(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023183556
(43)【公開日】2023-12-28
(54)【発明の名称】単一細胞解析用容器及びそれを用いた単一細胞解析方法
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20231221BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20231221BHJP
C12Q 1/6806 20180101ALI20231221BHJP
C12Q 1/6869 20180101ALI20231221BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20231221BHJP
【FI】
C12M1/00 A ZNA
C12Q1/02
C12Q1/6806 Z
C12Q1/6869 Z
C12N15/09 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022097129
(22)【出願日】2022-06-16
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】谷口 妃代美
(72)【発明者】
【氏名】白井 正敬
【テーマコード(参考)】
4B029
4B063
【Fターム(参考)】
4B029AA07
4B029AA08
4B029AA09
4B029BB11
4B029DG08
4B029FA02
4B029FA15
4B029GA08
4B029GB05
4B029HA09
4B063QA01
4B063QA13
4B063QA17
4B063QA18
4B063QA19
4B063QQ08
4B063QQ53
4B063QR08
4B063QR32
4B063QR62
4B063QR83
4B063QS10
4B063QS15
4B063QS25
4B063QS32
4B063QS39
(57)【要約】 (修正有)
【課題】単一細胞解析デバイスにおける固相を別の容器内に簡便かつ迅速に回収できるようになり、核酸処理反応の時間が短縮され、多様な核酸処理反応を適用できる、単一細胞解析用容器及びそれを用いた単一細胞解析方法を提供する。
【解決手段】細胞31を捕捉する細胞捕捉部7と、細胞捕捉部7の直下に配置され、固相が充填された1又は複数の微小反応槽8とを備えた反応基板と、反応基板を底部とし、細胞31を含む溶液を保持するように構成された細胞保持部7とを備えた単一細胞解析用容器21。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞を捕捉する細胞捕捉部と、前記細胞捕捉部の直下に配置され、固相が充填された1又は複数の微小反応槽とを備えた反応基板と、
前記反応基板を底部とし、細胞を含む溶液を保持するように構成された細胞保持部と
を備えた単一細胞解析用容器。
【請求項2】
単一細胞解析デバイスへ固定するための固定具をさらに備える、請求項1に記載の容器。
【請求項3】
単一細胞解析デバイスから取り外すための補助具をさらに備える、請求項1に記載の容器。
【請求項4】
前記固相がビーズである、請求項1に記載の容器。
【請求項5】
前記固相が磁性ビーズである、請求項1に記載の容器。
【請求項6】
前記細胞捕捉部1つ当たり単一の細胞が捕捉される、請求項1に記載の容器。
【請求項7】
前記反応基板が、前記細胞保持部とは反対側に設けられた吸引用の貫通孔を有する層を備える、請求項1に記載の容器。
【請求項8】
単一細胞解析デバイスを用いた単一細胞解析方法であって、
請求項1に記載の容器が固定された単一細胞解析デバイスにおいて、前記容器に細胞を含む溶液を導入する工程と、
前記細胞捕捉部に細胞を捕捉する工程と、
前記捕捉された細胞由来の核酸について前記微小反応槽で反応を行う工程と、
前記反応後に、前記容器を前記単一細胞解析デバイスから取り外す工程と、
前記取り出された容器から前記固相を収集する工程と
を含む方法。
【請求項9】
前記固相の収集工程が、前記容器を溶液を含む別の容器に浸し、前記容器を振動させることを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記固相が磁性ビーズであり、前記方法が、前記振動と共に又は前記振動後、前記固相を磁石により前記別の容器内で収集することを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
自動化単一細胞解析装置であって、
請求項1に記載の容器を固定するように構成された単一細胞解析デバイスと、
前記容器を前記単一細胞解析デバイスから取り外し、別の容器へ移動させる機構と、
前記容器を前記別の容器内で振動させる機構と、
制御装置と
を備え、前記制御装置が、前記単一細胞解析デバイスにおける反応後に、前記容器の前記単一細胞解析デバイスからの取り外し、前記別の容器への移動、及び前記容器の前記別の容器内での振動を制御する、装置。
【請求項12】
前記制御装置が、前記単一細胞解析デバイスに前記容器を固定している固定具を除去するように制御する、請求項11に記載の装置。
【請求項13】
前記制御装置が、前記容器を前記単一細胞解析デバイスに押し付け、前記容器から反応液を吸引する際に空気漏れが生じないように制御する、請求項11に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単一細胞解析用容器及びそれを用いた単一細胞解析方法に関する。また本発明は、かかる単一細胞解析用容器を用いて単一細胞解析を行うための自動化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
単一細胞解析とは単一細胞毎の細胞中の生体分子を高精度に検出、定量する技術である。単一細胞解析は様々な技術が開発されている。特に一度に1つのデバイス上で多数の細胞の単一細胞解析を行うデバイスが開発され、製品化されている(非特許文献1)。この技術は半導体パタニングを用いたマイクロフルイディクスに基づく技術であり、微小な流路や反応室、バルブを2次元面内に多数構築することで、多様な反応に対応することが可能である。特に単一細胞解析用のサンプル調製のためには2次元面内の流路中に単一細胞を捕捉する構造、その下流に、細胞を破砕(Lysis)するための反応室、逆転写反応のための反応室、PCR増幅のための反応室が直列につながっている流路を構築する。このような面内流路中に反応室を直列に並べて、単一細胞解析のために、細胞からの核酸サンプルを調製する場合に、処理する細胞数に合わせて、反応室の数を増やさなければならない。一方、細胞のサイズとその中の生体物質の量から必要な反応室の大きさを小さくするためには限界があるため、細胞数が増えるにしたがってデバイスの面積が大きくなってしまう。この時、この技術は半導体パタニングを用いているため、コストがデバイス面積に比例し、細胞数が増えるとデバイスコストが増大するという課題があった。
【0003】
この課題を克服するために、デバイス基板の面に平行ではなく、面に垂直に流路を構築することによって、集積度を上げて、デバイスコストを低減する技術が提案されている(特許文献1~4)。これらの文献に記載のデバイスは細胞捕捉部と核酸捕捉部を備え、細胞捕捉部で単一細胞を捕捉、単離し、その直下に配置された核酸捕捉部で、mRNAをビーズ又は多孔質材料表面上に固定されたタグ付きDNAで捕捉することで、細胞ごと、mRNA分子ごとに異なるタグを挿入する。さらに、デバイス上で逆転写することで、タグ配列と遺伝子配列が一本のcDNA鎖として合成され、このcDNAを核酸増幅し、次世代シーケンサーにて配列解析を行う。細胞識別タグ、分子識別タグごとに、計測されたリードをカウントすることで個々のcDNAの分子数をカウントできる。特に、この方法ではmRNAからcDNAへの変換効率が高く、高い精度の近似的なmRNAのカウントが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開WO2014/020657号
【特許文献2】国際公開WO2016/207986号
【特許文献3】国際公開WO2014/141386号
【特許文献4】国際公開WO2019/116800(特開2019-103415号公報)
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】D. Ramskold et al., Nat Biotechnol, 第30巻第8号第777-782頁, 2012年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
がん研究の治療法の研究、特に個別化医療法の臨床研究において、がん微小環境の解析に注目が集まっている。このがん微小環境はがん細胞、正常細胞、及び多様な免疫細胞で構成されており、これら細胞の機能解析を目的として細胞内部に発現している遺伝子の状態を解析する手段として単一細胞解析が注目されている。また、がん微小環境に浸潤した樹状細胞等の抗原提示細胞は、リンパ節に移動し、がん抗原選択的な免疫応答(キラーT細胞の増殖、抗体の生産など)が起き、ここで増殖した免疫細胞はケモカインなどのシグナル伝達物質に誘導され、がん組織に戻る。それゆえ、がん微小環境の変化を部分的、末梢血中の免疫細胞の状態変化でとらえることも期待され、注目が集まり始めている。
【0007】
これまで、単一細胞解析デバイスは、デバイス内のチップ上で細胞を捕捉し、直下の微小反応槽(核酸捕捉部)中に充填されたビーズ表面で捕捉したmRNAをデバイス中で逆転写することで相補的なcDNAを合成し、デバイス内でPCRなどの核酸処理反応を行うことを前提とした装置構成が多かった(特許文献1及び2)。また、デバイス中のチップを別のチューブ(樹脂容器)の溶液中に浸漬し、ビーズを溶液中に懸濁して、多様な核酸処理を実行することが可能である(特許文献3及び4)。
【0008】
しかし、デバイス中で核酸処理反応を実行するためには、反応処理に応じたデバイスを開発しなければならず、核酸処理の自由度が低かった。
【0009】
また、デバイスの中でビーズ、繊維等の固相上に捕捉した核酸を別チューブに回収するために、デバイス中で固相(ビーズ)を充填したチップをピンセット等の器具を使って、デバイスから取り出し、容器中の溶液に浸漬し、さらに、固相(ビーズ)を容器中の溶液に分散するために手間と時間が必要であった。
【0010】
図1に、従来技術においてビーズを単一細胞解析デバイスとは別の容器中に分散させる場合の単一細胞解析デバイス構成とその使い方を示す。
図1のAは単一細胞解析デバイスの断面図である。このデバイスは細胞懸濁液1を保持するウェル(容器)2を構成するための上側プレート3と溶液吸引用流路4を構成するための下側プレート5とその間に挟まれた単一細胞解析チップ6から構成されている。単一細胞解析チップ6は複数の貫通孔を備えており、この貫通孔は細胞懸濁液に接する部分に細胞捕捉部7が設けられ、その直下にmRNA捕捉用DNAプローブを固定したビーズを充填した核酸捕捉部8から構成されている。単一細胞解析チップ6の直下にはビーズを核酸捕捉部に保持するための、ビーズサイズよりも小さい孔が多数形成された多孔質メンブレン9を密着させている。流路4に吸引ポンプを接続し、単一細胞解析チップ6の裏面に負圧を印加することで、細胞懸濁液1は細胞捕捉部7及び核酸捕捉部8を通って吸引される。このとき細胞は細胞の直径より小さい細胞捕捉部7の1つに1細胞ずつ捕捉される。細胞が捕捉されることによって、該当の細胞捕捉部を通過する溶液流が止まるので、残された細胞はまだ捕捉されていない細胞捕捉部7に吸引され、細胞が単離される。ポンプで吸引し続けた状態ですべての細胞を吸引し(細胞懸濁液中の細胞数は細胞捕捉部の数よりも少なくなるように分注する)、細胞破砕(リシス)溶液をウェルに加えると細胞が破砕し、それぞれの細胞からの細胞破砕液が核酸捕捉部を通過する。この時ビーズ上に固定されたポリT配列を含むDNAプローブによってmRNAが捕捉される。ビーズ上に固定したDNAプローブはポリT配列より3’末端側に微小反応槽(核酸捕捉部)のチップ内での位置ごとに異なる配列(細胞識別タグ)が挿入されている。さらに、リシス溶液を洗浄する溶液を加え、リシス溶液を核酸捕捉部から洗浄・排出後、ポンプを停止し、圧力を大気圧に戻してから、逆転写酵素溶液を加え、微小反応槽(核酸捕捉部)が逆転写溶液で満たされるように流路4にシリンジを接続し、数秒程度負圧を加える。逆転写酵素が蒸発しないようにウェル上部の開口部にPCRシール等でシールし、逆転写反応を完了するまで、デバイス全体を逆転写反応に適した温度に保つ。逆転写反応完了後、デバイス温度を室温まで戻し、シールを除去したうえで流路4を再度ポンプに接続することで、ウェル2中に残留した逆転写反応溶液を完全に吸引する。
【0011】
次に、
図1のB及びCに示すように、チップを取り出すために、固定されていた上側プレート3を取り外し、チップ6をピンセット10でつかみ、ビーズ回収用樹脂製チューブ11中のビーズ懸濁回収用バッファ12に浸漬する。チップ中のビーズはチップを取り出す前に酵素溶液を十分吸引することで、チップの核酸捕捉部8に充填されたビーズの大部分は微小反応槽(核酸捕捉部)に保持されている。このビーズをビーズ懸濁用バッファに懸濁するためには、チップに振動を与える必要があるが、チップが固定されていない状況では、チップが動いてしまい、うまく振動を加えることが困難である。さらに、核酸捕捉部での酵素反応を考慮した弾力性の高いPDMS(ポリジメチルシロキサン)製のチップを用いた場合はチップが柔軟なためさらに、振動を加え得ることが困難となる。そのため、ピンセットを使って、チップを繰り返し曲げ伸ばしすることでビーズを核酸捕捉部から溶液中に拡散させ、ビーズが磁性ビーズであることを用いて、磁石13でビーズを集める。このチップの曲げ伸ばしによりビーズの拡散に時間がかかるだけでなく、チップの取り出しに用いたピンセットをビーズ懸濁液に浸漬しなければならないため、チップ間のビーズや他の溶液中の物質の混入の課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、従来の単一細胞解析デバイスにおいて、細胞懸濁液をためる容器の底を単一細胞解析チップとし、容器の底面裏側(チップ裏側)から容器中の溶液をチップを通して吸引するための吸引ポートを脱着可能な形で密着させることによって、チップ上での反応後に上記容器を取り外して別の容器に導入し、チップに振動を加え、ビーズ等の固相を別容器に容易に回収可能となることを見出した。
【0013】
したがって、一態様において、本発明は、
細胞を捕捉する細胞捕捉部と、前記細胞捕捉部の直下に配置され、固相が充填された1又は複数の微小反応槽とを備えた反応基板と、
前記反応基板を底部とし、細胞を含む溶液を保持するように構成された細胞保持部と
を備えた単一細胞解析用容器を提供する。
【0014】
別の態様において、本発明は、単一細胞解析デバイスを用いた単一細胞解析方法であって、
本発明に係る単一細胞解析用容器が固定された単一細胞解析デバイスにおいて、前記容器に細胞を含む溶液を導入する工程と、
前記細胞捕捉部に細胞を捕捉する工程と、
前記捕捉された細胞由来の核酸について前記微小反応槽で反応を行う工程と、
前記反応後に、前記容器を前記単一細胞解析デバイスから取り外す工程と、
前記取り出された容器から前記固相を収集する工程と
を含む方法を提供する。
【0015】
さらに別の態様において、本発明は、自動化単一細胞解析装置であって、
本発明に係る単一細胞解析用容器を固定するように構成された単一細胞解析デバイスと、
前記容器を前記単一細胞解析デバイスから取り外し、別の容器へ移動させる機構と、
前記容器を前記別の容器内で振動させる機構と、
制御装置と
を備え、前記制御装置が、前記単一細胞解析デバイスにおける反応後に、前記容器の前記単一細胞解析デバイスからの取り外し、前記別の容器への移動、及び前記容器の前記別の容器内での振動を制御する、装置を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、単一細胞解析デバイスに使用するための単一細胞解析用容器、及びそれを使用した単一細胞解析方法及び自動化単一細胞解析装置が提供される。本発明により、単一細胞解析デバイスにおける固相を別の容器内に簡便かつ迅速に回収できるようになり、核酸処理反応の時間が短縮され、多様な核酸処理反応を適用できるようになる。したがって、本発明は、単一細胞解析、特に遺伝子発現解析、細胞機能解析、生体組織の解析が望まれる分野、病気の診断、創薬などの分野に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】従来技術においてビーズを単一細胞解析デバイスとは別の容器中に分散させる場合の単一細胞解析デバイスの構成とその使い方を示す。
【
図2】本発明に係る単一細胞解析用容器の具体的な構造例とその使い方を示す。
【
図3】単一細胞解析用容器21を単一細胞解析デバイスから引き上げたときの、上からの構造図を示す。
【
図4】実施例1の単一細胞解析用容器21を上から見た図である。
【
図5】細胞懸濁液が入っていない状態の実施例1の単一細胞解析用容器21の断面図である。
【
図6】実施例1の単一細胞解析デバイスの断面図である。
【
図7】実施例1の単一細胞解析用容器を使用して、単一細胞由来の遺伝子発現解析を行った結果を示すグラフである。
【
図8】単一細胞解析用容器を用いた単一細胞解析の自動化装置におけるフロー例を示すフローチャートである。
【
図9】単一細胞解析用容器を用いた単一細胞解析の自動化装置の装置構成例を示す図である。
【
図10】単一細胞解析用容器の一実施例である連結容器201の、チップ30上面からの上面図(A)および断面図(B)である。
【
図11】単一細胞解析用容器を用いた単一細胞解析の自動化装置の別の装置構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
一態様において、本発明は、
細胞を捕捉する細胞捕捉部と、前記細胞捕捉部の直下に配置され、固相が充填された1又は複数の微小反応槽とを備えた反応基板と、
前記反応基板を底部とし、細胞を含む溶液を保持するように構成された細胞保持部と
を備えた単一細胞解析用容器に関する。
【0019】
細胞捕捉部と反応基板とを備えた反応基板は、当技術分野で公知の単一細胞解析デバイスにおいて使用される反応基板とすることができる。そのような反応基板は、例えばWO2014/020657号(特許文献1)、WO2014/141386号(特許文献3)、WO2019/116800(特許文献4)などに記載されている。一実施形態において、反応基板は、樹脂製であり、特にPDMS(ポリジメチルシロキサン)、シクロオレフィン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリエチレンである。また、反応基板上の固相(ビーズ等)が充填された微小反応槽(核酸捕捉部)のサイズは、例えば直径0.5mm以下であり、深さ0.05mm以上とアスペクト比が0.1以上である。充填される固相は、限定されるものではなく、例えばビーズ(好ましくは磁性ビーズ)、繊維(メッシュ、スポンジ、中空繊維など)などとすることができる。充填される固相がビーズの場合には、ビーズのサイズは、例えば3μ以下であることが好ましい。細胞捕捉部は、細胞捕捉部1つ当たり単一の細胞が捕捉されるような形状及びサイズであることが好ましい。
【0020】
反応基板は、細胞保持部とは反対側に設けられた吸引用の貫通孔を有する層を備える。このような構成は、上述したような文献に記載されており、当業者には公知である。貫通孔から、細胞を含む溶液の溶液部分、反応基板上に導入された試薬、洗浄液などを吸引することによって、反応基板上での反応を迅速に高精度に実施することができる。
【0021】
細胞保持部は、上記のような反応基板を底部として、細胞を含む溶液を保持するように構成される。細胞保持部の形状は、固定する単一細胞解析デバイスに適合し、溶液を保持できる形状であれば特に限定されるものではなく、円柱、円錐、四角柱、三角柱などの任意の形状とすることができる。細胞保持部のサイズは、反応基板及び単一細胞解析デバイスのサイズ、導入する溶液の量などに応じて、適宜設定し得る。細胞保持部の内壁は、細胞、溶液、反応基板上に導入する反応試薬などが付着しにくいように撥水処理されていてもよい。
【0022】
本発明に係る単一細胞解析用容器は、単一細胞解析デバイスへ脱着可能に固定され、反応後は取り外すことができる。そのため、一実施形態において、単一細胞解析用容器は、単一細胞解析デバイスへ固定するための固定具をさらに備える。特に、反応基板上での反応や前後での洗浄操作の際に移動せず、安定して固定できるような固定具であることが好ましい。そのような固定具は、特に限定されるものではなく、ネジ、突起、磁石、脱着可能な接着剤などとすることができる。また一実施形態において、単一細胞解析用容器は、単一細胞解析デバイスから取り外すための補助具をさらに備える。特に、自動化装置において、簡便かつ迅速に単一細胞解析用容器をデバイスから取り外すことができるような補助具であることが好ましい。そのような補助具は、特に限定されるものではなく、突起、磁石などとすることができる。補助具がない場合でも、容器を外側からつかむ機構、容器を吸引によって保持する機構を利用することによって単一細胞解析デバイスから取り外すことができるため、補助具はなくてもよい。
【0023】
本発明に係る単一細胞解析用容器の具体的な構造例とその使い方を
図2に示す。吸引用流路4を配置した下側プレート5は従来デバイス(
図1)と同じである。異なる点は、細胞懸濁液1をためる容器21の底面が単一細胞解析チップ30となるように固定されていることである。単一細胞解析チップの下側にはビーズを保持するためのメンブレン9が密着し、さらに吸引ポンプを用いて負圧を印加したときに空気漏れが生じないようにするためのシール用ゴム25が下側プレートとの間に挿入されている。また、空気漏れが生じないようにするためには、容器21が下側プレート開口部に合わせて配置され、下側プレートに向かって圧力がかかっていなければならない。これを実現するのが、上側プレート23と中間プレート22と位置決めピン24である。23と22は位置決めピンをそれぞれのプレートに形成された孔に位置決めピンを通すことによって、下側プレート5に対して面内の位置決めが可能となる。そのうえで、23に対して5に形成したネジ穴にネジを占めることで上側プレートが下側プレートの方に向かって密着し、空気漏れが生じないようにすることができる。
【0024】
単一細胞解析デバイスの使い方として、細胞懸濁液1中の細胞31を流路4にポンプを接続して、細胞捕捉部7に吸引・捕捉し、単離することは従来法(
図1)と同じである。さらに、逆転写反応、その後の冷却、逆転写酵素溶液除去の手順も同じである。
【0025】
この後、上側プレート23を固定しているネジを緩め、上側プレート23を除去する。そのうえで、容器引き上げロッド27をロッド固定突起26にひっかけて容器21を引き上げる。
図3に単一細胞解析用容器21を単一細胞解析デバイスから引き上げたときの、上からの構造図を示す。容器21の底部は単一細胞解析チップ30となっている。ロッド27は29(
図3の点線の状態)の角度で容器の内部に挿入し、27の位置まで回転されて、ロッドを引き上げることで容器21をロッド固定突起26にひっかけ、固定することができる。
【0026】
このロッド27で引き上げた容器21をチューブ11中のビーズ懸濁回収用バッファ12に浸漬する。そのうえで、加振棒28で単一細胞解析チップ30に振動を与える。容器はチューブ内壁に押し付けることによって、しっかり固定できるので、チップ30はしっかり固定された状態となり、加振棒の振動をチップ30に効率よく加えることが可能となる。
【0027】
これによって短時間に核酸捕捉部のビーズを溶液に拡散させ、磁石13を用いて集めることが可能となる。
【0028】
別の態様において、本発明は、単一細胞解析デバイスを用いた単一細胞解析方法であって、
本発明に係る単一細胞解析用容器が固定された単一細胞解析デバイスにおいて、前記容器に細胞を含む溶液を導入する工程と、
前記細胞捕捉部に細胞を捕捉する工程と、
前記捕捉された細胞由来の核酸について前記微小反応槽で反応を行う工程と、
前記反応後に、前記容器を前記単一細胞解析デバイスから取り外す工程と、
前記取り出された容器から前記固相を収集する工程と
を含む方法に関する。
【0029】
一実施形態において、固相の収集工程は、単一細胞解析用容器を、溶液を含む別の容器に浸し、単一細胞解析用容器を振動させることを含む。例えば固相が磁性ビーズである場合には、本発明に係る単一細胞解析方法は、この振動と共に又はこの振動後、固相(磁性ビーズ)を磁石により別の容器内で収集することを含む。
【0030】
さらなる態様において、本発明は、自動化単一細胞解析装置であって、
本発明に係る単一細胞解析用容器を固定するように構成された単一細胞解析デバイスと、
前記容器を前記単一細胞解析デバイスから取り外し、別の容器へ移動させる機構と、
前記容器を前記別の容器内で振動させる機構と、
制御装置と
を備え、前記制御装置が、前記単一細胞解析デバイスにおける反応後に、前記容器の前記単一細胞解析デバイスからの取り外し、前記別の容器への移動、及び前記容器の前記別の容器内での振動を制御する、装置に関する。
【0031】
一実施形態において、制御装置は、前記単一細胞解析デバイスに単一細胞解析用容器を固定している固定具を除去するように制御してもよい。また一実施形態において、制御装置は、単一細胞解析用容器を前記単一細胞解析デバイスに押し付け、単一細胞解析用容器から反応液を吸引する際に空気漏れが生じないように制御してもよい。
【0032】
本発明に係る単一細胞解析用容器及びそれを使用した単一細胞解析方法によって、単一細胞解析デバイスでの反応後に、細胞由来の核酸(mRNA)が固定された固相の回収を迅速かつ簡便に実施することができ、上述したような自動化装置において特に有用である。また所望の固相以外の物質の混入を防いでより高精度な単一細胞解析が可能となる。
【実施例0033】
以下に実施例を例示し、本発明を具体的に説明するが、この実施例は単に本発明の説明のために提供するものであり、本出願において開示する発明の範囲を限定したり制限したりするものではない。
【0034】
[実施例1]
本実施例では、単一細胞解析チップが底面を構成する単一細胞解析用容器を組み込んだ単一細胞解析デバイスの構造とこれを用いた単一細胞解析方法について記載する。
【0035】
(1)単一細胞解析チップが底面を構成する単一細胞解析用容器を組み込んだ単一細胞解析デバイスの構造について
図4に、本実施例の場合の単一細胞解析用容器21を上から見た図を示す。ここで細胞懸濁液が容器中に入っており、裏面から負圧を印加することで、細胞捕捉部7から溶液が吸引され、細胞31が捕捉されることで単離される。
図5は、細胞懸濁液が入っていない場合の単一細胞解析用容器21の断面図である。細胞捕捉部7の直下にビーズが充填された核酸捕捉部8が配置され、単一細胞解析チップ30を貫通する形の流路が形成されている。
【0036】
ここで単一細胞解析チップの厚さは100μm程度であり、細胞捕捉部の直径は2~5μm程度とした。さらに核酸捕捉部のサイズは直径75μmの円筒形で深さ70μmとした。この領域に磁性ビーズを50%~95%の充填率で充填している。充填方法はビーズ(直径1μm)上にはmRNAを捕捉するためのポリT配列含有RTプローブ(CCATCTCATCCCTGCGTGTCTCCGACTCAGTCGCGTACNNNNNNNTTTTTTTTTTTTTTTTTTVN:配列番号1)が固定されており、このRTプローブにはWO2016/125251Aに記載の通り細胞識別タグ(100種類程度ある既知配列の一例として、TCGCGTAC)と分子識別タグ配列(NNNNNNN、N=A、G、C又はT)も挿入されている。細胞分注後の逆転写反応までの処理方法を以下に示す。
【0037】
チップの材料はPDMS以外にもポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、シクロオレフィン等バイオ向け酵素反応に用いられている樹脂材料を使うことも可能である。
【0038】
チップのサイズは3.4mm角であり、これに単一細胞解析ウェルを接着剤を用いて接着した。ウェルのサイズは一番大きい最上部で4.5×4.5mm角、高さ3.5mmとした。材料はアクリルとしたが、ポリカーボネート、ポリプロピレン、シクロオレフィン等別の材料を用いてもよい。
【0039】
また、ビーズを保持する多孔質メンブレンには溶液が膜に垂直方向にだけ流れ、ビーズの直径よりポーラス直径の小さい0.8μmポアのトラックエッチメンブレンを用いた。このトラックエッチメンブレンはPDMSチップに密着し、ビーズ漏れを防ぐことができる。
【0040】
図6に本実施例での単一細胞解析デバイスの断面図を示す。各部の名称と機能は、
図2と同様である。デバイスの材料もアクリルを用いたが、単一細胞解析用容器と同様に他の樹脂材料を用いてもよい。
【0041】
また、本実施例では、2つの吸引用流路4に2つのチップが接続されており、デバイス中には、2本の吸引用流路(もう1つの流路は
図6奥側に配置)を設けて4つのチップが1つのデバイスに搭載されているが、チップ搭載数はデバイス面積を大きくすることで増やすことも可能である。1つのデバイスで1種類の検体を処理するように設計され、解析する単一細胞の数を470個程度とする場合には、デバイスに12個のチップを搭載するようにし、940個が必要な場合には24個のチップを搭載するようにすればよい(細胞捕捉部の8割程度の細胞の解析が可能)。また、この実施例では1つのチップに7×7の細胞捕捉部及びそれに対応する核酸捕捉部を設けたが、この数を10×10、20×20、30×30、100×100にすることによって、それぞれ1チップで80個、320個、720個、8000個程度の細胞を処理することができ、各チップを12個搭載したデバイスを作製することで1デバイスで960個、3840個、8640個、96000個の単一細胞解析が可能である。
【0042】
(2)単一細胞解析デバイスを用いた細胞捕捉及び細胞からの逆転写反応
単一細胞解析チップ(VFACs)30に単一細胞解析用容器21が固定された
図6の状態で細胞懸濁液1を容器内に分注し、吸引ポンプを吸引用流路4に接続する。吸引ポンプのスイッチを入れて、VFACの下方向からポンプ吸引(90 kPa)することにより、個々の細胞31をVFACs上の3μmの細胞捕捉部7で捕捉する。続いて8μLのCell wash buffer(100 mM Tris (pH8.0), 500 mM NaCl, 5 mM DTT, 0.4 U/μL RNase OUT, 0.1% Tween 20)を添加後、ポンプ吸引(90 kPa)し、VFACs表面などに残留した少数の細胞を再捕捉する。1μLのCell Lysis buffer(100 mM Tris (pH8.0), 500 mM NaCl, 10 mM EDTA, 1% SDS, 5 mM DTT, 1.33 U/μL RNase OUT)を添加して細胞を溶解するとともに、溶出されたmRNAをビーズ固定されたRTプローブで捕捉させる。反応後、ポンプ吸引(90 kPa)することで試薬の除去を行う。8μLのLysis wash buffer(100 mM Tris (pH8.0), 500 mM NaCl, 5 mM DTT, 0.4 U/μL RNase OUT, 1% Tween 20)添加後、ポンプ吸引(90 kPa)し、酵素反応阻害の原因になり得るCell Lysis Bufferの残留試薬を除去する。この操作を2回繰り返す。本工程において90 kPaの強さで一連のポンプ吸引を実施しても、細胞由来mRNA(約10
6分子/細胞)の損失が生じないことは確認している。Cell Lysis buffer及びLysis wash bufferには共に500 mMと高濃度のNaClが含まれていると共に、十分量(1.5×10
10分子)のRTプローブが磁気ビーズ上に固定されているため、細胞内の微量mRNAは効率よく捕捉される。各VFACs上面へ、4.5μLの逆転写反応試薬(1×FS Buffer (Takarabio), 2mM DTT, 2mM dNTPs, 3.2 U/μL RNase inhibitor (Takarabio), 10 Unit/μL SmartScribe RT (Takarabio), 0.2% Tween20)を添加する。単一細胞解析デバイスの上面の開口部をシール(Thermo Fisher社,Optical Adhesive Film)し、予め42℃に加温した恒温槽で60分間インキュベートする。室温で5分間インキュベート後、デバイスのシールを剥がし、ポンプで逆転写反応の試薬を吸引除去する。
【0043】
100μLチューブにSuspension Buffer(50 mM NaCl, 50 mM Tris (pH8.0))を予め添加した0.5mLチューブへ投入する。
【0044】
この後、上側プレートを固定しているネジを緩め、上側プレート23を除去する。そのうえで、容器引き上げロッド27をロッド固定突起26にひっかけて容器21を引き上げる。
【0045】
このロッド27で引き上げた容器21をビーズ懸濁回収用バッファ12の入ったチューブの中に浸漬する。そのうえで、加振棒28で単一細胞解析チップ30に振動を与える。加振棒は、市販のペン型バイブレータに直径1mm程度のカーボネート性の棒(ロッド)を固定して用いた。容器21をチューブ内壁の下側にチップ部分にロッドを押し付けながら、加振した。これによって1チップあたり2~3秒程度でビーズを溶液中に懸濁することが可能であった。チューブ底にネオジム磁石を近接し、ビーズを集めた。その後、容器21を除去し、50μLのwash buffer(0.1% Tween 20, 10 mM Tris, pH8.0)でビーズを2回洗浄後、ビーズ懸濁液を0.2mLのPCRチューブに入れ替えて1μLの同液でビーズを懸濁する。
【0046】
(3)PCR増幅による次世代シーケンサー(NGS)解析用サンプルの調製
(3-1)1st multiplex PCR増幅
(2)で調製した試料について磁気ビーズ上のRTプローブをExonuclease Iにより分解後、1st multiplex PCR増幅を行う。ここでは以下の表1に記載の44種類のオリゴ(配列番号9~52)を混和したForwardプライマーセットと1種類のReverseプライマー(PA primer, CCATCTCATCCCTGCGTGTCT:配列番号2)を用いた。
【0047】
【0048】
1st multiplex PCR増幅の詳細は次の通りである。Exonuclease I反応液(1x Exonuclease I buffer, 0.067 Unit/μL)を氷上にて調製する。この14μLを(2)で調製した試料と混和し、37℃で15分間インキュベートする。50μLのwash buffer(0.1% Tween 20, 50 mM Tris, pH8.0)でビーズを3回洗浄後、1μLの10 mM Tris (pH8.0)でビーズを懸濁する。9μLの1st Multiplex PCR試薬(1 x Gflex PCR buffer, 0.2μM 44plex primer mix, 2 μM PA primer, 0.075 Unit/μL Tks Gflex DNA polymerase)を氷上にて調製する。調製した9μLの1st Multiplex PCR試薬を1μLのビーズサンプルと混和し、適切な温度条件(94℃1分間の熱失活後、14サイクルの98℃10秒間→58℃3分間→68℃25秒間を実施し、68℃2分間後、4℃の一定温度)でPCR増幅させる。ネオジム磁石でビーズを捕捉後、増幅産物が含まれる上澄み10μLをチューブへ採取し、40μLのwash buffer(0.1% Tween 20, 10 mM Tris, pH8.0)でビーズを洗浄後、上澄みを増幅産物と混和して計50μLとする。サンプルのx0.7ボリュームに相当する35μLのAmpure XPを添加・混和してメーカ推奨プロトコル通り精製し、最後に35μLのwash buffer(10mM Tris (pH8.0), 0.1% Tween20)で溶出し、上澄みを別チューブに回収する。
【0049】
(3-2)2nd Multiplex PCR増幅
(3-1)で得た1st Multiplex PCR産物(遺伝子解析用産物)について、R2SP(illumina社 NGS用共通配列)が付加された44種のForward プライマーセット(表2、配列番号53~96)及び1種類のReverseプライマー(PA primer, 配列番号2)を用いて、2nd Multiplex PCR増幅する。これにより遺伝子発現解析向けのDNAが増幅される。
【0050】
【0051】
2nd multiplex PCR増幅の詳細は次の通りである。13μLの2nd Multiplex PCR試薬(1x Multiplex PCR Plus, 0.3μMの2nd R2SP付加44plex primer mix、3μMのPA primer)を、7μLの1st Multiplex PCR産物と混和後、適切な温度条件(95℃5分間の熱失活後、3サイクルの95℃30秒間→61℃5分間→72℃30秒間後、3サイクルの95℃30秒間→59℃5分間→72℃30秒間後、3サイクルの95℃30秒間→57℃5分間→72℃30秒間後、3サイクルの95℃30秒間→55℃5分間→72℃30秒間実施し、72℃2分間後、4℃の一定温度)で増幅させる。20μLの2nd Multiplex PCR産物へ30μLの0.1% Tween 20(10 mM Tris, pH8.0)を添加する(計50μL)。サンプルのx0.7ボリュームに相当する35μLのAmpure XPを添加・混和してメーカ推奨プロトコル通り精製し、最後に40μLのwash buffer(10mM Tris (pH8.0), 0.1% Tween20)で溶出し、上澄みを別チューブに回収する。
【0052】
(3-3)NGSライブラリ調製のための3rd PCR
(3-2)で得た2nd Multiplex PCR産物を鋳型とし、3rd PCR増幅を行うことでillumina社製NGS(次世代シーケンシング)解析に必要な共通配列(P5-R1SP(AATGATACGGCGACCACCGAGATCTACACTCTTTCCCTACACGACGCTCTTCCGATCT:配列番号3)、P7-R2SP(CAAGCAGAAGACGGCATACGAGATGTGACTGGAGTTCAGACGTGTGCTCTTCCGATCT:配列番号4))、及びVFACを識別するChip Tag(CT)配列(64種類ある既知配列中の一例として、TGACATA)を導入する。詳細条件を以下に示す。
【0053】
22μLの3rd PCR試薬(1 x Gflex PCR buffer, 0.23μM P5_R1SP_CT_PA primer(64種類あるCTの一例を含む、AATGATACGGCGACCACCGAGATCTACACTCTTTCCCTACACGACGCTCTTCCGATCTTGACATACCATCTCATCCCTGCGTGTCTC:配列番号5)、0.23μM P7_R2SP primer(CAAGCAGAAGACGGCATACGAGATGTGACTGGAGTTCAGACGTGT:配列番号6)、0.01μM P5 primer(AATGATACGGCGACCACCGAGATCTACAC:配列番号7)、0.01μM P7 primer(CAAGCAGAAGACGGCATACGAGAT:配列番号8), 0.045 Unit/μLTks Gflex DNA polymerase)を氷上にて調製し、(3-2)で得た2nd Multiplex PCR産物の8μLと混和する。適切な温度条件(94℃1分間の熱失活後、1サイクルの98℃10秒間→61℃1分間→68℃25秒間後、2サイクルの98℃10秒間→59℃1分間→68℃25秒間後、2サイクルの98℃10秒間→57℃1分間→68℃25秒間後、2サイクルの98℃10秒間→55℃1分間→68℃25秒間実施し、68℃2分間後、4℃の一定温度)で増幅させる。増幅産物30μLへ20μLの0.1% Tween 20(10 mM Tris, pH8.0)を添加して50μLへメスアップ後、サンプルのx0.7ボリュームに相当する35μLのAmpure XPを添加・混和してメーカ推奨プロトコル通り精製し、最後に40μLのwash buffer(10mM Tris (pH8.0), 0.1% Tween20)で溶出し、上澄みを別チューブに回収する。3rd PCR増幅産物の1μLをチップ電気泳動で解析し、増幅産物サイズ(bp)及び濃度(pmol/L)を決定後、NGS解析(illumina社, Miseq)を実施する。NGS解析後のデータをタグ配列(チップタグ、細胞識別タグ、分子識別タグ)ごとに分離し、44個の遺伝子の公共データベース上に公開された配列にマッピングすることで、mRNAの分子数をカウントし、各細胞ごとの遺伝子配列データを取得することが可能となる。その結果を
図7に示す。結果に示されるように、本実施例の単一細胞解析用容器を使用することにより、単一細胞由来の遺伝子発現解析を実施できることが示された。
【0054】
[実施例2]
本実施例は、単一細胞解析用容器を用いた単一細胞解析において、ビーズ回収するまでの工程を自動化した装置について記す。
図8に自動化プロセスのフローチャートを示す。
【0055】
次にこの工程の自動化を実現するシステムの機能について
図9に示す装置構成図を用いて説明する。まず、実施例1に用いた単一細胞解析デバイスと同様のデバイス101をXY軸可動ステージ102上に固定する。ただし、ここに固定した単一細胞解析デバイス101は自動化のために上部プレートがネジで固定されていない状態(ネジが取り付けられていない状態)で、下側プレートをステージに対して固定する。この時、解析対象となる細胞を含む細胞懸濁液を単一細胞解析用容器21に事前に分注しておく。工程を開始するためにプログラムをスタートすると、単一細胞解析チップを下側プレートに押し付けて、吸引時に空気もれが発生しないように、上部プレート取り外し用ブレード(105の▲の部分)に下から上部プレートを押し当てるように、XZ軸可動ステージ102とY軸可動ステージ103を移動させる。この時、単一細胞解析ウェルの開口部がブレードで隠れないようにXZ軸可動ステージを用いて単一細胞解析デバイスの位置を調整する。ブレードは、三角形で板状の形状で、必要な単一細胞解析デバイスの押し付け圧力がかかった時にもブレードが曲がらないように、SUS材の3mm厚の部材を用いた。圧力の強度は単一細胞解析デバイスの下側に圧力センサを配置してモニタリングを行った。この状態で、所望の圧力を維持し、吸引ポンプ104による吸引を開始し、細胞を単離する。細胞懸濁液が容器からなくなったことを目視で確認し、実施例1と同様にリシスバッファ、リシス洗浄液を導入し、溶液がなくなったことを確認後、ポンプのスイッチを切る。本実施例では、溶液の分注をマニュアル操作で行うこととしたが、公知のロボット分注機構を用いることも可能である。
【0056】
大気圧に戻ったことを確認後、実施例1と同様に逆転写酵素を容器の中にマニュアルで分注し、ポンプを2秒程度の短時間オンにすることによって、単一細胞解析チップの核酸捕捉部(微小反応槽)を溶液(逆転写試薬)で満たすことが可能である。各容器に酵素溶液が残っていることを確認し、開口部をマニュアルでシールする。その後、XZ軸可動ステージ上で単一細胞解析デバイスの下に配置したプレート状のヒータ102のスイッチを入れて実施例1と同様に42℃までデバイスを昇温し、逆転写反応を起こさせる。反応時間終了後、室温までデバイスを冷却後、シールを除去し、ポンプのスイッチを入れて、容器に残留している試薬(酵素溶液)を吸引する。
【0057】
次に上側プレートを除去するために、一度XZ軸可動ステージ102を下げて、圧力を0にしたのち、ブレードが上部プレートと中間プレートの間に挿入されるように、XZ軸可動ステージ102及びY軸可動ステージ103を制御する。挿入後、Z軸可動ステージをさらに下げて、上部プレートから、単一細胞解析用容器と中間プレートを分離する。
【0058】
次にステージ102,103を用いて、容器引き上げロッドがアクセスできる領域まで単一細胞解析デバイスを移動させ、ステージ113,114に接続され、容器引き上げロッドを適切な位置に配置するピックアップアーム107に接続された容器引き上げロッドを降下させて、単一細胞解析用容器の突起にロッドをひっかける。ここで、ひっかけるために、ロッドを押し込むだけで、ロッドが回転するような、スクリュー構造を突起26に形成しておく。次にロッドをステージ113,114を使って引き上げ、96穴プレート115直上まで移動し、事前に分注したバッファの中に容器を浸漬させる。次に、浸漬させた状態を維持して、加振棒108をZ軸可動ステージ112を用いて単一細胞解析チップに接触させる(このときY軸、X軸は移動させないでよいように事前に調整されている)。バイブレータ109のスイッチを入れると同時に、マグネットプレート117(96穴ウェルの4個に1個のウェルの中心にマグネットが配置されるように)をZ軸可動ステージ118で96穴プレート115の方に押し上げる。これによって、拡散したビーズを回収することができる。この時110のダンパは加振機の振動が装置全体伝わらないようにしたゴム製のブロックである。さらに、バイブレータを適切な位置に配置するためのY軸可動ステージ111に接続されている。116はプレートが上側に移動しないように固定するブロックであり、ビーズ洗浄工程の自動化のために、(自動化のためにはバッファの分注機構の自動化が必要)バイブレータを内蔵させてもよい。106はステージ102,103や加振機109などをPCからの制御に応じて、制御するためのコントローラである。
【0059】
ビーズが回収されるまでの時間を(10秒程度)を待って、単一細胞解析用容器と加振棒をプレートから引き揚げて、処理を完了する。
【0060】
また、単一細胞解析用容器の引き上げ、ビーズ回収用の96穴プレート115内のウェルの溶液中に容器の(少なくとも)一部を浸漬する方法には、他の方法もある。特に、有効な方法は、容器を複数連結して、連結した単一細胞解析用容器201をまとめて引き上げて、まとめて浸漬する方法である。この方法を実現する容器の構造を
図10に示し、装置構成例を
図11に示した。
図10のAは、連結容器201のみをチップ30上面からの上面図を示し、
図10のBは、96穴プレート115に容器201を挿入した状態の側方からの断面図を示す。本実施例では連結容器の数は8個で96穴プレートに挿入できるように9mm間隔とし、両末端にステンレス製の磁石固定用ブロック205を設けて、磁石を用いて連結容器201を持ち上げて、プレートのウェル中に挿入できるような構成とした。この時容器の間隔を固定するための接続部分202も、樹脂容器と同じ樹脂製で作製する。もちろん、96穴プレートの代わりに384プレート(4.5mm間隔)や8連のチューブ(9mm間隔)などを用いてもよい。また、容器を引き上げるための固定方法は、磁石のほかに、連結容器の両末端の穴(206)などの凹凸を用いて、爪上の突起をひっかけて引き上げてもよい。また、電動で“つかみ”操作が可能なロボットハンド(アーム)を用いて、連結容器を固定し、移動させてもよい。
【0061】
装置を用いてビーズを回収するときには、連結容器201をプレート15の各ウェル207に容器を挿入し、ビーズ懸濁回収用バッファ(溶液)が単一細胞解析チップ30に接触するように、バッファのボリュームを調整する(150~200μL程度)。容器の引き上げ、プレートウェルへの浸漬は、装置構成
図11中の磁石固定アーム301を用いて、アーム末端の磁石(ネオジム磁石)302を磁石固定用ブロック205に磁力で固定して、実施する。連結容器201浸漬後、ディスポーザブルチップ付きバイブレータロッドをチップに接触させて、加振機109を用いてチップ30に振動を与えることでビーズ204をバッファ12中で磁石13を用いて回収する(
図10のB)。磁石はマグネットプレート117上に固定されており、プレート状のウェル207の4個に1個を割り当てる形で固定した。ビーズ回収後、容器はアーム301を引き上げることで96穴プレートから分離し、さらに、マグネットプレート117を96穴プレートとの距離を相対的に離すことによって、ビーズを溶液中で再懸濁できるようにした。
【0062】
また、この容器持ち上げ方法は連結していない容器に用いてもよい。
さらに、この連結容器の構造は、自動反応装置を用いない実施例1のデバイス構造に適用してもよい。