第1傾斜方向5と交差する方向であり、具体的には、第1傾斜方向5と直交する方向である。なお、図4には各ノズル列について4個のノズル33が記載されているが、各ノズル列内のノズル33の個数は実際には4個より多い。第1傾斜方向5は、第1方向の一例である。第2傾斜方向6は、第1方向と交差する第2方向の一例である。
【0032】
図4に示されるように、前後方向8において、第1ノズル列K1内の1行目のノズル33と第1ノズル列K1内の2行目のノズル33との間には、第2ノズル列K2内の1行目のノズル33、第3ノズル列K3内の1行目のノズル33、および第4ノズル列K4内の1行目のノズル33が位置する。これら5個のノズル33は、前後方向8において等間隔に並んでいる。このように第1ノズル列K1および第2ノズル列K2は、前後方向8において、第1ノズル列K1内のノズル33と当該ノズル33に隣接するノズル33との間に第2ノズル列K2内のノズル33が位置するように、前後方向8に対して傾斜して配置されている。
【0033】
第1~第4ノズル列K1~K4内のノズル33からインクが吐出されることにより、図4に黒い円で示される位置にドットが記録される。第1ノズル列K1内の1行目のノズル33と第1ノズル列K1内の2行目のノズル33との前後方向8の距離がDである場合、記録される2個のドット間の前後方向8の距離はD/4となる。このため、第1~第4ノズル列K1~K4内のノズル33が、第2傾斜方向6に、第1解像度でドットを形成するための間隔を空けて配置されている場合、第1~第4ノズル列K1~K4内のノズル33は、前後方向8に、第1解像度の4倍の解像度でドットを形成する。また、第1ノズル列K1内のノズル33および第2ノズル列K2内のノズル33は、前後方向8に、第1解像度の解像度の2倍の解像度でドットを形成する。
【0034】
[インクの吐出制御]
制御部40は、ヘッド32に含まれる各ノズル33に対して、各ノズル33から吐出すべきインクの量に応じた吐出制御信号を出力する。制御部40は、ノズル33の吐出制御信号の出力タイミングをノズル列ごとにずらす制御を実行する。また、制御部40とノズル33との間には、吐出制御信号を遅延させる遅延回路(図示せず)が位置する。遅延回路は、例えば、ASIC45に内蔵されている。
【0035】
遅延回路における遅延量は、ノズル列ごとに2つ設定可能である。ノズル列の両端のうち、前後方向8において、後(搬送方向上流)に位置する端を「上流端」、前(搬送方向下流)に位置する端を「下流端」と称し、ノズル列を上流端に近い部分と下流端に近い部分とに分割する(以下、前者を「上流側」、後者を「下流側」と称する)。各ノズル列に対応する2つの遅延量のうち、一方はノズル列内の上流側のノズル33に対する吐出制御信号に適用され、他方はノズル列内の下流側のノズル33に対する吐出制御信号に適用される。
【0036】
以下、制御部40がヘッド32を左向きに移動してノズル33からインクを吐出させる動作を「第1吐出動作」、制御部40がヘッド32を右向きに移動してノズル33からインクを吐出させる動作を「第2吐出動作」と称する。制御部40は、ヘッド32を左向きに移動するときにノズル33からインクを吐出させ、ヘッド32を右向きに移動するときにノズル33からインクを吐出させずにシートに画像を記録する片方向記録を実行可能である。すなわち、制御部40は、第1吐出動作を行わせ、第2吐出動作を行わせずに、シートに画像を記録する片方向記録を実行可能である。
【0037】
[シートまでの距離に応じたノズル列の傾斜配置]
プリンタ10では、ノズル列の上流端と下流端との間で、ノズル33からシートまでの距離が異なる場合がある。図5(A)に示される例では、第1ノズル列K1内の下流端のノズルE2からシートSまでの距離d2は、第1ノズル列K1内の上流端のノズルE1からシートSまでの距離d1より小さい。一方、図6(A)に示される例では、第1ノズル列K1内の上流端のノズルE1からシートSまでの距離d1は、第1ノズル列K1内の下流端のノズルE2からシートSまでの距離d2より小さい。
【0038】
ノズル33からシートSまでの距離が小さい場合、ノズル33から吐出されたインクがシートSに着弾するまでの時間も短いので、インクを吐出したときのノズル33の位置からシートS上のドットの記録位置までの距離は小さい。一方、ノズル33からシートSまでの距離が大きい場合、ノズル33から吐出されたインクがシートSに着弾するまでの時間も長いので、インクを吐出したときのノズル33の位置からシートS上のドットの記録位置までの距離は大きい。このため、複数のノズル33から同じタイミングでインクを吐出した場合、ノズル33からシートSまでの距離が大きいほど、ドットの記録位置はヘッド32が移動する向きにずれる。
【0039】
そこで、ノズル33からシートSまでの距離にかかわらずドットの記録位置を揃えるためには、ノズル33からシートSまでの距離が小さい場合には、ノズル33からシートSまでの距離が大きい場合よりも、ノズル33の位置をヘッド32が移動する向きにずらしておけばよい。具体的には、第1~第4ノズル列K1~K4は、第1ノズル列K1の両端のうち、ノズル33からシートSまでの距離が小さいほうの一端が他端より左に位置するように、前後方向8に対して傾斜して配置されていればよい。
【0040】
図5(A)に示される例では、距離d2が距離d1より小さい。この場合、第1~第4ノズル列K1~K4は、第1ノズル列K1内の下流端のノズルE2が第1ノズル列K1内の上流端のノズルE1より左右方向9において左に位置するように、前後方向8に対して傾斜して配置される(図5(B)参照)。
【0041】
一方、図6(A)に示される例では、距離d1が距離d2より小さい。この場合、第1~第4ノズル列K1~K4は、第1ノズル列K1内の上流端のノズルE1が第1ノズル列K1内の下流端のノズルE2より左右方向9において左に位置するように、前後方向8に対して傾斜して配置される(図6(B)参照)。
【0042】
[片方向記録処理の詳細]
図7を参照して、プリンタ10による片方向記録処理について説明される。制御部40は、図7に示されるフローチャートに従い、複数のパスで第1吐出動作を行うことにより、片方向記録処理を実行する。パスとは、ヘッド32をある向きに移動して画像を記録する動作の1回分を意味する。
【0043】
図7図9、および図11に示されるフローチャートでは、制御部40が各ノズル列に対応する2つの遅延量に異なる量を設定する場合には「分割遅延制御あり」と表記され、制御部40が各ノズル列に対応する2つの遅延量に同じ量を設定する場合には「分割遅延制御なし」と表記される。また、制御部40が直前パスの記録位置に基づき吐出制御信号の出力タイミングを調整する場合には「ソフト傾き調整あり」と表記され、制御部40が直前パスの記録位置に基づき吐出制御信号の出力タイミングを調整しない場合には「ソフト傾き調整なし」と表記される。なお、直前パスの記録位置は、直前の吐出動作による吐出位置の一例である。
【0044】
図7に示される片方向記録処理の先頭において、制御部40は、各パスに対して、記録すべき画像データを割り当てる(S101)。次に、制御部40は、変数nの値を1に設定する(S102)。変数nは、パスの番号を示す。
【0045】
次に、制御部40は、ヘッド32を左向きに移動しながら第nパスの記録を実行する(S103)。制御部40は、S103において、各ノズル列に対応する2つの遅延量に同じ量(例えばゼロ)を設定し(分割遅延制御なし)、直前パスの記録位置に基づき吐出制御信号の出力タイミングを調整しない(ソフト傾き調整なし)。
【0046】
次に、制御部40は、記録を完了したか否かを判断する(S104)。制御部40は、記録を完了していないと判断した場合には(S104:No)、S105へ進む。制御部40は、S105において、ヘッド32を右向きに移動する。ただし、制御部40は、S105において、ヘッド32のノズル33からインクを吐出させず、画像の記録を実行しない。次に、制御部40は、シートを所定量だけ搬送する(S106)。次に、制御部40は、変数nの値に1を加算する(S107)。次に、制御部40は、S103へ進み、S103以降の処理を再び実行する。制御部40は、S104において、記録を完了したと判断した場合には(S104:Yes)、片方向記録処理を終了する。
【0047】
[ノズル列の傾斜配置の効果]
図8を参照して、本実施形態に係るプリンタ10の効果が説明される。ノズル列の上流端と下流端との間でノズルからシートまでの距離が異なり、ノズル列が傾斜配置されていないプリンタを第1比較例とする。第1比較例に係るプリンタにおいて、第1吐出動作(ヘッド32を左向きに移動しながらノズル33からインクを吐出させる動作)を行うことにより片方向記録処理を実行した場合、図8(A)に示されるように、シート上に画像がパスごとに傾斜して記録される。このため、第1比較例に係るプリンタでは、シート上に記録される画像の画質が低下する。
【0048】
ノズル列の上流端と下流端との間でノズルからシートまでの距離が異なり、ノズル列がプリンタ10とは逆の方向に傾斜配置されているプリンタを第2比較例とする。第2比較例に係るプリンタにおいて、第1吐出動作によって片方向記録処理を実行した場合、図8(B)に示されるように、シート上に画像がパスごとに傾斜して記録される。この場合、ノズル列の傾斜による画像の傾斜と、ノズルからシートまでの距離が異なることによる画像の傾斜との両方が発生する。このため、第2比較例に係るプリンタでは、シート上に記録される画像の画質は、第1比較例に係るプリンタより低下する。
【0049】
これに対して、本実施形態に係るプリンタ10では、ノズル列の上流端と下流端との間でノズル33からシートまでの距離が異なる場合には、第1~第4ノズル列K1~K4は、ノズル列の両端のうち、ノズル33からシートまでの距離が小さいほうの一端が他端より左右方向9において左に位置する(すなわち、第1吐出動作においてヘッド32が進む側に位置する)ように、前後方向8に対して傾斜して配置されている。このような条件で片方向記録処理を実行することにより、ノズル33からシートまでの距離の差による画像の傾斜を、ノズル列の傾斜配置により小さくできる。例えば、第1~第4ノズル列K1~K4を好適な角度で傾斜配置することにより、シート上に傾斜のない画像や傾斜の小さい画像を記録し(図8(C)参照)、シート上に記録される画像の画質の低下を抑制できる。
【0050】
[実施形態の作用効果]
以上に示されるように、本実施形態に係るプリンタ10は、ヘッド32と、移動機構と、制御部40とを備えている。ヘッド32は、複数のノズル33が所定方向に並ぶ第1ノズル列K1を備えている。制御部40は、ヘッド32を左向きに移動してノズル33からインクを吐出させ、ヘッド32を右向きに移動してノズル33から液体を吐出させずに、シートSに画像を記録する片方向記録を実行可能である。第1ノズル列K1は、第1ノズル列K1の両端のうち、ノズル33からシートSまでの距離が小さいほうの一端が他端より左に位置するように、前後方向8に対して傾斜して配置されている。
【0051】
このため、ヘッド32を左向きに移動する際にノズル33からインクを吐出して片方向記録を実行するときに、ノズル33からシートSまでの距離の差による画像の傾斜を小さくできる。したがって、ノズル列が傾斜して配置されている場合に、シートS上に記録される画像の画質低下を抑制できる。
【0052】
また、ヘッド32では、第1傾斜方向5に第1ノズル列K1および第2ノズル列K2が並び、第1ノズル列K1および第2ノズル列K2では、第2傾斜方向6に複数のノズル33が並ぶ。また、ヘッド32では、第1ノズル列K1および第2ノズル列K2と共に、第1傾斜方向5に第3ノズル列K3および第4ノズル列K4が並び、第3ノズル列K3および第4ノズル列K4では、第2傾斜方向6に複数のノズル33が並ぶ。第2ノズル列K2は、第1ノズル列K1と共に、第1ノズル列K1の両端のうち、ノズル33からシートSまでの距離が小さいほうの一端が他端より左に位置するように、前後方向8に対して傾斜して配置されている。したがって、複数のノズル列が傾斜して配置されている場合に、シートS上に記録される画像の画質低下を抑制できる。
【0053】
また、第1ノズル列K1内のノズル33は、第2傾斜方向6に、第1解像度でドットを形成するための間隔を空けて配置され、第2ノズル列K2内のノズル33は、第2傾斜方向6に、第1解像度でドットを形成するための間隔を空けて配置され、第1ノズル列K1内のノズル33および第2ノズル列K2内のノズルは、前後方向8に、第1解像度の2倍の解像度でドットを形成する。したがって、第1ノズル列K1内のノズル33および第2ノズル列K2内のノズルによって、前後方向8に元の解像度の2倍の解像度でドットを形成できる。
【0054】
上記実施形態に係るプリンタ10については、各種の変形例を構成できる。第1から第3変形例に係るプリンタは、上記実施形態に係るプリンタ10と同じ構成を有する。第1から第3変形例に係るプリンタでは、制御部40は、片方向記録に加えて、第1吐出動作(ヘッド32を左向きに移動してノズル33からインクを吐出させる動作)および第2吐出動作(ヘッド32を右向きに移動してノズル33からインクを吐出させる動作)の両方にて、シートに画像を記録する双方向記録を実行できる。制御部40は、片方向記録と双方向記録とを選択的に実行可能である。第1から第3変形例に係るプリンタによれば、ヘッド32を所定向きに移動してインクを吐出し、ヘッド32を反対向きに移動してインクを吐出しない片方向記録と、ヘッド32を所定向きおよび反対向きに移動してインクを吐出する双方向記録とを選択的に実行できる。以下、図9から図12を参照して、第1から第3変形例に係るプリンタが実行する双方向記録について説明される。
【0055】
[第1変形例]
第1変形例に係るプリンタでは、制御部40は、図9に示されるフローチャートに従い、奇数番目のパスで第1吐出動作を行い、偶数番目のパスで第2吐出動作を行うことにより、双方向記録処理を実行する。図9に示される双方向記録処理の先頭において、制御部40は、各パスに対して、記録すべき画像データを割り当てる(S201)。次に、制御部40は、パスの番号を示す変数nの値を1に設定する(S202)。
【0056】
次に、制御部40は、変数nの値が奇数であるか否かを判断する(S203)。制御部40は、変数nの値が奇数であると判断した場合には(S203:Yes)、S204へ進む。この場合、制御部40は、ヘッド32を左向きに移動して、第nパスの記録を実行する(S204)。制御部40は、S204において、各ノズル列に対応する2つの遅延量に同じ量を設定し(分割遅延制御なし)、直前パスの記録位置に基づき吐出制御信号の出力タイミングを調整しない(ソフト傾き調整なし)。
【0057】
制御部40は、S203において、変数nの値が奇数でないと判断した場合には(S203:No)、S205へ進む。この場合、制御部40は、ヘッド32を右向きに移動して、第nパスの記録を実行する(S205)。制御部40は、S205において、各ノズル列に対応する2つの遅延量に異なる量を設定し(分割遅延制御あり)、直前パスの記録位置に基づき吐出制御信号の出力タイミングを調整しない(ソフト傾き調整なし)。
【0058】
制御部40は、S204またはS205を実行した後、S206へ進む。制御部40は、S206において、記録を完了したか否かを判断する。制御部40は、記録を完了していないと判断した場合には(S206:No)、S207へ進む。制御部40は、S207において、シートを所定量だけ搬送する。次に、制御部40は、変数nの値に1を加算する(S208)。次に、制御部40は、S203へ進み、S203以降の処理を再び実行する。制御部40は、S206において、記録を完了したと判断した場合には(S206:Yes)、双方向記録処理を終了する。
【0059】
上記実施形態に係るプリンタ10では、制御部40がヘッド32を左向きに移動して第1吐出動作を行わせたときに、シートS上に記録される画像の傾斜が抑制されるように、第1~第4ノズル列K1~K4が傾斜配置されている。このため、プリンタ10において、制御部40がヘッド32を右向きに移動して第2吐出動作を行わせると、シートS上に記録される画像の傾斜は、ノズル列の傾斜配置によって逆に大きくなる。例えば、奇数番目のパスで第1吐出動作が実行され、偶数番目のパスで第2吐出動作が実行される場合、図10(A)に示されるように、奇数番目のパスではシート上に傾斜のない画像や傾斜の小さい画像が記録されるのに対して、偶数番目のパスではシート上に傾斜の大きい画像が記録される。
【0060】
そこで、第1変形例に係るプリンタでは、制御部40は、S205において、各ノズル列に対応する2つの遅延量に異なる量を設定する。例えば、制御部40は、S205において、各ノズル列の上流側に対応する遅延量には偶数番目のパスで記録される画像の傾斜に応じた量を設定し、各ノズル列の下流側に対応する遅延量にはゼロを設定する。これにより、偶数番目のパスでは、シート上に前後方向8に2分割された画像が記録される。また、2つの遅延量に好適な量を設定することにより、図10(B)に示されるように、2分割された画像の一方の記録位置と、2分割された画像の他方の記録位置とを揃えることができる。したがって、第1変形例に係るプリンタによれば、上記実施形態に係るプリンタ10よりも、第2吐出動作によって記録される画像の傾斜を抑制できる。
【0061】
第1変形例に係るプリンタでは、制御部40は、第2吐出動作では、ヘッド32に含まれる各ノズル列内の上流側のノズル33と下流側のノズル33とについて、ノズル33の吐出制御信号の遅延量を異なる量に設定する。このように、ヘッド32を右向きに移動して第2吐出動作を実行するときに、ノズル列内の上流側のノズルと下流側のノズルとの間で吐出制御信号を異なる量だけ遅延させることにより、第2吐出動作を実行するときにも、ノズル33とシートとの距離の差による画像の傾斜を小さくできる。
【0062】
[第2変形例]
第2変形例に係るプリンタでは、制御部40は、図11に示されるフローチャートに従い、奇数番目のパスで第1吐出動作を行い、偶数番目のパスで第2吐出動作を行うことにより、双方向記録処理を実行する。図11に示される双方向記録処理の先頭において、制御部40は、各パスに対して、記録すべき画像データを割り当てる(S301)。次に、制御部40は、ヘッド32を左向きに移動して、第1パスの記録を実行する(S302)。制御部40は、S302において、各ノズル列に対応する2つの遅延量に同じ量を設定し(分割遅延制御なし)、直前パスの記録位置に基づき吐出制御信号の出力タイミングを調整しない(ソフト傾き調整なし)。
【0063】
次に、制御部40は、ヘッド32を右向きに移動して、第2パスの記録を実行する(S303)。制御部40は、S303において、各ノズル列に対応する2つの遅延量に異なる量を設定し(分割遅延制御あり)、直前パスの記録位置に基づき吐出制御信号の出力タイミングを調整しない(ソフト傾き調整なし)。次に、制御部40は、パスの番号を示す変数nの値を2に設定する(S304)。
【0064】
次に、制御部40は、変数nの値が奇数であるか否かを判断する(S305)。制御部40は、変数nの値が奇数であると判断した場合には(S305:Yes)、S306へ進む。この場合、制御部40は、ヘッド32を左向きに移動して、第nパスの記録を実行する(S306)。制御部40は、S306において、各ノズル列に対応する2つの遅延量に同じ量を設定し(分割遅延制御なし)、直前パスの記録位置に基づき吐出制御信号の出力タイミングを調整する(ソフト傾き調整あり)。
【0065】
制御部40は、S305において、変数nの値が奇数でないと判断した場合には(S305:No)、S307へ進む。この場合、制御部40は、ヘッド32を右向きに移動して、第nパスの記録を実行する(S307)。制御部40は、S307において、各ノズル列に対応する2つの遅延量に異なる量を設定し(分割遅延制御あり)、直前パスの記録位置に基づき吐出制御信号の出力タイミングを調整する(ソフト傾き調整あり)。
【0066】
制御部40は、S306またはS307を実行した後、S308へ進む。制御部40は、S308において、記録を完了したか否かを判断する。制御部40は、記録を完了していないと判断した場合には(S308:No)、S309へ進む。制御部40は、S309において、シートを所定量だけ搬送する。次に、制御部40は、変数nの値に1を加算する(S310)。次に、制御部40は、S305へ進み、S305以降の処理を再び実行する。制御部40は、S308において、記録を完了したと判断した場合には(S308:Yes)、双方向記録処理を終了する。
【0067】
第1変形例に係るプリンタにおいて双方向記録処理を行った場合、偶数番目のパスの記録位置と、その直後の奇数番目のパスの記録位置との間にずれが生じる(図10(B)のX部を参照)。
【0068】
そこで、第2変形例に係るプリンタでは、制御部40は、S306およびS307において、直前パスの記録位置に基づき吐出制御信号の出力タイミングを調整する。例えば、制御部40は、直前パスの記録位置と次パスの記録位置とが揃うように、吐出制御信号の出力タイミングを調整する。これにより、偶数番目のパスの記録位置と、その直後の奇数番目のパスの記録位置との間のずれをなくしたり、小さくしたりすることが可能となる(図12のY部を参照)。
【0069】
図12において、Si(iは1以上の整数)は、第iパスの記録開始位置を示す。制御部40は、第2パスの記録位置と第3パスの記録位置とが揃うように、吐出制御信号の出力タイミングを調整する。このため、第3パスの記録開始位置S3は、第1パスの記録開始位置S1から距離Dだけ右に移動した位置になる。制御部40は、第3パスの記録位置と第4パスの記録位置とが揃うように、吐出制御信号の出力タイミングを調整する。このため、第4パスの記録開始位置S4は、第2パスの記録開始位置S2から距離Dだけ右に移動した位置になる。第3パス以降の各パスの記録開始位置は、2つ前のパスの記録開始位置から距離Dだけ右に移動した位置になる。
【0070】
このように第2変形例に係るプリンタでは、制御部40は、双方向記録を実行するときには、直前の吐出動作による吐出位置に基づいて、ノズル33の吐出制御信号の出力タイミングをずらす。したがって、直前の吐出動作による吐出位置と今回の吐出動作による吐出位置とを揃えて、シートS上に記録される画像の画質低下を抑制できる。
【0071】
第2変形例に係るプリンタでは、上記実施形態に係るプリンタ10と同様に、第1吐出動作が実行される奇数番目のパスでは、シート上に傾斜のない画像や傾斜の小さい画像が記録される一方、第2吐出動作が実行される偶数番目のパスでは、シート上に傾斜の大きい画像が記録される。そこで、制御部40は、第2吐出動作では第1吐出動作よりも、ノズル33の吐出制御信号の出力タイミングをずらす量を大きくしてもよい。或いは、制御部40は、第2吐出動作では第1吐出動作よりも、ノズル33の吐出制御信号の遅延量を大きくしてもよい。このような方法でシートに対するインクの吐出開始位置を好適に制御することにより、第2吐出動作を実行するときにも、ノズル33とシートSとの距離の差による画像の傾斜を小さくできる。
【0072】
[第3変形例]
第3変形例に係るプリンタでは、制御部40は、第1吐出動作および第2吐出動作の両方において、各ノズル列に対応する2つの遅延量に異なる量を設定する(分割遅延制御あり)と共に、直前パスの記録位置に基づきノズル33の吐出制御信号の出力タイミングを調整する(ソフト傾き調整あり)。
【0073】
ノズル列の上流端と下流端との間でノズルからシートまでの距離が異なり、ノズル列が傾斜配置されており、ソフト傾き調整を実行するが、分割遅延制御を実行しないプリンタを第3比較例とする。第3比較例に係るプリンタにおいて双方向記録を実行した場合、図13(A)に示されるように、シートに画像がパスごとに傾斜して記録される。図13(A)に示される例では、偶数番目のパスの記録位置は、奇数番目のパスの記録位置に対して逆向きに、より大きく傾斜している。
【0074】
これに対して、第3変形例に係るプリンタにおいて双方向記録を実行する場合には、制御部40は、奇数番目のパスでは、各ノズル列に対応する2つの遅延量に距離D1(図13(B)参照)に対応する差を設定し、偶数番目のパスでは、各ノズル列に対応する2つの遅延量に距離D2に対応する差を設定する。なお、距離D2は距離D1より大きい。
【0075】
これにより、図13(B)に示されるように、奇数番目のパスおよび偶数番目のパスについて、2分割された画像の一方の記録位置と、2分割された画像の他方の記録位置とを揃えると共に、直前パスの記録位置と次パスの記録位置との間のずれをなくしたり、小さくしたりすることが可能となる。第3変形例に係るプリンタによれば、第1吐出動作および第2吐出動作によって記録される画像の傾斜を抑制し、シート上に記録される画像の画質低下を抑制できる。
【0076】
なお、第1から第3変形例に係るプリンタにおいて、制御部40は、ヘッド32を右向きに移動するときの速度を、ヘッド32を左向きに移動するときの速度より遅くしてもよい。すなわち、制御部40は、第2吐出動作では第1吐出動作よりも、ヘッド32の移動速度を遅くしてもよい。
【0077】
第1から第3変形例に係るプリンタでは、ヘッド32を左向きに移動して第1吐出動作を実行するときよりも、ヘッド32を右向きに移動して第2吐出動作を実行するときに、ドットの記録位置がずれやすい。一方、ヘッド32の移動速度を遅くすれば、ドットの記録位置はずれにくくなる。
【0078】
したがって、第2吐出動作では第1吐出動作よりもヘッド32の移動速度を遅くすることにより、第2吐出動作を実行するときにも、ドットの記録位置のずれを小さくして、ノズル33とシートSとの距離の差による画像の傾斜を小さくできる。
【0079】
[他の変形例]
以上に示されるプリンタはモノクロプリンタであることとしたが、本発明のプリンタはモノクロ印刷とカラー印刷とを選択的に実行可能なプリンタであってもよい。このプリンタは、筐体11の内部に、4つの装着ケース36と4つのサブタンク35とを備えている。4つの装着ケース36には、ブラックのインクを貯留したカートリッジが4つ装着される場合と、シアン、マゼンタ、イエロー、およびブラックのインクをそれぞれ貯留した4つのカートリッジが装着される場合とがある。
【0080】
4つのカートリッジを第1~第4カートリッジ、4つのサブタンク35を第1~第4サブタンクとしたとき、第1ノズル列K1内のノズル33からは、第1カートリッジから第1サブタンク経由で供給されたインクが吐出される。第2ノズル列K2内のノズル33からは、第2カートリッジから第2サブタンク経由で供給されたインクが吐出される。第3ノズル列K3内のノズル33からは、第3カートリッジから第3サブタンク経由で供給されたインクが吐出される。第4ノズル列K4内のノズル33からは、第4カートリッジから第4サブタンク経由で供給されたインクが吐出される。
【0081】
制御部40は、第1~第4ノズル列K1~K4内のノズル33から同色の液体を吐出させるモノクロ印刷と、第1~第4ノズル列K1~K4内のノズル33から各ノズル列に応じた色の液体を吐出させるカラー印刷と、選択的に実行する。なお、モノクロ印刷は、第1動作の一例である。カラー印刷は、第2動作の一例である。
【0082】
このプリンタによれば、4つのノズル列K1~K4内のノズル33から同色の液体を吐出させてモノクロ画像を記録する動作と、4つのノズル列K1~K4内のノズル33から4色の液体を吐出させてカラー画像を記録する動作とを選択的に実行できる。
【0083】
また、以上に示されるプリンタは、搬送ローラ対22、排出ローラ対24、およびキャリッジ31を含む移動機構を備えることとしたが、本発明のプリンタは、ヘッドを搭載し、シートに対して主走査方向および主走査方向と交差する方向に移動するキャリッジを移動機構として備えていてもよい。
【符号の説明】
【0084】
5・・・第1傾斜方向(第1方向)
6・・・第2傾斜方向(第2方向)
8・・・前後方向(搬送方向)
9・・・左右方向(主走査方向)
10・・・プリンタ(液体吐出装置)
22・・・搬送ローラ対(移動機構)
24・・・排出ローラ対(移動機構)
31・・・キャリッジ(移動機構)
32・・・ヘッド
33・・・ノズル
40・・・制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13